《島根動乱》妖を包み追い込む竜の滝<南の陣>
《島根動乱》妖を包み追い込む竜の滝<南の陣>


●中国地方随一の瀑布
 龍頭ヶ滝。
 島根県雲南市にある滝で、落差四〇メートルもある直瀑である。激しく流れる水はまさに竜の如くと称され、明治時代の詩人も『出雲国中、滝は龍頭ヶ滝が第一なり。この滝日光に持ち行くも十番以内に有るべし』と言葉を残している。
 ランク四の妖、戦蘭丸。ヤマタノオロチの骨を囮に妖をここに誘い込み、一気に叩く作戦が発令する。戦蘭丸を誘いこみ、一気に勝負をつける算段だ。
 決戦の場をここに選んだ理由は大きく三つ。
 一つ。人を巻き込まずに済むこと。
 二つ。大群を連れて移動するには向いていない場所であること。
 三つ。地理的優位を得ることが出来ること。

●FiVE
「戦蘭丸はおそらく『音』で周囲を理解しているわ」
 御崎 衣緒(nCL2000001)は資料を手にて覚者達に説明を開始する。
「報告では『音をけして近づいた時は気づかず、その後でこちらの数を当てられた』とあるわ。匂いや他の要素なら音をけして近づいても気づかれたはず。
 おそらくアクティブソナーのように自分で音を出して、その反響を感じ取っているみたいね。そして別の報告書で『刀をこすり合わせるような音で指令を送っている』というのもあるわ。おそらくだけど――自分自身の爪か歯をこすり合わせ、その音の反響を聞いて状況を把握していると推測できるわ」
 断言はできないが、的外れはない。御崎自身はこの推測をそう評価していた。
「龍頭ヶ滝の決戦場近くに金属をこすり合わせるのと同種の音を出す仕組みをセットするわ。多少なりとも効果があるはず。
 そして戦う場所は、ここよ」
 御崎が示すのは、川が大きくカーブしている場所だ。妖の向きが赤い矢印で示され、カーブに差し掛かった場所で三方向から青い矢印でその先端とぶつかるように書かれている。
「ヤマタノオロチの骨を使って妖の群れをこの場所に誘導する。先頭にいるであろう戦蘭丸をこの場所で三か所から叩く。
 流れの速い川で妖の足が奪われている間に一気に攻めたれるのがこの作戦の肝よ。相応の数の妖が後から追ってくるでしょうけど、それを迎撃する部隊も用意済み。漏れはあるかもしれないけど、狙いはあくまで戦蘭丸よ」
 妖の足も一定ではない。さらに言えば大群を連れて歩くのが難しい山道だ。重要な何かを追えば、自然と隊列は間延びする。伸びきった先端にいるであろう戦蘭丸を叩き、島根動乱に決着をつけるのだ。
 ただ――
「作戦の穴として、戦蘭丸は戦いながら強くなっていくという報告があるわ。おそらく足場の不利も時間がたつごとに克服していくわ」
 戦いながら強くなっていく妖。それは不利な状況でもすぐに克服していくだろう。時間が経てば不利になる。そして更に悪い話として――この戦いはFiVEメンバー以外には任せられない。
「更にあの妖は『殺人の罪を持つ死体を妖化する』特性もある。経歴が分からない覚者をメンバーに入れれば、最悪の場合敵になってしまうわ」
 重要なのは罪の有無、ではない。その有無が分かっているなら、戦闘不能と同時に離脱させればいい。それが分からないのが問題なのだ。なので戦蘭丸戦はその情報を熟知しているFiVEメンバーにしか任せられない。
「難しい任務だけど、やれるかしら?」
 御崎の問いかけに、貴方は――





■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.戦蘭丸の打破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 島根動乱最終回。三方向から攻めるという形なので、決戦ではなくこういう形で。
 他の『妖を包み追い込む竜の滝<〇の陣>』とは同時参加不可とします。

●敵情報
・戦蘭丸(×1)
 妖。ランク4。人語を解し、強くなるためには何でもする妖です。その為にヤマタノオロチを復活させようとしていました。
 ですが、復活に必要なヤマタノオロチの骨を奪われ、それを追っている状態です。骨に釣られる形で、戦場に引きずり出されました。
 盲目のため、初手の攻撃はほぼ決まります。さらに山中に張り巡らされた刀をこする音により、命中にマイナス修正がついています。更に河で足を奪われているため、回避にマイナス修正がついています。このマイナス修正は、5ターンごとに緩和されていきます。
 三方向から攻められているため、範囲攻撃全体攻撃も『同じシナリオ内』の同列が対象となります。

攻撃方法
右爪  物近列 右腕の爪を振るいます。
死真似  P  戦闘開始時に発動。『レベル35以下』のキャラクターを根性復活(含む命数復活)を無視して戦闘不能にするスキル……なのですが、音をかく乱されているため使用不可。
古傷   P  とある剣士につけられた腹部の傷跡。PCの体術による被ダメージ増加。
盲目   P  目が見えません。不意打ちを受ける確率増加。
十六夜 物近列 ※下記参照
波動滅弾 物遠単 ※下記参照
鉄指穿 物近単 ※下記参照
戦ノ蘭  P   物攻、反応速度が5ターンごとに【+(ターン数×5)%増加】され、攻撃回数が+1される。
無名の古武術 物近列 骨を砕くことを目的とした動き。【無力】【使用条件:5ターン経過後】
無名の暗殺術 物遠単 目に見えない針を飛ばし、体の機能を狂わせます。【不随】【使用条件:10ターン経過後】
無名の交差法 物遠全 敵陣を駆け抜けながら切り裂きます。【使用条件:15ターン経過後】 
噛み付き 物近単 歯で噛みついてきます。【必殺】【使用条件:口が使える事】

・飛燕刀
 ツバメの妖です。ランク1。羽の部分が鋭い刃となっています。
 戦蘭丸についてこれた妖です。4ターン毎に4匹、敵後衛に追加されます。

 攻撃方法
 飛燕  物近単 飛びながら切り裂きます。【出血】
 飛行   P  同名のスキル参照。

●場所情報
 龍頭ヶ滝。その上流にある川辺。周囲は岩山です。この戦場に合わせた即席の橋を用意しており、PC側の足場の不利はありません。
 他戦場への干渉(回復など)は可能ですが、移動はできません。
 戦闘開始時、敵前衛に『戦蘭丸(×1)』『飛燕刀(×4)』がいます。(<西の陣>と異なることにご注意ください)。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。


7月12日追記
●十六夜(いざよい)
踊るような連続動作で対象列へ強烈な二連撃を放ちます。
[攻撃] A:物近列 【二連】
物攻:+20 基礎命中:85 速度:+30 ゆらぎ:+15


●波動滅弾(はどうめつだん)
より威力を高めた波動はまさしく【必殺】の一撃へと昇華した。
[攻撃] A:物遠単 《射撃》【必殺】
物攻:+50 基礎命中:90

●鉄指穿(てっしせん)
極限まで鍛えた己が指を急所に捻りこみます。
[攻撃] A:物近単 【致命】
物攻:+35 基礎命中:100 会心:+5

※一部スキルの説明が誤っていたのを修正致しました。
誤)範
正)列
ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。

7/13
昨日データ修正時に敵の配置が西の陣と同じになっており、正しい位置に表記修正致しました。
ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2018年07月23日

■メイン参加者 8人■

『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)


「民のみんな、準備できた? ハンカチ持った? じゃ後で余に貸してね」
 覚者達の準備を確認する『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。戦いとは始まる前の状態が重要だ。妖をこの地に追い込んだことも含め、戦う者達の準備を整えるのは基本と言えよう。まあ、ハンカチは忘れたのだが。
「島根の騒ぎの大元がコイツか……強そうだけど力を合わせれば何とかなんだろ!」
 神具を握って声をあげる『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)。この妖と相対するのは初めてだが、その強さは伝わってくる。ランク4の妖の強さ。それを強く意識して、臆することなく歩を進めた。
「曲がりなりにもランク4と戦えるようになった、か」
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は静かに口を開く。一年前の自分達では倍の数を持ってようやく対抗できただろう。三方向から囲んでいるとはいえ、この数でランク4に挑む例はまずない。
「このまま放置すると厄介な事になるよね」
 報告書の内容を思い出しながら『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が呟いた。戦いの中で成長する妖。この状況も、時間が経てば克服していくだろう。そうなれば次に打つ手はないかもしれない。ここで倒しておかなければ、島根の解放は遠のく。
「二戦目にして、決着を着けるべき時ですか」
 妖の姿を見ながら『継承者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)は刀の柄を握る。人間と妖は命のやり取りをしている。そういう意味では戦う機会が二度あるということの方が珍しいのだろう。とまれ、ここで決着を。
「絶対に、全力でけりをつけるよ! 島根の人たちのためにも、あの人のためにも!」
 強い闘志を瞳に乗せて『影を断つ刃』御影・きせき(CL2001110)が立つ。強い相手と戦える楽しみがないわけではない。だがそれよりも使命感がきせきを動かしていた。ここで妖を倒し、全てを終わらせる。
(向こうの陣での戦い、頑張って)
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はここにはいない愛しい人の事を思い、神具を構える。一緒に戦えない不安はあるけど、共に戦いを経験してきた歴戦の覚者だ。心配することは何もない。武運を祈り、全力を出すのみだ。
「コレが終われば打ち上げ万歳無礼講っと」
 気分を切り替えるように『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)が言う。島根観光をしたかったが、この状況では致し方ない。全てが終わってからゆっくり回るとしよう。それを楽しみにして戦いに挑む。
「来な、人間!」
 ランク4妖――戦蘭丸は自分が罠にはめられたことを察し、その上でニヤリと笑う。策を弄することを卑怯と罵ることはない。智謀も奸智も能力の一つだ。己の能力を最大限生かして戦うことのなにが悪い?
 島根解放をかけた戦いの火ぶたが、今切って落とされた。


「これが最後の闘いだ。戦蘭丸!」
 叫び突撃するのは奏空。『MISORA』を手に一気に距離を詰める。薬膳如来の御用を身に受けて、可能な限り音をたてないように疾駆する。即席の橋を三歩進み、四歩目を踏み出すと同時に刀を振るう。
 膝、肩、丹田。格闘動作において重要な三点。奏空はそこを狙い、刀を突き出す。三点を崩すことにより体術を封じ、戦蘭丸の攻めを押さえ込むのだ。川の流れに足を取られた戦蘭丸はこれを避けられず、体をくの時に曲げてよろめいた。
「お前の攻め方は既に知っている。その動き、封じさせてもらうぞ!」
「呵々! 次は避けてやる。まともに決まらなきゃ、かすり傷程度だ」
「その前にお前を倒してやる!」
 笑う戦蘭丸に斬りかかるきせき。いつもの無邪気な様子はそこにはなく、戦蘭丸に対して『敵意』をもって接していた。一撃一撃に裂帛のこもる。『奪われた』心の傷がそうさせているのだろうか。
 きせきの流れるような連続攻撃が戦蘭丸を襲う。小さく足を動かして重心を維持し、腰を振るい刀で切り裂く。動きを封じている今こそが好機。避けられない内に一気に攻めつづける。
「戦蘭丸……リベンジしに来たよ!」
「ああ。そしてまた無様に逃げ帰れ! 生きてりゃ再再戦も受けてやる!」
「ええ、生きていれば。ワタシたちは命のやり取りをしているのです」
 頷きシャーロットが戦蘭丸の言葉に頷く。二度目三度目があるのは生きているからだ。自分に影響を与えてくれた剣士は死んだ。今戦えるのは、生きているからだ。その意味を噛みしめ、一歩踏み出す。
 初手に最大威力を。それがこの戦闘での最適解。シャーロットの気が体内で爆発する。とある隔者の戦闘術。後にしばらく動けなくなるが、それを考慮しても価値のある戦術だ。爆発する気が全身を動かす。鋭く、速く、力強く!
「ニノタチイラズといきたいものですが、理想は夢想ですしね」
「……っ! 奥の手ってやつか」
「こっちにもいるんだ。相手してくれよ」
 あえて声を出し、相手を挑発する彩吹。音で相手を認識する戦蘭丸に話しかけることで、自分自身に意識を集中させて狙いを集めようとする作戦だ。やれることはやる。単純な力押しだけで乗り切れる妖ではないことは解っている。
 振るわれる爪を翼を広げて回避する。狙いが甘い。だがそれは今だけだ。相手が慣れる前に一気に攻め込まなくては。地面をブーツで叩き、蹴りかかる。回転しながら振るわれる蹴りが戦蘭丸に叩き込まれていく。
「どうした。その爪は飾りか?」
「ほざいてな。すぐに味合わせてやるから」
「そりゃ困る。ボクもできれば楽したいんだよね」
 うん、と頷く紡。守ることが役割と考えている紡がこなす役割は多い。怪我人が増えれば攻撃に手が回らなくなるのだ。勿論、無傷で何とかなる相手じゃないことは解っている。それでも笑顔で帰るために、紡は戦う。
 天の源素を展開し、神具の先に集める。紡が生み出したのは青色の鳳。稲妻の鳳凰は大きく翼を広げ、天を舞う。一度旋回したかと思うと、妖の群れに向かって突撃していく。激しい落雷音と轟音。そして大量の電流が戦場を駆け巡る。
「相棒、今だよ」
「おう! 行くぜ!」
 親指一つ立てて翔が走る。背中を任せることが出来る相棒の声に元気をもらったのか、その足取りは軽い。相手がランク4の妖であることは解っているのに、負けるはずがないと思ってしまう。
 体内の源素を回転させながら、印を切る翔。世界を司る五行の力。その一端が体内で渦を巻く。呼吸を整えて指先を妖に向け、体内の源素を解放した。生まれる落雷が空を走り、妖達を打ち払う。
「力を求める奴なんかに負けてたまるか!」
「はいはい、怒りに振り回されないでカケル。あとキサ姫も無理しない」
 プリンスは全体のバランスを調節するように指揮を執っていた。近づいて斬りかかる者。術式で攻める者。創を癒す者。全員の特性を理解して、最適の位置に配置する。その為に声をかけていた。
 勿論、プリンス自身も戦いのために動く。気力消費の多い紡にむけて、気を飛ばす。攻撃のための気弾ではなく、回復のための優しい風。自らの気力を相手の気力に転化し、戦線維持のために活用させる。
「ツム姫。余が倒れそうになったとき、ヨロシクね!」
「俺もがんばらせてもらうよ」
 弓型の神具を手に秋人が頷く。島根の戦いに身を投じ、苦しんでいる人達を見てきた。そういった人達を救うために秋人は戦う。相手の強さは報告書と夢見の予知で理解している。その情報を元に戦術をくみ上げていく。
 源素の力を練り上げて、水の龍を形成する。龍頭ヶ滝の瀑布もかくやとばかりの勢いで妖を飲み込む水の龍。その牙が、顎が、妖に襲い掛かった。静寂の後に場に立っているのは戦蘭丸のみ。しかし戦蘭丸自身の体力を大きく削いだ様子はない。
「流石ランク4。タフですね……」
 敵の様子をスキャンできる覚者は、覚者の猛攻を受けても揺らがない妖の強さに驚愕する。ランクが1違うだけで、その強さは桁一つも跳ね上がる。
 だがそれで足を止める覚者はいない。
 龍頭ヶ滝の闘いは、少しずつ加速していく。


 時間が経てばたつほど、戦蘭丸は動きを増す。聴覚を乱す音や足を奪う水にも慣れ、その爪が覚者に届き始める。
「これでどうだ!」
「これ結構疲れるんだけど、余を誰か労って?」
 奏空と彩吹とプリンスが戦蘭丸の体術を封じるために技を繰り出し続ける。だがその体術は体術を封じることに特化しており威力が高いわけではない。さらに言えば疲弊が激しい。常時相手の体術を封じようとすれば、それだけ殲滅速度が遅れて疲労も激しくなる。
 結果として、戦蘭丸に時間を与える結果となっていた。
「『簡潔さこそ、剣技の神髄』である」
 無駄を省いたただ斬るということに特化した動作。シャーロットが行きついたのはそのスタイルだった。速く、多く、鋭く。求められたのはその三点。ただひたすらにそれを求め、そして体を動かす。
「アナタにできて、ワタシにできぬ道理はないのです」
「分かっていたけど、俺が攻める余裕はなさそうだね」
『豊四季式敷式弓』を手に秋人が息を吐く。動きを増した戦蘭丸の攻撃は苛烈だ。その爪が振るわれるたびに、大きな傷痕を刻んでくる。回復の手を止めればすぐに戦線は崩壊するだろう。水の癒しを施しながら、冷や汗を拭う。
「援軍来るよ」
「お前らは消えろ!」
 後続からやってくるツバメの妖を稲妻で攻める翔。翔は主に援軍を断つ方向で動いていた。妖の数が増えて戦蘭丸に前衛を突破されれば、作戦自体が崩壊する。戦蘭丸をここに足止めするためにも、必要なことだ。
「――雷龍の舞!」
「そうやって技名を叫ぶのって、どこかのヒーローものっぽいよね」
 翔の行動を揶揄するように紡が肩を叩く。ヒーロー。英雄。何かを成し遂げた者。紡は自分がヒーローになりたいのではない。ヒーローになってほしいのだ。その為に出来る限り支えよう。術式的な阻害因子を乗せた霧が紡の手から展開される。
「なんていうか……やる事の切り替え多くて脳みそ沸騰しそう」
「んー。ツム姫はここの要だからね」
 うんうんと頷くプリンス。開腹から支援を一手に担って貰って非常に助かっている。そんな紡を労うように、自らの気力を紡に譲り渡す。戦蘭丸の体術が封じられている今が回復のチャンスだ。
「全力を出し切れない今が攻め時かな」
「言われるまでもなく、最初から全力だ」
 言って羽を広げる彩吹。そのまま空中を舞うように戦蘭丸に回し蹴りを叩き込む。体中の体重を乗せるような重い一撃を繰り出したかと思えば、鋭い蹴りを連続で放つ。息つく暇も与えない蹴り技で攻める隙を与えさせない。
「ここでお前に負けるわけにはいかないんだ」
「そうだとも! 負けるわけにはいかない!」
 体力が落ちた仲間を守るように動きながら奏空は戦蘭丸を攻める。振るった刃が妖の爪と交差し、激しい金属音を放つ。相手を観察し、推理し、そして走る。体力が尽きるまで自分にできることを精一杯やる。それが人間なのだ。
「妖なんかに負けやしない!」
「一人ひとりの力は戦蘭丸よりずっと弱くても――」
 言葉と同時に『不知火』を振るうきせき。蔦で妖の動きを封じながら、防御を考えず攻め続ける。回復や補助は任せてある。自分に出来ることはただ攻めるのみ。足を止めるな、腕を止めるな。呼吸を止めてもこの剣だけは止めるな。精神力をのせた裂帛の一撃。
「――みんなで力を合わせれば勝てるもん!」
「数が多い方が勝つんじゃねぇ。強い方が勝つ。それだけだ」
 場の空気が凍る。戦蘭丸の動きがさらに加速した。鋭い針が回復を行う覚者の動きを止め、戦蘭丸の爪が覚者を襲う。
「死亡さえしなければ、負けではないのです」
「まだ私は倒れていないぞ」
 爪は前衛で戦うシャーロットと彩吹、そしてきせきの命数を削り取る。
「結構疲れてきたんだけど。余、休んでいい?」
「紡は狙わせねーぞ!」
 体術封じを主に行っていたプリンスと、紡を庇った翔も戦蘭丸が飛ばした針で命数を失う。
「まだ倒れる気配もない……」
 戦蘭丸の体力をスキャンする者達は、その体力差を見せつけられて愕然とする。これだけ攻めれば、並のランク3なら疲弊の兆しが見えているだろう。だが戦蘭丸にはその兆しすらない。
「呵々! どうした? もしかして遊び疲れたか?」
 揶揄するように戦蘭丸は問いかける。この程度で終わりならつまらない。そう言いたげに。
 その答えとばかりに神具を振るう覚者達。例え桁違いだからとはいえ、やれることがあるのなら逃げる選択肢はない。
 鬨の声が響く。幕府の滝よりも激しく、雄々しい覚者達の闘いの声が。


(おかしい)
 戦蘭丸は戦いながら違和感を感じていた。
 戦う度に速度を上げ、足場に慣れつつある。そうすることにより、覚者の攻めをいなしやすくなる。事実三方向からの攻めに少しずつ慣れ、同時に対応可能となってきている。体力を大きく削られたが、巻き返しは可能だ。
 可能な、はずだ。
(おかしい)
 違和感はぬぐえない。水の動きに足を囚われなくなり、この状況での戦いに慣れつつある。人間達の攻めにも疲れが見えつつある。いずれ攻めを完全にいなし、敵陣を一つずつ壊滅させることが出来るだろう。その確信があると同時に、
(よけられ、ない?)
 刃の一つから逃げ切れる気がしない。
 執念や気迫、そう言ったものが乗せられる攻撃。打ち合う度に感じる何か。それは確かに戦蘭丸に届いている。だけどそれとは別の、何か。その目に見えない想いが確実にこちらの心臓を向いている。そんな感覚。
(ああ、これは……)
 思い出すのはとある剣士との戦い。一年以上たつのにいまだ痛む古傷。
 戦蘭丸の口が、笑みの形に歪む。


「参点崩しが決まらなくなってきた……!」
 さらに速度を上げた戦蘭丸。体術封じは急所にピンポイントで武器を当てないと効果を発揮しない。少しずつ、命中率が上がってきていた。回避力を増した戦蘭丸が僅かな動きで急所を避けるように動いているのだ。
「『強くなりたい』という気持ちだけならわからないではないけども、そのためには何でもするというのはいただけない」
 肩で息をしながら彩吹が戦蘭丸に向かって口を開く。
「負けないために。守るために大事な何かのために戦う。
 正しいのかどうかは知らない。でもそれが私の矜持だ」
「なら守ってみな。その力で、この俺から! 矜持が折れるまで付き合ってやるぜ!」
「ならば永遠に付き合ってもらうぞ!」
 吼える戦蘭丸に返す彩吹。その矜持は折れることはない、と誇りを持って蹴りを放つ。
「お前は何故強さを求める。多くの人を殺め、取り込み、力を得てその先に何がある?」
「先なもんねぇよ。強くなりたいから強くなる。それだけだ」
 奏空の問いかけに、静かに返す戦蘭丸。ああでも、と言葉を切って、
「勝ちたい奴はいる。『斬鉄』『新月の咆哮』『黄泉路行列車』『後ろに立つ少女』『紅蜘蛛』……」
「大妖?」
「お前達がそう呼ぶ連中だ。そいつらに勝てれば、さぞ嬉しいだろうなぁ」
 にぃ、と笑みを浮かべる戦蘭丸。
「その為に人を犠牲にしても構わないというのか」
「無論」
「ならやはりお前を許すわけにはいかない!」
 人と妖は不倶戴天。価値観が違い、わかり合えない。奏空は力を込めて神具を振るう。
「まるで人間のよう、というのは不謹慎なのかな」
 戦蘭丸と覚者のやり取りを聞いて、秋人はぼそりと呟く。強さに拘泥し、何かを犠牲にする。それは冷静に考えれば当たり前なのだ。時間、食料、お金、人と接する時間、そう言った何かを削って『力』は得られる。それは削っていい、と判断しての行動だ。
「まあ、その削っていい対象が『人』というのは受け入れられないけど」
 ヤマタノオロチに刺さった剣の欠片を得るために、多くの人を犠牲にしようとする妖。妖の価値観からすれば人の犠牲などどうでもいいのだろう。故に殺し、故に奪う。そして人間にもそういう悪人は確かにいる。
「貪欲ながらも真直ぐに強さを求める様、下手な隔者より余程好ましい……というのがワタシの意見です」
 ワタシもフキンシンですが、と前置きしてからシャーロットが頷く。強くなるには実戦を積むことになり、それが命のやり取りなら幾多の死者を生むことになる。ヒューマニズムとしては許されないが、武術家としては正しい道なのだ。
 財産を増やすために力をつけて他人から奪う隔者に比べて、強くなる事自体が目的である戦蘭丸は武術家としては純粋だ。善悪を抜きにすれば、好ましいというシャーロットの意見は納得がいくことなのだろう。だが、
「そんな使い手こそ斬らずにいられぬ……これが業、というものでしょうか」
 これもまた武術家の言葉。シャーロットの言葉に挑発するように手招きする戦蘭丸。
「うーん。ニポンの民は『強さ』にちょっと期待しすぎじゃない?」
 少し離れたところでプリンスが冷静に呟く。強いということは選択肢が増えることだ。だが逆に言えばその程度でしかない。強くなくてもできることはあるし、弱いからこそ見える道もある。
(ま、余は王家だから直接的な強さってあまり意味を為さないのよね)
 世の中にはいろいろな人がいる。力が強い人、頭がいい人、一つの項目に特化した天才、なんでも万能にこなせる秀才、的確に真実を見抜ける探偵……。その『個性』を見て束ねるのが王の『強さ』だ。
「強いのは何でもできるって意味じゃないし、強くなくても大抵の事はできるのにね」
 とはいえ、現状求めれているのは『強さ』だ。プリンスもそれが分からないほど状況が分からないわけではない。
「力だけ求めて他を蹂躙するって言うならオレはそれを許さねー!」
 怒りの声をあげる翔。力による支配。それがどのような結果を生むかを翔は知っている。人を道具としてしか見ない世界。より強い力で蹂躙され、何もかもを奪われる世界。人間同士でさえああなのだ。妖ならさらにひどいことになるだろう。
「あんな風に苦しむ人を、泣く人を、もう見たくねーんだ!」
「弱けりゃ奪われる。苦しむ。当然の摂理だ。なら守ってみな。その力でなぁ!」
「おう! 弱いと思ってる人間の逆襲、とくと喰らって貰うぜ!」
 なんて皮肉。力による蹂躙から身を守る術は、結局のところ力なのだ。だが翔と戦蘭丸の力は意味が違う。戦蘭丸の力は奪う為の力。翔の力は守るための力。その方向性が真逆なのだ。
「うん。頑張りなよ、相棒。ボクはそれを支えてあげるから」
 翔の背中を押すように紡が声をかける。自分のやるべきことはいつだって変わらない。どんな厳しい戦いでもみんなで生きて帰ること。その為に全力を尽くし、その為に頭を回す。かけがえのない相棒や親友のために。
(皆一緒に帰ろうね)
 術の一つ一つに祈りを込め、解き放つ。倒れそうな人がいれば回復し、よろけそうな人がいれば支える。打撃に貢献することはないけれど、紡は確かに戦いに貢献していた。
「戦蘭丸……あの人の仇!」
 きせきは戦蘭丸と戦い散った仲間のことを思いながら神具を振るっていた。喪失したものは戻らない。ここで戦蘭丸を討ってもあの人は戻らない。そんなことは解っているのに。否、わかっているからこそ仇には意味がある。
 ……かつてきせきが両親を失ったとき、きせきは両親の思い出をなぞるようにいろんな場所を歩いた。探すように、求めるように。そして『両親と一緒にいたあの頃』を忘れないように、幼い言動のまま戦いに挑んだこともある。
 ただ両親を求めてさまよっていた少年が、他人のために刃を振るう。そこにはかつての幼い少年はなく、一人の人間として怒る姿があった。そこに如何なる道程が、如何なる苦難が、いかなる助けがあったのか。それはここで語るべきことではない。
「さぁ、お前と人間の最後の力比べだよ!」
 戦いの終わりは、近い。
 最後に立つのは人か、それとも妖か――


 さらに加速した戦蘭丸が、戦場を一気に駆け抜ける。疾風のように突き進みながら、陣全体に凶刃を走らせた。
「……っ。流石、だね」
「まだ負けないぞ!」
 爪は秋人と奏空の命数を削り取る。なんと立ち留まるが同じような攻撃をもう数度喰らえば、立ってられ無くなるだろう。
「ここまでか……」
「研磨が足りぬ、というわけですか」
 最後まで前線を張った彩吹とシャーロットが力尽きる。他の仲間に託す、とばかりに悔いのない表情だった。
「ツム姫は余が守るから、カケルはオフェンスに」
『結界王』と呼ばれる隔者から得た技を展開し、防御に回るプリンス。回復手の紡が集中的に狙われることを考慮しての行動だ。開腹の二枚看板の一つが落ちれば、確かに南陣は崩壊に一歩近づく。
「まだまだツバメが来るのかよ!」
 翔は尽きることなく攻めてくる後続の妖の対応で手いっぱいだった。他の陣からの攻撃も飛ぶが、十秒で殲滅するにはやはり翔もそちらに気を回す必要がある。肩で息をしながら、雷撃を飛ばす。
「ホントしつこいよねー」
 紡はそんな翔に気力を送っていた。親友や相棒が自分を守るように傷ついていくのを見て、思わず何度か飛び出しそうになる。だけどそれを押さえて笑顔を浮かべた。調子を崩すな。日常の延長線のようにふるまえ。それが相棒を安心させると知っているから。
「島根の人達を守るために」
『豊四季式敷式弓』を手にする秋人。この国を守ろうとした玉串の巫女。その想いを継ぐように名を継いだ。妖が世を跋扈するなら、全身全霊をもってこれに挑もう。その想いを込めて術を放つ。
「これでどうだ!」
 きせきの『不知火』が戦蘭丸の胸を傷つける。致命傷ではないが浅くもない傷。倒れる気配すら感じさせないけど、それでもあきらめずにきせきは刀を振るっていく。水滴が岩を穿つように、少しずつ確実に刃は戦蘭丸の命を削っていく。
「ここで絶対終わらせるんだ!」
 呼吸を整えながら奏空が決意と共に神具を振るう。仇を討つ気持ちが全くないわけではない。だけどその人は望んで戦ったのだ。ならばあの人の想いを尊重し、自分は自分のために戦おう。島根のため、平和のため。人を守るために神具を振るう。
「コイツでどうだぁ!」
 そんな覚者の奮戦を薙ぎ払う妖の爪。暗殺の針で回復役を守る者を痺れさせ、戦場を一気に駆け抜けての一撃。
「やばい、かな?」
「ごめん、俺はここまでだ……」
 回復を担っていた紡と秋人が糸が切れたように崩れ落ちる。紡はなんとか命数を持たして踏みとどまるが、秋人はそのまま意識を失う。
「これ以上、紡に手は……出させねー……」
「余もここまでかな。ヒッサツワザ、強いね!」
 紡を守るように戦っていた翔とプリンスも、そのまま倒れ伏す。
「終わりだな」
 戦蘭丸はまだ戦える三人を前に、口を開く。南の陣で残った奏空ときせきと紡の三人は息も絶え絶えだ。命数も燃やしており、次に攻撃がくれば耐えれる保証はない。
「ああ――」
 きせきは静かに口を開く。戦蘭丸の言葉に同意するように、。
 誰から学んだともいえない神具の構え。最初はどこかのゲームか漫画のかっこいいポーズから。子供っぽい理由で戦い始め、戦いを通じて学んできた構え。防御に適しているのと同時に、一挙動で攻撃に転じられる精錬された構え。
 それは御影きせきという覚者の成長の証。ただ遊ぶように戦っていた少年が、戦いや交流を通じて戦う理由を得た戦士となった証。
 きせきの神具で切り開く未来に何があるかはまだわからない。英雄譚なのかもしれない。恋愛劇なのかもしれない。歴史に残る殺戮屋になるかもしれない。あるいは神具を捨て、平和に生きる大人になるのかもしれない。すべてはきせきの歩むままだ。
「――終わりだ、戦蘭丸」
 戦蘭丸がどれだけ動きを速めても、きせきの刃はその動きに合わせるように加速する。
 それは少年が成長するが如く。戦いの中で成長するのは、戦蘭丸だけではなかった。その成長速度は戦蘭丸を超える。
『プルス・ウルトラ』――妖よりも一歩進んだ成長。その奇跡を名付けるなら、まさにその一言だ。
「はっ! そうか、違和感の正体はおまえか! 超えて見ろ、この戦蘭丸を!」
 しかし、戦蘭丸にも意地がある。否、意地を張るほどに譲れない何かがある。きせきの刃が届くより前にこの顎でその命を絶とうと迫り――
「が、はぁ!」
 西の陣から迫った拳と、北の陣から振るわれた炎の刀がその動きを止める。生まれた隙は一瞬だが、それをきせきが逃すはずがない。
 振るわれた刃は静かに。薙ぐ音は凛と戦場に響き、瀑布の音に紛れて消えた。
 時間が止まったかのような静寂の後、心臓を裂かれた妖が倒れて水飛沫をあげる。
 ちん、ときせきが刀を納刀すると同時、時が動き出した――

 妖から島根が解放された、瞬間である。


「勝った……?」
 戦い終わって後、きせきは信じられないと呟く。しかし事実戦蘭丸は倒れていた。それを確認し、脱力したかのように尻餅をつく。
 他の覚者も同様なのか、神具を杖にしながらゆっくりと座り込んだ。もう一歩も動けない、とばかりに横になり……笑い出す。
「勝った……勝ったぞ!」
 叫んだのは誰だったか。その叫びを発端に、覚者達は勝鬨の声をあげる。島根における戦いの終幕を告げる声が、龍頭ヶ滝に響いていた。
「はははは、余がアイス奢るよ。領収書、FiVEの名前で書くから」
「それ、別に殿が奢ってるんじゃないよね」
「FiVEも慰労会ぐらいは開いてくれてもいいだろう。これだけの闘いだったのだから」
 軽口を叩けるのも、全てがを終わったからだ。
 FiVEのバックアップスタッフが迎えに来るまで、覚者達は騒ぎ合っていた。

 後日談として――
 戦蘭丸が率いていた妖は、全て死亡していた。植え付けられた刀の部分から壊死するように崩れ落ちていったという。おそらく戦蘭丸の死と連動していたのだろう。多少の時間差こそあれ、一斉に塵となっていく妖達。それは島根のどこでも見て取れた。
 復興はその後スピーディに行われる。中があらかじめ用意しておいた復興案を政府に提出し、それを元に予算が組まれて人員が送られた形になる。何よりもヤマタノオロチが復活せず、土地自体に大きな被害が出なかったことが復興の早さに拍車をかけていた。
 それぞれの覚者達は復興を手伝った後にそれぞれの場所に帰る。FiVEも然りだ。やらなくてはならないことはたくさんある。
 復興していく島根のニュースを聞きながら、今日もFiVEの覚者達は日常を過ごしている。この日常こそが彼らが得た最大の報酬だった――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『プルス・ウルトラ』
取得者:御影・きせき(CL2001110)
特殊成果
なし




 
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