≪嘘夢語≫幻想組曲
●
ここは獏の作った夢の国。
人間と幻想的な生き物たちが、共に暮らす不思議な世界。
ある日、平和な世に暗雲が立ちこめる。
世界征服をたくらむ魔王に、王国のお姫様が攫われてしまったのだ。
魔王を倒すため。
姫を救うため。
そして、世界の平和を守るため。
今、試練の旅へと出る。
どのような結末を迎えるかは、夢を見ているあなた達次第。
この夢の世界で、どんな役を務めるかは自由だ。
さあ、エイプリルフールに相応しい。
夢のような冒険へ出かけよう。
ここは獏の作った夢の国。
人間と幻想的な生き物たちが、共に暮らす不思議な世界。
ある日、平和な世に暗雲が立ちこめる。
世界征服をたくらむ魔王に、王国のお姫様が攫われてしまったのだ。
魔王を倒すため。
姫を救うため。
そして、世界の平和を守るため。
今、試練の旅へと出る。
どのような結末を迎えるかは、夢を見ているあなた達次第。
この夢の世界で、どんな役を務めるかは自由だ。
さあ、エイプリルフールに相応しい。
夢のような冒険へ出かけよう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.どんな形でも良いのでハッピーエンドを迎えて下さい
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
■夢の世界
典型的なファンタジー世界です。
魔王に姫がさらわれたので、勇者が旅立つところから始まります。基本的には、魔王と姫のいる魔王城を目指し、姫を救うというストーリーになります。が、好きに変えてもらって構いません。
コメディになるか、シリアスになるかは参加者次第。
ただ、どんな形でも良いのでハッピーエンドを目指してください。
中途で終わるような結末の場合は、失敗となります。
■配役
『勇者』=魔王を倒し、姫を助けようとする者
『姫』=魔王に攫われた者
『魔王』=姫を攫い、世界征服を目論む
基本的な配役は、この三つですが他の役を作るのも自由です。
例えば勇者に姫を救うのを依頼する王様とか、実は魔王とつながっている黒幕の大臣とか、勇者に倒されて仲間になる中ボスとか。あるいは全員が勇者や魔王や姫というのも、ありです。
人間の役である必要もありませんし、複数の役をやるのもOKです。
役同士の関係性も現実世界と関係なく、盛り上がるように設定して下さい。
■エイプリルフール依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性がありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいましょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
サポート人数
0/4
0/4
公開日
2016年04月10日
2016年04月10日
■メイン参加者 10人■

●
(ここは、また夢の世界なんでしょうか……皆さんと一緒に見る同じ夢、変な感じだけど楽しいんですよね。ふふ、だったら今夜はいっぱいはしゃいでしまいましょうっ)
幻想的な風景。
天使の役の『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)は、勇者の元へと翼広げる。
(夢の中とは言え、2人の恋のキューピッドになってみせますっ)
目指すべきは勿論ハッピーエンド。
お話が途中で止まらない様に、そして何より、勇者と姫様が無事に結ばれること。
「ああ、我が国の大切な姫が二人も魔王に攫われてしまいました」
王城の、謁見の間に勇者はいた。
宰相たる『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)が嘆きの声をあげる。
「国王も今回の事で病に臥せられました。このままでは国家存亡の危機です! ……どうか我が国の為にも早急にこの事態を解決してもらわなければなりません」
「はい、勇者たまきにお任せください!」
賀茂 たまき(CL2000994)は、力強く頷く。
「奏空姫と瑠璃姫の救出を頼みましたよ、勇者たまき」
「魔王さんのお家には、初めて訪問するのですが、道中、お花を摘みながら、花束にして、魔王さん達へ持って行きますね!」
本人としては、やる気満々である。意気揚々と出かけるたまきを、国をあげて多くの人々が旅の無事を祈った。
そこへ、鈴鳴が天から降り立つ。
飛行と発光で神々しい雰囲気を醸し出す。
「私は神に仕え遣わされたモノ……愛の天使です」
「天使さん?」
「勇者よ、今この地上に大いなる危機が迫っています。さぁ、立ち上がるのです。それがあなたの使命です……」
にっこりと鈴鳴が微笑むと、たまきも釣られるように笑った。
「分かりました、力を貸してください。天使さん」
「もちろんです」
天使より使命を受けた勇者。
国民達は、喝采をあげていつまでも旅立つ二人を見送った。これで安心と自室にひきこもってから……宰相は高笑いを始める。
「……なーんてね! アハハ、魔王達に姫達を拉致させる様にしたのも僕。国王が病……もとい毒で倒れたのも僕の仕業。そう、全ての元凶は……この僕だよ!」
そう、宰相とは仮の姿。
全ての黒幕というのが、泰葉の真の姿だった。
「さて、邪魔者の勇者も姫二人もこの国には居ない……では魔眼で催眠状態にした兵士共を使ってクーデターを起こさなきゃね。僕の僕による僕の為の国を作らなきゃ!」
●
魔王城には二人の魔王がいる。
衣食を愛する二人が。
「ほらお姫様って夢と希望で出来てるじゃない」
自分では可愛い服が似合わない為、可愛い姫を攫った。
魔王の一人たる三島 椿(CL2000061)の、理由はそれだけだ。
「さらった理由……忘れたかな!」
なんか壮大な理由があった気がするけど多分気のせい。
葉柳・白露(CL2001329)は自堕落、楽しければそれで良い。魔王城で甘味の圧制を布く、もう一人の魔王である。食事はお菓子。
後お酒があればなお良し!
「しかし、姫を攫ったはいいけど……男? 君達そういう性癖なの? 面白いから良いけど」
「なんか攫われちゃってしかも女装なんですがー」
白露のからかうような視線の先には攫われた姫。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)は二人とも男で、女装中である。
「ふふふ、可愛い人を見るとコーデしたくなっちゃうんですよね」
衣装は魔王の側近、阿久津 ほのか(CL2001276)の手によるものだった。
これが妙に良く似合っていて、違和感がない。
「見事なコーデね、ほのか」
奏空姫は、スイーツ系のAラインの白のベルラインのドレス。
リボンがついた色とりどりのマカロンの飾りがついている
ハート型のティアラがアクセント。
「お褒めの言葉、ありがとうございます~、魔王様」
瑠璃姫はフルーツ系の青いアシンメトリードレス。
葉のついたデザインのラズベリーの飾りがついている。
ティアラはティアドロップ型の宝石がついたものだ。
「似合う似合う……いや似合いすぎ? 大丈夫? 大事なもの失くしてってない?」
椿は側近をたたえて、姫達のドレスのモチーフの話に花を咲かせる。
白露は、なんだか他人事ながら心配になった。
「今日も素敵なお茶会の時間ね」
魔王城では、三時のおやつのお茶会を開催して姫や部下に可愛い格好をさせほのぼのタイム。
蒼色のドレスを纏った椿は、青い羽を休ませ。傍のふよふよと青い水玉の獣を、優しく撫でる。
「ボク様クロカンブッシュが食べたいなあ」
白露は、行儀悪く椅子傾けながら菓子をぱくぱく食べる。
魔王のお世話をするメイドの天野 澄香(CL2000194)が、美味しいご馳走とデザートを運ぶ。
「今は姫様達もいますので大人数、作り甲斐がありますね」
デザートには色とりどりのケーキやクッキー、スコーンなどが並ぶ。
飲み物も紅茶にコーヒー、緑茶から炭酸、ミネラルウオーターまで完璧だ。
メイドの誇りにかけて皆様に美味しいと言わせみせます、といった澄香の熱意が伝わってきそうである。
「姫様達も素敵な格好に慣れてきたようですし、弟のきせき含めてみんな可愛くて華やかでお茶会をするには申し分の無い煌びやかさですね。魔王様の周りはこうでなくては!」
「きせき君は女装似合うね~」
澄香が声を弾ませ。ほのかは、そのメイドの手作りの苺ショート、ガトーショコラ、モンブランをはむはむしつつ、まったりしている。
ただし、澄香の弟であり魔王の部下の『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)だけは、複雑な面持ちだった。
「うぅっ、夢の中とはいえ恥ずかしいよー……」
椿の命によって、部下達も煌びやかに着飾っている。
澄香にはクラシカルな白いドレスにふわふわの帽子。
ほのかには黒と赤がメインの小悪魔系ドレス。
そして男の、きせきにも和の花柄の和風ドレス。
「私の今日のセレクトよ。皆とっても似合ってるわ」
可愛いは正義。
姫たちと部下と白露の為に、椿は手ずから紅茶を淹れた。
甘い香りの漂う時間は続く。
●
「勇者が助けに来てくれるまで何してよう。あ、同じく捕らわれの姫(六道瑠璃さん)だー。一緒にジェンガして遊ぼう!」
出されたケーキを食べて、お茶を飲んで、ごろごろして。
暇を弄ぶ奏空は、瑠璃を誘ってジェンガに興じていた。
「それにしてもここの魔族は案外いい人達だよね。毎食ケーキだよ! ケーキ食べ放題!」
「……快適だとは思う」
「女装って最初は勇気いるけど、やってみると慣れていく感じが……瑠璃姫、ほーら大丈夫、怖くないよ……すごく似合うよ~」
「……」
暗示か。
奏空はむしろ自分自身に何かを念じているようだった。
(勇者さん、女装が本当に癖になる前に助けに来てくださいね!)
色々な意味をもって、早く助けに来てほしいと願う奏空だった。
そんな彼とは対照的に、もう一人の姫は考える。
(細かい事は考えない方がいいのかもしれない。この城は、そういう掟があるのだと思うから)
郷に入ったら、郷に従う。
そういうものだと思うし。
「はい~、今日も用意しましたよ~」
ほのかが用意してくれたドレスを着て。
瑠璃は椿のもとを訪れる。
「あら、また来たの?」
柔らかな陽の光が差しこむテラスで、二人はこの頃よく一緒にいた。
やがて眠気に誘われて。うたた寝をしながら瑠璃は、いつの間にかこの魔王の膝枕におさまる。攫われてから、こうしている時間が一番の幸せだった。
(だから別にオレは、帰らなくてもいいんじゃないだろうか。んー……よし、決めた。勇者が助けにきたって、帰らないぞオレは)
奏空は、どうするか分かんないけど。
椿の膝枕が好きだから、帰らない。
(しかし、普段何もせず可愛がられてるだけ、っていうのもなんだしなぁ)
何か、お返しじゃないけど。
出来る事があればやりたい。
(オレが膝枕してあげるとか? 耳掃除とか喜んでくれるかな?)
心地よい微睡に身を任せ。
(あとはそうだなぁ。掃除とか、洗濯とか、それくらいなら出来るよ。料理は……味見できないからダメだけど)
魔王の膝の上で、姫は幸せな夢に包まれた。
(床や窓はもちろん、調度品なんかもあれば綺麗にしていこう。あと庭の手入れなんかもやってあげようかな。ま、外に出してくれれば、だけど。草むしりしたり、花壇に水やったり……やりだしたら、楽しいかもしれないな)
椿はそんな、瑠璃を優しく見つめた。
「可愛い寝顔……どんな、夢を見ているのかしら?」
●
勇者たまきは、花を摘んで進んでいた。
「勇者さん、それは何ですか?」
「魔王さんへの花束に、お姫様のお二人にはお花の指輪、宰相さんにはお花のバッジですね!」
鈴鳴の質問に、たまきは元気よく答える。
天使の頭には、すでに勇者作の愛らしいお花の冠が飾られていた。実に平和な旅で、魔王城まであっさりと着いてしまう。
固く閉ざされた城門のベルを、たまきは気軽な様子で鳴らした。
すると魔王の部下、きせきが現れる。
「魔王さんのお宅で宜しいでしょうか?」
「いかにも、ここは魔王城。そして、ぼくは魔王の部下で、まず最初に勇者の前に現れる役だよー。
ゲームでいったら1面のボスみたいな」
「1面の……ボス?」
鈴鳴は相手の言葉よりも、姿に猛烈な疑問を感じた。
何せ、きせきは魔法少女のドレス姿だったのだ。
「でもこの服も魔王の命令だもんね、仕方ないよね!」
「女装の呪い……恐ろしい物です。少年達が女装に目覚め、健全な男女の愛が阻害される事を神は恐れています」
「勇者もその仲間たちも捕まえてフリフリに着飾らせてやるー!」
きせきは、魔法のステッキを振り回して可愛らしく突っ込んでくる。
反射的にたまきが避けると、ヒラヒラとした裾が邪魔なのか魔王の部下は盛大に転んだ。
「うー……お腹がすいて力が出ないよー……」
実は毎日三食ケーキなのに飽きて、あまりごはん食べていなかったきせきは弱りきっていた。たまきは、そっと自分の食料を差し出す。
「よければ、これをどうぞ。後、お花もです」
「……ありがとう」
1面のボスは、こうして勇者を素通りさせた。
「こんにちは! 魔王さんと、その部下の皆さん。勇者たまきです」
たまきは、今日の記念にと皆に花束を手渡ししていく。
その様子を、やる気なく魔王の玉座で眺める白露は首を傾げた。
「あっれ……最近は性別逆なのかな……」
「ん、何やら城内が騒がしいですね。魔王様に盾突く輩は成敗しに行きますよ~」
「勇者が姫を取り戻しに来たですって?」
ほのかと澄香も玉座の間に駆け付けた。
椿に膝枕されていた瑠璃は、勇者を見なかったことにしてそのまま目をつぶる。
「御訪問させて頂き、ありがとうございます。囚われのお姫様達に会いに来たのですが……」
「あら、勇者様も可愛らしいではありませんか。これはぜひお客人としてお迎えしなくては!」
「……ややや!? 勇者様ご一行、倒すのがもったいない面子が揃ってますね。私好みにコーデしちゃうぞ~♪」」
魔王城の面々は、既に違う意味で興奮し始めていたが。
「よく来たね、魔王の城へよーこそ。かわいー勇者さん。そして裏切り者の元部下くん?」
白露の言葉に、全員の視線が一人に注がれる。
シックな鎧に身を包み、きせきは勇者を守るように剣を魔王に向けていた。
「まあ世の中転職なんて良くある事だしね。何が嫌だったのかさっぱりだけど」
「きせきくん? どうして貴方はそちら側にいるのですか? 今ならまだ許してあげます。一緒に魔王様に謝ってあげますから戻ってらっしゃい?」
にこにこ笑顔の姉に、弟は初めて反抗する。
「もうフリフリのお洋服や毎日ケーキは嫌だもん、ぼくも魔王を倒すよー!」
「1面のボスさん!」
「そう……戻る気はないのですね。魔王様に徒なすと言うなら、弟と言えども許しません!」
相変わらず笑顔のまま。
澄香が動き、きせきもそれに呼応する。
「この姉の手でお仕置きしてあげますから、覚悟なさい!」
「ぼくだってもう立派な戦士だもん、もうおねえちゃんの言いなりにはならないよ!」
目にも止まらぬ攻防。
刹那のうちに剣撃が入り乱れて、そこかしこに火花が飛び散った。
たまきは、その隙に白露と対する。
「ボクを倒したいならあれだよ、あれ。トリックオアトリート。え? 時期違うって? 良いじゃん。お菓子くれたら負けで良いよ」
安い魔王だった。
「しいて言うならご当地菓子が良いな。くれなかったら超高カロリーのケーキを口に突っ込むよ。姫に。あー大変だなー、ぽんぽこ丸い姫様になっちゃうなー」
と言われても困ってしまう。
すると、きせきがたまきへと、ある物を投げた。
「それを使うんだ!」
「……これは」
たまきが手にしたのは、有名な幻想銘菓の金色饅頭。
それを魔王に渡す。
「フフフ、もぐもぐ……ボク様は魔王だけど……別に暗躍とかしてないよ……ごくん。頑張ってね、勇者さん」
「残念ね。でも仕方ないわ。だって貴方達の事は知っていたから……とてもとても仲が良いと」
あっさりと、白旗をあげる魔王達だった。
戦いは止み。奏空を呼んでくるように、指示を出す。
「瑠璃はまだここに居てくれる?」
寂し気に確認すると、こくんと膝の上の姫は小さく頷く。
良かった
椿は嬉しさに微笑む。
「最後に皆でお茶会をしないかしら? とっておきの紅茶を淹れさせてもらうわ。勿論、みんなは可愛い衣装を着てね。ほのか、澄香お願いね」
「こ~んなコーデをはしゃいじゃいま~す♪」
たまきには、フラワーモチーフのプリンセスラインのドレス。七分袖レースのパゴダスリーブ、シルクで出来た花の飾りがついている王冠型のティアラ。
「そして、鈴鳴ちゃんにはにゃんこのネイルアートをして、ふわふわ猫耳もつけちゃいますね……! あ~ネイルが乾くまでじっとしてて下さ~い」
「え、私にもアクセサリー? そ、それは、照れちゃいますね……えへへ」
おめかしした勇者一行。
苺ショートを筆頭にお菓子たちが迎える。
「はわわ……! ケーキと 素敵なドレス、ありがとうございます! とっても嬉しいです! ふふ……!」
苺ケーキを一口ぱくり!
完全に幸せ笑顔だ。
二口目を食べてから、ハッ!……と口にクリームが付いたまま目的を思い出す。
「お姫様達を攫ったのは何故ですか? 悲しい思いをさせているのなら、いくら私でも、怒ってしまいますよ……?」
「さっきから気になってるのですが、私達は姫君方をお預かりしてただけのはずですが。何故魔王様を倒そうと?」
たまきは、あらましを説明した。
「宰相が? あらあら、それは……宰相もご招待せねばならないようですね。私、ひとっ飛び彼を連れて参りますね。ほのかちゃん、衣装の用意しといて下さいな」
くすくすと澄香は姿を消す。
「勇者たまき~お待ちしておりました~っ」
「はわわ……!」
それと同時。
何が巨大なものが勇者へと転がり続ける。
「俺だってば~奏空姫だってば~魔物じゃないよ~」
3食も4食もケーキを食べ続けて、城の中でゴロゴロと遊んでばかりいた奏空はかな~り丸くなっていた。姫だるまみたいになって転がりつつ追いかける。
「え、本当に奏空姫?」
どうする勇者たまき! 姫が丸くてお荷物だ!
勇者は逃げ、姫は転がり続けた。
「こういう魔王城も結構楽しいわよね……白露も可愛い格好しないかしら?」
「さてね」
魔王城は今日も平和だった。
●
「さて、残りは邪魔者の排除のみ。さあ、狙うは国を裏切り、魔王側に行った元勇者と姫二人だ! ククク、消耗しきった奴らなど、数の暴力で押し潰せば問題ない。これで僕の天下だよ! アーハッハッハ!」
王国の方では宰相が勝ち鬨をあげる。
しかし、彼は知らない。まさか勇者と魔王が戦いらしい戦いをせずに仲良くやってるとは。
「そこまでです、宰相様。魔王城までご同行いただけますか?」
だから、澄香が現れたときの泰葉の驚きようはなかった。
たまきと鈴鳴も一緒だ。
「まさか! そんな! 僕の計画は完璧だったはず!? ち、畜生! こうなったら僕自ら葬り去ってくれる!」
「宰相の貴方が全ての手引をしていたなんて……貴方を懲らしめて、平和な世界を守ってみせます!」
「死ねェ!」
猛の一撃を放とうした泰葉は……突如丸々としたものに轢かれ。普通に気絶した。
何と、奏空がここまで転がってきたのだ。
……しかし!
「実はこれは着ぐるみなんだ! 勇者は攫って行くぞ!」
なんとぷくぷくしていた体は着ぐるみだった!
それを女装の服ごと脱ぎ捨てると、その姿は王子奏空に!
そのまま勇者たまきをお姫さま抱っこし、颯爽と駆け出す。奏空は勇者たまきとの逃避行を企てていたのだった。
「このまま本当に攫っちゃっていい?」
「何処へ行くのですか……? 旅行でしたら、私は、箱根温泉に行きたいです」
「たまきちゃんと一緒ならいつでもハッピーエンドだよね!」
お互いに笑顔を向けて。
王子と勇者は、彼方へと消えて行った。
「そういう愛の関係も、きっと良い物ですよね……許しますよ。ふふ、天使は地上に住まう人々の味方ですから。皆さんがそれを選んだのなら、きっとそれが幸せな結末なのでしょう……」
天使のそんな言葉を聞きながら。
のびている泰葉は、徐々に夢で意識を失い。
現実で意識を取り戻す。起床すると開口一番。
「ふむ、夢だからか割と感情的だったね、俺……ああ、久々に感じたかも……この高揚感……うん、これが感情……素晴らしい四月馬鹿をありがとう、獏君」
(ここは、また夢の世界なんでしょうか……皆さんと一緒に見る同じ夢、変な感じだけど楽しいんですよね。ふふ、だったら今夜はいっぱいはしゃいでしまいましょうっ)
幻想的な風景。
天使の役の『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)は、勇者の元へと翼広げる。
(夢の中とは言え、2人の恋のキューピッドになってみせますっ)
目指すべきは勿論ハッピーエンド。
お話が途中で止まらない様に、そして何より、勇者と姫様が無事に結ばれること。
「ああ、我が国の大切な姫が二人も魔王に攫われてしまいました」
王城の、謁見の間に勇者はいた。
宰相たる『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)が嘆きの声をあげる。
「国王も今回の事で病に臥せられました。このままでは国家存亡の危機です! ……どうか我が国の為にも早急にこの事態を解決してもらわなければなりません」
「はい、勇者たまきにお任せください!」
賀茂 たまき(CL2000994)は、力強く頷く。
「奏空姫と瑠璃姫の救出を頼みましたよ、勇者たまき」
「魔王さんのお家には、初めて訪問するのですが、道中、お花を摘みながら、花束にして、魔王さん達へ持って行きますね!」
本人としては、やる気満々である。意気揚々と出かけるたまきを、国をあげて多くの人々が旅の無事を祈った。
そこへ、鈴鳴が天から降り立つ。
飛行と発光で神々しい雰囲気を醸し出す。
「私は神に仕え遣わされたモノ……愛の天使です」
「天使さん?」
「勇者よ、今この地上に大いなる危機が迫っています。さぁ、立ち上がるのです。それがあなたの使命です……」
にっこりと鈴鳴が微笑むと、たまきも釣られるように笑った。
「分かりました、力を貸してください。天使さん」
「もちろんです」
天使より使命を受けた勇者。
国民達は、喝采をあげていつまでも旅立つ二人を見送った。これで安心と自室にひきこもってから……宰相は高笑いを始める。
「……なーんてね! アハハ、魔王達に姫達を拉致させる様にしたのも僕。国王が病……もとい毒で倒れたのも僕の仕業。そう、全ての元凶は……この僕だよ!」
そう、宰相とは仮の姿。
全ての黒幕というのが、泰葉の真の姿だった。
「さて、邪魔者の勇者も姫二人もこの国には居ない……では魔眼で催眠状態にした兵士共を使ってクーデターを起こさなきゃね。僕の僕による僕の為の国を作らなきゃ!」
●
魔王城には二人の魔王がいる。
衣食を愛する二人が。
「ほらお姫様って夢と希望で出来てるじゃない」
自分では可愛い服が似合わない為、可愛い姫を攫った。
魔王の一人たる三島 椿(CL2000061)の、理由はそれだけだ。
「さらった理由……忘れたかな!」
なんか壮大な理由があった気がするけど多分気のせい。
葉柳・白露(CL2001329)は自堕落、楽しければそれで良い。魔王城で甘味の圧制を布く、もう一人の魔王である。食事はお菓子。
後お酒があればなお良し!
「しかし、姫を攫ったはいいけど……男? 君達そういう性癖なの? 面白いから良いけど」
「なんか攫われちゃってしかも女装なんですがー」
白露のからかうような視線の先には攫われた姫。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)は二人とも男で、女装中である。
「ふふふ、可愛い人を見るとコーデしたくなっちゃうんですよね」
衣装は魔王の側近、阿久津 ほのか(CL2001276)の手によるものだった。
これが妙に良く似合っていて、違和感がない。
「見事なコーデね、ほのか」
奏空姫は、スイーツ系のAラインの白のベルラインのドレス。
リボンがついた色とりどりのマカロンの飾りがついている
ハート型のティアラがアクセント。
「お褒めの言葉、ありがとうございます~、魔王様」
瑠璃姫はフルーツ系の青いアシンメトリードレス。
葉のついたデザインのラズベリーの飾りがついている。
ティアラはティアドロップ型の宝石がついたものだ。
「似合う似合う……いや似合いすぎ? 大丈夫? 大事なもの失くしてってない?」
椿は側近をたたえて、姫達のドレスのモチーフの話に花を咲かせる。
白露は、なんだか他人事ながら心配になった。
「今日も素敵なお茶会の時間ね」
魔王城では、三時のおやつのお茶会を開催して姫や部下に可愛い格好をさせほのぼのタイム。
蒼色のドレスを纏った椿は、青い羽を休ませ。傍のふよふよと青い水玉の獣を、優しく撫でる。
「ボク様クロカンブッシュが食べたいなあ」
白露は、行儀悪く椅子傾けながら菓子をぱくぱく食べる。
魔王のお世話をするメイドの天野 澄香(CL2000194)が、美味しいご馳走とデザートを運ぶ。
「今は姫様達もいますので大人数、作り甲斐がありますね」
デザートには色とりどりのケーキやクッキー、スコーンなどが並ぶ。
飲み物も紅茶にコーヒー、緑茶から炭酸、ミネラルウオーターまで完璧だ。
メイドの誇りにかけて皆様に美味しいと言わせみせます、といった澄香の熱意が伝わってきそうである。
「姫様達も素敵な格好に慣れてきたようですし、弟のきせき含めてみんな可愛くて華やかでお茶会をするには申し分の無い煌びやかさですね。魔王様の周りはこうでなくては!」
「きせき君は女装似合うね~」
澄香が声を弾ませ。ほのかは、そのメイドの手作りの苺ショート、ガトーショコラ、モンブランをはむはむしつつ、まったりしている。
ただし、澄香の弟であり魔王の部下の『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)だけは、複雑な面持ちだった。
「うぅっ、夢の中とはいえ恥ずかしいよー……」
椿の命によって、部下達も煌びやかに着飾っている。
澄香にはクラシカルな白いドレスにふわふわの帽子。
ほのかには黒と赤がメインの小悪魔系ドレス。
そして男の、きせきにも和の花柄の和風ドレス。
「私の今日のセレクトよ。皆とっても似合ってるわ」
可愛いは正義。
姫たちと部下と白露の為に、椿は手ずから紅茶を淹れた。
甘い香りの漂う時間は続く。
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「勇者が助けに来てくれるまで何してよう。あ、同じく捕らわれの姫(六道瑠璃さん)だー。一緒にジェンガして遊ぼう!」
出されたケーキを食べて、お茶を飲んで、ごろごろして。
暇を弄ぶ奏空は、瑠璃を誘ってジェンガに興じていた。
「それにしてもここの魔族は案外いい人達だよね。毎食ケーキだよ! ケーキ食べ放題!」
「……快適だとは思う」
「女装って最初は勇気いるけど、やってみると慣れていく感じが……瑠璃姫、ほーら大丈夫、怖くないよ……すごく似合うよ~」
「……」
暗示か。
奏空はむしろ自分自身に何かを念じているようだった。
(勇者さん、女装が本当に癖になる前に助けに来てくださいね!)
色々な意味をもって、早く助けに来てほしいと願う奏空だった。
そんな彼とは対照的に、もう一人の姫は考える。
(細かい事は考えない方がいいのかもしれない。この城は、そういう掟があるのだと思うから)
郷に入ったら、郷に従う。
そういうものだと思うし。
「はい~、今日も用意しましたよ~」
ほのかが用意してくれたドレスを着て。
瑠璃は椿のもとを訪れる。
「あら、また来たの?」
柔らかな陽の光が差しこむテラスで、二人はこの頃よく一緒にいた。
やがて眠気に誘われて。うたた寝をしながら瑠璃は、いつの間にかこの魔王の膝枕におさまる。攫われてから、こうしている時間が一番の幸せだった。
(だから別にオレは、帰らなくてもいいんじゃないだろうか。んー……よし、決めた。勇者が助けにきたって、帰らないぞオレは)
奏空は、どうするか分かんないけど。
椿の膝枕が好きだから、帰らない。
(しかし、普段何もせず可愛がられてるだけ、っていうのもなんだしなぁ)
何か、お返しじゃないけど。
出来る事があればやりたい。
(オレが膝枕してあげるとか? 耳掃除とか喜んでくれるかな?)
心地よい微睡に身を任せ。
(あとはそうだなぁ。掃除とか、洗濯とか、それくらいなら出来るよ。料理は……味見できないからダメだけど)
魔王の膝の上で、姫は幸せな夢に包まれた。
(床や窓はもちろん、調度品なんかもあれば綺麗にしていこう。あと庭の手入れなんかもやってあげようかな。ま、外に出してくれれば、だけど。草むしりしたり、花壇に水やったり……やりだしたら、楽しいかもしれないな)
椿はそんな、瑠璃を優しく見つめた。
「可愛い寝顔……どんな、夢を見ているのかしら?」
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勇者たまきは、花を摘んで進んでいた。
「勇者さん、それは何ですか?」
「魔王さんへの花束に、お姫様のお二人にはお花の指輪、宰相さんにはお花のバッジですね!」
鈴鳴の質問に、たまきは元気よく答える。
天使の頭には、すでに勇者作の愛らしいお花の冠が飾られていた。実に平和な旅で、魔王城まであっさりと着いてしまう。
固く閉ざされた城門のベルを、たまきは気軽な様子で鳴らした。
すると魔王の部下、きせきが現れる。
「魔王さんのお宅で宜しいでしょうか?」
「いかにも、ここは魔王城。そして、ぼくは魔王の部下で、まず最初に勇者の前に現れる役だよー。
ゲームでいったら1面のボスみたいな」
「1面の……ボス?」
鈴鳴は相手の言葉よりも、姿に猛烈な疑問を感じた。
何せ、きせきは魔法少女のドレス姿だったのだ。
「でもこの服も魔王の命令だもんね、仕方ないよね!」
「女装の呪い……恐ろしい物です。少年達が女装に目覚め、健全な男女の愛が阻害される事を神は恐れています」
「勇者もその仲間たちも捕まえてフリフリに着飾らせてやるー!」
きせきは、魔法のステッキを振り回して可愛らしく突っ込んでくる。
反射的にたまきが避けると、ヒラヒラとした裾が邪魔なのか魔王の部下は盛大に転んだ。
「うー……お腹がすいて力が出ないよー……」
実は毎日三食ケーキなのに飽きて、あまりごはん食べていなかったきせきは弱りきっていた。たまきは、そっと自分の食料を差し出す。
「よければ、これをどうぞ。後、お花もです」
「……ありがとう」
1面のボスは、こうして勇者を素通りさせた。
「こんにちは! 魔王さんと、その部下の皆さん。勇者たまきです」
たまきは、今日の記念にと皆に花束を手渡ししていく。
その様子を、やる気なく魔王の玉座で眺める白露は首を傾げた。
「あっれ……最近は性別逆なのかな……」
「ん、何やら城内が騒がしいですね。魔王様に盾突く輩は成敗しに行きますよ~」
「勇者が姫を取り戻しに来たですって?」
ほのかと澄香も玉座の間に駆け付けた。
椿に膝枕されていた瑠璃は、勇者を見なかったことにしてそのまま目をつぶる。
「御訪問させて頂き、ありがとうございます。囚われのお姫様達に会いに来たのですが……」
「あら、勇者様も可愛らしいではありませんか。これはぜひお客人としてお迎えしなくては!」
「……ややや!? 勇者様ご一行、倒すのがもったいない面子が揃ってますね。私好みにコーデしちゃうぞ~♪」」
魔王城の面々は、既に違う意味で興奮し始めていたが。
「よく来たね、魔王の城へよーこそ。かわいー勇者さん。そして裏切り者の元部下くん?」
白露の言葉に、全員の視線が一人に注がれる。
シックな鎧に身を包み、きせきは勇者を守るように剣を魔王に向けていた。
「まあ世の中転職なんて良くある事だしね。何が嫌だったのかさっぱりだけど」
「きせきくん? どうして貴方はそちら側にいるのですか? 今ならまだ許してあげます。一緒に魔王様に謝ってあげますから戻ってらっしゃい?」
にこにこ笑顔の姉に、弟は初めて反抗する。
「もうフリフリのお洋服や毎日ケーキは嫌だもん、ぼくも魔王を倒すよー!」
「1面のボスさん!」
「そう……戻る気はないのですね。魔王様に徒なすと言うなら、弟と言えども許しません!」
相変わらず笑顔のまま。
澄香が動き、きせきもそれに呼応する。
「この姉の手でお仕置きしてあげますから、覚悟なさい!」
「ぼくだってもう立派な戦士だもん、もうおねえちゃんの言いなりにはならないよ!」
目にも止まらぬ攻防。
刹那のうちに剣撃が入り乱れて、そこかしこに火花が飛び散った。
たまきは、その隙に白露と対する。
「ボクを倒したいならあれだよ、あれ。トリックオアトリート。え? 時期違うって? 良いじゃん。お菓子くれたら負けで良いよ」
安い魔王だった。
「しいて言うならご当地菓子が良いな。くれなかったら超高カロリーのケーキを口に突っ込むよ。姫に。あー大変だなー、ぽんぽこ丸い姫様になっちゃうなー」
と言われても困ってしまう。
すると、きせきがたまきへと、ある物を投げた。
「それを使うんだ!」
「……これは」
たまきが手にしたのは、有名な幻想銘菓の金色饅頭。
それを魔王に渡す。
「フフフ、もぐもぐ……ボク様は魔王だけど……別に暗躍とかしてないよ……ごくん。頑張ってね、勇者さん」
「残念ね。でも仕方ないわ。だって貴方達の事は知っていたから……とてもとても仲が良いと」
あっさりと、白旗をあげる魔王達だった。
戦いは止み。奏空を呼んでくるように、指示を出す。
「瑠璃はまだここに居てくれる?」
寂し気に確認すると、こくんと膝の上の姫は小さく頷く。
良かった
椿は嬉しさに微笑む。
「最後に皆でお茶会をしないかしら? とっておきの紅茶を淹れさせてもらうわ。勿論、みんなは可愛い衣装を着てね。ほのか、澄香お願いね」
「こ~んなコーデをはしゃいじゃいま~す♪」
たまきには、フラワーモチーフのプリンセスラインのドレス。七分袖レースのパゴダスリーブ、シルクで出来た花の飾りがついている王冠型のティアラ。
「そして、鈴鳴ちゃんにはにゃんこのネイルアートをして、ふわふわ猫耳もつけちゃいますね……! あ~ネイルが乾くまでじっとしてて下さ~い」
「え、私にもアクセサリー? そ、それは、照れちゃいますね……えへへ」
おめかしした勇者一行。
苺ショートを筆頭にお菓子たちが迎える。
「はわわ……! ケーキと 素敵なドレス、ありがとうございます! とっても嬉しいです! ふふ……!」
苺ケーキを一口ぱくり!
完全に幸せ笑顔だ。
二口目を食べてから、ハッ!……と口にクリームが付いたまま目的を思い出す。
「お姫様達を攫ったのは何故ですか? 悲しい思いをさせているのなら、いくら私でも、怒ってしまいますよ……?」
「さっきから気になってるのですが、私達は姫君方をお預かりしてただけのはずですが。何故魔王様を倒そうと?」
たまきは、あらましを説明した。
「宰相が? あらあら、それは……宰相もご招待せねばならないようですね。私、ひとっ飛び彼を連れて参りますね。ほのかちゃん、衣装の用意しといて下さいな」
くすくすと澄香は姿を消す。
「勇者たまき~お待ちしておりました~っ」
「はわわ……!」
それと同時。
何が巨大なものが勇者へと転がり続ける。
「俺だってば~奏空姫だってば~魔物じゃないよ~」
3食も4食もケーキを食べ続けて、城の中でゴロゴロと遊んでばかりいた奏空はかな~り丸くなっていた。姫だるまみたいになって転がりつつ追いかける。
「え、本当に奏空姫?」
どうする勇者たまき! 姫が丸くてお荷物だ!
勇者は逃げ、姫は転がり続けた。
「こういう魔王城も結構楽しいわよね……白露も可愛い格好しないかしら?」
「さてね」
魔王城は今日も平和だった。
●
「さて、残りは邪魔者の排除のみ。さあ、狙うは国を裏切り、魔王側に行った元勇者と姫二人だ! ククク、消耗しきった奴らなど、数の暴力で押し潰せば問題ない。これで僕の天下だよ! アーハッハッハ!」
王国の方では宰相が勝ち鬨をあげる。
しかし、彼は知らない。まさか勇者と魔王が戦いらしい戦いをせずに仲良くやってるとは。
「そこまでです、宰相様。魔王城までご同行いただけますか?」
だから、澄香が現れたときの泰葉の驚きようはなかった。
たまきと鈴鳴も一緒だ。
「まさか! そんな! 僕の計画は完璧だったはず!? ち、畜生! こうなったら僕自ら葬り去ってくれる!」
「宰相の貴方が全ての手引をしていたなんて……貴方を懲らしめて、平和な世界を守ってみせます!」
「死ねェ!」
猛の一撃を放とうした泰葉は……突如丸々としたものに轢かれ。普通に気絶した。
何と、奏空がここまで転がってきたのだ。
……しかし!
「実はこれは着ぐるみなんだ! 勇者は攫って行くぞ!」
なんとぷくぷくしていた体は着ぐるみだった!
それを女装の服ごと脱ぎ捨てると、その姿は王子奏空に!
そのまま勇者たまきをお姫さま抱っこし、颯爽と駆け出す。奏空は勇者たまきとの逃避行を企てていたのだった。
「このまま本当に攫っちゃっていい?」
「何処へ行くのですか……? 旅行でしたら、私は、箱根温泉に行きたいです」
「たまきちゃんと一緒ならいつでもハッピーエンドだよね!」
お互いに笑顔を向けて。
王子と勇者は、彼方へと消えて行った。
「そういう愛の関係も、きっと良い物ですよね……許しますよ。ふふ、天使は地上に住まう人々の味方ですから。皆さんがそれを選んだのなら、きっとそれが幸せな結末なのでしょう……」
天使のそんな言葉を聞きながら。
のびている泰葉は、徐々に夢で意識を失い。
現実で意識を取り戻す。起床すると開口一番。
「ふむ、夢だからか割と感情的だったね、俺……ああ、久々に感じたかも……この高揚感……うん、これが感情……素晴らしい四月馬鹿をありがとう、獏君」

■あとがき■
参加者の方々のおかげで、個人的には大変面白いエイプリルフールの冒険になりました。お姫様が男子なのは、意外というか。ある意味予想通りというか。衣食にこだわる魔王も、その部下も、女性勇者も、黒幕宰相も、王道天使もいい味を出していたと思います。どれも興味深いプレイングでした。
皆様にも楽しんでもらえたなら、幸いです。
皆様にも楽しんでもらえたなら、幸いです。
