<玉串の巫女・撃>破魔のゆづる、満を持して
●未知なる大妖の気配
あらすじを語る。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、反撃の準備を整えていた。
一方で巫女たちの救出へ一方的に加わったファイヴはその身分を明らかにし、現状の打開をすることでおおむねの合意を得たのだった。
神社本庁とファイヴにおける一時的協力体制の、そして反撃計画の幕開けであった。
●豊四季神社奪還作戦
「妖の軍団に襲撃され、陥落したのはあの神社だけではありません」
集会場に集まって説明を始めたのは玉串の巫女第四席『豊四季』である。
場には本作戦に加わることを望んだファイヴの覚者たちも集まっている。
「同時多発的に複数の拠点が襲われました。
『玉串の巫女』は日本各地にある神社庁所属神社の全てを仮拠点にできますが、その中でも特に装備の整った八箇所の神社が、現在占領状態にあります」
詳しい話は省くが、それぞれを玉串の巫女台一席から第八席までが管理を担当しており、便宜上初富神社や豊四季神社などと呼ばれる。(※実在する同名の神社とは別ものものである)
「今回はこのうち、最初にSOS信号をキャッチした『豊四季神社』の奪還を試みます。
まずは私『豊四季』、生き残った戦闘巫女『黒子衆』、そしてファイブの精鋭六名による混成部隊を結成。
過去の実績から、皆さんひとりひとりに1チームの戦闘部隊をつける形で作戦行動を共にして貰います」
豊四季神社は巫女の標準装備である破魔弓の生産を行なっていた施設である。
十七台目になる豊四季もまた破魔弓の製法を受け継いだ巫女の精鋭だ。
そんな装備の充実した施設を襲撃し、そして陥落させたのはランク3の妖が率いる軍勢である。
「神社は東西それぞれに入り口をもつ神社で、特殊な結界によってその二箇所以外に進入路はありません。元は妖用の結界でしたが、逆利用されて人間を弾く結界になっているようです。
偵察部隊からの情報をご覧ください……」
神社の東西の門にはそれぞれR1妖による部隊が展開。守備についている。
また神社をかこむようにR1妖が警戒しており、どこかで戦闘が起きれば近くの妖は現場へ集中することになるだろう。
門を潜るとR2を中心としたR1の中規模部隊がひしめいており、もし中央部に急ぐならこれらを突破する必要がある。
本番となるのは中央部での対R3戦闘である。
「R3の妖を撃破すれば周囲の妖は統率を失い、一気呵成に撃滅することができるでしょう。ですが逆にR3をいつまでも残しておけば部隊が各個撃破によって壊滅していきます。なんとしてもこの目標は叩かねばなりません」
R3妖『ゆづる千万宮』
大量の人骨が組み合わさったような巨大な妖。上半身が十二本腕の女、下半身が蛇の造形をしている。
腕には大量の弓矢を持ち、協力な射撃攻撃を得意とする。
「神社には地下シェルターが配備されています。そこに数名の神社関係者(一般人)が立てこもっていますので、彼らを救出するためにも全ての妖の撃破が必須になります。皆さん、よろしくお願いします」
あらすじを語る。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、反撃の準備を整えていた。
一方で巫女たちの救出へ一方的に加わったファイヴはその身分を明らかにし、現状の打開をすることでおおむねの合意を得たのだった。
神社本庁とファイヴにおける一時的協力体制の、そして反撃計画の幕開けであった。
●豊四季神社奪還作戦
「妖の軍団に襲撃され、陥落したのはあの神社だけではありません」
集会場に集まって説明を始めたのは玉串の巫女第四席『豊四季』である。
場には本作戦に加わることを望んだファイヴの覚者たちも集まっている。
「同時多発的に複数の拠点が襲われました。
『玉串の巫女』は日本各地にある神社庁所属神社の全てを仮拠点にできますが、その中でも特に装備の整った八箇所の神社が、現在占領状態にあります」
詳しい話は省くが、それぞれを玉串の巫女台一席から第八席までが管理を担当しており、便宜上初富神社や豊四季神社などと呼ばれる。(※実在する同名の神社とは別ものものである)
「今回はこのうち、最初にSOS信号をキャッチした『豊四季神社』の奪還を試みます。
まずは私『豊四季』、生き残った戦闘巫女『黒子衆』、そしてファイブの精鋭六名による混成部隊を結成。
過去の実績から、皆さんひとりひとりに1チームの戦闘部隊をつける形で作戦行動を共にして貰います」
豊四季神社は巫女の標準装備である破魔弓の生産を行なっていた施設である。
十七台目になる豊四季もまた破魔弓の製法を受け継いだ巫女の精鋭だ。
そんな装備の充実した施設を襲撃し、そして陥落させたのはランク3の妖が率いる軍勢である。
「神社は東西それぞれに入り口をもつ神社で、特殊な結界によってその二箇所以外に進入路はありません。元は妖用の結界でしたが、逆利用されて人間を弾く結界になっているようです。
偵察部隊からの情報をご覧ください……」
神社の東西の門にはそれぞれR1妖による部隊が展開。守備についている。
また神社をかこむようにR1妖が警戒しており、どこかで戦闘が起きれば近くの妖は現場へ集中することになるだろう。
門を潜るとR2を中心としたR1の中規模部隊がひしめいており、もし中央部に急ぐならこれらを突破する必要がある。
本番となるのは中央部での対R3戦闘である。
「R3の妖を撃破すれば周囲の妖は統率を失い、一気呵成に撃滅することができるでしょう。ですが逆にR3をいつまでも残しておけば部隊が各個撃破によって壊滅していきます。なんとしてもこの目標は叩かねばなりません」
R3妖『ゆづる千万宮』
大量の人骨が組み合わさったような巨大な妖。上半身が十二本腕の女、下半身が蛇の造形をしている。
腕には大量の弓矢を持ち、協力な射撃攻撃を得意とする。
「神社には地下シェルターが配備されています。そこに数名の神社関係者(一般人)が立てこもっていますので、彼らを救出するためにも全ての妖の撃破が必須になります。皆さん、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全ての妖を撃破する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
玉串の巫女のことわからないという人は最後のあたりの説明を読んでください。それでも分からないことがあったら知っている人に聞くとよいでしょう。
●目標
・全体目標:神社の奪還
・メイン目標:R3妖の撃破
・サブ目標:すべての妖の撃退
・サブ目標:立てこもった一般人の救出
※妖は逃走しないものとする。
※立てこもっている限り一般人は戦闘終了まで狙われないものとする。
●エネミーデータ
神社周辺で戦う妖は心霊系・自然系の混合部隊です。物理攻撃が通じづらく術式攻撃をメインに据えた布陣がよいでしょう。また敵の攻撃も特攻寄りが多いようです。
門を潜った中にいるのはR2物質系妖・R1生物系の部隊です。こちらは体術・術式どちらも有効なので得意な布陣を組んでください。
建物の奥でじっと身を潜めているR3妖は、刺激すると建物を破壊して外へ飛び出してきます。がれきを踏みつつの野外戦闘になるでしょう。
・R3妖:ゆづる千万宮
物質系妖。殺した一般人や巫女の骨、神社に奉納されていた道具などが合わさった物質系妖。神社を占領した際に生まれ、周囲のエネルギーを喰って巨大化した。
半人半蛇の十二本腕。弓による高速かつ大量の射撃と、巨体による挽きつぶしが武器。
弓あめあられ:物敵全、中ダメージ
狙い撃ち:物遠単貫2、特大ダメージ、命中補正大
挽きつぶし:物近列大ダメージ
妖を喰う:R1妖一体を犠牲に体力大回復。妖が近接している必要あり。
●部隊戦闘ルール
全員が1チームの部隊をもって戦います。
自分のチームはリーダー(自分)1名+部下5名で形成されます。
部下はプレイングで指示した内容に従って戦います。何も指示を出さなかった場合自分で考えてそこそこに行動します。
(注意:スキル単位で細かく指示しているとプレイングリソースた足りなくなります。簡略化に努めましょう)
戦闘するにあたって『率先して戦う』『指揮に集中する』『戦いながら指揮する』のいずれかを選択して下さい。
率先して戦う場合は自らのフルパワーを使いつつ、チームの援護を受けられます。
指揮に集中すると自分のパワーがあまり出せない代わりにチームのダイス目に大きな補正を加えられます。
両立させるとその中間の効果になります。
●チームの練度やメンバーについて
連れて行くのは『黒子衆』と呼ばれる玉串の巫女候補生で、レベル10~15のそこそこな覚者たちです。命数は少ない。
連れて行くチームは自分で『(チーム名):○○なチーム』とオーダーすることでそれらしいチームが新規に組まれますが、もし自分に深く面識のあるチームがいる場合はチーム単位で指定することが出来ます。
その場合『面識補正』がかかり、ダイス目に影響します。
チームにはチーム名にちなんだ漢字一文字を服に刺繍しています。
既存のチーム:兎、亀、抜、王、死、花
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月09日
2017年04月09日
■メイン参加者 6人■

●昨日よりマシな今日などない
木々の生い茂るでこぼこ道をジープで走る。
豊四季神社へ続く道は細く粗く、そして険しかった。
仮にも武器の生産施設である。そう簡単にアクセスできて貰っては困るということだろう。
ハンドルを握る豊四季を、後部座席の賀茂 たまき(CL2000994)と『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がそれぞれ覗き込んだ。
割と頻繁に聞く名前ではあるが、顔を見るのは二度か三度目である。
「豊四季さん、眼鏡はまだご無事なんですね」
「……なんですか、その基準は。まあ、人体よりは頑丈にできていますけど」
綺麗な光沢をはなつ眼鏡フレーム。豊四季は反応に困ったような顔をした。
「それより、今回はご協力感謝します。改めて言っておきますね。言えなくなる前に」
言えなくなる前に。
そのフレーズに引かれるようにして、たまきが身を乗り出した。
「あの……魂の使用だけは、しないでください」
フロントガラスの向こうだけを見ている豊四季に、たまきは小さく咳払いをして続けた。
「黒子衆の皆さんがあなたを必要としています。あなたまで倒れてしまっては、いけないと……思います、から」
「お気持ち、感謝します」
まだ気持ちはフロントガラスの向こうだ。
「ですが、約束は……できません。現状、私たちが皆さんを巻き込んだ形ですから、いざ責任をとる段階になった時、身を削るべきは私たちにあるはずです。不本意でしょうが、私としても……いえ」
バックミラーごしに、目をそらす彼女が見えた。
「忘れてください。もしもの悲観は足下をすくわれますから。なにか話題を変えましょう。葦原さん、なにかありませんか」
話題を変えようとして他人に尋ねるあたり、なかなか人付き合いの下手そうな女である。
助手席の『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)は急に降られた話題に困って、とりあえずという様子で青銅剣の柄をアテンドから出して見せた。
「七栄の現場で拾ったものだ。返す必要があるなら、返すつもりでいるんだが」
こっちもこっちで人付き合いが得意そうではないな、とラーラは目を細めた。
一方で豊四季はフロントガラスのむこうに意識をやったまま……。
「持っていていただいて、結構ですよ。神具は持ち主を選ぶといいますし、なによりソレが正常に作動しているなら、あなた以外を持ち主に選ばないでしょう。『当代』もそれで納得していますよ」
やがて、車内には沈黙だけが流れた。
数台のトラックが列を成して走って行く。
その中に混じるようにして、『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は後部座席で荒れていた。
「あの性悪巫女! ふっじゃけんじゃないわよ! ぜつゆるなんだから! 生きてなさいよ、お腹蹴り返してやる!」
「乱暴だなあ……」
作戦メモを読み直していた『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が目線だけで数多を見やった。
ファイヴにはこういう感情表現がこじれてる子は珍しくない。それに、責めるようなことでもない。
こじれていると言えば彼もか……という目で『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)を見やる。
彼は彼で窓の外をぼーっと眺めていた。
「リラックス、してる?」
「ぜんぜん?」
プリンスは窓の外に意識をやったまま、右拳だけをぎゅっと握りしめた。
「余だって、遺憾の意が隠せない時あるよ。それが、割と今だよね」
車は途中で分かれ、豊四季神社の東西へと走っていく。
●囮作戦
「作戦をもう一度確認します」
たまきは戦闘準備を整えた兎さん部隊(略称『兎組』)をしたがえて、茂みに身を潜めていた。
蜘蛛とナメクジを混ぜて巨大化したような妖や、全身に巨大な釘が貫通した半透明のマネキンなど、一見して醜悪な連中がわらわらとうろついている豊四季神社の東側通用門前である。
「私たち兎組と花組は東側から襲撃をかけ、門の前に止まって戦闘を行ないます。それを囮にして他の部隊が手薄になった西側から突撃。R3の妖さんを西側までおびき出して戦います」
「私たちはそのタイミングまでしのぎきって、時期が来たら無理にでも突破。他部隊と合流します。準備はいいですね」
ラーラは魔導書を手に、空へ大きな魔方陣を開いた。
「作戦開始――!」
魔方陣から現われた巨大な炎の獅子が、妖たちを次々に食いちぎっていく。
「ラーラ教官。こんなことがでいるなら最初から言ってくださいよ」
「あの時は事情があって……でも今回は本当の戦い方をお見せしますからね!」
術者の襲撃をうけ、周辺を警戒していた妖たちがまず集まってくる。
戦陣をきって飛び出したラーラは第二波に備えつつ手短かに指示を飛ばした。
「皆さん、最初に教えた通りの陣形でお願いします!」
いびつな走り方で襲いかかってくる釘マネキン人形。
抱きつくように釘を刺しにくるが、長い掛け軸を棍棒のように振り込んだたまきによってはじき飛ばされた。
ラーラが第二波を放つと同時に、神社内からR2の妖たちが徐々に加わっていく。
兎組と花組はそれ単体でも遊撃部隊として成立するチームである。そこに高火力な攻撃手段をもったたまきとラーラが加わることで高ランクの妖を退けつつ安定して戦いを続けられる布陣である。
成否のポイントは、どこまで敵の勢いに耐えられるかだが……。
「東側の攻撃が始まったみたい。皆準備いい!?」
プリンスが振り返ると、王子マジラブ組(略して王子組)が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「王子! 大井が私の彼と寝たんです!」
「彼から誘ったんだからワタシ悪くない!」
「けんかはやめてー。てんのーずのかわいさに免じておちついてー」
「てめーも私の元彼ギョフノリってんじゃねーよゴルァ!」
「皆今日も絶好調だね!」
プリンスはグッと親指を立てると、そのまま妖たちの方を指さした。
「そのパッション、ぶつけちゃいなよ!」
「やったるわゴルァ!」
「あとで話つけっからなテメェ!」
「うへへセキきゅん飼いたい」
腕まくりしてポン刀ぬいて、妖の集団へと飛びかかっていく巫女たち。
プリンスもプリンスでハンマーをがっつり盛り上げると、煉瓦を大量に組み合わせたイノシシめいた妖をぶん殴った。
一発で粉砕し、飛び散る砂を振り払う。
「せききゅ――セキシー、大きい女子を丸裸にしておいで!」
「ああ……死番隊、行くぞ」
「「承知」」
うってかわってストイックな死番隊(通称『死組』)が召炎波を放つ赤貴を先頭にして妖の群れをジグザグに抜けていく。かなり強引な割り込み方だ。
道を塞ごうとした巨大な土人形――を、一瞬で真っ二つにしていく数多。
「おーかしんかげりゅうと仲間たち、略して櫻火組。ついてきなさい!」
櫻火組はワントップを支援する目的で結成されたチームである。チーム自体の戦力は低くとも、数多やレギュラー巫女につく形で大きな相乗効果を持つのだ。黒子衆だけで戦わせようとした前回にはない発想である。
数多の回復や強化支援に集中する巫女たち。
そこへ四つん這いで走るゲル状の妖が襲いかかる。敵の強弱で見分けがつかないのかそれとも最初からいい加減なのか、巫女に頭から覆い被さっていく。
が、それを数多は喧嘩キック一発で消し飛ばした。
「次はどいつ? かかってきなさい!」
そんな様子を横目に見ながら、秋人は淡々と自分のチームに指示を飛ばしていた。
「今は持久戦だから回復は最低限にね。R3戦まで気力を温存して」
「りょーかいですせんせー!」
「がんばります、せんせー!」
「ゆみつかうです、せんせー!」
「せんせー……せーたかい」
秋人のチーム癒力(便宜上『癒組』と呼ばれることも)は回復力と防御力で自衛能力を高めたチームである。
しかしまた変な人ばかり集まったな、と思いながらも妖たちに護符で作ったエネルギーの弾を飛ばしていく。
もしこちらに妖が集まりすぎて応戦がキツくなっても、秋人のチームが回復役にシフトチェンジすればすぐに盛り返すことが出来る。今回の大規模戦闘ではとても大事な役どころである。
一方、仲間たちの支援によってR2を含む妖の軍勢を抜けた赤貴たち死組。
「オマエたちの見せ場はここからだ。索敵はじめ」
「「索敵はじめ」」
巫女たちが目や耳や鼻をフル活用し、それぞれの情報を統合。意志データに変換して赤貴へ伝えてくる。
口頭で指示をあおいでいた最初期とは比べものにならない連携効率である。
どころか『終わったら映画見に行きましょーね(はーと)』とか『あしはら教官ってどんな食べ物好きですか?』とか各員一言余計なコメントつけてくる余裕さである。
が、これらの情報を一手に握った赤貴は神社内の製造工場をまっすぐに駆け抜け、壁をぶち抜きショートカット。
「全員停止。出口へ向かって走れ。オレが妖をおびき出したらスキャン開始。完了後最優先で本隊に逃げ込め」
「「承知」」
きびすを返して走り出す巫女たちとは逆に、赤貴は門を蹴り開いた。
無数の骨が継ぎ合わさった巨大な妖が、大きな部屋に横たわっている。
ごりごりと天井や床をこすりながら赤貴を見るなり、腕を強引に伸ばしてきた。
「一撃入れるまでも無かったな」
即座にきびすを返してダッシュ――からのスライディング。頭上すれすれを骨の腕が通過し、壁や天井を破壊していく。
やがて屋根までもを破壊した妖『ゆづる千万宮』は、蛇の身体をうねらせて神社をめちゃくちゃに破壊しながら赤貴を追いかけ回した。
せめてスキャンの時間くらいは稼がねば……と思った時には赤貴の意識に『ゆづる千万宮』の戦力データが送られてきた。巫女たちは一目散に走り、癒組たちの確保したエリアへ逃げ込んでいた。
「……思った以上に優秀だな」
柄にも無く笑いそうになり、赤貴は剣をより強く握った。
西門の前でぐるりと身を返し、剣に炎を宿らせる。強く、強く、叫ぶかのように剣は震えた。
「心配事はなくなった。さて、八つ当たりに付き合って貰おうか」
●ゆづる千万宮
殺した巫女たちの骨を継ぎ合わせた巨大な妖。
死者への冒涜であり、そして人をモノ扱いするその様相に、ラーラはじんわりと怒りがわいた。
「ここまでの作戦は成功したようですね。では――」
ぱちん、と魔導書の封印を解く。
六角形の魔方陣がいくつも連なって現われ、それらが互い違いに回転しはじめる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
群がる妖たちをぶち抜いていく炎の渦。
地面ごと焼いてできあがった道を、花組と兎組が全力で駆け抜けていく。
追いすがる妖にはたまきが御朱印帳を蛇腹に伸ばして結界を張り、無理矢理はじき飛ばしていく。
彼女たちを追って移動を始める妖の大集団。
そして中央の社屋を超えた西側では、ゆづる千万宮と本隊が戦っていた。
豊四季とその部隊の姿も見える。
「私たちも加わります。ここからは出し惜しみ無しですからね!」
「……突撃します!」
それぞれが強化術式をかけなおし、怨敵へと突撃する。
一方、西側はゆづる千万宮と直接の殴り合いになっていた。
無数に生えた腕を使って天に弓を引き、大量の矢を次々に発射するゆづる千万宮。
「皆、力の見せ所だよ」
秋人はそれまでの攻撃姿勢から一転して回復姿勢へチェンジ。護符を扇状に広げて空へ放つと、巫女たちが札を結んだ矢をそれぞれ天空に打ち上げた。
雨あられと飛来する矢を、回復効果でカウンターしていくのだ。
いわゆるところの回復弾幕。よほど最初から体力が削られていないかぎり倒れる心配はない。
「回復は途切れさせないで。気力が尽きたら交代制だよ、いいね」
「「はいせんせー!」」
矢による弾幕がろくに効果を示さないことが早くも分かってきたのか、ゆづる千万宮は早速戦法を変えてきた。
目立つピンク髪の水着少女、数多めがけて全ての矢を集中させる作戦である。
「上等じゃない、撃ってきなさい」
くいくい、と人差し指で手招きする数多。
一秒もしないうちに大量の矢が数多ひとりに浴びせかけられた。
刀を縦横無尽に振り回し、矢をたたき落としていく。
どころか、自ら相手に突撃し、一気に距離をつめていった。
「櫻火真陰流の女なめんな!」
胴体に強烈な斬撃。
骨でできた巨大な蛇といえど、数多の斬撃に軸ごとえぐられていった。
身体をぐらつかせ、回復しようと周囲の妖を手づかみにするゆづる千万宮。
「回復させてはだめです!」
援護射撃を続ける豊四季の叫びに応えたのは、他ならぬ赤貴だった。
「心配ない。奴にエサはやらん」
剣から炎を解き放ち、妖をゆづる千万宮の手ごと焼き切っていく。
「ハーイ民のみんな、援護よろしく!」
崩壊した神社の屋根に飛び乗り、プリンスが走り出した。
巫女たちの援護射撃をうけながら、咄嗟に繰り出されたゆづる千万宮の腕をジャンプ回避。
力強く握ったハンマーを輝かせ、アシストアーマーからも激しく蒸気を放った。
「民をおやつにするようなフィギュアには、王家の遺憾を叩き込むよ!」
フルスイング。
そのひとつで、ゆづる千万宮の首から上がはじけ飛んだ。
喉もないのに奇っ怪な悲鳴を上げるゆづる千万宮。
ばらばらと闇雲に放たれた矢がそこらじゅうの木や壁に突き刺さっていく。
応戦していた豊四季の肩にもそれは突き刺さり、ぐらりと身体を傾かせた。
「こんなときに――鈴白さん、これを!」
豊四季は持っていた弓と矢筒を放り投げ、秋人へとパスした。
飛び上がってキャッチし、素早く弓をつがえる。
引き絞り、発する。すると、矢が巨大な竜となってゆづる千万宮を飲み込んだ。
さらにはのろのろと遅れてやってきた手下の妖たちまで巻き込んで片っ端から消滅させていく。
「これは……」
着地して、弓をちらりと見る秋人。
だがまわりはそれ以上に倒れたゆづる千万宮に注目していた。
敵の首領を倒したこの瞬間、彼らの勝利は確実なものとなったのだ。
●豊四季式敷式弓
残った妖の掃討を終え、地下にひっそり立てこもっていた巫女たちの救出をも終えた頃。
「お世話になりました。なんとお礼を言っていいやら……」
豊四季がボロボロの服をひっぱって頭を下げた。しかし眼鏡だけは無傷である。
「そうだ。これを返さないとね」
弓を差し出した秋人。豊四季はそれを受け取ろうとして、手を止めた。
「皆様にはお礼金を差し上げないといけないのですが、スポンサーを喪った今我々は金欠で、お支払いできるものがありません」
そんなのいいのに、と言おうとした皆にかぶせるように、豊四季は弓を秋人へと押し返した。
「ですから今回はこの『破魔弓』と、その製法を支払いとします。どうか、納めてください」
そう言われては、という顔で受け取る秋人。
一方で、豊四季は懐から数枚の写真を撮りだした。
「ところで助けた巫女から……この神社が襲撃される際にある強大な妖を目撃したという報告を受けました。おそらく大妖クラス」
写真は、腕が無数にはえた女のものである。
「大妖。名は――『髄液啜り(ずいえきすすり)』」
木々の生い茂るでこぼこ道をジープで走る。
豊四季神社へ続く道は細く粗く、そして険しかった。
仮にも武器の生産施設である。そう簡単にアクセスできて貰っては困るということだろう。
ハンドルを握る豊四季を、後部座席の賀茂 たまき(CL2000994)と『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がそれぞれ覗き込んだ。
割と頻繁に聞く名前ではあるが、顔を見るのは二度か三度目である。
「豊四季さん、眼鏡はまだご無事なんですね」
「……なんですか、その基準は。まあ、人体よりは頑丈にできていますけど」
綺麗な光沢をはなつ眼鏡フレーム。豊四季は反応に困ったような顔をした。
「それより、今回はご協力感謝します。改めて言っておきますね。言えなくなる前に」
言えなくなる前に。
そのフレーズに引かれるようにして、たまきが身を乗り出した。
「あの……魂の使用だけは、しないでください」
フロントガラスの向こうだけを見ている豊四季に、たまきは小さく咳払いをして続けた。
「黒子衆の皆さんがあなたを必要としています。あなたまで倒れてしまっては、いけないと……思います、から」
「お気持ち、感謝します」
まだ気持ちはフロントガラスの向こうだ。
「ですが、約束は……できません。現状、私たちが皆さんを巻き込んだ形ですから、いざ責任をとる段階になった時、身を削るべきは私たちにあるはずです。不本意でしょうが、私としても……いえ」
バックミラーごしに、目をそらす彼女が見えた。
「忘れてください。もしもの悲観は足下をすくわれますから。なにか話題を変えましょう。葦原さん、なにかありませんか」
話題を変えようとして他人に尋ねるあたり、なかなか人付き合いの下手そうな女である。
助手席の『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)は急に降られた話題に困って、とりあえずという様子で青銅剣の柄をアテンドから出して見せた。
「七栄の現場で拾ったものだ。返す必要があるなら、返すつもりでいるんだが」
こっちもこっちで人付き合いが得意そうではないな、とラーラは目を細めた。
一方で豊四季はフロントガラスのむこうに意識をやったまま……。
「持っていていただいて、結構ですよ。神具は持ち主を選ぶといいますし、なによりソレが正常に作動しているなら、あなた以外を持ち主に選ばないでしょう。『当代』もそれで納得していますよ」
やがて、車内には沈黙だけが流れた。
数台のトラックが列を成して走って行く。
その中に混じるようにして、『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は後部座席で荒れていた。
「あの性悪巫女! ふっじゃけんじゃないわよ! ぜつゆるなんだから! 生きてなさいよ、お腹蹴り返してやる!」
「乱暴だなあ……」
作戦メモを読み直していた『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が目線だけで数多を見やった。
ファイヴにはこういう感情表現がこじれてる子は珍しくない。それに、責めるようなことでもない。
こじれていると言えば彼もか……という目で『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)を見やる。
彼は彼で窓の外をぼーっと眺めていた。
「リラックス、してる?」
「ぜんぜん?」
プリンスは窓の外に意識をやったまま、右拳だけをぎゅっと握りしめた。
「余だって、遺憾の意が隠せない時あるよ。それが、割と今だよね」
車は途中で分かれ、豊四季神社の東西へと走っていく。
●囮作戦
「作戦をもう一度確認します」
たまきは戦闘準備を整えた兎さん部隊(略称『兎組』)をしたがえて、茂みに身を潜めていた。
蜘蛛とナメクジを混ぜて巨大化したような妖や、全身に巨大な釘が貫通した半透明のマネキンなど、一見して醜悪な連中がわらわらとうろついている豊四季神社の東側通用門前である。
「私たち兎組と花組は東側から襲撃をかけ、門の前に止まって戦闘を行ないます。それを囮にして他の部隊が手薄になった西側から突撃。R3の妖さんを西側までおびき出して戦います」
「私たちはそのタイミングまでしのぎきって、時期が来たら無理にでも突破。他部隊と合流します。準備はいいですね」
ラーラは魔導書を手に、空へ大きな魔方陣を開いた。
「作戦開始――!」
魔方陣から現われた巨大な炎の獅子が、妖たちを次々に食いちぎっていく。
「ラーラ教官。こんなことがでいるなら最初から言ってくださいよ」
「あの時は事情があって……でも今回は本当の戦い方をお見せしますからね!」
術者の襲撃をうけ、周辺を警戒していた妖たちがまず集まってくる。
戦陣をきって飛び出したラーラは第二波に備えつつ手短かに指示を飛ばした。
「皆さん、最初に教えた通りの陣形でお願いします!」
いびつな走り方で襲いかかってくる釘マネキン人形。
抱きつくように釘を刺しにくるが、長い掛け軸を棍棒のように振り込んだたまきによってはじき飛ばされた。
ラーラが第二波を放つと同時に、神社内からR2の妖たちが徐々に加わっていく。
兎組と花組はそれ単体でも遊撃部隊として成立するチームである。そこに高火力な攻撃手段をもったたまきとラーラが加わることで高ランクの妖を退けつつ安定して戦いを続けられる布陣である。
成否のポイントは、どこまで敵の勢いに耐えられるかだが……。
「東側の攻撃が始まったみたい。皆準備いい!?」
プリンスが振り返ると、王子マジラブ組(略して王子組)が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「王子! 大井が私の彼と寝たんです!」
「彼から誘ったんだからワタシ悪くない!」
「けんかはやめてー。てんのーずのかわいさに免じておちついてー」
「てめーも私の元彼ギョフノリってんじゃねーよゴルァ!」
「皆今日も絶好調だね!」
プリンスはグッと親指を立てると、そのまま妖たちの方を指さした。
「そのパッション、ぶつけちゃいなよ!」
「やったるわゴルァ!」
「あとで話つけっからなテメェ!」
「うへへセキきゅん飼いたい」
腕まくりしてポン刀ぬいて、妖の集団へと飛びかかっていく巫女たち。
プリンスもプリンスでハンマーをがっつり盛り上げると、煉瓦を大量に組み合わせたイノシシめいた妖をぶん殴った。
一発で粉砕し、飛び散る砂を振り払う。
「せききゅ――セキシー、大きい女子を丸裸にしておいで!」
「ああ……死番隊、行くぞ」
「「承知」」
うってかわってストイックな死番隊(通称『死組』)が召炎波を放つ赤貴を先頭にして妖の群れをジグザグに抜けていく。かなり強引な割り込み方だ。
道を塞ごうとした巨大な土人形――を、一瞬で真っ二つにしていく数多。
「おーかしんかげりゅうと仲間たち、略して櫻火組。ついてきなさい!」
櫻火組はワントップを支援する目的で結成されたチームである。チーム自体の戦力は低くとも、数多やレギュラー巫女につく形で大きな相乗効果を持つのだ。黒子衆だけで戦わせようとした前回にはない発想である。
数多の回復や強化支援に集中する巫女たち。
そこへ四つん這いで走るゲル状の妖が襲いかかる。敵の強弱で見分けがつかないのかそれとも最初からいい加減なのか、巫女に頭から覆い被さっていく。
が、それを数多は喧嘩キック一発で消し飛ばした。
「次はどいつ? かかってきなさい!」
そんな様子を横目に見ながら、秋人は淡々と自分のチームに指示を飛ばしていた。
「今は持久戦だから回復は最低限にね。R3戦まで気力を温存して」
「りょーかいですせんせー!」
「がんばります、せんせー!」
「ゆみつかうです、せんせー!」
「せんせー……せーたかい」
秋人のチーム癒力(便宜上『癒組』と呼ばれることも)は回復力と防御力で自衛能力を高めたチームである。
しかしまた変な人ばかり集まったな、と思いながらも妖たちに護符で作ったエネルギーの弾を飛ばしていく。
もしこちらに妖が集まりすぎて応戦がキツくなっても、秋人のチームが回復役にシフトチェンジすればすぐに盛り返すことが出来る。今回の大規模戦闘ではとても大事な役どころである。
一方、仲間たちの支援によってR2を含む妖の軍勢を抜けた赤貴たち死組。
「オマエたちの見せ場はここからだ。索敵はじめ」
「「索敵はじめ」」
巫女たちが目や耳や鼻をフル活用し、それぞれの情報を統合。意志データに変換して赤貴へ伝えてくる。
口頭で指示をあおいでいた最初期とは比べものにならない連携効率である。
どころか『終わったら映画見に行きましょーね(はーと)』とか『あしはら教官ってどんな食べ物好きですか?』とか各員一言余計なコメントつけてくる余裕さである。
が、これらの情報を一手に握った赤貴は神社内の製造工場をまっすぐに駆け抜け、壁をぶち抜きショートカット。
「全員停止。出口へ向かって走れ。オレが妖をおびき出したらスキャン開始。完了後最優先で本隊に逃げ込め」
「「承知」」
きびすを返して走り出す巫女たちとは逆に、赤貴は門を蹴り開いた。
無数の骨が継ぎ合わさった巨大な妖が、大きな部屋に横たわっている。
ごりごりと天井や床をこすりながら赤貴を見るなり、腕を強引に伸ばしてきた。
「一撃入れるまでも無かったな」
即座にきびすを返してダッシュ――からのスライディング。頭上すれすれを骨の腕が通過し、壁や天井を破壊していく。
やがて屋根までもを破壊した妖『ゆづる千万宮』は、蛇の身体をうねらせて神社をめちゃくちゃに破壊しながら赤貴を追いかけ回した。
せめてスキャンの時間くらいは稼がねば……と思った時には赤貴の意識に『ゆづる千万宮』の戦力データが送られてきた。巫女たちは一目散に走り、癒組たちの確保したエリアへ逃げ込んでいた。
「……思った以上に優秀だな」
柄にも無く笑いそうになり、赤貴は剣をより強く握った。
西門の前でぐるりと身を返し、剣に炎を宿らせる。強く、強く、叫ぶかのように剣は震えた。
「心配事はなくなった。さて、八つ当たりに付き合って貰おうか」
●ゆづる千万宮
殺した巫女たちの骨を継ぎ合わせた巨大な妖。
死者への冒涜であり、そして人をモノ扱いするその様相に、ラーラはじんわりと怒りがわいた。
「ここまでの作戦は成功したようですね。では――」
ぱちん、と魔導書の封印を解く。
六角形の魔方陣がいくつも連なって現われ、それらが互い違いに回転しはじめる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
群がる妖たちをぶち抜いていく炎の渦。
地面ごと焼いてできあがった道を、花組と兎組が全力で駆け抜けていく。
追いすがる妖にはたまきが御朱印帳を蛇腹に伸ばして結界を張り、無理矢理はじき飛ばしていく。
彼女たちを追って移動を始める妖の大集団。
そして中央の社屋を超えた西側では、ゆづる千万宮と本隊が戦っていた。
豊四季とその部隊の姿も見える。
「私たちも加わります。ここからは出し惜しみ無しですからね!」
「……突撃します!」
それぞれが強化術式をかけなおし、怨敵へと突撃する。
一方、西側はゆづる千万宮と直接の殴り合いになっていた。
無数に生えた腕を使って天に弓を引き、大量の矢を次々に発射するゆづる千万宮。
「皆、力の見せ所だよ」
秋人はそれまでの攻撃姿勢から一転して回復姿勢へチェンジ。護符を扇状に広げて空へ放つと、巫女たちが札を結んだ矢をそれぞれ天空に打ち上げた。
雨あられと飛来する矢を、回復効果でカウンターしていくのだ。
いわゆるところの回復弾幕。よほど最初から体力が削られていないかぎり倒れる心配はない。
「回復は途切れさせないで。気力が尽きたら交代制だよ、いいね」
「「はいせんせー!」」
矢による弾幕がろくに効果を示さないことが早くも分かってきたのか、ゆづる千万宮は早速戦法を変えてきた。
目立つピンク髪の水着少女、数多めがけて全ての矢を集中させる作戦である。
「上等じゃない、撃ってきなさい」
くいくい、と人差し指で手招きする数多。
一秒もしないうちに大量の矢が数多ひとりに浴びせかけられた。
刀を縦横無尽に振り回し、矢をたたき落としていく。
どころか、自ら相手に突撃し、一気に距離をつめていった。
「櫻火真陰流の女なめんな!」
胴体に強烈な斬撃。
骨でできた巨大な蛇といえど、数多の斬撃に軸ごとえぐられていった。
身体をぐらつかせ、回復しようと周囲の妖を手づかみにするゆづる千万宮。
「回復させてはだめです!」
援護射撃を続ける豊四季の叫びに応えたのは、他ならぬ赤貴だった。
「心配ない。奴にエサはやらん」
剣から炎を解き放ち、妖をゆづる千万宮の手ごと焼き切っていく。
「ハーイ民のみんな、援護よろしく!」
崩壊した神社の屋根に飛び乗り、プリンスが走り出した。
巫女たちの援護射撃をうけながら、咄嗟に繰り出されたゆづる千万宮の腕をジャンプ回避。
力強く握ったハンマーを輝かせ、アシストアーマーからも激しく蒸気を放った。
「民をおやつにするようなフィギュアには、王家の遺憾を叩き込むよ!」
フルスイング。
そのひとつで、ゆづる千万宮の首から上がはじけ飛んだ。
喉もないのに奇っ怪な悲鳴を上げるゆづる千万宮。
ばらばらと闇雲に放たれた矢がそこらじゅうの木や壁に突き刺さっていく。
応戦していた豊四季の肩にもそれは突き刺さり、ぐらりと身体を傾かせた。
「こんなときに――鈴白さん、これを!」
豊四季は持っていた弓と矢筒を放り投げ、秋人へとパスした。
飛び上がってキャッチし、素早く弓をつがえる。
引き絞り、発する。すると、矢が巨大な竜となってゆづる千万宮を飲み込んだ。
さらにはのろのろと遅れてやってきた手下の妖たちまで巻き込んで片っ端から消滅させていく。
「これは……」
着地して、弓をちらりと見る秋人。
だがまわりはそれ以上に倒れたゆづる千万宮に注目していた。
敵の首領を倒したこの瞬間、彼らの勝利は確実なものとなったのだ。
●豊四季式敷式弓
残った妖の掃討を終え、地下にひっそり立てこもっていた巫女たちの救出をも終えた頃。
「お世話になりました。なんとお礼を言っていいやら……」
豊四季がボロボロの服をひっぱって頭を下げた。しかし眼鏡だけは無傷である。
「そうだ。これを返さないとね」
弓を差し出した秋人。豊四季はそれを受け取ろうとして、手を止めた。
「皆様にはお礼金を差し上げないといけないのですが、スポンサーを喪った今我々は金欠で、お支払いできるものがありません」
そんなのいいのに、と言おうとした皆にかぶせるように、豊四季は弓を秋人へと押し返した。
「ですから今回はこの『破魔弓』と、その製法を支払いとします。どうか、納めてください」
そう言われては、という顔で受け取る秋人。
一方で、豊四季は懐から数枚の写真を撮りだした。
「ところで助けた巫女から……この神社が襲撃される際にある強大な妖を目撃したという報告を受けました。おそらく大妖クラス」
写真は、腕が無数にはえた女のものである。
「大妖。名は――『髄液啜り(ずいえきすすり)』」

■あとがき■
取得キャラクター:『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)
取得アイテム:豊四季式敷式弓
取得アイテム:豊四季式敷式弓
