【儚語】未来をこの手につかむ為
【儚語】未来をこの手につかむ為


●拘束された夢見の子
 そこは、とある廃屋の中。
「もう、嫌なのじゃ……」
 ほろりと涙を流す少女。その体には、たくさんの傷がつけられていた。
 その娘の身体を、大柄な男が機械の両腕で乱暴に掴む。
「うるせえな、てめぇはただ、視たことをそのまま俺達に伝えればいいんだよ!」
 大柄な男、三ツ矢が少年を思いっきり殴りつけると、娘は血を吐いて床に転がってしまう。
「汚すんじゃねぇよ!」
 三ツ矢は機械の足で娘に蹴りを入れた。すると、牛の角を生やした男が雑巾を取り出して血を拭き取る。
「ここが一軒家でよかったぜ……、おい!」
 三ツ矢が叫ぶと、外にいた細身の男が家の中に顔を覗かせる。
「大丈夫です。こんな所に人なんて来やしませんよ」
「ったく、折角夢見を手に入れたってのに、こんなに扱いづらいとはよ……!」
 これは、三ツ矢のお決まりの文句。さらに、周りに当たり散らすものだから始末が悪い。他の2人の男もいつものことだと分かっていたようで、リーダーの癇癪が収まるのを黙って待っていた。
 3人は、『三本矢』を名乗って活動する小さな隔者のグループだ。覚者となった彼らは私利私欲の為に力を使い、細々と生きている。敢えて群がらず、小規模で活動しているのは、この娘、菜花・けいの存在があった。
 彼らが菜花を手に入れたのは、偶然だった。当初は運よく夢見の力を持つ者を手に入れたと喜んだものだが、下手に動くと、大きな組織にバレる危険がある。『七星剣』などに目を付けられようものなら、自分達など一溜まりもない。象に踏まれたアリのように、たやすく潰されてしまうだろう。
 その為、3人は人が多い場所を避け、各地を転々としている。
「この疫病神が……」
 三ツ矢は忌々しそうに菜花を睨む。
 希望するタイミングでちゃんと予知し、それを伝えてくれればまだいいが。予知のタイミングはバラバラ、おまけに口を噤んで喋らないこともある。
「最悪だぜ……畜生!」
 バアン!
 家の中から、三ツ矢が感情の荒ぶるままに機械の腕を振るい、派手に床を壊す音が聞こえた。
 
●夢見の子を救え!
 覚者達が会議室へ向かうと、久方 真由美(nCL2000003)が神妙な面持ちで待っていた。
「依頼の説明を行いますね」
 始動し始めた『F.i.V.E.』。それに伴い、色々な勢力が反応を見せている。
 扱う案件が増えることを見越した『F.i.V.E.』の最初の一手は……。
「私達以外の夢見の引き入れ、ですね」
 さすがに、このまま3人だけでずっと夢見を行うのは、夢見3兄弟の負担が大きすぎるし、事件に対応ができなくなることが予想される。
 それもあって、真由美はそれに該当する事件を探していたのだが……。
「京都府のとある山の中で、夢見の少女……いや、少年が隔者グループに囚われてしまっています」
 『三本矢』は、三ツ矢を筆頭にしたグループだ。表立った活動はしておらず、こそこそと恐喝や窃盗などを行っている。
 そして、少年の名は、菜花・けい。一見少女だが、れっきとした男の子である。
「隔者は『三本矢』を名乗るグループ……といっても、3人だけですが」
 真由美は覚者達に資料を手渡す。そこには、隔者達の名前と年齢、簡単な能力などが記載されていた。
「菜花さんは自身の夢見の力を悪用されることに、抵抗を持っています。それを、三ツ矢が力ずくで行使させている状況が続いています。このままでは、菜花さんの体力がいつまで持つか……」
 真由美は表情を硬くしたまま、覚者達へと少年の救出を託す。
「夢見の少年だから、ということもあるのですが……、それ以前に、傷つけられる人を見過ごすわけにはいきません。よろしくお願いいたします」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.夢見の生存。
2.なし
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 「ヒトユメカタリ」のシナリオをお送りします。皆様のお力で、この夢見の少女、いや少年を救っていただきますよう、願います。
 以下、詳細です。

●敵
○『三本矢』……構成員は3名。非常に小規模なグループですが、私利私欲の為に覚者としての力を行使する隔者集団です。組織名はリーダー名と、構成人数から名付けられています。
 夢見の力を持つ者を拘束しており、大規模組織に見つからないようにと各地を転々としているようです。

・リーダー:三ツ矢・繁 28歳。械の因子、術式:火行。ナックルを所持。
 日に焼けた大柄な男です。身長は190センチほどあります。覚醒時は鋼鉄の腕、足に変化し、前衛に立って強力な一撃を繰り出します。

・構成員:一条・悟 25歳。獣の因子:獣憑[丑]、術式:土行。大鎚を所持。
 平均的な容姿。170センチ、中肉中背の男で、さほど印象に残らないのが特徴です。大人しい男で、あまりしゃべることはないようです。中衛で三ツ矢の援護を行うようです。

・構成員:辻本・清二 19歳。彩の因子:精霊顕現、術式:水行。投斧を所持。
 細身の男。身長は180センチ。全身が骨と皮のような印象を受けます。一番年下と言うこともあり、他2人の為に後衛でサポートに回ることが多いようです。

●状況
 とある山奥、人目につかない廃屋を今はアジトとして使っているようです。廃屋は居間と台所しかない小規模なものです。
 周辺は荒れ果てた田畑があり、見通しが非常に良い場所ですが、常に一条、辻本のどちらかが廃屋入口で見張りを行っております。
 無策で突っ込めば、ほぼ間違いなく相手に先手を打たれてしまうでしょう。

●夢見
・菜花・けい(なばな・-)……ボロボロの洋服、スカートを着させられている子供です。10歳くらいの少女に見えますが、少年……いわゆる、男の娘です。『三本矢』に捉えられ、全身が傷だらけになってしまっております。

●補足
 この依頼で説得及び獲得できた夢見は、今後『FiVE』所属のNPCとなる可能性があります。

 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月06日

■メイン参加者 8人■


●入念な準備を
 覚者達は、『三本矢』に捉えられてしまった夢見の少年を保護すべく、現場へとやってきていた。
 見通しが良すぎることが災いしているこの現場。事態は急を要しはするが、一行は敵の逃走などを懸念し、入念に準備を行う。
 例えば、黒桐 夕樹(CL2000163)は傷ついているという少年の為に、着替えと、救急セットを用意していたし、『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)は敵を捕縛する為のロープを用意していた。
 また、寺田 護(CL2001171)は自身のスキルや持ち物の確認、仲間達と隊列の打ち合わせなのを行っていたようだ。
「おいおい男の娘一人に男3人とか、逆ハーかよ。しかも囲われる方が好みとか、中々ディープな趣味じゃねーか!」
 今回の状況に対して、ハイテンションに笑う、不死川 苦役(CL2000720)の様子に、亮平は首をすくめてしまう。
 その男の娘……夢見の少年、菜花・けいを気遣うメンバーは多い。
「男の娘……どういう経過でそうなっちゃったのか、興味あるけどね」
 『お察しエンジェル』シャロン・ステイシー(CL2000736)は、痛々しい夢見の少年の映像を真由美に見せてもらっていたが、可愛らしい容姿をした子供だった。彼に『F.i.V.E』へ入ってもらいたいと考え、シャロンはこの作戦に参加している。
「夢見の子は、『なっちゃん』って呼んだらいいのかな?」
 男の娘を見たことがない茨田・凜(CL2000438)も、菜花に興味津々だ。思わず食べたくなりそうだけどと、ちょっとだけ本音をのぞかせた彼女だが、それはさておき。
「そんな超カワイイ子を拉致監禁なんて、絶対許せないんよ」
 仲間達のそんな思いを耳にしつつ。八重霞 頼蔵(CL2000693)も自身の想いを語る。
「別に、夢見は『F.i.V.E』だけの力、というわけでもない」
 その力が酷く曖昧なものであっても、未来の情報を得られるというのは余りに魅力的だ。だからこそ、手中に収めたいと願うのは道理だと。
「……ならばこそ、もっと慎重に静かに行うべきだったな」
 敵の考えに理解は示すものの、考えも行動も全てが杜撰な敵に、頼蔵は呆れてしまうのだった。

●救出作戦開始
 行動を開始する覚者達。
 十一 零(CL2000001)は、苦役と共に行動を行う。できる限り声量を抑え、忍び足を使って零は行動を起こす。
 苦役は敵が潜む廃屋を確認する。入口で見張りを行うのは、細身の男……どうやら、辻本のようだ。その他、周囲、上空も見ていたが、敵の使役が飛んでいる様子はない。
 さらに、彼は持っていた双眼鏡を使い、透視を合わせて内部が見られないかと試みるが、残念ながら双眼鏡自体を透視してしまう。
「DE★SU☆YO★NEー」
 苦役もそれを想定はしていたのか、ケラケラと笑って双眼鏡から手を離した。
 護は頼蔵、亮平と共に行動する。護は熱感知で廃屋の中を確認していたが、中にある3つの熱源は動きを見せない。その1つの熱源が小さくなっているのが、彼の知覚にも伝わってきていた。
 何かあった場合は、亮平に伝える手はずになっている。有事の際、亮平が送受心を発動することで、仲間達からの合図を受けたり、逆に伝えたりできるようにしていたのだ。
 さらに、鷹の目を使い、亮平は周囲の警戒を強めつつ、敵と仲間の位置を確認していたようだ。
 そんな彼らの視線の先に、囮役となるメンバーの姿がある。彼らは草木の中に身を潜め、見張りを行う辻本の釣り出しを図る。
 その前に、悲鳴や叫び声はどの頻度か、人質のいるのはどこか、シャロンが守護使役のちらちらを使って小屋の様子を窺っていた。
「ん……?」
 辻本が何かの気配を察して空を見上げるが、そこで、中にいる三ツ矢が叫び、辻本は一度、廃屋の中へと覗かせていたようだ。さすがにまだ、隔者達に気づかれてはいないようだが……。
「あちらさんがドタバタしているときに、見張りを引き付けてやってしまった方がよさそうだ」
「そうだね」
 シャロンに同意した夕樹が動く。まずは、木々の間を懐中電灯で照らし、自分達の存在をアピールする。
 さすがに、妙なことが何度か続くことに辻本も違和感を覚え、何者かの存在を察したようだ。
「…………?」
 不審に思った辻本は、三ツ矢に報告するかとも考えたが、下手に報告すると気が立っている彼にどやされるのがオチと考えたらしい。大儀そうに辻本は光がちらつく場所へ歩いていく。
 木々までやって来た彼は、シャロンの姿を目にした。
「山菜取りで山に入ったが、道に迷ったね~」
「んだよ……、早く帰れ……ん?」
 溜息を漏らす辻本の背後から、凜と夕樹が迫る。
「帰す気はないよ。俺達と遊んでよ、お兄さん」
 夕樹はにっこりと微笑み、辻本の頭部を殴りつけた。
 しかし、隔者の辻本が一撃で昏倒するわけもなく。
「んだあ、お前ら?」
 それを見ていたメンバーは失敗かと肝を冷やす。敵は肩の刺青を青く光らせ、攻撃を仕掛けてきた。
「……まぁ、こうなるよね」
 夕樹は仕方ないと覚醒し、辻本をこの場で抑えようと構えるのである。

●引き離し、そして救出
 その頃、廃屋周囲に潜んでいた他のメンバーは、亮平の仲介で見張り、辻本の引き離しに成功したことを情報として共有する。
(懸念があるとすれば、此方の襲撃が予期されていた場合か)
 メンバー達の合図を待つ間、木陰で隠れる頼蔵はそう考えていた。
(不安定ながらに夢見の力がある。活路が見えたならば、わざわざそれを漏らす様なことはしないだろうが……)
 夢見の少年が隔者にそれを伝えていなければいいが。頼蔵はそう願って止まない。
 その頼蔵と護、亮平の3人は、見張りがいない今のうちにと、小屋へと突入を決行した。
「何だ、てめぇらは!?」
 廃屋が震えるほどの声で叫ぶのは、リーダー三ツ矢だ。一条も黙ったままで立ち上がる。どうやら、2人は周辺の監視を辻本に任せっきりにしていたらしく、完全に気を緩ませていたようだ。
「夢見を渡せば見逃す。もし、夢見が死ねば、代わりにお前らの誰かを殺す」
 状況を悪化させる道理はない。二者択一。頼蔵はシンプルに交渉を持ちかける。
「バカが、夢見を手放したりなんぞするかよ!」
 バアンと派手な音を立てて、壁を機械の腕で叩きつける三ツ矢。それだけで、交渉の決裂を決定づけた。
「…………」
 黙したまま動く一条は、牛のように鼻息を荒くし、大槌を構える。
 囮班はおそらく、辻本を抑えたまま。ならば、外の畑には誘導せず、この場で敵を抑えるべきと護は判断し、素早く覚醒を行う。
「辻本の奴、何してやがる……」
 こうして侵入者がいるとなると、辻本に何かあったか、それとも、逃げ出したか……。いずれにせよやるしかないと、三ツ矢は舌打ちをした。
 3人が三ツ矢達の注意を引く間に、苦役と零の2人が裏手側の壁を物質透過で通過し、廃屋内に侵入してくる。
「…………?」
 ぐったりと動かない菜花。身体に無数の傷跡があり、衰弱しているようにも見える。
「ちっ、てめぇら!?」
 三ツ矢も一条も、いつの間にか現れた新手の存在にまたも舌打ちをするが。向かってきた3人の攻撃から身を引いた三ツ矢は、夢見の少年のほうへと向かってくる。
「幼女ちゃん、頼んだぜ」
 前へ出た苦役目がけ、三ツ矢の剛腕が振るわれる。頭上から叩き付けられる一撃は、並みの人間なら脳震盪を起こして卒倒しかねない威力だ。
 だが、苦役はそれに耐え、軽薄な笑みを浮かべる。
「あ、俺、透視持ってんだよ。つまり、お前の服の下も丸見え……」
「なに……!?」
「嘘だよ、ヴァーカッ!」
 予め錬覇法で強化していた力で、苦役は念を込めた指を三ツ矢の腕の間接へと捻りこむ。
「ぐうううう!」
 想像以上の痛みに、そいつは大声で呻いた。
 その隙に、零はぐったりとしている夢見の少年、菜花のそばに寄ると、彼はうっすらと目を開いた。それを確認した零は、できる限り声を絞って、菜花へ伝える。
「やあ。急ですまないが。一言、『助けて』と、言って貰えないだろうか」
 仲間達がどれだけ敵を抑えていられるか分からない。時間的余裕はないが……、なるべく菜花自身に一歩踏み出して欲しい。されるがままでは何も変わらない。連れ出しに当たる言葉を得られれば。零は強く願う。
 その零に見つめられた菜花。自分と同じように、中性的な子供。そして、覚者に言われたその言葉に、菜花の目から涙が溢れる。
「……助けて……ほしいの……じゃ」
「承知」
 零はゆっくりと、その小さな身体を抱きかかえた。だが、零にとって、そこで思わぬ誤算が。素早く戦場を駆け抜けようとしたのだが、韋駄天足の活性がなされていなかったのだ。
「渡すかよ!」
 三ツ矢が動いて来ようとするのを、頼蔵と護の2人ががっちりと捉える。仏頂面で襲ってくる一条は、亮平が、そして、夢見を託そうとする苦役が張り付く。零は仲間達に感謝しつつ、菜花を連れて廃屋を後にしていった。

●隔者を取り押さえろ!
 囮役のメンバーは、辻本と交戦していた。
 相手を振り切ろうとする辻本は投斧を振るって仕掛けてくるが、覚者達も、シャロンが演舞・清風を使って仲間達の能力を底上げする。凜がさらに纏霧で援護を図り、夕樹が波動弾を飛ばす。
 そこで、にやりと笑う辻本が鋭い氷を生み出して放つ。その氷がシャロンと凜を貫く。
 しばし続く交戦。手傷を終えども、この敵を逃がすまいと、シャロンが小さな雷雲を発生させ、辻本へと雷を落とす。
「ぎゃああああっ!」
 叫ぶ辻本。仲間はすでに廃屋へ突入している為、他の2人が来ることはなさそうだ。うまく辻本だけをおびき出していたことが、功を奏していたと言える。 幾度目かの攻防の後、夕樹が種を急成長させ、鋭い棘で辻本の体を切りつけると、辻本は気を失ってしまったようだった。
「殺さないよ。報いは生きて受けるべきだからね」
 辻本をロープで縛りあげた後、凜は使役のばくちゃんに、獲物が使えないようにと投斧を食べてもらい、辻本を完全に無力化させたのだった。

 一方、『三本矢』の2人と戦うメンバー達。廃屋の中では、2対2の戦いが続く。
「見張りを取り押さえたようだよ」
「クソが……!」
 亮平が仲間達へと告げると、それを聞いた三ツ矢の顔が真っ赤になっていく。
 そこで、一条を抑える苦役はにやりと笑い、隔者達へとある情報を伝達する。
「むっ……」
 亮平は何やら顔を顰めつつ、それを一条へと送りつける。
 その画像は、先ほど苦役が読んでいた週刊雑誌を今回の関係者で置き換えたもの。三ツ矢が菜花のスカートに手を伸ばし、その隠された秘境を……(自主規制)。
「おえっ!?」
 それまで一度も喋らなかった一条が、脳内に直接送られてきた映像に嗚咽を漏らす。多少精神的に堪えていたようだが、一条はそれに耐えて大槌を振るっていた。
「おぞましい映像送りつけやがって……!」
 先ほどの映像は三ツ矢にも効果はあったようだが。残念ながら、気を散らす以上の効果はない。
 三ツ矢を相手にする頼蔵は、機械の体を振り回す相手を、殺す意気込みで攻め込む。対して、頼蔵は戦力と戦意を削ぐべく、サーベルの二連撃を三ツ矢へと浴びせていく。
 護も圧縮した空気を放ち、三ツ矢へと攻撃を行うが。
「ったく、うぜえんだよ!」
 三ツ矢はナックルをはめた機械の腕を叩き付けてくる。その破壊力に、護は血を吐き出してしまうのだった。

 夢見の子を確保した零。
 巻き込まれるようにと、先ほど姿を潜めていた草むらへ移動し、菜花の手当てを簡単に行う。そして、少し楽になったのを見て、少量の羊羹とお茶、替えの服を差し出す。
「すまない。君の趣味が解らなかったから」
 戸惑いながら、零の着物を受けとる菜花。彼は自分を連れだした零に少しだけ、警戒を抱いていたのだ。
 確かに、彼は救いは求めた。それでも、これまで幾度となく夢見の力を狙われていたことを考えれば、差し伸べられる手をとるのに躊躇いを見せるのも無理はないだろう。
「申し遅れた。私達は夢見の力により君を見つけ、助けに来た」
「…………」
 零のそんな説明にも、菜花は黙ったまま、小さな口で羊羹をかじったのだった。

●三本の矢が折れる時
 廃屋の中では、4対2の戦いが続く。相手はこちらと同等の能力のはずだが、なかなかに隔者は手強い。
 そこへ駆けつけてくる、囮メンバー3人。7対2となったことで、形勢は一気に覚者側へと傾く。
 この場で戦っていたメンバーの傷を気遣う凜が、水のベールを張ることで傷つく護の防御を高める。
「図体と態度だけだね、でかいのは」
 夕樹は仲間達の間を縫い、外を気にかける一条を挑発しつつ攻め入り、植物の鞭で敵を打ち付ける。
 その直後、亮平がハンドガンの引き金を引き、一条の胸を狙い撃つ。
「が……っ」
 表情を完全に固まらせた一条は声を漏らし、その巨体を床へと横たえてしまう。
「くそ、使えねぇ奴め……!」
 倒れる一条に舌打ちをする三ツ矢。だが、覚者達は彼を自由にはしない。
(ガキにマジ殴りするやつだし?)
 シャロンは目の前の男を見下す。幸い、夢見の少年は確保、手下も討伐済み。場合によっては下手に出るかとも考えたが、その必要もなさそうだ。
 シャロンが絡みつくような霧を周囲に発生させると、苦役が三ツ矢へと種を投げつける。急成長した植物の棘に突き刺され、敵は叫び声を上げる。
「矢ってなあ。1本だと折れるけど、3本あったら纏めて折れんだぜ?」
「うるせああっ!」
 力任せに殴りかかる三ツ矢。己の力を叩きつけることしか考えない敵。亮平が仲間を庇って殴打を受けると、反撃にナイフで切りかかった。
 護は敵の攻撃を注視していたようだが。目新しいスキルを持たぬ敵に見切りをつけ、三ツ矢へと雷を落としてその体力を削る。
 抵抗を続ける三ツ矢だったが、1本になってしまっては何もできず。
 頼蔵が放った幾度目かの二連撃が三ツ矢の体に刻まれると、そいつは嗚咽を吐いて廃屋の床へと転がっていく。
 こうして、一行は傷つきながらも、無事に隔者を捕らえることに成功したのだった。

●無事に保護した少年に……
 敵を縛り付けた覚者達。亮平の提案もあって、『三本矢』の3人は後でAAAに引き渡すことにする。
 その後、傷つく菜花へ保護したメンバーは覚醒を止め、彼の体調を気遣う。
 残った気力で、夕樹が治癒力を高める香りを振りまき、凛が癒しの滴を生成してその傷を癒し、優しく介抱する。
「疲労回復には飲み物が一番なんよ、なっちゃん」
「なっちゃん……?」
 自分が呼ばれたことも気づかず、菜花は凜から栄養ドリンクを受け取る。護も廃屋で簡単に調理を行い、作った温かいスープを差し出す。
「あ、ありがとなのじゃ……」
「サイズ、合わないかもしれないけど」
 夕樹は事前に用意した服を貸す。最初は覚者に警戒を見せていた菜花だったが、夕樹を始め、皆、菜花が嫌がらないようにと気遣いながら接することで、彼は少しずつ、覚者達と言葉を交わすようになっていく。
 先ほどの着物と合わせ、着替えた菜花はボロボロの服を脱ぎ捨てていた。
(男の娘って、2次元の世界の話と思ってたけど)
 着替えた彼を、シャロンはしげしげと見やる。
 作戦中、やや仲間との連携がかみ合わぬところもあり、シャロンは連戦で手傷を負っていた。しばらくは安静が必要だったが、それでも好奇心には逆らえぬらしい。
「な、なんなのじゃ……?」
 尋ねるその少年は、じっと観察してくるシャロンをちょっとだけ怖がる。
「夢見君さー。もしかして俺等が来る事、夢で見てコイツ等に言ったりした?」
 さらに、苦役が続けるのに、シャロンは身をびくりと震わせる。
「冗談冗談、ビビんなって。でもさ、自分の事、能力の事、自衛の事。1回考えてみようぜ?」
「う……」
 苦役に言われ、菜花は思う。これからどうすればいいのかなんて、考えたこともなかったのだ。
「保護出来る所に案内しても良いかな。また何かあったら心配だから安全な所へ……という意味なんだけど」
「なーに、世の中振り切れれば楽しいもんさ! だって、俺は面白可笑しく生きてっし? さあ、お客さん、どちらまで?」
 苦役が、亮平へと、「おいおいフード君、俺のイケメン具合に照れんなよ?!」とおどけるのに、亮平がまたも呆れてしまう。なんともマイペースすぎる男だと。
「何をするにも、まずは怪我を治してから。……心配する人もいるだろうからね。今後の事は、その後で良いんじゃないかな」
「……のじゃ」
「何はともあれ、お疲れ様。よく、頑張ったね」
 夕樹のそんな言葉に、菜花はようやく少しだけ微笑んだ。
「暫し心身を休めて、今後を考えるといい。此処よりマシな環境である事は保証しよう」
 零はそっと彼へと耳打ちし、自身の名前を告げた後でささやく。
「もし嫌になって、また逃げたくなったら呼べ」
「……そうするのじゃ」
 菜花は、その誘いにも小さく頷いて見せた。
「……それで、未来(あした)はつかめたかね」
 頼蔵が問うと、菜花は少し考えてから答える。
「なんとなくじゃが、つかめる気がしたのじゃ……」
 護はそんな菜花を見て思う。彼が落ち着いたなら、彼と同じ目に遭っている人を助ける為にも、力を貸してほしいと。
 もちろん、夢見は辛い仕事ではあるが……。それでも、菜花がきっと了承してくれると、護は期待するのであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

皆様、夢見の救出お疲れ様でした。
MVPは囮に、戦闘に、夢見の少年の相手にと、
様々な場面で活躍したあなたへ。

この少年、菜花は後日、
『F.i.V.E』所属の優しい覚者の皆様の説得に応じて、
力を貸してくれるよう了承したようです。
傷が癒えたら、
きっと依頼の説明を司令室でしてくれることと思います。

参加された皆様、
本当にありがとうございました!




 
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