\遅刻だー!/
\遅刻だー!/



――やってしまった。

 あなたは思わず、己の迂闊さを呪った。
 あなたにとって、とてもとても、大事な用事を忘れてしまったのだ。

 用事とは他でもない、FiVEの依頼である。
 夢見の説明を聞くため、仲間と相談をするため、教室に集合する。
 それを忘れてしまったのだ。

 どうしよう。どうしよう。
 まさか依頼は失敗扱い?
 みんなに迷惑を? 怒られる?
 去来する不安が、あなたの胸をちくちくと刺した。

 集合時間は正午ジャスト。
 慌てて時計に目をやると、急げばギリギリ間に合う時間だ。
 さあ、どうしよう――


 同時刻、五麟学園にて。

「おかしいわね……みんな、どうしたのかしら」
 誰一人姿を見せない教室で、参河 美希(nCL2000179)は一人、所在なげに呟くのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:坂本ピエロギ
■成功条件
1.教室に辿り着く
2.なし
3.なし
ピエロギです。ちょっと変わった日常ものをお届けします。

●シチュエーション
あなたは突然、自分が今日依頼を受けるはずだったことに気づきました。
ふと時計に目をやれば、急げば何とか間に合いそうです。
さあ、「あなたは」どうしますか?

●ルール
1.
教室の集合時刻は正午とします。
上記の時間に到着できれば、「いつ」・「どこで」・「何をしていたか」は一切問いません。

2.
到着のタイミングについては、Ex欄に「ギリギリ間に合う」「遅刻」等ご指定下されば、指定に沿って処理します(到着の順番については、STの判定で前後する可能性があります)。
遅刻についてはRPの範囲内でカバーするものとし、悪名の増加処理は行われません。
ただし、出席そのものをすっぽかす、といったプレイングはご遠慮下さい。

3.
教室内にはNPCの参河 美希(nCL2000179)が待機しています。
美希との会話イベントを発生させたい場合はプレイングでご指定下さい。
ただし、美希が教室の外に出ることはありません。

●テンプレート
プレイング作成にお悩みの場合は、必要に応じて下掲のテンプレートをご利用ください。

・いつ、どんな状況で予定を思い出したか。1人か、それとも仲間と一緒か。
(集合時刻は覚えているが、不測のトラブルで遅れて……という設定も可とします)
・思い出した時のあなた、あるいは一緒にいる仲間はどんなリアクションを取るか。
・目的地の教室まで、どうやって、どんな様子で移動するか。
・到着した後、皆にどんなリアクションを取るか。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年07月03日

■メイン参加者 8人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)

●正午
「おかしいわね。皆、どうしたのかしら」
 五麟学園、考古学研究所の教室で、参河 美希(nCL2000179)は不安そうに呟いた。
 集合時刻だというのに、なぜ参加者が一人も来ないのか?
 しからば、美希に代わって理由を探るべく、今日の朝に時間を遡ってみよう。

●午前9時
 その日、『白の勇気』成瀬 翔(CL2000063)は地元のスポーツ用品店を訪れていた。
「おはようございます、成瀬です!」
「注文のシューズかな? ちょっと待っててね」
 店主が倉庫に品物を取りに行く間に、翔は陳列棚のサッカーグッズを見ていた。スポーツウェア、タオル、サッカーボール……サッカー少年の翔は、新製品のチェックを常に怠らない。
「ボールも買ってくか。新しいヤツ欲しかったしな。買い物すませたら相棒と合流して――」
 頭の中でスケジュールを組んでいると、何かが翔のボールのネットを引っ張った。
「……ん?」
 振り返ると、小さな子供がネットを掴んでいる。
 トラブルの予感がした。

 時刻は9時ジャスト。『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は、のんびりした足取りで下宿先のパン屋を出た。
(俺をただの首狩り白兎だと侮るなよ? 結構こう見えても真面目なんだからよ)
 会議には余裕を持って出席できそうだ。暑くなる前に、冷房の効いた場所で時間でも潰すか……そんな事を考えながら歩いていると、道の脇に座り込む老婆が見えた。
「どうした、婆さん?」
「ああ、すみません。実は……」
 頭を下げ下げ語る老婆の話を聞くと、腰痛で動けず難儀しているらしい。
「しゃあねぇ、病院連れてってやるよ」
 老婆を背負い、直斗は病院へ足を向けた。

 何となく、気が向いたから。
 そんな猫さながらの気侭さで、『泪月』椿 那由多(CL2001442)は街を散策していた。
「いい天気やねえ」
 按配の良い日差しに、黒い猫耳と尻尾が気持ちよさそうに動く。依頼まではまだ2時間ある、もう少し散歩を続けよう……と、その時、背後から那由多を呼び止める男の声がした。
「ねえ、少し時間いい? バイトやってくれる人を探しててさ」
「え?! うち……今日は、大事な用事が……」
「お願い、2時間でいいから! 君なら絶対人気出るよ!」
 男は、近くのメイドカフェのスカウトらしい。那由多を見て、何か光るものを見出したようだ。
「は、はい……それくらいの時間なら」
 急げば会議には間に合うだろう――軽い気持ちで、那由多は男について行った。

 朝のゲームセンターは、人が少ない。主要客の学生は、学校で忙しい時間だからだ。
 だが今日の『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)にとっては別だった。午前の授業は休みという連絡が、連絡網で回って来たのだから。
『きせきー! ゲーセン行って遊ぼーぜ!』
『昨日出た最新のやつ? いいよ、遊ぼー!』
 そんなわけでふたりは今、対戦の真っ最中だった。
「やったあ!」
「ぐぬぬ、ワンモア!」
 歓声をあげるきせきに、奏空は再挑戦を申し込む。積み上げたコインを投入し、勝負再開。
 筐体を睨みながら、ふたりはゲームに熱中した。
「よーし、勝つぞー!」
「えへへ、返り討ちに――」
 言いかけて、首を傾げるきせき。
(あれ? 今日って、何か予定あった気が……まあいいか!)
 気になる違和感をサッと掃き出し、きせきは筐体のレバーを握りしめた。

(もうすぐ10時か。ボクの相棒はどこかなっ、と)
 街の上空をふよふよと漂いながら、『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)は相棒の翔を探した。
 せっかく時間もあるし、翔をお茶にでも誘おうかな――そう思って腰の翼を泳がせていると。
「びえええ!!」
「うん……?」
 甲高い泣き声に通りの軒先を見下ろせば、ぐずる子供と、買物袋を抱えた少年――翔が見えた。
(あらら、相棒君。何やら厄介事だね)

●午前10時
 紡はカラフルな煉瓦道にふわりと降り立ち、翔の背中からそっと声をかけた。
「コンニチワ。どうしたのかな?」
「つ、紡!? 助かったー!」
 地獄に仏。そんな表情の翔の髪をクシャリと撫で、紡は子供の泣き顔を覗き込む。
「こっちのお兄ちゃんは翔。ボクは紡……キミのナニ君かな?」
 紡がとっておきのぐるぐるキャンディをそっと差し出し、ニッコリ笑う。
 すると、まるで魔法にかかったように、子供はピタリと泣き止んだ。
(ねえ翔。この子どうしたの?)
(分からねえ。買い物してたら、泣きつかれてよ)
 ご機嫌顔でキャンディをかじる子供に、翔はそっと尋ねた。
「坊主、どっから来たんだ? かーちゃん……ママはいねーのか?」
「いる」
「迷子かな? お母さんの名前は分かる?」
「ママ」
「ダメだ、要領得ねーな……よし坊主、オレの肩に跨れ」
 このままでは埒が明かない。
 翔は覚醒し、ガッシリと広い肩に子供を乗せると、街の通りを一望させた。
「どうだ、ここから叫べばかーちゃんも気付くだろ?」
「たかああい」
「この子のお母さん、いませんかー! ……紡、どうだ?」
 見上げる翔に、紡はかぶりを振る。
「近くには見当たらないね」
「仕方ねえ、手伝ってもらうか」
 翔はため息をつき、子供を見上げて言った。
「ほら、お前もママの事呼べよ。呼ばねえと……食っちまうぞおおお!」
「びええええ!! ママぁぁぁ!!」
 子供の大きな泣き声が、街の喧騒を塗りつぶした。

 老婆を病院に送り届けた直斗は、急ぎ足で学園へと向かった。
「時間くっちまったな、急がねえと……あん?」
「……ぐすっ」
 人の気配にふと目をやると、道端のベンチで少女が泣いている。
「おい、どうしたんだよ。なんで泣いてるか、お兄さんに話してみ?」
「大切なお人形さん、なくしちゃったの」
「ハァ!? ……ったく。仕方ねえ、探すの手伝ってやるよ」
 頼むからさっさと出て来いよ――直斗はそう願いながら、兎耳をわしわしとかいた。

「やられた」
 守護使役のマーシャにドツかれた鳩尾を撫でながら、緒形 譟(CL2001610)は悪態をついた。
 学園は自宅の傍、依頼にはすぐ行けると、タオルに包まり微睡んでいたのが2分前。
 そこをマーシャに叩き起こされ、ふと荷物に物色の痕跡を見つけたのが1分前だ。
 依頼の日に、狙ったように、こんな真似を仕出かす人物を譟は1人しか知らない。
「マーシャ、知ってるか? 軍隊ではさ、上官が『訓練だ』とか言ってさ、部下の荷物を隠すんだ」
「ミャー」
「でもさあ、今のオレって留学生じゃない? これってパワハラだよなー、ヒドイよなー」
「ミャー……」
「そうだよなー。お前もそう思うよなー。ははは。はははははははははははははははははは」
 譟は荷物を開けた。愛用のシャベルがない。防具もない。装身具も携帯端末もない。
「●●●●!! クソ上司乙!! よりによって依頼の当日にやりやがった!!!!」
 あらん限りの悪罵を犯人に浴びせながら、譟は家の中をバタバタとひっくり返し始めた。

「いらっしゃいませ、ご主人様っ」
 那由多はすっかり仕事に集中していた。接客好きの性分も手伝ってか、笑顔も堂に入っている。
(この服、少し丈が短い気ぃするけど……まぁ、可愛いしええかな?)
 金色の輝く瞳に、艶のある長い黒髪。愛くるしく動く猫耳と尻尾。見る者に安らぎを与える笑顔。
 こんな美少女がミニスカメイド服で接客しているのだ、客が放っておくはずがない。大入りの客に、店長も大喜びだった。
「それではご主人様、お仕事行ってらっしゃいませっ!」
 会計を済ませて店を出る客を、笑顔で見送る那由多。しかし――
「お仕事……お仕事?!」
 ハッと我に返った那由多は、へなへなとその場にしゃがみこんでしまった。
「そや、うち……今日はお仕事のある日やった……」
 こんなことをしている場合ではない。那由多はすぐさま跳ね起きて、店長に詰め寄った。
「店長さん、お願いっ。お店の自転車貸して!」
「自転車? べ、別にいいけど」
「ありがとなっ。後で事情は説明するから!」

●午前11時
 奏空の実家はうどん屋を営んでいる。
 普段は親元を離れている息子が、友達を連れて寄ったのだから、奏空の両親も大喜びだ。
「はいよ、梅乗せ冷やし豚しゃぶぶっかけうどん、お待ち!」
「ありがとう父さん! きせき、遠慮しないで食べて!」
「わーい、いただきます!」
 濃厚なかつお出汁に、梅干しの香りがツンと鼻をさす。
 ゲームに全力を注いだ奏空ときせきには何よりの御馳走だ。
「美味しそうだね! いただきまー……」
 おにぎりを腹に収め、箸に伸ばそうとしたきせきの手がふと止まる。
(待てよ? たしか正午から何かあったような……)
 きせきが恐る恐る、記憶の糸を手繰り寄せる。
 正午。学校。教室。……依頼?
「あああっ! FiVEの依頼!」
「――!! ヤバイ、急ごうきせき! 父さん、どんぶり後で返すから!」
 手付かずのうどんと箸を手に、奏空ときせきは店を駆け出した。

 大学の講義が終わり、ノートを整理している三島 椿(CL2000061)に、学友が声をかけてきた。
「三島さんお疲れー。サークル行くけど時間空いてる?」
「私? ええとね……」
 スマホをタップし、スケジュールを確認。
 涼やかな椿のアイスブルーの瞳に「依頼」の二文字が映る。
「ああっ!」
 椿の大声が講堂に響いた。うっかりしていた、今日はFiVEの……
 時計を見れば、もう時間がない。授業に集中するあまり、まったく気づかなかった。
「ど、どうしたの?」
「ごめんなさい。今日は用事があるの」
 席を立ち、椿は急ぎ足で駆け出した。

「本当にすみません。ほら、お礼を言いなさい」
「……ありがと」
「良かったね。もうママの手、離しちゃダメだよ?」
 母親と子供を笑顔で見送ると、紡はほっと一息をついた。
「お疲れ様、翔――」
「あああっ!!」
 翔の頓狂な声に、紡が面食らう。
「どうしたの突然」
「FiVEの会議あったんだ、正午から! ヤベェ、走るぞ紡!!」
 翔は紡の手を握ると、有無を言わさず駆け出した。
「ま、待って……待ってってば!」
(そっか……紡は韋駄天足使ってねーのか)
 息を切らす紡に、翔は己の迂闊さを呪う。
 スマホに目を落とせば、11時30分を回っている。歩いていては間に合わない。
「紡。こっちの道でいいんだな?」
「う、うん。まっすぐ行って、突き当たりを左」
「OK。ナビ任せたぜ」
「えっ?」
 翔はガバッと紡を抱き上げると、全力で駆け出した。
「紡! 飛ばすから掴まってろよー!!」
「ちょ、翔! 急ぐなら空飛んだ方が――」

 五麟の道路を、那由多の自転車が疾走する。
 観光客の一団を突っ切り、人力車を追い越し、バイクを追い抜き、必死に走る。
 絶対領域を死守しつつ、必死にペダルをこぐ那由多。その姿は、嫌が応にも人目についた。
「Hey,look! Japanese Kawaii!! こっち向いてくださーい!」
「ご、ごめんなさい、急いでますので……」
 完璧な日本語の外国人観光客に、つい営業スマイルで返してしまう自分が恨めしい。
(……見えてへんよな?)
 そこかしこから浴びせられる好奇の視線に、那由多の顔が羞恥に染まる。
(接客好きなんがついアダになってしもた、あぁ神さまどうか間に合うて!)
 チェーンが切れんばかりの力で、那由多はペダルをこぎ続けた。

「ちっ、流石にヤバいかもしれねェ!」
 いよいよ時間が差し迫り、直斗は小走りで道を走っていた。
 今日はつくづくツイてねぇ――そう不満げに口を歪ませるも、
(お兄ちゃん、ありがとう!!)
 人形が見つかった時の少女の笑顔を思い返し、ニッと口の端が吊り上がる。
(ま、悪ぃ気はしねぇな)
「た、助けてくれ!!」
「……は?」
「ヒャッハー! 金出せ金ェー!!」
 路地裏から傷だらけで逃げてくるサラリーマン。それを追う、隔者と思しき男。
 なんとも分かり易いシチュエーションだった。
「……おい、お前」
「あン!? 丁度いい、テメェも金をオゴォ!?」
 直斗が放つ猛の一撃は、男に最後まで話す事を許さなかった。
「人が急いでる時によぉ! 邪魔だ、どけ―!!」
 怒号に罵声、ガラスの割れる音が道端に響いた。

●午前11時50分
「す……すみません。二度としません」
「チッ。時間は……ざけんなよ畜生!!」
 アスファルトに頭をこすりつける隔者の尻を、直斗は蹴り飛ばした。
「これじゃ遅刻だー! 何でこんなに厄介事に巻き込まれるんだよ!?」
 失神した隔者に見向きもせず、直斗は全力で走り出す。
 戦いの怪我? 教室で休んで治せばいい。今はただ、走るだけだ。

「大変。急いでいかなきゃ」
 荷物をバックに放り込み、椿は急ぎ足で走っていた。
 走りやすいシューズを履いてこなかったことが、つくづく恨めしい。
(私が遅れたら、やっぱり皆に迷惑が……?)
 スカートを翻して走る椿に、すれ違う生徒がみな振り返る。
 背中に浴びる視線に気恥ずかしさを感じたが、今は遅れないことが最優先だ。
(飛んだ方が早いかしら。でも、やっぱり目立って――)
 ドン!
 考え事に気を取られ、椿は派手に転倒した。
「痛たたた……なんだか今日は本当に駄目ね」
 スカートの埃を払うと、膝がジワリと痛んだ。
 どうやら転んだ拍子にすりむいてしまったらしい。
「もう! 教室についたら治さなきゃ」
 椿は立ち上がると、再び研究所を目指して走り出した。

 集合時刻まで10分を切っている。
 譟は身支度を済ませて、アパートを飛び出した。
「もしも~オレが~忍者だったら~」
 入り組む路地裏を猛ダッシュで疾走しながら、譟は即興の鼻歌を歌った。
 クソッタレで八方塞がりの戦場では、兵士は歌うものなのだ。
「背後のBGMが~テンポアップしやがった~●●●●! Hello、デッドライン~そして●●●●!」
 突き当たりの壁が見えた。壁に沿えば300メートル、直進すれば10メートル。
 周囲に人影はない。回り道をしている余裕もない。こうなったら最後の手段だ。
「忍法、物質透過!」
 譟の体が、壁の中へと消えた。

 街中の道を全力で走りながら、奏空は教室までのルートを瞬時にシミュレートした。
(正門まで1分、そこから壁沿いに走って4分、通用門から研究所までダッシュで2分――)
「きせき、あと何分!?」
「8分!」
「よし、まいてる! いける!!」
 韋駄天足のきせきに遅れまいと奏空がギアを入れた、その時だった。
「あっ――」
 歩道ブロックの出っ張りに足を取られ、体勢を崩す奏空。
 手から丼が滑り落ち、周囲の全てがスローモーションとなって流れた。
(やばい――うどんが――)
 サッ。
 宙を舞う丼を、きせきがキャッチする。
 ハイバランサーの効果で、汁は一滴もこぼれていない。
「お箸くらいは持ってよね?」
「きせきいいいい!!」
 感極まって涙しながら、奏空は受け身を取って回転。
 ワンアクションで飛び起きて、再び全力ダッシュで走り出す。
 通用門まであと少し。ゴマ粒のようだった警備員が、みるみる近づいて大きくなる。
「お仕事お疲れ様です!」
 警備員が振り向いた時には、もう2人は研究所の玄関を潜っていた。

●再び、正午
(ヤバイ遅刻だヤバイ遅刻だ)
 ドカドカと廊下を走り――
(どうしようどうしよう)
 バン! とドアを開け――
「「遅れてすみませんでした!」」
 どんぶり両手に頭を下げるきせき。恐る恐る頭を上げる奏空。
 ふたりの姿に、思わず美希はクスッと笑った。
「大丈夫よ。さ、席について。今度から廊下は走らないようにね」
(間に合っ……た?)
(みたいだね。はい、うどん)
 奏空ときせきが囁き合っていると、再びバタバタと足音が聞こえた。
「よォ、皆集まってる? 俺遅刻じゃないよね! セーフだよな!」
「よ、良かった……ギリギリ間に合ったわ!」
 滑り込みで駆け込んできたのは、直斗と椿。肩で息をつきながら椿が時計を見上げると、合わせたように正午のチャイムが鳴った。
(嫌ね、慌てちゃって。ちょっとはしたなかったかしら)
 頬を染めて膝の傷を癒そうとした椿を、美希が呼び止めた。
「三島さん、飛騨くん。このあと出発でしょ? 先生が治してあげるわ」
 ふたりの怪我を美希が癒しの滴で癒していると、またもや足音が聞こえた。
「ぜぇぜぇ……ギリギリアウト……くそーっ惜しいっ!」
 ドアを足でガラッと開け、息を切らして駆け込んできたのは翔。両腕には袋とサッカーボール、そして顔を真っ赤にした紡を抱えている。
「間に合わなかったネ……うん、翔、とりあえずおろして?」
「え。あ……悪ぃ」
 紡をおろして覚醒を解くと、翔は真っ赤な顔を隠して席に向かった。
 着席と同時に、今度は譟が駆け込んでくる。
「滑り込みアウトぉ! 現実は非情である! ハッハッハ……」
 肩を揺らして笑う譟。その時、背後で扉の隙間がそっと動き、黒い猫耳が気まずそうに覗いた。
(はぁ……どないしよ)
 扉の外で、那由多はそっと溜息をついた。方向音痴が災いし、タッチの差で遅れたようだ。
 皆の意識が譟に向いている今なら――那由多はそっと扉を開け、足音を殺して忍び込む。
「遅れてスマン。全部オレの上司が悪いのさ! 猫耳の嬢ちゃんもそう思わないか?」
「ふわっ!? す、すみませんでした、ご主人様~!」
 ついさっきまでの口調で返し、しまったと口を押える那由多。
 そんな彼女に、紡が悪戯っぽい笑顔で口を尖らせた。
「駄目だよ遅れちゃ、ボクと翔なんか30秒も前から待ってたんだから!」
「そういうこと。皆さっき着いたところよ」
 にこりと笑う椿に、その場の全員が照れ笑いを浮かべる。
 こうしてひとしきり和やかな空気が流れ、覚者達は席へと着いた。

「みんな揃ったかしら? では説明を始めます。今日の依頼は――」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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