≪初夢語≫終焉のカタストロフィ
●いきなり最終回
――漆黒の空にはふたつの月が輝き、時折いかづちが轟いて闇夜を浮かび上がらせる。其処は黒曜石で築かれた魔王の城――破壊された瓦礫は螺旋を描き、愚かにも天を目指そうと欠片を積み上げていた。
(これは、夢? 或いは現実?)
ああ、何故だかその境界さえひどく曖昧だ。遠くからは終末を告げる鐘の音が響き、この世界は間もなく滅亡するのだと教えてくれる。
『これは、黙示録に刻まれた終焉』
そっと耳元で、誰かが囁いた。それは世界の語り手か――或いは、神と呼ばれる存在なのか。
『貴方が演じるべき役目はどれかひとつ……さぁ選び、舞台に立つが良い』
厳かな声は、この終わりに居合わせる存在を順に挙げていく。まるで逃れられない運命のように。
『ひとつは勇者、この滅びゆく世界を救おうと立ち上がるもの』
『ひとつは魔王、この世界を終わらせようと、滅びの運命をもたらすもの』
『ひとつは聖女、その身に秘めた再生の力ゆえ、否応なく運命に巻き込まれしもの』
このみっつの存在が、世界の行く末を決めるだろう。貴方は勇者となり希望をもたらすか、魔王となって神さえも滅ぼすか。もしくは聖女となり、その身を犠牲にして世界を蘇らせるか――。
『破壊か、再生か。好きな結末を紡ぐがいい。さあ、存分に演じよ、貴方の物語をどうか見せてくれ……!』
●始まりのご挨拶
新年早々なんだか痛々し――もとい壮大なクライマックスに突入しているが、これは古妖『獏(バク)』が見せる夢。なので、何をやろうと現実世界には一切影響を及ぼさない。
――そんなわけで。どうか思う存分このシチュエーションを堪能してほしい。そう、君の心の奥底に眠る力――禁断の黒歴史(ブラックヒストリー)を解き放つのだ!
――漆黒の空にはふたつの月が輝き、時折いかづちが轟いて闇夜を浮かび上がらせる。其処は黒曜石で築かれた魔王の城――破壊された瓦礫は螺旋を描き、愚かにも天を目指そうと欠片を積み上げていた。
(これは、夢? 或いは現実?)
ああ、何故だかその境界さえひどく曖昧だ。遠くからは終末を告げる鐘の音が響き、この世界は間もなく滅亡するのだと教えてくれる。
『これは、黙示録に刻まれた終焉』
そっと耳元で、誰かが囁いた。それは世界の語り手か――或いは、神と呼ばれる存在なのか。
『貴方が演じるべき役目はどれかひとつ……さぁ選び、舞台に立つが良い』
厳かな声は、この終わりに居合わせる存在を順に挙げていく。まるで逃れられない運命のように。
『ひとつは勇者、この滅びゆく世界を救おうと立ち上がるもの』
『ひとつは魔王、この世界を終わらせようと、滅びの運命をもたらすもの』
『ひとつは聖女、その身に秘めた再生の力ゆえ、否応なく運命に巻き込まれしもの』
このみっつの存在が、世界の行く末を決めるだろう。貴方は勇者となり希望をもたらすか、魔王となって神さえも滅ぼすか。もしくは聖女となり、その身を犠牲にして世界を蘇らせるか――。
『破壊か、再生か。好きな結末を紡ぐがいい。さあ、存分に演じよ、貴方の物語をどうか見せてくれ……!』
●始まりのご挨拶
新年早々なんだか痛々し――もとい壮大なクライマックスに突入しているが、これは古妖『獏(バク)』が見せる夢。なので、何をやろうと現実世界には一切影響を及ぼさない。
――そんなわけで。どうか思う存分このシチュエーションを堪能してほしい。そう、君の心の奥底に眠る力――禁断の黒歴史(ブラックヒストリー)を解き放つのだ!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.世界の終焉を演じ、物語を素敵に終わらせる
2.とりあえず、やったもん勝ち
3.なし
2.とりあえず、やったもん勝ち
3.なし
■初夢依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性がありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ!です。
●初夢の舞台
ファンタジー世界で、いきなりクライマックスのラストバトル開始という所からスタートします。なんか、魔王の城っぽい場所です。ついでに、世界が滅びるがどうかという瀬戸際の状態です。
●演じるもの
皆さんはこの3つの内、どれかひとつの役を演じてラストバトルを盛り上げてください。壮大な過去や因縁など、設定は作り放題です。ハッピーエンドでも悲劇的な結末でも、無事に物語に決着をつけるように動けば成功とします(逆に、俺たちの戦いはこれからだぜ、みたいなエンディングになってしまうと失敗です)。
『勇者』……世界を救おうと立ち上がった勇者。
『魔王』……世界を滅ぼそうと企てる魔王。
『聖女』……再生の力を秘めた宿命の姫。
※別に勇者たちが一人の魔王をボコる展開になっても、全員聖女(でも性別は男)とかでも構いませんよ!
※勇者と魔王は実は親子だった、とか。魔王は聖女の為に世界を滅ぼそうとしていたとか。キャラクター同士で関係を作って盛り上げると素敵な感じです。
※中二的妄想をフルに発揮して、黒歴史をさらけ出す勢いで臨めば、活躍ができそうです。
●補足
これは夢なので、実際の戦いのエフェクトは自由に決められます。『光と闇の相反する力を同時に操って攻撃!(でも普通の物理攻撃)』など、派手に行きましょう!
●古妖『獏』
今回の夢を見せた古妖さんですが、夢の中には出てきません。なんでしょうね、こういうノリが好きなんでしょうかね(他人事)。
年始からテンションの高さを求めてしまいますが、よろしければ「まあ夢だし」の気持ちで弾けてみては如何でしょうか。プレイング次第ではシリアスにもコメディにも転がりそうですが、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年01月12日
2016年01月12日
■メイン参加者 8人■

●囚われの聖女
「ここに姉ちゃん達がいるのか……」
降り注ぐいかづちに目を細める『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)は、背負っていた剣を抜き放ち気合を入れた。勇者に憧れ、小さい頃から剣の腕を鍛えてきた彼は、優しかった姉たちが魔王となったことを知り、絶望に打ちひしがれていたのだ。
(オレに、姉ちゃん達を攻撃することができるのか……?)
姉弟で戦わねばならない運命に翔は苦悩するが――しかし、勇者である自分が魔王を止めねばならないだろう。
「なんということだ……嫁の性別は問わぬという度量の大きさと茶菓子に惹かれて、ついうっかり魔王についてきてしまったが、世界が滅びゆく運命を辿ることになろうとは……」
一方、魔王の城の最上階では。儚げな美貌を苦悩のいろに染めた『白い人』由比 久永(CL2000540)が、薄紫の瞳を潤ませ天を仰いでいた。聖女である彼は、やむにやまれぬ事情(主に食料)により、魔王の手に落ちてしまったらしい。
「ふがいない余を許しておくれ。勇者よ、あとは頼んだぞ」
着物の袖で目元を拭う仕草をしつつ、さめざめと泣き崩れる久永。しかしそんな状況でも、茶菓子を食べる手を休めないのは流石と言えよう。と、何処となく悠然と構える久永に対し、無表情且つ死んだ魚のような目で突っ立ってるのは黒桐 夕樹(CL2000163)だった。
「……、……あ、うん。聖女? なにそれ。おいしいの。俺、男だし。姫じゃないし。幼馴染の勇者のオマケだから」
目のハイライトが消えているのが心配だが、そんなことは魔王――『月々紅花』環 大和(CL2000477)にとって些細なことらしい。
「あら、あなたの意見なんて求めていないわ。ただ、わたし達は美しい聖女達を見て、気まぐれに嫁に迎えたくなっただけだもの」
ねえ、お姉さま――と振り向いた大和の先には、豪奢な玉座に腰掛けたもう一人の魔王、エルフィリア・ハイランド(CL2000613)が、妖艶な笑みを浮かべてふんぞり返っていた。
「……それに、性別なんて飾りよ。だってわたしは魔王ですもの」
何故魔王ならいいのか、と夕樹は思ったが、何だか考えた方が負けな気がする。そんな彼の隣では、魔王に攫われた聖女――『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)が、争いの引き金となってしまった自身の存在を、静かに悔いていた。
(再生の力なんて、なくてよかった……)
――こんなものがあるから、魔王には世界の大切さが分からないのだ。薄化粧を施した瑠璃の唇が、何かを言いたそうにわななき――オフショルダーのワンピースから覗く、華奢な肩も微かに震えている。
「あら、何か言いたそうね?」
「……壊したら、それでおしまい。それをちゃんと分かっていないから、世界が滅んでもいいなんて考えになるんだ」
瑠璃色の瞳に怒りの炎を燃やす、彼の相貌は告げていた――何故、どうしてそうまでして世界を滅ぼそうとするのかと。けれど、そんな聖女の真摯な問いかけに、大和は微塵の動揺も見せずにきっぱりと言い切る。
「この世をどうして滅ぼすかですって? 特に意味はないわ。単なるひまつぶしよ……これで満足かしら?」
ああ、魔王姉妹は戯れに世界を滅ぼそうとしている――そして世界が滅ぶとしたら、聖女である自分は再生の力を使わざるを得ない。
(そのことに、躊躇いはない……だって大切な人たちの住む世界だから。だけど、この力を使う限り、魔王は世界の大切さを分かったりは出来ないんだ)
その時、瑠璃の脳裏に真っ先に過ぎったのは、幼馴染の少女の姿だった。いつか彼女は言っていた。囚われの王子さまを助ける、勇敢なお姫様――子供の頃読んだ絵本のヒロインに、自分はずっと憧れていたのだと。
(そんな絵本のお姫様みたいな……かっこいいヒロインに、なれたらいいな……)
その言葉を、自分はいつ聞いたのだったか? 誰かの記憶と想いが入り混じる不思議な感覚に、瑠璃は微かに戸惑っていたが――続く声は高らかに、魔王の城の大広間へ響き渡った。
「六道さん、助けに来たよ……!」
重厚な扉を開き、飛び込んで来たのは『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)。妖精から不思議な力を授けられ勇者として立ち上がった少女は、仲間の勇者――翔と、白枝 遥(CL2000500)と共に最終決戦の舞台へと飛び込んでいった。
●非情な魔王姉妹
「ふふっ、ようやく役者が揃ったようね。ここまでたどり着けたこと、まずは褒めてあげるわ」
と、悠然と大和が口上を述べ始めたところで、広間の雰囲気が一変した。
「勇者か何か知らないけれども、聖女達はわたし達のものよ。ほしいのならば、わたし達を倒して奪い取ればいいわ……けれど」
其処で大和のマントが翻り――玉座のエルフィリアは片手で、深紅の美酒が注がれたワイングラスを掲げて高笑いをした。
「……わたしたち姉妹に抗えるかしら?」
「姉ちゃん! 世界を滅ぼして、あとどうすんだよ!? 目を覚ましてくれよ! 頼むからっ!!」
其処で翔が一歩を踏み出し、一縷の望みをかけて最後の説得を行う。やはり姉たちは魔王になっていて――大和は弟に向けるものとは思えぬ、冷え切ったまなざしで以て答えた。
「あなた、どこかで見た覚えがあると思ったら……魔族の貴方が、どうしてわたし達の敵になっているのかしら?」
「……っ、それは……っ!」
「例え身内であったとしても、逆らうのであれば容赦はしないわ。あと、滅ぼしたあとは特に考えていないわ」
「考えてねーのかよ、姉ちゃん!?」
自信たっぷりに、行き当たりばったりな計画を暴露する大和。これには思わずツッコミを入れてしまう翔だが、それでも世界を破滅させるわけにはいかないのだ。
(姉ちゃんを止めるのは、弟のオレの役目なのかもしれねー。ならせめて、オレの手で……っ)
ぐっと剣を握る手に力をこめて、翔は大和目掛けて斬り込んでいく。どうやらエルフィリアは椅子に座ったまま、事の成り行きを楽しむことに決めたようで――その背後からは、物凄い棒読みの久永の悲鳴が聞こえてきた。
「やめてー余の為に争わないでー」
ずずず、と彼の茶を啜る音が緊張感を削いでいく。それでも、先ずは協力して大和を倒そうと遥も動くが、根っからの平和思考である彼は開始早々テンパっていた。
「あっ……家のガス栓閉めたっけ? あと冷蔵庫の中身……うん、腐り物は保存してなかったはず。けど不安になってきた……!」
何だかお母さんみたいな心配をしているが、こう見えて彼は元魔王であるのだ。でも勇者の方が良いなあと言う理由により、先ごろ転職を果たしたらしい。
「でも、幼馴染のユウちゃんを助けないとだし……ああでも、今から家帰って元栓だけでも確認したい!」
最終決戦の最中でも家のことが気になって仕方がない遥は、動揺の余り魔法をど忘れして、本の角で攻撃しようと奮戦している。あれはあれで当たったら痛そうなのだが――やれやれとばかりに夕樹は、彼の援護をするべく動き出した。
「どうも俺は、聖女と言うことになっているらしいが。慈愛や自己犠牲精神なんてなかった」
そんな訳で夕樹は遥の背後から、決戦の渦中へとおもむろに胡椒袋を投げつける。ついでに、唐辛子の粉塵もおまけしておいた。
「要は勝てばいいんだよ、勝てば」
「へくちっ、へくちっ……ゆ、ユウちゃんまって二次災害が……」
――が、風向きの関係か、一番被害を被っているのは遥のような気がする。可愛らしいくしゃみを繰り返す彼はすっかり涙目だが、そのお陰で正気に返ったようだ。僕の事はお構いなく、と前置きして魔法を繰り出す中、ミュエルも幼馴染を助けようと妖精の力を振るった。
「たとえ、貴女でも……この人は、渡さないから……!」
祈りと共にきらきらと、光の花びらがミュエルを包み込み――その輝きは彼女を守る戦いのドレスとなる。其処ですかさず天に手を翳すと、闇夜の世界を塗り替えるパステルカラーの流れ星が、七色の尾を引いて大和の身体に降り注いでいった。
「アタシ、立ち向かうよ……! たとえ、魔王が、憧れの先輩でも……」
魔王が纏う闇の衣をはぎ取るように、きらきらとした光の欠片が零れ落ちて――懸命に戦うミュエルに、熱いまなざしを送る瑠璃を見た大和が、心底不思議そうな表情で問いかける。
「わたしのどこが気に入らないというのかしら? 嫁になれば貴方達は、魔王の妻としてこの世界を好きに創造できるのよ?」
「……って、嫁? 姉ちゃん、どっちも女だよな!?」
其処でようやく、翔が根本的な矛盾に気付いたようだ。でもよくよく見れば、この場に居る聖女たちは男に見えるから――あれ、何だかよく分からなくなってきた。
「女の姿が気に入らないのであれば、男の姿になってあげてもいいわ。私は魔王ですもの、性別の壁なんていつでも飛び越えられるわ」
――ちょっと待って。今、大和がとんでもないことをのたもうた。ええとつまり、姉ちゃんは兄ちゃんでもある、のだろうか?
「んー……ま、いっか! 考えてもわかんねーや! とにかく悪いことをやめさせないとっ!!」
流石翔、素早く割り切って戦いを再開する。勇者たちは三人がかりで魔王に立ち向かうが、やはり最終決戦の相手とあって手強い。皆が危機に陥ったその時、何といきなり夕樹の秘めたる力が覚醒したのだった。
「破滅から再生へ、平和への祈りをこめて……」
聖女らしからぬ、禍々しくもどす黒いオーラが彼を包み、繰り出される拳は最後の和解交渉(物理)だ。ぐふっと断末魔の悲鳴をあげて、交渉も何もなく地面に叩きつけられる大和――しかし彼女は、真の姿を解放して一行の前に再度立ちはだかった。
「……わたしがここまで譲歩するのは珍しいことだというのに、逆らうのであれば必要ないわ。わたしの真の姿を見て、生きていた者はひとりもいないの」
漆黒の髪は輝くような銀に、そして深紅の瞳は妖艶な紫に変化させて、大和はくつくつと笑う。
「この世界と一緒に、滅ぼしてあげる……」
●秘密の最終兵器
――待て、と夕樹は和解交渉を諦めていなかった。聖女が駄目ならば、他の勇者を嫁にしてはどうなのか、と。
「何か丸く収まりそうだし。聖女みんな男だし。性別なんて飾りみたいだし」
「なんか今度は勇者が差し出されてる!? そんな事したって姉ちゃん達が止まるわけねーだろっ!?」
大胆過ぎる交渉材料に翔が再びツッコミを入れるが、当の大和とエルフィリアはまんざらでもない様子だ。
「そうね、ミュエルさんみたいな可愛い子を侍らすのも素敵だわ」
「それに……弟である翔と禁断の関係になるのも、うふふ」
いい感じで話がまとまりそうだったので、遥はと言えば後ろでぱちぱち拍手をしている。夕樹に手を出さないのであれば、おっけーと言うことになったようだ。
「さすが! カッコイイ!」
「あああ! そんなことさせるかー!」
半分やけっぱちになって、翔が隙を見せた大和へと剣を振り下ろした。大和は雷の魔法を使う間もなく追い詰められ、それでも翔はやっぱり少し躊躇ったのだが――それでも心を鬼にして姉を倒す。
「ぐふっ」
「……ふふふっ、妹には勝てたようね。なら、今度はアタシが相手してあげる」
そうして大和が討伐されたと思いきや、今度は姉のエルフィリアが一行の前に立ちはだかったのだった。その姿は正に悪の化身――キワキワのハイレグレオタードの上に悪そうな肩アーマー付きのマントを羽織り、ぴしりと伸縮自在の鞭を操る彼女は、女王様と呼ぶに相応しい。
「あっさり全滅なんかしないで、存分に悲鳴を聞かせなさい!」
蛇のように鞭がしなり、建物すら巻き込んで破壊の暴風が吹き荒れた。更にエルフィリアは闇の魔法までも操り、圧倒的なまでの力によって勇者たちを追い詰めていく。――が、彼らの悲鳴や呻き声を堪能したくなったのだろうか。やがてエルフィリアはじわりじわりとなぶるような戦い方に変え、明らかに勇者たちを玩具のように扱い始めたようだった。
「お腹が空いては戦はできぬ、だよ! ご飯でも食べて、仲良く話そうよ。同じ釜の飯を食べた仲って言うでしょ?」
一方で、お昼の鐘の音を聞いた遥は隅でご飯を作り始め、魔王の間に美味しそうなシチューの香りが漂い始める。そんな物語最大の山場で、夕樹はと言えばふらっと魔王城探索へ。
(……世界は滅びたりしない、オレは勇者を信じてる)
けれど瑠璃は、真剣にこの世界の行く末を案じているようだった。自分だって何か出来る筈、と思うが――聖女の己が持つのは再生の力だけ。自身の無力感を改めて思い知らされた時、瑠璃の瞳に映ったのはミュエルの姿だった。
「あいつ、あんなになってまで……」
傷ついても彼女は立ち上がり、何度だって魔王へと向かっていく――その姿に瑠璃は勇気を貰い、自分も戦おうと決意する。この魔王城の何処かに、自分にも使えるものがあるかもしれない。勇者の力になれる何かを、自分に使える武器を探すのだ。
「……あった。そうか、これは……魔王が使えないはずだ。急ごう、勇者たちを助けなくては……!」
そうして瑠璃が城内の捜索をしている間、翔は懸命にエルフィリアに立ち向かっていた。歓喜に打ち震えつつ鞭を振るう姉の姿に、少しずつ翔の本当の記憶が蘇ってきて――彼は、その妙な違和感に戸惑っていた。
(あれ、優しかったって記憶、本物か? なんかいつも遊ばれてたような気がしねーか? 自分の楽しみの為なら何でもあり……な人達だった気がする)
ああ、そんなことを思い出しながら、翔の意識が薄れていく。しかし其処へ瑠璃が割って入り、魔王に向かって武器を――聖なるバズーカを発射した。
「え……ちょっと待っ」
エルフィリアの制止の声をかき消し、瑠璃は二発三発と容赦なくバズーカを撃っていく。そして、勇者ミュエルに向けても放った――バズーカを。
「えええええ!?」
「これは、魔王に撃ったものとは違う。精神力を補填するための砲弾だ」
その瑠璃の言葉通り、立ち上がったミュエルにはかつてない光の力が宿っていた。彼女が放つのは、とっておきの魔法――聖女が身を呈して世界を救うなら、身代わりになるくらいの勢いで立ち向かう意志をこめた、必殺の一撃だ。
「世界の終わりを、幼馴染のピンチを、黙って眺めてるような……弱い女の子でいるのは、もう嫌だから……!」
――降り注ぐ流れ星を受けて、エルフィリアが崩れ落ちる。魔王は滅びるのが王道、そんな呟きを残しながら。
●新たなる旅立ち
こうして、世界の行く末を決める戦いは終わった。勇者と聖女の絆が奇跡を呼び、魔王は倒されたのだ。
「世界を滅ぼす力……失くした貴女には、もう恨みとか、ないから……」
傷ついた魔王にミュエルは手を差し伸べ、星の粒を落として回復を施していく。もし彼女らに裏切られたとしても、自分はこの判断を悔やまないだろうと思いながら。
「……で、茶番は終わったかのぉ?」
――ところが。いつの間にか魔王の玉座には久永が腰掛け、邪悪な笑みを浮かべていたのだった。聖女である筈の彼は、今や溢れ出る邪悪な闇のオーラを纏い、如何にもな真のラスボス感を醸し出している。
「魔王の傍にいたせいか、余も闇の力に魅入られたようでな。今から余が新しい魔王だ。皆の者、崇め奉るがいい!!」
すわ連戦か、と思いきや、其処で久永はゆっくりとかぶりを振った。そうは言っても、別に自分は世界を滅ぼそうとか考えてない――世界征服は目指すけど、恐怖政治とかは失敗が目に見えてるし、もっとこう……この混乱に乗じて和睦(物理含む)しながら、平和的に世界を統べていきたいのだと。
「そしたら世界も真に平和になるぞ。まずはこの城の近辺に城下町を作るか」
何だか、とんとん拍子に今後の予定が決まっていくようだ。そんな訳で――と久永は皆に向き直り、仰々しい口調で勇者に命を下した。
「今後は余の為、世界の為に旅立つがいい。仲間と資材を集めてくるのだ!」
――え、死ぬ思いで戦いを続けたのに、また冒険を始めなくてはならないのか。遂に勇者たちは遠い目をして現実逃避を始め、翔は泣きそうになるのを堪えてそっと城から立ち去った。
「オレは姉ちゃん達の魂を弔いながら、世界各地を旅して歩く事にする……」
いやその、姉たちは生きてるけど――と言うツッコミを無視して翔は居なくなり、瑠璃とミュエルも手を取り合って仲良く城を後にする。
「帰ろう。もう、戦う必要なんてないんだ」
聖なるバズーカをぶっ放していたと言うのに、瑠璃は儚げな雰囲気を漂わせていて。じゃあ、と久永は、横たわる魔王姉妹へと視線を移した。
「……勇者に転職、するか?」
そうして頃合いを見て戻って来た夕樹は、魔王城を乗っ取――もとい平和の象徴として観光地にしようと、早速受付に陣取る。
「ようこそ。ここは終焉と再生の場。物語が巡る、歴史が刻まれた場所。……入場料は子供半額だよ。あ、パンフレットもどうぞ。食堂では平民魔王がランチを提供してますので、よければそちらも」
「今日のおすすめは、魔王ランチ~世紀末風~かな!」
食堂でシェフをやっているのは、どうやら遥らしい。まぁ、なるようになるんじゃない――そんな夕樹の一言で、夢は唐突に終わりを告げた。
「…………」
――ああ、これが自分たちの初夢なのか。夢から覚めた久永は、そう呻くかのように無言で頭を抱えていたのだった。
「ここに姉ちゃん達がいるのか……」
降り注ぐいかづちに目を細める『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)は、背負っていた剣を抜き放ち気合を入れた。勇者に憧れ、小さい頃から剣の腕を鍛えてきた彼は、優しかった姉たちが魔王となったことを知り、絶望に打ちひしがれていたのだ。
(オレに、姉ちゃん達を攻撃することができるのか……?)
姉弟で戦わねばならない運命に翔は苦悩するが――しかし、勇者である自分が魔王を止めねばならないだろう。
「なんということだ……嫁の性別は問わぬという度量の大きさと茶菓子に惹かれて、ついうっかり魔王についてきてしまったが、世界が滅びゆく運命を辿ることになろうとは……」
一方、魔王の城の最上階では。儚げな美貌を苦悩のいろに染めた『白い人』由比 久永(CL2000540)が、薄紫の瞳を潤ませ天を仰いでいた。聖女である彼は、やむにやまれぬ事情(主に食料)により、魔王の手に落ちてしまったらしい。
「ふがいない余を許しておくれ。勇者よ、あとは頼んだぞ」
着物の袖で目元を拭う仕草をしつつ、さめざめと泣き崩れる久永。しかしそんな状況でも、茶菓子を食べる手を休めないのは流石と言えよう。と、何処となく悠然と構える久永に対し、無表情且つ死んだ魚のような目で突っ立ってるのは黒桐 夕樹(CL2000163)だった。
「……、……あ、うん。聖女? なにそれ。おいしいの。俺、男だし。姫じゃないし。幼馴染の勇者のオマケだから」
目のハイライトが消えているのが心配だが、そんなことは魔王――『月々紅花』環 大和(CL2000477)にとって些細なことらしい。
「あら、あなたの意見なんて求めていないわ。ただ、わたし達は美しい聖女達を見て、気まぐれに嫁に迎えたくなっただけだもの」
ねえ、お姉さま――と振り向いた大和の先には、豪奢な玉座に腰掛けたもう一人の魔王、エルフィリア・ハイランド(CL2000613)が、妖艶な笑みを浮かべてふんぞり返っていた。
「……それに、性別なんて飾りよ。だってわたしは魔王ですもの」
何故魔王ならいいのか、と夕樹は思ったが、何だか考えた方が負けな気がする。そんな彼の隣では、魔王に攫われた聖女――『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)が、争いの引き金となってしまった自身の存在を、静かに悔いていた。
(再生の力なんて、なくてよかった……)
――こんなものがあるから、魔王には世界の大切さが分からないのだ。薄化粧を施した瑠璃の唇が、何かを言いたそうにわななき――オフショルダーのワンピースから覗く、華奢な肩も微かに震えている。
「あら、何か言いたそうね?」
「……壊したら、それでおしまい。それをちゃんと分かっていないから、世界が滅んでもいいなんて考えになるんだ」
瑠璃色の瞳に怒りの炎を燃やす、彼の相貌は告げていた――何故、どうしてそうまでして世界を滅ぼそうとするのかと。けれど、そんな聖女の真摯な問いかけに、大和は微塵の動揺も見せずにきっぱりと言い切る。
「この世をどうして滅ぼすかですって? 特に意味はないわ。単なるひまつぶしよ……これで満足かしら?」
ああ、魔王姉妹は戯れに世界を滅ぼそうとしている――そして世界が滅ぶとしたら、聖女である自分は再生の力を使わざるを得ない。
(そのことに、躊躇いはない……だって大切な人たちの住む世界だから。だけど、この力を使う限り、魔王は世界の大切さを分かったりは出来ないんだ)
その時、瑠璃の脳裏に真っ先に過ぎったのは、幼馴染の少女の姿だった。いつか彼女は言っていた。囚われの王子さまを助ける、勇敢なお姫様――子供の頃読んだ絵本のヒロインに、自分はずっと憧れていたのだと。
(そんな絵本のお姫様みたいな……かっこいいヒロインに、なれたらいいな……)
その言葉を、自分はいつ聞いたのだったか? 誰かの記憶と想いが入り混じる不思議な感覚に、瑠璃は微かに戸惑っていたが――続く声は高らかに、魔王の城の大広間へ響き渡った。
「六道さん、助けに来たよ……!」
重厚な扉を開き、飛び込んで来たのは『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)。妖精から不思議な力を授けられ勇者として立ち上がった少女は、仲間の勇者――翔と、白枝 遥(CL2000500)と共に最終決戦の舞台へと飛び込んでいった。
●非情な魔王姉妹
「ふふっ、ようやく役者が揃ったようね。ここまでたどり着けたこと、まずは褒めてあげるわ」
と、悠然と大和が口上を述べ始めたところで、広間の雰囲気が一変した。
「勇者か何か知らないけれども、聖女達はわたし達のものよ。ほしいのならば、わたし達を倒して奪い取ればいいわ……けれど」
其処で大和のマントが翻り――玉座のエルフィリアは片手で、深紅の美酒が注がれたワイングラスを掲げて高笑いをした。
「……わたしたち姉妹に抗えるかしら?」
「姉ちゃん! 世界を滅ぼして、あとどうすんだよ!? 目を覚ましてくれよ! 頼むからっ!!」
其処で翔が一歩を踏み出し、一縷の望みをかけて最後の説得を行う。やはり姉たちは魔王になっていて――大和は弟に向けるものとは思えぬ、冷え切ったまなざしで以て答えた。
「あなた、どこかで見た覚えがあると思ったら……魔族の貴方が、どうしてわたし達の敵になっているのかしら?」
「……っ、それは……っ!」
「例え身内であったとしても、逆らうのであれば容赦はしないわ。あと、滅ぼしたあとは特に考えていないわ」
「考えてねーのかよ、姉ちゃん!?」
自信たっぷりに、行き当たりばったりな計画を暴露する大和。これには思わずツッコミを入れてしまう翔だが、それでも世界を破滅させるわけにはいかないのだ。
(姉ちゃんを止めるのは、弟のオレの役目なのかもしれねー。ならせめて、オレの手で……っ)
ぐっと剣を握る手に力をこめて、翔は大和目掛けて斬り込んでいく。どうやらエルフィリアは椅子に座ったまま、事の成り行きを楽しむことに決めたようで――その背後からは、物凄い棒読みの久永の悲鳴が聞こえてきた。
「やめてー余の為に争わないでー」
ずずず、と彼の茶を啜る音が緊張感を削いでいく。それでも、先ずは協力して大和を倒そうと遥も動くが、根っからの平和思考である彼は開始早々テンパっていた。
「あっ……家のガス栓閉めたっけ? あと冷蔵庫の中身……うん、腐り物は保存してなかったはず。けど不安になってきた……!」
何だかお母さんみたいな心配をしているが、こう見えて彼は元魔王であるのだ。でも勇者の方が良いなあと言う理由により、先ごろ転職を果たしたらしい。
「でも、幼馴染のユウちゃんを助けないとだし……ああでも、今から家帰って元栓だけでも確認したい!」
最終決戦の最中でも家のことが気になって仕方がない遥は、動揺の余り魔法をど忘れして、本の角で攻撃しようと奮戦している。あれはあれで当たったら痛そうなのだが――やれやれとばかりに夕樹は、彼の援護をするべく動き出した。
「どうも俺は、聖女と言うことになっているらしいが。慈愛や自己犠牲精神なんてなかった」
そんな訳で夕樹は遥の背後から、決戦の渦中へとおもむろに胡椒袋を投げつける。ついでに、唐辛子の粉塵もおまけしておいた。
「要は勝てばいいんだよ、勝てば」
「へくちっ、へくちっ……ゆ、ユウちゃんまって二次災害が……」
――が、風向きの関係か、一番被害を被っているのは遥のような気がする。可愛らしいくしゃみを繰り返す彼はすっかり涙目だが、そのお陰で正気に返ったようだ。僕の事はお構いなく、と前置きして魔法を繰り出す中、ミュエルも幼馴染を助けようと妖精の力を振るった。
「たとえ、貴女でも……この人は、渡さないから……!」
祈りと共にきらきらと、光の花びらがミュエルを包み込み――その輝きは彼女を守る戦いのドレスとなる。其処ですかさず天に手を翳すと、闇夜の世界を塗り替えるパステルカラーの流れ星が、七色の尾を引いて大和の身体に降り注いでいった。
「アタシ、立ち向かうよ……! たとえ、魔王が、憧れの先輩でも……」
魔王が纏う闇の衣をはぎ取るように、きらきらとした光の欠片が零れ落ちて――懸命に戦うミュエルに、熱いまなざしを送る瑠璃を見た大和が、心底不思議そうな表情で問いかける。
「わたしのどこが気に入らないというのかしら? 嫁になれば貴方達は、魔王の妻としてこの世界を好きに創造できるのよ?」
「……って、嫁? 姉ちゃん、どっちも女だよな!?」
其処でようやく、翔が根本的な矛盾に気付いたようだ。でもよくよく見れば、この場に居る聖女たちは男に見えるから――あれ、何だかよく分からなくなってきた。
「女の姿が気に入らないのであれば、男の姿になってあげてもいいわ。私は魔王ですもの、性別の壁なんていつでも飛び越えられるわ」
――ちょっと待って。今、大和がとんでもないことをのたもうた。ええとつまり、姉ちゃんは兄ちゃんでもある、のだろうか?
「んー……ま、いっか! 考えてもわかんねーや! とにかく悪いことをやめさせないとっ!!」
流石翔、素早く割り切って戦いを再開する。勇者たちは三人がかりで魔王に立ち向かうが、やはり最終決戦の相手とあって手強い。皆が危機に陥ったその時、何といきなり夕樹の秘めたる力が覚醒したのだった。
「破滅から再生へ、平和への祈りをこめて……」
聖女らしからぬ、禍々しくもどす黒いオーラが彼を包み、繰り出される拳は最後の和解交渉(物理)だ。ぐふっと断末魔の悲鳴をあげて、交渉も何もなく地面に叩きつけられる大和――しかし彼女は、真の姿を解放して一行の前に再度立ちはだかった。
「……わたしがここまで譲歩するのは珍しいことだというのに、逆らうのであれば必要ないわ。わたしの真の姿を見て、生きていた者はひとりもいないの」
漆黒の髪は輝くような銀に、そして深紅の瞳は妖艶な紫に変化させて、大和はくつくつと笑う。
「この世界と一緒に、滅ぼしてあげる……」
●秘密の最終兵器
――待て、と夕樹は和解交渉を諦めていなかった。聖女が駄目ならば、他の勇者を嫁にしてはどうなのか、と。
「何か丸く収まりそうだし。聖女みんな男だし。性別なんて飾りみたいだし」
「なんか今度は勇者が差し出されてる!? そんな事したって姉ちゃん達が止まるわけねーだろっ!?」
大胆過ぎる交渉材料に翔が再びツッコミを入れるが、当の大和とエルフィリアはまんざらでもない様子だ。
「そうね、ミュエルさんみたいな可愛い子を侍らすのも素敵だわ」
「それに……弟である翔と禁断の関係になるのも、うふふ」
いい感じで話がまとまりそうだったので、遥はと言えば後ろでぱちぱち拍手をしている。夕樹に手を出さないのであれば、おっけーと言うことになったようだ。
「さすが! カッコイイ!」
「あああ! そんなことさせるかー!」
半分やけっぱちになって、翔が隙を見せた大和へと剣を振り下ろした。大和は雷の魔法を使う間もなく追い詰められ、それでも翔はやっぱり少し躊躇ったのだが――それでも心を鬼にして姉を倒す。
「ぐふっ」
「……ふふふっ、妹には勝てたようね。なら、今度はアタシが相手してあげる」
そうして大和が討伐されたと思いきや、今度は姉のエルフィリアが一行の前に立ちはだかったのだった。その姿は正に悪の化身――キワキワのハイレグレオタードの上に悪そうな肩アーマー付きのマントを羽織り、ぴしりと伸縮自在の鞭を操る彼女は、女王様と呼ぶに相応しい。
「あっさり全滅なんかしないで、存分に悲鳴を聞かせなさい!」
蛇のように鞭がしなり、建物すら巻き込んで破壊の暴風が吹き荒れた。更にエルフィリアは闇の魔法までも操り、圧倒的なまでの力によって勇者たちを追い詰めていく。――が、彼らの悲鳴や呻き声を堪能したくなったのだろうか。やがてエルフィリアはじわりじわりとなぶるような戦い方に変え、明らかに勇者たちを玩具のように扱い始めたようだった。
「お腹が空いては戦はできぬ、だよ! ご飯でも食べて、仲良く話そうよ。同じ釜の飯を食べた仲って言うでしょ?」
一方で、お昼の鐘の音を聞いた遥は隅でご飯を作り始め、魔王の間に美味しそうなシチューの香りが漂い始める。そんな物語最大の山場で、夕樹はと言えばふらっと魔王城探索へ。
(……世界は滅びたりしない、オレは勇者を信じてる)
けれど瑠璃は、真剣にこの世界の行く末を案じているようだった。自分だって何か出来る筈、と思うが――聖女の己が持つのは再生の力だけ。自身の無力感を改めて思い知らされた時、瑠璃の瞳に映ったのはミュエルの姿だった。
「あいつ、あんなになってまで……」
傷ついても彼女は立ち上がり、何度だって魔王へと向かっていく――その姿に瑠璃は勇気を貰い、自分も戦おうと決意する。この魔王城の何処かに、自分にも使えるものがあるかもしれない。勇者の力になれる何かを、自分に使える武器を探すのだ。
「……あった。そうか、これは……魔王が使えないはずだ。急ごう、勇者たちを助けなくては……!」
そうして瑠璃が城内の捜索をしている間、翔は懸命にエルフィリアに立ち向かっていた。歓喜に打ち震えつつ鞭を振るう姉の姿に、少しずつ翔の本当の記憶が蘇ってきて――彼は、その妙な違和感に戸惑っていた。
(あれ、優しかったって記憶、本物か? なんかいつも遊ばれてたような気がしねーか? 自分の楽しみの為なら何でもあり……な人達だった気がする)
ああ、そんなことを思い出しながら、翔の意識が薄れていく。しかし其処へ瑠璃が割って入り、魔王に向かって武器を――聖なるバズーカを発射した。
「え……ちょっと待っ」
エルフィリアの制止の声をかき消し、瑠璃は二発三発と容赦なくバズーカを撃っていく。そして、勇者ミュエルに向けても放った――バズーカを。
「えええええ!?」
「これは、魔王に撃ったものとは違う。精神力を補填するための砲弾だ」
その瑠璃の言葉通り、立ち上がったミュエルにはかつてない光の力が宿っていた。彼女が放つのは、とっておきの魔法――聖女が身を呈して世界を救うなら、身代わりになるくらいの勢いで立ち向かう意志をこめた、必殺の一撃だ。
「世界の終わりを、幼馴染のピンチを、黙って眺めてるような……弱い女の子でいるのは、もう嫌だから……!」
――降り注ぐ流れ星を受けて、エルフィリアが崩れ落ちる。魔王は滅びるのが王道、そんな呟きを残しながら。
●新たなる旅立ち
こうして、世界の行く末を決める戦いは終わった。勇者と聖女の絆が奇跡を呼び、魔王は倒されたのだ。
「世界を滅ぼす力……失くした貴女には、もう恨みとか、ないから……」
傷ついた魔王にミュエルは手を差し伸べ、星の粒を落として回復を施していく。もし彼女らに裏切られたとしても、自分はこの判断を悔やまないだろうと思いながら。
「……で、茶番は終わったかのぉ?」
――ところが。いつの間にか魔王の玉座には久永が腰掛け、邪悪な笑みを浮かべていたのだった。聖女である筈の彼は、今や溢れ出る邪悪な闇のオーラを纏い、如何にもな真のラスボス感を醸し出している。
「魔王の傍にいたせいか、余も闇の力に魅入られたようでな。今から余が新しい魔王だ。皆の者、崇め奉るがいい!!」
すわ連戦か、と思いきや、其処で久永はゆっくりとかぶりを振った。そうは言っても、別に自分は世界を滅ぼそうとか考えてない――世界征服は目指すけど、恐怖政治とかは失敗が目に見えてるし、もっとこう……この混乱に乗じて和睦(物理含む)しながら、平和的に世界を統べていきたいのだと。
「そしたら世界も真に平和になるぞ。まずはこの城の近辺に城下町を作るか」
何だか、とんとん拍子に今後の予定が決まっていくようだ。そんな訳で――と久永は皆に向き直り、仰々しい口調で勇者に命を下した。
「今後は余の為、世界の為に旅立つがいい。仲間と資材を集めてくるのだ!」
――え、死ぬ思いで戦いを続けたのに、また冒険を始めなくてはならないのか。遂に勇者たちは遠い目をして現実逃避を始め、翔は泣きそうになるのを堪えてそっと城から立ち去った。
「オレは姉ちゃん達の魂を弔いながら、世界各地を旅して歩く事にする……」
いやその、姉たちは生きてるけど――と言うツッコミを無視して翔は居なくなり、瑠璃とミュエルも手を取り合って仲良く城を後にする。
「帰ろう。もう、戦う必要なんてないんだ」
聖なるバズーカをぶっ放していたと言うのに、瑠璃は儚げな雰囲気を漂わせていて。じゃあ、と久永は、横たわる魔王姉妹へと視線を移した。
「……勇者に転職、するか?」
そうして頃合いを見て戻って来た夕樹は、魔王城を乗っ取――もとい平和の象徴として観光地にしようと、早速受付に陣取る。
「ようこそ。ここは終焉と再生の場。物語が巡る、歴史が刻まれた場所。……入場料は子供半額だよ。あ、パンフレットもどうぞ。食堂では平民魔王がランチを提供してますので、よければそちらも」
「今日のおすすめは、魔王ランチ~世紀末風~かな!」
食堂でシェフをやっているのは、どうやら遥らしい。まぁ、なるようになるんじゃない――そんな夕樹の一言で、夢は唐突に終わりを告げた。
「…………」
――ああ、これが自分たちの初夢なのか。夢から覚めた久永は、そう呻くかのように無言で頭を抱えていたのだった。
