<ヒノマル戦争>丹波山統合研究所制圧作戦
<ヒノマル戦争>丹波山統合研究所制圧作戦


●兵器工場
「ヒノマル陸軍との戦争状態が続いている。
 今のところファイヴの優勢という形で滑り出しているが、序盤の形勢で安心はできない。
 敵拠点を見つけ出して関連施設を叩きたいが、それは追々やっていこう。
 今回は、皆の提案で捜索していたエリアに敵の拠点を発見したので、制圧することにする」

 ヒノマル陸軍との戦争はFH協定によって定められ、チーム戦によって制圧の是非を決める。
 今回発見したのは、丹波山の『統合研究所』とその訓練施設である。
「ここはヒノマル陸軍に所属する様々な兵器開発スタッフが定期的に集い、その研究成果を共有するという施設だ。
 住宅地を想定した演習場を備えている。
 元は妖被害によって壊滅した村を買い取った場所のようで、元の住民はみな別の地域に引っ越しているそうだ」
 ヒノマル派研究員として面識があるのは、ゴウハラ博士とハラスエ博士だ。
 霊子強化服やショットガントレットといった高性能な装備を開発し、組織の兵力を底上げしている。
「決戦に向けて次の兵器開発を進めているようだが、この施設を制圧できれば開発を大きく遅らせることができる。
 その分相手も本気で防衛するだろう、激戦は覚悟して欲しい。
 正直難しい任務になるから、失敗を恐れずに当たってくれ」

●研究所直属部隊
 統合研究所には約六人の直属スタッフが存在している。
 それぞれアルファからゼータまでのコードを与えられた彼らは兵器の実験などを行ない、ヒノマル陸軍の兵器開発に大きく貢献している。
 今回この拠点での戦闘を任されたのは、その六人だった。
「ゴウハラ博士。あなたまで現場に来る必要はないんですよ?」
「いやなに、ハラスエの奴と賭をしていてな」
 はげ上がった頭を撫でて、ゴウハラ博士は笑った。
 その隣で眼鏡をいじるハラスエ博士。
「ファイヴが決戦までに協定を守るか否かだ。私の見立てでは、民主主義的かつ自由思想派のファイヴにそこまで強い連帯感があるとは思えん。集団が多数決でものを決める時、大局は意識されないものだ」
「どうかな。ごく一部の暴走を許さないモラルの高さを、ワシは見いだしたぞ」
「それも一理あるが……」
「大局を意識しないというのもまた一理……」
 お互い詰め将棋でも始めそうな顔をした所で、デルタが嫌そうに首を振った。
「もー、やめてくださいよ。勝負はコレだけでいいでしょ?」
 変わったタクティカルスーツとガントレットを装備したデルタに、博士たちは頷いた。
「ワシの霊子強化服と……」
「私のロマン装備……」
「どちらが活躍するか、見物じゃな」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.戦闘に勝利する
2.なし
3.なし
 これはシーズンシナリオ<ヒノマル戦争>のひとつです。
 戦闘の勝敗によって拠点制圧の是非が決まります。

●エネミーデータ
・アルファ:暦・火行。前衛担当。真面目な男性。
・ベータ:現・火行。前衛担当。筋骨隆々な老人。ただし実年齢は若い。
 →上記二名はショットガントレット、霊子強化服甲型を装備
・デルタ:獣・土行。状況に応じて味方をガード。犬耳少女。物特防御が高い。
 →上記一名はショットガントレット(ディフェンダー仕様)、霊子強化服丙型を装備
・ガンマ:翼・水行。後衛回復担当。少しきつめの女性。
・イプシロン:現・木行。中衛で攻撃と回復を両立。寡黙な女性。
 →上記二名はYGグレネード、霊子強化服乙型を装備
・ゼータ:現・天行。後衛砲撃支援担当。物腰の柔らかい女性。
 →上記一名はECスナイパーライフル、霊子強化服乙型を装備。

 装備も万全で連携能力も高く、戦況に対する柔軟性も高いチームです。
 過去に二回戦闘を行なっていますが、『半数戦闘不能で決着』のルールで二回とも勝利。ただし殲滅戦だったら勝敗の分からない状態でした。
 そのため、依頼難易度は高いと予想されています。

 それぞれの武装は以下二つのシナリオで実験していた兵器の完成形です。
 /quest.php?qid=704
 /quest.php?qid=578
 詳しく情報を知りたい方は読んで頂いて、大雑把に知りたい方は周囲の知っていそうな方に聞いてください。
 ここから完成形に向けてどう変化しているのかはまだわかっていません。

●シチュエーションデータ
 戦場は市街戦闘を意識した演習施設です。
 壊滅した村を改築したダミー建造物が並んでいます。誰も生活していないので小物類はほぼありませんし、電気や水道も通っていません。
 全体的に道が細く、障害物が多い場所です。
 (余談ですが、元の住民はヒノマル陸軍の建設した団地に引っ越してします。場所が離れているので影響が出ることはありません)

 敵チームは守護使役スキルの『ていさつ』や透視、飛行メンバーの目視などでこちらの位置を把握しながら展開してくるでしょう。
 前回の市街想定戦闘では回り込みや挟み撃ち、建物内や上からの襲撃が行なわれました。戦闘場所を定めて待っていたことが原因だったので、村中を動き回って戦えばこのリスクは回避できるでしょう。

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・補足ルール1
 EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
 ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所を一つだけ』EXプレイングに書いて送ってください。
 対象は『現在判明しているが制圧できていない拠点』か『まだ見つけていない捜索中の拠点』となります。捜索中の拠点を指定した場合、発見し次第攻撃可能となります。
 『3票以上』ある対象を票が多い順に中恭介が採用していきます。
 票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
 投票は本戦争期間中ずっと有効です。
 また、対象拠点はシナリオの成果に応じて発見できることがあります。

・補足ルール2
 ヒノマル陸軍に所属する主要覚者の能力は殆どが未解明です。
 しかし戦闘の中で能力を探り出すことで今後の依頼にその情報を反映することができます。

・補足ルール3
 性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
 ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
 協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。

※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
 ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。

・FH協定
 ファイヴとヒノマル陸軍の間に交わされた戦争上の協定です。
 戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
 兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
 双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいます。
 双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
 またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
 こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
 互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意しています。
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状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年12月01日

■メイン参加者 6人■

『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)

●丹波山統合研究所
 雑草のはえた民家の庭を歩き、周囲に警戒の目を走らせる『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)。
 現在、ファイヴとヒノマル陸軍は戦争中である。
 住民のいない住宅街というのは確かに戦争めいてはいたが、燐花が想像する戦争像とは大きな隔たりを感じていた。
 学校の授業で見せられた『戦争とは』という教材ビデオは、大音量で脅かすような爆発や全ての民家が薙ぎ払われた灰色の町や、腕や足を失って道ばたに座り込む人や、民間の子供や女性を遊び感覚で殺す兵士のイメージ映像でできていた。
 ちなみに全て事実らしい。自分の目で見たわけではないが、教科書にあるほどなので確かに事実なのだろう。
 が、今やっている行為がどうしてもそれに結びつかない。スポーツ大会でもしている気分だ。チェスや将棋やテニスやサッカーで支配地域を決める子供向けアニメのような……。
「戦争とはそういうものなのでしょうか。まるで陣取り合戦ですね」
「ま、互いに有利な土地を取り合っての前哨戦は戦争の常だし、重要拠点の制圧も大事だからねえ。これも立派な戦争だよ。むしろ……」
 『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)はスッと目を細めた。
 戦争はいわば、大局的な陣取り合戦だ。
 土地や時間や人種や権利や、あらゆるものを取り合う戦いである。今は高度化かつ先鋭化しすぎて、暴力すら使わない戦争が起き始めているほどだ。戦争協定を適用できない政治戦争の悲惨さは凄まじいものだが、それを燐花に伝えるような恭司ではない。
 誰か話題をそらしてくれないかと振り返ると『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が何かを察して話し始めた。
「ヒノマル陸軍。覚者と妖からの開放といえば聞こえはいいが、それ以上前から準備していたのならあくまでそれは建前にすぎない。しかしこの環境は、開発者にとっては絶好の機会でもあるということですね」
 改めて周りを見てみる。
 山や森に囲まれた丹波の住宅地を買い取り訓練施設化したというこの仮想街は、ファイヴの面々にとってもさほど目新しいものではなかった。
 土地勘があるというわけではないが、住宅の並びや道の構造が一般的なため予想がそれほど難しくないのである。一度『ていさつ』で周囲を確認してしまえば、道に迷うようなことはまずないだろう。
 周囲の索敵をしていた『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が小さく頷いた。
「『大体の地形は覚えました。地図と照らし合わせればよろしいのでしょうか?』」
「んっ」
 『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)は誡女と千陽が地図に鉛筆で書き込みを入れたものを受け取るとそれらを重ね合わせ、仲間に送受心を介して大体のイメージを伝達した。
「元の地図から大きく変わってる部分はそれだけ壊れた部分。つまりよく使う部分のはず。そういう場所に近づいたら警戒を強めてね」
「しかし一口に警戒つってもな……」
 『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は刀に手をかけながら、周囲や空に視線を巡らせる。
「オレの超視力と超直観は見落としを防げるって意味で有効だが、『危険予知』とか『第六感』でないと決定的な警戒にはならんぜ。こっちも必死に探すが、相手も必死に隠すからな。動物狩りとはワケが違う。というわけで……ここは兵法だ」
 懐良は敵の動き方を、相手の側から考えてみた。
「最初の基準は責めてくるか待ち伏せるかだが、時間をかければオレたちが地理を把握しはじめて差が縮まっていく。早めに主導権を握るために責めてくると考えた方がいいぞ」
「ではこちらは……」
「固まって、対応力で勝負するしかない」
 以前は戦いやすい場所に留まって不利になったので、今回は民家の間や小道を常に移動することでそれを回避している。
 だが相手も相手で『ていさつ』や透視を行なっているので、こちらの位置は確実に掴んでいるはずだ。
「みなさん」
 誡女がかすれ声を張った。
「前方、来ます!」

●開発部隊
 住宅街の間を通る大きな道路。その左右から同時に飛び出してきたのはアルファとデルタ。前衛タイプのアタッカーとディフェンダーである。
 知らずのその場所を通れば挟み撃ちを受けるが、ファイヴ側も敵影を察知したと判断して自ら仕掛けてきたのだ。
「対抗します!」
 誡女は義腕を武装化。ガントレットに炎を漲らせて突っ込んでくるアルファに対し、自らも拳を叩き付けて対抗した。
 が、攻撃のためのパンチではない。
「弱体ミスト噴射」
 腕の両サイドが開き、噴射機が露出。術式性の弱体ミストが展開した。
 アルファたちを霧が、誡女を炎が覆っていく。
 一方で、全身を分厚い鉄板群で覆ったデルタへ飛び込みからの回し蹴りを放つ悠乃。
 装甲をつけたショットガントレットでそれをガードするデルタ。
 もう一方の腕を突き出し、グローブ側面にあるボタンを押し込む。
 至近距離で散弾が発射されるが、悠乃は相手のガードを足でひっかけるようにして回り込み回避する。
「試験中に見たタイプとだいぶ違うね」
 デルタの霊子強化服丙型は全身を大量の鉄板で覆った装甲服だ。勿論ただの鉄板ではないようで、衝撃吸収をはじめとする様々な防御処置がなされていると見た。
 同様の装甲を施したディフェンダー仕様のショットガントレットも相まって、ちょっとしたロボットアニメのメカのようだった。
「さぞかし動きづらいだろうに……ハッ!」
 悠乃の脳裏に、なんか知ってる少女が思い浮かんだ。犬っぽい雰囲気といい……。
「って、それどころじゃないか!」
 地面に着弾する特殊魔法弾。術式が込められたらしい弾から雷獣の電撃が走り、悠乃は高速ロンダートで飛び退いた。
 そんな彼女の横を抜けて走る懐良。
「オレの狙いはまず二人! ツンツンガンマちゃんとクールなイプシロンちゃん。でもって先に攻略するのは、クールちゃん!」
 中衛のイプシロンへと一直線に走る懐良である。
 対して、FN-P90に似た火器を持ったイプシロンがオプションされているグレネードランチャー(平たく言うと爆弾をポンッて飛ばすための筒。要するに爆弾が飛ぶ)を上空に向けて発射した。
「クールなくせにガードががら空きだぜ!」
 斬撃を叩き込む。強化服から厚めの霊力シールドを展開するイプシロンだが、あまり物理防御に強くはないようだ。
 遅れて自分に着弾した弾から回復術式が展開。切り裂いた部分が治癒していく。
「粘るつもりかな? けど、押し切らせて貰う!」
 一方では、千陽がベータと渡り合っていた。
 屈強な身体から放たれるボディーブローに吹き飛ばされ、ブロック塀を破壊して転がる千陽。
 追撃にと飛びかかってきたベータをさらに転がることで回避。
 エネルギーを弾に仕込んだ銃をイプシロンめがけて発射した。
 直後、蹴りの直撃をくらって民家の窓を破壊。畳み部屋をワンバウンドしてブラウン管式のテレビに激突。粉砕した。
「やはり、直接ぶつからなければわからないものもありますね……」
 口から流れる血をぬぐい、千陽は立ち上がった。

「相手に優秀な回復持ちがいます。敵全体薄く攻撃しても後れを取るでしょう」
「だねえ。じゃあ、作戦通りにやってみようか」
 恭司は術式回路の書かれたカードを投擲。イプシロンを中心に激しい電撃が走り、燐花は追撃のために飛びかかろう――としたその時。
 恭司はサッと振り向いた。
「燐ちゃん、後ろだ!」
「――!?」
 恭司の後ろの民家。その二階の窓が開かれ、ガンマが飛び出してきたのだ。
 翼を広げ非常状態にシフト。YGグレネードを発射。
 対する燐花はスローモーションの世界の中で身体を捻ってめいっぱいに反転。地面を全力で蹴りつけると、恭司の前に出て術式弾を切断した。
 眼前で開いた術式は水龍牙。水の爆発が燐花を吹き飛ばしたが、電柱に足をつけることで強制着地。ガンマへと飛びかかるが、すぐに相手は空中へ移動。屋根を伝うようにして相手の後衛位置へと滑り込んだ。
「危ない、ところでしたね」
 髪からしたたる水を払い、燐花は振り返った。

●霊子強化服バリエーション
「ふうん、なるほどね……」
 悠乃と誡女はそれぞれ協力して開発部隊の装備を見極めることにつとめていた。
 特に悠乃は霊子強化服の試験に参加した際にいくつか動作について意見した身である。それが『くっきり反映されている』ことに、少しばかり驚いた。
 着目したのは霊子強化服の乙型だ。
 甲型は試験に使用した服と大体同じもので、強いて言うならシルエットやカラーリングにやや違いがある程度である。しかし乙型は大胆に方や膝、胸などの装甲パーツをオミットし、伸縮性の高い生地で全身を覆っている。手足や首に走っている光のラインは霊力の伝達を促すためのものだろうが、あの生地やつくりのおかげでガンマやゼータたちはかなり俊敏に動き回っているように見えた。
 まがりなりにも敵対している組織の意見を思い切り反映するあたり、あの博士らしいとは言えるのだが……。
「『乙型は特殊防御を残して肉体の動きやすさを強化していますね。以前注目した自然治癒力の増加に焦点をあてたものでしょう。一方で……』」
「丙型の思い切りのよさったらない、ですね」
 防御を落として自然治癒を上げた乙型に対して、丙型は防御も自然治癒も上げた結果そのほか全部をぶん投げるというとち狂った防具だ。
 通りであの子を連想したわけである。
 アルファとベータが連携したパンチを繰り出してくる。
 悠乃はそれをギリギリでしのぎつつ大きくバックステップ。
 誡女が入れ替わるように前へ出て、二人のパンチを義腕で受け止めた。
「『そちらの方向で、完成させましたか』」
 完成形のショットガントレットは『射撃属性と格闘属性両方を持った射撃武器』である。ノックバック性能は特に必要としなかったらしい。
 なみにディフェンダー仕様は見ての通り『遠距離攻撃可能な盾』だ。
「『警戒すべきは、それが一般の兵士に配備された時の脅威……ですね』」
 開発部隊並の覚者がそう大量にいるとは思えないが、低レベルの兵士が装甲マシマシで主将の盾になったりすれば驚異的だし、取り回しやすい武器が配られているというだけでも厄介だ。
 個体火力よりも取り回しやすさこそが強みになるのだ。
「『これ以上の発展を止めると言う意味でも、この戦いの価値は高まりますね』」

 さて、一旦戦術の話をしよう。
 中衛のイプシロンへの集中攻撃を優先した懐良たちは、イプシロンとガンマによる回復抵抗と体力低下時によるデルタの味方ガードに手こずっていた。
 まず悠乃、誡女、燐花の三人で敵前衛のブロックに対抗する。
 次に味方ガードに入ったデルタを千陽が大震のノックバックで押しのけようと試みるのだが、デルタもデルタでずっしりと構えて吹き飛ばしをこらえることも多かった。
 仮に突破できたとしても直接攻撃できるのが懐良だけなので、かなり効率の悪い戦い方ということになるだろう。
 このままだとあんまりなので、好意的にシミュレートしてみる。
 千陽が集中大震で敵前衛を一斉に崩しブロックを突破し集中攻撃をはかる……としても燐花や誡女の反応速度が速いので必ず千陽から先に飛び込むというのは難しかった。待機で手番を最後にして殴り込むとしても、イプシロンが後衛の二人と隊列を入れ替えることで大幅に軽減できてしまうのであまり現実的ではない。
 ちなみに恭司を先程からブロックや攻撃の役目にカウントしていないのは、アルファ・ベータ・ゼータの猛攻を誡女たちが受ける間、それをリカバリーするために必要となっているからである。
「もしかしたら、前衛から順番に倒していくって方が確実だったかなあ……今更だけど」
 恭司は癒しの霧を展開して懐良や千景を回復。
 対する相手はイプシロンとゼータを失って四人体勢になっていた。
 グレネードで前衛の回復にはげむガンマ。
 千景、懐良、燐花の三人とそれぞれぶつかり合うアルファ、ベータ、デルタ。
「こうなったら、力押しだ!」
 懐良はガード姿勢のデルタにパンチを叩き込むと、ガントレットをショットモードに移行。二段階のアタックをかけてデルタを殴り飛ばした。
「体術から封じさせてもらいます!」
 千陽が負荷効果をもつ特殊弾を右から左へ流し打ちした。
 術式攻撃が多いアルファはともかく、体術を多く使うらしいベータには効果的だ。ついでに体術で防御力を上げていたデルタにもちょっと効果的だった。
 すっくと起き上がるデルタ――に、燐花が高速で詰め寄った。
「倒れる前に、私にできる限りのことを……!」
 走りながら更に加速。加速しながら空間を跳躍。跳躍しながら意識をも省略させ、デルタの側面を弾丸のように抜けていった。
 がくりと膝をつく燐花。
 一方のデルタもがくりと膝を突き、アルファたちに合図を送った。
 頷き、信号弾を空に放つアルファ。
 予め設定した、降伏の合図である。
「燐ちゃん……!」
 ぐったりと倒れた燐花を抱え起こす恭司。
「燐ちゃん、無理しすぎだよ。いくらなんでもこんな突っ込み方は……」
「いいんです」
 曇りの無い目で、燐花は恭司の目を見つめた。
「駒の心配は、全てが終わってからですよ」
「――!」
 この瞬間、恭司が燐花になにをしたのかについて、語る筆をもたない。

●博士と博士
「さあ美少女たち。ハグしようハグ」
「え、いやですけど」
「ここはするノリでしょ!?」
 懐良がデルタたちに引かれている間、恭司は燐花の手当てをしていた。
 黙々と彼女に薬を塗り、包帯を巻いている。燐花も黙ってされるがままになっていた。
 一方で、千景は誡女たちについていた。
 誡女がハラスエ博士とゴウハラ博士と話すことがあるというからである。
「『ところで博士、不躾ですが……お二人がここにいるということは、戦死の可能性を考慮されているのですか?』」
「ん……?」
 横で聞いていた悠乃が軽く首を傾げた。
「私たちが協定を破らない限り、二人は無事なんじゃない? 非戦闘員への危害、相手が一般人に危害を加えないのとセットの約束になっているから」
「糸目お嬢さんの言うとおりだな」
「まあ、破って急に殴りかかってくれれば私は次の共同開発で特許をとる」
「破るなよ。絶対に破るなよ!?」
「やぶりませんよ」
 なにやらごちゃごちゃやっている博士たち。
 誡女は口元に手を当てて、考えを深めた。
 博士たちを失うことはヒノマル陸軍の大きな損失だが、決定的損失ではない。
 ではファイブは? 例えば神具庫に入っている(地味に希少な)専門技術者たちが奪われれば損失だが、決定的な損失にはなりえない。アタリが死んだら? 翌日にでも次の担当がやってくるだけだ。それに関しては御崎も同じことである。
 仮にファイヴが降伏するレベルの事態があるとしたら……全ての夢見を拘束・監禁され、AAAがトップの消失などにより完全に壊滅し、五輪大学が物理的かつ法的に解体され覚者たちがよりどころを失うことでようやくファイヴの運営権を遠回しに奪うことができるので、形式上ヒノマル陸軍が勝利することになる。
 だからといって急に参加に加わる覚者はいないだろうから……。
「もしや、世界大戦が起きた後に参戦することを予測しているのでは……」

 アルファが、燐花と恭司の前で立ち止まった。
 ヘルメットを脱ぎ、頭を下げるアルファ。
「お疲れ様です」
「やあ……どうも」
 動きづらい燐花に変わって対応する恭司に、アルファは旧式のタブレット型データ端末を差し出した。
 データには地図が表示されている。
「佐渡島にタザブロウ閣下の守護する兵器工場があります。我々が敗北した場合このデータをを渡すように言われました」
「……」
 地図だけではなく、戦力に関するデータが添付されている。
 第三覚醒隊とタザブロウのもつ小豆衆の軍勢による大人数チームだ。
「敵である立場でこう述べるのは不謹慎ですが、あえて……ご武運を」
「……ありがと」
 恭司は彼の出した手を握った。

 ――拠点『丹波山統合研究所』の制圧に成功しました!
 ――新しい敵拠点『佐渡島兵器工場』を発見しました!

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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