<雷獣結界>蜜柑畑の戦い
●愛媛の雷獣
快晴、磯の香りが風に乗って蜜柑の木の間を吹き抜ける。
「グルルル……」
雷獣が喉を震わせ低く唸る。
バチバチ、と体を纏う雷を目の前にいる妖に向かって放つ。
「ぐ……封印がよわまっているのか……」
雷獣は蜜柑畑の周囲を見渡す。木の影で見えないが、無数の妖が居るのは分かる。
このままでは完全に封印は解けてしまい、封印から解放された妖達が町に降りて人々を襲うであろう。
「どうすれば……」
雷獣は瞼を閉じた。
●守るべきモノ
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。実は、愛媛の蜜柑畑で20年以上も妖を封印してる雷獣が疲弊していて、結界が壊れようとしています。ただ、その妖の数は約20匹もいます」
久方 真由美(nCL2000003)は、会議室に集まったアナタ達に説明をする。
4半世紀も雷獣達は、妖を封じるのと同時に日本に電波障害が生じていたのだ。
「結界が破壊される前に妖を倒し、雷獣を助けて結界を解いてもらうように説得して下さい。皆さんの朗報をお待ちしております」
真由美はアナタ達に一礼をした。
快晴、磯の香りが風に乗って蜜柑の木の間を吹き抜ける。
「グルルル……」
雷獣が喉を震わせ低く唸る。
バチバチ、と体を纏う雷を目の前にいる妖に向かって放つ。
「ぐ……封印がよわまっているのか……」
雷獣は蜜柑畑の周囲を見渡す。木の影で見えないが、無数の妖が居るのは分かる。
このままでは完全に封印は解けてしまい、封印から解放された妖達が町に降りて人々を襲うであろう。
「どうすれば……」
雷獣は瞼を閉じた。
●守るべきモノ
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。実は、愛媛の蜜柑畑で20年以上も妖を封印してる雷獣が疲弊していて、結界が壊れようとしています。ただ、その妖の数は約20匹もいます」
久方 真由美(nCL2000003)は、会議室に集まったアナタ達に説明をする。
4半世紀も雷獣達は、妖を封じるのと同時に日本に電波障害が生じていたのだ。
「結界が破壊される前に妖を倒し、雷獣を助けて結界を解いてもらうように説得して下さい。皆さんの朗報をお待ちしております」
真由美はアナタ達に一礼をした。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.雷獣の説得
3.なし
2.雷獣の説得
3.なし
戦いです!細かい事は気にせずに戦って下さい!
皆さんの参加をお待ちしております。
●場所
愛媛県にある蜜柑畑(昼)
障害物は約1メートル位の蜜柑の木だけです。
●一般人
誰も居ません。
●敵
妖
霊刀(レイトウ)20体
ランク1の心霊系
短刀を持った侍の様な姿
・居合い切り(近単、HP吸収)
・風切り(遠単)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年12月10日
2016年12月10日
■メイン参加者 8人■

●蜜柑畑
海沿いに植えられている蜜柑の木、潮の香と共に甘酸っぱい香りが覚者達の鼻腔をくすぐる。
「いのりは電波障害のある世界しか知りませんが、今回の件が上手くいけば両親やお爺様が言っていたような障害の無い世界が訪れるのでしょうか? ならば新しい世界を目指して頑張りませんといけませんわね!」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は琥珀の様に大きな瞳を輝かせながら蜜柑畑を駆け抜ける。
「にしても、蜜柑畑って、何でそんなとこに封印あったんだ? ま、とにかく雷獣も蜜柑も助けねーとな!!」
『小さなヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)は蜜柑畑をぐるりと見回す。
日本の各地に居る雷獣、彼らは様々な場所に妖を封印しているのだが、夢見によってその力が弱まっている事を知らされた。
愛媛県にある蜜柑畑。
覚者達は急いで雷獣の元へと向かう。
「……あ。そーいやオレ、仕事すんの久しぶりだー! 体なまってないとイイなー……」
と、ぼやくのは新咎 罪次(CL2001224)。
「気張らず気楽にいってこーい、ツグなら大丈夫」
罪次の背中を優しく押すのは『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)だ。
「……そーだ、つむぎもいるし! じゃー、後ろと回復まかせていってくるー!」
不安そうな表情から笑顔に変わった罪次は、紡に明るく言うと一歩前に出る。
「20年以上か……長いな」
『同じ翼を持つ者』如月・彩吹(CL2001525)は藍色の瞳を閉じる。
20年以上、人ならば赤子が成人している長さだ。
人間側からしたら長い、しかし古妖の雷獣からしたら短いのかもしれない。
「ってもらった恩はきちんと返さないと……女が廃るよね」
再び瞼を開けた彩吹の瞳には決意が込められてた。
「4半世紀も妖を封じてきたっていうのは嘘偽りなく尊敬に値するよな。その間、封印を維持し続けたっていう実績は無視できる話じゃないし、人には及べないとこだと思う」
夢見から聞いた雷獣の事を思いながら『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は蜜柑畑を駆け抜ける。
「ずーっと結界はって、妖を留め続けてたってすごい気力だよね。でも、弱まってきたってことは……負荷が大きかったのかな? もしそうなら、何か、手助けしたいよね! すぐには信じてもらえないかもしれないけれど千里の道も一歩から。ちょっとずつでも歩み寄れるように、まずは妖退治からしっかりとしないとね!」
経験を積み覚者として成長している『残念な男』片桐・戒都(CL2001498)は仲間を背中を見つめた。
「雷獣結界、ですか。こんな場所で、強力な妖を、封じていたなんて。敬意を払わねば、ですね」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は夫婦刀・天地の柄を握り妖と雷獣の間に素早く割り込む。
「人……?」
雷獣は覚者達を見て目を丸くする。
「大丈夫ですか? 妖はいのり達にお任せ下さいませ。今はお体の回復を」
いのりは、守護使役のガルムに妖の匂いをかぎわけてもらいながら雷獣を後退させる。
「オレ天行だからさ、雷獣にはいつも世話になってるんだよな。封印を施してる連中とは違う種類かもしれねーけど、それでも仲間かもだし。だから雷獣、助けに来たぜ! 妖退治は任せとけ!!」
と、翔は力強く言って守護使役の空丸が空からていさつをする。
「ずっとこの地を護ってくれた事に心からの感謝を、貴方の護ってきた場所を荒らさせたりしない。妖は必ず倒して見せるよ」
彩吹は真っ直ぐに雷獣を見つめながら力強い声で言う。
ばさっと翼を羽ばたかせながら守護使役のカグヤが空へと飛び立つ。
「手間を掛けさせてしまい……申し訳ない」
雷獣は後退しながら覚者達に礼を言う。
「妖を片付けたら、リスペクトと感謝の気持ちに銘酒の一杯もぜひ贈らせてもらいたい」
義高は、お酒を飲む仕草をしながら雷獣に言うと蒼鋼壁で防御力と、特殊攻撃を反射するシールドを張り前衛に立つ。
「この侍、昔ココで戦ったヤツだったりすんのかな? そんならマジ仕事熱心ってカンジー」
罪次は、蜜柑の木の陰から顔を出す無数の霊刀を見回しながら蒼鋼壁で己の防御力を上げ、特殊攻撃を反射するシールドを張りつつ中衛で戦う準備をする。
「20体も相手にしないといけないから皆、体力に注意しながら戦えよな」
戒都は仲間に声を掛けつつ紡と連携を取る。
「刀の妖ということで。刀を愛用する者として、きっちり鎮めさせて、いただきます」
祇澄は巫女服の袖を振り、蔵王・戒で己の防御力を上げて前髪の隙間から見える霊刀を睨む。
「雷獣様が守って来たこの土地……いのり達が必ず守り抜いてみますわ!」
いのりは、迷霧の粘りつく様な高密度の霧を発生させ周囲に居る霊刀に纏わせた。
●霊刀を折る!
守護使役で霊刀の数、位置を確認する覚者の情報を待ちながら前衛は己の強化をしつつ妖の攻撃を受け流したり、回避していた。
「ガルム、ありがとうございますわ。この範囲でしたら攻撃が当たりますわね」
いのりは冥王の杖を掲げ、蜜柑の木に当たらない様に配慮しながら脣星落霜で霊刀達に攻撃をする。
目の前の覚者達、雷獣しか見てない妖の頭上から星の様に輝く光の粒が当たる。
「少しでも数減らせればいいんだけどな」
と、その隣で翔もいのりと合わせる様に脣星落霜を放つ。
まずは数を減らす。
覚者8人に対し、妖20体だが援護に徹底する者を除けばと考えれば早めに倒す事を考えての行動だ。
それと、雷獣の封印が解かれ妖が人里に逃げ込んだら血を見るのは明らかだ。
「さ、如月ちゃん。ボクらはボクらに出来る事を頑張ろ~」
紡が彩吹に手を差し出し、艶やかな青い翼を羽ばたかせた。
「うん」
差し出された手をぎゅっと握りしめ、彩吹は濡れ鴉の様な翼を動かし紺碧の空へと舞い上がる。
「うじゃうじゃと湧いてくるね。ー片付け甲斐があるけれど」
蜜柑畑にひしめき合う霊刀の群れを見て彩吹は目を細めた。
「昔から隠れ鬼は得意なんだ ……上からだと丸見えだよ」
ぱっと、紡の手を放すと彩吹は重力に任せて、ただ落ちていく。
「……一匹 見つけた」
群れから離れている霊刀を瞳に映すと、彩吹は細く微笑みながら鋭刃脚を当てる。
だが、相手は心霊系の妖だ。
あまり物理は効いていない、黒い穴の様な瞳で落ちてきた彩吹を見るや否や霊刀は短刀の居合切りで攻撃をする。
「空は、私の海。そんな攻撃では、空の魚を一匹も――……殺せない」
彩吹はくるっと宙返りすると、海を泳ぐイルカを思わせる動作で空へと飛び立つ。
「うじゃうじゃ、と……きりがないな。いや、数には限りはあるか」
義高はギュスターブで霊刀を攻撃しながら呟く。
仲間から離れぬよう、無理して前に出ぬよう、ただ蜜柑の木を気にしつつ戦うだけ。
「オマエらのご主人もう死んじゃってんじゃねー? 一人で寂しい思いしてっかもだからさー、会いに行ってやれよー!」
猫の様にしなやかな動きで無邪気に戦う罪次は、近くに居る霊刀に隆神槍で攻撃して確実に倒していく。
「雷獣のためにってな」
戒都は仲間の様子を伺いつつ木に当てないよう配慮し伊邪波で攻撃をする。
「刀とあっては、切り結ばなくては、いけませんから。一対多には、慣れていますから。さあ、貴方たちの相手は、私ですよ!」
と、声高らかに祇澄は言うと霊刀をエネミースキャンで分析後、隆槍で攻撃をする。
物理の攻撃はあまり効かない、祇澄はそれを仲間に伝える。
「蜜柑と蜜柑ジュースを買いにいかせてもらわなきゃ、ね」
紡は、油性ペンで手に書かれたメモに一瞬だけ視線を向けると演舞・清爽で仲間の援護をする。
「おーし、まだまだ手は緩めないぜ!」
翔は乾いた唇を舐めると脣星落霜で攻撃し霊刀達の数を減らす。
ふと、雷獣の視界に義高が赤い布を振る姿が映る。
「牛鬼、か」
雷獣は懐かしい声色で呟いた。
霊刀の反応はそれぞれだが、怯える様子のモノは悲鳴に近い叫び声を上げながら短刀を無造作に振る。
「そんな扱い方では、短刀が泣きます」
その様子を見て祇澄は、地面を槍の様に隆起させ霊刀を貫く。
「これで、攻撃を回避しやすくなりました」
彩吹がエアブリットでトドメを刺す。
「気を抜かずに頑張ってね」
紡は戦巫女之祝詞で祇澄の攻撃力を強化する。
「皆、無理しなようにねー」
と、声を掛けながら戒都は周囲の仲間を癒しの霧で癒す。
「霊刀は半数以上は減らしたぜ」
「おー、倒した数を覚えてるなんて凄いじゃん!」
翔の言葉に罪次は笑顔で言う。
「赤い布を持ってきてよかった」
「雷獣は『牛鬼』って言ってたけど……なんだろうな?」
義高の赤い布を見て戒都は首を傾げる。
「戒都様、霊刀達を倒した後に雷獣様に聞いてみると良いですわ」
「うん、そうだね。今はやる事をやらないとな」
いのりの言葉に戒都は頷くと霊刀に視線を向けた。
「最後の一匹は……倒そう」
と、雷獣が言うと雷が轟き最後の霊刀に落とした。
全部倒した、と蜜柑畑を見回って確認し終えた覚者達は笑顔で頷いた。
「任務完了だな!」
「お疲れ、相棒」
紡が翔に労いの言葉を掛けると2人はハイタッチをする。
しかし、今回の仕事はこれだけではない。
残るは雷獣を説得して結界を解いてもらう、戦う事を得意とする者にとっては苦手な者が多い。
「きっと話せば分かってもらえるぜ」
翔は屈託のない笑顔で仲間に言った。
●雷獣
蜜柑畑を守り切った覚者達は、傷付いた雷獣から向けられている視線に気が付き振り向く。
「大切な地を守ってくれて感謝する」
「気にしないで下さい。これは私が望んでしている事です」
雷獣の言葉に優しい声色で祇澄は答える。
「ほら、怪我治してあげるね」
戒都は癒しの滴で雷獣の傷を癒す。
「しかし、その様子だと何か言う事がありそうだな」
ぐるりと覚者達の顔を見て雷獣は言う。
「例えどんな妖が現れようとも、いのり達はきっと倒します。この世界を守る為、そして新しい世界の訪れを邪魔させない為に。ですからお願いします。封印を解いていのり達に新しい世界を見せて下さいませんか?」
一歩前に出ていのりは言うと威風を纏う。
「今までずっと封印してて大変だったよな。封印のおかげで妖も弱体化してたしオレらでも倒せるようになったみたいだ。だからさ、封印解いてくれねーか? もしまた妖が出ても、オレ達が必ずやっつける! 雷獣に嘘ついたりしねーぜ。天行は雷獣も雷も友達だからな!」、
翔は雷獣と目線を合わせながら笑顔で言う。
「あぁ、雷獣のしてた事は人を守るためにしてくれていた事だ……ありがとう」
義高は坊主頭に手を添え雷獣に感謝の言葉を言う。
「私が生まれた頃から、すでに電波障害は起きていましたね。その原因が、この雷獣たちによる結界の影響だったとは思いもしませんでした。良し悪しはありますが、私たちがこの封じられた妖を退治できるようになったというのは素直に喜ばしいことだと思います。われわれ人間が、古妖に頼り切りではいけませんからね」
「良かろう。恩を仇で返す事をしたら、この蜜柑畑の主に怒られてしまう……」
覚者達の言葉を聞いて雷獣はふっと笑うと結界を解く。
「雷獣は封印のお仕事終わってバカンスいけるし。日本もイイカンジになるし。オレもお給料もらえて嬉しいー! イイコトだらけじゃん! あ、雷獣もミカン食うのー?」
罪次は大きな瞳で雷獣を見る。
「ば、ばかんす? よく分からないが、蜜柑は好きだ。ここの蜜柑は美味しい」
雷獣は落ちた蜜柑を咥え覚者達に投げる。
「蜜柑っていい匂いするし癒やされるような気もするし」
と、言って翔は手の中にある蜜柑に鼻を近付ける。
ほんのりと蜜柑の甘い香りが肺に満たされる。
「あ、雷獣ちゃん……は食べれるかな?」
仲間に棒付飴を配る紡はそっと雷獣に差し出す。
「最近の菓子は洒落てるな」
雷獣は飴の部分をパクリと咥える。
「おっと、そうだ。酒は飲めるよな?」
「無論」
義高の言葉に雷獣は嬉しそうに答えた。
「蜜柑、蜜柑♪ 買って帰るね」
「俺も弟に買って帰りたいな」
紡の後を追って戒都も駆け出す。
「ふっ、騒がしいが嫌いではない」
蜜柑畑に潮風が吹き抜け、太陽は山へと沈もうとしてオレンジ色に染まる海と畑。
他の雷獣もこうしている事を祈りながら覚者達は家へと帰る。
白い花の栞を手にして――……
海沿いに植えられている蜜柑の木、潮の香と共に甘酸っぱい香りが覚者達の鼻腔をくすぐる。
「いのりは電波障害のある世界しか知りませんが、今回の件が上手くいけば両親やお爺様が言っていたような障害の無い世界が訪れるのでしょうか? ならば新しい世界を目指して頑張りませんといけませんわね!」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は琥珀の様に大きな瞳を輝かせながら蜜柑畑を駆け抜ける。
「にしても、蜜柑畑って、何でそんなとこに封印あったんだ? ま、とにかく雷獣も蜜柑も助けねーとな!!」
『小さなヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)は蜜柑畑をぐるりと見回す。
日本の各地に居る雷獣、彼らは様々な場所に妖を封印しているのだが、夢見によってその力が弱まっている事を知らされた。
愛媛県にある蜜柑畑。
覚者達は急いで雷獣の元へと向かう。
「……あ。そーいやオレ、仕事すんの久しぶりだー! 体なまってないとイイなー……」
と、ぼやくのは新咎 罪次(CL2001224)。
「気張らず気楽にいってこーい、ツグなら大丈夫」
罪次の背中を優しく押すのは『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)だ。
「……そーだ、つむぎもいるし! じゃー、後ろと回復まかせていってくるー!」
不安そうな表情から笑顔に変わった罪次は、紡に明るく言うと一歩前に出る。
「20年以上か……長いな」
『同じ翼を持つ者』如月・彩吹(CL2001525)は藍色の瞳を閉じる。
20年以上、人ならば赤子が成人している長さだ。
人間側からしたら長い、しかし古妖の雷獣からしたら短いのかもしれない。
「ってもらった恩はきちんと返さないと……女が廃るよね」
再び瞼を開けた彩吹の瞳には決意が込められてた。
「4半世紀も妖を封じてきたっていうのは嘘偽りなく尊敬に値するよな。その間、封印を維持し続けたっていう実績は無視できる話じゃないし、人には及べないとこだと思う」
夢見から聞いた雷獣の事を思いながら『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は蜜柑畑を駆け抜ける。
「ずーっと結界はって、妖を留め続けてたってすごい気力だよね。でも、弱まってきたってことは……負荷が大きかったのかな? もしそうなら、何か、手助けしたいよね! すぐには信じてもらえないかもしれないけれど千里の道も一歩から。ちょっとずつでも歩み寄れるように、まずは妖退治からしっかりとしないとね!」
経験を積み覚者として成長している『残念な男』片桐・戒都(CL2001498)は仲間を背中を見つめた。
「雷獣結界、ですか。こんな場所で、強力な妖を、封じていたなんて。敬意を払わねば、ですね」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は夫婦刀・天地の柄を握り妖と雷獣の間に素早く割り込む。
「人……?」
雷獣は覚者達を見て目を丸くする。
「大丈夫ですか? 妖はいのり達にお任せ下さいませ。今はお体の回復を」
いのりは、守護使役のガルムに妖の匂いをかぎわけてもらいながら雷獣を後退させる。
「オレ天行だからさ、雷獣にはいつも世話になってるんだよな。封印を施してる連中とは違う種類かもしれねーけど、それでも仲間かもだし。だから雷獣、助けに来たぜ! 妖退治は任せとけ!!」
と、翔は力強く言って守護使役の空丸が空からていさつをする。
「ずっとこの地を護ってくれた事に心からの感謝を、貴方の護ってきた場所を荒らさせたりしない。妖は必ず倒して見せるよ」
彩吹は真っ直ぐに雷獣を見つめながら力強い声で言う。
ばさっと翼を羽ばたかせながら守護使役のカグヤが空へと飛び立つ。
「手間を掛けさせてしまい……申し訳ない」
雷獣は後退しながら覚者達に礼を言う。
「妖を片付けたら、リスペクトと感謝の気持ちに銘酒の一杯もぜひ贈らせてもらいたい」
義高は、お酒を飲む仕草をしながら雷獣に言うと蒼鋼壁で防御力と、特殊攻撃を反射するシールドを張り前衛に立つ。
「この侍、昔ココで戦ったヤツだったりすんのかな? そんならマジ仕事熱心ってカンジー」
罪次は、蜜柑の木の陰から顔を出す無数の霊刀を見回しながら蒼鋼壁で己の防御力を上げ、特殊攻撃を反射するシールドを張りつつ中衛で戦う準備をする。
「20体も相手にしないといけないから皆、体力に注意しながら戦えよな」
戒都は仲間に声を掛けつつ紡と連携を取る。
「刀の妖ということで。刀を愛用する者として、きっちり鎮めさせて、いただきます」
祇澄は巫女服の袖を振り、蔵王・戒で己の防御力を上げて前髪の隙間から見える霊刀を睨む。
「雷獣様が守って来たこの土地……いのり達が必ず守り抜いてみますわ!」
いのりは、迷霧の粘りつく様な高密度の霧を発生させ周囲に居る霊刀に纏わせた。
●霊刀を折る!
守護使役で霊刀の数、位置を確認する覚者の情報を待ちながら前衛は己の強化をしつつ妖の攻撃を受け流したり、回避していた。
「ガルム、ありがとうございますわ。この範囲でしたら攻撃が当たりますわね」
いのりは冥王の杖を掲げ、蜜柑の木に当たらない様に配慮しながら脣星落霜で霊刀達に攻撃をする。
目の前の覚者達、雷獣しか見てない妖の頭上から星の様に輝く光の粒が当たる。
「少しでも数減らせればいいんだけどな」
と、その隣で翔もいのりと合わせる様に脣星落霜を放つ。
まずは数を減らす。
覚者8人に対し、妖20体だが援護に徹底する者を除けばと考えれば早めに倒す事を考えての行動だ。
それと、雷獣の封印が解かれ妖が人里に逃げ込んだら血を見るのは明らかだ。
「さ、如月ちゃん。ボクらはボクらに出来る事を頑張ろ~」
紡が彩吹に手を差し出し、艶やかな青い翼を羽ばたかせた。
「うん」
差し出された手をぎゅっと握りしめ、彩吹は濡れ鴉の様な翼を動かし紺碧の空へと舞い上がる。
「うじゃうじゃと湧いてくるね。ー片付け甲斐があるけれど」
蜜柑畑にひしめき合う霊刀の群れを見て彩吹は目を細めた。
「昔から隠れ鬼は得意なんだ ……上からだと丸見えだよ」
ぱっと、紡の手を放すと彩吹は重力に任せて、ただ落ちていく。
「……一匹 見つけた」
群れから離れている霊刀を瞳に映すと、彩吹は細く微笑みながら鋭刃脚を当てる。
だが、相手は心霊系の妖だ。
あまり物理は効いていない、黒い穴の様な瞳で落ちてきた彩吹を見るや否や霊刀は短刀の居合切りで攻撃をする。
「空は、私の海。そんな攻撃では、空の魚を一匹も――……殺せない」
彩吹はくるっと宙返りすると、海を泳ぐイルカを思わせる動作で空へと飛び立つ。
「うじゃうじゃ、と……きりがないな。いや、数には限りはあるか」
義高はギュスターブで霊刀を攻撃しながら呟く。
仲間から離れぬよう、無理して前に出ぬよう、ただ蜜柑の木を気にしつつ戦うだけ。
「オマエらのご主人もう死んじゃってんじゃねー? 一人で寂しい思いしてっかもだからさー、会いに行ってやれよー!」
猫の様にしなやかな動きで無邪気に戦う罪次は、近くに居る霊刀に隆神槍で攻撃して確実に倒していく。
「雷獣のためにってな」
戒都は仲間の様子を伺いつつ木に当てないよう配慮し伊邪波で攻撃をする。
「刀とあっては、切り結ばなくては、いけませんから。一対多には、慣れていますから。さあ、貴方たちの相手は、私ですよ!」
と、声高らかに祇澄は言うと霊刀をエネミースキャンで分析後、隆槍で攻撃をする。
物理の攻撃はあまり効かない、祇澄はそれを仲間に伝える。
「蜜柑と蜜柑ジュースを買いにいかせてもらわなきゃ、ね」
紡は、油性ペンで手に書かれたメモに一瞬だけ視線を向けると演舞・清爽で仲間の援護をする。
「おーし、まだまだ手は緩めないぜ!」
翔は乾いた唇を舐めると脣星落霜で攻撃し霊刀達の数を減らす。
ふと、雷獣の視界に義高が赤い布を振る姿が映る。
「牛鬼、か」
雷獣は懐かしい声色で呟いた。
霊刀の反応はそれぞれだが、怯える様子のモノは悲鳴に近い叫び声を上げながら短刀を無造作に振る。
「そんな扱い方では、短刀が泣きます」
その様子を見て祇澄は、地面を槍の様に隆起させ霊刀を貫く。
「これで、攻撃を回避しやすくなりました」
彩吹がエアブリットでトドメを刺す。
「気を抜かずに頑張ってね」
紡は戦巫女之祝詞で祇澄の攻撃力を強化する。
「皆、無理しなようにねー」
と、声を掛けながら戒都は周囲の仲間を癒しの霧で癒す。
「霊刀は半数以上は減らしたぜ」
「おー、倒した数を覚えてるなんて凄いじゃん!」
翔の言葉に罪次は笑顔で言う。
「赤い布を持ってきてよかった」
「雷獣は『牛鬼』って言ってたけど……なんだろうな?」
義高の赤い布を見て戒都は首を傾げる。
「戒都様、霊刀達を倒した後に雷獣様に聞いてみると良いですわ」
「うん、そうだね。今はやる事をやらないとな」
いのりの言葉に戒都は頷くと霊刀に視線を向けた。
「最後の一匹は……倒そう」
と、雷獣が言うと雷が轟き最後の霊刀に落とした。
全部倒した、と蜜柑畑を見回って確認し終えた覚者達は笑顔で頷いた。
「任務完了だな!」
「お疲れ、相棒」
紡が翔に労いの言葉を掛けると2人はハイタッチをする。
しかし、今回の仕事はこれだけではない。
残るは雷獣を説得して結界を解いてもらう、戦う事を得意とする者にとっては苦手な者が多い。
「きっと話せば分かってもらえるぜ」
翔は屈託のない笑顔で仲間に言った。
●雷獣
蜜柑畑を守り切った覚者達は、傷付いた雷獣から向けられている視線に気が付き振り向く。
「大切な地を守ってくれて感謝する」
「気にしないで下さい。これは私が望んでしている事です」
雷獣の言葉に優しい声色で祇澄は答える。
「ほら、怪我治してあげるね」
戒都は癒しの滴で雷獣の傷を癒す。
「しかし、その様子だと何か言う事がありそうだな」
ぐるりと覚者達の顔を見て雷獣は言う。
「例えどんな妖が現れようとも、いのり達はきっと倒します。この世界を守る為、そして新しい世界の訪れを邪魔させない為に。ですからお願いします。封印を解いていのり達に新しい世界を見せて下さいませんか?」
一歩前に出ていのりは言うと威風を纏う。
「今までずっと封印してて大変だったよな。封印のおかげで妖も弱体化してたしオレらでも倒せるようになったみたいだ。だからさ、封印解いてくれねーか? もしまた妖が出ても、オレ達が必ずやっつける! 雷獣に嘘ついたりしねーぜ。天行は雷獣も雷も友達だからな!」、
翔は雷獣と目線を合わせながら笑顔で言う。
「あぁ、雷獣のしてた事は人を守るためにしてくれていた事だ……ありがとう」
義高は坊主頭に手を添え雷獣に感謝の言葉を言う。
「私が生まれた頃から、すでに電波障害は起きていましたね。その原因が、この雷獣たちによる結界の影響だったとは思いもしませんでした。良し悪しはありますが、私たちがこの封じられた妖を退治できるようになったというのは素直に喜ばしいことだと思います。われわれ人間が、古妖に頼り切りではいけませんからね」
「良かろう。恩を仇で返す事をしたら、この蜜柑畑の主に怒られてしまう……」
覚者達の言葉を聞いて雷獣はふっと笑うと結界を解く。
「雷獣は封印のお仕事終わってバカンスいけるし。日本もイイカンジになるし。オレもお給料もらえて嬉しいー! イイコトだらけじゃん! あ、雷獣もミカン食うのー?」
罪次は大きな瞳で雷獣を見る。
「ば、ばかんす? よく分からないが、蜜柑は好きだ。ここの蜜柑は美味しい」
雷獣は落ちた蜜柑を咥え覚者達に投げる。
「蜜柑っていい匂いするし癒やされるような気もするし」
と、言って翔は手の中にある蜜柑に鼻を近付ける。
ほんのりと蜜柑の甘い香りが肺に満たされる。
「あ、雷獣ちゃん……は食べれるかな?」
仲間に棒付飴を配る紡はそっと雷獣に差し出す。
「最近の菓子は洒落てるな」
雷獣は飴の部分をパクリと咥える。
「おっと、そうだ。酒は飲めるよな?」
「無論」
義高の言葉に雷獣は嬉しそうに答えた。
「蜜柑、蜜柑♪ 買って帰るね」
「俺も弟に買って帰りたいな」
紡の後を追って戒都も駆け出す。
「ふっ、騒がしいが嫌いではない」
蜜柑畑に潮風が吹き抜け、太陽は山へと沈もうとしてオレンジ色に染まる海と畑。
他の雷獣もこうしている事を祈りながら覚者達は家へと帰る。
白い花の栞を手にして――……

■あとがき■
色々な戦闘を描写出来てとても楽しかったです。
皆さんが蜜柑の木と雷獣を思う気持ちがとても優しくて心に沁みました。
初めての全体シナリオに参加してくださり、本当にありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。
皆さんが蜜柑の木と雷獣を思う気持ちがとても優しくて心に沁みました。
初めての全体シナリオに参加してくださり、本当にありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。
