<南瓜夜行2017>妖精が悪い奴らに攫われる
<南瓜夜行2017>妖精が悪い奴らに攫われる


●十月はハロウィンの時期
 ハロウィン。
 元はケルトの感謝祭で、秋の収穫を行い悪霊を追いはらう宗教的な意味合いをもつ。それが巡り巡って、今では悪霊や英雄の仮装をして街を練り歩く夜のパーティとなっていた。祭りの意義は時代とともに変化する。ハロウィンもまた、時代により変化し続ける祭りのひとつだった。
 とまれ、十月の町はハロウィンによる仮装者であふれていた。本番である三十一日を待たずして様々な仮装で歩く人もおり、その中には古妖の格好をする者もいる。そしてそんなコスプレに紛れて、本物の古妖も現れることもある。
 FiVEもそういった古妖と人の混じりいった状況で起きた騒動を何度も解決してきており、この時期になるとその手の事件を頼まれることもある。単純に祭りを楽しむだけの古妖なら無害でいいのだが、古妖の中には悪戯好きな者もいるのだ。油断はできない。
 そして今年も十月がやってくる――

●花の妖精と隔者達
「三十二(みとに)のお箱が死を運び――」
 街を歩く一人の女性。それがそんな唄を歌いながら街を歩いていた。
「十六の月に獣吼え――」
 内容は数え歌のようだ。幼い子供が歌うような意味のないわらべ歌。大人になれば忘れてしまいそうな、でも心のどこかに残っていそうな歌。
 女性の風貌を一言でいうなら『妖精のコスプレ』だ。ファンタジー系のライトノベルに出てくる森の妖精をイメージさせる格好。髪飾りを始め、花をモチーフにしたアクセサリーや衣装である。
「八つ足の姫が赤く笑み――」
 女性は歌いながら街を歩く。どこかを目指しているという様子はない。散歩する事だけが目的。そんな様子だ。周りの人も奇異には思うが、ハロウィンの時期だしと特に気にした様子もない。――ごく一部を除いては。
「四――」
「ようよう、おねーちゃん。可愛いねぇ。ハロウィンのコスプレ?」
 女に声をかけたのは強面の男性たちだった。少女の逃げ道を塞ぐように囲み、近くに止めてある来る車に誘導しようとする。
「こんな所で歌うよりさぁ。もっといい所で歌おうぜ」
「そうそう。カラオケとかでその声聞きたいなぁ」
 男に囲まれた女性は誘導されるがままである。抵抗らしい抵抗はない。男の言葉にある悪意に気づいていないかのように。
「……あの」
 彼女は首をかしげて問いかけた。
「こすぷれ? からおけ?」

●FiVE
「これがただのナンパなら強引なのは駄目だって注意して終わりだ。可愛いお姉ちゃんとカラオケしたい、っていう気持ちはすげーわかるしな!」
 久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者を前に熱弁を振るう。夢で見た少女の姿を念写して皆に示し、拳を握っていた。脱線しそうになる相馬を止めて、夢の続きを話させる。
「こいつらは人さらいを専門にしている隔者だ。七星剣あたりの半グレって所か」
 半グレ――特定の組織に所属せず暴力行為を繰り返す集団である。組織員でない為自由性は高いが、逆にトカゲのしっぽ切りよろしく切り捨てられることもある。
「捕まえても背後関係を追うのは難しいだろうな。だからと言ってこの状況を見過ごすわけにはいかないだろう?」
 隔者の車に乗せられた少女がどのような末路を送るか。そんな未来を迎えさせるわけにはいかない。
「で、肝心のこの子なんだが……どうも抵抗するそぶりがない。自分が何されるかわかってないみたいだ。多分こっちが助けに入っても逃げてくれるかどうかわからないんだ」
 眉を顰める覚者達。救出しようとする相手に逃げる意志がないのなら、戦闘に巻き込んでしまう可能性がある。些か面倒な形だ。
「ま、隔者自体はそんなに強くない。適度にひねって反省させればいいさ。
 かわいい花の妖精ちゃんを助けるために頑張ってくれよ! なんなら俺の紹介もしてくれてもいいぜ!」
 相馬の言葉を聞き流しながら、覚者達は会議室を出た。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.全隔者の戦闘不能
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 ガーリーとフェミニンの境界が分かりません。

●敵情報
・隔者(×6)
 全員男性の隔者です。年齢は十代後半辺り。
 街で見かけた女性を半ば強制的に連れ込んで、よろしくないことをしている集団です。とっつかまえても『取引先』との証拠は掴めません。

リーダー(×1)
 火の翼人。見た目は甘いマスクのイケメン。
『エアブリット』『火焔連弾』『灼熱化』『魔眼』『ワーズ・ワース』等を活性化しています。

手下(×5)
 土の獣憑(申)。見た目はガタイのいい強面。
『猛の一撃』『無頼漢』『蔵王・戒』『猟犬』等を活性化しています。

●NPC
 女性(×1)
 妖精のようなコスプレをした女性です。隔者の言葉に悪意を感じていないのか、抵抗のそぶりはありません。
 その為『隔者の間に割って入る』『引っ張って引きはがす』等で暴力的に移動させようとすれば抵抗します。彼女からすればFiVEの人達は『後から話しかけてきた人』でしかありません。
 戦闘が始まれば当惑して、何もしなくなります(ルール上はずっと待機宣言)。攻撃されれば、相応に反撃するでしょう。

●場所情報
 街中。時刻は夕方ごろ。明りや広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、『リーダー』『彼女』が敵中衛に。『手下(×5)』が敵前衛に言います。敵前衛との距離は10メートルとします。
 事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
10日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
公開日
2017年11月15日

■メイン参加者 4人■

『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)


「あ、いたいた! 探したよぉ。せっかくのハロウィンだもの。甘くて、おいしいお菓子食べなきゃもったいないよね」
 男達と女性の会話に張って入るように『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は声をあげる。男達の存在を無視するかのように声を上げ、女性の方に話しかける。突然のことにきょとんとしている彼女。突然のことに怒りのボルテージが上がる男達。
「お姉様、いのり達とケーキを食べに参りませんか?」
 その言葉にかぶせるように『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が言葉を重ねる。手作りのケーキを取り出し、男達から女性を引きはがそうとする。ケーキに興味をひかれたというよりは、話しかけてくる覚者達に興味を惹かれたように女性は引っ張られていく。
 だが、男達も黙ってはいない。
「なあお嬢ちゃん達。俺達このお姉さんとお話してるんだ。飴あげるから向こう言っててくれないか?」
「誰がお嬢ちゃんよ! わたしは立派な成人なんだから!」
 見た目一四歳の御菓子は男達の言葉に怒りの声を返した。
「果実の甘さを濃縮した口の中で優しく溶ろける綿雪のようなケーキよ。すぐ近くに店があるわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)はケーキの様子を描写しながら近づいていく。重要なのは彼女に興味を持ってもらう事。男達の強引な勧誘ではなく、あくまで自分の意志でこちらに来てもらわなくてはいけない。
「待たせてすみません。あちらにも美味しいものを用意しましたので。ご一緒にどうですか?」
 友人を装って『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が場に入ってくる。視線を女性に向けながら、男達の挙動を注視する。相手が隔者であることは解っている。今は無手でも覚醒すれば神具が瞬時にその手に握られるのだ。油断は禁物だ。
 これがただのナンパなら、男達は魔が悪かったと諦めただろう。無理をして追っ払うよりも別の女性に声をかけた方が成功確率は高い。
 だが彼らは人さらいだ。ガードの薄そうな良質の獲物を見逃すつもりはない。幸い相手は四名。数の上では勝っている。最悪、車まで女を連れ込んで逃げればいい。覚醒して神具で一気に押さえ込めば――
「女の子に手を上げるなんて、そんなことする子は……お仕置きだぞ」
「あら? 随分と乱暴ね」
 隔者の覚醒と同時に、覚者達も覚醒して神具を構える。交差する神具ごしに御菓子と大和は剣呑な空気に似合わない笑みを浮かべていた。
「随分と乱暴ですが、彼女をどうするつもりですか?」
「女性を虐める悪い人は懲らしめなければいけませんわね!」
 千陽といのりが彼女を護るように立ちながら隔者に視線を向ける。千陽の瞳が金に光り、いのりの姿が大人に変わる。
 ここまでくれば隔者達も理解していた。相手は夢見の予知で乱入してきた覚者なのだと。
「やっちまえ、お前ら!」
 リーダーの言葉に従い隔者は動き出す。最初に見せた甘いマスクは消え去り、その本性を示す歪んだ表情が浮かんでいた。
 それに怯む覚者達ではない。神具を構え、悪意の風に立ち向かう。


(連中の車は……さすがにわかりませんか)
 千陽は隔者の車を撃って足止めしようとしたが、車自体の情報が分からない為あきらめざるを得なかった。近くにある車が彼らの物なのか。その確証がなかったのだ。
「ちょっと危険だから離れててね」
「危ないので隅に居て下さいませ」
 御菓子といのりが女性を離れさせようとするが、何が起きるのか理解していない女性は「え?」と言う唇の形のまま動きを止めていた。
「逃げていただきたいところですが、無理であれば自分が貴方を守り抜きます。
 友人の振りをしましたが、本当に友人になりたいとも思っています」
 女性の位置関係と隔者の数を確認しながら千陽は源素を練り上げる。連中の目的は女性の奪還と逃亡。こちらと真っ向から戦う理由はないのだ。考えられるのは『数で足止めしている間に女性を連れて、車まで逃げる』だろう。車で逃亡されれば追うのは難しくなる。
 視線を隔者達に向け、一歩踏み出す。足が地面に触れた瞬間に大地が揺れ、隔者達の体勢を崩した。数という隔者達の壁が崩れ、女性への道が生まれる。隔者リーダーの焦る顔を確認しながら次の手を考える。思考と行動。軍人として培った経験が回転する。
「こいつら、戦い慣れてやがる……!」
「武装を解除するなら痛い目を見ずに済みますよ」
「うるせぇ! この人数に退いたら面目丸つぶれだ!」
「力量を見誤っての敗北、というのも恥ずかしいけどね」
 会話に割って入るように、大和が術符を構える。銀の髪が風に揺れ、紫の瞳で隔者達を見る。相手の未来を想像するように、唇は妖艶に笑みを浮かべていた。千陽の傍に立ち、源素を体内で練り上げながら神具を構える。
 す、と指先が敵陣を薙ぎ払うように動く。音もなく風もなく、しかし大和の行動はそれで終わっていた。指が卸されるよりも先に、数名の隔者が崩れ落ちる。糸が切れたかのように眠りについたのだ。天の源素による眠りの雲。
「横取りされてたまるか。お前ら起きろ!」
「確かに声をかけたのは貴方達が先でしょうけど、素敵な出会いに先も後もないわ」
「これまでの数々の悪行、纏めて罪を償っていただきますわ!」
 怒りの声をあげていのりが杖を振るう。女性を商品のように扱う者達。同じ女性として、そして人間として強い怒りを覚えていた。自分達の懐が潤うのなら、『売った』者がその後不幸になろうとも構わない。
 いのりの杖の先から霧が生まれ、隔者達の視界を奪う。火力を奪うことで味方を助ける白の霧。それは警告でもあった。これ以上戦いを続けるなら、こちらも加減はしない。大人しく縛に着くなら温情はある。
「降参なさるなら今のうちですわよ。怪我をしたくないのなら、覚醒を解除してください」
「やなこった。お前ら全員燃やし尽くしてやる! そっちこそ大人しくするなら『賞品』として優しく扱ってやるぜ」
「女性をなんだと思ってるんですか。ナンパ目的ならまだかわいいものでしたが、これは本気で反省してもらう必要がありますね」
 にこり、とほほ笑みながら御菓子が言葉を放つ。表情こそ優しいが、だからこそ見る者に恐怖を与える笑顔だ。若さゆえの暴走なら軽く説教で終わらせるつもりだったが、ここまで酷いのならきつい一撃を与えなければ。
 楽器を手にしてそれを奏でる。水の源素が音を反射し、周囲に響かせる。奏でられた音は神秘の龍となり、曲が進むにつれてその大きさは増していった。力強い演奏と共に、龍は牙を向いて隔者達に襲い掛かる。
「そこまで安く女の子を見積もってくれてるのなら、先生はあなたたちに反省を促します!」
「先公かよ! 反省とかうざってぇな!」
「大人しく反省文を提出してもらいます。大人しくしないのなら……わかりますね?」
 笑みを崩さず御菓子は問いかけた。相手からの返事はない。戯言と受け流したか、恐怖で言葉を飲み込んだのか。
「あの……あの……」
 目の前で起きた戦闘におたおたとする妖精さん。彼女からすれば『男の人が話しかけてきて、後から入ってきた人達と喧嘩を始めた』ということになる。自分の身が危険だったことも含めて、状況が呑み込めていない。
(純粋すぎますね。その純粋さが危険を察知できないということでしょうか)
 そんな様子を千陽はそう判断した。世俗にまみれず純粋であることは、一種の美徳である。だが悪意が存在する状況においてその純粋さは無防備に等しい。
(どこか人里離れた地域からやってきたのかしら? 一般的に知られている単語を知らないようだし)
 同時に大和は彼女の環境に疑問符を浮かべていた。夢見の情報が正しければ、彼女は『カラオケ』や『コスプレ』も知らないことになる。ありえない事ではないのだろうが、それにしても奇妙な話だ。
 覚者達の疑問はあるが、今は目の前の隔者排除が優先だ。実力差を肌で感じながら、意地で戦闘を続行する隔者達。手数の優位を武器に大和の命数を削り取る。
 だが、所詮は半グレ。七星剣と交戦した経験のあるFiVEの覚者にかなうべくもない。時が経つにつれてその数は減り、追い込まれていく。
「これで終わりです」
 いのりがトンボのような杖を振るい、天に掲げる。源素の光が空に煌めき、矢のように隔者の頭上に降ってきた。隔者達はそれを避けることが出来ず、衝撃で吹き飛ばされて地面に伏した。
「天罰覿面です! しっかり罪を償ってきてください!」
 いのりの言葉が戦いの終了宣告。何とか起き上がろうとする隔者だが、そのまま気を失い動かなくなった。


 その後、やってきた元AAAのFiVEスタッフによる後処理が行われた。隔者達は無事捕縛。法の裁きが彼らに訪れるだろう。半グレということもあり、命令した組織に痛手を負わせることはできないのが悔やまれる。だが新たな犠牲者が出なくなるのは良いことだ。
 そしてその毒牙に狙われていた彼女は、
「あの……よくわからないのですけど、悪い人だったのですか? あの人たち?」
 ようやく事態を理解したのか、覚者達にそう問いかける。
「ええ、そうです。危ない所でした」
「お助けいただきありがとうございます。所で『はろうぃん』とか『こすぷれ』ってどういう意味なんです?」
 小首をかしげて問いかける姿を見て、覚者達は怪訝に思う。かなり一般的な単語を知らないようだ。
(お祭り空気に誘われた古妖とかでしょうか……?)
(ですけど守護使役がいますわ。古妖にはいないと聞いたことがあります。人間なのは確かなのでしょうけど……)
 御菓子といのりは相手に聞こえないように会話をしていた。守護使役がいるのなら古妖とは思えない。れっきとした人間なのは確かだ。
「怖い目に合わせてごめんなさいね。しれじゃあ、改めてハロウィンパーティーに向かいましょう」
「美味しいケーキも待ってるわ。お友達がいないのであればわたし達と一緒にいかがかしら?」
 御菓子と大和が彼女をケーキ屋に引っ張るようにパーティに誘う。特に抵抗することもなく彼女は引っ張られるままに誘導された。ハロウィン仕様なのか、南瓜ランタンとコウモリの装飾で溢れていた。既に仮装している者もおり、様々な格好をした人であふれかえっている。
「少し早いですけど、ハロウィンパーティーを始めましょう!」
 楽器を手に御菓子はパーティーの開始を宣言する。ハロウィンパーティーで流す曲は、実はかなり多い。ハロウィン自体が一般化したこともあるが、モンスターが出てくるような、おどろおどろした曲もマッチする。
(ですがそんなのは不粋です。折角の出会いですから、楽しめる曲でいきましょう)
 助けた彼女をイメージしながら、選曲する。脳裏に浮かぶ五線譜。意識するよりも先に動く腕。花のような彼女が躍るような、そんなダンスソングを奏でた。春風の様に暖かく、夏の太陽の様に印象深く、秋の風情のように心に染み入り、冬の雪を描写するように清い音で。
「まあ。なんで素晴らしい歌なんでしょう!」
 彼女は御菓子の演奏に拍手するように称賛の声を上げた。世界レベルの名声を断わり、御菓子は教師として音楽を伝える道を選んだ。歴史に名を遺すよりも、人の笑顔を生む方がいい。
「自分の名前は時任千陽と言います。失礼ですが、何故此方に?」
 自己紹介をしながら千陽が問いかける。ケーキの注文は女性達に任せて、気になったことを聞いてみた。
「トキトウチカゲさんですね。私の名前はエフィルディスと言います。此方には買い物に来たのです」
「買い物?」
「はい。いつもは父が買い物をするのですが熱で寝込んでしまい……代わりに私が」
 いまひとつ要領を得ない回答だが、分かったことがいくつかある。彼女――エフィルディスにとって『買い物』は初めてで、本来は『父』が行うことを彼女が行ったようだ。
(世俗にまみれていないのは、そういう事なのでしょうね。どこかの村か集落かに籠っていて、そこから外に出た経験が少ないということでしょう)
 千陽はエフィルディスのセリフから推測できることを纏める。一般的な単語を知らなかったのも、それらに触れる機会がなかったからだ。それ自体はそういうこともあるだろう、ですむ。問題は――
(何故世俗との関係を断っていたか、ですね。最悪、拉致や監禁の可能性もある)
『父』の素性が不明なため断言はできないが、この時世で世俗との関係を完全に断つことは容易ではない。古妖のように独自の文化や価値観を持つならともかく、普通の人間が一つのコミューンに完全に引き籠ることは不可能だ。事実『父』は街に出て買い物をしていたようだし。
「そうですか。エフィルディスお姉様はお父様に代わってお買い物を。お偉いですわ」
「ありがとうございます。ですが皆様にご迷惑をかけてしまったようで」
 笑顔でいのりはエフィルディスの行動を称賛する。病気で倒れた父の代わりを自ら買って出たのは、人として褒められる行為だ。結果としてトラブルを起こしそうになったが、その心意気は素晴らしい。
「いえいえ。これぐらいのことは当然ですわ」
 本心からいのりは告げる。人を助けることは当たり前のこと。その為に覚者の力はあるのだ。第三次妖討伐抗争で亡くなった両親も、きっと同じ思いを抱いていたに違いない。その遺志を受け継ぎ、実践する。その為にFiVEに来たのだから。
「所でお姉様が歌っていた歌、どういう謂れなのですか?」
「わたしも気になるわ。良ければ歌ってもらえるかしら?」
 いのりの問いに頷く大和。ただのわらべ歌。しかしわらべ歌には神秘が隠されていることも多い。伝承や暗号を子供の歌に残し、後世に伝える。夜明けの晩という矛盾した時間に隠された不思議。。鶴(鳳)と亀(玄武)の出会い。そこに隠された意味を紐解けば、何かが分かるかもしれない。
「はあ。ただの数え歌ですよ。謂れとかはありませんけど……」
 問われたエフィルディスはそう告げてから歌を紡ぐ。
「三十二(みとに)のお箱が死を運び――
 十六の月に獣吼え――
 八つ足の姫が赤く笑み――
 四の刃が風を割き――
 二つの骨が死に咲いて――
 一の何かが口開く――」
 童謡と呼ぶにはあまりに不吉過ぎる歌。エフィルディス本人もどういう意味があるのかよくわかっていないようだ。
「……あの、いのりは少し思う所があるのですけど」
「奇遇ですね。自分もこの歌に引っかかるものがあります」
「そうね。偶然の一致とは思えないわ」
「ハロウィンの夜には似合わないのですけど……」
 いのり、千陽、大和、御菓子は順に口を開く。しばらく沈黙し、同時に推測を口にした。
「――大妖……?」
 三十二のお箱、というのは死を運ぶ列車の車両数だろう。
 十六の月は月齢。満月から新月までの数を示したのか。
 八つ足の姫。おそらくだが<紅蜘蛛・継美>の姿。
 四の刃は斬鉄の武装。風を割く、というのは源素を絶つ能力と合致する。
 忘れもしない<大妖一夜>。その時にいのりは『黄泉路行列車』と。千陽、大和、御菓子の三人は『新月の咆哮』と対峙した。その経験がなければ、この結論には至らなかった。ただの数え歌として脳裏の片隅に置かれていただろう。
 全ては推測だ。それを踏まえたうえで言えることは――
「詳しく調べる必要がありますね。大妖に対する手掛かりが得られるかもしれません。彼女の身柄を押さえるのがベストなのですが……」
 軍人的な思考で千陽は事の重要性を告げる。大妖はこの国の脅威だ。それから民を護るためなら、エフィルディスの身柄を確保するのが理想だろう。冷徹だがそうすることでで得られる情報はこの状況では千金に値する。だが――
「止めましょう。友人相手にそれは野暮です」
 肩をすくめる千陽。自分でも甘いとは思いながら、ため息をついた。
「そうね。また会えるかしら?」
「はい。また会いましょう」
 大和の問いに頷くエフィルディス。
「嬉しいですわ、お姉様! いのりもまたお姉様と会いたいです!」
「じゃあハロウィンパーティの再開ね。次の曲は――」
 空気を換えるようにいのりと御菓子が声をあげる。
 この出会いを祝福するような明るい空気。それがハロウィンを彩るように響いていた。


 その後、エフィルディスの買い物に付き合い、覚者達は帰路につく。
 元は冬を告げる祭りだったハロウィン。そこで得た奇妙な縁。
 エフィルディス。数え歌。そして大妖――
 物語の歯車は気づかぬうちに重なり、廻り始めていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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