《真なる狩人》復讐に燃える兄弟
●『古妖狩人』の本拠地
古妖を狩る憤怒者組織、『古妖狩人』。
『F.i.V.E.』覚者メンバーの戦いと、未知の因子を持つ『安土八起』の能力により、その本拠地を特定できた。
場所は滋賀県近江八幡。琵琶湖湖畔近くにある工場群。
憤怒者に捕らわれている古妖を開放し、彼らの活動を完全に抑え込むのだ。
その工場のうちの一つ。
古妖を捕まえることができず、AAAに捕らえられたはずの兄弟。彼らは護送の最中、『古妖狩人』の構成員の手によって、脱走に成功していた。
「これだけ鍛えても……」
「覚者には歯が立たんと言うのか……」
悔しがるその兄弟の名は、室谷兄弟。タンクトップを着ており、兄、克司は赤いズボン。弟、高司は緑のズボンを履いているのが特徴的だ。
そして、タンクトップの下には、これでもかと鍛え上げられた筋肉。これならば、覚者に劣らないと彼らは考えていたのだ。
しかし、室谷兄弟は、覚者に敗北してしまう。本部からの依頼を果たすこともできず、こうしておめおめと戻ってきていた。
「おい」
「そう、お前だ」
工場の職員に、兄弟は声を掛ける。そして、彼らは驚くべき言葉を口にした。
「俺達の身体を……」
「実験に使うといい……」
復讐に燃える室谷兄弟。彼らを止めることは、もはや誰にもできなかった。
●敵陣へ乗り込む為に
ついに、『古妖狩人』の本拠地が判明した。
その情報を得た覚者達は、早速、『F.i.V.E.』の会議室へと足を運ぶ。
「おう、よく来たな。ようやく、古妖狩人の本拠地を絞り込んだぜ!」
久方 相馬(nCL2000004)はやってきた覚者に破顔しつつも、すぐに神妙な顔つきで説明を始める。
滋賀県近江八幡。琵琶湖の付近にある工場群。そこを、憤怒者組織『古妖狩人』のメンバー達は根城としていることがわかった。
これは、近くにいる古妖の有無の判別ができるスキルによるところが大きい。とある覚者達の活躍によってある程度絞った『古妖狩人』の本拠地候補から、そのスキルを使うことで特定できたのだ。
「皆には、その工場の一つに向かってほしいんだ」
そこには、以前、古妖を狙っていた室谷兄弟という憤怒者が潜んでいるという。
この兄弟は覚者達によって、AAAに引き渡されたはずだったのだが……。
「護送中に、『古妖狩人』の組織員による襲撃があったんだ。そのほとんどは取り押さえたみたいだが、この兄弟だけは見つからなかったんだ」
元々本拠地を知っていた室谷兄弟はそこへ直接向かい、力を得た後で覚者に対してリベンジをと考えているようなのだ。
「自分達の体を実験に捧げるくらいだ。なりふり構わず襲ってくるだろうぜ」
また、同じく実験によって身体を改造された男達が8人、室谷兄弟と一緒に現れる。彼らもまた憤怒者であり、実験にその身を捧げ、覚者に深い恨みを持っているようだ。
「つっても、身体に似合わぬ強すぎる力を得た代償は大きかったようだな。その力を使うたびに、そいつらの身体は悲鳴を上げてしまうようだ」
だが、彼らの得た力は覚者を脅かすレベルに達している。油断なきよう、戦いに臨みたい。
「以上だ。皆の無事を願っているぜ!」
相馬はそうして、覚者達を戦地へと送り出すのだった。
古妖を狩る憤怒者組織、『古妖狩人』。
『F.i.V.E.』覚者メンバーの戦いと、未知の因子を持つ『安土八起』の能力により、その本拠地を特定できた。
場所は滋賀県近江八幡。琵琶湖湖畔近くにある工場群。
憤怒者に捕らわれている古妖を開放し、彼らの活動を完全に抑え込むのだ。
その工場のうちの一つ。
古妖を捕まえることができず、AAAに捕らえられたはずの兄弟。彼らは護送の最中、『古妖狩人』の構成員の手によって、脱走に成功していた。
「これだけ鍛えても……」
「覚者には歯が立たんと言うのか……」
悔しがるその兄弟の名は、室谷兄弟。タンクトップを着ており、兄、克司は赤いズボン。弟、高司は緑のズボンを履いているのが特徴的だ。
そして、タンクトップの下には、これでもかと鍛え上げられた筋肉。これならば、覚者に劣らないと彼らは考えていたのだ。
しかし、室谷兄弟は、覚者に敗北してしまう。本部からの依頼を果たすこともできず、こうしておめおめと戻ってきていた。
「おい」
「そう、お前だ」
工場の職員に、兄弟は声を掛ける。そして、彼らは驚くべき言葉を口にした。
「俺達の身体を……」
「実験に使うといい……」
復讐に燃える室谷兄弟。彼らを止めることは、もはや誰にもできなかった。
●敵陣へ乗り込む為に
ついに、『古妖狩人』の本拠地が判明した。
その情報を得た覚者達は、早速、『F.i.V.E.』の会議室へと足を運ぶ。
「おう、よく来たな。ようやく、古妖狩人の本拠地を絞り込んだぜ!」
久方 相馬(nCL2000004)はやってきた覚者に破顔しつつも、すぐに神妙な顔つきで説明を始める。
滋賀県近江八幡。琵琶湖の付近にある工場群。そこを、憤怒者組織『古妖狩人』のメンバー達は根城としていることがわかった。
これは、近くにいる古妖の有無の判別ができるスキルによるところが大きい。とある覚者達の活躍によってある程度絞った『古妖狩人』の本拠地候補から、そのスキルを使うことで特定できたのだ。
「皆には、その工場の一つに向かってほしいんだ」
そこには、以前、古妖を狙っていた室谷兄弟という憤怒者が潜んでいるという。
この兄弟は覚者達によって、AAAに引き渡されたはずだったのだが……。
「護送中に、『古妖狩人』の組織員による襲撃があったんだ。そのほとんどは取り押さえたみたいだが、この兄弟だけは見つからなかったんだ」
元々本拠地を知っていた室谷兄弟はそこへ直接向かい、力を得た後で覚者に対してリベンジをと考えているようなのだ。
「自分達の体を実験に捧げるくらいだ。なりふり構わず襲ってくるだろうぜ」
また、同じく実験によって身体を改造された男達が8人、室谷兄弟と一緒に現れる。彼らもまた憤怒者であり、実験にその身を捧げ、覚者に深い恨みを持っているようだ。
「つっても、身体に似合わぬ強すぎる力を得た代償は大きかったようだな。その力を使うたびに、そいつらの身体は悲鳴を上げてしまうようだ」
だが、彼らの得た力は覚者を脅かすレベルに達している。油断なきよう、戦いに臨みたい。
「以上だ。皆の無事を願っているぜ!」
相馬はそうして、覚者達を戦地へと送り出すのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者達の討伐(生死は問わない)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
『古妖狩人』の本拠地が判明しました。そこへと攻め込むわけですが、覚者に一度は敗北した憤怒者達が己の体を実験に使い、肉体を強化して襲い掛かってきます。他の戦いの邪魔をしないよう、彼らをここで抑え、倒していただくよう願います。
以下、補足です。
●敵
『古妖狩人』組織員10体。
全員、実験により身体能力が強化されています。その反面、肉体への負荷は大きく、行動の度に自身にダメージを受けることがあるようです。
○室谷兄弟……憤怒者組織『古妖狩人』の一員です。
20代半ばの兄弟。兄、克司(かつじ)は赤いズボン。弟、高司(こうじ)は緑のズボン。いずれも上半身は白いタンクトップを着ており、己の筋力を誇示し、力を振るう者達です。
実験によって、その筋肉が大きく膨れ上がり、前衛立ってナックルをつけた拳で、物理攻撃を叩き込んできます。いずれも一撃は非常に強力です。
・アッパー……物近単・痺れ、顎を狙い、敵の動きを止めます。
・ラリアット……物近列・溜め1、少し力を溜めた後、強力なラリアットを繰り出します。
・ストレート……物近単・物理攻撃プラス、出血、非常に強力な一撃を叩き付けてきます。
この2人に関しては、『【古妖狩人】暴力反対なんだゾ!』もご参照くださいませ。
・強化組織員……8名。実験によって、身体の一部を人外とした憤怒者です。
右腕を銃のように改造し、肉体も強化されております。中衛4人は散弾を、後衛4人はレーザーを放ち、室谷兄弟の援護を図るようです。
彼らもまた、覚者に深い恨みを持っており、命をも奪い取ろうと考えております。
・散弾……物遠列、散弾をバラまき、攻撃を行います。
・レーザー……特遠単貫3・後衛にまで威力が及ぶレーザー砲を使って攻撃を仕掛けてきます。
●状況
静まり返った工場内で、実験が行われております。ただ、覚者達が攻めこんできたことで研究員達は避難しており、中には敵とある『古妖狩人』組織員10体のみがおります。
なお、この工場には古妖の姿はないようです。
●NPC
覚者達の中には、河澄・静音の姿もあり、彼女も依頼のサポートをいたします。
何もなくとも皆様の邪魔にならないよう動きますが、効率的に動かしたい場合はプレイングで指示をお願いいたします。
「『古妖狩人』……。油断ならない相手のようですわね……」
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年12月21日
2015年12月21日
■メイン参加者 8人■

●工場で待ち構える憤怒者達
滋賀県近江八幡。
琵琶湖の畔近くに並ぶ工場群の前に、『F.i.V.E.』の覚者達はやってきていた。
「ついこの間、苦労してやっつけたはずなのに、また出てくるなんてしつこいんよ」
茨田・凜(CL2000438)は以前、憤怒者が古妖を狙っている事件に参加していた。そんな彼女は、敵の注意を引くことができればと考え、水着姿で参戦している。
「一つ目ちゃんをいじめてた悪いお兄さん達には、キツイお仕置きが必要みたいなんよ」
前回、重傷を負ったことに関しても、凜は密かな怒りを覚えていたようだ。
「人を超えた力を得たヒト……か、まさか逃げ出して実験体となったとは……」
その依頼には、『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)も参加していた。『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が用意していたロープで敵を縛り上げ、AAAへと突き出したのだが、室谷兄弟だけは逃げ出し、自身の体を強化したのだという。
「実験で人を超えたヒトと、覚者……。力とは何か、分からなくなるな」
生かしてしまったから、一線を越える選択をしてしまったのかと、行成は自問する。
持たざる力を得た人々。行成の自らへの問いかけに答えは出ない。
「…………」
それを聞いていた『約束』指崎 心琴(CL2001195)も思うことはあったようだが、今は口には出していない。
「脳ミソまで筋肉が行き渡って、頭がおかしくなったんだろうな。筋肉で考えるようになったら、もう人間じゃねえよ」
寺田 護(CL2001171)はそんなふうに仲間へと告げる。その上で彼は同行している静音へと、行成と共に戦闘における指示を出す。
「できる限り、皆様のお力になるよう、頑張りますわ」
「静音さん、またご一緒になったけど、よろしくなんよ」
静音が張り切って覚者達へと告げると、凜がそれに応えてくれた。他のメンバー達も頷き、目的の建物へと歩いていくのである。
目的の建物へと近づく一行。
護が守護使役、花のしのびあしの力を借りつつ先行しながら、熱感知を行って敵の位置の把握に努める。敵は息を潜め、こちらが侵入してくるのを待っているのは違いない。
敵は全員で侵入口全てを見張っているようだ。奇襲をかけるとしたら、せいぜい頭上くらいだろうが……。
敵に動きがあれば仲間にサインをと考えていた護だが、敵に動きはない。
また、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も守護使役、ペスカの力を借り、物音を立てずに敵へと近づく。
(あんなに無理をしてまで、力が欲しいのでしょうか。それほどまでに覚者を……)
物陰から敵の姿を見ていたラーラ。身体を不自然なほどに膨らませた憤怒者達は苦しそうに呼吸を行う。
他の仲間達を建物内に誘導する護、ラーラ。しかし、仲間の1人が物音を立ててしまう。
「来たな……」
「覚者……待ちわびたぞ……」
奇襲は失敗した。そう悟った覚者達は物陰から姿を現す。
タンクトップに、赤、緑のズボンという服装の室谷兄弟。彼らもやはり苦しそうな息遣いをし、覚者達に呼びかけてくる。
「覚者がお前達に、何をしたのかなんて知ない」
『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)は、最初は静かな口調で敵へと言い放つ。
「お前達が恨んで当然の事をしたのかもしれないさ。けどな、古妖はそれとは関係ねーだろ」
怒りを露わにする聖華。憤怒者達は激しく息をして聞くのみだ。
「無関係な古妖まで巻き込む、お前らの復讐、いや、悪事はこの聖華様が許さないぜ!」
叫ぶ彼女の言葉に、ぶつぶつと何かを呟く強化組織員達。それは、覚者に対する恨み言に違いない。
(体を改造して実験されることを自分で望むのは、わからない)
心琴は、七星剣で実験をされた過去を持つ。それは彼にとって、思い出したくもない、過去。
(なのに、それを自ら望むほどに、復讐を遂げたいという気迫は伝わる)
前回、兄弟の恨み節を聞いていた心琴。だが今、目の前にいる敵からは、その時とは比べ物にならない気迫を感じていた。
「だから、本気で僕も相手をしよう。お前たちの復讐を受け入れよう」
心琴は、憤怒者達の想いを受け止めようとするのだが、橡・槐(CL2000732)がそこで、彼らを鼻で笑う。
「覚者なんて狭い島国のガラパゴス相手に嫉妬マスクとか、随分と暇人なのですね」
槐はこの間、AAAの人達と訓練したことを語る。非覚者だったが、明らかに自分よりも強かったという。
「まあ貴方達みたいな勘違い者は、覚者とか関係なく底辺のままだったのでしょうが」
「なんだと……?」
爛々と目を光らせる憤怒者達。もはや彼らの怒りが止まることは無い。
始まる戦いを察し、護は仲間達が会話をしている間、仲間達をリラックスさせる空気を生み出し、仲間達の身体能力を高めた。
「ゆくぞ!」
「我らの力、思い知れ!」
憤怒者達は怒号を上げ、改造した肉体で覚者へと襲い掛かってくるのだった。
●憤怒者の怒り
憤怒者の怒りはすざましい。
「強化された力……」
「その身を持って味わえ……」
室谷兄弟の前に行成、槐が立ちはだかる。
「貴様の相手は私だ、前回負けた相手によそ見する余裕なんてないだろう?」
行成は自身を水のベールで包み、赤いズボンの兄、克司へと呼びかける。彼は兄を相手にすべく、挑発を行う。
「いいだろう、前回の恨みを晴らさせてもらう」
克司は行成の誘いに乗ってみせ、行成のアゴを狙ってアッパーを繰り出してくる。
「力で覚者に勝ちたいのですよね? 来るです、兄弟! 技なんか捨ててかかって来いです!」
槐は憤怒者達へと呼びかける。それは、覚者としての力も相まって、敵の怒りを買う。
「調子に乗るなよ、小娘……」
腕を銃にした強化組織員達はそれに怒りを覚え、彼女に向けていたようだ。
弟、高司も拳を振りかぶる。
「俺達に、上から目線で物を言うな……!」
弟はストレートパンチを槐へと叩きつける。さらに、組織員達のレーザーも彼女へと放射されていく。
だが、それは槐の思惑通り。罵倒し倒すことで自身に攻撃が集まり、彼女はひそかにほくそ笑んだ。
室谷兄弟だけではない。
「食らえ、覚者!!」
後方から、レーザー、散弾を飛ばしてくる強化組織員達。
敵の力は侮れぬものがあるが、覚者達としては、早めに敵の数を減らしたい。前に立つメンバーがそれを浴び、盾となってくれる間に、中衛、後衛に立つ覚者達が敵中衛、散弾を放つ敵を狙う。
亮平は小さな雷雲を発生させ、中衛の組織員に雷を落とす。護もそれに続いて雷を落とす。
素早く動く彼らは、立て続けに雷を浴びせかける。
「あああああ!」
「俺達は……負けられん!!」
雷を浴びてなお、彼らは叫び、銃口を突き付けてくる。
「何度でも言ってやる。僕らとお前らは持つものと持たざるものだ。その事実は覆らず、それがお前らの心に闇を落としているのもわかる」
銃弾とレーザー、怒号が飛び交う中、心琴の声はかき消されそうになってしまう。
「でも、それでも! 同じ心を持つ人間だ! 僕はお前達と分かり合いたいと思っている!」
呼びかける心琴。だが、敵は止まることはない。彼は止むを得ず、高密度の霧を発生させ、抵抗する敵の身体能力をダウンさせる。
その後ろ、水着姿で立ち回る凜。水着は術装束よりも素早く動けるメリットがある。それに、露出が多い女の子というのは、男ならば気を引いてしまうもの。
(薔薇には棘があることを、思い知らせてやるんよ)
前回は不幸にも敵の攻撃で倒れてしまった彼女。だが、今回は仲間達が盾となってくれている。流れ弾に当たらぬようにと立ち回りを気にかけながら、凜は敵陣へと霧を放ち、憤怒者の弱体を図る。
凜は時折、静音を気にかけていた。その静音は、圧縮した空気を放ち、攻撃を行っていたようである。
(こんな風に戦うのは本意ではないですが、仕方ないです……。古妖や無関係な覚者を、危険に晒すわけにはいきませんから)
動体視力をフルに活用し、さらに素早い動きの中でも体勢を崩すことなく動くラーラ。彼女は土を纏って鎧と化す。とはいえ、一見見た目はさほど変化がないようにしている辺りは、年頃の女の子ならではか。
敢えて一旦待機し、戦況を確認していたのは、聖華だ。今のところ、前線は槐、行成の2人が持たせてくれている。ならば、仲間に合わせ、中衛を落とすのが先と聖華は判断した。
「命かけてまで復讐しようって根性は認めてやるよ! でもな、俺達だって命張って戦場に出てきてるんだよ!」
当面は、散弾も槐が受け止めてくれている。その為、聖華は叫びながら散弾を撃つ敵へと仕掛け、両手に持つブレードで疾風のごとく斬りかかっていくのだった。
●その怒りをねじ伏せて
兄弟の抑えを行う前衛の2人。
攻撃力を高めた行成は、 薙刀を振るって兄弟をまとめて薙ぎ払い、あるいは、相手を瞬時に貫き、後ろの散弾を放つ組織員をも穿つ。
攻撃を与えながら、彼は徐々に室谷兄弟を引き離していく。
(来る……!)
行成は敵が力を溜めているのに気づき、攻撃の手を止めて全力で防御に回る。
「ゆくぞおおおっ!!」
先程まで怒りで猛っていた兄、克司は冷静になり、溜めた力と共に両手を広げて叩き付けてくる。行成へと幾度も剛腕を叩きつけた。
上手く室谷兄弟を分断こそできてはいたが、槐にもその攻撃は届いてしまっていた。
槐も弟の攻撃を抑えながら、立ち回っていた。『人は城、人は石垣、人は盾』。彼女はそう考え、射撃は抑えている弟で射線を遮られればと考えたのだが。さすがに射撃の全てをそうして防ぐことは叶わない。
そこに来て、兄が繰り出したラリアット。槐は対処すべき全力防御が間に合わず。
「…………っ」
剛腕を叩き付けられた槐は、命の力に縋って意識を繋ぎ止める。
決して、凜、静音のサポートが疎かだったわけではない。凜が前衛で兄弟を抑える2人を水のベールで包み、2人で神秘の力を豊富に含んだ滴を与えていた。しかし、なりふり構わぬ憤怒者の力はそれほどまでに強大だったのだ。
それを見た聖華も、敵前衛の前へと向かう。そこで彼女は、光り輝く敵の銃弾が死角から飛んでくるのを、見事に避けて見せる。
「やるじゃねーか、悪党にしてはよ!」
聖華は叫びかけつつ、弟の抑えに入るのだった。
強化組織員達は覚者達の攻撃に加え、力を放つ反動で苦しみを味わう。
そんな彼らへ、心琴が落とした電撃。痺れるような一撃を浴びた組織員が煙を吐いて倒れる。
中衛全員の戦闘不能を確認したラーラは、後ろへと下がった。その上で、体内に宿る炎を活性化させ……。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラはすぐさま、後ろの組織員へと雷を落としたのだった。
同じく、亮平も雷雲を呼びつつも、敵の状態を注視する。
兄弟は異様に膨れ上がった腕に、組織員達も銃に改造された片腕に痛みを覚えている。相当な負荷がかかっているのだろう。
「腕だ、腕を狙うんだ」
亮平が仲間達へと呼びかけると、メンバーは早期決着の為に、さらなる攻撃を浴びせかけていく。
護も雷雲を呼び、敵の頭上から雷を叩き落とす。弱っていた後衛の組織員がばたりと倒れた。
「ゲス野郎はいっぺん死んどけと思うぜ」
さらに仕掛けようとする護。しかし、それを心琴が止める。
「こいつらは強くなりたかっただけだ」
復讐とかそういうのを連鎖させても意味なんかない。そんな心琴の言葉に護はそうかと一言告げ、室谷兄弟の相手へと向かうのである。
前列メンバーはサポートを受けてはいたものの、抑えようとしている兄弟の攻撃は脅威だ。
行成は苦しみながらもなんとか耐え、兄の体を貫く。
一方、槐は兄弟を引き離した上でさらに弟を抑えながらも、仲間へと気力を分け与える。
そこで聖華が弟の懐へと潜り込み、ブレードで刻む。やや呻きながらも、弟が彼女に向けてアッパーを繰り出すと、彼女は身体に痺れを覚えてなお、攻撃を仕掛けていく。
程なく、後ろから兄弟に向け、攻撃が飛び始めた。強化組織員が全て倒れたことで、仲間達が兄弟の鎮圧へと回ってきたのである。
それには、室谷兄弟も気づいていたようで。
「己の体を犠牲にしてまで……ふがいない」
「かくなる上は我々だけでも……」
兄弟は己の強化した肉体を武器に、アッパー、ストレートと繰り出してくる。
それを受ける護は、兄弟の技を覚えることができないかと考えたが。強化された身体を武器とする彼らの技は、あまりにクセがあり過ぎた。
護は攻めも疎かにはしていない。召雷を兄弟へと撃ちこみつつ、効率よく行動できたタイミングで、メディックとして立ち回る凜や静音の気力を補填していた。
ラーラも他の仲間と同様、雷を落とし続けることで、室谷兄弟の残り少ない体力を削り取る。アタッカーとなる彼女には、心琴が気力の回復を行っていた。心琴は中衛という立ち位置を生かし、仲間のサポートを行っていたようだ。
凜も回復に必死だ。流れ弾が飛んでくる可能性が減ったことで、彼女は少し気を楽にしつつ、静音と共に前衛メンバーの回復に当たる。これ以上、仲間を傷つけさせしない。そんな気概と共に。
回復がなんとか追いつく状況になったものの、後は消耗戦だ。亮平もこれ以上戦いは長引かせられないと、ハンドガンを使って敵を狙い撃つ。
「はぁ……はぁ……」
銃弾を浴びた弟、高司。もはや息も絶え絶えと言った状態だ。
身体から煙を上げる弟へ、聖華が体勢を低くして近づく。
「お前らの力が上がったとしても、俺らは負けないぜ。なんてったって、俺らは正義の味方だからな!」
「くっ……」
彼女が両手のブレードを十字に振るうと、弟、高司が白目を剥き、がっくりと崩れ去った。
「おのれ、よくも……」
兄、克司が身を震わせ、力を溜める。彼もまた、肉体の限界が近いようにも見える。
行成は敵が自滅するかもしれないと考え、敵に向けて癒しの滴を落とす。
「な……」
溜めていた力を思わず解放してしまう克司に、槐が仕掛けた。
「『強ければ負けない』などと、世迷い言に沈むがよいです。怒ってすらいない敗北主義者ども」
槐は貫通力のある波動弾を飛ばす。
「が……あっ……」
それに貫かれ、克司は前のめりに崩れたのだった。
●力とは何なのか
憤怒者達を無力化し、取り押さえた覚者達。
被害は決して軽微ではないが、傷が深い者もいない。作戦は功を奏したと言えそうだ。
聖華、護は逃げたという研究員の姿を探す。熱感知も駆使して捜索したが、残念ながら、建物内にはその姿は確認できない。
彼らはラーラと合流し、工場内の捜索を行う。室谷兄弟や、強化組織員の肉体を改造した実験に使われた物がこの建物内にあるはずだと彼らは踏んだのだ。
これについては、ほとんど研究員が持ち去っていた。だが、薬品のボトルやチューブ、大掛かりな実験施設まではさすがに持っていけなかったのだろう。それらについても、メンバー達はできる限り持ち帰ることにしていた。
「証拠隠滅されてなきゃいいがな」
フォーマットされていたり、ウイルスがバラ撒かれたりする可能性もある。聖華や護はそれらを吟味することなく、本部に預けて調べてもらうことにする。
一方、前回同様、亮平の用意したロープで憤怒者達を捕縛していた。
「殺すことは痛いし、怖いし、嫌なことだ」
心琴は彼らに対し、医療知識を使って治療を行う。
「僕は医者になる。だから、敵でもそこに怪我人がいたら、治すだけだ」
その行為に、憤怒者達は戸惑いを見せる。それでも、身体の痛みが治まらず、苦しむ者もいたが……。
「何故助ける」
「殺せ、慈悲などいらぬ」
口を揃える室谷兄弟に、亮平が告げる。
「力を奪って散々暴れて、上手く行かないからと命の放り投げるのは身勝手過ぎるだろう」
それに、兄弟は身体に走る苦痛に耐え、恨み言を吐いてくるが、亮平はその一言一言を聞き流すことなく心に留める。
「何を言っても、『覚者のくせに』という括りを使って抗弁するような人に、言われたくない」
彼らはその一言で黙り込んだが、視線だけは抵抗を続けていたようだ。
「なら、気が済むよう、殴れ」
行成の言葉に、その場にいる全員が驚く。しかも、彼は覚醒を解いてしまったのだ。
兄、克司が代表となり、一度拘束を解いてもらった後、全力でストレートパンチを繰り出す。
それを受け、もんどりうった行成。彼とて、戦闘でかなりの傷を負っていた。その上での一撃とあらば、さすがに倒れてしまいかねない。
だが、彼は命の力を借り、立ち上がった後で憤怒者達へと問う。
「容易に倒せる脅威の力、だが……本当にそんな力で満足か?」
憤怒者達が一斉に黙る。彼らの求める力とは、一体何なのか。覚者を倒す為の力なのか。それとも……。
「『力を持てば、必ず、そいつは持たないものを蔑む』。そう言った貴様達自身だ。私達も、所詮ヒトでしかない」
敵視する目だけは消えていないものの、その一言は、ようやく、彼らへと届く。
(嫌いになりきれない……。放っておけない気分になるのは何故だろうな)
彼らが力について考えるきっかけになるのなら。行成はそう願ってやまないのだった。
滋賀県近江八幡。
琵琶湖の畔近くに並ぶ工場群の前に、『F.i.V.E.』の覚者達はやってきていた。
「ついこの間、苦労してやっつけたはずなのに、また出てくるなんてしつこいんよ」
茨田・凜(CL2000438)は以前、憤怒者が古妖を狙っている事件に参加していた。そんな彼女は、敵の注意を引くことができればと考え、水着姿で参戦している。
「一つ目ちゃんをいじめてた悪いお兄さん達には、キツイお仕置きが必要みたいなんよ」
前回、重傷を負ったことに関しても、凜は密かな怒りを覚えていたようだ。
「人を超えた力を得たヒト……か、まさか逃げ出して実験体となったとは……」
その依頼には、『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)も参加していた。『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が用意していたロープで敵を縛り上げ、AAAへと突き出したのだが、室谷兄弟だけは逃げ出し、自身の体を強化したのだという。
「実験で人を超えたヒトと、覚者……。力とは何か、分からなくなるな」
生かしてしまったから、一線を越える選択をしてしまったのかと、行成は自問する。
持たざる力を得た人々。行成の自らへの問いかけに答えは出ない。
「…………」
それを聞いていた『約束』指崎 心琴(CL2001195)も思うことはあったようだが、今は口には出していない。
「脳ミソまで筋肉が行き渡って、頭がおかしくなったんだろうな。筋肉で考えるようになったら、もう人間じゃねえよ」
寺田 護(CL2001171)はそんなふうに仲間へと告げる。その上で彼は同行している静音へと、行成と共に戦闘における指示を出す。
「できる限り、皆様のお力になるよう、頑張りますわ」
「静音さん、またご一緒になったけど、よろしくなんよ」
静音が張り切って覚者達へと告げると、凜がそれに応えてくれた。他のメンバー達も頷き、目的の建物へと歩いていくのである。
目的の建物へと近づく一行。
護が守護使役、花のしのびあしの力を借りつつ先行しながら、熱感知を行って敵の位置の把握に努める。敵は息を潜め、こちらが侵入してくるのを待っているのは違いない。
敵は全員で侵入口全てを見張っているようだ。奇襲をかけるとしたら、せいぜい頭上くらいだろうが……。
敵に動きがあれば仲間にサインをと考えていた護だが、敵に動きはない。
また、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も守護使役、ペスカの力を借り、物音を立てずに敵へと近づく。
(あんなに無理をしてまで、力が欲しいのでしょうか。それほどまでに覚者を……)
物陰から敵の姿を見ていたラーラ。身体を不自然なほどに膨らませた憤怒者達は苦しそうに呼吸を行う。
他の仲間達を建物内に誘導する護、ラーラ。しかし、仲間の1人が物音を立ててしまう。
「来たな……」
「覚者……待ちわびたぞ……」
奇襲は失敗した。そう悟った覚者達は物陰から姿を現す。
タンクトップに、赤、緑のズボンという服装の室谷兄弟。彼らもやはり苦しそうな息遣いをし、覚者達に呼びかけてくる。
「覚者がお前達に、何をしたのかなんて知ない」
『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)は、最初は静かな口調で敵へと言い放つ。
「お前達が恨んで当然の事をしたのかもしれないさ。けどな、古妖はそれとは関係ねーだろ」
怒りを露わにする聖華。憤怒者達は激しく息をして聞くのみだ。
「無関係な古妖まで巻き込む、お前らの復讐、いや、悪事はこの聖華様が許さないぜ!」
叫ぶ彼女の言葉に、ぶつぶつと何かを呟く強化組織員達。それは、覚者に対する恨み言に違いない。
(体を改造して実験されることを自分で望むのは、わからない)
心琴は、七星剣で実験をされた過去を持つ。それは彼にとって、思い出したくもない、過去。
(なのに、それを自ら望むほどに、復讐を遂げたいという気迫は伝わる)
前回、兄弟の恨み節を聞いていた心琴。だが今、目の前にいる敵からは、その時とは比べ物にならない気迫を感じていた。
「だから、本気で僕も相手をしよう。お前たちの復讐を受け入れよう」
心琴は、憤怒者達の想いを受け止めようとするのだが、橡・槐(CL2000732)がそこで、彼らを鼻で笑う。
「覚者なんて狭い島国のガラパゴス相手に嫉妬マスクとか、随分と暇人なのですね」
槐はこの間、AAAの人達と訓練したことを語る。非覚者だったが、明らかに自分よりも強かったという。
「まあ貴方達みたいな勘違い者は、覚者とか関係なく底辺のままだったのでしょうが」
「なんだと……?」
爛々と目を光らせる憤怒者達。もはや彼らの怒りが止まることは無い。
始まる戦いを察し、護は仲間達が会話をしている間、仲間達をリラックスさせる空気を生み出し、仲間達の身体能力を高めた。
「ゆくぞ!」
「我らの力、思い知れ!」
憤怒者達は怒号を上げ、改造した肉体で覚者へと襲い掛かってくるのだった。
●憤怒者の怒り
憤怒者の怒りはすざましい。
「強化された力……」
「その身を持って味わえ……」
室谷兄弟の前に行成、槐が立ちはだかる。
「貴様の相手は私だ、前回負けた相手によそ見する余裕なんてないだろう?」
行成は自身を水のベールで包み、赤いズボンの兄、克司へと呼びかける。彼は兄を相手にすべく、挑発を行う。
「いいだろう、前回の恨みを晴らさせてもらう」
克司は行成の誘いに乗ってみせ、行成のアゴを狙ってアッパーを繰り出してくる。
「力で覚者に勝ちたいのですよね? 来るです、兄弟! 技なんか捨ててかかって来いです!」
槐は憤怒者達へと呼びかける。それは、覚者としての力も相まって、敵の怒りを買う。
「調子に乗るなよ、小娘……」
腕を銃にした強化組織員達はそれに怒りを覚え、彼女に向けていたようだ。
弟、高司も拳を振りかぶる。
「俺達に、上から目線で物を言うな……!」
弟はストレートパンチを槐へと叩きつける。さらに、組織員達のレーザーも彼女へと放射されていく。
だが、それは槐の思惑通り。罵倒し倒すことで自身に攻撃が集まり、彼女はひそかにほくそ笑んだ。
室谷兄弟だけではない。
「食らえ、覚者!!」
後方から、レーザー、散弾を飛ばしてくる強化組織員達。
敵の力は侮れぬものがあるが、覚者達としては、早めに敵の数を減らしたい。前に立つメンバーがそれを浴び、盾となってくれる間に、中衛、後衛に立つ覚者達が敵中衛、散弾を放つ敵を狙う。
亮平は小さな雷雲を発生させ、中衛の組織員に雷を落とす。護もそれに続いて雷を落とす。
素早く動く彼らは、立て続けに雷を浴びせかける。
「あああああ!」
「俺達は……負けられん!!」
雷を浴びてなお、彼らは叫び、銃口を突き付けてくる。
「何度でも言ってやる。僕らとお前らは持つものと持たざるものだ。その事実は覆らず、それがお前らの心に闇を落としているのもわかる」
銃弾とレーザー、怒号が飛び交う中、心琴の声はかき消されそうになってしまう。
「でも、それでも! 同じ心を持つ人間だ! 僕はお前達と分かり合いたいと思っている!」
呼びかける心琴。だが、敵は止まることはない。彼は止むを得ず、高密度の霧を発生させ、抵抗する敵の身体能力をダウンさせる。
その後ろ、水着姿で立ち回る凜。水着は術装束よりも素早く動けるメリットがある。それに、露出が多い女の子というのは、男ならば気を引いてしまうもの。
(薔薇には棘があることを、思い知らせてやるんよ)
前回は不幸にも敵の攻撃で倒れてしまった彼女。だが、今回は仲間達が盾となってくれている。流れ弾に当たらぬようにと立ち回りを気にかけながら、凜は敵陣へと霧を放ち、憤怒者の弱体を図る。
凜は時折、静音を気にかけていた。その静音は、圧縮した空気を放ち、攻撃を行っていたようである。
(こんな風に戦うのは本意ではないですが、仕方ないです……。古妖や無関係な覚者を、危険に晒すわけにはいきませんから)
動体視力をフルに活用し、さらに素早い動きの中でも体勢を崩すことなく動くラーラ。彼女は土を纏って鎧と化す。とはいえ、一見見た目はさほど変化がないようにしている辺りは、年頃の女の子ならではか。
敢えて一旦待機し、戦況を確認していたのは、聖華だ。今のところ、前線は槐、行成の2人が持たせてくれている。ならば、仲間に合わせ、中衛を落とすのが先と聖華は判断した。
「命かけてまで復讐しようって根性は認めてやるよ! でもな、俺達だって命張って戦場に出てきてるんだよ!」
当面は、散弾も槐が受け止めてくれている。その為、聖華は叫びながら散弾を撃つ敵へと仕掛け、両手に持つブレードで疾風のごとく斬りかかっていくのだった。
●その怒りをねじ伏せて
兄弟の抑えを行う前衛の2人。
攻撃力を高めた行成は、 薙刀を振るって兄弟をまとめて薙ぎ払い、あるいは、相手を瞬時に貫き、後ろの散弾を放つ組織員をも穿つ。
攻撃を与えながら、彼は徐々に室谷兄弟を引き離していく。
(来る……!)
行成は敵が力を溜めているのに気づき、攻撃の手を止めて全力で防御に回る。
「ゆくぞおおおっ!!」
先程まで怒りで猛っていた兄、克司は冷静になり、溜めた力と共に両手を広げて叩き付けてくる。行成へと幾度も剛腕を叩きつけた。
上手く室谷兄弟を分断こそできてはいたが、槐にもその攻撃は届いてしまっていた。
槐も弟の攻撃を抑えながら、立ち回っていた。『人は城、人は石垣、人は盾』。彼女はそう考え、射撃は抑えている弟で射線を遮られればと考えたのだが。さすがに射撃の全てをそうして防ぐことは叶わない。
そこに来て、兄が繰り出したラリアット。槐は対処すべき全力防御が間に合わず。
「…………っ」
剛腕を叩き付けられた槐は、命の力に縋って意識を繋ぎ止める。
決して、凜、静音のサポートが疎かだったわけではない。凜が前衛で兄弟を抑える2人を水のベールで包み、2人で神秘の力を豊富に含んだ滴を与えていた。しかし、なりふり構わぬ憤怒者の力はそれほどまでに強大だったのだ。
それを見た聖華も、敵前衛の前へと向かう。そこで彼女は、光り輝く敵の銃弾が死角から飛んでくるのを、見事に避けて見せる。
「やるじゃねーか、悪党にしてはよ!」
聖華は叫びかけつつ、弟の抑えに入るのだった。
強化組織員達は覚者達の攻撃に加え、力を放つ反動で苦しみを味わう。
そんな彼らへ、心琴が落とした電撃。痺れるような一撃を浴びた組織員が煙を吐いて倒れる。
中衛全員の戦闘不能を確認したラーラは、後ろへと下がった。その上で、体内に宿る炎を活性化させ……。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラはすぐさま、後ろの組織員へと雷を落としたのだった。
同じく、亮平も雷雲を呼びつつも、敵の状態を注視する。
兄弟は異様に膨れ上がった腕に、組織員達も銃に改造された片腕に痛みを覚えている。相当な負荷がかかっているのだろう。
「腕だ、腕を狙うんだ」
亮平が仲間達へと呼びかけると、メンバーは早期決着の為に、さらなる攻撃を浴びせかけていく。
護も雷雲を呼び、敵の頭上から雷を叩き落とす。弱っていた後衛の組織員がばたりと倒れた。
「ゲス野郎はいっぺん死んどけと思うぜ」
さらに仕掛けようとする護。しかし、それを心琴が止める。
「こいつらは強くなりたかっただけだ」
復讐とかそういうのを連鎖させても意味なんかない。そんな心琴の言葉に護はそうかと一言告げ、室谷兄弟の相手へと向かうのである。
前列メンバーはサポートを受けてはいたものの、抑えようとしている兄弟の攻撃は脅威だ。
行成は苦しみながらもなんとか耐え、兄の体を貫く。
一方、槐は兄弟を引き離した上でさらに弟を抑えながらも、仲間へと気力を分け与える。
そこで聖華が弟の懐へと潜り込み、ブレードで刻む。やや呻きながらも、弟が彼女に向けてアッパーを繰り出すと、彼女は身体に痺れを覚えてなお、攻撃を仕掛けていく。
程なく、後ろから兄弟に向け、攻撃が飛び始めた。強化組織員が全て倒れたことで、仲間達が兄弟の鎮圧へと回ってきたのである。
それには、室谷兄弟も気づいていたようで。
「己の体を犠牲にしてまで……ふがいない」
「かくなる上は我々だけでも……」
兄弟は己の強化した肉体を武器に、アッパー、ストレートと繰り出してくる。
それを受ける護は、兄弟の技を覚えることができないかと考えたが。強化された身体を武器とする彼らの技は、あまりにクセがあり過ぎた。
護は攻めも疎かにはしていない。召雷を兄弟へと撃ちこみつつ、効率よく行動できたタイミングで、メディックとして立ち回る凜や静音の気力を補填していた。
ラーラも他の仲間と同様、雷を落とし続けることで、室谷兄弟の残り少ない体力を削り取る。アタッカーとなる彼女には、心琴が気力の回復を行っていた。心琴は中衛という立ち位置を生かし、仲間のサポートを行っていたようだ。
凜も回復に必死だ。流れ弾が飛んでくる可能性が減ったことで、彼女は少し気を楽にしつつ、静音と共に前衛メンバーの回復に当たる。これ以上、仲間を傷つけさせしない。そんな気概と共に。
回復がなんとか追いつく状況になったものの、後は消耗戦だ。亮平もこれ以上戦いは長引かせられないと、ハンドガンを使って敵を狙い撃つ。
「はぁ……はぁ……」
銃弾を浴びた弟、高司。もはや息も絶え絶えと言った状態だ。
身体から煙を上げる弟へ、聖華が体勢を低くして近づく。
「お前らの力が上がったとしても、俺らは負けないぜ。なんてったって、俺らは正義の味方だからな!」
「くっ……」
彼女が両手のブレードを十字に振るうと、弟、高司が白目を剥き、がっくりと崩れ去った。
「おのれ、よくも……」
兄、克司が身を震わせ、力を溜める。彼もまた、肉体の限界が近いようにも見える。
行成は敵が自滅するかもしれないと考え、敵に向けて癒しの滴を落とす。
「な……」
溜めていた力を思わず解放してしまう克司に、槐が仕掛けた。
「『強ければ負けない』などと、世迷い言に沈むがよいです。怒ってすらいない敗北主義者ども」
槐は貫通力のある波動弾を飛ばす。
「が……あっ……」
それに貫かれ、克司は前のめりに崩れたのだった。
●力とは何なのか
憤怒者達を無力化し、取り押さえた覚者達。
被害は決して軽微ではないが、傷が深い者もいない。作戦は功を奏したと言えそうだ。
聖華、護は逃げたという研究員の姿を探す。熱感知も駆使して捜索したが、残念ながら、建物内にはその姿は確認できない。
彼らはラーラと合流し、工場内の捜索を行う。室谷兄弟や、強化組織員の肉体を改造した実験に使われた物がこの建物内にあるはずだと彼らは踏んだのだ。
これについては、ほとんど研究員が持ち去っていた。だが、薬品のボトルやチューブ、大掛かりな実験施設まではさすがに持っていけなかったのだろう。それらについても、メンバー達はできる限り持ち帰ることにしていた。
「証拠隠滅されてなきゃいいがな」
フォーマットされていたり、ウイルスがバラ撒かれたりする可能性もある。聖華や護はそれらを吟味することなく、本部に預けて調べてもらうことにする。
一方、前回同様、亮平の用意したロープで憤怒者達を捕縛していた。
「殺すことは痛いし、怖いし、嫌なことだ」
心琴は彼らに対し、医療知識を使って治療を行う。
「僕は医者になる。だから、敵でもそこに怪我人がいたら、治すだけだ」
その行為に、憤怒者達は戸惑いを見せる。それでも、身体の痛みが治まらず、苦しむ者もいたが……。
「何故助ける」
「殺せ、慈悲などいらぬ」
口を揃える室谷兄弟に、亮平が告げる。
「力を奪って散々暴れて、上手く行かないからと命の放り投げるのは身勝手過ぎるだろう」
それに、兄弟は身体に走る苦痛に耐え、恨み言を吐いてくるが、亮平はその一言一言を聞き流すことなく心に留める。
「何を言っても、『覚者のくせに』という括りを使って抗弁するような人に、言われたくない」
彼らはその一言で黙り込んだが、視線だけは抵抗を続けていたようだ。
「なら、気が済むよう、殴れ」
行成の言葉に、その場にいる全員が驚く。しかも、彼は覚醒を解いてしまったのだ。
兄、克司が代表となり、一度拘束を解いてもらった後、全力でストレートパンチを繰り出す。
それを受け、もんどりうった行成。彼とて、戦闘でかなりの傷を負っていた。その上での一撃とあらば、さすがに倒れてしまいかねない。
だが、彼は命の力を借り、立ち上がった後で憤怒者達へと問う。
「容易に倒せる脅威の力、だが……本当にそんな力で満足か?」
憤怒者達が一斉に黙る。彼らの求める力とは、一体何なのか。覚者を倒す為の力なのか。それとも……。
「『力を持てば、必ず、そいつは持たないものを蔑む』。そう言った貴様達自身だ。私達も、所詮ヒトでしかない」
敵視する目だけは消えていないものの、その一言は、ようやく、彼らへと届く。
(嫌いになりきれない……。放っておけない気分になるのは何故だろうな)
彼らが力について考えるきっかけになるのなら。行成はそう願ってやまないのだった。

■あとがき■
なちゅいです。
リプレイを公開いたします。
一般人とはいえ、
一線を越えた憤怒者達は強敵でした。
かなり苦しい戦いではありましたが、
ともあれ、憤怒者の鎮圧、お疲れ様でした。
MVPは、
憤怒者達に言葉を届けるきっかけを作ったあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
リプレイを公開いたします。
一般人とはいえ、
一線を越えた憤怒者達は強敵でした。
かなり苦しい戦いではありましたが、
ともあれ、憤怒者の鎮圧、お疲れ様でした。
MVPは、
憤怒者達に言葉を届けるきっかけを作ったあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
