キノコ鍋を作るのです!(手ぶらで山へ飛び込みつつ)
●やまのかみさま
富山県立山連峰の自然豊かな山々。
かつて覚者の活躍によって開放され、今では平常に運営しているホテル立山より北に半キロ。
割とこじんまりとした池にすむ古妖『御厨ヶ池大権現さま』略してみっきーさんはエネルギー不足に悩んでいた。
「最近里の皆が山へこーへんのはなんでなん。秋やで。キノコ鍋しよーやー。キノコ狩りからのキノコ鍋しよーやー!」
ホテルのおっさんにしがみついてがしがしと揺するみっきーさん。
「そんなこと言われましても! お鍋なら貸せますけど、キノコ狩りまでしなきゃ行けないのはなぜなんです!?」
「山の恵みで里の皆が喜ぶ。かーらの、その喜びがエネルギーになる。かーらの、山の恵みが更に豊かになる。アダンスタン!?」
「わからないでもないです……」
みっきーさんはいわゆる山の神様である。
自力では山をどうこうできないが、訪れる人々がどんな風に山と接するかを感じて山を豊かにしたりしなかったりする存在なのだ。
「そうですね。僕らはホテルの切り盛りで忙しいですが……あっ、ファイヴの皆さんに頼んだらどうでしょう!」
「ふぁい!?」
「ファイヴですよ! あの人たち何でも出来るから、ならキノコ狩りだってできるでしょうし、キノコ鍋だって作れますよ!」
というわけで。
「キノコ鍋を作りに来いよって言われたんだけど」
「いきます! いきましょう! ハァハァ、お腹すきました!」
夢見の説明をうけて、文鳥 つらら(nCL2000051)がガタガタと震えた。
死んだように仰向けに転がっていたところからガタガタ状態まで復帰した。
「材料やなんかは持ち込まずに、山にあるものだけで鍋を作るんだそうよ。火をおこすのとか、ぶっちゃけ覚者なら余裕でしょ」
「ハイ! えりんぎだいすきです!」
「聞いてねえなこの子!」
というわけで、キノコ鍋をつくろう!
富山県立山連峰の自然豊かな山々。
かつて覚者の活躍によって開放され、今では平常に運営しているホテル立山より北に半キロ。
割とこじんまりとした池にすむ古妖『御厨ヶ池大権現さま』略してみっきーさんはエネルギー不足に悩んでいた。
「最近里の皆が山へこーへんのはなんでなん。秋やで。キノコ鍋しよーやー。キノコ狩りからのキノコ鍋しよーやー!」
ホテルのおっさんにしがみついてがしがしと揺するみっきーさん。
「そんなこと言われましても! お鍋なら貸せますけど、キノコ狩りまでしなきゃ行けないのはなぜなんです!?」
「山の恵みで里の皆が喜ぶ。かーらの、その喜びがエネルギーになる。かーらの、山の恵みが更に豊かになる。アダンスタン!?」
「わからないでもないです……」
みっきーさんはいわゆる山の神様である。
自力では山をどうこうできないが、訪れる人々がどんな風に山と接するかを感じて山を豊かにしたりしなかったりする存在なのだ。
「そうですね。僕らはホテルの切り盛りで忙しいですが……あっ、ファイヴの皆さんに頼んだらどうでしょう!」
「ふぁい!?」
「ファイヴですよ! あの人たち何でも出来るから、ならキノコ狩りだってできるでしょうし、キノコ鍋だって作れますよ!」
というわけで。
「キノコ鍋を作りに来いよって言われたんだけど」
「いきます! いきましょう! ハァハァ、お腹すきました!」
夢見の説明をうけて、文鳥 つらら(nCL2000051)がガタガタと震えた。
死んだように仰向けに転がっていたところからガタガタ状態まで復帰した。
「材料やなんかは持ち込まずに、山にあるものだけで鍋を作るんだそうよ。火をおこすのとか、ぶっちゃけ覚者なら余裕でしょ」
「ハイ! えりんぎだいすきです!」
「聞いてねえなこの子!」
というわけで、キノコ鍋をつくろう!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.キノコ鍋を作っておいしく楽しくいただく
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
これはキノコ狩りパートと料理パート、ついでに実食パートで構成されています。
山には大体のキノコがはえているので、これを採取しましょう。
毒キノコとか割とあるので、ちゃんと避ける必要があります。気をつけましょう。
山には人数分の土鍋ちゃんしか持ち込めないので、薪やなんかも拾っておくとよいでしょう。
調理パートは工夫がいります。
なんでかっつーと山にあるものだけで作るので、調味料がありません。
キノコと近くの雪解け水で作ることになるのですが、他にもなんかしら素材を加えたり調理の仕方を工夫したりせんとただの『ゆでたきのこ』になってしまいます。
あっ、先に申し上げますが、この辺に生息してるからって雷鳥食うのはやめましょう。特別天然記念物を食うと色んな人が悲しみます。
ごはんができたらいただきます。
●プレイングサポート
とっちらかってはいけないのである程度のサポートガイドをおつけします。
・採取や調理はそれぞれで担当を分けておくとよい。プレイングのかけどころが分かりやすくなるし、なにより描写になりやすい。
・採取や調理に関する知識はもっていてもいいし、もっていなくてもいい。ただし『特別めちゃくちゃ詳しい』とするには『博覧強記』があると説得力が増す。
・調理プレイングがくっくぱっどのコピペになりそうになったら『○○を○○風の味付けで作ります。工夫はこんな感じです』と書いて頂いて構いません。
・楽しく食べる係としてつららちゃんが動向しています。彼女はなんでも幸せに食べる天才なので、困ったらつららちゃんにかまい倒すと成功条件をイージーに満たすことができます。
・お鍋は複数持って行けます。いっそキノコ鍋以外のメニューを加えてもよいかもしれません。できるならばですが。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2016年11月07日
2016年11月07日
■メイン参加者 4人■

●山は食材の宝庫
秋は実りの季節だと、誰かが言った。
紅葉が赤く色づき、苔むした木と銀杏の香りが山々を染めていく。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は帽子のつばを親指で上げ、遠くの木々へと目を細めた。
「俺をただの花屋だと思っているやつは、いるか?」
この期に及んでそんな人は居ないと思うけど、義高は虚空に向かってモノローグを呟いた。
「男は誰もがハンター。狩猟本能の獣よ。そう、俺も例外なくハンティングに身を置いてきた。人呼んで、プラントハンター義高」
ざっと見回しただけで、彼の目には無数のキノコや山菜がロックオンされていた。
マイタケやシメジ。ヒラタケやナメコといったオーソドックスなキノコを手に取り、籠へ詰め込んでいく。
そんな中で、ふと目に付いた木がある。
「あれは……栗の木か」
いがぐりが木の下へ無数に落ちている。これを足で踏んづけることでイガ部分を剥きとり、中の栗を採取する。
だが採取しすぎてはいけない。山の食べ物が激減すると冬眠の準備に不足した熊が山を下りて人里の果樹園や畑を荒らすようになるからだ。
「しかし、秋の山は食べ物が豊富だな。果実で言えばアケビやムベ。ヤマブドウにエビヅル。サルナシなんかもとれるはずだ。いや、欲張ってはいけないか。五人で食べる分があればいい……」
義高はゆっくりと頷くと、きびすを返してのっしのっしと来た道を戻っていった。
彼はプラントハンター。
自然と共に生きる狩人。
同時刻。
斎 義弘(CL2001487)もキノコ狩りに勤しんでいた。
木の側面や根元に生えるキノコは目に付きやすいが、暗くてジメジメした場所にこそ生えるキノコもある。
義弘は暗視能力と超直観を駆使して暗所を歩き、目当てのキノコを探していた。
図鑑を手に探っているが、キノコ業界における写真と実物の違いはなかなかにハンパない。たとえばナメコひとつとっても、スーパーで見かけるナメコとは明らかに異なる形状をしている。図鑑を見た限りでは変わらないが、実際手に取ると何倍もデカいのだ。
しかも似たような見た目の毒キノコもあるので、注意して採取しなければならない。
「充分な装備で挑んでも、なかなかの重労働だ……」
汗をぬぐい、日光のあたる場所へ出てくる義弘。
そこへ籠をかかえた義高がやってきた。
キノコの他にクリやアケビといった食材が入っている。彼はなかなか機転を利かせたようだ。
「どうだ、収穫できたか」
「ああ……見てくれ」
義弘の掲げたキノコに、義高は強く頷いた。
「流石だ。ところで……魚を捕っておく必要があると思うんだが、どうする」
「魚? とれるのか」
「鮎なんかがメジャーだな。沢ガニがあればダシにも困らない筈だ」
一方その頃。
「鮎なんかがメジャーですよね。沢ガニなんかあればダシにも困らない筈なんですけど」
義高と全く同じことを、竈を組む係だった『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が言った。
振り向く。
『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)が死んだ蛇の握って仁王立ちしていた。
「……」
「……」
「菊坂ちゃん、見て。蛇よ」
「は、はい……」
予想外の光景に、結鹿はしばし固まった。
よもや食べるつもりだろうか。
蛇を。
「大丈夫。伝説の傭兵はインコや魚や蛇を生のまま食べたと言うわ」
「それはなんだか、特殊なスキルなんでしょうか……」
結鹿の料理知識によれば、蛇を調理するには結構複雑な手間がかかるものだ。
レシピさえあればさばけないこともないが……できれば遠慮したい。
「ごめんなさい、蛇はちょっと」
「そう? 仕方ないわね」
シルフィアはそっと蛇の死体を土の上に置いた。
大量に殺しでもしない限りは、放っておけば誰かが食べるというのが山の法則である。
巡り巡って最終的に土に還るのだ。
「それより、薪は拾えましたか?」
「乾いた木よね。沢山拾ったわよ」
「これで火がおこせますね!」
シルフィアの後ろから文鳥 つらら(nCL2000051)が薪を入れた籠を掴んでふーわふーわ飛んできた。
「それで、何を食べるんですか? 木の皮ですか!?」
「大丈夫。そこまで飢えてないわ」
今にもその辺の幹にかじりつきそうなつららをどうどうとなだめるシルフィア。
この子の、とりあえずなんでも食べそうな感じはちょっと危ない。
なんだかまんまるとしたボディのベアトリーチェを眺める目が軽く野獣めいている。
「その子はつくねの食べ過ぎでまるまるとしてるけど、食べちゃだめよ」
「つくね……」
「前半部分だけを聞き取らないでね、食べちゃダメよ」
「は、はい」
「その代わりお手玉にして遊んでていいから」
二度見してくるベアトリーチェをスルーして、シルフィアは水の調達にうつった。
後ろではつららがわーいと言ってベアトリーチェを転がして遊んでいる。
「鍋をするには水がいるわよね。川の水でもいいのかもしれないけど、ここは一つ……」
腕まくりをして、シルフィアは深く集中した。
鍋にむけて術式を練り上げ、大気中から取り出した水分を集めていく。
純粋な水が鍋の中にふつふつとたまり、いっぱいになった所でふうと息をついた。
結構気力を使ったが、川へ水をくみに行くよりは楽だったかもしれない。いや、試していないので保証しないが。
「そろそろ二人が戻る頃ですかね」
岩を組んで竈を作っていた結鹿が顔を上げる。
すると、向こうの方から義弘と義弘が数匹のアユとキノコ籠を持ってやってきた。
「おみごとっ」
ぱちんと手を打つ、結鹿であった。
●野生の覚者
「よ、っと……」
義弘はフィンガースナップで指先に火をつけると、それを薪へと近づけた。
炎を強くしすぎると竈ごと吹き飛ぶし、弱すぎると薪に火が付かない。
なかなか集中力のいる作業だ。
例えるなら木こり斧を使って鉛筆を削っているような。
「そういえば、熊とか妖とか、出ないでよかったな」
「熊の警報は出てたわよ」
「……出てたのかよ」
ぶわりと汗をにじませる義弘。
今まで妖相手に戦ってきた彼らならぶっちゃけ熊くらい勝てそうだが、でないでくれたほうがずっとよい。
「よし、火はついたぞ。調理はどうする」
「全部ぶち込めばいいのよね」
シルフィアが籠片手に現代のOLみたいなことを言い出したので、結鹿が慌てて籠を奪った。
「まず洗いましょう。水洗いが確実なんですけど、シャワー的なこと……できます?」
「無理じゃないけど、文鳥ちゃんは?」
振り返ると、ベアトリーチェを抱っこしてこね回していたつららが顔を上げた。
「じょうろでさーっとやれます」
「じゃあそれで行きましょ」
シルフィアとつららが二人して高い所に陣取り、水を流してその勢いで籠の中のキノコを洗うという光景を、地味に想像して頂きたい。
なんならじょうろ代わりにつららを傾けるシルフィアを想像していただいてもいい。
「ダシに困ってたんですけど、お二人がカニと魚を捕ってきてくれて助かりました」
結鹿がさばいた魚とカニを煮込んでだし汁を作っている。
義高は小さく首を振った。
「いや、俺はできる限りの採取をしてきただけだ。調理する腕がないと不味いだし汁になっちまう」
「確かに……結鹿がいて本当に良かった」
うんうんと頷く義弘。
そっぽを向くシルフィア。
だいふくをこねて遊ぶつらら。
照れ照れする結鹿。
あとはキノコの食べづらい部分を切り捨てて鍋に突っ込み、ひたすら煮込むだけだ。
変な話、大抵のものは火を通せば食べられる。
山のものは特にそうだ。
「そういえば、ドクツルタケは死ぬほど美味しいそうよね。本当に死ぬけど」
ちらりとつららを見るシルフィア。
つららは真顔で数秒考えてから。
「命数を犠牲にすれば……毒キノコをたべられる……?」
「やめなさい」
子供に変な知識を飢えてはならぬ。シルフィアはつららをなだめた。
●美味しいキノコ鍋
結果から言おう。
キノコ鍋の調理はばっちり成功した。
義高と義弘が一生懸命探してきた食材と、結鹿の料理技術がばっちりと噛み合ったのだ。
シルフィアも保護者として見守ったかいがあるというものである。つららはクロちゃんをもみしだく係だったが。
「家でもあんまり料理とかしてこなかったけど、こうして見ると大変な作業なのね。ガスコンロやスーパーマーケットが神様に見えてくるわ」
鍋をかき混ぜながら、シルフィアは神妙な顔で呟いた。
おたまですくって取り皿へとよそう。
ほんわりと上がった湯気に、魚とキノコの香りが混ざって鼻を抜けていく。
「量が少し多くなったが……食べるか? つらら」
「いただきます!」
目をキラキラさせるつららに、義弘は苦笑して大盛りにしてやった。
順にとりわけ、手を合わせる義高や結鹿たち。
「それでは」
「「いただきます」」
まずはナメコ。汁物にすると美味しいナメコだが、山で育った巨大なナメコはそれ自体がちょっとした肉として機能する。
あえてごろっと切ったナメコをはしでつまんで噛み千切ると、つるんとした表面の感触と共にコシのある繊維と鍋の温かさがアクセントとなって食感を高めてくれる。
下の上に広がるのは魚の風味と甲殻類の風味。磯汁とはまた違ったあっさりとした味わいが、キノコの素朴な風味とマッチして口の中に広がった。
噛み砕くというより、しみ出すために噛む。そして飲み干すように嚥下する。
キノコの食感は硬いものから柔らかいものまで、芯の強いものから丸っこいものまで様々だが、鍋にした時の熱の通り具合と噛み千切ったときの感覚はやはりどれも素晴らしい。
「お、そうだ。栗を蒸したところだったんだ。そろそろ出来てるはずだぞ」
そう言って別の鍋を開く義高。
彼の採取してきた栗がほこほこに蒸し上げられ、皿の上に並べられていく。
殻をぱきりと割れば、ほんのり黄色く甘みの凝縮された栗の身が湯気と共に顔を出す。
それを受け取り、結鹿は軽く頬張ってみた。
栗の甘みとほろりとした苦み、そして鼻から抜けていく何とも言えないあの香り。
結鹿は『んー』と言って目を閉じた。
鍋に入ったアユの身もすくってみる。
いっそ棒にさして塩焼きもいいかと思ったが塩がないので、身を切り出して鍋で煮たのだ。
ぎっしりとした魚の身は汁にその油を溶かし込み、舌に実をのせた時点で残った油とほんのりとした塩味を感じさせてくれる。
「うまい……」
義弘たちは汁を飲み干し、深く息をついた。
ささやかではあるが、キノコ鍋は美味しく出来た。きっと山の神様も喜ぶだろう。
秋は実りの季節だと、誰かが言った。
紅葉が赤く色づき、苔むした木と銀杏の香りが山々を染めていく。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は帽子のつばを親指で上げ、遠くの木々へと目を細めた。
「俺をただの花屋だと思っているやつは、いるか?」
この期に及んでそんな人は居ないと思うけど、義高は虚空に向かってモノローグを呟いた。
「男は誰もがハンター。狩猟本能の獣よ。そう、俺も例外なくハンティングに身を置いてきた。人呼んで、プラントハンター義高」
ざっと見回しただけで、彼の目には無数のキノコや山菜がロックオンされていた。
マイタケやシメジ。ヒラタケやナメコといったオーソドックスなキノコを手に取り、籠へ詰め込んでいく。
そんな中で、ふと目に付いた木がある。
「あれは……栗の木か」
いがぐりが木の下へ無数に落ちている。これを足で踏んづけることでイガ部分を剥きとり、中の栗を採取する。
だが採取しすぎてはいけない。山の食べ物が激減すると冬眠の準備に不足した熊が山を下りて人里の果樹園や畑を荒らすようになるからだ。
「しかし、秋の山は食べ物が豊富だな。果実で言えばアケビやムベ。ヤマブドウにエビヅル。サルナシなんかもとれるはずだ。いや、欲張ってはいけないか。五人で食べる分があればいい……」
義高はゆっくりと頷くと、きびすを返してのっしのっしと来た道を戻っていった。
彼はプラントハンター。
自然と共に生きる狩人。
同時刻。
斎 義弘(CL2001487)もキノコ狩りに勤しんでいた。
木の側面や根元に生えるキノコは目に付きやすいが、暗くてジメジメした場所にこそ生えるキノコもある。
義弘は暗視能力と超直観を駆使して暗所を歩き、目当てのキノコを探していた。
図鑑を手に探っているが、キノコ業界における写真と実物の違いはなかなかにハンパない。たとえばナメコひとつとっても、スーパーで見かけるナメコとは明らかに異なる形状をしている。図鑑を見た限りでは変わらないが、実際手に取ると何倍もデカいのだ。
しかも似たような見た目の毒キノコもあるので、注意して採取しなければならない。
「充分な装備で挑んでも、なかなかの重労働だ……」
汗をぬぐい、日光のあたる場所へ出てくる義弘。
そこへ籠をかかえた義高がやってきた。
キノコの他にクリやアケビといった食材が入っている。彼はなかなか機転を利かせたようだ。
「どうだ、収穫できたか」
「ああ……見てくれ」
義弘の掲げたキノコに、義高は強く頷いた。
「流石だ。ところで……魚を捕っておく必要があると思うんだが、どうする」
「魚? とれるのか」
「鮎なんかがメジャーだな。沢ガニがあればダシにも困らない筈だ」
一方その頃。
「鮎なんかがメジャーですよね。沢ガニなんかあればダシにも困らない筈なんですけど」
義高と全く同じことを、竈を組む係だった『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)が言った。
振り向く。
『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)が死んだ蛇の握って仁王立ちしていた。
「……」
「……」
「菊坂ちゃん、見て。蛇よ」
「は、はい……」
予想外の光景に、結鹿はしばし固まった。
よもや食べるつもりだろうか。
蛇を。
「大丈夫。伝説の傭兵はインコや魚や蛇を生のまま食べたと言うわ」
「それはなんだか、特殊なスキルなんでしょうか……」
結鹿の料理知識によれば、蛇を調理するには結構複雑な手間がかかるものだ。
レシピさえあればさばけないこともないが……できれば遠慮したい。
「ごめんなさい、蛇はちょっと」
「そう? 仕方ないわね」
シルフィアはそっと蛇の死体を土の上に置いた。
大量に殺しでもしない限りは、放っておけば誰かが食べるというのが山の法則である。
巡り巡って最終的に土に還るのだ。
「それより、薪は拾えましたか?」
「乾いた木よね。沢山拾ったわよ」
「これで火がおこせますね!」
シルフィアの後ろから文鳥 つらら(nCL2000051)が薪を入れた籠を掴んでふーわふーわ飛んできた。
「それで、何を食べるんですか? 木の皮ですか!?」
「大丈夫。そこまで飢えてないわ」
今にもその辺の幹にかじりつきそうなつららをどうどうとなだめるシルフィア。
この子の、とりあえずなんでも食べそうな感じはちょっと危ない。
なんだかまんまるとしたボディのベアトリーチェを眺める目が軽く野獣めいている。
「その子はつくねの食べ過ぎでまるまるとしてるけど、食べちゃだめよ」
「つくね……」
「前半部分だけを聞き取らないでね、食べちゃダメよ」
「は、はい」
「その代わりお手玉にして遊んでていいから」
二度見してくるベアトリーチェをスルーして、シルフィアは水の調達にうつった。
後ろではつららがわーいと言ってベアトリーチェを転がして遊んでいる。
「鍋をするには水がいるわよね。川の水でもいいのかもしれないけど、ここは一つ……」
腕まくりをして、シルフィアは深く集中した。
鍋にむけて術式を練り上げ、大気中から取り出した水分を集めていく。
純粋な水が鍋の中にふつふつとたまり、いっぱいになった所でふうと息をついた。
結構気力を使ったが、川へ水をくみに行くよりは楽だったかもしれない。いや、試していないので保証しないが。
「そろそろ二人が戻る頃ですかね」
岩を組んで竈を作っていた結鹿が顔を上げる。
すると、向こうの方から義弘と義弘が数匹のアユとキノコ籠を持ってやってきた。
「おみごとっ」
ぱちんと手を打つ、結鹿であった。
●野生の覚者
「よ、っと……」
義弘はフィンガースナップで指先に火をつけると、それを薪へと近づけた。
炎を強くしすぎると竈ごと吹き飛ぶし、弱すぎると薪に火が付かない。
なかなか集中力のいる作業だ。
例えるなら木こり斧を使って鉛筆を削っているような。
「そういえば、熊とか妖とか、出ないでよかったな」
「熊の警報は出てたわよ」
「……出てたのかよ」
ぶわりと汗をにじませる義弘。
今まで妖相手に戦ってきた彼らならぶっちゃけ熊くらい勝てそうだが、でないでくれたほうがずっとよい。
「よし、火はついたぞ。調理はどうする」
「全部ぶち込めばいいのよね」
シルフィアが籠片手に現代のOLみたいなことを言い出したので、結鹿が慌てて籠を奪った。
「まず洗いましょう。水洗いが確実なんですけど、シャワー的なこと……できます?」
「無理じゃないけど、文鳥ちゃんは?」
振り返ると、ベアトリーチェを抱っこしてこね回していたつららが顔を上げた。
「じょうろでさーっとやれます」
「じゃあそれで行きましょ」
シルフィアとつららが二人して高い所に陣取り、水を流してその勢いで籠の中のキノコを洗うという光景を、地味に想像して頂きたい。
なんならじょうろ代わりにつららを傾けるシルフィアを想像していただいてもいい。
「ダシに困ってたんですけど、お二人がカニと魚を捕ってきてくれて助かりました」
結鹿がさばいた魚とカニを煮込んでだし汁を作っている。
義高は小さく首を振った。
「いや、俺はできる限りの採取をしてきただけだ。調理する腕がないと不味いだし汁になっちまう」
「確かに……結鹿がいて本当に良かった」
うんうんと頷く義弘。
そっぽを向くシルフィア。
だいふくをこねて遊ぶつらら。
照れ照れする結鹿。
あとはキノコの食べづらい部分を切り捨てて鍋に突っ込み、ひたすら煮込むだけだ。
変な話、大抵のものは火を通せば食べられる。
山のものは特にそうだ。
「そういえば、ドクツルタケは死ぬほど美味しいそうよね。本当に死ぬけど」
ちらりとつららを見るシルフィア。
つららは真顔で数秒考えてから。
「命数を犠牲にすれば……毒キノコをたべられる……?」
「やめなさい」
子供に変な知識を飢えてはならぬ。シルフィアはつららをなだめた。
●美味しいキノコ鍋
結果から言おう。
キノコ鍋の調理はばっちり成功した。
義高と義弘が一生懸命探してきた食材と、結鹿の料理技術がばっちりと噛み合ったのだ。
シルフィアも保護者として見守ったかいがあるというものである。つららはクロちゃんをもみしだく係だったが。
「家でもあんまり料理とかしてこなかったけど、こうして見ると大変な作業なのね。ガスコンロやスーパーマーケットが神様に見えてくるわ」
鍋をかき混ぜながら、シルフィアは神妙な顔で呟いた。
おたまですくって取り皿へとよそう。
ほんわりと上がった湯気に、魚とキノコの香りが混ざって鼻を抜けていく。
「量が少し多くなったが……食べるか? つらら」
「いただきます!」
目をキラキラさせるつららに、義弘は苦笑して大盛りにしてやった。
順にとりわけ、手を合わせる義高や結鹿たち。
「それでは」
「「いただきます」」
まずはナメコ。汁物にすると美味しいナメコだが、山で育った巨大なナメコはそれ自体がちょっとした肉として機能する。
あえてごろっと切ったナメコをはしでつまんで噛み千切ると、つるんとした表面の感触と共にコシのある繊維と鍋の温かさがアクセントとなって食感を高めてくれる。
下の上に広がるのは魚の風味と甲殻類の風味。磯汁とはまた違ったあっさりとした味わいが、キノコの素朴な風味とマッチして口の中に広がった。
噛み砕くというより、しみ出すために噛む。そして飲み干すように嚥下する。
キノコの食感は硬いものから柔らかいものまで、芯の強いものから丸っこいものまで様々だが、鍋にした時の熱の通り具合と噛み千切ったときの感覚はやはりどれも素晴らしい。
「お、そうだ。栗を蒸したところだったんだ。そろそろ出来てるはずだぞ」
そう言って別の鍋を開く義高。
彼の採取してきた栗がほこほこに蒸し上げられ、皿の上に並べられていく。
殻をぱきりと割れば、ほんのり黄色く甘みの凝縮された栗の身が湯気と共に顔を出す。
それを受け取り、結鹿は軽く頬張ってみた。
栗の甘みとほろりとした苦み、そして鼻から抜けていく何とも言えないあの香り。
結鹿は『んー』と言って目を閉じた。
鍋に入ったアユの身もすくってみる。
いっそ棒にさして塩焼きもいいかと思ったが塩がないので、身を切り出して鍋で煮たのだ。
ぎっしりとした魚の身は汁にその油を溶かし込み、舌に実をのせた時点で残った油とほんのりとした塩味を感じさせてくれる。
「うまい……」
義弘たちは汁を飲み干し、深く息をついた。
ささやかではあるが、キノコ鍋は美味しく出来た。きっと山の神様も喜ぶだろう。
