勾玉を求め拳を交わしあう
勾玉を求め拳を交わしあう


●挑戦状
「勾玉を求めし戦士よ。多くは語らぬ。
 兵法極意全てを尽くし、豪を示して奪いに来い!」

●FiVE
「おっす! よく集まってくれたな!」
 元気よく手を挙げて覚者を迎える久方 相馬(nCL2000004)。皆が席に着いたのを確認して、説明を開始した。
「新たな勾玉が見つかった。古妖が首にかけているんだが……ここから先は八起に聞いてくれ」
「よろしくお願いします」
 相馬に紹介された『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)が、集まった覚者を前に一礼する。八起が見せたのは、巨大な仏僧の絵だ。比較対象として描かれた男性と比べて、倍以上の大きさがある。特筆すべきは、その首に勾玉をかけていることだ。
「彼は大入道です。名前は正雪(しょうせつ)。時々僕の村に立ち寄る古妖の一人です」
 入道。一般的には出家した人間のことを指す。だが別の意味で仏僧の格好をした古妖を示す言葉でもある。日本各地で目撃例がみられ、共通点としては人間よりも体が大きい剃髪した男であることだ。
「正確は生真面目で、自分を鍛えることが趣味という古妖です。
 武者修行の途中で勾玉を手に入れ、それを首にかけています。正雪からすればそれほど重要なものではないので、譲ってくれないかと頼んでみたら――」
「欲しければ戦って勝て、と言われたわけだ」
 説明を継いだのは相馬だ。相手の能力が書かれたレポートを渡しながら、説明を続けた。
「相手は俺達の体術や怪因子の光線のようなものを使って戦ってくる。遠距離近距離を共にこなすパワーファイターだ。
 気を失うか降伏すれば、向こうもそれ以上何かをしてくることはない。そんな試合形式だ」
 相手は多対一であることを卑怯とは思わない。数を揃えるのも兵法という考え方のようだ。
「道中は僕が案内します。微力だけど、僕も参戦させてもらいます」
 八起が自分の胸に手を当て、前に出た。
「勾玉とかそういうのを抜きにして、古妖からのバトルに熱く燃えるのもいいんじゃないか。
 とにかく、任せたぜ!」



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.大入道『正雪』の撃破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 デカァァァァァいッ! 説明不要!

●敵条件
 大入道(×1)
 古妖。名前は正雪(しょうせつ)。大きさ4メートルを超す巨大な仏僧の姿をしています。大入道の中では小さめです。
 伝承では突如現れて脅かしたり、睨みつけて気を失わせたり。人や物を運んだりと人助けもするのですが、その巨体故に人の中に居るだけで悪い伝承の方が多く広まります。そういうことを察してか、基本山の中に籠って拳を鍛える毎日です。
 古妖なのですが、人の武術に興味を持ちその鍛錬に勤しんでいます。巨体から繰り出される一撃は、驚異の一言に尽きます。
 
 攻撃方法
 重突  物近列 同名のスキル参照
 閂通し 物近単[貫2] 同名のスキル参照。[貫:50%,100%]
 怪光線 特遠単 睨みつけると同時に光線を放ちます。〔解除〕
 咆哮  特遠全 咆哮をあげ、衝撃を与えてきます。〔不殺〕
 構え  自   独特の構えを取ります。〔カウ〕
 巨体  P   ブロックに三名必要です。

●NPC
『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)が同行します。相談宅内で【八起指示】のタグをつけた最新の行動に従って動きます(プレイングで指示する必要はありません)。
 指示がなければ、後衛から蒼鋼壁を三人ぐらいに付与し、その後破眼光を放っています。

●場所情報
 山の中にある河の畔。すぐ近くに滝があります。ハイキングコースから離れた山道を踏破していく形です。
 時刻は昼。明るさは十分。足場は石や土の起伏などがあり、若干悪いです。広さは戦闘をするのに十分な広さがあります。
 事前付与はなし。試合開始からの行動となります。彼我との距離が10メートルの段階からスタートになります。

 皆様のプレイングをお待ちしています。 

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年03月05日

■メイン参加者 8人■



「来たか。戦士達よ」
 座禅を組んでいた入道は、覚者達の来訪を確認して立ち上がる。覚者の背の高さだと、入道の膝か太ももあたりに頭の位置が来る。 
「これでも小さい方だって聞きましたけど、大入道ってそれだけ大きい方が多いんですね」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は入道を見上げるように見つめ、口を開く。伝承によれば正雪の三倍以上の背丈を持つ入道もいるとか。だが臆することはない。むしろ未知の世界を一つ知り、喜びの感情があった。
「お坊さんの体術は凄く痛そうよね~」
 入道の体躯を見ながらエルフィリア・ハイランド(CL2000613)は身震いする。勝利の為には相手の攻撃は喰らわない方がいいのだが、個人的には喰らってみたい。そんな倒錯した思いを胸に秘め、神具を手にする。
「私は……いや、今日は語るまい、だね」
 華神 悠乃(CL2000231)は自己紹介をしようとして、止める。そのまま『竜手・輝夜」を手にはめて、構えを取った。この場で語るべきは言葉ではない。拳と拳。武勇を示し、互いの全てをぶつけあう。それがこの場の礼儀だ。
「やっぱり、こういうのワクワクしますね! 男の子ですから!」
 拳を握って全身で喜びを表現する御白 小唄(CL2001173)。因子発現前も元々活発的な男の子であった小唄は、純粋な勝負というものに心惹かれる。人間関係も陰謀もない、純粋な勝負。しかも相手は巨大な武闘家だ。燃え上がらない理由はない。
「腕が、鳴りますね。ふふ、私も武芸者、ですから」
 途切れがちだがはっきりと『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は戦意を示していた。祇澄が目指すのは剣の道。拳という違いこそあれど、切磋琢磨するという意味では入道に好感が持てる。望み通り、業を示そう。
「ではオレは兵法者として挑もう」
 神具を手に『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が頷く。因子発現する前までは、祖父から兵法を学んでいた懐良。覚者となってからも、その教えは心の中に残っている。自らが知る兵法を駆使し、勝利を得る。その為に入道に挑む。
「古妖に手合わせしてもらえることはそうそうないし、折角だから楽しませてもらおうとしよう」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は入道を見ながら神具を手にする。殺し合いはお断りだが、こういった形式なら全力を尽くせる。勾玉のことも気にかかるが、今は純粋に勝負を楽しもう。
「では、正々堂々……よろしくおねがいします!」
 声をあげて一礼する納屋 タヱ子(CL2000019)。入道もそれに倣い一礼する。勾玉が今後のFiVEに重要であることは確かだ。それを手に入れるために。豪を示せと言った入道に失礼のないように、こちらも全力を尽くして挑もう。
 礼を交わしたのち、距離を離す。どちらが決めたわけでは無い戦闘開始ライン。そこに立ち、双方向き直る。
「では……行くぞ!」
 始まりの号令は入道の一声。大きく響く声に覚者が驚くことはない。むしろ飛び出すように覚者は走り出した。


 覚者達は二手に分かれ、入道を囲むように展開し――
「……ストップ。それをすると前衛不足で入道に突破される」
「あ……」
 ゲイルの指摘で作戦の穴に気づく。結局一丸となって挑むことになった。
「アタシ好みの勾玉だとイイんだけど」
 最初に動いたのはエルフィリアだ。背中の羽を動かして宙に浮き、星雲の名を持つ鞭を軽く振るう。鞭はエルフィリアの意志に沿うようにうねり、地面を叩いた。手首の角度や力の加減。それにより鞭は戦場をヘビのように動いて支配する。
 入道が足を振り上げる瞬間を狙い、鞭を振り上げるエルフィリア。風を切る音と共に鞭が入道に迫る。狙うはその足。足首に絡みついた鞭は動きを封じるだけではない。そのまま力を込めて引き、入道のバランスを崩す。
「他の子が覚えてきたんだけど、FiVEにはこんな技術だってあるのよ」
「見事。だがまだまだ」
「さすがにこの体格はひとりじゃ投げられないけど――」
 バランスを崩した入道に悠乃が迫る。助走をつけて飛び上がり、入道の僧服を握りしめた。相手は覚者すら超えるパワーファイター。速度はそれほどではないという予測は見事的中する。迫る悠乃の動きに入道は対応が遅れていた。
 悠乃が戦いに求めることは多くはない。名誉は求めない。愉悦は求めない。そして勝利は求めない。彼女の第一義は『スタイルを貫くこと』だ。全てを受け止め、そしてすべてをぶつける。それに従い全力疾走し、上半身にとびかかり落下の力を加えて投げ飛ばす。
「でも、ふたりならどうよ!?」
「なんと……!」
「一気に畳みかける!」
 入道が起き上がる暇を与えずに小唄が走る。両手にナックルを嵌め、地を這うように疾駆する。その姿は獣を想起させる。古妖との腕比べに瞳をらんらんと輝かせ、その喜びを表現するように地を跳ねる。
 地に伏しながらも、その腕を使い小唄に向かい腕を振るう入道。振るわれる剛腕を前に、しかし転身せずに小唄は前に進む。肩に当たる一撃の痛みを気にすることなく、お返しとばかりに拳を振るう。一撃では劣るが、それを手数で補う。
「僕はいつだって全力! どんどんいくよ!」
「無論。そうでなくては」
「はい。全力で戦わせて貰います!」
 両手に盾を構えるタヱ子。動くたびに長い三つ編みがゆらゆらと揺れる。タヱ子は土の加護を自らに纏い、入道の一撃から仲間を守るために動いていた。両手の盾は重く動きは鈍いが、速度を犠牲にしてでも誰かを守ることがタヱ子にとって重要な事だった。
 振り上げられた入道の腕。タヱ子は両手の盾を構え、足を踏ん張る。土の加護二つと、二枚の盾。計四枚の盾でその一撃を受け止める。衝撃を受け流すように膝を曲げ、しかし屈することなく入道を見る。
「これがわたしの『豪』です!」
「うむ。確かに伝わった。だがこれで終わりではあるまい」
「では――神室神道流・神室祇澄。いざ、推して参ります!」
 腰に付けた『夫婦刀・天地』を抜刀する祇澄。刀身が日光を受けて白く輝いた。それは祇澄自身が扱い易い様に調整を施した雌雄一対の日本刀。己の求める武の為に、己の刀を鍛え上げる。これもまた武芸者としての形である。
 精霊顕現の紋様が淡く光る。神具に宿る源素の力、そして足運び。宿ると同時に祇澄は入道に切りかかった。足運びも精霊顕現の能力も、もう意識せずにできる動き。繰り返された鍛錬と実戦。それが生み出す流れるような斬撃。基礎を重ねた動きこそ、武芸。
「そこ、です!」
「まさに攻防一体の舞。驚愕に値するとはこの事か」
「なら今度は特化した『攻』をご覧あれ!」
 本を手にラーラが叫ぶ。開いた本から迸る炎。それはラーラの体を螺旋を描くように移動し、彼女の左手に集う。それは魔女の力。精霊を操り己が術とする西洋思想。東洋の地で咲いた西洋の美しき赤の花。
 集う炎はその密度を増す。こぶし大の大きさの赤き火炎球。大きさこそ変化しないが、それは少しずつ赤みを増していく。炎はラーラの意志と共に入道に向かい撃ち出された。熱を伴う炎の一撃が入道を襲う。
「修行してるだけあって手強いですね……だけど、こっちだって負けませんよ」
「その心意気やよし、人間。こちらもそれに応えよう」
「アンタが全力で戦っているなのは理解してるさ。兵法者だからな」
『相伝当麻国包』を手に懐良は口を開く。勝つための手段が兵法。それは戦争だけではない。日常の交渉や、会社運営などにも利用できる『勝利条件を満たす』ための学問。それを学ぶものが、勝負ごとに手を抜くなどありえない。
 入道がカウンターの構えを取れば、懐良も同じカウンターの構えを。解除の視線を使えば、懐良も解除の炎術を。懐良が用意したのは相手と同じカード。これは手札の化かしあい。これだけでは負けないが勝ちもない。だが、
「勝利の道は仲間が進んでくれる。俺は隙を作り、その道を示すだけだ」
「これは面倒だな、兵法者」
「道を示すのは一人だけじゃない」
 称賛ともいえる入道の一言。それに合わせるようにゲイルも動く。霊力の籠められた白鞘造の日本刀を手に、回るように足を運ぶ。それは舞。一定のリズムに合わせて足を動かし、空気を払うように刀を振るう。
 ゲイルの動きを追うように水の源素が霧のように発生し、空気に消える。三度の舞の後に刀を横なぎに一閃し、納刀する。一閃の際にばらまかれた水の源素が仲間の傷に届き、納刀の音と共にその傷を癒していく。
「微力ながら俺も勝利の道を示させてもらおう」
「成程、動きの要たるはそこか。そしてそれを守るように布陣する。こちらの動きを封じつつ、畳みかける作戦か」
 相手の動きを封じつつ、最大手を打つ。戦いの基本だ。それを卑怯と言う入道ではない。むしろそれこそが求めていたこと。
「ならばこちらも示すのみ。大入道正雪、積み上げた武を受けてみよ!」
 腕を交差させ、呼気を放つ。腰を落とし、膝を前げ重心を落とした。河原が震えるのは錯覚か。
 古妖と覚者。互いに互いを認めながら、それを討ち砕くために武を振るう。


「よし八起! カッコイイポーズを取りながらビームを撃つんだ!」
「ええええ!? こ、こう?」
 土の防壁をかけ終わった後は、八起も第三の瞳から光を放ち入道を攻め始める。
 エルフィリアや悠乃が体術を封じながら覚者が戦えば、入道は視線と咆哮を中心に攻める。時折混ぜる殴打や蹴りも、その体躯から繰り出されれば油断ならない者がある。
「体術じゃなくて声でだなんて……これはこれで!」
「あいたたた! まだ負けないぞ!」
「ええ、まだまだ、です!」
 エルフィリアと小唄と祇澄が入道の攻撃で命数を削る。一撃一撃が大きいこともあり、大丈夫と思っていた領域から一気に体力を削られた形だ。
「どんな攻撃でも凌ぎ、耐えて見せましょう」
 入道の一撃で膝をつき、その痛みが引かぬ身であるのに臆することなく立ち上がる祇澄。両手に構えた夫婦の刀を構える。片方で受け、もう片方で攻める。刀だけではなく、体全てを使い二刀を振るうのだ。踊るように、舞うように。
「これで……崩れろ!」
 炎の力を込め、構える懐良。入道のカウンターの構えを崩す為に、息を吸いながら力を溜める。必要な力を適切な箇所に絶妙の間合で。過度な火力は自分には必要ない。入道の規制を逸らすことが己の役割。
「予想はしていたが、なかなか頑強だな」
 ゲイルは仲間を回復させながら、なかなか倒れない入道に感心していた。だが同時に、こちらの回復が尽きる可能性も考えなくてはいけない。気力が尽きれば、自分も前に。指輪型の神具を意識し、術式を放つ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 虚空に印を切りながら炎の弾丸を放つラーラ。その視線に映るのは入道が持つ勾玉。知識欲が高いラーラは、それがどのような勾玉なのか気になっていた。勾玉を譲ってもらうために、全力を尽くす。
「カウンターを恐れずに行くわよ! そぉれ!」
 火力よりも速度を。ダメージよりもバッドステータスを。エルフィリアはそんなタイプの戦士だ。そして傷つくことを恐れず、相手に挑んでいく。相手をチクチク攻めて喜びながら、同時に攻められて喜ぶという……ええと、アラタナルは全年齢。
「っ……! 流石に術式は堪えますね……!」
 入道の視線によろめくタヱ子。身に纏った土の加護が崩れ落ちるが、それはむしろ望むところだった。誰かを守るのが自分の役目。入道の気が自分に向いているのなら、それは仲間を守っているのと同義なのだから。
「流石だね! もっともっと分かりあおう!」
 最前線で攻め続けながら、悠乃は入道の強さを推し量る。単純に重量があるだけではない。重心を下げることによる強い安定性。柔道で言う自護体の要領で攻撃を受け止めていた。だからこそ嬉しい。ただの力任せではない相手であることの証だから。
「へへ、こんな相手と戦える機会なんてそうないからね!」
 額をぬぐいながら小唄が拳を握る。袖についたのは汗だけではない。頭から流れる血の赤もあった。傷は決して浅くはない。それは小唄もわかっている。それでも退くつもりはなかった。戦いの高揚を、ずっと味わっていたい。
 だが、戦いは永遠には続かない。
「ぷっはー! 今のは効いた!」
「流石です。ですがまだまだ!」
 最前で戦っていた悠乃とタヱ子が入道の下段突きを受けて、背中から河原に叩きつけられた。なんのこの程度とばかりに、命数を削ってすぐに起き上がる。
 ゲイルの回復もあるが、覚者の疲弊は激しくなってきている。だがその勢いは落ちることはない。それは入道が殺さないというある種の安全があることが一因にある。だが一番の理由は、
「まだまだぁ!」
「いっくよー!」
「まだ負けぬよ、人間」
 四メートルを超す巨人。それと戦うことに皆心躍っていた。それは好奇心でもあり、己を鍛える為でもあり、戦いそのものを楽しむ心でもあったり。ともあれ任務とは別のモチベーションがそれぞれの覚者の中にあった。
 ダメージを受けて退くことなく、むしろヒートアップする覚者。その攻めに少しずつ入道は押されつつあった。足は震え、呼吸も荒い。
「そして、最後は!」
「やっぱり一発見せとかないとね!」
 ここが決め時だと悠乃と小唄が拳を握る。因子の力を活性化させ、獰猛な獣の力が体内で渦巻いていく。
「よーし……いくぞ、受けてみろ!」
「最大パワー!」
「「猛の一撃!!」」
 二人同時に拳を握り、そして力を解放して一撃を放つ。龍と狐の拳が入道を穿った。
 獣の一撃を真正面から受け、笑みを浮かべる入道。
「見事だ」
 その言葉と同時、巨大な古妖は音を立てて崩れ落ちた。


「ではこれが約束の勾玉だ」
 入道は首飾りを外し、覚者に渡す。雪のように白い石はどこか神秘的であった。
「……ん? 勾玉? …………ぁ、うんダイジョウブ忘れてないよ!」
 悠乃は入道の行動に首をかしげ、思案する。そのまま数秒そのポーズを維持し、思い出したように頷いた。ダイジョウブデスヨー、と言いながらうんうんと首を縦に振っている。まあいいや、と覚者は勾玉に目を向けた。
「これは……心が落ち着きますね」
「ええ。心の揺らぎが、薄れてきます」
 ラーラと祇澄が勾玉に触れ、心穏やかになる精神状態から勾玉の効用を推測する。瞑想を行っているような、心が湖面のように静かになる感覚。魔術と武術、方向こそ違えど何かを究めようとする者達だから感じ取れたのだろうか。
「この度は人間の都合で物品の融通をお願いしてしまってすみません」
「いや構わぬ。埃をかぶるよりは、有用に使われた方が勾玉も喜ぶ」
 勾玉を融通してもらったことに頭を下げるタヱ子。手を前に出し、謝罪は不要と入道は言う。むしろ今日の戦いの方がよほど価値がある。
「そういえば、その勾玉は何処で手に入れたのだ?」
 仲間や入道の傷を癒しながら、ゲイルは入道に勾玉入手の経緯を問う。
「遥か北。人間がアキタと称する場所だったか。なまはげの血族との腕比べて得た者だったか」
「ほほう。なまはげか。どのような戦いだった?」
「手土産に聞かせてやろう。あれは――」
「なるほど、そういう戦いが」
 横から頷きながらそれを聞く懐良。兵法者として、古妖同士の戦いには興味がある。
「この時、物陰からなまはげが――」
「成程伏兵か。相手も見事なものだな」
「しかし慌てず前に進み敵陣を――」
「死中に活を求める。関ヶ原における鬼島津の戦略だな」
 入道の語りにメモを取る懐良。実戦の状況を聞き、自分ならこうするだろうと想像する。そういった想定が、新たな兵法を生むのだ。
 日が赤く染まるまで、入道と覚者の話は続いた。

「あー。気持ちいい戦いだった。重くて激しいのは大好き」
 伸びをするエルフィリア。若干エルフィリアと意味合いは異なるが、気持ちよく戦えた覚者は多かった。純粋な勝負というのは、心を軽やかにする。勝ち負けは二の次だ。結果よりも過程が重要なこともある。
「へへ、どうだったかな、僕の全力……響いた?」
「うむ。いまだに骨に響いている」
 去り際に小唄が入道に問いかける。入道は小唄に打たれた場所を擦る。その痛みも勲章の一つとばかりに笑みを浮かべ、小唄を見送った。そこに傷つけてしまったという悲壮感はない。全力を尽くして得た爽快感があった。
 そして帰路につく覚者達。その手には、雪色の勾玉。
 これがFiVEにどのような未来をもたらすか。それを想像しながら覚者達は入道に背を向けて歩き出した。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 身長差を考えると、犬猫と殴り合ってる感覚なのか。

 ともあれお疲れ様です。勾玉と共にリプレイをお送りします。
 八起道案内だけでよかったかも。そんな展開でした。
 
 ともあれお疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
 それではまた、五麟市で。

勾玉ゲット!

勾玉名:雪月花




 
ここはミラーサイトです