<南瓜夜行>付喪神スラップスティック
<南瓜夜行>付喪神スラップスティック


●いつの間にか風物詩
 ――ハロウィン。それは本来、秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りなのだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
 本来は悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローやヒロインの仮装も多い。
 さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――街に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
 問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいる、と言う事なのだが――。
「……ううむ、気が付いたらこのイベントもがっつり浸透してきたのだが。昔はそんなに騒いで無かった筈だぞ、どうしてだ。妖の陰謀か!」
 ――と、のっけからハロウィンに対し否定的な発言をしているのは、ホスト風の優男――自称偉大なる陰陽師である土御門 玲司であった。
 彼が居るのは、ハロウィングッズに囲まれたお洒落な雑貨屋さんで。店内で堂々とこのようなことをのたまう空気の読めなさは、妖に劣らず厄介なものであった。
「しかも店でもハロウィンフェアをやるとかで、各自仮装を考えて来いとか……何故陰陽師であるオレ様が、怪物の格好をせねばならんのだ!」
 ぷんすかと頬を膨らませながら、玲司はハロウィン用の仮装が並べられている一角へと足を踏み入れ、其処でふと目についた衣装を手に取ってみる。
「む? 何だかこれは、少し使い込まれているような……妙な感じがするが。まあ、普段着と余り変わらないしもうこれでいいか」
 ――それは、黒のスーツにマントを組み合わせた吸血鬼風の衣装だった。さっさと会計を済ませて店を出ようとしたその時――衣装が不思議な輝きを放ち、瞬く間に玲司の身体を包み込んでいく。
「な……!? 面妖なッ! ……う、身体が言うことを……ぐぐぐ……!」
 直後、彼の顔は苦悶に歪み、その口元からははあはあと、苦しげな吐息が零れ始めた。
「……ぬおお、何故だか街に繰り出して皆を無性に驚かせたい! ついでに美女の首筋に噛み付きたい、いや美女でなくてもおっさんでも構わんぞ!」
 ――こうして不思議な衣装に操られ、一人の変質者が街へ解き放たれようとしていたのだった。

●月茨の夢見は語る
 街もこの時期は、ハロウィン一色――そんな楽しいイベントの裏で、古妖たちも騒いでいるようだ。しかし悪戯をするものは放っておけないと『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)は、夢見によって判明した事件を語る。
「お店で売られている仮装衣装の中に、付喪神が紛れ込んでしまったみたいなの。彼らはお客さんに取りついて、悪戯をして騒ぎを起こそうとしているんだ」
 付喪神とは、長い年月を経た物品に魂が宿ったとされる古妖なのだが――持ち主の想いが強すぎたのか、もっとハロウィンで悪戯したいと言う意志が元になり、仮装の衣装が付喪神となったらしい。
「付喪神の衣装を着せられたひとは、身体の自由を奪われて……とにかく皆を驚かせようと暴れ出すみたい。場合によっては、仮装の怪物に沿った行動もしてしまうみたいで、ちょっとしたパニック状態になってしまうから注意してね」
 ――で、このままでは付喪神に引き寄せられた一般人が取りつかれて暴れてしまうので、皆には先手を打って付喪神に対応して欲しい。すなわち。
「みんなが先に付喪神の衣装を着て仮装して、問題のない範囲で悪戯をし合って楽しんで、付喪神たちを満足させてあげて欲しいの」
 覚者ならば一般人よりも抵抗力があり、完全に意識を乗っ取られると言うことは無いだろう。付喪神は『ハロウィンに衣装を着て貰って、悪戯をして大騒ぎをしたい』と言う一心で動き出したようなので、ある程度付き合ってあげれば満足して大人しくなる筈だ。
「それで、ね……実は既にひとり、付喪神の犠牲になってしまったひとが居て、彼のことも何とかして欲しいんだ」
 ――複雑な表情で苦笑する瞑夜が言う、犠牲者の名は土御門 玲司。一応隔者である彼だが、取りついた付喪神は思いの外強力で、このままでは白昼の街がとんでもないことになってしまう。具体的には、吸血鬼の衣装を着た彼がところかまわず首筋に『ちゅー』をしようとし、女性どころか男性まで襲われてしまうのだ。
「おじさんに襲い掛かる姿とか、見てしまったひとも軽くトラウマになると思うから、大事になる前に止めてね……!」
 古妖による事件だと悟られる事無く、ハロウィンのお祭り気分で何事もなく収められれば言うことなしだ。もし余裕があるのなら、仮装気分を楽しんでみるのも良いかもと言って、瞑夜は皆にこの事件の解決をお願いしたのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:柚烏
■成功条件
1.古妖・付喪神たちを満足させ、街に騒ぎが起きないようにする
2.変質者・土御門玲司の奇行を止める
3.なし
 柚烏と申します。今年もハロウィンがやって来ましたね。南瓜を眺めつつテンションを上げていますが、再び古妖による悪戯が街を騒がせようとしているようです。

●古妖・付喪神
長い年月を経た物品に、魂が宿ったとされる古妖です。想いの強さ故か、今回はハロウィンの仮装衣装が付喪神となり『ハロウィンに衣装を着て貰って、悪戯をして大騒ぎをしたい』との想いで人々に取りついてしまうようです。
取りつかれた場合、衣装を着せられて自由を奪われ、とにかく皆を驚かせようと暴れ出します。場合によっては、仮装の怪物に沿った行動もしてしまい、自分の意志が乗っ取られて暴走しかけるようです(例・ゴリラなら勝手にドラミングをしてしまうなど)

●依頼の流れ
付喪神に一般人が取りつかれてしまう前に、覚者の皆さんが先に付喪神の仮装衣装を装着。『ハロウィンに仮装し、悪戯をして大騒ぎをする』と言う付喪神の願いを、街の人々がパニックにならない程度の範囲で叶えて、彼らを満足させて大人しくさせます。
皆さん同士で脅かしあいっこをするなどしつつ、変質者と化した土御門も沈静化させてください(お芝居やイベントですよ、と言った感じで人々を納得させられると良さそうです)
※リプレイは仮装を終えた直後からスタートします。

●付喪神の衣装
全部で8着ありますので、一人一着担当してください。好きな衣装を選ぶのが難しいようでしたら、参加メンバーの左上から順に、割り振った番号のものを選んでみてください。
1・ヴァンパイア
2・南瓜の魔女(男でも魔女)
3・狼男
4・ゾンビ(メイク付き)
5・小悪魔
6・ゴリラ(着ぐるみ)
7・ミイラ男
8・死神

●土御門玲司
変質者と化した隔者です。自称陰陽師のホストで、一見イラスト通りのイケメンさんですが、性格は非常に残念です。ヴァンパイアの衣装を選んだまでは良かったのですが、強力な付喪神に当たってしまったようです。街で皆を驚かせたい、男女問わず『ちゅー』したい発作に襲われており、このままでは通りすがりのおっさんが被害に遭ってしまいます。

●シナリオの舞台
時刻は午後、場所は人通りの多い商店街です。ハロウィンで盛り上がっており、少しくらい仮装をしていても怪しまれません。ちょっとのことならハロウィンでごまかせますが、あまり大事になり過ぎると人々も不審に思い、パニックになる恐れがあります。

 わいわい楽しむことが付喪神の願いを叶えることにも繋がります。折角のハロウィンなので、是非仮装にこだわりつつ事件の解決に当たって頂ければと思います。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年11月11日

■メイン参加者 8人■

『もう一人の自分を支えるために』
藤 零士(CL2001445)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)

●ツクモガミファッション
「去年のハロウィンも、古妖さんがお祭りに混じったりして……色々な出来事、起こったよね……」
 しみじみと時の流れを噛みしめる『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は、仮装コーナーに紛れ込んでいた、付喪神の衣装を素早く回収しつつ呟いた。
 やっぱり古妖たちは、人間が怪物などの仮装をするハロウィンに興味を惹かれるのだろうか。この時期は街中が、不思議なお化けや南瓜の意匠に彩られるし――人間だって知らず心浮き立つから、羽目を外したくなる気持ちも分かるけれど。
「古妖さんも、悪気はないんだし……ちゃんと、落ち着かせてあげたいよね……」
 そんな訳で、早く着て貰いたいとうずうずしている付喪神をなだめつつ、皆は其々に一着ずつ仮装の衣装を身に着けていった。ミュエルが選んだのは、ヴァンパイアの衣装――宵闇を思わせるスーツとマントは、すらりとした彼女の長身を魅力的に引き立たせる。
「わぁ……ミュエルちゃん、スタイル良いから似合いますね」
 髪を纏めて男装の麗人に変身したミュエルは、欧米の血が混ざっていることもあり、違和感なく洋装を着こなしていた。一方の『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)は、小柄な身体に魔女の衣装を纏い、思わず守ってあげたくなるような愛らしさを漂わせている。
「ありがと……澄香さんも、可愛いよ……」
「ふふ、魔女さんの格好って、一度してみたかったのですよね」
 魔女帽を被った守護使役――レンゲさんにアホ毛を引っ張られつつミュエルがはにかむと、澄香は黒いフリルのミニスカートを揺らしてくるりと一回転した。
「カボチャの魔女って、もしかしてカボチャ被ってると思ったんですけど……」
 ――流石にそんなことは無く、所々に南瓜の橙色があしらわれ、お化け南瓜のワンポイントもあると言うものだったようだ。
「ハッピーハロウィン! いやいや、まさかお仕事でハロウィンの仮装をすることになるとはねぇ……」
 一方、華やかな女性陣の仮装に対し、男性陣は格好良さで勝負と言ったところ。死神の仮装をした『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は、黒のフード付きのロングコートを引きずりつつ、手には大鎌を握りしめている。これで後は、顔に髑髏の仮面を付ければ完成なのだが――。
(……この格好、ハロウィンじゃなかったら職質喰らいそうだよね……)
 夜中にばったり出くわしたら洒落にならないかも、と苦笑する恭司に頷き『もう一人の自分を支えるために』藤 零士(CL2001445)は、やれやれと大きなため息を吐いた。
「こう言ったイベント事は、零士の担当なんだがなぁ……」
 しかし古妖絡みなら仕方ない――そう呟く彼の瞳は、普段とは違う剣呑な光を帯びていて。それは、もう一つの人格である『ゼロ』が表に出ている証だった。
 ――そんな零士の仮装はミイラ男。古めかしい包帯をぐるぐると顔に巻き付け、ダボッとした白衣に聴診器を引っかけた、ミイラとドクターの合わせ技だ。
「俺は、魔女じゃなければいいと思って選んだけど……」
 流石に女装は無理だと首を振る『月下の黒』黒桐 夕樹(CL2000163)は、狼男の仮装をすることにしたらしい。ふさふさの狼耳と尻尾は、やはり違和感があってくすぐったいが、獣の因子持ちになったと思えば問題ない。
 ――が、肉球つきのもこもこブーツとミトンはちょっぴり動き辛くて、常備している棒付き飴を取り出すのも一苦労だ。
「……でも、あれもあれで大変そうだな」
 がりがりと飴を齧る夕樹の視線の先、其処には滂沱の涙を流しながら、ゴリラの着ぐるみに手を掛ける『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)の姿があった。
「らめぇ!!! 私美少女なのにゴリラになっちゃうらめぇええええん! この、この付喪神のせいで! だから、妖なんて嫌いなのよっ!」
 くっ、殺せ――なんて声も聞こえて来たが、その割に彼女は喜々として着ぐるみ(多分ニシローランドゴリラ)を装着している。やがて、しゃっきーんと言う効果音と共に霊長類の垣根を飛び越えた数多は、商店街のど真ん中で華麗にポーズを決めた。
「ゴリラ装備! 今日からわたしはゴリタ!」
 ――そう言えばゴリラって、ギリシャ語の『毛深い女部族』が語源だったなあと、夕樹が思ったかどうかはさておき。今年のハロウィンはいっぱい仮装すると燃えている『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)はと言えば、青白い肌に傷痕メイクもリアルなゾンビに扮していた。
「今回はゾンビ! 狐ゾンビー!」
 血糊のついた服を着て、ゆらーりと手を伸ばせば気分は歩く死者だ。ちょっぴり狐の毛がペタッとするのは好きじゃないけれど、精一杯ゾンビになり切ろうと小唄が視線を巡らせた先には、小悪魔の格好をした先輩――『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が立っていた。
「小悪魔衣装……どういった物かイマイチ想像できませんでしたが、思ったよりは普通でしょうか」
 そう呟いたクーの衣装は、キュートな感じで纏めつつもちょっぴり刺激的で――これは小悪魔ギャルと言うべきなのだろうか。
「少しスカート丈が短く感じて、どうにも落ち着きませんが……変じゃないでしょうか?」
 きわどいミニスカートを押さえつつ、ヒール高めのブーツから覗く足に普段の戌尻尾を巻きつけて。悪魔の翼と尻尾を付けたクーの姿は、普段の清楚なメイドスタイルとは、また違った魅力があった。
「いえ、クー先輩の小悪魔、可愛いです! 変じゃないですよー!」
 ぶんぶんと首を振って赤い顔を誤魔化す小唄は、自分の方はちゃんと怖いかと尋ねたが、問題ありませんと言うようにクーが頷く。
「小唄さんの衣装は、メイクとも合わさって、ちょっとドキっとしますね」
 尻尾がぶわっと膨らんでしまうのも、致し方ない所――そんな感じで和やかな空気を味わっていたのも束の間、其処でクーの耳がぴくりと、商店街に轟く不穏な叫び声を捉えた。
「ぬおおう、首筋にちゅー! ちゅーさせろ!」
 嗚呼、それはハロウィンで賑わう街に変質者――もとい、付喪神の犠牲者が現れた瞬間であったのだ。

●みんなでトリック・オア・トリート
「……いきなり騒いでいるんだが」
 無感情な瞳で夕樹が見つめる先では、古式ゆかしい黒マント姿のヴァンパイアに扮した、土御門 玲司が狂態を晒していた。ちなみに幾らイケメンであろうと、ロボットダンスのような動きで「ちゅー」などとのたまう姿を見たら、本職のヴァンパイアさんも良い迷惑であろう。
「取り敢えず……落ち着け」
 そんな訳で物理的に対処するべく、夕樹は暴れる玲司の後ろに回り込んで膝の裏を蹴る――所謂ひざかっくんを実行した。
「むぐ!」
「はいはい、ハッピー……ハロウィン!」
 前のめりに倒れる玲司を、すかさず抱きかかえるのは恭司であり――真っ先に変質者の確保に向かった彼は同時に、バッと手を広げて周りの人を引き離していく。
「いやいや、僕らイベントでやってきたんだけれど、連れがちょっとテンション上がり過ぎちゃってね。吃驚させちゃったなら……ハロウィン大成功かな?」
 周囲を和ませるマイナスイオンを漂わせ、見事な説得を行う恭司によって、通行人の皆さんも「なーんだ」と納得してくれたようだ。しかし、其処で玲司が暴れ出し、恭司の手のひら目掛けてがぶりと噛み付いた――のだが。
「ふぐぐぐ、固い! 歯が折れるッ!」
「僕に吸血行動したりしないよね……って、遅かったか」
 死神の骨ばった手は難しいと考えた恭司は、肌が見えないように黒の皮手袋をしていたのだが、玲司は其処に噛み付いて返り討ちに遭ったらしい。
(……ヴァンパイアか。物語では、狼男は吸血鬼の僕って設定がよくあるみたいだけど)
 涙目で口を押さえる玲司に、やれやれと言った様子で近づいた夕樹は、口にしていた飴を外し――冷淡とも言える相貌で、白い歯を覗かせ軽く噛むふりをした。
「あんまり暴れる様なら……食べちゃうよ」
 と、突然の主従逆転展開に、人混みから女子学生と思しき集団が、きゃあああああと黄色い声を響かせる。そのパワフルさにちょっぴり気圧されつつも、確保された玲司に向けて、遠い目で澄香が呟いた。
「それにしても土御門さん……また取り憑かれてるのですね。本当に凄い陰陽師なんですか、あなた」
「ええい、これは遅れを取っただけで、貴様らだって大変な目に遭っているだろうが!」
 びしっ、と玲司が指を突き付けた先では何と、身も心もゴリラとなった数多がドラミングを響かせている。その素晴らしいゴリラっぷりに、周りの子供たちが興味を惹かれて近づいて――やがて数多を真似してドラミングを始めていった。
「うわー、こまるわぁ、こんなゴリラ行動したくないのにー(棒) ……って違う!! 本当のドラミングはこう! 手をひらいて、高く! 遠くに響かせるように!」
 ――そう、これは威嚇。ゴリラがゴリラたる誇りを示す、崇高な行動なのだ。そんな訳でよくできた子ゴリラにはお菓子をあげ、数多は次世代のゴリラを着々と増やしていく。
「まあ、無駄な戦闘はする必要はないだろうな。大事にする訳でもないし」
 もしもの時の戦闘も辞さない覚悟で零士は双刀に手を掛けていたのだが、仲間たちは上手に玲司をあしらいつつ、付喪神たちの望みも叶えているようだ。小悪魔なクーは和やかにチョコ菓子を配っているが、その味は甘いものからビターなものまである、ロシアンルーレット風味のものだった。
「トリック・オア・トリート。お菓子をくれなきゃ、私のお菓子を食べてもらいますよ」
「あー、ぞーんびー。とりっくー、おあー、とりーとー」
 その隣では、ゾンビらしくゆっくりと小唄がおどろおどろしさを漂わせ、驚かせた後はダンスを踊り、皆に笑いを振りまいている。
(昔、こんな風にゾンビが踊るダンスがありましたよね!)
 いつしか其処には、ナックルウォークをする数多も加わって。興奮してきたのか、その辺りの木の皮をめくって「キノカワウマイ」と叫ぶ辺り、彼女は大分ゴリラ化が進行してきたと思われた。
「さあ、ハッピーハロウィンです。良かったらクッキーをどうぞ♪」
 一方、天使のような微笑みを浮かべる澄香は、手作りのカボチャのクッキーを配っている。しかし、その半分は激辛であり、色でバレないように作るのは苦労したとは彼女の弁だ。
「どれに『当たり』が入ってるか、私にも判らないんですけど」
 のほほんと呟く澄香であるが、実際は計算高い面もあるようで――しっかり『当たり』しか入っていない包みも分けておいたのだと言う。
「一つは土御門さんに差し上げます、ふふっ」
「待て、その笑顔が怖い! 魔女どころか魔性の女ではないか!?」
 澄香の迫力に押されて、激辛クッキーを口にした玲司は撃沈――ちゃんとお水を差し入れるフォローも忘れない澄香だが、水にも何か入っていたりはしませんよと意味ありげに呟いた。
「本当ですよ? ふふふ」
 ――くすくす笑う澄香は、其処で常に変わらぬ無表情の夕樹を見つけ、悪戯心がむくむくと湧き上がってくるのを感じる。
「あげちゃいましょうか。悪いのは、付喪神ですもの、ね」
「まぁいいけど。でもこれ、悪戯だよね。……じゃあ、やり返しても、いいよね」
 賑やかに悪戯を仕掛ける皆に、いつしか商店街の人々も目を奪われている様子だ。一般の人たちもちょっぴり脅かそうと、近づくミュエルの口元からはつぅと、血に見立てたラズベリーソースが滴る。
 わ、とびっくりした女の子の集団に微笑みつつ、ミュエルはそっとヴァンパイアをイメージしたお菓子――赤いベリー系の飴を口に含ませた。
「綺麗なお嬢さん、僕と闇の世界を生きませんか?」
 ちょっと恥ずかしくも、折角の男装なので格好をつけてみたりして。すると、日本人離れしたミュエルのスタイルは好評だったらしく、笑って済ませるどころかあちこちから歓声が飛んできた。
「きゃー! お姉さん格好いい! モデルとかですかっ!?」
「可愛い感じの声とのギャップとか、マジ萌えるんですけどっ!」
「え、え……そう、かな……?」
 自分の見た目がちょっぴりコンプレックスだったりもしたけれど、こうして喜んでくれるひとも居る――それを実感したミュエルは、ほんのりと胸があたたかくなるのを感じていた。

●付喪神の野望
「さて、それじゃどんどん盛り上げていきましょうか」
 身に着けた付喪神の衣装も、わくわくと楽しそうにしているのを感じながら、澄香は翼で羽ばたきつつ箒に跨り空へ――そのまま一気に急降下して、皆を驚かせて回る。
「くっ……おさまれ俺の右手……ッ!」
 そんな中、零士の包帯に巻かれた腕がいきなり疼きだしたりもしたのだが、ミイラ男ってこんな怪物だっけとツッコミを入れる彼(ゼロ)であった。
「トリック? オア、トリート?」
 と、ダンスを披露している小唄の後ろにこっそり近づいたクーは、肩をぽんと叩いてハロウィンの挨拶を。其処で「んー」と自然に振り向いた小唄のほっぺに、伸ばしていたクーの指先がむにっと刺さる。
「古典的ですが、一度やってみたかったので」
「こ、こんな古典的ないたずらに引っかかるなんて……うう」
 そう言いつつも、クーがこんな悪戯をするなんてと小唄は新鮮な驚きを味わっていて。そんなささやかなトリックのお詫びにと、クーは小唄へこっそり、とびきり甘いチョコレートを差し出した。
「……内緒ですよ」
「うわ、とっても甘い! 美味しいー♪」
 ――と、和やかな雰囲気を漂わせつつ、無事にハロウィン騒ぎも収まろうとしていたのだが、死神に連行されていた吸血鬼が最後のあがきを見せる。
「おのれいちゃいちゃしおって! ハロウィンに乗じて悪戯でちゅーをする、その夢を叶えるまで大人しくなるものかああ!」
 何やら不埒なことをのたまった玲司であるが、これは彼に取り憑いた付喪神の怨念なのだろう。何ともはた迷惑な古妖であるが、それで収まるのなら――と零士は覚悟を決める。
「僕に噛みつくのはともかく、クー先輩にちゅーはだめ!」
 なりふり構わず皆に襲い掛かろうとした玲司目掛け、小唄が思いっきりびんたをした。ぎゅるる、と凄い勢いで玲司の首が半回転した所に、クーがハロウィンのカボぐるみを投げ込んで牽制を行う。
「イタイイタイノ、ナオシマショー……ナオシマショー……」
 不気味な呪文を唱えながら、零士はミイラの包帯をぐるぐると玲司に巻き付けていって。更に邪悪な笑みを浮かべる澄香が、土蜘蛛の糸を繰り出し雁字搦めにしていった。
「ふふふ、魔女の呪いで動けなくなったようですね」
 其処で夕樹が、これも悪戯の一環とばかりに捕縛蔓を巻きつかせて、もがく玲司の動きを鈍らせていく。
「あー……活きのいい獲物だな。これは食べごたえがありそうだ」
 そう呟きつつ、思いっきりぞんざいな扱いで玲司を転がしていく夕樹。その先には、拳を震わせて仁王立ちするゴリラ――数多が居る。
「れーじ君! あなたそれでも最強の陰陽師なの?!」
「ごふぅっ!!」
 目を覚ませとばかりにゴリラビンタが炸裂し、半回転していた玲司の首がようやく元の位置に戻った。吸血鬼は日本にいないし、と言い聞かせる数多は覚悟を決めたらしく、ずずいと前のめりになってゴリラの着ぐるみ越しに宣言する。
「ちゅーされる? いいわよ。ごりらにちゅーするおもしろ陰陽師だわ! あ、ちょい、これ、そこの見物人! カメラ! カメラ動画でとっといて!」
 ――あとで本人に見せる、みせて泣かせると意気込む数多に、流石の付喪神も怖れを為したらしい。潮が引くように玲司は大人しくなり、やがてガタガタと震えだして――ごめんなさいと泣きそうな声で彼は土下座をした。
「でも、付喪神さん……ハロウィンを、楽しみたかったんだよね……?」
 その気持ちは分かると慰めるミュエルは、折角なので赤ワインに見せかけた梅酢ドリンクを、一緒に飲み比べしようとグラスを差し出す。
「うう、すっぱい……だが、悪くない……」
 そうして涙ながらに梅酢ドリンクを飲んだ玲司――に取り憑いていた付喪神は、満足げな様子で彼を解放した。

●人生はケセラセラ
「折角のイベントなんだから、皆で楽しんでいかないとね!」
 その後も恭司が声色変化で道行く人を驚かせたり、夕樹はもこもこの肉球を押し当てたりして、好評の内にハロウィンの悪戯は終了――付喪神たちも満足して大人しくなった。
「……こんな酷い光景は……俺(ゼロ)の目に焼き付けておく……さ……はは……」
 ぼろ雑巾のようになった玲司を見つめる零士は、何処か遠い目をして呟いていたが、クーや小唄は皆で笑って過ごせるのが一番と清々しい表情をしているようだ。
「えへ、楽しかったわね。それにしても簡単に犠牲者になるなんて、陰陽師がなくわよ? 私はライバルの安倍晴明なんだからっ」
 と、ゴリラの着ぐるみを脱いだ数多は玲司の隣でくすくす笑い、ついでだから連絡先を交換しようと持ちかけた。割りと仕事かちあうし、情報共有しないかとの言葉に、色々と助けられた玲司も思うところがあったらしい。
「……ふん、貴様らと慣れ合うつもりはないが、連絡先くらい教えてやらんことはないぞ!」
 ――そんな感じで勿体をつけてアドレスを教えた玲司であったが、後日彼の元には、ゴリラの着ぐるみに土下座するヴァンパイアの写真が送られてきたと言う。

■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『トリックアソート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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