【妖侍伝】百妖夜行と地蔵様
●古妖『地蔵』と喪われた天獄刀
奏空、きせき、満月、結唯、静護、アーレス、遥、プリンス。
そして紋左衛門、鐺乃助、柄司、斑鯉。
彼らは人払いした道場に集められていた。
上座に立つは鎬次郎である。
「エエ!? てこたあ先生、あんた古妖だったのかい!」
「俺の巨乳伝説……」
「柄司、ちゃんと聞きなさい」
「ううむ……」
鐺乃助たちは困惑しているが、一方でアーレスたちは冷静だ。
咳払いして語る結唯。
「閻魔大王とは大きく出たな。これは仏教に取り入れる際地蔵菩薩と同一視された存在だ。道の地蔵が人々の行ないを見ているから、死後の輪廻を裁定できるとしてな。お前はさしずめその眷属。古妖『地蔵』といったところか」
「工藤が地蔵から感じた感情は、お前が道の地蔵を通して我々の行動を探っていたからだろう。細かいメカニズムは分からないが、魂や霊体を分けて離れた場所に自身のコピーを作成する能力か。ただ妖を退治しにきただけではない我々に強い警戒心を抱いてしまい、それが工藤の感情探査にかかったと」
満月は深く頷いて納得した。
「お前ら俺らの感情探ってたのかよ」
ジト目になる柄司をまあまあとなだめる斑鯉。
「そういえば皆さんは天獄村の範囲について知りたがっていましたね。もともとこれはとても広い範囲……つまり香取市ないしは千葉県を覆うほどのものだったと推測されていますが、今は村や集落規模まで狭まっています。もしかしてこれは」
「然様。我が『地蔵眼』の届く範囲が天獄村であった。この力も時代の流れによって弱まった。今ではせいぜい十キロ。それもこの村の中に限られる」
鎬次郎の話によれば、その『地蔵眼』で残留思念を遠隔浄化することでこの村に妖が発生しないように押さえていたのだそうだ。そうして顔を変え名前を変え、この土地に紛れて住み続けてきた。
しかし……。
「お地蔵様でも押さえきれない事件が起きようとしてるんだね」
奏空がずずいと前へ出た。
「俺は似たような事件について調べた時、辻斬りの話を読んだんだ。その人たちの末裔が今の鎬次郎さんたちなんじゃないかって。刀も……」
「半分正解だ。我が末端となる地蔵を鋼に錬成した地蔵鉄が、彼らの刀」
そっと床に刀を並べていく鎬次郎たち。
「端から道人刀、間修刀、羅畜刀、生餓刀、鬼地刀。そして天獄刀のかたわれ」
「二刀一対の刀というわけですね」
アーレスは冷静にそれらを分析した。というより、手に持った時点であることがわかった。
「恐ろしく軽い。日本刀の重量とは思えない」
「それこそ地蔵鉄。人外の製法で作られた鋼よ。しかし天獄刀だけはひと味違う」
「……神具、というわけですか」
ごくごく小さな例外を除いて、非覚者は神具を扱えない。精神力等を激しく消耗するからだ。
「そっか! 天獄刀の持ち主が覚者になれたから、神具に改造したんだね!」
きせきがぱちんと手を打つ。
反面、遥の表情は暗い。
「でも、戦いの中でそれは砕けた。斑鯉さんの言ってた百体の妖が出現した事件のせいで……」
「むろんその戦いにはわしも参加した。それゆえ力は大きく失われたが、土地を守ることはできた」
妖との戦いということは、最低でも1990年以降だ。
「三年前までは夢見のばあさんが生きてたって言ってたよな。夢見ってことは覚者だ。その戦い……」
「うむ参加したのも、彼女だ」
こうして刀の秘密と土地の由来は分かった。
だが肝心なのはここからである。
「余と民に頼みたいことがあるんだよね?」
「然様」
鎬次郎は地図を広げた。
彼ら五人の自宅と神社が線で結ばれ、正確な六角形ができている。
やっぱりか、と呟く遥。
「昔、この土地で横行した辻斬り事件があった。犯人は古妖、それも狐憑きだ。様々な侍に乗り移っては辻斬りを繰り返す。それを討伐すべく地蔵鉄と刀を作り、対抗した。除霊の力を持つ刀としてな。しかしあろうことか天獄刀の持ち主が取り憑かれ、やむなくこれを斬った。その怨念は今も残り……」
「前に妖として発生した。しかもそれは、また起きる」
「うむ」
鎬次郎は頷いた。
「これを、討伐してもらいたい」
奏空、きせき、満月、結唯、静護、アーレス、遥、プリンス。
そして紋左衛門、鐺乃助、柄司、斑鯉。
彼らは人払いした道場に集められていた。
上座に立つは鎬次郎である。
「エエ!? てこたあ先生、あんた古妖だったのかい!」
「俺の巨乳伝説……」
「柄司、ちゃんと聞きなさい」
「ううむ……」
鐺乃助たちは困惑しているが、一方でアーレスたちは冷静だ。
咳払いして語る結唯。
「閻魔大王とは大きく出たな。これは仏教に取り入れる際地蔵菩薩と同一視された存在だ。道の地蔵が人々の行ないを見ているから、死後の輪廻を裁定できるとしてな。お前はさしずめその眷属。古妖『地蔵』といったところか」
「工藤が地蔵から感じた感情は、お前が道の地蔵を通して我々の行動を探っていたからだろう。細かいメカニズムは分からないが、魂や霊体を分けて離れた場所に自身のコピーを作成する能力か。ただ妖を退治しにきただけではない我々に強い警戒心を抱いてしまい、それが工藤の感情探査にかかったと」
満月は深く頷いて納得した。
「お前ら俺らの感情探ってたのかよ」
ジト目になる柄司をまあまあとなだめる斑鯉。
「そういえば皆さんは天獄村の範囲について知りたがっていましたね。もともとこれはとても広い範囲……つまり香取市ないしは千葉県を覆うほどのものだったと推測されていますが、今は村や集落規模まで狭まっています。もしかしてこれは」
「然様。我が『地蔵眼』の届く範囲が天獄村であった。この力も時代の流れによって弱まった。今ではせいぜい十キロ。それもこの村の中に限られる」
鎬次郎の話によれば、その『地蔵眼』で残留思念を遠隔浄化することでこの村に妖が発生しないように押さえていたのだそうだ。そうして顔を変え名前を変え、この土地に紛れて住み続けてきた。
しかし……。
「お地蔵様でも押さえきれない事件が起きようとしてるんだね」
奏空がずずいと前へ出た。
「俺は似たような事件について調べた時、辻斬りの話を読んだんだ。その人たちの末裔が今の鎬次郎さんたちなんじゃないかって。刀も……」
「半分正解だ。我が末端となる地蔵を鋼に錬成した地蔵鉄が、彼らの刀」
そっと床に刀を並べていく鎬次郎たち。
「端から道人刀、間修刀、羅畜刀、生餓刀、鬼地刀。そして天獄刀のかたわれ」
「二刀一対の刀というわけですね」
アーレスは冷静にそれらを分析した。というより、手に持った時点であることがわかった。
「恐ろしく軽い。日本刀の重量とは思えない」
「それこそ地蔵鉄。人外の製法で作られた鋼よ。しかし天獄刀だけはひと味違う」
「……神具、というわけですか」
ごくごく小さな例外を除いて、非覚者は神具を扱えない。精神力等を激しく消耗するからだ。
「そっか! 天獄刀の持ち主が覚者になれたから、神具に改造したんだね!」
きせきがぱちんと手を打つ。
反面、遥の表情は暗い。
「でも、戦いの中でそれは砕けた。斑鯉さんの言ってた百体の妖が出現した事件のせいで……」
「むろんその戦いにはわしも参加した。それゆえ力は大きく失われたが、土地を守ることはできた」
妖との戦いということは、最低でも1990年以降だ。
「三年前までは夢見のばあさんが生きてたって言ってたよな。夢見ってことは覚者だ。その戦い……」
「うむ参加したのも、彼女だ」
こうして刀の秘密と土地の由来は分かった。
だが肝心なのはここからである。
「余と民に頼みたいことがあるんだよね?」
「然様」
鎬次郎は地図を広げた。
彼ら五人の自宅と神社が線で結ばれ、正確な六角形ができている。
やっぱりか、と呟く遥。
「昔、この土地で横行した辻斬り事件があった。犯人は古妖、それも狐憑きだ。様々な侍に乗り移っては辻斬りを繰り返す。それを討伐すべく地蔵鉄と刀を作り、対抗した。除霊の力を持つ刀としてな。しかしあろうことか天獄刀の持ち主が取り憑かれ、やむなくこれを斬った。その怨念は今も残り……」
「前に妖として発生した。しかもそれは、また起きる」
「うむ」
鎬次郎は頷いた。
「これを、討伐してもらいたい」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.百の妖を討伐する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
天獄村シリーズ第三話。
今ある素材をフル活用して妖の大群を撃退しましょう。
●百妖夜行
ランク1心霊系の妖が天獄村のあらゆる場所で次々に発生します。
ただし発生地点を特定しやすいよう、鎬次郎は予め『天獄刀の破片』を各地蔵の中に埋め込んでいました。
村にある百体の地蔵が次の妖発生地点となります。百体同時発生を防ぐべく抵抗をかけており、発生時間はランダムになります。また、妖が発生した際地蔵は崩壊します。
鎬次郎はこれらの妖が発生するタイミングを五分前くらいに察知することができます。
ただし彼は一人しかいないのに対し妖は何体かは同時発生します。送受心の距離にも制限があるので公衆電話等をフル活用しながら駆け回ることになります。
・地形と時間について
天獄村エリアは刀所有者の家々を中心とした歪んだ六角形です。大体円形だと考えて頂いて構いません。車を飛ばせば端から端まで十分程度で移動できます。
妖発生時間は深夜三時から五時までの二時間。ちょいちょい休憩しながら連戦することになるでしょう。
住民は事前に門左衛門たちが避難を終えています。被害は建物等の破壊程度で済むでしょう。
・連続戦闘について
今回は特殊な状況なので、ちょっぴりの休憩で一戦闘ごとに氣力と体力は最低でも八割まで回復するものとして判定します。
八人で百体。単純計算で一人十二体半ですが、この要領であれば(命はって頑張れば)達成できるでしょう。
・妖の戦闘力について
第二話で戦った妖の半分程度の戦闘力。生まれたばかりで弱い。一度に四体くらいなら一人で対応できる程度。
ただし今回は到着が遅れれば遅れるほど妖が密集するので注意が必要。
・移動について
PCが自動車免許等を持っている場合車両を使用することができます。
また、門左衛門、鐺乃助、斑鯉の三人は普通自動車免許を持っているため移動に役立ちます。ただし彼らの持つ刀はずっと昔の狐憑きをやっつけるための刀なので、今は普通の刀程度の威力しか持っていません。戦闘力はとても小さいのでご注意ください。
・語り尽くしてないっぽい疑問(一部)
鎬次郎が一話目の妖事件でボロ負けしていた理由→古妖であることは周りにヒミツだった。あと古妖だからって戦闘力が高いわけじゃないらしい。
二話目の妖事件で鎬次郎が動かなかった理由→F.i.V.E覚者たちが善人のふりをして刀や古妖を狙う隔者である可能性があったため。
天獄刀は今は使えないのか→他の双刀はともかく天獄刀は二刀一対の神具なので今は機能しない。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年12月09日
2015年12月09日
■メイン参加者 8人■

●地蔵と百妖と覚者(トゥルーサー)
夜に静まる住宅街。その一角にひっそりと存在する地蔵に、ぴきぴきと小さなヒビが入った。
頭が欠け、手が欠け、一秒と経たずに全体が破裂し、一体の心霊系妖が出現した。
和服人型二刀流。この土地が長年押さえてきた怨念が小さく小さく拡散した姿。二刀流ノ妖である。
妖は周囲を見回し、人の居そうな場所を目指して一歩二歩と足を進めた――ところで。
「くらえー!」
ワンボックスカーが妖をはねた。
回転しながら飛び、地面に落ちる妖。
急ブレーキと共に開いた扉から、鹿ノ島・遥(CL2000227)が転がるように降りてくる。
「見つけたぜ。後がつかえてんだ、名乗りは省略だ!」
刀を構えた妖に突撃。拳に雷を纏わせると、刀の防御をぶち抜く形で正拳突きとした。
螺旋状に拡散し、消滅する妖。
宙に生まれて落下する金属片をキャッチすると、遥は車へと急いで戻った。
「待たせた! 出してくれ!」
「次はB6地点だな」
門左衛門はハンドルを握り、横で地図を広げた『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)を見た。
妖の発生がランダムで起こる以上、定期的な巡回はかえってロスが多い。村の中心に拠点を置き、鎬次郎の感知情報を元に発生予定地点を蛇のように繋いで行くのが効率的だという結論に至ったのだ。
「B6のあとはB5、A1だよ」
あどけなくも無垢な子供の口調で地図をなぞっていくきせき。口調の幼さから見くびりがちだが、卑怯なほどに基礎知能が独自発達している彼である。
「次は三体いっぺんにいるから、一緒に出ようね、王子!」
「えっ?」
後部座席にお布団引いて横になっていたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、ゴ○ゴアイマスクをしたまま振り返った。
「ごめん余……民には黙ってたけど、遅くまで起きていられない呪いがかかってて。これを破ると翌日目の下にクマがね」
「王子」
「うん行く、行くよ」
そうこうしているうちに車は小さな公園へと到着。ジャングルジムも滑り台も撤去された寒々しい土地に妖が集まっている。
「サクッっとやっちゃおー!」
刀を引き抜き、きせきは妖の群れへと飛び出していった。同じく車から飛び出す遥。『おそと寒い寒い』言いながら窓から手だけ出して召雷するプリンス。
雷の直撃をうける妖に、きせきと遥は同時に襲いかかった。
一方その頃、工藤・奏空(CL2000955)は公民館の屋内に大きな地図を広げていた。
複数並んだ電話機をとりながら、柄司が地図に印をつけていく。
「E16の地蔵が限界だ。近くに誰かおるか」
「今アーレスさんとこが近いな、行って貰って!」
鎬次郎の感知を受け取って、奏空が対応。電話か送受心で仲間に指示を送る。いわばここは中央司令部だ。
わざわざ屋内まで戻ってこなくてもいいように、奏空は送受心を常時アクティブにしていた。
これによって司令部は公民館の中だけで無く、周囲20メートル圏へと拡大。車を受信可能位置に停車することでいつでも指示をうけられるようになっている。
「妖の勢いが強まっている。波が来るぞ」
「畜生、妖の野郎……」
受話器と油性ペンを握って歯噛みする柄司。奏空はきりっとした顔で言った。
「柄司……お前の仇、絶対とってやるからな」
「へへ、たのもしいぜ」
これが家族とか家とかペットとかだったらいい話なのだが、自宅に秘蔵したエロ本のことだってゆーから締まらない。
「一色さんに連絡だ。F2地点に四体。連戦!」
先述したように奏空の指示は送受信で届く。『星狩り』一色・満月(CL2000044)と離宮院・太郎丸(CL2000131)は鐺乃助が運転する車に乗っていた。
「行くぞ、つかまってな!」
「応」
助手席の満月は地図を手にナビゲートを勤めている。その手に力がこもった。
「なあ、鐺乃助。どうして事件が起こるとわかっている村に留まったんだ。鎬次郎が地蔵だと知らないにしても、妖の事件は目の当たりにしていたはずだ」
「なあに、日本国内に逃げ場なんて無いさ。妖が出るから海外に引っ越そうなんて考え、みんなしてないだろ」
「……」
肝心な所は口にしていない。それでもいわんとしていることは分かった。
後部座席て手に力を込める太郎丸。小声で呟く。
「地元の皆さんは土地勘があるから目的地まで最短でたどり着ける。移動時間の短縮にはこれが最適ですけど、この人たちが傷ついたら運転ができなくなってしまう。この作戦を選ぶなら、鐺乃助さんたちをいかに守りながら戦うかも重要になりそうですね……」
「ついたぞ、あそこだ!」
民家の壁を登った妖が、屋内へ入り込もうと窓を割っている。
住民が避難しているとはいえ、柄司の家のように火災が起きたら大変だ。
「行きます!」
扉を勢いよく開き、太郎丸は即座に召雷。時間の短縮を考えるなら纏霧を挟まない方が効率的だと判断したためである。
雷にあてられて転げ落ちる妖。満月は急接近し、妖が地面につくよりも早く刀で両断した。
「まだ恨みがましく残っているのか。まだ、辻斬りを続けたいか……そうまで、復讐がしたいか」
目を強く瞑る。深く考えている時間は、今は無い。
「次へ行くぞ」
「はい!」
満月たちは車に戻り、拠点へと向かう。
斑鯉の運転する車が目的地へと急行する。
その座席には『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)と『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)が座っていた。
結唯は黙って銃をリロードし、弾を満タンに込めていた。
一方で地図に印をつけていくアーレス。
「中央拠点から指示を飛ばして順次チームを派遣していくという今のやり方……」
ボーダーは八体以上の密集ケースのみ。目に見えた欠点のない作戦だ。
強いていうなら目標を撃破した直後に近くで敵が発生した際の対応が危ぶまれるが、近所の電話で撃破連絡を入れる際にそれを最低限カバーできる。
あと気にするべきことと言えば、単純でありながら数が多いので細かいミスが重なる危険があることと、自動車事故や合図用アイテムの紛失といった突発的トラブルの危険くらいだろうか。10体や20体を相手にするなら無視してもいい要素だが、100体となると細かい部分にも気を配りたい。
「次の角を曲がった所です。準備はいいですか」
「構わん。ここで止めろ」
結唯はそう言うと、走行中でありながらドアを開けて降車。転がり出ながら妖たちへ銃撃を開始した。
助手席から身を乗り出し、同じく銃撃を加えるアーレス。
さすがに一体ずつが弱いだけあって倒すのも楽だ。
「殲滅完了」
「連絡してきます!」
近くの民家へ合い鍵をつかって入り、玄関の電話機を借りる斑鯉。連絡を終えて帰ってくるかと思いきや、慌てた様子で家から飛び出してきた。
「付近で新たに妖発生、今から向かいます!」
「やれやれ」
小声で呟き、車に戻る結唯。
アーレスは銃をリロードして助手席のシートベルトをしめた。
どうやら、もう暫く休むことはできなさそうだ。
「さ、急ぎましょう」
●送受心と地蔵眼、そして――。
100体。一人当たり12体の妖を退治するというこの案件の密度がゆえ、ダイジェストでお送りすることをお許し頂きたい。
アーレスと結唯と斑鯉の第三班、満月と太郎丸と鐺乃助の第二班。彼らは天獄村(正確には地蔵眼有効範囲内)で複雑なジグザグ移動を繰り返し、それぞれ20体ほどを撃破してから拠点へ帰還。
きせき、遥、プリンスと門左衛門による第一班は村西側を大きく蛇行する形で進み、一番端のエリアまで到達。帰りはほぼ直線ルートで帰還している。撃破数は30体。
かれこれ70体の撃破に成功している。作戦は七割方成功したといっていいが……。
「拠点の周り……っていうか、神社とかの『六角形エリア』がやけに残ってるな」
奏空たちは地図を囲んで唸っていた。妖の発生はランダムだ。ランク1程度の妖に、というか発生すらしていない妖に発生パターンを操作して彼らを攪乱しようなんていう能はない。
「やっぱ離れてる分、封印がビミョーに弱いんじゃねーかな。普段じゃわかんねーくらいの差だけど、こういう切羽詰まったときにはそういう差って出てくるだろ」
「かもね。年々範囲が狭まってるっていうし、外側はそれだけ弱かったんだろう……」
反面、中央に集まってくれているなら好都合だ。派遣もしやすい。
しかし地図の端っこに残った数個の地蔵が気になる。嫌なタイミングで妖が発生しなければいいが。
「い、いかん。残りの妖が一斉に出現しようとしている」
「うわやっぱり嫌なタイミングで来る!」
奏空は送受心を展開。仲間たちに指示を送った。
発生箇所は三箇所。妖が複数一度に発生し、融合を始めている可能性があるとのこと。
仲間たちはそれに応答して現地へ向かった……が、奏空は地図の端っこが気になっていた。
「鎬次郎さん、ここって」
「うむ、このすぐ後だ。もし発生したら村の外へ向かうのは確実だろう」
奏空は頭の中で計算した。
仲間たちが妖を倒しきるまでの時間にプラスして、村の端っこへ行って妖を倒すまでの時間。
もしかしたら間に合わないかもしれない。
「こうなったら……!」
奏空は外に飛び出した。飛び出したそばから自転車に跨がった柄司が目の前に止まった。
目を合わせ、頷き合う二人。
一方結唯とアーレスは妖に遭遇していた。
「なんですかあれは、かなり大きな……」
身の丈三メートルはあろうかという巨大な心霊系妖が道路の中央を歩いている。
「複数体の妖が融合したものでしょう。少し手こずりますが」
「まとまってくれただけ楽だ。行くぞ」
結唯は二丁の銃を乱射しながら突撃。振り返って刀を振り込む妖をスライディングでよけながら、足下をくぐり抜ける。
一方でアーレスは近くの民家に突入。屋内を駆け抜け裏口から飛び出すと、妖の死角へと回り込んだ。
「そこです」
後頭部に狙いをつけて銃撃。予期しない攻撃をうけた妖は慌てて振り返るが、足下の結唯がそれを許さない。地面に手を突き、隆槍を発動。
隆起した地面に足をとられ、転倒する妖。アーレスは素早く術式を組み、炎の渦を展開させた。
妖は炎に呑まれて暴れるが、アーレスは更に火力を追加。より巨大な炎を生み出し、妖を丸焼きにしていく。
「見ず知らずのあなたではありますが、その怨念……ここで終わらせましょう」
そのまた一方満月と太郎丸。
こちらも三メートル級の妖に遭遇していた。普通に道を通っていては遠回りになるということで、民家の屋根に駆け上っての強行である。
「負の連鎖、ここで断ち切る!」
満月は屋根を蹴って妖へ斬りかかった。
刀を翳し、彼の斬撃を受け止める妖。
もう一方の刀を振るうと、巨大な衝撃となって満月や後ろの民家を襲った。
「っ!」
ノートを抱えた太郎丸は防御姿勢を取りながらも癒しの滴を展開。カウンターヒールによって衝撃を逃がすと、ノートを広げた。
「恐らくこれで最後。一気に決めます!」
太郎丸は召雷を発動。電撃が妖に降り注ぎ、その動きを一瞬だけだがひるませた。
たった一瞬、されど一瞬。
満月は民家の壁に両足をつき、カッと顔を上げた。
太郎丸に斬りかかろうと飛び上がる妖。
「させるか!」
満月は壁から飛び立ち、妖の腕を空中で切断した。
バランスを崩す妖。一方で太郎丸は手のひらに電撃を集中。
トドメとばかりに腕を突き出すと、レーザービームの如く電撃を解き放った。
それは妖の腹を貫通。複数の金属片を残して、妖は消滅した。
仲間たちが順調に妖を退治していく中、プリンスたちは融合前の妖の集団を発見。交戦状態に入っていた。
「大丈夫かな。村の端にまだ残ってるらしいけど……」
「前に出たら王族も一兵卒もいっしょ。余は民のことマジ信じてるからね。こっちはこっちでやっちゃおうカノブー・アンド・キセキ、ウィズカンヌシ!」
へんてこなハンマーを振り上げ、号令を放つプリンス。
彼のハンマーが大地を打つと同時に、激しいスパークが大地を走った。
スパークは妖の群れへ殺到。数体がそれによってひるむが、こちらを先に発見していた妖たちはプリンスめがけて一斉突撃を仕掛けてくる。
「カノブー、ディーフェーンス!」
「ディーフェーンス!」
うっかり調子を合わせちゃった遥は横スライディングで間に割り込み、フックパンチからの後ろ回し蹴りのコンボで妖を一体消滅させた。その後ろから別の妖が二刀同時に斬撃を繰り出すが、両拳を叩き付けて刃を弾くことで相手の両腕を開かせる。
「アタマ使うのはともかく、バトルは得意なんだよ!」
遥は大地にむかって瓦割りパンチ。大地を四方八方に駆け抜けた衝撃が、周囲の妖たちを一斉に吹き飛ばす。
「ぼくもバトル得意だよー! だってゾンビだもんね!」
『ゾンビ→ゾンビ映画→ゾンビ沢山→次々とぶった切って進む→無双』と順を追って説明しないと分かんないことを三足飛びで語るきせき君である。
さておき。
「まねっこー!」
地面に刀をむりくりぶっさし、衝撃を加えるきせき。すると地面から四方八方に走った衝撃が残った妖を切り裂き、次々に消滅させていった。
後に残った金属片がチャリンチャリンと落下する。
「うっし回収完了。……って、うお!?」
金属片を広い尽くした遥は、ふと頭に流れ込んでくるイメージにくらんだ。
イメージ。それは一瞬のものである。
遥が、きせきが、プリンスが、アーレスが、結唯が、満月が、太郎丸が、そして鎬次郎たち村人がそのイメージに晒された。
巨乳グラビア雑誌に収録された濡れTコンテスト特集の光景に。
あと、村の端っこで最後に出現した妖と今から交戦状態に入るという奏空の叫びに。
「馬鹿な、ここからあの地点までは明らかに20メートル以上離れている筈。どうやってこのイメージを送心したっていうんだ……」
「言われてみればそうですけど言うべきことホントにそれだけですか?」
頭を抱える満月たちをよそに、奏空は……。
「お前で最後だ、二刀流の妖ー!」
自転車の荷台からジャンプした奏空は、回転と共にクナイを投擲。それを打ち払った妖に、間髪いれず電撃を浴びせる。
電撃をかいくぐって突っ込んでくる妖。奏空はそれを回し蹴りで牽制しつつバックステップ。
すると左右の曲がり角から妖が現われ、刀を構えて突撃してくるではないか。
いっぺんに対応しなければならない。全てをいっぺんに受けきろうにもクナイはさっき投げたばかり。手元に戻すには一瞬襲い――と思ったその時。
「使え、工藤!」
柄司が何かを投げてきた。
それは刀。
数は二本。
二刀一対となるその刀の名は――。
「俺の鬼地刀だ! 急ごしらえだけど神具化して貰ってる、だから――」
だからの先は必要ない。奏空は刀を二本一息に抜き、両サイドから来る妖の斬撃を打ち返した。
そのままの流れで回転。二体を同時に切り伏せ、クロスした刀から激しい電撃を放った。
電撃は周囲の妖へ直撃、そして消滅した。
「妖百体……殲滅完了!」
●百妖事件アフター
この土地で起きた二回目の妖大量発生事件。一度目は大きな犠牲を払って解決したそれは、今回にして関係者全員がほぼ無傷で終了するという快挙を成し遂げた。
この場に居合わせた八人の覚者たちの戦闘力もさることながら、彼らの立てた充分な作戦によるところが大きい。もし彼らが村中を駆け回り、こまめな連絡や情報整理を行なっていなかったなら、中央で百体の妖をいっぺんに対応するハメになっていただろう。非覚者を守りながらその数を対応するのは難しい。きっと死傷者も出ていただろう。
「此度の協力、深く感謝する」
古妖地蔵、もとい鎬次郎は道場で深く頭を下げた。
その場には事件の関係者が集まっている。
「そういや最後のアレなんだったんだ? なんかすげー遠くから送受心が届いてた気がするんだけど」
「ふむ」
遥の疑問に、鎬次郎は頷いた。
「恐らく我が地蔵眼と奏空殿の送受心が共鳴したものだろう。さらなる礼と言ってはなんだが、この技術を応用したものを伝授しようと思う」
「『送受心・改』ってわけか……それはありがたい」
「お礼としてお金を払うってのはよくあるけど、技術を提供するなんて粋だよね。そういう民悪くないと思う」
「『さらなる礼』と言ったが……本来は別にあるのか?」
ここぞとばかりに言った結唯に、鎬次郎は頷いた。
「後日、天獄刀の製法を教える。まずは使い方を学び、持ち帰って貰いたい」
「持ち帰る? 詳しい話を聞くどころか、まさか貰えるとは……」
太郎丸たちは目を見張ったが、鎬次郎は平然としたものだ。
「なに、村中の妖退治などという無茶を叶えてもらったのだ。当然のこと。では後日……あらためて」
改めて頭を下げる鎬次郎に、アーレスやきせきたちは強く頷いたのだった。
夜に静まる住宅街。その一角にひっそりと存在する地蔵に、ぴきぴきと小さなヒビが入った。
頭が欠け、手が欠け、一秒と経たずに全体が破裂し、一体の心霊系妖が出現した。
和服人型二刀流。この土地が長年押さえてきた怨念が小さく小さく拡散した姿。二刀流ノ妖である。
妖は周囲を見回し、人の居そうな場所を目指して一歩二歩と足を進めた――ところで。
「くらえー!」
ワンボックスカーが妖をはねた。
回転しながら飛び、地面に落ちる妖。
急ブレーキと共に開いた扉から、鹿ノ島・遥(CL2000227)が転がるように降りてくる。
「見つけたぜ。後がつかえてんだ、名乗りは省略だ!」
刀を構えた妖に突撃。拳に雷を纏わせると、刀の防御をぶち抜く形で正拳突きとした。
螺旋状に拡散し、消滅する妖。
宙に生まれて落下する金属片をキャッチすると、遥は車へと急いで戻った。
「待たせた! 出してくれ!」
「次はB6地点だな」
門左衛門はハンドルを握り、横で地図を広げた『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)を見た。
妖の発生がランダムで起こる以上、定期的な巡回はかえってロスが多い。村の中心に拠点を置き、鎬次郎の感知情報を元に発生予定地点を蛇のように繋いで行くのが効率的だという結論に至ったのだ。
「B6のあとはB5、A1だよ」
あどけなくも無垢な子供の口調で地図をなぞっていくきせき。口調の幼さから見くびりがちだが、卑怯なほどに基礎知能が独自発達している彼である。
「次は三体いっぺんにいるから、一緒に出ようね、王子!」
「えっ?」
後部座席にお布団引いて横になっていたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、ゴ○ゴアイマスクをしたまま振り返った。
「ごめん余……民には黙ってたけど、遅くまで起きていられない呪いがかかってて。これを破ると翌日目の下にクマがね」
「王子」
「うん行く、行くよ」
そうこうしているうちに車は小さな公園へと到着。ジャングルジムも滑り台も撤去された寒々しい土地に妖が集まっている。
「サクッっとやっちゃおー!」
刀を引き抜き、きせきは妖の群れへと飛び出していった。同じく車から飛び出す遥。『おそと寒い寒い』言いながら窓から手だけ出して召雷するプリンス。
雷の直撃をうける妖に、きせきと遥は同時に襲いかかった。
一方その頃、工藤・奏空(CL2000955)は公民館の屋内に大きな地図を広げていた。
複数並んだ電話機をとりながら、柄司が地図に印をつけていく。
「E16の地蔵が限界だ。近くに誰かおるか」
「今アーレスさんとこが近いな、行って貰って!」
鎬次郎の感知を受け取って、奏空が対応。電話か送受心で仲間に指示を送る。いわばここは中央司令部だ。
わざわざ屋内まで戻ってこなくてもいいように、奏空は送受心を常時アクティブにしていた。
これによって司令部は公民館の中だけで無く、周囲20メートル圏へと拡大。車を受信可能位置に停車することでいつでも指示をうけられるようになっている。
「妖の勢いが強まっている。波が来るぞ」
「畜生、妖の野郎……」
受話器と油性ペンを握って歯噛みする柄司。奏空はきりっとした顔で言った。
「柄司……お前の仇、絶対とってやるからな」
「へへ、たのもしいぜ」
これが家族とか家とかペットとかだったらいい話なのだが、自宅に秘蔵したエロ本のことだってゆーから締まらない。
「一色さんに連絡だ。F2地点に四体。連戦!」
先述したように奏空の指示は送受信で届く。『星狩り』一色・満月(CL2000044)と離宮院・太郎丸(CL2000131)は鐺乃助が運転する車に乗っていた。
「行くぞ、つかまってな!」
「応」
助手席の満月は地図を手にナビゲートを勤めている。その手に力がこもった。
「なあ、鐺乃助。どうして事件が起こるとわかっている村に留まったんだ。鎬次郎が地蔵だと知らないにしても、妖の事件は目の当たりにしていたはずだ」
「なあに、日本国内に逃げ場なんて無いさ。妖が出るから海外に引っ越そうなんて考え、みんなしてないだろ」
「……」
肝心な所は口にしていない。それでもいわんとしていることは分かった。
後部座席て手に力を込める太郎丸。小声で呟く。
「地元の皆さんは土地勘があるから目的地まで最短でたどり着ける。移動時間の短縮にはこれが最適ですけど、この人たちが傷ついたら運転ができなくなってしまう。この作戦を選ぶなら、鐺乃助さんたちをいかに守りながら戦うかも重要になりそうですね……」
「ついたぞ、あそこだ!」
民家の壁を登った妖が、屋内へ入り込もうと窓を割っている。
住民が避難しているとはいえ、柄司の家のように火災が起きたら大変だ。
「行きます!」
扉を勢いよく開き、太郎丸は即座に召雷。時間の短縮を考えるなら纏霧を挟まない方が効率的だと判断したためである。
雷にあてられて転げ落ちる妖。満月は急接近し、妖が地面につくよりも早く刀で両断した。
「まだ恨みがましく残っているのか。まだ、辻斬りを続けたいか……そうまで、復讐がしたいか」
目を強く瞑る。深く考えている時間は、今は無い。
「次へ行くぞ」
「はい!」
満月たちは車に戻り、拠点へと向かう。
斑鯉の運転する車が目的地へと急行する。
その座席には『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)と『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)が座っていた。
結唯は黙って銃をリロードし、弾を満タンに込めていた。
一方で地図に印をつけていくアーレス。
「中央拠点から指示を飛ばして順次チームを派遣していくという今のやり方……」
ボーダーは八体以上の密集ケースのみ。目に見えた欠点のない作戦だ。
強いていうなら目標を撃破した直後に近くで敵が発生した際の対応が危ぶまれるが、近所の電話で撃破連絡を入れる際にそれを最低限カバーできる。
あと気にするべきことと言えば、単純でありながら数が多いので細かいミスが重なる危険があることと、自動車事故や合図用アイテムの紛失といった突発的トラブルの危険くらいだろうか。10体や20体を相手にするなら無視してもいい要素だが、100体となると細かい部分にも気を配りたい。
「次の角を曲がった所です。準備はいいですか」
「構わん。ここで止めろ」
結唯はそう言うと、走行中でありながらドアを開けて降車。転がり出ながら妖たちへ銃撃を開始した。
助手席から身を乗り出し、同じく銃撃を加えるアーレス。
さすがに一体ずつが弱いだけあって倒すのも楽だ。
「殲滅完了」
「連絡してきます!」
近くの民家へ合い鍵をつかって入り、玄関の電話機を借りる斑鯉。連絡を終えて帰ってくるかと思いきや、慌てた様子で家から飛び出してきた。
「付近で新たに妖発生、今から向かいます!」
「やれやれ」
小声で呟き、車に戻る結唯。
アーレスは銃をリロードして助手席のシートベルトをしめた。
どうやら、もう暫く休むことはできなさそうだ。
「さ、急ぎましょう」
●送受心と地蔵眼、そして――。
100体。一人当たり12体の妖を退治するというこの案件の密度がゆえ、ダイジェストでお送りすることをお許し頂きたい。
アーレスと結唯と斑鯉の第三班、満月と太郎丸と鐺乃助の第二班。彼らは天獄村(正確には地蔵眼有効範囲内)で複雑なジグザグ移動を繰り返し、それぞれ20体ほどを撃破してから拠点へ帰還。
きせき、遥、プリンスと門左衛門による第一班は村西側を大きく蛇行する形で進み、一番端のエリアまで到達。帰りはほぼ直線ルートで帰還している。撃破数は30体。
かれこれ70体の撃破に成功している。作戦は七割方成功したといっていいが……。
「拠点の周り……っていうか、神社とかの『六角形エリア』がやけに残ってるな」
奏空たちは地図を囲んで唸っていた。妖の発生はランダムだ。ランク1程度の妖に、というか発生すらしていない妖に発生パターンを操作して彼らを攪乱しようなんていう能はない。
「やっぱ離れてる分、封印がビミョーに弱いんじゃねーかな。普段じゃわかんねーくらいの差だけど、こういう切羽詰まったときにはそういう差って出てくるだろ」
「かもね。年々範囲が狭まってるっていうし、外側はそれだけ弱かったんだろう……」
反面、中央に集まってくれているなら好都合だ。派遣もしやすい。
しかし地図の端っこに残った数個の地蔵が気になる。嫌なタイミングで妖が発生しなければいいが。
「い、いかん。残りの妖が一斉に出現しようとしている」
「うわやっぱり嫌なタイミングで来る!」
奏空は送受心を展開。仲間たちに指示を送った。
発生箇所は三箇所。妖が複数一度に発生し、融合を始めている可能性があるとのこと。
仲間たちはそれに応答して現地へ向かった……が、奏空は地図の端っこが気になっていた。
「鎬次郎さん、ここって」
「うむ、このすぐ後だ。もし発生したら村の外へ向かうのは確実だろう」
奏空は頭の中で計算した。
仲間たちが妖を倒しきるまでの時間にプラスして、村の端っこへ行って妖を倒すまでの時間。
もしかしたら間に合わないかもしれない。
「こうなったら……!」
奏空は外に飛び出した。飛び出したそばから自転車に跨がった柄司が目の前に止まった。
目を合わせ、頷き合う二人。
一方結唯とアーレスは妖に遭遇していた。
「なんですかあれは、かなり大きな……」
身の丈三メートルはあろうかという巨大な心霊系妖が道路の中央を歩いている。
「複数体の妖が融合したものでしょう。少し手こずりますが」
「まとまってくれただけ楽だ。行くぞ」
結唯は二丁の銃を乱射しながら突撃。振り返って刀を振り込む妖をスライディングでよけながら、足下をくぐり抜ける。
一方でアーレスは近くの民家に突入。屋内を駆け抜け裏口から飛び出すと、妖の死角へと回り込んだ。
「そこです」
後頭部に狙いをつけて銃撃。予期しない攻撃をうけた妖は慌てて振り返るが、足下の結唯がそれを許さない。地面に手を突き、隆槍を発動。
隆起した地面に足をとられ、転倒する妖。アーレスは素早く術式を組み、炎の渦を展開させた。
妖は炎に呑まれて暴れるが、アーレスは更に火力を追加。より巨大な炎を生み出し、妖を丸焼きにしていく。
「見ず知らずのあなたではありますが、その怨念……ここで終わらせましょう」
そのまた一方満月と太郎丸。
こちらも三メートル級の妖に遭遇していた。普通に道を通っていては遠回りになるということで、民家の屋根に駆け上っての強行である。
「負の連鎖、ここで断ち切る!」
満月は屋根を蹴って妖へ斬りかかった。
刀を翳し、彼の斬撃を受け止める妖。
もう一方の刀を振るうと、巨大な衝撃となって満月や後ろの民家を襲った。
「っ!」
ノートを抱えた太郎丸は防御姿勢を取りながらも癒しの滴を展開。カウンターヒールによって衝撃を逃がすと、ノートを広げた。
「恐らくこれで最後。一気に決めます!」
太郎丸は召雷を発動。電撃が妖に降り注ぎ、その動きを一瞬だけだがひるませた。
たった一瞬、されど一瞬。
満月は民家の壁に両足をつき、カッと顔を上げた。
太郎丸に斬りかかろうと飛び上がる妖。
「させるか!」
満月は壁から飛び立ち、妖の腕を空中で切断した。
バランスを崩す妖。一方で太郎丸は手のひらに電撃を集中。
トドメとばかりに腕を突き出すと、レーザービームの如く電撃を解き放った。
それは妖の腹を貫通。複数の金属片を残して、妖は消滅した。
仲間たちが順調に妖を退治していく中、プリンスたちは融合前の妖の集団を発見。交戦状態に入っていた。
「大丈夫かな。村の端にまだ残ってるらしいけど……」
「前に出たら王族も一兵卒もいっしょ。余は民のことマジ信じてるからね。こっちはこっちでやっちゃおうカノブー・アンド・キセキ、ウィズカンヌシ!」
へんてこなハンマーを振り上げ、号令を放つプリンス。
彼のハンマーが大地を打つと同時に、激しいスパークが大地を走った。
スパークは妖の群れへ殺到。数体がそれによってひるむが、こちらを先に発見していた妖たちはプリンスめがけて一斉突撃を仕掛けてくる。
「カノブー、ディーフェーンス!」
「ディーフェーンス!」
うっかり調子を合わせちゃった遥は横スライディングで間に割り込み、フックパンチからの後ろ回し蹴りのコンボで妖を一体消滅させた。その後ろから別の妖が二刀同時に斬撃を繰り出すが、両拳を叩き付けて刃を弾くことで相手の両腕を開かせる。
「アタマ使うのはともかく、バトルは得意なんだよ!」
遥は大地にむかって瓦割りパンチ。大地を四方八方に駆け抜けた衝撃が、周囲の妖たちを一斉に吹き飛ばす。
「ぼくもバトル得意だよー! だってゾンビだもんね!」
『ゾンビ→ゾンビ映画→ゾンビ沢山→次々とぶった切って進む→無双』と順を追って説明しないと分かんないことを三足飛びで語るきせき君である。
さておき。
「まねっこー!」
地面に刀をむりくりぶっさし、衝撃を加えるきせき。すると地面から四方八方に走った衝撃が残った妖を切り裂き、次々に消滅させていった。
後に残った金属片がチャリンチャリンと落下する。
「うっし回収完了。……って、うお!?」
金属片を広い尽くした遥は、ふと頭に流れ込んでくるイメージにくらんだ。
イメージ。それは一瞬のものである。
遥が、きせきが、プリンスが、アーレスが、結唯が、満月が、太郎丸が、そして鎬次郎たち村人がそのイメージに晒された。
巨乳グラビア雑誌に収録された濡れTコンテスト特集の光景に。
あと、村の端っこで最後に出現した妖と今から交戦状態に入るという奏空の叫びに。
「馬鹿な、ここからあの地点までは明らかに20メートル以上離れている筈。どうやってこのイメージを送心したっていうんだ……」
「言われてみればそうですけど言うべきことホントにそれだけですか?」
頭を抱える満月たちをよそに、奏空は……。
「お前で最後だ、二刀流の妖ー!」
自転車の荷台からジャンプした奏空は、回転と共にクナイを投擲。それを打ち払った妖に、間髪いれず電撃を浴びせる。
電撃をかいくぐって突っ込んでくる妖。奏空はそれを回し蹴りで牽制しつつバックステップ。
すると左右の曲がり角から妖が現われ、刀を構えて突撃してくるではないか。
いっぺんに対応しなければならない。全てをいっぺんに受けきろうにもクナイはさっき投げたばかり。手元に戻すには一瞬襲い――と思ったその時。
「使え、工藤!」
柄司が何かを投げてきた。
それは刀。
数は二本。
二刀一対となるその刀の名は――。
「俺の鬼地刀だ! 急ごしらえだけど神具化して貰ってる、だから――」
だからの先は必要ない。奏空は刀を二本一息に抜き、両サイドから来る妖の斬撃を打ち返した。
そのままの流れで回転。二体を同時に切り伏せ、クロスした刀から激しい電撃を放った。
電撃は周囲の妖へ直撃、そして消滅した。
「妖百体……殲滅完了!」
●百妖事件アフター
この土地で起きた二回目の妖大量発生事件。一度目は大きな犠牲を払って解決したそれは、今回にして関係者全員がほぼ無傷で終了するという快挙を成し遂げた。
この場に居合わせた八人の覚者たちの戦闘力もさることながら、彼らの立てた充分な作戦によるところが大きい。もし彼らが村中を駆け回り、こまめな連絡や情報整理を行なっていなかったなら、中央で百体の妖をいっぺんに対応するハメになっていただろう。非覚者を守りながらその数を対応するのは難しい。きっと死傷者も出ていただろう。
「此度の協力、深く感謝する」
古妖地蔵、もとい鎬次郎は道場で深く頭を下げた。
その場には事件の関係者が集まっている。
「そういや最後のアレなんだったんだ? なんかすげー遠くから送受心が届いてた気がするんだけど」
「ふむ」
遥の疑問に、鎬次郎は頷いた。
「恐らく我が地蔵眼と奏空殿の送受心が共鳴したものだろう。さらなる礼と言ってはなんだが、この技術を応用したものを伝授しようと思う」
「『送受心・改』ってわけか……それはありがたい」
「お礼としてお金を払うってのはよくあるけど、技術を提供するなんて粋だよね。そういう民悪くないと思う」
「『さらなる礼』と言ったが……本来は別にあるのか?」
ここぞとばかりに言った結唯に、鎬次郎は頷いた。
「後日、天獄刀の製法を教える。まずは使い方を学び、持ち帰って貰いたい」
「持ち帰る? 詳しい話を聞くどころか、まさか貰えるとは……」
太郎丸たちは目を見張ったが、鎬次郎は平然としたものだ。
「なに、村中の妖退治などという無茶を叶えてもらったのだ。当然のこと。では後日……あらためて」
改めて頭を下げる鎬次郎に、アーレスやきせきたちは強く頷いたのだった。
