天獄村調査依頼
【妖侍伝】天獄村調査依頼


●天獄二刀流の村
 神社の境内に、数人の男たちが立っていた。
 和服。作業着。ビジネススーツ。神主装束に学生服。
 それぞれ服装も年齢もばらばらながら、真剣を携えていた。それも各人二本。
「爺さん、この話は……ホントなんだろうな」
「間違いない。三年前に亡くなったトメ婆さんの予言だ。この日この時この場所で妖が現われる」
「然様……」
「まっ、ばーさんはガチの夢見だもんな。だったらマジじゃね?」
「気を引き締めなさい。来ますよ」
 スーツの男が、刀に手をかけた。
 途端、神社の奥が爆発でもしたかのように吹き飛び、内側から妖が現われた。
 古い侍を連想させる立ち姿。
 両手には日本刀。
「うげ、やっぱマジじゃん! 非覚者の俺らで勝てんのかよ!」
「勝たねばならぬ!」
 たじろぐ学生服少年をよそに、和服の男が飛び出した。二本の刀を交差するように繰り出す。
 常人では容易に繰り出すことのできない鋭い剣だ。しかしそれが妖を斬ることはなかった。翳した一刀で受け止められ、流れるように繰り出されたもう一刀で胴体ごと切断される。
「先生! てンめぇぇぇ!」
 無精髭をはやした作業着の男が刀を振り上げて突撃。
 が、妖は刀を交差するように繰り出し、彼を切り裂いた。
 ただの斬撃ではない。まるで津波でも起きたかのように男は吹き飛ばされ、学生服の少年にぶつかって倒れる。
 ビジネススーツの男と神主がその横を駆け抜けた。
「柄司、鐺乃助さんを頼む! 紋さん、行きましょう!」
「うむ! 一人で無理でも二人がかりならば……!」
 二本の刀を一糸乱れぬシンメトリー動作で繰り出す二人の男。
 斬撃は妖の身体を切り裂き、ノイズの入ったアナログテレビ映像のごとく乱れさせた。
「やったか!」
 次の瞬間。乱れた身体はすぐに元通りに復元され、妖は舞うように二人の間をすり抜けた。
 輪切りにされて崩れる二人。
「あ、うあ……ちょ、マジ、やべえって……」
 学生服の少年は震えの余り刀を取り落とし、背を向けて走った。
 妖はそれを追いかけること無く、刀を振り込む。
 対する少年は、刀に触れてすら居ないにもかかわらず、斜めに切断されて即死した。

●避けられる悲劇
「以上が、天獄村で未来に起こるとされる事件だ」
 久方 相馬(nCL2000004)はここまでの内容を語りつつ、資料をデスクに置いた。ここはF.i.V.Eの会議室である。
「天獄村というのはこの土地の人々が呼ぶ俗称だ。正確には千葉県の香取市。その一角にある地区に過ぎない。地図上にも天獄村なんて名前はないしな。ここでは、三年前から妖の発生が予見されていたんだ。予見した夢見はもう亡くなっているし、詳しいデータもとれなかった筈だ。現地の非覚者が対抗しようとしたけど、さすがに叶う相手じゃあないな……」
 今回の任務は現地へ赴いて妖を倒すことだ。
 だが、それだけではない。
「妖の発生原因は分かってない。発生地が神社の境内というのも気にかかる。妖討伐後、現地で状況を調査して欲しいんだ。やり方はみんなに任せる」
 つまりこの任務は戦闘と調査、二つの側面を持つということだ。
「それじゃあ、頼んだぞ」


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます。
 このシナリオはシリーズシナリオとなっており、今回のシナリオ参加者に次回のシナリオへの予約優先権を付与する形で連続していきます。
 おおまかなスケジュールも添付しますので、準備をしてご参加ください。

●妖について
 心霊系妖ランク1。
 二刀流の侍の姿をした妖です。以前戦闘した妖(シナリオID:176)との類似性が見られますが、完全な別個体であると夢見は言っています。
 心霊系妖とオカルトの『幽霊』は全くの別物なので、混同しないように気をつけましょう。妖と古妖くらい違います。
 攻撃方法は近接単体攻撃、および遠距離単体攻撃の二種。
 ランク1だけあって、今のF.i.V.E覚者が八人がかりで戦う分にはそこまで苦戦しないでしょう。やりようによっては半数くらいであたってもなんとかなるレベルです。
 いっそ戦闘をせずに後半の調査に集中するというのも、アリではかろうかと思います。

●調査について
 今回、現地で自由に調査をすることができます。
 この自由というのは文字通りの自由です。
 誰に、ないしはどこで何をどのように調べても構いません。道具の持ち込みも(判定は挟まりますが)自由です。
 ただし質問プレイングには気をつけてください。メタな話、質問を羅列するプレイングを書くと回答を羅列するリプレイだけで出番が終了します。しかも嘘や隠しごとが混じるので非常にプレイング対効果が悪いです。
 ちなみに、調査方法は2人組4ペアでお互いが被らないように行なうことを推奨します。

 調査には以下の判定方法を用います。
 ・調査対象が絞られていればいるほど情報の発見確率があがります。極端な例で『土地の怪しいところを全部調べます』と書くと本当に怪しい所を見過ごしてしまったりします。
 ・具体的な推測ないしは推理があった場合、発見成功率が大幅に上がります。

 メタな話をまたしますが。
 今回の調査結果に応じて次回のシナリオが作成されます。
 なので内容によっては大幅に方向性が変わったり話数が増えたりとんでもない成果を得たりします。逆に、不利な状況が降りかかったりシリーズが途中終了したりもします。
 シリーズの行く末は全てあなたにかかっております。よろしくお願いしますほんとに。

●予定スケジュール
 シリーズ全四回予定
 第二回:11月09~13日OP公開
 第三回:11月23~27日OP公開
 第四回:12月07~11日OP公開
 ※この予定は変更になることがあります
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月07日

■メイン参加者 8人■


●運命への介入者
 神社の境内に立つ五人の非覚者。いずれくる戦いを前に緊迫が高まっていた。
 そこへ。
「失礼、こちらに妖が出ると聞きましたが」
 白衣を着た男、『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)が仲間を連れて現われた。
 見るからに細身の彼に、作業着の男は顔をしかめた。
「学者さんかなんかかい。取り込み中だ、死にたくなかったら離れて――」
「いえ、いえ」
 突如としてアーレスの白衣は消え去り、装いも変貌した。特筆すべきは彼の仮面である。
 ビジネススーツの男が顔をこわばらせる。
「その仮面……」
「闖入大いに不愉快でしょうが、よりよき未来のために守らせて頂きたく」
「オレたちは覚者の集まりでさ。厄介ごとを解決するボランティアをやってんだ」
 鹿ノ島・遥(CL2000227)もにかっと笑うと、頭上に手を掲げた。非覚者には見えないが、ナマズのゆるきゃらめいた物体がレシート発行機のように白い布をべーっと吐き出し、それが遥の手足へ巻き付いていく。
「うちの夢見がこの神社で妖が暴れるって余地しててさ。悪いけど下がってて貰えるかな、覚者じゃない人には荷が重いと思うからさ」
「マジで!? やったじゃん!」
 学生服の若者が我先にと後退した。
 キッとにらみ付ける神主服の男。
「柄司!」
「ンだよいいじゃん任せとけばさ。どうせ俺たちじゃ勝てないんだろ?」
 作業着の男が刀の柄に手をかけてにらむ。
「馬鹿野郎。うちらの問題に人様を巻き込むんじゃねえ! 怪我でもさせたらどう責任とるってんだ!」
「もしこの人らがダメでも……ほら」
 ヘラヘラした彼に、和服の男が嘆息した。
「柄司君の言い方は悪いが、事実は事実。任せてみよう」
「先生が言うなら……」
 渋々と引き下がる男たち。
 そのタイミングを待っていたわけではあるまいに、神社の扉を破壊して二刀流の妖が現われた
「早速来たか!」
 側面へと回り込み、出端をくじくように殴りかかる遥。妖は防御もまともにできずに殴り倒され、木造の柱を破壊して庭へと転がり出る。
 『星狩り』一色・満月(CL2000044)はすらりと剣をぬいて構えた。
「まえにこいつの同類と戦った奴がおるなら分かるだろう。学習する故、あまり別の技を披露しないほうが得策と思う」
 そう言いつつ満月は突撃し、素早い斬撃を繰り出す。
 反対側から刀を叩き込む『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)。
「調べながら戦うよー!」
「……」
 突っ込んでいく味方とは対照的に、刀を納めたまま黙って様子を見る『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)。
「一気にやっちゃおうね!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が纏霧を展開。霧に混じってプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がおかしなデザインのハンマーを振り上げた。
「彼はエンシェント民かい? 違うのかい?」
 ハンマーから放たれた雷が妖を打ち、炸裂していく。
「思ったより強くないらしい。次でトドメだ」
 刀をすらりと抜く水蓮寺 静護(CL2000471)。
 その刀に、作業着の男が目をこらす。
「それは……」
「無駄な怪我は避けたい。終わらせるぞ」
 すり足を加速させて接近。
 虚空を突く動きで水礫を放ち、返す刀で水気を放つ。
 それぞれの攻撃をまるでさばくことのできなかった妖は直撃を受け、静護の刀によって両断。跡形も無く消滅した。
 カタンと音と立て、なにかの破片らしきものが落ちた。
 拾い上げてみるとそれはどうやら金属片。それも古い製法の鋼だと分かった。
「お見事」
 パシンという柏手に振り返ると、神主装束の男が頭を垂れて立っていた。
「どこの誰とは存じませぬが、ご助力誠に感謝しまする。自分は尾家・紋左衛門と申します。お礼はいかほどいりますでしょうか」
「……」
 遥たちは顔を見合わせた。
 彼はボランティアだなどと言ったが、ボランティアは義勇兵をさす言葉でタダ働きという意味では無い。
 だがそれ以前に、他者の手助けに埋め合わせをはかるという社会常識を、神主装束あらため紋左衛門は持ち合わせているということがわかった。
 なれば都合もよし。
「お代は結構です。再発防止のため、土地を調べさせて頂きたく」
「分かりました。我々に出来ることがあればどうぞお声がけください」
 かくしてスムーズに。
 過剰なほどスムーズに、土地への介入は成功した。
 彼らが真に苦労するのはこれから先のこととなる。

●歴史への介入者
 この神社を納めている神主の紋左衛門をはじめ、この場の五人はそれぞれが身分を名乗ってくれた。
 作業服の男は鐺乃助。旋盤工。
 学生服の若者は柄司。中学生。
 和服の男は鎬次郎。剣術道場主。
 ビジネススーツの男は斑鯉。付近のコミュニティーセンターで働く図書館員。
 事件は一端収束したと言うことで、紋左衛門を覗く全員がそれぞれの職場へと帰っていた。
 紋左衛門立ち会いのもとで神社をぐるりと見て回りつつ、アーレスは一緒にいたきせきと奏空に囁きかけた。
「二人とも、感情探査は活性化していますね」
「してるよせんせー」
「ではそれを『アテにしないで』ください」
「……ん?」
 首を傾げる奏空。
「なんで? 嘘をついてそうな感情があったら嘘を暴けるのに」
「あれから考えたのですが……」
 神主に聞き込みをかけている結唯を一度だけ振り返って、再び話を始める。
「人間が嘘をつく際に発する感情は動揺や焦り、もしくは罪悪感などですが、それらは全く別の理由でも発生します。尿意に耐える程度のことでもね」
「あっ……」
「私たちの手数は限られています。嘘でも無いことを嘘と疑って探っていてはすぐに時間切れになるでしょう」
 アーレスに教えられなければ、真実を語られたにもかかわらず嘘と疑い致命的な失敗を犯していたかも知れない。
 しょげる奏空たちの方を、アーレスはとんと叩いた。
「相手に気づかれず一方的に有効な情報を引き出そうとしたこと。その方法を一生懸命考えたのは素晴らしいことです。ですが今回に関してはやらないのが正解です。どうしても困ったら結唯さんの降霊術や私の透視で切り抜けましょう。そしていざとなったら魔眼や読心術……ですが、強く抵抗されたらこれも無意味ですし信用を失う。気をつけて使っていきましょう」
「はい、せんせー」

 一方その頃。
「失敗した……」
 満月は顔を手で覆っていた。
 横目で見る静護
「どうした一色君」
「俺としたことが、妖相手に読心術など……ランク1の妖知性などろくにないにも関わらず」
「確かに」
「しかも読めなかった。いや、妖に対非覚者系スキルが通用すれば楽この上ないという話だが……」
「仕方ないさ。俺たちはまだ現場経験が浅い。失敗から学べばいい」
「そうだな」
「だが目の付け所は正しいはずだ。心霊系妖は思念や怨念を素体とするもの。想いを知れば原因も絶てるかもしれない」
 かくして彼らがやってきたのは、旋盤工の鐺乃助の職場だった。
 と言っても職員は彼だけで、下請けでネジや何かを作る仕事だという。仕事風景を見せて貰ったが、なんとも退屈なものだった。
 これ以上見学していても仕方ないと思った静護が口を開く。
「ここは、香取市なんだな。天獄村というのは、昔の名前なのか?」
「へえ、夢見ってのはそんなことまで分かるのかい。俺はここの生まれでな、昔からこの土地のことは天獄村と呼んでた。子供の頃はそれが正しい名前だと思ってたくらいだが……そういやどこからどこまでが天獄村かは知らねえな」
「区画や由来が分かる資料は、どこかに収められていないか」
「さあ……図書館じゃねえかな。でも、望みは薄いと思うぜ。俺の聞いた話じゃあな……」

 同時刻、鎬次郎の道場にて。
 プリンスはどっかりと床に腰を下ろし、フリルのついた扇子で自身を仰いでいた。
「いざゆけ我が民カノブー! うまくできたら王家に伝わるうまい棒贈与しちゃう」
「それコンビニで売ってんじゃん」
「いいからいいから」
 遥は竹刀を手に立ち、彼と向き合う形で鎬次郎が竹刀を握っていた。
 お互い一刀である。
「俺剣道わかんねーんだけど」
「騎士じゃないんだからいっぱい技くらえばいいよ」
 道場に通っているであろう子供がハジメと声を上げた。
 ――それから30分後
「……むり」
 遥はぜーはーしながら大の字に寝転んでいた。言葉や体勢に反して顔はさっぱりしている。スポーツ少年だな、と思ってみたりするプリンス。
 鎬次郎は休憩しようと言って和室に誘ってくれた。
 先生と呼ばれているからてっきり天獄二刀流を継承する道場か、くらいに思っていたが蓋を開けるとただの道場である。近所の子供に剣道を教える場で、その月謝で生計を立てているそうだ。
 試しに二刀流の技も見せて貰ったが、ごく普通の剣道だった。
 スポーツチャンバラではあるまいし、長い竹刀を二本持つのでは無く大太刀木太刀の二本で受け攻めのタイムラグを縮めるというものだ。ちなみにこの手の技を使う人は公共の稽古場に行けばごろごろいる。剣道の心得があって運動不足を感じたら行ってみるとよい。無数のジジイたちが格ゲーのエンドレスモードみたく無限に挑んでくるから。
 まあ、ようするに。プリンスや遥の目から見ても明らかなほど普通の剣道場だったということだ。
「うーん……」
 プリンスは今日現われた妖との類似性を考えてみたが、かなりサクッとやっつけてしまったせいでサンプリング不足だった。剣二本持ってんなー程度の類似性である。
 汗をぬぐってスポーツドリンクを一気飲みする遥。
「へー、刀二本持つのって別に強くないのか」
「そういうわけではないが……一本持つより強いということは無いな。所詮腕も二本きりだ。そも、刀は両手で持つもの故」
「そっかー。沢山持てば強いなら百本持つしな。じゃあなんで俺たちが駆けつけたとき二本持ってたんだ?」
「予備だ。一刀を折られてももう一刀使える」
「ふーん……」
 ぼーっと話している遥だが、プリンスは目を細めて聞いていた。
 というか。
 この鎬次郎先生、嘘をついている。
 なぜなら夢見の予知で彼らが二刀を同時に使いこなしている様がハッキリしているからだ。
 身を乗り出す遥。
「あのさ、前に似たような妖を倒したときに刀の根っこが出てきたんだよ。そこにこの天獄村の名前があったんだけど、何か知らないか?」
「なるほど」
 鎬次郎は頷き、知っていることを全て話してくれた。

 戦闘終了から二時間した頃。
 それぞれの調査を終えた彼らは図書館の集中勉強室に集まっていた。
 机には奏空が大量にとってきた写真が並べられている。どれも普通の写真だ。
 先に入っていたきせきは司書員の斑鯉に言って部屋を開けて貰っている。軽く確かめてみたが話が漏れる様子はない。念のため透視等で盗聴や盗撮の警戒もしている。
 彼らは一度情報交換をはかるつもりなのだ。
「みんなどうだった? ぼくたちはね、すっごいこと教えて貰ったよ!」
 きせきが嬉しそうに語った。
「この土地には資料に残せないようなとても大きな事件が起きたんだって。夢見のおばあさんはそれがまたおきることを予言したんだよ! それはね、この土地に百体の妖が一斉に現われて人を襲うんだって!」
 首を傾げる満月。
「俺たちが聞いた話と異なるな。水蓮寺?」
「ああ……夢見のおばあさんは水害や地震、台風などの自然災害を予言する役割にあって、妖関係のことは今回のこと以外なにも予知しなかったと聞いた。それより興味深いのは天獄村についてだ。そうだな?」
「うむ」
 満月は深刻そうな顔で周囲を伺った。
「名前の通り、天国と地獄を表わす単語だ。つまりここは死者の行く末を分ける土地。閻魔大王の住まう土地であるそうだ。妖の発生にはそれが関わっていると……」
「まままま待って待って! 違うって!」
 遥が大きく身を乗り出した。
「俺が道場で聞いたのは昔に天獄っていう大名がこの土地を納めてて強力な妖怪を封印した十二本の刀がこの土地に納められてて神社にあるのはそのうちの二本だって話だぜ? だよな!」
 プリンスにふると、プリンスはうんうんと頷いた。
「他にも同じ神社があって、残り十本が気になるんだけどね」
「あの……」
 アーレスが小さく手を上げた。
「神社に納められている刀は、一本きりでしたよ。透視して隅々まで確かめたので間違いありません」
「「…………」」
 その場の全員が一斉に頭を抱えた。
 思いっきり騙された。
 もしくは鐺乃助たちも誰かに騙されて真実を語っているつもりが嘘になっていたか。
 もうそうなってくると何が本当で何が嘘かさっぱりわからない。読心術を使っても似た結果になったかもしれないと思うと、軽く絶望的な気分になった。
 が、そんな中で平然としていた者が一人だけ。
 結唯である。
「見ず知らずの他人が土地について調べた場合。何もない普通の土地なら正直に話すだろうが、何かしら『いわく』があった場合それを伏せる」
 結唯は『聞き込み調査の基本だ』と付け加えた。
 他人の正直な気持ちだけを吐かせて回ればなんでも分かると考えてしまいがちだが、アンケートに応じて健康志向のハンバーガーを作って大爆死するようなもので、人の語りは表面的な部分で信じてはいけない。
 あくまで『そう語らせる何かが裏側にあるのだな』として探らねばならない。
 そしてそれは、手数の限られた調査には向かない。今回はどうやら、やり方を間違えたようだった。
「これまでの話を照らし合わせ、確実に伏せられているであろう部分をあぶり出せば真実に近づけるだろうな。ちなみに――」
 結唯が話の間に区切りを入れた。
 もとより長く話す性分ではない。
「交霊術を、使って置いた」
「!?」
 はっと顔をあげる静護。
「残留思念の強さに応じて死者から情報を得られるスキルか。その手があったな」
「だが期待はするな。一度心霊系妖という形で発散された残留思念だ。さして大きな情報は得られていない」
 だがしかし、と言って結唯はメモをテーブルに置いた。
 そこにはごくごく薄い字で一言。
 『あの中に一人だけ人間ではない者がいる』
 と、書かれていた。
 一同がそれを見た瞬間にサッと引き下げる結唯。
「というか、残念ながら何も得られなかった。すまないな」
 しれっと嘘をつく結唯。恐らくこの状態でも監視が可能な誰かがいることを警戒したのだろう。
 咳払いする奏空。
「俺も、特に怪しいところは見つからなかったんだよね。お札とか、すごいものが封印されてる岩とか、そういうのがあると思ったんだけど……お地蔵様くらいだったよ。写真もなんだか、散歩しながら撮った趣味の写真みたいになっちゃったし。ごめんね」
 そう言いながら。
 奏空は神社から図書館へ向かう途中にあるお地蔵様の写真を指で三回叩いた。
「一応感情探査もしたけどさ。ま、お地蔵様に感情なんてないしね」
 下手な咳払いをしてみせるきせき。
 その様子に、アーレスは微笑んだ。
 『嘘をついたのを察したら咳払いをしよう』と決めていたからだ。
 準備が無駄にならなかった。究極的な意味で、一生懸命やったことに無駄などない。
 ぱちんと手を合わせるアーレス。
「仕方ありませんね。ここには何も無かった。妖もきっともう出ないでしょう。今日は引き上げて、どこかで打ち上げでもしましょうかね」
 そうして彼らは図書館を出て行った。
 図書館はどこにでもある小さな図書館だ。近所の人たちの娯楽のためにあるような場所で、古い資料を残しているような場所ではなかった。
 そこを管理している斑鯉もごく普通の大人で、ただのコミュニティーセンターの職員という立場であるらしい。
 そんな彼に見送られ、満月たちは土地を後にする。
 だが、うすうす分かってはいた。

 この土地に住まう人間ではないもの。
 そして集めてきた情報の向こう側に見えている『隠れた真実』。
 彼らは再び、この土地を訪れることを既に決めていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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