≪Vt2018≫イルカと踊るアンビエントナイト
●
「ねえねえ! 皆! バレンタインだよー!」
ぴょんぴょん跳ねて、くるくるのツインテールを揺らしながら、久方 万里(nCL2000005)が貴方達に告げる。
「あのね、あのね! じゃーん! 京都水族館のチケットだよー!」
どや顔の万里は誇らしげに扇のように広げられたチケットを両手に掲げた。
「万里ちゃんの超絶トークテクで、新聞屋のおじさんからもぎ取ったんだよー!」
チケットの内容は、ナイトチケットにカップルペアナイトチケット。夕方以降での入館が可能なチケットだ。
「今ね、京都水族館で、バレンタインのイルカショーがやってるの。夜のイルカスタジアムが、すごくロマンチックにライトアップされるんだって! すてきだよね~!」
京都水族館。海とあまり縁のない京都になぜ? とは思うが、京都は鴨川、宇治川、10もの一級河川がながるる、川の町だ。その川をながるる水はやがて海にたどり着く。そういった多くの生命の生態系を再現した水族館として2012年3月に設立されたのである。
山紫水明の街のはんなりとした水族館。それが京都水族館だ。
ペンギン飼育層にはプロジェクトマッピング、京都の高い空を望む露天のイルカスタジアム、様々な季節で変わる体験プログラムと趣向を凝らしたそこは、沢山の観光客も楽しませている新しい京都の観光スポットでもある。
「恋人同士じゃなくてもいいし、ゆっくり楽しんでくるといいとおもうんだよ! 遊びに行くとイルカさんのチョコがサービスでもらえるんだって! あとね、カフェの九条ねぎのてっぱいチキンバーガーめちゃくちゃおいしいし、男前豆腐の豆腐アイスもおいしいんだ! それと、イルカスタジアム前の売店で暖かいマシュマロいりのホットチョコも売ってるよ! スタジアムはちょっと寒いからあったまるよ~!」
きゃっきゃと楽しそうに万里は説明をつづけていく。
「行って、お土産話きかせてね!」
ところで、新聞何ヶ月分とったの? と問えば、万里は立てた指を左右に振った。
「ひ・み・つ・だよー!」
「ねえねえ! 皆! バレンタインだよー!」
ぴょんぴょん跳ねて、くるくるのツインテールを揺らしながら、久方 万里(nCL2000005)が貴方達に告げる。
「あのね、あのね! じゃーん! 京都水族館のチケットだよー!」
どや顔の万里は誇らしげに扇のように広げられたチケットを両手に掲げた。
「万里ちゃんの超絶トークテクで、新聞屋のおじさんからもぎ取ったんだよー!」
チケットの内容は、ナイトチケットにカップルペアナイトチケット。夕方以降での入館が可能なチケットだ。
「今ね、京都水族館で、バレンタインのイルカショーがやってるの。夜のイルカスタジアムが、すごくロマンチックにライトアップされるんだって! すてきだよね~!」
京都水族館。海とあまり縁のない京都になぜ? とは思うが、京都は鴨川、宇治川、10もの一級河川がながるる、川の町だ。その川をながるる水はやがて海にたどり着く。そういった多くの生命の生態系を再現した水族館として2012年3月に設立されたのである。
山紫水明の街のはんなりとした水族館。それが京都水族館だ。
ペンギン飼育層にはプロジェクトマッピング、京都の高い空を望む露天のイルカスタジアム、様々な季節で変わる体験プログラムと趣向を凝らしたそこは、沢山の観光客も楽しませている新しい京都の観光スポットでもある。
「恋人同士じゃなくてもいいし、ゆっくり楽しんでくるといいとおもうんだよ! 遊びに行くとイルカさんのチョコがサービスでもらえるんだって! あとね、カフェの九条ねぎのてっぱいチキンバーガーめちゃくちゃおいしいし、男前豆腐の豆腐アイスもおいしいんだ! それと、イルカスタジアム前の売店で暖かいマシュマロいりのホットチョコも売ってるよ! スタジアムはちょっと寒いからあったまるよ~!」
きゃっきゃと楽しそうに万里は説明をつづけていく。
「行って、お土産話きかせてね!」
ところで、新聞何ヶ月分とったの? と問えば、万里は立てた指を左右に振った。
「ひ・み・つ・だよー!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.バレンタインイベントをお楽しみください。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
バレンタインのイベントをどうぞ。
京都水族館、素敵ですよ! プロジェクションマッピングがいたるところにあって、飽きない作りになっています。
・お時間は17時以降のナイト・タイムになります。
・おしながき
・17時以降、中央のイルカスタジアムで、ライトアップされたイルカショーをみることができます。
演出照明と共にプールを泳ぐイルカはとても幻想的でとりこになってしまうでしょう。
スタジアムの入り口の売店では、ビールや、チュロス、ホットチョコが販売しています。ホットチョコに入っているマシュマロはイルカのカタチでとてもかわいいのです。
・同じく17時以降、屋外公園と一体化した、開放感たっぷりの屋外空間である京の里山もまた、特別にライトアップされています。
風光明媚に四季折々の表情が楽しめる里山の棚田を歩くと、都会であることもわすれるようなのんびりとした時間がたのしめます。疲れたときは小さな庵で休憩もできます。食べ歩きも可能です。
・その他水族館をゆっくり楽しんでいただいてもかまいません。バレンタインのプロジェクションマップもかわいらしいです。
お一人様でもデートでもご遠慮無くどうぞ。
おみやげにイルカのカタチのチョコレートを発行したいと思います。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
15/30
15/30
公開日
2018年02月10日
2018年02月10日
■メイン参加者 15人■

●歩く、道
京都駅から、京都水族館までは、基本的には市バスを使うのが一般的だが、徒歩ルートというのも、また楽しいものだ。
京都駅をでて、塩小路通、堀川通、木津屋橋通を超えて、大きな交差点のある大宮通りを渡るという15分程度の散歩コースとしてもおすすめできる。古都京都の少し懐かしい町並みを抜け、近代的で印象的な建物が、かの京都水族館である。
そんな徒歩ルートを行くのは、成瀬翔、麻弓紡、如月彩吹、真屋千雪、ユスティーナ・オブ・グレイブル、成瀬 歩の6人である。
ことの発端はチケットを手にした紡が歩の前で翔をさそったことだ。
「お兄ちゃんだけでーとずるい!」
と、歩が騒ぎ「じゃあ、歩はユスちゃんを誘う!」ということで、収まったのだ。それを知った千雪はチャンス到来と、彩吹に『保護者』としての同伴を前提にバレンタインデートに誘ったという流れだ。
「あれ? 紡と翔がいるなら保護者役はいるんじゃ?」
きょとんと疑問を投げかける彩吹に千雪はあせあせとしながら「いや、翔くんたちも、デートだから邪魔しちゃ悪いかなって」と言い訳する。
「そうか……そうだね」
翔くんたち「も」と暗に自分たちもデートであると言い含んだつもりではあったが、それもどこふく風。彩吹には伝わらない。
「とりぷるでーとですわね!」
歩の手を少しだけ大きい手で握り、ユスティーナがにこにこと宣言した。
「で、でーとちがうし!」
遊びに来てるだけだっつーの、口の中でもごもごと呟く翔の隣で、蒼い羽の小鳥はチェシャ猫のような笑顔で「たのしくなぁい?」と聞けば「楽しいけどさ!」と翔が返す。
「やっぱり、でーとだよね?」
「やっぱりでーとですわ」
先頭を歩く、最年少組がこそこそとガールズトークに花を咲かせる。
「なんかいったか?」
「なーんにも「だよ」「ですわ♪」」
そんな面々を最後尾から、微笑ましく見つめる彩吹の手を意を決した千雪が握る。少々ムリをした笑顔で「寒いよね」と理由をつければ「そうだね」と彩吹もつられて笑う。
ふわりふわりと、夢見心地で水族館内を歩くは桂木日那乃。
ふいに足元を照らすプロジェクションマッピングが可愛らしくて、心が躍る。守護使役のマリンも、その動きまわるマッピングのライトを追いかけて嬉しそうに跳ね回る。まるでそれが、海を泳いでるようにみえて、日那乃もとなりを一緒に歩く。そうするとまるでマリンと一緒に海を泳いでるような気分になってくる。
すこし疲れた彼女は、海獣ゾーンにある休憩スペースのベンチに腰をかける。ガラス張りの休憩所の外は京都の街がライトに照らされとても美しくみえた。
「……プロジェクトマッピング、面白い、ね?」
縦横無尽にあちらこちらを照らすマッピングは随分と凝っていて、ずっとみていても飽きない。ハート型のライトを追いかけていた、マリンは日那乃の元に戻ると、嬉しそうに彼女の周りを遊泳するように浮かんでいる。
「マリン、も、綺麗、って、思う?」
こくこくと頷くマリンを抱き寄せ、水槽に向かわせれば、見えているのかそうでもないのか、アシカが興味深そうにこちらを気にしているようにも見える。
「……水槽の中の、お魚さん、から、は。どう、見えて、る? 面白い、か、な?」
言って、背中の硝子窓にもたれかかれば、冷えた硝子が外気の冷たさを伝え、ふるりと身体を震わせた日那乃は両手にもったマシュマロ入りのホットチョコに口をつける。
「マリンも、飲んで、みる?」
興味深そうなマリンは同じように口をつけると熱さに尻尾をフルフルとふって抗議する。
「……あ、熱いと、飲めない、ね」
日那乃はくすりと笑うとふーふーと冷ましはじめた。
●イルミネーションの囁き
「ごめん、まった?」
京都水族館前の梅小路公園にあるチンチン電車の車両をつかった総合案内所前で、そわそわとしている少女は掛けられた声に幸せそうな声で答える。沈みゆく夕日が賀茂たまきを紅く染めている。
「いえ、大丈夫です。でも、朝から、すごく、楽しみでした」
そんな可愛らしい彼女に、舞い上がりそうな工藤 奏空は極力落ち着くようにしながら「寒かったでしょ?」と手をつなぐ。
「僕も朝から楽しみだったよ」
気持ちは同じだ。なによりもそれが嬉しい。
それでは、3年目のバレンタインデートの始まりだ。
(それにしても、バレンタイン仕様の色々……なんかこう、むずがゆい)
大人ぶってはいても翔は13歳の少年である。ピンクのハートが跳ねるプロジェクションマッピングというものはその、なんというか、気恥ずかしいのである。なによりもピンク色の光が、紡の顔をよぎる度に、長いまつげが、ふっくりとした可愛い艶めいた唇が強調されるように見えて、落ち着かないのだ。綺麗だしすごいとは思う! 思うのだが、でも何かが違う。
「さっきのプロジェクションマッピング、ハートがいっぱいでTHEバレンタインって感じで可愛かったなぁ」
「そ、そうか? 俺あんまよくわかんねぇし」
「と、そうだ。今年も翔にはちゃあんと手作りチョコレート持ってくから、期待しないで待っててね」
「ふえっ!?」
相棒はそんな事を言ってくるのだ。チョコ自体は去年も貰った。その流れで今年もというのは、まあ普通の話だ。
だけれども、こんな空気のなかで言われるとドキッとしてしまうのが男の子なのである。そんな気持ちを知ってか知らずか、相棒はふらふらとプロジェクションマッピングに夢中だ。
「もうすぐショーだねえ」
「そ、そだな! なんか買うか?」
売店に向かい、翔はチュロスを買い、紡はホットチョコを買う。ホットチョコのなかにはイルカのマシュマロが浮かび、紡は嬉しそうに相棒に向かって「翔、みてみて。イルカだよ、可愛くない?」と見せる。
「あ、相棒はチュロスにしたんだね? いいなぁ、一口ちょーだいー」
「ん? いいけど」
隣の畑は青いもの。チュロスを齧る翔を見ていたら、自分も欲しくなった紡がねだれば、一口サイズに折って、紡の口にほおりこむ。
(ちょっとまて、いまの、もしかして間接キ……いやいや何考えてんだ、俺)
「はい、お礼。翔もココア、飲むでしょ?」
紡はなんの意識もせず、自分の飲んでいたホットチョコのカップを翔に向ける。
(いやいやいやいや!)
思春期の少年は一度意識したことが頭から離れずについ紡の唇を見つめてしまい、顔が熱くなるのを意識した。
「あー、うん、そーだなー! 俺もちょっとココア買ってくる!」
そういって逃げるように売店に向かった少年は耳まで紅く染まっている。
「あれ? ボクの一口飲む? って聞いたつもりだったんだけど……喉、乾いたのかな?」
●イルカと踊るアンビエントナイト
場内アナウンスが、イルカショーが近いことを告げれば、イルカスタジアムにショーの観客が集まり始める。
「こういった出し物をみるのは初めてです」
とはいいつつも時任千陽は場内マップや、出し物の時間などは事前に調べておくタイプである。スタジアムに出る前にあるホットチョコを如才なく買い、環大和に手渡す。
「流石に2月の風は寒いですね……風邪はひかないようにご注意を」
「ありがとう、千陽さん」
言って大和は、ホットチョコのなかのイルカを指して「まるで、小さなイルカショーがここでも行われているみたい」と微笑めば、千陽は感心した面持ちで「君の感性は素敵だな。俺ではそんなこと思い浮かびもしませんでした」と答える。
ショーの前のイルカたちは、ウォーミングアップのように水槽を泳ぎ回っていた。
「ずっと水の中にいるイルカは寒くないんでしょうか?」
なんとはなく呟いた千陽に大和は「気温はとても寒いけれど水の中だと少しは温度が温かいのかしら?それとも人間より寒さに強いのかもしれないわね」と答え、並んでその姿を眺める。吐く息とホットチョコの湯気が白く視界を歪ませた。
「聞いた話ですが、イルカの肌は水に濡れたナスとおなじような感じらしいですよ。随分とつるつるしているのだと、驚いたものです」
「イルカとナス。同じような肌触りなのね。イルカを直接触る機会はなかなかなくてもナスならいつでも触ることはできるわね。今度イルカと思ってナスを撫でてみるわ」
そんな他愛もないやり取りで、随分と優しい笑顔を見せるようになったことを千陽は自分で気づいているのだろうか?
そして、プロジェクションマッピングのライトが踊り始め、ライトアップされたイルカショーがはじまる。
●里山を歩く
柳燐花は迷っていた。バッグにはきちんとラッピングしたチョコが鎮座している。京の里山の棚田を照らすイルミネーションはバレンタイン模様。悩める乙女を後押しするように、ピンクのハートが飛び交っている。チョコを渡すには絶好のシチュエーションだというのにだ。
尻尾がゆっくり上がってははたりと垂れる。何度めかのところで、蘇我島恭司は助け舟をだすことを決める。男心的には言い出してもらいたいけれども、困っているのがわかっているのだ。見過ごすわけにはいかない。
「そう言えば、今日はバレンタインだよね。実は、燐ちゃんにチョコを持ってきてるんだ」
いわれて、燐花の尻尾がびくんと立ち上がる。相変わらずの素直な感情表現に、恭司は苦笑しつつも綺麗に包装された小包を燐花に手渡す。
「それなら…はい、燐ちゃん、ハッピーバレンタイン!」
先手を打たれる燐花。ああ、戦闘であれば、私のほうが早くできたのに。そんな益体もないことを言い訳しながらしどろもどろに「私も、いつお渡ししようかと思ってまして……」と消え入りそうになるような声で呟いて、周りをきょろきょろと見渡せば、折しも人気はない。
バッグから出した包を押し付けるように恭司に渡す。
「ありがとう、燐ちゃん! ……えっと、本来は好きな人に渡す物だからね……だから、僕からも可愛い恋人に渡したかったんだ。大好きだよ、燐ちゃん。これからもよろしくね?」
恋人として、交換する初めてのバレンタインチョコレート。だからこそ、言葉は伝えなくてはならない。
「家族じゃなくて、恋人さんとしての……?」
案の定だと、恭司は苦笑する。と同時にこの言葉では足りないのだ。自分の想いは。だから言い直す。
「……えっと、愛してる、と言い換えた方が良いかな?」
告白をされて、付き合いを始めた。劇的に変わるものだと思っていた日常はなにも変わらず。少しだけ不満……ではないけれど、あの告白はもしかすると冗談だったのではないかと思うことがあった。でも、それを確かめる勇気なんてなかった。もし、もし、冗談といわれたら私はどうしたらいいのだろう。ずっとそう思っていた。
続けて告げられるアイシテルの言葉はそんな不安を払拭しても余りある言葉だ。
恭司はきっとそんなやきもきする自分に気づいていたのだろう。なんて、なんて意地悪な人だ。
――、だけれども。こんな嬉しい言葉に私はなにが返せるのだろう。
「……誰よりも、近くにいて欲しいと思うのは、蘇我島さんに恋をしているからですか?」
不器用な自分が嫌になる。けれど、同時に必死で口をでた言葉はなによりもの真実で。
――気づいてしまった。私にとって特別なあの人だけが真実。他の人ではだめなのだと。
「そうだねぇ……少なくとも、燐ちゃんに恋してる僕は同じ気持ちだよ」
●イルカと踊るアンビエントナイト・2
「水の中をあれだけ自由に動けるのって どんな気持ちだろうね」
まっすぐにイルカを見つめる彩吹を見つめていた、千雪はその言葉ではっと我に帰る。
「そうだね、うん、気持ちいいのかな?」
ぼーっとしていた、千雪をからかうかのように、水槽のギリギリを泳いでいたイルカが大きく水しぶきをあげる。
「うわっ!?」
叫ぶ千雪を彩吹が反射的に庇う。
「レインコート、着ておくべきだったね」
うわー、失敗した失敗した! 彩吹さんが濡れないように気をつけてたのに、僕の方が庇われてどうすんのさー。内心慌てながら……いや、内心どころか、外面的にも慌てながら千雪があわあわとする。
「彩吹さん大丈夫!?」
「ん……? 大丈夫だよ。私、火行だし、多少濡れたってどうってことない。千雪が濡れなくてよかったよ」
濡れた前髪をかきあげ、雫を飛ばしながら彩吹。
なんだこのイケメン! いや、いや! 千雪は自分のストールで、彩吹を包み込み、最後に残る男の子の挟持を発揮する。
「大丈夫なのはわかった。 でも、ね? 簡単に濡れた姿を男にみせちゃ駄目だよ。彩吹さんは女の子なんだから、さ」
(あれ 気にしてる? 本当に平気なのに ……そうだ)
彩吹は千雪の手をとり、自分の熱い頬にあてる。冷たい手が気持ちいい。もともと体温は高い方なのだ。だから大丈夫と。
(ああああ、なんだよ!めちゃくちゃ可愛い! そんな笑顔向けられたら)
千雪の許容量がパンクするまで、あと数秒。
歩と並んで観客席の最前列をゲットした、ユスティーナたちはショーに対してもっとも意識が高い人物だ。
レインコートも完備。タオルだって準備済み。暖かいホットチョコで寒さ対策。そしておやつのチュロス。
「ココアにもイルカさんがいらっしゃいますわ。溶けてしまう前にお口に逃がしてあげないとですわね?」
「…イルカさんだあ! わあ、かわいい、飲んじゃうのもったいない~」
「溶けちゃったらもっともったいないですわよ?」
「うう……よーし」
ごくん、とイルカマシュマロを飲み込んだと同時にイルカの泳ぐ水しぶきが前髪を濡らす。
隣をみれば砂糖菓子の姫様もおなじように、前髪から雫が滴っている。なんだかそれがおかしくて二人は顔を見合わせて笑いだした。
「びしょ濡れもおそろいですのよ」
「おそろいだね」
バッグからタオルを出し歩の頭をわしゃわしゃと拭くユスティーナはまるで本当のお姉さんのよう。
(ユスちゃんがお姉ちゃんだったらいいのに。そうなったらあゆみもお姫様になれるのかな?)
音に合わせて、イルミネーションに煌めくイルカを見ながら千陽は呟く。
「ふむ、随分とあの司令官は優秀ですね。優秀な司令官がいると部下も動きやすくなります。なるほど、ハンドサインで最適化をはかっているんですね……すばらしい」
なんとも朴念仁な感想である。
「イルカとトレーナーが信頼しあってるからこそだと思うわ。だからこそ簡単なサインで伝わるのね」
大和もまた、そんな朴念仁な感想に当たり前のように受け答えする。二人の間にはまだロマンスは遠いのだろう。
「人間も動物も信頼しあう事が大切なのは同じなのかもしれないわね」
そうやってつぶやいた言葉は、彼女の願い。
「人も、動物も……そして、古妖もでしょうね」
それがわかるから、千陽はその願いに同意する。そして思う。自分にはない感性をもち、そして本質をいつも見抜くその洞察力のあり方を羨ましくもすごいと思う。
「やはり君はすごい人だ」と呟いた言葉は、京都の空に吸い込まれた。
幻想的に照らされるイルカを見ながら、座席でしっかりと手をつなぎ合っているたまきと奏空は、同じところで歓声をあげ、同じところで感動する。恋人たちにとって、寄り添い同じ時間を共有することは何よりも幸せなことだ。
ぴっ!っと鳴らされるホイッスルに合わせて、イルカ同士がちゅっとキスをする。その愛らしさに周囲から感嘆の声が溢れる。もちろんたまきもその一人だ。
それを見て奏空には対抗心が生まれた。
「たまきちゃん」
愛しい彼女の名を呼べば、はい、とこちらを見た瞬間に。
「……!?」
突然落とされたキスにたまきは不意をつかれて真っ赤になる。
ふわふわ、ふわふわと身体が揺れる。ずるい、奏空さん。こんなの、耐えれません。
そのまま、たまきは奏空によりかかり、唇を尖らせる。そんなたまきが愛おしくて肩をぎゅっと抱き寄せた。
「イルカに負けられないからね」
ちょっとだけ、彼女の笑顔を独り占めにしたイルカに嫉妬してしまったのだ。
ショーのあと飲んだホットチョコはなぜかいつもより甘い気がした。
幻想的にイルミネーションで照らされるイルカはとてもかわいくて、可愛いのはもちろんわかってるけど、いつもよりもっともっと可愛く見えて、菊坂 結鹿の心を強くつかむ。
隣でその姿をみる向日葵 御菓子は今何を思っているのか手に取るようにわかる。イルカのジャンプで歓声をあげる妹分はなんとも可愛い。その姿をこんなに近くでみれるのはお姉ちゃん特権なのです。そんな満足感で満たされた御菓子は上機嫌だ。
ライトに反射してキラキラ輝くイルカよりももっともっとキラキラした笑顔の結鹿の満足そうな顔につれてきてよかったと微笑む。
(あ、結鹿ちゃんに見とれていて、ショーが終わっちゃうわ!)
ショーが終わり、ホットチョコを飲みながら、結鹿は興奮した口調で感想を御菓子に伝えれば、そんな貴方がかわいくてずっとみていたと伝えられる。
ぼん、と音がして真っ赤になった結鹿は大切な姉に文句をいいつつも、こうやって自分のことを話すときの顔が年上だというのに可愛くてしかたないと思う。でもそれはわたしだけの内緒。そんなお姉ちゃんの笑顔はわたしの宝物で、独り占めしたいから。誰も知らなくてもいいのだ。
●HappyHappyValentine!
初めての恋なんて、ひとつたりとてわかることなんてない。愛とか恋とか、私にはわからないことだった。だけど、だけど。だけど。
――ああ。初めてわかったことがある。好きという気持ちはまるでとても深い海のよう。
恋と言うものは。気づけば落ちている物なのですね。
京都駅から、京都水族館までは、基本的には市バスを使うのが一般的だが、徒歩ルートというのも、また楽しいものだ。
京都駅をでて、塩小路通、堀川通、木津屋橋通を超えて、大きな交差点のある大宮通りを渡るという15分程度の散歩コースとしてもおすすめできる。古都京都の少し懐かしい町並みを抜け、近代的で印象的な建物が、かの京都水族館である。
そんな徒歩ルートを行くのは、成瀬翔、麻弓紡、如月彩吹、真屋千雪、ユスティーナ・オブ・グレイブル、成瀬 歩の6人である。
ことの発端はチケットを手にした紡が歩の前で翔をさそったことだ。
「お兄ちゃんだけでーとずるい!」
と、歩が騒ぎ「じゃあ、歩はユスちゃんを誘う!」ということで、収まったのだ。それを知った千雪はチャンス到来と、彩吹に『保護者』としての同伴を前提にバレンタインデートに誘ったという流れだ。
「あれ? 紡と翔がいるなら保護者役はいるんじゃ?」
きょとんと疑問を投げかける彩吹に千雪はあせあせとしながら「いや、翔くんたちも、デートだから邪魔しちゃ悪いかなって」と言い訳する。
「そうか……そうだね」
翔くんたち「も」と暗に自分たちもデートであると言い含んだつもりではあったが、それもどこふく風。彩吹には伝わらない。
「とりぷるでーとですわね!」
歩の手を少しだけ大きい手で握り、ユスティーナがにこにこと宣言した。
「で、でーとちがうし!」
遊びに来てるだけだっつーの、口の中でもごもごと呟く翔の隣で、蒼い羽の小鳥はチェシャ猫のような笑顔で「たのしくなぁい?」と聞けば「楽しいけどさ!」と翔が返す。
「やっぱり、でーとだよね?」
「やっぱりでーとですわ」
先頭を歩く、最年少組がこそこそとガールズトークに花を咲かせる。
「なんかいったか?」
「なーんにも「だよ」「ですわ♪」」
そんな面々を最後尾から、微笑ましく見つめる彩吹の手を意を決した千雪が握る。少々ムリをした笑顔で「寒いよね」と理由をつければ「そうだね」と彩吹もつられて笑う。
ふわりふわりと、夢見心地で水族館内を歩くは桂木日那乃。
ふいに足元を照らすプロジェクションマッピングが可愛らしくて、心が躍る。守護使役のマリンも、その動きまわるマッピングのライトを追いかけて嬉しそうに跳ね回る。まるでそれが、海を泳いでるようにみえて、日那乃もとなりを一緒に歩く。そうするとまるでマリンと一緒に海を泳いでるような気分になってくる。
すこし疲れた彼女は、海獣ゾーンにある休憩スペースのベンチに腰をかける。ガラス張りの休憩所の外は京都の街がライトに照らされとても美しくみえた。
「……プロジェクトマッピング、面白い、ね?」
縦横無尽にあちらこちらを照らすマッピングは随分と凝っていて、ずっとみていても飽きない。ハート型のライトを追いかけていた、マリンは日那乃の元に戻ると、嬉しそうに彼女の周りを遊泳するように浮かんでいる。
「マリン、も、綺麗、って、思う?」
こくこくと頷くマリンを抱き寄せ、水槽に向かわせれば、見えているのかそうでもないのか、アシカが興味深そうにこちらを気にしているようにも見える。
「……水槽の中の、お魚さん、から、は。どう、見えて、る? 面白い、か、な?」
言って、背中の硝子窓にもたれかかれば、冷えた硝子が外気の冷たさを伝え、ふるりと身体を震わせた日那乃は両手にもったマシュマロ入りのホットチョコに口をつける。
「マリンも、飲んで、みる?」
興味深そうなマリンは同じように口をつけると熱さに尻尾をフルフルとふって抗議する。
「……あ、熱いと、飲めない、ね」
日那乃はくすりと笑うとふーふーと冷ましはじめた。
●イルミネーションの囁き
「ごめん、まった?」
京都水族館前の梅小路公園にあるチンチン電車の車両をつかった総合案内所前で、そわそわとしている少女は掛けられた声に幸せそうな声で答える。沈みゆく夕日が賀茂たまきを紅く染めている。
「いえ、大丈夫です。でも、朝から、すごく、楽しみでした」
そんな可愛らしい彼女に、舞い上がりそうな工藤 奏空は極力落ち着くようにしながら「寒かったでしょ?」と手をつなぐ。
「僕も朝から楽しみだったよ」
気持ちは同じだ。なによりもそれが嬉しい。
それでは、3年目のバレンタインデートの始まりだ。
(それにしても、バレンタイン仕様の色々……なんかこう、むずがゆい)
大人ぶってはいても翔は13歳の少年である。ピンクのハートが跳ねるプロジェクションマッピングというものはその、なんというか、気恥ずかしいのである。なによりもピンク色の光が、紡の顔をよぎる度に、長いまつげが、ふっくりとした可愛い艶めいた唇が強調されるように見えて、落ち着かないのだ。綺麗だしすごいとは思う! 思うのだが、でも何かが違う。
「さっきのプロジェクションマッピング、ハートがいっぱいでTHEバレンタインって感じで可愛かったなぁ」
「そ、そうか? 俺あんまよくわかんねぇし」
「と、そうだ。今年も翔にはちゃあんと手作りチョコレート持ってくから、期待しないで待っててね」
「ふえっ!?」
相棒はそんな事を言ってくるのだ。チョコ自体は去年も貰った。その流れで今年もというのは、まあ普通の話だ。
だけれども、こんな空気のなかで言われるとドキッとしてしまうのが男の子なのである。そんな気持ちを知ってか知らずか、相棒はふらふらとプロジェクションマッピングに夢中だ。
「もうすぐショーだねえ」
「そ、そだな! なんか買うか?」
売店に向かい、翔はチュロスを買い、紡はホットチョコを買う。ホットチョコのなかにはイルカのマシュマロが浮かび、紡は嬉しそうに相棒に向かって「翔、みてみて。イルカだよ、可愛くない?」と見せる。
「あ、相棒はチュロスにしたんだね? いいなぁ、一口ちょーだいー」
「ん? いいけど」
隣の畑は青いもの。チュロスを齧る翔を見ていたら、自分も欲しくなった紡がねだれば、一口サイズに折って、紡の口にほおりこむ。
(ちょっとまて、いまの、もしかして間接キ……いやいや何考えてんだ、俺)
「はい、お礼。翔もココア、飲むでしょ?」
紡はなんの意識もせず、自分の飲んでいたホットチョコのカップを翔に向ける。
(いやいやいやいや!)
思春期の少年は一度意識したことが頭から離れずについ紡の唇を見つめてしまい、顔が熱くなるのを意識した。
「あー、うん、そーだなー! 俺もちょっとココア買ってくる!」
そういって逃げるように売店に向かった少年は耳まで紅く染まっている。
「あれ? ボクの一口飲む? って聞いたつもりだったんだけど……喉、乾いたのかな?」
●イルカと踊るアンビエントナイト
場内アナウンスが、イルカショーが近いことを告げれば、イルカスタジアムにショーの観客が集まり始める。
「こういった出し物をみるのは初めてです」
とはいいつつも時任千陽は場内マップや、出し物の時間などは事前に調べておくタイプである。スタジアムに出る前にあるホットチョコを如才なく買い、環大和に手渡す。
「流石に2月の風は寒いですね……風邪はひかないようにご注意を」
「ありがとう、千陽さん」
言って大和は、ホットチョコのなかのイルカを指して「まるで、小さなイルカショーがここでも行われているみたい」と微笑めば、千陽は感心した面持ちで「君の感性は素敵だな。俺ではそんなこと思い浮かびもしませんでした」と答える。
ショーの前のイルカたちは、ウォーミングアップのように水槽を泳ぎ回っていた。
「ずっと水の中にいるイルカは寒くないんでしょうか?」
なんとはなく呟いた千陽に大和は「気温はとても寒いけれど水の中だと少しは温度が温かいのかしら?それとも人間より寒さに強いのかもしれないわね」と答え、並んでその姿を眺める。吐く息とホットチョコの湯気が白く視界を歪ませた。
「聞いた話ですが、イルカの肌は水に濡れたナスとおなじような感じらしいですよ。随分とつるつるしているのだと、驚いたものです」
「イルカとナス。同じような肌触りなのね。イルカを直接触る機会はなかなかなくてもナスならいつでも触ることはできるわね。今度イルカと思ってナスを撫でてみるわ」
そんな他愛もないやり取りで、随分と優しい笑顔を見せるようになったことを千陽は自分で気づいているのだろうか?
そして、プロジェクションマッピングのライトが踊り始め、ライトアップされたイルカショーがはじまる。
●里山を歩く
柳燐花は迷っていた。バッグにはきちんとラッピングしたチョコが鎮座している。京の里山の棚田を照らすイルミネーションはバレンタイン模様。悩める乙女を後押しするように、ピンクのハートが飛び交っている。チョコを渡すには絶好のシチュエーションだというのにだ。
尻尾がゆっくり上がってははたりと垂れる。何度めかのところで、蘇我島恭司は助け舟をだすことを決める。男心的には言い出してもらいたいけれども、困っているのがわかっているのだ。見過ごすわけにはいかない。
「そう言えば、今日はバレンタインだよね。実は、燐ちゃんにチョコを持ってきてるんだ」
いわれて、燐花の尻尾がびくんと立ち上がる。相変わらずの素直な感情表現に、恭司は苦笑しつつも綺麗に包装された小包を燐花に手渡す。
「それなら…はい、燐ちゃん、ハッピーバレンタイン!」
先手を打たれる燐花。ああ、戦闘であれば、私のほうが早くできたのに。そんな益体もないことを言い訳しながらしどろもどろに「私も、いつお渡ししようかと思ってまして……」と消え入りそうになるような声で呟いて、周りをきょろきょろと見渡せば、折しも人気はない。
バッグから出した包を押し付けるように恭司に渡す。
「ありがとう、燐ちゃん! ……えっと、本来は好きな人に渡す物だからね……だから、僕からも可愛い恋人に渡したかったんだ。大好きだよ、燐ちゃん。これからもよろしくね?」
恋人として、交換する初めてのバレンタインチョコレート。だからこそ、言葉は伝えなくてはならない。
「家族じゃなくて、恋人さんとしての……?」
案の定だと、恭司は苦笑する。と同時にこの言葉では足りないのだ。自分の想いは。だから言い直す。
「……えっと、愛してる、と言い換えた方が良いかな?」
告白をされて、付き合いを始めた。劇的に変わるものだと思っていた日常はなにも変わらず。少しだけ不満……ではないけれど、あの告白はもしかすると冗談だったのではないかと思うことがあった。でも、それを確かめる勇気なんてなかった。もし、もし、冗談といわれたら私はどうしたらいいのだろう。ずっとそう思っていた。
続けて告げられるアイシテルの言葉はそんな不安を払拭しても余りある言葉だ。
恭司はきっとそんなやきもきする自分に気づいていたのだろう。なんて、なんて意地悪な人だ。
――、だけれども。こんな嬉しい言葉に私はなにが返せるのだろう。
「……誰よりも、近くにいて欲しいと思うのは、蘇我島さんに恋をしているからですか?」
不器用な自分が嫌になる。けれど、同時に必死で口をでた言葉はなによりもの真実で。
――気づいてしまった。私にとって特別なあの人だけが真実。他の人ではだめなのだと。
「そうだねぇ……少なくとも、燐ちゃんに恋してる僕は同じ気持ちだよ」
●イルカと踊るアンビエントナイト・2
「水の中をあれだけ自由に動けるのって どんな気持ちだろうね」
まっすぐにイルカを見つめる彩吹を見つめていた、千雪はその言葉ではっと我に帰る。
「そうだね、うん、気持ちいいのかな?」
ぼーっとしていた、千雪をからかうかのように、水槽のギリギリを泳いでいたイルカが大きく水しぶきをあげる。
「うわっ!?」
叫ぶ千雪を彩吹が反射的に庇う。
「レインコート、着ておくべきだったね」
うわー、失敗した失敗した! 彩吹さんが濡れないように気をつけてたのに、僕の方が庇われてどうすんのさー。内心慌てながら……いや、内心どころか、外面的にも慌てながら千雪があわあわとする。
「彩吹さん大丈夫!?」
「ん……? 大丈夫だよ。私、火行だし、多少濡れたってどうってことない。千雪が濡れなくてよかったよ」
濡れた前髪をかきあげ、雫を飛ばしながら彩吹。
なんだこのイケメン! いや、いや! 千雪は自分のストールで、彩吹を包み込み、最後に残る男の子の挟持を発揮する。
「大丈夫なのはわかった。 でも、ね? 簡単に濡れた姿を男にみせちゃ駄目だよ。彩吹さんは女の子なんだから、さ」
(あれ 気にしてる? 本当に平気なのに ……そうだ)
彩吹は千雪の手をとり、自分の熱い頬にあてる。冷たい手が気持ちいい。もともと体温は高い方なのだ。だから大丈夫と。
(ああああ、なんだよ!めちゃくちゃ可愛い! そんな笑顔向けられたら)
千雪の許容量がパンクするまで、あと数秒。
歩と並んで観客席の最前列をゲットした、ユスティーナたちはショーに対してもっとも意識が高い人物だ。
レインコートも完備。タオルだって準備済み。暖かいホットチョコで寒さ対策。そしておやつのチュロス。
「ココアにもイルカさんがいらっしゃいますわ。溶けてしまう前にお口に逃がしてあげないとですわね?」
「…イルカさんだあ! わあ、かわいい、飲んじゃうのもったいない~」
「溶けちゃったらもっともったいないですわよ?」
「うう……よーし」
ごくん、とイルカマシュマロを飲み込んだと同時にイルカの泳ぐ水しぶきが前髪を濡らす。
隣をみれば砂糖菓子の姫様もおなじように、前髪から雫が滴っている。なんだかそれがおかしくて二人は顔を見合わせて笑いだした。
「びしょ濡れもおそろいですのよ」
「おそろいだね」
バッグからタオルを出し歩の頭をわしゃわしゃと拭くユスティーナはまるで本当のお姉さんのよう。
(ユスちゃんがお姉ちゃんだったらいいのに。そうなったらあゆみもお姫様になれるのかな?)
音に合わせて、イルミネーションに煌めくイルカを見ながら千陽は呟く。
「ふむ、随分とあの司令官は優秀ですね。優秀な司令官がいると部下も動きやすくなります。なるほど、ハンドサインで最適化をはかっているんですね……すばらしい」
なんとも朴念仁な感想である。
「イルカとトレーナーが信頼しあってるからこそだと思うわ。だからこそ簡単なサインで伝わるのね」
大和もまた、そんな朴念仁な感想に当たり前のように受け答えする。二人の間にはまだロマンスは遠いのだろう。
「人間も動物も信頼しあう事が大切なのは同じなのかもしれないわね」
そうやってつぶやいた言葉は、彼女の願い。
「人も、動物も……そして、古妖もでしょうね」
それがわかるから、千陽はその願いに同意する。そして思う。自分にはない感性をもち、そして本質をいつも見抜くその洞察力のあり方を羨ましくもすごいと思う。
「やはり君はすごい人だ」と呟いた言葉は、京都の空に吸い込まれた。
幻想的に照らされるイルカを見ながら、座席でしっかりと手をつなぎ合っているたまきと奏空は、同じところで歓声をあげ、同じところで感動する。恋人たちにとって、寄り添い同じ時間を共有することは何よりも幸せなことだ。
ぴっ!っと鳴らされるホイッスルに合わせて、イルカ同士がちゅっとキスをする。その愛らしさに周囲から感嘆の声が溢れる。もちろんたまきもその一人だ。
それを見て奏空には対抗心が生まれた。
「たまきちゃん」
愛しい彼女の名を呼べば、はい、とこちらを見た瞬間に。
「……!?」
突然落とされたキスにたまきは不意をつかれて真っ赤になる。
ふわふわ、ふわふわと身体が揺れる。ずるい、奏空さん。こんなの、耐えれません。
そのまま、たまきは奏空によりかかり、唇を尖らせる。そんなたまきが愛おしくて肩をぎゅっと抱き寄せた。
「イルカに負けられないからね」
ちょっとだけ、彼女の笑顔を独り占めにしたイルカに嫉妬してしまったのだ。
ショーのあと飲んだホットチョコはなぜかいつもより甘い気がした。
幻想的にイルミネーションで照らされるイルカはとてもかわいくて、可愛いのはもちろんわかってるけど、いつもよりもっともっと可愛く見えて、菊坂 結鹿の心を強くつかむ。
隣でその姿をみる向日葵 御菓子は今何を思っているのか手に取るようにわかる。イルカのジャンプで歓声をあげる妹分はなんとも可愛い。その姿をこんなに近くでみれるのはお姉ちゃん特権なのです。そんな満足感で満たされた御菓子は上機嫌だ。
ライトに反射してキラキラ輝くイルカよりももっともっとキラキラした笑顔の結鹿の満足そうな顔につれてきてよかったと微笑む。
(あ、結鹿ちゃんに見とれていて、ショーが終わっちゃうわ!)
ショーが終わり、ホットチョコを飲みながら、結鹿は興奮した口調で感想を御菓子に伝えれば、そんな貴方がかわいくてずっとみていたと伝えられる。
ぼん、と音がして真っ赤になった結鹿は大切な姉に文句をいいつつも、こうやって自分のことを話すときの顔が年上だというのに可愛くてしかたないと思う。でもそれはわたしだけの内緒。そんなお姉ちゃんの笑顔はわたしの宝物で、独り占めしたいから。誰も知らなくてもいいのだ。
●HappyHappyValentine!
初めての恋なんて、ひとつたりとてわかることなんてない。愛とか恋とか、私にはわからないことだった。だけど、だけど。だけど。
――ああ。初めてわかったことがある。好きという気持ちはまるでとても深い海のよう。
恋と言うものは。気づけば落ちている物なのですね。

■あとがき■
お砂糖満載でお送りしました。せっかくなのではちみつもトッピングしてみました。
幸せそうなカップルを描写するのはとっても大好きです。大好物です。
素敵な恋に目覚めた子猫さんにMVPを。お幸せに。
幸せそうなカップルを描写するのはとっても大好きです。大好物です。
素敵な恋に目覚めた子猫さんにMVPを。お幸せに。
