守りたい 力が狂い吹き荒れる
守りたい 力が狂い吹き荒れる


●勾玉と覚者、そして奇跡
「この石はな。この街を守った古妖がこの地に残してくれたものじゃ」
 幼き頃、おじいちゃんはそう言っていた。この街を山賊から守ってくれた古妖が、自分の牙を削って残してくれたものだという。その加護を受けて戦えば、如何なる相手でも負けはしない。そう伝えられていた。

 その祖父は、いま妖化した風に刻まれて倒れていた。竜巻のように渦を巻き、近寄るものすべてを切り裂いて。
「亜里沙……逃げるんじゃ……」
 力弱く祖父は口を開く。因子が発現しているとはいえ、単体で妖に勝てるはずがない。亜里沙だってそれはわかっている。だけど、家族を見捨てることはできない。
 守らなきゃ。必死になって水の因子を活性化させて妖にぶつけるが、怯んだ様子はない。むしろ反撃で社の方に吹き飛ばされて、大怪我を負ってしまう。遠のく意識の中、祖父の昔話を思い出す。この街を守ってくれた勾玉。この社に祭られている伝承。それに縋るように手を伸ばす。
(なんでもいい……おじいちゃんを助ける力をください……!)
 願う亜里沙。今はただ力が欲しかった。祖父を守り、妖を打つ力が。勾玉の伝承は信じていないけど、とにかく何かに縋りたかった。
 その結果、奇跡は起きる。だがその奇跡は――

●FiVE
「みんなお仕事だよっ!」
 集まった覚者を前に久方 万里(nCL2000005)が元気よく迎える。軽快な口調で説明するが、その内容は決して軽いものではなかった。
「神社の境内に破綻者になった人がいます。深度は2」
 破綻者。覚者の力が暴走し、力に飲まれた者を指す。深度2は力の制御が効かず、自らの力に飲まれつつある状態だ。適切な治療を施せば、元に戻すことができる。
「その人は家族と一緒に妖に襲われて、強く神様に祈ったみたい。それが暴走の原因なんだけど……なんでも手にしてる勾玉が祈りを強めたみたい」
「勾玉?」
「うん。これくらいの大きさで、この人が手にしているの。手放しても暴走が戻るわけじゃないけど」
 親指と人差し指を丸めて、勾玉の大きさを示す万里。伝承によれば、古妖の牙を加工したものだとか。その古妖は狼型ということ以外は、如何なる存在なのかわからない。
「治療するためにも一度力を発散させないといけないみたい。なので一度倒す必要があるの。暴走している分、力が増しているので気を付けてね。
 元々は水の精霊顕現で、近距離を中心に攻めてくるよっ」
 破綻者は身体を含めて様々な能力が増強している。相手は一人と侮っていれば、痛い目を見るだろう。弐式を使うほどの実力者ではないのが、救いと言えば救いか。
「勾玉をどうするかは皆に任せる、って御崎おねえちゃんが言ってたよ。すごく欲しそうな顔を我慢しながら」
 その顔を想像して、覚者達は苦笑する。考古学者として立場上研究したいが、神社の人の気持ちを思うとそうもいかない、と言ったところか。
 ともあれ、破綻者をどうにかいなければ始まらない。覚者達は顔を見合わせて会議室を出た。

●破綻者中村亜里沙
 源素を乗せた一撃で妖はただの風となって消えた。これで終わりと息を吐く。
 おじいちゃん、大丈夫? 傷を癒す為にかざした手から氷の刃が放たれた。慌てて手を押さえ込むけど、自分の意志に反して、源素が荒れ狂う。
 だけど私の中の源素は収まる様子はない。行き場を求めて迸る。癒しの水が暴走し、低温の刃が広がっていく。
 駄目だ。そう思うけどもう体は言うことを聞いてくれない。そのまま濁流にのまれるように、私の意識は――おじいちゃん、にげて――



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.破綻者『中村亜里沙』を戦闘不能にする。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 力が欲しいか。欲しいなら――

●敵情報
・中村亜里沙
 破綻者。深度は2。一六歳女性の精霊顕現です。この街を守った狼型の古妖を祭る神社の孫娘で、正月は手伝いで巫女をやる程度には信仰心高め。
 妖から家族を守るために力を求め、そのまま暴走して破綻者となりました。その手にはこの神社で祭られている勾玉があります。
 力に飲み込まれつつあるため、会話はできますが応対は曖昧になります。戦略を練るほどの知的な行動はできず、目の前にあるものを吹き飛ばそうとします。
 治療の為に一度戦闘不能にする必要があります。治療用のスタッフは待機しており、戦闘後すぐに治療にかかる用意をしています。

 攻撃方法
 五織の彩 物近単 同名のスキル参照。
 薄氷 特近貫3 同名のスキル参照。
 水衣 特遠味単 同名のスキル参照。
 癒しの滴 特遠味単 同名のスキル参照。
 

●その他
 妖
 亜里沙が暴走するきっかけになった妖です。既に打破されており、この場にはいません。

 中村清二
 亜里沙の祖父。一般人。妖に傷つけられ、神社境内で伏しています。ゲーム的には戦闘不能状態のため、治療を施しても自発的に行動できません。

 勾玉
 亜里沙が手にしています。この神社に祭られていたもので、狼型古妖の牙を加工したと言われています。暴走に何らかの影響を及ぼしている可能性はありますが、詳細は不明です。手放しても暴走は解除されません。
 最終的に勾玉をどうするかは、PC達に委ねられています。意見が割れた時は、プレイングなどを鑑みてSTが判断します。
 
●場所情報
 神社境内。時刻は昼。足場や広さ、明るさなどは戦闘に支障なし。
 時間帯の為、時間がかかれば人が来る可能性はあります。
 戦場には『破綻者』と、そこから十メートル離れた場所に『中村清二』が倒れています。FiVEはそこからさらに十メートル離れた場所からスタートです。事前付与は不可。

簡易図
『FiVE覚者』←(10m)→『中村清二』←(10m)→『破綻者』

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年02月12日

■メイン参加者 8人■

『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『献身なる盾』
岩倉・盾護(CL2000549)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)


 破綻者とは、源素が暴走し力に飲まれた者。深度2は力の制御が効かず、自らの力に飲まれつつある状態だ。それにより守るべく振るった力が、守るべき相手に向けられる。倒れる祖父を前に、破綻者は振るえる手を向けてしまう。
「守りたいって思いがあるのに、それで傷つける事になっちゃうなんて……!」
 拳を握り、御白 小唄(CL2001173)は破綻者の前に出る。破綻者が狙う祖父を庇うように前に立ち、盾となる。守れなかった心の痛みを思えば、この程度の危険は恐怖にも入らない。毅然とした青の瞳が破綻者を射抜く。
「盾護、全力で止める」
 両手に盾を持った岩倉・盾護(CL2000549)。帽子の位置を直しながら、機械化した両腕を防御の構えに移行する。言葉少なくどこかボーっとしている盾護だが、瞳に宿った意志はその盾の如く固い。
「檜山さん、お爺さんをお願いしますッ」
 同じく両手に盾を持ち、納屋 タヱ子(CL2000019)が駆ける。黒のセーラー服を翻し、颯爽と破綻者の前に躍り出た。祖父を守るために妖と戦った孫を守る。それは破綻者の治療の意味と、心を傷つけないという二重の意味で。
「うむ、万事仔細ない」
 小唄が庇う祖父を抱える『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。樹香は立ち上がり、後ろに控えている救護班の方に向かい走る。FiVEの目的は破綻者の治療だが、だからと言って祖父を殺させていいモノではない。
「奇跡を欲してまで守りたいものを傷つけることのないように、僕がお前を助けてやる」
 両手でパイルバンカーを持ち、『約束』指崎 心琴(CL2001195)が宣言する。その根幹は『正義』という二文字。困っている人を助ける保護者を見て、困っている人を助けようという心を持つ。その正しさを為す為に神具を構えた。
「力さえあれば……ですか」
 多くの裏切りを経験してきた『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)は、破綻者に堕ちた者に複雑な感情を抱いていた。家族を守る為に力を求めたのに、家族を壊す力を得ようとは。運命とは不平等だ、と心の中で嘆く。
「おじいさんを助ける為にも亜里沙お姉ちゃん……ぶっ飛ばすの」
 どこか楽しむように『愛求める独眼鬼』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)は二対の刀を抜く。刀をくれた父親の教えに従い、鈴鹿は人を助ける。無邪気故の残酷な笑みを浮かべて、戦場を遊び場のように気楽に歩く。
「此処で私たちが止められなければ、守ろうとした彼女自身も救われない」
 薙刀を振るい『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が言葉を放つ。妖に恋人を殺された行成。それゆえ大事なものを失う痛みは良く知っている。そのような悲劇を生み出すつもりはない。その為に自分達はここに居るのだ。
「誰……? ここから……逃げて……!」
 もうろうとした意識の中、破綻者は覚者達に告げる。暴走した力を制御できず、薄れる意識の中で離れるように忠告する。
 だがそれは聞けないと覚者達は神具を構える。まだ治療をすれば戻れるのだ。ならば救わぬ道はない。妖を倒し家族を守った覚者。彼女を黄泉路ではなく、日常へ戻す為に。
 爆ぜる水の源素。その音を合図に、覚者達は破綻者に向かった。


 最初に動いたのは破綻者だった。源素の力を拳に集め、踏み込んでくる。肉体的にも強化された破綻者の拳を、
「お爺さんを守りたい。わたしにもその気持ちわかります!」
 タヱ子の盾が受け止める。一六歳の女性が放ったとは思えない鋭く重い一撃。暴走した源素と共に放たれた重い打撃。その重さを両足を踏ん張って受け止めるタヱ子。鉄板を植え付けたセーラー服をもってしても、その威力は完全に殺しきれなかった。
 痛みを意志の力で抑え込み、押し返すように盾で打撃を加えるタヱ子。誰かを守ろうとした破綻者。守った事実をを惨劇に変えさせてなるものか。土の加護を身に纏い、真っ直ぐな瞳で破綻者を見る。呼吸を整え、口を開く。
「だから……守りたいなら……守りたいなら、その意識を保ったままで居て下さい!」
「君が力を求めたのは守るためのはず」
 源素の炎を体内で燃やし、アーレスが破綻者との距離を詰める。右手に銃、左手にナイフを構えて相手との間合いを測る。銃の間合い、ナイフの間合い、そして相手の拳の間合い。頭の中でそのすべてを計算し、最適の場所を計算する。
 音もなく、アーレスは神具を振るう。抜いた銃を破綻者に向け、その足を狙う。弾丸は避けられるが、目的は相手の誘導。本命のナイフに炎を纏わせ、相手が避ける先に向けて振りかぶった。確かなな手ごたえと共に炎のナイフが破綻者を傷つける。
「滅ぼす為の破壊の力など、私のような者に任せればいい」
「時間は掛けていられないんだ……いくよっ!」
 両手に力を込め、小唄が吼える。無邪気な少年の顔は鳴りを潜め、猛々しい獣の表情が浮かび上がる。顔だけではない。神具を構える手も、大地を済閉める足からも荒々しいオーラが溢れ出る。小唄の中にある獣の部分を激しく活性化させているのだ。
 この一撃は命を奪うための物ではない。命を救うための一撃だ。理性無く暴れる獣ではなく、我が仔を守るために戦う獣の如く。本能を解放しながら、しかしそれを律する小唄。強く、しかし優しい獣の一撃が破綻者を襲う。
「女の子を攻撃するなんてホントは気が進まないけど、そんな事も言っていられないから」
「ああ。今は暴走する力を止めなくては」
 薙刀を振るい行成が口を開く。力を欲したのはあくまで自衛のため。その願いが悲劇となるのなら、それを止めるための壁となろう。薙刀を下段に構え、相手の動きを観察しながら戦う行成。
 断片的な槍を使う記憶。それは行成の前世のモノ。その繋がりを強化し、破綻者に立ち向かう。踏み込むと同時に振るわれる薙刀。一刻も早く止めなくて位はいけないが、だからと言って相手を『殺し』はしない。刃ではなく峰の部分で破綻者を打ち据える。
「君自身も助からなければ、きっと祖父の心は救われない。溢れるならば、私たちに存分にぶつけろ」
「盾護、盾、頑張る」
 土の術式で自らを強化し、盾護が前に出る。盾護の着る『JPFアーマー・コード00』が術式に合わせて可変する。より硬く、より厚く。破綻者の暴走する力を受け止めるように変化するプロテクター。そして盾護の構えも防御を重視したものになる。
 破綻者の一撃を片方の盾で受け止め、息を吸う。息を吐きながら、体内の気を練り上げていく盾護。強く、そして鋭く。イメージのままに練り上げた気の弾丸を、押し付けるように破綻者にぶつけた。
「ここで止める」
「流石に天の術で暴走は止まらないか」
 くそ、と指を鳴らす心琴。源素を乗せた霧や鼓舞などを用いて暴走する破綻者を押さえようとしたが、完全な解除には至らない。だがそれらがもたらす視界の妨害や感情の揺さぶりは、確かに破綻者撃破に貢献していた。
 もう少し早く来ることができれば。悔やむ心琴だが時は戻らない。だがまだ最悪の事態には至っていない。ならばここで守るのだ。悲劇を止めるのが正義の味方なのだから。破綻者の動きを阻害しながら、心琴はその心に呼びかける。
「中村亜里沙、飲まれるな。お前を守ってやる」
「クスクス。行くよ、亜里沙お姉ちゃん」
 無邪気に笑いながら鈴鹿が破綻者を見る。鈴鹿が注視するのは勾玉を握りしめる破綻者の手。古妖の牙を削ったと言われるそれを得れば、もっと強くなれる。強くなった自分を想像し、身震いする鈴鹿。
 貫く氷の一撃を警戒してか、常に位置を変える鈴鹿。その額に第三の瞳が開く。そこから一条の光が放たれた。穢れを祓う女神『瀬織津』の如く、暴走という穢れを払うために放たれた光線。それは真っ直ぐに破綻者を穿つ。
「心意気は尊敬に値するの……けど暴走するなんて愚の骨頂なの」
「うむ。こんな不幸はワシ等が打ち払ってみせようぞ」
 動けない祖父を後方に控えるFiVEの医療スタッフに預け、戻ってきた樹香。人を抱えての全力疾走だが、息を乱さないのは覚者ゆえか、それとも好き嫌いなくなんでも食べる健啖ゆえか。薙刀を構え、破綻者に向かう。
 水の源素を振るう破綻者に対し、木の源素を振るう樹香。迫る水の一撃を払うように木の源素を乗せた薙刀を振るう。交差する木と水の源素。樹香の首にある精霊顕現の入れ墨が光り、薙刀に力を込めた。破綻者の水が霧散し、木の一撃が破綻者を傷つける。
「亜里沙、少し痛いかもしれぬが、我慢するのじゃよ?」
「は……やく……にげ……」
 言葉を絞り出すのが難しいのか、ひとつの単語すらまともにしゃべれない破綻者。それは暴走の為かダメージが理由か。
 破綻者は覚者に比べ身体能力が増している。それを証明するように八人の覚者の攻撃を受けて、破綻者の暴走が収まる様子は見られない。破綻者の攻撃で、こちらも手傷を負ってきた。
 だがダメージは確実に積み上げている。一打一打が撃破につながっている。
 そして何よりも、覚者達は破綻者の身体能力に恐れることなく挑む心を持っていた。
 

 覚者八人に対し、破綻者は一人。
 多勢に無勢に思えるが、破綻者のスペックを思えばこれでも手が足りていない。源素の拳が振るわれ、氷の一撃が刺し貫く。
「まだ倒れるわけにはいかない……!」
「ここからが本番だよ!」
「ああ、何度でも立ち上がってみよう」
 アーレス、小唄、行成が命数を削るほどの傷を受ける。強い意志で意識を保ち、神具を構えなおした。
「あいた! もう、ぶっころしてやるー!」
 鈴鹿が氷の一撃を受けて、膝をつきそうになる。怒りと共に命数を燃やし、何とか立ち尽くす。
「いや、殺すなよ。治療が目的だから」
「わかってるわよー」
 幼いがゆえに暴走しがちな鈴鹿だが、目的を忘れているわけでは無い。父と母から譲り受けた刀を振るい、破綻者を攻める。やっぱり古妖の力欲しいなぁ、と心の中でこっそり思いながら。
「破綻者……破滅の力。皮肉なものですね」
 アーレスは復讐者だ。憤怒者に様々な物を奪われ、人間不信になっている部分がある。暴走という破滅の力はそういった人間に与えられるべきなのに。祖父を守るという心清らかな少女にあっていい力ではない。
「祖父の傷は深くない。中村亜里沙、お前は祖父を守ったんだ」
 暴走する破綻者に語り掛ける必死に心琴。破綻者の暴走を解除するには、肉体を止める必要がある。だが『人』の心に訴えることで、暴走が弱まる可能性もあるという。その可能性に掛けて、何よりも無事を伝えたくて必死に叫ぶ。
「そうじゃな。ここで亜里沙が暴走したままじゃと、爺様も心配するぞ」
 薙刀を振るい、樹香が口を開く。人を救い、世界を守る。その為に傷つき、そして戦うことが覚者の務め。その精神は祖母から教わった。その教えのままに樹香は破綻者の一撃を恐れず神具を握りしめる。木行の力を宿し、前に。
「盾護、まだまだ、戦える」
 破綻者の攻撃を受け、よろめく盾護。命数を燃焼させ、そのエネルギーで立ち尽くす。攻撃よりも防御。その道を選んだ理由は、口数少ない盾護からは語られることはない。だがその信念は行動せしめしていた。
「どうか彼女に、狂う力に負けない想いの力を……」
 破綻者が放つ氷の一撃を、薙刀で逸らしながら行成が祈る。怪我人が増えてきたため、行成は攻撃から回復に行動を移行していた。源素を含む霧を発生させ、破綻者からのダメージを癒す。
「さあ。こちらを見なさい。同じ誰かを守るものとして、あなたを戻します」
 覚者とは誰かを守るもの。タヱ子はそう信じて戦っている。それは単純に事件に巻き込まれた人という意味でもあり、その人が過ごす日常でもある。祖父を守ろうとした覚者と、その日常を守るために、盾を構えて タヱ子は攻撃を受け止める。
「くっ……ごめんねっ!」
 短期決戦に一番貢献したのは小唄だ。小唄は獣の力を解放し、癒しにくい鋭い一撃を放つことで破綻者の回復を阻害していた。訓練の末に強化された獣憑の一撃。それがなければ戦いは長引き、覚者の傷も増えていただろう。
「守りたいっていう思いは――」
 歯をむき出しにして、小唄が叫ぶ。背中を丸め、全身をバネのように収縮させる。より俊敏に、より獰猛に。源素の暴走を止めるために、獣の力を破綻者に振るう。弓が矢を放つように、引き絞った全身の筋肉を解放して土を蹴り、拳を突き出す。
「――絶対に無駄にさせない!」
 鋭い獣の一撃。その一撃が、破綻者の意識を奪った。
 

 戦闘後、医療スタッフが駆け付けて破綻者の治療に入る。
 それを手伝う心琴。医療知識を持つ心琴は、主に破綻者の傷を消毒したりといった衛生面で貢献していた。
「おお、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしたようで」
 意識を取り戻した祖父がFiVEのメンバーに礼を言う。彼らは意を決して勾玉のことを――
「私達が勝ったんだからあの勾玉頂戴――もごもごっ!」
「すみません。子供の言うことなのでお気になさらずに」
 鈴鹿が差し出す手と、そして口を押える覚者達。一泊置いて説得を開始した。
「それ、変な力があると思うんだ。一度預からせてもらえないかな? 調査したら必ず返すから!」
 勾玉を指さし、小唄が言う。破綻者に至った要因に勾玉があるのは確かだろう。FiVEに持ち帰って研究ができれば、というのは覚者の意見である。
「これはこの神社が代々守ってきたもので……そのような事があるとは思えませぬ」
「そうですね。その経緯を思えば、わたしも神社に戻しておいたほうが良いと思います」
 タヱ子が祖父の言葉に頷くように意見を言う。メンバーの中で唯一勾玉は個々にあった方がいい、と主張する。とはいえ他の人の意見を止めるつもりはない。
「貴殿方がそれを守り伝えてきた事も意義も存じているつもりです。
 然しこのような事件が起こった以上、同じような事が起こる事もあり得る。ましてや、危険な連中が嗅ぎ付けてきては貴殿方が危険」
 危険性を前面に出したアーレスの言葉に、閉口する祖父。助けてもらった手前強くは言えないが、家族の安全を盾に取った脅迫的な物言いに不信を感じていた。
 さすがに性急すぎたか、とアーレスは口を閉ざした。交渉の切り口は、別の方向がよさそうだ。
「私達は京都にある覚者組織で――」
 行成が身の証を立てるためにFiVEのことを説明する。源素の研究を行い、そして不思議な力を持つ勾玉を有していると。
「ここの勾玉、FiVEにあるのと同じ? 違う? わからない」
 断片的な盾護の説明は行成の補足として伝わる。要約すると、
「つまり、古妖の稲荷様が持っていたものと同じかどうか調べたいということか?」
「他の者も申しておるが、無理強いはせぬし必ず返すと約束しよう」
「返さないといったら僕がFiVEから奪い返してやってもいい。なんだったら御神体の代わりにこの神社の警護もするぞ」
 樹香と心琴が貸与の条件を提示する。突然の話で信用はできないが、必ず返すと保証した。
「そういう事でしたら……」
 行成が自分達のことを説明したのが功を為したのだろう。京都にある覚者組織のことは噂に聞いている。覚者全員が大きな悪名を負っていないことも一役買っていた。
 かくして勾玉は、一時FiVEが預かることになる。

 後日談として。
 まず破綻者となった亜里沙だが、検査を含めて一週間ほど入院することになった。これは傷の回復というよりも源素暴走の経過観察の意味が大きく、退院後に生活に支障が出ることはなかった。
 亜里沙が勾玉を持ち破綻者に至った理由は色々推測が飛び交ったが、明確な答えは出なかった。誰が持っても破綻者には至らず、また心が平常な亜里沙が手にしても何の反応もない。状況が重なった偶然ということで、議論は落ち着いたようだ。
 そして勾玉の返却だが、思ったよりも時間はかからないようだ。
「大まかな構造は稲荷の勾玉と同じだから、解析にかかる時間はそれほど多くは要らないの。その差異を調べれば勾玉の複製は可能よ」
 というのは御崎所長の言葉だ。
 
 今は御神体の無い社。それを前に二礼二拍手一礼する亜里沙。
 その中に、町を守った勾玉が戻る日は遠くない未来――
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 致命ついてるの忘れてた……!(血涙)

 まあ、そんな戦闘結果でした。
 想定以上に撃破されたので、誰かが来る前に決着がつきました。はふー。

 ともあれお疲れ様です。ゆっくり傷を癒してください。
 それではまた、五麟市で。




 
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