スロウスロウ
スロウスロウ


●スロウスロウ
『ンナァーリャァ!』
「ひぃぃぃ!?」
 グシャリ、と水気の多いモノが潰れる音がする。ソレに繋がっていた体はビクビクと痙攣していたが、やがて動きを止めて股座を濡らし始めた。
『カァァァ……』
 投げたのは道着姿の骸骨頭。眼窩の奥に蒼く光るのは無念か怨念か、必要なさそうな呼気を整えて次の獲物へと視線を移した。
「くっ、来るな、来るなぁぁ!?」
 動かなくなった友人の姿に腰を抜かす垢抜けた格好の青年。夜は妖の時間だが、それを理解せずに出歩く者のなんと多い事か。
 白磁となった体を包む、夜闇に揺らめく白道着。腰に巻かれた黒帯には、その名が確かに刻まれていた。

●slow throw
「今回のターゲットは不慮の事故で亡くなった柔道家、その無念が作った妖だ」
 久方 相馬(nCL2000004)が口にした名前はその界隈ではそれなりに名の知れた人物であった。
「骸骨になっても続けたかったんだな……まあ、気持ちは解らなくもないけど妖になったんなら話は別だ。皆、よろしく頼むぜ」
 情報によれば生前に毎日のように稽古をしていた公園に現れる可能性が高いとの事。戦う場所としては不足は無さそうだ。
「それにしても、『投げられた相手は世界が遅く見える』って評判は凄いのか凄くないのかイマイチよく解らないような……」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:杉浦則博
■成功条件
1.スロウスロウを倒せ
2.なし
3.なし
●場面
・夜の公園での戦いとなります。光源、足場、通行人等は気にする必要は無いでしょう。BSへの対策を忘れずに。

●目標
 スロウスロウ:妖・心霊系・ランク2:「投げられた相手は世界が遅く見える」と言われたほどの柔道家の無念の霊。誰彼構わず投げ飛ばそうとする。
・スロウスロウ:A物近単:評判の元となった投げ。柔道で使われる投げ技は一通り使う。絞め技や寝技はあまり使いたがらないようだ。[格闘、重圧]
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
公開日
2016年01月23日

■メイン参加者 3人■

『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)


『ハァァァァ……』
 肌を刺すような寒さの中、公園に現れたスカルヘッドの格闘家が一点を見る。そこには三つの人影があった。
「未練故にこの世から未だ離れない……言わば亡霊ねん」
 虚ろな眼窩が真っ先に捉えたのは魂行 輪廻(CL2000534)であった。先頭を歩いているというのもあるが、他の二人とは別格の強さであると骸骨―――スロウスロウは感じ取っていた。
「好きだから未練が残るっていうのはわかるつもりだよ。僕だっていっぱい食べる事をやめられるかと言われたらやめられないと思うし」
 輪廻の後ろについた少年のような少女、獅子神・玲(CL2001261)がそう口にするが、それはそれで違うのではないだろうか。
 そして残った一人である鈴駆・ありす(CL2001269)は小さい体で見下すようにスロウスロウを睨みつける。体格差にして頭一つ分以上違うが、気迫は間違いなく互角以上のようだ。
「興味ないわね。人の無念の霊とか、さっさと成仏すればいいのに」
「そう言いつつ真っ先に参加してる……ふふっ、優しいのねぇ♪」
「……まあいいわ、供養と思って燃やしきってあげるわ」
 にこやかな輪廻の言葉に頬を若干赤く染めて視線を逸らしたありすだったが、即座に気を取り直して右手で人魂を握り潰すように吸収。第三の目を開いた。
「おなかすいたのです……」
 そう零した玲が姿を変え、妙齢の美女になった瞬間。戦いの火蓋が切られるのであった。


「この手の霊の妖とは過去に戦った事あるし……また気持ちがちょっと解っちゃうわねぇ」
「……ふん、死者は死者らしく黄泉送りにしてあげるわ」
 輪廻が前衛で、そしてありすが後衛で火行壱式「醒の炎」を使う。体内に宿る炎が燃え上がり、寒風の吹く公園に自然の物とは異なる熱源が発生した。
 二人の髪が自身から発せられる熱気で揺らめき、瞳の奥の光が輝きを増す。柔肌は火照り、筋肉が唸りをあげて指令を待つ。準備は完了だ。
「鈴駆さんは燃やすって言ってたし、今のうちに……」
 上空から見て輪廻、ありすと二等辺三角形を描くように布陣した玲が水行壱式「水礫」を放つ。が、流石に柔道家の霊だけあって動きが機敏なのかひらりとかわされてしまった。
『シィッ!』
「あら、気持ちが解ると言ってもそう簡単には投げられてあげないわよん?」
 そのステップのまま跳ねるようにスロウスロウは輪廻の大きく肌蹴た襟元を掴もうとするが、本人の言う通りそう簡単に捕まるものではない。鋭く体をズラす事で指先をかわしていた。

「黄泉に囚われなさい、悪霊」
 輪廻がズレた事で一直線上に射線が開いたありすは右手に第三の目を浮かべ、それをスロウスロウへ向ける。
 そこから怪光線「破眼光」が放たれるが、スロウスロウは殺気を感じ取ったのかそれも一歩前に踏み出す事で回避に成功していた。回避する時でも下がらないのは流石に霊になっても格闘家という所か。
「……仕方ないから、また満足するまで付き合ってあげちゃおうかしらねん♪」
 しかし、スロウスロウが一歩踏み込んだ先は輪廻の間合いである。半身に構えた輪廻の右拳が髑髏の下顎を裏拳で撃ち上げ、鞭のようにしなった右脚が反対側から頭蓋へと吸い込まれた。
 連撃「飛燕」によってスロウスロウの体が急速に左右に揺られ、一回転した輪廻の左脚による後ろ回し蹴りがスロウスロウを地面へと叩き付ける。更に左手で白磁の頭骨を再び地面へ叩き付けようとしたが、予想以上に手応えが軽かったのかそれは外してしまった。
「あら……?」
『エェェリャァァッ!』
「きゃんっ!?」
 そしてスロウスロウは妖であり、骸骨であり、脳を揺らされても元々入っていないので問題は無い。最後の一撃を外してバランスを崩した輪廻の手首に指が絡んだ。
 右手で腕を掴んだまま体を起こし、輪廻と体の上下を入れ替えて腹部に左肘をめり込ませながら真下へ落とす。真っ当な柔道家とも思えない程に洗練された一撃であった。
「今の投げ、柔道の技じゃないような……無念以外にも妖になった理由があるのかな?」
 強烈な一撃によって動きが鈍くなった輪廻を見た玲は即座に天行壱式「演舞・舞衣」をかけ、動きの悪化をとどめようとする。
 攻撃によるダメージも少なくないが、戦い慣れした輪廻ならば体力的にはまだ余裕はあると判断したが故の選択だった。

「貴方の技は、しっかり受け継いで後世に残してあげるわよん♪ まぁ、しっかり物に出来る可能性は低そうだけどねん♪」
 演舞・舞衣の補助を得つつも不調のままの輪廻だが、拳をスロウスロウの肋骨へ叩き込み、更に接近して後頭部を両手で掴むと飛び膝蹴りによる追撃を加える。
 流石に数多の戦いにより経験値を得ていないという事なのだろう。と言うかティー・カウ染みた蹴りなど一体どこで覚えたのか。
「超直観が効けばいいんだけど……」
 玲は獅子奮迅の働きを見せる輪廻へ回復の為に水行壱式「癒しの滴」をかける。その間もスロウスロウの一挙一動から妖化した理由を探っていた。
「本当に、人間の霊って嫌いよ。獣よりも想いが複雑で強い分タチが悪いわ」
 ありすも再び破眼光を放つが、今度は身を屈めて避けられる。眼前の輪廻の攻撃は受けようとも後方からの攻撃を避け続けるスロウスロウ。一体彼の生前に何があったと言うのだろうか。
『トゥアァーリャァッ!』
「ガフッ!?」
 そして屈んだ状態から輪廻に喉輪をかけ、両脚を抱え込んで押し倒すスロウスロウ。平均よりも背の高い輪廻だが、流石に柔道家であったスロウスロウよりは幾分背が低く、体格的な差は如何ともし難かった。

「ふぅ……よし、体が軽いわぁ♪」
 再び投げられたのが逆に功を奏したのか輪廻は自身にかかる重圧を跳ね除け、肘からの裏拳が連続して撃ち込まれる。
 追撃とばかりに膝をかち上げるが躱され、しかしそこから綺麗に振り上げられた爪先がスロウスロウの股間に直撃した。生身であれば悶絶ものの一撃であった。
『タェリャァァァッ!』
「あぐっ」
 とは言えやはり骨の体には急所らしい急所は無いのか、撃ち込んだ脚を抱えられてバランスを崩した輪廻の軸足が払われて地面へ転がされてしまう。受け身こそ成功したものの、やはりダメージが蓄積してしまったようだ。
「大人しく天寿を全うして成仏すればいいのに。ま、事故は仕方ないけれど」
 三度目の正直とでもいうべきか、遂に破眼光がスロウスロウに命中する。高い特殊攻撃力に醒の炎で強化された一撃はスロウスロウの体力を大きく削り取った。
「で、投げられた人が『世界が遅く見える』ってどういう理屈なのかしら」
「うーん、走馬灯みたいな感じかしらねぇ。他にも何かあるみたいだけど」
「……ああ、成程」
 そしてポツリと零した疑問に先程から何度も投げられている輪廻が答えた。肉体に死を意識させるほどの投げという事なのだろうか。
「思ったよりしぶといですね、この妖……メンドくさいです」
 超直観では探れる部分に限界があるのか、玲は輪廻の回復に専念するようだ。輪廻は体力が多いが、体術はそれを削って使うもの。回復するに越した事は無い。

「まだまだいくわよん♪」
 宣言と共に輪廻の両の拳が振られ、スロウスロウの体を揺らす。如何に体格や筋力に差があろうとも、それを容易く覆してしまうのが因子を持つ覚者だ。この分ではそう長くはもたないだろう。
『ナァァーリャァァァッ!』
 それに負けじと引き戻す途中の腕を取って強引に一本背負いを仕掛けるスロウスロウ。覆せるとは言っても歴然とした体格差は存在し、その高低差が投げにダメージを加えていた。
「ふん……これで終わりよ」
 その無防備な背中に一筋の光が奔る。ありすの放った破眼光だ。身体の中心を貫かれたスロウスロウは数秒程小さく震えていたが、やがて声にもならない声をあげて宙へ溶けるように消えていったのだった。


「死んでもまだ柔道したいっていうのは良いけど、それで他人に迷惑をかけるっていうのはどうなのかしらね……まあ、知ったことじゃないけど」
 ふん、と溜息代わりの鼻息を一つついてありすは髪をかき上げる。倒した後も油断なく周囲を見渡していたが、特に想定外の事態は起きず終えられたようだ。
「僕、ご飯食べに行きたいです」
「あら、それじゃあ一緒に行きましょうか♪ ……ちゃんと悔いの無い様にできたかしらん?」
 玲と輪廻もそれに合わせて警戒を解き、元の姿に戻った玲が空腹を訴えた。歩き出した玲に対し、輪廻も受けた投げを何とか再現できないかと思案しながら続く。
「そう言えば……結局今回は燃やせなかったわね」
 何も言わずとも何となく二人の後ろについたありすだったが、少し残念そうなのは気のせいだろうか?

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ラーニング成功!

取得者:魂行 輪廻(CL2000534)
取得技:圧投




 
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