鬼を討つ者
鬼を討つ者



 息を切らせて野山を子が走る。
 なんでこんな事に……僕が一体何をしたって言うんだ。
 ただ川で水を汲み、日の当たる丘で流れる雲を見てただけだって言うのに。
 素足が小石を踏みつけ鋭い痛みが走り、赤い皮膚を枝が裂き皮膚より赤い血を滲ませる。
 冷たい空気を乱暴に吸い込み続けた喉は氷の破片が刺さったかのように痛み、飲み込む唾がその痛みを更に際立たせる。
 背後から迫る枯葉を踏む足音は依然離れる事は無く、むしろ近づいてきている気すらする。
 もっと早く走らなければ。
 急く心とは裏腹に足は徐々に動きを鈍くしついにはもつれ、子は地面へと転がってしまう。

「その角、赤い肌。 間違いないな。 人を惑わし、その恐怖と命を喰らう『鬼』め!」
 追って来た者達のリーダーらしき羽織を纏った男が、逃げ惑っていた子へと剣を突きつける。
 赤い皮膚に2本の直角を持った、その鬼の子に。
「幼いが、やはり鬼。 麓に病を撒いて何を企んでいるのかは知らないが、この私の目の黒いうちは好き勝手させはしない!」
 羽織の男の真っ直ぐな瞳が鬼の子を貫く。
 彼の目の奥に燃える正義の心はやがて腕への力となり、鬼を貫く物は剣へと変わるだろう。
「助けて……誰か………」
 喉の奥に篭る、自分にすら微かにしか聞えないような助けの声。
 その声は、目の前の者にも他の誰にも届く事は無く、そのまま飲み込まれるように消えてゆくのだった。



「急な召集に集って頂き、ありがとうございます」
 息を切らせ、夢見の久方 真由美(nCL2000003)が覚者達に言葉を投げる。
 切迫した依頼の話は珍しくもないが、それにしても今回の真由美の表情からは殊更焦りが伺える。
「実は…古妖の『鬼』の子が人間の隔者に襲われる夢を見てしまって…」
 鬼。 この日本に住む者なら誰でも聞いたことは有るであろう古妖の名だ。
 昔話では人を襲う事もある鬼だが、人々を襲ったり悪さをしていたのははるか昔の話。
 その後は人と鬼とは尊重しあい良好な関係を築いてきたという。
 最も、人の文明の発達と共にその関係も希薄になってしまってきているらしいが…。
 
「この山の麓では何か災いが起きた時に『鬼の仕業』という風習があるんです。 慣用句のようなもので実際そうだと信じている人はほとんど居ないのですが、どうやら隔者達はそれを真に受けてしまったみたいで…」
 真っ直ぐな目程周りの様子が目に入らないとはいったものだ。
 それこそ毎年方々で流行する風邪ですら、鬼が裏で糸を引いていると思ってしまう程に。
 子供ですら信じないようなその言葉を有ろう事か鵜呑みにし、わざわざ退治する為に山へと入り込んだなんて笑い話のようですらある。
 しかし…
「このまま鬼の子が隔者に撃たれるような事があれば、鬼と人との関係すら悪化してしまうかもしれません。 暴走し鬼の子を撃とうとする隔者を…止めてください」
 この状況下でさらに敵を増やす事は、FiVEにとってあまりにも好ましくない。
 覚者達は深く頷き、鬼の子が逃げていると言う山へと向かうのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:のもの
■成功条件
1.古妖「鬼」の子の生存
2.なし
3.なし
失礼します、STののものです。
古妖『鬼』さんの登場です。
昔話といえば鬼退治ではありますが、鬼がどんな悪さをしてたのはあんまり覚えてなかったり。




●鬼の子
 人間で言えば7~8歳程度に見える鬼の子。
 鬼は人よりも強い種ではありますが、子供という事も有り戦闘に参加できるような強さではありません。
 人に対しては恨みや憎しみ等は無く、助けに入れば素直に言う事を聞くでしょう。


●隔者
 4人組の能力者の集団。
 独自の正義感はあるものの視野が広いとは言えない。
 人は鬼に苦しめられていると根拠も無く信じており、鬼の子を襲うに至った様子。
 戦闘前に説得に耳を傾ける事は無いと思われるが、叩きのめした後ならば話は聞くかもしれない。
 覚者達が鬼を助けに入れば、隙を付いて鬼を狙うなどは無く正々堂々と勝負に乗ると思われる。

・リーダー
 羽織を纏ったリーダー格の青年。 暦の因子、火行の術式を持つ。 思い込みが激しい。
 武器は刀。 使用スキルは『斬・一の構え』『炎撃』

・少女
 好奇心旺盛そうな体術使いの少女。 獣の因子(戌)、火行の術式を持つ。 小型犬っぽい。
 武器はナックル。 使用スキルは『鋭刃脚』『飛燕』

・中年
 シーフのような格好をした中年男性。 獣の因子(申)、木行の術式を持つ。 手が長い。
 武器は弓。 使用スキルは『深緑鞭』『樹の雫』

・中性的な青年
 落ち着いた雰囲気な青年。 獣の因子(酉) 天行の術式を持つ。 服は割と派手。
 武器は杖。  使用スキルは『召雷』『纏霧』



●場所
 鬼は木々に覆われた山の中を逃げ回っています。 余り奥には入っていない様で、覚者が山に踏み入れば鬼や隔者の場所は、足音や声ですぐに解ると思われます。 木々の間隔は不規則ではありますが3~4m間隔ほど、勾配はきつくはありませんがやや足場が不安定です。
戦闘に大きく支障をきたすほどでは無いですが、対策が有ればそれに越した事は無いでしょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月28日

■メイン参加者 8人■

『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『イランカラプテ』
宮沢・恵太(CL2001208)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『デアデビル』
天城 聖(CL2001170)


 木々の根元に苔の生す鬱葱とした森。
 物の怪が現れても不思議では無いその森の中を8人の覚者が駆ける。
「若さゆえの暴走か…よきかな、よきかな」
 赤い翼で飛翔し先導をする『白い人』由比 久永(CL2000540)が扇で口元を隠しながらそう呟く。
 夢見の話に聞いた、鬼の子を追う隔者の事だろう。
 彼等は彼等なりの正義感から動いているらしいが…
「噂を間に受けてしまうとは、純真といいますか、愚直といいますか」
「子供追いかけるなんて変態です!そうに違いありません!」
 周囲に気を配りながら後に続く『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は少し呆れた表情を浮かべ、幼い『半殺し派』菊坂 結鹿(CL2000432)に至っては呆れを通り越し怒りを露にしている。
 ただの勘違いなら笑って済ませる事もあるだろうが、今回はよりにもよって他者の命を脅かす勘違いとあれば結鹿の怒りも最もだろう。

「っと、待った。 こいつは……」
 『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025)が直観で視界の隅に捉えた違和感に皆を呼び止めた。
 地に積もる枯葉が所々湿りを帯びている。
 誰かが地を蹴るように慌てて駆けた事で、堆積した下層の濡れ落ち葉が表へ現れたのだろう。
「…かなり蛇行しているな。 直線で逃げられるよりかは追い易いが……」
 『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)が足跡の続く方へ視線と意識を向け耳を澄ます。
 風も無く木々も音を潜める静かな森。 その中からも僅かな音を捉えた柾と久永が足跡から僅かに逸れた一点へと視線を向ける。
「こっちだ! この先を横切るように移動している!」
「止めに行こう。 私達の力は、きっとそのためにあるんだから」
 黒い面に表情を隠した『裏切者』鳴神 零(CL2000669)の言葉に頷き、覚者達は音のする方へと駆け出すのだった。



「む! なんだ貴様達は。 麓の者には山に入らぬように言ったのだが…」
 追い詰めた鬼の子に刀と突きつけようと言う瞬間に鬼の子を庇うかのように滑り込んだ者達へ、リーダーと思しき男は驚きと警戒の声を向ける。
「いい大人が子どもを追い回してるなんて、恥ずかしくないんですか?」
 結鹿の言葉に、リーダーはピクリと眉をひそめるも動じた様子もなく刀を脇に振るう。
「そこを退け。 その子は鬼の子…麓に病を巻き、災厄を招いた者なのだ。 関係のない者は下がっていろ」
 一点の曇りもない瞳。 本当に自分のしている事は正しいと思い込んでいる者の目だ。
「実際に鬼が人を苦しめたという証拠は? 古妖がすべて悪だと決めつけるのか?」
 柾もまた、隔者の物とも違う柔軟性を欠いていない眼で隔者を見つめ返す。
「し、しかし………」
「言い伝えとかそんなレベルの話を間に受けるとかバカじゃないの?」
「正義感が強いのは良い事だども、人の言う事さ鵜呑みにして後先考えねぇのはただのアホだべよ」
 ぐうの音も出ない程の正論を正面からぶつけられ言葉を濁らせるリーダーに、『罪なき人々の盾』天城 聖(CL2001170)と『イランカラプテ』宮沢・恵太(CL2001208)が追い討ちをかける。
 隔者の仲間達も、話を聞いたほうがいいんじゃないかという目をリーダーに向けるが、意固地になったリーダーはぐっと口を結び刀を覚者へと向ける。
「う、五月蝿い! 貴様らも鬼に組するというならばただではおかぬぞ!」
 仕方ないといった様子で他の武器を構える隔者達。
「ま、こうなると思ってたけど……」
 聖の呆れたような声と共に、戦いの火蓋がきって落とされるのだった。



「おめぇさは絶対俺達が守っがら、なんも怖ぐねど」
 恵太は鬼の子へと笑顔を向けると弓を手に庇うように前に立つ。 隔者の意識は完全に覚者へと向いたが、それでも巻き込まれる危険や恐怖が消えたわけでは無い。
「ま、オレ達に任せておきな」
 恵太の隣に立つトールが鬼の子へと護符をかざし癒しの水の力で擦り傷を消し去ってゆく。
 何事かと怯えきっていた鬼の子もこくこくと頷き、覚者の事を信用してくれているように見える。
「こっちはなんも心配いらねっから、遠慮せず戦ってくんな」
 恵太の声に頷く覚者達。 最大の目的である鬼の子の安全はとりあえず確保した。
 しかし、それも隔者を止めなければ結局は元の木阿弥である。
「ふふふ、任されました。 言って聞かない相手のようですし少しお灸を添えないとですかね」
 久永が赤い羽根がばさりと羽ばたかせると、仰がれた風が霧となり隔者達を覆いこむ。
 ゆったりと流れ隔者を包むその霧は、視覚を遮るだけではなく体中に纏わりつきその動きを鈍くする。

「ふん! こんな霧なぞ……俺の太刀で切り裂いてくれる!」
 リーダーの男が霧中を駆け覚者へと詰め寄ると、その刀を覚者へと煌かせる。
 目標まで一直線に走る真っ直ぐな太刀筋。 しかし、僅かに心に淀む迷いや焦りがその太刀に宿るのを祇澄は見逃さなかった。
「ここから先は通しません。 神室神道流、神室祇澄。いざ、参ります!」
 真っ直ぐな太刀を正面から受け返す祇澄。 その気迫にリーダーの男は気圧され迷いと焦りは大きくなる。
 祇澄は揺るがない大地のような意思と力を刀に宿し薙ぎ払うように振るうと、その威力を受けきれずにリーダーの男はたまらず1歩2歩と後退する。

「く、このぉ!」
 リーダーの劣勢を見て援護に入ろうとする隔者の少女。
 その少女の前に割って入るのは、大太刀を携えた零だ。
「がんばるよ……」
 零は鈴を握り締め、頬を染めながらそう呟く。 ほんの一瞬、仮面の下での乙女の顔をすぐに覚者の表情へと変え、大太刀を構える零。
「十天、鳴神零!! 鬼退治なんて、盲目も良い所よ!」
 先ほどの祇澄にも負けぬ程の強い意志の視線が少女を貫くも、少女はその気迫に負けじと素早く間合いをつめて拳を振るう。
 大太刀の内の間合いからの回転の速い連撃を、太刀の柄で受け、身を捻りかわしながらその遠心力のついた太刀で少女を振り払う。
「ぐぅ……! こいつら結構強いよ!」
 鬼ですら倒す自信のあった拳も受け流され身を引くこととなった隔者の少女は、むぐぐっと表情を歪める。
 気おされ引いたリーダーの前で、もう一度零へと特攻をかけようとする少女だが……
「少し大人しくしてもらう。 悪く思うなよ?」
 敵が纏まった小さな隙を柾が狙い撃つ。
 力を込めた柾はその掌を隔者達に向けると気の弾丸が横殴りの雨のように放たれ、降り注ぐ衝撃にリーダーの男と少女はたまらず跳ね飛ばされる。


「劣勢か……。 ならばこちらも」
 仲間の危機に逸早く動いたのは中性的な青年の隔者だ。
 天を仰ぐように両手を広げた青年から発せられたのは、先ほど久永が放ったものと同じ体の動きを鈍らせる霧の術だ。
「ったく。 こんな霧の中じゃ飛びにくいったら無いよ」
 その霧の中、木々を縫うように舞うのは翼の因子の少女、聖だ。
 根の張り巡らされた足場の悪さは我関せずとばかりに自由奔放に動き回り、青年に向けて杖から次々と風圧を打ち出す。
 咄嗟に雷撃の術で応戦しようとする青年隔者だが、角度を変え多方向から襲い来る風に身を守る事すらままならずにダメージを重ねてゆく。

「ちっ。 鬼に勝つつもりで来たってのに…」
 中年の隔者が舌打ちをしながら弓を引き絞る。 この4人なら鬼にですら負けないと思っていた。
 しかし、今自分達を追い詰めているのは体格に勝る鬼でもなく、自分達と同じ人間だ。
 今までどんな妖にも勝ち続けてきたプライドを弓を引く力に変える。
 狙いは、宙を舞う久永。 鳥を射落とすように一撃で仕留めるべく針の穴をも通す集中力で覚者へと矢を放つ!
「おっと、危ない危ない」
 吸い込まれるように久永へと向かう矢。 しかしその軌道を巻くように体を捻り矢は久永の後方の虚空へと消えてゆく。
 馬鹿な…という言葉が喉まで出かけたその一瞬に、黒い髪の軌跡を残しながら中年の懐へと滑り込んだのは小柄な少女、結鹿だ。
「子どもを追いかけて得意顔するような人を許すわけにはいきませんよ。悪即斬です!」
 蒼龍と名付けられた刀を引き絞り、体のバネを生かし突き上げる。
 結鹿の小柄な体から放たれたとは思えない程重い突きをなんとか弓で受けるも、その衝撃は殺しきれずに中年の隔者は吹き飛び木へと背中を打ち付ける。

「癒しの霧よ……!」
 後衛のトールが護符を指先でつまみ目を閉じると、ぼんやりと光を放つ符から光り輝く霧が現れ辺りを包む。
 先ほど久永や青年の使った術とも違う、重さを感じさせずに仲間達を優しく包み込む癒しの霧。
 前衛で少女と格闘を繰り返す零や、敵のリーダーと切り結ぶ祇澄の傷をまるで初めから無かったかのように塞いでゆく。
「回復の術、あなたが1番厄介なようですね。 まずはあなたから…」
 覚者を癒す霧に感づき、遠距離の攻撃手段を持つ青年と中年の隔者がその武器をトールへと向ける。
 潰すべきは癒し手から。 彼らの経験からの判断は早く、最善の手であると言えたかもしれないが…。
「そったらこと簡単にさせねぇべ!」
 声と同時に稲妻が降り注ぎ、二人の足元へと突き刺さる。
 鬼の子を庇う恵太が援護ではなった『召雷』の術だ。
 命中はさせなかったものの、その閃光と爆音に二人の隔者は思わずたじろいでしまう。


 終始劣勢を強いられる隔者達。
 人数に劣り、連携もこちらに負けない程の相手。 そして何より一人一人の練度が高い。
 しかし、鬼を討つまで、負けるわけには行かないのだ。
「俺は…負けない! 負ける訳が無いんだ……!」
 繰り返す剣戟の末に追い込まれたリーダーの男は、森中に響くほどの大声で叫ぶ。
 見栄っ張りの意地。 しかしその気迫は凄まじく、相対していた祇澄は警戒し防御を意識した構えを取る。
 対するリーダーの構えは、防御を棄てた特攻の構え。
 この一撃で全てを決する。 そんな覚悟が構えと表情に表れていた。
「負けない…。 なぜなら……正義は必ず…勝つのだから!」
 獣の如く跳ね激情をそのままぶつけるような太刀。
 防がれようがそのまま切り伏せる程の力を込めたその一撃は、祇澄の刀に触れると激しい火花を散らす。
 刀同士がぶつかったとは思えない程の重い音が響いたかと思うと……刀はそれ以上進む事は無く、ふるふると震えるのみだった。
「っつ……。 止め…ましたよ」
 衝撃に手を痺れさせながらも、堪える祇澄。
「馬鹿な……。 正義は必ず……」
 力を使い果たしたのか、決死の一撃を止められた事がショックだったのか、よろよろと後ずさりながら呟くリーダーの男。
 その前に黄色い羽の少女がふわりと舞い出る。
「だから負けるんじゃない? なにせ、正義は必ず勝つんだから」
 皮肉と共に打ち出された空気の弾丸にはじかれ、地面へと転がり刀を落とすリーダーの男。
 ギリギリの所で気絶には至ってはいないようだが、戦意を保てているとも思えない。

「どうする? まだやるか?」
 腰に手を当て他の隔者へと問う柾。
 隔者達は互いに互いを見合わせ、武器を収めるのだった。



「よし、こんな所だろ。 応急処置だけどな」
 トールの術での回復を受けたのは、先程までトール達と戦っていた隔者達だ。
 仲間や鬼の子の傷を癒した後に説明を受けると同時に癒しの施しを受けていたという訳だ。
「つまり……。 この鬼は悪では無いということか?」
 まだ納得がいっていないという様子で聞き返すリーダーの男にトールが答える。
「この鬼に災いを起こすような力はない。 強いて言えば、人より強いくらいだろうさ」
 その答えに、むっと口をつむぐリーダーの男。
「おめぇら、自分の子供が同じ目に遭ったっけ、どったら気持ちする?」
 鬼の子が人の子とさして差が無いことが解った直後に続く恵太の言葉に俯く隔者達。
 特に鬼の子と近い年の子が居てもおかしくない中年の覚者は容易に想像できたのか、額を押さえ首を振る。
「確かに悪さを働く古妖はいるかもしれない。 でも古妖全部が悪い訳じゃない」
「自分の目で確かめてから行動することだ」
 零と柾の、至極尤もな叱咤。
 まるで親に怒られる小僧のように膝を突き覚者の言葉に頷く隔者達。
 それこそ小僧でも解る様な簡単な、そして大きな間違いを犯したからのこの状況なのである。
 言い訳も反論もしようがない。
「幼き命を間違って殺めてしまわずにすんで良かったのぉ。 なに、間違いは誰にでもある。これを糧にして次に活かせればよいのだ」
 反省はしている、次を起こす事が無ければこの森の中で長々説教も無いだろうとばかり出された久永の助け舟に、隔者達はほっと小さく息をつくのだった。

「ごめんなさい。人が皆ああだと思わないでほしいかな…。 少なくともわたしは、仲良くなりたいと思ってるんですよ」
 腰を落とし、幾分警戒のとけた鬼の子と目線を合わせて結鹿が優しく声をかける。
「あの人達も色々あるだけだから、許してあげて」
 続く零も仮面を外し、暖かい笑顔で鬼の子に言葉を投げると、少し困ったような顔をしながらも、鬼の子は小さくこくりとう頷く。
 そんな鬼の子の頭を祇澄が優しくなでると、少し恥ずかしそうに首をすくめて笑顔をみせる鬼の子。
 そんな人と何も変わらぬ鬼の子の姿を見て隔者達は立ち上がり、深いお辞儀を一つ。
「すまなかった。 この通りだ。 以後、このような事は絶対にしないと約束する」
 覚者ではなく自分への侘びの言葉に、オロオロとしながらも頷く鬼の子。


「したっけ一件落着だべな。 家さ帰れっか?」
「う、うん。 ありがと……」
 恵太の言葉に鬼の子が答えたその時、木々の枝を掻き分け何者かが姿を現す。
 覚者も隔者達も驚きそちらを見ると、そこに立っているのは鬼とも人ともつかない不思議な姿の女性。
 鬼の子のような赤い肌では無い肌色の肌をしながらも、額に生えた3本のツノは紛うことなき鬼の物だ。
 腕も丸太のように太く、明らかに人のものとは違う。
 そして強者のみが纏う独特の空気に、覚者達の緊張が高まったその時に…。
「お母さん!」
 鬼の子の声が張り詰めた緊張の糸を瞬く間に弛緩させる。
「無事だったのかい。 随分遅いから心配しちまったよ」
 駆け寄る鬼の子の背をバンバンと叩き豪快に笑う女性。
「お母さん……? あんまし似てないみたいだけど」
 正直に出た聖の言葉に一瞬キョトンとした女性は、腹を抱えてさらに大きな声で笑う。
「はっはっは! それをあたしの旦那に言ってみな? 青ざめて青鬼になっちまうかもね」
 笑っていいものかも解らない冗談に結鹿は曖昧な愛想笑いを浮かべると、それに気づいた女性は説明を付け加える。
「悪い悪い、冗談さ。この子の親って言ってもあたしが生んだんじゃない。 里親みたいなもんさ。 こんな大きな子が居る年にみえるかい?」
 腰に手を当てて威勢良く言い放つその貫禄は肝っ玉お母さんのそれのように思えなくも無いが、彼女を前に肯定する度胸のある者は少ないだろう。
「で、そういうアンタ達は何者なんだい? この山に連れ立ってピクニックでもあるまいし」
 笑顔のまま、しかし警戒心を含めた視線で撫でるように皆を見る女性。
 携えた武器に争いの後の残る場所。 下手な言い訳は出来ないが本当の事を言うには言葉を選ばないといけない。
 覚者も隔しゃも言葉に淀んでいると、最初に答えを返したのは鬼の子だった。
「こ、この人達には…その、助けて貰って。 今から帰る所だったんだ」
 取り繕い庇うようなその言葉に女性は少し驚いた表情をするも、おおよその事は察したようで子の頭を撫でながら覚者へと礼を言う。
「アンタ達にには世話になっちまったみたいだね」
 何についてかをあえて触れず子の嘘に合わせつつも、子を守ってくれた事に対する感謝を込めて頭を下げる。 
「ま、こうやって知り合ったのも何かの縁だ、仲良くやって行こうじゃないか。 あたし達はこの山のもっと奥に居るからさ、あんた達なら尋ねてくれば茶くらいだしてやるよ」
 そう言うと子を抱きかかえ、女性は山の奥へと消えていく。
「……一件落着、でいいのか? ま、とりあえず報告に戻るか」
 バタバタしたが当初の目的であった鬼の子の保護は成功し、隔者を殺す事無く説得する事も出来た。
 それに加えて鬼の女性と友好な関係を結べた事も大きいだろう。
 報告時の真由美の驚く顔が目に浮かぶような、よい報告が出来そうだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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