吾輩が電波問題直します
●電波障害を解決するために
電波障害発生から四半世紀。
妖などに阻まれてその原因を探ろうとする者は殆どなく、国内においては『電波は通じない』前提での文明発達となっていた。
だが電波場外を憂い、その原因究明を行う者は潰えたわけではない。
「そう。この『発明王の生まれ変わり』こそがこの電波障害を解決し、電波の父と呼ばれることになるのだ」
道を歩きながら男は大きく手を広げる。シルクハットに燕尾服。そんな英国紳士でございますな格好である。そして彼の発言に賛同と称賛の声が上がる。
「流石『発明王』、我らが『偉人列伝』の知恵袋」
「数多の闘いから得た知識、信頼に値する」
「うむ、して電波障害の原因が分かったというのか?」
「無論。これはとある古妖が関与しているのだ」
指を一つ立て、『発明王』は説明を開始する。
「その古妖の名前は、一本蹈鞴」
一本蹈鞴(いっぽんだたら)。
全国の山中に存在する一本足の古妖である。三十センチ程の小さな者もいれば、山よりも大きなもの者までいるという。一つ目一本足であると言われており、蹈鞴はタタラ師(鍛冶)を指すことから、鍛冶の霊がさ迷って生まれたなど様々ないわれがある。
「高周波電波を吸収・反射する素材としてもっとも有名なものは『鉄』だ。すなわち全国に存在する『鉄』を生み出す古妖である一本蹈鞴をどうにかすればこの電波障害は解決するに違いない」
「なるほど、確かに一本ダタラの伝承は日本全国にある! それらが生んだ鉄が電波を阻害しているのなら電波障害も納得だ!」
「流石です『発明王』! という事は今から向かう先は!」
「無論、一本蹈鞴の住む山だ。吾輩の従兄妹からの情報によるとあの山に住んでいるという。言って話をしてみようというわけだ」
『発明王』と呼ばれた男は深く頷いて胸を張る。
「しかし……話を聞いてくれるでしょうか? 聞けば一本蹈鞴は人を襲う古妖。話し合いに応じてくれるかどうか……」
「そこはこの『発明王』に任せてもらおう。言葉が通じる以上、腹を割って話せば理解できないことはない。
この交渉、何の問題なく解決できると断言しよう」
●FiVE
「結論から言うと失敗します」
久方 真由美(nCL2000003)は容赦なく覚者達の交渉の結論を告げた。
「一本蹈鞴は電波障害の原因ではありません。そんな彼らに『電波を障害するから鉄を作るのをやめてくれ』と言っても煙たがられるだけです。そのまま交渉は断裂し、力づくという事になります」
その結果交渉に赴いた覚者達は大怪我をして、古妖と人間の関係が悪化する。一本蹈鞴の人間嫌いが進み、山道の危険度が増すのである。
「彼らは電波障害において自説が正しいと信じ切っています。生半可な説得は通じないでしょう。邪魔をすれば『電波障害解決を横取りする者達』扱いになります」
なので一度殴って止めてきてください。真由美は結構酷いことを言った。だが説得が通じない以上は致し方ないことだ。一本蹈鞴と戦うよりはまだ怪我の具合はましなはずである。……戦う人達の戦い方によるが。
どうしたものかと悩みながら、覚者達は会議室を出た。
電波障害発生から四半世紀。
妖などに阻まれてその原因を探ろうとする者は殆どなく、国内においては『電波は通じない』前提での文明発達となっていた。
だが電波場外を憂い、その原因究明を行う者は潰えたわけではない。
「そう。この『発明王の生まれ変わり』こそがこの電波障害を解決し、電波の父と呼ばれることになるのだ」
道を歩きながら男は大きく手を広げる。シルクハットに燕尾服。そんな英国紳士でございますな格好である。そして彼の発言に賛同と称賛の声が上がる。
「流石『発明王』、我らが『偉人列伝』の知恵袋」
「数多の闘いから得た知識、信頼に値する」
「うむ、して電波障害の原因が分かったというのか?」
「無論。これはとある古妖が関与しているのだ」
指を一つ立て、『発明王』は説明を開始する。
「その古妖の名前は、一本蹈鞴」
一本蹈鞴(いっぽんだたら)。
全国の山中に存在する一本足の古妖である。三十センチ程の小さな者もいれば、山よりも大きなもの者までいるという。一つ目一本足であると言われており、蹈鞴はタタラ師(鍛冶)を指すことから、鍛冶の霊がさ迷って生まれたなど様々ないわれがある。
「高周波電波を吸収・反射する素材としてもっとも有名なものは『鉄』だ。すなわち全国に存在する『鉄』を生み出す古妖である一本蹈鞴をどうにかすればこの電波障害は解決するに違いない」
「なるほど、確かに一本ダタラの伝承は日本全国にある! それらが生んだ鉄が電波を阻害しているのなら電波障害も納得だ!」
「流石です『発明王』! という事は今から向かう先は!」
「無論、一本蹈鞴の住む山だ。吾輩の従兄妹からの情報によるとあの山に住んでいるという。言って話をしてみようというわけだ」
『発明王』と呼ばれた男は深く頷いて胸を張る。
「しかし……話を聞いてくれるでしょうか? 聞けば一本蹈鞴は人を襲う古妖。話し合いに応じてくれるかどうか……」
「そこはこの『発明王』に任せてもらおう。言葉が通じる以上、腹を割って話せば理解できないことはない。
この交渉、何の問題なく解決できると断言しよう」
●FiVE
「結論から言うと失敗します」
久方 真由美(nCL2000003)は容赦なく覚者達の交渉の結論を告げた。
「一本蹈鞴は電波障害の原因ではありません。そんな彼らに『電波を障害するから鉄を作るのをやめてくれ』と言っても煙たがられるだけです。そのまま交渉は断裂し、力づくという事になります」
その結果交渉に赴いた覚者達は大怪我をして、古妖と人間の関係が悪化する。一本蹈鞴の人間嫌いが進み、山道の危険度が増すのである。
「彼らは電波障害において自説が正しいと信じ切っています。生半可な説得は通じないでしょう。邪魔をすれば『電波障害解決を横取りする者達』扱いになります」
なので一度殴って止めてきてください。真由美は結構酷いことを言った。だが説得が通じない以上は致し方ないことだ。一本蹈鞴と戦うよりはまだ怪我の具合はましなはずである。……戦う人達の戦い方によるが。
どうしたものかと悩みながら、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者六人の戦闘不能(降伏なども戦闘不能に含みます)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
『電波障害の原因が分かり』『まだ電波障害が解決していない』タイミングでしか出せない依頼です。
●敵情報
・隔者
PC達の言うこと聞いてくれない覚者、という意味で隔者。自説が間違っていることを説明しても、聞いてくれません。自意識過剰なので、言葉による挑発には乗りやすいでしょう。
彼らは構成員が全て前世持ちと言う『偉人列伝』と呼ばれる覚者組織です。自分達の前世が何らかの偉人であると自称しており、まあ、その、そういうイタイ子です。なお本当に前世が偉人かだなんて証明できません。アホですが、実力は難易度相応。
拙作『前世知る識者が集いて、タコ殴り』『有名になれば誰かが名を騙る』などに出てきますが、読まずとも問題ありません。倒すべき相手の認識で十分です。
なお、第一ターンの行動は全員『錬覇法』です。
『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。自分の前世を『発明王』と言い切るイタイ覚者。識者ぶりますが、残念さんです。
『錬覇法』『葉纏』『仇華浸香』『大樹の息吹』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。
『燕返し』笹野・小太郎
炎の前世持ち。十五歳男性。
佐々木小次郎の生まれ変わりを自称しています。神具は木刀(刀相当)。体術メインです。クールぶっていますが、精神は年齢相応です。
『錬覇法』『火纏』『灼熱化』『白夜』『物攻強化・弐』『覚醒爆光』『痛覚遮断』等を活性化しています。
『斧の王』清水・透
土の前世持ち。三十五歳男性。
エイブラハム・リンカーンの生まれ変わりを自称しています。神具は半月斧。髭を生やしたりと形から入るタイプです。でも英語は喋れません。
『錬覇法』『土纏』『琴富士』『蔵王・戒』『波動弾』『特攻強化・弐』『覚醒爆光』『威風』等を活性化しています。
『ブラッドバスレディ』高橋・綾
木の前世持ち。十七歳女性。
エリザベート・バートリーの生まれ変わりを自称しています。出血大好き毒大好き。そんな病んでる系JK。
『錬覇法』『葉纏』『非薬・紅椿』『棘散舞』『アイドルオーラ』『医学知識』等を活性化しています。
『二重女間者』宮野・不二子
天の前世持ち。二十二歳女性。
マタ・ハリの生まれ変わりを自称しています。水着っぽい踊り子風の衣装を着ています。速度重視です。
『錬覇法』『霞纏』『演舞・清爽』『演舞・舞音』『速度強化・弐』『アイドルオーラ』『プロパル』等を活性化しています。
『砂漠の女王』楠木・詩織
水の前世持ち。十歳女性。
クレオパトラ7世フィロパトルの生まれ変わりを自称しています。エジプトっぽい杖を手に回復に回ります。
『錬覇法』『水纏』『潤しの滴』『潤しの雨』『氷巖華』『アイドルオーラ』『マイナスイオン』等を活性化しています。
●場所情報
人気のない山道。時刻は昼。広さや足場などは戦闘に支障がないものとします。
戦闘開始時、敵前衛に『笹野』『清水』『高橋』が。中衛に『山田』が。後衛に『宮野』『楠木』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年12月13日
2016年12月13日
■メイン参加者 8人■

●
「おっちゃんらの見解は見当はずれやから行くのやめとき」
開口一番『偉人列伝』に声をかけたのは『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)だ。電波障害の原因は一本蹈鞴ではない。そう説明しても無駄だろうな、と分かっていても言ってみた。案の定というか予想通りに拒否され、小さく肩をすくめる。
「ふ、見当違いかどうかは調べてみなければわからないではないか」
「ふつう原因の特定は仮説だけでなく、実証を行い、検証を重ねて確定させるものと思ったんですが……」
呆れるように『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が言葉を紡ぐ。仮説を立てることは構わない。それがどれだけ的外れでも、意見を出さなければ問題は解決しないのだ。だがそれで古妖に迷惑をかけるのは頂けない。
「無論。故に今から一本蹈鞴の元に向かい実証を行うのだ! 仮説を証明するために!」
「金属による吸収・反射で電波をシールドするには覆うしかないのですが……まあエジソン高校出てないから高校物理解りませんか」
言葉の説得は諦めたと『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)が神具を構える。枠に囚われない発想は事態を発展させるのに必要だが、その全てが事態を好転させるわけではない。ドツボにハマる前に退去してもらわねば。
「鉄では無ければ高周波電波を阻害する微細な稲妻が日本を覆っているとでもいうのかね? いやいや、そんなことはありえないと断言しよう」
(それで正解なのですが……まあ言う必要はありませんか)
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は『発明王』の言葉にそんな事を思っていた。電波障害の情報自体はFiVEの機密だ。敢えて何も言わずに話を流すのが一番だろう。何よりも言っても信じないだろうし。
「山田……本当に、相変わらずだね……。行動力だけは、すごいけど……うん……」
「まあ、現状を何とかしようという意志は褒めてあげたいんだけど。……ほんと、懲りないわね。こいつらも」
何度も『偉人列伝』と関わっている『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)と『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は、同じような感想を口にする。行動力はある。失敗を恐れぬ勇気もある。でもなんというか、相変わらずなのだ。どこかズレているというか、思慮に欠けるというか。
「どうやらFiVEの覚者もようやく吾輩の事を認める気になったようだな。うむ」
「こういっちゃぁ失礼だと思うが、おまえらあほだろ?」
遠慮も礼儀もなく『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が感想を口にする。失礼だとは思うが、言わざるを得ないほどの馬鹿さ加減である。こういう連中は、とりあえず殴って黙らせなければいけないと真剣に思う。
「好き放題言うがいい。天才の理論と行動が理解できぬのが普通なのだ」
「思い込んだら一直線、というタイプのようですね」
ふむ、と冷静に『偉人列伝』を分析する御石 司(CL2001518)。前世は誰にもわからぬもの。それを頑なに信じることが出来るのは、その前世に強い思い入れがあるのだろう。そうあろうと努めるのなら、ある意味真っ直ぐな性根を持つことである。
「どうする『発明王』!? まさかFiVEが出てくるとは!」
「うむ。吾輩も心苦しいが電波障害解決は通信機構の回復。それを邪魔するというのなら、相手がFiVEとはいえ暴力行為も已む無し」
あー、はいはい。勝手に盛り上がる『偉人列伝』を前に、FiVEの覚者達は適当に頷いていた。まあこちらも同じ手段で『説得』するのだから、手間が省ける。
日本の状態異常をかけた戦い……と彼らが思っている戦いの幕が、今切って落とされた。
●
「行くぞ、我ら『偉人列伝』の力を見よ!」
『偉人列伝』の初手は前世の力を借りる強化である。対してFiVEの覚者は既に付与済み。つまりまあ、最初のターンは殴り放題である。
「その隙に混乱を振りまいて行くのです!」
槐は『偉人列伝』がポーズをとって強化している隙をつくように動く。既にこちらの状態異常に対する対策は付与済みだ。一手先を取れるのなら、取るべき手段は最善手。相手を混乱させ、出足をくじくのだ。
手のひらに集中させた天の源素に精神を乱す力を混ぜ、解き放つ。風に乗せて相手にばらまき、合図とともに拡散させた。拡散させる関係上、命中精度は低くなる。だが槐は歴戦の覚者。源素を上手く操り、半数の隔者を困惑させた。
「この『発明王』を困惑させようとは笑止千万! くらえ『斧の王』!」
「見事に混乱しているですよ」
「では私は弱体化させておきましょう」
槐の動きと被らないように誡女が動く。直接相手を攻撃するのではなく、相手を弱体化させて味方を助ける。それが彼女の戦術。少しでも戦いやすいように動き、戦闘をスムーズに解決する。敵をスキャンしながら術を展開する。
『偉人列伝』もFiVEほどではないが経験を積んでいるようだ。それを神秘の力で再確認し、視界を奪う霧を放つ。広がる乳白色の空気が『偉人列伝』を包む。その視界を奪い、こちらに対する火力を下げていく。
「皆さん、任せました」
「うっしゃ。ほないくで」
『朱焔』を構えて凛が歩を進める。前世との絆を強め、肉体強化した『偉人列伝』の戦闘集団に臆することなく突っ込んでいく。相手も相応に経験を積んだ覚者だ。だからこそ修行になるとばかりに刃を向ける。
相手の動きをしっかりとらえ、次にどう動くかをイメージする。イメージが固まると同時に凛の体は動いていた。右に二歩進み刃を振るい、そのまま横なぎに刀を一閃する。まるで刀の軌跡に吸い込まれるように隔者が移動して、切り刻まれる。
「焔陰流、逆波。どないや!」
「まさかこの佐々木小次郎が後れを取るとは!」
「いや。それはお前の思い込みだから」
『偉人列伝』の叫びにツッコミを入れる義高。イタイ連中だとは聞いていたが、本当にイタイ。彼らの『前世』となった偉人たちがかわいそうだ。だが今はそこを糾弾するつもりはない。
相手に対する罵詈雑言を続けながら、源素の加護を重ねていく。相手を挑発し、味方に対して攻撃を向かわさない作戦だ。様々な術式や刃が義高を襲う。その痛みに耐えながら、笑みを浮かべて挑発を続けた。この大きな体の使い時はこれだ、とばかりに。
「誰の生まれ変わりを自称するかは自由だが、自称された奴が情けなさに草葉の陰で泣いてんぜ」
「自称だと! その身で『偉人』の偉大さを知るがいい!」
「自称以外の何物でもないですよ」
同じ前世持ちの結鹿は一歩引いた目で『偉人列伝』を見ていた。前世の感覚はなんとなくわかるが、それが誰であるかは分からない。それは覚めれば消える夢を見ているようなものだ。個人を特定できるというのは、妄想でしかない。
覚醒して銀色となった結鹿の髪が戦場の風で揺れる。、茎に善女龍王が彫刻されている刀を突きの形に構え、腰をわずかに落とした。踏み込みと同時に繰り出される幾重の突き。それが『偉人列伝』を鋭く穿っていく。
「『偉人』が前世だと自称するのはいいですが、偉いのは偉人その人であってあなた方ではありません」
「無論だ。ゆえに我ら『偉人列伝』はその名に恥じぬように電波障害の解決を行おうとしているのだ!」
「悪人ではないのでしょう。だからと言って見過ごすわけにはいきませんが」
司は『発明王』の言葉を受けて、そう判断する。彼らもまた日本の状況を憂い、それを解決しようと奮闘しているのだ。ただその方向が違っただけで。そもそも彼らは雷獣の事を知らない。FiVEとは情報量が違う故の暴走なのだ。
今それを説明しても聞き入れてはくれないだろう。司は指を鳴らし、木の源素を操作する。地面から生えた緑の蔦がムチになり、『偉人列伝』の一人に襲い掛かる。高速で振るわれるムチは鋭い一撃となって相手の肌を裂いた。
「少し痛いかもしれませんが、古妖の元に進めばこれ以上の痛みを受けますよ」
「はっはっは。まるでこの『発明王』の説得が上手くいかないと言いたげではないか」
「交渉なんてうまくいくはずがないのよ。そもそも原因を取り違えてるのだから」
深くため息をつくエメレンツィア。一本蹈鞴は電波障害とは関係ない。『偉人列伝』の一方的な思い込みで迷惑をこうむるのだ。無関係な古妖に詰め寄って挙句戦闘行為に至るなど、とても看過できるものではない。
『国事詔書』を開き、源素を展開する。エメレンツィアの能力に呼応するように大量の水がその手に集う。水は彼女の意志に従い姿を変え、龍となって『偉人列伝』に迫った。鋭い顎と水の質量が彼らに襲い掛かる。
「何度でも、この女帝の前に跪かせてあげるわ。覚悟なさい!」
「ふ、今度こそ我ら『偉人列伝』が勝つと断言しよう」
「なんでそこまで、自信あるのかなぁ……?」
ミュエルは『発明王』の発言を受けて、心の中で首をひねった。状況が読めないのか、心がとても図太いのか。おそらく後者だろう。コンプレックスの多いミュエルからすれば、そのポジティブシンキングは真似できるものではなかった。……したくもないけど。
自然治癒力をあげる香を味方に振りまき、『偉人列伝』の方を見る。心をリラックスさせて体内の毒を浄化させながら、木の源素を展開する。生み出した植物の香が『偉人列伝』の心身を共に弱らせていく。
「そんな程度の毒じゃ……効かないよ」
「わーん『発明王』! あの女、毒とか出血とかすぐに回復するー」
ミュエルの言葉に涙を浮かべる『ブラッドバスレディ』。状態異常を七割強で回復するとか、BS使いからすると相性悪いことこの上ない。
「流石はFiVE。噂に違わぬ強さ。だが最後に勝つのはこの『偉人列伝』と断言しよう!」
「おう!」
気合をれるように『偉人列伝』が己に喝を入れる。それは逆を言えば、FiVEに押されているので頑張らないといけないという意味でもあった。
戦いは加熱していく。……FiVEの覚者からすれば、無意味に。
●
さて『偉人列伝』の面々はバカキャラだが決して弱くはない。前衛層をメイン火力として、攻守に長けた中衛と後衛の回復能力が侮れない。上手く連携どれば、相応の相手でも善戦できる構成だ。
――うまく連携どれば、だが。
「いやぁ。いんだな、こういうイタイ奴。ほんといい年してえれぇこった」
義高の挑発に刃を向ける『偉人列伝』。防御力を固めた義高は攻撃を受けながら挑発を続ける。
「娘にいい見本としてみせてぇや、こうなるなよって。がっはっは! これでもくらいな!」
「ちっ……! 厳しくなったんで防御優先の強化に切り替えるぞ」
「おや。偉人の力を借りないのですか」
前世の繫がりの強化を止めて、土の鎧を纏おうとした『斧の王』に対して、司が呟く。
「凡人の身なら、多少楽できそうですね」
「何を言う。このリンカーンの強さを見せてやろう!」
司の挑発に乗って、防御の強化を行わない『斧の王』。
「その立ち位置にその格好でアイドルオーラ、前世は自称踊り子……もしかして、みんなに守られる自分可愛いとか、思ってる……?」
ミュエルが後衛でバッドステータス回復に努めている『二重女間者』に向かって語り掛けた。
「正直、かなりイタい、よね……。悔しかったら……直接殴りに来てみたら……?」
「若いからって調子に乗ってー! その言葉後悔させてやる!」
遠距離攻撃手段がないこともあり、あっさり挑発に乗って前衛に出る『二重女間者』。
斯様にして連携を潰されれば、『偉人列伝』のチームプレイは十全に発揮されない。
「下々の民が道を誤っているならば、それを正すのがこの『女帝』マリア・テレジアの役目よ」
エメレンツィアの水龍が『偉人列伝』の前衛四名を吹き飛ばす。……ええ、挑発に乗ってうかうか前に出た『二重女間者』諸共である。FiVEの覚者達は中衛の『発明王』に迫る。
「回復持ちがいつから長引きそうと思いましたが……回復持ちしか残らないというのはなんというか」
槐は残った『発明王』と『砂漠の女王』を見て、そんなことを言う。二人の『偉人列伝』が回復に専念すれば長引くだろう。そしてそうさせないためにも、相手を混乱させる術式を放った。相手が攻撃してくれれば、その分殲滅速度が速まる。
「大勢は喫しましたが……油断はできませんね」
八対二となった状況を見て、誡女が頷く。相手の火力に押されることはもうないだろう。あとは『発明王』の木の術式で受けた状態異常に注意するだけだ。相手に近づき、神具で一撃を加える。
「鉄が原因なら人間のほうが生活場面でよほどたくさんの鉄を使ってます。あなた方の言ってるのは、毛皮のコートを着ていながら毛皮を取るのに動物を殺すのはよくないって言ってるのと同じです」
突きを重ねながら結鹿が『偉人列伝』を攻める。その発言と突きに返す言葉もなく、『発明王』は追い込まれていく。
「勝負は非情なもんやからな。恨まんといてや!」
『発明王』と『砂漠の女王』を一気に突き崩そうと凛が刀を構える。その瞳が二人の動きを捕らえ、最適のタイミングを伝えてくれる。狙い外さず突き出された刀が、二人を貫くように解き放たれた。その一撃を受けて『発明王』が倒れ伏す。
「これで勝負ありや。降伏しや」
残った『砂漠の女王』は、凛の降伏勧告を受け入れるように、覚醒を解いて両手を挙げた。
●
いろいろ説明を受けた後に、
「「「「「「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」」」」」」
『偉人列伝』の面々が土下座(×6)した。
「所で今になって電波障害を解決って、単に思いついただけなのです?」
「いや昔から解決する熱はあったのだ。ただこう、脳にビビっとアイデアが降臨して」
槐の問いかけに『発明王』が答える。電波障害の解決自体は誰もが懸念していることだ。その解決策が思いついたに過ぎない。メタなこと言うと、このタイミングでしかこの依頼は出せないというSTのごにょごにょ。
「寒空の下、その格好は如何なものかと。女性がみだりに肌を晒すものではありませんよ」
司が踊り子姿の『二重女間者』に上着をかける。中学生に見える司だが、その実五十七才の紳士。年を重ねた優しさがそこにあった。
「『発明王』、自らの過ちを受け入れなさい。失敗は成功の母、何でしょう?」
「うむ。吾輩は失敗したのではない。『上手くいかない手段』を発明したのだ」
エメレンツィアの言葉に、過ちを受け入れたのかどうかわからない言葉を返す『発明王』。まあこの場での過ちは認めたのか、一本蹈鞴に会いに行く気はもうないようだ。
「山田って謎の人望があるんだなぁ……」
そんな『発明王』に付き従う『偉人列伝』をみて、ミュエルがぼそりと呟く。ミュエルからすれば敬称をつけるのも面倒なぐらいの相手なのだが、まあいろいろあるのだろう。
「斧使いとサシでやりあいたかったが……次の機会だな」
愛斧を守護使役の空間に戻し、義高が『斧の王』を見る。戦った感触としてはいい勝負になりそうな相手だった。次の機会があるかどうかはわからないが、その機会があれば試してみるのもいいだろう。
「そや。家の道場来たら剣の稽古つけてくれるで」
「お誘い感謝するが、遠慮させてもらおう。今の師に対して不敬ゆえに」
『燕返し』を自分の道場に誘おうとする凛。返ってきた答えは拒絶だった。自分には剣の師匠がいて、別の教えを受けるのはその師匠に対して無礼だということだ。言われてみればその通りと凛も納得した。
「貴方達の情報源を教えてもらえませんか? この一本蹈鞴の情報を持ってきた従兄妹とか」
「なんでも戦った事がある……いやその前に止められたとかそんな話だ。詳しくは吾輩もわからん」
誡女の問いに『発明王』はそう返す。曖昧なのは人伝の情報だからか、あるいは従兄妹の情報を与えたくなかったのか。誰しも自分の縁者や知り合いを探ろうとすれば、怪訝になるのも当然である。
(んー? 一本蹈鞴に挑もうとして止められた? それって……)
凛はその話を聞いて引っかかるものを感じた。そんな依頼を前に受けたような……?
『偉人列伝』の面々とはその場で別れ、帰路につく覚者達。
その後、折り返して雷獣の元に向かい、<雷獣結界>の戦いに挑む。
日本を苦しめる電波障害を、本当に解決するために――
「おっちゃんらの見解は見当はずれやから行くのやめとき」
開口一番『偉人列伝』に声をかけたのは『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)だ。電波障害の原因は一本蹈鞴ではない。そう説明しても無駄だろうな、と分かっていても言ってみた。案の定というか予想通りに拒否され、小さく肩をすくめる。
「ふ、見当違いかどうかは調べてみなければわからないではないか」
「ふつう原因の特定は仮説だけでなく、実証を行い、検証を重ねて確定させるものと思ったんですが……」
呆れるように『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が言葉を紡ぐ。仮説を立てることは構わない。それがどれだけ的外れでも、意見を出さなければ問題は解決しないのだ。だがそれで古妖に迷惑をかけるのは頂けない。
「無論。故に今から一本蹈鞴の元に向かい実証を行うのだ! 仮説を証明するために!」
「金属による吸収・反射で電波をシールドするには覆うしかないのですが……まあエジソン高校出てないから高校物理解りませんか」
言葉の説得は諦めたと『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)が神具を構える。枠に囚われない発想は事態を発展させるのに必要だが、その全てが事態を好転させるわけではない。ドツボにハマる前に退去してもらわねば。
「鉄では無ければ高周波電波を阻害する微細な稲妻が日本を覆っているとでもいうのかね? いやいや、そんなことはありえないと断言しよう」
(それで正解なのですが……まあ言う必要はありませんか)
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は『発明王』の言葉にそんな事を思っていた。電波障害の情報自体はFiVEの機密だ。敢えて何も言わずに話を流すのが一番だろう。何よりも言っても信じないだろうし。
「山田……本当に、相変わらずだね……。行動力だけは、すごいけど……うん……」
「まあ、現状を何とかしようという意志は褒めてあげたいんだけど。……ほんと、懲りないわね。こいつらも」
何度も『偉人列伝』と関わっている『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)と『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は、同じような感想を口にする。行動力はある。失敗を恐れぬ勇気もある。でもなんというか、相変わらずなのだ。どこかズレているというか、思慮に欠けるというか。
「どうやらFiVEの覚者もようやく吾輩の事を認める気になったようだな。うむ」
「こういっちゃぁ失礼だと思うが、おまえらあほだろ?」
遠慮も礼儀もなく『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が感想を口にする。失礼だとは思うが、言わざるを得ないほどの馬鹿さ加減である。こういう連中は、とりあえず殴って黙らせなければいけないと真剣に思う。
「好き放題言うがいい。天才の理論と行動が理解できぬのが普通なのだ」
「思い込んだら一直線、というタイプのようですね」
ふむ、と冷静に『偉人列伝』を分析する御石 司(CL2001518)。前世は誰にもわからぬもの。それを頑なに信じることが出来るのは、その前世に強い思い入れがあるのだろう。そうあろうと努めるのなら、ある意味真っ直ぐな性根を持つことである。
「どうする『発明王』!? まさかFiVEが出てくるとは!」
「うむ。吾輩も心苦しいが電波障害解決は通信機構の回復。それを邪魔するというのなら、相手がFiVEとはいえ暴力行為も已む無し」
あー、はいはい。勝手に盛り上がる『偉人列伝』を前に、FiVEの覚者達は適当に頷いていた。まあこちらも同じ手段で『説得』するのだから、手間が省ける。
日本の状態異常をかけた戦い……と彼らが思っている戦いの幕が、今切って落とされた。
●
「行くぞ、我ら『偉人列伝』の力を見よ!」
『偉人列伝』の初手は前世の力を借りる強化である。対してFiVEの覚者は既に付与済み。つまりまあ、最初のターンは殴り放題である。
「その隙に混乱を振りまいて行くのです!」
槐は『偉人列伝』がポーズをとって強化している隙をつくように動く。既にこちらの状態異常に対する対策は付与済みだ。一手先を取れるのなら、取るべき手段は最善手。相手を混乱させ、出足をくじくのだ。
手のひらに集中させた天の源素に精神を乱す力を混ぜ、解き放つ。風に乗せて相手にばらまき、合図とともに拡散させた。拡散させる関係上、命中精度は低くなる。だが槐は歴戦の覚者。源素を上手く操り、半数の隔者を困惑させた。
「この『発明王』を困惑させようとは笑止千万! くらえ『斧の王』!」
「見事に混乱しているですよ」
「では私は弱体化させておきましょう」
槐の動きと被らないように誡女が動く。直接相手を攻撃するのではなく、相手を弱体化させて味方を助ける。それが彼女の戦術。少しでも戦いやすいように動き、戦闘をスムーズに解決する。敵をスキャンしながら術を展開する。
『偉人列伝』もFiVEほどではないが経験を積んでいるようだ。それを神秘の力で再確認し、視界を奪う霧を放つ。広がる乳白色の空気が『偉人列伝』を包む。その視界を奪い、こちらに対する火力を下げていく。
「皆さん、任せました」
「うっしゃ。ほないくで」
『朱焔』を構えて凛が歩を進める。前世との絆を強め、肉体強化した『偉人列伝』の戦闘集団に臆することなく突っ込んでいく。相手も相応に経験を積んだ覚者だ。だからこそ修行になるとばかりに刃を向ける。
相手の動きをしっかりとらえ、次にどう動くかをイメージする。イメージが固まると同時に凛の体は動いていた。右に二歩進み刃を振るい、そのまま横なぎに刀を一閃する。まるで刀の軌跡に吸い込まれるように隔者が移動して、切り刻まれる。
「焔陰流、逆波。どないや!」
「まさかこの佐々木小次郎が後れを取るとは!」
「いや。それはお前の思い込みだから」
『偉人列伝』の叫びにツッコミを入れる義高。イタイ連中だとは聞いていたが、本当にイタイ。彼らの『前世』となった偉人たちがかわいそうだ。だが今はそこを糾弾するつもりはない。
相手に対する罵詈雑言を続けながら、源素の加護を重ねていく。相手を挑発し、味方に対して攻撃を向かわさない作戦だ。様々な術式や刃が義高を襲う。その痛みに耐えながら、笑みを浮かべて挑発を続けた。この大きな体の使い時はこれだ、とばかりに。
「誰の生まれ変わりを自称するかは自由だが、自称された奴が情けなさに草葉の陰で泣いてんぜ」
「自称だと! その身で『偉人』の偉大さを知るがいい!」
「自称以外の何物でもないですよ」
同じ前世持ちの結鹿は一歩引いた目で『偉人列伝』を見ていた。前世の感覚はなんとなくわかるが、それが誰であるかは分からない。それは覚めれば消える夢を見ているようなものだ。個人を特定できるというのは、妄想でしかない。
覚醒して銀色となった結鹿の髪が戦場の風で揺れる。、茎に善女龍王が彫刻されている刀を突きの形に構え、腰をわずかに落とした。踏み込みと同時に繰り出される幾重の突き。それが『偉人列伝』を鋭く穿っていく。
「『偉人』が前世だと自称するのはいいですが、偉いのは偉人その人であってあなた方ではありません」
「無論だ。ゆえに我ら『偉人列伝』はその名に恥じぬように電波障害の解決を行おうとしているのだ!」
「悪人ではないのでしょう。だからと言って見過ごすわけにはいきませんが」
司は『発明王』の言葉を受けて、そう判断する。彼らもまた日本の状況を憂い、それを解決しようと奮闘しているのだ。ただその方向が違っただけで。そもそも彼らは雷獣の事を知らない。FiVEとは情報量が違う故の暴走なのだ。
今それを説明しても聞き入れてはくれないだろう。司は指を鳴らし、木の源素を操作する。地面から生えた緑の蔦がムチになり、『偉人列伝』の一人に襲い掛かる。高速で振るわれるムチは鋭い一撃となって相手の肌を裂いた。
「少し痛いかもしれませんが、古妖の元に進めばこれ以上の痛みを受けますよ」
「はっはっは。まるでこの『発明王』の説得が上手くいかないと言いたげではないか」
「交渉なんてうまくいくはずがないのよ。そもそも原因を取り違えてるのだから」
深くため息をつくエメレンツィア。一本蹈鞴は電波障害とは関係ない。『偉人列伝』の一方的な思い込みで迷惑をこうむるのだ。無関係な古妖に詰め寄って挙句戦闘行為に至るなど、とても看過できるものではない。
『国事詔書』を開き、源素を展開する。エメレンツィアの能力に呼応するように大量の水がその手に集う。水は彼女の意志に従い姿を変え、龍となって『偉人列伝』に迫った。鋭い顎と水の質量が彼らに襲い掛かる。
「何度でも、この女帝の前に跪かせてあげるわ。覚悟なさい!」
「ふ、今度こそ我ら『偉人列伝』が勝つと断言しよう」
「なんでそこまで、自信あるのかなぁ……?」
ミュエルは『発明王』の発言を受けて、心の中で首をひねった。状況が読めないのか、心がとても図太いのか。おそらく後者だろう。コンプレックスの多いミュエルからすれば、そのポジティブシンキングは真似できるものではなかった。……したくもないけど。
自然治癒力をあげる香を味方に振りまき、『偉人列伝』の方を見る。心をリラックスさせて体内の毒を浄化させながら、木の源素を展開する。生み出した植物の香が『偉人列伝』の心身を共に弱らせていく。
「そんな程度の毒じゃ……効かないよ」
「わーん『発明王』! あの女、毒とか出血とかすぐに回復するー」
ミュエルの言葉に涙を浮かべる『ブラッドバスレディ』。状態異常を七割強で回復するとか、BS使いからすると相性悪いことこの上ない。
「流石はFiVE。噂に違わぬ強さ。だが最後に勝つのはこの『偉人列伝』と断言しよう!」
「おう!」
気合をれるように『偉人列伝』が己に喝を入れる。それは逆を言えば、FiVEに押されているので頑張らないといけないという意味でもあった。
戦いは加熱していく。……FiVEの覚者からすれば、無意味に。
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さて『偉人列伝』の面々はバカキャラだが決して弱くはない。前衛層をメイン火力として、攻守に長けた中衛と後衛の回復能力が侮れない。上手く連携どれば、相応の相手でも善戦できる構成だ。
――うまく連携どれば、だが。
「いやぁ。いんだな、こういうイタイ奴。ほんといい年してえれぇこった」
義高の挑発に刃を向ける『偉人列伝』。防御力を固めた義高は攻撃を受けながら挑発を続ける。
「娘にいい見本としてみせてぇや、こうなるなよって。がっはっは! これでもくらいな!」
「ちっ……! 厳しくなったんで防御優先の強化に切り替えるぞ」
「おや。偉人の力を借りないのですか」
前世の繫がりの強化を止めて、土の鎧を纏おうとした『斧の王』に対して、司が呟く。
「凡人の身なら、多少楽できそうですね」
「何を言う。このリンカーンの強さを見せてやろう!」
司の挑発に乗って、防御の強化を行わない『斧の王』。
「その立ち位置にその格好でアイドルオーラ、前世は自称踊り子……もしかして、みんなに守られる自分可愛いとか、思ってる……?」
ミュエルが後衛でバッドステータス回復に努めている『二重女間者』に向かって語り掛けた。
「正直、かなりイタい、よね……。悔しかったら……直接殴りに来てみたら……?」
「若いからって調子に乗ってー! その言葉後悔させてやる!」
遠距離攻撃手段がないこともあり、あっさり挑発に乗って前衛に出る『二重女間者』。
斯様にして連携を潰されれば、『偉人列伝』のチームプレイは十全に発揮されない。
「下々の民が道を誤っているならば、それを正すのがこの『女帝』マリア・テレジアの役目よ」
エメレンツィアの水龍が『偉人列伝』の前衛四名を吹き飛ばす。……ええ、挑発に乗ってうかうか前に出た『二重女間者』諸共である。FiVEの覚者達は中衛の『発明王』に迫る。
「回復持ちがいつから長引きそうと思いましたが……回復持ちしか残らないというのはなんというか」
槐は残った『発明王』と『砂漠の女王』を見て、そんなことを言う。二人の『偉人列伝』が回復に専念すれば長引くだろう。そしてそうさせないためにも、相手を混乱させる術式を放った。相手が攻撃してくれれば、その分殲滅速度が速まる。
「大勢は喫しましたが……油断はできませんね」
八対二となった状況を見て、誡女が頷く。相手の火力に押されることはもうないだろう。あとは『発明王』の木の術式で受けた状態異常に注意するだけだ。相手に近づき、神具で一撃を加える。
「鉄が原因なら人間のほうが生活場面でよほどたくさんの鉄を使ってます。あなた方の言ってるのは、毛皮のコートを着ていながら毛皮を取るのに動物を殺すのはよくないって言ってるのと同じです」
突きを重ねながら結鹿が『偉人列伝』を攻める。その発言と突きに返す言葉もなく、『発明王』は追い込まれていく。
「勝負は非情なもんやからな。恨まんといてや!」
『発明王』と『砂漠の女王』を一気に突き崩そうと凛が刀を構える。その瞳が二人の動きを捕らえ、最適のタイミングを伝えてくれる。狙い外さず突き出された刀が、二人を貫くように解き放たれた。その一撃を受けて『発明王』が倒れ伏す。
「これで勝負ありや。降伏しや」
残った『砂漠の女王』は、凛の降伏勧告を受け入れるように、覚醒を解いて両手を挙げた。
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いろいろ説明を受けた後に、
「「「「「「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」」」」」」
『偉人列伝』の面々が土下座(×6)した。
「所で今になって電波障害を解決って、単に思いついただけなのです?」
「いや昔から解決する熱はあったのだ。ただこう、脳にビビっとアイデアが降臨して」
槐の問いかけに『発明王』が答える。電波障害の解決自体は誰もが懸念していることだ。その解決策が思いついたに過ぎない。メタなこと言うと、このタイミングでしかこの依頼は出せないというSTのごにょごにょ。
「寒空の下、その格好は如何なものかと。女性がみだりに肌を晒すものではありませんよ」
司が踊り子姿の『二重女間者』に上着をかける。中学生に見える司だが、その実五十七才の紳士。年を重ねた優しさがそこにあった。
「『発明王』、自らの過ちを受け入れなさい。失敗は成功の母、何でしょう?」
「うむ。吾輩は失敗したのではない。『上手くいかない手段』を発明したのだ」
エメレンツィアの言葉に、過ちを受け入れたのかどうかわからない言葉を返す『発明王』。まあこの場での過ちは認めたのか、一本蹈鞴に会いに行く気はもうないようだ。
「山田って謎の人望があるんだなぁ……」
そんな『発明王』に付き従う『偉人列伝』をみて、ミュエルがぼそりと呟く。ミュエルからすれば敬称をつけるのも面倒なぐらいの相手なのだが、まあいろいろあるのだろう。
「斧使いとサシでやりあいたかったが……次の機会だな」
愛斧を守護使役の空間に戻し、義高が『斧の王』を見る。戦った感触としてはいい勝負になりそうな相手だった。次の機会があるかどうかはわからないが、その機会があれば試してみるのもいいだろう。
「そや。家の道場来たら剣の稽古つけてくれるで」
「お誘い感謝するが、遠慮させてもらおう。今の師に対して不敬ゆえに」
『燕返し』を自分の道場に誘おうとする凛。返ってきた答えは拒絶だった。自分には剣の師匠がいて、別の教えを受けるのはその師匠に対して無礼だということだ。言われてみればその通りと凛も納得した。
「貴方達の情報源を教えてもらえませんか? この一本蹈鞴の情報を持ってきた従兄妹とか」
「なんでも戦った事がある……いやその前に止められたとかそんな話だ。詳しくは吾輩もわからん」
誡女の問いに『発明王』はそう返す。曖昧なのは人伝の情報だからか、あるいは従兄妹の情報を与えたくなかったのか。誰しも自分の縁者や知り合いを探ろうとすれば、怪訝になるのも当然である。
(んー? 一本蹈鞴に挑もうとして止められた? それって……)
凛はその話を聞いて引っかかるものを感じた。そんな依頼を前に受けたような……?
『偉人列伝』の面々とはその場で別れ、帰路につく覚者達。
その後、折り返して雷獣の元に向かい、<雷獣結界>の戦いに挑む。
日本を苦しめる電波障害を、本当に解決するために――
■シナリオ結果■
大成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
時系列的には<雷獣結界>決着以前のお話という事で。
挑発がはまりすぎた……! 戦闘不能者を出そうにも、ヘイトコントロールをされて見事に削りきれませんでした。
プレイングを見た瞬間、「あ、これは挑発に乗るわ」と思いました。
さて電波障害を本当に解決するために、頑張ってください。
それではまた、五麟市で。
時系列的には<雷獣結界>決着以前のお話という事で。
挑発がはまりすぎた……! 戦闘不能者を出そうにも、ヘイトコントロールをされて見事に削りきれませんでした。
プレイングを見た瞬間、「あ、これは挑発に乗るわ」と思いました。
さて電波障害を本当に解決するために、頑張ってください。
それではまた、五麟市で。
