夜空の下でバーベキューを
夜空の下でバーベキューを


●ここに来た時に出来た夢
 12月16日。
 夢見としてFiVEに保護され、以後協力関係にある少女『紫水晶』神塚・蛍(nCL2000140)は五麟大学附属小学校の廊下にいた。
「……」
 依頼の時でもなければ多くを語らない少女は、小学校の先生に頼まれ大きな定規を運んでいる。
「あ、お前今日誕生日なの? おめでとうー!」
「えへへ、ありがとうー!」
 教室で言葉を交わす男子達の声が不意に耳へと入って、彼女の足ははたと止まった。
「……誕生、日」
 じゃれ合うクラスメイト達を見つめながら、少し前のことを思い出す。
 あれはまだ、自分が小さな座敷の中だけで生きていたころ―――

『ありがたや、ありがたや』
『今年もまた一つ年を重ねて下さった』
『こんなにめでたいことはない』

 大人たちが彼女を祝い、見ている前で楽しげに飲み食いしていたのを自分はぼーっと眺めていた。
 あれが確か、12月18日ではなかっただろうか。
「蛍ちゃん、どうしたの?」
 そんなことを考えていると不意に声を掛けられた。声の主を確認すれば、視界の先で横巻きの髪が揺れていた。
「……」
「何か悩み事? だったらこの万里ちゃんに相談しちゃっていいよ~?」
 そう言って胸を張るのは同じ夢見の少女、久方 万里(nCL2000005)だ。
 小学校の先輩でもある彼女には、普段から色々とお世話になっている。
「……」
 少し考えてから、蛍は思い切って万里に相談をしてみた。人と触れ合うのは今でも少し緊張する。
 だが、自分を座敷から連れ出してくれた人達が教えてくれた世界との向き合い方を、彼女は守ろうとしていた。
「……ふんふん、なるほど! それなら祝わない理由はないと思うなっ」
 言葉少なな説明にも、万里はしっかりと理解を示し再び胸を張る。
「誕生日は、やりたいことをやる! これしかないよねっ!」
「やりたい、こと……」
 考える。自分のやりたいことは何だろうか。
 しばし考えて、意外なほどあっさりと答えは出た。
「……バーベキュー」
「バーベキュー? いいねっ」
「……星見」
「夜空が見えるロケーション? だったら学園前の公園なんてどう? ちょっと明るいかもだけど星はちゃんと見えるからっ」
「……」
「まだ何かある? いいよ、万里ちゃんがしっかり聞き届けてあげる!」
「……ん」
 聞き手に回る万里に拙いながらも蛍は願いを口にしていく。
 ここに来て初めて誰かと迎える誕生日。
 蛍の胸の中に淡い期待と、それ以上に温かな物が沸き上がっていた。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
■成功条件
1.お楽しみに参加する!
2.なし
3.なし
初めましての方は初めまして、そうでない方は毎度ありがとうございます。
みちびきいなりと申します。
イベントシナリオです。参加したらその時点で依頼成功です!
よければ一緒にバーベキューパーティーを楽しみませんか?

●舞台
五麟学園のすぐ傍にある公園の一角、そこをお借りしてバーベキューパーティーが開催されます。
時刻は夜、日が落ちるのも早いので19時頃から遅くとも22時頃までになるでしょう。
火を扱いますが数名のFiVE関係者の大人が見守ってくれていますので子供だけの参加も大丈夫です。

●パーティー内容について
行動は主に二種類(それ以外の行動があれば【4】でお願いします)です。プレイングの冒頭か、EXプレイング内に番号を明記されると確実です。

【1】バーベキューパーティー!:食べ物の持ち込み歓迎! なくても一通りは準備されています。
【2】星空を眺める:今宵は冬の星座がよく見える事でしょう。
【3】夜の公園で遊ぶ:普段来ないような時間帯、少し違った状況で遊んでみませんか?(外灯程度の明かりはあります)

プレイングに特定の誰かを指定せず【絡み上等】と書いてあれば、同じく【絡み上等】と書かれた噛み合わせられそうな方と一緒に描写します。
アドリブ歓迎な方向けです。

●NPCについて
以下のNPCが今回登場します。

『紫水晶』神塚・蛍(nCL2000140)
・この状況をセッティングしてくれた万里ちゃんの想いに感謝しながら、気合十分です。
 新しい世界を知るために、色んな人と知り合いたいと思っています。

NPCは【1】と【2】を中心に時間いっぱい動いています。呼ばれれば【3】にも勇んで顔を出します。
勿論絡まないで動かれても問題ありません。存分にシチュエーションをお楽しみください。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

パーティーです。
皆様で思う存分仲良く楽しく過ごしましょう。
如何にして楽しむか。覚者の皆様、どうぞよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
20/30
公開日
2016年12月24日

■メイン参加者 20人■

『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『天からの贈り物』
新堂・明日香(CL2001534)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)
『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)

●お楽しみの始まり
 とても寒い日だった。
 12月18日。年末に向けて人々が意識を変えていく頃、その日の日暮れの空は紅い。
「……」
 五麟学園に最寄りの公園には、多数の人の姿があった。
 設営を手伝う者、場所取りを行なう者、はしゃぎ遊ぶ者。
「お誕生日おめでとうございます」
「!」
 不意に掛けられた声に驚いて『紫水晶』神塚・蛍(nCL2000140)は慌てて振り向いた。
「ささやかですけど、受け取って貰えると嬉しいです」
 振り向いた先に立っていたのは『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)。その手には白いふわふわが詰まった袋。
「……?」
「マシュマロです。このままでも勿論美味しいですけど、割り箸等に刺して火で炙るともっと美味しくなるので……ぜひ試してみて下さいね!」
 笑顔と共に差し出された袋を受け取って、ようやく彼女はその日を自覚する。
 自分の誕生日。
 生まれて初めての、誰かと触れ合いながら経験するお祝いの日。
「……ありがとう」
 ふわりと浮かんだ少女の笑み。
 その笑顔を見た者の誰もが、今日のイベントが成功することを疑いはしなかった。
 バーベキュー&星見会。
 お楽しみが始まる。

●星空の下でバーベキューを
「持ってきた肉と野菜はどこに? ここ? 了解」
 いくつかの照明と、自主的に手伝ってくれている竜型の守護使役によるともしびで仄かに照らされた会場を椎名・昴(CL2001549)は見回した。
 楽しげな催しに釣られてやって来たが、中々どうして皆笑顔だ。
「追加の食材かな? ありがとう」
 案内に従ってやってきた昴を迎えたのは鈴白 秋人(CL2000565)。自分の出番になるまでは裏方として催しを支えている。
「料理は苦手だけど、焼くくらいなら俺だって出来るはずだから……」
「そう? それは助かる。焼き手がちょっと足りなくてさ」
 秋人の向けた視線の先には、元気よく、勢いよく鉄板の上のモノを平らげていく覚者達の姿がある。
 昴同様、食べ物に釣られてやって来た参加者も大勢いるのだ。

「雷切達成やってやったぜー! カンパーイ!!」
「はいはい、って遥はそんなに肉ばかり食べないの!」
 持ち込んだ烏龍茶入りのペットボトルを掲げる『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)の、もう一方の手に持つ皿の上には肉、肉、肉。
 それを指摘する『雷切』姫神 桃(CL2001376)の持つ皿の上にも、自分の分はしっかりと確保されている。
「野菜も取らなきゃダメよ?」
「へへ。……でも、フィオナの奴は残念だったな。運の無いヤツだ」
 先日の雷獣依頼の祝勝会を兼ねて参加した彼らは、ここに居ない友人のことを思う。
「フィオナさんとは、また今度遊びたいわね」
「だな。今日はあいつの分までがっつり食ってこうぜ!」
「……って、だから野菜! 他のを食べないなら口に突っ込むわよ!?」
 ぎゃいぎゃいと言い合う二人は殊更騒がしい。周りよりも早いペースで消費されていく食材に、食材係はてんやわんやだ。

「さあ、沢山焼いて食べちゃいましょうかっ。時雨さんはどのお肉が良いですかっ?」
 『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)と『美少女』水端 時雨(CL2000345)のペアも、負けず劣らず元気よくバーベキューを楽しんでいる。
「こっちのお肉、いい焼け具合ですよっ! 焼き立てが一番なのですっ」
「キャー、熱いっす。流石にそれは危ないっすよ」
 箸で摘まんだ肉を時雨の口元へと運ぶ浅葱。焼き立てをそのまま口に押し付けられて時雨から悲鳴が上がった。
「って、熱かったですかっ?」
 可愛がるつもりが困らせてはいけないと、慌ててふーふー冷ましてから、再び口へ。
「あーん……んふふー、お肉美味しいっすね!」
 今度は丁度良かったのか肉を美味しそうに頬張る時雨に、浅葱の表情もほころぶ。
「遠慮せずとも焼けたのはもっとありますからねっ」
 さらに肉に肉に肉と両手の指にバーベキューの肉串を広げてみせる浅葱に、しかし時雨は待ったをかける。
「玉ねぎとか人参とか相性いいっすよ? タレも工夫して、甘辛いタレに王道のタレに塩コショウっす!」
 用意した様々なタレに色とりどりの野菜も添えて、二人仲良くバーベキュー。
「あ、タレついてるっす」
「んんっ!?」
 ペロッとほっぺを時雨に舐められて、可愛がるつもりが可愛がられもした浅葱なのだった。

「ほら、燐花さん食いっぱぐれちゃだめよ?」
 別の網の前には『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)と『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)の姿がある。
 今日の催しには燐花の方から誘った。一緒にいると明るい気分になれる、そんな頼れる先輩と話をするために。
「お飲物とかお持ちいたしましょうか。何がいいですか?」
「そんな気を使わないでよ! あ、紅茶ね! ジンジャー入ってるやつ」
 数多の遠慮のない注文に笑顔で応えて用意する。彼女が喉を潤し落ち着いた所で、燐花は話を切り出した。
「先輩……恋ってなんですか?」
「ぶほっっ! ……あーあー、うん。恋、恋! うん、そう! 私、恋のプロフェッショナルで恋検定免許皆伝だから!」
 恋愛らしい恋愛の経験のない数多だが、向けられた尊敬の視線を彼女は裏切れない。
「恋は熱を持つものだとあの時聞いたのですが、やっぱりよく分からなくて……」
 ぽつりぽつりと語られる燐花の話に数多は真剣に耳を傾ける。そして、ゆっくりと言葉を返した。
「うんとね……その相手がいると気になって仕方ないとか、つい目がいっちゃうとか、その人が言った言葉一つで振り回されちゃうとか、世界がその人を中心に回ってるって錯覚しちゃうというか……」
 彼女なりに語るその言葉は、心の中に強く在る兄への想いだ。
「その人を中心に、世界が回る……」
「そんな人、心当たりはあるかしら?」
 数多の問いかけに、しかし燐花は食べる手を止めそっと夜空を見上げるだけだった。
 この思いを分かるようになりたいのか、変わらぬままでいたいのか。
 その答えはまだ燐花の中に、ない。

「蛍さん、お誕生日おめでとう」
 賑やかな会場を焼いたマシュマロ片手に歩く蛍に『月々紅花』環 大和(CL2000477)は声を掛けた。
「冬は星が綺麗に見えるから一緒に眺めましょう?」
「……ん」
 大和の提案に、蛍は小さく頷き彼女についていく。二人の傍でそれぞれの守護使役が楽しげに舞っていた。
「冬の代表的な星座といえばオリオン座ね。三つ並んだ星はとても見つけやすいわ」
「知って、る。その隣のも……星座」
「詳しいのね。そう、あれが双子座よ」
 星に強い関心を示す蛍に、大和は星座を切るように指を走らせた。
「この時期は双子座の辺りに流れ星がよく流れるのよ」
「流れ星……」
 ますます目を輝かせる蛍と共に、大和はジッと夜空を見上げる。ピークは過ぎていても、今の時期ならば。
 空は雲一つない快晴。街明かりから離れたこの場所でなら、その願いは叶うかもしれない。

●星下の語らい
 バーベキュー会場から少し離れれば、暗がりは深まり星空は輝きを増す。
 そこでも多くの人々がそれを眺めながら、或いは見守られながら、それぞれの言の葉を紡いでいた。

「……それが女の子が苦手な理由、そして偽名の理由なのねん」
 『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は『悲嘆の道化』切裂 ジャック(CL2001403)に膝を貸しながら話を聞いていた。
 彼の口から聞いた、彼が今までの人生を呪い生きてきた理由。それを耳にして、
「……大丈夫よ、魁斗。私は兎にならないし、貴方が名前を嫌うなら、私の名を半分あげても良いわ」
「別にそんなの……俺のことをずっと覚えていてくれるだけでいいよ」
 ジャックはただ、控えめな自分の望みを口にして……
「……っておわ!?」
 寸前で輪廻の顔を抑えて止めた。彼女はジャックに、あろうことかキスを仕掛けていたのだ。
「ふふ、ちょっと女の子慣れさせちゃおうと思ってねん♪」
「そういうのは本気で好きな奴だけにしろってうわ!?」
 ジャックの言葉にも全く物怖じせず、輪廻は彼を押し倒す。どうにかこうにか止まったのは、ジャックの腕の中に収まったからか。
「私は割と魁斗の事は好きよん? 昔の……死んだ恋人とは真逆のタイプだけど、共感できて可愛いからねん♪」
「……言わせちゃったな。ごめん」
 でも、とジャックは続ける。
「俺をその気にさせるか、それか、ちゃんと惚れてからにしろ」
 言葉と共に首筋に噛み付く。複雑な思いと共に微かな傷跡が輪廻に刻まれた。
「ふふ、この傷だけは治さない様にしないといけないわね……♪」
 傷を愛おしげに撫でる輪廻は、その時から確かにジャックを見る目を変えていた。

「空気が冷たくて、星がよく見えますね。こういう日は、寒さが辛いですが」
 『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)は『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)と一緒に星を見ていた。
 普段から星を見るクーだが今日は道具を使わず肉眼で、隣に立つ小唄と同じ視点で空を見る。
 二人並んで、手をしっかりと握り締め、お互いにどこかいつもと違う雰囲気を感じている。
「僕、思ったんです」
 不意に小唄が視線をクーへと向けた。
「今まで、色んな所で先輩に守られてきていたんだな、って。でも、先輩はいっぱい傷ついて、この前は大怪我しちゃって」
 どこか早足で言葉は続く。
「だから、もう守られているだけじゃダメなんです」
 気持ちに急かされるように、小唄は声を紡いだ。
「僕に先輩を守らせてむぐっ」
 小唄の言葉は、けれど最後まで言えずに、唇に触れたクーの指に阻まれた。
 唇なぞるように動く指はそのまま小唄の頬を撫で、次いで優しく彼を抱き寄せる。お互いしか見えない至近距離。
「そう言われるのは、素直に嬉しいです」
 でも、
「君は、そう言われて、私が大人しく君が傷つくのを我慢できる人間に見えますか?」
 心配する気持ちは互いに同じ。どうか留めていて欲しいとクーは願う。
 それを分かってしまえばもう小唄は何も言えない。
「これは、感謝の気持ちです」
 そう言って、クーから与えられたのは頬に届く柔らかな唇の感触。
 驚き目を見開く小唄の視線の先には、目を逸らし頬を染めたクーがいる。
「先輩は、ずるいです」
 気持ちが溢れ涙目を浮かべた小唄は、それを隠すために彼女の腕の中に顔を埋めた。
(……こんなの、もっと好きになっちゃうじゃないですか)

 会場から特に離れた所で『弦操りの強者』黒崎 ヤマト(CL2001083)と『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)の二人は同じ毛布にくるまり星空を見上げていた。
 二人それぞれ片耳にイヤホンをつけ、同じ音源から響くバラードの旋律にヤマトは歌う。
 モチーフは月見草。優しい歌声に込められているのは強い想い。
『……温かいから、一緒にいることを許してあげる』
『ほら、歌いなさいよ。聞いてあげるから』
 今の状況を作った自分の言葉を思い返しながら、ありすは音楽に身を委ねる。
 この歌声に、この温かさに。自分はいつから惹かれていたのか。
(……いつから、こんなに好きになっちゃったんだろ。こんなやつ)
 昂ぶる想いは、不意に肩へと回された手の感触に燃え上がる。
 驚きと、それ以上の心地良さ。
「……」
 自然と、ありすはヤマトへ体重を預け相手の肩に頭を乗せていた。
 触れた柔らかさに視線を向けたヤマトは、見たことの無いありすの表情に心を震わす。
「……何よ、そんなに顔を見て」
 向けられた視線と言葉に、ヤマトは意を決して口を開く。
 月見草の花言葉は無言の恋。しかし彼は、無言で終わることを望まなかった。
「抱きしめていい?」
「……ダメ、って、言うと思う?」
「……考えてなかった」
 言葉尻を首に巻いたマフラーの中に隠してしまうありすを、ヤマトは優しく抱きしめる。
 今の彼女を誰にも見せたくはない。そんな思いも、口にする。
「もっと近くに居たいなって、欲張りだな」
「……」
 それを聞いたありすは、また胸の奥の熱が上がるのを感じていた。

 星がよく見える開けたところには、大きなレジャーシートが敷かれていた。
「お友達四人で星を見るなんて素敵ですよね」
 『慈悲の黒翼』天野 澄香(CL2000194)の言葉に、他の三人もそれぞれに同意を示す。
「いっぱい着込んで、もこもこの毛布も被って」
「星空の下の女子会ですね!」
 『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)、『そして彼女は救いを知る』新堂・明日香(CL2001534)、そして彼女ら三人を見守るように傍で座る『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)。いずれも十分すぎる厚着に、さらに毛布。手袋にクッションと完全防寒の構えである。
「双子座はどっちの方角だったっけ?」
「向こう……だね。双子座流星群、みれるといいねぇ?」
 この時期に見れるという、星の旅行者達を探し空を見上げる。
 最も、こうして目に映る空も美しい。その感動がハッキリと顔に出ているのは明日香だ。
「すっご~い……こんなの、はじめて」
 そんな彼女を含めて、紡の用意してくれたマシュマロ入りの耐熱カップにたっぷり注がれた、熱々ココアを澄香は配っていく。
「流れ星見つけたら何をお願いしたいですか?」
 何気なく問いかけた言葉に、それを受け止めた紡の表情が一瞬固まった。
「……っ」
 頭を過ぎった笑顔が、彼女の胸を締め付ける。表情が自然と暗くなる。と、
「“つよいひとになれますように” ……小さい頃はそうお願いしたことがあるよ」
 そこに不意に掛けられるのは彩吹の言葉。昔を懐かしみ、そして楽しげに語る。
「私は、できたら皆とずっとこうしてお友達でいられますように、です」
 それに合わせて澄香が笑顔で願いを語れば、さらに紡の口に手製の一口肉まんをぽいと食べさせた。
「……」
 その様子をじっと眺めていた明日香は、胸の中の鼓動を強く感じていた。
(まだここに来たばかりで、ついつい敬語多めになってたけど)
 今日なら、変われるかもしれない。と。
「流星群、見れたらいいなあ」
 それを切り出すためのきっかけが欲しかった。
「……」
 四人は次第に言葉少なに、静かに空を見上げ始める。
 そしてその思いは、今日の夜空に届いた。

「蛍さん」
「……!」
 大和の指差す所に、一条の光の線が走る。
「今、とても長い流れ星が流れたわね。蛍さんは何かお願いできたかしら?」
 大和の問いかけに、けれど蛍は首を振る。願い損ねたと。
「大丈夫。一度見れたのならきっと……」
 果たして大和の言葉通り、それは幾筋もの線を夜空に描き始めた。

「わあ!」
「へぇ、こりゃまた……」
「すごいね。ピークは過ぎてるはずなのに」

「ちょ、遥。あれあれ」
「ふごふご」
「野菜食ってる場合じゃないでしょ!」

「時雨ちゃん、空がすごいですよっ」
「願い事、願い事するっすよ!」

「先輩、空が……」
「にーさまとにーさまとにーさまとにーさまと……」

「輪廻、空」
「この格好じゃ見えないわねん♪」

「クー先輩。手、もうちょっと握ってていいですか?」
「……ええ、どうぞ」

「……ちょっと場所が悪かった?」
「いいんだ、ここで」

「あ、見つけた」
 彩吹の言葉に始まり、女子会のメンバーも続々と流れ星を目撃する。
「……そろそろ、いいかな」
「明日香?」
 三人の視線が集まる中、明日香は覚悟を決めた。
「あたしも、皆のこと、もっと親しみをもって呼びたいって言うか……その」
 途切れ途切れで、でもしっかりとした言葉遣いで。
「彩吹ちゃん、澄香さん、それに、紡さん……け、敬称はその、年上に対する礼儀ということで!」
 勇気を振り絞った宣言に、自然と皆の表情が柔らかくなる。
「っと、暖かくしないと風邪をひくよ? しんど……えぇと、明日香も」
 まず彩吹が応え、肌蹴ていた毛布を掛け直していく。
「願い事……笑顔、が見たいな」
 紡の口にした願いに、緊張していた明日香にも笑顔が灯った。
「流星群というくらいだから、きっと一つくらい願いを叶えてくれる星があります、大丈夫!」
 改めて四人は空を見上げ流れ星に祈る。
 身近で素朴な幸せを、叶わないと知っていても望まずにはいられぬ願いを、ここにはいない誰かの笑顔を。
「みんな、大好き」
 小さく呟く紡の頬は、微かに朱の色が混じっていた。

●祭りの締め、誕生日会
 流星群の落ち着いた後、美久と一緒にブランコで遊んでいた蛍は昴に声を掛けられた。
「準備出来たぞ」
「?」
 首を傾げている蛍を、美久と昴は頷き合い導く。
「行こう、神塚さん」
 彼らの後ろをついていく蛍はその道中、今日集まった人達を見た。
 仲睦まじく寄り添う人、空を仰ぎ星に祈る人、食べ過ぎて動けなくなっている人。
 親しげに話をする人、今こうして隣に立ってくれている人。
 その誰もが、今を充実して過ごしているのを感じた。
 今日、この日を過ごせたことを蛍は心の底から嬉しく思う。
 だが、彼女の喜びはそれで終わらなかった。
「ケーキ……!」
 秋人は誕生日ケーキを用意していた。
 お祝いを聞きつけさらに幾人かを巻き込みながら、蛍の誕生日会が始まる。
「俺からのプレゼント。リラックスしたい時や心を落ち着かせたい時に手に取って、円を描くようにして軽く振ってみてね」
 秋人から渡されたのは地球儀型のミュージックボール。振れば、優しげ音色が響いた。
「ケーキのローソクを吹き消してね」
 導かれるまま、彼女にしては珍しくドキドキと興奮気味な様子で蝋燭に息を吐く。
 火は消えた。
 初めて、自分も参加する誕生日を蛍は経験した。
「誕生日おめでとう」
 この場の多くの祝福を受け、蛍は一つ年を取る。
 今までで一番強くそして温かい日に、檻を出た少女は笑顔を浮かべていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

イベント完了。覚者の皆様はお疲れ様でした。
年末が見えてくるこの頃、気温は低くても心は温まるプレイングが沢山でぽかぽかしました。
その思いが皆様に少しでも伝われば嬉しいなと思います。
蛍の誕生日を素敵にして頂きありがとうございました。
また機会ありましたら、よろしくお願いします。




 
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