不穏の種
【妖侍伝】不穏の種



 第一回天獄村調査依頼はさしたる危険もなく終了し、覚者たちはF.i.V.Eへと帰還した。
 調査メンバーは一色満月、水蓮寺静護、工藤奏空、鹿ノ島遥、御影きせき、谷崎結唯、プリンス殿下、アーレス先生の八人。
「――の、八人だ」
「負傷者無し。犠牲者もなし。普通なら大手柄と言ったところなんだが……」
 満月と静護は自販機から取り出したお茶とコーヒーを手に、ベンチに腰掛けた。
 コーラのボトルを片手に奏空が横に腰掛けた。
「どうしたの? 何か不安?」
「話してみて。はかせがね、もやもやをスッキリさせるといいって言ったんだー!」
 不自然なほどの笑顔で会話に加わってくるきせき。
 気づけば、結唯も黙ってそばに立っていた。
「後半の調査がうまくいかなかった。そう言いたいんですね?」
 きせきたちの後ろから現われるアーレス。
 彼の脇を抜けて、遥が自販機の前へ立った。
 ボタンを押して飲み物が注ぎ込まれていくのを見つめる遥。
「うまくいかないっていうか、失敗しすぎだろ。何一つ成果が得られなかったじゃねーか」
「え、そう? 余は大収穫だと思ったけど」
 どこから持ってきたのかしらないが大きなワイングラスの中で見たことも無い飲み物をゆらしているプリンス……が、遥の背後に現われた。
「いつからそこに!? っていうか、あれで大収穫かぁ? 嘘つかれまくったし……」
「嘘をつかれたってことは、やましいことがあるってことでしょ。余とかよく嘘つくもん。『ベッドの下には何もありませんよ』って」
「お前ベッドの下に何隠してんだ?」
 早々とカップの中身を飲み干した静護がすくっと立ち上がる。
「今回の反省点は『質問に頼りすぎた』ことだ。同じことに対して全員が同じ言い方をするとも限らないし、それを……」
「視点は人それぞれだ」
 うまく言えないという顔をした静護にかわって、結唯が口を開いた。
「一つの事柄に複数の意見があるのは当然だ。総合して結論を導き出すべきだが、中に一人でも嘘をつく者がいれば内容は混乱する。人の口から事実を聞き出すのは手っ取り早いように見えるが、実は相当な遠回りになることが多い。警察官がわざわざ物的証拠を集めて歩き回るのはそのせいだ」
「ん? ちょっとまって? ってことは、あれ……?」
 天井を見上げ、奏空がふと呟いた。
「あの人たちの言ってること、バラバラに見えて実は同じ話をしてるってこと?」
「で、中に一人だけ嘘が混じっている……」
「その一人がおそらく例の……」
 空になったカップをくしゃりと握りつぶす満月。
 『あの中にひとり、人間ではない者がいる』
 咳払いをするアーレス。
「今回、その『誰か』に先手を取られました。状況的に私たちが後手に回るのは仕方の無いことですが……次回で取り返したいところですね。ということで」
 アーレスはポケットからメモを取り出した。
「夢見の意見です。『最初の事件以降特に何も予知できなかったが、今度はなにかよくないことが起こるような気がする』だそうです」
「えらい曖昧だな」
「おそらく私たちの持ってきた調査結果が少なかったことが原因でしょう」
「次はどうする? 読心術とか魔眼とか使って聞かなかった人が犯人ってことで追い詰める?」
「……相手はその手のスキルが効かない奴だとハッキリわかっているのか? リトマス試験紙を使うのは危険だ。より後手に回ることになる」
「じゃあ」
 プリンスがでかいグラスをぴたりと止めた。
「派手に壊しちゃう? 神社も怪しいところも全部」
「それも、うーん……」
 頭を抱える奏空たち。
 しかし答えは出さねばならない。次の調査日は迫っているのだ。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.天獄村を調査する
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます
 このシナリオはシリーズシナリオとなっており、今回のシナリオ参加者に次回のシナリオへの予約優先権を付与する形で連続していきます。
 おおまかなスケジュールも添付しますので、準備をしてご参加ください。

 としうわけで
 シリーズシナリオ第二回でございます。
 前回調査をしきれなかった部分があるので、今回は再調査シナリオとなります。
 とはいえ事態は既に進行していますので、これから起こるであろう何事かに対応しなければなりません。
 ……と、書いていてかなり無茶だと気づきました。
 前回調査対象を広く取り過ぎたことと、『騙されるから質問はよそう』を『嘘発見器があるなら質問しまくってよし』と誤解させる書き方をしたことを反省しまして、次回起こることを夢見からそっとネタバレしましょう。

●次回起こること
・ランク1~2の妖が複数体出現する。複数の場所で同時多発的に出現。発生場所を事前(相談時点)に特定できれば被害を零に抑えることが可能。戦闘力は難易度相当。
・『人ではないもの』は古妖。天獄村の名前の由来もこの古妖。敵か味方かは未定。
・特殊な二刀流の秘密は刀の構造にある。詳細不明。

●予定スケジュール
 シリーズ全四回予定
 第三回:11月23~27日OP公開
 第四回:12月07~11日OP公開
 ※この予定は変更になることがあります
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月20日

■メイン参加者 8人■


●柄司:中学生
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は中学校の校舎裏に立っていた。
 元々ひとけのない場所とされているが、今は学校の授業中。ひとけがあるはずがない……のだが。
「なーんだよお、いきなり頭ン中に話しかけてくんなよな。すげーバカだと思われたじゃんか」
「柄司くんだ! 久しぶりだねー!」
 ぱたぱたと手を振る『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)。
「久しぶりじゃねーよ。妖はもう倒したんだろ? 授業抜け出すの滅茶苦茶キツかったんだぞ、うんこするふりして抜け出してさ」
「うんこって……」
 発言に躊躇しないタイプかこいつ。奏空はちょっと引いた。
「でも、来てくれてありがとう。話があるんだ」
 最近の検証で改めてはっきりしたことだが、送心が視界内での意識伝達スキルであるのに対し、送受心は不透明な物体が間にあっても相手を認識していれば伝達可能だとわかった。しかしその範囲がどうやら20m前後らしいので、学校から神社までといった遠距離意識通信を行なうのは無理そうだ。この情報は遠からずF.i.V.Eで共有されるだろう。既にされているやもしれない。
 さておき。
「えっとね、うちの夢見さんが妖のことを予言したんだ! みんなのこと狙ってるんだって! だから――」
「ばっか、お前嘘つくなし!」
 柄司は笑って言った。
「人を付け狙うレベルの妖ってもうランク3以上だろ? そんなのに狙われる覚えねーっての! 中学生だぜ俺ー」
 誰でももってる知識というわけではないが、妖はランクによって知性が高まる。ランク2でようやく獣程度の知性をもつので、特定の個人を理論的な思考をもって付け狙うとは考えづらい。
「でも夢見のことは知ってるよね」
「その夢見の話がガチだって証拠ねーじゃん。俺を驚かせよーたってそうはいかねえよ」
「うーん……」
 きせきが困った顔で奏空を見てきた。
 夢見の予言は個人的な信頼を最低限必要とするので、赤の他人に『夢見がそう言ったから』という理由で行動を強制するのは難しい。
 事情に対して深く考えない人に対して『なんだか偉い人がそう言ったらしいから従っておこう』くらいの説得力が働く程度だ。
 この場合夢見だの組織だのではなく、奏空やきせき本人との個人的信頼が強制力となる。
 具体的には。
「もちろん、タダとは言わないよ……」
 奏空は鞄からやや湿気でゆがんだ雑誌を取り出した。
 漂う紙と土の香り。
 それは中高生たちが探し求める秘宝の香りであり、柄司の目を鋭く光らせるに充分だった。
 雑誌には秘宝の名が刻まれている。
「これを、君にあげる」
 名を――『巨乳』。
「俺に、できることなら」
 柄司は男の顔で言った。

●紋左衛門:神主
 『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)は神社の境内に立っていた。
 透視能力を用いて納められているであろう刀を再度見直しているのだ。
 前回一度透かして見ているので不要かとは思ったが、コンマ一ミリの薄さで仕込まれた機構や偽装があるかもしれない……と再度じっくり目をこらしてためつすがめつ確認した。
 結果、新しい発見は無かった。根っこの所にあの回収物と同じ『天獄村』の彫り込みがある程度。
「一般的な刀と全く同じ形。このうえで構造に秘密があるとすれば」
 はたと顔をあげるアーレス。
「――鋼の分子構造か。一般的な鍛冶技術ではなく未知の製法を用いた金属だとするなら」
「お待たせしました」
 声がして、アーレスは振り返る。
 そこには神主の紋左衛門が刀をたずさえた状態で立っていた。
「確認しますが、妖が再び発生するというのは本当ですか」
「それは本当です。しかし発生場所は特定していません。我々はそれをあなた方の刀かそれに関わるものだと推測したのです」
 発生場所が土地でなく物であるという点に一見理論的矛盾がありそうだが、これは『特定物の保管場所』という意味にとらえることができる。更に言えば、『被害を零にできる可能性がある場所』とはその場所自体を移動しリスク管理ができることを示していた。
「しかし解せませんな。なぜそこまで関わる必要がありますか。人には触れられたくない事情もあるでしょうに」
「必要は、ないかもしれませんね」
 背を向けるアーレス。
「私は覚者で、それゆえ苦い経験をしました。お互い全てさらけ出すことはできないでしょうが……それだけでは何も変わりません。互いの溝を埋めるため、我が力を振るいたいと思っています」
「行動で身の証を立てる、ということですな」
「はい」
「そういうことならば、私も厳しく見極めさせて頂きますぞ。奉納した刀を持って参ります。しばしそこで」
 そう言うと、紋左衛門は神社の屋内へと入っていった。

●斑鯉:図書館員
 奏空が怪しいとにらんだ地蔵の前に、『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は立っていた。
「……交霊術を用いても何も反応がない、か」
 奏空は感情探査が反応したと主張していた。
「残留思念すらない場所に強い感情が発生するはずはない。地蔵に化けた何かがあったか、それとも感情を伴った何かが伝達されてきたか」
「お待たせしました。谷崎さん、でしたね」
 斑鯉が刀を二本抱えてやってきた。結唯が公衆電話から呼び出したのだ。
「妖が刀を狙って現われるというのは納得しましたが、十二本の刀というのはどういうことですか? あの時いた五人と神社の一本をあわせても十一本しかありませんが……」
「……」
 もう一本あるはずだろう。今すぐ出せ。
 そう言おうとして結唯は黙った。斑鯉がしらばっくれているように見えなかったからだ。
 彼はある特定の事情を知らない。ないしは偽って教えられている可能性がある。
「……こうなると嘘つき捜しについて考え直す必要があるか?」
 ごく小さく呟く結唯。
 そこへアーレスと紋左衛門がやってきた。
 これで刀は五本。
「そろそろ来るころだろう。他の連中は何をやっている?」
「わかりません。もしかしたら……」
 アーレスが学校の方角を見た、その途端。
「ぬわ!?」
 紋左衛門たちが刀を取り落とした。
 なぜなら刀からオーラのようなものが噴出し、人の形をもって実体化したからだ。
 その数、五体。いずれも二刀流。
「妖!」
「心霊系か――!」
 結唯とアーレスの行動は早かった。
 紋左衛門たちに逃げるように伝えると、妖たちに襲いかかる。
 仮面をつけた姿で自嘲気味に言うアーレス。
「谷崎さん。どうやら私たちは苦戦を強いられそうですよ」
「他の連中がうまく連れてこなかったからだ。全く……」
 推定ランク1の妖五体と、結唯とアーレスのコンビ。
 その戦いが、始まった。

●柄司:中学生 Bパート
 自宅に保管されているという刀をとりに、男柄司と男奏空、あとなんでそうなってんのかよく理解できないきせきが並んで歩いていた。なんか知らんけどスローモーションだった。
「そうなんだー! 『たけやぶのえろほん』っていうのを求めて、皆冒険に出るんだね!」
「そうさ。男たちはいつだって大航海時代……」
「この世の全てがそこに置いてある……」
 きせきに余計なことを教えんなと言ってくれる人はこの場にいない。
「そういえば柄司くん、妖と戦おうとしてたよね。パパやママはどう思ってるの?」
「ああ、死んだぜ? 二年前に事故でな」
「そっかー」
「別に親戚に引き取られてもよかったんだけど、一人暮らししろって先生たちがうるさくってよー。気楽でいいけど。あ、家はこの角曲がった先だぜ」
「……」
 奏空は会話に入れなかった。そう簡単に触れられるような事情ではない。きせきの無邪気さならではの入り込み方だ。
 かくして、柄司の言うとおりに角を曲がった先……には、家が無かった。
 古めかしくも小さな木造家屋は破壊され、炎上している。燃え方からして通常火災だ。ガス栓や灯油タンクなどが破裂したあと何かに着火したのだろう。
 そしてそこには二体の妖が立っていた。どちらも心霊系妖、どちらも二刀流。
「家が……」
「こいつらが壊したのか!」
「奏空くん、いくよ!」
 きせきは本能的に判断し、刀を抜いて突撃。
 奏空も同じくクナイを構えた……が、柄司は怒りの形相に燃えていた。
「おれの……巨乳コレクションを返せえええええええええええええ!」

●鐺乃助:旋盤工
 柄司の家が破壊され、妖が発生していたことにはある理由がある。
 奏空たちが妖発生源を刀を所持していた五人かその刀の『どちらか』というアテをつけていたため、その両方を確保しなくてはいけなくなったのだ。
 推理というのはそういうもので、下手な鉄砲のたとえよろしく間違った推理を乱発すればその分コストを失い後手に回っていくものだ。今回は『二つのうちどちらか』まで絞ったので、致命的な被害をうけることなく対処できた。かなり良い部類の推理結果である。
 さて。
 鐺乃助とその刀を確保しに向かった水蓮寺 静護(CL2000471)と『星狩り』一色・満月(CL2000044)も、柄司らと同じように自宅前で妖に遭遇していた。
「発生源は刀の方か!」
「当人の命が狙われなくてよかったと見るべきだな」
 静護は背筋を伸ばして抜刀。
 満月は前傾姿勢かつ納刀状態で妖へ突撃する。
 対抗して斬りかかってくる妖だが、満月は刃をかみひとえで回避。下をくぐり抜けると妖の足を抜刀と共に切断。回して逆手に持ち、背中を串刺しにした。
 と同時に静護はもう一体の刀を跳ね上げ、返す刀で突きを放つ。
 妖はその攻撃をうけ、暫くびくびくとけいれんした後消滅した。
 そしたころりと金属片が地面に落ちる。
「この程度の強さか。これなら一人でも対処できたかもしれんな」
「……」
 金属片を広う満月。色や状態からして最初に妖を倒した時のそれと同じものだ。
 一方で、静護は刀を鐺乃助へと突きだした。
「鐺乃助さん。あなたははじめこの刀に反応した。一色君たちのものではなくこれに。その理由を話してもらえないか」
「お、おお……刀の無事を確かめながらでいいか」
「かまわない」
 鐺乃助の家も破壊されている。とはいえ屋内で発生した妖が闇雲に外へ出ようとして起こした副次的な破壊だ。壁と窓がいくつかやられただけで済んでいる。鐺乃助は奥の部屋にある刀を抱え上げ、刃の状態などを見ながら語った。
「刀の名はあるかい」
「『裂海』という。出自は分からないが」
「海を裂く刀か……いや、俺はてっきり見間違えてよ。その刀はどうもオーラみたいなもんを放ってる。それが神社に納められてる刀みてえだなと思ったんだよ」
「あの刀はオーラでも放っているのか?」
「いや、実際見たことはねえよ。そういう刀だって聞いたんだ。名前を聞く限りじゃその裂海は別モンらしいがよ」
「そうか……ありがとう」
「鐺乃助。俺からも良いか」
 状況を黙って見守っていた満月が、部屋の出入り口を塞ぐように立った。
「俺たちはある情報を事前に得ていた。妖が発生すること。この土地には大太刀の二刀流が存在し、それをお前たちが使えていたらしいこと。その秘密は刀の構造にあるらしいこと。そして……お前たち五人の中に古妖が混じっているということだ」
「……へえ、そいつは、穏やかな話じゃねえな」
 刀を持ったまま、刃を露出させたまま、ゆっくりと振り返る鐺乃助。
「俺たちは推測した。五人のうち、俺たちに嘘をついている人間が怪しいと。まとめた情報は三つだ。かつて百の妖が現われた事件が起き、それは再び起きるであろうこと。土地にはかつて天獄という大名がおり妖怪を封印した十二本の刀が納められているということ。そして鐺乃助……お前の情報だ」
 一歩踏み込み満月。
「夢見は災害を予知するが妖の予言はかの一件のみ。天獄は天国と地獄を表わし閻魔大王がこの土地に住んでいる、だったな」
「ああ、それがどうしたよ」
「他二つと矛盾するのだ。……それに閻魔大王はヒンドゥー教。なら天国は天上道や天界、デーヴァローカとなる。そしてそれは輪廻の舞台である六道のひとつ。つまり『天国と地獄に分ける』というキリスト教的な発想とは相容れない」
「…………へえ」
 鐺乃助と満月の距離は縮まっていく。
 ごくりと息を呑む静護。
「だから俺が、古妖だって?」
「フッ、焦るな」
 満月は刀に手を添え、こう言った。
「さっきも言ったが、鐺乃助……あの時お前は『俺の聞いた話じゃあな』と言った。ならそれは、『誰から』聞いた?」
「……先生だ」

●鎬次郎:道場主……?
 やや時を遡り、道場。
 鹿ノ島・遥(CL2000227)とプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は道場主の鎬次郎と向き合っていた。
「――だから、自衛のために刀を持ってきて欲しいんだって」
「いや、いらぬだろう。先日みた限りわしらは足手纏い。逃げるのに重い荷物を持っていてはいかん」
「わっかんねー人だなあ! 妖が発生するって夢見が言ってんだって!」
「その証拠は。夢見が本物で、その証言が本音である証拠がなかろう」
「だぁぁぁぁあああ! もう! オレんとこの夢見が嘘つくわけないだろ!」
「わからんではないか。わしから見れば他人だ」
「ンアアアアアアアア!」
 遥は思い切り苦戦していた。説き伏せるという行為にひどく向かない彼である。
 一方のプリンスは出された茶まんじゅうを(遥の分まで)むしゃむしゃ喰っていた。
「仮に嘘だとしてもよくない? 刀を集めておけば危険は回避できるかもしれないし」
「疑わしいな。わしらに刀を持ち出させて盗むつもりかもしれん。ただの刀とはいえそれなりに高価な品だからな……フン、ボランティアなどと言って信用させておきながら泥棒とは見下げたものよ」
「ちげえって! だからちげえって!」
 遥が勢い余って立ち上がる。
 鎬次郎も素早く立ち上がった。
 目線を上に持って行くつもりが見下ろされ、反射的にすくむ遥。
 その途端、鎬次郎の胴体が回転しながら飛び上がった。
 彼にそんな変形合体機能があったのか? そんなわけがない!
「せっ――」
 目を見開く遥。
 鎬次郎の後ろに、刀を振り切った妖が現われていた。
 二体。いずれも二刀流。おそらく心霊系妖、推定ランク1。
 鎬次郎の胴体上半分がどしゃりと落ちる。
「先生! てンめぇぇぇ!」
 遥はクイックドロウで白布を拳に巻き付けた状態にすると、妖に殴りかかった。
 殴り飛ばされる妖。その隙にプリンスは座った姿勢のまま後方へガーッとスライドし、召雷を乱射。
 直撃をくらってしびれている妖を、遥は手刀と足刀を交互に放ってそれぞれ撃破した。
「っし! ――ってそれどころじゃねえ! 先生! 鎬次郎先生が犠牲になっちまった!」
 どうしたらいいんだ俺はと言って頭を抱える遥。
 一方プリンスは食べかけのまんじゅうを口に放り込みつつ、座ったままの姿勢でずりずり近寄っていった。
「ドージョーマスターはサメライなのに言うことブレブレだよね。二刀流のこと余に隠すし」
「お、おい。今更何言ってんだよ。この人はもう……」
「その割に十二本の刀の話するし、あれが本当なら刀持ってる五人に疑いが行くの当然だし、あと二本は何だろうって話になるよね。余たちがこうして刀とその持ち主に接触するように仕向けたんじゃないの?」
「おい、いい加減にしろよ! 死んでる人にお前……!」
「死んでる? これが?」
 見なよと言って指をさすプリンス。
 言われて覗き込むと、鎬次郎の胴体から流れているのは血ではなかった。臭いからして血糊だ。
 しかも胴体の断面(正直見たくなかったので目をそらしていた)はまるでコンクリート製品を破壊した断面のようになっていた。
「これ……もしかした」
「ううむ、流石に死んだふりは無理があったか」
 鎬次郎は目を開けると、胴体だけで空中にふわりと浮かび上がった。
 まるでそこに下半身があるかのように安定する。
 一方座ったままの姿勢でずりずり寄っていくプリンス。
「ここまで来たら話してよね」
「良いのか? 他人が深入りするべき話では無いやもしれんぞ」
「別に民が無事ならいいんだよ王家的には。国庫超余裕だよって嘘ついても。それは余がダメ王子ってことだし。でも……」
 正座で開いた三つ指をついたプリンスは、垂れ目の奥でぎらりと光を強くした。
「民の命より隠し事を優先するなら……余、この場で王家の名にかけなきゃ」
「……王家話はホラではなかったか。失礼仕った」
 鎬次郎の下半身がひとりでにおきあがり、正座姿勢をとる。その上にくっつく上半身。
「しかしなぜわかった」
「実際に嘘ついてるのドージョーマスターだけだったからね。というか、疑いを避けるためにセンバンコーにあえて嘘教えたでしょ。微妙に真実を織り交ぜてさ」
「……」
 鎬次郎はしばし黙り、そして口を開いた。
「ならば、今こそ語ろう。真実を」
 正座姿勢(実は足がしびれて立てない)のプリンスに、頭を下げる。
「そして改めてお願いする。天獄村の末裔たちを、助けてくれ」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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