<南瓜夜行2017>和製はろうぃん
●
「こ、困りますっ」
顔ばせに焦った色を乗せた巫女服姿の女性がいた。
彼女は小柄な体型をしているのだが、その数十倍ともある巨大な男女7体が、温泉の湯に浸かりながら宴を始めている。
『よいではないかぁよいではないかぁ』
『神無月に神有の湯とはこれはまた一興一興』
『飲み足りぬのじゃ、おぉーい酒がなくなったぞーい』
『下の国々では、はろういんなるものが、あるというではないかあ』
『やや、面妖な。西洋の催しとみましたぞ』
『つまり酒が飲めるということですわあ』
『よいではないかあ!』
わぁっはっはっはっはーと笑いながら、巨大な男女7体、否、男女の7柱はマイペースに雑談を始めて行く。
――と。
「そのように申されておりまして、お帰りになってくれないといいますか。
むしろ酒と宴で迎えないと、どういった祟りが起きるかわからないといいますか」
「おんやぁ、福神の横暴かぇ?」
「はい~」
「ファイヴに連絡かぇ?」
「はぁい~」
●
此処は、人狼の里。
野山の奥の、秘蔵の温泉宿と集落。
普通の人間にはたどり着けぬ、古妖の縄張り。
一昔前の木造建築に、大量の提灯がぶら下がる。
集落の出入口は鳥居が連なり、火の玉が来訪を歓迎している。夜になれば、一層幻想的な世界が広がるであろう。
普段は古妖が作り出す結界の力によって、外界から中へは入れないようになっているのだとか。しかし人狼は別だ、そして人狼が招く人も別だ。
何故なら、此処では人狼は『特別』であるからだ。その話はまあ、置いておき。
小鬼や低級の古妖の視線を感じる。
舌を出す提灯を持った巫女服の女性は、長い長い長い渡り廊下を歩いていき、たまに振り返っては覚者たちがついてくるのを待った。
「神と妖は紙一重ではありますが、困ったお客様がいらっしゃってまして。
普段よりも騒がしいかもしれませんが……、そのお客様が宴を盛大にしないと帰ってくれないと申してまして。信頼できる方々といえば、人狼を保護してくださっている、貴方たちかと思いまして」
ふと、巫女服の女性は立ち止まった。
『屋湯』と書かれた大きな門が開いていく。
「さ、どうぞ、ゆっくりなさってくださいな」
門が開き終われば、湯気が中から溢れていた。
空中には金魚が泳ぎ、筆絵の兎が追いかけっこ。屏風の蝶がどこかへ飛んでいきながら、障子に映る人影が宴会をしている。
廊下には、顔をお面で隠した着物の少年少女が走り回る。白色の温泉では、水面の上を美女が一人歩いており、人眼に気づくと湯に溶けるように消えていく。その影の岩場で風車が廻り、彼岸花が揺れる。
ハロウィンらしくなのか、顔を掘られたカボチャが提灯のようにぶら下がり、どこからどこかへ蝙蝠が飛んでいく。
壁の染みを見つめていると、目玉が飛び出し、目があった。
まるで、異界のような雰囲気が広がっている。
「人より、古妖のほうが多く住んでいるのですよ。
はー……忙しい忙しい。
何か御用件がございましたら、巫女服の人間にお尋ねくださいね?」
ファイヴが保護している人狼『シロ』は終始、楽しそうに尻尾を振っていた。
「こ、困りますっ」
顔ばせに焦った色を乗せた巫女服姿の女性がいた。
彼女は小柄な体型をしているのだが、その数十倍ともある巨大な男女7体が、温泉の湯に浸かりながら宴を始めている。
『よいではないかぁよいではないかぁ』
『神無月に神有の湯とはこれはまた一興一興』
『飲み足りぬのじゃ、おぉーい酒がなくなったぞーい』
『下の国々では、はろういんなるものが、あるというではないかあ』
『やや、面妖な。西洋の催しとみましたぞ』
『つまり酒が飲めるということですわあ』
『よいではないかあ!』
わぁっはっはっはっはーと笑いながら、巨大な男女7体、否、男女の7柱はマイペースに雑談を始めて行く。
――と。
「そのように申されておりまして、お帰りになってくれないといいますか。
むしろ酒と宴で迎えないと、どういった祟りが起きるかわからないといいますか」
「おんやぁ、福神の横暴かぇ?」
「はい~」
「ファイヴに連絡かぇ?」
「はぁい~」
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此処は、人狼の里。
野山の奥の、秘蔵の温泉宿と集落。
普通の人間にはたどり着けぬ、古妖の縄張り。
一昔前の木造建築に、大量の提灯がぶら下がる。
集落の出入口は鳥居が連なり、火の玉が来訪を歓迎している。夜になれば、一層幻想的な世界が広がるであろう。
普段は古妖が作り出す結界の力によって、外界から中へは入れないようになっているのだとか。しかし人狼は別だ、そして人狼が招く人も別だ。
何故なら、此処では人狼は『特別』であるからだ。その話はまあ、置いておき。
小鬼や低級の古妖の視線を感じる。
舌を出す提灯を持った巫女服の女性は、長い長い長い渡り廊下を歩いていき、たまに振り返っては覚者たちがついてくるのを待った。
「神と妖は紙一重ではありますが、困ったお客様がいらっしゃってまして。
普段よりも騒がしいかもしれませんが……、そのお客様が宴を盛大にしないと帰ってくれないと申してまして。信頼できる方々といえば、人狼を保護してくださっている、貴方たちかと思いまして」
ふと、巫女服の女性は立ち止まった。
『屋湯』と書かれた大きな門が開いていく。
「さ、どうぞ、ゆっくりなさってくださいな」
門が開き終われば、湯気が中から溢れていた。
空中には金魚が泳ぎ、筆絵の兎が追いかけっこ。屏風の蝶がどこかへ飛んでいきながら、障子に映る人影が宴会をしている。
廊下には、顔をお面で隠した着物の少年少女が走り回る。白色の温泉では、水面の上を美女が一人歩いており、人眼に気づくと湯に溶けるように消えていく。その影の岩場で風車が廻り、彼岸花が揺れる。
ハロウィンらしくなのか、顔を掘られたカボチャが提灯のようにぶら下がり、どこからどこかへ蝙蝠が飛んでいく。
壁の染みを見つめていると、目玉が飛び出し、目があった。
まるで、異界のような雰囲気が広がっている。
「人より、古妖のほうが多く住んでいるのですよ。
はー……忙しい忙しい。
何か御用件がございましたら、巫女服の人間にお尋ねくださいね?」
ファイヴが保護している人狼『シロ』は終始、楽しそうに尻尾を振っていた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.宴を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●状況
はろうぃんをする古妖が現れた
●場所:御此処(詳しくは拙作『<汝人狼也?>彼岸に三日月』のOPと詳細にあります)
月明りがよく当たる、巨大温泉宿みたいな施設
宿の周囲は山ですが、迷っても歩いていると何故か宿に戻るのだそうな。どれだけ走っても反対側から戻ってくるのだとか
普段は人避けの結界がはられているため、人狼が一緒にいるか、それを破る類のものが無ければ入れない場所
今回はそれを破って入ってきた古妖に早く帰ってもらうために、楽しい雰囲気を出して遊んでねという依頼が宿から来た話
ハロウィンっぽく飾り付けされた山道を歩くもよし
紅葉を見て酒を飲むのもよし
人狼の散歩をするのもよし
宿を探検するのもよし
温泉に入るもよし
お菓子のパーティ会場へいくのもよし
古妖にちょっかいかけるのもよし
あると思うものはある、飯も出てくる、部屋もいっぱいある
なお、障子を閉めると影が宴会してたり話をしているけど、障子を開けると誰もいないとかそういう不思議なことはよく起こる
福神もいる
ざっくりした解説ですが、楽しめば良いということになります
雰囲気で
●古妖
低級のものが多く住んでます
色々いすぎて書ききれないのですが、あまり人間には近づいてこないかもです。
●人狼
・大神シロ
ファイヴ、五麟に住み着いている人狼
●巫女さんたち
・基本的に人間か、怪の因子の覚者
近隣の町より人狼のために人身御供の女たちです
とは言え、命を捧げるようなものでは無く、巫女が進んで人狼のお世話をするために、自ら望んでなっているものたちが多いようです
●樹神枢
・呼ばれれば出てきます
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
ご縁がありましたら宜しくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
23/∞
23/∞
公開日
2017年11月16日
2017年11月16日
■メイン参加者 23人■

●
「……あれ」
柳 燐花は目覚めたようにハッとした。普通の廊下を歩いて移動していたと思ったら、はいった覚えもない部屋にいる。
手前に蘇我島 恭司を見かけてそちらへ歩き出した燐花だが、瞬きした瞬間に手前にいた恭司は後ろにいるというもうなんだか解らない現象に、目を擦った。
「……いやぁ、壁で行き止まりかと思ったら急に壁が歩き出したのは驚いたよ」
「壁が動くとか、飾りが話しかけてきたりしてびっくりしますね」
古妖の悪戯か、それとも屋敷そのものの悪さか。
燐花と恭司、突き放されては堪らないと、燐花は恭司の袖を掴んで一歩後ろを歩いていく。
天然なお化け屋敷の中であるが、顔をお面で隠した和服の子供が駆けていったり、尻尾の先が裂けた猫がきままに歩いて行ったり。
と思っていたら、外に出てしまっていた。
秋風が吹き、しかし月明かりのスポットライトが二人を照らす。
「……えっと、巫女さんを探して、パーティー会場へ案内して頂きましょうか」
「そうだねぇ……巫女服の人が見つかるまでは、こうやって歩くのも良いかもしれないねぇ」
戻ってみれば、再び廊下。でも飾りが前のと違うので別の場所だろう。曲がり角に行くたびに、燐花は警戒して先を歩いていく。
恭司はその後ろ姿にくすくすと微笑んで。
「燐ちゃん、あんまりきょろきょろしてると更に迷っちゃうよ?」
あっ、と声を出した燐花は再び恭司の手前に戻って、彼の袖を小さく引っ張った。不安げな瞳が恭司を見つめ、いつも凛々しい彼女の弱々しい表情にぐっと唾を飲み込む恭司。
「いま、私達って迷子なんです?」
「目的地がわからず彷徨ってる、という部分を鑑みれば……ね?」
「逸れちゃうほど、遠くには行かないですよ?」
ふと燐花は恭司にこぼした一言。恭司は反応したように燐花の手を握った。
「できればこうやって歩きたいなって思ったんだけれど……離した方が良かったかな?」
「離すの、や。です」
拗ねたような、しかし人間の耳があれば燐花の耳は真っ赤に色付いていた事だろう。
「……うん、それじゃあ、一緒に会場を探そうか」
恭司の笑顔を見た燐花の鼓動が早くなっていく。
工藤・奏空は頭からすっぽり白い布を被って、もぞもぞ。
腕だけを出して、顔の部分に目を書きたいのだがしかし。鏡を見ようとも、なかなか上手く書くことができない。
「たまきちゃん、ここ、顔かいてもらってもいい?」
「はい、いいですよ」
賀茂 たまきは奏空の白い布の上に、マジックで顔を書いていく。少しだけうーんと考えたたまきだが、不器用な手つきで引いた線は如何に。
(はわわ……少しぐにゃぐにゃのお顔に、なってしまいました)
苦笑い状態のたまきであったのだが、奏空はそれでも許してくれるだろう。
代わりに奏空は、たまきのお化けの顔をかいてから、リボンもつけて。たまきの心の中では、奏空が意外と絵の才能があることに、自分の拙さを嘆いたのだが。
「わぁ……! 奏空さん、リボンを付けてくださるのですね! とっても、嬉しいです」
彼のひとつひとつの行動が、たまきの心を潤していく。リボンの位置を整えたたまきは、代わりに奏空にネクタイをつけた。奏空はそのネクタイを誇ったように揺らしながら、えっへんと胸をはった。
そんなこんなで、たまきの手を取った奏空。もう片方の手にはバスケットを持って、これはお菓子を入れる用だ。
長い廊下をスキップしながら、巡り合う巫女や古妖たちに、トリックオアトリート。巫女服のお姉さま方も、突如現れた愛らしいお化けにくすくすと笑顔を送ってくれた。
たまきは自分が持ってきたお菓子を古妖たちに配り歩いて、お菓子を貰っては、渡し。
「ふう、疲れちゃった。お腹もすいた!」
「では。一緒にお菓子を、食べませんか?」
「うん!」
奏空はめくったお化けの下から、たまきが作ったお菓子と、貰ったお菓子、両方を広げて食べはじめた。
椿屋 ツバメはシロをお揃いの着流しを着ていた。まるで親子のような、ツーショットだ。
「ふふっ、これでも裁縫は得意な方なんだ。意外だったか?」
「うんちょっとだけ」
シロはツバメの前で一度ターンをして、似合ってるかなと顔を傾けた。似合っているぞとツバメは頷く。やはり親子のようなツーショットである。
『因みにこれはなに?』とシロは別の荷物を指さした。
「後は、この大きな荷物の事か? あぁ、これは館の入り口に飾ろうと思ってくり抜いて来たジャック・オ・ランタンだ」
「はろうぃんでよくあるかぼちゃだね」
「そうだ。これは食べられないから気を付けないとな」
なお、ランタンのなかは火ではなく簡易ライトである。安全であるし、ほんのりと色んな淡い色が灯され、幻想的な雰囲気を出す。
昼でこんなに綺麗なのだから、夜はもっと現実離れの景色が見れるのだろう。このカボチャは食べられないのが難点だが、本来カボチャはこのオレンジのカボチャのことをいうとかなんとか。
「後で一緒に見よう」
ツバキのお誘いに、シロは快く頭を縦にふった。
それからはツバキはシロと共に宿の中を散策していく。古妖の気配はなんとなく感じてはいるものの、しかし視界のなかは二人だけである。
お化け屋敷か忍者屋敷のような場所だが、二人の時間はゆったり流れていった。
あっちでバタバタ、こっちでばたばた、異様な雰囲気の中で騒がしい音は目立っていた。
菊坂 結鹿は温泉やハロウィンを楽しみに来ていたのだが、彼女の中の何かが許せなかったようで、立ち上がる。
「へ? お手伝いしてくれるんですか?」
一人の巫女が、目をぱちくりさせながら結鹿をじぃっと見つめている。
「その、悪いですし、お客様としておもてなししたいと思ってますよ」
「でも! 苦楽はみんなで分かちあわないと! って思って」
「そうですか? では……」
という事があってか、結鹿と一緒に来ていた向日葵 御菓子と樹神 枢は温泉宿のお手伝いをする事になったのだ。
最初は簡単な仕事を頼まれていたのだが、段々と忙しさは積み重なっていく。
借りた浴衣を着込んだ結鹿は、妖怪が跋扈する廊下をあっちにいったりこっちにいったりで、ふと我に返った枢が彼女を呼び止めた。
「忙しいのだ、大丈夫か? 結鹿。ボクの手もあいているから、手伝うぞ」
「ありがとう枢ちゃん! えっと、一緒に来てもらってもいい?」
「うむ」
振り返った結鹿のキラキラした笑顔に、枢は圧倒されるような気持ちになっていた。
そんな二人を近いような遠いような場所から見つめていた御菓子は、薄く笑いながら応援していたのだ。
「さ、私もひと仕事しないとね」
取り出した御菓子のストラディバリウス。珍しい楽器だと神様方は口を揃えていうのだが、御菓子にとっては手に馴染んだものだ。
奏でる曲に合わせ、飛び込んできた結鹿は合わせて歌う。小さなショウは、盛大な盛り上がりの渦を作り上げていた。
その後。
「いやー大盛況だったね!」
かぽーん、と誰もいない夜中の温泉に浸かっている御菓子と結鹿と枢。
結鹿と枢はすでに眠そうな表情をしていて、御菓子はそれを見て二人を優しく包み込むように気遣っていた。
燃えるような紅葉の下、田場 義高は御猪口を傾ける。
身体は絹のような白い温泉に浸かり、冷たいが澄んだ空気のなかで月を見上げた。
静かな雰囲気を醸し出してはいるが、横目に見れば宴会は始まっているし、少し油断すれば湯の上をなんらかの妖怪が駆けていく。
義高は宴会中の神々のなかに、いつの間にか混ざっていた。
『のみねえのみねえ』
「お、悪いな」
『いい旦那が一人酒とはいかんわねぇ、お酌しますわあ』
「おお、悪いな」
天女のような美女が、狐のような笑みと共に義高へと酒を注ぐ。ここはどこかの極楽か。しかしいつもの地上であることはわかりきっていたのだが。
周囲の雰囲気も大衆居酒屋を思わせる賑やかさに、神も妖も紙一重というか、人とあまり変わらぬ風景に心を落ち着かせる事さえできる。
だが。
「おい、お前さんら。ちょっと周りの空気も読んでくれや。こいつぁ酔っ払いだけでなく、酒も悪く言われちまうぜ。ここはひとつ同じ酒好きの誼として、温泉の占拠をやめて、部屋でゆっくり楽しもうじゃねぇか。そしたら俺の秘蔵の酒を提供してもいいぜ」
『ふむ、少しやりすぎたかのう』
『よいではないかあよいではないかあ』
焔陰 凛はとことこ歩いていくシロを呼び止めた。
「よーす、シロ。福神が来てるんやて?」
くるっと後ろをみたシロ。
「みたいです。いつもより、少しだけ騒がしい気がします」
シロが歩いていく隣を歩きながら、凛はシロに案内と求めた。行く先は、その福の神がいる場所だ。
凛としては、その福の神とやらに用があるらしい。
「あれですね」
「ふぅん」
凛はそういうと、楽器を取り出して。
「神さん達、盛り上がってるかー!?」
響く声を出しながら、ひとつ、音色を響かせた。これには福の神たちも驚いて、見たこともない楽器だ、だとか、何か面白い芸でも見せてくれるのか? とか。多様は反応が凛を包み込んでいく。
「兎追いしかのYAMA~ 小鮒釣りしかのKAWA~ HEY!」
ロック調にアレンジされた懐かしの歌を奏で始め、シロも手拍子をし始めた。なにやら聞いた事がある歌のようだが、凛なりのアレンジが加わっている。最早これは、凛のオリジナルの曲よ言った方がらしい気もするものだ。
響くロックは、長いような短いような時間のなかで終わりを迎えた。寂しいくらいに静けさを取り戻したとき、凛は言った。
「歌い終わったら福神に、もし気に入ったようならこの子に福をお裾分けしたってや」
そういいながら凛はシロの頭を撫でた。
赤色で舌を出す提灯の中に、黄色のかぼちゃのジャックオーランタンがたまにいたり。
西洋ごった煮だが、どこか和風の風景が強い場所で、大辻・想良は座っていた。膝の上に守護使役の天を乗せながら、ゆったりとした手つきでそれをなでている。
いつもはもっと戦火の強い場所ばかりだったからか、こういった落ち着きのある雰囲気は久々だと漏らしながら、遠くの喧騒を眺めていた。
すると、ふと。真っ白な狼が想良の隣に来ては、身体を擦りつけてきた。
「……最近、まんまるは、……大丈夫?」
シロは顔を斜めに傾けながら、天上を見上げた。長らく続く狼との物語も、そろそろ終止符を打たねばならない頃か。
「……シロさん、今も、何があってもどんな理由でも人間の味方をするって、思ってる? ……そうなら、代わりにはならないかもだけど、わたしの残りの魂、シロさんにあげるね。……友達だから」
シロの柔らかい身体を抱きしめた想良。でもきっとシロは、友人の消滅は望んではいないと想うのであった。
山道の途中、腰を下せる場所をみつけ、座り込んだ真屋・千雪。手元が寂しいと取り出したものを置いて。鍵盤をひとつ弾いた。暗闇に、音が落ちる。
千雪が鳴らすのは、小さなピアノだ。
「よし」
再び鍵盤を鳴らす千雪の流れる五指が、楽しそうに踊れば一曲の音楽が完成する。ハロウィンナイトに因んだ曲を奏でながら、付近の影から小さな影が近寄ってくるのが、なんとなく理解できた。
瞳を閉じて、気配を感じながら、音によって自身を表現する。
――……気が付けば沢山の古妖に囲まれていた。
満足したら白いもふもふや、ひとつめの少年少女。どの子たちも不思議そうにこちらを眺めていた。
警戒されているのか、一定間隔の距離は置かれているが、嫌われている様子では無いみたいだ。
「ほら」
ましろと呼ばれた守護使役に、カボチャ味のクッキーを差し出した千雪。
「こっちにおいでよ」
もし近づいてきて、ちゃんと聞いてくれたら。
ポケットいっぱいに詰めてきたカボチャのマシュマロをプレゼント。くすくす笑う千雪は言う。
「可愛いんだよ、南瓜マシュマロ。美味しいし」
太鼓の音が鳴り響く。
鬼や狐も逃げ帰ったその場で、鹿ノ島・遥は仁王立ちしていた。彼のバックでは『ハロウィン大相撲温泉場所』と書かれたものが、立てかけられている。
これも何度かやっている集まり。今日も賑やかに始まるわけだが。
「という訳でいつものやつなんやけど、なんでやねん!」
切裂 ジャックは盛大にツッコミを入れた。
「奉納相撲?」
香月 凜音は遥の背にある文字をそのまま読んだ。
「よくぞ聞いてくれた」
その答えは言わずもがな。
元来の相撲とは、神への捧げ物であり、神事であった。
温泉に浸かっておられる福の神の前で相撲を行なうことは、まこと理に適ったものであろう。(プレイング原文まま)
「いや! そうだけど、俺の思ってた温泉ってもっとキャッキャウフフやねん!」
「よせ、いうな!!」
遥はジャックに頭からどついて、ジャックは温泉の上を三回くらい跳ねてから気絶。凜音がジャックの心臓マッサージを始める。
「というわけで、奉納相撲に参りましたー!」
自分で太鼓を叩き場を盛り上げる遥だが、意外と周囲の神々は盛り上がっている。
相手は誰かと思えば、明智 珠輝が木々の間から顔を出した。ここはどこだと周囲を見回している彼だ、どうやら迷ってしまっているらしい。
つまりあれだ、野生の珠輝が現れた。
遥を見るや、珠輝は第六感で現状を全て悟った顔をした。すぐに肩のあたりの服を掴んだ珠輝は、そのまま腕を引くと服がどこかへ消えて全裸(正確には着てる)になる。
「神に捧げる相撲、ですか。これは素敵な催しですね、偶然ここにまわしがあります、さぁ戦いましょう……!」
「偶然あってたまるか」
ツッコミ役のジャックが死亡している為、代わりに凜音が言った。
「ふふ、賑やかなほうが好きなのはいいことですが、あんまりおいたは駄目ですね」
あらあらうふふと十夜八重が天使の微笑。笑顔の奥で闇を飼い慣らしていそうな彼女だが、用意したものは救急箱だ。現代のナイチンゲールは常にバーサーカーである。
「えっ明智さん相撲とるの!!? しかも鹿ノ島くんと!!? そうね、じゃあ両方応援しないとね」
紅潮する頬を両手で抑えて、悶える鳴神零。その隣で弓削 山吹はスナック菓子を口に放り込んで、あと一歩で死にそうな目をしている。
「山吹ちゃん! 相撲だよ相撲!」
「いやなぜ相撲」
零のきらきらした瞳が濃くなれば濃くなるほど、山吹の疑問符は数を増やしていく。
「鹿ノ島のお兄さん、頑張ってくださいね!」
ここぞと天使のようなキラキラを振りまく片桐・美久は、彼に賭けたようだ。その結果がどうなるかは未だ誰も知らないが、この場の誰もが美久には酷いことはできないってなんとなく感じるんだ。
斎 義弘曰く、祭りは雰囲気であること。
そういえばこの温泉宿、何が無いといえば相撲を取る場所が無いとのこと。そりゃそうだ、相撲とりにくるとはSTさえ思わなかった。
という訳で、義弘は指をパチンと鳴らした。黒子がどこからともなく出てきては、建築関係トントントーンと相撲場を作った。
「あら、賑やかね。奉納相撲かしら?」
この場に一番来てはいけない大和撫子、環大和が、古妖に囲まれながら少し遠くで見つめている。彼女はサキュバスの姿で優雅に緑茶を飲みながら、お菓子配っている。
そのお菓子を貪る犬の子や、犬や猫のように戯れる狐子たちはいまいち相撲には興味がないようで、大和の手から渡されるお菓子のほうが夢中のようだ。
そしてその時はきた。
いつの間にかにマワシ姿になっていた遥と珠輝。
ひが~し~ かのしま~やま~
に~し~ あけち~さと~
「はっけよーーい オラァァ!!!」
結果はCMの後で!
檜山 樹香は足先を湯船の表面につけてからゆっくりと身体を沈めていく。
温泉はのんびりと。少しだけぬるりとしたお湯なのは、きっと何か効能があるのだろう。泥風呂とか色々あるよね。
「あ、気持ちいい。来て良かったのじゃ。のう?」
樹香は流れるような目線で隣の福伸へと声をかけた。緊張したのか、福神は一体、固まりながら頭をこくこくと縦に振る。彼女はでかでかと掲げられたゴリサーイベントの看板に引き寄せられたようであった。
そして樹香の目線の先では、八重が福の神にお酌して回っている。
『お嬢さんかわいいねえ』
「うふふ。でもおさわりは駄目ですよ」
『よいではないかあ、よいではないかあ』
「駄目、ですよ」
八重が福神の手の甲をつねりながらも、笑顔だ。どこか色気の魅せる彼女に福の神はでれでれしっぱしであったのだ。
「まあ酒のアテにはならないかもしれないが、クッキーを焼いて来たんだ、ひとつどうか?」
義弘はそんな八重の隣で福の神にお菓子を配る。
『ほほう、せいようのかしじゃのう』
『ふふ、いただきましょうかみなさま』
『よいのうようのう』
これまた福の神たちは興味を示してくれていたようで、義弘のクッキーは飛ぶように売れていく。これならもっと多く作っても良かったかもしれないと、内心独り言ちていた。
「あっ、天使!!」
目を見開いて目を覚ましたジャックが、ダッシュで大和のところに滑り込み、自然な流れで隣に座った。
「ごめんな今日もうるさくて」
柔らかな笑みを零す大和は、膝に乗っていた狐の子供を優しく撫でた。
「あ! ハロウィンやからトリトリやで、でもお菓子も欲しいけどいたずらもしたい! 血をください! がおー!」
狐か狼の姿のジャックは爪を見せながら吼えた。
「あら? ジャックさん。噛みつくのは構わないけれども。今夜、夢の中で倍返しさせてもらうわよ?」
「俺なにされちゃうの! じゃあいっただっきまー……」
「小僧!! まーた女の子にちょっかいだして!!」
「これ、それ以上はいけないのじゃ」
刹那、零と樹香の投げた風呂桶がすっこーんとジャックの頭に直撃した。
「おねえさんも、ひとつどうですか!」
そこへ美久が大和に手作りのクッキーを差し出した。
「あら、いただくわ」
「切裂のお兄さんにもあげたいのですが」
ふと美久の瞳が横にスライドしたら、ジャックが犬神家みたいなあれになっていた。零と樹香に叩きのめされたようだ。
ととと、と歩いて来たシロが凜音の足にしがみついた。臭いを嗅ぎつけて、ここまでやってきたのだろう。凜音は彼の頭を撫でてから。
「シロ。元気にしてたか? 肉系の弁当持ってきたけど、喰うか?」
「おにく、たべる」
凜音の隣に座ったシロは、凜音からお弁当を貰ってからもぐもぐし始める。ふと、シロは気になった光景があった。
「どうして、にんげんがふたり、裸で抱き合っているのでしょう」
「その認識には大いに誤差があるな」
凜音はシロの目を両手で隠した。
相撲はというと、接戦となっていた。
「若くてピチピチな遥さんと肌のぶつかり合いですね、ふふ……!」
「そっちも。意外とびくともしない……強敵ッ!!」
両人、マワシを掴んだまま動かないのだが、二人にしか分からない力の攻防が始まっているのだ。
「がんばってくださーい! お兄さんがたー!」
美久はお菓子を配りながら、相撲の情況を逐一把握していた。遥に賭けているのだ、どうしてくれよう負けてしまったら。
ひとつ力を弱めればそこから一気に体勢を崩され、倒されてしまうだろう。ファイヴでも力には自信のある遥であるのだが、しかし、珠輝もここぞと謎の力が加わって興奮冷めやらぬ。
「ぁぁ、凄い……もっと欲しいです」
「これで、どうだあああ!!」
遥は珠輝の身体を持ち上げ土俵の外に出さんとする、だが珠輝は遥の耳元で囁き、それに遥が反応し力が弱まり、押し返される。
今度は珠輝の攻撃か。遥の身体を横に倒そうとしあわよくばそこに乗っかってマウントを取るという手前で。
「ぁあああ!」
「つ、強いです!! そこは!」
横に引こうとした力を逆手にとられ、珠輝が土俵にごろんとしてしまった。
終わってしまえば呆気ないものだ。そうすると義弘は再び指を鳴らすと黒子たちがあらわれ土俵が撤去されていく。
「あの黒子は一体」
と義弘は思っていただろうが、土俵が無いから急遽用意しにきた人たちだけと思ってくれればそれでいい。
場外の古妖たちは、一斉にわあ!と叫んで盛り上がっている。
「ふふふ、独特の雰囲気よね。楽しんで貰えたかしら?」
大和は賑わう妖怪たちをみながら、彼らが嬉しがっていることに嬉しくさえ思う。
日本では敗者がいることにより勝者がいるというのを重んじるということで、遥が土俵内にて表立って喜びを見せることはなかったが。
その清々しくも晴れた遥の表情は『ほんとは……女の子と……』という想いで哀愁漂っていた。
「大丈夫ですか?」
「はい」
勝ち誇ったような珠輝の嬉しそうな笑み。そこに八重は、辛めに煮た南瓜の煮つけを箸でつまんで彼の口のなかにいれた。
「古妖の皆様も楽しんだみたいですよ」
「それは、よかったです……」
「明智さんかっこよかったよ!」
零も楽しそうに跳ねていた。
「お兄さん! トリックオアトリートですよ!」
「お、今お菓子……飴ならあるで!」
美久はジャックからパイン的な雨を受け取りながら、そっと耳打ちされた。
「罰ゲームやなあ、みく」
「ひえ、何されるんですかあ」
義弘がジャックの後頭部をぽこんと叩いた。
「こういう場所で酒でものめりゃ楽しいんだろうな。後数年が待ち遠しいぜ」
シロの隣で笑った凜音はそんな事を言いながら、温泉でのイベントは幕を閉じた。
東雲 梛はシロの頭をくしゃりと撫でる。優しい手に、シロも目を瞑って堪能している。
「久しぶり。一緒に散歩しようか」
こくと頷いたシロと、長い廊下や幻想的な世界を歩いていく。急に動き出した提灯や、一つ目の蝙蝠が飛んでいく。どこか、ハロウィンの風景にいつもの宿が混ざっていた。
そんな時、声が響く。
「あ、あの仕事中で……」
巫女の声だろうか。
『いいじゃないかいいじゃないか』
シロは温泉のほうを見ていたが、その時には梛は既に行動へ移っていた。素早く困っている巫女と、古妖の間に梛の身体が挟まる。
「祝いの席はみんなが楽しくかな。福神さん達もその方が良いよね?」
「あ、お客様……っ」
少しだけ警戒心をつけた瞳で、しかしいつもの優しい目線を忘れず。梛の瞳が福の神と交差したとき。
『はははこれはいかんいかん』
『だめだのうだめだのう、はめをはずしすぎであるのう』
どうやら福の神も観念したように、ぞろぞろと戻って行った
「あ、あの、ありがとうございます」
「いえ。このお祭りはいつまで?」
「本日が終わるまで、です」
「じゃあそれまでは、お祭りだね」
シロが梛のもとへ駆け寄って、手を握った。
「梛、だいじょうぶ? お祭り、いく?」
「うん、大丈夫。わかってくれる神様みたいだし。そうだね」
表情の変化は少ないが、梛はそれなりに楽し気。シロにもこれが美味しいとご飯のおすそ分けなど、一人と一匹は夜明けまで祭りを楽しんでいた。
そんなこんなで色々あったが、福の神は無事帰ってくれたそうな。
大量のお土産と一緒に、ファイヴの皆々様は無事にお帰りになったとか。
「……あれ」
柳 燐花は目覚めたようにハッとした。普通の廊下を歩いて移動していたと思ったら、はいった覚えもない部屋にいる。
手前に蘇我島 恭司を見かけてそちらへ歩き出した燐花だが、瞬きした瞬間に手前にいた恭司は後ろにいるというもうなんだか解らない現象に、目を擦った。
「……いやぁ、壁で行き止まりかと思ったら急に壁が歩き出したのは驚いたよ」
「壁が動くとか、飾りが話しかけてきたりしてびっくりしますね」
古妖の悪戯か、それとも屋敷そのものの悪さか。
燐花と恭司、突き放されては堪らないと、燐花は恭司の袖を掴んで一歩後ろを歩いていく。
天然なお化け屋敷の中であるが、顔をお面で隠した和服の子供が駆けていったり、尻尾の先が裂けた猫がきままに歩いて行ったり。
と思っていたら、外に出てしまっていた。
秋風が吹き、しかし月明かりのスポットライトが二人を照らす。
「……えっと、巫女さんを探して、パーティー会場へ案内して頂きましょうか」
「そうだねぇ……巫女服の人が見つかるまでは、こうやって歩くのも良いかもしれないねぇ」
戻ってみれば、再び廊下。でも飾りが前のと違うので別の場所だろう。曲がり角に行くたびに、燐花は警戒して先を歩いていく。
恭司はその後ろ姿にくすくすと微笑んで。
「燐ちゃん、あんまりきょろきょろしてると更に迷っちゃうよ?」
あっ、と声を出した燐花は再び恭司の手前に戻って、彼の袖を小さく引っ張った。不安げな瞳が恭司を見つめ、いつも凛々しい彼女の弱々しい表情にぐっと唾を飲み込む恭司。
「いま、私達って迷子なんです?」
「目的地がわからず彷徨ってる、という部分を鑑みれば……ね?」
「逸れちゃうほど、遠くには行かないですよ?」
ふと燐花は恭司にこぼした一言。恭司は反応したように燐花の手を握った。
「できればこうやって歩きたいなって思ったんだけれど……離した方が良かったかな?」
「離すの、や。です」
拗ねたような、しかし人間の耳があれば燐花の耳は真っ赤に色付いていた事だろう。
「……うん、それじゃあ、一緒に会場を探そうか」
恭司の笑顔を見た燐花の鼓動が早くなっていく。
工藤・奏空は頭からすっぽり白い布を被って、もぞもぞ。
腕だけを出して、顔の部分に目を書きたいのだがしかし。鏡を見ようとも、なかなか上手く書くことができない。
「たまきちゃん、ここ、顔かいてもらってもいい?」
「はい、いいですよ」
賀茂 たまきは奏空の白い布の上に、マジックで顔を書いていく。少しだけうーんと考えたたまきだが、不器用な手つきで引いた線は如何に。
(はわわ……少しぐにゃぐにゃのお顔に、なってしまいました)
苦笑い状態のたまきであったのだが、奏空はそれでも許してくれるだろう。
代わりに奏空は、たまきのお化けの顔をかいてから、リボンもつけて。たまきの心の中では、奏空が意外と絵の才能があることに、自分の拙さを嘆いたのだが。
「わぁ……! 奏空さん、リボンを付けてくださるのですね! とっても、嬉しいです」
彼のひとつひとつの行動が、たまきの心を潤していく。リボンの位置を整えたたまきは、代わりに奏空にネクタイをつけた。奏空はそのネクタイを誇ったように揺らしながら、えっへんと胸をはった。
そんなこんなで、たまきの手を取った奏空。もう片方の手にはバスケットを持って、これはお菓子を入れる用だ。
長い廊下をスキップしながら、巡り合う巫女や古妖たちに、トリックオアトリート。巫女服のお姉さま方も、突如現れた愛らしいお化けにくすくすと笑顔を送ってくれた。
たまきは自分が持ってきたお菓子を古妖たちに配り歩いて、お菓子を貰っては、渡し。
「ふう、疲れちゃった。お腹もすいた!」
「では。一緒にお菓子を、食べませんか?」
「うん!」
奏空はめくったお化けの下から、たまきが作ったお菓子と、貰ったお菓子、両方を広げて食べはじめた。
椿屋 ツバメはシロをお揃いの着流しを着ていた。まるで親子のような、ツーショットだ。
「ふふっ、これでも裁縫は得意な方なんだ。意外だったか?」
「うんちょっとだけ」
シロはツバメの前で一度ターンをして、似合ってるかなと顔を傾けた。似合っているぞとツバメは頷く。やはり親子のようなツーショットである。
『因みにこれはなに?』とシロは別の荷物を指さした。
「後は、この大きな荷物の事か? あぁ、これは館の入り口に飾ろうと思ってくり抜いて来たジャック・オ・ランタンだ」
「はろうぃんでよくあるかぼちゃだね」
「そうだ。これは食べられないから気を付けないとな」
なお、ランタンのなかは火ではなく簡易ライトである。安全であるし、ほんのりと色んな淡い色が灯され、幻想的な雰囲気を出す。
昼でこんなに綺麗なのだから、夜はもっと現実離れの景色が見れるのだろう。このカボチャは食べられないのが難点だが、本来カボチャはこのオレンジのカボチャのことをいうとかなんとか。
「後で一緒に見よう」
ツバキのお誘いに、シロは快く頭を縦にふった。
それからはツバキはシロと共に宿の中を散策していく。古妖の気配はなんとなく感じてはいるものの、しかし視界のなかは二人だけである。
お化け屋敷か忍者屋敷のような場所だが、二人の時間はゆったり流れていった。
あっちでバタバタ、こっちでばたばた、異様な雰囲気の中で騒がしい音は目立っていた。
菊坂 結鹿は温泉やハロウィンを楽しみに来ていたのだが、彼女の中の何かが許せなかったようで、立ち上がる。
「へ? お手伝いしてくれるんですか?」
一人の巫女が、目をぱちくりさせながら結鹿をじぃっと見つめている。
「その、悪いですし、お客様としておもてなししたいと思ってますよ」
「でも! 苦楽はみんなで分かちあわないと! って思って」
「そうですか? では……」
という事があってか、結鹿と一緒に来ていた向日葵 御菓子と樹神 枢は温泉宿のお手伝いをする事になったのだ。
最初は簡単な仕事を頼まれていたのだが、段々と忙しさは積み重なっていく。
借りた浴衣を着込んだ結鹿は、妖怪が跋扈する廊下をあっちにいったりこっちにいったりで、ふと我に返った枢が彼女を呼び止めた。
「忙しいのだ、大丈夫か? 結鹿。ボクの手もあいているから、手伝うぞ」
「ありがとう枢ちゃん! えっと、一緒に来てもらってもいい?」
「うむ」
振り返った結鹿のキラキラした笑顔に、枢は圧倒されるような気持ちになっていた。
そんな二人を近いような遠いような場所から見つめていた御菓子は、薄く笑いながら応援していたのだ。
「さ、私もひと仕事しないとね」
取り出した御菓子のストラディバリウス。珍しい楽器だと神様方は口を揃えていうのだが、御菓子にとっては手に馴染んだものだ。
奏でる曲に合わせ、飛び込んできた結鹿は合わせて歌う。小さなショウは、盛大な盛り上がりの渦を作り上げていた。
その後。
「いやー大盛況だったね!」
かぽーん、と誰もいない夜中の温泉に浸かっている御菓子と結鹿と枢。
結鹿と枢はすでに眠そうな表情をしていて、御菓子はそれを見て二人を優しく包み込むように気遣っていた。
燃えるような紅葉の下、田場 義高は御猪口を傾ける。
身体は絹のような白い温泉に浸かり、冷たいが澄んだ空気のなかで月を見上げた。
静かな雰囲気を醸し出してはいるが、横目に見れば宴会は始まっているし、少し油断すれば湯の上をなんらかの妖怪が駆けていく。
義高は宴会中の神々のなかに、いつの間にか混ざっていた。
『のみねえのみねえ』
「お、悪いな」
『いい旦那が一人酒とはいかんわねぇ、お酌しますわあ』
「おお、悪いな」
天女のような美女が、狐のような笑みと共に義高へと酒を注ぐ。ここはどこかの極楽か。しかしいつもの地上であることはわかりきっていたのだが。
周囲の雰囲気も大衆居酒屋を思わせる賑やかさに、神も妖も紙一重というか、人とあまり変わらぬ風景に心を落ち着かせる事さえできる。
だが。
「おい、お前さんら。ちょっと周りの空気も読んでくれや。こいつぁ酔っ払いだけでなく、酒も悪く言われちまうぜ。ここはひとつ同じ酒好きの誼として、温泉の占拠をやめて、部屋でゆっくり楽しもうじゃねぇか。そしたら俺の秘蔵の酒を提供してもいいぜ」
『ふむ、少しやりすぎたかのう』
『よいではないかあよいではないかあ』
焔陰 凛はとことこ歩いていくシロを呼び止めた。
「よーす、シロ。福神が来てるんやて?」
くるっと後ろをみたシロ。
「みたいです。いつもより、少しだけ騒がしい気がします」
シロが歩いていく隣を歩きながら、凛はシロに案内と求めた。行く先は、その福の神がいる場所だ。
凛としては、その福の神とやらに用があるらしい。
「あれですね」
「ふぅん」
凛はそういうと、楽器を取り出して。
「神さん達、盛り上がってるかー!?」
響く声を出しながら、ひとつ、音色を響かせた。これには福の神たちも驚いて、見たこともない楽器だ、だとか、何か面白い芸でも見せてくれるのか? とか。多様は反応が凛を包み込んでいく。
「兎追いしかのYAMA~ 小鮒釣りしかのKAWA~ HEY!」
ロック調にアレンジされた懐かしの歌を奏で始め、シロも手拍子をし始めた。なにやら聞いた事がある歌のようだが、凛なりのアレンジが加わっている。最早これは、凛のオリジナルの曲よ言った方がらしい気もするものだ。
響くロックは、長いような短いような時間のなかで終わりを迎えた。寂しいくらいに静けさを取り戻したとき、凛は言った。
「歌い終わったら福神に、もし気に入ったようならこの子に福をお裾分けしたってや」
そういいながら凛はシロの頭を撫でた。
赤色で舌を出す提灯の中に、黄色のかぼちゃのジャックオーランタンがたまにいたり。
西洋ごった煮だが、どこか和風の風景が強い場所で、大辻・想良は座っていた。膝の上に守護使役の天を乗せながら、ゆったりとした手つきでそれをなでている。
いつもはもっと戦火の強い場所ばかりだったからか、こういった落ち着きのある雰囲気は久々だと漏らしながら、遠くの喧騒を眺めていた。
すると、ふと。真っ白な狼が想良の隣に来ては、身体を擦りつけてきた。
「……最近、まんまるは、……大丈夫?」
シロは顔を斜めに傾けながら、天上を見上げた。長らく続く狼との物語も、そろそろ終止符を打たねばならない頃か。
「……シロさん、今も、何があってもどんな理由でも人間の味方をするって、思ってる? ……そうなら、代わりにはならないかもだけど、わたしの残りの魂、シロさんにあげるね。……友達だから」
シロの柔らかい身体を抱きしめた想良。でもきっとシロは、友人の消滅は望んではいないと想うのであった。
山道の途中、腰を下せる場所をみつけ、座り込んだ真屋・千雪。手元が寂しいと取り出したものを置いて。鍵盤をひとつ弾いた。暗闇に、音が落ちる。
千雪が鳴らすのは、小さなピアノだ。
「よし」
再び鍵盤を鳴らす千雪の流れる五指が、楽しそうに踊れば一曲の音楽が完成する。ハロウィンナイトに因んだ曲を奏でながら、付近の影から小さな影が近寄ってくるのが、なんとなく理解できた。
瞳を閉じて、気配を感じながら、音によって自身を表現する。
――……気が付けば沢山の古妖に囲まれていた。
満足したら白いもふもふや、ひとつめの少年少女。どの子たちも不思議そうにこちらを眺めていた。
警戒されているのか、一定間隔の距離は置かれているが、嫌われている様子では無いみたいだ。
「ほら」
ましろと呼ばれた守護使役に、カボチャ味のクッキーを差し出した千雪。
「こっちにおいでよ」
もし近づいてきて、ちゃんと聞いてくれたら。
ポケットいっぱいに詰めてきたカボチャのマシュマロをプレゼント。くすくす笑う千雪は言う。
「可愛いんだよ、南瓜マシュマロ。美味しいし」
太鼓の音が鳴り響く。
鬼や狐も逃げ帰ったその場で、鹿ノ島・遥は仁王立ちしていた。彼のバックでは『ハロウィン大相撲温泉場所』と書かれたものが、立てかけられている。
これも何度かやっている集まり。今日も賑やかに始まるわけだが。
「という訳でいつものやつなんやけど、なんでやねん!」
切裂 ジャックは盛大にツッコミを入れた。
「奉納相撲?」
香月 凜音は遥の背にある文字をそのまま読んだ。
「よくぞ聞いてくれた」
その答えは言わずもがな。
元来の相撲とは、神への捧げ物であり、神事であった。
温泉に浸かっておられる福の神の前で相撲を行なうことは、まこと理に適ったものであろう。(プレイング原文まま)
「いや! そうだけど、俺の思ってた温泉ってもっとキャッキャウフフやねん!」
「よせ、いうな!!」
遥はジャックに頭からどついて、ジャックは温泉の上を三回くらい跳ねてから気絶。凜音がジャックの心臓マッサージを始める。
「というわけで、奉納相撲に参りましたー!」
自分で太鼓を叩き場を盛り上げる遥だが、意外と周囲の神々は盛り上がっている。
相手は誰かと思えば、明智 珠輝が木々の間から顔を出した。ここはどこだと周囲を見回している彼だ、どうやら迷ってしまっているらしい。
つまりあれだ、野生の珠輝が現れた。
遥を見るや、珠輝は第六感で現状を全て悟った顔をした。すぐに肩のあたりの服を掴んだ珠輝は、そのまま腕を引くと服がどこかへ消えて全裸(正確には着てる)になる。
「神に捧げる相撲、ですか。これは素敵な催しですね、偶然ここにまわしがあります、さぁ戦いましょう……!」
「偶然あってたまるか」
ツッコミ役のジャックが死亡している為、代わりに凜音が言った。
「ふふ、賑やかなほうが好きなのはいいことですが、あんまりおいたは駄目ですね」
あらあらうふふと十夜八重が天使の微笑。笑顔の奥で闇を飼い慣らしていそうな彼女だが、用意したものは救急箱だ。現代のナイチンゲールは常にバーサーカーである。
「えっ明智さん相撲とるの!!? しかも鹿ノ島くんと!!? そうね、じゃあ両方応援しないとね」
紅潮する頬を両手で抑えて、悶える鳴神零。その隣で弓削 山吹はスナック菓子を口に放り込んで、あと一歩で死にそうな目をしている。
「山吹ちゃん! 相撲だよ相撲!」
「いやなぜ相撲」
零のきらきらした瞳が濃くなれば濃くなるほど、山吹の疑問符は数を増やしていく。
「鹿ノ島のお兄さん、頑張ってくださいね!」
ここぞと天使のようなキラキラを振りまく片桐・美久は、彼に賭けたようだ。その結果がどうなるかは未だ誰も知らないが、この場の誰もが美久には酷いことはできないってなんとなく感じるんだ。
斎 義弘曰く、祭りは雰囲気であること。
そういえばこの温泉宿、何が無いといえば相撲を取る場所が無いとのこと。そりゃそうだ、相撲とりにくるとはSTさえ思わなかった。
という訳で、義弘は指をパチンと鳴らした。黒子がどこからともなく出てきては、建築関係トントントーンと相撲場を作った。
「あら、賑やかね。奉納相撲かしら?」
この場に一番来てはいけない大和撫子、環大和が、古妖に囲まれながら少し遠くで見つめている。彼女はサキュバスの姿で優雅に緑茶を飲みながら、お菓子配っている。
そのお菓子を貪る犬の子や、犬や猫のように戯れる狐子たちはいまいち相撲には興味がないようで、大和の手から渡されるお菓子のほうが夢中のようだ。
そしてその時はきた。
いつの間にかにマワシ姿になっていた遥と珠輝。
ひが~し~ かのしま~やま~
に~し~ あけち~さと~
「はっけよーーい オラァァ!!!」
結果はCMの後で!
檜山 樹香は足先を湯船の表面につけてからゆっくりと身体を沈めていく。
温泉はのんびりと。少しだけぬるりとしたお湯なのは、きっと何か効能があるのだろう。泥風呂とか色々あるよね。
「あ、気持ちいい。来て良かったのじゃ。のう?」
樹香は流れるような目線で隣の福伸へと声をかけた。緊張したのか、福神は一体、固まりながら頭をこくこくと縦に振る。彼女はでかでかと掲げられたゴリサーイベントの看板に引き寄せられたようであった。
そして樹香の目線の先では、八重が福の神にお酌して回っている。
『お嬢さんかわいいねえ』
「うふふ。でもおさわりは駄目ですよ」
『よいではないかあ、よいではないかあ』
「駄目、ですよ」
八重が福神の手の甲をつねりながらも、笑顔だ。どこか色気の魅せる彼女に福の神はでれでれしっぱしであったのだ。
「まあ酒のアテにはならないかもしれないが、クッキーを焼いて来たんだ、ひとつどうか?」
義弘はそんな八重の隣で福の神にお菓子を配る。
『ほほう、せいようのかしじゃのう』
『ふふ、いただきましょうかみなさま』
『よいのうようのう』
これまた福の神たちは興味を示してくれていたようで、義弘のクッキーは飛ぶように売れていく。これならもっと多く作っても良かったかもしれないと、内心独り言ちていた。
「あっ、天使!!」
目を見開いて目を覚ましたジャックが、ダッシュで大和のところに滑り込み、自然な流れで隣に座った。
「ごめんな今日もうるさくて」
柔らかな笑みを零す大和は、膝に乗っていた狐の子供を優しく撫でた。
「あ! ハロウィンやからトリトリやで、でもお菓子も欲しいけどいたずらもしたい! 血をください! がおー!」
狐か狼の姿のジャックは爪を見せながら吼えた。
「あら? ジャックさん。噛みつくのは構わないけれども。今夜、夢の中で倍返しさせてもらうわよ?」
「俺なにされちゃうの! じゃあいっただっきまー……」
「小僧!! まーた女の子にちょっかいだして!!」
「これ、それ以上はいけないのじゃ」
刹那、零と樹香の投げた風呂桶がすっこーんとジャックの頭に直撃した。
「おねえさんも、ひとつどうですか!」
そこへ美久が大和に手作りのクッキーを差し出した。
「あら、いただくわ」
「切裂のお兄さんにもあげたいのですが」
ふと美久の瞳が横にスライドしたら、ジャックが犬神家みたいなあれになっていた。零と樹香に叩きのめされたようだ。
ととと、と歩いて来たシロが凜音の足にしがみついた。臭いを嗅ぎつけて、ここまでやってきたのだろう。凜音は彼の頭を撫でてから。
「シロ。元気にしてたか? 肉系の弁当持ってきたけど、喰うか?」
「おにく、たべる」
凜音の隣に座ったシロは、凜音からお弁当を貰ってからもぐもぐし始める。ふと、シロは気になった光景があった。
「どうして、にんげんがふたり、裸で抱き合っているのでしょう」
「その認識には大いに誤差があるな」
凜音はシロの目を両手で隠した。
相撲はというと、接戦となっていた。
「若くてピチピチな遥さんと肌のぶつかり合いですね、ふふ……!」
「そっちも。意外とびくともしない……強敵ッ!!」
両人、マワシを掴んだまま動かないのだが、二人にしか分からない力の攻防が始まっているのだ。
「がんばってくださーい! お兄さんがたー!」
美久はお菓子を配りながら、相撲の情況を逐一把握していた。遥に賭けているのだ、どうしてくれよう負けてしまったら。
ひとつ力を弱めればそこから一気に体勢を崩され、倒されてしまうだろう。ファイヴでも力には自信のある遥であるのだが、しかし、珠輝もここぞと謎の力が加わって興奮冷めやらぬ。
「ぁぁ、凄い……もっと欲しいです」
「これで、どうだあああ!!」
遥は珠輝の身体を持ち上げ土俵の外に出さんとする、だが珠輝は遥の耳元で囁き、それに遥が反応し力が弱まり、押し返される。
今度は珠輝の攻撃か。遥の身体を横に倒そうとしあわよくばそこに乗っかってマウントを取るという手前で。
「ぁあああ!」
「つ、強いです!! そこは!」
横に引こうとした力を逆手にとられ、珠輝が土俵にごろんとしてしまった。
終わってしまえば呆気ないものだ。そうすると義弘は再び指を鳴らすと黒子たちがあらわれ土俵が撤去されていく。
「あの黒子は一体」
と義弘は思っていただろうが、土俵が無いから急遽用意しにきた人たちだけと思ってくれればそれでいい。
場外の古妖たちは、一斉にわあ!と叫んで盛り上がっている。
「ふふふ、独特の雰囲気よね。楽しんで貰えたかしら?」
大和は賑わう妖怪たちをみながら、彼らが嬉しがっていることに嬉しくさえ思う。
日本では敗者がいることにより勝者がいるというのを重んじるということで、遥が土俵内にて表立って喜びを見せることはなかったが。
その清々しくも晴れた遥の表情は『ほんとは……女の子と……』という想いで哀愁漂っていた。
「大丈夫ですか?」
「はい」
勝ち誇ったような珠輝の嬉しそうな笑み。そこに八重は、辛めに煮た南瓜の煮つけを箸でつまんで彼の口のなかにいれた。
「古妖の皆様も楽しんだみたいですよ」
「それは、よかったです……」
「明智さんかっこよかったよ!」
零も楽しそうに跳ねていた。
「お兄さん! トリックオアトリートですよ!」
「お、今お菓子……飴ならあるで!」
美久はジャックからパイン的な雨を受け取りながら、そっと耳打ちされた。
「罰ゲームやなあ、みく」
「ひえ、何されるんですかあ」
義弘がジャックの後頭部をぽこんと叩いた。
「こういう場所で酒でものめりゃ楽しいんだろうな。後数年が待ち遠しいぜ」
シロの隣で笑った凜音はそんな事を言いながら、温泉でのイベントは幕を閉じた。
東雲 梛はシロの頭をくしゃりと撫でる。優しい手に、シロも目を瞑って堪能している。
「久しぶり。一緒に散歩しようか」
こくと頷いたシロと、長い廊下や幻想的な世界を歩いていく。急に動き出した提灯や、一つ目の蝙蝠が飛んでいく。どこか、ハロウィンの風景にいつもの宿が混ざっていた。
そんな時、声が響く。
「あ、あの仕事中で……」
巫女の声だろうか。
『いいじゃないかいいじゃないか』
シロは温泉のほうを見ていたが、その時には梛は既に行動へ移っていた。素早く困っている巫女と、古妖の間に梛の身体が挟まる。
「祝いの席はみんなが楽しくかな。福神さん達もその方が良いよね?」
「あ、お客様……っ」
少しだけ警戒心をつけた瞳で、しかしいつもの優しい目線を忘れず。梛の瞳が福の神と交差したとき。
『はははこれはいかんいかん』
『だめだのうだめだのう、はめをはずしすぎであるのう』
どうやら福の神も観念したように、ぞろぞろと戻って行った
「あ、あの、ありがとうございます」
「いえ。このお祭りはいつまで?」
「本日が終わるまで、です」
「じゃあそれまでは、お祭りだね」
シロが梛のもとへ駆け寄って、手を握った。
「梛、だいじょうぶ? お祭り、いく?」
「うん、大丈夫。わかってくれる神様みたいだし。そうだね」
表情の変化は少ないが、梛はそれなりに楽し気。シロにもこれが美味しいとご飯のおすそ分けなど、一人と一匹は夜明けまで祭りを楽しんでいた。
そんなこんなで色々あったが、福の神は無事帰ってくれたそうな。
大量のお土産と一緒に、ファイヴの皆々様は無事にお帰りになったとか。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
