【地下闘技】闘技場ハック計画
●キャノピーVSシルベチカ
「ここさえ乗り切れば、衣装を脱げるんだし……が、頑張る、頑張るよ!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は自分を激励するようにファイティングポーズをとると、アメリカン空手のキャノピーへと向き直った。
喋るとボロが出るやもしれぬ。なるべく黙って相手の隙をうかがお――うとした途端キャノピーがフライング回し蹴りからのダイナミックカワラチョップとかいう謎の技を繰り出してきた。要するに間合いをジャンプ一発で埋めて側頭部を蹴りつけたついでに脳天をたたき割ろうとしてきたのだ。
「ヘイ、シルベチカ! エンジョイしてないねー! バトルはもっとエンジョイしなきゃ!」
着地し、左右にステップを踏みながらカモンカモンと手招きするキャノピー。
全然カラテじゃないし隙だらけなのに、動きだダイナミックすぎて隙をつきづらい。そんな相手だ。
「い、いくよ!」
走るきせき。
翻るスカート。
身を乗り出す観客。
お尻を押さえるきせき。
「隙ありィ!」
「ぎゃん!?」
キャノピーのオクラホマドロップキックとかいう謎の技が炸裂。きせきはもろに吹き飛んだ。
「ヘイ! レッツエンジョイ! カモーン!」
「まっ、負けないもん……!」
ころころ転がったきせきは頭を振って立ち上がり、再びキャノピーへと飛びかかった。
きせきの連続パンチが炸裂する――!
「あの子、なんでキラキラしとらんのん? あかんのん?」
「『アリーナ』の空気になれていないのでしょう。じきに慣れます」
観客席ではカツミとクーが語らっていた。
「おとんの裏闘技場から引き抜いたんはあの子と魔法少女ちゃんを入れて四人や。表のファイターとちごうてナチュラルに手段を選ばん。うちの見たいバトルが見れるから、好きや」
「……見たいバトル、ですか?」
「あんなー、うちバーリトゥード見たことあんねん」
思い出話である。カツミが見たバーリトゥード、つまりなんでもありの格闘技は、思っていた世界ではなかった。
「最後はマウントとって殴った方の勝ち。マウントとられてもできることあるやん。相手の喉を突いたら? 火の玉吹いたら? 毒霧出したら? なんでもええ、なんでもありならなんでもやったらええねん。その方が燃えるやん? やるほうも、見る方も」
「……」
クーは、『わからないでもない』という目だけをして、黙った。
●ユェンの計画
一方こちらは裏闘技場サイド。
ショーバトルの参加者、個人戦の参加者、チーム戦の参加者。
ファイブから派遣され秘密裏に裏闘技場のファイターとして潜入した彼らが一同に集まっていた。
「皆さん集まって頂いてどうも。私はー、あー、チャックと呼んでください! チャックです、いいですねー?」
小太りな男が彼らの中心にいた。
裏闘技場にスカウトマンとして潜入しているスパイのユェン、『警察のなんか』という曖昧な紹介で濁しているフィー。この二人も同席している。
「えー、私はここにいるユェンとフィーの協力を得て、この裏闘技場をクリーンなものにしたいと思っています。ややっこしい法律はともかく、賭博や人死には避けたい。つまり……」
チャックの説明はこうだ。
ショーバトルで裏闘技場に資金援助をしている連中を引きつけ、犯罪の証拠をどんどん押さえていく。
と同時にチームバトルでどんどんのし上がり、最後はボスの身辺警護チームの更新試験へトライ。ボスの側近へとつく。
更に個人戦を勝ち上がってボスと側近だけが閲覧できる超VIP用の試合に参加する。
「こうして内外全ての準備を整え、一斉検挙というわけです」
「質問だ」
赤貴が小さく手を上げた。
「検挙した後はどうする。管理者を潰しても新しい管理者が沸くだけだ」
「そこは心配ない。ボスが消えれば娘に委譲される。というより、そう仕向ける」
「なるほどねん、裏闘技場をまるごと『アリーナ』化する、と……」
「じょ、女装はしなくていいんですよね?」
「そういう、意味じゃ、ないとは……思いますけど」
「理解。勝ち上がる、だけ」
「オッケー、簡単じゃない!」
彼らは頷き、そして次の試合、その次の試合、そのまた次の試合と戦っていった。
やがて彼らは勝ち進み、それそれの最終ステージへと至る。
これを勝ち抜けば、計画の準備は整うことになる。
「ここさえ乗り切れば、衣装を脱げるんだし……が、頑張る、頑張るよ!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は自分を激励するようにファイティングポーズをとると、アメリカン空手のキャノピーへと向き直った。
喋るとボロが出るやもしれぬ。なるべく黙って相手の隙をうかがお――うとした途端キャノピーがフライング回し蹴りからのダイナミックカワラチョップとかいう謎の技を繰り出してきた。要するに間合いをジャンプ一発で埋めて側頭部を蹴りつけたついでに脳天をたたき割ろうとしてきたのだ。
「ヘイ、シルベチカ! エンジョイしてないねー! バトルはもっとエンジョイしなきゃ!」
着地し、左右にステップを踏みながらカモンカモンと手招きするキャノピー。
全然カラテじゃないし隙だらけなのに、動きだダイナミックすぎて隙をつきづらい。そんな相手だ。
「い、いくよ!」
走るきせき。
翻るスカート。
身を乗り出す観客。
お尻を押さえるきせき。
「隙ありィ!」
「ぎゃん!?」
キャノピーのオクラホマドロップキックとかいう謎の技が炸裂。きせきはもろに吹き飛んだ。
「ヘイ! レッツエンジョイ! カモーン!」
「まっ、負けないもん……!」
ころころ転がったきせきは頭を振って立ち上がり、再びキャノピーへと飛びかかった。
きせきの連続パンチが炸裂する――!
「あの子、なんでキラキラしとらんのん? あかんのん?」
「『アリーナ』の空気になれていないのでしょう。じきに慣れます」
観客席ではカツミとクーが語らっていた。
「おとんの裏闘技場から引き抜いたんはあの子と魔法少女ちゃんを入れて四人や。表のファイターとちごうてナチュラルに手段を選ばん。うちの見たいバトルが見れるから、好きや」
「……見たいバトル、ですか?」
「あんなー、うちバーリトゥード見たことあんねん」
思い出話である。カツミが見たバーリトゥード、つまりなんでもありの格闘技は、思っていた世界ではなかった。
「最後はマウントとって殴った方の勝ち。マウントとられてもできることあるやん。相手の喉を突いたら? 火の玉吹いたら? 毒霧出したら? なんでもええ、なんでもありならなんでもやったらええねん。その方が燃えるやん? やるほうも、見る方も」
「……」
クーは、『わからないでもない』という目だけをして、黙った。
●ユェンの計画
一方こちらは裏闘技場サイド。
ショーバトルの参加者、個人戦の参加者、チーム戦の参加者。
ファイブから派遣され秘密裏に裏闘技場のファイターとして潜入した彼らが一同に集まっていた。
「皆さん集まって頂いてどうも。私はー、あー、チャックと呼んでください! チャックです、いいですねー?」
小太りな男が彼らの中心にいた。
裏闘技場にスカウトマンとして潜入しているスパイのユェン、『警察のなんか』という曖昧な紹介で濁しているフィー。この二人も同席している。
「えー、私はここにいるユェンとフィーの協力を得て、この裏闘技場をクリーンなものにしたいと思っています。ややっこしい法律はともかく、賭博や人死には避けたい。つまり……」
チャックの説明はこうだ。
ショーバトルで裏闘技場に資金援助をしている連中を引きつけ、犯罪の証拠をどんどん押さえていく。
と同時にチームバトルでどんどんのし上がり、最後はボスの身辺警護チームの更新試験へトライ。ボスの側近へとつく。
更に個人戦を勝ち上がってボスと側近だけが閲覧できる超VIP用の試合に参加する。
「こうして内外全ての準備を整え、一斉検挙というわけです」
「質問だ」
赤貴が小さく手を上げた。
「検挙した後はどうする。管理者を潰しても新しい管理者が沸くだけだ」
「そこは心配ない。ボスが消えれば娘に委譲される。というより、そう仕向ける」
「なるほどねん、裏闘技場をまるごと『アリーナ』化する、と……」
「じょ、女装はしなくていいんですよね?」
「そういう、意味じゃ、ないとは……思いますけど」
「理解。勝ち上がる、だけ」
「オッケー、簡単じゃない!」
彼らは頷き、そして次の試合、その次の試合、そのまた次の試合と戦っていった。
やがて彼らは勝ち進み、それそれの最終ステージへと至る。
これを勝ち抜けば、計画の準備は整うことになる。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.総合して半数以上の目標を達成する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
第三回から第四回の間にそれなりの数の戦闘をこなし、皆さんは裏闘技場やアリーナではかなり名の知れたファイターになっています。
(※とはいえシステム的な都合でメンバーの交代や人数割れもあり得ますので、その場合は第三回直後で交代して名を上げた、ないしは途中で敗退した扱いになります)
では、状況と目標をセクションごとに解説していきます
●アリーナ
いくつもの試合を超えて、ファイターはちょっとした有名人になりました。
今回は大きな年末イベント。
カツミがコネの限りを尽くして集めたVIPたちが見守る高額チケットバトルです。
ということで、無数の試合のトリを飾ります。
試合形式はバトルロイヤル。
これまで同様、武器使用なし命数復活なし(術式や技能スキルはOK)。
(第三回のままならPC2人、NPC2人の四人で)最後の一人になるまで戦います。ショーとしての見応えは意識する必要はありません。なぜなら相手がとにかく強い少女ファイターだからです。
このバトルが大盛り上がりになると、カツミがVIPからの支援を受けるようになり、今後の闘技場ハック計画の未来が明るくなります。
NPCは以下の通り
・ニノマエ ハガネ
古武術ニノマエ流正当継承者。
普通の女子中学生になりたがっているし振る舞いも普通だが、一撃必殺の殺人術を身体にしみこませており、戦いが激化すると本能的に相手を殺してしまいそうになる。本人的にはコレが嫌で家出した。
バトルスタイルは投げ技や寝技などのBS付与を目的としたテクニカルな体術が多く、HPが二割以下になると発動可能な殺人拳がある。ただし本人的にはイヤ。
・タカラジマ ルルコ
天才JC。格闘の神に愛されたJC。
パンチ一発でコンクリート壁を爆砕し、キック一発で自動車をぺちゃんこにするスーパーパワーの持ち主。弱点は生理の重さくらい。
ダメージに貪欲で、相手が強ければ強いほど興奮するので、主催者側も必ず強い敵と当てるようにしている。
現在のアリーナチャンプ。
●個人戦
トーナメントを勝ち抜いたあなたは、最高ランクバトルに挑みます。
これを勝ち抜くと、超VIPだけが集まる超最高ランクバトルに挑むことが出来ます。
命数復活あり死亡ありのバトル。
対戦相手は以下。
・グルービー・ベア
土行暦のオールラウンドファイター。
錬覇法から繰り出す体術と術式のバランスのとれた攻撃でどんな敵でもたたき伏せます。土行ならではの堅さもある。
無頼漢の負荷攻撃も恐い所。
全てにおいてバランス良く対応するので、自分の強みを使った一点突破が勝利の鍵になる。
●チーム戦
いくつもの試合を勝ち抜き、チームとしての名を上げました。
今回は一見普通のチーム戦だが、この試合で勝った方にボスの護衛という仕事が回される。大金を稼げるとあって挑む方も必死。
だがこれに勝ち抜けばボスに急接近できる。最後の計画の要になる。
命数復活あり死亡ありのバトル。
・オールドマン
風変わりな青年三人組。
ポカ。土行。硬い防御とブーメランによる遠距離列攻撃や他術を駆使した戦闘が得意。
フー。天行。術式アタッカー。カマイタチをおこす番傘が武器でスピードもかなり速い。
チャプ。水行。ヒーラー兼バフとデバフ担当。体力が豊富。
五行や癖は試合を見て学びましたが、それは相手も同じです。必ず対策を打ってきます。
『この依頼』の『この試合』に限り、プレイングの隙や不足や間違いを確実に突いてきますし、命数復活もするため戦力は五分五分です。
(そういう事例は特にないのですが)仮に『いつもの感じ』でプレイングをコピペした場合敗北すると考えてください。
敵の分析や自チームの連携を限界まで高めてください。
●ショーバトル
これまで幾度もショーバトルを続け、観客の中にもファンが増えました。
今回もショーバトルですが、いくつか障害があります。
次の計画までに集めなければならない証拠物件が三つあり、バトルの最中に『三回』の大きな見せ場を作らなければなりません。
お互いの協力が必要です。
片方だけが注目を引くばかりでは三回も持たせられませんので、一回は相手にパスしましょう。
色気、技、展開、といったもので注目ポイントを作ってください。
これが成功した場合、最終計画における検挙率が大幅に引き上がります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年01月04日
2017年01月04日
■メイン参加者 8人■

●バトルアリーナ
「みんなっ! いっくよー!」
『sylvatica』御影・きせき(CL2001110)は両目にきらりと星をまたたかせると、ニノマエ ハガネめがけて拳を叩き込んだ。
顔面を直で狙った拳――だがしかし、ハガネはそれを手のひらで撫でるように受け、ぐねんと奇妙に身体をたわませるように動かすと、きせきの斬撃を完全に殺してしまった。
「あれ? いまのどうやっ――」
次の瞬間、きせきの鼻っ面にハガネのヘッドバッドが炸裂。
血を吹いてのけぞるきせき。
その顔面に更に拳。
更に肘。
更に膝。
更に踵。
最後にもう一度肘を入れて、地面にたたき落とした。
何が起こったのか、受けた本人はもとより見ている周囲も全くわからない、謎の受けからの謎の連打である。
そしてきせきは、気づけばステージの床に大の字になって寝ていた。
頭がぐわんぐわんして、自分がどこにいるのか、自分が誰なのか分からなくなってくる。
とりあえず、ハガネが意味不明に強いことだけははっきりと分かった。
そして今すべきことだけが、鮮明に脳を支配した。
「あ……ははっ!」
がばっと起き上がる。
バネ仕掛けのように立ち上がる。
一方のハガネはきせきから距離をとるように飛び退いた。
まるでトドメをさすことを怖がるような逃げ方だが、きせきは彼女を逃がさない。
スカートを翻し、ダッシュからのスピンキック。
足首を掴まれるが、構わず身体をひねって顔面に蹴り込んだ。
相手ごと倒れ、ごろごろと転がる。
「もっとやろお! こんなに楽しいんだから、もっとやろお!」
血まみれの顔を手首でぬぐい、きせきは世にもなまめかしく笑った。
一方こちらは『魔法少女ブレイズ』天楼院・聖華(CL2000348)。
ぎゅっと拳を固めて距離をとる聖華だが、対するタカラジマ ルルコはあろうことかスキップで聖華を追いかけてきた。
しかも鼻歌交じりである。
「おおかみなんかー」
ぴょん、とジャンプし、地面を踏む。
「こわくない!」
それだけで地面が放射状にひびいり、めくれあがり、距離をとっていた筈の聖華が高く上方向に浮いた。
「こわくないったら」
瞬間移動でもしたような動きで、ルルコが眼前に迫る。
「こわくない」
聖華の顔を両手でそっと包むように掴み。
ぐいんと振り回して地面めがけてぶん投げた。
爆発。
粉砕。
舞い上がるコンクリート片。
くるくる回って自由落下し、追撃の拳を叩き込もうとするルルコ――の顔面に、聖華のアッパーカットが炸裂した。
ごぎばりりという人間から聞こえちゃダメな音がしたかと思うと、回転してステージ脇の壁に吹き飛んでいく。
ペッと血を吐き捨てて、聖華は服の襟元を掴む。
「変身、魔法少女ブレイズ――スタイルイグニッション!」
早着替えである。
下に着込んでいたふりふりの衣装にチェンジして、聖華は観客の歓声を浴びた。
「ひゃっはー! 魔法少女だー!」
にっこり笑顔で風を切り、豪速で突っ込んでくるルルコ。
逃げるも避けるもできそうにない。というか逃げ切れないし避けきれない。最悪死ぬ。
なればこそ。
「ぶれいず――くろすかうんたー!」
顔面を狙ってぶち込んできたルルコのパンチに合わせて、聖華は拳をねじ込んだ。
「からのっ、ぶれいずらっしゅ!」
一発一発に気合いを込めて、ルルコの顔面にめいっぱい拳を叩き込んでいった。
ここは少女限定バトルアリーナ。
武器使用禁止殺害禁止、それ以外は『なんでもあり』。
荒ぶる少女たちの、楽園である。
●ショーバトル
「あっちは盛り上がってる頃か……」
「アタシ、アリーナいっていい? ここの観客『アレ』なのばっかでまじキツいんですけど」
「仕事しろ」
観客席で一般客に混じって試合を眺めるユェンとフィー。
二人はこれから始まるショーバトルを待っていた。
赤コーナーからは『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)。
お堅く着込んだ巫女装束を纏った祇澄はステージに上がる直前でつまづき、すってんと顔から転んだ。
思い切り顔からいったので、観客たちの間でなんだかゆるい空気が流れ始める。
「いたた……えっと、こほん」
深く呼吸をして刀を握る。抜いた刀でひゅんひゅんとインフィニティラインを描いてゆらりと構えた。
対する青コーナーからは岩倉・盾護(CL2000549)。
大きな槍を頭上でぐるんぐるんと振り回し、地面にこじりをついて仁王立ちして見せた。
「柔と剛。女と男。対照的な構図で先の展開をある程度予想させる。ショーバトルには悪くない滑り出しだ」
「ポップコーン買ってこよっか」
「さっさと行け」
フィーが『仕事』をすべく席をたつ。
その様子をヘルメットのバイザー下から確認した盾護は、ウオオと唸って祇澄へ突撃した。
槍による突撃である。それを祇澄は跳躍によって回避。
しかしギリギリでやりの刃先が巫女服の袴を切り裂き、大胆に脚を露出させた。
くるんと跳躍し、着地する祇澄。
前髪の間から青い目がちらりと光る。
対する盾護は槍を回転させながらまるでコマ回しのようにターン。
祇澄は迫るそれを、逆向きに回転しながら刀を叩き付けることで対抗――するが、そのうち一本が外れて天井へと飛んでいく。
すとんと天井に突き刺さる刀。
わき上がる歓声。
祇澄の胸元から腰にかけてがばっさりと切り裂かれ、祇澄は下着を押さえて大きく飛び退いた。
(分かっていても、なんだか、恥ずかしいですね……)
これを平気で、というか進んでやっていたあの人はすごかったんだなあと思う祇澄である。
別に色気を入れなきゃ絶対だめってわけではないが、人目を引くためのカードが彼女たちにそう沢山あるわけではない。使えるカードを使えるときにきるべき、ともいえた。
飛び退きによって回避された盾護はそのまま壁にぶつかり、回転をかけてターン。
再び祇澄へと迫っていく。
観客もこの段階で、マシーンのように相手に攻撃し続ける盾護と攻撃されるたびに服が裂けていく祇澄という構図を理解し始めていた。
そして脚と下着を露わにしたら次は……と息を呑むのも無理からぬ。
祇澄がいよいよ壁際へと追い詰められる。
刀を突き出し、迎撃の構えをとる。
そして絶妙な間合いで踏み込んで相手の槍を跳ね上げ――ようとした寸前、祇澄は切れてゆるんだ袴のすそをふんずけた。
「きゃあ!?」
転びそうになって慌ててのけぞる祇澄。
彼女の胸元ギリギリの所を槍の刃先が通過し、下着を奪って観客席へと放り投げた。
そう、ステージインの際につまづいて転んだのはこの伏線だったのだ。
大きく上がる歓声。
ハプニングに思わず回転をとめ、そしてぐらりと身体をよろめかせる盾護。
「な、なにするんですかあ!」
祇澄は胸元を押さえて盾護を殴りつけ、そして盾護は仰向けにどてんと倒れた。
胸元を押さえ、袴をつまんで観客に頭を下げる祇澄。
巻き起こる拍手の中、ショーバトルは無事に幕を閉じていく。
●チーム戦
「ワガ ナハ エビルハンド! ワガ コブシガ チヲ モトメル!」
カラテの構えから黒い般若の面をまがまがしく発光させる『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
もうここまでくると遥じゃない誰かなのだが、周りのメンバーは涼しい顔だった。
というか、『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は子狐の仮面を被ってじっと黙っていた。
この戦いをくぐり抜ければ、闘技場を仕切るボスに急接近することができる。
高額のボディーガード料や覚者界隈での知名度を求めて多くのチームが挑戦し、小唄たちとぶつかってきた。
誰もが本気で、そして殺す気でぶつかってきたのだ。
だが、だからこそ、そんな戦いを勝ち抜いた彼らのチーム『INVERSE』はアンダーグラウンドで知名度を上げることが出来たのだ。
「…………」
だから。目的を達するまでは、無口な子狐丸でいようと、小唄は決めていた。
その一方で、『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は大胆に自らをアピールしていた。
ほとんど水着みたいな格好で刀を抜き、観客席にウィンクや投げキスを飛ばす。
「ハァイみなさん、アイドル櫻火真陰流INVERSの酒々井数多ちゃんけんざーん! サイン欲しい人は並んでね!」
刀を肩に担ぎ、ぎらりと目と刃を光らせる。
対するはチーム『オールドマン』。
ここまでの試合を華麗なチームワークで乗り越えてきた強豪である。
「作戦は?」
「ナイ!」
数多は片眉を上げてにんまり笑った。
「おーけい」
ゴングの音と遥の突撃はほぼ同時であった。
「キエエエエエエエエエエエ!」
奪取からの高速正拳突き。
腰のひねりと踏み込みと走り込みと突き込みとインパクトを全く同時に放つことで音速を超えるといういわゆるマッハ突きである。
狙いはポカはそれをギリギリで見極め、クロスアームでガード。
その後ろから番傘を開いたフーがカマイタチをおこし、チャプが回復を開始する。
敵チームはいわゆるバランス型。
普通に考えるならこちらもバランスを整え、相手よりも硬く相手よりも重く相手よりも回復し、その上で相手の要を間接的または直接的に潰していくところだが……。
今回のINVERSEはひと味違う。
空手バカ一代鹿ノ島遥。
真面目一直線御白小唄。
そして刃物が服着てあるいてるような酒々井数多。
彼らの作戦はただ一つ。
『片っ端からぶっつぶせ』である!
「――!」
小唄は祝詞によって自らの防御を固めるポカめがけて飛びかかり、がしりと相手の身体を足で挟んでから地面をショットガントレットで殴りつけ、強烈な勢いでスピンをしかけた。
当然足で挟まれたポカは強制的に転倒させられ、後頭部を地面に叩き付けられる。
あわてて回復に走るチャプ――をガン無視して数多は刀をゴルフクラブのように構えた。
狙いは勿論、地面に打ち付けられたポカの頭部である。
「いち、にーの、さん☆」
刀はゴルフクラブのようにふるものではない。
しかし実際ふったらどうなるのか、あまりお見せできるものでもなかろう。
というか、絶対見ちゃダメなものができあがった。
「チッ、貴様……!」
フーが高速でカマイタチを放ってくる。
数多の全身を刃が抜けていく。服どころか肉ごと裂けていくが、彼女のしったことではない。
血まみれ傷だらけの身体でありながら、かわいくしなを作ってウィンクをした。
その姿のなんと美しいことか。
「ちょっと借りるわ刃鉄きゅん」
直後、豪快にぶんなげた刀がフーの心臓部を貫通。
更に途中で斬った風が空気の刃となり、チャプもまとめて切り裂いた。
手を天空に翳す数多。刀がひとりでに彼女のもとへ戻り、柄をしっかりと握った。
「アシヲ ヒッパルナヨ!」
「……!」
遥なりの合図をうけ、小唄は走り出した。
二人並んでダッシュ、からの跳躍。
空中でチップショットを繰り出した小唄は高速スピンをかけ、フーの腹へ回し蹴りを叩き込む。
一方の遥は地面をへこませるほどの踏み込みからの回し回し蹴りを繰り出し、チャプの胴体をへし折った。
蹴り飛ばされ、空中でたがいに衝突するフーとチャプ。
相手を蹴り抜いた遥は両足をずんと地面に踏み込むように着地。同じく小唄も両足からずんと着地した。
息を深く。
深く深く、はき出す。
一拍おいて落下したフーとチャプを見て、審判は試合終了の旗を掲げた。
●個人戦
序盤はチーム『INVERSE』として戦っていた葦原 赤貴(CL2001019)は、途中から数多や小唄たちにチーム戦を任せ個人戦にシフトしていた。
自らの立ち上げたチームだけに気にならないと言えば嘘になるが、メンバーがあの三人である。心配には至らない。赤貴と同等かそれ以上の実力を、彼らは備えているのだ。
個人戦の最高ランクバトル。相手は連戦連勝の戦士グルービー・ベア。通称GB。
大柄な身体とどっしりとしたバランス。
全力で行かなければ踏みつぶされる。
赤貴は一度だけ深呼吸をして、ステージに上がった。
彼の取り出した青銅の剣に、会場がどよめいた。
赤貴がこれまで見せてきたバトルスタイルは刀を使ったバランス型。物理攻撃と特殊攻撃を織り交ぜ、相手の弱点をつくというものである。
度重なる試合によって手の内を晒すことの多い闘技場のファイターたちは彼のこのスタイルに敗れていったのだが……。
「ここへ来て武器の交換、か。そんな時代遅れの武器じゃあ、俺は倒せんぞ」
GBはタクティカルグローブをはめ込み、ぎゅむぎゅむと手を開閉させる。
赤貴の手の中で、剣が小さく振動した。
「大丈夫だ。思い知らせてやる」
赤貴は『剣に』囁くと、地面にどんと叩き付けた。
隆神槍。
つきあがる地面がBGを襲うが、彼はそれを殴ることで破壊。距離を詰めてくる。
叩き込まれた拳を剣で払う。
返す刀で剣を打ち込み、それをGBが払う。
互いに打ち合い払い合いが続く。
足をとめた、どちらかが折れたら負けのゲーム。
観客たちにはそう見えたが……。
「ああ、ありゃGBが負けるな」
観客席にいたチャックがポップコーンを頬張ったまま呟いた。
す、っと。
赤貴がGBの前から消えた。
剣だけが残され、彼の前にがらんと音を立てて落ちる。
赤貴は、いつのまにかGBの横をすれ違いながら、耳元でぱちんと指を鳴らした。
「な――」
いかなる魔法か。否、達人の技術である。
人間のもつ固有のリズムを著しく狂わせ、GBの身体から無意識に力を抜かせたのだ。
それもたった一瞬のことである。
だがその一瞬が、彼にとっての命取りとなった。
「おもしろい技だろう」
赤貴は脱力したGBの顔に手を当て、そして膨大な炎を巻き起こした。
会場が炎の渦に包まれる。
特殊なフェンスによって守られていた観客たちですら慌てて目を覆ってしまうような、それは暴力的な炎だった。
あとに残ったのは。
焼け焦げ、うつ伏せに倒れるGB。
そして、剣を取り上げて掲げる赤貴だった。
かくして、順調に最終段階へと駒を進めたファイヴの覚者たち。
次に待っているのは、闘技場の乗っ取り計画である。
「みんなっ! いっくよー!」
『sylvatica』御影・きせき(CL2001110)は両目にきらりと星をまたたかせると、ニノマエ ハガネめがけて拳を叩き込んだ。
顔面を直で狙った拳――だがしかし、ハガネはそれを手のひらで撫でるように受け、ぐねんと奇妙に身体をたわませるように動かすと、きせきの斬撃を完全に殺してしまった。
「あれ? いまのどうやっ――」
次の瞬間、きせきの鼻っ面にハガネのヘッドバッドが炸裂。
血を吹いてのけぞるきせき。
その顔面に更に拳。
更に肘。
更に膝。
更に踵。
最後にもう一度肘を入れて、地面にたたき落とした。
何が起こったのか、受けた本人はもとより見ている周囲も全くわからない、謎の受けからの謎の連打である。
そしてきせきは、気づけばステージの床に大の字になって寝ていた。
頭がぐわんぐわんして、自分がどこにいるのか、自分が誰なのか分からなくなってくる。
とりあえず、ハガネが意味不明に強いことだけははっきりと分かった。
そして今すべきことだけが、鮮明に脳を支配した。
「あ……ははっ!」
がばっと起き上がる。
バネ仕掛けのように立ち上がる。
一方のハガネはきせきから距離をとるように飛び退いた。
まるでトドメをさすことを怖がるような逃げ方だが、きせきは彼女を逃がさない。
スカートを翻し、ダッシュからのスピンキック。
足首を掴まれるが、構わず身体をひねって顔面に蹴り込んだ。
相手ごと倒れ、ごろごろと転がる。
「もっとやろお! こんなに楽しいんだから、もっとやろお!」
血まみれの顔を手首でぬぐい、きせきは世にもなまめかしく笑った。
一方こちらは『魔法少女ブレイズ』天楼院・聖華(CL2000348)。
ぎゅっと拳を固めて距離をとる聖華だが、対するタカラジマ ルルコはあろうことかスキップで聖華を追いかけてきた。
しかも鼻歌交じりである。
「おおかみなんかー」
ぴょん、とジャンプし、地面を踏む。
「こわくない!」
それだけで地面が放射状にひびいり、めくれあがり、距離をとっていた筈の聖華が高く上方向に浮いた。
「こわくないったら」
瞬間移動でもしたような動きで、ルルコが眼前に迫る。
「こわくない」
聖華の顔を両手でそっと包むように掴み。
ぐいんと振り回して地面めがけてぶん投げた。
爆発。
粉砕。
舞い上がるコンクリート片。
くるくる回って自由落下し、追撃の拳を叩き込もうとするルルコ――の顔面に、聖華のアッパーカットが炸裂した。
ごぎばりりという人間から聞こえちゃダメな音がしたかと思うと、回転してステージ脇の壁に吹き飛んでいく。
ペッと血を吐き捨てて、聖華は服の襟元を掴む。
「変身、魔法少女ブレイズ――スタイルイグニッション!」
早着替えである。
下に着込んでいたふりふりの衣装にチェンジして、聖華は観客の歓声を浴びた。
「ひゃっはー! 魔法少女だー!」
にっこり笑顔で風を切り、豪速で突っ込んでくるルルコ。
逃げるも避けるもできそうにない。というか逃げ切れないし避けきれない。最悪死ぬ。
なればこそ。
「ぶれいず――くろすかうんたー!」
顔面を狙ってぶち込んできたルルコのパンチに合わせて、聖華は拳をねじ込んだ。
「からのっ、ぶれいずらっしゅ!」
一発一発に気合いを込めて、ルルコの顔面にめいっぱい拳を叩き込んでいった。
ここは少女限定バトルアリーナ。
武器使用禁止殺害禁止、それ以外は『なんでもあり』。
荒ぶる少女たちの、楽園である。
●ショーバトル
「あっちは盛り上がってる頃か……」
「アタシ、アリーナいっていい? ここの観客『アレ』なのばっかでまじキツいんですけど」
「仕事しろ」
観客席で一般客に混じって試合を眺めるユェンとフィー。
二人はこれから始まるショーバトルを待っていた。
赤コーナーからは『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)。
お堅く着込んだ巫女装束を纏った祇澄はステージに上がる直前でつまづき、すってんと顔から転んだ。
思い切り顔からいったので、観客たちの間でなんだかゆるい空気が流れ始める。
「いたた……えっと、こほん」
深く呼吸をして刀を握る。抜いた刀でひゅんひゅんとインフィニティラインを描いてゆらりと構えた。
対する青コーナーからは岩倉・盾護(CL2000549)。
大きな槍を頭上でぐるんぐるんと振り回し、地面にこじりをついて仁王立ちして見せた。
「柔と剛。女と男。対照的な構図で先の展開をある程度予想させる。ショーバトルには悪くない滑り出しだ」
「ポップコーン買ってこよっか」
「さっさと行け」
フィーが『仕事』をすべく席をたつ。
その様子をヘルメットのバイザー下から確認した盾護は、ウオオと唸って祇澄へ突撃した。
槍による突撃である。それを祇澄は跳躍によって回避。
しかしギリギリでやりの刃先が巫女服の袴を切り裂き、大胆に脚を露出させた。
くるんと跳躍し、着地する祇澄。
前髪の間から青い目がちらりと光る。
対する盾護は槍を回転させながらまるでコマ回しのようにターン。
祇澄は迫るそれを、逆向きに回転しながら刀を叩き付けることで対抗――するが、そのうち一本が外れて天井へと飛んでいく。
すとんと天井に突き刺さる刀。
わき上がる歓声。
祇澄の胸元から腰にかけてがばっさりと切り裂かれ、祇澄は下着を押さえて大きく飛び退いた。
(分かっていても、なんだか、恥ずかしいですね……)
これを平気で、というか進んでやっていたあの人はすごかったんだなあと思う祇澄である。
別に色気を入れなきゃ絶対だめってわけではないが、人目を引くためのカードが彼女たちにそう沢山あるわけではない。使えるカードを使えるときにきるべき、ともいえた。
飛び退きによって回避された盾護はそのまま壁にぶつかり、回転をかけてターン。
再び祇澄へと迫っていく。
観客もこの段階で、マシーンのように相手に攻撃し続ける盾護と攻撃されるたびに服が裂けていく祇澄という構図を理解し始めていた。
そして脚と下着を露わにしたら次は……と息を呑むのも無理からぬ。
祇澄がいよいよ壁際へと追い詰められる。
刀を突き出し、迎撃の構えをとる。
そして絶妙な間合いで踏み込んで相手の槍を跳ね上げ――ようとした寸前、祇澄は切れてゆるんだ袴のすそをふんずけた。
「きゃあ!?」
転びそうになって慌ててのけぞる祇澄。
彼女の胸元ギリギリの所を槍の刃先が通過し、下着を奪って観客席へと放り投げた。
そう、ステージインの際につまづいて転んだのはこの伏線だったのだ。
大きく上がる歓声。
ハプニングに思わず回転をとめ、そしてぐらりと身体をよろめかせる盾護。
「な、なにするんですかあ!」
祇澄は胸元を押さえて盾護を殴りつけ、そして盾護は仰向けにどてんと倒れた。
胸元を押さえ、袴をつまんで観客に頭を下げる祇澄。
巻き起こる拍手の中、ショーバトルは無事に幕を閉じていく。
●チーム戦
「ワガ ナハ エビルハンド! ワガ コブシガ チヲ モトメル!」
カラテの構えから黒い般若の面をまがまがしく発光させる『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
もうここまでくると遥じゃない誰かなのだが、周りのメンバーは涼しい顔だった。
というか、『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は子狐の仮面を被ってじっと黙っていた。
この戦いをくぐり抜ければ、闘技場を仕切るボスに急接近することができる。
高額のボディーガード料や覚者界隈での知名度を求めて多くのチームが挑戦し、小唄たちとぶつかってきた。
誰もが本気で、そして殺す気でぶつかってきたのだ。
だが、だからこそ、そんな戦いを勝ち抜いた彼らのチーム『INVERSE』はアンダーグラウンドで知名度を上げることが出来たのだ。
「…………」
だから。目的を達するまでは、無口な子狐丸でいようと、小唄は決めていた。
その一方で、『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は大胆に自らをアピールしていた。
ほとんど水着みたいな格好で刀を抜き、観客席にウィンクや投げキスを飛ばす。
「ハァイみなさん、アイドル櫻火真陰流INVERSの酒々井数多ちゃんけんざーん! サイン欲しい人は並んでね!」
刀を肩に担ぎ、ぎらりと目と刃を光らせる。
対するはチーム『オールドマン』。
ここまでの試合を華麗なチームワークで乗り越えてきた強豪である。
「作戦は?」
「ナイ!」
数多は片眉を上げてにんまり笑った。
「おーけい」
ゴングの音と遥の突撃はほぼ同時であった。
「キエエエエエエエエエエエ!」
奪取からの高速正拳突き。
腰のひねりと踏み込みと走り込みと突き込みとインパクトを全く同時に放つことで音速を超えるといういわゆるマッハ突きである。
狙いはポカはそれをギリギリで見極め、クロスアームでガード。
その後ろから番傘を開いたフーがカマイタチをおこし、チャプが回復を開始する。
敵チームはいわゆるバランス型。
普通に考えるならこちらもバランスを整え、相手よりも硬く相手よりも重く相手よりも回復し、その上で相手の要を間接的または直接的に潰していくところだが……。
今回のINVERSEはひと味違う。
空手バカ一代鹿ノ島遥。
真面目一直線御白小唄。
そして刃物が服着てあるいてるような酒々井数多。
彼らの作戦はただ一つ。
『片っ端からぶっつぶせ』である!
「――!」
小唄は祝詞によって自らの防御を固めるポカめがけて飛びかかり、がしりと相手の身体を足で挟んでから地面をショットガントレットで殴りつけ、強烈な勢いでスピンをしかけた。
当然足で挟まれたポカは強制的に転倒させられ、後頭部を地面に叩き付けられる。
あわてて回復に走るチャプ――をガン無視して数多は刀をゴルフクラブのように構えた。
狙いは勿論、地面に打ち付けられたポカの頭部である。
「いち、にーの、さん☆」
刀はゴルフクラブのようにふるものではない。
しかし実際ふったらどうなるのか、あまりお見せできるものでもなかろう。
というか、絶対見ちゃダメなものができあがった。
「チッ、貴様……!」
フーが高速でカマイタチを放ってくる。
数多の全身を刃が抜けていく。服どころか肉ごと裂けていくが、彼女のしったことではない。
血まみれ傷だらけの身体でありながら、かわいくしなを作ってウィンクをした。
その姿のなんと美しいことか。
「ちょっと借りるわ刃鉄きゅん」
直後、豪快にぶんなげた刀がフーの心臓部を貫通。
更に途中で斬った風が空気の刃となり、チャプもまとめて切り裂いた。
手を天空に翳す数多。刀がひとりでに彼女のもとへ戻り、柄をしっかりと握った。
「アシヲ ヒッパルナヨ!」
「……!」
遥なりの合図をうけ、小唄は走り出した。
二人並んでダッシュ、からの跳躍。
空中でチップショットを繰り出した小唄は高速スピンをかけ、フーの腹へ回し蹴りを叩き込む。
一方の遥は地面をへこませるほどの踏み込みからの回し回し蹴りを繰り出し、チャプの胴体をへし折った。
蹴り飛ばされ、空中でたがいに衝突するフーとチャプ。
相手を蹴り抜いた遥は両足をずんと地面に踏み込むように着地。同じく小唄も両足からずんと着地した。
息を深く。
深く深く、はき出す。
一拍おいて落下したフーとチャプを見て、審判は試合終了の旗を掲げた。
●個人戦
序盤はチーム『INVERSE』として戦っていた葦原 赤貴(CL2001019)は、途中から数多や小唄たちにチーム戦を任せ個人戦にシフトしていた。
自らの立ち上げたチームだけに気にならないと言えば嘘になるが、メンバーがあの三人である。心配には至らない。赤貴と同等かそれ以上の実力を、彼らは備えているのだ。
個人戦の最高ランクバトル。相手は連戦連勝の戦士グルービー・ベア。通称GB。
大柄な身体とどっしりとしたバランス。
全力で行かなければ踏みつぶされる。
赤貴は一度だけ深呼吸をして、ステージに上がった。
彼の取り出した青銅の剣に、会場がどよめいた。
赤貴がこれまで見せてきたバトルスタイルは刀を使ったバランス型。物理攻撃と特殊攻撃を織り交ぜ、相手の弱点をつくというものである。
度重なる試合によって手の内を晒すことの多い闘技場のファイターたちは彼のこのスタイルに敗れていったのだが……。
「ここへ来て武器の交換、か。そんな時代遅れの武器じゃあ、俺は倒せんぞ」
GBはタクティカルグローブをはめ込み、ぎゅむぎゅむと手を開閉させる。
赤貴の手の中で、剣が小さく振動した。
「大丈夫だ。思い知らせてやる」
赤貴は『剣に』囁くと、地面にどんと叩き付けた。
隆神槍。
つきあがる地面がBGを襲うが、彼はそれを殴ることで破壊。距離を詰めてくる。
叩き込まれた拳を剣で払う。
返す刀で剣を打ち込み、それをGBが払う。
互いに打ち合い払い合いが続く。
足をとめた、どちらかが折れたら負けのゲーム。
観客たちにはそう見えたが……。
「ああ、ありゃGBが負けるな」
観客席にいたチャックがポップコーンを頬張ったまま呟いた。
す、っと。
赤貴がGBの前から消えた。
剣だけが残され、彼の前にがらんと音を立てて落ちる。
赤貴は、いつのまにかGBの横をすれ違いながら、耳元でぱちんと指を鳴らした。
「な――」
いかなる魔法か。否、達人の技術である。
人間のもつ固有のリズムを著しく狂わせ、GBの身体から無意識に力を抜かせたのだ。
それもたった一瞬のことである。
だがその一瞬が、彼にとっての命取りとなった。
「おもしろい技だろう」
赤貴は脱力したGBの顔に手を当て、そして膨大な炎を巻き起こした。
会場が炎の渦に包まれる。
特殊なフェンスによって守られていた観客たちですら慌てて目を覆ってしまうような、それは暴力的な炎だった。
あとに残ったのは。
焼け焦げ、うつ伏せに倒れるGB。
そして、剣を取り上げて掲げる赤貴だった。
かくして、順調に最終段階へと駒を進めたファイヴの覚者たち。
次に待っているのは、闘技場の乗っ取り計画である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
