狂気の憤怒者
●船上の憤怒者
「今からこの場は、我々が占拠した!」
覆面を被った一人の男が高らかに宣言する。
豪華客船でのパーティー会場。招待された多くの人々が、談笑と料理を楽しんでいた中。
突如としてそれは起こった。
「我々は正義の憤怒者だ。速やかに降伏しろ」
数十人の武装集団が、一般人達に銃を突き付けて乱入してくる。
彼らは見事な手際で、船内を瞬く間に管理下に置いてしまう。乗客達が色めき立つ。
「い、一体、何なんだ!」
「憤怒者だと! 私達一般市民に……な、何の用だ!」
「あいつらの標的は、覚者のはずだぞっ?」
憤怒者――アウトレイジ。
覚者に対して遺恨を持つ人間達である。
確かに一般的な憤怒者の対象は、覚者であるはずだった。この船に乗っているのは全て一般人。これに手を出すのは常軌を逸している。
「……お静かに、紳士淑女の皆さん」
驚くほど静かな銃声音。
リーダ格と思わしき憤怒者は、客の一人を何の躊躇もなく撃ち殺した。あまりの事態に、思わず人々は口を噤む。
「さて、私はこのアウトレイジ集団の長。高橋と申します。以後、お見知りおきを」
死体となった相手を足蹴にして。
人を撃ち殺したばかりの男は、恭しく礼をしてみせる。
「皆さんの疑問にお答えしましょう。我々は覚者の殲滅を目的とした集団です。同じようなアウトレイジとしては『XI』などが、有力派閥として有名ですが……我々に言わせれば、彼らのやり方は生ぬるい」
口調は穏やかなまま。
憤怒者達は、血走った目を人質達に向ける。
「我々の敵は、覚者のみにあらず。覚者と親しくする者、覚者を支援する者……間違った存在に、手を貸す全てが我々の敵です」
さあ――胸に手を当ててみてください。
と、高橋は促した。
「この船上パーティ、親覚者派の方々が多く招かれていますね。例えば――あなた」
「ひっ」
立派な身なりの女性が、銃口を向けられて縮こまる。
「あなたは、覚者の家族がいる。そのことから覚者の支援活動に、積極的に従事なさっている……答える必要はありません。ええ、調べはついていますから」
「た、助けてっ。私は、ただ……」
「言い訳は結構。貴方に対する我々の要求は一つ……見せしめとして死んで下さい」
女性は悲鳴をあげて逃げ出す。
憤怒者は、慌てる様子もなく。背中から標的を一発で射抜いた。
逃亡者が倒れて、血の泉を作り出すのを確認してから。リーダーの男は、乗客達に向き直る。
「皆さんは、覚者達を支援している各界の方々だ。二度と覚者達と友誼を結ぼうなどと、考える者が出ぬように然るべき処置をとらさせて頂きます」
一般人だろうと、何だろうと。
覚者と親しくする者には牙を剥ける。彼らの狂気を孕んだ眼は、そう語っていた。
「逆らう場合は容赦しないので――是非ご協力を」
「大変だ。AAAからの緊急要請があった」
会議室にて。
久方相馬(nCL2000004)が、真剣な目で覚者達に説明を始める。
「覚者に友好的な人達が多く参加する船上パーティーを、憤怒者達が襲撃するという事件が起こったんだ。憤怒者の連中は、そのまま一般の人々を誘拐ないし殺害するつもりって話だぜ」
事態を重く見たAAAはこの救出のため、F.i.V.Eに協力を要請してきたのだという。
海上までは小型船が用意されている。
敵に気取らずに潜入して、人質達を救出。更に憤怒者達を制圧するというのが今回の依頼だ。
「今回動いている憤怒者の戦力は、二十人程度。リーダーは高橋という男だ」
対して、人質の数は約百人。
大部分は最も広いパーティ会場に、集められて監禁されている。
「平気で非道を行う連中の好きにさせるわけにはいかないっ。危険な任務になるけど、よろしく頼むな!」
「今からこの場は、我々が占拠した!」
覆面を被った一人の男が高らかに宣言する。
豪華客船でのパーティー会場。招待された多くの人々が、談笑と料理を楽しんでいた中。
突如としてそれは起こった。
「我々は正義の憤怒者だ。速やかに降伏しろ」
数十人の武装集団が、一般人達に銃を突き付けて乱入してくる。
彼らは見事な手際で、船内を瞬く間に管理下に置いてしまう。乗客達が色めき立つ。
「い、一体、何なんだ!」
「憤怒者だと! 私達一般市民に……な、何の用だ!」
「あいつらの標的は、覚者のはずだぞっ?」
憤怒者――アウトレイジ。
覚者に対して遺恨を持つ人間達である。
確かに一般的な憤怒者の対象は、覚者であるはずだった。この船に乗っているのは全て一般人。これに手を出すのは常軌を逸している。
「……お静かに、紳士淑女の皆さん」
驚くほど静かな銃声音。
リーダ格と思わしき憤怒者は、客の一人を何の躊躇もなく撃ち殺した。あまりの事態に、思わず人々は口を噤む。
「さて、私はこのアウトレイジ集団の長。高橋と申します。以後、お見知りおきを」
死体となった相手を足蹴にして。
人を撃ち殺したばかりの男は、恭しく礼をしてみせる。
「皆さんの疑問にお答えしましょう。我々は覚者の殲滅を目的とした集団です。同じようなアウトレイジとしては『XI』などが、有力派閥として有名ですが……我々に言わせれば、彼らのやり方は生ぬるい」
口調は穏やかなまま。
憤怒者達は、血走った目を人質達に向ける。
「我々の敵は、覚者のみにあらず。覚者と親しくする者、覚者を支援する者……間違った存在に、手を貸す全てが我々の敵です」
さあ――胸に手を当ててみてください。
と、高橋は促した。
「この船上パーティ、親覚者派の方々が多く招かれていますね。例えば――あなた」
「ひっ」
立派な身なりの女性が、銃口を向けられて縮こまる。
「あなたは、覚者の家族がいる。そのことから覚者の支援活動に、積極的に従事なさっている……答える必要はありません。ええ、調べはついていますから」
「た、助けてっ。私は、ただ……」
「言い訳は結構。貴方に対する我々の要求は一つ……見せしめとして死んで下さい」
女性は悲鳴をあげて逃げ出す。
憤怒者は、慌てる様子もなく。背中から標的を一発で射抜いた。
逃亡者が倒れて、血の泉を作り出すのを確認してから。リーダーの男は、乗客達に向き直る。
「皆さんは、覚者達を支援している各界の方々だ。二度と覚者達と友誼を結ぼうなどと、考える者が出ぬように然るべき処置をとらさせて頂きます」
一般人だろうと、何だろうと。
覚者と親しくする者には牙を剥ける。彼らの狂気を孕んだ眼は、そう語っていた。
「逆らう場合は容赦しないので――是非ご協力を」
「大変だ。AAAからの緊急要請があった」
会議室にて。
久方相馬(nCL2000004)が、真剣な目で覚者達に説明を始める。
「覚者に友好的な人達が多く参加する船上パーティーを、憤怒者達が襲撃するという事件が起こったんだ。憤怒者の連中は、そのまま一般の人々を誘拐ないし殺害するつもりって話だぜ」
事態を重く見たAAAはこの救出のため、F.i.V.Eに協力を要請してきたのだという。
海上までは小型船が用意されている。
敵に気取らずに潜入して、人質達を救出。更に憤怒者達を制圧するというのが今回の依頼だ。
「今回動いている憤怒者の戦力は、二十人程度。リーダーは高橋という男だ」
対して、人質の数は約百人。
大部分は最も広いパーティ会場に、集められて監禁されている。
「平気で非道を行う連中の好きにさせるわけにはいかないっ。危険な任務になるけど、よろしく頼むな!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者達を制圧
2.人質を救出し、犠牲者を二十人以下に抑える
3.なし
2.人質を救出し、犠牲者を二十人以下に抑える
3.なし
今回は憤怒者に関連するシナリオとなります。
●憤怒者側の戦力
リーダーは高橋という男。
人数は二十人程度。それぞれ銃火器で武装しています。一人一人の強さは覚者には及びませんが、多人数で囲まれるなどした場合決して油断はできません。
戦闘になった場合の敵配置は適宜変わりますが、前衛、中衛、後衛に同人数でばらけようとします。
ナイフ斬撃 :物近単
マシンガン掃射:物遠列 などが攻撃手段です。
●豪華客船(戦闘場所について)
全長三百メートル級の客船です。
パーティーホール以外にも、多くの客室や、シアター、プールなどがあります。
人質のほとんどは、広いパーティーホールにいます。
憤怒者達の半数はパーティーホール。他はばらけて、船内を回っています。
甲板には見張りがおり、ホールに続く廊下は戦闘は可能ですが見通しはよくありません。
リーダーの高橋がどこにいるかは不明です。
●乗客の救出について
人質は親覚者派の人々、船員、無関係の一般人など約百人。
どのように救出するかなどは、参加する覚者達に一任されています。先に憤怒者全員を制圧するのを目指す、船の救命ボートで逃がすなど方針は自由です。
それでは、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
5日
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
サポート人数
4/4
4/4
公開日
2015年09月17日
2015年09月17日
■メイン参加者 10人■
■サポート参加者 4人■

●接舷
海上に浮かぶ豪華客船。
鳴海 蕾花(CL2001006)の守護使役・つくねが上空からそれを偵察する。
甲板には見張り役の憤怒者達が、使命感を剥きだしに銃を構えていた。
「あーやだやだ、どうして穴だらけの理屈を話す奴に限ってあんなに自信に満ち溢れてるんだろう」
蕾花の脳裏に苦い思い出が浮かぶ。
(子供の時にもあったな、「覚者と仲良くしたらお前もいじめるぞって」さ)
本作戦の参加者の中には、憤怒者に対して強い怒りを感じている者も多くいた。蕾花は頭を振って、警備が比較的薄い場所を探る。
「甲板にいるのはニ人。船尾の方が安全かな」
「分かったわ。次は私の出番ね」
三島 椿(CL2000061)が翼を露わにすると、甲板へと飛行する。見つからないように船へと乗り込むと梯子を垂らした。覚者達は、不死川 苦役(CL2000720) が操縦する小型船で用心深く接舷すると、一人また一人と敵地へと侵入していく。用心のため、灯りは極力つけていない。
「パーティーホールに人が大勢……通路を移動している敵が幾人かいますね」
『レヴナント』是枝 真(CL2001105)が感情探査で、人が集まっている場所を探った。あくまでも大まかな情報ではあるが。味方が揃うまで周辺警戒は怠らない。
覚者達は、三つのグループに分かれる。
リーダーの高橋の探索をする班。
人質の救助をする班。
戦闘を主に担当する班。
時間の勝負になる。全員がそれぞれの役割を果たすべく動く。
「まずは、見張りをクリアしないとね」
戦闘班の『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)が、鷹の目で甲板の様子を観察する。『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)が頷き、しのびあしを使って足音を消す。見張り役達は、ぎりぎりのところまで気づくことが出来なかった。
「あなた達みたいに誰かをいじめて正義だなんていう人を――」
「その姿、覚者か!」
「私は正義の味方だなんて思えません!」
不意打ちの猛の一撃が、見事に決まる。
椿がエアブリッドで援護し。蕾花と椿姫が続く。
「くっ、化け物共が!」
「あたし人間が出来てない。挑んできた相手に手加減は出来ない」
急襲された憤怒者達は、発砲する間もなく。一人が床に転がった。
「そちらから来るとは! 全員メンチにしてやる!」
「AAAに居たときからこういった連中と争う事はありました。覚者が異物で有る事は重々承知ですが……この見境の無さは度し難いですね」
殺意丸出しの斬撃を、『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)が超視力で反応して。逆に不殺を狙った飛燕により、もう一人が倒れる。
これ以上騒がれるわけにもいかない。
すぐさま、覚者達は見張りの二人の手足を縛って自由を奪う。
「っ! 必ず正義の憤怒者の鉄槌が下るぞ!」
「正義の憤怒者って笑える字面、ネーミングセンス最悪だな。おまけに自称ときた。記者の美学に反するぜ」
手足が使えなくなっても、相手の敵意は全く衰えない。
『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は、ぽつりと呟くが。訊きたいことは幾つもある。極力、警戒心を抱かせないように巧く誘導尋問を行っていく。
「高橋さんがいる限り、我々は負けはしない!」
「確かに、ボスの場所がわかんなきゃお手上げだな」
小芝居を打って油断を誘い、読心術を試みる。
後ろには魔眼を持つ誠二郎も、拷問を躊躇するつもりは一切ない真も控えていた。
●救助班
「これが、救命ボートか」
『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が、船の設備を見やる。
救助班の目的は、脱出経路と人質の確保。
使えそうだと確認すると、すぐに脱出できるように準備を整えておく。然る後に、船内への潜入に移った。
斥候役を務めるのは『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)だ。
「待って下さい。この先に監視カメラがあります」
ステルスとしのびあし、透視を使って、曲がり角の先のカメラを先に発見する。死角を確認して仲間に知らせてから移動。脱出ルートを切り開いていく。
「……誰か来る、隠れるぞ」
「よーし、鍵は任せろ」
行成の鋭聴力が、複数の足音を捕えた。
苦役がピッキングマンで手近な扉を開錠すると、覚者達は客室へと身を潜める。
「おら、歩け」
「妙な気を起こすなよ」
足音は四人分。
人質二人を憤怒者二人が移動させている途中であるようだ。
「何が正義の憤怒者だ、やってることは悪さする隔者と同じじゃないか」
間違っているのも、悪魔も奴らの方だ。
息を潜めながらも『アグニフィスト』陽渡・守夜(CL2000528)は、敵の所業に怒りを燃やす。
アーレスの目と行成の耳とで、時機を読み。相手が通過するときに合わせて、扉を勢い良く開放すると室内へと引き込む。
「っ! 貴様らは!」
「我が拳に宿れ、火天の炎!!」
醒の炎で強化されたナックルが、憤怒者を豪快に吹き飛ばす。
苦役が指捻撃で、新田・茂良(CL2000146) がエアブリットで攻撃支援。アーレスは素早く相手を絞め落とすと、行成はそれをシーツで拘束する。
思いもよらぬ襲撃を受けた憤怒者は、なすすべもない。
「憤怒者(ゴミ)共がはしゃいでいるようだ」
念を入れて、アーレスは無力化した二人の関節を外しておく。
(生ぬるい? 馬鹿め、貴様らの強みは無力が故の多数派であること、其れを手離して無差別に走るなら貴様らはただの少数の無能でしかない)
精々その甘えた思想を世間に晒して、是非とも世の中の役に立ってもらうとしよう。
気を失った相手を物陰に隠す。
一方、乗客と思わしき二人は何が起こったか分からぬ様子でへたり込んでいた。
「我々は救助に来た覚者です」
「覚者……?」
茂良のワーズ・ワースを用いた言葉に、二人は顔を見合わせる。
「皆様の救命、必ずや成し遂げて見せます! 暫しお待ち下さいね」
「現在、救助が来ているから。安心して」
行成も声を掛けてから、発見場所をメモしておく。移動が厳しい場合は、どこかに隠れていてもらい、後ほど脱出する際に合流して連れて行く必要があった。
●戦闘班
「監視カメラはここで、死角は……」
地図を片手に船内を把握しながら、戦闘班の椿姫達は進んでいく。
そこへ、椿が仲間へ警告する。
「敵が来る……気がするわ。注意して」
椿の第六感が囁く。
戦闘班は、彼女がいるおかげで不意打ちを受ける心配がない。
「分かった。私が囮になるから、隠れていて」
他のメンバーは身を潜め、椿姫が一般人の振りをしてデコイとなる。通路の奥からやってくる憤怒者の姿を、鷹の目がしっかりと捉えた。椿姫を一般人とすっかり信じ込んだ憤怒者の隙をついて、仲間に連絡を取られる前に対応する。
覚者達に一杯喰わされた相手はいきり立った。
「この化け物共め、正義の名の元に処分する!」
「私にとって正義の味方というものは、私を助けてくれた人みたいな何かを守るために頑張れる人のことです!」
真央が騒がれる前に、憤怒者を倒しにかかる。
見通しが悪い通路で、敵の弾丸と味方の弓が激しく応酬した。
「関係ない一般の人たちを狙うなんて許せない……ですっ。絶対に懲らしめましょうっ」
術符による攻撃で、離宮院・さよ(CL2000870) も援護する。
「覚者も、覚者に与する者も、生かしてはおけん!」
「憤怒者め、それのどこに正義があるんだよ。方向性を見失ったただの虐殺じゃないか」
蕾花の疾風斬りが舞う。
斬撃が駆け抜け、憤怒者は悲鳴をあげる間もなく倒れる。
「憎しみに支配されたら、ダメだよ? 一番大切なものを見失ってしまうから」
昏倒した敵を、椿姫達は拘束して隠す。
手足を縛り、口を封じると、適当な部屋へと放り込んだ。
(こんな奴らブチ殺したおいたほうが人質としても万々歳じゃないの? で、捕まえた憤怒者はちゃんと「しかるべき処置」がとられるんだろうな?)
などと。
蕾花などは憎々しげに思いながらも、見張りを片付けていった。
自然、連戦が重なり疲労も蓄積していくものの。
「皆さん、大丈夫ですか? 回復しますね」
「ええ、お願い」
回復のサポートに、さよが専念してくれたおかげで被害は最小限で済む。
また、こちらでも何人か乗客を確保し、安全な場所へと誘導する。あるいは、近くに隠れているように指示するなど対処した。最終的には救助班と連携して任せることになるだろう。
「ちゃんと助けに来ますから待っていてくださいね!」
真央はその度に、自分の元気を分けるように励ましてみせた。
(これで発見した人質は五人、倒した憤怒者は……)
各人数を数えて、椿姫は現状把握を怠らない。
まず、順調に敵の戦力は気取られずに削れていっていた。
「活人剣・殺人刀です。斬り捨て御免」
しのびあしと迷彩を使用して。
神室・祇澄(CL2000017)も人知れず、単独で憤怒者達を制圧していく。
●リーダー班
一方、最も難航していたのは高橋を追う班であった。
「匂いますね」
誠二郎がかぎわけるを使い、近付いてくる者や隠れている者が居ないか注意を払う。真の感情探査を併用して、相手の位置を割り出すと、物陰から奇襲を仕掛ける。
「迅速に制圧し騒がれないように静かにいきましょう」
「何かされる前に、一瞬で斬り刻む。手加減なんてしないし、する気もない」
先手必勝。
飛燕での速攻に、船内に散った憤怒者が餌食となっていく。
特に、真の攻撃は苛烈だった。
「情報収集の時間、と行きましょう」
情報収集の為に、死んでなければ別に良い、そして死んでも他を使えば良い。
そんな考えが見え隠れするように、憤怒者はかなりの手傷を負って転がされる。
「くっ、殺せ……」
「……橘に伝わる拷問術を味わって頂きましょうか。まずは、指からでどうですか?」
ロープやシーツで拘束した相手を尋問すること数度。
読心術、魔眼を使って敵や人質に関して情報を得ることは出来た。見張りや見回りのだいたいの位置なども知れたし、味方にもそれは報告してある。
だが――
「こいつも、高橋の居場所だけは知らないみたいだな」
「催眠状態にしても、脅しつけても効果がなし、ですからね」
どうやら味方内でも、リーダー高橋の所在を知る者は限られているらしい。
リーダー班の最も求める情報に関しては、空振り続きだった。そんな中、一人の憤怒者が読心術に対し抵抗をみせる。
「っ! 俺の家族は覚者に殺された! 貴様等なぞに喋ることはなにもない!」
裏を返すと、喋れることがあるということだ。
「私の家族も、お前達のような存在に、殺された」
真は相手に猿轡をさせると。
アウトレイジに、刹那の剣を突き立てる。
(あいつらは、人間ではない)
突き刺し、抉り、捻り折り。
拷問して、痛めつけて、脅して。
抵抗の意思を、へし折りにいく。
(害虫同然の、気持ち悪いモノだ。ここで、一匹でも多く、叩き潰す)
覚者の表情には、怒りも悲しみも喜びもなく。
必要だから、有効だから。
モノでも見るかのように、無慈悲で無感動に。
剣を、かき回す。
敵の声にならない絶叫が続き――
「もういい。高橋の居る場所は船長室だ。ようやく読心術で読めた」
とどめを刺そうとする仲間を、誘輔が肩を掴んで止めた。
「命をとれとまでは言われてねー。別段人道主義者じゃねーが、支援者見殺してまで殺りにいくメリットがねえよ。それに、だ」
「?」
復讐に燃える同胞に。
斜に構えた皮肉屋は、お節介だと思いつつも言った。
「命を安く扱う奴の命は底値が暴落するんだぜ」
●決着
見張りをあらかた片付けた後。
戦闘班と救助班は、あらかじめ決めておいた場所――ボイラー室で合流していた。情報交換と、山場であるパーティーホールに関する打ち合わせのためだ。
「だいたいホール以外の人質は、救助し終えたと思う」
「敵の残党は、あと十人ってところだね」
「憤怒者を閉じ込めた場所があれば、教えてくれるか?」
行成は自身の情報を合わせて、詳細にメモをしていく。
椿姫も情報を把握しつつ、時間を確認した。
「見回りから連絡が無ければ、向こうも動き出すはず。迅速にいかないと」
「問題は、ホールにどう突入するかだな」
「それについて、なんだけど……実はこんなものを見つけたの」
椿が皆に掲げて見せたのは――船に取り付けられている消化器だった。
数分後。
覚者達はホールへと続く複数の扉の前で、それぞれ待機する。
「中の把握に透視をお願い。アーレス、頼りにしてますよ」
「了解しました」
椿姫の言葉に頷いて、アーレスが扉の向こう側を透視する。広いパーティーホールには、大勢の人間達が詰めていた。
「……人質はホールの中央に集められています。憤怒者の数は十人」
敵は銃を構えて、人質を取り囲んでいる。
一歩間違えれば、どれほどの犠牲が出るか分からない。
(色々な思惑があるにせよ、私たち覚醒者に良くしてくれる人達。そんな人達をこのまま見殺しになんてしない)
それは自分の為ではなく同じ覚醒者の為であり、困っている人がいたら助ける。
ごく当たり前の事。
力があるなら、その為に使いたい。
鋭聴力でタイミングを計っていた行成から、GOサインが出る。
自分の第六感も、今だと叫んでいた。
椿は意を決しそっと扉を開けて、抱えていた消化器の中身を盛大に噴出する。
「な、何だ!?」
「煙? 火事か!」
慌てる人々の中、覚者達は一斉に突入を開始する。
「……先手必勝!」
気配を消した祇澄が、五織の彩で奇襲を仕掛ける。守夜が炎の拳を叩き付け。行成は集中して、武器を所持する者に水礫を撃ち込み、一気に攻め立てる。
(一般人を巻き込んで、人質を取るなど、許せません。憤怒者も、一般人なので、扱いは面倒ですが)
覚者達の迅速な攻勢に、憤怒者達は遅れをとる。
ようやく敵襲を受けたと気付いたときには半数にまで減っていた。
「大切な人間を奪われた者は私を射つがいい」
アーレスは敢えて身を晒して敵の注意を引く。
「ほざけ!」
「わざわざ復讐の的になるか、馬鹿め!」
「復讐? 違うな、お前達は望んでいる。覚者がお前達には越えられない存在である事、違う存在である事も。お前達の目には怒りはない、ただの甘えと自分の無力への赦ししかない」
そんなゆりかごのような憎しみと怒りで我が前に出るか――笑止。相手の精神を揺さぶり。B.O.T.と敵のマシンガンの弾幕が視界を埋め尽くす。
「このっ!」
「させないにゃ!」
真央が射線を遮って、人質を庇う。そのまま仲間と協力して飛燕で、敵を倒していく。椿は後衛から急所を外して弓を放ち。同時に、怪我をした者達の回復に努めた。
「所詮お前達は思考がガキのままじゃん。そんな言い分今日び幼稚園児にも鼻で笑われるよ。ともかく罪のない人が死ぬのはもうごめんだ」
蕾花も炎撃を見舞い、一般人との間に割って入る。自分より後ろに敵が行くのを阻止し、味方の体力に気を配った。機器や一般人を狙う者は優先的に攻撃する。
(握った拳を振るうのは、誰かの幸せを守る為だ)
人質のカバーをし、守夜は盾で銃弾を防ぐ。
正直、今回の相手に殺意がないわけではない。だが、殺意に身を任せれば敵と変わらなくなる。自分の日常も失われる。それは、とても怖い事だと、彼は知っていた。
(憤怒者も、死ねば犠牲者……犠牲は少なくしたい、助けたい)
行成は少しでも早く、この戦いが終わることを願い。皆を守り尽力する。
「覚者! お前達こそが、争いの火種だ! 悉く死ね!」
「巻き込ませるわけにはいかないんだよ、優しい人たちを」
一般人もろとも標的に銃を乱射しようする相手より先に。
椿姫の水礫が命中し、最後の一人が倒れた。
「なんとか……なったわね。……良かった」
椿の安堵の言葉が漏れるのと――船体が大きく震えたのはほぼ同時だった。
「何をした?」
「この船に仕掛けた爆弾を起爆させただけですよ」
同時刻。
船長室で追い詰められた高橋は、悠然と銃を構えていた。危険予知でトラップの有無は確認していた誘輔だが、相当巧妙に爆弾は設置されていたらしい。
「貴方に悲劇があろうとも、その正義で道理を覆す事はできません」
誠二郎が杖術を繰り出す。
真は話すことなど、何も無いとばかりに斬撃を叩き込んだ。
「日本には法が有ります。僕らも捕縛を命ぜられてはいますが……僕は誤魔化す方法など幾らでも知っていますよ。話したい事が有れば今のうちに全てどうぞ高橋さん」
高橋は鋭い攻撃を受けながらも、痛みを感じていないかのごとく発砲を繰り返した。機化硬で基礎耐性強化した誘輔は弾丸を受け止め、陸槍で足場を崩し不意を衝く。
「っ」
銃火器も照準が定まらなければ役立たず。
肉薄して鋭刃脚を放つと、相手は仰け反って呻く。
「化け物と語らう言葉などない……覚者の存在そのものを憎悪する人間は幾らでもいる、だけだ」
銃を己の頭に突き付けて、憤怒者達のリーダーは止める間もなく引き金を引いた。
「テメエはなんで憤怒者になったんだ? 覚者に恨みでもあんのか。身内を殺されたのか。ただ気に喰わねーのか……何でこんな事聞くかって? 別に……職業病さ。テメエの主義を主張してーからこんなアホやらかしたんだ。取材は本望だろ」
でもさ……人殺しの命は底値が暴落するんだぜ。
物言わぬ男に、誘輔が最後の声をかけ。
行成達救出班が中心となって、覚者達は沈みいく船から急ぎ脱出する。
(残してはおけない、死なせてはいけない……)
人質も、犯人も生きている者は一人残さず……そこにだけは区別はなかった。
海上に浮かぶ豪華客船。
鳴海 蕾花(CL2001006)の守護使役・つくねが上空からそれを偵察する。
甲板には見張り役の憤怒者達が、使命感を剥きだしに銃を構えていた。
「あーやだやだ、どうして穴だらけの理屈を話す奴に限ってあんなに自信に満ち溢れてるんだろう」
蕾花の脳裏に苦い思い出が浮かぶ。
(子供の時にもあったな、「覚者と仲良くしたらお前もいじめるぞって」さ)
本作戦の参加者の中には、憤怒者に対して強い怒りを感じている者も多くいた。蕾花は頭を振って、警備が比較的薄い場所を探る。
「甲板にいるのはニ人。船尾の方が安全かな」
「分かったわ。次は私の出番ね」
三島 椿(CL2000061)が翼を露わにすると、甲板へと飛行する。見つからないように船へと乗り込むと梯子を垂らした。覚者達は、不死川 苦役(CL2000720) が操縦する小型船で用心深く接舷すると、一人また一人と敵地へと侵入していく。用心のため、灯りは極力つけていない。
「パーティーホールに人が大勢……通路を移動している敵が幾人かいますね」
『レヴナント』是枝 真(CL2001105)が感情探査で、人が集まっている場所を探った。あくまでも大まかな情報ではあるが。味方が揃うまで周辺警戒は怠らない。
覚者達は、三つのグループに分かれる。
リーダーの高橋の探索をする班。
人質の救助をする班。
戦闘を主に担当する班。
時間の勝負になる。全員がそれぞれの役割を果たすべく動く。
「まずは、見張りをクリアしないとね」
戦闘班の『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)が、鷹の目で甲板の様子を観察する。『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)が頷き、しのびあしを使って足音を消す。見張り役達は、ぎりぎりのところまで気づくことが出来なかった。
「あなた達みたいに誰かをいじめて正義だなんていう人を――」
「その姿、覚者か!」
「私は正義の味方だなんて思えません!」
不意打ちの猛の一撃が、見事に決まる。
椿がエアブリッドで援護し。蕾花と椿姫が続く。
「くっ、化け物共が!」
「あたし人間が出来てない。挑んできた相手に手加減は出来ない」
急襲された憤怒者達は、発砲する間もなく。一人が床に転がった。
「そちらから来るとは! 全員メンチにしてやる!」
「AAAに居たときからこういった連中と争う事はありました。覚者が異物で有る事は重々承知ですが……この見境の無さは度し難いですね」
殺意丸出しの斬撃を、『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)が超視力で反応して。逆に不殺を狙った飛燕により、もう一人が倒れる。
これ以上騒がれるわけにもいかない。
すぐさま、覚者達は見張りの二人の手足を縛って自由を奪う。
「っ! 必ず正義の憤怒者の鉄槌が下るぞ!」
「正義の憤怒者って笑える字面、ネーミングセンス最悪だな。おまけに自称ときた。記者の美学に反するぜ」
手足が使えなくなっても、相手の敵意は全く衰えない。
『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は、ぽつりと呟くが。訊きたいことは幾つもある。極力、警戒心を抱かせないように巧く誘導尋問を行っていく。
「高橋さんがいる限り、我々は負けはしない!」
「確かに、ボスの場所がわかんなきゃお手上げだな」
小芝居を打って油断を誘い、読心術を試みる。
後ろには魔眼を持つ誠二郎も、拷問を躊躇するつもりは一切ない真も控えていた。
●救助班
「これが、救命ボートか」
『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が、船の設備を見やる。
救助班の目的は、脱出経路と人質の確保。
使えそうだと確認すると、すぐに脱出できるように準備を整えておく。然る後に、船内への潜入に移った。
斥候役を務めるのは『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)だ。
「待って下さい。この先に監視カメラがあります」
ステルスとしのびあし、透視を使って、曲がり角の先のカメラを先に発見する。死角を確認して仲間に知らせてから移動。脱出ルートを切り開いていく。
「……誰か来る、隠れるぞ」
「よーし、鍵は任せろ」
行成の鋭聴力が、複数の足音を捕えた。
苦役がピッキングマンで手近な扉を開錠すると、覚者達は客室へと身を潜める。
「おら、歩け」
「妙な気を起こすなよ」
足音は四人分。
人質二人を憤怒者二人が移動させている途中であるようだ。
「何が正義の憤怒者だ、やってることは悪さする隔者と同じじゃないか」
間違っているのも、悪魔も奴らの方だ。
息を潜めながらも『アグニフィスト』陽渡・守夜(CL2000528)は、敵の所業に怒りを燃やす。
アーレスの目と行成の耳とで、時機を読み。相手が通過するときに合わせて、扉を勢い良く開放すると室内へと引き込む。
「っ! 貴様らは!」
「我が拳に宿れ、火天の炎!!」
醒の炎で強化されたナックルが、憤怒者を豪快に吹き飛ばす。
苦役が指捻撃で、新田・茂良(CL2000146) がエアブリットで攻撃支援。アーレスは素早く相手を絞め落とすと、行成はそれをシーツで拘束する。
思いもよらぬ襲撃を受けた憤怒者は、なすすべもない。
「憤怒者(ゴミ)共がはしゃいでいるようだ」
念を入れて、アーレスは無力化した二人の関節を外しておく。
(生ぬるい? 馬鹿め、貴様らの強みは無力が故の多数派であること、其れを手離して無差別に走るなら貴様らはただの少数の無能でしかない)
精々その甘えた思想を世間に晒して、是非とも世の中の役に立ってもらうとしよう。
気を失った相手を物陰に隠す。
一方、乗客と思わしき二人は何が起こったか分からぬ様子でへたり込んでいた。
「我々は救助に来た覚者です」
「覚者……?」
茂良のワーズ・ワースを用いた言葉に、二人は顔を見合わせる。
「皆様の救命、必ずや成し遂げて見せます! 暫しお待ち下さいね」
「現在、救助が来ているから。安心して」
行成も声を掛けてから、発見場所をメモしておく。移動が厳しい場合は、どこかに隠れていてもらい、後ほど脱出する際に合流して連れて行く必要があった。
●戦闘班
「監視カメラはここで、死角は……」
地図を片手に船内を把握しながら、戦闘班の椿姫達は進んでいく。
そこへ、椿が仲間へ警告する。
「敵が来る……気がするわ。注意して」
椿の第六感が囁く。
戦闘班は、彼女がいるおかげで不意打ちを受ける心配がない。
「分かった。私が囮になるから、隠れていて」
他のメンバーは身を潜め、椿姫が一般人の振りをしてデコイとなる。通路の奥からやってくる憤怒者の姿を、鷹の目がしっかりと捉えた。椿姫を一般人とすっかり信じ込んだ憤怒者の隙をついて、仲間に連絡を取られる前に対応する。
覚者達に一杯喰わされた相手はいきり立った。
「この化け物共め、正義の名の元に処分する!」
「私にとって正義の味方というものは、私を助けてくれた人みたいな何かを守るために頑張れる人のことです!」
真央が騒がれる前に、憤怒者を倒しにかかる。
見通しが悪い通路で、敵の弾丸と味方の弓が激しく応酬した。
「関係ない一般の人たちを狙うなんて許せない……ですっ。絶対に懲らしめましょうっ」
術符による攻撃で、離宮院・さよ(CL2000870) も援護する。
「覚者も、覚者に与する者も、生かしてはおけん!」
「憤怒者め、それのどこに正義があるんだよ。方向性を見失ったただの虐殺じゃないか」
蕾花の疾風斬りが舞う。
斬撃が駆け抜け、憤怒者は悲鳴をあげる間もなく倒れる。
「憎しみに支配されたら、ダメだよ? 一番大切なものを見失ってしまうから」
昏倒した敵を、椿姫達は拘束して隠す。
手足を縛り、口を封じると、適当な部屋へと放り込んだ。
(こんな奴らブチ殺したおいたほうが人質としても万々歳じゃないの? で、捕まえた憤怒者はちゃんと「しかるべき処置」がとられるんだろうな?)
などと。
蕾花などは憎々しげに思いながらも、見張りを片付けていった。
自然、連戦が重なり疲労も蓄積していくものの。
「皆さん、大丈夫ですか? 回復しますね」
「ええ、お願い」
回復のサポートに、さよが専念してくれたおかげで被害は最小限で済む。
また、こちらでも何人か乗客を確保し、安全な場所へと誘導する。あるいは、近くに隠れているように指示するなど対処した。最終的には救助班と連携して任せることになるだろう。
「ちゃんと助けに来ますから待っていてくださいね!」
真央はその度に、自分の元気を分けるように励ましてみせた。
(これで発見した人質は五人、倒した憤怒者は……)
各人数を数えて、椿姫は現状把握を怠らない。
まず、順調に敵の戦力は気取られずに削れていっていた。
「活人剣・殺人刀です。斬り捨て御免」
しのびあしと迷彩を使用して。
神室・祇澄(CL2000017)も人知れず、単独で憤怒者達を制圧していく。
●リーダー班
一方、最も難航していたのは高橋を追う班であった。
「匂いますね」
誠二郎がかぎわけるを使い、近付いてくる者や隠れている者が居ないか注意を払う。真の感情探査を併用して、相手の位置を割り出すと、物陰から奇襲を仕掛ける。
「迅速に制圧し騒がれないように静かにいきましょう」
「何かされる前に、一瞬で斬り刻む。手加減なんてしないし、する気もない」
先手必勝。
飛燕での速攻に、船内に散った憤怒者が餌食となっていく。
特に、真の攻撃は苛烈だった。
「情報収集の時間、と行きましょう」
情報収集の為に、死んでなければ別に良い、そして死んでも他を使えば良い。
そんな考えが見え隠れするように、憤怒者はかなりの手傷を負って転がされる。
「くっ、殺せ……」
「……橘に伝わる拷問術を味わって頂きましょうか。まずは、指からでどうですか?」
ロープやシーツで拘束した相手を尋問すること数度。
読心術、魔眼を使って敵や人質に関して情報を得ることは出来た。見張りや見回りのだいたいの位置なども知れたし、味方にもそれは報告してある。
だが――
「こいつも、高橋の居場所だけは知らないみたいだな」
「催眠状態にしても、脅しつけても効果がなし、ですからね」
どうやら味方内でも、リーダー高橋の所在を知る者は限られているらしい。
リーダー班の最も求める情報に関しては、空振り続きだった。そんな中、一人の憤怒者が読心術に対し抵抗をみせる。
「っ! 俺の家族は覚者に殺された! 貴様等なぞに喋ることはなにもない!」
裏を返すと、喋れることがあるということだ。
「私の家族も、お前達のような存在に、殺された」
真は相手に猿轡をさせると。
アウトレイジに、刹那の剣を突き立てる。
(あいつらは、人間ではない)
突き刺し、抉り、捻り折り。
拷問して、痛めつけて、脅して。
抵抗の意思を、へし折りにいく。
(害虫同然の、気持ち悪いモノだ。ここで、一匹でも多く、叩き潰す)
覚者の表情には、怒りも悲しみも喜びもなく。
必要だから、有効だから。
モノでも見るかのように、無慈悲で無感動に。
剣を、かき回す。
敵の声にならない絶叫が続き――
「もういい。高橋の居る場所は船長室だ。ようやく読心術で読めた」
とどめを刺そうとする仲間を、誘輔が肩を掴んで止めた。
「命をとれとまでは言われてねー。別段人道主義者じゃねーが、支援者見殺してまで殺りにいくメリットがねえよ。それに、だ」
「?」
復讐に燃える同胞に。
斜に構えた皮肉屋は、お節介だと思いつつも言った。
「命を安く扱う奴の命は底値が暴落するんだぜ」
●決着
見張りをあらかた片付けた後。
戦闘班と救助班は、あらかじめ決めておいた場所――ボイラー室で合流していた。情報交換と、山場であるパーティーホールに関する打ち合わせのためだ。
「だいたいホール以外の人質は、救助し終えたと思う」
「敵の残党は、あと十人ってところだね」
「憤怒者を閉じ込めた場所があれば、教えてくれるか?」
行成は自身の情報を合わせて、詳細にメモをしていく。
椿姫も情報を把握しつつ、時間を確認した。
「見回りから連絡が無ければ、向こうも動き出すはず。迅速にいかないと」
「問題は、ホールにどう突入するかだな」
「それについて、なんだけど……実はこんなものを見つけたの」
椿が皆に掲げて見せたのは――船に取り付けられている消化器だった。
数分後。
覚者達はホールへと続く複数の扉の前で、それぞれ待機する。
「中の把握に透視をお願い。アーレス、頼りにしてますよ」
「了解しました」
椿姫の言葉に頷いて、アーレスが扉の向こう側を透視する。広いパーティーホールには、大勢の人間達が詰めていた。
「……人質はホールの中央に集められています。憤怒者の数は十人」
敵は銃を構えて、人質を取り囲んでいる。
一歩間違えれば、どれほどの犠牲が出るか分からない。
(色々な思惑があるにせよ、私たち覚醒者に良くしてくれる人達。そんな人達をこのまま見殺しになんてしない)
それは自分の為ではなく同じ覚醒者の為であり、困っている人がいたら助ける。
ごく当たり前の事。
力があるなら、その為に使いたい。
鋭聴力でタイミングを計っていた行成から、GOサインが出る。
自分の第六感も、今だと叫んでいた。
椿は意を決しそっと扉を開けて、抱えていた消化器の中身を盛大に噴出する。
「な、何だ!?」
「煙? 火事か!」
慌てる人々の中、覚者達は一斉に突入を開始する。
「……先手必勝!」
気配を消した祇澄が、五織の彩で奇襲を仕掛ける。守夜が炎の拳を叩き付け。行成は集中して、武器を所持する者に水礫を撃ち込み、一気に攻め立てる。
(一般人を巻き込んで、人質を取るなど、許せません。憤怒者も、一般人なので、扱いは面倒ですが)
覚者達の迅速な攻勢に、憤怒者達は遅れをとる。
ようやく敵襲を受けたと気付いたときには半数にまで減っていた。
「大切な人間を奪われた者は私を射つがいい」
アーレスは敢えて身を晒して敵の注意を引く。
「ほざけ!」
「わざわざ復讐の的になるか、馬鹿め!」
「復讐? 違うな、お前達は望んでいる。覚者がお前達には越えられない存在である事、違う存在である事も。お前達の目には怒りはない、ただの甘えと自分の無力への赦ししかない」
そんなゆりかごのような憎しみと怒りで我が前に出るか――笑止。相手の精神を揺さぶり。B.O.T.と敵のマシンガンの弾幕が視界を埋め尽くす。
「このっ!」
「させないにゃ!」
真央が射線を遮って、人質を庇う。そのまま仲間と協力して飛燕で、敵を倒していく。椿は後衛から急所を外して弓を放ち。同時に、怪我をした者達の回復に努めた。
「所詮お前達は思考がガキのままじゃん。そんな言い分今日び幼稚園児にも鼻で笑われるよ。ともかく罪のない人が死ぬのはもうごめんだ」
蕾花も炎撃を見舞い、一般人との間に割って入る。自分より後ろに敵が行くのを阻止し、味方の体力に気を配った。機器や一般人を狙う者は優先的に攻撃する。
(握った拳を振るうのは、誰かの幸せを守る為だ)
人質のカバーをし、守夜は盾で銃弾を防ぐ。
正直、今回の相手に殺意がないわけではない。だが、殺意に身を任せれば敵と変わらなくなる。自分の日常も失われる。それは、とても怖い事だと、彼は知っていた。
(憤怒者も、死ねば犠牲者……犠牲は少なくしたい、助けたい)
行成は少しでも早く、この戦いが終わることを願い。皆を守り尽力する。
「覚者! お前達こそが、争いの火種だ! 悉く死ね!」
「巻き込ませるわけにはいかないんだよ、優しい人たちを」
一般人もろとも標的に銃を乱射しようする相手より先に。
椿姫の水礫が命中し、最後の一人が倒れた。
「なんとか……なったわね。……良かった」
椿の安堵の言葉が漏れるのと――船体が大きく震えたのはほぼ同時だった。
「何をした?」
「この船に仕掛けた爆弾を起爆させただけですよ」
同時刻。
船長室で追い詰められた高橋は、悠然と銃を構えていた。危険予知でトラップの有無は確認していた誘輔だが、相当巧妙に爆弾は設置されていたらしい。
「貴方に悲劇があろうとも、その正義で道理を覆す事はできません」
誠二郎が杖術を繰り出す。
真は話すことなど、何も無いとばかりに斬撃を叩き込んだ。
「日本には法が有ります。僕らも捕縛を命ぜられてはいますが……僕は誤魔化す方法など幾らでも知っていますよ。話したい事が有れば今のうちに全てどうぞ高橋さん」
高橋は鋭い攻撃を受けながらも、痛みを感じていないかのごとく発砲を繰り返した。機化硬で基礎耐性強化した誘輔は弾丸を受け止め、陸槍で足場を崩し不意を衝く。
「っ」
銃火器も照準が定まらなければ役立たず。
肉薄して鋭刃脚を放つと、相手は仰け反って呻く。
「化け物と語らう言葉などない……覚者の存在そのものを憎悪する人間は幾らでもいる、だけだ」
銃を己の頭に突き付けて、憤怒者達のリーダーは止める間もなく引き金を引いた。
「テメエはなんで憤怒者になったんだ? 覚者に恨みでもあんのか。身内を殺されたのか。ただ気に喰わねーのか……何でこんな事聞くかって? 別に……職業病さ。テメエの主義を主張してーからこんなアホやらかしたんだ。取材は本望だろ」
でもさ……人殺しの命は底値が暴落するんだぜ。
物言わぬ男に、誘輔が最後の声をかけ。
行成達救出班が中心となって、覚者達は沈みいく船から急ぎ脱出する。
(残してはおけない、死なせてはいけない……)
人質も、犯人も生きている者は一人残さず……そこにだけは区別はなかった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:是枝 真(CL2001105)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:鳴海 蕾花(CL2001006)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:三島 椿(CL2000061)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:志賀 行成(CL2000352)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:陽渡・守夜(CL2000528)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:冷泉 椿姫(CL2000364)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:風祭・誘輔(CL2001092)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:猫屋敷 真央(CL2000247)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:橘 誠二郎(CL2000665)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:神室・祇澄(CL2000017)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:離宮院・さよ(CL2000870)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:新田・茂良(CL2000146)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:不死川 苦役(CL2000720)
取得者:アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:是枝 真(CL2001105)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:鳴海 蕾花(CL2001006)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:三島 椿(CL2000061)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:志賀 行成(CL2000352)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:陽渡・守夜(CL2000528)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:冷泉 椿姫(CL2000364)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:風祭・誘輔(CL2001092)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:猫屋敷 真央(CL2000247)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:橘 誠二郎(CL2000665)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:神室・祇澄(CL2000017)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:離宮院・さよ(CL2000870)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:新田・茂良(CL2000146)
『狂気の憤怒を制圧せし者』
取得者:不死川 苦役(CL2000720)
特殊成果
なし

■あとがき■
睦月師走です。
『狂気の憤怒者』にご参加ありがとうございます。
個人的に興味深いプレイングばかりの依頼となりました。憤怒者達との戦いも、これからです。皆さんの今後の活躍を楽しみにしています。
『狂気の憤怒者』にご参加ありがとうございます。
個人的に興味深いプレイングばかりの依頼となりました。憤怒者達との戦いも、これからです。皆さんの今後の活躍を楽しみにしています。
