豊乳かりゅうど
【ぬりかべ団】豊乳かりゅうど



 この世には二種類の胸が存在する。

 胸が大きいか、小さいか。

 これは、胸が平らな者たちの葛藤の物語である。


 ある時。
「で? これは一体、何? 言ってみなさい、貴方の口で」
「お……おっぱいです……」
 十字架に(縄で)はり付けにされた女の、恵まれた膨らみ。それを拳銃でつついて揺らしたのも、また女であった。だが拳銃を持った女の胸は、はり付けにされた女とは対象的だ。
 正にこれこそ逆と呼べる程に。
「お前の罪は分るわね?」
「わかりません……」
「おっぱいをテーブルの上に乗っけていた罪だ!! ボディラインをほぼほぼ隠してしまう分厚いニットを着ておきながらそれでも主張し強調された胸元は万死よ万死!!」
「すっ、すみませんでした!!」
「しかーし残念だったわね。その膨らみを持ってしまった事こそ真なる罪よ! 浄化の為の犠牲となりなさい!!」


 またある時。
 拘束された男が、震えながら胸のストンとした女を見上げた。
 鞭が空を裂く音が鳴る。
「貴方は、貧乳派であると言ったね」
「は、はい!! 貧乳こそ、この世のジャスティス!! 胸が無いのは世界を救います!」
「誰が胸無しだ殺すぞ!!」
「ひぃ! 殺さないで!! 自分で貧乳派とか言っておいて!!」
「まぁ……いいわ。では、」
 胸の平たい女は、ぷるるんと揺れる胸元を持った女を突き出した。
「こいつの胸を……この枝切狭で、切り落とせるわね……?」
「は!?」
「どうしたの? できないの? もう一度、貴方は貧乳が好きである事を確かめさせて頂戴。私は貴方を信じたいの、ねぇ?」
「あぁ……ぁぁ、ぁぁぁっ!!」
 やめてと泣き叫ぶ、ぷるるん女子。そりゃそうだ、怖いもの。
「俺には……、で、できないぃぃ!! 巨乳こそ、俺達男の……夢と希望なんだ!!」
「ちっ、この男を連れて行け!! 二度と豊満な胸にぱふぱふされたいと思えない身体にしておやり!!」


 またまたある時。
「やめて!! 私だって、貧乳じゃないの! 見てみてよこの胸!!」
「うるさい!! Bカップもあれば十分なのよ。Aカップの気持ち、考えた事がある!? 連れていけ!!」
「「「貧乳バンザイ、イエッサー! 貧乳バンザイ!!」」」
「いやぁぁあ誰か助けてぇぇ!! Bカップだって貧乳にすみ分けされるでしょおお!! Cカップあればそこそこメリハリがあるのに対して、Aカップのストンとした形のどちらにも属せないBカップの気持ちも知らないくせにぃ!!」
 惨劇が起きていた。
 Bカップ以上の女性はどこかへ連れていかれる。そこでは言葉の前後に『貧乳バンザイと言わなければ言葉が発せられない』程の洗脳が施される場所であるらしい。
 恐ろしい。
 なんて恐ろしい。
 だが女性ばかりでは無い。
「隊長!! この男、……トップとアンダーの差が13センチもあります!!」
「な……ん、だと……?」
 例え、鍛え抜かれた男であろうと胸筋であろうと、
「連れていけ!!!」
「「「貧乳バンザイ、イエッサー! 貧乳バンザイ!!」」」
「なんでだああああ!!」
 処されるのだ。


「過激な組織が動き出したのだ。
 彼等は彼等の思想に沿わない者達を一斉に浄化していくタチ悪い組織なのだ。
 止めねばならない。
 なので、まずは彼等の本拠地を探らねばならないのだ!」
 『小鬼百合』樹神・枢(nCL2000060)は、覚者達を前にして深刻そうな面構えをしていた。
 事態は刻一刻と、状況悪化に繋がる。
「彼等は『ぬりかべ団』。
 文字通り……その、あの……大変言いにくいのだが、お胸がアレな子達なのだ。それ事態は悪い事では無いのだ。けど、Bカップ以上の女子は世界の敵、最早人間じゃないレベルで殺してくるのだ、気を付けて欲しいのだ」
 穏やかじゃない。
「男性でも駄目なのだ。気を付けて欲しいのだ。性別が分らない子も見た目判断なのだ」
 せめて人間として扱って欲しい。
「率いているのは、『ぬりかべ』というポピュラーな古妖なのだ。彼女は女性だ。人間に化けられるのだが、それでもお胸はあれなのだ、察して欲しい。今回はいないのだー、代わりに一反木綿が現場を仕切っているのだ、彼女なら本拠地を知っていそうだぞ」
 なんでもアリだった。
「彼女たちは、とある繁華街で過激な活動をするのだが、その前に止めるのだ。場所はここ」
 事件が起きる前で良かった。
「Aカップの女性は、攻撃されないと思うのだ。むしろ仲間として歓迎されると思うのだ。
 それでいて、言葉の前後に『貧乳バンザイ』を着ければ、ある程度騙す事が可能なのだ。
 敵を油断させたところで、ガツンと行くのもアリだぞ!」
 何はともあれ、大変かもしれないが頑張ってみて欲しいそうな。

 今、熾烈な戦いが始まろうとしていた。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.ぬりかべ団の本拠地の情報を掴む
2.なし
3.なし
 2回くらいで終わる予定です

●状況
・組織『ぬりかべ団』というものが事件を起こす。
 彼等は彼等の思想に属さない者達を一掃し、世界を浄化するのが目的らしい。
 これから事件を起こすようだが、そうはいかない。
 そこで覚者達の出動だ!

●ぬりかべ団
・能力者に、古妖までいる合衆国みたいな組織。憤怒者はいません
 基本的に全員控えめな(比喩)胸で人生に絶望しているナイーブこじらせた子達。

・言葉の前後に『貧乳バンザイ』とつけると、仲間だと思われる
・Aカップ以下は仲間だと思われ歓迎される
・巨乳はギルティされる
・煽るとすごい泣きながら殺してくる

 団長は、ぬりかべという古妖だが今回は存在せず、一反木綿という古妖が仕切っている模様

・一反木綿(古妖)
 ふわふわと浮いておりますが、飛行ペナルティは発生しません
 そこそこ強いです
 攻撃は物理攻撃。主に身体に巻き付いて動きを封じてきたり、絞めつけたりです

・能力者×3人
 現×火(剣)、現×水(杖)、現×木(術札)
 ファイヴ能力者より弱いです

・洗脳済の能力者×2人
 言葉の前後に貧乳バンザイと言っていて、目がぐるぐるしている男と女
 暦で土行の男性と、現で水行の女性
 武装はチェーンソー。洗脳されている為、強烈にキチっていて身を呈してきます。ある意味一番タチ悪い

●場所
 これからとある場所をギルティしにいくところで、止めます
 お昼の大通り。人通りは無し
 大名行列みたいに、ぬりかべ団が歩いて来たところで止めに入ります

●PL情報
 お胸のカップ数はEXプレにこっそり書いておくと助かります。秘密は守られます(ぬりかべ団の対応で守られないかもしれない)
 無い場合は、納品されている絵で一番おおきいかな?というものを参考にします。秘密は守られます。
 絵が無く、EXプレで察せない場合は、工藤が神妙な顔つきで捏造します。
 男性も絵で判断します。雰囲気で。
 性別不明も雰囲気で判断します。

 ご縁がありましたら、宜しくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年01月13日

■メイン参加者 8人■

『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)


 月明りは雲に隠れ、静寂に満たされた世界で百鬼夜行は進む。
 世界の全てを理想に染めるが為。
 世界に蔓延る敵を駆逐するが為。
 我等『ぬりかべ団』は成し遂げねばならん。

 木陰から音も無く、影が征く道を塞いで立ちはだかった。
 最初は警戒をして、止まるぬりかべ団。怪訝な表情で相手を見据えたが、何故だかぬりかべ団は『彼等』に殺意や憎悪を持つ事が出来なかった。
 何故なら、いや、止めておこう。
「貴方達は……一体」
 一反木綿か。全身が包帯のようなものでぐるぐる巻きのエジプトミイラ風の女が空中に浮遊していた。
 刹那、ふんだんにあしらわれたフリルの中で、満開の花が咲き誇るプリント柄の服を着た『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) の瞳が、全開に開く。
「貧乳のこのペタン具合こそ至高! 貧乳万歳!」
 奏空は自分の胸のあたりを両手で叩き、地を震わす咆哮に似た叫び声が、夜の静寂を叩き割って粉々にしていく。
 しぃん……と再び静寂に戻り、時間にして十秒程度誰しもが固まったまま動かない。
 けれど、
「貧乳バンザイ!! 貧乳バンサイ!!」
 続いた一反木綿が奏空に呼応し、やまびこのようにその呪文を繰り返した。こだまでしょうか。
「どこでその言葉を知ったか知りませんが、どうやら同族のようですね」
 あれだけで一反木綿は納得したらしい。
 『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172) も一歩前に出て、一礼。
「あなたたちの、活動……噂に、聞いて。ぜひ、同行させて、ください……貧乳バンザイ!」
 絞り出すような掠れた声で、嘆願した。ミュエルの細い胸が痛む。言っていて胸の中央あたりから黒くて冷たいものがじわりと広がっていくような感覚だ。
 だが、耐えるのだ明石ミュエル。今は女優となるのだ、九割くらい彼等の気持ちも分かるのだから。
 キリキリ、車椅子の車輪が回転していく。『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732) も『貧乳バンザイ』と叫び始め、暫く貧乳を讃える協奏曲が響き渡った。
「よし、貴方達も今から仲間です。これから世界を救済しに行くので共に参りましょう」
「「「貧乳バンサイ!」」」
 奏空、ミュエル、槐の威勢の良い声はお空の雲を突破し、月まで響いていく。
 なんだろうこれは……儀式だろうか……と半目になった『蒼炎の道標』七海 灯(CL2000579)であったが、ハッと我に返り首を横に振り続ける。
「貴方も、共に征きますか?」
 唐突に発見され、一反木綿の質問にどもる灯であったが、ええい立ち向かえと己を奮い立たせて強い気持ちを持つ。
「この前……痴漢に遭ったんですが、痴漢からも小さいと言われて……」
「そ……、それは、大変だったでしょう……」
「はい……。その後、物理的にお仕置きしたんですが、その時思ったんです……」
「貴方にお怪我が無くて、良かった……。何を、お思いになったのです。良ければ、聞かせてください」
「ええ、胸の大きな人さえいなければこんな惨めな思いをしなくて済んだのにって……思ったんです」
「あら、まあ……貴方の胸にも憎悪が。いえ、戦う意志が、芽生えたのですね」
 話しを親身に聞いてくれるだけで、どうしてこんなに胸が軽くなるのだろう。元から軽いとか言うな。
 灯は思った。
 嗚呼、こうして宗教勧誘されていくんだろうなあと。

 一定の信用を得られた所で、やらない訳にはいかぬ。
 奏空と槐、そして灯とミュエルはお互いを見合って頷いた。先手を打ったのは、槐だ。
「同士達よ! 新参者の私達からも、いくつか質問を宜しいでしょうか貧乳バンザイ!」
「発言を、許可致しましょう」
「ありがたき幸せです! このような素晴らしい活動をしているリーダーに会ってみたい……と思いまして」
「ほう?」
 一反木綿の眉がぴくりと動いた。続いて、ミュエルが彼女の顔を覗き込みながら言った。
「ぜひ、この活動のリーダーに、ご挨拶したい、です……。アタシみたいな、体型でも、仲間になれる場所……作ってくれた、お礼……言いたくて」
「ほほう?」
 再び、一反木綿の眉がぴくぴくと動いた。覚者が発言していけばいく程、一反木綿の表情が硬くなっていく。
 何故だろう。地雷を的確に踏み抜いているとは思えないのだが。
 小さな心臓がフル活動し始めた緊張感の中、奏空は必至に夜空の星に向かって『貧乳バンザイ』を繰り返すだけの機械と化していた。
 そんな中、一反木綿は、
「我等がリーダーに会いたければ、まずは今日の仕事を終えてから連れていくわ」
 やっぱりそんな簡単にはいかないらしい。


 刀の様に鋭利で、鞭の如く撓る木綿が張り付いた空気を切り裂いた。
 豊かで程よく柔らかい魂行 輪廻(CL2000534) の胸元を引き裂き、水のベールを纏っていたとはいえ、水着を着込んだ着物が赤く染まる。
 痛みに微動する事も無く、輪廻は朱に染まる唇を舐めた。
「あらん♪ お仕置きが必要かしらん!」
「う、うるさい!」
 狙いは胸であっただけに、彼等の憎悪は計り知れない。
 待機組が接触するまで時間はそうかからなかった。だが、ぬりかべ団として予想外であったのは、先に接触して来た者達が敵として不意打ちを狙って来た事だろう。
「裏切り者め……!!」
 怨嗟だ。能力者の一人が言葉は震え、そして怒りに塗れている。
 輪廻の怪我を治すのは四条・理央(CL2000070) が承った。空中に印を描き、癒しを乞う。暖かな空気が彼女の傷を逆再生してゆく中。
「ごおおお!!」
「おええええ!!」
「え、何」
 理央の瞳の端の方で、洗脳され瞳の中がぐるぐるしている二人組が嘔吐し始めた。
 考えろ理央。洗脳はそうだが、恐らく、そうか。察しの良い理央だ、それを予想するに時間は不要。トラウマだなんて、植え付けられる屑が居ただけの事。
「なんて組織。最低だね」
「ふふふ……彼等は、巨乳を見ただけで拒絶反応が出るようにしてあるのよ」
 何故かシリアスになりきれないが、悪びれる様子も無く大笑いした隔者。理央は怒りを通り超し、絶対零度の瞳で射抜く。
 今更、奴等に改心など出来るはずも無いだろう。作業の如く、理央は次の一手を考察を開始。
「巨乳怖いよおお!!」
「おっぱい怖いよお!!」
 空気を震わす轟音を奏で、回転する剣を振り上げて。白目を剥き、吐しゃ物を撒きながら洗脳された者達は迫ってきた。
 その気迫と、異常性。明らかに理性を吹き飛ばしている。
 ……何故、人は争うのだろうか。
 それを飯の卓上で発現し、間も無くこんな場所に立っている阿久津 ほのか(CL2001276) には難題だ。
 力になれればいい。それが誰かの希望になればそれでいい。奮い立たせる母性にも似た守護本能を持つほのかは、ネクタイを緩めながら胸元を開いた。お兄さんが泣くぞ。
「さぁ、お胸を潰したいなら、まず私からにしやがれだよ」
 ハリのある素肌が露出した時、闇に光が差した時の眩しさを思わせたか、洗脳者達は目を抑えて地面に転げ回った。ほのかはそれを容赦無く目からビームった。
 彼等の姿を見て、『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523) の心が痛みで震えた。痛んだが、ほのかが胸元を開いた事によって速攻で癒されていった。
 特に、洗脳された男は哀れだ(個人の意見です)。おっぱいに貴賤は無いのだ、大も小も良く、そして彼は恐らく大の方がどちらかと言えば好きであっただろうに。
 男の性であろうか、大きいものに目がいってしまうのは仕方が無いはずだ、それを声を大にして言えば良かったものを。
 懐良は、ぬりかべ団も、我々も傷つかない平和を模索した。模索して、彼は輪廻を指差した。
「貧乳バンザイ! 隊長! あいつ見るからにでかいッスよ!」
「いや、あんた誰です」
 彼としてはヘイトコントロールをし被ダメを散らそうという根端である。心を鬼に、そうだ、だって、敵の攻撃を仲間に向けさせるのはある意味裏切り行為だ。それでも、良かれと思って。
 懐良は浮かんでいる一反木綿(人型包帯まきまき娘)の、耳に言葉を吐き、
「あらやだぁん♪」
 輪廻は嬉しそうに跳ねたら胸が上下にゆさゆさした。
「あの男から殺しておくべきだったかな」
 理央がそう言った所で、敵の勢いは止まらない。味方にも敵がいて止まりそうにも無い。


 編成の中でも、最速を誇る灯と奏空。
 敵の陣営に飛び込み、鎌を滑らせてゆく。狙いは水行の女、彼女は灯の鎌を身体で受けながら叫んだ。
「どうして! どうして! 貴方だって、同じ苦しみを味わっているくせに。さっき、あんなに悲しそうな顔をしていたくせに!」
「やめて! そうじゃないの。もう、これ以上、過ちを犯すのを、止めたいだけ……」
「平和平和って。そうやって、武器を振りかざすのね……偽善者め!!」
 どうして分かりあえない?
 出会い方さえ違っていれば、もっともっと仲良くなれていたかもしれないのに。こんなに苦しい戦いはあるものか。
 平和へと誘導する灯の名を冠する橙の瞳さえ光を失いかける所だ。
 全く別世界の戦いが展開されている。奏空には彼女らの苦しみが全て理解する事は不可能だ。そこには超えられない壁があるから、性別的な。
 今の奏空に分かる事と言えば。スカートがかなりスースーしてすっごい歩き辛いという事だけだ。ドロワーズを履いていなければ、死んでいた。
 でも今そういう話してる場合じゃなくて。一人だけ後衛陣まで乗り込んでいった灯を追わねばなるまい。
 だが奏空は灯の背に届かない。目の前には涎垂らしながら唸る洗脳者のチェーンソーが、漸く射してきた月明りに不気味に光ったのだ。それが落されて、彼の服は上から下まで綺麗に切断された。
 露出した肌。一反木綿は驚愕し、唖然とした。
「お前……男か!!」
「安心して下さい、履いてますよ! 胸も、平ですよ!」
「ええい、まさかと思っていたが。知っていますよ、お前の名前は工藤・奏空!! 昨今出て来たファイヴって組織で、割とおっぱいに挟まれたりしてる系男子だ、よし殺そう」
「なんて理不尽な名声の使われ方!!」
 現の女のBOTが彼を衝撃波で吹き飛ばされ、空中で奏空は雷撃を従え敵の後衛に紫電を起こした。落ちていく彼は、上手くクッションによって受け止められるのだが、この感覚を、なんとなく知っている。
「あらやだぁん♪」
「また輪廻さんでデジャヴ感じブーッ!!」
 どことは言わないが柔らかい部位に顔を埋め込んだ奏空。自ら鼻から出血。
「デブッ! デブッ! シリコンッ!!」
 さり気なく、槐は敵側の陣営にいた。確かに、灯やミュエルや奏空は最初は敵陣営だったが、各々攻撃を開始。故にバレたが、槐だけは上手く見繕って機会を伺う。
 槐が半ば怒りの籠った声色で輪廻と理央とほのかを指差していったのだが、これも敵を欺くための演技だから、許して欲しい。けして巨乳が羨ましい訳では無く演技なのだ、演技なのだ。
「やだ……よくも、奏空さんを……分かりあえる、て、信じてた……のに」
 ミュエルが悲しい顔で、瞳の端からキラリ流れるものを放つ。お菓子とか、ハチミツみたいに、甘い世界を夢見ていた。でも現実ってこうも、錆び臭く、痛みの世界。
 小さな胸(ボリュームの事じゃなく)が、再びズキンと痛んだ。
「うちらなんもしてないけどこれもそれも全部巨乳が悪いんだ!!」
 あながち間違っていない返事が、敵隔者から出た。
「奏空さんの分まで、……頑張る、ね」
「まだ僕死んでないのに!」
 人に騙されやすいミュエルは自分を自分で騙してしまったか。仲間の一人がなんとなく殺された所で、ミュエルは両足の車輪を回転。前衛に立つ火行の現へと一心、飛び込んでゆく。
 平らな胸は空気抵抗を受けやすい、故にミュエルは前屈みになりながら、鉱石の光が煌煌と輝く得物に棘の蔦を纏わせて殴る。
「やるわね、さすが、私と同じ、ひん……にゅ」
「さり気なく抉ってくる……ね」
 横に吹き飛んでいく現は起き上がる事は無い。

「くっ、どうして我々の邪魔をする!! 貴様等のせいで、どれだけ不幸が生まれている事か」
「そんなの」
 ほのかは一反木綿の伸ばした布に捕まってぐるぐる巻きにされていた。背後に、理央が控えているのだ。彼女の行動を疎外される訳にはいかない!
「あなたは今だって、私を苦しめているのです」
「なんだって?!」
「今、巻き付かれているくせにお胸がはみ出している!!」
「くぅ」
「そのボリュームが気に入らない!」
 締め付けられる力は、時間と共にキツくなっていく。この間に仲間が攻勢を有利にしてくれれば、万々歳だ。
「やらせないぞ!」
 理央は役目を果たす。術符を空中に並べて、再度癒しを乞うていくのだ。そのひとつ、ひとつの動きでも理央の胸元は激しく揺れていた。無意識だ、それこそ無意識以外の何者でも無いが、敵を挑発してゆく。
「揺れない胸の気持ち、考えた事ある!?」
「揺れたら揺れたで、走るときとかめんどくさいんだけど!」
「幸せな悩みよ!」
「そっちこそ!」
 大も小も大変である。理央はそう思いながら、だが不毛な戦いなのを心底理解しているつもりだ。
 そして、ほのかの期待はきちんと受け取られる。信じる仲間は、応えてくれるもの。
「眠れ―寝たら死ぬぞー」
 槐だ。舞を行うその意は眠り。不意打ちから受ける攻撃は威力が重なる。ほのかを捕えていた布がゆったりと解かれて来、ほのかは逃げ出し体勢を整える。
「ふぁ……らめ、ねむ、ねたらしぅ……」
 うとうとし始め、墜落した一反木綿。腰を高く上げ、四つん這いの姿で寝てなるものかと腕を噛んだ。
「ほらほらー眠れ―」
「うぐぐぐっ」
「寝ろー」
「はうううっ」
「寂しいお胸なら、うつ伏せになっても苦しくないだろう?」
「お前ええ!! 絶対殺すううう!! うわあーーー!!!」
 遂に泣き出した一反木綿。
「早く寝ろ」
「ぎゃん!」
 更にくるくる廻る槐の攻撃は激しさを増していく、その度に一反木綿が唸り声を上げており、遂に槐はシールドで一反木綿の頭をブッ叩いて眠らせた。

 槐の眠りに誘う踊りにより、敵のほぼほぼは夢の世界に旅立っていた。ただ、洗脳者だけはそうもいかない。
 未だ、奇声を上げながら迫る姿には理性が欠けた獣そのものであった。彼等のチェーンソーは危険分子であると認めた槐を狙いとした。
 狂犬に似た響きで大笑いしながら槐の身体を切刻む姿は、通報もの。最早、言葉が通じない彼等には、懐良の言葉の誘導は効かない。
 槐と敵の間に身を滑り込ませた懐良。写しの刀を振り上げる。
「おっぱいは、大も小も、同じおっぱいだッ!」
 やっと言えた。魂から絞り出した、言葉だ。チンピラ染みた普通の高校生だって、おっぱいがどれほど大切なものか理解している。
 故に、全てのおっぱいは肯定されるべきである。
 力む両腕によく刀が馴染み、貯め込んだ力を放出。止まらぬ速さで撃ちこんだ斬撃に、チェーンソーが折れて地に刺さった。
 あと、もう一人。
 敵の後衛から戻ってきた灯が鎌を逆手に持った。決して殺さぬ。殺す価値が無いという事では無い。彼等には、まだ道を灯してやれるから――。
「これで、終り」
 さようなら、憐れな洗脳者。可能なら、その洗脳が解ければいいのだが。
 月をバックに、青色の長い髪が揺れた。悲しみの青では無く、誰をも受け止められる優しい色合いで。鎌は天を駆けそして――。


「じゃ、楽しい拷問のお時間です」
「ひっ」
 槐は寝そべる一反木綿の上に座り、足を組んだ。
 動けない一反木綿を良い事に、懐良は太ももをなぞりながら、
「胸が駄目なら、別で勝負!」
「うるさぁい! 触るな!!」
「あんたには、立派な足(ふともも)があるじゃないか!」
「くうっ」
「でも、貧乳バンザイ!」
「はうっ(トゥクン)」
 懐良は一反木綿を陥れたいのか前向きにさせたいのか貧乳万歳なのか恐らく全部なのだろうが、程よく一反木綿の凍った心を溶かしていたとか。
 輪廻は輪廻で、現の女を後ろから抱き込み、手は胸の上を抑えていた。服の中から。
「あ、あの」
「何かしらん♪」
「触ってます」
「触ってんのよん♪」
「これだから巨乳は!!」
「あててんのよん♪」
 あ、あうとー!
 女性の身体は女性ホルモンによって肉付きが良くなるとかなんとか。だもんで、揉まれてしまえばいいのではないか。ここの男性陣に――と言った所で、懐良が四つん這いで走ってきたが、理央が蹴り飛ばして止めた。
 ほのかも、倒れ込んだ木行を枝でつんつんしながら、
「胸が大きくなる秘訣を教えるから本拠地どこ?」
 と笑う。
「そんな! 幸運の壷あるから買えよみたいな方法、絶対乗らないわよ!!」
「んっとね、無調整豆乳を毎日飲むとお胸が大きくなるらしいよ~。姿勢をよくしたりアロマオイルでマッサージも効果的だって~」
「うるさい! それさえやっても育たないお胸だってあるんですよ!!」
 遂にぬりかべ団は泣きだした。
「早く……言った方が、いい、かも……お姉さんたち、怖い……よ」
 ミュエルは最終警告を発した。もう、輪廻と槐は止められない。
「巨乳万歳♪」
「あああーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ねえどんな気持ち? ねえどんな気持ち? 未来を保証された貧乳にのされ、巨乳に抑え込まれる気持ちは、ねえ?」
「あああああああーーーーーーーーッ!!!」
 鬼だ。理央は純真にそう思った。
 ぬりかべ団の叫びは天まで届いた。奏空と懐良は前屈みになりながら、彼等が拠点を吐くまで耐えていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです