あっち行け 服を切り裂く妖よ
あっち行け 服を切り裂く妖よ


●ハサミとは
 ハサミの歴史は深く、古代エジプトの壁画にその姿が見えるほどである。
 日本に伝わったのは六世紀ごろと言われ、江戸時代には市政に出回っている。実に歴史深い道具なのだ。
 それ故に様々な逸話が生まれる。その代表たる例は刃物故の血生臭い怪談だろう。家裁道具として女性が持つイメージが強いため、包丁に並んで女性が人を殺す道具として語られることがある。
 そして妖や古妖が実在すると言われる昨今、そういった逸話のある鋏は封印されていた。AAAを通して各神社でお祓いをしてもらい、その後に世に出ぬよう安置しているのだ。
 だが、ハサミが世に出回る以上、事件を完全に止めることはできない。そう、今日もFiVEの夢見がハサミに関わる逸話を予言するのであった。

●FiVE、あと少しいい予知夢みた顔の相馬君
「みんな、妖が出た。ハサミが妖化した物質系妖のランク2だ。人間を操っているボス一体と、それに従うハサミの妖が五体。こいつらは全部ランク1だ」
 久方 相馬(nCL2000004)の言葉に頷く覚者。人を操るほどの力を持った妖だ。迅速に対処しなければならないと気合を入れる。
「基本的に近接攻撃主体だが、遠距離にも届く厄介な攻撃を持つ。安全地帯はないと思ってくれ。
 なおダメージを受けるたびに服が切られていくので、よろしく」
「は?」
 さらりと付け加えた相馬の一言に、目が点になる覚者達。
「いやだって妖化する前の鋏は裁断用の裁ちバサミだったみたいで。人と言うよりは服を襲うんだ。下着までは切らないみたいだから安心だな!」
「だなじゃねえよ! ……いや、妖事件だから行くけどさぁ!」
 親指たてる相馬に、なにも安心できないと突っ込む覚者達。
 ともあれ、妖事件だから出撃する覚者達であった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖六体の討伐
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 この依頼はキャラの強制的な脱衣描写があります。キャラのシリアス度が激しく損なわれる可能性がありますので、参加の際はご注意ください。

●敵情報
・ハサミを持つ男(×1)
 物質系妖。ランク2。物理に強く、特殊に弱いタイプ。
 両手にハサミを持ち、服を切りながら襲い掛かってきます。服を切る裁ちバサミが妖化したもので、男は意識なく操られています。男を守るようにバリアを張っており、それを含めて一つの妖です。なので男ごと攻撃しても構いませんし、オーバーキルで男にダメージが行くことはありません。
 HPダメージを与えるたびに、服を切っていきます。……当たり前ですが、回復スキルで服は直りません。

 攻撃方法
 栄光を掴む左鋏 物近単  ジョキジョキ切ります。〔二連〕
 天まで届く右鋏 特近貫2 ジョキジョキ切ります。[100%、50%〕
 ブーメラン鋏  物遠全  ジョキジョキ切ります。

・踊るハサミ(×5)
 物質系妖。ランク1。物理に強く、特殊に弱いタイプ。
 宙に浮き、ハサミを持つ男に従います。
 HPダメージを与えるたびに、服を切っていきます。……当たり前ですが、回復スキルで服は直りません。

 攻撃方法
 切る 物近単 ジョキジョキ切ります。
 飛行  P  空を飛びます。
 連携  P  戦闘可能な『踊るハサミ』の数に応じて、命中にプラス修正。

●場所情報
 住宅街から離れた道路。妖が住宅街に入れば、大参事ですのでここで食い止めてください。時刻は昼。人が来る可能性はそれなりに。足場と広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、『踊るハサミ(×5)』が前衛に。その後ろに『ハサミを持つ男』がいます。覚者の初期配置はご自由に。
 事前行動(技能なども含む)は一度だけ可能とします。

●備考
 EXプレイング等に【覚悟完了】と書かれた方は容赦なく(全年齢の範囲内で)服を切らせてもらいます。逆に書かれていない方には、それなりに対応します。
 依頼に参加した時点である程度の覚悟済みとは思いますが、どうしても避けてほしいこと(体に傷があるとか)がある方はプレイング(EXでも可)に明記してください。考慮いたします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年04月22日

■メイン参加者 8人■

『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『ティピカル・ウィッチ』
リゼット・デスプレーンズ(CL2000161)
『デウス・イン・マキナ』
弓削 山吹(CL2001121)


「服を切る妖か……この服はブラ着けれないし、絆創膏で隠せば大丈夫かしらね?」
 と、服を指でつまみながら『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)が少し困った顔をする。困る部分はそこなのか、と覚者全員が思ったが、確かにそういう服だよなぁ。
「下着は切らないとは紳士な妖ね」
 エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は頷き、神具を構える。覚醒したエルフィリアの服装は、身体に張り付くスーツ型。アンダーウェアーの類が無いだろうことは、一目瞭然である。
「……なんで下着は無事なんだろうね?」
 黒のカットソーの上に緑のシャツをを着手、チェックのスカートを履いた『デウス・イン・マキナ』弓削 山吹(CL2001121)がそんな疑問を浮かべる。仮に下着が切れたとしても湯気とか太陽光が邪魔をするミステリアス。
「……うう……やだよぉ……」
 戦う前から腰が引けている『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)。自分の服を抱くようにして怯えていた。夢見から話を聞いて断ろうと思ったが断れず、結局ここまでやって来てしまった。
「これも市民の安全のため、がんばりましょう!」
 怯える結鹿を励ますように『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が元気に言う。これは妖事件。どういう形であれ妖が人を襲うなら、その被害を押さえるのが覚者の努め。気合を入れるように拳を握る。
「セクシーな魔女を自称するわたしも、切り刻まれるのはちょっと嫌かしら~」
 頬に手を当てておっとりと『ティピカル・ウィッチ』リゼット・デスプレーンズ(CL2000161)がため息を吐く。黒の三角帽子に黒のローブと黒のブーツ。見た目からわかる魔女の衣装。人を払う結界を張り、準備完了と頷く。
「操られている男も不憫だし、早急に解決しないとな」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は頷きながら帰ってくる。人が来ないように進入禁止の目印として赤コーンを置いていたのだ。桜の花弁がかかれた空色の着流しを風に靡かせ、颯爽と戦場に足を踏み入れる。
「うむ。先ずはランク1の鋏から攻撃だ。しかる後にボスのランク2を攻撃。数を減らす方向でいこう」
 作戦の最終確認をする『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)。言いながら『相伝当麻国包』を手にして戦いに挑む。服が切られることなど、懐良にとってみれば些事。重要なのはそこにその妖がいるという事実。目を見開き、刹那も逃さぬという気合を入れる。
「来たぞ!」
 妖を最初に確認したのは誰か。ゆっくりと進行してくる妖達。宙を舞うハサミと、両手にハサミを持つ男だ。
 妖の脅威に恐れることなく、覚者達は戦いに挑む。


「一撃一撃は軽いけど、アタシの攻めは意地悪よ」
 先陣を切ったのはエルフィリアだ。手にした鞭状の神具『ネビュラビュート』を手にして敵を睨む。手を振って鞭で地面を叩いてから、その勢いを殺さぬように妖の方に鞭を向ける。彼女の意に従い、鞭が宙を舞う。
 鞭を振るいながら、木の源素を活性化させて香りを振りまく。その香りを吸い込めば体の動きが緩慢になり、攻撃への力が弱まる香。……物質系妖なのに、吸い込むとか香りとか関係あるのかだって? あるんだから仕方ない。
「どれくらい意地悪かは身をもって知りなさい」
「うわぁぁん。会わなきゃいけないんだけど、会いたくなかったよぉ……」
 泣きながら正眼に太刀を構える結鹿。妖を退治する覚者としては会わなければならないのだが、これから自分がどうなるかを想像すると、このまま帰りたくなる。どうかあまり攻撃されませんように、と思いつつも前衛だから仕方ナイヨネー。
 妖の動きをしっかり見て、結鹿は僅かに思考する。すり足で一歩踏み込むと同時に、刀を大上段に振り上げた。さらに一歩踏み込み、真っ直ぐに刀を振り下ろす。その動きは波の如く。流れるように振り下ろされる一撃が妖を打つ。
「人助け……そうです。これも人助けだと思えば……」
「そうよ。結鹿ちゃん。これは妖退治。れっきとした覚者の使命なのよ」
 結鹿に活を入れるように水の守りを身に纏う御菓子。神具のコルネットを手にして、迫る妖を真っ直ぐににらむ。妖に説得は通じない。そもそも彼らは言葉を持たない。ならば跳ぶべき道は、悲しいがただ一つしかないのだ。
 御菓子は背筋を伸ばし、大きく息を吸い込む。コルネットに口をつけ、。ピストンを操作して戦場にメロディを響かせる。ぺルから響く音が水の源素を震わせ、弾丸を生み出す。音に合わせて打ち出される弾丸が、妖を穿っていく。
「さあ。行きましょう!」
「とはいえ見せたい部分と見せたくない部分って、あるわよね~? オンナノコですもの」
 頬に手を当ててため息を吐くリゼット。そう言いながらも最前線に立つ魔女。どこかぼんやりしていて達観している様子のあるリゼットではあるが、やはり女性……オンナノコであるため服を切られるのは恥ずかしいようだ。
 スタッフを構え、毅然と妖の前に立つリゼット。呪を唱え、文を為す。西洋形態における魔術の基礎。それは源素を扱う集中につながる。スタッフに絡みつく木の根が鞭となって妖に伸び、音速に近い速度で妖を打ち据える。
「オンナノコですもの、ねえ?」
「うむ、まあ……そうだな」
 リゼットの問いかけ方にある種の危機感を感じたのか、ゲイルが頷きを返す。ゲイル・レオンハート、五十歳。空気の読める大人である。扇と指輪の神具を装着し、妖に意識を向けた。嗜虐的な相手ではないのが幸いか、とひそかに安どして、
 扇を広げ、軽く一振りする。それで戦場の澱んだ空気を払えば、次に水の源素を神具に集めた。二度目の振りで水滴を発して空気を清める。三度目の振りで水は竜の牙となり、妖を喰らわんと襲い掛かる。大質量の水が、妖を一気に押し流した。
「操られている男も不憫だし、早急に倒さないとな」
「え? ああ、そうだな」
 男などどうでもいい、と言いたげに懐良が適当に頷いた。今重要なことは如何にして妖を殲滅するかだ。そしてその次に妖の神秘を解明すること。今集中を切らすわけにはいかない。瞬きの魔すら惜しみ、懐良は戦場を注視する。
 魂の炎を燃やし、懐良は刀を構える。確かにハサミの妖は物理防御に長けるが、しかし懐良程の実力者になれば、さして問題にはならない。戦場を翻る白刃。わずか一瞬で放たれた二閃が、宙を舞うハサミの一つを切り落とす。
「敵ながら見事な技だった、と言っておこう」
「服を切る技の何に感心してるんだろう、この人……」
 そんな懐良をジト目でみる山吹。だがそんなことを言っている余裕はないと、意識を戦場に向ける。両手に嵌めたガントレットに霊力を込める。圧縮し、一点に集中させた霊力は小さな弾丸となる。それが山吹の神具『ゴルディロックス』だ。
 飛び交う妖の動きを予測しながら、ガントレットに力を貯める山吹。最良のタイミングを見切って弾丸を地面に放つ。地面を穿った弾丸は炎の柱となり、妖の群れを焼き払っていく。
「よーし、そっち弱ってるからお願いね」
「はいはい。さて、やろうかしらね?」
 本を片手にシルフィアが頷く。戦いは苦手だが、そうも言ってられない。やれることはやっておかなければ。服を切られてもいいように、予備でスキャンティも履いてきた。準備は万全と気合を入れる。
 覚醒し、背中の白い羽を広げるシルフィア。広げた羽を羽ばたかせ、風を生む。大空を飛ぶ天使を意識しながら空気をかき混ぜ、不可視の弾丸を生む。その弾丸を妖にぶつけるように羽を動かし、着地する。ぽよん、と着地の際に揺れる胸。
「やっぱり戦いは苦手よね。大きすぎて揺れちゃうし」
 そんな一幕もありましたが、ともあれ戦いは順調に進んでいた。連携を取る空を舞う妖を優先的にに攻める覚者達。撃墜数は、時間が経つにつれ増えていく。
 だが、妖も黙ってやられているわけでは無かった。


 相手はハサミである。しかも布を切り裂く裁ちバサミが妖となった存在だ。夢見も語っていたが、その攻撃は服すら切り裂くと言う。
 服が切られて肌が晒されるいう事は、男女関係なく恥ずかしいわけで――
「このオレのミケランジェロの彫刻のような肉体を晒すことに抵抗はない!」
「ふふ、見たければいくらでもどうぞ。その代わりたくさん見させてもらうわ」
「これはこれでいいかも。男子生徒とかが見たら喜んじゃうかしら」
 案外そうでもなかった。
「いやー、こんなに目の保養が出来るとは良い任務に当たったわね~」
 エルフィリアは周りを見ながら眼福眼福と頷いていた。引き締まった男性の筋肉。雪のように白く美しい女性の肌。見え隠れする下着は戦闘が続くたびにその露出が増えてくる。なんと素晴らしい光景か。そう思うエルフィリア自身もかなり打服を切られているのだが。
「アタシは別に服を切られても全く問題無し。むしろしっかり見せて誰かさん達の目の保養をしてあ・げ・る」
 とのことである。
「ああっ、胸が!」
 シルフィアの胸を覆う服が完全に切り裂かれ、そこを押さえていたものがなくなり乙女の双丘が無防備になる。支えを失い大きく弾ける乙女の山。その頂上に付けられた絆創膏が最後の領域。しかしシルフィアはそこを守ろうとはしない。
「大きすぎるのも……困りものね」
 シルフィアはそう言って憂いを含んだ吐息をはいた。
「全てを曝け出しあう仲間たち! なんてスバラシイ! フゥッー!」
 妖の被害にあう女性達(ここ重要)を見ながら懐良は高揚していた。これは戦闘の高揚。素晴らしい仲間と連携し戦うことに喜びを感じていた。でも男は除く。懐良自身の本気度を示すように股間に白い褌が輝いている。
 それはそれとして懐良は妖の技をラニろうとしていた。服を切る妖の技を。
「輝け、オレの超直観! レーティングの先まで見通したま……おぶはぁ!」
「おっと、手が滑った」
 山吹の炎が懐良の集中を乱す。いやホント手が滑っただけで――
「おっと、炎が滑った」
 新しい日本語である。その度に妖の技を覚えようとしていた懐良が悲鳴を上げているが、まあ些細な事なのだろう。山吹の切られていく服から見えるピンク色の何か。計算し尽くされた曲線を覆う布地は、陽光を浴びて淡く輝いていた。そこにある何かを隠すようでもあり、しかしそれ自体が何かの至宝であるかのように。
「可能な限り……見ないように努めてはいるが……これは……」
 ゲイルは女性陣の事を慮って、服が切られていく女性陣の方を見ないように努力していた。だが、戦闘中に目をそらすことは致命的。ましてやゲイルは回復役として仲間の疲弊具合を中止せねばならない立場なのだ。……全く見ないという選択肢は、ない。
「安心してくれ。俺も同じだけ服が切られている……どれぐらい救いになるかはわからないが……」
 着流しの上半身を晒したような格好で、ゲイルは申し訳なさそうに告げた。
「や、やめてぇ……恥かしいよぉ……」
 ボロボロの服を隠すようにして戦う結鹿。それは恋する女子中学生からすれば、羞恥の拷問。攻撃を受けるたびに服が切られ、大きく動けばその動きで服が裂ける。しかし動かなければさらに妖に服を切られるのだ。
「ダメ……見ないで……見ないでぇ~!」
 ついに羞恥に耐えきれず、神具を捨ててしゃがみ込む結鹿。涙を流し、速く帰りたいと泣きじゃくる。
「わたしの可愛い妹を泣かせてくれるだなんて、ちょっと調子にのりすぎたんじゃないかな? いい加減にしないと……ふふっ」
 結鹿が泣き出し、黒いオーラを携える御菓子。だが彼女の姿は満身創痍。そして服もボロボロだった。中学生並みの背丈だが、そのボディラインは見事な曲線美を保っている。結鹿を守るように立つその姿は、半裸以上の状態とはいえ戦慄するものがあった。
「少し、頭冷やそうか……水龍牙!」
 水を妖にかけて、その頭を冷やす(物理)御菓子であった。
「日本はこういうの厳しいんじゃないのぉ!?」
 服を切り裂かれても構わず戦う一部の人達を見ながら、リゼットは涙を流し批判する。多少の被害は気にしないが、乙女として恥ずかしい部分はなんとか防衛していた。それを気にしない覚者を見て、カルチャーショックを感じていた。
「え、むしろオープン!? や~だぁ~!」
 ボロボロになった服を胸と腰に巻き、かろうじて死線を保っていた。あと視線を防いでいた。
「ああん。これ以上切られたら、色々な所からうるさく言われちゃう~。私は別にいいんだけどね」
「ふふ。見事な攻めだったわ。まさにギリギリの戦いだったわね」
 最初に戦闘不能……と言うかあられもない姿をさらしたのはシルフィアとエルフィリアだった。シルフィアはツインテールが胸の頂点を隠すようにまとわりつき、エルフィリアの際どい部分を隠すように真摯な妖がカメラの視界を隠す。
「わああん! おねえちゃんごめんなさぁい!」
「ううう。妹を守れない弱いおねえちゃんを許して……」
 そして結鹿と御菓子が互いを庇うように重なり合い、地に伏す。結鹿は涙を流して縮こまり、そレを守るように御菓子が覆いかぶさる形となった。互いを思いながら、しかし力及ばず倒れる二人。
「おのれ(チラッ)! 妖め(チララッ)! よくも仲間を(チラララララッ)!」
 仲間を見ながら、懐良が刀を振るう。仲間が倒れて妖に怒りを感じているのだろう。倒れた仲間たちの方を凝視する。横たわる肌色。もちもちした肉付き。そして布の奥に隠れた乙女の領域――
「おっと、神具が滑った」
 女性としてそれは見過ごせん、とばかりに山吹が懐良に神具を振るう。いや、勿論妖も攻撃していますよ。そうでないと山吹もいろいろやばいのである。具体的には残り一割ほど。桃色の下着はもう動かずとも目に見えるほどである。
「……すまん、俺の力が及ばずに……!」
 いろいろ居た堪れない気持ちになるゲイル。回復役として仲間が倒れるたびに心が苦しくなる……のだが、冷静に考えたらダメージ回復させるってことは、それだけ服が切られる数を増やす事で……いや、考えるな! 回復無かったら負けてたかもだし!
「あともう少しだから、みんな頑張って~」
 半泣きになりながらリゼットが杖を振るう。裁ちばさみ対策に布地の多いローブを着てきたが、それももうボロボロだ。せめてもの救いは、それを拾い上げれば何とか体を隠せるという事か。今の自分がどういう格好なのか、あまり考えたくない。
 覚者は(主に社会的な)ダメージを負いながら、しかし確実に妖を追い詰めていた。最後に残った男に取り憑いている妖も集中砲火を受けて、動きが緩慢になっている。
「そろそろ終わりにさせてもらうよ」
 山吹のガントレットに源素がこもる。炎の力を収縮し、力の密度を増す。高熱が空気のゆらぎを生み、刺すような熱風が妖の肌を通り抜ける。その空気を打ち払うように、炎の弾丸が放たれる。
 赤の弾丸が妖を穿つ。轟音が止めば妖に操られた男が倒れる音が響き、地面にハサミが二つ転がっていた。


 戦い終わり……そこに居るのはボロボロの布を纏った覚者達。
「鍛えられた男の肉体。恥じらう乙女とその柔肌……。天国ね」
 エルフィリアは目の前の光景を目に焼き付けていた。自分自身も含め、殆ど下着同然の格好だ。この戦いに身を投じてよかった……。
「こんなにぼろぼろの服で、どうやって帰ったらいいのぉ~」
 泣きじゃくる結鹿。現在リゼットの展開した結界のおかげで人は来ない。だが、結界は『持続30』なのだ。いつかは解除されて人が来る。
「私は別にかまわないけど」
 人に見られても構わない、とばかりにシルフィアは立ち上がる。ここまで堂々としていると、恥ずかしがっている方が間違っている気が……しねぇよ。
「……惜しいことをした。あともう少しで妖の奥義を見抜けるところだったのに……!」
 懐良は妖の技を盗もうとして、それができなかった事を悔やんでいた。服をジョキギョキ切りたかった。それは神秘解明の点から見れば惜しむべきことだ。服をジョキジョキ切りたかった。
「え? 着替え持ってきてないの?」
 山吹は近くに置いていた鞄から替えの服を取り出して、着替えていた。お疲れさまー、と挨拶してから何事もなかったかのように帰っていく。帰りにスーパーでも寄っていこうかな、と考えながら。
「記憶を『すいとる』しますね」
 リゼットは微笑みを崩すことなく、しかし有無を言わせない圧力で迫る。主に男性陣に。取りあえずこの戦闘の間の戦闘を失ってくれればそれでいい。だがリゼットは忘れていた。この戦闘は報告書(リプレイ)として残さなければならないという事を……。
「……わかった。甘んじて受けよう」
 ゲイルは甘んじてそれを受ける。服を用意してくれた守護使役の頭を撫でながら、リゼットの守護使役に近づいていく。ゲイルとしてもああいった光景を覚えていると、次に顔を合わせた時になんと言っていいのか分からない部分がある。
「貴方達も……わかってますよね?」
 御菓子は後処理にやってきたFiVEのバックアップスタッフにも、記憶処理を受けるように告げる。あと妖に操られていた人にも、同じ処置を受けさせるように、と。
 こうして未曽有の妖事件は無事解決したのであった。

「大変だ! 今度は服を溶かす水の自然系妖が出たんだ!」
 ――夢見の新たな緊急招集に覚者達は全力で無視を決め込んだ。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

修正解除バージョンは円盤で(ありません)。




 
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