堕落した正義を討て!
堕落した正義を討て!


●町の守護者
 とある町に妖の脅威が迫る!
 AAAは未だ来ず、もはや誰しも諦めかけたその時、
「この町の平和は俺達が守る! レッドパンチ!」
「人々に害なす妖め! 私達が相手よ! ブルーアロー!」
「正義の茨、受けてみろ! グリーンチェーン!」
「俺を忘れて貰っちゃ困るぜ! イエローサンダー!」
「フッ、……ブラックランス!」
 さっそうと現れた三つの影が、妖の元へと飛び掛かる!
 赤、青、緑、黄、黒。五色のマフラーが風に舞う!
「たぁっ!」
「とぅっ!」
「キェーーーー!」
「ふんっ!」
「はっ!」
 気合一閃、妖は彼らの猛攻の前に滅ぼされた。
「もう大丈夫、怪我はないかい?」
「悪い妖は私達が倒したわ!」
「正義は勝つ!」
 逃げそびれた子供を助け起こしながら高らかと勝利を宣言すれば、人々から歓声があがる。
 彼らはそう、この町を守るために結成された若者覚者の集い。その名も――
「「「「「ジャスティスファイブ!!」」」」」
 こうして妖の脅威から今回も町は守られたのである。

 そんな話があったのも今は昔。
「なぁなぁ、ちょっと金貸してくれよ?」
「ひっ」
 赤いマフラーを邪魔そうに払いながら、若い男がサラリーマンを壁際に追い詰めていた。
 その後ろで青と緑のマフラーを纏った男女がにやにやと笑みを浮かべている。
「今月ピンチなんだよねぇ。なぁ、頼むぜ」
「そ、そんな……」
「チッ……オラッ!」
 渋るサラリーマンに舌打ち一つ。男は思い切り壁を殴り、轟音と共に壁にひびを入れてみせた。竦み上がるサラリーマンに鋭い視線を送りながら、舌を巻く威圧的な物言いで言い放つ。
「この町の平和を誰が守ってると思うんだ? ああ!? 俺達ジャスティスファイブだろぉ?」
「ひぃぃっ!」
「俺は先代から託されてここに居るんだ。だったらお前ら俺を敬えってんだよ!」
「わ、分かった。分かったから助けて!」
 肩を掴み揺さぶれば、堪らずサラリーマンは自らの財布を差し出す。
「それでいいんだよ。ったく」
「わーい、レッド。そのお金でまたゲーセン行きましょ!」
「俺は、美味いもん食いてぇわ。イエローとブラックも誘うべ」
「へへ、だな。ま、俺達はこの町の平和を守ってるんだ。この位の報酬貰わねぇとやってられねぇよなぁ!」
 力なくへたり込むサラリーマンを無視して、マフラーの三人は嬉々として遊びに出かける。
 その様子を見ていた他の一般市民達は、しかし何もできずにそれを見送った。
 正義を継いだはずの若者達は、今、人々に恐怖を振り撒いていた。

●隔者にキツイお仕置きを
「過去の栄光、それも借り物の名声を笠に着て好き放題やってる奴らがいる」
 開口一番、不機嫌そうな口ぶりを隠すことなく久方 相馬(nCL2000004)が覚者達に告げる。
「夢見で視たのは、ジャスティスファイブを名乗る二十歳前後の若者集団が一般人を殴り怪我をさせる未来だ。目覚めた能力を私利私欲のために使い、あまつさえ一般人に無用の危害を加えようとしている」
 彼が念写した紙には、五色のマフラーをそれぞれに巻いた男女が暴れている姿が写されていた。
「彼らは先代ジャスティスファイブに高い実力を買われてマフラーを受け継いだが、妖と戦ったのは一度だけ、後は力と地位に溺れて悪行を重ねるようになったらしい」
 レッドは彩の因子を持った火行、ブルーは暦の因子を持った水行、グリーンは翼の因子を持った木行、イエローは現の因子を持った天行、ブラックは械の因子を持った土行。
 それぞれの個性は今は平和のためでなく、人々を脅かすために発揮されている。
「先代ジャスティスファイブはそれぞれ遠い所へ社会進出してしまったみたいで今はいない。きっとこの現状も知らないんだろうな」
 であれば、この悪行を止められるのは覚者しかいない。
「皆の力が必要なんだ。頼む! あいつらの曲がった根性叩き直してきてくれ!」
 力強い真っ直ぐな瞳で相馬は覚者達を見る。
 彼らにこれ以上の悪行を重ねさせる訳にはいかない。
 視線には強い意志が込められていた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
■成功条件
1.隔者集団『ジャスティスファイブ』の撃破
2.なし
3.なし
初めましての方は初めまして、そうでない方は毎度ありがとうございます。
みちびきいなりと申します。
今回は町で悪さをする世間知らずな若者隔者にきつーいお灸を据える依頼です。
頑丈な子達なので遠慮なく張り倒してしまいましょう。

●舞台
ある町の商店街とその周辺が舞台になります。平日の晴れた昼間で、一般人もまばらにですが存在します。
商店街は二車線分の幅があるためただ立ち回る分には不足はないでしょう。
しかし、派手に暴れ過ぎれば八百屋の軒先に並ぶ野菜などにも被害が出るかもしれません。
商店街を外れた所に、広場のある公園が存在します。
こちらで戦う場合は、派手に暴れても物質的被害は最小限に留まるでしょう。

●敵について
本来なら町を守るヒーローだった『ジャスティスファイブ』の五名が相手になります。
レッドが中心格で攻撃を好み、イエローとブラックは遊撃、紅一点のブルーが支援、グリーンが妨害を得意としています。
全員が一般的なFive所属の覚者と同程度の実力を持っており、レッドは特にタフです。

●一般人について
商店街で商売を行なっている人々と、利用客がまばらにですが存在します。
基本的に争いから逃げる動きをしますが、ある程度離れた所から動向を見守るような動きもしようとするでしょう。

隔者との戦い。道を外しかけている若者に喝を入れて下さい。
如何にして勝つか。覚者の皆様、よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年11月21日

■メイン参加者 6人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)

●ターニングポイント
 昼の商店街。
「ああ? んだよ。てめぇらは」
 今まさに拳を振りかざし暴力を振るわんとしていた赤いマフラーの男、レッドは、彼を制止した『希望峰』七海 灯(CL2000579)に敵意をむき出しにして声を荒げた。
「貴方達の行いで町の人達が迷惑しています。話があるので公園までご足労願えませんか?」
 決して大きな声ではないが真っ直ぐに届く言葉に、レッドは振り上げていた拳を降ろす。
「何でそれにあたしらが付き合わなきゃいけないわけ?」
 青いマフラーの女、ブルーが割って入り、灯に忌々しげな視線を向ける。
「だな、っていうか誰よこいつら」
「知らね」
 ブルーの言葉に追っ付けイエローとブラックが言葉を投げては、白けたような表情を浮かべた。
「行くベレッド。変な奴らに構ってられっかっての」
 グリーンの言葉を最後に彼らは口々に文句や愚痴を吐き出しながら、この場を後にしようとした。が、
「今の君達に、そのマフラーを託しておくわけにはいかない」
 鈴白 秋人(CL2000565)の言い放った言葉に、彼らはぴたりと動きを止めた。
「お前ら、俺達がジャスティスファイブだって知ってて吹っかけてんのか? ああ?」
 再び感情的になったレッドが秋人に鋭い視線を向けた所で、『花守人』三島 柾(CL2001148)が動いた。
「背を向けたってことは、俺達に負けるのが怖いのか?」
 柾の情感たっぷりに投げた問いかけには、年若い能力者達には効果覿面だった。
「はぁ? おっさんあんま舐めてっと痛い目見るぞ?」
「喧嘩吹っかけて来たんなら相応の覚悟があるんだろうなぁ?」
「ちょっとレッド、こいつら締めよう。自分の立場分かってないわ」
 騒ぎ始めた仲間達を手で制し、レッドは完全に覚者達を敵とみなし問う。
「どこっつった? 案内しろ。ぶっ潰してやる」
「そうこなくっちゃな」
 住民の不安げな視線を浴びながら、覚者達は公園へと足を向けた。
「………」
 その様子を、葦原 赤貴(CL2001019)は感情の籠もっていない瞳で観察していた。

 公園には思い思いの昼時を過ごそうと、子供連れや休憩のサラリーマン等の人々が居たが『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)の説得が先んじて行われ、広く場所を確保できていた。
 彼女の正義、ノブリス・オブリージュは戦う術を知らない者を守るために発揮される。
「へっ、お膳立てはとっくに済んでたってわけだな。いいぜ? やろうじゃねぇか」
 町の守護者、そう呼ばれていたヒーローは今、目の前に始まろうとする喧嘩に血沸き上がらせる荒くれ者に成り下がっていた。
 五色のマフラーはそれぞれにボロボロで、彼らの今の心を表しているかのようにも思えた。
「君達がマフラーを貰っただけの、ただの人間だって教えてあげるよ」
 丹羽 志穂(CL2001533)が、ナックルを握りしめ構えを取る。
 腐った正義に、己の心を込めた一撃を打ち込むために。
「てめぇら、後悔すんなよ?」
 レッドの言葉を合図に覚者達はそれぞれに覚醒を果たし、戦いの幕は切って落とされた。

●KNOCK YOU DOWN!
「少し、頭を冷やしてから再度説得しましょうか」
 誰より早く、灯が動く。数度体を揺らす内に、彼女の中の細胞が急速に活性化、反応速度を高めていく。
「へぇ、てめぇ俺と似たような芸当ができるのか」
 加速していく世界の中、意識を研ぎ澄ます灯に追従するようにレッドが動いていた。
「ぶっ飛ばしてやる」
「やらせません」
 二人の視線が交錯した。
(基礎的な反応速度の違い、か)
 彼らに一歩遅れる形で加速を果たした柾は、その視線を緑のマフラーへと向ける。
 事前に聞いていた話によると妨害を得意とする人物とあり、覚者達は最優先で彼の撃破を狙っていた。
「おっと、よそ見はいけねぇぜ?」
「!」
 懐に黄のマフラーが潜り込んでいた。下から掬い上げるように日本刀が振るわれ、すんでで防御の構えを取った柾のショットガントレットを強く弾く。
「ふっ!」
「おっと!」
 直後に振るった拳を交わし、イエローは柾から距離を取る。一撃離脱の技術に長けた者の動きだった。
「へっ、やっぱ大したことねぇな――」
「はぁぁぁ!」
「!?」
 引き切った所にフィオナが突っ込んでいった。会心の力を込めた愛剣は、彼女の真っ直ぐな剣術に素直に従いイエローを押し込み、吹き飛ばす。
「まず守るべき人々が居て、その為に正義があるんだ! 君達! 順番が逆だぞ!」
 正義の騎士の凛とした声が戦場に響いた。
「ちっ、説教か? しゃらくせぇんだよ!」
「くっ」
 ブラックの怒声に従い岩槍がフィオナを地面から膝下から刺し貫く。フィオナの体に痺れが走った。
「天堂さん! あと少し堪えて!」
 後衛に立ち回復を担う秋人は、超純水を自らに取り込み水行の力を高め以降の戦いに備えていた。
 即座に次の動作、フィオナの受けた痺れの治療を始めようとするが、相手がそれを見逃す訳がない。
「やらせるかっての!」
 グリーンが動く。指弾の構えで自らの力を込めた種を弾き、その動きを阻害しようとして、
「なっ! ぐぁ?!」
 自らの足に土槍が撃ち込まれたことに気づいた時には、すでに彼の体に痺れが走り始めていた。
「………」
 地に手を付いてグリーンを睨んでいたのは赤貴だ。彼の隆神槍が先んじて発動していたのだ。
 その目に情や救いは一切なく、ただ真っ直ぐに殺意を向けていた。
 即座に炎を練り上げ、波にして放ち相手前衛を焼き払う。
「ぐぁ!」
「こいつ!」
「チッ」
 クリーンヒットこそ生まなかったが、その動きは牽制となり相手の勢いを間違いなく削ぐ。
 そうしてフィオナと赤貴が開いた血道を、志穂が駆け抜けた。
 暦の因子特有の優れた動体視力でもって最適な道を取り、彼女はグリーンへと肉薄する。
「くぅのっ……!」
「ふっ!」
 元プロボクサーの技の冴え、しなやかな体捌きから鋭いボディブローが放たれる。正拳の一撃が決まる。
「ぐっふ」
(浅い? いや、外された……これが人を越えた覚者の動きなのね)
 靴を鳴らし距離を取りながら、志穂は今まで培ってきた己の技術とは別の高い道筋を感じていた。
(でも)
 志穂はその壁を前にして闘志を燃やす。自分の弱さを感じながらも、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「ねぇ、ヒーロー。もう少しボクに付き合ってよ」
「こ、なくそ!」
 接触を嫌い力任せに振るわれたグリーンの拳が志穂を捉え、振り抜く腕の先で志穂の体が地に転がる。
 避け得ることこそ出来なかったが、志穂は一歩一歩の手応えを戦場で感じていた。
「レッド、こいつら思ったよりつええぞ!」
「チッ、ブルー! 支援頼む!」
「もち!」
 声を掛け合い、ブルーがレッドに海の力を宿した衣を纏わせる。
 各々の初手から戦場はめまぐるしく動き、前衛同士は入り乱れ、支援に回る者達も皆必死に立ち回っていた。

●決定的な違い
 ジャスティスファイブの五人は、彼らFiVEの覚者を相手にしても遜色のない動きをしていた。
 流石に一線級である者達に比べれば見劣りするが、経験の浅い志穂は次第に実力差に押し切られていく。
「まだまだ、足りないから」
「しぶてぇなぁ!」
 イエローの放つ斬撃をどうにかナックルで受け止めて、反撃の正拳。しかし体力を消耗する技は確実に自らも追い込んでおり、
「これで終いだ!」
 返す刀に切り伏せられ、遂に地に倒れる。
「志穂!」
 即座にカバーに入ったフィオナがブラックの追撃から志穂を庇い直撃を受けた。
「まず一人だ」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべるレッドに、相対している柾と灯はしかし動じない。
「勝ち誇るにはまだ早いな」
「ですね」
「なに? ……ちっ!」
 隙は許さないとばかりに、赤貴の召炎波が燃え盛る。その間に柾も気の弾丸を相手の後衛へと打ち込んでいく。
 戦いの経験と熟練で、覚者達はジャスティスファイブを圧倒していた。そして、
「なっ!?」
「妖に立ち向かうなら、この程度で音を上げたら駄目だよね」
 命を賭ける覚悟においても、彼らはジャスティスファイブを凌駕する。
「大丈夫?」
「平気」
 気遣わしげなフィオナに笑みを返し志穂は立つ。彼女はまだ、折れてはいない。
「ぐ、喰らい過ぎたか……」
 蓄積したダメージにグリーンの体勢が不安定になっていく。ブルーの回復は追いついていなかった。
「だが、それはお前も同じだろ!」
「!?」
 今度こそ、弾かれた種子は秋人へと付着し、茨となって彼の体を痛みに躍らせる。
「レッド、今だ!」
「おう!」
「やらせません!」
 呼び声に応え駆け出したレッドを妨害しようと灯が身を晒す。しかし、
「どけっ!」
 天駆で加速した者同士、一瞬の駆け引きが勝敗を分ける。身を限界まで屈めたレッドが彼女の脇をすり抜けた。
「トドメだ!」
 レッドが己の拳に炎を纏わせ大きく振りかぶったその時、
「だぁぁぁ!」 
 フィオナが無理矢理体を動かしレッドの攻撃に身を晒したのだ。放たれた拳は秋人ではなくフィオナへと吸い込まれ、
「がふっ」
 直撃。蓄積されたダメージに彼女の意識が揺さぶられる。が、彼女はそれを歯を食いしばって凌いだ。
「なっ!?」
 驚くレッドに、フィオナの視線が突き刺さる。
「それでいいのか? 本当はどうなんだ!?」
 彼女の問いかけに、レッドはとっさに答えられなかった。
 そしてその隙は、フィオナと同時に行動を起こしていた赤貴にとって絶好の瞬間だった。
「貰った」
 彼の狙いはあくまで優先度に従って。意識の外れたレッドを脅威とみなさず、真っ直ぐに狙いを定め……
「ぐぁぁぁぁ!」
 貫通する衝撃波を放ち、レッドとグリーンを纏めて撃ち抜いた。
「グリーン!」
「逆転だ」
 膝をつき倒れ伏すグリーンに意識を取られたイエローへ、柾が接敵していた。
「……Ahhhhhhh!!」
 今までレッドの猛攻に耐えに耐え、ギリギリまで追い込またからこそ撃てる渾身の一撃。
(あれは、タツヒサ!?)
 志穂はその技を知っていた。今は亡き逆転のプロボクサーの真骨頂。一撃必殺の御業。
「あっ……?」
 真っ直ぐに射抜いた拳はゆっくりと引かれ、それと共にイエローは小さな声をあげ崩れ落ちた。
「一度、妖と戦ったことがあるんだってね」
 自らを侵す痺れを癒しながら、秋人はレッドへと語りかける。
「その時何があったのかを俺は知らない。けれど、その一度だけでも、キミ達は先代の意志を継いで戦ったんだよね?」
「それは……!」
「あ、あたしらのことなんも知らねぇ癖に説教してくんじゃないわよ!」
 戸惑うレッドを横目に、激高したブルーが仲間の回復を怠り攻撃を開始する。
 その判断が決定打となった。
「ふざけんな、俺達が負けるわけ……!」
「勝敗は決したんです。これで、終わらせます」
 癒し手を失ったジャスティスファイブは自らを強化するタイミングも失い、連携で戦力を維持するFiVEの覚者に大きく後れを取った。結果、最後の抵抗として放たれたレッドの拳も、反射速度を高めた灯に決定的な一撃を加えるに至らなかった。
 すれ違いざまに灯の放った鎌と鎖の二連撃が、消耗していたレッドの炎を吹き消した。
「ち、く、しょ……」
 意識を失い地に伏したレッドを見た他のメンバーは一様に表情を青くする。要を失ったことで彼らの戦意は完全に砕かれた。
「お話、させてくれますか?」
 冷えた頭に投げられた灯の言葉を、もはや誰も振り払うことは出来なかった。

●変わるべき物
 戦いが終わり大人しくなったレッド達に、覚者達は事情を聞き始めた。
 レッドを除いたメンバーはあっさりと口を開き、それぞれに事情を語っていく。
「先輩に頼まれた時は舞い上がってたさ。あの人らの活躍は自分の目でも見てたからな」
「あの人達に続くんだって、俺らも妖と戦ったんだけどよ。上手くいなかったんだ」
「お互いに手傷を負って、妖は逃げてさ。一応、あたしらが護ったってことになったんだけど……」
「あんな怖い目に遭うなんて思ってなくて」
 初めて自分達だけで行う戦い、命のやり取り、憧れだけで挑んだ道は想像よりも危険で恐ろしかった。
 いつしか恐れは鬱屈した感情に代わり、不安を払うために外へ吐き出された。
「そして、今みたいになった。か」
「なるほどな」
 事情を聴いた秋人は彼らに頷いてみせ、柾は深く溜息を吐いた。
「………」
 レッドは敗北を認めたくないのか、何かを我慢するかのようにただ覚者達を睨みつけていた。
「お前達は強い。けど俺達の方がもっと強かった」
「うるせぇ」
 柾の言葉に返す悪態は、戦う前よりも大人しい。きっと彼は一番、色々と考えていたのだろう。
 彼らは確かに間違えていた。やり場のない感情を、胸に湧き上がるもやもやを発散させる方法を。
 ならば、と。フィオナは力強く声を張る。
「今ならまだ戻れる! 私も手助けするぞ!」
「戦う理由は何でもいいよ。信じさせて。キミ達にマフラーを託した人の想いを、ボクは信じてるから」
 続く志穂が手を差し出せば、ブルーがその手を掴んだ。
「………」
 何かを言いたげに、けれど言い出せない。そんな様子の相手を覚者達は優しく見守る。そして、
「……ごめんなさい」
 初めて零れた謝罪の言葉に、彼女が、そして彼らが新たな一歩を踏み出したのだと確信した。
「良かった」
 ホッと胸を撫で下ろす灯が、ふと視界の端で動く人影に気づく。
「………」
 一足先に治療を終えた赤貴が、彼らに背を向け歩き出していた。
「葦原さん?」
 彼女の呼び声にも反応を返さず赤貴は一人、商店街へと歩みを進めていた。
 その目は戦っていた時と同じ、真剣な眼差しを保っていた。
 
 商店街には、この地域で集まれるだけの人々が集まっていた。
 大きな喧嘩が始まるのではないかと恐れ、警戒し、ことの顛末を見届けようと集ったのだ。
「ああ、暴力を振るう人達が遂に取り返しのつかないことを……」
「先代は良かったのに……」
「そもそもが迷惑だったんだ……」
 口々に不安や恐れを吐き出しては、身を震わせ、恐々と公園を遠目に見守っていた。
 そこに赤貴はやってきた。
「………」
 ただならぬ気配を発する少年の登場に、人々は何事かと視線を集める。
「……ふん!」
 赤貴は手に持っていた剣を思い切り地面に突き刺した。敷き詰められたタイルの隙間を貫いて、それは地面に真っ直ぐに起立する。人々から恐怖に、驚きに声が上がる。
「な、何をするんだ!」
 商店街の会長らしき人物が声を張る。その瞳には怒りと、やはり恐怖とが映っていた。
「ジャスティスファイブはオレ達FiVEの覚者が諌め、落ち着かせた。彼らはこれから変わっていく」
 代表を見定め、赤貴は真っ直ぐな視線を向け口を開く。
「だが、オレはそれで終わるとは思わない。……変わるべきは彼らだけなのか」
 幼げな顔つきにも関わらず鬼気迫る気配を発する赤貴の声に、集まった人々は皆言葉を失っていた。
 何より彼の突き立てた剣の存在感が、彼の容姿以上の説得力を持っていた。
「覚者でも傷は負う、妖と戦えば死にもする。戦いは命を賭けて行われるんだ」
 視線を巡らせれば、多くの混迷と不安、そして怒りの感情が見える。彼はこの視線の意味を知っている。
 だから、赤貴は己のやるべきことを迷わない。
「多少の賃金、その場限りの労い。そんな安い対価で命を張るヤツがいると、本気で考えているのか?」
 言い切る。
「守られるのが当たり前だと、思っていないか?」
 問いかけに多くの人々の表情が色めき立った。何より目の前の会長と思わしき男がハッとしていた。
「もしそうなら、町を守る戦いを一部のみに押し付けるなら、遠からず同じ騒動が起きるだろう」
「……そうか」
 会長は言葉を受け止めたようだ。彼の視線が公園で話し続ける仲間達へと向いたのを赤貴は見逃さなかった。
 誰一人として、彼の言葉を子供の勝手な物言いだと無視することも、侮り嘲ったりもしなかった。
「勘違いしてはいけないが、戦いとは戦闘行為のみではない」
 だからこれは赤貴なりの贈り物だ。
「それぞれの職・立場・能力に合った『町を守る戦い』がある。目を、逸らすな」
 もう一度、彼は町の人々を見回してから、突き立てた愛剣を抜いた。
 町の人に背を向ける。言うべきは言った、後は彼ら次第だ。
「葦原、あいつらとケーキ食べに行くことになった」
「なんで?」
「ボクの提案」
「その後はボランティアだ! 私達も手伝うぞ!」
「なんで?」
 合流し、歩き出す。もう彼は振り返らなかった。


 ―― 七海 灯による事後観察報告記録(一部抜粋)
 その後、ジャスティスファイブは名を変え地域の自警団として活動を再開することになりました。
 ボランティアではなく地域社会の一員として彼らを明確に取り込むことで、活動を補佐する目的だそうです。
 FiVEとの関係も良好。協力関係を築けています。

 私見ですが、町を守るという志さえ同じなら、名前なんて何でもいいのだと思います。
 この新しいともしびが、人々の平和と安全を末永く守り続けますようにと、望んでなりません。

■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

依頼完了。覚者の皆様はお疲れ様でした。
ジャスティスファイブは名を変え、新しい形で人々と共存し平和を守ることでしょう。
彼らに負けず、彼らを見捨てず、更には多くの人の心を動かして。
文句無しの大成功です。
楽しんでいただけましたら何よりです。
次の機会もまた、よろしくお願いします。




 
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