<大妖一夜>人命救助は蔓と血吸い地獄なり。
<大妖一夜>人命救助は蔓と血吸い地獄なり。


●大妖、AAA襲撃す。

 十数年前に『紅蜘蛛』継美を倒したAAAに興味を持ち、突如、大妖の三体が動き出した。

『斬鉄』大河原 鉄平は暇つぶしに。

『新月の咆哮』ヨルナキは狩りの続きのために。

『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号は付き添いで。

 そして『後ろに立つ少女』辻森 綾香は、中立の立場をとる。


 気まぐれともいえる大妖の動き。それに伴い動き出す妖達。
 後に<大妖一夜>と呼ばれる一夜限りの襲撃の始まりである。

 天災ともいえる妖の襲撃。それに対抗するには例え覚者とはいえ力不足だ。
 ただでさえ疲弊しているAAAはこれで壊滅的なダメージを受けるだろう。

 電波障害が解決した我が国。
 その光景は皮肉にも、電波に乗って全国に広がった。


 日本全国の人々が、今まで自分達を守ってくれたAAAの最後をリアルタイムで知る事となるのだ。

 誰もが諦観する中、唯一、『FiVE』だけが動き出す。

 わずかでもAAAの職員達を救う為に。
 そしてこれ以上、絶望を電波に乗せて、国民達を悲しませる事のないように……。


●救出作戦開始

 AAA京都支部。

 その建物の中は、妖達で溢れていた。
 少しでも早く職員達の救出を優先したいこのチームは、なるべくの戦闘を避け、外からの突入を狙っていた。

「見て下さい。4階のあの部屋。あそこに行くのを阻むように、妖達がいます」

 建物の1つの窓を指差して、相沢 悟(nCL2000145)が仲間達へと囁く。
 阻むように壁に沿い伸びているのは、つる性の植物達。
 そのうちの何本かが妖化し、獲物を探すように幾つものつるを彷徨わせていた。

「あの植物、上手くすれば問題の部屋まで伝って登れそうだな」

 1人の覚者がそう言って、先陣をきった。
 つるを掴み、その『常緑つる性低木』を登っていく。

 ――しかし。
 すぐさまつるが、覚者を捕らえた。
 腕に。首に。腰に。足に。
 つるは巻き付き覚者の動きを止める。

 そして。

「あ……あぁ、やめッ……は、ぁ……この……くっ、あ……」

 首筋へと刺したつるで、血を吸っていった。
 覚者が攻撃をしかけても、思うように力が出せぬ様子が伝わってくる。

 けれども。

 その植物の、つるの動きが鈍っていた。

「今なら行けそうです! 1階部分のつるは登れます。残りの植物の妖3体、なんとか頑張って抜けましょう! 今まで力を貸してくれた、AAAの方々を助ける為に」



「皆さんの勇気を信じています!」
 捕らえられた覚者の様子に蒼褪めた悟が、それでもぐっと拳を握る。



(……だから、囮は任せます!)


 ――そう、悟の瞳が言っていた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:巳上倖愛襟
■成功条件
1.AAA職員達の救出
2.なし
3.なし
皆様こんにちは、巳上倖愛襟です。
今回はAAAの職員達を助ける為、生物系の妖に挑んで頂きます。
よろしくお願いします。

●外壁
敵は2~4階の各階の外壁に1体。合計3体です。
1体に1人が捕まり囮になれば、その妖はつるの動きを鈍らせますので、その間に他の仲間達はつるを登って行く事が出来ます。
捕まっている間は不自由な為、思うように攻撃出来ません。
攻撃力が半減しますので、1人で囮になった場合、妖を倒し自由になるまでに時間がかかります。
1体につき2人以上で囮になった場合、その分早く妖を倒す事が可能です。


※ご注意
・当任務は、より早く4階の部屋へと誰か1人でも辿り着く事が重要となります。

・全員で外壁にいる敵を一斉に攻撃した場合など、目立つ行動を取るとその気配を察知し、他の場所に居る同じような妖が寄ってくる事になりますので、ご注意下さい。

・外壁の妖を倒さず部屋内に入った場合、外壁の妖が部屋内に侵入し、攻撃してきます。


●4階部屋内
生物系妖が2体います。
けれども6人のAAA職員を捕まえ血を吸っていますので、つるの動きは鈍いです。
窓は閉まっていますが、鍵はかかっていません。


●敵(生物系)

・『テイカカズラ』(外壁)×2体…つる性の常緑品種。春に芳香をもった白色の小さな花をつけます。

・『ハツユキカズラ』(外壁)×1体…つる性の常緑品種。春に芳香をもった白色の小さな花をつけます。

・『モッコウバラ』(室内)×2体…7m程度まで成長する常緑つる性高木。花は小さいですが数が多く見栄えがします。芳香はあまりしません。

【敵・共通攻撃】
 攻撃力は高くはないですが、4本のつるで攻撃してきます。(つまり1ターンにつき4回攻撃)

・『締め付け』…敵の体に巻き付いて自由を奪い、攻撃力を下げます。

・『吸血』…先を尖らせたつるで敵を刺し、体力を奪います。


●救出対象
部屋内に居るAAA職員6名。
全員覚者ですが、突然の強襲であった為に、捕まっています。

AAAの職員達を戦闘不能にせず救出しようと思えば、回復スキルを持つ者がなるべく早く部屋内に到着する必要があります。

●プレイング
血を吸われる部位等、何かご希望がある場合は、プレイングにお書き下さい。
(マスタリング判定によりご希望通りの描写が出来ぬ場合がございます。ご了承下さい)


●相沢 悟(nCL2000145)
『B.O.T.』『炎撃』『火炎弾』『樹の雫』『医学知識』『マイナスイオン』を活性化しています。
基本的に4階の部屋へと到着する人員希望ですが、よりよい回復役がいる場合等、囮役となる事も可能です。リプレイでは最低限描写。
指示がある場合、『相談ルーム』にて【悟へ】とし、指示をお書き下さい。(プレイングに書く必要はありません)


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●重要な備考
<大妖一夜>タグがついたシナリオは依頼成功数が、同タグ決戦シナリオに影響します。
 具体的には成功数に応じて救出したAAAが援護を行い、重傷率の下降と情報収集の成功率が上昇します。

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以上です。
それでは、皆様とご縁があります事、楽しみにしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年05月12日

■メイン参加者 6人■

『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)


「なんでいきなり、こんな事態に……」
 建物の壁に沿い蔦を揺らす妖を見上げ、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は小さく落とした。
「まさか、京都支部が襲われるなんて……」
 この状況をまさかと、信じられない思いで見つめているのは、『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)も、他の仲間達も一緒。
 そして――。
(一刻も早く助けに行かなくっちゃ)
 鈴鳴が心中で抱いた決意もまた、全員の決意と同じであっただろう。

「それにしても、ちゅーちゅーされる事を前提にしてた作戦ってすごいな……」
 思わず出てしまった『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の台詞に、頷きたい者もきっと何人か。
「なるべく戦闘を避ける為に外からって事は、中にもいっぱいいるって事かな」
 暗視を使い妖の動きを見上げた奏空の言葉に、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)も、あくまで人命を優先したいからなと頷いた。
「中にいる妖を倒して進んで行くよりは、安全かつ迅速に行けるのであれば仕方あるまい」

(……それにしてもよくもまあわらわらと、湧いてきたものだ)
 呆れたように、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は1つ溜め息を吐く。
 ――とにかく、助けられる人は助けないとね。
 視線を1階の妖に捕われている覚者へと向けて、もちろん彼も、と仲間達を見回した。
「ここは任せて、皆は上へ」
 全員が頷き、まずは鈴鳴が白き翼を大きく広げる。
(囮として捕まるのはちょっと怖いですけど、これも職員さんたちを救うためです)
 『超純水』で自然治癒力を上げると、奏空の腕を掴んだ。
「ちゅーちゅーされるよー! じゃない! AAAの職員さん助けるよ!」
 奏空の気合の籠る声に、相沢 悟(nCL2000145)がパチパチと小さく拍手。
 そのキラキラとした、尊敬の眼差しがなんだか痛い。
「ともかく相沢君! ちゅーちゅーされに行って来るよ!」
 初ちゅーちゅー体験だから、ちょっぴりドキドキでわくわくな処もある。けれど――。
「俺の雄姿を後世に伝えてくれ!」
 嫌な予感の方が勝っているのに、思わず強がってしまった。
「工藤さん、さすがです!」
 そんな悟には、力強くサムズアップ。2人で囮となるため、鈴鳴が飛行を使って飛び上がった。

 まずは2階の囮。
 上へと向かうフリをして、蔓へとわざと捕まる。
 4本の蔦が奏空の足と腕、鈴鳴の足と翼へと絡んできた。
「く……今のうちに、登ってしまって下さいっ……」
 鈴鳴が伝えた言葉に、ゲイルがコクリと頷く。壁に沿い伸びている植物のつるを掴み、しっかりと登って行った。
 3階の蔦を握った途端、その腕に、足に、腰にと、4本の蔦が絡みついてくる。
「……っ……!」
 蔦の動きに体を硬直させ、しかし大声を出してしまわないようにグッと堪えた。
 ゲイルが捕まったのを確認してから、ミュエルはハイバランサーで一気に蔦を登ってゆく。
 自分から、妖に捕まりに行くのは、正直怖い。
(けど……頑張って、耐えるよ……)
 4階の外壁に着けば、揺れていた蔦がすぐさまミュエルを捕らえた。
 蔦の動きが鈍ってから、『送受心・改』で仲間達へと伝える。

(「準備完了」)

 ――4階の部屋で弱ってる皆さんが心配ですね。
 ミュエルの送受心・改で妖全てが罠にかかったのを把握した『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)は、一刻も早く駆け付けたい思いを胸に、黒翼を広げる。
 悟を抱えようとして、ふと真顔で聞いた。
「お姫様抱っこがいいですか?」
 なっ……、と顔を真っ赤にした悟が、23歳の姿へと変化する。
「飛んでる間に何かあった時、天野さんを守るにはこの姿になるしかないから。重いでしょうけど……えっと、どちらにしても【普通】に! 抱える感じでお願いします」
 そうですか? と少し首を傾げながら返すと、彩吹を振り返った。
 きっと彼女は、全ての妖と対峙する事になるから――。
「気をつけて」
 声をかけ、飛び上がった。
 ありがとう、と澄香を見送って、彩吹は目の前にいる覚者と妖を見据える。
 醒の炎で能力を上げると、男の血を吸い続ける蔦へと豪炎を纏わせた拳を叩きつけた。
「今助ける。少し待っていて」
 低く告げた彼女に、ヒュンと蔦が鋭く伸びていた。


「きゃっ……うぅ、香りはいいですけど、離して下さい……!」
 翼ごと蔦に捕らえられ、上手く身動きが取れない鈴鳴は、刺してきた蔓の痛みに耐えていた。
 ちょっとの辛抱です、と己を奮い立たせる。
 苦手な注射に似ている痛みに――血を吸われているのだからきっと『採血』そのものの痛みに、グッと堪えていた。
 頑張るそんな彼女があまり血を吸われぬようにと、一緒に捕らえられている奏空は「俺ががっつり囮になろう」と決意する。
「ほーら貴重なRh-0型の血液だぞー! 俺の血は美味いぞー!」
 妖が、言葉の意味をどこまで把握出来たか。
 それは判らないけれど、元気に暴れた奏空に、鈴鳴の血を吸っていた蔦のうちの1本が向かってきた。
「って……いっぺんに3本とかやめて!? いや、ちょっと……」
 けれどもお構いなし。妖は全然、聞いてくれない。
「そこは力入らない所だから……駄目ぇ!」
 大声は抑えているものの、拒絶の声が、思わず出てしまう。
 良いタイミングか、最悪か。
 目の前を、澄香と悟が昇って行った。
「あのね、相沢君! もののはずみで言ったけど、後世には伝えなくていいからー! アッー!」
 え? と悟の顔が問うている。
 掠れた声は、上手く聞こえなかったらしい。
 ああ、とポンと手を打って。昇りながらサムズアップ!
 いや、違うから。ほんと違うから!
 注射がトラウマになりかけながら、奏空は「んぎゃぁ……」と色々な意味で声にならない悲鳴を上げていた。

「私たちも必ず後を追いますから、信じていますね」
 鈴鳴の言葉には、澄香が頷く。
 澄香達が4階に辿り着いたのを見届け、奏空へと声をかけた。
「 奏空さん、今です。抜け出しちゃいましょう!」
 鈴鳴が放つエアブリットは、奏空を捕らえている蔦を狙う。そして奏空は、蔦へと雷獣を落とした。
 更にきつく巻き付いてきた蔦を相手に、鈴鹿はめいっぱいの抵抗をして逃れようとする。それは一重に、AAAの職員達を一刻も早く救いたい――その一心からであった。

 なんとか1階部分の蔦を倒した彩吹は、「大丈夫?」と絡まったままの蔦から男を救い出す。
 様子を確認すると、彼が戦闘不能となっている事が判る。
「大……丈夫だ……」
 そう答えながらも、立ち上がる事すら出来ない。
「申し訳ないけれど 回復手段がないんだ」
 彩吹の言葉に、「気にしなくていい」と僅かに笑う。立ち上がる事は出来ないが、重傷を負う事は免れた。それは、彼の事も気にかけ、一階に留まる事を選んだ彩吹のお陰であろう。
 彼を抱えて、建物から少し離れた場所へと男を移す。
「貴方の分も、残っている人達を必ず助けるよ」
 安心して、と。悔しいだろう男に微笑んだ。

 開けた窓から悟が4階の部屋に入ると、澄香もそれに続く。
 窓枠に手をかけ、入る直前、一瞬だけ下を見下ろした。
 血を吸われている、囮となっている仲間達の様子に、心がぎゅっとなるのを感じる。
 ――でも。心配ではありますけれど、大丈夫。
(……皆さんは、強いですから) 
 心で念じ、部屋へと足を踏み入れた。
 中に入れば、天井まで伸びたモッコウバラに捕らえられている6人のAAA職員が目に入る。
 2体の妖に血を吸われているが、逃れようともがいていた。
 彼等へと近付き、大樹の息吹で回復を試みる。1度に全員を対象とするのは無理だったが、悟も樹の雫を使い、まずは彼等の回復を優先した。
 彼等が動けるようになるまで回復し終えると、静かにモッコウバラを見つめる。
 植物は大好きだ。本当ならば、傷つけたくはない。けれど――妖化してしまったものは放っておく訳にはいかなかった。
「ごめんなさい、退治させて頂きます、ね……」


 1人で囮となっているゲイルの消耗は早い。
 癒しの滴で己を回復しながら、蔦の攻撃に耐えていた。
「…………っ!」
 目立つ行動を取れば、他の場所から妖が来てしまう。大声を出さぬよう、血を吸われても声を洩らす事のないよう、堪え続けていた。
 まるで意思でもあるのではないかと思える程、蔦はゲイルの内腿や脚の付け根辺りを狙ってくる。
 そこから血を吸われる感触は、なんとも――。
「……くっ……」
 歯を食いしばり、ひたすら耐える。震える己の体を奮起させ、絡み付かれ血を吸われる合間に攻撃を仕掛けていた。
 動けぬ体をなんとか動かし、猛の一撃を放つ。力が半減し大した威力は与えられなかったが、「仲間達が合流するまで」――と。そして仲間達が合流した時に少しでも早く倒せるようにと、努めていた。

「痛くない……痛くない……こんなの、痛くない、から……」
 4階で1人蔦に捕まるミュエルもまた、蔦が皮膚を刺し血を吸う痛みを堪えながら、自己暗示をかけていた。
 首筋から血を吸われる感覚は、他の箇所から吸われるより恐ろしいだろう。痛みにも、敏感になってしまう。本当なら蔦からすぐにでも抜け出し、倒してしまいたい。
 けれども仲間達の到着を待つ為、攻撃よりも己の体力を減らさない事を最重視する。
 樹の雫で体力を回復しつつ、仇華浸香で妖の身体能力を弱めようとしていた。
 けれども蔦が絡まる体は上手く動かせず、攻撃も狙うようには上手く出来ない。それでも少しずつ、敵を攻撃しては削り、懸命に4本の蔦と戦っていた。
 ミュエルの血を吸う蔦へと、高速で飛ばされた水礫が当たる。
 見れば、下から来た仲間達と合流したゲイルが、蔦を登ってきていた。
「大丈夫ですか?」
 心配そうな鈴鳴に微笑んで、「平気、だよ……」と答える。
 増援が来てくれたから、本気が出せる。本来の力が出せる。
「本気で、いくよ……」
 妖へと告げると、非薬・鈴蘭の毒を、蔦へと流し込んでいった。


「悟くん、弱らせたところに攻撃をお願いします」
 4階の室内では、2人の職員を澄香と悟が救出できていた。残りの職員達も早く救出してあげたいが、1度に4本の蔦で攻撃してくる妖2体に、2人は攻撃よりも回復優先を余儀なくされていた。
「遅くなった。大丈夫?」
 声に、そちらを向く。飛行してきた彩吹や鈴鳴を先頭に、仲間達が窓から合流した。
 囮役達の無事な姿に、澄香はホッと胸を撫で下ろす。
「はい、大丈夫です」
 ですがまだ職員の方達が、と捕らえられたままのAAAの4人へと視線を移した。
「まずは救出を優先ですね」
 身を低くし言った奏空が、地烈を放つ。命中した連撃に妖は1人の職員をボトリと落とし、側面から放った鈴鳴の薄氷の貫通には、もう1人を床へと落とした。
(この後、建物から脱出しなければならないことも考えると 戦闘不能者は出さない方がいいだろう)
 そう思うゲイルがすぐさま2人を抱え上げ、仲間達の後方に運ぶ。
「また捕まらないように守らないとな」
 ゲイルの言葉に同感と頷いて、射線を遮るようにFiVEの覚者達が妖の前へと立ちはだかった。
「暑くなる前に 雑草は全部抜いておかないと」
 前衛へと立つ彩吹が、双刀を振るう。疾風の如き刃が、斬撃を重ねた。
「夏になると面倒なんだよね」
 肩を竦めるようにして、不穏な台詞と共に笑顔を浮かべる。
 そしてミュエルの放った仇華浸香に、もう1人、職員が解放される。しかし蔦がミュエルを襲い、その腹部から血を吸った。
「また、同じ攻撃なんだね……。あんなの、痛くなかったし……怯まないよ……」
 ミュエルが強い意思と共に告げる。そして奏空が、残る1人の職員を救う為、再び地烈を放っていた。強く締め付ける蔦に職員が顔を歪め、ゲイルがその蔦を狙い、猛の一撃を与える。
 思わず落とした職員へと再び伸びる蔦には、澄香が種を付着し急成長させる。逆に蔦の自由を奪い、踊るように蔦を揺らせた。
 職員が全員解放され、鈴鳴が交響衛士隊式応援術『聖援の舞』で仲間達を含め全員を回復する。
「突然の衝撃に油断したが、俺達もまだ戦える」
 FiVEの覚者達の背後から、そう言ってAAAの覚者達も攻撃に加わった。
 炎撃を放った悟の前、彩吹が霞舞で己へと攻撃を向けさせ、カウンターを狙う。
 ミュエルの非薬・鈴蘭の毒に妖達は苦しみ、合計13人の覚者達からの攻撃で、あっと言う間に殲滅された。


 戦闘が終われば、ゲイルが全員の状態を確認する。
 1階にも1人、2階では2人が囮となり順々に下の階から妖を倒してゆくという作戦。回復を持つ2人を先に4階のこの部屋へと向かわせた作戦。そして回復を持つ者が多くいる班であった為に、救出するAAA職員の覚者達も含め、動けぬ者は1人としていなかった。
 けれども4階のこの部屋から脱出するため多数の妖と戦闘していけば、出口に着くまでに戦闘不能者が出てしまう事だろう。
 流石に負傷者を守りながら戦闘して行くのは難しい。
「目立つ行動は控え、迅速に撤収しなくてはな」
 仲間達もそれは同意見。澄香や彩吹、鈴鳴は飛行を使い、AAAの職員を優先的に窓から地上へと降ろした。
 地上へと降りたミュエルは、彩吹と共に1階で捕まっていた男の様子を確認する。
「どうかな?」
 心配する彩吹に頷いて、あまり効果はないだろうけれど、と樹の雫をかけてあげた。
「逃げ出すまでに、他の妖がいたら……アタシ達が守るから、頑張って一緒に逃げようね……」
 ミュエルの言葉に男は微笑んで、「ありがとうな」と2人に礼を言う。
「悟くん、頑張りました、ね」
 そう褒めて思わず頭を撫でてしまった澄香に、照れた悟が「ありがとうございます」と首を縮めた。
「天野さんも皆も、無事で良かったです」
 微笑み言って後退り、悟はダッと奏空の所へと走る。
「工藤さん、どうしたら子供扱いじゃなく、男として見てもらえますか?」
 恋人のいる先輩へと相談してきた後輩に、「そうだなぁ」と答えながら、奏空は慰めるようにポンポンと悟の頭を撫でていた。

 救出が無事終えると、鈴鳴の胸には新たな決意が生まれる。
 それは。

 大妖の元へ向かうこと――。


(絶対、1人でも多く守ってみせるんだから……!)

 その想いは、誓いは、きっと全員が同じ。
 FiVEの者だけではなく、AAAの覚者達も――。

「俺達も行く!」

「まだ、力を貸してくれるのか?」
 職員の1人が問う。
 当然だ、と頷いた彼等に、AAAの覚者達は目を潤ませ、頭を下げた。
「ありがとう。大妖との戦いが、どんな結果に終わろうとも」
「例えAAAがどうなろうとも」
「君達の誠意を、忘れる事はない」


「皆さん、気を付けて。きっと、ご無事で――」
 戦闘不能となった覚者を安全な場所へと運ぶ為、悟はこの場へと残る。
 けれども想いは同じだと、彼等の背中を見送った。


「では、共に……!」
 鈴鳴の言葉に、AAAの覚者達が力強く頷く。

 まだ、終わらない。

 苦戦は、承知の上。
 大妖との戦いへと、真っ直ぐ前を見据え、覚者達は駆け出したのだった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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