桜、花開く
桜、花開く



「学園近くの公園で、桜が満開に咲くようです。みんなでお花見を楽しみましょう」
 FiVEの夢見が一足早い桜の開花を予知したのは、五麟学園の入学式が間近に迫る頃だった。
「時刻は明日の正午。現地の市民公園は、絶好の花見スポットとして有名な場所です。毎年お花見の時期になると、市の内外から見物客が大勢訪れるようですね」
 折しもその日は縁日で、一足早い春の訪れを見に集まった客で賑わうらしい。近くの通りには屋台も立ち並んでいるようで、花開いた桜を眺めつつ、春のひと時をゆっくり過ごそう……というのが、依頼の趣旨であった。
「説明は以上です。お花見には私も参加しますから、ご用の時は声を――」
 大事な情報を伝え忘れたことに気づいて、夢見の顔が赤くなった。
 実は彼女、この春にFiVEへと配属された新人なのである。


「紹介が遅れました。依頼を担当する、参河 美希(nCL2000179)です」
 初々しさを感じさせる若い女性教師が、集まった覚者に挨拶した。
「これから夢見として、皆さんをサポートしていきます。ちょっとだけ、自己紹介しますね」
 美希は微笑みを浮かべ、教師らしいよく通る声で話し始めた。
 かつてFiVEの覚者に命を救われ、その時に、自分が覚者であると知ったこと。
 FiVEで受けた検査の結果、夢見の因子発現が確認されたこと。
 力を必要とする人々のため、自らの意志でFiVEへの参加を決めたこと。
「これから皆さんのお役に立てるよう頑張ります。よろしくお願いします」
 春の陽光を思わせる笑顔で、美希は覚者達に一礼した。

 麗らかな陽気に包まれた、一足早い春の一日。
 あなたは、どうやって過ごすのだろうか?


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:坂本ピエロギ
■成功条件
1.桜舞う一時を楽しむ
2.なし
3.なし
ピエロギです。予定よりも早く戻ってまいりました。
以下、シナリオの説明です。

・ロケーション
五麟学園の近くにある市民公園。時刻は正午です。
公園の広さは学園と同程度で、園内のあちこちで桜が花開いています。

・園内での過ごし方
特に制限は設けません。
桜並木で散策を楽しむもよし、友達と花見を楽しむもよし。
食べ物、飲み物は持ち込み可。屋台で買って食べることも出来ます。
「桜」に関わるシチュエーションをご指定頂いた方が、良い描写の可能性が上がります。

※未成年の飲酒喫煙、ならびに公序良俗に反するプレイングはご遠慮下さい。

・屋台について
花見用の食べ物や飲み物を購入できます。
扱う品物については、プレイングで指定すれば原則「あったこと」になりますが、
明らかに花見の場にそぐわないものは不採用の可能性があります。ご注意下さい。

●お土産の発行について
花見や桜、縁日に関連するアイテムをお土産として希望者に発行いたします。
希望者は【発行希望】・名称・設定の3点を必ずご記載下さい。
(プレイング欄・EXプレイング欄、どちらの記載でも構いません)

・字数上限は名称(全角14文字以内)、設定(全角64文字以内)とします。
・記載事項に漏れがあった場合、アイテムは発行されません。
・字数オーバー、内容に問題がある等の場合は修正を行う場合があります。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(4モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
50LP
参加人数
30/30
公開日
2017年04月11日

■メイン参加者 30人■

『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『凡庸な男』
成瀬 基(CL2001216)
『機械仕掛けの狂天使』
成瀬 舞(CL2001517)
『天からの贈り物』
新堂・明日香(CL2001534)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『囁くように唄う』
藤 壱縷(CL2001386)


 4月の休日、五麟市の公園にて。
 園内に植わった桜の木々が笑うように咲いて、春の訪れを告げている。

「くくるんみらのん、くくるんみらの~ん」
 鼻歌交じりに公園の川縁をぶらついているのは、ククル ミラノ(CL2001142)であった。
 歌に合わせて、ピンクの尻尾がフリフリと動く。
 桜の下で浴びる春の暖かい日差しは、彼女の身も心も軽くしてくれるようだ。

「……お花見。桜、綺麗、ね」
 桂木・日那乃(CL2000941)は、大きな桜の木の根元で、のんびりと桜を見上げていた。
 隣には、夢見の参河 美希(nCL2000179)が一緒だ。
「先生。やっぱり、夢見さんだった、の、ね」
 日那乃は、かつて美希を救った覚者の一人である。あの時から、美希が夢見ではと日那乃は感じていたが、予感は的中したようだ。
「先生の夢。いつでも、わたしたちが、悪夢にして、あげる、から」
「ありがとう、桂木さん。これからもよろしくね」
「どうぞ、よろしく」
 美希を見送った後も、彼女は舞い散る桜を静かに眺めていた。
「マリン、花びら、ついてる……」
 守護使役に降ってきた桜のひとひらを、日那乃はハンカチでそっと包んだ。

「鯛焼きを貰おう。2つだ」
 『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)は鯛焼きの包みを抱え、桜並木を歩いていた。
(お土産の鯛焼き、喜んでくれるといいのだが)
 彼女の脳裏に浮かぶのは、過去の依頼で助けたとある古妖の存在である。
 本当ならば2人で桜を楽しみたかったが、運悪く学園には不在だった。
――来年もまた桜が見られるように、共に頑張ろうな。
 彼が学園に戻ってきたら、鯛焼きと一緒にこの言葉を伝えようと思った。

「桜が芽吹く季節になりましたか……ゆったりとしたいい季節です」
 見物客の団体を避けながら、そっと桜を愛でる女性がいた。藤 壱縷(CL2001386)である。
 出で立ちは、目深に被った帽子に伊達メガネ。人前に姿を晒せない芸能人の身が恨めしい。
(新曲の作詞のインスピレーションになればと、桜を見に来てみましたが……)
 桜の幹にもたれかかり、壱縷は五感を研ぎ澄ました。
 桜の舞い散る情景。儚い香り。それらをそっと愛でる人々。
 それらが混然一体となった瞬間、壱縷の脳裏に閃くものがあった。
「賑やかさ……春ならではの光景……やはりここに言葉はありそう! 早く書かなくては!」
 それから数日後。彼女が発表したのは、演歌寄りのバラード調にかかれた愛の唄だったという。

 酒々井 数多(CL2000149)の手作りサンドイッチを、切裂 ジャック(CL2001403)が頬張った。
「野菜たべなさい、野菜。栄養偏るわよ」
「いつも悪いな! 美味しいよ、ほんと……あっ」
 卵サンドに伸ばしたジャックの手が、数多の手に触れる。
「さ、寒いと思ったから、指先冷えてるかな! って……」
「っていうか、ジャック君のほうが手、冷たいわよ」
「ご、ごめん。俺の手、冷たいな」
 わたわたと赤くなるジャック。
 どこかぎこちなさを感じる彼の態度に、ふう、と数多は小さくため息をつく。
「ちょっと待ってて」
「どうした?」
「いいから! さっさと食べちゃいなさい!」
 怪訝そうな顔でジャックが食事を終えたとき、ふいに彼の周囲が桜で包まれた。
「どう? 私の花吹雪」
「うわっ……」
「なんか貴方、神妙な顔してるのだもの。何かあったのかなって」
 数多の言葉を聞いたジャックの目に、様々な感情が宿った。
 喜び、感謝、もどかしさ、そして――
 一瞬の間を置いて、いつもの笑顔でジャックが言う。
「ありがと。俺、お前のこと好きだよ。ヒトとして」
「急になによ。褒めてもなにもでないわよ」
 数多の顔は、ほんのりと赤い。
 直情的な性格の彼女は、思ったことがすぐ顔に出てしまう。
「あ、紅茶飲む? 暖かいやつ」
「頼む」
 ぽつりと言うと、ジャックは目をそらすように、桜を見上げた。
(数多。お前の隣にいると嬉しい気持ちでいっぱいになる)
(でも、これくらいで丁度ええねん)
――これ以上くっついたら心臓おかしくなるから。
 桜はただ、風に揺られて花を散らしていた。

 ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、上機嫌で守護使役のペスカと話していた。
「ほーら、ペスカ。桜ですよー。ピンクの花びらがおそろいですね」
 脇に抱えた紙袋――屋台で買った、焼き立てのベビーカステラに、ラーラはほくほく顔だ。
(花より団子って言葉もありますけど、やっぱりお花なしにはお花見はできませんね)
 並木道のベンチでカステラの袋に手を入れると、ラーラは美希と出くわした。
「ペスカ。覚えてますか? 参河先生です。この前、妖に襲われた学校の先生ですよ」
「あの時は本当にありがとう。ペスカちゃん、よろしくね」
「そういえば先生。所長を見ませんでしたか?」
「公園では……見ていないわ」
 所長というのは、FiVEを創立した女性のことだ。いるならば、一緒に花見をと思ったのだが。
「ありがとうございます。もう少し探してみます」
 美希に礼を言うと、ラーラはカステラを一口頬張った。

「どうぞ、召し上がれ」
「えへへ、先輩のお料理美味しいです♪ 僕も料理出来るようにならなきゃなー!」
「小唄さんの手料理、楽しみにしていますね」
 クー・ルルーヴ(CL2000403)の手弁当に箸を伸ばす御白 小唄(CL2001173)の笑顔を、クーは言葉少なに見つめていた。
 表情こそ鉄面皮だが、尻尾は先ほどから左右に忙しなく振れている。
(小唄さん……喜んでもらえて嬉しいです)
「ん……ふあぁ……あふ。なんか眠くなってきちゃった」
 食事を終え、幹に背を預ける小唄の目が、まどろみを帯びた。
 陽に当てられて、眠気が襲ってきたらしい。
「眠かったら、お昼寝してもいいですよ。起きるまで傍に居ますから」
「うわぁ。おやすみなさい、先輩……」
 隣に座ったクーにもたれかかると、小唄は寝息を立て始めた。
「小唄さん。冷えますよ」
 クーは尻尾を絡めて毛布代わりにすると、小唄の隣で目を閉じた。
「小唄さん。大好きです。今ならきっと、いい夢を見れますね」
 桜の香りに交じる小唄の匂い。幸せに包まれながら、2人は眠りに落ちていった。
――また、来年もこうやってお花見したいですね。先輩と一緒に。
――私も、来年も桜を見に来たいです。その時も、小唄さんと一緒に。
 桜が濾した木漏れ日が、二人の寝顔を優しく照らしていた。

「どうぞ、桜の紅茶です」
「ありがとう! せっかくだから、これも一緒に食べよう!」
 賀茂 たまき(CL2000994)の紅茶に工藤奏空(CL2000955)が添えたのは、桜のカステラだ。紅茶の仄かな桜の香りと、カステラの甘い匂いが、見る者の食欲を刺激する。
「ほっこりするね~」
「はい。ほっこりします」
 たまきは笑顔で頷いた。奏空と2人で過ごすひと時に、感じる喜びは一入だ。
 奏空もまた、たまきと気持ちは同じである。
(大好きな人と一緒にこうして居れる事が何よりも幸せだなぁ)
 しばらく2人で他愛のない話をしていると、奏空は眠気に襲われた。
「ううん。何だか眠くなって来た」
「あらあら、奏空さんったら」
 紅茶で温まった体を、そっとシートに横たえる奏空。
 その顔を、たまきの柔らかい手が包み込む。
(奏空さんの綺麗な髪は、柔らかくて……触れていると、私まで、安心して……)
 たまきは気づかれないよう、奏空の頭をそっと膝へと乗せる。
 灰色の髪をそっと撫でるたび、奏空の体がピクピクと動いた。
(ふふ……! 何だか、猫さんを膝の上に乗せている様で、可愛らしいです)
 たまきの脳裏に、昨年の光景が描き出される。
 あの頃と比べれば、随分と距離が縮まったものだ。
 一方の奏空はというと。
(何これ。えっ何これどういうこと? 嘘だよね?)
(俺、寝てしまってた!? しかもたたたたまきちゃんの膝枕!?)
(でも……撫でられて……心地いいかも……もうしばらくこのままで……)
(大丈夫。大丈夫なはず! そのまま寝たふりで――)
「ふふっ。奏空さん」
 耳元で囁くたまきの言葉に、奏空の頭は真っ白になった。
 今自分は、どんな顔をしているんだろう。
(でもいいか。たまきちゃんに見られるなら、どんな顔でも)
 耳まで真っ赤になりながら、奏空は小声で言った。
「あと5分……いい……?」
「はい。後で、桜並木も散策してみましょうね……?」

 桜並木ではしゃぐ少女と、後を歩く黒づくめの男。
 天堂・フィオナ(CL2001421)と八重霞 頼蔵(CL2000693)である。
「見てくれ! 桜! すっごい綺麗で!」
「悪くは無いが、しかし……」
 元気いっぱいのフィオナを追いながら、頼蔵は小さく肩を竦めた。急用だと聞いて駆けつければ、まさか花見とは。
(真に恨むべきは自身の迂闊さか、余暇という事で油断していたよ)
 とはいえ、悪意でないことは十分に承知だった。何だかんだで、短くない付き合いだ。おおかた呼び出した理由というのも、
――これは、火急の用事にせざるを得なかったんだ! 頼蔵と一緒に桜を見たくて!
 といったところだろう。この騎士の少女は、妙なところで素直でないのだ。
(経緯は如何あれ、折角の機会ではある。何やら天堂君にも準備がある様子だからね)
 並木道のベンチに2人で腰掛けると、フィオナは持参のバスケットを開いた。
「見ろ! この前話してた、ひと周り上達したサンドイッチだ!」
「用意周到だね、此処まで計算通りと言う訳だ」
「あ、味もちゃんと上達してるぞ、多分!」
 頼蔵は目を細めて笑った。パンを桜に型抜きするなど、細かな仕事が見て取れる。
 フィオナの性格が、そのまま表れているようだ。完成したときの表情さえ、想像できるほどに。
「降参だ、頂こう。丁度小腹も空いていたしな」
「どうだ、美味しいか?」
「……ふ」
 頼三は何も語らない。だが、彼の微笑みを見れば、答えは一目瞭然だ。
 フィオナはベンチにもたれ込み、やがてうつらうつらと夢見心地になりだした。
(何だか眠くなってきた。早起きして作ったから、かな)
 何度か船をこいだ後、フィオナは頼三の肩にそっと顔をよせ、眠りに落ちた。
「随分と幸せそうな寝顔だね」
 笑みを湛えた目で、頼三は呟いた。
 実際、悪い気分ではない。今の風情は、恐らく一人では楽しむ事も無かったものなのだから。
 静かな寝息を立てるフィオナを、頼三は静かに見守っていた。

「ごちそうさま。美味かったよ」
「お粗末様です。頑張って早起きして作った甲斐がありました」
 柳 燐花(CL2000695)は、蘇我島 恭司(CL2001015)が食べ終えた弁当箱を嬉しそうにしまうと、ほんの少し間をおいて、気恥ずかしそうに切り出した。
「あの……この前のお返しがしたいのですが」
「この前……? ああ、いいよ」
 恭司は一瞬首を傾げたが、すぐに察した。
「少し恥ずかしいけど、折角の申し出だからねぇ。じゃあ、お言葉に甘えて」
 ふう、とリラックスした顔で、恭司は膝に頭を乗せた。
 燐花の肌に、恭司の体重がそっともたれる。実際にやると、なかなかに気恥ずかしい。
(こ、これは……私はどこを見たら……)
 燐花は目のやり場に困った挙句、とうとう目を閉じてしまった。
 一方の恭司は、悪くない心地で膝枕を満喫している。
「燐ちゃん、重たくないかな…って、あれ?」
 そっと髪を撫でてみても、目を開かない燐花を見て、寝てしまったのだろうかと恭司は訝しんだ。
起きるまで眺めていたいところだが、座ったままにはさせておけない。
(やれやれ。ここは俺が膝枕をしようか)
 燐花を眠りから起こさないよう、恭司はそっと手を伸ばした。
「すう……すう……」
「いい景色だ。一人だったら、何枚でも撮っちゃうんだけどね」
 桜と、それを眺める見物客たちをぼんやり眺めながら、恭司は呟いた。
 伝えずに来た燐花への想いを、今ならそっと伝えられるかもしれない。
「ねえ、燐ちゃん。僕さ――」
「え? あの?」
 恭司の小声に、燐花がぱちりと目を覚ます。一瞬ののち、2人の顔が火を噴いたようになった。
(大丈夫、聞こえてない! 聞こえてないはず!!)
(なんで私が膝枕される側に。状況が呑み込めません……!)
 無言の2人を、桜の花吹雪がそっと包み込んだ。

 鈴白 秋人(CL2000565)は、園内を散策していた美希と桜を眺めていた。
「初めまして。鈴白と言います。桜を見ながら、少し話しませんか?」
 そんな彼の誘いを、美希は笑顔で承諾した。
 2人はベンチに腰かけ、風に揺られる桜をのんびりと見上げる。
「参河さんは教師なんだね。もう配属は決まったの?」
「はい。五麟の中等部に」
「俺も小学校の教師なんだ。今年の春からね」
「あら、じゃあ教師としては、私が1年先輩ですね。よろしく、鈴白先生」
 秋人の勧めた緑茶を飲みながら、美希がにっこりと笑う。
 笑顔と桜が似合う人だと秋人は思った。
「参河さんは元気で明るい人みたいだから、クラスも華やぎそうだね。お代わり、いる?」
「いただきます。お茶、美味しいです」
「良かった。桜のお茶じゃなくて申し訳ないけど」
 その時、秋人の言葉を聞き届けたかのように、そよ風に桜が舞った。
 そして――
「あら、お茶に花びらが」
「あ、俺のお茶にも」
 2人は朗らかに笑った。

 暖かい日差し。咲き誇る桜。人々の賑わいに、時折聞こえるウグイスのさえずり。
 絶好の花見日和である。
「春だねえ……花見だねえ……」
 レジャーシートに座り、桜を見上げる麻弓 紡(CL2000623)が、幸せそうに嘆息した。
「花見とくれば、美味しい料理は欠かせないねえ!」
 そう言って開けたクーラーボックスの中には、氷に刺さった大瓶ロゼシャンパン。用意した別皿には、苺大福と苺が華やかに盛られている。
 大皿を運んできた如月・彩吹(CL2001525)が、思わず目を丸くした。
「大きいのを持ってきたなと思ったら……すごいね?」
「料理もお酒も、一緒に味わってこそだからね~」
 彩吹の皿には、花見団子と桜餅が盛ってある。今朝ついた餅で作った出来立てだ。
「あ……」
「どうしたの? 彩吹ちん」
「ほら、あれ」
 彩吹の指さす先を見ると、青空に桜吹雪が霞んで見えた。
「花霞って言うんだっけ。とても綺麗だ」
「凄いねえ……」
 言葉を失って見惚れる2人の隣で、如月・蒼羽(CL2001575)と新堂・明日香(CL2001534)が嬉しそうに顔を綻ばせた。
「このところ寒かったから心配していたんだけど……うん、天気も良いし花見日和だ」
「見に来て良かった……もー心が踊っちゃうよ!」
 一方、成瀬 基(CL2001216)と天野 澄香(CL2000194)の2人は、先ほどから用意した食事を手際よくシートに並べている。
「今日という日の為に腕によりをかけてお弁当バッチリ用意したよ!」
「たくさん食べる子もいますし、ちょっと張り切って作っちゃいました」
 澄香が用意したのは、五目いなりに太巻き寿司、野菜の煮物とウズラの卵団子。そしてデザートには得意料理のアップルパイ。
 一方基は、海苔巻きにきんぴら、唐揚げ……行楽のお供の定番である。
「紡ちゃんリクエストの甘い卵焼きにタコさんウィンナー、ついでにカニさんも作っちゃいました」
「わーい♪」
「それでは、皆さんの料理も揃ったようですし、いただきましょう!」
「いただきましょう! 乾杯!」
 紡は仲間たちとシャンパングラスを鳴らすと、澄香の卵焼きに箸を伸ばした。
 澄香は本職の調理師である。助手の身ではあるが、その出来栄えには流石本職と唸らされる。
 一方で成瀬 翔(CL2000063)は、待ちきれないといった表情で、並んでゆく料理を生唾を飲んで見守っている。
「花見だ花見だ! 桜の花も嫌いじゃねーけど、オレはやっぱ弁当が楽しみだよなー!」
「澄香ちゃん、本当に上手だね。ひとりで作ったの?」
 蒼羽の視線は、先ほどから澄香のカニさんウィンナーに注がれていた。
 一方の紡は、ぱくぱくと口を開け、相棒の翔に箸をねだっている。
「翔、次、アレたべたいー。あーん」
「『あーん』って……紡ー?」
 周囲の視線を気にも留めず、翔はきょとんとした表情で首を傾げて、
「ああ、これ食いたいのか?」
 卵焼きを、無造作に紡の口に入れた。
(あれ? 妹と同じ感覚でやっちゃったけど紡って女だったよな……まあ、いっか!)
 翔は深く考えるのをやめた。大人というのは、酒が入ると態度が変わるものだ。
 一方、明日香はといえば、ひょうたん型にひしゃげた米の塊を、ぱくぱくと口に運んでいる。
「これ、美味しいです! なんていう料理ですか?」
「おにぎり」
「!?」
「私が作った。味見したけど、変な味はしなかったよ」
 ぼそっと返す彩吹に、蒼羽がうんうんと頷いた。
「彩吹もがんばった。三角にできるようになればレベルアップだ」
「あ……あの彩吹さんが!?」
「これって、彩吹さんが作ったんですか?」
 話を聞いた仲間たちが、一様に目を見開いた。彩吹の知己で、彼女の壊滅的な料理の腕前を知らない者はそういない。
「それでは、味の方を……」
 澄香が手に取ったのは、紅葉型のおにぎりだ。おそらく、彩吹が力の加減を間違えたのだろう。
 ぱくりとご飯を口に入れ、澄香の顔が不安から笑顔に変わる。
「大丈夫、まだまだ上達できますよ……!」
 親友の彩吹が頑張ったこと、苦手なことを克服しようとするその姿勢に、澄香は感動していた。
 そんな彼らの会話を、翔の悲鳴が遮る。
「みっ、みずーーー!!」
 声の方へと視線を送れば、頬張った唐揚げにむせて、翔が顔を真っ赤にしていた。
 大食漢の翔だが、どうやら急いで食べ過ぎたらしい。
「はい、お茶。ゆっくり食べなさい」
「はあ……やっぱ揚げ物ばかり先に食っちゃダメだよな」
 成瀬 舞(CL2001517)から水筒を受け取り一息つくと、翔は彩吹のおにぎりに手を伸ばした。
「個性的なおにぎりだな、これ?」
 しげしげと見つめたおにぎりを、翔はひょいと口に入れる。
「でも、うん、美味いぜ、問題ないない!」
「もう、本当に……」
 花より団子といった風情の翔に苦笑しながら、舞は夫の基の方を向いた。
「にしても基君……気合入り過ぎじゃない? 私が起きた時にはほぼ出来上がってたよね?」
「基さん、そんなに早く準備してたんだ」
「父子家庭だったからね。こういう世話焼き染みついてるっていうか」
 驚く明日香に、基がはにかむように笑う。
「えへへ。こうやって皆のこと甘やかす機会ってそうないからね」
 いかにも好人物といった風情の基だが、筋金入りの刑事である。彼が砕けた口調で接する相手は、そう多くない。
「……舞、おかーさんみたいだって顔しないで」
「うん。私がいいお嫁さん貰った気分……」
 うっとり微笑む舞に、明日香と澄香が相の子を入れる。
「確かに基さん、お母さんっぽいかも。甘やかしてくれるとこも含めて」
「基さん、ほんといい奥さんですよね」
「やだなあ。よしてくれよ、もう……」
 その時、ふと舞が青空を見上げた。
「あ、飛行機……」
 笑う一同の遥か頭上を、飛行機が通過した。桜が舞い上がり、粉雪のように辺りを優しく包む。
 8人はしばし言葉を忘れ、その光景に魅入った。
「基君。桜吹雪、綺麗だね」
「ああ。来て良かった」
 それを見て、澄香がカメラを取り出した。
「皆さん。写真、撮りませんか?」
「あ、撮りたい! 皆で一緒の記念写真!」
 澄香の言葉を聞いた明日香が、元気に飛び跳ねる。
 集合した仲間達に、カメラをセットする澄香。
「翔、今日は楽しかったねえ」
「だな! 料理も美味かったし!」
「また来年も、皆でお花見行こうねっ」
「3、2、1……」
 パシャリ。
 澄香のカメラが、春のひと時を切り取った。

(えへへー! ナナンはとっても嬉しくて笑顔いっぱい!)
 皐月 奈南(CL2001483)は、集まった仲間たちを見渡して、笑顔をこぼした。
「みんなー! 友達の大辻・想良(CL2001476)ちゃんを紹介するのだー!」
 奈南の声に、仲間たちが集まってきた。
「想良ちゃんはカッコよくて優しくて、とってもいい人! 皆、仲良くして欲しいのだ!」
「大辻です。よろしくお願いします」
「それと、この子はナナンのハムスター! おもちって名前なのだ!」
 奈南の言葉に、御影・きせき(CL2001110)と守衛野 鈴鳴(CL2000222)が元気よく笑う。
「はじめまして、想良ちゃん。御影です! おもちちゃんも、よろしくね!」
「ふふ。大辻さん、いっぱいお話しましょうねっ」
 鈴鳴は想良と同学年である。今までも学園で幾度か想良の姿を見かけていたが、こうして話をするのは初めてだった。
 そこへ、食事の準備をしていた向日葵 御菓子(CL2000429)と菊坂 結鹿(CL2000432)が加わる。
「皆、準備できたよー」
「一緒に食べましょう! 美味しいですよ!」
「「いただきまーす!」」
 こうして、ささやかな花見の席が始まった。
 鈴鳴が手に取ったのは、結鹿の三色団子風おむすび。
 青菜と塩とゆかりのおにぎりを串団子に見立てたもので、塩味と酸味が小気味良い。
 たらこをまぜた俵型を大葉で巻いた桜餅風も捨てがたい味だ。
「結鹿ちゃん、今年もたくさん作ったわね……」
「えへへ。みんなとのお花見なので、腕によりを込めてお弁当&スイーツを用意しました!」
 桜の花びらを象ったピンク皮の最中に桜色のマカロン、道明寺と長命寺……結鹿の丁寧な仕事が感じられる品々だ。
「すごく美味しい! プロみたい!!」
「ふふふ。ありがとうございます」
 舌鼓をうつきせきの言葉に、結鹿が笑顔になった。
 料理を作るのは幸せだが、美味しいと言って食べてもらえるのは、もっと幸せだ。
「近所のお店で関東風の桜餅売ってたから、買ってきてみたよ!」
「そうか、御影さんは関東生まれだっけ」
「うん。こっちの桜餅を初めて食べたときは、本当にびっくりしたなー」
「関東風は初めて見ますね……何だか和風のクレープみたい」
 鈴鳴が披露したのは、和菓子の三色団子。白、桜、緑のコントラストが食欲をそそる。
「見た目や味は不格好かもですが……頑張って作ってみたんです」
 鈴鳴に続いて、想良もそっと自分の料理を並べた。
「どうぞ……おむすびです」
 想良の料理は、桜の塩漬けを入れたおにぎりだ。
 水分を吸わないよう、海苔を別に分けるなど、小さな心遣いが嬉しい。
「僕はおっきな魔法瓶で緑茶持ってきたよ!」
「ナナンも紅茶クッキーを作ってきたのだ!」
 無論、おもちのおやつ、ヒマワリの種も忘れない。
 各々が持ち寄ったものを食べながら、6人は楽しい時を過ごした。
「御影さん、クッキー食べませんか?」
「あ、ありがとう。もらうよ」
 ふと鈴鳴は、きせきの顔に寂しさが浮かんでいることに気づいた。
 理由は何となく想像がつく。新年度には高校生になるきせきは、彼女や奈南、結鹿の中学組とは別校舎になってしまうのだ。
「御影さん。来年もまた、皆で一緒に桜を見ましょう」
「うん……そうだね! 進学して校舎は離れちゃうけど、ずっと友達でいようね!」
 しんみりした空気を払うかのように、御菓子がパンと手を鳴らした。
「みんな、花びら捕まえてきて。それでしおりを作ってあげるわ」
 御菓子は思った。
 今日のこの日、友達の顔、思い出の数々が思い出せる物を、彼らに残してやりたいと。
 どんな時でも笑いあえる友達がいる、幸せも悲しさも分かち合える仲間がいる、支えあえる友情がある。どうかその事を、忘れないでほしいと。
「向日葵さん、お願いします!」
「はい出来たよ、守衛野さん」
 ラミレーターで加工された桜の栞を、鈴鳴はそっと受け取った。
「今日は皆ありがとうだよぉ!」
「えへへ、またこうやって皆さんでお出かけしましょうね!」
 元気に笑う奈南と鈴鳴の傍で、結鹿はそっと桜に祈った。
 御菓子と、集まった皆と、いつまでも友達でいられるように。
 また来年も、皆で一緒に桜を見られるように――

 花冷えの日々が終わり、五麟に新しい季節が訪れつつあった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『桜舞うひと時を、君と』
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『桜舞うひと時を、君と』
取得者:蘇我島 恭司(CL2001015)
特殊成果
『桜餅』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:皐月 奈南(CL2001483)
『桜のカステラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
『桜のカステラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『桜の栞』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:成瀬 基(CL2001216)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:成瀬 舞(CL2001517)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
『デモ音源』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:藤 壱縷(CL2001386)
『記念写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・蒼羽(CL2001575)




 
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