ランド☆ランド
●
最近、色々な事があるのだ。
でもたまには息抜きが必要だと思ったぞ。
故に、遊園地を貸し切ったのだ。今日は思う存分遊ぶと言いぞ。
最近、色々な事があるのだ。
でもたまには息抜きが必要だと思ったぞ。
故に、遊園地を貸し切ったのだ。今日は思う存分遊ぶと言いぞ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.思い切り遊ぶ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●状況
・遊園地なう、遊ぶなう
●遊園地
・一般的な遊園地です。基本的にPC様が、こういう乗り物があると言えば、あります。無茶苦茶過ぎるのは無いです。千葉の東京に酷似しているものも駄目です。
飲み食いもタダの仕様になっております。
食ったり、乗ったり、喋ったり自由ですが、やる事は絞った方が描写が濃いです
あれもこれもやった場合はお察しください…
●NPC樹神枢
すごくはしゃいでいる
●NPC暁
いる。なんかいる。問い詰めるのでは無く、話しかける程度なら答えてくれます
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
詳細だけでいくつ遊園地書くんだろうと
ご縁がありましたら、どうぞ
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
46/∞
46/∞
公開日
2015年12月11日
2015年12月11日
■メイン参加者 46人■

●
「今日は吐くまで遊ぶぞー!」
白昼の空に天高く腕を掲げた工藤・奏空。
後ろから鈴白秋人が微笑ましげにくすりと笑い、奏空はそこでハッと我に返りつつ赤い頬を隠すように腕をひっこめた。
「皆、今日は宜しくお願いします」
教員志望の秋人としては、こういった遠足の引率というのは貴重な体験である。
「鈴白さん学校の先生になるのー!? じゃあ、先生って呼ばなきゃですね! 鈴白せんせー!」
そこから多々の質問を弾丸のように突きつけていく奏空であり。
「専門科目は中学校なら数学で、小学校なら全教科だね。スポーツも勿論。体育でダンスも教えないといけなくなってるから。でも、皆の方が身軽そうだし、スポーツだと負けるかも知れないね。ゲームはRPGもパズルゲームも割と好きだよ」
「凄い真面目に答えがきちゃった」
御影・きせきは青色のコーヒーカップに乗りながら白枝 遥を前に顔を傾けた。
「いっぱいぐるぐる回していい? 遥くん初めてだけど大丈夫??」
「うん。多分恐らく……」
「曖昧さを回避しない答えだー」
といった白枝は後々で後悔してしまう事になるのは見えていたかもしれないが。
今、白枝は大きなマスコットキャラクターのぬいぐるみを両手で抱えた状態で、座っていた。もふもふで温かみ帯びて、ゆくゆくは黒系の名前の友人にあげる為のものを。
「じゃー、ぐるぐるチャンレジだよー!」
「耐久レースみたいな」
両者とも心が弾むようなわくわく感を覚えた所で、アトラクションは優雅に回り始めた。
本来ならば、優雅なそれだがきせきのハイテンションにより高速で回転するマシンは遠心分離機のようだ。白枝も、目をぐるぐる廻しながら人形をぎゅうと抱きしめたまま。
対抗意識を見せた奏空は、
「よーし! たまきちゃん、俺達の速さを見せてやれー!」
「負けませんよ! 奏空さん!」
賀茂 たまきはコーヒーカップ中央の丸い器具を掴んだ。たまき、彼女としては初めての遊園地に心を躍らせている所だ。他にも絶叫マシーンやら色々あるだろうが、身長制限という高すぎた壁は乗り越えられなかったようだ。
故に、コーヒーカップには力が入った。ぐるぐる廻る世界。もっともっととよいしょする奏空の目も既にかなり廻っている。
隣の桃色のコーヒーカップからは、同じように元気な声が聞こえた。
「うりゃぁぁ~~っ!」
向日葵 御菓子である。この時点で秋人は眉間を抑えて、戦場の外から見守っていた。引率者として。
三秒前くらいまでは御菓子の頭の上で、『他のカップには負けられない!』『先生の威厳をかけた勝負なのよ』って悪魔と天使が取っ組み合いの論争をしていたのだが、結果天使が悪魔に蹂躙されたらしい。
「大人を嘗めると痛い目見るわよ♪」
車のハンドルを回しているような器用な手付きで、コーヒーカップは周りに廻り、回っていく。
同乗者として、菊坂 結鹿と樹神枢が乗っていたのだが、
「いや~~!!」
「こ、これは些か強烈、というか、激しいのだ……!!」
二人は二人で身体を抱き合いながら、振り落されないように掴まっているだけで精一杯であった。
御菓子は最早何かに憑りつかれているように廻し続けていた。彼女には酔いというものが辞書に無いのだろう、勇敢な戦士のように屈強を誇っている。
こんなトラブルが発生するのならば、枢は誘うべきでは無かったのか――! なんて涙目で語る結鹿であり、心の中で「ごめんねぇぇ~!」と叫ぶのだが声は、
「いや~~!!」
としか出ない為、こんなに近いの伝えられないだなんて。
守衛野 鈴鳴はコーヒーカップの端から外の世界を見つつ、青ざめていた。
「怖いです……、地獄が、地獄が広がってます……回転地獄です……」
「え!? どこどこ、地獄どこ!? 強い奴いる!!?」
同乗していた鹿ノ島・遥はカップから身を乗り出して、首を盛大に横に振りながら敵を探していた。
「戦場では無いです。あっ、戦場ですが……」
「遊園地で遊ぶとなれば……そう、勝負だな!」
鈴鳴は、一瞬にして嫌な予感がした。目の前の鹿ノ島は、瞳を輝かせながらハンドルを両手で握る。
「パートナー! 一緒にやろうぜ!!」
「私はのんびりくるくる楽しめたらいいんですが……きゃ、きゃああっ。遥さんっ、早い、早いですよ……!」
一斉に廻り出したカップの上。
「いくぜ鈴鳴、まわせまわせカップを回せーーー!! コーヒーカップに悪魔は宿る!!」
鈴鳴の頭の中で、少し前の時間が流れた。鹿ノ島が右手を差し出して、一緒に遊ぼうぜ! とにっこり笑ってくれた事――今や、彼は鬼のような笑い方でハンドルを回す。
「あはははははは!! 世界がすごい勢いで回っていくぜ! たっのしいなー鈴鳴ーーー!!」
「あははっ、皆さんに負けてられません!」
鹿ノ島の一切手抜きの無い手際に、遂に鈴鳴も目を回しながら一緒にコーヒーカップを回し始めていた。
「――……まあ、そうなるよね」
秋人はペットボトルの水や、スキルを発動させながら死体の山を目にしていた。
「君は、大丈夫そうなの?」
「あ、うん……ぎりぎり大丈夫……コーヒーカップ、なんて恐ろしい乗り物……」
白枝も直立しているものの、上半身より上を軽く揺らしながら立っていた。
奏空は
「……おぇぇ」
と言いながら、鉄柵に捕まりながら布団のように干されている。それを白枝が、背中を擦っていた。
たまきは、広場の芝生の上にシートを敷いて横になり、
「うー……調子に乗りすぎちゃった」
隣で、きせきが頭に氷入りの水袋を当てながら苦笑い。
鈴鳴は、
「い、今、皆さんに、酔い止めとか持って、来――」
そこまで言って、ぽてりと倒れ、鹿ノ島が彼女を支えた。支えながら、
「で、どこが勝った!! どこが一番だった!?」
と言ったのを最後に鈴鳴と一緒にベンチに倒れていった。
「枢ちゃんごめんねぇぇ~」
「いいのだー大丈夫なのだー」
結鹿と枢はお互いに支え合いながらなんとか自力で立っていた。だが足下は震える、武者震いだと言えない程に震えている。
一人だけ、ケロっとしていた御菓子はにっこり笑いながら人差し指を天高く。
「じゃ、もう一勝負いこうか♪」
「「「「「「ちょっとまって」」」」」」
全員の声が、綺麗にハモったという。
●
「暁さん、折角ですので一緒に遊びましょう」
「デート? いいよ。僕あれがいいなぁ!」
暁にガシッと腕を掴まれ、そのまま連行されていく神城 アニス。
無駄にやたら強い力で引かれて、足並みを揃えるのに苦戦する彼女であるが、暁の体調が悪いようでは無い事にほっと胸を撫で下ろす。
そんなこんなでアトラクションの列に並んでいた。あらゆる方向に曲がりくねる絶叫系を目にしながら、暁は青ざめていた。
それを体調が悪いかと勘違いしたアニスは、あわわと口を押え。
「人間て恐怖が好きだよね。絶叫系て言えどもあれは果てしなく安全な状態で死に近い高さと速度を味わえるから……って、ん?」
「もし、お加減がよろしくないようでしたら休憩なさいますか?」
「あはは、優しいんだね。僕、そんな他人に気遣われた事無いから新鮮かも」
「……暁さん」
「今僕、すっごく楽しいから。大丈夫だよ、ありがとう。アニス」
お化け屋敷を目の前に。
プリンス・オブ・グレイブル率いる、ユスティーナ・オブ・グレイブルと麻弓 紡は躊躇わずに中へと入って行った。
「みてみて妹者、あっちにも妖怪いるよ! おさわりオッケーだって!」
「……あにじゃうえ、ここなんですの? 怖くない? カラカサセンパイ? サイン? よくわからないんですわ……」
「ハイハイ。唐傘にお岩さんにフランケン……うん?」
紡からしてみれば、既にテンションが最高潮を迎えている殿、もといプリンスが微笑ましいというか面倒というか。保護者的な目線で、彼等を見ていた。
そんなプリンスは顎に手を置きながら、脅かしてくる幽霊に時折、上品に手を振りながら歩いていく。時折、幽霊と握手をしながら、ご苦労だよだなんて労わりの言葉をかける当たり、流石プリンスという事か。
紡の中で、お化け屋敷ってこんな感じだったか記憶が危うくなりかけている。
「オバケヤシキ。王家に生まれた以上、ニポンを代表する妖怪の方々との触れあい。イベンツと聞いては居ても立っても統治してもいられない」
「まぁ! まぁ!! ファンタスティック!!」
ユスティーナこそ、移動していない遊園地は初めてだと、瞳を輝かせながら出たりひっこんだりする幽霊に、タイミングを見つけては抱きしめにかかろうとしていた。
最早お化け屋敷というよりは、異国の異文化交流になっている現場である。
「でもなんでどの妖怪も後ろから挨拶してくるのだろう? ニポンは妖怪の民も奥ゆかしいね。パネエ!」
「えっとー……」
プリンスのテンションも去ることながら、妹のテンションもMAXを超えた。
ふと、紡も嫌な予感がしたのだが、これが的中。幽霊を抱きしめた後に、ユスティーナは半分以上残ったチュロスを落してしまい。
「……あ。ツムギ、落としちゃったんですの」
オシャレに着込んで来たポンチョをぎゅっと握り締めて、半泣きの状態となってしまった。
「あー……落したの? ボクの齧る?」
「……!!」
ユスティーナは紡の腰をぎゅっとハグして離れなかった。
「おっと妹者、ユーレイとハグはあっちの民が終わってからだよ。ニポンでは順番守らなきゃ」
所で。
「それにしても民ったら、ハグされて興奮したのかメチャ絶叫してる」
再びプリンスの日本放浪記に新しい一ページが生まれた事だろう。
●
先頭を、雄々しく行くのは三島椿である。驚く程お化け屋敷が平気なのか、横からお化けが脅かして来てもクールにスルーする程に。偶に、「ああ」と言う程度の驚きはあるようだが。
成瀬 翔は阿久津 亮平の手を引きながら、
「ほらほら亮平さん、置いてかれるぜ」
と椿の後ろ姿を指差すのだが。亮平は下を向きながら、腰を低く保ちつつ、機械のようにぎこちない動きで前に進んでいた。
翔の頭の上ではハテナが浮かぶのだが、亮平は今、至極葛藤していた。幼い頃のこんにゃくに驚き頭をぶつけた記憶から、お化け屋敷には良い感情をなかなか持てないのが真理だったが。
椿も翔もそんな事は露と知らず。ずいずい奥の方へと向かっていくことに、頼もしささえ覚える程。
「お化けにびっくりしてしまっても大丈夫よ。これ、作り物だから」
「そうだぜ、亮平さん! ほら、早く早く!」
椿が闇の奥へ消えていく。翔は亮平の背中を押しつつ、亮平の顔にぺちゃりと何かがついた。生臭くてぬるっとしているものが。
――叫び声は天高く響く。
「暁!」
外に出た椿は、通りかかった少年を見つけて駆け寄っていく。
「……ん? なんかさっきすごい叫び声が聞こえたような」
「気のせいよ。私は椿。三島椿よ。自己紹介が遅れてごめんなさい、暁。私ばかり貴方の名前を知っていたわ、よろしくね」
「椿、ね。先日は君に悪い事をしたから、服の弁償……何か欲しいものがあったら僕に言って? ……おっと」
椿の後方から翔がひょこっと顔を出した。
「ん? 椿さん、なんか見つけたんか?」
「こんにちは、暁って言います」
「暁……あー、黎明の! へー、オレ初めて会ったぜ。成瀬翔ってんだ、よろしくな!」
「翔。君の噂は聞いているよ。なんとも依頼ではよく活躍しているそうな。所で……あっちの人、大丈夫?」
亮平は死にそうになっていた。小鹿のようにふるふる震えながら、強打した頭を押さえていた。
駆け寄っていく翔。病院を支えるように大きな身体を抱く形で支えながら。
「亮平さん顔色悪いなー! あ、今度はあれに乗って気分落ち着かせようぜ!!」
なんだかんだ四人で観覧車に乗る事となっていた。
「遅れたが、俺は阿久津良平……です」
「暁。黎明の、暁……それより、大丈夫……?」
「ああ、なんとか。暁君は何か乗ったかい?」
「うん。あれ、ジェットコースター……? 僕、苦手かも……怖い」
「分る気がする」
つい、生まれた共通点に、にへらと笑う亮平と暁。
「すごく速かったわね。私が飛ぶよりもずっと早かったわ」
だが椿はマイペースに、こくんと頷いた。
「椿さんは怖いものが無いのか!」
翔は笑いながら、観覧車って横に揺れるんだぜと身体を揺らし、慌てて静止させる亮平。
「俺は、ジェットコースター、固まっちゃったからな……」
「ああ……脳内がぐるぐるするよね。あ、誘ってくれてありがとうね、僕遊園地初めてだから誰かと一緒に乗れて嬉しいよ」
●
「さーてぱーっと遊ぶぞー!」
迷家・唯音は駆けながら、テンションをMAX振り切る。まずは、これだと指さしたのはジェットコースターで。
「早く早く!」
と急かす唯音に月歌 浅葱とクー・ルルーヴが足早についていく。
「ふっ、元気の良さでは負けませんよっ。突撃しましょうっ、えいえいおーっ」
「こういう場所に来るは、初めてですね」
列に並んでも、浮足立った三人の衝動は収まる事は無く。今か今かと、ホームに繋がる階段を駆け上っていくのだ。
「ゆいね絶叫マシーン大好き! 何を隠そうクイーン・オブ・ジェットコースターとはゆいねのこと! 二人は絶叫マシーン大丈夫?」
「絶叫マシンとやらも初めてですが、特に問題ありません」
クーは、少しだけ朱に染まる頬で『楽しんでいる感情』を現しながら、クールにこくんと頭を上下させ。
「ふっ、ジェットコースター余裕なのですよっ」
ドヤ顔で腕を組んでキメた浅葱は、従業員さんに『マフラー回収でーす』と言われながらマフラー持っていかれた事に、ガーンと身体を硬直させたという。
バーを固定させ、最頂上を目指して登っていく乗り物。最前列を撮った唯音は、まだ落ちていないのだが足をバタつかせながらその時を待ち。
クーは、いざ高い場所まで来ると……と、心をどきどきさせつつ目を瞑った。
「ふふふっ、どんっと落ちる直前がドキドキしますねっ」
最前列からひとつ後ろに乗っている浅葱も、既に両手を上げてその時を待つ。
かくして、ジェットコースターは位置エネルギーに従い、落ちて行った。
「きゃーったのしーっ! ちょー気持ちいーっ! ね、ね、もう一周しよ?」
唯音は出口から出て来たものの、柵を乗り越え入口に身体を押し込んでいた。
「し、尻尾が、ふわりとした。……ちょっと尻尾乱れた。え、もう一周ですか……お付き合いしましょう」
クーは尻尾を握りながら、唯音の後ろをついていく。
「それではもう一周っ。誰が一番楽しそうな声出せるか競争ですねっ」
だが二周目を乗るには、列が少しある。時間的には待たないといけないらしい。
「なら、それまでこうしようよ!!」
唯音は取り出したカメラを自撮り棒に着けて、こっちを向ける。三人一緒に、ハイチーズ!で、最高の思い出がひとつ出来ました。
「オー! 皆さん一緒に遊園地デスカ? 私も混ぜてくだサーイ!」
リーネ・ブルツェンスカは両手を大きく振りながら、二人の影に駆け寄っていく。
本当は別の人と行く予定であったのだが、見事に振られてしまっては仕方ない。リーネは、鐡之蔵 禊と檜山 樹香と共に、まずはジェットコースターへと足を急かした。
その後は……お化け屋敷が控えているのだが。
「い、一応、他のアトラクションもあるんだし、あ、ほら、観覧車とか!!」
禊はお化け屋敷への方角では無い方へ顔を傾けながら、蒼白い顔で首を横に振ってみた。
同じく、リーネも。
「ア……え、ええと、私は他の乗りものを乗りに……」
お化け屋敷とは別の方向へ歩き出すのだが。樹香は輝いた瞳で、リーネと禊の両腕をがっしり掴んだ。
ジェットコースターでは、樹香は苦手意識が出たのかとても盛大に叫んでしまっていたが、お化け屋敷は別腹。むしろ楽しそうで、樹香の心はわし掴みにされたように心躍っていた。
「……ん? リーネ、どうしたのじゃ? 足が止まってしまったようじゃが。さあさあ、おばけ屋敷に行くとしようぞ!」
「ア、アーーー! イーヤーデースー!!」
「あ、やっぱり行かないと、駄目なんだね……!!」
同じく禊も連行されていくのであった。
「こ、ここ怖いわけじゃないけど! ないけど! び、びっくりするひつようがないんじゃないかぁって言うかな」
「大丈夫、怖い事なんてありはせぬよー。ふふ、楽しみじゃのう」
ぎゃいぎゃいと騒いでいくが、いざ、お化け屋敷の目の前……いや、入口を前にして、従業員さんにどうぞ!と言われてしまえばもう、後戻りはできない。
「お、なんだ怖いのか? 一緒にいってやろうか」
「犠牲者が増えるよぉぉ」
「一緒にいきまショー! ていうか一緒に行って下サーイ!!」
「うむ。仲間は多い方がいいのじゃ」
結城 華多那は丁度三人と合流し、一緒に中へ入って行った。
始まりから途端に暗くなった世界に。リーネと禊は腰を低くしながら樹香を盾に突き進む。
「ヒィ!? キャー!! ホラーは嫌いなのデスーー! イヤー! 変なとこ触らないでくだサーイ!?」
とか、
「触ったのは俺じゃないからな!! 断じて俺じゃないからな!!」
とか、
「いやあぁぁ、腰抜けるううう!!」
とか。
「なんとも楽し気な屋敷であるな!」
とか中から聞こえて来たという。
出て来た四人中、二人はベンチの上でぶつぶつ呟きながら、トラウマ混じりの屋敷を虚ろに見ていた。
「大丈夫じゃなさそうだな」
結構驚いていた、むしろおどろいたフリをしていた華多那はポップコーンを食べながら、死んでいる二人を見て苦笑していた。
「うむ。楽しかったのだがな」
「あれはもう、雰囲気を楽しむためにあるようなもんだしな」
樹香と一緒にポップコーンを食べながら、二人が回復するのを待つのである。
「おーどうしたのです」
「いや、お化け屋敷の破壊力に負けたっていうか……?」
結城 美剣はアイスを片手に、ぺろりとひと舐め。そういう美剣はメリーゴーランドに乗りながら、馬車や木馬に揺られてお姫様気分を味わって来た所だ。
「じゃあ、休憩がてらあれとかどうです?」
美剣が指さしたのは、観覧車。夕焼けを眺めつつ、高い所から見下ろす世界は幻想めいて感動的だと彼女は行った。
いつか……心に決めた恋人と来てみたいとロマンスを騙りながら、見え隠れする昼の月明りに祈った。
「遊園地か……だりー」
と言いつつ、風祭・誘輔は三島 柾と共に歩を進めていた。
「椿が小さい頃はよく……家族と来てたな。遊園地は、お前とも来た事があったな誘輔」
「昔百合さんや妹ときたっけ。俺は遊園地なんかきた事なくて、バイトが多忙で遊びてえ盛りの妹を連れてく暇もねーってぼやいたら、先輩が気イきかせてくれてさ」
ぼやきながら、誘輔は気づく。さっきまで居たがきんちょたちとは完全にハグれている事を。
この場合は、お呼び出し放送のパターンなのか。だが彼等がお呼び出しの放送に気づけるかというと怪しい気もしてくる。
それに、数m先では迷子らしい子供が大声で泣きながら突っ立っていた。
誘輔は眉間を抑えながら、その頃には柾は手際よく迷子らしき少年の手を繋いで連れてきている。
「……お互いあれ位のガキがいてもおかしくねー年んなっちまったな」
誘輔の何気ない一言をトリガーに、追憶の日々を思い出す柾。つい、瞼が熱くなったのを隠すように、
「妹さんは元気か?」
なんて柾は問う所で、浅葱や唯音、クーに、樹香、リーネと華多那に美剣、禊がそれぞれの戦場からやっと帰ってきた。
「全く。何処に行っていたんだ。疲れたろう、休憩にしよう」
「はーい、ゆいねたちジェットコースターは五回乗った」
「ですです、クーも乗りました」
「浅葱!! マフラー回収忘れてた!! あとで取りに行きます」
「こっちは、お化け屋敷だったな。リーネと、禊が」
「「言わなくて良い!!」デース!!」
「面白かったのじゃがなあ、そのあとは」
「観覧者に乗ってきたんですよー」
それぞれの報告に柾は苦笑しながら、保護者と子供達のような微笑ましい世界をカシャと盗撮した誘輔の頭がぐりぐりされるまで六十秒前。
●
「ちょっと付き合えよ」
「やだ。あぁぁやだっていったのにいい!!」
暁の首根っこを掴んだ諏訪 刀嗣はそのままずんずん進んでいった。
「ソイツと初めて会ったのは教会だったな。一瞬で斬られた、完敗ってやつだ」
気が付けば、ベンチの端と端に座りながら、話しを始める。
「俺は嬉しかったぜ。そんだけ強い奴がいるんだ、ソイツと戦えって超えられるってな」
「なんの話か見えない……」
「ところが、だ。そいつはくだらねえ茶番を始めやがった。こそこそ動きまわるのはがっかりだ」
「……」
「いい加減小物じみた真似はやめて力で切り開いて欲しいもんだ」
「なんの事だか……」
刀嗣は暁の胸倉を掴んで引き寄せる。
「テメェのちっちぇえ脳みそでもわかるようにわかりやすく言ってやろうか? 俺は逢魔ヶ時紫雨に喧嘩を売ってんだよ」
「君が紫雨に? 止めた方がいいよ。今度は手首だけじゃ済まないかもね」
●
「……いや、よりによって、どうしてジェットコースターなんだ」
ぼやく六道 瑠璃の顔色は何時にも増して蒼白く染まっていた。全身で苦手さを放出しながら、
「観覧車とか、メリーゴーランドとかコーヒーカップとかあるじゃん」
と。隣に居る棚橋・悠に振ってみるのだが。
「快晴! そこそこ暖かい! 遊園地日和! アトラクションがボクを呼んでるよー♪ やっぱここはジェットコースターでしょ! これに乗らないと遊園地じゃない!」
「あ、説得を入れる隙も無い感じだこれ」
とガッツポーズを決めていた悠を見て。どうすれば悠を攻略できるかを一生懸命考える事にした。
言っておいて今更だが、恐らくコーヒーカップも全力で回すから絶叫系に成るを得ない。
「むむー……困ったにゃー」
と悩む表情を見せる悠であるのだが。何時の間にか二人はジェットコースターの順番に並び、ついに番は巡ってきてしまった。
「ハッ、い、いつの間に」
「ささ、瑠璃くん行こうねー♪」
「いやまだ帰れる、帰れるのに!!」
連行されていった瑠璃。
安全バーを降ろされ、動き出した瞬間から瑠璃は白眼を剥きながら、
「――っ!」
言葉にならない絶叫を最大音量で叫びながら、
「ほら! 瑠璃くん! こんなに高いよ!」
キラキラした表情を向け、キャッキャと声を出す悠とのテンションの差は歴然としていた。
そして。
「ぅ、わ――」
「きゃっほーーーーーい!!」
その後、この調子で瑠璃は悠に付き合わされていったという。
花蔭ヤヒロと鳴神零は、絶賛お化け屋敷の中で身動きが取れなくなっていた。
「こ、こわくなんか無いぞー。これはむしゃぶるいなんだ!」
「イヤアァァァ」
小さな身体のヤヒロの後ろに、零は籠りながら二人とも微動している。恐らくここから一歩踏み出せば目の前の仕掛けが作動する仕組みだろう。
分っているからこそ、何故だか動けない。そんな感じで五分は停滞していた。
「だだだだだだ大丈夫だよ零がついてるからねねねねねね!!」
戦闘では先頭を突っきって行きそうな零も今日は一乙女。本当はお姉さんとしてあらゆる恐怖もサラリと回避できれば理想的であったが。
対して、かっこいいと言われたい年頃のヤヒロも。同じように敵に堂々立ち向かっていきたい。されどされどかなりの中腰の格好で、一歩踏み出す。
するとカタンと動いた仕掛けに、……だが、大した事は無く難なくクリアできたの。なんだーって、思いのほかイケると踏んだ。
その時。
「……ばあ」
「……」
「……」
十秒程世界は止まった。
最も、冷静な状態であらば蝶を従えながら、突如壁の真横から顔だけ突き出し(物質透過)生首を演出したエヌ・ノウ・ネイムである事は分かったのだが。
「ぎゃあああああああああ!! 突如壁から仮面紳士ぃぃ!!」
と零が面白い声を上げれば、
「うわああああ!! 生首ィィィ!!!」
と釣られて叫んだヤヒロ。
「えええええ!!!」
更にヤヒロの叫びに驚いて零が叫ぶ、二次災害が発生した。
「おや、効果は抜群という所でしょうか……」
エヌは満足げに悲鳴を聞きながら、笑った。こうやってお化け屋敷に来た人たちを怖がらせながら見返りに悲鳴を頂く。
上手く悲鳴がきければ御の字。そうやって演劇役者としての経験を生かす事で幸福を感じれる。
さあ、一心不乱の恐怖と悲鳴をエヌに―――。
どさくさに紛れて手を繋ぐ所か。零とヤヒロは、二人でギャグのように抱き付いて全身の毛を逆立ててながら、そこから二人で一緒に全速疾走でお化け屋敷をなんとか攻略せしめたのだと。
「頼りないお姉さんでごめんねぇぇ」
「あう、チビりそうだった」
暫く遊園地を満喫してから、円 善司と明石ミュエルは観覧車に揺られていた。
『観覧車……地元のより、大きくて……周りの景色も綺麗で。きっと、すごく素敵、なんだろうなぁ……』
『俺も、景色が見たいって思ってた所だから』
ふと零したミュエルの言葉に、善司は観覧車の方へ手を引っ張ったのが始まりである。遠くでは夕焼けの紅が、静かに夜の帳に染まっていく。
二人は、向かい合って座るよりは、同じひとつの横長の席で端と端に座っていた。微妙な距離感は、近いようで遠い距離だ。
ミュエルの鼓動は、高鳴る。なんでも無い距離が、今は近いと感じるのは何故であろうか。
「俺の家ここから見えそう」
「うん……っ」
かたんと立ち上がった、善司は遠くを指差して。
「あの辺が寮かな」
「うんっっ」
控えめな彼女は、端の方に更に寄って小さくなっていた。
「あ、立ったから揺れがひどい?」
「そ、そうじゃなくて! ……景色、地元の遊園地より、綺麗だけど…」
――なんか、ドキドキして……周り、見る余裕……ない、かも……なんて言えるはずもなくて。
照れ隠しに頬を掻いた善司は、気づけば、
「……あ。過ぎちまったな、天辺」
と言いながら、また端の方へ座った。だがこのままでは終わってしまう。割と観覧車の一周とは早いものなのだ。
だから、その前に。
「えっと……隣、行って……いいかな?」
もう隣だけど。そうじゃなくて、もっと隣に。
●
初めて遊園地に来たという京極 千晶は両腕を空高くあげながら、問う。
「志賀さん、あれなんですか? あの着ぐるみは妖怪ですか? あとあの屋台から美味しい匂いがするけどなんですか!」
「あの着ぐるみはこの遊園地のマスコットキャラクターで。あっちの屋台は、チュロスって言って。ええい、質問は一つずつて頼む」
後ろから落ち着いたテンポで歩いてくる志賀 行成。
「あのでっかい廻ってるのは!?」
「観覧車といって――……」
「あっちの長い奴は! ひえ、叫び声!?」
「絶叫マシーンといって――……」
淡々と答えていく行成は、心の中で『この年齢差ならまるで兄妹だ』と、言い得て妙だと頷いていた。
「あ! あっちは!!」
目を離せば風船のように風の行くままに流れていく千晶の腕をしっかり握りながら、そっちでは無いとジェットコースターを目指す行成。
思えば、遊園地とは何時ぶりか。行成の表情は曇り色を見せつつ過去の追憶に縛られそうになった刹那、ゴォンという音と共に看板に顔面を強打していた。
「初めて来たけどすごく楽しそうなところですねーって、頭ぶつけたけど大丈夫かな?」
「……大丈夫だ」
「よかった、眼鏡は無事です!!」
「そっちか」
そして、
「ほう……スリリングなタイプか、面白い。これに乗るが、大丈夫そうか?」
「問題ないですよお!」
「ならば行くか」
千晶は行成の後ろを着いていく。今度はモルトのメンバー、皆で来れればいいなと未来を語りながら。
秋ノ宮 たまきはルームメイトの三峯・由愛と共に遊びに来ていた。
貴重な休日、たまきとしては何もかも忘れてフレッシュしてリセットを決め込みたい。
対して由愛は、実は遊園地は初めてなのだと語る。ここはたまきがリードしてやらねばならない時だ。
「さて、どれ乗ろっか。って、そういえば二人で遊園地に来るのも初めてって事になるのよね」
「ですです。今日はありがとうございます、たまきちゃん」
まだ始まったばかりでお礼が出るのは、それほどまでに由愛は楽しみにしてくれていたのだろう。
「ほら、覚えてる? 由愛がうちにきた時、土蔵でかくれんぼして。暗くて怖くて泣き出しちゃったのよね、懐かしい」
「そんな事もありました……あ、たまきちゃん、ジェットコースターに乗ってみましょうっ。スリル満点で楽しそうですよねっ、ねっ!」
「えっ。ジェットコースター!? べ、別に怖くないわよ子供じゃないんだから」
少しだけ青ざめていたたまきであったが、由愛に腕を掴まれて走って行き――そして。
「きゃあーーーーーーーーーーーっ!?」
という、たまきの叫び声が遊園地に響いたという。
かくして、ジェットコースターから生還した二人。たまきはテーブルに突っ伏した状態で動かないままになっていた。
「あー心臓に悪い……ドッと疲れたわ。由愛は平気? 意外と図太いのね」
「……あっ、もしかしてたまきちゃん、ああいうの苦手でしたか? ごめんなさい……柄にもなくはしゃぎ過ぎちゃいました」
えへへと頭を掻く由愛に、たまきは水分を補給して落ち着きながら温かい室内レストランで休憩を挟む。
なんだかデートのような形になってきた事に、由愛は少しだけ遠慮気味に笑いつつ。
「私は嬉しいですよ。こうしてたまきちゃんと一緒にいられて。たまきちゃんはどうですか? 私と一緒は、楽しいですか?」
「楽しいかった……い、言わせないでよ。楽しくなかったら最初から来ないってば!」
「よ……よかったぁ」
●
「久しぶりに二人で話せたね」
天城 聖は、水蓮寺 静護を目の前にカフェテラスで足を組んだ。
「こんな場じゃなくてもーなんて思ったけど、依頼で忙しいもんね、お互いに」
「ああ、まあ……元気そうでなによりだ」
「そっちもね! 柄にもない事言っちゃって!!」
「……っ」
二人で頼んだケーキの種類はバラバラで、紅茶の種類もバラバラなのに、何かが合う二人は同じ動作でケーキを口に運んでいく。
「じゃあ、なんの話をしよっか?」
「大した話しも無い。だがそれでもいいだろう。まずは――」
「遊園地貸切っちゃう辺り、うちの組織もやることが色んな意味でデカイよな……」
「ぶ、ブルジョア……!!」
「まぁ折角来たんだし存分に楽しもうぜ。明日見、何乗りたい?」
和泉・鷲哉は、用意周到にパンフレットを開きながら聞いてみる。明日見 千聖は、んー……と顔を傾けつつ、
「よし! 和泉、あたしジェットコースターに乗りたいわ!! 大好き!」
「初っ端からそれかよ」
元気にはしゃぐ彼女を見て、鷲哉は苦笑混じりに。
「まぁ定番だよな。んじゃ早速行くか。折角なら一番高低差激しくてスピード出るやつにしようぜ」
かくして、安全バーは下げられた。動き出してからの、どきどき感は言葉では言い表せない期待感を秘めている。
「大好きだけど、やっぱりドキドキするのよね。この、降下する瞬間……とか……っ!!」
「あ、やばいそろそろやばいやつだ」
遊園地のジェットコースターとは、基本的に最初がクライマックスである。あとは余韻を引きつつ、時には最後の方が盛り上がるものはあるのだが。
これは最初が一番高い所から落ちていくパターンの乗り物。左右に振られる激しさと速度を誇るやつ。
終わってから、髪型が乱れたのを直しながら。ストレスが一瞬にして拭い去った二人は笑顔で出口へ向かっていく。
「あーやっぱスピード系は外せねーわ。さて、次はどうする?」
「す、少し、休憩しましょう……ちょっと、叫び過ぎちゃって……。初っ端からはしゃぎ過ぎたわ、休憩してから次の行きたい」
「と人多いな。明日見こっち側歩きな。お前吹っ飛ばされるよ」
「別に吹き飛ばされないっての! ばか!」
頬を膨らませる千聖は、心の中で紳士的な彼の態度に猛抗議しながら、『こっち側』へさり気なく誘導されたのであった。
野武 七雅は隣に、樹神枢を置いて。安全バーを下げる。シートベルトの着用もきっちりした事を確認し。いざ。
「安全装置って外れたりしないよね?」
「航空事故よりも低い確率なのだ」
「100%では無いんだねそれ……」
かたんと動き出し、斜め上へと急角度を登っていく。じわりじわりと期待感は煽られていくのだ。
「うごきだしたの」
「う、うむ」
「だいじょうぶなの、怖くないの。なつねは大人になるから」
「大人なのだな……!」
「あ……手、つないでてもいいかな? カタカタいってるの」
「武者震いという事にしておくのだ。僕の手でよければ、むぎゅむぎゅ」
「だ、だいぶ上まで上ってきたの。おちる……おちるの! おちるのぉぉぉ!」
「おお、おぉ」
「おちたのぉぉぉ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふみゃあああああああああああ!!」
以上、実況でした。
終わってから髪型を直しながら、二人は笑顔で降りていく。
「枢ちゃん大丈夫なの?! なつねは命削って復活したかんじだよー」
「うむ、結構面白かったのだ。なつね殿、もう一度いくのだぞ!」
橡・槐は、久方ぶりの遊園地を目の前に十数年前の出来事を思い出していた。
その時では乗れなかったものを乗りに。幼い頃の、ぽっかり穴の空いた部分を埋めに。槐は行く。せっかく、タダだし。
(やはり遊園地の花形といえば、それは最も早く、最も高い。疾走する鉄とレールのサーキット……ジェットコースターに決まっているのです。それではレッツゴーなのです♪)
車椅子を廻しながら、槐は意気揚々と駆けて行く。
が、到着してから気づく。ジェットコースターは、階段を登った上にホームがある。故に、車椅子ではあがれない。
「おのれ差別主義者どもめ、見ているのですよ。フフフ……基本、戦闘時のみなど知ったことではないのです!」
覚醒を、一心不乱の大覚醒を。
もはやこの身、不退転。
止めようとする奴は大統領だって敵だと思うが良いのです。
再び意気揚々と。長く伸びた髪を後ろへかきながら、『歩いていく』彼女は――そして。
「身長……制限だと……」
超えられない壁が、そこにあった。
ペットボトルのお茶が揺れる。一色・満月は赤鈴いばらとカフェで休憩していた。
「初めてジェットコースターとやらに乗ったぞ。心が躍る様で面白かったな」
「そうですね、ジェットコースター楽しかったですねっ!」
カチャンと、ホットココアの器をテーブルの上に置きながら、にこりと笑ったいばら。
あれから、ジェットコースターを何周もしながら、脳内をフルシェイクしてストレスを吹き飛ばした事に、二人は合わせて笑って。
「あとは、高い所から落ちるのも有意義であった。命綱とは大切なのだな。なんだったか、バンジー……?」
「あぁ、バンジージャンプですね! 紐なしですと、ただの飛び降りになってしまうのでは!?」
覚者ならいけるかもしれないと、冗談を交えてながら。ホットココアに浮かんだ白い生クリームを見て、いばらの頭の上で電球が灯った。
「下がぽふんぽふんの生クリームとかなら良さそうですけどね?」
「生クリームか。それなら飛び込んだら、全身が生クリーム塗れになっておいしそうであるな」
意外と二人は甘党であるのかもしれない。心まで甘く蕩かすような、そんな楽しい出来事が多くあれば楽しいのに。
「満月さん、次はこれ行ってみません?」
「あれは……なんだ、おっきいな」
そしてまた、二人は二人の世界に染まった。
「今日は吐くまで遊ぶぞー!」
白昼の空に天高く腕を掲げた工藤・奏空。
後ろから鈴白秋人が微笑ましげにくすりと笑い、奏空はそこでハッと我に返りつつ赤い頬を隠すように腕をひっこめた。
「皆、今日は宜しくお願いします」
教員志望の秋人としては、こういった遠足の引率というのは貴重な体験である。
「鈴白さん学校の先生になるのー!? じゃあ、先生って呼ばなきゃですね! 鈴白せんせー!」
そこから多々の質問を弾丸のように突きつけていく奏空であり。
「専門科目は中学校なら数学で、小学校なら全教科だね。スポーツも勿論。体育でダンスも教えないといけなくなってるから。でも、皆の方が身軽そうだし、スポーツだと負けるかも知れないね。ゲームはRPGもパズルゲームも割と好きだよ」
「凄い真面目に答えがきちゃった」
御影・きせきは青色のコーヒーカップに乗りながら白枝 遥を前に顔を傾けた。
「いっぱいぐるぐる回していい? 遥くん初めてだけど大丈夫??」
「うん。多分恐らく……」
「曖昧さを回避しない答えだー」
といった白枝は後々で後悔してしまう事になるのは見えていたかもしれないが。
今、白枝は大きなマスコットキャラクターのぬいぐるみを両手で抱えた状態で、座っていた。もふもふで温かみ帯びて、ゆくゆくは黒系の名前の友人にあげる為のものを。
「じゃー、ぐるぐるチャンレジだよー!」
「耐久レースみたいな」
両者とも心が弾むようなわくわく感を覚えた所で、アトラクションは優雅に回り始めた。
本来ならば、優雅なそれだがきせきのハイテンションにより高速で回転するマシンは遠心分離機のようだ。白枝も、目をぐるぐる廻しながら人形をぎゅうと抱きしめたまま。
対抗意識を見せた奏空は、
「よーし! たまきちゃん、俺達の速さを見せてやれー!」
「負けませんよ! 奏空さん!」
賀茂 たまきはコーヒーカップ中央の丸い器具を掴んだ。たまき、彼女としては初めての遊園地に心を躍らせている所だ。他にも絶叫マシーンやら色々あるだろうが、身長制限という高すぎた壁は乗り越えられなかったようだ。
故に、コーヒーカップには力が入った。ぐるぐる廻る世界。もっともっととよいしょする奏空の目も既にかなり廻っている。
隣の桃色のコーヒーカップからは、同じように元気な声が聞こえた。
「うりゃぁぁ~~っ!」
向日葵 御菓子である。この時点で秋人は眉間を抑えて、戦場の外から見守っていた。引率者として。
三秒前くらいまでは御菓子の頭の上で、『他のカップには負けられない!』『先生の威厳をかけた勝負なのよ』って悪魔と天使が取っ組み合いの論争をしていたのだが、結果天使が悪魔に蹂躙されたらしい。
「大人を嘗めると痛い目見るわよ♪」
車のハンドルを回しているような器用な手付きで、コーヒーカップは周りに廻り、回っていく。
同乗者として、菊坂 結鹿と樹神枢が乗っていたのだが、
「いや~~!!」
「こ、これは些か強烈、というか、激しいのだ……!!」
二人は二人で身体を抱き合いながら、振り落されないように掴まっているだけで精一杯であった。
御菓子は最早何かに憑りつかれているように廻し続けていた。彼女には酔いというものが辞書に無いのだろう、勇敢な戦士のように屈強を誇っている。
こんなトラブルが発生するのならば、枢は誘うべきでは無かったのか――! なんて涙目で語る結鹿であり、心の中で「ごめんねぇぇ~!」と叫ぶのだが声は、
「いや~~!!」
としか出ない為、こんなに近いの伝えられないだなんて。
守衛野 鈴鳴はコーヒーカップの端から外の世界を見つつ、青ざめていた。
「怖いです……、地獄が、地獄が広がってます……回転地獄です……」
「え!? どこどこ、地獄どこ!? 強い奴いる!!?」
同乗していた鹿ノ島・遥はカップから身を乗り出して、首を盛大に横に振りながら敵を探していた。
「戦場では無いです。あっ、戦場ですが……」
「遊園地で遊ぶとなれば……そう、勝負だな!」
鈴鳴は、一瞬にして嫌な予感がした。目の前の鹿ノ島は、瞳を輝かせながらハンドルを両手で握る。
「パートナー! 一緒にやろうぜ!!」
「私はのんびりくるくる楽しめたらいいんですが……きゃ、きゃああっ。遥さんっ、早い、早いですよ……!」
一斉に廻り出したカップの上。
「いくぜ鈴鳴、まわせまわせカップを回せーーー!! コーヒーカップに悪魔は宿る!!」
鈴鳴の頭の中で、少し前の時間が流れた。鹿ノ島が右手を差し出して、一緒に遊ぼうぜ! とにっこり笑ってくれた事――今や、彼は鬼のような笑い方でハンドルを回す。
「あはははははは!! 世界がすごい勢いで回っていくぜ! たっのしいなー鈴鳴ーーー!!」
「あははっ、皆さんに負けてられません!」
鹿ノ島の一切手抜きの無い手際に、遂に鈴鳴も目を回しながら一緒にコーヒーカップを回し始めていた。
「――……まあ、そうなるよね」
秋人はペットボトルの水や、スキルを発動させながら死体の山を目にしていた。
「君は、大丈夫そうなの?」
「あ、うん……ぎりぎり大丈夫……コーヒーカップ、なんて恐ろしい乗り物……」
白枝も直立しているものの、上半身より上を軽く揺らしながら立っていた。
奏空は
「……おぇぇ」
と言いながら、鉄柵に捕まりながら布団のように干されている。それを白枝が、背中を擦っていた。
たまきは、広場の芝生の上にシートを敷いて横になり、
「うー……調子に乗りすぎちゃった」
隣で、きせきが頭に氷入りの水袋を当てながら苦笑い。
鈴鳴は、
「い、今、皆さんに、酔い止めとか持って、来――」
そこまで言って、ぽてりと倒れ、鹿ノ島が彼女を支えた。支えながら、
「で、どこが勝った!! どこが一番だった!?」
と言ったのを最後に鈴鳴と一緒にベンチに倒れていった。
「枢ちゃんごめんねぇぇ~」
「いいのだー大丈夫なのだー」
結鹿と枢はお互いに支え合いながらなんとか自力で立っていた。だが足下は震える、武者震いだと言えない程に震えている。
一人だけ、ケロっとしていた御菓子はにっこり笑いながら人差し指を天高く。
「じゃ、もう一勝負いこうか♪」
「「「「「「ちょっとまって」」」」」」
全員の声が、綺麗にハモったという。
●
「暁さん、折角ですので一緒に遊びましょう」
「デート? いいよ。僕あれがいいなぁ!」
暁にガシッと腕を掴まれ、そのまま連行されていく神城 アニス。
無駄にやたら強い力で引かれて、足並みを揃えるのに苦戦する彼女であるが、暁の体調が悪いようでは無い事にほっと胸を撫で下ろす。
そんなこんなでアトラクションの列に並んでいた。あらゆる方向に曲がりくねる絶叫系を目にしながら、暁は青ざめていた。
それを体調が悪いかと勘違いしたアニスは、あわわと口を押え。
「人間て恐怖が好きだよね。絶叫系て言えどもあれは果てしなく安全な状態で死に近い高さと速度を味わえるから……って、ん?」
「もし、お加減がよろしくないようでしたら休憩なさいますか?」
「あはは、優しいんだね。僕、そんな他人に気遣われた事無いから新鮮かも」
「……暁さん」
「今僕、すっごく楽しいから。大丈夫だよ、ありがとう。アニス」
お化け屋敷を目の前に。
プリンス・オブ・グレイブル率いる、ユスティーナ・オブ・グレイブルと麻弓 紡は躊躇わずに中へと入って行った。
「みてみて妹者、あっちにも妖怪いるよ! おさわりオッケーだって!」
「……あにじゃうえ、ここなんですの? 怖くない? カラカサセンパイ? サイン? よくわからないんですわ……」
「ハイハイ。唐傘にお岩さんにフランケン……うん?」
紡からしてみれば、既にテンションが最高潮を迎えている殿、もといプリンスが微笑ましいというか面倒というか。保護者的な目線で、彼等を見ていた。
そんなプリンスは顎に手を置きながら、脅かしてくる幽霊に時折、上品に手を振りながら歩いていく。時折、幽霊と握手をしながら、ご苦労だよだなんて労わりの言葉をかける当たり、流石プリンスという事か。
紡の中で、お化け屋敷ってこんな感じだったか記憶が危うくなりかけている。
「オバケヤシキ。王家に生まれた以上、ニポンを代表する妖怪の方々との触れあい。イベンツと聞いては居ても立っても統治してもいられない」
「まぁ! まぁ!! ファンタスティック!!」
ユスティーナこそ、移動していない遊園地は初めてだと、瞳を輝かせながら出たりひっこんだりする幽霊に、タイミングを見つけては抱きしめにかかろうとしていた。
最早お化け屋敷というよりは、異国の異文化交流になっている現場である。
「でもなんでどの妖怪も後ろから挨拶してくるのだろう? ニポンは妖怪の民も奥ゆかしいね。パネエ!」
「えっとー……」
プリンスのテンションも去ることながら、妹のテンションもMAXを超えた。
ふと、紡も嫌な予感がしたのだが、これが的中。幽霊を抱きしめた後に、ユスティーナは半分以上残ったチュロスを落してしまい。
「……あ。ツムギ、落としちゃったんですの」
オシャレに着込んで来たポンチョをぎゅっと握り締めて、半泣きの状態となってしまった。
「あー……落したの? ボクの齧る?」
「……!!」
ユスティーナは紡の腰をぎゅっとハグして離れなかった。
「おっと妹者、ユーレイとハグはあっちの民が終わってからだよ。ニポンでは順番守らなきゃ」
所で。
「それにしても民ったら、ハグされて興奮したのかメチャ絶叫してる」
再びプリンスの日本放浪記に新しい一ページが生まれた事だろう。
●
先頭を、雄々しく行くのは三島椿である。驚く程お化け屋敷が平気なのか、横からお化けが脅かして来てもクールにスルーする程に。偶に、「ああ」と言う程度の驚きはあるようだが。
成瀬 翔は阿久津 亮平の手を引きながら、
「ほらほら亮平さん、置いてかれるぜ」
と椿の後ろ姿を指差すのだが。亮平は下を向きながら、腰を低く保ちつつ、機械のようにぎこちない動きで前に進んでいた。
翔の頭の上ではハテナが浮かぶのだが、亮平は今、至極葛藤していた。幼い頃のこんにゃくに驚き頭をぶつけた記憶から、お化け屋敷には良い感情をなかなか持てないのが真理だったが。
椿も翔もそんな事は露と知らず。ずいずい奥の方へと向かっていくことに、頼もしささえ覚える程。
「お化けにびっくりしてしまっても大丈夫よ。これ、作り物だから」
「そうだぜ、亮平さん! ほら、早く早く!」
椿が闇の奥へ消えていく。翔は亮平の背中を押しつつ、亮平の顔にぺちゃりと何かがついた。生臭くてぬるっとしているものが。
――叫び声は天高く響く。
「暁!」
外に出た椿は、通りかかった少年を見つけて駆け寄っていく。
「……ん? なんかさっきすごい叫び声が聞こえたような」
「気のせいよ。私は椿。三島椿よ。自己紹介が遅れてごめんなさい、暁。私ばかり貴方の名前を知っていたわ、よろしくね」
「椿、ね。先日は君に悪い事をしたから、服の弁償……何か欲しいものがあったら僕に言って? ……おっと」
椿の後方から翔がひょこっと顔を出した。
「ん? 椿さん、なんか見つけたんか?」
「こんにちは、暁って言います」
「暁……あー、黎明の! へー、オレ初めて会ったぜ。成瀬翔ってんだ、よろしくな!」
「翔。君の噂は聞いているよ。なんとも依頼ではよく活躍しているそうな。所で……あっちの人、大丈夫?」
亮平は死にそうになっていた。小鹿のようにふるふる震えながら、強打した頭を押さえていた。
駆け寄っていく翔。病院を支えるように大きな身体を抱く形で支えながら。
「亮平さん顔色悪いなー! あ、今度はあれに乗って気分落ち着かせようぜ!!」
なんだかんだ四人で観覧車に乗る事となっていた。
「遅れたが、俺は阿久津良平……です」
「暁。黎明の、暁……それより、大丈夫……?」
「ああ、なんとか。暁君は何か乗ったかい?」
「うん。あれ、ジェットコースター……? 僕、苦手かも……怖い」
「分る気がする」
つい、生まれた共通点に、にへらと笑う亮平と暁。
「すごく速かったわね。私が飛ぶよりもずっと早かったわ」
だが椿はマイペースに、こくんと頷いた。
「椿さんは怖いものが無いのか!」
翔は笑いながら、観覧車って横に揺れるんだぜと身体を揺らし、慌てて静止させる亮平。
「俺は、ジェットコースター、固まっちゃったからな……」
「ああ……脳内がぐるぐるするよね。あ、誘ってくれてありがとうね、僕遊園地初めてだから誰かと一緒に乗れて嬉しいよ」
●
「さーてぱーっと遊ぶぞー!」
迷家・唯音は駆けながら、テンションをMAX振り切る。まずは、これだと指さしたのはジェットコースターで。
「早く早く!」
と急かす唯音に月歌 浅葱とクー・ルルーヴが足早についていく。
「ふっ、元気の良さでは負けませんよっ。突撃しましょうっ、えいえいおーっ」
「こういう場所に来るは、初めてですね」
列に並んでも、浮足立った三人の衝動は収まる事は無く。今か今かと、ホームに繋がる階段を駆け上っていくのだ。
「ゆいね絶叫マシーン大好き! 何を隠そうクイーン・オブ・ジェットコースターとはゆいねのこと! 二人は絶叫マシーン大丈夫?」
「絶叫マシンとやらも初めてですが、特に問題ありません」
クーは、少しだけ朱に染まる頬で『楽しんでいる感情』を現しながら、クールにこくんと頭を上下させ。
「ふっ、ジェットコースター余裕なのですよっ」
ドヤ顔で腕を組んでキメた浅葱は、従業員さんに『マフラー回収でーす』と言われながらマフラー持っていかれた事に、ガーンと身体を硬直させたという。
バーを固定させ、最頂上を目指して登っていく乗り物。最前列を撮った唯音は、まだ落ちていないのだが足をバタつかせながらその時を待ち。
クーは、いざ高い場所まで来ると……と、心をどきどきさせつつ目を瞑った。
「ふふふっ、どんっと落ちる直前がドキドキしますねっ」
最前列からひとつ後ろに乗っている浅葱も、既に両手を上げてその時を待つ。
かくして、ジェットコースターは位置エネルギーに従い、落ちて行った。
「きゃーったのしーっ! ちょー気持ちいーっ! ね、ね、もう一周しよ?」
唯音は出口から出て来たものの、柵を乗り越え入口に身体を押し込んでいた。
「し、尻尾が、ふわりとした。……ちょっと尻尾乱れた。え、もう一周ですか……お付き合いしましょう」
クーは尻尾を握りながら、唯音の後ろをついていく。
「それではもう一周っ。誰が一番楽しそうな声出せるか競争ですねっ」
だが二周目を乗るには、列が少しある。時間的には待たないといけないらしい。
「なら、それまでこうしようよ!!」
唯音は取り出したカメラを自撮り棒に着けて、こっちを向ける。三人一緒に、ハイチーズ!で、最高の思い出がひとつ出来ました。
「オー! 皆さん一緒に遊園地デスカ? 私も混ぜてくだサーイ!」
リーネ・ブルツェンスカは両手を大きく振りながら、二人の影に駆け寄っていく。
本当は別の人と行く予定であったのだが、見事に振られてしまっては仕方ない。リーネは、鐡之蔵 禊と檜山 樹香と共に、まずはジェットコースターへと足を急かした。
その後は……お化け屋敷が控えているのだが。
「い、一応、他のアトラクションもあるんだし、あ、ほら、観覧車とか!!」
禊はお化け屋敷への方角では無い方へ顔を傾けながら、蒼白い顔で首を横に振ってみた。
同じく、リーネも。
「ア……え、ええと、私は他の乗りものを乗りに……」
お化け屋敷とは別の方向へ歩き出すのだが。樹香は輝いた瞳で、リーネと禊の両腕をがっしり掴んだ。
ジェットコースターでは、樹香は苦手意識が出たのかとても盛大に叫んでしまっていたが、お化け屋敷は別腹。むしろ楽しそうで、樹香の心はわし掴みにされたように心躍っていた。
「……ん? リーネ、どうしたのじゃ? 足が止まってしまったようじゃが。さあさあ、おばけ屋敷に行くとしようぞ!」
「ア、アーーー! イーヤーデースー!!」
「あ、やっぱり行かないと、駄目なんだね……!!」
同じく禊も連行されていくのであった。
「こ、ここ怖いわけじゃないけど! ないけど! び、びっくりするひつようがないんじゃないかぁって言うかな」
「大丈夫、怖い事なんてありはせぬよー。ふふ、楽しみじゃのう」
ぎゃいぎゃいと騒いでいくが、いざ、お化け屋敷の目の前……いや、入口を前にして、従業員さんにどうぞ!と言われてしまえばもう、後戻りはできない。
「お、なんだ怖いのか? 一緒にいってやろうか」
「犠牲者が増えるよぉぉ」
「一緒にいきまショー! ていうか一緒に行って下サーイ!!」
「うむ。仲間は多い方がいいのじゃ」
結城 華多那は丁度三人と合流し、一緒に中へ入って行った。
始まりから途端に暗くなった世界に。リーネと禊は腰を低くしながら樹香を盾に突き進む。
「ヒィ!? キャー!! ホラーは嫌いなのデスーー! イヤー! 変なとこ触らないでくだサーイ!?」
とか、
「触ったのは俺じゃないからな!! 断じて俺じゃないからな!!」
とか、
「いやあぁぁ、腰抜けるううう!!」
とか。
「なんとも楽し気な屋敷であるな!」
とか中から聞こえて来たという。
出て来た四人中、二人はベンチの上でぶつぶつ呟きながら、トラウマ混じりの屋敷を虚ろに見ていた。
「大丈夫じゃなさそうだな」
結構驚いていた、むしろおどろいたフリをしていた華多那はポップコーンを食べながら、死んでいる二人を見て苦笑していた。
「うむ。楽しかったのだがな」
「あれはもう、雰囲気を楽しむためにあるようなもんだしな」
樹香と一緒にポップコーンを食べながら、二人が回復するのを待つのである。
「おーどうしたのです」
「いや、お化け屋敷の破壊力に負けたっていうか……?」
結城 美剣はアイスを片手に、ぺろりとひと舐め。そういう美剣はメリーゴーランドに乗りながら、馬車や木馬に揺られてお姫様気分を味わって来た所だ。
「じゃあ、休憩がてらあれとかどうです?」
美剣が指さしたのは、観覧車。夕焼けを眺めつつ、高い所から見下ろす世界は幻想めいて感動的だと彼女は行った。
いつか……心に決めた恋人と来てみたいとロマンスを騙りながら、見え隠れする昼の月明りに祈った。
「遊園地か……だりー」
と言いつつ、風祭・誘輔は三島 柾と共に歩を進めていた。
「椿が小さい頃はよく……家族と来てたな。遊園地は、お前とも来た事があったな誘輔」
「昔百合さんや妹ときたっけ。俺は遊園地なんかきた事なくて、バイトが多忙で遊びてえ盛りの妹を連れてく暇もねーってぼやいたら、先輩が気イきかせてくれてさ」
ぼやきながら、誘輔は気づく。さっきまで居たがきんちょたちとは完全にハグれている事を。
この場合は、お呼び出し放送のパターンなのか。だが彼等がお呼び出しの放送に気づけるかというと怪しい気もしてくる。
それに、数m先では迷子らしい子供が大声で泣きながら突っ立っていた。
誘輔は眉間を抑えながら、その頃には柾は手際よく迷子らしき少年の手を繋いで連れてきている。
「……お互いあれ位のガキがいてもおかしくねー年んなっちまったな」
誘輔の何気ない一言をトリガーに、追憶の日々を思い出す柾。つい、瞼が熱くなったのを隠すように、
「妹さんは元気か?」
なんて柾は問う所で、浅葱や唯音、クーに、樹香、リーネと華多那に美剣、禊がそれぞれの戦場からやっと帰ってきた。
「全く。何処に行っていたんだ。疲れたろう、休憩にしよう」
「はーい、ゆいねたちジェットコースターは五回乗った」
「ですです、クーも乗りました」
「浅葱!! マフラー回収忘れてた!! あとで取りに行きます」
「こっちは、お化け屋敷だったな。リーネと、禊が」
「「言わなくて良い!!」デース!!」
「面白かったのじゃがなあ、そのあとは」
「観覧者に乗ってきたんですよー」
それぞれの報告に柾は苦笑しながら、保護者と子供達のような微笑ましい世界をカシャと盗撮した誘輔の頭がぐりぐりされるまで六十秒前。
●
「ちょっと付き合えよ」
「やだ。あぁぁやだっていったのにいい!!」
暁の首根っこを掴んだ諏訪 刀嗣はそのままずんずん進んでいった。
「ソイツと初めて会ったのは教会だったな。一瞬で斬られた、完敗ってやつだ」
気が付けば、ベンチの端と端に座りながら、話しを始める。
「俺は嬉しかったぜ。そんだけ強い奴がいるんだ、ソイツと戦えって超えられるってな」
「なんの話か見えない……」
「ところが、だ。そいつはくだらねえ茶番を始めやがった。こそこそ動きまわるのはがっかりだ」
「……」
「いい加減小物じみた真似はやめて力で切り開いて欲しいもんだ」
「なんの事だか……」
刀嗣は暁の胸倉を掴んで引き寄せる。
「テメェのちっちぇえ脳みそでもわかるようにわかりやすく言ってやろうか? 俺は逢魔ヶ時紫雨に喧嘩を売ってんだよ」
「君が紫雨に? 止めた方がいいよ。今度は手首だけじゃ済まないかもね」
●
「……いや、よりによって、どうしてジェットコースターなんだ」
ぼやく六道 瑠璃の顔色は何時にも増して蒼白く染まっていた。全身で苦手さを放出しながら、
「観覧車とか、メリーゴーランドとかコーヒーカップとかあるじゃん」
と。隣に居る棚橋・悠に振ってみるのだが。
「快晴! そこそこ暖かい! 遊園地日和! アトラクションがボクを呼んでるよー♪ やっぱここはジェットコースターでしょ! これに乗らないと遊園地じゃない!」
「あ、説得を入れる隙も無い感じだこれ」
とガッツポーズを決めていた悠を見て。どうすれば悠を攻略できるかを一生懸命考える事にした。
言っておいて今更だが、恐らくコーヒーカップも全力で回すから絶叫系に成るを得ない。
「むむー……困ったにゃー」
と悩む表情を見せる悠であるのだが。何時の間にか二人はジェットコースターの順番に並び、ついに番は巡ってきてしまった。
「ハッ、い、いつの間に」
「ささ、瑠璃くん行こうねー♪」
「いやまだ帰れる、帰れるのに!!」
連行されていった瑠璃。
安全バーを降ろされ、動き出した瞬間から瑠璃は白眼を剥きながら、
「――っ!」
言葉にならない絶叫を最大音量で叫びながら、
「ほら! 瑠璃くん! こんなに高いよ!」
キラキラした表情を向け、キャッキャと声を出す悠とのテンションの差は歴然としていた。
そして。
「ぅ、わ――」
「きゃっほーーーーーい!!」
その後、この調子で瑠璃は悠に付き合わされていったという。
花蔭ヤヒロと鳴神零は、絶賛お化け屋敷の中で身動きが取れなくなっていた。
「こ、こわくなんか無いぞー。これはむしゃぶるいなんだ!」
「イヤアァァァ」
小さな身体のヤヒロの後ろに、零は籠りながら二人とも微動している。恐らくここから一歩踏み出せば目の前の仕掛けが作動する仕組みだろう。
分っているからこそ、何故だか動けない。そんな感じで五分は停滞していた。
「だだだだだだ大丈夫だよ零がついてるからねねねねねね!!」
戦闘では先頭を突っきって行きそうな零も今日は一乙女。本当はお姉さんとしてあらゆる恐怖もサラリと回避できれば理想的であったが。
対して、かっこいいと言われたい年頃のヤヒロも。同じように敵に堂々立ち向かっていきたい。されどされどかなりの中腰の格好で、一歩踏み出す。
するとカタンと動いた仕掛けに、……だが、大した事は無く難なくクリアできたの。なんだーって、思いのほかイケると踏んだ。
その時。
「……ばあ」
「……」
「……」
十秒程世界は止まった。
最も、冷静な状態であらば蝶を従えながら、突如壁の真横から顔だけ突き出し(物質透過)生首を演出したエヌ・ノウ・ネイムである事は分かったのだが。
「ぎゃあああああああああ!! 突如壁から仮面紳士ぃぃ!!」
と零が面白い声を上げれば、
「うわああああ!! 生首ィィィ!!!」
と釣られて叫んだヤヒロ。
「えええええ!!!」
更にヤヒロの叫びに驚いて零が叫ぶ、二次災害が発生した。
「おや、効果は抜群という所でしょうか……」
エヌは満足げに悲鳴を聞きながら、笑った。こうやってお化け屋敷に来た人たちを怖がらせながら見返りに悲鳴を頂く。
上手く悲鳴がきければ御の字。そうやって演劇役者としての経験を生かす事で幸福を感じれる。
さあ、一心不乱の恐怖と悲鳴をエヌに―――。
どさくさに紛れて手を繋ぐ所か。零とヤヒロは、二人でギャグのように抱き付いて全身の毛を逆立ててながら、そこから二人で一緒に全速疾走でお化け屋敷をなんとか攻略せしめたのだと。
「頼りないお姉さんでごめんねぇぇ」
「あう、チビりそうだった」
暫く遊園地を満喫してから、円 善司と明石ミュエルは観覧車に揺られていた。
『観覧車……地元のより、大きくて……周りの景色も綺麗で。きっと、すごく素敵、なんだろうなぁ……』
『俺も、景色が見たいって思ってた所だから』
ふと零したミュエルの言葉に、善司は観覧車の方へ手を引っ張ったのが始まりである。遠くでは夕焼けの紅が、静かに夜の帳に染まっていく。
二人は、向かい合って座るよりは、同じひとつの横長の席で端と端に座っていた。微妙な距離感は、近いようで遠い距離だ。
ミュエルの鼓動は、高鳴る。なんでも無い距離が、今は近いと感じるのは何故であろうか。
「俺の家ここから見えそう」
「うん……っ」
かたんと立ち上がった、善司は遠くを指差して。
「あの辺が寮かな」
「うんっっ」
控えめな彼女は、端の方に更に寄って小さくなっていた。
「あ、立ったから揺れがひどい?」
「そ、そうじゃなくて! ……景色、地元の遊園地より、綺麗だけど…」
――なんか、ドキドキして……周り、見る余裕……ない、かも……なんて言えるはずもなくて。
照れ隠しに頬を掻いた善司は、気づけば、
「……あ。過ぎちまったな、天辺」
と言いながら、また端の方へ座った。だがこのままでは終わってしまう。割と観覧車の一周とは早いものなのだ。
だから、その前に。
「えっと……隣、行って……いいかな?」
もう隣だけど。そうじゃなくて、もっと隣に。
●
初めて遊園地に来たという京極 千晶は両腕を空高くあげながら、問う。
「志賀さん、あれなんですか? あの着ぐるみは妖怪ですか? あとあの屋台から美味しい匂いがするけどなんですか!」
「あの着ぐるみはこの遊園地のマスコットキャラクターで。あっちの屋台は、チュロスって言って。ええい、質問は一つずつて頼む」
後ろから落ち着いたテンポで歩いてくる志賀 行成。
「あのでっかい廻ってるのは!?」
「観覧車といって――……」
「あっちの長い奴は! ひえ、叫び声!?」
「絶叫マシーンといって――……」
淡々と答えていく行成は、心の中で『この年齢差ならまるで兄妹だ』と、言い得て妙だと頷いていた。
「あ! あっちは!!」
目を離せば風船のように風の行くままに流れていく千晶の腕をしっかり握りながら、そっちでは無いとジェットコースターを目指す行成。
思えば、遊園地とは何時ぶりか。行成の表情は曇り色を見せつつ過去の追憶に縛られそうになった刹那、ゴォンという音と共に看板に顔面を強打していた。
「初めて来たけどすごく楽しそうなところですねーって、頭ぶつけたけど大丈夫かな?」
「……大丈夫だ」
「よかった、眼鏡は無事です!!」
「そっちか」
そして、
「ほう……スリリングなタイプか、面白い。これに乗るが、大丈夫そうか?」
「問題ないですよお!」
「ならば行くか」
千晶は行成の後ろを着いていく。今度はモルトのメンバー、皆で来れればいいなと未来を語りながら。
秋ノ宮 たまきはルームメイトの三峯・由愛と共に遊びに来ていた。
貴重な休日、たまきとしては何もかも忘れてフレッシュしてリセットを決め込みたい。
対して由愛は、実は遊園地は初めてなのだと語る。ここはたまきがリードしてやらねばならない時だ。
「さて、どれ乗ろっか。って、そういえば二人で遊園地に来るのも初めてって事になるのよね」
「ですです。今日はありがとうございます、たまきちゃん」
まだ始まったばかりでお礼が出るのは、それほどまでに由愛は楽しみにしてくれていたのだろう。
「ほら、覚えてる? 由愛がうちにきた時、土蔵でかくれんぼして。暗くて怖くて泣き出しちゃったのよね、懐かしい」
「そんな事もありました……あ、たまきちゃん、ジェットコースターに乗ってみましょうっ。スリル満点で楽しそうですよねっ、ねっ!」
「えっ。ジェットコースター!? べ、別に怖くないわよ子供じゃないんだから」
少しだけ青ざめていたたまきであったが、由愛に腕を掴まれて走って行き――そして。
「きゃあーーーーーーーーーーーっ!?」
という、たまきの叫び声が遊園地に響いたという。
かくして、ジェットコースターから生還した二人。たまきはテーブルに突っ伏した状態で動かないままになっていた。
「あー心臓に悪い……ドッと疲れたわ。由愛は平気? 意外と図太いのね」
「……あっ、もしかしてたまきちゃん、ああいうの苦手でしたか? ごめんなさい……柄にもなくはしゃぎ過ぎちゃいました」
えへへと頭を掻く由愛に、たまきは水分を補給して落ち着きながら温かい室内レストランで休憩を挟む。
なんだかデートのような形になってきた事に、由愛は少しだけ遠慮気味に笑いつつ。
「私は嬉しいですよ。こうしてたまきちゃんと一緒にいられて。たまきちゃんはどうですか? 私と一緒は、楽しいですか?」
「楽しいかった……い、言わせないでよ。楽しくなかったら最初から来ないってば!」
「よ……よかったぁ」
●
「久しぶりに二人で話せたね」
天城 聖は、水蓮寺 静護を目の前にカフェテラスで足を組んだ。
「こんな場じゃなくてもーなんて思ったけど、依頼で忙しいもんね、お互いに」
「ああ、まあ……元気そうでなによりだ」
「そっちもね! 柄にもない事言っちゃって!!」
「……っ」
二人で頼んだケーキの種類はバラバラで、紅茶の種類もバラバラなのに、何かが合う二人は同じ動作でケーキを口に運んでいく。
「じゃあ、なんの話をしよっか?」
「大した話しも無い。だがそれでもいいだろう。まずは――」
「遊園地貸切っちゃう辺り、うちの組織もやることが色んな意味でデカイよな……」
「ぶ、ブルジョア……!!」
「まぁ折角来たんだし存分に楽しもうぜ。明日見、何乗りたい?」
和泉・鷲哉は、用意周到にパンフレットを開きながら聞いてみる。明日見 千聖は、んー……と顔を傾けつつ、
「よし! 和泉、あたしジェットコースターに乗りたいわ!! 大好き!」
「初っ端からそれかよ」
元気にはしゃぐ彼女を見て、鷲哉は苦笑混じりに。
「まぁ定番だよな。んじゃ早速行くか。折角なら一番高低差激しくてスピード出るやつにしようぜ」
かくして、安全バーは下げられた。動き出してからの、どきどき感は言葉では言い表せない期待感を秘めている。
「大好きだけど、やっぱりドキドキするのよね。この、降下する瞬間……とか……っ!!」
「あ、やばいそろそろやばいやつだ」
遊園地のジェットコースターとは、基本的に最初がクライマックスである。あとは余韻を引きつつ、時には最後の方が盛り上がるものはあるのだが。
これは最初が一番高い所から落ちていくパターンの乗り物。左右に振られる激しさと速度を誇るやつ。
終わってから、髪型が乱れたのを直しながら。ストレスが一瞬にして拭い去った二人は笑顔で出口へ向かっていく。
「あーやっぱスピード系は外せねーわ。さて、次はどうする?」
「す、少し、休憩しましょう……ちょっと、叫び過ぎちゃって……。初っ端からはしゃぎ過ぎたわ、休憩してから次の行きたい」
「と人多いな。明日見こっち側歩きな。お前吹っ飛ばされるよ」
「別に吹き飛ばされないっての! ばか!」
頬を膨らませる千聖は、心の中で紳士的な彼の態度に猛抗議しながら、『こっち側』へさり気なく誘導されたのであった。
野武 七雅は隣に、樹神枢を置いて。安全バーを下げる。シートベルトの着用もきっちりした事を確認し。いざ。
「安全装置って外れたりしないよね?」
「航空事故よりも低い確率なのだ」
「100%では無いんだねそれ……」
かたんと動き出し、斜め上へと急角度を登っていく。じわりじわりと期待感は煽られていくのだ。
「うごきだしたの」
「う、うむ」
「だいじょうぶなの、怖くないの。なつねは大人になるから」
「大人なのだな……!」
「あ……手、つないでてもいいかな? カタカタいってるの」
「武者震いという事にしておくのだ。僕の手でよければ、むぎゅむぎゅ」
「だ、だいぶ上まで上ってきたの。おちる……おちるの! おちるのぉぉぉ!」
「おお、おぉ」
「おちたのぉぉぉ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふみゃあああああああああああ!!」
以上、実況でした。
終わってから髪型を直しながら、二人は笑顔で降りていく。
「枢ちゃん大丈夫なの?! なつねは命削って復活したかんじだよー」
「うむ、結構面白かったのだ。なつね殿、もう一度いくのだぞ!」
橡・槐は、久方ぶりの遊園地を目の前に十数年前の出来事を思い出していた。
その時では乗れなかったものを乗りに。幼い頃の、ぽっかり穴の空いた部分を埋めに。槐は行く。せっかく、タダだし。
(やはり遊園地の花形といえば、それは最も早く、最も高い。疾走する鉄とレールのサーキット……ジェットコースターに決まっているのです。それではレッツゴーなのです♪)
車椅子を廻しながら、槐は意気揚々と駆けて行く。
が、到着してから気づく。ジェットコースターは、階段を登った上にホームがある。故に、車椅子ではあがれない。
「おのれ差別主義者どもめ、見ているのですよ。フフフ……基本、戦闘時のみなど知ったことではないのです!」
覚醒を、一心不乱の大覚醒を。
もはやこの身、不退転。
止めようとする奴は大統領だって敵だと思うが良いのです。
再び意気揚々と。長く伸びた髪を後ろへかきながら、『歩いていく』彼女は――そして。
「身長……制限だと……」
超えられない壁が、そこにあった。
ペットボトルのお茶が揺れる。一色・満月は赤鈴いばらとカフェで休憩していた。
「初めてジェットコースターとやらに乗ったぞ。心が躍る様で面白かったな」
「そうですね、ジェットコースター楽しかったですねっ!」
カチャンと、ホットココアの器をテーブルの上に置きながら、にこりと笑ったいばら。
あれから、ジェットコースターを何周もしながら、脳内をフルシェイクしてストレスを吹き飛ばした事に、二人は合わせて笑って。
「あとは、高い所から落ちるのも有意義であった。命綱とは大切なのだな。なんだったか、バンジー……?」
「あぁ、バンジージャンプですね! 紐なしですと、ただの飛び降りになってしまうのでは!?」
覚者ならいけるかもしれないと、冗談を交えてながら。ホットココアに浮かんだ白い生クリームを見て、いばらの頭の上で電球が灯った。
「下がぽふんぽふんの生クリームとかなら良さそうですけどね?」
「生クリームか。それなら飛び込んだら、全身が生クリーム塗れになっておいしそうであるな」
意外と二人は甘党であるのかもしれない。心まで甘く蕩かすような、そんな楽しい出来事が多くあれば楽しいのに。
「満月さん、次はこれ行ってみません?」
「あれは……なんだ、おっきいな」
そしてまた、二人は二人の世界に染まった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
