《島根動乱》妖を包み追い込む竜の滝<北の陣>
●中国地方随一の瀑布
龍頭ヶ滝。
島根県雲南市にある滝で、落差四〇メートルもある直瀑である。激しく流れる水はまさに竜の如くと称され、明治時代の詩人も『出雲国中、滝は龍頭ヶ滝が第一なり。この滝日光に持ち行くも十番以内に有るべし』と言葉を残している。
ランク四の妖、戦蘭丸。ヤマタノオロチの骨を囮に妖をここに誘い込み、一気に叩く作戦が発令する。戦蘭丸を誘いこみ、一気に勝負をつける算段だ。
決戦の場をここに選んだ理由は大きく三つ。
一つ。人を巻き込まずに済むこと。
二つ。大群を連れて移動するには向いていない場所であること。
三つ。地理的優位を得ることが出来ること。
●FiVE
「戦蘭丸はおそらく『音』で周囲を理解しているわ」
御崎 衣緒(nCL2000001)は資料を手にて覚者達に説明を開始する。
「報告では『音をけして近づいた時は気づかず、その後でこちらの数を当てられた』とあるわ。匂いや他の要素なら音をけして近づいても気づかれたはず。
おそらくアクティブソナーのように自分で音を出して、その反響を感じ取っているみたいね。そして別の報告書で『刀をこすり合わせるような音で指令を送っている』というのもあるわ。おそらくだけど――自分自身の爪か歯をこすり合わせ、その音の反響を聞いて状況を把握していると推測できるわ」
断言はできないが、的外れはない。御崎自身はこの推測をそう評価していた。
「龍頭ヶ滝の決戦場近くに金属をこすり合わせるのと同種の音を出す仕組みをセットするわ。多少なりとも効果があるはず。
そして戦う場所は、ここよ」
御崎が示すのは、川が大きくカーブしている場所だ。妖の向きが赤い矢印で示され、カーブに差し掛かった場所で三方向から青い矢印でその先端とぶつかるように書かれている。
「ヤマタノオロチの骨を使って妖の群れをこの場所に誘導する。先頭にいるであろう戦蘭丸をこの場所で三か所から叩く。
流れの速い川で妖の足が奪われている間に一気に攻めたれるのがこの作戦の肝よ。相応の数の妖が後から追ってくるでしょうけど、それを迎撃する部隊も用意済み。漏れはあるかもしれないけど、狙いはあくまで戦蘭丸よ」
妖の足も一定ではない。さらに言えば大群を連れて歩くのが難しい山道だ。重要な何かを追えば、自然と隊列は間延びする。伸びきった先端にいるであろう戦蘭丸を叩き、島根動乱に決着をつけるのだ。
ただ――
「作戦の穴として、戦蘭丸は戦いながら強くなっていくという報告があるわ。おそらく足場の不利も時間がたつごとに克服していくわ」
戦いながら強くなっていく妖。それは不利な状況でもすぐに克服していくだろう。時間が経てば不利になる。そして更に悪い話として――この戦いはFiVEメンバー以外には任せられない。
「更にあの妖は『殺人の罪を持つ死体を妖化する』特性もある。経歴が分からない覚者をメンバーに入れれば、最悪の場合敵になってしまうわ」
重要なのは罪の有無、ではない。その有無が分かっているなら、戦闘不能と同時に離脱させればいい。それが分からないのが問題なのだ。なので戦蘭丸戦はその情報を熟知しているFiVEメンバーにしか任せられない。
「難しい任務だけど、やれるかしら?」
御崎の問いかけに、貴方は――
龍頭ヶ滝。
島根県雲南市にある滝で、落差四〇メートルもある直瀑である。激しく流れる水はまさに竜の如くと称され、明治時代の詩人も『出雲国中、滝は龍頭ヶ滝が第一なり。この滝日光に持ち行くも十番以内に有るべし』と言葉を残している。
ランク四の妖、戦蘭丸。ヤマタノオロチの骨を囮に妖をここに誘い込み、一気に叩く作戦が発令する。戦蘭丸を誘いこみ、一気に勝負をつける算段だ。
決戦の場をここに選んだ理由は大きく三つ。
一つ。人を巻き込まずに済むこと。
二つ。大群を連れて移動するには向いていない場所であること。
三つ。地理的優位を得ることが出来ること。
●FiVE
「戦蘭丸はおそらく『音』で周囲を理解しているわ」
御崎 衣緒(nCL2000001)は資料を手にて覚者達に説明を開始する。
「報告では『音をけして近づいた時は気づかず、その後でこちらの数を当てられた』とあるわ。匂いや他の要素なら音をけして近づいても気づかれたはず。
おそらくアクティブソナーのように自分で音を出して、その反響を感じ取っているみたいね。そして別の報告書で『刀をこすり合わせるような音で指令を送っている』というのもあるわ。おそらくだけど――自分自身の爪か歯をこすり合わせ、その音の反響を聞いて状況を把握していると推測できるわ」
断言はできないが、的外れはない。御崎自身はこの推測をそう評価していた。
「龍頭ヶ滝の決戦場近くに金属をこすり合わせるのと同種の音を出す仕組みをセットするわ。多少なりとも効果があるはず。
そして戦う場所は、ここよ」
御崎が示すのは、川が大きくカーブしている場所だ。妖の向きが赤い矢印で示され、カーブに差し掛かった場所で三方向から青い矢印でその先端とぶつかるように書かれている。
「ヤマタノオロチの骨を使って妖の群れをこの場所に誘導する。先頭にいるであろう戦蘭丸をこの場所で三か所から叩く。
流れの速い川で妖の足が奪われている間に一気に攻めたれるのがこの作戦の肝よ。相応の数の妖が後から追ってくるでしょうけど、それを迎撃する部隊も用意済み。漏れはあるかもしれないけど、狙いはあくまで戦蘭丸よ」
妖の足も一定ではない。さらに言えば大群を連れて歩くのが難しい山道だ。重要な何かを追えば、自然と隊列は間延びする。伸びきった先端にいるであろう戦蘭丸を叩き、島根動乱に決着をつけるのだ。
ただ――
「作戦の穴として、戦蘭丸は戦いながら強くなっていくという報告があるわ。おそらく足場の不利も時間がたつごとに克服していくわ」
戦いながら強くなっていく妖。それは不利な状況でもすぐに克服していくだろう。時間が経てば不利になる。そして更に悪い話として――この戦いはFiVEメンバー以外には任せられない。
「更にあの妖は『殺人の罪を持つ死体を妖化する』特性もある。経歴が分からない覚者をメンバーに入れれば、最悪の場合敵になってしまうわ」
重要なのは罪の有無、ではない。その有無が分かっているなら、戦闘不能と同時に離脱させればいい。それが分からないのが問題なのだ。なので戦蘭丸戦はその情報を熟知しているFiVEメンバーにしか任せられない。
「難しい任務だけど、やれるかしら?」
御崎の問いかけに、貴方は――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦蘭丸の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
島根動乱最終回。三方向から攻めるという形なので、決戦ではなくこういう形で。
他の『妖を包み追い込む竜の滝<〇の陣>』とは同時参加不可とします。
●敵情報
・戦蘭丸(×1)
妖。ランク4。人語を解し、強くなるためには何でもする妖です。その為にヤマタノオロチを復活させようとしていました。
ですが、復活に必要なヤマタノオロチの骨を奪われ、それを追っている状態です。骨に釣られる形で、戦場に引きずり出されました。
盲目のため、初手の攻撃はほぼ決まります。さらに山中に張り巡らされた刀をこする音により、命中にマイナス修正がついています。更に河で足を奪われているため、回避にマイナス修正がついています。このマイナス修正は、5ターンごとに緩和されていきます。
三方向から攻められているため、範囲攻撃全体攻撃も『同じシナリオ内』の同列が対象となります。
攻撃方法
右爪 物近列 右腕の爪を振るいます。
死真似 P 戦闘開始時に発動。『レベル35以下』のキャラクターを根性復活(含む命数復活)を無視して戦闘不能にするスキル……なのですが、音をかく乱されているため使用不可。
古傷 P とある剣士につけられた腹部の傷跡。PCの体術による被ダメージ増加。
盲目 P 目が見えません。不意打ちを受ける確率増加。
十六夜 物近列 ※下記参照
波動滅弾 物遠単 ※下記参照
鉄指穿 物近単 ※下記参照
戦ノ蘭 P 物攻、反応速度が5ターンごとに【+(ターン数×5)%増加】され、攻撃回数が+1される。
無名の古武術 物近列 骨を砕くことを目的とした動き。【無力】【使用条件:5ターン経過後】
無名の暗殺術 物遠単 目に見えない針を飛ばし、体の機能を狂わせます。【不随】【使用条件:10ターン経過後】
無名の交差法 物遠全 敵陣を駆け抜けながら切り裂きます。【使用条件:15ターン経過後】
噛み付き 物近単 歯で噛みついてきます。【必殺】【使用条件:口が使える事】
・飛燕刀
ツバメの妖です。ランク1。羽の部分が鋭い刃となっています。
戦蘭丸についてこれた妖です。4ターン毎に4匹、敵後衛に追加されます。
攻撃方法
飛燕 物近単 飛びながら切り裂きます。【出血】
飛行 P 同名のスキル参照。
●場所情報
龍頭ヶ滝。その上流にある川辺。周囲は岩山です。この戦場に合わせた即席の橋を用意しており、PC側の足場の不利はありません。
他戦場への干渉(回復など)は可能ですが、移動はできません。
戦闘開始時、敵前衛に『戦蘭丸(×1)』『飛燕刀(×4)』がいます。(<西の陣>と異なることにご注意ください)。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
7月12日追記
●十六夜(いざよい)
踊るような連続動作で対象列へ強烈な二連撃を放ちます。
[攻撃] A:物近列 【二連】
物攻:+20 基礎命中:85 速度:+30 ゆらぎ:+15
●波動滅弾(はどうめつだん)
より威力を高めた波動はまさしく【必殺】の一撃へと昇華した。
[攻撃] A:物遠単 《射撃》【必殺】
物攻:+50 基礎命中:90
●鉄指穿(てっしせん)
極限まで鍛えた己が指を急所に捻りこみます。
[攻撃] A:物近単 【致命】
物攻:+35 基礎命中:100 会心:+5
※一部スキルの説明が誤っていたのを修正致しました。
誤)範
正)列
ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。
7/13
昨日データ修正時に敵の配置が西の陣と同じになっており、正しい位置に表記修正致しました。
ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
150LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2018年07月23日
2018年07月23日
■メイン参加者 6人■

●
「島根で起きていた事件の原因は、この妖だったのですか……」
目の前の妖を見て『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が唾をのむ。突如島根を襲った多数の妖。その群れの頂点と言えるランク4の妖。それを討つ機会が得られたのだ。ここで倒しておかなければ、島根の闘いは長引くことになる。
「やっとここまで来たんです。勝つことさえ出来れば島根も平和に……」
『煌炎の書』を手に『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は妖を見た。島根を襲う妖の悲劇。妖に生活を奪われ、怯える島根の市民達。ここで勝てばその不安を取り払うことが出来るのだ。
「もしここで俺達が負けてしまえば島根に甚大な被害が齎されるだろう。決して負けることはできないな」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は自らに気合を入れるように、最悪の事態を想像する。その未来だけは迎えさせるわけにはいかない。そう思うことで湧き上がる精神的な活力。それを糧として一歩踏み出した。
「そうだな。放っておけば、大妖以上の存在になりかねん」
ゲイルの言葉を継ぐように『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が口を開く。相手は成長する妖だ。その成長度合いによっては大妖に手が届くほどの力を得られるかもしれない。ここで討ち倒し、脅威を取り払うのだ。
「大妖と九頭竜か……」
大妖、の言葉に『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が眉を顰める。日本の脅威ともいえる大妖。妖の組織たる九頭竜。この二つは同一のものではないという情報がある。その情報の一端を得ることが出来ればいいのだが。
「どうあれここで決着をつけるときや。行くで!」
気合を入れて抜刀する『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。一度相対してその実力は充分に理解している。それでも負けるつもりは毛頭ない。古流剣術焔陰流の実力を見せる時。笑みを浮かべて、気合を入れる。
「来な、人間!」
ランク4妖――戦蘭丸は自分が罠にはめられたことを察し、その上でニヤリと笑う。策を弄することを卑怯と罵ることはない。智謀も奸智も能力の一つだ。己の能力を最大限生かして戦うことのなにが悪い?
島根解放をかけた戦いの火ぶたが、今切って落とされた。
●
「ほしたら行くで!」
からんからんと下駄を鳴らして凛が走る。一本しか歯のない下駄は素人が履けばバランスを崩して倒れてしまうだろう。だがこれを履くことでバランス能力が鍛えられ、大幹が強化される。凛もまた、この下駄を履くことで体幹を鍛えた剣士だ。
剣士の授業において最も重要視されるのは下半身の力。刀は腕で振るのではなく、腰で振る。鍛えらえた足腰の力こそが剣士の要だ。足場を川で奪われた戦蘭丸にその力はない。凜はそれを逃すことなく、炎を纏った一撃を喰らわせた。
「あたしらは一人で戦う訳やないからな。この戦いに参加する全員の力で絶対奴の首をもぎ取るで!」
「ならお前らの首、全員串差しにしてやるぜ」
「そう簡単にやられる私達だと思うな」
『大鎌・白狼』を手にツバメが間合いを詰める。戦蘭丸が強いことは先刻承知だ。多くの戦闘術を学び、それを実践してきた。だからこの妖はここまで強いのだ。それは奪ってきた命の数が多い事を意味している。多くの人を、覚者を葬ってきた妖。
神具を振るい、周囲に霧を発生させる。目の見えない戦蘭丸には意味を為さない目隠しだが、霧に反響するように刀が擦れる音が響き渡る。逡巡は一瞬。ツバメはその隙を逃すことなく斬りかった。戦蘭丸の肩から血飛沫が舞う。
「人間を侮るな、妖」
「とはいえ、楽に勝てる相手ではない」
戦局を冷静に見ながら赤貴が口を開く。足場を奪い、三方向から攻める。こちらに優位な地理条件を確保して一気に攻め立てているにもかかわらず、その牙城が崩れる気配はない。ランク4は伊達ではないということかと頷く赤貴。
初激に最大威力を。それは戦いの基本。赤貴もそれに倣い自らが持つ最大の技を展開する。土の源素を練り上げ、大量の刀を生み出し射出する。赤貴は更に力を込めて、刀の数を増やして攻撃を続けた。降り注ぐ刃が戦蘭丸の身体を削っていく。
「坤陣・麁正――天羽々斬の別名だ。似合いの技だろう」
「呵々! 皮肉が効いてる。生憎だが、骨を奪い返して新鮮な剣を食うことにしてるんでな」
「それはさせない。ヤマタノオロチを復活などさせやしない」
まだ視界内にあるヤマタノオロチの骨を持つ覚者を見ながら、ゲイルがハッキリと言い放つ。洪水の化身ともいえるヤマタノオロチの復活。それは島根の土地に大打撃を与えるだろう。戦蘭丸の我欲のためにそのような災害を起こさせるわけにはいかない。
戦蘭丸の動きを注視しながら、ゲイルは懐から閃光弾を取り出して投擲する。盲目の戦蘭丸に強烈な光は意味を為さないが、音による妨害は効果が高いだろう。味方を守るために手を尽くす。ゲイルの戦い方はそこに集中していた。
「ここで倒し、島根に平和を取り戻す。俺達はその為にいるんだ」
「はい。私達は力を合わせることができます。それが人間の強さです」
ゲイルの言葉に頷く澄香。ここの強さで言えば、人は妖に遠く及ばない。だが力を合わせることで妖に対抗することが出来るのだ。思いを束ね、一つの敵に集中する。それができるからこそ、今ここに立っているのだ。
タロットカードの神具を手に、意識を集中する澄香。戦場全てを俯瞰する様な意識。敵の位置、味方の位置をすべて把握して炎を生み出し、解き放つ。炎の波は戦場を舐えるように蹂躙し、妖を燃やしていく。
「ラーラちゃん、お願いします!」
「はい! ヤマタノオロチの復活などさせるものですか!」
頷き、戦蘭丸を睨むラーラ。強くなる。その想いのために島根の人達を蹂躙し、苦しめた妖。自分のエゴのために他人を苦しめる存在を許せるはずがない。人と妖は不倶戴天の天敵。それを改めて自覚する。
本型の神具を手に源素を積み重ねていくラーラ。前世の知識を元にした術式が脳内に展開されていく。その術式に現世のラーラが力を注ぎ、炎の魔法陣が顕現する。魔法陣から放たれる炎の弾丸が、戦蘭丸を穿つ。
「あなたは、その野望のために一体何人の人から命を奪ったんでしょうね」
「さてな。お前達も『人の平和』ってやつのためにどれだけの妖を排除してきた?」
人と妖の意見は交わらない。たとえ言葉が通じても、根本的な価値観の相違がある。妖は人を憎み、それを返すように人は妖を許せない。妥協する点も、譲歩する余地もない。
言葉による問答は解決を生み出さない。それが答えとばかりに戦蘭丸は爪を振るう。川に足を取られながらも、爪の一閃は少しずつ覚者達の体力を削っていく。じわじわと、命を奪う脅威となりつつある。
「さあ、止めてみろよ人間!」
龍頭ヶ滝の闘いは、少しずつ加速していく。
●
時間が経てばたつほど、戦蘭丸は動きを増す。聴覚を乱す音や足を奪う水にも慣れ、その爪が覚者に届き始める。
「共存できれば良かったのでしょうけれど、きっとそれは無理なのでしょうね」
人の言葉を理解し、会話ができる妖。ヤマタノオロチの骨が奪われるまでは、人の命を積極的には奪いに行かなかったという。だがそれは人の命など『どうでもいい』と思っていることだ。やはり共存はできそうにない。
「皆、無理はするな。傷を受けたらすぐに言ってくれ」
ゲイルは仲間の傷の具合を目で確認すると同時に呼びかけも行っていた。情報は多いに越したことはない。自分自身の目と、癒される本人の情報。その二つが重なれば怪我の具合はより確かになる。
「飛燕刀が厄介だな」
ツバメは後続から現れる妖に苛立ちの声をあげていた。倒しても倒しても現れる妖は、その度に対応しなければならなくなる。空中を飛んでいるため、こちらのブロックを飛び越えるのだ。早急な対策が必要になる。
「これでどないや!」
裂帛と同時に刀を翻す凛。幼いころから学んできた焔陰流の足の運び。それを用いて戦蘭丸の動きを避けながら刃を振るう。腰の回転に合わせて振るわれる神具。水滴を切り裂き、そして妖を一気に切り裂く。
「流石に余力がないな」
不満げに赤貴が呟き、仲間に回復を施す。攻守回復共にこなせる赤貴だが、今回は回復におもむきを置いていた。攻め手が減るのは些か難点だが、仲間が倒れて攻撃数が減ることを考えれば致し方ない。
「まるでコウモリを彷彿とさせる周辺把握能力ですね」
爪や歯をこすり合わせる動作を見ながら、ラーラが驚嘆の声をあげる。音の反響を拾い上げ、だれがどこにいるかを知る。戦闘中であっても相手を逃すことのないその索敵能力。それを封じれなければ、或いは負けていたかもしれない。
「ぬるいぜ、お前らその程度か? だったらこっちから行くぜ!」
言葉とともに戦蘭丸の動きが加速する。鋭い針が回復を行う覚者の動きを止め、戦蘭丸の爪が覚者を襲う。
「……ぐっ!」
「きついなぁ、これ……!」
前衛で戦うツバメと凛が命数を失うほどの傷を受けた。なんとか意識を保ち、神具を構えなおす。
「まだ、負けません!」
物理的な攻撃に弱い澄香が、気弾を受けて膝をつく。命数を燃やしてどうにか立ち尽くしているが、もう数回同じように狙われれば耐えきれる自信がない。
「精々楽しませろよ、人間! お礼に泣いて逃げれば見逃してやるぜ!」
嗤う戦蘭丸。その挑発に応えるように、覚者達は神具を構えなおす。
その態度を良しとしたか、戦蘭丸の唇が笑みに変わる。鋭い乱杭歯が見えた。
戦いは加速していく。少しずつ、だけど確実に終局に向けて。
●
(楽しい)
戦いの最中だが、戦蘭丸は高揚している自分を発見した。
(人間との戦いが、楽しい)
人間はぜい弱だ。それは今でも変わらず、弄っても長くはもたない。ヤマタノオロチの骨を奪われるまで、人間襲撃を重視しなかったのはひとえに人間に価値を見出せなかっただけだ。
(あの時の剣士以来か)
一年以上前、とある人間の剣士と相対した。たった一人で挑んだ人間は、予想以上に素早く、鋭く、そして苛烈だった。今でもその傷は痛む。
『強くなりたい』
それは戦蘭丸の欲望だ。目的ではない。強くなることで何かを為したいわけではない。強くなることそのものが戦蘭丸の目的だ。強くなければ生きてはいけない妖の世界だったが、人と戦って――まあ『戦い』になった人間など片手で余るのだが――更に世界が広がった。
強さを実感して初めて別の欲望が生まれてきた。だがそれが何なのか、戦蘭丸には分からない。形にならない欲望は、この人間達を超えれば形になるのだろう。
三方向から囲む智謀。こちらの動きを封じる陣形。そして人間達の基礎となる肉体能力。弱いと思ってたやつらがここまでやってくれるとは!
卑怯と罵るつもりはない。むしろもっとやれと叫びたくなる。策を練り、連携し、そして鍛えた身体をぶつけてくる。心技体全てを出すのが『人間』の強さなのだ。
そしてそれを乗り越えるのが、この戦蘭丸なのだ。
「精々楽しませろよ、人間! お礼に泣いて逃げれば見逃してやるぜ!」
口から出たのは、嘘偽りのない言葉だった。ここまで楽しませてくれた礼に、見逃してやる。
龍頭ヶ滝の音が、覚者達の鬨の声に紛れて消える。その音に戦蘭丸の心は奮えていた。
●
爪と神具がぶつかり合い、同時に互いの想いもぶつかり合う。
「強くなるスピードが速いのは、それだけ人を、妖を屠ってきた証だ」
ツバメは戦蘭丸の強さをそう評価していた。戦蘭丸がどれだけの命を奪って来たかはわからない。だが命を奪った経験値が戦闘力に無関係であるとは思えない。効率よく命を奪うために、武術がある。その武を戦いの基礎としているのなら、当然の帰結だ。
だから潰す。人間を積極的に殺さないのは、人間を殺しても強くなれないと思っていた程度だ。気が向けばその凶刃は人に向くことは、ヤマタノオロチの骨を奪った後の行動で立証されている。人を守るために、ツバメの鎌が振るわれる。
「ええ。ここで決着をつけなくてはいけません!」
ラーラは強い怒りをもって戦蘭丸に挑む。この妖の指示の下で失われた命の中には、多くの人間がいた。夢や希望を持った人もいた。人を殺したことを反省する者もいた。それぞれの未来があったのに、それは全て失われたのだ。
強くなりたい。そのエゴのために他人の命を奪う。そんな事が許されていいはずがない。人と妖は永遠にわかり合えない。それは命の価値感が違うからだ。妖からすれば人の命は塵芥も同然。知性ある戦蘭丸でさえ、こうなのだ。ラーラは決意を込めて炎を放つ。
「そういやあんた、武術は人を殺める為のモン言うてたな」
「言ったな。確かに」
凜の問いかけに首肯する戦蘭丸。
「居合には『居合とは人に斬られず人斬らず己を責めて平らかな道』いう歌があるんや。
確かに武術は相手を倒す為の技や。けどな、それは戦いを避ける努力してそれでも駄目な時の最後の手段や」
「温いな。精神論が戦いの何の役に立つ?」
「そないな考えをもつもんが、武を極められるとは思えん、っていう話や!」
言葉とともに横なぎに振るわれる凛の刀。武術は人を殺す術である。故にそれを御する心を持たねばならない。心技体とはすなわち、鞘に納められた刀。心という鞘のない刀術はただの人斬りでしかない。
「九頭竜の将と言ったな? 大妖とはどう違うんだ」
赤貴は戦いながら戦蘭丸に問いかけていた。
「すべての妖が『斬鉄』や『新月の咆哮』に従ってるわけじゃねぇ。俺みたいに好き勝手やる輩もいる。
『九頭竜』はそう言った奴らの集まりだ」
「大妖に組しない奴らのたまり場か。妖も一枚岩じゃないってことだな」
「そもそも連中だって一枚岩じゃねぇからなぁ」
言われて成程、と赤貴は納得する。赤貴が知る三体の大妖も、人間を責めるという共通点があれどそれ以外はそれほど足並みがそろっているとは思えなかった。同じ目的のために、とりあえず足を揃えているといった程度だ。
「強さを求めるという気持ちは理解できなくもない」
ゲイルは戦蘭丸の動機を否定はしなかった。強さを求めるということは生物の根源的な欲求だ。自分の身を守るため、コミューンを守るため、糧を得るため……。生きるために力が必要なことはたくさんある。
だがその為にヤマタノオロチを復活させるということは許されない。洪水の化身ともいえる古妖の復活は、それだけで多くの被害を生み出す。ましてやそれが暴れ出しでもすれば、島根の被害は莫大なものになっただろう。
「貴方は……力を求めた先に何をするつもりなのですか?」
「何もねぇよ。強くなりたいから強くなる。それだけだ」
澄香の問いかけに、静かに返す戦蘭丸。ああでも、と言葉を切って、
「勝ちたい奴はいる。『斬鉄』『新月の咆哮』『黄泉路行列車』『後ろに立つ少女』『紅蜘蛛』……」
「大妖?」
「お前達がそう呼ぶ連中だ。そいつらに勝てれば、さぞ嬉しいだろうなぁ」
にぃ、と笑みを浮かべる戦蘭丸。
「自分が強くなる為なら他者などどうでもいい。それは正しいかもしれません。ですが私はそんなのは嫌です。
一人一人の力では敵わないかもしれませんけれど、私達は力を合わせることができます。これが人間の強さなのだと知ってますから」
戦蘭丸を真っ直ぐに見て、澄香は答える。それが人間の強さなのだと。
「ならその強さで勝ってみな! この戦蘭丸に!」
吼える妖に応えるように、覚者達は鬨の声をあげる。
力を求めた妖が勝つか。力を合わせた人が勝つか。天秤はまだ、揺れ動いていた。
●
さらに加速した戦蘭丸が、戦場を一気に駆け抜ける。疾風のように突き進みながら、陣全体に凶刃を走らせた。
「この程度の傷は想定内だ」
「……くっ、厳しいですね……」
「楽観はできないな……っ」
赤貴とラーラとゲイルが積み重なったダメージで膝をつく。命数を削って何とか踏みとどまった。
「ここまで、か……」
ツバメが妖の猛攻に耐えきれず、意識を手放した。
「仕方ない。前に出るぞ」
前衛の数が減り、ゲイルはそのカバーとして前に出る。元々光栄であるゲイルが前に出ても、長く耐えられるとは自分でも思わない。だが前衛が崩壊すれば一気に陣は瓦解する。回復を施しながら陣を立て直す時間を作らなくては。
「致命傷くらわんかったら、たおれへんのや!」
息絶え絶えと言った様子で凜が戦蘭丸に告げる。動体視力をフルに生かして戦蘭丸の爪をギリギリのところで避けていた。だが完全に避けるには至らず、体中は傷だらけ。それでもまだ負けない、とばかりに神具を振るう。
「心を一つにした人間も、馬鹿にしたものではありませんよ」
澄香はそういって回復の術を展開する。小さな力でも束ねれば強くなる。強さを求めることを否定はしないが、こういう強さもあるのだ。心を重ねて団結する。それができるからこそ、人間は強いのだ。
「妖が人を食い、殺し、支配したがるように。人も妖を排除し、駆逐し、殲滅したいのさ」
冷たく赤貴が言い放つ。人と妖は相容れない。それは価値観の総意いではない。そもそも価値観による断絶なら、人と人の間にもある。相容れぬ真の理由は嫌悪に似た拒絶。魂ともいえる何かが、互いがそこに『在る』ことが許さないのだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
言葉と共に炎を解き放つラーラ。呼吸を整えながら呪文を唱え、仲間をサポートしながら攻撃を繰り返す。尽きそうになる気力を回復するために、大きく呼吸をして大気の魔力を吸収した。大丈夫、まだ戦える。再び炎を解き放つため、魔導書を握る。
「コイツでどうだぁ!」
そんな覚者の奮戦を薙ぎ払う妖の爪。暗殺の針で回復役を守る者を痺れさせ、戦場を一気に駆け抜けての一撃。
「きゃ、あ……!」
「ごめん、なさい……」
「……が、ぁ!」
戦蘭丸の爪がラーラと澄香の体力を奪い、口がゲイルの肩口に食らいつき意識を刈り取る。
「終わりだな」
戦蘭丸はまだ戦える二人を前に、口を開く。北の陣で残った凛と赤貴は息も絶え絶えだ。命数も燃やしており、次に攻撃がくれば耐えれる保証はない。
「せやな、これで終わりや」
戦蘭丸の言葉に頷く凜。焔陰流二代目が打った『朱焔』を正眼に構え、戦蘭丸を見据えた。
幾多の武器を喰らい、その残留思念から武を学んだ妖。その強さは生来の肉体的な強さもあるのだろうが、絶え間ない努力の結晶といえよう。あるいは『強くなる』ことへの執念が妖化したものなのかもしれない。
だが――それは戦蘭丸だけの強さだ。たった一人で積み上げた武でしかない。戦蘭丸の積み上げた武術を受け継ぐ者はいない。戦蘭丸が潰えれば、終わる強さ。
対し焔陰流は二〇代続いた武術だ。初代から長きを得て積み上げた努力の結晶だ。
成長の最中には様々な問題がったのだろう。時代の流れや継承者問題。武に対する考え方の違い。そう言った様々な問題を議論しながら代を積み重ね、技術を研鑽してきた。様々な考え方を受け入れ、あるいは受け入れず。そうやって成長してきた。
武は人を殺す手段。それも一つの正解なのだろう。
武は人を守る手段。それも一つの正解なのだろう。
一人で考えれば結論は一つしかない。故に戦蘭丸は『武は殺人の手段』以上の結論は出せなかった。
焔陰流はその議論を二〇代近く続けてきた。数多の剣士が己の経験と価値観を論じ、次代の中で研磨してきた。技術もまた同様だ。有用な技術、不要な技術。それらは全て選択してきた。
二〇代続いた剣術の歩み。この一歩一歩がその結晶。
重心を下し、すり足で近づく。移動によるブレを最小限に抑え、つま先を相手に向ける。同時に腰を回転させ、足から伝わる力を背骨を通して肩、肘、手首に伝達させる。
手首の回転、足運び、拍子――先代が、先々代が、先々々代が作り上げた剣術の結晶。これこそが、
「焔陰流・煌焔や!」
煌めく三閃。陽炎が揺らめくような、そんな幻影すら見える剣戟。
「――て、め」
まだ戦蘭丸は生きてる。だが凜は静かに瞳を閉じた。
西の陣と南の陣。その覚者が神具を振るう姿が見えたからだ。
「が、はぁ!」
それが戦蘭丸の絶命の言葉。最後まで戦いを求めた修羅の最後。そして――
妖から島根が解放された、瞬間である。
●
「終わったな。はは、中はんの奢りで宍道湖にシジミでも食べに行きたいで」
凜はそういって脱力し、座り込む。もうこれ以上動くことが出来そうにない。緊張から解放され、気が抜けてしまった。
他の覚者も同様なのか、神具を杖にしながらゆっくりと座り込んだ。もう一歩も動けない、とばかりに横になり……笑い出す。
(リーリヤさん……。どうしているのかしら?)
澄香は遠くで戦っているであろう元憤怒者の事を思い出していた。ひと段落したら会いに行こう。その為にも、今は体を休めないと。
「勝った……勝ったぞ!」
叫んだのは誰だったか。その叫びを発端に、覚者達は勝鬨の声をあげる。島根における戦いの終幕を告げる声が、龍頭ヶ滝に響いていた。
後日談として――
戦蘭丸が率いていた妖は、全て死亡していた。植え付けられた刀の部分から壊死するように崩れ落ちていったという。おそらく戦蘭丸の死と連動していたのだろう。多少の時間差こそあれ、一斉に塵となっていく妖達。それは島根のどこでも見て取れた。
復興はその後スピーディに行われる。中があらかじめ用意しておいた復興案を政府に提出し、それを元に予算が組まれて人員が送られた形になる。何よりもヤマタノオロチが復活せず、土地自体に大きな被害が出なかったことが復興の早さに拍車をかけていた。
それぞれの覚者達は復興を手伝った後にそれぞれの場所に帰る。FiVEも然りだ。やらなくてはならないことはたくさんある。
復興していく島根のニュースを聞きながら、今日もFiVEの覚者達は日常を過ごしている。この日常こそが彼らが得た最大の報酬だった――
「島根で起きていた事件の原因は、この妖だったのですか……」
目の前の妖を見て『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が唾をのむ。突如島根を襲った多数の妖。その群れの頂点と言えるランク4の妖。それを討つ機会が得られたのだ。ここで倒しておかなければ、島根の闘いは長引くことになる。
「やっとここまで来たんです。勝つことさえ出来れば島根も平和に……」
『煌炎の書』を手に『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は妖を見た。島根を襲う妖の悲劇。妖に生活を奪われ、怯える島根の市民達。ここで勝てばその不安を取り払うことが出来るのだ。
「もしここで俺達が負けてしまえば島根に甚大な被害が齎されるだろう。決して負けることはできないな」
『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は自らに気合を入れるように、最悪の事態を想像する。その未来だけは迎えさせるわけにはいかない。そう思うことで湧き上がる精神的な活力。それを糧として一歩踏み出した。
「そうだな。放っておけば、大妖以上の存在になりかねん」
ゲイルの言葉を継ぐように『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が口を開く。相手は成長する妖だ。その成長度合いによっては大妖に手が届くほどの力を得られるかもしれない。ここで討ち倒し、脅威を取り払うのだ。
「大妖と九頭竜か……」
大妖、の言葉に『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が眉を顰める。日本の脅威ともいえる大妖。妖の組織たる九頭竜。この二つは同一のものではないという情報がある。その情報の一端を得ることが出来ればいいのだが。
「どうあれここで決着をつけるときや。行くで!」
気合を入れて抜刀する『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。一度相対してその実力は充分に理解している。それでも負けるつもりは毛頭ない。古流剣術焔陰流の実力を見せる時。笑みを浮かべて、気合を入れる。
「来な、人間!」
ランク4妖――戦蘭丸は自分が罠にはめられたことを察し、その上でニヤリと笑う。策を弄することを卑怯と罵ることはない。智謀も奸智も能力の一つだ。己の能力を最大限生かして戦うことのなにが悪い?
島根解放をかけた戦いの火ぶたが、今切って落とされた。
●
「ほしたら行くで!」
からんからんと下駄を鳴らして凛が走る。一本しか歯のない下駄は素人が履けばバランスを崩して倒れてしまうだろう。だがこれを履くことでバランス能力が鍛えられ、大幹が強化される。凛もまた、この下駄を履くことで体幹を鍛えた剣士だ。
剣士の授業において最も重要視されるのは下半身の力。刀は腕で振るのではなく、腰で振る。鍛えらえた足腰の力こそが剣士の要だ。足場を川で奪われた戦蘭丸にその力はない。凜はそれを逃すことなく、炎を纏った一撃を喰らわせた。
「あたしらは一人で戦う訳やないからな。この戦いに参加する全員の力で絶対奴の首をもぎ取るで!」
「ならお前らの首、全員串差しにしてやるぜ」
「そう簡単にやられる私達だと思うな」
『大鎌・白狼』を手にツバメが間合いを詰める。戦蘭丸が強いことは先刻承知だ。多くの戦闘術を学び、それを実践してきた。だからこの妖はここまで強いのだ。それは奪ってきた命の数が多い事を意味している。多くの人を、覚者を葬ってきた妖。
神具を振るい、周囲に霧を発生させる。目の見えない戦蘭丸には意味を為さない目隠しだが、霧に反響するように刀が擦れる音が響き渡る。逡巡は一瞬。ツバメはその隙を逃すことなく斬りかった。戦蘭丸の肩から血飛沫が舞う。
「人間を侮るな、妖」
「とはいえ、楽に勝てる相手ではない」
戦局を冷静に見ながら赤貴が口を開く。足場を奪い、三方向から攻める。こちらに優位な地理条件を確保して一気に攻め立てているにもかかわらず、その牙城が崩れる気配はない。ランク4は伊達ではないということかと頷く赤貴。
初激に最大威力を。それは戦いの基本。赤貴もそれに倣い自らが持つ最大の技を展開する。土の源素を練り上げ、大量の刀を生み出し射出する。赤貴は更に力を込めて、刀の数を増やして攻撃を続けた。降り注ぐ刃が戦蘭丸の身体を削っていく。
「坤陣・麁正――天羽々斬の別名だ。似合いの技だろう」
「呵々! 皮肉が効いてる。生憎だが、骨を奪い返して新鮮な剣を食うことにしてるんでな」
「それはさせない。ヤマタノオロチを復活などさせやしない」
まだ視界内にあるヤマタノオロチの骨を持つ覚者を見ながら、ゲイルがハッキリと言い放つ。洪水の化身ともいえるヤマタノオロチの復活。それは島根の土地に大打撃を与えるだろう。戦蘭丸の我欲のためにそのような災害を起こさせるわけにはいかない。
戦蘭丸の動きを注視しながら、ゲイルは懐から閃光弾を取り出して投擲する。盲目の戦蘭丸に強烈な光は意味を為さないが、音による妨害は効果が高いだろう。味方を守るために手を尽くす。ゲイルの戦い方はそこに集中していた。
「ここで倒し、島根に平和を取り戻す。俺達はその為にいるんだ」
「はい。私達は力を合わせることができます。それが人間の強さです」
ゲイルの言葉に頷く澄香。ここの強さで言えば、人は妖に遠く及ばない。だが力を合わせることで妖に対抗することが出来るのだ。思いを束ね、一つの敵に集中する。それができるからこそ、今ここに立っているのだ。
タロットカードの神具を手に、意識を集中する澄香。戦場全てを俯瞰する様な意識。敵の位置、味方の位置をすべて把握して炎を生み出し、解き放つ。炎の波は戦場を舐えるように蹂躙し、妖を燃やしていく。
「ラーラちゃん、お願いします!」
「はい! ヤマタノオロチの復活などさせるものですか!」
頷き、戦蘭丸を睨むラーラ。強くなる。その想いのために島根の人達を蹂躙し、苦しめた妖。自分のエゴのために他人を苦しめる存在を許せるはずがない。人と妖は不倶戴天の天敵。それを改めて自覚する。
本型の神具を手に源素を積み重ねていくラーラ。前世の知識を元にした術式が脳内に展開されていく。その術式に現世のラーラが力を注ぎ、炎の魔法陣が顕現する。魔法陣から放たれる炎の弾丸が、戦蘭丸を穿つ。
「あなたは、その野望のために一体何人の人から命を奪ったんでしょうね」
「さてな。お前達も『人の平和』ってやつのためにどれだけの妖を排除してきた?」
人と妖の意見は交わらない。たとえ言葉が通じても、根本的な価値観の相違がある。妖は人を憎み、それを返すように人は妖を許せない。妥協する点も、譲歩する余地もない。
言葉による問答は解決を生み出さない。それが答えとばかりに戦蘭丸は爪を振るう。川に足を取られながらも、爪の一閃は少しずつ覚者達の体力を削っていく。じわじわと、命を奪う脅威となりつつある。
「さあ、止めてみろよ人間!」
龍頭ヶ滝の闘いは、少しずつ加速していく。
●
時間が経てばたつほど、戦蘭丸は動きを増す。聴覚を乱す音や足を奪う水にも慣れ、その爪が覚者に届き始める。
「共存できれば良かったのでしょうけれど、きっとそれは無理なのでしょうね」
人の言葉を理解し、会話ができる妖。ヤマタノオロチの骨が奪われるまでは、人の命を積極的には奪いに行かなかったという。だがそれは人の命など『どうでもいい』と思っていることだ。やはり共存はできそうにない。
「皆、無理はするな。傷を受けたらすぐに言ってくれ」
ゲイルは仲間の傷の具合を目で確認すると同時に呼びかけも行っていた。情報は多いに越したことはない。自分自身の目と、癒される本人の情報。その二つが重なれば怪我の具合はより確かになる。
「飛燕刀が厄介だな」
ツバメは後続から現れる妖に苛立ちの声をあげていた。倒しても倒しても現れる妖は、その度に対応しなければならなくなる。空中を飛んでいるため、こちらのブロックを飛び越えるのだ。早急な対策が必要になる。
「これでどないや!」
裂帛と同時に刀を翻す凛。幼いころから学んできた焔陰流の足の運び。それを用いて戦蘭丸の動きを避けながら刃を振るう。腰の回転に合わせて振るわれる神具。水滴を切り裂き、そして妖を一気に切り裂く。
「流石に余力がないな」
不満げに赤貴が呟き、仲間に回復を施す。攻守回復共にこなせる赤貴だが、今回は回復におもむきを置いていた。攻め手が減るのは些か難点だが、仲間が倒れて攻撃数が減ることを考えれば致し方ない。
「まるでコウモリを彷彿とさせる周辺把握能力ですね」
爪や歯をこすり合わせる動作を見ながら、ラーラが驚嘆の声をあげる。音の反響を拾い上げ、だれがどこにいるかを知る。戦闘中であっても相手を逃すことのないその索敵能力。それを封じれなければ、或いは負けていたかもしれない。
「ぬるいぜ、お前らその程度か? だったらこっちから行くぜ!」
言葉とともに戦蘭丸の動きが加速する。鋭い針が回復を行う覚者の動きを止め、戦蘭丸の爪が覚者を襲う。
「……ぐっ!」
「きついなぁ、これ……!」
前衛で戦うツバメと凛が命数を失うほどの傷を受けた。なんとか意識を保ち、神具を構えなおす。
「まだ、負けません!」
物理的な攻撃に弱い澄香が、気弾を受けて膝をつく。命数を燃やしてどうにか立ち尽くしているが、もう数回同じように狙われれば耐えきれる自信がない。
「精々楽しませろよ、人間! お礼に泣いて逃げれば見逃してやるぜ!」
嗤う戦蘭丸。その挑発に応えるように、覚者達は神具を構えなおす。
その態度を良しとしたか、戦蘭丸の唇が笑みに変わる。鋭い乱杭歯が見えた。
戦いは加速していく。少しずつ、だけど確実に終局に向けて。
●
(楽しい)
戦いの最中だが、戦蘭丸は高揚している自分を発見した。
(人間との戦いが、楽しい)
人間はぜい弱だ。それは今でも変わらず、弄っても長くはもたない。ヤマタノオロチの骨を奪われるまで、人間襲撃を重視しなかったのはひとえに人間に価値を見出せなかっただけだ。
(あの時の剣士以来か)
一年以上前、とある人間の剣士と相対した。たった一人で挑んだ人間は、予想以上に素早く、鋭く、そして苛烈だった。今でもその傷は痛む。
『強くなりたい』
それは戦蘭丸の欲望だ。目的ではない。強くなることで何かを為したいわけではない。強くなることそのものが戦蘭丸の目的だ。強くなければ生きてはいけない妖の世界だったが、人と戦って――まあ『戦い』になった人間など片手で余るのだが――更に世界が広がった。
強さを実感して初めて別の欲望が生まれてきた。だがそれが何なのか、戦蘭丸には分からない。形にならない欲望は、この人間達を超えれば形になるのだろう。
三方向から囲む智謀。こちらの動きを封じる陣形。そして人間達の基礎となる肉体能力。弱いと思ってたやつらがここまでやってくれるとは!
卑怯と罵るつもりはない。むしろもっとやれと叫びたくなる。策を練り、連携し、そして鍛えた身体をぶつけてくる。心技体全てを出すのが『人間』の強さなのだ。
そしてそれを乗り越えるのが、この戦蘭丸なのだ。
「精々楽しませろよ、人間! お礼に泣いて逃げれば見逃してやるぜ!」
口から出たのは、嘘偽りのない言葉だった。ここまで楽しませてくれた礼に、見逃してやる。
龍頭ヶ滝の音が、覚者達の鬨の声に紛れて消える。その音に戦蘭丸の心は奮えていた。
●
爪と神具がぶつかり合い、同時に互いの想いもぶつかり合う。
「強くなるスピードが速いのは、それだけ人を、妖を屠ってきた証だ」
ツバメは戦蘭丸の強さをそう評価していた。戦蘭丸がどれだけの命を奪って来たかはわからない。だが命を奪った経験値が戦闘力に無関係であるとは思えない。効率よく命を奪うために、武術がある。その武を戦いの基礎としているのなら、当然の帰結だ。
だから潰す。人間を積極的に殺さないのは、人間を殺しても強くなれないと思っていた程度だ。気が向けばその凶刃は人に向くことは、ヤマタノオロチの骨を奪った後の行動で立証されている。人を守るために、ツバメの鎌が振るわれる。
「ええ。ここで決着をつけなくてはいけません!」
ラーラは強い怒りをもって戦蘭丸に挑む。この妖の指示の下で失われた命の中には、多くの人間がいた。夢や希望を持った人もいた。人を殺したことを反省する者もいた。それぞれの未来があったのに、それは全て失われたのだ。
強くなりたい。そのエゴのために他人の命を奪う。そんな事が許されていいはずがない。人と妖は永遠にわかり合えない。それは命の価値感が違うからだ。妖からすれば人の命は塵芥も同然。知性ある戦蘭丸でさえ、こうなのだ。ラーラは決意を込めて炎を放つ。
「そういやあんた、武術は人を殺める為のモン言うてたな」
「言ったな。確かに」
凜の問いかけに首肯する戦蘭丸。
「居合には『居合とは人に斬られず人斬らず己を責めて平らかな道』いう歌があるんや。
確かに武術は相手を倒す為の技や。けどな、それは戦いを避ける努力してそれでも駄目な時の最後の手段や」
「温いな。精神論が戦いの何の役に立つ?」
「そないな考えをもつもんが、武を極められるとは思えん、っていう話や!」
言葉とともに横なぎに振るわれる凛の刀。武術は人を殺す術である。故にそれを御する心を持たねばならない。心技体とはすなわち、鞘に納められた刀。心という鞘のない刀術はただの人斬りでしかない。
「九頭竜の将と言ったな? 大妖とはどう違うんだ」
赤貴は戦いながら戦蘭丸に問いかけていた。
「すべての妖が『斬鉄』や『新月の咆哮』に従ってるわけじゃねぇ。俺みたいに好き勝手やる輩もいる。
『九頭竜』はそう言った奴らの集まりだ」
「大妖に組しない奴らのたまり場か。妖も一枚岩じゃないってことだな」
「そもそも連中だって一枚岩じゃねぇからなぁ」
言われて成程、と赤貴は納得する。赤貴が知る三体の大妖も、人間を責めるという共通点があれどそれ以外はそれほど足並みがそろっているとは思えなかった。同じ目的のために、とりあえず足を揃えているといった程度だ。
「強さを求めるという気持ちは理解できなくもない」
ゲイルは戦蘭丸の動機を否定はしなかった。強さを求めるということは生物の根源的な欲求だ。自分の身を守るため、コミューンを守るため、糧を得るため……。生きるために力が必要なことはたくさんある。
だがその為にヤマタノオロチを復活させるということは許されない。洪水の化身ともいえる古妖の復活は、それだけで多くの被害を生み出す。ましてやそれが暴れ出しでもすれば、島根の被害は莫大なものになっただろう。
「貴方は……力を求めた先に何をするつもりなのですか?」
「何もねぇよ。強くなりたいから強くなる。それだけだ」
澄香の問いかけに、静かに返す戦蘭丸。ああでも、と言葉を切って、
「勝ちたい奴はいる。『斬鉄』『新月の咆哮』『黄泉路行列車』『後ろに立つ少女』『紅蜘蛛』……」
「大妖?」
「お前達がそう呼ぶ連中だ。そいつらに勝てれば、さぞ嬉しいだろうなぁ」
にぃ、と笑みを浮かべる戦蘭丸。
「自分が強くなる為なら他者などどうでもいい。それは正しいかもしれません。ですが私はそんなのは嫌です。
一人一人の力では敵わないかもしれませんけれど、私達は力を合わせることができます。これが人間の強さなのだと知ってますから」
戦蘭丸を真っ直ぐに見て、澄香は答える。それが人間の強さなのだと。
「ならその強さで勝ってみな! この戦蘭丸に!」
吼える妖に応えるように、覚者達は鬨の声をあげる。
力を求めた妖が勝つか。力を合わせた人が勝つか。天秤はまだ、揺れ動いていた。
●
さらに加速した戦蘭丸が、戦場を一気に駆け抜ける。疾風のように突き進みながら、陣全体に凶刃を走らせた。
「この程度の傷は想定内だ」
「……くっ、厳しいですね……」
「楽観はできないな……っ」
赤貴とラーラとゲイルが積み重なったダメージで膝をつく。命数を削って何とか踏みとどまった。
「ここまで、か……」
ツバメが妖の猛攻に耐えきれず、意識を手放した。
「仕方ない。前に出るぞ」
前衛の数が減り、ゲイルはそのカバーとして前に出る。元々光栄であるゲイルが前に出ても、長く耐えられるとは自分でも思わない。だが前衛が崩壊すれば一気に陣は瓦解する。回復を施しながら陣を立て直す時間を作らなくては。
「致命傷くらわんかったら、たおれへんのや!」
息絶え絶えと言った様子で凜が戦蘭丸に告げる。動体視力をフルに生かして戦蘭丸の爪をギリギリのところで避けていた。だが完全に避けるには至らず、体中は傷だらけ。それでもまだ負けない、とばかりに神具を振るう。
「心を一つにした人間も、馬鹿にしたものではありませんよ」
澄香はそういって回復の術を展開する。小さな力でも束ねれば強くなる。強さを求めることを否定はしないが、こういう強さもあるのだ。心を重ねて団結する。それができるからこそ、人間は強いのだ。
「妖が人を食い、殺し、支配したがるように。人も妖を排除し、駆逐し、殲滅したいのさ」
冷たく赤貴が言い放つ。人と妖は相容れない。それは価値観の総意いではない。そもそも価値観による断絶なら、人と人の間にもある。相容れぬ真の理由は嫌悪に似た拒絶。魂ともいえる何かが、互いがそこに『在る』ことが許さないのだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
言葉と共に炎を解き放つラーラ。呼吸を整えながら呪文を唱え、仲間をサポートしながら攻撃を繰り返す。尽きそうになる気力を回復するために、大きく呼吸をして大気の魔力を吸収した。大丈夫、まだ戦える。再び炎を解き放つため、魔導書を握る。
「コイツでどうだぁ!」
そんな覚者の奮戦を薙ぎ払う妖の爪。暗殺の針で回復役を守る者を痺れさせ、戦場を一気に駆け抜けての一撃。
「きゃ、あ……!」
「ごめん、なさい……」
「……が、ぁ!」
戦蘭丸の爪がラーラと澄香の体力を奪い、口がゲイルの肩口に食らいつき意識を刈り取る。
「終わりだな」
戦蘭丸はまだ戦える二人を前に、口を開く。北の陣で残った凛と赤貴は息も絶え絶えだ。命数も燃やしており、次に攻撃がくれば耐えれる保証はない。
「せやな、これで終わりや」
戦蘭丸の言葉に頷く凜。焔陰流二代目が打った『朱焔』を正眼に構え、戦蘭丸を見据えた。
幾多の武器を喰らい、その残留思念から武を学んだ妖。その強さは生来の肉体的な強さもあるのだろうが、絶え間ない努力の結晶といえよう。あるいは『強くなる』ことへの執念が妖化したものなのかもしれない。
だが――それは戦蘭丸だけの強さだ。たった一人で積み上げた武でしかない。戦蘭丸の積み上げた武術を受け継ぐ者はいない。戦蘭丸が潰えれば、終わる強さ。
対し焔陰流は二〇代続いた武術だ。初代から長きを得て積み上げた努力の結晶だ。
成長の最中には様々な問題がったのだろう。時代の流れや継承者問題。武に対する考え方の違い。そう言った様々な問題を議論しながら代を積み重ね、技術を研鑽してきた。様々な考え方を受け入れ、あるいは受け入れず。そうやって成長してきた。
武は人を殺す手段。それも一つの正解なのだろう。
武は人を守る手段。それも一つの正解なのだろう。
一人で考えれば結論は一つしかない。故に戦蘭丸は『武は殺人の手段』以上の結論は出せなかった。
焔陰流はその議論を二〇代近く続けてきた。数多の剣士が己の経験と価値観を論じ、次代の中で研磨してきた。技術もまた同様だ。有用な技術、不要な技術。それらは全て選択してきた。
二〇代続いた剣術の歩み。この一歩一歩がその結晶。
重心を下し、すり足で近づく。移動によるブレを最小限に抑え、つま先を相手に向ける。同時に腰を回転させ、足から伝わる力を背骨を通して肩、肘、手首に伝達させる。
手首の回転、足運び、拍子――先代が、先々代が、先々々代が作り上げた剣術の結晶。これこそが、
「焔陰流・煌焔や!」
煌めく三閃。陽炎が揺らめくような、そんな幻影すら見える剣戟。
「――て、め」
まだ戦蘭丸は生きてる。だが凜は静かに瞳を閉じた。
西の陣と南の陣。その覚者が神具を振るう姿が見えたからだ。
「が、はぁ!」
それが戦蘭丸の絶命の言葉。最後まで戦いを求めた修羅の最後。そして――
妖から島根が解放された、瞬間である。
●
「終わったな。はは、中はんの奢りで宍道湖にシジミでも食べに行きたいで」
凜はそういって脱力し、座り込む。もうこれ以上動くことが出来そうにない。緊張から解放され、気が抜けてしまった。
他の覚者も同様なのか、神具を杖にしながらゆっくりと座り込んだ。もう一歩も動けない、とばかりに横になり……笑い出す。
(リーリヤさん……。どうしているのかしら?)
澄香は遠くで戦っているであろう元憤怒者の事を思い出していた。ひと段落したら会いに行こう。その為にも、今は体を休めないと。
「勝った……勝ったぞ!」
叫んだのは誰だったか。その叫びを発端に、覚者達は勝鬨の声をあげる。島根における戦いの終幕を告げる声が、龍頭ヶ滝に響いていた。
後日談として――
戦蘭丸が率いていた妖は、全て死亡していた。植え付けられた刀の部分から壊死するように崩れ落ちていったという。おそらく戦蘭丸の死と連動していたのだろう。多少の時間差こそあれ、一斉に塵となっていく妖達。それは島根のどこでも見て取れた。
復興はその後スピーディに行われる。中があらかじめ用意しておいた復興案を政府に提出し、それを元に予算が組まれて人員が送られた形になる。何よりもヤマタノオロチが復活せず、土地自体に大きな被害が出なかったことが復興の早さに拍車をかけていた。
それぞれの覚者達は復興を手伝った後にそれぞれの場所に帰る。FiVEも然りだ。やらなくてはならないことはたくさんある。
復興していく島根のニュースを聞きながら、今日もFiVEの覚者達は日常を過ごしている。この日常こそが彼らが得た最大の報酬だった――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
