<ヒノマル戦争>五華モール防衛作戦
●
「皆、よく集まってくれた。ヒノマル陸軍との戦争状態はまだ始まったばかりだが、早くも敵はこちらの要所を発見し始めている。それが、『五華モール』だ」
覚者が集められた会議室で、中 恭介(nCL2000002)は作戦の経緯を説明していた。
五華モールとは。
覚者組織ファイヴとフードチェーンのムラキヨグループが共同で立ち上げた地域復興プラン『五華プロジェクト』の中で生まれた、シェルター能力を持つショッピングモールだ。
東北、関西、北海道や沖縄、友ヶ島など様々な地域に作られた『五華(いつか)』は覚者警備員の詰め所を兼ねたカフェだ。このプロジェクトは妖によって崩壊した都市機能の復活に貢献してきた。その発展型である五華モールは、いざとなればシェルターとして機能し、妖や覚者被害から人々を守ることができる。
「それだけでなく、遠方での決戦が起きた際にはファイヴの中継基地として機能し、補給物資の搬送やけが人の収容など、様々な面で効果を発揮する。それを、ヒノマル陸軍は察知したようだ」
ヒノマル陸軍とはFH協定により『チーム戦で制圧の是非を決める』という限定戦争方式をとっている。
だが五華系列の店舗は無数に存在しているため、今回は『全国の五華系列店一括』で制圧是非の判定を行なうこととした。
「五華モールは皆の力で生まれた素晴らしいプロジェクトだ。きっと今回の決戦の助けにもなってくれる。皆、気を引き締めて防衛してくれ!」
●
五華モール南京都の駐車場。普段は人で賑わうこの場所は、戦いのために人払いが成されていた。
中央に正座し、瞑目する『第五覚醒隊隊長』威徳ヤマタカ。
彼は短い瞑想を終え、ゆっくりと目を開けた。
「五華モール。なんと素晴らしいアイデアか……。これを発案した者たちが、我が部下であったなら、さぞ……」
彼は現場に到着し、十秒に満たない瞑想を挟んだだけで既に五華モールの思想を理解していた。
「妖をただ倒すのではない。安全地帯を作り、過ごしやすさと入りやすさを考える。テクノロジーが寸断された時の策を用意しておきながら、周囲を威圧せぬ、とは……。まこと、あっぱれ」
ややあって、槍を持った部下がそばで膝を突いた。
「隊長、そろそろ敵のチームが到着する頃かと」
「うむ……これだけ広い懐を持つ者たちだ。決して油断するでないぞ」
「ハッ!」
部下は頭を垂れて槍を両手で翳す。
それを受け取り、威徳は立ち上がった。
「いざ、参らん」
「皆、よく集まってくれた。ヒノマル陸軍との戦争状態はまだ始まったばかりだが、早くも敵はこちらの要所を発見し始めている。それが、『五華モール』だ」
覚者が集められた会議室で、中 恭介(nCL2000002)は作戦の経緯を説明していた。
五華モールとは。
覚者組織ファイヴとフードチェーンのムラキヨグループが共同で立ち上げた地域復興プラン『五華プロジェクト』の中で生まれた、シェルター能力を持つショッピングモールだ。
東北、関西、北海道や沖縄、友ヶ島など様々な地域に作られた『五華(いつか)』は覚者警備員の詰め所を兼ねたカフェだ。このプロジェクトは妖によって崩壊した都市機能の復活に貢献してきた。その発展型である五華モールは、いざとなればシェルターとして機能し、妖や覚者被害から人々を守ることができる。
「それだけでなく、遠方での決戦が起きた際にはファイヴの中継基地として機能し、補給物資の搬送やけが人の収容など、様々な面で効果を発揮する。それを、ヒノマル陸軍は察知したようだ」
ヒノマル陸軍とはFH協定により『チーム戦で制圧の是非を決める』という限定戦争方式をとっている。
だが五華系列の店舗は無数に存在しているため、今回は『全国の五華系列店一括』で制圧是非の判定を行なうこととした。
「五華モールは皆の力で生まれた素晴らしいプロジェクトだ。きっと今回の決戦の助けにもなってくれる。皆、気を引き締めて防衛してくれ!」
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五華モール南京都の駐車場。普段は人で賑わうこの場所は、戦いのために人払いが成されていた。
中央に正座し、瞑目する『第五覚醒隊隊長』威徳ヤマタカ。
彼は短い瞑想を終え、ゆっくりと目を開けた。
「五華モール。なんと素晴らしいアイデアか……。これを発案した者たちが、我が部下であったなら、さぞ……」
彼は現場に到着し、十秒に満たない瞑想を挟んだだけで既に五華モールの思想を理解していた。
「妖をただ倒すのではない。安全地帯を作り、過ごしやすさと入りやすさを考える。テクノロジーが寸断された時の策を用意しておきながら、周囲を威圧せぬ、とは……。まこと、あっぱれ」
ややあって、槍を持った部下がそばで膝を突いた。
「隊長、そろそろ敵のチームが到着する頃かと」
「うむ……これだけ広い懐を持つ者たちだ。決して油断するでないぞ」
「ハッ!」
部下は頭を垂れて槍を両手で翳す。
それを受け取り、威徳は立ち上がった。
「いざ、参らん」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦闘に勝利する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
戦闘の勝敗によって拠点の制圧・防衛が決定します。
●シチュエーションデータ
ショッピングモール駐車場。
自動車は全て取り払われ、コンクリートで舗装された広大なスペースが用意されています。
●エネミーデータ
普通なら全員スペック詳細が不明なのですが、威徳が『五華プロジェクトに敬意を表して』とそれぞれのスペックを申告してきました。
ただし最初から全力を尽くすとのことで、敗北(依頼失敗)の可能性が充分にあります。
・『第五覚醒隊隊長』威徳ヤマタカ:土暦。槍使い。
→無頼漢、大震、地烈といった技を使う。スペックはバランス型。
・『第五覚醒隊』安西:火彩。ショットガントレット装備。
→豪炎撃や飛燕、火焔連弾など火力特化のアタッカー。前衛タイプ。
・『第五覚醒隊』井上:土械。ショットガントレット装備
→タフで防御の硬い盾担当。倒れても起き上がる根性が売り。
・『第五覚醒隊』片山:水翼。絵本を武器にする少女。
→体術系の回復術に優れる。自然治癒力がきわめて高い。
・『第五覚醒隊』雷句:天現。魔導書使い。
→雷獣や脣星落霜といった火力の高い技に加え、演舞・舞音などの補助も使いこなす。機転の利く頭脳派。
・『第五覚醒隊』福田:木獣。刀使い。
→体術に優れ、剣術の腕は一流。貫殺撃・改や斬・二の構えなど力押しの技を得意とする。
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・補足ルール1
EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所を一つだけ』EXプレイングに書いて送ってください。
対象は『現在判明しているが制圧できていない拠点』か『まだ見つけていない捜索中の拠点』となります。捜索中の拠点を指定した場合、発見し次第攻撃可能となります。
『3票以上』ある対象を票が多い順に中恭介が採用していきます。
票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
投票は本戦争期間中ずっと有効です。
また、対象拠点はシナリオの成果に応じて発見できることがあります。
・補足ルール2
ヒノマル陸軍に所属する主要覚者の能力は殆どが未解明です。
しかし戦闘の中で能力を探り出すことで今後の依頼にその情報を反映することができます。
・補足ルール3
性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。
※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。
・FH協定
ファイヴとヒノマル陸軍の間に交わされた戦争上の協定です。
戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいます。
双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意しています。
==============================
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年11月25日
2016年11月25日
■メイン参加者 6人■

●
五華モールはきわめて優秀な民間施設だ。
ショッピングモールとして民間人の日常生活と娯楽を保証する一方で、シェルターとして民間人の生命と安全を保証している。
特に京都の東北に位置するの五華モールは大規模なイベントの開催も行なえるよう、駐車場はポップアップ式駐車石を使用。通常は自動車のタイヤを止めるためのブロックがイベント時には下がって平たい地面になるという構造である。夜間にも対応できるようスポーツグラウンドにも利用される照明が設置されているほどだ。
現在は夜。営業時間外。
照明に照らされ、威徳ヤマタカを筆頭とした第五覚醒隊の戦闘チームが揃っていた。
「ついに五華モールも攻略対象になっちゃったんだね。戦略上の中継基地にもなるし当然と言えば当然。それに、プロジェクトが成功してるってことでもあるんだよね……ちょっと、複雑だけど」
重く鼓動を刻む心臓部に手を当てる『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。
姫神 桃(CL2001376)はゆるく腕を組み、威徳へと呼びかけた。
「最初に言っておくわ。ヒノマルが五華を制圧しても、民間人を守るシェルター機能は維持して欲しいの」
「名誉店長が言うのならば是非もなし。責任を持って維持させよう」
威徳は両手を胸の前で合わせている。まるで仏教徒が祈るような姿勢だが、伸ばした背筋は拳法使いのそれに近い。まるでピエロのような丸い鼻頭の飾りをつけてはいるが、風格が通常のヒノマル兵と明らかに違った。
「決戦時にファイヴへの物資供給を行なわせないことのみが我らの目的。店舗運営に手を出すことはない。どころか、今後の世界大戦を思えば出資をしたい程だ」
「ありがとう。信用するわ」
息をつく桃。
その一方で東雲 梛(CL2001410)は敵意をむき出しにしていた。
「ここは俺たちが考えて作った、これからのための場所なんだ。敬意もいらない。あんたたちは大切なものを奪う側だ。どんなに取り繕ってもそれは変わらない」
「なんだとテメエ! えっと……どういう意味だ?」
井上が気を焦って身を乗り出したが、よく意味が理解できなかったのか威徳たちを振り返った。ため息をつく雷句。
「大事な場所だから全力で守ると言ってるんだ」
「おお! そうか! それでこそだぜ! いいこと言うじゃねえか!」
「褒めて貰ってどうも。ここにいるみんな、同じ気持ちよ」
深呼吸をしてコンディションを整えた『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「アタシとしては敬意を払ってもらって、悪い気はしないんだけど……だからって譲る気は無いんだからね」
「なんだと!? えっと……」
井上がまた同じように振り返った。
片山が絵本を選びながら顔を上げる。
「大切な場所だから全力で守るって言ってるよ」
「おお! そうか! それでこそだぜ! ……あれ?」
首を傾げる井上をよそに、半歩前へ出る『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)。
「この前は悪いことしちまったからな。今回は正々堂々やってみるかな! 大切な場所は俺たちが守る!」
「おう、きやがれ。真正面から相手してやんぜ!」
指をビッと立てて迎え撃つ安西。
『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)が手を揃えた。
「紳士的な方々ですね。立場が違えば仲間になれたかもしれないのに、残念です」
福田が刀を抜いて構える。
「戦争ってのは正義と正義のぶつかり合い。どっちも自分が正しいと思ってるもんだ。だから話し合いで決着がつかねえ。別の何かで決着をつけるしかねえ。互いが持ってる共通の腕、足、頭に目、身体とその先にある道具の全部で物理的に『オハナシアイ』するしかねえってわけよ」
「あまり得意なことではありませんけれど……よろしくお願いします」
頭を下げ、翼を広げる澄香。
それがまるで戦いの合図であるかのように、その場の全員が覚醒する。
戦いの幕は、唐突に上がった。
●
「勢いをそぐわ。渚――!」
「任せて。解放・インブレスッ!」
先陣を切って走り出す桃と渚。
対するは井上と威徳である。
「女相手はやりにくいぜ! けど手加減もしねえ……!」
井上はショットガントレット『ではないほうの』拳を強く握りしめると、桃めがけて繰り出してくる。
桃の手刀と井上のパンチが正面から激突。
びきびきと骨や関節に衝撃が響く井上と対照的に、桃は身体の表面を這うように衝撃が走った。両サイドで結んだ髪が大きく靡く。
「やるわね」
桃は零距離から破眼光を乱射。
井上はそれを素手で防御した。むしろガントレットを庇うような勢いである。
側面から突進をかける威徳。割り込む渚。
大きく足を開き、腰をどっと落とした姿勢から放つ掌底が渚に命中。衝撃がコンクリート面を波のようにはね、渚の手に挟んでいた無数の注射器が吹き飛んでいく。
「インブレスが……っ」
「渚さん、これを!」
澄香がタロットカードを鋭く放ってくる。
水瓶を傾けた乙女のカードだ。それを受け取った途端、渚の身体にかかっていた制限が解ける。再び注射器をケースから取り出すと、自らの胸に突き立てた。
「助かったよ澄香さん! 負荷対策しとくんだった……!」
福田が刀を握り、跳躍からの大上段打ちをしかけてくる。
対して梛はロッドの両端を握り、打撃を受け止める。
強烈な打撃だ。しかし梛は歯を食いしばってこらえた。
術式を心の中で練り合わせる。梛のアクセサリーの一つが花開き、毒の香りを解き放つ。
「虚弱の毒だ、やべえ!」
口を塞いで飛び退く福田。なんとか刀を持ち直すが、澄香が追撃をしかけた。
馬に引かれ戦場へ飛び込む戦士のカードを掲げると、星形のイガが福田めがけて放たれる。
次々にはじけるイガを刀で防御するが、澄香の攻撃には割と弱いのか大きく後退していく。
「攻めきれねえ……片山ァ!」
「わかってるよもー!」
片山は空白の絵本にクレヨンを高速で走らせ、福田の傷を上塗りするように治癒していく。
一方でジャックは手を合わせ、炎の蛇をねじ上げていく。
ありすもフィンガースナップで火をともし、大きな柱へ変えていく。
「俺がやれることは単純火力になることやわ。まずは全体攻撃で様子を見る!」
ジャックの放つ炎の蛇が巨大な波になって敵陣を飲み込んでいく。
その蛇を突き抜けて、安西が腕に刻んだ竜のタトゥーをなぞった。指先に灯った炎で空中に字を刻み、炎の弾を大量に発生させる。
「これがファイブの召炎波ってやつか! クソ熱いぜ!」
火焔連弾がひとつなぎの竜となってジャックを襲う。
それを更に覆うかのように、ありすが手を翳した。
「いくわよ、ゆる。全力で飛ばすわ!」
「そうくるか――なら!」
雷句は分厚い魔導書を一発でめくり、ページを発光させる。
天空に生まれた無数の星々が落ち、ありすの炎と相まって戦場を埋め尽くしてく。
ファイヴ側の戦闘プランを一旦おさらいしよう。
まずはジャックとありすの高い特攻性を利用して召炎波で敵全体の体力を削り、耐久力の差を相対的にはかるというもの。序盤のうちには効果を発揮しないが、暫く攻撃しているうちに違いが出てくるだろうと踏んだのだ。
敵側に豊富な全体回復手段があると効果が出るまで時間がかかりすぎてしまうのだが、今回はうまくいった。
というのも、回復担当の片山が全体回復をそこまで得意としていなかったためである。
詳しくは、渚が深く看破していた。
「片山さんは私と同じ体術よりのヒーラーだよ。なら癒力活性系列の全体回復はコストが高くて効果が低いはず。単体回復を優先するはずだよ。だから……弱点が分かりやすい!」
最初に狙ったのは福田である。
渚はメタルケースを両手で掴み、福田めがけて突撃。
「やべっ……片山! 俺の回復は後回しだ! 俺はこいつを連れて行く!」
渚の豪快なスイングが福田に直撃。対して福田は豪快な斬撃で責めていく。
「五華モールには沢山大事なものがあるんだよ。フードチェーンも、ファイヴ村のアンテナショップだってある。だから、退くわけにはいかないよ!」
対してヒノマル側、第五覚醒隊の戦術はいわゆる後衛狙いであった。
今回ファイブの五華チームは前衛と中衛に回復担当を配置するというちょっと変わった隊列を組んでいたので効果が薄いが、ジャックやありすという砲台をつぶしにかかるのはそれはそれで効果的だ。
手段としては雷句や安西の遠距離攻撃で削るのがデフォルトだが、それだけで倒せるほどファイヴの覚者は甘くない。当然それも分かっている。
と言うことで活きてくるのが威徳の大震による列ノックバックである。
「井上、安西! 備えろ!」
地面を強く踏みしめる威徳。たちまち走った衝撃で梛たちが吹き飛ばされた。
その横を駆け抜ける井上――にボディタックルを仕掛ける澄香。
飛行状態の彼女は大震をうける心配がなく、突撃してきた井上をはねのけられるのだ。
「対策しているか。そうでなくては!」
「簡単には通しません!」
世界樹のカードを翳し、回復空間を形成しはじめる。
同じく梛もロッドを地面に突き立て、大樹の息吹を発動。
「そろそろかな……」
梛は威徳の行動をエネミースキャンで深く観察し始める。
既に大体の内容は事前に申告されていたので、その確認ということになる。実際、嘘はついていないなということがわかった。
第五覚醒隊が後衛浸透を済ませた場合の戦闘プランは、井上や安西の集中攻撃で敵後衛を撃破することなのだが、ガードがつくことも考えて福田に貫殺撃・改を持たせていた。
といっても特攻でガンガンせめたジャックたちのプランに先手を打たれ、後衛浸透も対策された今、威徳たちにできるのは正面からのぶつかり合いのみである。
ちなみに彼らの隊列は雷句を後衛に据え、威徳と片山を中衛、安西と福田と井上を前衛に配置している。いざとなれば前衛と中衛をスイッチできるスタイルだ。
そんな彼らは終盤に入って片山が全体回復を連発するようになり、一方で前衛から着実に潰すプランへとシフトし始めた。
対する桃たちは攻撃順を特に設定していなかったので、なんとなく火力特化型の安西を攻めることにした。
そこで活きてくるのが井上のガードである。
しかしどうやら根性値の高いらしい井上がひたすら起き上がって味方ガードを続けるので、簡単には倒せない。活殺打でも持っていればいいのだが、今は手持ちにない状態だ。
「なら、どかすまでよ」
桃はショットガントレットを握り、ショットモードに切り替えた。
「俺を吹っ飛ばそうってか! やれるもんなら――!」
ガード姿勢の井上……の額に、桃が指をトンと当てた。
「悪いわね」
衝撃が井上の脳天を抜けていく。
飛び込み、胸に手のひらを押し当てるジャック。
「もらった」
にやりと笑って放つ氷巖華。
白目を剥いて倒れる井上に次いで、ありすが空気中の炎を一つに集めて巨大な炎のうずを生み出した。
「トドメよ!」
炎を解き放つありす。
安西は巨大な炎の塊に飲み込まれていった。
「そこまで。我らの負けだ」
威徳は手を合わせ、背筋を伸ばす最初の姿勢へと戻った。
味方の半数以上が戦闘不能になった所を、威徳は撤退のタイミングに定めていたようだ。
ゆっくりと頭を下げる。
「堂々とした手合わせ、感謝する」
「……守れて良かった。俺たちの勝ちだね」
立ち上がり、にじり寄ろうとする梛。
「あんたたちに他の地域で戦力になられたら困るから、捕らえさせて貰うよ」
「やめなさい。『撤退を許すこと』っていう協定に違反するわ」
ロープを取り出した梛の手を、ありすが掴んで止めた。
一見敵を逃がすのは惜しいことのように思えるが、逆に自分たちが負けた時に捕縛される危険がないという意味も含んでいる。
「そっちも、無駄に命を削ることもないでしょう」
「理解が深くて助かる」
どうやら収まったらしいことを確認して、渚と澄香は胸をなで下ろした。
「五華でお茶していきませんか。できれば、戦争もやめて頂けるとうれしいですけれど」
「前半は、喜んで。後半は、すまないが……」
「です、よね」
振り向けば、モールの夜間営業が再開している。
殆どの店舗は夜間に営業していないが、五華カフェは夜間に居酒屋になるという側面を有している。
「っちぇ、負けちまったか」
「やっぱ手の内晒しすぎたんじゃねーのか?」
「裏をかいて勝っても我々の勝利とは言えないだろう」
福田、井上、雷句たちも戦闘態勢を解いている。
ジャックは『俺くりーむあんみつー』とか言って既にお茶するモードだ。
そんな中で、威徳は桃のそばへとやってきた。
「我々の戦力から戦術を深く推察するその慧眼、尊敬に値する」
「……えっと」
急に敵に褒められたので返答に困っていると、威徳はスッと名刺を差し出してきた。
「今回はこちらが攻めたのだ。次はそちらの番だ」
名刺には『日本大学法学部新聞学科』と書かれていた。
「我々の拠点となるグラウンドがある。その気があるなら、攻めてくるといい。こちらは全力で対策し、迎撃する」
――拠点『五華モール』の防衛に成功しました!
――新しい敵拠点『日大五覚隊本部』を発見しました!
五華モールはきわめて優秀な民間施設だ。
ショッピングモールとして民間人の日常生活と娯楽を保証する一方で、シェルターとして民間人の生命と安全を保証している。
特に京都の東北に位置するの五華モールは大規模なイベントの開催も行なえるよう、駐車場はポップアップ式駐車石を使用。通常は自動車のタイヤを止めるためのブロックがイベント時には下がって平たい地面になるという構造である。夜間にも対応できるようスポーツグラウンドにも利用される照明が設置されているほどだ。
現在は夜。営業時間外。
照明に照らされ、威徳ヤマタカを筆頭とした第五覚醒隊の戦闘チームが揃っていた。
「ついに五華モールも攻略対象になっちゃったんだね。戦略上の中継基地にもなるし当然と言えば当然。それに、プロジェクトが成功してるってことでもあるんだよね……ちょっと、複雑だけど」
重く鼓動を刻む心臓部に手を当てる『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。
姫神 桃(CL2001376)はゆるく腕を組み、威徳へと呼びかけた。
「最初に言っておくわ。ヒノマルが五華を制圧しても、民間人を守るシェルター機能は維持して欲しいの」
「名誉店長が言うのならば是非もなし。責任を持って維持させよう」
威徳は両手を胸の前で合わせている。まるで仏教徒が祈るような姿勢だが、伸ばした背筋は拳法使いのそれに近い。まるでピエロのような丸い鼻頭の飾りをつけてはいるが、風格が通常のヒノマル兵と明らかに違った。
「決戦時にファイヴへの物資供給を行なわせないことのみが我らの目的。店舗運営に手を出すことはない。どころか、今後の世界大戦を思えば出資をしたい程だ」
「ありがとう。信用するわ」
息をつく桃。
その一方で東雲 梛(CL2001410)は敵意をむき出しにしていた。
「ここは俺たちが考えて作った、これからのための場所なんだ。敬意もいらない。あんたたちは大切なものを奪う側だ。どんなに取り繕ってもそれは変わらない」
「なんだとテメエ! えっと……どういう意味だ?」
井上が気を焦って身を乗り出したが、よく意味が理解できなかったのか威徳たちを振り返った。ため息をつく雷句。
「大事な場所だから全力で守ると言ってるんだ」
「おお! そうか! それでこそだぜ! いいこと言うじゃねえか!」
「褒めて貰ってどうも。ここにいるみんな、同じ気持ちよ」
深呼吸をしてコンディションを整えた『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「アタシとしては敬意を払ってもらって、悪い気はしないんだけど……だからって譲る気は無いんだからね」
「なんだと!? えっと……」
井上がまた同じように振り返った。
片山が絵本を選びながら顔を上げる。
「大切な場所だから全力で守るって言ってるよ」
「おお! そうか! それでこそだぜ! ……あれ?」
首を傾げる井上をよそに、半歩前へ出る『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)。
「この前は悪いことしちまったからな。今回は正々堂々やってみるかな! 大切な場所は俺たちが守る!」
「おう、きやがれ。真正面から相手してやんぜ!」
指をビッと立てて迎え撃つ安西。
『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)が手を揃えた。
「紳士的な方々ですね。立場が違えば仲間になれたかもしれないのに、残念です」
福田が刀を抜いて構える。
「戦争ってのは正義と正義のぶつかり合い。どっちも自分が正しいと思ってるもんだ。だから話し合いで決着がつかねえ。別の何かで決着をつけるしかねえ。互いが持ってる共通の腕、足、頭に目、身体とその先にある道具の全部で物理的に『オハナシアイ』するしかねえってわけよ」
「あまり得意なことではありませんけれど……よろしくお願いします」
頭を下げ、翼を広げる澄香。
それがまるで戦いの合図であるかのように、その場の全員が覚醒する。
戦いの幕は、唐突に上がった。
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「勢いをそぐわ。渚――!」
「任せて。解放・インブレスッ!」
先陣を切って走り出す桃と渚。
対するは井上と威徳である。
「女相手はやりにくいぜ! けど手加減もしねえ……!」
井上はショットガントレット『ではないほうの』拳を強く握りしめると、桃めがけて繰り出してくる。
桃の手刀と井上のパンチが正面から激突。
びきびきと骨や関節に衝撃が響く井上と対照的に、桃は身体の表面を這うように衝撃が走った。両サイドで結んだ髪が大きく靡く。
「やるわね」
桃は零距離から破眼光を乱射。
井上はそれを素手で防御した。むしろガントレットを庇うような勢いである。
側面から突進をかける威徳。割り込む渚。
大きく足を開き、腰をどっと落とした姿勢から放つ掌底が渚に命中。衝撃がコンクリート面を波のようにはね、渚の手に挟んでいた無数の注射器が吹き飛んでいく。
「インブレスが……っ」
「渚さん、これを!」
澄香がタロットカードを鋭く放ってくる。
水瓶を傾けた乙女のカードだ。それを受け取った途端、渚の身体にかかっていた制限が解ける。再び注射器をケースから取り出すと、自らの胸に突き立てた。
「助かったよ澄香さん! 負荷対策しとくんだった……!」
福田が刀を握り、跳躍からの大上段打ちをしかけてくる。
対して梛はロッドの両端を握り、打撃を受け止める。
強烈な打撃だ。しかし梛は歯を食いしばってこらえた。
術式を心の中で練り合わせる。梛のアクセサリーの一つが花開き、毒の香りを解き放つ。
「虚弱の毒だ、やべえ!」
口を塞いで飛び退く福田。なんとか刀を持ち直すが、澄香が追撃をしかけた。
馬に引かれ戦場へ飛び込む戦士のカードを掲げると、星形のイガが福田めがけて放たれる。
次々にはじけるイガを刀で防御するが、澄香の攻撃には割と弱いのか大きく後退していく。
「攻めきれねえ……片山ァ!」
「わかってるよもー!」
片山は空白の絵本にクレヨンを高速で走らせ、福田の傷を上塗りするように治癒していく。
一方でジャックは手を合わせ、炎の蛇をねじ上げていく。
ありすもフィンガースナップで火をともし、大きな柱へ変えていく。
「俺がやれることは単純火力になることやわ。まずは全体攻撃で様子を見る!」
ジャックの放つ炎の蛇が巨大な波になって敵陣を飲み込んでいく。
その蛇を突き抜けて、安西が腕に刻んだ竜のタトゥーをなぞった。指先に灯った炎で空中に字を刻み、炎の弾を大量に発生させる。
「これがファイブの召炎波ってやつか! クソ熱いぜ!」
火焔連弾がひとつなぎの竜となってジャックを襲う。
それを更に覆うかのように、ありすが手を翳した。
「いくわよ、ゆる。全力で飛ばすわ!」
「そうくるか――なら!」
雷句は分厚い魔導書を一発でめくり、ページを発光させる。
天空に生まれた無数の星々が落ち、ありすの炎と相まって戦場を埋め尽くしてく。
ファイヴ側の戦闘プランを一旦おさらいしよう。
まずはジャックとありすの高い特攻性を利用して召炎波で敵全体の体力を削り、耐久力の差を相対的にはかるというもの。序盤のうちには効果を発揮しないが、暫く攻撃しているうちに違いが出てくるだろうと踏んだのだ。
敵側に豊富な全体回復手段があると効果が出るまで時間がかかりすぎてしまうのだが、今回はうまくいった。
というのも、回復担当の片山が全体回復をそこまで得意としていなかったためである。
詳しくは、渚が深く看破していた。
「片山さんは私と同じ体術よりのヒーラーだよ。なら癒力活性系列の全体回復はコストが高くて効果が低いはず。単体回復を優先するはずだよ。だから……弱点が分かりやすい!」
最初に狙ったのは福田である。
渚はメタルケースを両手で掴み、福田めがけて突撃。
「やべっ……片山! 俺の回復は後回しだ! 俺はこいつを連れて行く!」
渚の豪快なスイングが福田に直撃。対して福田は豪快な斬撃で責めていく。
「五華モールには沢山大事なものがあるんだよ。フードチェーンも、ファイヴ村のアンテナショップだってある。だから、退くわけにはいかないよ!」
対してヒノマル側、第五覚醒隊の戦術はいわゆる後衛狙いであった。
今回ファイブの五華チームは前衛と中衛に回復担当を配置するというちょっと変わった隊列を組んでいたので効果が薄いが、ジャックやありすという砲台をつぶしにかかるのはそれはそれで効果的だ。
手段としては雷句や安西の遠距離攻撃で削るのがデフォルトだが、それだけで倒せるほどファイヴの覚者は甘くない。当然それも分かっている。
と言うことで活きてくるのが威徳の大震による列ノックバックである。
「井上、安西! 備えろ!」
地面を強く踏みしめる威徳。たちまち走った衝撃で梛たちが吹き飛ばされた。
その横を駆け抜ける井上――にボディタックルを仕掛ける澄香。
飛行状態の彼女は大震をうける心配がなく、突撃してきた井上をはねのけられるのだ。
「対策しているか。そうでなくては!」
「簡単には通しません!」
世界樹のカードを翳し、回復空間を形成しはじめる。
同じく梛もロッドを地面に突き立て、大樹の息吹を発動。
「そろそろかな……」
梛は威徳の行動をエネミースキャンで深く観察し始める。
既に大体の内容は事前に申告されていたので、その確認ということになる。実際、嘘はついていないなということがわかった。
第五覚醒隊が後衛浸透を済ませた場合の戦闘プランは、井上や安西の集中攻撃で敵後衛を撃破することなのだが、ガードがつくことも考えて福田に貫殺撃・改を持たせていた。
といっても特攻でガンガンせめたジャックたちのプランに先手を打たれ、後衛浸透も対策された今、威徳たちにできるのは正面からのぶつかり合いのみである。
ちなみに彼らの隊列は雷句を後衛に据え、威徳と片山を中衛、安西と福田と井上を前衛に配置している。いざとなれば前衛と中衛をスイッチできるスタイルだ。
そんな彼らは終盤に入って片山が全体回復を連発するようになり、一方で前衛から着実に潰すプランへとシフトし始めた。
対する桃たちは攻撃順を特に設定していなかったので、なんとなく火力特化型の安西を攻めることにした。
そこで活きてくるのが井上のガードである。
しかしどうやら根性値の高いらしい井上がひたすら起き上がって味方ガードを続けるので、簡単には倒せない。活殺打でも持っていればいいのだが、今は手持ちにない状態だ。
「なら、どかすまでよ」
桃はショットガントレットを握り、ショットモードに切り替えた。
「俺を吹っ飛ばそうってか! やれるもんなら――!」
ガード姿勢の井上……の額に、桃が指をトンと当てた。
「悪いわね」
衝撃が井上の脳天を抜けていく。
飛び込み、胸に手のひらを押し当てるジャック。
「もらった」
にやりと笑って放つ氷巖華。
白目を剥いて倒れる井上に次いで、ありすが空気中の炎を一つに集めて巨大な炎のうずを生み出した。
「トドメよ!」
炎を解き放つありす。
安西は巨大な炎の塊に飲み込まれていった。
「そこまで。我らの負けだ」
威徳は手を合わせ、背筋を伸ばす最初の姿勢へと戻った。
味方の半数以上が戦闘不能になった所を、威徳は撤退のタイミングに定めていたようだ。
ゆっくりと頭を下げる。
「堂々とした手合わせ、感謝する」
「……守れて良かった。俺たちの勝ちだね」
立ち上がり、にじり寄ろうとする梛。
「あんたたちに他の地域で戦力になられたら困るから、捕らえさせて貰うよ」
「やめなさい。『撤退を許すこと』っていう協定に違反するわ」
ロープを取り出した梛の手を、ありすが掴んで止めた。
一見敵を逃がすのは惜しいことのように思えるが、逆に自分たちが負けた時に捕縛される危険がないという意味も含んでいる。
「そっちも、無駄に命を削ることもないでしょう」
「理解が深くて助かる」
どうやら収まったらしいことを確認して、渚と澄香は胸をなで下ろした。
「五華でお茶していきませんか。できれば、戦争もやめて頂けるとうれしいですけれど」
「前半は、喜んで。後半は、すまないが……」
「です、よね」
振り向けば、モールの夜間営業が再開している。
殆どの店舗は夜間に営業していないが、五華カフェは夜間に居酒屋になるという側面を有している。
「っちぇ、負けちまったか」
「やっぱ手の内晒しすぎたんじゃねーのか?」
「裏をかいて勝っても我々の勝利とは言えないだろう」
福田、井上、雷句たちも戦闘態勢を解いている。
ジャックは『俺くりーむあんみつー』とか言って既にお茶するモードだ。
そんな中で、威徳は桃のそばへとやってきた。
「我々の戦力から戦術を深く推察するその慧眼、尊敬に値する」
「……えっと」
急に敵に褒められたので返答に困っていると、威徳はスッと名刺を差し出してきた。
「今回はこちらが攻めたのだ。次はそちらの番だ」
名刺には『日本大学法学部新聞学科』と書かれていた。
「我々の拠点となるグラウンドがある。その気があるなら、攻めてくるといい。こちらは全力で対策し、迎撃する」
――拠点『五華モール』の防衛に成功しました!
――新しい敵拠点『日大五覚隊本部』を発見しました!
