<大妖一夜>髄液啜りのしたいあさり
<大妖一夜>髄液啜りのしたいあさり


●AAA強襲
 『斬鉄』『新月の咆哮』『黄泉路行列車』。妖の中でも強大な力と知性をもつ大妖たちがAAA京都支部を襲撃した。
 それを察知したファイヴは急ぎ救援作戦を開始。ある場面では妖の進行を阻み、ある場面では窮地に貧した人々を助け出すためだ。
 だがそんな中で、一風異なる動きをする集団があった。
 昨今新たに発見された大妖『髄液啜り』とその眷属である。

●シタイアサリ
「お疲れ様。AAAも大変なことになったようね。あなたはどこの作戦に加わるの? そう……『髄液啜り』が気になるのね」
 会議室の片隅で、蒼紫 四五九番(nCL2000137)は資料をぱらぱらとめくりながらあなたの顔を見上げた。
「なら、この仕事を頼めると思う。説明をするから、興味が沸いたらまたいらっしゃい」

 AAAが大妖とそのコミュニティによる襲撃を受けたことで、大量の死者が出ることが予想された。
 それに乗じるように、大妖『髄液啜り』も襲撃作戦に手勢を割いているようだった。
「敵の狙いは重要施設でも生存者でもなく、『既に死亡した人々』よ。死体回収に特化した妖を放って、この戦いで出た死体を回収していくのが狙いのようね」
 生存者や施設ではなく、『死者』を守るための戦いとなるのだ。
 そのため、他の作戦エリアとは離れた場所での作戦になるだろう。

「この作戦に髄液啜り自体は現われないわ。対応する必要があるのは『シタイアサリ』という妖たちね」
 シタイアサリは体長3メートルほどの卵型をした妖で、四本の短い足と六本の長い腕が特徴だ。
 死体を見つけ次第、腹に空いた巨大な口から放り込んで保持し、一定数を確保したら撤退するとみられている。
 資料にある情報によれば『腕による掴みかかり』『殴りかかり』『スタンピング』といった攻撃方法をとり、戦闘よりも死体を持ち帰ることをメインに動くだろう……とあった。
「作戦エリアで確認されているのは5体。駆けつけた頃には既に回収がいくらか進んでいるだろうから、倒して死体を持ち帰らせないことが重要……といったところかしら。質問はある? ……そう、じゃあ資料を見てちょうだい。健闘を祈ってるわ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.シタイアサリを3体以上倒す
2.なし
3.なし
 こちらは全体シナリオ<大妖一夜>のひとつです。

●エネミーデータ
・シタイアサリ×5
 R2物質系妖。
 攻撃方法は『物近単【虚弱】、物近列【鈍化】、物近単貫通2』の三種類。
 この個体は戦闘を放り出して本気で走ると通常の3~4倍の速度で逃げ去ることができるため、相手が死体回収を終えるまえに倒すのがカンジンです。
 また、全体数が少なくなったり戦闘の不利を悟ると回収した死体もろとも逃げだそうとします。逃走を阻止するプレイングがバッチリしていると、このリスクを潰せるかもしれません。

 何体飲み込めば満タンになるかは分かりませんが、少なくとも皆さんが妨害に入る時点で満タンはありえないので気にする必要は無いでしょう、と資料にはあります。
 また、体内に保持した死体は妖によって守られるため攻撃で傷つくことはありません。妖を倒すことで無傷で取り返すことができます。
 逆に言うと『倒す前に死体だけ引っ張り出す』といった行為には死体が大きく傷つくリスクが伴います。できるなら最後の手段にしたほうがよいでしょう。

●シチュエーションデータ
 妖の襲撃によって既に壊滅した中継施設です。
 他の作戦エリアとは離れており、生存者はおりません。
 多くの人々は施設から逃げ出す最中に殺されているため、戦闘フィールドは必然的に野外。舗装されたアスファルトの二車線道路の上となります。

●重要な備考
<大妖一夜>タグがついたシナリオは依頼成功数が、同タグ決戦シナリオに影響します。
 具体的には成功数に応じて救出したAAAが援護を行い、重傷率の下降と情報収集の成功率が上昇します。
(※こちらの依頼結果は、『シタイアサリ』を何割倒しきるかで、本来は逃がしたシタイアサリを追いかけるはずだったAAAスタッフが決戦シナリオ側へと移る形で影響します)


2017.5.3修正

誤 攻撃方法は『物近単【崩壊】、物近列【鈍化】、物近単貫通2』の三種類。

正 攻撃方法は『物近単【虚弱】、物近列【鈍化】、物近単貫通2』の三種類。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年05月12日

■メイン参加者 6人■


●大妖ゆえの恐怖
 全国のAAA支部が蹂躙され、人類における大々的な対妖戦力が潰えていく。それはもはや、止めようのない波となってすぐそこまで押し寄せていた。
 しかし、波は止められずとも逃げることはできる。
 AAAの救出や妖の足止め作戦が行なわれる中、やや異質な『死体救助作戦』がこの地で行なわれようとしていた。
「死体が回収されれば、またあの時のように改造妖が作られてしまうでしょう。それは戦力的にも、精神的にもつらいことのはずです」
「私たちにできることは、妖さんたちを倒して止めることなんですね」
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と賀茂 たまき(CL2000994)は、揺れる軽トラックの荷台でそれぞれの決意に手を握りしめた。
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が、今にも飛びださん勢いで車内のバーを握っている。
「亡くなった人たちは家族のもとに帰すんだ。妖の材料になんてさせない!」
「んっ、大体みんな同じ気持ちっぽいな」
 顔をしかめて腕を組む『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
 普段バトル以外のことに気を回さない彼といえど、髄液啜りの所行にはムカついて仕方ないようだ。
「『人の命をなんだと思ってるの』……って、なんとも思ってないんだろうね。妖って」
 楠瀬 ことこ(CL2000498)はツンとした態度で幕の外を見ていたが、やはり感情の動きを止めるには至らないようだ。彼女も彼女で珍しく、怒りや憎しみといった感情をわかせているのだろう。
 人類史において幾度も繰り返されてきたことではあるが、『敵の死体を活用すること』における最大の特徴は、敵の怒りや恐怖をあおりやすいことだった。
 『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は、髄液啜りが分かってやっているのではとにらんでいたが……。
「本当に、皆が危惧した通りになったね」
 できることは、やらないと。

●逃走阻止および突入作戦
 ご武運を。そう言って運転手は二台を覆っていた膜をフレームごとパージ。
 妖の間を駆け抜けるように走るトラックの荷台がフルオープン状態となり、覚者たちが飛び出していく。
 妖たちもトラックが突入してきた時点で対応の構えをとっていたが、覚者が1チームまるごと現われたことでより高度な迎撃姿勢へとシフトする。
 そんな中でも最も早く飛び出したのが奏空だった。
「逃がさない。これでもくらえっ」
 奏空は大きく飛び上がると、逆手に握った刀の柄頭をトンと叩いた。
 術式が発動し、あたりにまどろむような空気が広がっていく。
 危険を感じた妖が空気(というより雰囲気のようなもの)を振り払いながら後退するが、間近で受けたものは逃げ切れずに意識をとろんとさせはじめる。
 追って、荷台から飛び降りロールをかけて立ち上がった遥とラーラ。
「ラーラ、ターゲッティング頼むぞ!」
「任せてください」
 ラーラは目を通すように指で円を作ると、凸レンズ状の魔方陣を展開させた。
 相手の能力を把握するにはちょっと手間がかかるものの、現段階は『とりあえず』で大丈夫だ。
「一番奥の個体を狙います。序盤は私と奏空さんで催眠攻撃を仕掛けますから、その間に敵の数を減らしましょう」
 そういうと、ラーラは指先にろうそくのような火をともした。左右にゆらゆらと動かして妖を眠りに誘っていく。
「一番奥だな、よし……!」
 カラテの姿勢をとったまま小走りに距離をつめにかかる遥。
 ブロッキングをはかる妖が現われたが、気にすることはない。
「まずはご一緒に、いきましょう!」
 手のひらよりも大きな護符を引っ張り出しつつ、たまきが遥とクロスするように走り始めた。
 妖がどちらを掴んでいいか迷った隙に通り抜け、奥側の妖へと攻撃をしかける。
 たまきの突きだした護符が一瞬で燃え尽き、かわりに地面が激しく変動した。まるで水面から現われた竜が獲物に食らいつくかのごとく、妖をホールドしたのだ。
「そのままつかんどけっ!」
 遥の飛び込み正拳突き。
 妖の一部がぼこんと崩れ、慌てたように身じろぎする。
 だが。
「逃がさない」
 素早く駆け寄り、妖の頭上に飛び乗る秋人。
 引き絞った弓を至近距離で放ち、妖の肉体を破壊した。
 倒れる妖から飛び降り、膝のバネをきかせて着地。
「逃げようとしても、もう逃げられないだろうけどね」
「ことこちゃん参上! お持ち帰りは遠慮してね☆」
 ビッと横ピースしたことこが、『ことこちゃんメダル』を親指で弾いて天に飛ばした。
 メダルがはじけ、キューブ状の結界が網のように展開していく。
「逃がさない。ぜーったい、逃がさないんだから!」

 妖との戦いはまだ始まったばかりだ。
 二~三発殴れば消えてくれる低級妖と違って、シタイアサリは頑丈でやや強力な妖だ。一体倒すだけでも一苦労である。
 そんなわけで、二人がかりで敵を眠らせその間に倒す作戦とは若干相性が悪い相手でもあった。相手の逃走を防ぐために、あえての選択である。
 (効果時間最低10秒ということもあって)その場に寝転んでグーグーやるわけじゃないので本当に効果があるかどうかはちょっと分からないが、少なくとも行動不能中にいきなりダッシュで逃げたりはしないだろう。
 注意するべきは、この安全策に頼って長期戦を目指すといいところで逃走を許してしまう危険があるということだった。
 うまいこと全員寝かし続け端から順にキュッとシメていければ一番楽なのだが、確率の神様がいつまでも笑ってくれるとも思えない。
 相手の数が半分になるかならないかの所で催眠攻撃はやめたほうが良さそうだ、と奏空は考えた。その辺りからは、全力攻撃で速やかに全滅させる方がいい。
「けど今は、有利な状態を作れるからかなり助かるかなっ」
 奏空は迷霧を展開させながらことこに合図を送った。
「敵の攻撃で弱体化させられるとつらい。頼めるかなっ」
「任せてっ」
 ことこは何か決意を固めるかのように足をドンと踏みならすと、ポケットからスプレー缶を取り出した。散布するどころか空に放り投げ、内側から破裂させる。
「こんな間近で妖と戦うのは恐いけど……」
 そこらじゅうに妖に殺された死体が転がっている。
 妖たちは彼らを拾い集め、持ち帰り、世にも酷いことをしようとしているのだ。
「このひとたちを連れ去られるのは、絶対イヤ!」
 ことこの散布したスプレーガスが奏空たちに降り注ぎ、身体を神秘的に保護しはじめる。
「これだけではまだ隙があります。万全に整えましょう」
 ラーラはジェリービーンズを一握りすると辺りパッとまき散らした。まいたそばから小さな魔方陣が生まれ、魔方陣から炎の黒猫がぴょこぴょこと現われる。
「この子たちが脅威から守ってくれます」
「じゃあ、俺の役目は回復かな」
 秋人が後退しつつ、遥やたまきの戦闘に加わっていく。
 遥は妖の踏みつけ攻撃をジグザグなバックスウェーでかわし、突きのタイミングを計っているようだった。
「あんま人間なめんじゃねーぞ! オレらは道具でも玩具でもねえ!」
 妖が強烈なボディプレスを仕掛けてくる……が、割り込んだたまきが妖にむけて手を翳した。
 粉石を固めて焼いた花札柄の護符が散らばり、壁のようにぴったりと整列する。
「たまきすげー!」
 それはもはや壁そのもので、妖のプレスをがっちりと受け止めた。
 めきめきと壁が音を立てる。耐久限界を迎えた札がひとつまたひとつと割れて散り、壁の形も歪んでいった。
「大丈夫かたまき!」
「すみません、これ以上は……」
 押さえきれないと判断したのか、たまきは自らの腕に護朱印帳を巻き付けてガード。
 妖のアタックに大きく吹き飛ばされた。
「たまきちゃん!」
 振り返る奏空……だが、吹き飛んだたまきは秋人がしっかりとキャッチしていた。
「大丈夫。フォローはまかせて」
 秋人は腰のホルダーから小さなボトルを取り出すとたまきに飲ませた。
「術式性の治癒水だよ。飲み込んで。……それと、みんなにも」
 更に秋人は矢の先端にボトルを接続して空へ発射。術式の破裂によって降り注いだ雨が遥たちを治癒していく。
「よっしゃ!」
 気合いを入れ直した遥は、妖の頭に強烈なパンチを叩き込む。頭が吹き飛び、倒れる妖。
「ラストスパートだ!」

 鍵を取り出し、魔導書の鍵穴へと差し込むラーラ。
 いちどひねると、封印がぱたぱたと外れていく。
「よい子には甘い焼き菓子を。悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 開いた魔導書から複雑なマス目のような魔方陣が三枚出現し、それぞれのマスに古代文字がうきあがっていく。
 重なったマスが魔法の言葉となり、90度ずつ回転する魔方陣がさらなる魔法の言葉を生んでいく。
 多重に絡まった魔法は攻撃的な炎となり、さらには連なる炎となり、さらにはひとつながりのレーザービームとなった。
 妖を包み、焼き尽くしていく。
 中身の死体だけを残して消え去った妖を見て、残りの二体は不利を察して回れ右をしはじめた。
「逃がすか!」
 走り去ろうとする妖。しかし遥が猛ダッシュで回り込み、両手を広げて通せんぼをした。
 とはいえ一瞬のことである。遥が無限に残像をつくりながら反復横跳び出来るんでも無い限り永遠には逃走を防げない。
 ……とか言ってみたが、こんなものは一瞬で充分なのだ。
「たまきちゃん、いくよ!」
「はいっ!」
 奏空の放った刀が妖の背に突き刺さる。
 たまきの放った無数の花札が列車レールの如く妖までのルートを繋いだ。
 高速で走り出す奏空。エネルギーが彼を押し、超高速で駆け抜けた奏空は妖を真っ二つにしてからブレーキをかけた。
 残りは一体。別方向に逃げる妖。
 ここでひとつ。皆は覚えているだろうか。
 一番最初にことこが張り巡らせた結界のことを。
 びたんと壁にぶつかって倒れる妖。結界はべっこりと歪んだが、妖を倒すだけの時間は充分にあった。
「言ったでしょ。逃がさないって」
 ことこはギターピックを手に取ると、凄まじい勢いで投擲した。
 妖の身体に刺さり、先端から成長した種子が激しい破裂によって妖の肉体を消し飛ばしてく。
 ぎゅ、っと弓を構えて矢を引き絞る秋人。
 弓の狙いは妖の背中である。
「これで終わりだ」
 想いの乗った矢は空圧を集め大鷲となり、妖を螺旋状に貫いて空の彼方へ消えていった。
 ばったりと倒れ、消えていく妖。
 あとに残ったのは、妖の襲撃によって死亡した職員たちの死体だけだった。
 深く深く息をつき、弓を下ろす秋人。
「かみさまのところで、どうか安らかに」
 目を閉じて少しだけ祈ることこに皆気持ちをあわせた。
 今すぐには無理でも、やがて人々が遺体を集め、丁重に弔ってくれるだろう。意味ある生や死として、遺族のもとに帰ることだろう。
 移動用のトラックがやってくる。
 次の戦場へ、急がなくては。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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