花見かっぱと五麟の思い出
花見かっぱと五麟の思い出


●増殖するかっぱ
 色々と、本当に色々とあった五麟市だが――徐々に復興作業も進み、街は徐々にではあるが日常を取り戻しつつあった。気が付けば通りの桜も満開を迎え、絶好のお花見日和だなあとあちこちで囁きが聞こえてくる。
「かっぱ!」
 ――そうして五麟学園内のF.i.V.E.でも、桜を見たいと言うように古妖の鳴き声が響いていた。その声の主――先日のバレンタイン事件のごたごたに巻き込まれていた、温泉かっぱのかぱちゃんは、覚者の皆に保護されてからすっかり学園に居ついてしまっていたのだ。
「かぱ、かぱー」
 司令室にちょこんと座り、お花見ガイドが掲載されたタウン誌をじっと見つめるかぱちゃん。しかし、学園内に住み着いたかっぱは、彼だけではなかったのだ!
「かっぱ、かっぱ!」
 学園のプールで、すいすいと泳いでいるもの。
「かっぱ……」
 学園屋上の手すりにつかまって、沈む夕陽を遠い目で見つめているもの。
「かぱ、かぱかぱ」
 玄関の靴箱の中に、ぎゅうぎゅう身体を押し込んで顔を覗かせているもの。
「……なんだ、かっぱか」
 ――しかし、これも古妖の不思議な力なのだろうか。かっぱが出たと大騒ぎになることも無く、何時の間にか増殖していた温泉かっぱは、ごくごく自然な感じで学園に馴染んでいたのだった。

●おもいでづくり
「……そんな訳で、かっぱさん達が増えていたみたいなんだけど、あたしは今知ったんだ……」
 知らない間に不思議なことになっていた、と苦笑する『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)は、ことのあらましをF.i.V.E.の皆に伝えていった。
 ――何でも、F.i.V.E.の元に勾玉を届けに行ったかぱちゃんの帰りが遅いと、様子を見に仲間の温泉かっぱが街に出てきたらしい。しかし彼は、学園で楽しそうにしているかぱちゃんを発見――自分も暫く此処でのんびりしようと思い、帰るのを先延ばしにしてしまった。で、様子を見に行ったものも帰ってこないので、代わりのかっぱが再び街へ行ったが、彼も街が楽しくてそのまま。
「後は大体、みんなも分かると思うんだけど……」
 そのまま次々に他の温泉かっぱ達も街に向かって、結果山に棲むかっぱのほとんどが、五麟学園内に住み着いてしまったようなのだ。とは言え、別に騒ぎを起こすわけでもなく、のんびりと都会の空気を満喫しているだけっぽいのだが。
「でも、色々あって帰るのが遅れてたし、そろそろみんなで山へ帰ろうって話に纏まったみたいで。だから、かっぱさん達に、最後に五麟市の思い出を作ってあげるのはどうかな、って」
 瞑夜がぱらぱらとタウン誌をめくると、其処には咲き始めの桜の写真が見開きで載っていた。今は丁度桜が見頃で、通りや公園などの桜の花はさぞ見応えがあるだろう。五麟市復興に弾みをつけるべく、公園では市民有志が中心になって、沢山の屋台を出して軽いお祭りのようなイベントを開催しているようだ。
「こっちに顔を出して、屋台巡りをしつつお花見をするのもいいし……あとは、みんなのお勧めのスポットを、かっぱさんに案内してあげるのもいいかも」
 それは別に有名な場所とかでは無く、自分しか知らないようなさりげない場所で良い。夕陽が綺麗に見える土手だとか、コーヒーが美味しい喫茶店だとか――そんなささやかな場所を回って、自分たちが守った街並みを確認してみるのも、新たな発見があるかも知れない。
「なら、手分けして市内を回るとするか」
 と、其処で顔を出したのは『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)。彼は気付いていないようだが、その後ろにはちょこちょこと、かっぱが数体並んでついていっている。
「先の戦いの疲れもあるだろうし……皆で一息吐ける、そんな休日になればいいな」


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:柚烏
■成功条件
1.五麟市内での休日を楽しみ、温泉かっぱ達と思い出を作る
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。ここ最近色々ありましたが、春もやってきたと言うことで、のんびり花見や街巡りのお誘いになります。肩の力を抜いて、かっぱさん達も引き連れつつ楽しい休日をお過ごしください。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

●こんな事ができます
【1】公園でお花見&屋台巡り
・桜が見頃の公園へ繰り出し、お花見を楽しみます。公園では有志による屋台も出ていて、食べ歩きも出来ます。
【2】市内のとっておきの場所を回る
・市内にある、自分のお気に入りの場所を紹介して街巡りをします。ただし、位置がはっきりと特定できる建物や、名所などの具体的な場所は出せません。お勧めの雑貨屋さん、空が綺麗に見える丘など、自分しか知らないような場所を設定してください。
※どちらか一つ選んで番号を記入してください。かっぱとは必ず絡まなくても大丈夫です。

●温泉かっぱ
依頼を通してF.i.V.E.のお世話になった、友好的な古妖です。見た目は画像参照、まるっこいペンギンみたいな生き物で「かっぱ」と鳴きます。現在ぞろぞろと学園へ遊びに来ていたらしいのですが、そろそろ住処の山に帰ることにしました。
ちなみに心理迷彩のような不思議な力を持っているらしく、目立った行動を取らずに自然にしていると、その場所に溶け込んで一般人から注意を払われなくなるみたいです(見えているけど「なんだかっぱか」と何でもないことのように思わせるみたいです)。なので大人しくしていれば、ひとの多い所に行っても騒ぎにはなりません。
※ほとんどのかっぱが山から出てきたので、大体皆さんと十分に触れ合える数は居ると思ってください。

●NPC
瞑夜と董十郎が同行します。瞑夜は【2】、董十郎は【1】にお邪魔します。かっぱが迷子にならないように、陰でこっそり見守っています。何かありましたらお気軽にお声をかけてください。

 ひとりのんびりも良し、皆と賑やかも良し。ほのぼの、わいわいなどなど、自由に楽しんで頂けたらと思います。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
30/30
公開日
2016年04月14日

■メイン参加者 30人■

『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『月下の黒』
黒桐 夕樹(CL2000163)
『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『可愛いものが好き』
真庭 冬月(CL2000134)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『かわいいは無敵』
小石・ころん(CL2000993)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)

●出張屋台は大賑わい
 その日は柔らかな春の陽気に包まれて、満開の桜たちが優しく人々を見守っているように思えた。はらはらと降り注ぐ淡い花弁に、陽光が降り注ぐ様子は――まるで、これからの五麟の未来を祝福しているかのよう。
「かっぱ、かっぱ!」
 そんな風景に心浮き立たせ、嬉しそうにはしゃぐのは古妖の温泉かっぱ達。ついついひとの住処に興味を覚えて、ぞろぞろと人里に降りて来た彼らだったけれど、もうそろそろお別れの時間だ。
 だから、彼らも交えて賑やかに、素敵な春の思い出を作ろうと思うのだ――。
(新学期からは中等部だし、思い出に……ね)
 そんなことを思いつつ、佳槻は翔と日那乃ら初等部の友達と、屋台を巡りつつ花見を楽しむことにする。何気に保護者抜きで遊びに来たのが楽しいらしく、翔は元気一杯にふたりを引っ張っていき――その後ろをかっぱ達も、てぽてぽとくっ付いて歩いていた。
(一人でも構わないと思ってたし、今もそのつもりだけど……)
 ――進学をしても校舎は隣だし、別にこれでお別れと言う訳ではないけれど。それでも、ちょっと寂しい気がするのは桜のせいだろうかと、佳槻は見事な桜を見上げる。
「美味いもん何かあるかな? あ、知り合いの屋台発見!」
 と、屋台を物色していた翔は、知り合い――亮平の屋台を見つけて、早速突撃していったようだ。経営するお店の出張屋台を出している亮平は、手伝いに来てくれた行成と一緒に手際よく接客をしていたのだが、ひょっこり顔を見せた顔馴染みの仲間たちの姿には満面の笑みを見せた。
「こんにちは! 屋台をやってると聞いて遊びに来ました!」
「かっぱ!」
 千晶に抱っこされて、元気よく手をあげるのは温泉かっぱのかぱちゃんで――ちまっとしつつ、つぶらな瞳で此方を見上げてくる古妖の姿に、可愛いもの好きの亮平の心はときめく。
「あ、良かったら触ってみます?」
(や……やっと会えたぁ!)
 千晶の言葉に、一も二もなく亮平は頷いて。喜びで胸一杯になった彼は、自分でも怖いくらい舞い上がっているなあと思いつつ、だっこしても大丈夫かなと、そろそろとかぱちゃんに尋ねた。
「かぱ!」
 こくこくと頷いたかぱちゃんをそっと抱きしめると、亮平は「高い高いー♪」をして――まるで空を飛んでいるような感覚に、かぱちゃんは嬉しそうにはしゃいでいた。
 ――彼の名は、阿久津亮平。かぱちゃんが好きすぎて、ぷるぷる震える花の23歳である。
「いらっしゃい、あぁ……私はバイトだ、臨時のな」
「……えっと、桜あんぱんときゅうりをください!」
 亮平がかぱちゃんに夢中になっている間は、行成が接客の担当だ。屋台のメニューである、きゅうりスティックと桜あんぱんを彼から受け取った千晶は、きゅうりをかっぱ達にプレゼントしつつ、自分はあんぱんを頬張る。
「あ、志賀さん、オレらにもいっこずつ!」
「桜あんぱん、おいしそう。かぱちゃんはきゅうり?」
 そうしている間に、翔や日那乃も屋台にやって来た。きゅうりスティックは、パリッとした食感を活かす為に良く冷やされているようで、且つ食べ易く切られておりかっぱも大満足だ。
「なー、かぱちゃん、桜、好きか?」
 しゃりしゃりときゅうりスティックを頂くかぱちゃんに翔が問いかけると、元気よく「かっぱ!」と返事が返ってきた。一方の日那乃は、守護使役のマリンと一緒にあんぱんを食べて――その間も行成は接客を行うが、いつの間にかかっぱ達が、屋台に潜りこんでいたようだ。
「こら、危ないぞ」
 ――気が付けば背中にひっついていたり、屋台のすみっこで顔を覗かせていたり。たしなめつつも行成の顔は自然と笑顔になっていて、彼はよいしょとかっぱ達を纏めて担ぎ上げると、屋台のテーブルの空きスペースへ座らせていった。
「美味しいか? そうか……ここなら安全だ、ゆっくり食べるといい」
 一口ずつ屋台の食べ物を差し入れ――そうしていると久永が、ぞろぞろとかっぱを引き連れて屋台に顔を出す。どうやら彼は、気になったものをどんどん買って、どんどん出会った人にお裾分けすると言う懐の広さを見せていた為、かっぱもどんどん増えていったらしい。
「先日の親子丼も美味しかったのでな、今回も期待しておる。で、桜あんぱんには、桜が入っておるのか?」
「うん、桜あん入りの生地の上に、桜花の塩漬を飾っているよ」
 と、其処でようやくかっぱを堪能した亮平が、丁寧に説明をしていって。ほぉ、としみじみ頷いた久永は、あんぱんを口にしつつ、じっくりとお花見を堪能することにした。
「実は本物の桜を見るのは、これが初めてなのだ。こんなにも美しいものが、この世にはあったのだな……」
 ――そんな桜の下では、皆が楽しそうに笑っている。先の戦いでは失ったものも多いが、こうして守れたものもあるのだ。
「あぁ、幸せだな――」
 久永が見つめる桜――その花弁舞い散る中で、佳槻は花見用にと作ってきたお弁当を広げていた。胡麻や海苔のおにぎりに青葱入りの卵焼き、それに唐揚げにサラダ――そんなに凝ったものではないかもしれないけれど、味にはちょっと自信がある。
「弁当作って来たけど、食べる?」
「おー、手作り? すげー!」
 早速翔と日那乃は、おにぎりやおかずをぱくり。おいしいと微笑むふたりを見た佳槻は、一人で食べるよりも何故かちょっと幸せを覚えて、くすぐったい気持ちになっていた。
「桜の花びら、地面に落ちる前に捕まえられたら、いいことがあるって聞いたような気がする、から」
 やがて、ひらりと落ちて来た花弁をそっと受け止めた日那乃は、皆の分と言うようにそれを一枚ずつ手渡していく。
「いいこと、あるといい、ね」
「だなー。オレ、来年は中学生だけどさ、また一緒に花見できるといいなー」
 友達みんなで花見ができて良かったと翔は言って、桜の花弁を陽に透かしつつ、かぱちゃんの頭を優しく撫でた。
「かぱちゃんも絶対また遊びに来いよな!」

●温泉かっぱといっしょ
 温泉かっぱ達が此処まで沢山来ていたとは、凛をはじめ皆が知らなかったのだが――ともあれ、思い出づくりも兼ねて公園でお花見だ。
「お、久しぶりやな♪ 相撲の精進は続けとるか?」
 早速かぱちゃんを見つけた凛が八重歯を見せて微笑むと、かぱちゃんは「ばっちり!」と言うようにテッポウのポーズをしてみせる。
「よし、なら一番相手したろか」
「かっぱ!」
 ――そんな訳で、桜の木から少し離れた場所でふたりが相撲を取って遊んでいたところ、興味を持った温泉かっぱ達も「我も我も」と凛に群がって来た。
「よっしゃ、第一回温泉かっぱ相撲大会や!」
 かっぱー、とその掛け声によって、あちこちでかっぱ達は相撲を取り始め、そのちょこちょこ動く仕草にのっけから凛は萌え萌えである。
(あーもう可愛いなぁ!)
 相撲の後は、もろきゅうを食べながらの花見だ。其処へ顔を出した大和は、お別れの前に一緒にお花を楽しもうとお弁当を持ってきた様子。
「山へ帰ってしまうのね、寂しくなるわ」
「かっぱ……!」
 それでもかぱちゃんが喜ぶようにと、大和が取り出したのは五段のお重――キュウリ尽くしのキュウリ御前だった。
「キュウリサンドにキュウリおにぎり、キュウリスイーツもあるわよ。もちろん、冷やしキュウリもね」
 ゴージャスなお弁当にかぱちゃんは瞳をきらきらさせて、良かったらと言うことで招かれた董十郎も、そのキュウリ料理のレパートリーの豊富さに感動しているようだ。
「永遠の別れというわけではないわよね。かぱちゃん、今度はわたしが遊びにいくわ」
 そう言って手を握ってくれた大和に、かぱちゃんはもちろんと言うように「かぱ!」と鳴いて、ひしっとその腕にしがみ付いたのだった。
(温泉かっぱがいっぱいいる。可愛いなぁ~……ここが楽園かな?)
 亮平の屋台で買ったきゅうりスティックを分け合いつつ、冬月はしゃりしゃりときゅうりを頬張るかっぱの姿に、いきなりめろめろになる。
「可愛い。可愛い!!」
「抱っこ、抱っこさせて!」
 ――と、冬月の声に重なったのは、丸くもっちりな魅惑のボディにときめく笹雪の声。大丈夫だよ、変な所は触らないからと前置きして、笹雪はかっぱの抱き心地を堪能――冬月から貰ったきゅうりも食べさせてご満悦だ。
「この世で一番可愛いものはペンギンだって信じて生きてきたけど、温泉かっぱもいいよなあ」
 ふんわりした笑顔でかっぱを撫でる冬月は、花より団子より温泉かっぱと言った様子。それでも今は、一先ずのお別れなのだ。
「かぱちゃん達、山に帰っちゃうなんて寂しいよ。いつでも遊びにきてね!」
「人里の味が恋しくなったら、またいつでもいくらでも遊びに来てね!」
 そして笹雪も、お花見でのんびりしつつ――彼らとの再会を願って手を振った。
(……歩く速度が違うから。それだけだから)
 そっと自分に言い聞かせつつ、夕樹は温泉かっぱを腕に抱いて桜を眺める。ひらひらと舞う花弁に目を細めつつも――美味しいものと綺麗なものの組み合わせは悪くないと、彼が向かったのは亮平の屋台だった。
「……なに、ほしいの?」
 ――かっぱにはきゅうりスティック、自分には桜あんぱん。それでもあんぱんに興味を示すかっぱには一切れ分けてあげてから、背後の人影に向かって夕樹は告げる。
「……。あんたも一緒に食べれば?」
「お邪魔、ではないだろうか」
「変に気を遣われると困るんだけど」
 うむ、と頷いてから木の陰から現れた董十郎は、かっぱを怯えさせないようにゆっくりと近づいて来た。心なしか嬉しそうな彼と、わいわい楽しむかっぱ達の様子を眺め――穏やかな空気に、夕樹はゆっくりと瞬きをひとつする。
「ああ、こんな風に過ごす日も、わるくないね」
 ――帰ってしまうのは寂しいけれど、いつまでも帰らないままだと他の仲間が心配してしまうだろう。ならばせめて五麟市での楽しい思い出をお土産に持って帰ってもらおうと、ゲイルはかっぱを抱っこしながら屋台での食べ歩きを満喫していた。
「食べたいものがあれば、遠慮なく言っていいからな」
「かっぱ!」
 やがて静かな場所に辿り着いたふたりは、ベンチに腰掛けて先程買ったお茶と団子を頂くことに。頭上には満開の桜が咲き誇る様は、正に風流と言ったところだ。
「温泉かっぱさん、噂には聞いてたけど……本当にかわいいのね」
 と、其処へやって来たころんは、ゲイルやかっぱに桜の香りの紅茶を振舞うことにした。どうぞ召し上がれ、と彼女が取り出したのは、屋台で買ったきゅうりスティック。
「仲良く食べながら、桜の見頃を楽しみましょうなの」
 ――そしてシャッターチャンスを見計らって、ころんは今日の記念にと記念写真を一枚。自撮りは得意な彼女は早速焼き増しをして、かっぱにも写真を手渡す。
「思い出の写真どうぞなの♪」
「ああ、俺もお土産代わりに……な」
 そう言ってゲイルが差し出したのは、屋台で売っていたきゅうりの値付け。ふたりの素敵な贈り物を受け取ったかっぱは、今日のことは忘れないと言うように「かっぱ!」と頷いた。

●満開の桜の下で
 恋人未満友達以上――そんな清いお付き合いをしている、と言うのは奏空の主張で。彼はかっぱと手を繋ぎつつ、かっぱ越しにたまきの顔をじぃっと見つめていた。
(かっぱちゃんも可愛いけど、そんなかっぱちゃんを見つめるたまきちゃんはもっと可愛いなー……あっ)
 と、そんな奏空の視線にたまきは気付き、彼の目を見るも直ぐに逸らされて――何かあったのかなぁと首を傾げる。
「な、なんでもないよ……あ、桜が丁度満開だね。カメラ持ってきたから写真を撮ろうね!」
「ふふ、それでは屋台にも行きましょうか!」
 そんなふたりが向かったのは、知り合いが出店している『モルト』の屋台。亮平と行成に挨拶をしつつ、きゅうりスティックと桜あんぱんを買った奏空だったが――たまきと一緒に居るところを見られて、つい照れ隠しに彼らの写真もパシャリと撮ってしまった。
「かっぱさんの食べ物も瑞々しくて、美味しそうですね! 桜あんぱんも桜の香りがして、とっても美味しいです」
 顔を綻ばせてあんぱんを頬張るたまきはとっても幸せそうで、奏空も自然と笑顔になる。そして今日の記念にと、たまきは桜色のチャームの付いたブレスレットをかっぱにプレゼントした。そうして自分と奏空も同じものをつければ、みんなお揃いだ。
「3人の思い出、ですね」
 一方、椿と鈴鳴は屋台で買った三色団子や杏飴、苺飴を口にしながら、椅子に座ってのんびりと桜を眺めていた。そんなふたりの隣には、かっぱもお邪魔していて――鈴鳴が食べてみますかと飴を差し出せば、かっぱは嬉しそうに「かぱ!」と鳴いた。
(かわいい……っ、可愛いわ)
 ――かっぱをなでなでしている椿は、鈴鳴にほっぺをつんつん突かれているかっぱの姿を見て可愛さに敗北。しかしそんな状況を知らない鈴鳴は、柔らかな桜の天蓋に包まれながらゆっくりと唇を開く。
「とっても大変でしたけど……ゆっくりお花見ができるようになって、本当に良かったです」
「そうね。色々とあったから……」
 と、急いで立ち直った椿は若干表情を暗くするも、直ぐにいつもの表情に戻った。そんな気丈な椿の姿を見た鈴鳴は言う――こうやって、ゆっくりお話したかったのだと。
「同じ翼人だけど、凛として背もすらっとして、大人っぽくて……憧れちゃいます」
「鈴鳴さんこそ、とても可愛くて……。優しい雰囲気で憧れてしまうわ。金の髪もとても綺麗よね」
 褒められるとやはり照れてしまうもの。ふたりはちょっぴりくすぐったそうにしていたが、其処で椿は鈴鳴の髪に桜の花弁が乗っているのに気が付いた。
「……似合っているけど、とるわね?」
 あ、と椿の指が髪に触れた時、どきりと鈴鳴の胸が高鳴る。そうして、かっぱにまた一緒に遊びましょうとお見送りをした彼女たちは、少しずつ戻りゆく街に人の意思の強さを見て希望を抱いたのだった。
「俺かっぱ見たの初めてだ! 思ってたより可愛い奴だなー」
 てぽてぽと楽しそうに後をついてくるかっぱを見守りつつ、ヤマトは彼らと食べ歩きを楽しんでいた。ふわふわの綿菓子を口にしつつ、かっぱ達へはきゅうりスティックを差し入れだ。
「こうして歩いてると、縁日みたいだな。夏もお祭りするだろうし、その時も一緒に遊べたらいいな……」
 そう言いつつヤマトは、友達の浴衣姿を想像してちょっと照れくさくなったみたいだれど――夏になったらまた来いよな、とかっぱの頭を撫でた。
「春の思い出は花見で、夏には花火があるからさ。またいっぱい遊ぼうぜ!」
 綺麗に咲いてると満開の桜を見上げて微笑む早紀へ、絶景だと四月二日も大きく伸びをする。通りにひしめく屋台を見て回ろうとするふたりだが、とりあえずと四月二日が買ったのはハイボールだった。
「うん、屋台特有のやっすい味。コレはコレで味があってイイんだよね」
「……って早速お酒……エイジ君らしいなぁ」
 その横でお茶を買った早紀と、先ずは乾杯――年上だからと言うことで、四月二日はついでに何かおごろうとするが、結局お互いに半分こしようと言う話に纏まったようだ。
「あ、あれ美味しそう! エイジ君、こっち!」
 ――と、早速欲しいものが見つかったらしい早紀が四月二日の手を取るが、彼は「おや」とからかうように笑ってその手を持ち上げた。
「コレは……俺だから大丈夫だけど、うら若き青少年とか独身男性に、むやみにこういうコトするもんじゃないぜ」
 相手によっては勘違いされて――と、其処まで続けた四月二日は、早紀が手を繋いだまま首を傾げている様子に気付いたらしい。
「勘、違い……って?」
 ――持ち上げられた手と四月二日を交互に見て。早紀は何とか、彼の言葉の意味を理解するべく瞬きを繰り返した。
「どしたの? あ、嫌だった? こんな人多いところじゃ迷子になっちゃうって思ったんだけど……」
「……あら、マジのナチュラル? うーん……どう説明すりゃイイかなあ」
 やっぱり早紀は、可愛い年下の女の子的な認識で。飄々とした大人の対応をするにはどうするべきかと、四月二日はぽりぽりと頭を掻いて考えを巡らせたのだった。
「お花見弁当、初めて作ったのですが……作りすぎました」
 満開の桜の下で、綺麗なお重と大きめの水筒を取り出した燐花は、猫耳をへたりと伏せつつおずおずと蓋を開く。器に見劣りしないように作ったつもりなのだが、向かい合う恭司はと言えば、ほぉと吐息を零しつつ早速卵焼きを摘まんでいた。
「確かに凄い量だねぇ……うん、美味しいよ燐ちゃん!」
 他のおかずもぱくつきつつ、恭司はしみじみ料理上手だねと燐花に呟く。味も良いし、種類も豊富――良いお嫁さんになれると言うものだ。
「え? およめさん?」
 じぃっとお弁当を食べる恭司を見つめていた燐花は、美味しいと言って貰ってほっとしたのも束の間、突然の『お嫁さん』発言に瞳を瞬かせる。
「……何かおかしな事言ったかな? コレだけの料理が出来る子ってなかなか居ないと思うよ」
(あ、そういう意味ですか。突拍子もないことを仰る方ですね)
 恭司曰く――料理上手な人は、食べる人の事を考えられる人で、良いお嫁さんの資質には充分だと言うけれど。燐花の料理は、恭司に美味しく食べて貰う為だけに用意していると口にしたら、彼はどんな顔をするだろうか?
「変な事言っちゃったかな? ほら、燐ちゃんも食べて食べて。僕だけが食べるのは勿体無いしね!」

●ある一家の夜桜見物
 やがてゆっくりと陽は沈み、公園にはぽつぽつと灯りが灯り、夜桜をうつくしくライトアップしていく。昼とはまた違った、幻想的な姿を見せる桜を一目見ようと――光邑家の面々も夜桜見物に繰り出していた。この春から高等部へ進学する、孫の一悟のお祝いも兼ねて。
「かっぱたちとは初めて会うんだけど……コロコロしててかわいいな」
 妖怪図鑑に載っている姿とは全然違う、まるっこいボディを撫でつつ、一悟が先ず行こうと誘ったのはお世話になっている亮平の屋台だった。
「阿久津さーん、来たぜ。あ、オレ、きゅうりスティック5本ください!」
「あら、阿久津さん、お久しぶりネ♪」
 研吾の妻であるリサは、かつて依頼で亮平と一緒になったことがあったらしい。桜あんぱんをスイーツ代わりにすると、太るカシラと彼女は思いつつも――やはり美味しそうなパンの誘惑には勝てそうになかった。
「どうも。初めまして。光邑研吾いいます。孫の一悟がお世話になっております」
 光邑家の主として研吾が丁寧に挨拶をし、亮平と行成も「こちらこそ」と会釈をして交流を深めて。それから三人はかっぱ達を伴いつつ、一悟が場所取りしていた公園の一角にシートを広げて、リサ手作りのお弁当を頂くことにした。
「まだ桜の季節やいうのに、ほんまにいろいろあったな。外の連中にF.i.V.E.の存在も知られてもたことやし、これからますます大変なことになるやろ」
 しみじみと呟きつつも、研吾は確りと未来を見据えている。が、食べ盛りの一悟は、やっぱりお弁当を食べるのに夢中になっているようで――。
「そやけどな、命は大切にせなあかんぞ……って聞いてるか、一悟!」
「いてて。き、聞いてるよ」
 研吾に耳をひっぱられてお説教を食らう一悟に、優しく声を掛けるのはリサだ。しかし彼女はと言えば、孫の学業が気になる様子。
「イチゴ、卒業、そして入学おめでとう。高校では少しは勉強も頑張ってネ。特にイングリッシュ」
 ――なんならワタシが個人レッスンするわよ、とのリサの申し出には、一悟はぶんぶんと勢いよく首を振って後ずさりした。
「え、個人レッ……頑張る。マジ頑張るから勘弁して」

●とっておきの場所へ
 お花見以外に、かっぱ達に五麟市内を案内する者も居た。一刀斎は守護使役のまこまこ師匠と一緒に、かっぱ達に満足して貰うべく、何時もの散歩コースを巡る。
「かっぱさん、お楽しみになられておりますか~?」
 その一刀斎の問いには、彼女の頭に乗っかったかっぱが「かっぱ!」と元気よく頷いて。一方で他のかっぱは、まこまこ師匠と一緒に遊んでいたりもするようだ。
(この頭のお皿? に水を入れたらどうなるのだろう……)
 と、家族のように親身に接しつつも、ふとした疑問はむくむくと湧き出てくる。そんな訳でそっと一刀斎はかっぱのお皿に水をあげたのだが、気のせいかかっぱのお肌がつやつやになった気がした。
「これが、古妖の神秘……!」
 別に神秘が解明された訳ではないのだが、彼女たちはこんな感じで良い思い出を作ったのだった。
「最後の思い出作りたァ殊勝だな」
 どうせ暇だし付き合ってやる――そう告げた誘輔は、お前も来いと瞑夜も誘って。たまには息抜きもいいだろうと、かっぱ達を連れて向かったのは、空中庭園のあるビルの屋上だった。
「わぁ……」
「どうだ、いばら姫に出てきそうな情景だろ」
 かっぱを抱っこした瞑夜が瞳を輝かせるその先には、小さな噴水に薔薇のアーチ。溢れるみどりの向こうには、洒落た四阿も顔を覗かせていた。
「友達はできたか? 仕事と学校は順調か?」
「うん、お陰さまで何とか。慌ただしかったけどあっという間で、F.i.V.E.のひと達も良くしてくれるし」
 ちょこちょことはしゃぐかっぱ達と遊んでやりながらも、誘輔と瞑夜の間には穏やかな時間が流れる。どうやら瞑夜はちょっぴりもじもじしているようだが、やはり憧れのひとと一緒に過ごすのは、まだまだ緊張するのだろう。
「困った事がありゃ言えよお姫サマ。王子様が助けてやる」
 王子なんてガラじゃないが、まあ嘘も方便――そんな誘輔が瞑夜に手渡したのは、自分の電話番号を殴り書きした名刺だった。
「……白馬に乗って、来てくれたり?」
「あー、じゃじゃ馬なら一人知ってるんだがな」
 そう呟いた誘輔の脳裏に過ぎったのは、彼の妹だったのだろう。ぽりぽりと髪を掻きながら、誘輔は真剣な表情でかっぱを労わる瞑夜を、そっと見守っていた。
(妹と被るせいかな。なんかほっとけねーんだよな)

「かっぱ!」
 ――こうして五麟市の休日は過ぎていき、かっぱ達は思い出を胸に手を振って、住処の山へと戻っていった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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