<ヒノマル戦争>伊賀中継基地制圧作戦
<ヒノマル戦争>伊賀中継基地制圧作戦


●伊賀中継基地
「皆、ヒノマル陸軍との戦争状態はまだ始まったばかりだ。こちらからも攻撃を続けていくぞ」
 中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者たちへと頷いた。
 現在ファイヴとヒノマル陸軍は、きたるべき決戦に備えて互いの重要拠点を制圧・防衛している。
 民間人への被害軽減や非戦闘員や工場への襲撃回避といった条件の一致により、両者にはFH協定が結ばれ、チーム戦による勝敗によって拠点制圧の是非が決められる。
「今回我々が制圧するのは、ヒノマル陸軍が秘密裏に管理している中継基地だ。
 前回の京都決戦において装備の別途運搬用中継基地の役割を果たしていたのを、調査員が発見したものだ。
 普段は空き倉庫として放置されていて、今は空だが、次の決戦では装備の運搬に用いられるだろう。逆に言えば、この拠点を制圧することで装備のレベルを落とすことができるというわけだ。
 この勝負に勝てば基地を明け渡すことになっている。皆、気を引き締めてかかってくれ」


 広大なコンクリートヤード。
 その中央に古風な侍があぐらをかいていた。
 腰には刀が二本。
 二刀流専門の刀『地国刀』である。
 そう、彼こそは知る人を知る『禍ツ神』地獄刃鉄である。
「地獄刃鉄殿……戦いの気配を感じておられるか」
 声をかけてきたのは顔まで覆った武者鎧の男である。
 地獄刃鉄はすっくと立ち上がり、背後に寄ったであろう彼を高速で三度切りつけた。
 が、切り捨てたのは相手の残像。
 更に後ろに回った男が、覆いの側面を撫でた。
「おお、物騒物騒」
「趣味の悪い男だ……」
「禍ツ神に言われてはおしまいですな。おお、心外心外」
 言いつつも、男……『第三覚醒隊隊長』八幡ヤハチは弓を構えていた。
 弦を満たし、発の前。
 だが矢の先端は既に断ち切られ、足下に落ちていた。
 ため息をついて弓を下ろす八幡。
「戦いを前に血が騒いでおられる」
「貴様もだろうに」
 刀を納める地獄刃鉄。
 八幡は振り向き、手を叩いた。
「扶桑、山城」
「「ハッ――」」
 頭巾を被った二人の影が、薙刀を携えて現われた。
「闖入者がおります。いかように」
「なんと……」
 扶桑たちの先に、石のつぶが集まるように人の形が形成された。
 それはやがて一人の老人となり、二本の刀を携えている。
 ぴくりと眉を動かす地獄刃鉄。
「あれは、天獄刀」
「いかにも。貴様とは初対面だが……この刀が呼び合っておるわ」
 鎬次郎。またの名を古妖『地蔵』。
「ファイヴに救われた村の恩、今こそ返す時。そうだな柄司!」
「おう、じいさん!」
 自転車をぎゃりぎゃり漕いで現われたのはフードパーカーを羽織った少年、柄司である。
「あれから彩の因子に発現した俺のパワー、見せてやるぜ!」
 二刀流の構えを撮る鎬次郎と柄司。
「おもしろい……」
 地獄刃鉄たちはそれぞれ構え、修羅の空気を満たしていった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.戦闘に勝利する
2.なし
3.なし
 戦闘フィールドはコンクリートヤード。
 平たく硬い地面です。すぐそばに空の巨大ガレージがあります。
 敵戦力は以下の通り。

・『禍ツ神』地獄刃鉄:古妖。詳細不明
 →二刀流の古妖。過去に戦闘経験がありますが、ご神体の刀を手にしたことで戦闘力が格段にアップしています。軽く覚者チーム一つ分はあるでしょう。
・『第三覚醒隊隊長』八幡ヤハチ:天行獣。詳細不明
 →弓の名手。かつスピードタイプ。
・『第三覚醒隊』扶桑:覚者、詳細不明
 →薙刀が武器
・『第三覚醒隊』山城:覚者、詳細不明
 →薙刀が武器

 敵戦力がはっきりしていないので、戦闘力の推察や分析、味方の連携を密にしていきましょう。
 ファイヴ側協力団体の配置も重要になります。

●協力団体
 ファイヴに協力する団体、『天獄村自警団』の一部が戦闘に加わります
・鎬次郎:古妖地蔵。村から遠く離れてパワーダウンしているが、覚者一人分の戦闘力をもつ。中級体術を一通り扱える。
・柄司:火行彩。ガンガン責めるパワータイプのアタッカー。術式攻撃に頼るタイプ。割と昔から鍛錬を積んできたので覚者としての戦闘力も一人前。

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・補足ルール1
 EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
 ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所』をEXプレイングに書いて送ってください。
 対象は『現在判明しているが制圧できていない拠点』か『まだ見つけていない捜索中の拠点』となります。捜索中の拠点を指定した場合、発見し次第攻撃可能となります。
 『3票以上』ある対象を票が多い順に中恭介が採用していきます。
 票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
 投票は本戦争期間中ずっと有効です。
 また、対象拠点はシナリオの成果に応じて発見できることがあります。

・補足ルール2
 ヒノマル陸軍に所属する主要覚者の能力は殆どが未解明です。
 しかし戦闘の中で能力を探り出すことで今後の依頼にその情報を反映することができます。

・補足ルール3
 性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
 ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
 協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。

※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
 ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。

・FH協定
 ファイヴとヒノマル陸軍の間に交わされた戦争上の協定です。
 戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
 兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
 双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいます。
 双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
 またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
 こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
 互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意しています。
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状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年11月25日

■メイン参加者 6人■



 余事は無粋、合戦場の火華を見よ。

 『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の片腕が切断され、回転しながら飛んでいく。目を見開いて血を吐いた、しかし狂ったように笑う刀嗣の刀が地獄刃鉄の首に添えられた。
 めり込み、押し込み、斬り込んでいく。
 やがてころりと落ちかけた地獄刃鉄の首が砕けて散り、砂塵となって再び首へと戻っていく。
 刀嗣の腕もまた、気合いを入れただけで元の綺麗な姿へと戻る。
「前より格段にやるじゃねえか! 奥の手の一つでも出させてやるぜコラァ!」
 背後に回り込み、死角から強烈な斬撃を仕掛けようとせまる『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
 横から飛んできた矢が首を貫通するが、無理矢理引き抜いて舌を出した。
「櫻火真陰流! 美少女剣士酒々井数多! いざ尋常に勝負して散華してバラして並べて揃えて晒してやるわ!」
 言っている間に再び飛来する矢。空中で無数の雷の矢へと分裂していく。
 数多や刀嗣たちに降りかかるが、その間に割り込むように鎬次郎と柄司がふた振りの刀を嵐のように振り回した。
「俺もなかなかのモンだと思ってたけど、奴らもめっちゃ強えぜ。勝てるのか奏空!」
「勝つんだよ、柄司!」
 同じく刀をふた振り抜いて構える『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「正直、争いごとは嫌いだけど……お前が居るならやるっきゃない。きせき!」
「……う、うん!」
 『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は身長に見合っていない大きな刀を守護使役に手伝わせながら強引に引き抜くと、交差させるようにふた振り構えた。
 合計八本。アシンメトリーに並ぶ四人。
「一生懸命、がんばるよっ!」
「おお、重畳重畳」
 八幡を中心に扶桑山城がそれぞれ構える。それぞれ日本の代名詞とも言うべき名前だ。タダ者では無いだろう。
 特に八幡は頭に三度笠を被り、軍服に着流しを上から羽織るという奇妙ないでたちの男である。弓は異様に古びていたが、どこからともなく矢を無数に抜き出しては、それらをいっぺんに放ってくる。
「こんくらい……なめんな!」
 鹿ノ島・遥(CL2000227)は額に直行した矢を眼前でキャッチ。握力でへし折る。
「FiVE所属! 鹿ノ島遥! 天行の空手使い! ヒノマルの方々、お相手つかまつる……てな!」
 空中で軌道を変えて迫る無数の矢の群れを見上げ、跳躍からの回し蹴りで蹴散らした。
 左右に控えた柄司と鎬次郎が舞うように刀を打ち落としていく。
「おっちゃん、地獄刃鉄のこと知ってんなら教えてくれ!」
「今の地獄刃鉄のことは知らん。地蔵が蓄えた石の記憶に、七百年前に見た刀があるのみだ。戦いに役立つことはなにも言えん。だが、奴の御神体……つまり本体が刀にあることは確かじゃな」
「あそこが弱点ってことか!?」
「逆じゃ。あそこが強点。身体はそれを動かすための道具にすぎん。しかし身体を切り続ければ止めることもできよう」
「んっ、ん?」
 一気に言われてよくわかんない遥に、柄司が親指を立てて言った。
「スタンドを攻撃するとスタンド使いにダメージ行くだろ? あれだぜ!」
「なるほど!」
「それより今ワシらが対抗すべきは八幡という男。鹿ノ島殿、貴君が地獄刃鉄と戦う間、ワシらは奴を押さえる! よいな柄司!」
「おうじいさん! 奏空、きせき、巨乳同盟復活だ! 一緒にやろうぜ!」
 柄司に言われて、奏空は力強く、きせきは首を傾げながらそれぞれ頷いた。
「僕は地獄刃鉄の能力を探るね。他は……」
「八幡、私が」
 半歩前へ出る『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)。
 刀を鞘に納め、巻き付けた札によって霊媒とした双刀を掲げている。
「フフ……ここまで双刀が並ぶのも、壮観」
「間接的に、ですが、お世話になっております」
 祇澄は小さく頭を下げ、地獄刃鉄のスキャンを始めた。
「集中しての、スキャンですから……その間、戦線を」
「わかった、支えてみせる……!」
 奏空はダッシュからの跳躍。
 彼を狙って放たれる八幡の矢。奏空は対抗して刀を十字に切ると、雷を拡散発射させる。
 無数の雷撃が絡み合い、交わる蛇のごとくねじれてこじれて、炸裂した。

 作戦概要をおさらいしよう。
 敵は地獄刃鉄、八幡、扶桑、山城の四人体勢。
 しかし覚者チーム一つ分の戦力をもつという地獄刃鉄をどう対処するかが一番の勝負所となるだろう。
 一方でこちらは全員がアタッカーで構成された布陣だ。祇澄やきせき、奏空たちは回復手段を持ってはいるがそれはあくまでサブウェポン。前線の最終体力を9割以上に保てるかといえばそうではない。長期戦には向かないのだ。
 となればとれる手段はただ一つ。誰もが至る最短ルート。
 『やられるまえにやれ作戦』である。
 地獄刃鉄へ徹底的に攻撃を加えることで相手の主戦力をくじくというものだ。
 作戦におけるブレがあるとすれば、敵戦力の把握を求めて祇澄やきせきをスキャナーに割いたことくらいか。
 このロスが戦線維持にどれだけ響くかが勝負の分かれ目となる。勝っても負けても敵戦力を把握できると言う意味では、最初から三割勝ったようなものである。大胆なようでいて堅実な、よい戦闘プランだ。
 ちなみに、序盤はきせきが地獄刃鉄を、祇澄が八幡をスキャンしていたが、戦術的にみて逆のほうがスキャンに集中してない時でも平行しやすいということで途中から注目対象をチェンジしている。
 恐いのは伏せ札となっている八幡たちの戦力である。扶桑山城は戦力バランス的にサポーターになることは確実。八幡がアタッカーとサポーターのどちらに回るかは正直微妙な所だったが、前線と戦う地獄刃鉄と攻撃対象をあわせず奏空たちに雷獣を浴びせているところからサポーターであることがハッキリした。
 これをどう対処するかだが、今回頼りになるのは奏空ただ一人。彼のプランは雷獣を八幡扶桑山城に浴びせて『痺れ』状態とし、動きを三割弱確率で止めようというものだ。
 対する扶桑山城は清廉珀香や大樹の息吹といった保護スキルで対抗。
 奏空のスピードがあるので扶桑たちよりも多く激しく動けるが、八幡もまたスピードタイプ。彼とスピードで拮抗状態を作るというところで対抗していた。ということで、鎬次郎と柄司は(激しく動き回る地獄刃鉄を集中攻撃する刀嗣たちが扶桑山城とブロック対抗をはかるのはやや無理があるので)中衛からサポートする扶桑山城にブロックをかけつつ対抗するという形をとっていた。
 これで、ヒノマルサイドとファイヴサイドの戦力が互角にぶつかりあう状態となったのである。


「俺様に負けて泣くなよ酒々井妹(ゴリラ)ァ!」
「ねじ切るわよ諏訪!」
 両サイドから繰り出される刀嗣と数多の斬撃をそれぞれ受け止める地獄刃鉄。
「奥義的なやつこい! ラニってやんよ!」
「そんなものはない」
 数多と刀嗣を高振動によって弾くと、地獄刃鉄は走り出した。
 それを追って走り出す刀嗣と数多。
「逃げんのか!?」
「いえ、場所を移すようです。私たちも……!」
 祇澄と遥も後を追って走り出す。
 飛び込んだのはすぐそばの巨大ガレージである。
 打ち付けた木の板を破壊しながら飛び込む地獄刃鉄。
 その後ろを高速で走り、刀嗣数多が二人同時に跳躍。
 アシンメトリーかつ大上段に構えて叩き込む。
 対する地獄刃鉄は刀を双方逆手に握り直し、二人の刀を外側へと強制的に受け流した。
 衝撃がコンクリートヤードを打ち、爆発したかのように粉砕する。
 再び順手に持ち直し、二人を高速で幾度も斬りつけた。
 同時に首へと迫る刀。
 が、首筋を切断する一瞬前に数多の身体に霊力膜が出現、火花を散らして刃を弾いた。
「これは――」
 ガレージの入り口で、納めた刀を水平に突きだしている祇澄。
 彼女の紫鋼塞による補助である。
「地獄刃鉄」
 祇澄の前髪がぱきりと割れ、青い瞳がらんらんと輝いた。
 瞳孔にかぶるように特殊文字の祝詞がぐるぐると回っている。
「あなたの正体、見破りました!」

「こいつら地味にしぶといぜ、大丈夫か奏空!」
「大丈夫……じゃないけど、大丈夫にする!」
 浴びせられたバッドステータスが地味にキツい。奏空は途中からその解除に専念することにした。
「八幡たちの妨害はちょっと激しいけど、攻撃力はそんなじゃない。俺の術式で対抗できるよ!」
 奏空は双刀をそれぞれ逆手に握り込むと、回りながら空間に無数の字を刻み込んだ。
 光の軌跡となって描かれた字が力を持ち、きせきたちの以上状態を解除していく。
「きせき!」
「うん!」
 きせきはジャンプして地面に刀を突き立てると、大地にエネルギーを送り込んだ。コンクリートを割って飛び出す無数のツル。
 柄司は刀に炎を宿すと一度納刀。ふた振り同時に抜刀し、炎のうずを発生させた。
 相手の動きや術式の動き、そして本能的に感じたエネルギーの動きを逐一自由帳に鉛筆で書き記したきせきが、最後にピッとチェックをつける。
「これでわかったよ、八幡の性質。奏空にすごく似てるんだ!」
「俺に……?」
 三度笠の間からちらりと覗く眼光に、奏空は脳裏を刺激された。
「そうか、演舞と雷獣で味方を守る……そういうことか、八幡! なら!」
 奏空は自らのエネルギーを刀にめいっぱいねじ込んだ。
「どっちが上か、勝負だ!」

 一方こちらはガレージ内。
 数多が派手に吹き飛ばされた。積み上がった木箱の山に突っ込んで粉砕し、地面を転がる。すぐさま身をひねって立ち上がるが、その横を遥が猛然と駆け抜けた。
「俺の後ろに下がってろゴリラ! 戦いながら覚える! 言ってくれススム!」
 ダッシュの勢いをそのまま乗せた突き。
 交差した刀で受ける地獄刃鉄。
 刃に自らの拳を打ち当てているにもかかわらず、まるで拳は傷ついていなかった。
 その後ろで防御補助の術式を組みながら語る祇澄。深く呼吸し、長語りに備える。
「地獄刃鉄は刀の妖怪。いわゆる妖刀のたぐいです」
 遥は軸足蹴りから肘打ちに発展。相手の側面に回り込んで手刀を起点に更に回転し膝蹴り、裏拳、掌底からの掴みねじり上げからの顎打ちへと単独で連携していく。相手の周りを舞いながら回るような美しい型である。
 祇澄の語りは続く。
「お話に寄れば戦乱の世に生まれる禍ツ神とのことですが、家内安全や安産の願いごとがあるように、『怨敵必殺』の願いから生まれた神なのです。それゆえ敵を倒すことにのみ特化し、特別な芸や技を持ちません。連続で斬る、強く斬る、一斉に斬る。ただそれだけなのです。けれど『それだけ』がどこまでも力強い……それだけの願いで生まれた神なのです!」
「なるほど、百パーセント分かったぜ!」
 胸をざっくりと切り裂かれながらも、遥は顔の血をぬぐって笑った。
「すげーバトルができるってことだよな!」
 敵が強ければ強いほど高揚し、痛みが強ければ強いほど迎え撃つ。遥にとって最高に相性の良い敵である。
 強烈な正拳突きが顔面を打ち、地獄刃鉄は吹き飛んだ。
 鉄骨をへし折って地面をワンバウンド。ワイヤーで吊っているかのように不自然な体勢移動で足を地面につける。
「おい、地獄刃鉄」
 遥は血まみれの拳を突きつけ、ギラリと笑った。
「楽しんでるか。いや、楽しもうぜ。出すもん全部出し合って、スカッとするんだ。いいだろ」


 戦いも佳境である。
 数多は無くした手首が頭上を回転しているのを見て、相手の腕を蹴り上げた。
「それ何流? どこ住み? ラインやってるぅ!?」
 尋常では無い出血。破れた服もそのままに、落ちてきた刀を手首ごと片手でキャッチ。
 両手持ちの勢いが出せないからと口でくわえて、美しくウィンクした。
「くはえ!」
 どこまでも強引な斬撃。
 間に挟まる物すべてを薙ぎ払うような横一文字斬りに、地獄刃鉄は防御状態のまま吹き飛ばされた。
 ガレージの壁を突き破り、コンクリート面の上を飛ぶ。
 刀を地面に突き立てて強制ブレーキ。
 着地した所に刀嗣が突っ込んでいった。
「小細工は通じそうにねえや。どうせテメェもヘタクソなんだろ? 頭回したり小技使ったりってえのはよ……!」
 刀嗣は刀をまっすぐに構え、全身全霊をかけて突撃をしかける。
 対する地獄刃鉄も刀を構えて突撃。
 刀嗣の心臓と地獄刃鉄の心臓部をそれぞれ刀が貫通した。
 目を見開き、歯を食いしばる刀嗣。
「『一本』とった!」
「一本ってそういうんじゃねー!」
 別方向から回り込んだ遥が飛び込みからの浴びせ蹴りを仕掛ける。
 地獄刃鉄の頭部をサッカーボールよろしく破壊して蹴り飛ばす。
 一方で遥の足が根元から切断され、遥は顔から地面に落ちた。
「こういうやつだ!」
「それも違うと思いますが……」
 駆けつける祇澄。
 鎬次郎と柄司はそれぞれ傷つき刀を杖のように突いていたが、そのぶん奏空ときせきは無事なままだ。
「神室さん、あいつの状態は!?」
「あと一歩です。……御影さん、やれますか?」
 祇澄の問いかけに、きせきはハッとした。
 自分が刀を強く強く握っていたことに。
 同時に、口角が上向き、目を見開き、頬を赤くしていたことに。
 わくわくしてる? ぼくが? 刀を持って?
 柄司が後ろから呼びかけてきた。
「やってやれきせき! これは俺たちだけに許された、俺たちだけができる戦いなんだ!」
「そうだぜきせき……」
 鼻血を流し、ゆっくりと身体をおこす遥。
「戦いを楽しめ」
「……うんっ!」
 きせきの目に星が宿った。
 祇澄の目が青空のように輝いた。
 奏空の目が見知らぬ戦乱の日を描いた。
「いくぞ、皆!」
 高速で飛び出す奏空。
「受けて見ろ!」
 地獄刃鉄の横を超高速で駆け抜ける奏空。
 あまりのスピードに体勢のぶれた所に、祇澄が刀の鞘をドンと打ち付ける。
 決定打とはなりえぬ弱々しい小突きであったにも関わらず、崩れた体制がより深く崩された。
 ハイクイックターンとムーンサルトジャンプで戻ってくる奏空。
 同時に攻め込むきせき。
 奏空ときせきの斬撃が複雑に交差し、地獄刃鉄の身体が六分割された。
 ばらばらと崩れ落ちる地獄刃鉄。
 三人はそれぞれ刀を構え、八幡へと向き直る。
「次は――」
「いいや、次はございませぬ。小生らは降参しまする」
 弓を肩に担ぎ、矢をしまう八幡。扶桑山城もそれぞれ薙刀を守護使役の中に収納していた。
 最大戦力をくじかれた今、勝算のない戦いにベットするのは命数の無駄遣いと考えたのだ。
 腕からだらだら血を流した刀嗣が、刀を杖にして立ち上がる。
「おいこら、自分が殺されねえのがつまらねえ。俺だけ殺していいことにしねえか。アタリのおっさんには俺から言うからよ」
「……」
 八幡は祇澄たちに『その男は単独で組織の運営権を持っているのか?』といった視線をなげかけた。
 首を横に振る祇澄。
 自分でも分かっていたようで、刀嗣は舌打ちした。
 八幡は地獄刃鉄の本体とも言うべき刀を回収すると、三度笠をつまんで頭を下げた。
「小生らの敗北でございまする。これを」
 八幡の差し出してきた封筒。びりびりと封を破いてみると、手書きの地図が二枚入っていた。
「小生ら第三覚醒隊の拠点と、地獄刃鉄殿のファイヴ直近拠点でございまする」
「京都の愛宕山と、内川の墓地公園……ですか」
 地図を確認して顔を上げる祇澄。
 するとそこには、既に八幡たちは居なかった。

 ――拠点『伊賀中継基地』の制圧に成功しました!
 ――新たな敵拠点『京都愛宕神社』『内川墓地公園』を発見しました!

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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