≪聖夜2016≫瑛莉と結那のケーキクッキング
●神は死んだ。
「んんんああああああああ~~~~~~~~~~っ!!!!」
神林 瑛莉(nCL2000072)が心の底からの絶望を体感したとすれば、それは今この瞬間であったと断言できるだろう。
自らの死の予言を受けた時も。
囚われの身になった時も。
彼女に絶望はなかった。
F.i.V.E.の仲間が必ず助けてくれるという希望があったからである。
それはさておき。
神林瑛莉は、今この瞬間死ぬほど絶望していた。
足元には、かなり大きいクリスマスケーキだったものが転がっている。
だったもの、である。
それは、もう壊れていた。
クリームは無残に飛び散り、スポンジは破砕し、飾りつけのトナカイとサンタはどっかに転がっていった。
もうとにかく壊れているので、クリスマスケーキだったものである。
「あわ、あわわ、あわわわわわ」
速水 結那(nCL2000114)もまた、心の底からの絶望を体感していた。
憤怒者に捕まった時は、半ばやけっぱちになっていた事もあり、絶望よりもあきらめの感情の方が強かったのである。
それはさておき。
速水結那もまた、今この瞬間死ぬほど絶望していた。
「か、かかかか、神林さん!? ど、ど、どないしよか!?」
あまりの衝撃に歯の根が合わないのか、かちかちと歯を鳴らしながら、結那が尋ねる。
「ど、ど、どないしよか!? って言われても、その、腹でも切るか!?」
半泣きになりながら、瑛莉が答える。
さかのぼる事1時間前。
「今日はクリスマス。皆とのパーティも楽しみだけど、家族水入らずでお祝いもしたいの」
久方 真由美(nCL2000003)は、上機嫌でそう言った。
世間はクリスマスである。となれば、やることはもちろん、パーティである。
勿論、F.i.V.E.としてのパーティなども企画しているのではあるが、それはそれ。
久方家で姉弟妹水入らず、三人のみの、個人的なクリスマスパーティを開く予定であるそうだ。
「というわけでクリスマスケーキを注文したのだけれど……実は、急な用事が入ってしまって……相馬と万里には頼めないし……本当に申し訳ないのだけれど、受け取りだけ、お願いできませんか?」
「お、それ位ならお安い御用だ」
「真由美さんには色々お世話になってるしなぁ、任せといてほしいんよ」
と、瑛莉と結那は安請け合い。
そしてケーキショップでケーキを受け取り、
F.i.V.E.に戻ってきたところで、
瑛莉がすっ転んだ。
「なんでなん!? なんで神林さん、こういう時にクリティカルにやってまうん!?」
「……わかんねぇ……本当にわかんねぇ……厄払いとか行った方がいいのか……いや、そうじゃねぇよ、今はこれどうするかだよ!」
「あ、謝る位じゃ多分あかんよ!? めっちゃ楽しみにしてたもん! これ、ほんとに切腹モノなんよ!」
「クソッ……色々危機を回避してきたってのにここにきて最大のピンチかよ……これ、ダメージ受けるのは真由美サンだけじゃぁねぇぞ……マズい、本気でマズい……」
何せ、これは久方家の問題である。相馬と万里、彼らのショックも考えれば。
なんということをしてしまったのでしょう。
「いや……とにかく、まずは真摯に詫びを入れるしかないだろう……」
覚悟を決めたように、瑛莉。
「そ、そうやね……そこはホント、心から謝るしかないんよ」
覚悟を決めたように、結那。
「だが……だが、ただ謝るだけじゃぁダメだ。オレに考えがある……!」
そういう瑛莉の視線の先には、灯のともる学生寮があったのだった。
「んんんああああああああ~~~~~~~~~~っ!!!!」
神林 瑛莉(nCL2000072)が心の底からの絶望を体感したとすれば、それは今この瞬間であったと断言できるだろう。
自らの死の予言を受けた時も。
囚われの身になった時も。
彼女に絶望はなかった。
F.i.V.E.の仲間が必ず助けてくれるという希望があったからである。
それはさておき。
神林瑛莉は、今この瞬間死ぬほど絶望していた。
足元には、かなり大きいクリスマスケーキだったものが転がっている。
だったもの、である。
それは、もう壊れていた。
クリームは無残に飛び散り、スポンジは破砕し、飾りつけのトナカイとサンタはどっかに転がっていった。
もうとにかく壊れているので、クリスマスケーキだったものである。
「あわ、あわわ、あわわわわわ」
速水 結那(nCL2000114)もまた、心の底からの絶望を体感していた。
憤怒者に捕まった時は、半ばやけっぱちになっていた事もあり、絶望よりもあきらめの感情の方が強かったのである。
それはさておき。
速水結那もまた、今この瞬間死ぬほど絶望していた。
「か、かかかか、神林さん!? ど、ど、どないしよか!?」
あまりの衝撃に歯の根が合わないのか、かちかちと歯を鳴らしながら、結那が尋ねる。
「ど、ど、どないしよか!? って言われても、その、腹でも切るか!?」
半泣きになりながら、瑛莉が答える。
さかのぼる事1時間前。
「今日はクリスマス。皆とのパーティも楽しみだけど、家族水入らずでお祝いもしたいの」
久方 真由美(nCL2000003)は、上機嫌でそう言った。
世間はクリスマスである。となれば、やることはもちろん、パーティである。
勿論、F.i.V.E.としてのパーティなども企画しているのではあるが、それはそれ。
久方家で姉弟妹水入らず、三人のみの、個人的なクリスマスパーティを開く予定であるそうだ。
「というわけでクリスマスケーキを注文したのだけれど……実は、急な用事が入ってしまって……相馬と万里には頼めないし……本当に申し訳ないのだけれど、受け取りだけ、お願いできませんか?」
「お、それ位ならお安い御用だ」
「真由美さんには色々お世話になってるしなぁ、任せといてほしいんよ」
と、瑛莉と結那は安請け合い。
そしてケーキショップでケーキを受け取り、
F.i.V.E.に戻ってきたところで、
瑛莉がすっ転んだ。
「なんでなん!? なんで神林さん、こういう時にクリティカルにやってまうん!?」
「……わかんねぇ……本当にわかんねぇ……厄払いとか行った方がいいのか……いや、そうじゃねぇよ、今はこれどうするかだよ!」
「あ、謝る位じゃ多分あかんよ!? めっちゃ楽しみにしてたもん! これ、ほんとに切腹モノなんよ!」
「クソッ……色々危機を回避してきたってのにここにきて最大のピンチかよ……これ、ダメージ受けるのは真由美サンだけじゃぁねぇぞ……マズい、本気でマズい……」
何せ、これは久方家の問題である。相馬と万里、彼らのショックも考えれば。
なんということをしてしまったのでしょう。
「いや……とにかく、まずは真摯に詫びを入れるしかないだろう……」
覚悟を決めたように、瑛莉。
「そ、そうやね……そこはホント、心から謝るしかないんよ」
覚悟を決めたように、結那。
「だが……だが、ただ謝るだけじゃぁダメだ。オレに考えがある……!」
そういう瑛莉の視線の先には、灯のともる学生寮があったのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ケーキ作る。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
さて、預かり品のケーキをダメにしてしまった2人は、大慌てで学生寮のキッチンに駆け込み、大慌てで何とか代わりのケーキを作り、それを手土産に謝罪に行く様子。
そんな2人を手伝っても構いません。2人のためと言うより、久方真由美のためです。それはさておき、自分達用のケーキやお菓子を作ってみたり、つまみ食いしてみたりしてもかまいません。……というような感じのシナリオになっております。
せっかくのクリスマスです、楽しく―― 一部は必死ですが――お菓子作りしてみませんか?
※久方真由美は同行・登場いたしませんので予めご了承ください。※
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
17/∞
17/∞
公開日
2017年01月03日
2017年01月03日
■メイン参加者 17人■

●ケーキクッキング、はじまりはじまり
「話は聞きましたわ! 瑛莉様がまたやらかしたそうですけど、いのりもお手伝いいたしますわ!」
「ぐふっ!」
可愛らしい声で無自覚に神林 瑛莉(nCL2000072)の心を抉りつつ登場したのは、秋津洲 いのり(CL2000268)である。
瑛莉と速水 結那(nCL2000114)が寮で必死にケーキを作っているのを目撃したのか、或いは両名からレスキューの連絡を受けたのか、或いはたまたま居合わせたのか――。
いずれにしても、寮の調理スペースは、十数名の覚者達が、思い思いにケーキを作る場になっていた。
周囲には甘い香りが立ち込め、何とも食欲をそそるものである。
「ま、まぁ、手伝ってくれるのは本当にありがたい……助かるぜ」
いのりは頷くと、
「おまかせください♪ いのりは飾りつけのマジパンを作りますわ」
「あ、マジパンでしたら、私もお手伝いしますよ」
と、材料を抱えて現れたのは、菊坂 結鹿(CL2000432)だ。
「材料もそろってますよ。砂糖、卵白、食用色素……それにアーモンドプードル」
結鹿が、調理台に次々と材料をそろえていく。その様子を見ながら、瑛莉は小首をかしげ、
「あーもんどぷーどる? 犬の飾りでも作るのか?」
と、真面目な顔で言うものだから、思わずいのりと結鹿は顔を見合わせてしまった。
「……え、えーっと……」
「瑛莉様……」
苦笑しつつ呟く二人であった。
さてさて、こうして出来たマジパンは、いのり作の久方きょうだいをモチーフにしたマジパンに、結鹿作の華やかなツリーと食紅を薄めて作る様々な色合いのバラ、それに二人共通で作ったサンタにトナカイだ。
「さて、後は飾り付ければ終わりですけれど……」
と、ケーキの進捗を確認する結鹿だったが、
「ご、ごめん、ケーキのほう、まだかかりそうなんよ……」
と、結那が手を合わせて頭を下げるのを見て、
「まだ余裕がありそうですね。ソリや家も作りましょうか」
「ええ、いっぱい作って、華やかにいたしましょう!」
と、結鹿といのりは頷き合い、マジパンの作成を再開するのだった。
「うん……上出来、かな……」
クリームでアイシングした手作りのクッキーを見ながら、明石 ミュエル(CL2000172)が頷いた。
彼女が作った飾り付け用のクッキーは、定番のジンジャーマンやハート型の物、クマや星の形など様々なデザインの物がそろっている。
どれも香ばしく焼けていて、とても美味しそうだ。
「なんか……毎度毎度悪いなぁ、色々手伝ってもらって」
同じくアイシングを行っていた瑛莉が、言う。ちなみに、瑛莉の作品の出来栄えは……お察しください、と言った所か。
「ううん……気にしないで……それに、今までお姉さんらしいとこ、いまいち見せれてない気がしてたから……」
柔らかく笑うミュエル。
「それにしても、明石はやっぱりお菓子作り上手いよな。これとかすっごく美味そうだし……」
と、瑛莉が思わず伸ばしかけた手を優しく叩いて、
「つまみ食いは、ダメ……だよ?」
と、ポケットから取り出したマスクを、瑛莉につけた。
大きくバツ印が描かれたそれは、『つまみ食い禁止』マスクらしい。
「むぅ」
と唸る瑛莉。同じマスクをつけられた、ミュエルの守護使役『レンゲさん』となんとなく見つめ合ってしまうのであった。
さて、田中 倖(CL2001407)は、得意のお菓子作りの腕を発揮。
一人でケーキ作りに励んでいた。
「せっかくですから、通常のクリスマスケーキとは趣向を変えて……小さなドーム型のレアチーズケーキにしましょう」
ぽん、と手を叩いて呟くや、手際よく、しかし丁寧にお茶碗に材料を詰め込んでいく。材料には砕いたクラッカーなども使用し、食感に変化を入れる凝りようだ。
最も得意なお菓子はドーナツ、という彼だが、先述した通り、お菓子作りは全般、得意とするところ。あっという間に一品、後は冷やして固めるだけ、という状態だ。
「さて、ではもう一品」
倖は赤ワインを鍋に入れ、スライスしたリンゴを入れ、食感が残る程度に軽く煮込んだ。
次いで、ドームケーキにチョコペンでさらさらと顔を書いていく。そのケーキに、先ほど色付けしたリンゴをリボンに見立ててかざりつければ。
「ぱくぱく丸さんケーキの出来上がりです」
そう、久方きょうだいの末妹、万里の守護使役『ぱくぱく丸』を模した、可愛らしいケーキの完成だ。
せっかくみんなで作るのだから、特別なオーダーメイドが良い、とは倖の言だ。見た目と味を両立させた、彼ならではのケーキと言えるだろう。
「さて、僕の方はこれで完了ですが……」
と、当たりを見渡す。他に手伝いを必要としているグループがないかの確認であったが、
「事務員サン……頼むぅ~……」
などと、瑛莉の情けない声が聞こえてきたものだから、苦笑を浮かべつつ、倖は手伝いに向かうのだった。
天野 澄香(CL2000194)、如月・彩吹(CL2001525)、麻弓 紡(CL2000623)、新堂・明日香(CL2001534)の4人は、元々ケーキを作ろうと集まっていたのだが、瑛莉たちの事情を聴き、久方きょうだいのためならと、自分達の分に加えて、久方きょうだいの分のケーキも作成することにしたのだった。
「材料も人手もありますし、2つ3つと作るのも同じ事です」
とは澄香の言である。
「普段は台所に立つのは禁止されているのだけれど」
と、彩吹は包丁を振り上げた。
「ん……リンゴを切る位なら」
振り下ろす。
たんっ! と力強い音を立てて、リンゴが両断された。
再び包丁を振り上げ、振り下ろす。リンゴが再び両断される。料理と言うより、薪割かなにかをほうふつとさせる動きだ。
「って彩吹ちゃん、包丁は振り下ろすものじゃないからー!」
「彩吹ちゃん、ええと……貴女は包丁持つのは危ないからこっちでクリームの泡立てお願いします」
明日香と澄香の言葉に、
「え、2人とも、何か言った?」
と、澄香の方を見ながら、それでも包丁を振る手を止めなかったものだから、ざくり、とリンゴに添えていた切ってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る澄香。彩吹は、
「大丈夫、慣れっこだから」
と、手際よく絆創膏を取り出し、処置を済ませてしまった。幸い、傷はさほど深い物ではなかったようだ。
「うん、料理に絆創膏と消毒液は基本装備だよね……っと、了解。泡立てだね」
と、泡だて器を受け取り、ガッシャガッシャとクリームを泡立て始めた。
「彩吹ちゃん、泡立てすぎにも気を付けてくださいね」
「ボク、料理全般苦手なのでツマミグイ担当……」
と、手を挙げた紡だったが、
「紡さん、ツマミグイはだめだからね?」
「紡ちゃん、つまみ食いじゃなく、ちゃんとできたのをあげますから、粉ふるって下さいね」
明日香と澄香の言葉に、紡は「むぅ」と呟きつつ、素直にふるいを受け取った。
紡はふるいに粉を入れようと、そっと粉をふるいに落とそうとしたが、うっかり大量の粉を落としてしまい、粉塵が宙に舞う事となってしまう。
真っ白な視界の中、けほけほと紡がむせる。
そんな紡を見て、明日香と澄香は顔を見合わせ、こっそりと微笑んだ。
彼女たちのケーキ作りは、澄香の指導もあって、多少のトラブルはあったものの、スムーズに進んでいった。
「おぉぉ……膨らんできた、すごい……」
「もうすぐ焼き上がりかな……楽しみ!」
紡と明日香が、スポンジケーキの焼き上がりを見守る中、澄香は飾りつけのマジパンを用意。彩吹も「これなら大丈夫」と、使い終わった調理器具の洗い物をしている。
ほどなくして、ケーキが焼きあがった。ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
澄香たちが飾りつけを行う中、紡が紅茶を入れている。
間もなく、彼女たちのケーキ作りは完了した。
「綺麗に出来たね、真由美ちゃん喜んでくれるといいね」
出来栄えを眺めつつ、紡が言った。
「では、此方のケーキは瑛莉ちゃんに渡しておきますね。私達は、こっちをいただきましょう」
「私が持っていこう。ちゃんと謝れば許してくれる、と伝えておかなきゃ」
彩吹が箱に詰められたケーキを持って、瑛莉たちの元に向かっていった。
ほどなくして、彩吹が帰ってくる。瑛莉は「今度は必ず届ける」と感謝しつつ約束したらしい。
「さて……それじゃ、ボク達も食べよっか。ささ、紅茶が覚めないうちに」
紡の言葉に、皆が頷いた。
かくして、彼女たちのささやかなパーティが始まる。
一方、こちらは切裂 ジャック(CL2001403)と時任・千陽(CL2000014)の男二人組。
「……切裂、レシピ通りに作らなければ。それでは分量が違います」
「1gも10gも誤差やき。ちゅーか何時間かかるんやケーキ作り……」
こちらの2人はケーキ作りはあまり経験がないらしい。レシピ通り、分量通りに作ろうとする千陽と、些かアバウトなジャックと、実に対照的なコンビだ。
「で、こっちのケーキは抹茶ケーキにでもする?」
尋ねつつ、ひょい、と苺を一つまみ。
「その、切裂、つまみ食いは」
最後まで言わせるか、と千陽の口に苺を放り込むジャック。口をふさがれ、もごもごと口を動かす千陽。
「お前の軍服見てると抹茶が食べたくなるでな」
言いつつ、ひょい、と剥きミカンをひとつまみ。
「だめだと……むぐっ……いわれたじゃないですか!?」
再び押し込まれたミカンを飲み込み、抗議の声を上げる千陽。そんな姿を見て、ジャックは笑う。
「ところで……こちらのケーキは? やはり久方君の?」
と、千陽が指さしたのは、シフォンケーキである。
「ん? これ? うん、くそ不味いケーキ作る。これ数多に食わすんだ、いつかの復讐!! 楽しみだなあ」
些か悪い笑顔で答えるジャック。
「えっ、復讐ですか?」
驚きの声を上げる千陽。ジャックは笑い顔のまま、
「これを半分に切ってぇ、間に生クリームとミントガムをつめてぇ、サルミアッキもつめつめ……正露丸も入れておこう、俺優し!」
あっという間にシフォンケーキが何やら悍ましい物へと変貌していく。甘い香りはどこへやら、何やら凄まじい激臭を放っている。ジャックは「うわ臭い! 笑う!!」とケタケタと笑っているが、これを食べさせられる者は笑えたものではないだろう。
「あと何入れる? 血とか? 半日、日光にでもあてる? きっとお日様の香りするよ」
言いながら、千陽へケーキ……もはやこれはケーキなのだろうか、とにかくケーキらしきものをパス。
流石の千陽もここから軌道修正するのは難しい、と困り顔。心の中で復讐のターゲットに謝罪の言葉を述べ、せめて胃薬は用意しておこうなどと誓った。
「ところで、このままじゃすぐにばれると思いますので……生クリームをぬるしかないんじゃないでしょうか?」
「バレてもいいんよ。だって数多羽交い締めにするのお前やし」
えっ、と思わずジャックの顔を見つめる千陽。ジャックは意地悪気な笑みを返すだけだった。
姫神 桃(CL2001376)と月歌 浅葱(CL2000915)も、2人でケーキを作っている。すでにスポンジケーキは焼き上がり、後はデコレーションを残すのみだ。
浅葱がスポンジに生クリームを塗りつけて、桃がフルーツを盛りつけていく。息の合った、二人ならではのコンビネーション。見る見るうちに、二つのケーキの出来上がり。でも、ケーキの真ん中には飾りつけがなく、まっさらなクリームがのぞいている。
「最後のデコレーションはお楽しみですねっ。ふっ、折角だからお互いの顔書いちゃいましょうかっ」
と、浅葱が提案する。
「面白そうだわ!」
と、桃が笑って同意する。
まずは桃から。
「浅葱だと……そうね」
桃は、クリームをチョコで縁取った。目はチョコで丸く、デフォルメを効かせる。
「浅葱といったら、笑ってるか、ポーズ決めてる時のドヤ顔ね」
そう言って描き上げたのは、自信満々そうなドヤ顔の浅葱だ。
「どう? けっこう浅葱に似てないかしら」
得意げな桃。
「おおっ、桃さんの描いた顔そっくりなのですよっ」
と、浅葱は、ケーキの隣でドヤ顔をして見せた。
デコレーションと浅葱、二つのどや顔に、思わず吹き出してしまう桃。
「これは負けていられませんねっ!」
浅葱も負けじと、デコレーションを始める。
ふわっとした髪をいちごクリームでくるんと描き、つり上がった目はチョコレート。口をギザギザと描いたら。
「はいっ、桃さんの怒った顔なのですよっ」
と、デフォルメされた、桃の怒り顔の完成だ。
「その絵は可愛いけど、私そんなに怒らないわよ!」
と、デコレーションそっくりの顔で、抗議する桃。浅葱はふっ、と笑いながら、デコレーションされた桃の顔、そのほっぺたに、斜めに線を三つ、描き入れる。
「照れて怒った顔になっちゃうのですっ」
その言葉とデコレーションに、思わず顔を真っ赤にしてしまう桃。ケーキと二人、同じ顔が2つ。
「ふふふ、照れちゃってこんなお顔で可愛いですよっ」
「て、照れてなんて無いんだから!」
ぷい、と顔をそらす桃。そのしぐさもどこか可愛らしさを感じさせるものだ。
「そ、それにしても……気合い入れちゃっただけ、食べるの勿体無くなっちゃったわね……食べる前に、一枚写真残しておこうかしら」
桃の言葉に、浅葱は頷いた。
「それではケーキと一緒に取りましょうかっ」
二人はケーキを背に、肩を寄せ合う。
「ほら、桃さんももっと寄って、はいっテレ顔もっ」
急に抱き寄せられたものだから、びっくりした桃の顔がまた赤く染まる。テレ顔とドヤ顔、ケーキと同じ顔で、パシャリとカメラで一枚。2人のいい思い出になっただろう。
「瑛莉ちゃんたちのお手伝いは何人かいるみたいだし、私らは自分用つくろっか」
華神 悠乃(CL2000231)は、柳 燐花(CL2000695)へ言った。
燐花のお菓子作りの練習を兼ねたケーキ作りは、危なげなくスポンジケーキ製作までを完了。残すは飾りつけのみとなった。
「華神さん。フルーツはイチゴでいいですか? 他に何かお持ちしましょうか」
イチゴを用意しつつ、燐花が尋ねる。
「うん、イチゴは鉄板よね。ほかはねー、缶詰の桃とかお手軽で合わせやすいよ」
笑いながら、悠乃が答える。
かくして2人は飾りつけを始めた。
悠乃は手際よく、燐花はおっかなびっくり、でも丁寧に。
2人でクリームを塗ったり、飾りつけのフルーツを選んだり。笑顔の絶えない2人は、端から見れば、まるで。
「おねえさん、がいたらこんな感じなのでしょうか……」
思わず、燐花が呟いた。慌てて口をつぐむ。
聞かれていなければいい、と思った。恥ずかしく、図々しい願いだと思ってしまった。燐花にとって、悠乃はあこがれの人だった。その人が、今、そばにいてくれる。それ以上を望むなんて、と。
一方、燐花の呟きは、悠乃の耳へと届いていた。
――流すべき、なのかな。
と、悠乃は思う。燐花の今のふるまいから見ても、先ほどの一言は、とっさに出てしまった一言なのだろうし、何処か触れてほしくなさそうにも見える。でも。
――うー、かわいいなぁもう!
今すぐ抱きしめて、撫でまわしてあげたい衝動にかられた。末妹である彼女にとって、お姉さんとして扱ってもらえることはこの上ない嬉しさであったし、相手が燐花となれば、その喜びもまた格別。
でも、今は作業中なのでそれは我慢。今はケーキを作って、燐花とのティータイムを満喫しよう。
悠乃は呟きを聞かなかったことにして、ケーキの飾りつけに全力を傾けた。ほどなくして可愛らしいケーキが出来上がる。
2人はお茶を用意して、席についた。
「楽しいクリスマスをありがとうございます。また何かの折にはご一緒してくださいますか?」
どこか窺うような燐花の問い。悠乃は満面の笑顔で、
「もちろんだよ! あ、そうそう、シュトーレン、作ってみたの。暫く寝かせて、後で食べてね」
と、綺麗にラッピングされた小箱を手渡す。燐花は一瞬ビックリした後、嬉しそうにそれを受け取った。
とは言え、2人のティータイムは始まったばかり。
2人の至福の時間はまだまだ続くのだ。
「禊さんはケーキ作ったことある?」
と、鐡之蔵 禊(CL2000029)に尋ねたのは、御影・きせき(CL2001110)だ。
「お菓子作りの一環で作ったことがあるから、難しいモノじゃなければ大丈夫だよ」
と、笑顔で返す禊。その笑顔を苦笑に切り替え、
「しかし、神林はここまでドジっ子だったとは……」
と、ほっぺをかく。「面目ねぇ……」と、瑛莉の声が聞こえた。
「まぁ、お菓子作りと考えれば、丁度良いイベントだよ、神林」
「あの……瑛莉さんはいつもこうなの……?」
心配そうに尋ねるきせきに、禊は苦笑で返すことしかできなかった。
それはさておき。
「それじゃあ、とびきり美味しいケーキを完成させよう! 鐡之蔵家のクッキング。しっかり教えちゃうよー!」
禊の言葉に、きせきは、「おー!」と元気良く返事をする。
2人は協力してケーキを作り上げていく。生クリームの泡立てや、スポンジケーキ作りは禊が上手と言った所だったが、飾りつけでは持ち前の器用さをきせきが見せつける。
「へぇ、やるね、御影! あたしより器用かも!」
きせきがえへへ、と笑い、胸を張る。
きせきはイチゴを、ケーキのフチに沿ってぐるりと並べていく。
「真ん中にはサンタさん!」
と、用意していた砂糖菓子のサンタを取り出す。
「どっちがとるかで万里ちゃんと相馬くんがケンカしちゃったら大変だから、サンタさん2人のっけるよ!」
と、ケーキの真ん中に、2人のサンタを置く。だが、きせきは小首をかしげ、うーん、と唸る。どこかしっくりこないようだ。
しばらく悩んだ後、きせきは「あっ」と声を上げる。
「そっか、これじゃ真由美さんが仲間外れだから……やっぱサンタさん3人!」
かくして、ケーキの真ん中には3人のサンタが、仲睦まじく並ぶことになった。
それは、まるで久方の3きょうだいのように。
「うんうん、よくできました!」
禊が屈託なく笑い、きせきの頭をくしゃくしゃと撫でる。
きせきは、わぁ、と笑いながらそれを受け入れた。
「皆、次々ケーキを完成させているみたいね」
材料を正確に測りつつ、環 大和(CL2000477)が言った。
「こちらはどうかしら、瑛莉さん」
「もーちょい……もーちょいだな……後はクリームを作って、秋津洲や菊坂、明石の作ったマジパンとクッキーで飾りつけができれば……」
大和の問いに、瑛莉が答えた。
大和も、瑛莉と結那のケーキ製作の手伝いをしに来たクチである。
「瑛莉さん、結那さん。誤魔化す為のケーキではなく、きちんと謝罪した上で別のケーキを持っていく、そういう心意気は素晴らしいと思うわ」
大和は言う。誤魔化しではなく、誠実な謝罪のための行動。それに心を打たれたから、彼女は今ここにいるのだ。
「そういう気持ちがあったから、皆ここにいるのだと思うわ。だから、もう少し、頑張ってね」
使い終わった器具を片付けながら、大和は言う。
瑛莉と結那は、その言葉に力強く頷いた。
ほどなくして、ケーキは完成した。マジパンやクッキーがふんだんに乗った、何とも賑やかなケーキだ。それは、今日この場に集まった覚者達の思いが詰まった、この世で一つだけのケーキだ。
「よくできたわね。ラッピングは任せて頂戴」
そう言うと、大和は器用にケーキをラッピングする。ラッピングには、可愛いモルモットとすねこすりを模した人形をそえて。
「久方家に楽しい時間を過ごしてもらえますように……今度は、落としちゃだめよ?」
微笑を浮かべて、大和は、そう言った。
当初の予定より、多くの物を受け取って、瑛莉と結那は再び真由美の元へと向かう。
多くの人達の想いのこもった山ほどのケーキは、きっと、彼女たちを笑顔にしてくれるだろう。
「話は聞きましたわ! 瑛莉様がまたやらかしたそうですけど、いのりもお手伝いいたしますわ!」
「ぐふっ!」
可愛らしい声で無自覚に神林 瑛莉(nCL2000072)の心を抉りつつ登場したのは、秋津洲 いのり(CL2000268)である。
瑛莉と速水 結那(nCL2000114)が寮で必死にケーキを作っているのを目撃したのか、或いは両名からレスキューの連絡を受けたのか、或いはたまたま居合わせたのか――。
いずれにしても、寮の調理スペースは、十数名の覚者達が、思い思いにケーキを作る場になっていた。
周囲には甘い香りが立ち込め、何とも食欲をそそるものである。
「ま、まぁ、手伝ってくれるのは本当にありがたい……助かるぜ」
いのりは頷くと、
「おまかせください♪ いのりは飾りつけのマジパンを作りますわ」
「あ、マジパンでしたら、私もお手伝いしますよ」
と、材料を抱えて現れたのは、菊坂 結鹿(CL2000432)だ。
「材料もそろってますよ。砂糖、卵白、食用色素……それにアーモンドプードル」
結鹿が、調理台に次々と材料をそろえていく。その様子を見ながら、瑛莉は小首をかしげ、
「あーもんどぷーどる? 犬の飾りでも作るのか?」
と、真面目な顔で言うものだから、思わずいのりと結鹿は顔を見合わせてしまった。
「……え、えーっと……」
「瑛莉様……」
苦笑しつつ呟く二人であった。
さてさて、こうして出来たマジパンは、いのり作の久方きょうだいをモチーフにしたマジパンに、結鹿作の華やかなツリーと食紅を薄めて作る様々な色合いのバラ、それに二人共通で作ったサンタにトナカイだ。
「さて、後は飾り付ければ終わりですけれど……」
と、ケーキの進捗を確認する結鹿だったが、
「ご、ごめん、ケーキのほう、まだかかりそうなんよ……」
と、結那が手を合わせて頭を下げるのを見て、
「まだ余裕がありそうですね。ソリや家も作りましょうか」
「ええ、いっぱい作って、華やかにいたしましょう!」
と、結鹿といのりは頷き合い、マジパンの作成を再開するのだった。
「うん……上出来、かな……」
クリームでアイシングした手作りのクッキーを見ながら、明石 ミュエル(CL2000172)が頷いた。
彼女が作った飾り付け用のクッキーは、定番のジンジャーマンやハート型の物、クマや星の形など様々なデザインの物がそろっている。
どれも香ばしく焼けていて、とても美味しそうだ。
「なんか……毎度毎度悪いなぁ、色々手伝ってもらって」
同じくアイシングを行っていた瑛莉が、言う。ちなみに、瑛莉の作品の出来栄えは……お察しください、と言った所か。
「ううん……気にしないで……それに、今までお姉さんらしいとこ、いまいち見せれてない気がしてたから……」
柔らかく笑うミュエル。
「それにしても、明石はやっぱりお菓子作り上手いよな。これとかすっごく美味そうだし……」
と、瑛莉が思わず伸ばしかけた手を優しく叩いて、
「つまみ食いは、ダメ……だよ?」
と、ポケットから取り出したマスクを、瑛莉につけた。
大きくバツ印が描かれたそれは、『つまみ食い禁止』マスクらしい。
「むぅ」
と唸る瑛莉。同じマスクをつけられた、ミュエルの守護使役『レンゲさん』となんとなく見つめ合ってしまうのであった。
さて、田中 倖(CL2001407)は、得意のお菓子作りの腕を発揮。
一人でケーキ作りに励んでいた。
「せっかくですから、通常のクリスマスケーキとは趣向を変えて……小さなドーム型のレアチーズケーキにしましょう」
ぽん、と手を叩いて呟くや、手際よく、しかし丁寧にお茶碗に材料を詰め込んでいく。材料には砕いたクラッカーなども使用し、食感に変化を入れる凝りようだ。
最も得意なお菓子はドーナツ、という彼だが、先述した通り、お菓子作りは全般、得意とするところ。あっという間に一品、後は冷やして固めるだけ、という状態だ。
「さて、ではもう一品」
倖は赤ワインを鍋に入れ、スライスしたリンゴを入れ、食感が残る程度に軽く煮込んだ。
次いで、ドームケーキにチョコペンでさらさらと顔を書いていく。そのケーキに、先ほど色付けしたリンゴをリボンに見立ててかざりつければ。
「ぱくぱく丸さんケーキの出来上がりです」
そう、久方きょうだいの末妹、万里の守護使役『ぱくぱく丸』を模した、可愛らしいケーキの完成だ。
せっかくみんなで作るのだから、特別なオーダーメイドが良い、とは倖の言だ。見た目と味を両立させた、彼ならではのケーキと言えるだろう。
「さて、僕の方はこれで完了ですが……」
と、当たりを見渡す。他に手伝いを必要としているグループがないかの確認であったが、
「事務員サン……頼むぅ~……」
などと、瑛莉の情けない声が聞こえてきたものだから、苦笑を浮かべつつ、倖は手伝いに向かうのだった。
天野 澄香(CL2000194)、如月・彩吹(CL2001525)、麻弓 紡(CL2000623)、新堂・明日香(CL2001534)の4人は、元々ケーキを作ろうと集まっていたのだが、瑛莉たちの事情を聴き、久方きょうだいのためならと、自分達の分に加えて、久方きょうだいの分のケーキも作成することにしたのだった。
「材料も人手もありますし、2つ3つと作るのも同じ事です」
とは澄香の言である。
「普段は台所に立つのは禁止されているのだけれど」
と、彩吹は包丁を振り上げた。
「ん……リンゴを切る位なら」
振り下ろす。
たんっ! と力強い音を立てて、リンゴが両断された。
再び包丁を振り上げ、振り下ろす。リンゴが再び両断される。料理と言うより、薪割かなにかをほうふつとさせる動きだ。
「って彩吹ちゃん、包丁は振り下ろすものじゃないからー!」
「彩吹ちゃん、ええと……貴女は包丁持つのは危ないからこっちでクリームの泡立てお願いします」
明日香と澄香の言葉に、
「え、2人とも、何か言った?」
と、澄香の方を見ながら、それでも包丁を振る手を止めなかったものだから、ざくり、とリンゴに添えていた切ってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る澄香。彩吹は、
「大丈夫、慣れっこだから」
と、手際よく絆創膏を取り出し、処置を済ませてしまった。幸い、傷はさほど深い物ではなかったようだ。
「うん、料理に絆創膏と消毒液は基本装備だよね……っと、了解。泡立てだね」
と、泡だて器を受け取り、ガッシャガッシャとクリームを泡立て始めた。
「彩吹ちゃん、泡立てすぎにも気を付けてくださいね」
「ボク、料理全般苦手なのでツマミグイ担当……」
と、手を挙げた紡だったが、
「紡さん、ツマミグイはだめだからね?」
「紡ちゃん、つまみ食いじゃなく、ちゃんとできたのをあげますから、粉ふるって下さいね」
明日香と澄香の言葉に、紡は「むぅ」と呟きつつ、素直にふるいを受け取った。
紡はふるいに粉を入れようと、そっと粉をふるいに落とそうとしたが、うっかり大量の粉を落としてしまい、粉塵が宙に舞う事となってしまう。
真っ白な視界の中、けほけほと紡がむせる。
そんな紡を見て、明日香と澄香は顔を見合わせ、こっそりと微笑んだ。
彼女たちのケーキ作りは、澄香の指導もあって、多少のトラブルはあったものの、スムーズに進んでいった。
「おぉぉ……膨らんできた、すごい……」
「もうすぐ焼き上がりかな……楽しみ!」
紡と明日香が、スポンジケーキの焼き上がりを見守る中、澄香は飾りつけのマジパンを用意。彩吹も「これなら大丈夫」と、使い終わった調理器具の洗い物をしている。
ほどなくして、ケーキが焼きあがった。ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
澄香たちが飾りつけを行う中、紡が紅茶を入れている。
間もなく、彼女たちのケーキ作りは完了した。
「綺麗に出来たね、真由美ちゃん喜んでくれるといいね」
出来栄えを眺めつつ、紡が言った。
「では、此方のケーキは瑛莉ちゃんに渡しておきますね。私達は、こっちをいただきましょう」
「私が持っていこう。ちゃんと謝れば許してくれる、と伝えておかなきゃ」
彩吹が箱に詰められたケーキを持って、瑛莉たちの元に向かっていった。
ほどなくして、彩吹が帰ってくる。瑛莉は「今度は必ず届ける」と感謝しつつ約束したらしい。
「さて……それじゃ、ボク達も食べよっか。ささ、紅茶が覚めないうちに」
紡の言葉に、皆が頷いた。
かくして、彼女たちのささやかなパーティが始まる。
一方、こちらは切裂 ジャック(CL2001403)と時任・千陽(CL2000014)の男二人組。
「……切裂、レシピ通りに作らなければ。それでは分量が違います」
「1gも10gも誤差やき。ちゅーか何時間かかるんやケーキ作り……」
こちらの2人はケーキ作りはあまり経験がないらしい。レシピ通り、分量通りに作ろうとする千陽と、些かアバウトなジャックと、実に対照的なコンビだ。
「で、こっちのケーキは抹茶ケーキにでもする?」
尋ねつつ、ひょい、と苺を一つまみ。
「その、切裂、つまみ食いは」
最後まで言わせるか、と千陽の口に苺を放り込むジャック。口をふさがれ、もごもごと口を動かす千陽。
「お前の軍服見てると抹茶が食べたくなるでな」
言いつつ、ひょい、と剥きミカンをひとつまみ。
「だめだと……むぐっ……いわれたじゃないですか!?」
再び押し込まれたミカンを飲み込み、抗議の声を上げる千陽。そんな姿を見て、ジャックは笑う。
「ところで……こちらのケーキは? やはり久方君の?」
と、千陽が指さしたのは、シフォンケーキである。
「ん? これ? うん、くそ不味いケーキ作る。これ数多に食わすんだ、いつかの復讐!! 楽しみだなあ」
些か悪い笑顔で答えるジャック。
「えっ、復讐ですか?」
驚きの声を上げる千陽。ジャックは笑い顔のまま、
「これを半分に切ってぇ、間に生クリームとミントガムをつめてぇ、サルミアッキもつめつめ……正露丸も入れておこう、俺優し!」
あっという間にシフォンケーキが何やら悍ましい物へと変貌していく。甘い香りはどこへやら、何やら凄まじい激臭を放っている。ジャックは「うわ臭い! 笑う!!」とケタケタと笑っているが、これを食べさせられる者は笑えたものではないだろう。
「あと何入れる? 血とか? 半日、日光にでもあてる? きっとお日様の香りするよ」
言いながら、千陽へケーキ……もはやこれはケーキなのだろうか、とにかくケーキらしきものをパス。
流石の千陽もここから軌道修正するのは難しい、と困り顔。心の中で復讐のターゲットに謝罪の言葉を述べ、せめて胃薬は用意しておこうなどと誓った。
「ところで、このままじゃすぐにばれると思いますので……生クリームをぬるしかないんじゃないでしょうか?」
「バレてもいいんよ。だって数多羽交い締めにするのお前やし」
えっ、と思わずジャックの顔を見つめる千陽。ジャックは意地悪気な笑みを返すだけだった。
姫神 桃(CL2001376)と月歌 浅葱(CL2000915)も、2人でケーキを作っている。すでにスポンジケーキは焼き上がり、後はデコレーションを残すのみだ。
浅葱がスポンジに生クリームを塗りつけて、桃がフルーツを盛りつけていく。息の合った、二人ならではのコンビネーション。見る見るうちに、二つのケーキの出来上がり。でも、ケーキの真ん中には飾りつけがなく、まっさらなクリームがのぞいている。
「最後のデコレーションはお楽しみですねっ。ふっ、折角だからお互いの顔書いちゃいましょうかっ」
と、浅葱が提案する。
「面白そうだわ!」
と、桃が笑って同意する。
まずは桃から。
「浅葱だと……そうね」
桃は、クリームをチョコで縁取った。目はチョコで丸く、デフォルメを効かせる。
「浅葱といったら、笑ってるか、ポーズ決めてる時のドヤ顔ね」
そう言って描き上げたのは、自信満々そうなドヤ顔の浅葱だ。
「どう? けっこう浅葱に似てないかしら」
得意げな桃。
「おおっ、桃さんの描いた顔そっくりなのですよっ」
と、浅葱は、ケーキの隣でドヤ顔をして見せた。
デコレーションと浅葱、二つのどや顔に、思わず吹き出してしまう桃。
「これは負けていられませんねっ!」
浅葱も負けじと、デコレーションを始める。
ふわっとした髪をいちごクリームでくるんと描き、つり上がった目はチョコレート。口をギザギザと描いたら。
「はいっ、桃さんの怒った顔なのですよっ」
と、デフォルメされた、桃の怒り顔の完成だ。
「その絵は可愛いけど、私そんなに怒らないわよ!」
と、デコレーションそっくりの顔で、抗議する桃。浅葱はふっ、と笑いながら、デコレーションされた桃の顔、そのほっぺたに、斜めに線を三つ、描き入れる。
「照れて怒った顔になっちゃうのですっ」
その言葉とデコレーションに、思わず顔を真っ赤にしてしまう桃。ケーキと二人、同じ顔が2つ。
「ふふふ、照れちゃってこんなお顔で可愛いですよっ」
「て、照れてなんて無いんだから!」
ぷい、と顔をそらす桃。そのしぐさもどこか可愛らしさを感じさせるものだ。
「そ、それにしても……気合い入れちゃっただけ、食べるの勿体無くなっちゃったわね……食べる前に、一枚写真残しておこうかしら」
桃の言葉に、浅葱は頷いた。
「それではケーキと一緒に取りましょうかっ」
二人はケーキを背に、肩を寄せ合う。
「ほら、桃さんももっと寄って、はいっテレ顔もっ」
急に抱き寄せられたものだから、びっくりした桃の顔がまた赤く染まる。テレ顔とドヤ顔、ケーキと同じ顔で、パシャリとカメラで一枚。2人のいい思い出になっただろう。
「瑛莉ちゃんたちのお手伝いは何人かいるみたいだし、私らは自分用つくろっか」
華神 悠乃(CL2000231)は、柳 燐花(CL2000695)へ言った。
燐花のお菓子作りの練習を兼ねたケーキ作りは、危なげなくスポンジケーキ製作までを完了。残すは飾りつけのみとなった。
「華神さん。フルーツはイチゴでいいですか? 他に何かお持ちしましょうか」
イチゴを用意しつつ、燐花が尋ねる。
「うん、イチゴは鉄板よね。ほかはねー、缶詰の桃とかお手軽で合わせやすいよ」
笑いながら、悠乃が答える。
かくして2人は飾りつけを始めた。
悠乃は手際よく、燐花はおっかなびっくり、でも丁寧に。
2人でクリームを塗ったり、飾りつけのフルーツを選んだり。笑顔の絶えない2人は、端から見れば、まるで。
「おねえさん、がいたらこんな感じなのでしょうか……」
思わず、燐花が呟いた。慌てて口をつぐむ。
聞かれていなければいい、と思った。恥ずかしく、図々しい願いだと思ってしまった。燐花にとって、悠乃はあこがれの人だった。その人が、今、そばにいてくれる。それ以上を望むなんて、と。
一方、燐花の呟きは、悠乃の耳へと届いていた。
――流すべき、なのかな。
と、悠乃は思う。燐花の今のふるまいから見ても、先ほどの一言は、とっさに出てしまった一言なのだろうし、何処か触れてほしくなさそうにも見える。でも。
――うー、かわいいなぁもう!
今すぐ抱きしめて、撫でまわしてあげたい衝動にかられた。末妹である彼女にとって、お姉さんとして扱ってもらえることはこの上ない嬉しさであったし、相手が燐花となれば、その喜びもまた格別。
でも、今は作業中なのでそれは我慢。今はケーキを作って、燐花とのティータイムを満喫しよう。
悠乃は呟きを聞かなかったことにして、ケーキの飾りつけに全力を傾けた。ほどなくして可愛らしいケーキが出来上がる。
2人はお茶を用意して、席についた。
「楽しいクリスマスをありがとうございます。また何かの折にはご一緒してくださいますか?」
どこか窺うような燐花の問い。悠乃は満面の笑顔で、
「もちろんだよ! あ、そうそう、シュトーレン、作ってみたの。暫く寝かせて、後で食べてね」
と、綺麗にラッピングされた小箱を手渡す。燐花は一瞬ビックリした後、嬉しそうにそれを受け取った。
とは言え、2人のティータイムは始まったばかり。
2人の至福の時間はまだまだ続くのだ。
「禊さんはケーキ作ったことある?」
と、鐡之蔵 禊(CL2000029)に尋ねたのは、御影・きせき(CL2001110)だ。
「お菓子作りの一環で作ったことがあるから、難しいモノじゃなければ大丈夫だよ」
と、笑顔で返す禊。その笑顔を苦笑に切り替え、
「しかし、神林はここまでドジっ子だったとは……」
と、ほっぺをかく。「面目ねぇ……」と、瑛莉の声が聞こえた。
「まぁ、お菓子作りと考えれば、丁度良いイベントだよ、神林」
「あの……瑛莉さんはいつもこうなの……?」
心配そうに尋ねるきせきに、禊は苦笑で返すことしかできなかった。
それはさておき。
「それじゃあ、とびきり美味しいケーキを完成させよう! 鐡之蔵家のクッキング。しっかり教えちゃうよー!」
禊の言葉に、きせきは、「おー!」と元気良く返事をする。
2人は協力してケーキを作り上げていく。生クリームの泡立てや、スポンジケーキ作りは禊が上手と言った所だったが、飾りつけでは持ち前の器用さをきせきが見せつける。
「へぇ、やるね、御影! あたしより器用かも!」
きせきがえへへ、と笑い、胸を張る。
きせきはイチゴを、ケーキのフチに沿ってぐるりと並べていく。
「真ん中にはサンタさん!」
と、用意していた砂糖菓子のサンタを取り出す。
「どっちがとるかで万里ちゃんと相馬くんがケンカしちゃったら大変だから、サンタさん2人のっけるよ!」
と、ケーキの真ん中に、2人のサンタを置く。だが、きせきは小首をかしげ、うーん、と唸る。どこかしっくりこないようだ。
しばらく悩んだ後、きせきは「あっ」と声を上げる。
「そっか、これじゃ真由美さんが仲間外れだから……やっぱサンタさん3人!」
かくして、ケーキの真ん中には3人のサンタが、仲睦まじく並ぶことになった。
それは、まるで久方の3きょうだいのように。
「うんうん、よくできました!」
禊が屈託なく笑い、きせきの頭をくしゃくしゃと撫でる。
きせきは、わぁ、と笑いながらそれを受け入れた。
「皆、次々ケーキを完成させているみたいね」
材料を正確に測りつつ、環 大和(CL2000477)が言った。
「こちらはどうかしら、瑛莉さん」
「もーちょい……もーちょいだな……後はクリームを作って、秋津洲や菊坂、明石の作ったマジパンとクッキーで飾りつけができれば……」
大和の問いに、瑛莉が答えた。
大和も、瑛莉と結那のケーキ製作の手伝いをしに来たクチである。
「瑛莉さん、結那さん。誤魔化す為のケーキではなく、きちんと謝罪した上で別のケーキを持っていく、そういう心意気は素晴らしいと思うわ」
大和は言う。誤魔化しではなく、誠実な謝罪のための行動。それに心を打たれたから、彼女は今ここにいるのだ。
「そういう気持ちがあったから、皆ここにいるのだと思うわ。だから、もう少し、頑張ってね」
使い終わった器具を片付けながら、大和は言う。
瑛莉と結那は、その言葉に力強く頷いた。
ほどなくして、ケーキは完成した。マジパンやクッキーがふんだんに乗った、何とも賑やかなケーキだ。それは、今日この場に集まった覚者達の思いが詰まった、この世で一つだけのケーキだ。
「よくできたわね。ラッピングは任せて頂戴」
そう言うと、大和は器用にケーキをラッピングする。ラッピングには、可愛いモルモットとすねこすりを模した人形をそえて。
「久方家に楽しい時間を過ごしてもらえますように……今度は、落としちゃだめよ?」
微笑を浮かべて、大和は、そう言った。
当初の予定より、多くの物を受け取って、瑛莉と結那は再び真由美の元へと向かう。
多くの人達の想いのこもった山ほどのケーキは、きっと、彼女たちを笑顔にしてくれるだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『聖夜のパティシエール』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『聖夜のパティシエール』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『聖夜のパティシエール』
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『聖夜のパティシエール』
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『聖夜のパティシエール』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『聖夜のパティシエール』
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『聖夜のパティシエ』
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)
『聖夜のパティシエ』
取得者:時任・千陽(CL2000014)
『聖夜のパティシエ』
取得者:田中 倖(CL2001407)
『聖夜のパティシエール』
取得者:華神 悠乃(CL2000231)
『聖夜のパティシエール』
取得者:姫神 桃(CL2001376)
『聖夜のパティシエール』
取得者:月歌 浅葱(CL2000915)
『聖夜のパティシエール』
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『聖夜のパティシエール』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『聖夜のパティシエ』
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『聖夜のパティシエール』
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
『聖夜のパティシエール』
取得者:環 大和(CL2000477)
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『聖夜のパティシエール』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『聖夜のパティシエール』
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『聖夜のパティシエール』
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『聖夜のパティシエール』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『聖夜のパティシエール』
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『聖夜のパティシエ』
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)
『聖夜のパティシエ』
取得者:時任・千陽(CL2000014)
『聖夜のパティシエ』
取得者:田中 倖(CL2001407)
『聖夜のパティシエール』
取得者:華神 悠乃(CL2000231)
『聖夜のパティシエール』
取得者:姫神 桃(CL2001376)
『聖夜のパティシエール』
取得者:月歌 浅葱(CL2000915)
『聖夜のパティシエール』
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『聖夜のパティシエール』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『聖夜のパティシエ』
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『聖夜のパティシエール』
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
『聖夜のパティシエール』
取得者:環 大和(CL2000477)
特殊成果
『手作りケーキ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
なお、クリスマスパーティの久方家は、多くのケーキに囲まれて、とても幸せな時間を過ごしたそうです。
ついでに、瑛莉と結那もちゃんと許してもらえた様子でした。
ついでに、瑛莉と結那もちゃんと許してもらえた様子でした。
