会えないあなたへ、夢の中より。
●これは実際にあった話。
「これはね、私の友達の話なんだけど」
そんな言葉で始まるありふれた話―――。
ボー、ボー、ボー。
夜道を一人で歩いていると、何処からか汽笛のような音が聞こえてくる。
それが聞こえたら、すぐにその場を離れないと駄目。
でも、もしあなたにどうしても会いたい人がいるなら、その場で目を閉じたらいい。
そうしたら、あなたが会いたい人に会えるんだって。
え? なんでその場を離れないと駄目かって?
それはね、死んだ人に会う場所は一番死に近いからなんだってさ。
●会いたい人はいますか?
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
久方真由美(nCL2000003)はいつものようにミーティングルームに集まった覚者達に告げた。
「古妖の出現が観測されました」
資料を捲る真由美の手は落ち着いている。
「そこまで強くはありません。皆さんが苦戦する相手ではないでしょう」
スクリーンに表示されたのは何かの植物のような姿をした古妖だ。
「この古妖は特殊な音を聞かせることで対象を深い眠りに落とします。そして捕食に集中するため、対象が動かないように夢を見させるのです」
「夢とは、どんな」
「対象が望む人物に会える夢、ですね」
そのまま真由美は続ける。
「ですが、この古妖は皆さんの生命力を吸い上げるだけのキャパシティを持ちません。そこで一度あえて罠に掛かってもらい、オーバーヒートのような状態になったところで対象を討伐していただきます」
この能力さえ封じてしまえば動けないだけの雑魚に過ぎない。
「この古妖が成長して厄介な存在になる前に、対処をお願いします」
真由美はそういって覚者達の名乗りを待った。
「これはね、私の友達の話なんだけど」
そんな言葉で始まるありふれた話―――。
ボー、ボー、ボー。
夜道を一人で歩いていると、何処からか汽笛のような音が聞こえてくる。
それが聞こえたら、すぐにその場を離れないと駄目。
でも、もしあなたにどうしても会いたい人がいるなら、その場で目を閉じたらいい。
そうしたら、あなたが会いたい人に会えるんだって。
え? なんでその場を離れないと駄目かって?
それはね、死んだ人に会う場所は一番死に近いからなんだってさ。
●会いたい人はいますか?
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
久方真由美(nCL2000003)はいつものようにミーティングルームに集まった覚者達に告げた。
「古妖の出現が観測されました」
資料を捲る真由美の手は落ち着いている。
「そこまで強くはありません。皆さんが苦戦する相手ではないでしょう」
スクリーンに表示されたのは何かの植物のような姿をした古妖だ。
「この古妖は特殊な音を聞かせることで対象を深い眠りに落とします。そして捕食に集中するため、対象が動かないように夢を見させるのです」
「夢とは、どんな」
「対象が望む人物に会える夢、ですね」
そのまま真由美は続ける。
「ですが、この古妖は皆さんの生命力を吸い上げるだけのキャパシティを持ちません。そこで一度あえて罠に掛かってもらい、オーバーヒートのような状態になったところで対象を討伐していただきます」
この能力さえ封じてしまえば動けないだけの雑魚に過ぎない。
「この古妖が成長して厄介な存在になる前に、対処をお願いします」
真由美はそういって覚者達の名乗りを待った。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
二度目まして。清廉系マスターのきよりです。
今回は夢の世界へご案内。
戦闘などはあんまり考えない感じで、お気軽にどうぞ。
以下詳細です。
●敵
古妖:識別無し
・外見:植物っぽい。
・強さ:とてもよわい。
・能力:自らが発する音を聞かせることで対象を眠りに落とす
:夢の中で対象の望む人物を記憶から再現し、引き合わせる
:軽度かつ低容量の生命力吸収
補足:この古妖の能力で会えるのは対象の記憶の中にいる人物に限る。
望むのであれば複数人で同時に同じ夢を見ることもできる。
面識のない人物に会うことは出来ない。テレビでしか見たことない芸能人などは可能。
ただし言動はあなたのイメージに沿うものとなる(実在とは異なる)
場所:某県某所。夜道。人影無し。光源などを準備する必要ははない。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
4/8
公開日
2016年11月13日
2016年11月13日
■メイン参加者 4人■

●行きは良い良い。
「さて、ここが夢見が予知したポイントだな」
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)達が立っているのは何の変哲もない道の途上。
五麟市から遠く離れたここは店舗の明かりなどもろくになく、ただぽつりぽつりと街灯の明かりが見えるだけだ。今から覚者たちに訪れる出来事を思えばここは映画館のよう。
「ここに件の古妖が出るんですね」
グッと両手を握るのは『もう一人の自分を支えるために』藤 零士(CL2001445)。彼が、彼として依頼に赴くのは初めてのことであり、その姿には緊張が見て取れる。
「そんな緊張しなくてもいいんじゃねぇの? 久方さんも相手の古妖は弱いって言ってたしよ」
だからだろうか、『残念な男』片桐・戒都(CL2001498)が零士の肩を叩いたのは。
「そ、そうですね……!」
少し照れるようにしながら固く握った両手をパーにする零士。
「ま、油断しすぎないようにだけな」
ニッと笑う戒都。その姿はとても頼れる先輩のお兄さん。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は、対照的に落ち着いた様子。
「でも、夢の中で会いたい人に合わせる古妖なんて、本当に悪い古妖なんですかね」
「そいつぁ俺も思っちまうぜ、今すぐ倒すほどの脅威なのか、ってな」
覚者からすれば、軽微の生命力の喪失。それだけがこの古妖の奪うモノ。されど、それには覚者ならばという但し書きがつき、そのそれだけ故に相容れない。
だから、今から見る夢をバスケットに詰め込めない。
ボーッボーッボーッ。
三度なったら、夢の中へご招待。
●あぁ! 愛しき人よ!
彼が目を開けると、そこには今までの人生で最も愛した、愛している人の姿。
ちょっと釣り目で、目つきが悪くて、でもそこが猫みたいで可愛くて。
そして、彼のイメージ通りに、自分を見たら逃げようとする。
古妖は忠実に彼の記憶から彼の最も会いたい人を再現していた。
だから、いつもであればここで手を伸ばそうとするだけなのだけれど、今は違う。
「よ」
思わず一音だけ発して、咄嗟に抱きしめる。
「よしひさあああああ」
クンカクンカスーハー!! 50センチの身長差を生かしてそのまま顔を頭に埋める。
少し前に、良き先輩の様であった戒都の姿は、そこにはなかった―――。
じたばたと暴れる弟を押さえつけて撫で繰り回す。
彼が呼ばれると怒るあだ名も今だけは呼べる。
「こんな風にするだけで良かったのにな……」
戒都が心からの言葉を漏らす。
家を出てから自分の家族の異常さに気付いた。
自分が癒しの技を見せてやる度にどんな気持ちで弟はそれを見ていたのだろうか。
そんなことすら自分は分からなかった。
だから今、古妖が見せる夢の中でしか、自分は触れ合えない。
「俺、間違えてたんだよなぁ……」
知らず知らずのうちに涙が零れた。それは幸せなのと、もう一つ。
ただ、自分は彼を肯定してやればよかったのだと、今ならわかる。
「あー……俺今、このまま古妖に殺されても幸せに死ねそう」
でもダメだ、戒都にはこの夢を現実にすることだって出来るのだ。
「ごめんな…ごめん、だから今度は本当のお前に…」
そうして夢の終わりが訪れるまで、戒都は腕の中の宝物を抱きしめた。
●この鉄の心を鍛った貴女へ。
「俺が会えないもう会えない人といや、あの人に決まってる」
義高が目を開けると、そこにはその人がいた。
「やぁ、久しぶりだな」
自らのスキンヘッドをつるりと撫でる。
こんなイカつい面をした奴に花なんて似合わないと自分で思っていた。
『―――――』
義高の記憶にある笑顔のままで彼女は義高に手を伸ばす。
「しょうがねぇな……」
彼女の前には花があって、その作業は学生の時分に慣れ親しんだ作業で。
思い出をなぞる様に、彼女の隣に立って花を揃えていく。
「こうやって余分な葉を落とすのだって、あんたは嫌いだったよな」
だから、彼女の店にはあまり売れない鉢付の花が多くて、なるべく綺麗な時間が続きますようにと、笑顔で花一輪一輪の名前を呼びながら世話をしていた。
「あんたに花を贈りたくても、枯れかけに理由をつけないと受け取ってくれなくてよ」
あの時は受け取ってもらえる方便を考えるために苦労したっけ。
「センカと会わせてくれたのもあんただったよな」
ちらりと自分の手に目を落とす。そこにはあの時なかった愛の証が薬指で煌めいている。
自分のことを笑顔でいい人だから、と紹介するのに、流石にソレは無理があるだろう。思ったのは本人だけだ。
「そんで、その後に生まれた娘にはあんたの名前を貰ってよ。ここにも連れてきたかったがなぁ……。」
夢の中でも、夢の中だからこそ、思い出は綺羅星のように溢れて止まらない。
だが、その時間ももう終わらせなければならない。
「あんたが教えてくれたことの中に『命が限りあるからこそ、その時を輝かせろ』ってあったよな」
だから、この時間は楽しいし、美しいけれどもう終わりだ。
それに、もう目的は達成してしまったのだ。
例え、己の記憶から作りだされた貴女だとしても。
義高は薬指を撫でる。遥かな憧憬も、全てをこめて。
今、自分は胸を張って生きています、と。 そう、伝えたかっただけなのだ。
「ありがとよ。もう会うことはないだろうが、それだけ伝えれてよかったよ」
●色褪せる前に会いたくて。
「父様……」
最後まで厳格であった父が、写真に写っていた時の姿でそこに立っている。
「藤家は凄いところだったのですね」
隔者組織に暗殺された父。厳しいだけだと、或いは自分が嫌われているだけなのではないかと。期待に応えられないのではないかと、それが怖くて。
「父様の前ではいつも、委縮したように過ごしてきましたね」
普通の親子として過ごすには色々なことが特殊すぎた。
やがて、父の姿は輪郭をぼやけさせて姿を変える。
「お婆様」
「いつも優しく、お婆様に助けられていたと、今では思います」
祖母はにっこりほほ笑んで零士の頭を撫でる。
「お母様」
「母様はずっと優しい方で…亡くなるその時まで…僕を気にかけて下さっていました」
少し震える声に、涙が混じる。
「今では姉様と二人で、仲良くやっていますから心配しないでください」
母に向かって頭を下げる。そして、顔をを上げたときそこには知らない誰かが立っていた。
「あなたは…?」
写真に写っていた、でも誰かは分からない人。それは一体誰なのかは分からないけれど、大切な人であったことは間違いない。
最後の誰かは、零士に手振って消えていった。
「ありがとうございました……これで、もうしばらく父様たちを忘れずにいれそうです」
零士は夢の中、古妖の容量をオーバーフローするまでの時間に一つ試していたことがあった。
それは、古妖の力のラーニング。音をもって、相手の記憶を覗く力。それを手に入れたいと、そう思っていた。
だからもちろん、夢見の指示もあったのだけれども、古妖の音に耳を澄ませた。
けれど深淵を覗くうち、解った。これを覚えることは出来ないと。
対象を眠りに落とすのは、この古妖の生態である。人がより脳を発達させるため、遠くを見るために二足歩行になったように。
この古妖は生命力の吸収という自らの食事をより実行しやすくするためにこのような固体になった。故に、零士では、いや、誰であったとしても人である限りこのスキルの本質を人が理解できる形に体系化することは出来ない。
そのことを理解した零士は、そっと息を吐いた。
「そうですか……でも、ありがとう」
●ただ、貴方に会いたくて。
「夢で会いたい人。……一人いるよ」
それはずっとずっと遠くの時空の彼方。俺を覚醒させる因子になった『俺』が仕えていたあの人。
夢の中でしか会えないから、目が覚めると朧になってしまうその姿も、この古妖の力であればはっきりと見せてくれるに違いない。
長い黒髪、白い装束、陰陽師の姫君」
「俺は、俺はそう……彼女に使える忍びだった……」
そして、夢の中の記憶を辿る。
桜の下で彼女と逢瀬を重ねたこと。
彼女に、赤と黄色の花をあしらった髪飾りを贈ったこと。
忍びとして生きる『俺』に光を見せてくれた笑顔。
そして、押し寄せる妖の群れ、彼女と都を守るために戦う『俺』
その後の記憶がない。
「その後、その後はどうなった?」
その後の夢を見れないのは、『俺』が死んだからなのか。
「じゃあ、彼女はどうなったんだ!」
会いたい、会ってみたい。
だから、この夢に落ちた。
そして、目を開けて初めて出会った。今世では初めましての、貴女。
「あぁ、ご無事だったのですね!」
そっと抱きしめる。
「姫……! もう二度と貴女の傍から離れとうございません……!」
抱きしめた彼女。自分より幾分低い背、柔らかな顔。そして、自分が贈った、何処かで見たことあるような簪。
その全てが愛おしい。
「……でも、分かってます」
これが夢だってこと。ここで会ったからって、姫がその時に無事だったとは限らないこと。
『俺』の無念を晴らすために、なぞっているに過ぎないなんてことも。
「また貴女に会う事が出来て良かった」
そっと、抱擁を剥がす。腕に残る体温の残り香は気のせいかもしれないけれど。
「でも、今の俺にはもっと会いたい人がいます。隣にいないといけない人がいます。」
『俺』じゃなくて、俺に。
「だから、行きますね」
簪を揺らしてこちらへ縋ろうとする彼女に背を向けて、彼女の名前を口の中で呟いた。
●帰りは、前を向いて。
夢から覚めるのは、全員同時だった。
「……戻ってきたか」
「そうみたいですね」
義高と、奏空が当たりを見渡す。そこには目を閉じるまでいなかった古妖が姿を現していた。
「これが古妖の力、ですか」
零士が腕に巻き付いていた蔦を千切る。そこにあるのは、僅かな倦怠感。それだけが、この古妖の奪う代償であった。
「本当にコイツを倒さないといけないのかな」
戒都が植物の前に立つ、もはやこの古妖に抵抗する術はない。
「すまんな……これも、俺たちの任務なんでよ」
「ありがとう、姫君に会わせてくれて」
義高と、奏空、そして零士。
それぞれが己のスキルを差し込み、古妖は討伐される。
「……これが、戦うってことなんですね」
零士が己の掌を見つめる。まだまだ先輩たちには及ばないかもしれないが、自分が一歩目を踏み出した感触だけがそこに残っていた。
「でも、大丈夫です。俺は今日、皆に会えましたから」
「あぁ、そうだな」
義高がぐりぐりと零士の頭を撫でる。
夜の空にはまだ月が煌々と輝いていて。過去から未来へと踏み出す全員を少しだけ明るく照らしていた。
「さて、ここが夢見が予知したポイントだな」
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)達が立っているのは何の変哲もない道の途上。
五麟市から遠く離れたここは店舗の明かりなどもろくになく、ただぽつりぽつりと街灯の明かりが見えるだけだ。今から覚者たちに訪れる出来事を思えばここは映画館のよう。
「ここに件の古妖が出るんですね」
グッと両手を握るのは『もう一人の自分を支えるために』藤 零士(CL2001445)。彼が、彼として依頼に赴くのは初めてのことであり、その姿には緊張が見て取れる。
「そんな緊張しなくてもいいんじゃねぇの? 久方さんも相手の古妖は弱いって言ってたしよ」
だからだろうか、『残念な男』片桐・戒都(CL2001498)が零士の肩を叩いたのは。
「そ、そうですね……!」
少し照れるようにしながら固く握った両手をパーにする零士。
「ま、油断しすぎないようにだけな」
ニッと笑う戒都。その姿はとても頼れる先輩のお兄さん。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は、対照的に落ち着いた様子。
「でも、夢の中で会いたい人に合わせる古妖なんて、本当に悪い古妖なんですかね」
「そいつぁ俺も思っちまうぜ、今すぐ倒すほどの脅威なのか、ってな」
覚者からすれば、軽微の生命力の喪失。それだけがこの古妖の奪うモノ。されど、それには覚者ならばという但し書きがつき、そのそれだけ故に相容れない。
だから、今から見る夢をバスケットに詰め込めない。
ボーッボーッボーッ。
三度なったら、夢の中へご招待。
●あぁ! 愛しき人よ!
彼が目を開けると、そこには今までの人生で最も愛した、愛している人の姿。
ちょっと釣り目で、目つきが悪くて、でもそこが猫みたいで可愛くて。
そして、彼のイメージ通りに、自分を見たら逃げようとする。
古妖は忠実に彼の記憶から彼の最も会いたい人を再現していた。
だから、いつもであればここで手を伸ばそうとするだけなのだけれど、今は違う。
「よ」
思わず一音だけ発して、咄嗟に抱きしめる。
「よしひさあああああ」
クンカクンカスーハー!! 50センチの身長差を生かしてそのまま顔を頭に埋める。
少し前に、良き先輩の様であった戒都の姿は、そこにはなかった―――。
じたばたと暴れる弟を押さえつけて撫で繰り回す。
彼が呼ばれると怒るあだ名も今だけは呼べる。
「こんな風にするだけで良かったのにな……」
戒都が心からの言葉を漏らす。
家を出てから自分の家族の異常さに気付いた。
自分が癒しの技を見せてやる度にどんな気持ちで弟はそれを見ていたのだろうか。
そんなことすら自分は分からなかった。
だから今、古妖が見せる夢の中でしか、自分は触れ合えない。
「俺、間違えてたんだよなぁ……」
知らず知らずのうちに涙が零れた。それは幸せなのと、もう一つ。
ただ、自分は彼を肯定してやればよかったのだと、今ならわかる。
「あー……俺今、このまま古妖に殺されても幸せに死ねそう」
でもダメだ、戒都にはこの夢を現実にすることだって出来るのだ。
「ごめんな…ごめん、だから今度は本当のお前に…」
そうして夢の終わりが訪れるまで、戒都は腕の中の宝物を抱きしめた。
●この鉄の心を鍛った貴女へ。
「俺が会えないもう会えない人といや、あの人に決まってる」
義高が目を開けると、そこにはその人がいた。
「やぁ、久しぶりだな」
自らのスキンヘッドをつるりと撫でる。
こんなイカつい面をした奴に花なんて似合わないと自分で思っていた。
『―――――』
義高の記憶にある笑顔のままで彼女は義高に手を伸ばす。
「しょうがねぇな……」
彼女の前には花があって、その作業は学生の時分に慣れ親しんだ作業で。
思い出をなぞる様に、彼女の隣に立って花を揃えていく。
「こうやって余分な葉を落とすのだって、あんたは嫌いだったよな」
だから、彼女の店にはあまり売れない鉢付の花が多くて、なるべく綺麗な時間が続きますようにと、笑顔で花一輪一輪の名前を呼びながら世話をしていた。
「あんたに花を贈りたくても、枯れかけに理由をつけないと受け取ってくれなくてよ」
あの時は受け取ってもらえる方便を考えるために苦労したっけ。
「センカと会わせてくれたのもあんただったよな」
ちらりと自分の手に目を落とす。そこにはあの時なかった愛の証が薬指で煌めいている。
自分のことを笑顔でいい人だから、と紹介するのに、流石にソレは無理があるだろう。思ったのは本人だけだ。
「そんで、その後に生まれた娘にはあんたの名前を貰ってよ。ここにも連れてきたかったがなぁ……。」
夢の中でも、夢の中だからこそ、思い出は綺羅星のように溢れて止まらない。
だが、その時間ももう終わらせなければならない。
「あんたが教えてくれたことの中に『命が限りあるからこそ、その時を輝かせろ』ってあったよな」
だから、この時間は楽しいし、美しいけれどもう終わりだ。
それに、もう目的は達成してしまったのだ。
例え、己の記憶から作りだされた貴女だとしても。
義高は薬指を撫でる。遥かな憧憬も、全てをこめて。
今、自分は胸を張って生きています、と。 そう、伝えたかっただけなのだ。
「ありがとよ。もう会うことはないだろうが、それだけ伝えれてよかったよ」
●色褪せる前に会いたくて。
「父様……」
最後まで厳格であった父が、写真に写っていた時の姿でそこに立っている。
「藤家は凄いところだったのですね」
隔者組織に暗殺された父。厳しいだけだと、或いは自分が嫌われているだけなのではないかと。期待に応えられないのではないかと、それが怖くて。
「父様の前ではいつも、委縮したように過ごしてきましたね」
普通の親子として過ごすには色々なことが特殊すぎた。
やがて、父の姿は輪郭をぼやけさせて姿を変える。
「お婆様」
「いつも優しく、お婆様に助けられていたと、今では思います」
祖母はにっこりほほ笑んで零士の頭を撫でる。
「お母様」
「母様はずっと優しい方で…亡くなるその時まで…僕を気にかけて下さっていました」
少し震える声に、涙が混じる。
「今では姉様と二人で、仲良くやっていますから心配しないでください」
母に向かって頭を下げる。そして、顔をを上げたときそこには知らない誰かが立っていた。
「あなたは…?」
写真に写っていた、でも誰かは分からない人。それは一体誰なのかは分からないけれど、大切な人であったことは間違いない。
最後の誰かは、零士に手振って消えていった。
「ありがとうございました……これで、もうしばらく父様たちを忘れずにいれそうです」
零士は夢の中、古妖の容量をオーバーフローするまでの時間に一つ試していたことがあった。
それは、古妖の力のラーニング。音をもって、相手の記憶を覗く力。それを手に入れたいと、そう思っていた。
だからもちろん、夢見の指示もあったのだけれども、古妖の音に耳を澄ませた。
けれど深淵を覗くうち、解った。これを覚えることは出来ないと。
対象を眠りに落とすのは、この古妖の生態である。人がより脳を発達させるため、遠くを見るために二足歩行になったように。
この古妖は生命力の吸収という自らの食事をより実行しやすくするためにこのような固体になった。故に、零士では、いや、誰であったとしても人である限りこのスキルの本質を人が理解できる形に体系化することは出来ない。
そのことを理解した零士は、そっと息を吐いた。
「そうですか……でも、ありがとう」
●ただ、貴方に会いたくて。
「夢で会いたい人。……一人いるよ」
それはずっとずっと遠くの時空の彼方。俺を覚醒させる因子になった『俺』が仕えていたあの人。
夢の中でしか会えないから、目が覚めると朧になってしまうその姿も、この古妖の力であればはっきりと見せてくれるに違いない。
長い黒髪、白い装束、陰陽師の姫君」
「俺は、俺はそう……彼女に使える忍びだった……」
そして、夢の中の記憶を辿る。
桜の下で彼女と逢瀬を重ねたこと。
彼女に、赤と黄色の花をあしらった髪飾りを贈ったこと。
忍びとして生きる『俺』に光を見せてくれた笑顔。
そして、押し寄せる妖の群れ、彼女と都を守るために戦う『俺』
その後の記憶がない。
「その後、その後はどうなった?」
その後の夢を見れないのは、『俺』が死んだからなのか。
「じゃあ、彼女はどうなったんだ!」
会いたい、会ってみたい。
だから、この夢に落ちた。
そして、目を開けて初めて出会った。今世では初めましての、貴女。
「あぁ、ご無事だったのですね!」
そっと抱きしめる。
「姫……! もう二度と貴女の傍から離れとうございません……!」
抱きしめた彼女。自分より幾分低い背、柔らかな顔。そして、自分が贈った、何処かで見たことあるような簪。
その全てが愛おしい。
「……でも、分かってます」
これが夢だってこと。ここで会ったからって、姫がその時に無事だったとは限らないこと。
『俺』の無念を晴らすために、なぞっているに過ぎないなんてことも。
「また貴女に会う事が出来て良かった」
そっと、抱擁を剥がす。腕に残る体温の残り香は気のせいかもしれないけれど。
「でも、今の俺にはもっと会いたい人がいます。隣にいないといけない人がいます。」
『俺』じゃなくて、俺に。
「だから、行きますね」
簪を揺らしてこちらへ縋ろうとする彼女に背を向けて、彼女の名前を口の中で呟いた。
●帰りは、前を向いて。
夢から覚めるのは、全員同時だった。
「……戻ってきたか」
「そうみたいですね」
義高と、奏空が当たりを見渡す。そこには目を閉じるまでいなかった古妖が姿を現していた。
「これが古妖の力、ですか」
零士が腕に巻き付いていた蔦を千切る。そこにあるのは、僅かな倦怠感。それだけが、この古妖の奪う代償であった。
「本当にコイツを倒さないといけないのかな」
戒都が植物の前に立つ、もはやこの古妖に抵抗する術はない。
「すまんな……これも、俺たちの任務なんでよ」
「ありがとう、姫君に会わせてくれて」
義高と、奏空、そして零士。
それぞれが己のスキルを差し込み、古妖は討伐される。
「……これが、戦うってことなんですね」
零士が己の掌を見つめる。まだまだ先輩たちには及ばないかもしれないが、自分が一歩目を踏み出した感触だけがそこに残っていた。
「でも、大丈夫です。俺は今日、皆に会えましたから」
「あぁ、そうだな」
義高がぐりぐりと零士の頭を撫でる。
夜の空にはまだ月が煌々と輝いていて。過去から未来へと踏み出す全員を少しだけ明るく照らしていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
