五華&ファイヴ村合同フェス 全力! レジャー祭り!
●
「「俺たちも、なんかしたい!」」
こちらファイブ村大宴会場。王子なんとか城っていうおかしな建物の一階に作られた巨大な部屋のステージで、市長のベンさんがおかしなポーズで叫んだ。
その周囲で、おのおのおかしなポーズで並ぶファイヴ村オールスターズ。
「ファイヴの人たちがめっちゃ戦争とかしてるのにワシらは守られてるだけとかおかしいじゃろ!」
「私メリーさん。今やる気なの」「リモコンどこ? ね? どこ?」「ハルウコンです」「アキウコンです」「デキルコト、アルハズダ!」「僕たちなりの戦い方があるはずダモ」「トゥギャザーしようぜ!?」「剣をとるだけが戦いではない」「僕、よくわからないけどファイヴのためなら頑張っていいよ?」「ワシにできることならやるが」「ギョギョギョー!」「あーもううるさい!」
好き勝手に喋る魑魅魍魎を拡声器で一括するサポートセンターのレンさん。
「皆さんのお気持ちはわかりました。我々もあらゆる意味でファイヴの恩恵にあずかる身――」
「そう、今こそ総力を挙げて皆さんを支える時なのです!」
拡声器を横から奪って、知らないオッサンが喋り始めた。
否、知らないおっさんでは無い。
彼こそがあの五華チェーンをジョグレス進化させたムラキヨグループ会長、敷村である。
「五華チェーンの利益は被災者支援に回してもまだ余る程ございます。それを今こそ放出して、ファイヴの皆様が抱えている傷を癒やすのです! そう……!」
拡声器をマックスにして叫ぶ敷村。
「全力! レジャー祭りなのです!」
●
中 恭介(nCL2000002)は所属する覚者や協力団体の人々へ大慌てで連絡をとっていた。
内容はこうだ。
「昨今ヒノマル戦争によってファイブの覚者たちは大きく疲労している。
そんな我々を支えるべく、全力を挙げて疲労を回復しようというイベントが開催されることになった。
ファイヴ村と五華チェーンが合同で開くレジャーイベントは我々の疲れを強烈に癒やし、ひいては決戦の勝利へと繋げるだろう。
みんな、ぜひ参加して、ぜひ楽しんで欲しい! 拡散希望!」
「「俺たちも、なんかしたい!」」
こちらファイブ村大宴会場。王子なんとか城っていうおかしな建物の一階に作られた巨大な部屋のステージで、市長のベンさんがおかしなポーズで叫んだ。
その周囲で、おのおのおかしなポーズで並ぶファイヴ村オールスターズ。
「ファイヴの人たちがめっちゃ戦争とかしてるのにワシらは守られてるだけとかおかしいじゃろ!」
「私メリーさん。今やる気なの」「リモコンどこ? ね? どこ?」「ハルウコンです」「アキウコンです」「デキルコト、アルハズダ!」「僕たちなりの戦い方があるはずダモ」「トゥギャザーしようぜ!?」「剣をとるだけが戦いではない」「僕、よくわからないけどファイヴのためなら頑張っていいよ?」「ワシにできることならやるが」「ギョギョギョー!」「あーもううるさい!」
好き勝手に喋る魑魅魍魎を拡声器で一括するサポートセンターのレンさん。
「皆さんのお気持ちはわかりました。我々もあらゆる意味でファイヴの恩恵にあずかる身――」
「そう、今こそ総力を挙げて皆さんを支える時なのです!」
拡声器を横から奪って、知らないオッサンが喋り始めた。
否、知らないおっさんでは無い。
彼こそがあの五華チェーンをジョグレス進化させたムラキヨグループ会長、敷村である。
「五華チェーンの利益は被災者支援に回してもまだ余る程ございます。それを今こそ放出して、ファイヴの皆様が抱えている傷を癒やすのです! そう……!」
拡声器をマックスにして叫ぶ敷村。
「全力! レジャー祭りなのです!」
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中 恭介(nCL2000002)は所属する覚者や協力団体の人々へ大慌てで連絡をとっていた。
内容はこうだ。
「昨今ヒノマル戦争によってファイブの覚者たちは大きく疲労している。
そんな我々を支えるべく、全力を挙げて疲労を回復しようというイベントが開催されることになった。
ファイヴ村と五華チェーンが合同で開くレジャーイベントは我々の疲れを強烈に癒やし、ひいては決戦の勝利へと繋げるだろう。
みんな、ぜひ参加して、ぜひ楽しんで欲しい! 拡散希望!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.命数を回復させるのだ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
このイベントシナリオは通常の『2倍』の命数回復が設定されています。
なんでかって、ファイヴ村と五華モールその他協力団体の皆さんが全力を挙げてファイヴ覚者の命数を回復させててやんぜと頑張るからです。
【このシナリオのお召し上がり方】
プレイングの冒頭に【○○】という形で行きたいレジャースポットを書いてください。
一緒に行きたいPCがいる場合は『ユアワ・ナビ子(nCL2000122)』のようにフルネームをIDつきで記載するようお願いします。
NPCも呼ぶことができますがそのぶんご自身の描写枠を分譲することをご了承ください。
【レジャーの舞台】
皆さんはファイヴ村がこれまで作ってきた数々のレジャースポットを完全無料でお楽しみいただけます。
五華チェーンは出資を、他の協力団体もそこかしこで臨時スタッフとして加わってファイヴを待ち受けています。
対象となるのは『マックス村』『サザナミ村』『王子バックトゥザランド』『王子メガスクラムマーケット』です。
後半名前がカオスですが、順番に解説していきます。
●マックス村
いわゆる最初のファイヴ村。農林業がさかんでご飯が美味しく、一番いろんな古妖がいます。大体の古妖は人間でいう一般人みたいなもので大体無害なうえ、様々な業種について実際に働いています。
ついでに言うといくつかの依頼で直接村に勧誘した古妖や人もここで暮らしています。
細かいスポットについて解説しましょう。
・古妖食堂
地産の野菜や牧場の肉、名産の豆腐などを使った料理をいただけるレストランです。
一般的なファミレスメニューから特殊な食事をとる古妖向け特別メニューまで様々なものを用意しています。
巨大な古妖でも普通に入れるように常識からぶっ飛んだ作りをしています。
・ふわもこ古妖パーク
なんかふわふわしたカンジの古妖がリアルなヒツジやアルパカなんかと一緒にもこもこ生息している動物園です。
ウォークインのサファリパーク形式となっており、直接触って体験できます。
すねこすりの大道芸をみせる『すねっこキャラバン』も定期開催しています。
ちなみに古妖『ふわふわヒツジ』『新生ぬりかべ団』の職場。
・王子ダブルバイセップス城下町
多種多様な古妖の生活空間を意識したコンセプトシティです。
沼に住んでる古妖や全長20mある古妖や百円玉より小さい古妖や控えめに言ってゆるキャラみたいな古妖が嘘みたいな連帯感で生活しています。
●サザナミ村
いわゆる第二のファイヴ村。
海に面しており、シーレジャーと漁業に特化した観光スポットとなっております。
・灯台レストラン
巨大な灯台の中に作られた展望レストランです。
海鮮料理が豊富となっております。
この下は資料館になっており、ファイヴ村がこれまでやってきた活動の記録が色々な形で収められています。
ちなみに古妖『木の子』の職場。
・シーレジャー体験
海水浴に適した人工砂浜です。
今は冬なのでモーターボートやサーフィンなどを楽しむことが出来ます。
●王子バックトゥザランド(遊園地)
遊園地を非常識に改造した古妖だらけの遊園地です。
人間スタッフと古妖スタッフが当たり前みたいに共存しています。
折角だからマスコットのプリンス君に紹介して貰います。
「ここはお化け屋敷を改装したニンジャハウスだよ、ハハッ。古妖と一緒に当時のコスプレをした民とのおもしろライフを体験してもらおうって魂胆なのさ! ハハッ!」
「オバケヤシキがニンジャハウスに。メリーゴーランドは牛車ゴーランドに。コーヒーカップは利休フリースタイルバトルになっているよ、ハハッ!」
「そしてこれが目玉アトラクション『ニホン・ザ・ゴッドスピード!』だよ! この国の一万年の歴史を縄文から追体験するアトラクションだよ。園内を全てぶち抜いて作ったのさ。ハハッ!」
●王子メガスクラムマーケット
ショッピングモールをありえないくらい改造した古妖だらけモールです。
品揃えは一般的なショッピングモールと同じで、雑貨屋や花屋、宝石店や書店やレストランが入っていますが、スタッフの大半が古妖です。
花が花売ってたり宝石が宝石売ってるとかザラです。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
41/100
41/100
公開日
2016年12月15日
2016年12月15日
■メイン参加者 41人■

●おいでよ王子バックトゥザランド
畳の間にて向かい合う二人。
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)と宮里 聖(CL2001509)。
二人は身構え、互いの中心点を軸にすり足で円周軌道を描いていく。
水をそそいだししおどしが傾き、コォンと響いたその瞬間。二人は同時に動き出した。
瞬く間に相手の股下をすり抜けた鈴鹿の手には――おお、ブッダシット! スタッフのものと思しき女性下着が握られていたではないか。ワザマエ!
「弟分のくせに、わたしに勝とうなんてかたはらいたいの。わたしとデートをするのもぶんふそーおーなの」
眼帯で隠されていない片目側が炎めいて光る。だが、ゴウランガ! 彼女の服の裾が大きくひるがえったではないか。
読者諸兄の中にパンツ物理学に詳しい方はおられようか。詳しいならば知っている筈。一瞬の隙をついて直立状態の相手からパンツをはぎ取る技の存在を。かつてゴウコンウォーで恐れられた禁忌の技である。
「誰がお前なんかと! 俺のストライクゾーンは中学生以上35歳未満なんだよ! だがかかったな……このパンツウォーは女性用下着の獲得枚数で勝敗が決まる。つまりお前のパンツもふくま――って無い!」
「またしても、なかなかやるの」
「なかなかやるのじゃねーよ! 馬鹿!はいとけよパンツは!」
「ハハッ! やあみんな、王子くんだよ! ハハッ!」
どこかの方角から精一杯目をそらしながら手を振るマスコットキャラクター。
彼の後ろではジェットコースターがうねり、コーヒーカップが『ヨォー、ポン!』の効果音と共にぶつかり合っている。ここはマッポーのサイバネティックネオキョート……ではなく、さびれた遊園地を大胆に改装した新時代的遊園地である。
きょうび特に人気を博しているのが鈴鹿や聖たちの遊ぶ忍者ハウス。
お化け屋敷を改装してニンジャめいた仕掛けをふんだんに盛り込んだスゴイヤバイアトラクションなのだ。
そんなアトラクションを隅々まで楽しもうと駆け回る子供たちがいた。
「ジャンガリアンマスター、ソラ! 見参!」
白いしのび装束に身を包んだ工藤・奏空(CL2000955)がニンジャめいたポーズで柱の上に立った。
「アサギ、推参ですっ」
にくきゅう模様のクノイチ衣装でででんと見栄をきる月歌 浅葱(CL2000915)。
「参上、御白小唄……です」
ヒョウ柄のニンジャスーツに身を包んだ御白 小唄(CL2001173)が、回転壁に張り付いて現われた。
「ぼく、こんな格好するなんて聞いてないよ……」
ゲイシャ衣装に身を包み、和傘を手に振り返る御影・きせき(CL2001110)。
「「グワーッ!!」」
尊さに目がやられた三頭身のニンジャたちが一斉にひっくり返り、ドロンと熊さんやウサギさんに変わった。
動物が中途半端な人間に化けてマネゴトをして遊ぶという妖怪(古妖)の一種である。
この子らがなんかふにゃふにゃしたウレタン刀で襲いかかってくるという忍者屋敷アトラクションである。
元々ウォークスルー型のお化け屋敷を改装しているので、仕掛けだらけの屋敷をぐるぐる迷っている間にランダムエンカウントする形式をとっていた。
扉があるはずの場所を壁に変えてイタズラする妖怪(ぬりかべに似てるけど違うやつ)が数部屋しかない屋敷を立体可変迷宮へと変えているので、入った人々は脱出を目指す過程で罠や仕掛けを必然的に楽しむことができる仕様になっていた。
バッと早き替えで忍者装束に着替えるきせき。
「僕知ってるよ、タンスが隠し扉になってるんだよね」
がちゃりとタンスの縁をつまんで扉のように開くと、中が巨大な虚空になっていた。
ぱたんと閉じるきせき。
「いまのなあに?」
「古妖の一種ですかね……やっぱり普通の道を進んだ方が――」
小唄が障子戸を開こうと手をかけると、あらゆる所に目が生まれてぎょろりと彼を見つめた。
「うわーっ!」
ひっくりかえる小唄。
作った人がニンジャよく分かってなかったのか、仕掛けよりもエンタメ性を重視した作りになっているようだ。
「古妖パワーでかくれんぼですかっ! 負けませんよ、ニンニンっ!」
浅葱はエンカウントするニンジャに備えて押し入れの中にするっと潜り込む……と。
背中にいつのまにか張り付いた何かがそっと囁きかけてきた。
「リモコンかくそ? ね?」
「せ、先客ですかっ……」
と、こんな具合で。
王子バックトゥザランドは今日も大盛況だった。
●サザナミ村の灯台レストラン
無線通信の信頼できないこの日本で、海路における灯台の役割は大きい。
恐らく無線妨害が解除されてからも技術導入までのスパンを考えて軽く十年間は必要になるだろう。
そんな漁事業的理由と観光事業的理由が合わさって出来たのが、サザナミ村の灯台である。建設費用も馬鹿高いだけあって、ちっちゃい東京タワーみたいな作りになっていた。
エレベーターで展望台へ上れば、資料館を兼ねた展望フロアと更に上階にある展望レストランが存在している。
ある意味灯台のエキスパートであるところの七海 灯(CL2000579)は、レストランでウェイトレスとして働きつつファイヴの皆を出迎えていた。
女子高生のセーラー服を若干派手目にしたような制服姿で注文をとっては料理を運ぶ。
「お待たせしました。クラブハウスサンドセット。フィッシュアンドチップスにコブサラダです」
そんなメニューあんねんなってくらい自由なカフェメニューである。
さておき。
「いつもはオレンジジュースなんですが、今日はアップルジュースの気分です!」
にこにこしながら料理を受け取る賀茂 たまき(CL2000994)。
向かいでは麻弓 紡(CL2000623)は『ありがとー』と言って手を拭いた。
「わけっこすると、いっぱい種類を食べれていいね」
笑う紡に、たまきもにっこりと笑い返した。
二人のメニューを軽く分け分けしつつ、改めてメニューを眺めるたまき。
漁港がすぐそばにあるだけあって、刺身や魚介鍋のメニューが豊富だ。雰囲気的にはカフェレストランなので、コーヒーやサンドイッチが基本なのだが、挟まっている具材が炙りサーモンだったり、イギリス人が怒るくらいフィッシュアンドチップスが美味しかったりする。そんなレストランである。
「限定のソフトクリーム、ちょっと食べてみたいです」
「いいねえ。それじゃあ後で牧場に行って、お土産とか見てみよっか」
「はい……!」
どうやら皆楽しんでいるようだ。
本気で作った観光地がこうして皆の役に立つことになろうとは……などと、空いた皿を片付けながら感慨深い気持ちに浸る灯であった。
『ほんばの魚肉ハンバーグセット』とかいう子供大好きそうなメニューをたいらげた鯨塚 百(CL2000332)は、お皿をかたづけてもらいつつ灯の顔を見た。
「オイラ、ファイヴ村はじめてだぜ。この後、資料館を見たいんだ。案内してもらってもいいかな」
「喜んで。でもちょっと忙しいから……そうだ、木の子さんにお願いしてみましょうか。今下で案内を始める頃ですから、行ってみてくださいね」
言われたまま下の展望フロア兼資料館に行ってみると……。
「おっ、百も来たのか!」
「こうして集まるのも久しぶりなのよ」
奥州 一悟(CL2000076)と鼎 飛鳥(CL2000093)が木の子の案内を受けるところだった。
木の子。今から軽く半年前、ファイヴ村の受け入れ体勢が見直されたのを前後する形で住民となった古妖である。
つっても家とお金をタダでくれる場所ではないので、視覚共有以外は大体普通の子供と一緒の古妖に正当な働き口はないかと割り当てられたのがこの灯台であった。
物見櫓の要領でイケるんじゃないかと当初は思われていたが、むしろ最新のカメラ技術とデータ通信技術の方が百倍優秀だったので今は灯台の管理代行として働いていた。
「仕事してるところ見たくてさ。頑張ってんな!」
「まだ一年ちょっとだけど、こうしてみるとファイヴも色々あったのよ」
昔を思い出してちょっとしんみりしていた飛鳥だが、ぐっと背を伸ばした。
「木の子ちゃんと出会う依頼は、今から半年前だったのよね。あすかはあの時より強くなりました。えっへん! 木の子ちゃんは?」
なんて会話をしつつ、百たち三人は木の子の案内でファイヴ村の歴史を振り返っていった。
●ふわもこパーク
ファイヴ村の歴史といえば、忘れちゃいけない人たちが居る。
十人にも満たない管理者たちが、廃墟と雑草しかなかった土地を開拓して数百人規模の村へと発展させ、一部の古妖にも擬似的な人権が与えられる程まで成長させたという、ちょっとした伝説である。
そんな伝説の一人、農業会のアイドルと化しつつあるエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は、すねっこキャラバンの司会をしながら観客にすねこすりの大道芸を見せていた。
「ふふ、頑張って育ててきたこの村に皆が来てくれるなんて、管理人冥利につきるわね」
思えばすねこすりはファイヴ村が古妖と人の共存をテーマに掲げた際の最初の古妖住民であった。住民っていうか軽くペットだったが、初めての開拓事業であるところのすねっこキャラバンは地味にクオリティに磨きをかけ、村の名物となっている。
鐡之蔵 禊(CL2000029)も、そんな栄えある管理者たちの一人である。
「私が関わってたのは最初のころだけだったからなあ。村以外の名前とか大変なことになってるけど……いい意味でも大変なことになってたみたい」
「ふーわもこ! ふーわっもこ!」
うちわを振りながらテンションをマックスにする田中 倖(CL2001407)。
「さ、触ったりできるんですかね……」
今にも身を乗り出しそうな片桐・美久(CL2001026)に、エメレンツィアが手を翳して微笑んだ。
「それではただいまより、抱っこタイムに入ります。ゲストのふわふわヒツジさん、どうぞ」
「ンメー!」
美久がついに立ち上がった。
「ひつじさん! ひ、ひさしぶりです!」
たかたか駆け寄っていくと、ヒツジも美久を覚えていたようでぽっふんと体当たりをしてくれた。
「お友達になって、くれますか?」
「メエ!」
頬をすりつけるヒツジに、美久は思わず毛皮に顔を埋めて抱きついた。
その横では、梓が無数のすねこすりに埋まってごろごろ転がるという、猫カフェを全力で楽しむ客みたいなムーブをかましていた。
「ああ、天国はこんな近くにあったのですね。禊さんたちには感謝してもしきれません」
「そんな、あたしは全然……」
謙遜して手を振る禊のそばに、すねこすりがころころとやってきた。
また遊ぼうとでも言うように既にぐりぐりと身体をこすりつけてくる。
賑やかにはなったけれど、当初のあのほんわかした空気はずっと残っていたようだ。
●古妖食堂
派手な活動のせいで前面にこそ出ていないが、ファイヴ村の食料栽培や牧場運営、漁業などは地味に強化が進められ、最新科学による『安くて安全で整形』な品質感覚とは逆を行く、『高価で不思議で歪』な野菜がなかなかの成果を上げていた。
ひたっすらエロい大根やニンジンを生産する匠みたいな古妖が作った『カブキチョウダイコン』はクレイジーな人気を誇っている。
とまあ細かい話はさておき、食品には自信のあるファイヴ村には雰囲気と風土を活かした食堂が開かれている。
「ふふ、古妖の方が沢山で……なんだか不思議な空間ですね」
十夜 八重(CL2000122)は、一緒に来た切裂 ジャック(CL2001403)と共に店をぐるりを見回した。
自らの足をしょーりしょーり削っているハルウコンとナツウコン。なまめかしいキャットウォークで料理を運んでくる巨大なダイコン。走るオカモチ。老け顔の大学生。喋るツル。歩くテーブル。婚活女性。ストリートミュージシャン。首から上がサックス。
……控えめに言ってカオスである。
「あそこの方とか、ジャックさんに雰囲気似てませんか?」
「そ、そうかな……二頭身のゆるきゃらに見えるんやけど」
「可愛らしいです。あ、でもジャックさんの法が可愛いですよ?」
「かっかわ……俺はかっこいいのほうが嬉しいんやけど」
「そういう所が可愛いですよ、ふふ」
ほおづえをついてジャックの鼻とつんとやる八重。
ジャックは真っ赤になってうつむいた。
といった具合で、料理をふーふーしてあげたり食べさせたりしている風景を……天楼院・聖華(CL2000348)はなんだか興味深そうに眺めていた。
「な、なんかすごいやりとりだな……よし」
聖華はメニューを開いて、古妖特別メニューというのをピッと指さした。
「俺は挑戦ができる戦士。やってやろーじゃねーか! 常識なんかすててかかってこい! 特別メニューぷりーず!」
「マイドォ!」
喋るオカモチがスッとアロマキャンドルを聖華の前に置いた。
後ろから、舌も長いろくろ首みたいな妖怪がぼそっと呟いた。
「そこから流れるロウをひたっすらぺろぺろするとおいしい」
「常識捨てすぎだろ!」
そんな聖華の向かい側にすとんと座る栗落花 渚(CL2001360)。
「お? 今日は店員じゃないのか?」
「今日の私はお客さんだよ。誰がなんと言おうとお客さん!」
胸を張って見せて、そしてふうと息をついた。
「守ったんだよね。村も、モールも……これからだって、何があっても守っちゃうから」
●王子メガスクラムマーケット
控えめに言ってふざけた名前のショッピングモールは、ファイヴ村からやや離れた山岳地帯にぽつーんと存在している。
モールからちょっとした観光地へとシフトしたこの土地は、今日も噂を聞きつけた人々で賑わっていた。
「『殆どテーマパークですね……』」
紅崎・誡女(CL2000750)はそんな風に呟きながら雑貨屋をめぐるように歩いていた。
村おこしだかなんだかをやっているとは聞いていたが、まさかここまで大変なことになっていようとは、である。
「おや、そこにおわすは」
声がして、誡女はぱたりと足を止めた。
なんか土鍋が宙に浮いている。
でもって土鍋を売っていた。
軽く異次元めいた光景に息を呑むが、その土鍋には見覚えがある。
「『もったいないおばけ……さんですか?』」
「久しいなあ。身体の調子はどうだね」
「『おかげさまで……』」
誡女はカメラを取り出し、店主もといもったいないおばけをパシャリとやった。
隣は楽器店だ。向日葵 御菓子(CL2000429)がキラキラとした吹奏楽器やギター、和楽器などを見て回っている。楽器屋というにはなかなかに無節操な品揃えだ。(楽器の専門家は細分化しているので、専門の技師をコネで探すことも多い)
もしや商品だけ置いてメンテは他任せかなあと思っていると、店員がヌッと商品棚から出てきた。
誤字ではない。商品棚に飾られていたサックスから手足が生えてヌッと立ち上がったのである。
「ええと……これは、どうも」
「そのパーツ、お勧めよ」
楽器から直で話しかけられるという経験に軽く旋律する御菓子。
「お勧めと、いうと?」
「楽器側のテンションが上がる」
「すごい!」
御菓子はクレジットカードを財布から引き抜いた。
王子メガスクラムマーケット(通称メガマ)の強みはなんと言っても店員の専門家っぷりである。楽器を楽器が売り、土鍋を土鍋が売り、宝石を宝石が売るというこの一見とち狂ったシステムは購入者にとてつもない納得と安心感を与えていた。
『料理人が勧める食堂』と聞くだけでなんか美味しそうに思える原理と一緒である。
「すげー。これゲームだったら強い魔法系アイテム手に入るとこじゃねえ?」
「スペシャル感は半端ねえな……」
書店を巡っていた朝永 恵(CL2001289)と風祭・誘輔(CL2001092)は、ぶんわか浮いてる魔導書や歩く本棚が働く書店という空気に軽く圧倒されていた。
「俺やっぱ漫画好きっすわ」
「テメエもたまには小説とか読んだらどうだ。ミステリーはいいぜ」
「文字ばっかでおもしろいのか? まあ、お勧めなら買うっすけど」
本を適当に物色しつつ、周りを見回す誘輔。
「しかし古妖と共存する村なんておもしれー発想だな。取材させてもらえっかな」
「へえ、風祭サン記者みてえ」
「どんぐらい袖の下にいれっかな」
「汚え! 汚え大人だ!」
書店の隣はCDショップ。
蓄音機が古いジャズを自ら流しながらレジを打つというシュールな光景に、蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)はちょっとばかり不思議な休日を過ごしていた。
「もうすぐクリスマスですし、折角ですから飾りつけを買ってもいいでしょうか?」
「そうだね、どうせならツリーも欲しいところだけれど……大きいものだと持ち帰りは難しいかな?」
隣の雑貨店に移ってみると、クリスマスツリーが自分で自分に装飾を施しつつ、『お家まで搬送します(本州内に限る)』とプラカードをさげていた。
『えーっと、うん』と会話を反らすように顔をそむける恭司。
「去年のクリスマスは、蘇我島さんがサンタさんの恰好してくださったのですよね」
「あーうん、そういえばサンタの恰好もしたねぇ。長いようで短いものだからね、一年間って」
「そうですね……」
きらびやかに踊るクリスマスツリーを眺める燐花。
その横顔を見つめ、恭司は眼鏡をスッとなおした。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。ここで待ってて」
言われたとおりに店の中を歩いて待つ燐花。
ふと、手袋が目にとまった。
「暖かそうですね」
手にとってみる。自分の手よりは大きい、恭司の手のサイズ。
ぎゅっと握って、目を瞑る。
冬物ファッションをここぞとばかりに売り込むのはどこのショップでも同じこと。
毛糸の帽子が客を呼び込んだりニットのセーターを着た透明人間が店内をうろついたりすること以外は大体普通のショップである。
そこへ、鳴神 零(CL2000669)の腕だか襟首だからを引っ張って歩く諏訪 刀嗣(CL2000002)が現われた。
「なになに、なんなの!?」
「あー、あれだ。お前服持ってねえだろ。ちゃんとした服」
「持ってるわよ。いつも水着で歩いてるんじゃないんだから」
「うるせー」
刀嗣はヒラヒラ飛んでるドレスに『マネキンと同じやつ』と注文して、零を指さした。
「こいつのサイズで」
「えっ、いいよおおいらないよお! こんなのもったいなくてきれない!」
「良いから受け取れ。俺がやるっつってんだからお前に拒否権なんざねぇんだよ。今年中に必要になるから取っとけ。良いな。悪くても取っとけ」
「そ、そぉう? 必要になるんだこんなのが、じゃあ、持っておこうかな」
言いつつ、受け取った服で試着室に入っていく零。
店員が変な笑顔で近づいてくるファッションショップと違って、店員自体が服なので刀嗣もあまり気兼ねがいらなかったが……それにしても待つ時間は緊張する。
「どう、かな?」
カーテンがドレス姿の零が出てくる。
「ま、悪くねえんじゃねえのか」
「そうかな、でも……わっ」
慣れないヒールで転びそうになった零を、刀嗣が受け止めた。
しがみつく手を、より強くする零。
「ん……」
「さ、さっさと離れろ。馬鹿」
刀嗣に突き剥がされて、零は目をそらした。
「うん、ごめん……なさい」
なんか独特の空気が出てる彼らと離れるようにして、酒々井 数多(CL2000149)と時任・千陽(CL2000014)がメンズファッションの店へと入っていった。
「はあ、私服ですか、いつ依頼が入るかわからないので、常に軍服で問題はないのでは?」
「大問題でしょ! デートに軍服着てくるとかアホなの!? とりあえずセンスを確かめるから、気になるの選んできて!」
「は、はい! サーゴリッサー!」
敬礼して駆け足で商品を選びにいく千陽。
そして、流れるように迷彩柄のパンツとフードつきジャケットと泥色のブーツを選んで持ってきた。
空手チョップでブーツをたたき落とす数多。
「お前はどこの戦場にいくんだ! 東ホール三日目か!」
「し、しかしこの服には迷彩による隠密性と長時間の冷気による耐性が……」
「徹夜組か!」
数多は千陽を山賊スタイルで担ぎ上げると、試着室の中に放り込んだ。
後からラフなシャツと皮のジャケット、ついでにちょっとダメージ加工されたジーンズとシルバーのアクセサリーとサングラスをまとめて放り込むと、ついでにストールをねじ込んだ。
そしてできあがったワイルドな千陽くんがこちらになります(イラスト化してお楽しみください)。
「これでよし」
「は、恐縮です」
「前髪長いわねチカ君。上げてみたらかっこいいわよ。根暗オタクに見えない」
「え……」
きをつけの姿勢で上を向き、千陽はむっつりと口を曲げた。
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)と葦原 赤貴(CL2001019)が前を通り過ぎていく。
「フムフム、つまりデートの勉強をシタイ! トイウ訳デスネ! OK、任せるのデース!」
リーネは胸をどんと叩いて弾ませた。
目をそらす赤貴。
「とにかく、女性に楽しんで貰える振る舞いを、だな。服でも、花でも、装飾品でも……どんなものを渡されたら喜ぶだろうか」
「プレゼントですかあ、そうデスネ」
頭をかくーんと傾け、リーネは思案した。
「リーネさんの好みは、どうなんだ」
「ンー。値段で計る人もいるミタイデスガ、私はプレゼントされたらなんでも嬉しいデスヨ! って、こんなんじゃ参考にならないデスね」
「いや、いいんだ」
ストーンマーケットに立ち止まり、手足のはえた水晶柱がぱちぱちとブレスレットを作る現場を眺める。
「限定的でも、好意を持っている相手の好きなものを知って損はないさ」
「ヘ? 好意って……私の事好きナノデス!? ヤ、ヤヤヤ! 赤貴君にはまだ早いデスヨー!!」
頬に手を当ててくねくねするリーネに、赤貴は顔色を変えずに続けた。
「好きでもない相手を誘ったりはしないさ」
「じゃあ、お互い好きなものを贈りあって見るとか、ドウデスカ?」
「そうだな……」
悩む赤貴に、リーネはロケットペンダントを手に取って見せた。
「一緒に写真デモとって、これに入れるとかどうデショウカ。コレデ私と一緒デスヨー?」
からかうトーンで言って見たが、赤貴は『よし』と言って財布を取り出した。
悲鳴だかなんだか分からないリーネの声をスルーして、明石 ミュエル(CL2000172)は美容院のドアを潜った。
すると、なんか一世代前の、それも漫画みたいな格好をした謎の男が出迎えた。
「どうも、カリスマ美容師といいまウィッシュ」
「……え」
一瞬目の光を無くしそうになったが、ここはモール唯一の美容院。
いい加減な店員が出てくるとは思えない。
「お座りくださウィッシュ」
「は、はい……」
このひと人間なのかなと思って鏡越しに見ると、ハサミやクシだけが宙に浮いていた。ハッとして振り返るとそこにはカリスマ美容師。
(こ、古妖だ……このひと『カリスマ美容師』っていう古妖だ……)
「では始めまウィッシュ」
「え……髪型とか、聞かないの?」
「必要なウィッシュ」
さらにはクシやドライヤーが触接椅子を駆け上がってきて、髪をちょいちょいと手入れしていく。
店内に飾られたポスターにある『神秘の秘薬でキューティクル再生』という文字が気になる。
えー、と想いながらも最近戦闘続きでいたんだ髪を整えるにはいい機会だと思って身を任せていると、およそ三十分後……。
「おわりまウィッシュ」
腕を交差させて決めポーズしたカリスマ美容師の前には、なんか艶めいたミュエルがいた。あほ毛がみょんみょんと地味に稼働している。
「す、すごい。どんな力で……」
「昆布エキスと椿油でウィッシュ」
「つばきあぶら……」
一方こちらはラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。最近常連になりつつある九美上 ココノ(nCL2000152)と共にフードコートでお茶していた。
「前々から聞いてみたかったのですが、ココノさん、古妖さん達についてはどんな風に思ってるのかなって。もちろん、こんな古妖さんばっかりじゃないかもですが、私はこういうの素敵だなって思います」
「ふーん」
「あ、もしかして、またいい加減なこと言おうとしてませんか?」
「してますよー」
ポテトつまみながらそっぽを向くココノ。
ラーラは苦笑した。
「別にいいですけどね。私、ココノさんがどんな人かちょっとだけ分かっちゃったんです」
「……」
一度ラーラの顔を見て、再び目をそらし、小さく呟くココノ。
「お話し合いってーのは、その時点でもう相手と戦ってるようなもんなんですよ」
「えっ? いまなんて?」
「ぽてとおいしーですー」
メガマにはスーパーマーケットがある。
中でも小麦粉売り場の品揃えは、ちょっとした専門店並だった。
同じ種類の小麦粉でも複数取りそろえ、パン屋でも開くのかなってくらいのマニアックな品がそろっている。
ここは生活に密着するよりも観光向きにシフトしたメガマならではの揃え方だ。
黒崎 ヤマト(CL2001083)はずらりと並んだ小麦粉を、難しい顔で眺めている。
後ろからにょきっと生えてくる榊原 時雨(CL2000418)と楠瀬 ことこ(CL2000498)。
「好きな子にお菓子を贈るんだよね! 素敵だよー!」
「うわあ!? おどかすなよ!」
「羨ましい話やなあ……」
ほへえと息をつく時雨。
どれどれと小麦粉を手に取ってみるが、いまいち違いが分からない。
「なんやあこのスパーキングとかはるゆたかとかゆうんは。何粉やの」
「銘柄だよ? コシヒカリとかそういうのだよ?」
「だから何粉や。違いは?」
「えっとねえ、まず粘りけが違うんだよ」
「粘りけなあ……」
そんなこと言われても、である。
ヤマトとしては、誕生日に一緒に食べたら嬉しそうだからとアップルパイを焼くことにしたのだが、粉から作るのはハードルが高かっただろうか。パイ生地から買うべきだろうか。
「オレ弁当しか作らないから、お菓子は不安だな」
「なんやあ好きな子にお菓子とか、うちもそういうのできたらなあ」
「時雨ぴょんが望むなら毎日お菓子作ってあげるよ。ぷっくぷくになってもきっと可愛いよ時雨ぴょん」
「ないわ……」
遠い目をする時雨。
ことこはウィンクをして粉を手に取った。
「お家に来たらいつでも教えてあげるよ? こう見えてもそれなりに作れるんだから」
「まあ、それなら、今度」
なんか仲よさそうだなあこの子ら、と想いながら振り返るヤマト。
「なあ、試しに作ってみるからさ、味見お願いしてもいいか?」
「よろこんで!」
材料を買い込んで店を出て行くヤマトたち。
鈴駆・ありす(CL2001269)と神室・祇澄(CL2000017)は、スーパーに入っていく途中でぴたりと足を止めた。
「どう、しました?」
「ううん。なんか知ってる声がした気がしたけど……気のせいよね」
●オチを付けようファイヴ村
「みなさんごらんください! 右手に見えますのが王子がノリで作った謎の王子スマイルオブジェでーす! 無駄に通貨的価値がありまーす!」
小さな旗を掲げて振り返るゆかり・シャイニング(CL2001288)。
ゆかりが腕によりをかけてお送りする、ファイヴ村城下町観光ガイドの真っ最中である。
だかしかし。
「おー、この大根エロい」
「メチャシコっすわあ」
「ブッチャーダァ!」
「アーイグゥー!」
「ヒョヒョヒョ! 女子中学生のガイド、あーたまりません! 写真いいですか?」
「なんで変態しか来ないんですかあ! 確かにまた来てくださいって言いましたけど!」
膝から崩れ落ちたゆかり。だが負けるなゆかり。ネバーギブアップである。
「えー、続きましてウォーターマンションです。巨大水槽が連なるこちらは水棲古妖が多く住む――」
「やあ民のみんな! 余だよ!」
ゆかりの出番をぶち破って水槽からガイナ立ちで登場したのは誰あろうプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)である。
「余は余にできることをするよ。それは、オチをつけることだよ!」
プリンスは何かと発光する古妖や覚者を集めた行列と盛大な音楽でもってパレードを始めた。
「霊力トリカルパレード、王子ハズカム!」
「ぱ、ぱく――」
「王子のオリジナルパレードだよ! ハハッ!」
プリンスはゴンドラに飛び乗って指を鳴らした。
「ベン!」
「ウェイウェーイ!」
「ハルウコン! ナツウコン!」
「「です……」」
「リモコンかくし!」
「かくせる? ね、かくせる?」
「ベニー!」
「はやくギャグ依頼書きたい」
「としはる!」
「紹介所に諭吉握らせると裏フー教えてくれるよ」
「「ヒアウィゴー!」」
てんてれてんてんてんてれてれてれてんてれてれてれてんてれてん。
夕闇にくれる村を練り歩くパレードの列。
ここはファイヴ村。
伝説の村である。
畳の間にて向かい合う二人。
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)と宮里 聖(CL2001509)。
二人は身構え、互いの中心点を軸にすり足で円周軌道を描いていく。
水をそそいだししおどしが傾き、コォンと響いたその瞬間。二人は同時に動き出した。
瞬く間に相手の股下をすり抜けた鈴鹿の手には――おお、ブッダシット! スタッフのものと思しき女性下着が握られていたではないか。ワザマエ!
「弟分のくせに、わたしに勝とうなんてかたはらいたいの。わたしとデートをするのもぶんふそーおーなの」
眼帯で隠されていない片目側が炎めいて光る。だが、ゴウランガ! 彼女の服の裾が大きくひるがえったではないか。
読者諸兄の中にパンツ物理学に詳しい方はおられようか。詳しいならば知っている筈。一瞬の隙をついて直立状態の相手からパンツをはぎ取る技の存在を。かつてゴウコンウォーで恐れられた禁忌の技である。
「誰がお前なんかと! 俺のストライクゾーンは中学生以上35歳未満なんだよ! だがかかったな……このパンツウォーは女性用下着の獲得枚数で勝敗が決まる。つまりお前のパンツもふくま――って無い!」
「またしても、なかなかやるの」
「なかなかやるのじゃねーよ! 馬鹿!はいとけよパンツは!」
「ハハッ! やあみんな、王子くんだよ! ハハッ!」
どこかの方角から精一杯目をそらしながら手を振るマスコットキャラクター。
彼の後ろではジェットコースターがうねり、コーヒーカップが『ヨォー、ポン!』の効果音と共にぶつかり合っている。ここはマッポーのサイバネティックネオキョート……ではなく、さびれた遊園地を大胆に改装した新時代的遊園地である。
きょうび特に人気を博しているのが鈴鹿や聖たちの遊ぶ忍者ハウス。
お化け屋敷を改装してニンジャめいた仕掛けをふんだんに盛り込んだスゴイヤバイアトラクションなのだ。
そんなアトラクションを隅々まで楽しもうと駆け回る子供たちがいた。
「ジャンガリアンマスター、ソラ! 見参!」
白いしのび装束に身を包んだ工藤・奏空(CL2000955)がニンジャめいたポーズで柱の上に立った。
「アサギ、推参ですっ」
にくきゅう模様のクノイチ衣装でででんと見栄をきる月歌 浅葱(CL2000915)。
「参上、御白小唄……です」
ヒョウ柄のニンジャスーツに身を包んだ御白 小唄(CL2001173)が、回転壁に張り付いて現われた。
「ぼく、こんな格好するなんて聞いてないよ……」
ゲイシャ衣装に身を包み、和傘を手に振り返る御影・きせき(CL2001110)。
「「グワーッ!!」」
尊さに目がやられた三頭身のニンジャたちが一斉にひっくり返り、ドロンと熊さんやウサギさんに変わった。
動物が中途半端な人間に化けてマネゴトをして遊ぶという妖怪(古妖)の一種である。
この子らがなんかふにゃふにゃしたウレタン刀で襲いかかってくるという忍者屋敷アトラクションである。
元々ウォークスルー型のお化け屋敷を改装しているので、仕掛けだらけの屋敷をぐるぐる迷っている間にランダムエンカウントする形式をとっていた。
扉があるはずの場所を壁に変えてイタズラする妖怪(ぬりかべに似てるけど違うやつ)が数部屋しかない屋敷を立体可変迷宮へと変えているので、入った人々は脱出を目指す過程で罠や仕掛けを必然的に楽しむことができる仕様になっていた。
バッと早き替えで忍者装束に着替えるきせき。
「僕知ってるよ、タンスが隠し扉になってるんだよね」
がちゃりとタンスの縁をつまんで扉のように開くと、中が巨大な虚空になっていた。
ぱたんと閉じるきせき。
「いまのなあに?」
「古妖の一種ですかね……やっぱり普通の道を進んだ方が――」
小唄が障子戸を開こうと手をかけると、あらゆる所に目が生まれてぎょろりと彼を見つめた。
「うわーっ!」
ひっくりかえる小唄。
作った人がニンジャよく分かってなかったのか、仕掛けよりもエンタメ性を重視した作りになっているようだ。
「古妖パワーでかくれんぼですかっ! 負けませんよ、ニンニンっ!」
浅葱はエンカウントするニンジャに備えて押し入れの中にするっと潜り込む……と。
背中にいつのまにか張り付いた何かがそっと囁きかけてきた。
「リモコンかくそ? ね?」
「せ、先客ですかっ……」
と、こんな具合で。
王子バックトゥザランドは今日も大盛況だった。
●サザナミ村の灯台レストラン
無線通信の信頼できないこの日本で、海路における灯台の役割は大きい。
恐らく無線妨害が解除されてからも技術導入までのスパンを考えて軽く十年間は必要になるだろう。
そんな漁事業的理由と観光事業的理由が合わさって出来たのが、サザナミ村の灯台である。建設費用も馬鹿高いだけあって、ちっちゃい東京タワーみたいな作りになっていた。
エレベーターで展望台へ上れば、資料館を兼ねた展望フロアと更に上階にある展望レストランが存在している。
ある意味灯台のエキスパートであるところの七海 灯(CL2000579)は、レストランでウェイトレスとして働きつつファイヴの皆を出迎えていた。
女子高生のセーラー服を若干派手目にしたような制服姿で注文をとっては料理を運ぶ。
「お待たせしました。クラブハウスサンドセット。フィッシュアンドチップスにコブサラダです」
そんなメニューあんねんなってくらい自由なカフェメニューである。
さておき。
「いつもはオレンジジュースなんですが、今日はアップルジュースの気分です!」
にこにこしながら料理を受け取る賀茂 たまき(CL2000994)。
向かいでは麻弓 紡(CL2000623)は『ありがとー』と言って手を拭いた。
「わけっこすると、いっぱい種類を食べれていいね」
笑う紡に、たまきもにっこりと笑い返した。
二人のメニューを軽く分け分けしつつ、改めてメニューを眺めるたまき。
漁港がすぐそばにあるだけあって、刺身や魚介鍋のメニューが豊富だ。雰囲気的にはカフェレストランなので、コーヒーやサンドイッチが基本なのだが、挟まっている具材が炙りサーモンだったり、イギリス人が怒るくらいフィッシュアンドチップスが美味しかったりする。そんなレストランである。
「限定のソフトクリーム、ちょっと食べてみたいです」
「いいねえ。それじゃあ後で牧場に行って、お土産とか見てみよっか」
「はい……!」
どうやら皆楽しんでいるようだ。
本気で作った観光地がこうして皆の役に立つことになろうとは……などと、空いた皿を片付けながら感慨深い気持ちに浸る灯であった。
『ほんばの魚肉ハンバーグセット』とかいう子供大好きそうなメニューをたいらげた鯨塚 百(CL2000332)は、お皿をかたづけてもらいつつ灯の顔を見た。
「オイラ、ファイヴ村はじめてだぜ。この後、資料館を見たいんだ。案内してもらってもいいかな」
「喜んで。でもちょっと忙しいから……そうだ、木の子さんにお願いしてみましょうか。今下で案内を始める頃ですから、行ってみてくださいね」
言われたまま下の展望フロア兼資料館に行ってみると……。
「おっ、百も来たのか!」
「こうして集まるのも久しぶりなのよ」
奥州 一悟(CL2000076)と鼎 飛鳥(CL2000093)が木の子の案内を受けるところだった。
木の子。今から軽く半年前、ファイヴ村の受け入れ体勢が見直されたのを前後する形で住民となった古妖である。
つっても家とお金をタダでくれる場所ではないので、視覚共有以外は大体普通の子供と一緒の古妖に正当な働き口はないかと割り当てられたのがこの灯台であった。
物見櫓の要領でイケるんじゃないかと当初は思われていたが、むしろ最新のカメラ技術とデータ通信技術の方が百倍優秀だったので今は灯台の管理代行として働いていた。
「仕事してるところ見たくてさ。頑張ってんな!」
「まだ一年ちょっとだけど、こうしてみるとファイヴも色々あったのよ」
昔を思い出してちょっとしんみりしていた飛鳥だが、ぐっと背を伸ばした。
「木の子ちゃんと出会う依頼は、今から半年前だったのよね。あすかはあの時より強くなりました。えっへん! 木の子ちゃんは?」
なんて会話をしつつ、百たち三人は木の子の案内でファイヴ村の歴史を振り返っていった。
●ふわもこパーク
ファイヴ村の歴史といえば、忘れちゃいけない人たちが居る。
十人にも満たない管理者たちが、廃墟と雑草しかなかった土地を開拓して数百人規模の村へと発展させ、一部の古妖にも擬似的な人権が与えられる程まで成長させたという、ちょっとした伝説である。
そんな伝説の一人、農業会のアイドルと化しつつあるエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は、すねっこキャラバンの司会をしながら観客にすねこすりの大道芸を見せていた。
「ふふ、頑張って育ててきたこの村に皆が来てくれるなんて、管理人冥利につきるわね」
思えばすねこすりはファイヴ村が古妖と人の共存をテーマに掲げた際の最初の古妖住民であった。住民っていうか軽くペットだったが、初めての開拓事業であるところのすねっこキャラバンは地味にクオリティに磨きをかけ、村の名物となっている。
鐡之蔵 禊(CL2000029)も、そんな栄えある管理者たちの一人である。
「私が関わってたのは最初のころだけだったからなあ。村以外の名前とか大変なことになってるけど……いい意味でも大変なことになってたみたい」
「ふーわもこ! ふーわっもこ!」
うちわを振りながらテンションをマックスにする田中 倖(CL2001407)。
「さ、触ったりできるんですかね……」
今にも身を乗り出しそうな片桐・美久(CL2001026)に、エメレンツィアが手を翳して微笑んだ。
「それではただいまより、抱っこタイムに入ります。ゲストのふわふわヒツジさん、どうぞ」
「ンメー!」
美久がついに立ち上がった。
「ひつじさん! ひ、ひさしぶりです!」
たかたか駆け寄っていくと、ヒツジも美久を覚えていたようでぽっふんと体当たりをしてくれた。
「お友達になって、くれますか?」
「メエ!」
頬をすりつけるヒツジに、美久は思わず毛皮に顔を埋めて抱きついた。
その横では、梓が無数のすねこすりに埋まってごろごろ転がるという、猫カフェを全力で楽しむ客みたいなムーブをかましていた。
「ああ、天国はこんな近くにあったのですね。禊さんたちには感謝してもしきれません」
「そんな、あたしは全然……」
謙遜して手を振る禊のそばに、すねこすりがころころとやってきた。
また遊ぼうとでも言うように既にぐりぐりと身体をこすりつけてくる。
賑やかにはなったけれど、当初のあのほんわかした空気はずっと残っていたようだ。
●古妖食堂
派手な活動のせいで前面にこそ出ていないが、ファイヴ村の食料栽培や牧場運営、漁業などは地味に強化が進められ、最新科学による『安くて安全で整形』な品質感覚とは逆を行く、『高価で不思議で歪』な野菜がなかなかの成果を上げていた。
ひたっすらエロい大根やニンジンを生産する匠みたいな古妖が作った『カブキチョウダイコン』はクレイジーな人気を誇っている。
とまあ細かい話はさておき、食品には自信のあるファイヴ村には雰囲気と風土を活かした食堂が開かれている。
「ふふ、古妖の方が沢山で……なんだか不思議な空間ですね」
十夜 八重(CL2000122)は、一緒に来た切裂 ジャック(CL2001403)と共に店をぐるりを見回した。
自らの足をしょーりしょーり削っているハルウコンとナツウコン。なまめかしいキャットウォークで料理を運んでくる巨大なダイコン。走るオカモチ。老け顔の大学生。喋るツル。歩くテーブル。婚活女性。ストリートミュージシャン。首から上がサックス。
……控えめに言ってカオスである。
「あそこの方とか、ジャックさんに雰囲気似てませんか?」
「そ、そうかな……二頭身のゆるきゃらに見えるんやけど」
「可愛らしいです。あ、でもジャックさんの法が可愛いですよ?」
「かっかわ……俺はかっこいいのほうが嬉しいんやけど」
「そういう所が可愛いですよ、ふふ」
ほおづえをついてジャックの鼻とつんとやる八重。
ジャックは真っ赤になってうつむいた。
といった具合で、料理をふーふーしてあげたり食べさせたりしている風景を……天楼院・聖華(CL2000348)はなんだか興味深そうに眺めていた。
「な、なんかすごいやりとりだな……よし」
聖華はメニューを開いて、古妖特別メニューというのをピッと指さした。
「俺は挑戦ができる戦士。やってやろーじゃねーか! 常識なんかすててかかってこい! 特別メニューぷりーず!」
「マイドォ!」
喋るオカモチがスッとアロマキャンドルを聖華の前に置いた。
後ろから、舌も長いろくろ首みたいな妖怪がぼそっと呟いた。
「そこから流れるロウをひたっすらぺろぺろするとおいしい」
「常識捨てすぎだろ!」
そんな聖華の向かい側にすとんと座る栗落花 渚(CL2001360)。
「お? 今日は店員じゃないのか?」
「今日の私はお客さんだよ。誰がなんと言おうとお客さん!」
胸を張って見せて、そしてふうと息をついた。
「守ったんだよね。村も、モールも……これからだって、何があっても守っちゃうから」
●王子メガスクラムマーケット
控えめに言ってふざけた名前のショッピングモールは、ファイヴ村からやや離れた山岳地帯にぽつーんと存在している。
モールからちょっとした観光地へとシフトしたこの土地は、今日も噂を聞きつけた人々で賑わっていた。
「『殆どテーマパークですね……』」
紅崎・誡女(CL2000750)はそんな風に呟きながら雑貨屋をめぐるように歩いていた。
村おこしだかなんだかをやっているとは聞いていたが、まさかここまで大変なことになっていようとは、である。
「おや、そこにおわすは」
声がして、誡女はぱたりと足を止めた。
なんか土鍋が宙に浮いている。
でもって土鍋を売っていた。
軽く異次元めいた光景に息を呑むが、その土鍋には見覚えがある。
「『もったいないおばけ……さんですか?』」
「久しいなあ。身体の調子はどうだね」
「『おかげさまで……』」
誡女はカメラを取り出し、店主もといもったいないおばけをパシャリとやった。
隣は楽器店だ。向日葵 御菓子(CL2000429)がキラキラとした吹奏楽器やギター、和楽器などを見て回っている。楽器屋というにはなかなかに無節操な品揃えだ。(楽器の専門家は細分化しているので、専門の技師をコネで探すことも多い)
もしや商品だけ置いてメンテは他任せかなあと思っていると、店員がヌッと商品棚から出てきた。
誤字ではない。商品棚に飾られていたサックスから手足が生えてヌッと立ち上がったのである。
「ええと……これは、どうも」
「そのパーツ、お勧めよ」
楽器から直で話しかけられるという経験に軽く旋律する御菓子。
「お勧めと、いうと?」
「楽器側のテンションが上がる」
「すごい!」
御菓子はクレジットカードを財布から引き抜いた。
王子メガスクラムマーケット(通称メガマ)の強みはなんと言っても店員の専門家っぷりである。楽器を楽器が売り、土鍋を土鍋が売り、宝石を宝石が売るというこの一見とち狂ったシステムは購入者にとてつもない納得と安心感を与えていた。
『料理人が勧める食堂』と聞くだけでなんか美味しそうに思える原理と一緒である。
「すげー。これゲームだったら強い魔法系アイテム手に入るとこじゃねえ?」
「スペシャル感は半端ねえな……」
書店を巡っていた朝永 恵(CL2001289)と風祭・誘輔(CL2001092)は、ぶんわか浮いてる魔導書や歩く本棚が働く書店という空気に軽く圧倒されていた。
「俺やっぱ漫画好きっすわ」
「テメエもたまには小説とか読んだらどうだ。ミステリーはいいぜ」
「文字ばっかでおもしろいのか? まあ、お勧めなら買うっすけど」
本を適当に物色しつつ、周りを見回す誘輔。
「しかし古妖と共存する村なんておもしれー発想だな。取材させてもらえっかな」
「へえ、風祭サン記者みてえ」
「どんぐらい袖の下にいれっかな」
「汚え! 汚え大人だ!」
書店の隣はCDショップ。
蓄音機が古いジャズを自ら流しながらレジを打つというシュールな光景に、蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)はちょっとばかり不思議な休日を過ごしていた。
「もうすぐクリスマスですし、折角ですから飾りつけを買ってもいいでしょうか?」
「そうだね、どうせならツリーも欲しいところだけれど……大きいものだと持ち帰りは難しいかな?」
隣の雑貨店に移ってみると、クリスマスツリーが自分で自分に装飾を施しつつ、『お家まで搬送します(本州内に限る)』とプラカードをさげていた。
『えーっと、うん』と会話を反らすように顔をそむける恭司。
「去年のクリスマスは、蘇我島さんがサンタさんの恰好してくださったのですよね」
「あーうん、そういえばサンタの恰好もしたねぇ。長いようで短いものだからね、一年間って」
「そうですね……」
きらびやかに踊るクリスマスツリーを眺める燐花。
その横顔を見つめ、恭司は眼鏡をスッとなおした。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね。ここで待ってて」
言われたとおりに店の中を歩いて待つ燐花。
ふと、手袋が目にとまった。
「暖かそうですね」
手にとってみる。自分の手よりは大きい、恭司の手のサイズ。
ぎゅっと握って、目を瞑る。
冬物ファッションをここぞとばかりに売り込むのはどこのショップでも同じこと。
毛糸の帽子が客を呼び込んだりニットのセーターを着た透明人間が店内をうろついたりすること以外は大体普通のショップである。
そこへ、鳴神 零(CL2000669)の腕だか襟首だからを引っ張って歩く諏訪 刀嗣(CL2000002)が現われた。
「なになに、なんなの!?」
「あー、あれだ。お前服持ってねえだろ。ちゃんとした服」
「持ってるわよ。いつも水着で歩いてるんじゃないんだから」
「うるせー」
刀嗣はヒラヒラ飛んでるドレスに『マネキンと同じやつ』と注文して、零を指さした。
「こいつのサイズで」
「えっ、いいよおおいらないよお! こんなのもったいなくてきれない!」
「良いから受け取れ。俺がやるっつってんだからお前に拒否権なんざねぇんだよ。今年中に必要になるから取っとけ。良いな。悪くても取っとけ」
「そ、そぉう? 必要になるんだこんなのが、じゃあ、持っておこうかな」
言いつつ、受け取った服で試着室に入っていく零。
店員が変な笑顔で近づいてくるファッションショップと違って、店員自体が服なので刀嗣もあまり気兼ねがいらなかったが……それにしても待つ時間は緊張する。
「どう、かな?」
カーテンがドレス姿の零が出てくる。
「ま、悪くねえんじゃねえのか」
「そうかな、でも……わっ」
慣れないヒールで転びそうになった零を、刀嗣が受け止めた。
しがみつく手を、より強くする零。
「ん……」
「さ、さっさと離れろ。馬鹿」
刀嗣に突き剥がされて、零は目をそらした。
「うん、ごめん……なさい」
なんか独特の空気が出てる彼らと離れるようにして、酒々井 数多(CL2000149)と時任・千陽(CL2000014)がメンズファッションの店へと入っていった。
「はあ、私服ですか、いつ依頼が入るかわからないので、常に軍服で問題はないのでは?」
「大問題でしょ! デートに軍服着てくるとかアホなの!? とりあえずセンスを確かめるから、気になるの選んできて!」
「は、はい! サーゴリッサー!」
敬礼して駆け足で商品を選びにいく千陽。
そして、流れるように迷彩柄のパンツとフードつきジャケットと泥色のブーツを選んで持ってきた。
空手チョップでブーツをたたき落とす数多。
「お前はどこの戦場にいくんだ! 東ホール三日目か!」
「し、しかしこの服には迷彩による隠密性と長時間の冷気による耐性が……」
「徹夜組か!」
数多は千陽を山賊スタイルで担ぎ上げると、試着室の中に放り込んだ。
後からラフなシャツと皮のジャケット、ついでにちょっとダメージ加工されたジーンズとシルバーのアクセサリーとサングラスをまとめて放り込むと、ついでにストールをねじ込んだ。
そしてできあがったワイルドな千陽くんがこちらになります(イラスト化してお楽しみください)。
「これでよし」
「は、恐縮です」
「前髪長いわねチカ君。上げてみたらかっこいいわよ。根暗オタクに見えない」
「え……」
きをつけの姿勢で上を向き、千陽はむっつりと口を曲げた。
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)と葦原 赤貴(CL2001019)が前を通り過ぎていく。
「フムフム、つまりデートの勉強をシタイ! トイウ訳デスネ! OK、任せるのデース!」
リーネは胸をどんと叩いて弾ませた。
目をそらす赤貴。
「とにかく、女性に楽しんで貰える振る舞いを、だな。服でも、花でも、装飾品でも……どんなものを渡されたら喜ぶだろうか」
「プレゼントですかあ、そうデスネ」
頭をかくーんと傾け、リーネは思案した。
「リーネさんの好みは、どうなんだ」
「ンー。値段で計る人もいるミタイデスガ、私はプレゼントされたらなんでも嬉しいデスヨ! って、こんなんじゃ参考にならないデスね」
「いや、いいんだ」
ストーンマーケットに立ち止まり、手足のはえた水晶柱がぱちぱちとブレスレットを作る現場を眺める。
「限定的でも、好意を持っている相手の好きなものを知って損はないさ」
「ヘ? 好意って……私の事好きナノデス!? ヤ、ヤヤヤ! 赤貴君にはまだ早いデスヨー!!」
頬に手を当ててくねくねするリーネに、赤貴は顔色を変えずに続けた。
「好きでもない相手を誘ったりはしないさ」
「じゃあ、お互い好きなものを贈りあって見るとか、ドウデスカ?」
「そうだな……」
悩む赤貴に、リーネはロケットペンダントを手に取って見せた。
「一緒に写真デモとって、これに入れるとかどうデショウカ。コレデ私と一緒デスヨー?」
からかうトーンで言って見たが、赤貴は『よし』と言って財布を取り出した。
悲鳴だかなんだか分からないリーネの声をスルーして、明石 ミュエル(CL2000172)は美容院のドアを潜った。
すると、なんか一世代前の、それも漫画みたいな格好をした謎の男が出迎えた。
「どうも、カリスマ美容師といいまウィッシュ」
「……え」
一瞬目の光を無くしそうになったが、ここはモール唯一の美容院。
いい加減な店員が出てくるとは思えない。
「お座りくださウィッシュ」
「は、はい……」
このひと人間なのかなと思って鏡越しに見ると、ハサミやクシだけが宙に浮いていた。ハッとして振り返るとそこにはカリスマ美容師。
(こ、古妖だ……このひと『カリスマ美容師』っていう古妖だ……)
「では始めまウィッシュ」
「え……髪型とか、聞かないの?」
「必要なウィッシュ」
さらにはクシやドライヤーが触接椅子を駆け上がってきて、髪をちょいちょいと手入れしていく。
店内に飾られたポスターにある『神秘の秘薬でキューティクル再生』という文字が気になる。
えー、と想いながらも最近戦闘続きでいたんだ髪を整えるにはいい機会だと思って身を任せていると、およそ三十分後……。
「おわりまウィッシュ」
腕を交差させて決めポーズしたカリスマ美容師の前には、なんか艶めいたミュエルがいた。あほ毛がみょんみょんと地味に稼働している。
「す、すごい。どんな力で……」
「昆布エキスと椿油でウィッシュ」
「つばきあぶら……」
一方こちらはラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。最近常連になりつつある九美上 ココノ(nCL2000152)と共にフードコートでお茶していた。
「前々から聞いてみたかったのですが、ココノさん、古妖さん達についてはどんな風に思ってるのかなって。もちろん、こんな古妖さんばっかりじゃないかもですが、私はこういうの素敵だなって思います」
「ふーん」
「あ、もしかして、またいい加減なこと言おうとしてませんか?」
「してますよー」
ポテトつまみながらそっぽを向くココノ。
ラーラは苦笑した。
「別にいいですけどね。私、ココノさんがどんな人かちょっとだけ分かっちゃったんです」
「……」
一度ラーラの顔を見て、再び目をそらし、小さく呟くココノ。
「お話し合いってーのは、その時点でもう相手と戦ってるようなもんなんですよ」
「えっ? いまなんて?」
「ぽてとおいしーですー」
メガマにはスーパーマーケットがある。
中でも小麦粉売り場の品揃えは、ちょっとした専門店並だった。
同じ種類の小麦粉でも複数取りそろえ、パン屋でも開くのかなってくらいのマニアックな品がそろっている。
ここは生活に密着するよりも観光向きにシフトしたメガマならではの揃え方だ。
黒崎 ヤマト(CL2001083)はずらりと並んだ小麦粉を、難しい顔で眺めている。
後ろからにょきっと生えてくる榊原 時雨(CL2000418)と楠瀬 ことこ(CL2000498)。
「好きな子にお菓子を贈るんだよね! 素敵だよー!」
「うわあ!? おどかすなよ!」
「羨ましい話やなあ……」
ほへえと息をつく時雨。
どれどれと小麦粉を手に取ってみるが、いまいち違いが分からない。
「なんやあこのスパーキングとかはるゆたかとかゆうんは。何粉やの」
「銘柄だよ? コシヒカリとかそういうのだよ?」
「だから何粉や。違いは?」
「えっとねえ、まず粘りけが違うんだよ」
「粘りけなあ……」
そんなこと言われても、である。
ヤマトとしては、誕生日に一緒に食べたら嬉しそうだからとアップルパイを焼くことにしたのだが、粉から作るのはハードルが高かっただろうか。パイ生地から買うべきだろうか。
「オレ弁当しか作らないから、お菓子は不安だな」
「なんやあ好きな子にお菓子とか、うちもそういうのできたらなあ」
「時雨ぴょんが望むなら毎日お菓子作ってあげるよ。ぷっくぷくになってもきっと可愛いよ時雨ぴょん」
「ないわ……」
遠い目をする時雨。
ことこはウィンクをして粉を手に取った。
「お家に来たらいつでも教えてあげるよ? こう見えてもそれなりに作れるんだから」
「まあ、それなら、今度」
なんか仲よさそうだなあこの子ら、と想いながら振り返るヤマト。
「なあ、試しに作ってみるからさ、味見お願いしてもいいか?」
「よろこんで!」
材料を買い込んで店を出て行くヤマトたち。
鈴駆・ありす(CL2001269)と神室・祇澄(CL2000017)は、スーパーに入っていく途中でぴたりと足を止めた。
「どう、しました?」
「ううん。なんか知ってる声がした気がしたけど……気のせいよね」
●オチを付けようファイヴ村
「みなさんごらんください! 右手に見えますのが王子がノリで作った謎の王子スマイルオブジェでーす! 無駄に通貨的価値がありまーす!」
小さな旗を掲げて振り返るゆかり・シャイニング(CL2001288)。
ゆかりが腕によりをかけてお送りする、ファイヴ村城下町観光ガイドの真っ最中である。
だかしかし。
「おー、この大根エロい」
「メチャシコっすわあ」
「ブッチャーダァ!」
「アーイグゥー!」
「ヒョヒョヒョ! 女子中学生のガイド、あーたまりません! 写真いいですか?」
「なんで変態しか来ないんですかあ! 確かにまた来てくださいって言いましたけど!」
膝から崩れ落ちたゆかり。だが負けるなゆかり。ネバーギブアップである。
「えー、続きましてウォーターマンションです。巨大水槽が連なるこちらは水棲古妖が多く住む――」
「やあ民のみんな! 余だよ!」
ゆかりの出番をぶち破って水槽からガイナ立ちで登場したのは誰あろうプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)である。
「余は余にできることをするよ。それは、オチをつけることだよ!」
プリンスは何かと発光する古妖や覚者を集めた行列と盛大な音楽でもってパレードを始めた。
「霊力トリカルパレード、王子ハズカム!」
「ぱ、ぱく――」
「王子のオリジナルパレードだよ! ハハッ!」
プリンスはゴンドラに飛び乗って指を鳴らした。
「ベン!」
「ウェイウェーイ!」
「ハルウコン! ナツウコン!」
「「です……」」
「リモコンかくし!」
「かくせる? ね、かくせる?」
「ベニー!」
「はやくギャグ依頼書きたい」
「としはる!」
「紹介所に諭吉握らせると裏フー教えてくれるよ」
「「ヒアウィゴー!」」
てんてれてんてんてんてれてれてれてんてれてれてれてんてれてん。
夕闇にくれる村を練り歩くパレードの列。
ここはファイヴ村。
伝説の村である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
