<五麟祭>食い倒れ屋台バスターズ
『五麟祭』。
五麟学園の文化祭である。
五輪学園すべての生徒や近隣住人が参加する、秋の一大イベントだ。
文化祭! そして文化祭と言えば模擬店! 食べ物! 食べ物である!
小中高大学部すべての学生が参加する五麟祭において、模擬店の数は膨大!
各店客を奪うため、磨き上げた集客スキル! 調理スキル! ユニーク料理!
そんじょそこらのイベントでは味わえない味のハーモニー! それが五麟祭の食品系模擬店である!
「ほほひもせいひょうはなー」
今年も盛況だなー、と、フランクフルトを口にくわえながら、神林 瑛莉(nCL2000072)は言った。
「神林さん、食べながら喋るのはいけないんよ」
窘めるのは速水 結那(nCL2000114)だ。彼女の両手も食べ物が満載である。
「ああ、悪ぃ、わりぃ」
苦笑いしつつ、フランクフルトを食べきった瑛莉は、地図を広げ、次の獲物を見定め始めた。
「とりあえず次はどうすっかなー。甘いもん食いてーな」
「スイーツ系の屋台もあるみたいやね。喫茶店で休んでもええし……毎年、色々な模擬店があるから、迷ってまうなぁ」
瑛莉の横から地図を眺めつつ、結那。
種類もさることながら、その数も膨大なのが五麟祭模擬店の強みである。何せ小中高大、全学生参加のお祭りだ、他の文化祭に比べて、単純に模擬店の数は四倍である。
そのため、一部の人間からは、一度入れば倒れるまで出てこれない、魔の食い倒れ文化祭と呼ばれてるとか呼ばれてないとか。
なんにしても、満腹満足間違いなしのイベントである。
「あー、この辺は知ってる奴の屋台か……うーん、よし! とりあえず片っ端から食うか! 速水、今日はダイエットは忘れろ! いくぞー!」
「う……うん……」
にこにこ笑顔の瑛莉の言葉に、若干複雑な顔をしながら、結那が答えた。
さあ、キミも進め! 栄光の食い倒れロードを!
五麟学園の文化祭である。
五輪学園すべての生徒や近隣住人が参加する、秋の一大イベントだ。
文化祭! そして文化祭と言えば模擬店! 食べ物! 食べ物である!
小中高大学部すべての学生が参加する五麟祭において、模擬店の数は膨大!
各店客を奪うため、磨き上げた集客スキル! 調理スキル! ユニーク料理!
そんじょそこらのイベントでは味わえない味のハーモニー! それが五麟祭の食品系模擬店である!
「ほほひもせいひょうはなー」
今年も盛況だなー、と、フランクフルトを口にくわえながら、神林 瑛莉(nCL2000072)は言った。
「神林さん、食べながら喋るのはいけないんよ」
窘めるのは速水 結那(nCL2000114)だ。彼女の両手も食べ物が満載である。
「ああ、悪ぃ、わりぃ」
苦笑いしつつ、フランクフルトを食べきった瑛莉は、地図を広げ、次の獲物を見定め始めた。
「とりあえず次はどうすっかなー。甘いもん食いてーな」
「スイーツ系の屋台もあるみたいやね。喫茶店で休んでもええし……毎年、色々な模擬店があるから、迷ってまうなぁ」
瑛莉の横から地図を眺めつつ、結那。
種類もさることながら、その数も膨大なのが五麟祭模擬店の強みである。何せ小中高大、全学生参加のお祭りだ、他の文化祭に比べて、単純に模擬店の数は四倍である。
そのため、一部の人間からは、一度入れば倒れるまで出てこれない、魔の食い倒れ文化祭と呼ばれてるとか呼ばれてないとか。
なんにしても、満腹満足間違いなしのイベントである。
「あー、この辺は知ってる奴の屋台か……うーん、よし! とりあえず片っ端から食うか! 速水、今日はダイエットは忘れろ! いくぞー!」
「う……うん……」
にこにこ笑顔の瑛莉の言葉に、若干複雑な顔をしながら、結那が答えた。
さあ、キミも進め! 栄光の食い倒れロードを!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.五麟祭に参加する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
祭だ! 屋台だ! 食い倒れだ!
●シチュエーション
五麟祭の模擬店(食品系)が舞台のシナリオです。
参加NPCと一緒に、お友達と一緒に、または孤独なグルメで屋台を満喫するもよし。
いやいや、自分と友人達の自慢の料理で皆を魅了してやるぜ! と模擬店を開くもよし。
文化祭を思いっきり楽しみましょう。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
21/∞
21/∞
公開日
2016年10月30日
2016年10月30日
■メイン参加者 21人■

●五麟祭、開幕!
十月の良き晴天の日。気候も過ごしやすく、まさにお祭りにはうってつけの今日、五麟祭の開始の合図が高らかに鳴り響いた。
五麟祭は色々なお楽しみが一杯。屋台等の模擬店はその中の一つであり、今年も大盛況の中、人々がごった返している。
(賑やかな所は苦手でしたが……大分慣れたのでしょうか)
左右に屋台の並ぶメインストリートを、柳 燐花(CL2000695)がきょろきょろと見まわしながら歩く。
焼きそばたこ焼き、お好み焼き。ベビーカステラにリンゴ飴……様々な屋台と、客引きの声。食べ物を食べながらにこやかに談笑している通行人たちを見ていると、知らず、自分もうきうきとした気分になってくる。それも、お祭りの持つ魔力なのだろう。
ふと、甘い匂いが、燐花の鼻腔をくすぐった。誘われるようにその方角へと言ってみると、
「うさぎのおやつ……?」
それは、ドーナツを提供する屋台のようだ。店頭には椿 那由多(CL2001442)の、奥ではドーナツを調理する田中 倖(CL2001407)の姿が見えた。
「事務員さんのドーナツ、美味しいですよ! いかがですか?」
店頭で客引きをする那由多の手には、一口サイズのドーナツがつめあわされた、可愛らしいボックスが乗っていた。成程、これが【うさぎのおやつ】の商品なのだろう。
学生数名が、那由多へと声をかけた。
「はい、ありがとうございます、メープル味ですね。お待ちください……」
ほどなくして、揚げたてのドーナツが学生たちの手に渡される。学生たちが、燐花の目の前を横切る。ふわり、と風に乗るメープルの甘い香り。思わず、唾液が出てきそうになる。
燐花はこほん、と咳ばらいを一つ、気持ちを切り替えると、
「こんにちは。盛況ですね」
「こんにちは、燐花さんもおみえになってたんやね」
にっこりと笑って、那由多が挨拶を返した。
「ああ、ご挨拶が遅れました。申し訳ございません。いや、つい、ドーナツ作りに夢中になってしまって」
楽しげに笑いながら、倖。大学の職員たるもの、仕事の一環としてお祭りを盛り上げなくては、という名目で屋台を担当した彼だが、元々菓子作りは得意とするところ、なんだかんだと楽しげにドーナツを作っている。
「こんにちは。事務員さん。凄いお客さんですね」
「ふふ。やっぱり田中さんのドーナツは、美味しいよって大繁盛です……むぐっ」
そう言った那由多の口に、倖はにこやかにドーナツを放り込んだ。
「お手伝いに駆けつけてくださったお礼です」
「あふっ……ん、おいし♪」
流石にびっくりした様子だったが、やはり美味しかったのだろう、その表情はすぐに笑顔に変わった。
そのやり取りを眺めていた燐花も楽しげに笑うと、
「ふふ……っと、長居しては他のお客様の邪魔になりますね。私にもドーナツをお願いします」
倖は頷くと、2人分のドーナツを用意した。
「食べ歩きますか?」
「いいえ、お家に持って帰って食べようと思います。楽しみです」
両手を合わせ、一緒に食べる誰かの事を思い浮かべる燐花。自然と笑みがこぼれる。
「揚げたてやから、気ぃつけてね?」
揚げたてのドーナツが入った紙袋を受け取った燐花は、それを抱きしめるように受け取った。紙と服越しに感じるドーナツの温かさが心地よい。
「それじゃ、お2人とも、頑張ってください」
ぺこり、と一礼すると、燐花は帰路につく。つまみ食いの誘惑に耐えながら。
さてさて、お祭りは始まったばかり。まだまだ食べ足りない参加者たちが、屋台の料理に舌鼓をうつ。
「この日のために前日から食べてませんよ!?」
と、豪語するシャロン・ステイシー(CL2000736)。たまたま近くを歩いていた神林 瑛莉(nCL2000072)と速水 結那(nCL2000114)に合流し一緒に食べ歩いているのだが。
「あ、あの、そんなに食べて大丈夫なん……?」
おずおずと尋ねる結那。シャロンは既に数件の屋台の料理を食べては、自身の持つ黒皮の手帳に味の評価を書き記している。
「うむ! 倒れるまで食べ尽くすつもりなのでな! それにわたしは米5合、から揚げ1キロ、キャベツ1玉を余裕で食べられるからな! この程度食べた内には入らん!」
「マジかよ……流石のオレもそこまでは入らねぇぞ……」
賞賛半分、驚嘆半分、瑛莉が呟く。
「うむ、さっきの店は☆2と言った所だな……おお、見ろ、あの店のデカいイカ焼きを! 古妖ではないのか!」
「いや、古妖は喰えねぇだろ……と言うか、確かにデケェな、なんだコレ……」
そこにあったのはいわゆる大食いチャレンジメニュー。今年のイカは大振りですね!
「そこにあるなら喰わねばならん! と言うわけで」
シャロンはイカ焼き屋台の所まで行くと、
『そのでっかいイカ焼き一つ!!』
と。
2人分の声が響いた。
『んっ?』
その出会いは運命か。
屋台の軒下で、2人は出会ってしまった。
シャロンの隣には、大量の食べ物を抱えた少年……天羽・テュール(CL2001432)の姿。
その時、2人の脳裏に電撃が走る。
(こやつ……!)
(大食い(でき)る……!)
一瞬にして理解し合う。それは大食い野郎としての本能か。
「……あんた、今までどれだけの屋台の料理を食べてきたのかい?」
「ふふ……数えていません……全部食べ尽くすつもりですから」
不敵に笑うテュール。その小柄な体にどれだけ入るのか……彼の言う事が本当なら、既に相当の料理を食べたはずだ。加えて、未だ両手に抱えた食べ物……その量もかなりの物だ。ただものではない。
「……ここの先に、美味しそうなハンバーグを提供する屋台があるんです」
渡されたイカ焼きをパクり、と一口かじりつつ、テュールが言った。
「……食い倒れに行きませんか?」
「……気に入った!」
渡されたイカ焼きをがぶり、とかじりつつ、シャロンが応える。
今、2人の大食いがタッグを組んだ!
「良い喰いっぷりだね、アンタ!」
「ええ、ボクは大魔道士ですから、魔力補給のためにたくさん食べるんです」
などと言いつつ、目についた屋台を片っ端から襲撃していく2人。楽しそうで何よりである。
「うむ、よきかな、よきかな。よく食べる子はよく育つものじゃ」
そんな2人を眺めつつ、檜山 樹香(CL2000141)は笑った。
「さあ、ワシも屋台巡りを始めるとしようか」
楽しげにあちこちの屋台を見て回る樹香。もともと食いしん坊と言う事もあるため、食べ物系のイベントには目がない。
「おお、あの店の焼きそばは美味しそうじゃな。早速一つ……む、あちらのケバブとやらもいいにおいがするのう。目移りしてしまうわ」
と、にこにこ笑顔で通りを歩く。あちこちから美味しい料理の匂いが彼女を誘う。
「むむ、どれから手を付けたものか……楽しい物じゃが、これは難題じゃなぁ……」
困ったように言う彼女だが、その顔は幸せそのものだった。
さて、七海 灯(CL2000579)と共に食べ歩きをしていた三島 椿(CL2000061)は、
「灯! 灯が食べたいと言ってた、クレープ屋さんがあるわ!」
と、灯に報告した。
「クレープの屋台ですね? ちょっと買ってきます!」
クレープの屋台へと駆け出す灯。そんな彼女の姿を楽しげに見送りながら、椿は手にしていたタコ焼きを一つ、口に運んだ。うん、美味しい、と顔をほころばせる。
そうこうしている内に、灯がクレープを手に戻ってくる。そのクレープは、学生が作ったが故か些か不格好であったけれど、十分美味しそうに見える。
「おかえりなさい、灯。灯もタコ焼き、食べる?」
と、タコ焼きを一つ、爪楊枝で突き刺し、灯に差し出した。
「はい、あーん」
と、突然やられたものだから、灯もビックリしてしまった。
「え、ええっ!? あ、あの、自分で食べれ……」
しかし、
「あーん」
椿は意に介さず、あーん、とタコ焼きを差し出す。灯は頬を染めて照れながら、
「あ、あーん……」
と、差し出されたタコ焼きを口にする。香ばしい味が口中に広がったが、なんだか恥ずかしさが先にきて、味も良くわからない。
「つ、椿さんもクレープいかがですか?」
照れ隠しも兼ねてクレープを差し出す。けれど、勢いをつけすぎたのか、気恥ずかしさから力が入りすぎてしまったのか、クレープが手の中で崩れてしまう。
「わわわ、どうしましょう!」
「早く食べないと!」
大慌ての2人。2人がかりでなんとかクレープを処理したが、灯の手にはべったりとクリームがついてしまっている。
「大丈夫?」
ハンカチを差し出す椿。灯はそれを受け取ると、
「すみません、お騒がせしました……結局あまり食べられませんでしたねクレープ」
しゅん、としてしまう灯。椿はそんな彼女に微笑むと、
「灯のクレープをみてたら、私も食べたくなったわ。一緒に買いに行きましょう?」
「は……はい! 私ももう一個買います! 今度は崩れないように気を付けないと……」
「ふふ……実は食べ歩きなんて初めてだから、新鮮で楽しいわ」
「私も、文化祭とか、参加するの初めてで……とても楽しいです」
そうして、にこにこと笑いながら、2人の少女はクレープを片手に、食べ歩きを再開した。
空腹を覚えた酒々井 数多(CL2000149)が、一人でうろうろと屋台を物色していると、
「お久しぶりです数多ねえさま。お元気でしたか?」
と、声をかけられた。ふり返ると、そこにいたのは知人である諏訪 奈那美(CL2001411)だ。
「え、奈那美さんいつのまに五麟に生えてきたの? 諏訪? 諏訪に感化されたの? ……って言うか、いつからオプションついたの?」
オプション、とは、奈那美の人魂の事のようだ。
「えぇ、最近発現しまして。それでこちらに参りました」
生えてきた、という独特の表現に特に触れないあたり、二人の関係は長いのかもしれない。
「千歳さんが入院してから会う機会もなく心配していましたが、お元気そうでなによりです」
「まあねー、私もにーさまも覚者っちゃったから、退院してそのまま、こっちのおじさんとこに住むことになったからねー連絡するの忘れててわ、ごめんね」
頭を掻きつつ頭を下げる数多。奈那美は微笑を浮かべると、
「いいえ、お気になさらず。お二人がお元気ならそれで十分です」
「ほんとごめんねー……あ、折角来たんだし、なんか買って、食べながら話そうよ」
数多の言葉に、奈那美は同意した。
2人は目についたクレープや、【うさぎのおやつ】のドーナツを購入すると、休憩スペースを見つけ、ぱくつき始めた。
「こっちに諏訪もいるけど、会ったの? 相変わらずいけすかねーわよ」
「兄さんは子供ですから。ご迷惑をおかけします」
言って、小さく頭を下げる。その後、楽し気に目を細めると、
「私が来たのは兄さんには秘密です」
と、口元に人差し指を当てる。秘密です、という仕草。
「どうか私がいることは兄には内密にお願いしますね。知られていない方が何かと面白いですから」
その言葉に、数多もにんまりと頷くと、
「そうね、なんか嫌がらせするなら知らないほうがおもしろいわ!」
屋台のスイーツをつつきながら、彼女たちの世間話はしばらく続いたのだった。
「さぁ、たべるぞー!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)が片手をあげて、元気よく宣言。同行する秋津洲 いのり(CL2000268)と、瑛莉も元気よく、明石 ミュエル(CL2000172)は少し気恥ずかしげにおずおずと片手をあげて、おー! と彼女に同意した。
「私にとっては、学生として参加する最後のお祭りになるだろうから、めいっぱい遊ばなきゃね!」
「そういえば、鐡之蔵は卒業か……」
「なんだか、寂しくなってしまいますわ……」
少し気落ちした様子の瑛莉といのりを見て、禊はあはは、と笑ってから、
「別に会えなくなるわけじゃないんだから! そんな顔しないでよ」
「でも、会う機会も減っちゃうから……やっぱり、すこし、さみしいかも……」
ミュエルも同意する。
「もう! 皆、せっかくのお祭りなんだから、楽しもうってば! ……そういえば、ミュエルは、神林と学校行事で一緒になるのも久しぶりだよね?」
苦笑しつつ話題を切りかえた禊に、ミュエルは頷いて、
「なんか、懐かしい感じで……楽しい……」
「そういえば、確かに。なんか懐かしいな」
笑顔で頷く瑛莉。と、いのりが「あっ」と声を上げ、屋台を指さす。
「瑛莉様! あれは何ですの?」
「アレはケバブって奴だな。ああやって肉を焼いて、ちょっと分厚いクレープみたいなのに挟んで食べるんだよ」
いのりの質問に、瑛莉が答える。いのりはこの手の屋台と言う物に今まで縁がなかったようで、今日は見るモノすべてが新鮮に映るようだ。屋台を見るたびに目を丸くして驚き、それが何なのか尋ねては、また次の屋台へと視線を移していく。
「いのりは、屋台と言えば焼き芋の屋台しか知りませんでしたわ! ……焼き芋と言えば、この間のお勉強会は上手く行きましたの?」
その言葉に、瑛莉は笑顔で頷くと、
「おー、おかげで何とかなったぜ。あんときは差し入れありがとな、秋津洲」
いのりの頭をポンポン、と軽く撫でた。いのりは、「喜んでいただけたのならよかったですわ!」とにこにこ笑顔である。
「勉強会と言えば……こないだの勉強会では、上手く教えられなかったから……お詫びに……ってことで、何か奢ってあげるよ……」
すこし申し訳なさそうな表情で、ミュエルが言う。
「いや、気にすんなよ! 勉強会に来てくれただけでも嬉しかったんだぜ?」
慌てて瑛莉。それは紛れもない彼女の本心だった。
「それでも気になるってんなら……あー、そうだな、今度付き合ってくれよ。どっか遊びに行くか……服買いに行くとかでもいいからさ。それでチャラ。はい、この話、終わり! な?」
と、会話を打ち切ると、手近な屋台を指さし、
「鐡之蔵、とりあえずあの辺から攻めるのはどうだ?」
「お、いいね! じゃあ私はこっち側から美味しそうな奴見繕ってくる!」
「いのりは、ちゅろす、と言う物を食べてみたいですわ!」
「……ふふ。じゃぁ、アタシ……事務員さんの所のドーナツ、買ってくるね……」
「うん、分け合いっこしながらいろいろ食べよ!」
笑い合いながら、4人が行く。彼女達のお祭りは、まだ始まったばかりだ。
工藤・奏空(CL2000955)は、愛用の手帳を片手に、参加者に何やら聞き込みをしていた。
「ふむふむ……ありがとう! その屋台、行ってみるね!」
どうやら珍しい屋台や、美味しい物の聞き込みをしていたらしい。聞き込み相手に手を振って別れると、一度手帳を確認。
「まぁ、こんなものかな。そろそろみんなと合流しないとね……」
ひとりごちると、早速情報をもとに買い物を始めた。とは言え、目の前で美味しそうな匂いをさせる屋台を見れば、目を引かれないわけがないわけで。
結局、予定より多めの食べ物を抱えながら、休憩所にたどり着く。
「奏空さん、こっち、こっちです……!」
賀茂 たまき(CL2000994)がテーブル席で手を振りながら、奏空を呼ぶ。
席にはすでに守衛野 鈴鳴(CL2000222)と御影・きせき(CL2001110)を座っていて、テーブルの上には三人の買ってきた食べ物が山盛りになっている。
「ごめんごめん! ついつい夢中になっちゃって」
謝りながら、自分の戦利品――クレープに、パスタを揚げた揚げパスタ、アメリカンドックにかき氷――をテーブルの上に置いた。
「ふふっ……わかります。私も沢山買ってきてしまいました」
たまきの購入したモノは、鈴カステラに爆弾タコ焼き、たっぷり苺クレープにトロピカルジュースだ。爆弾タコ焼きは皆で食べられるように、四人分の箸が添えられている。
「うん、どれも美味しそうで……皆が買ってきたのも、すっごく美味しそうだね!」
ちなみに、鈴鳴が買ってきたモノは、プリンにチーズケーキやどら焼き。きせきはベビーカステラとわたあめ、焼き栗に、【うさぎのおやつ】の一口ドーナツもチョイス。
「うーん、我慢できない! じゃあ早速……いただきますっ!」
言って、奏空がアメリカンドックにかじり付く。それを合図に、四人のパーティが始まった。
「今日お腹いっぱい食べたくって、しばらくおやつを控えてたんです」
苺クレープをかじりつつ、鈴鳴が照れながら言う。
「私もです……今日がとっても楽しみで」
たまきもベビーカステラを食べながら答えた。
「ちょっぴリ、お肉がつくのが怖いですけど……」
「うん、でも今日だけだから、きっと大丈夫です」
そう言って二人は笑う。乙女にとってはデリケートな話題ではあるが、今日だけは忘れて、楽しんでも大丈夫だろう。
「……あ、奏空さん、お口にケチャップが……」
と、たまきが呟く。
おしゃべりと食べることに夢中になっている奏空は、自身の口元にケチャップがくっついていることに気が付いていないようだ。
だが、その様子がなんだかあまりも可愛らしくて。たまきは、声をかけそびれてしまった。
「ん? どしたの? たまきちゃん?」
たまきの視線に気づいた奏空が尋ねる。
たまきは首を振ると、
「ううん、なんでもないですよ」
その言葉に、奏空は首を傾げた。その様子がまた可愛らしく思えてしまって、たまきは思わず、くすくすと小さく笑ってしまう。
奏空はますます分けがわからなくなってしまったけれど、大切な人が楽しそうならいいかな、と、つられて笑うのだった。
その様子を眺めていた鈴鳴だが、ふと、きせきもまた、にこにこと笑顔でそれを眺めていることに気付く。
「きせきさん、楽しいですね」
その言葉にきせきは頷くと、
「うん! 美味しい物を食べながらみんなでお話してると、やっぱり楽しいよ!」
その言葉に、鈴鳴は、内心、ほっとした思いだった。最近のきせきはなんだか、ぼんやりしていたり、落ち込んでいたりするように見えて、心配していたのだが。
(いい気分転換になったのかな……)
鈴鳴が胸中でつぶやく。そんな彼女の様子から、内心を敏感に感じ取ってしまったのか、きせきは、
「うん……ホントはね、最近は難しいお仕事ばっかりで、ちょっとしょんぼりしてたけど」
少しだけ困ったような顔で、きせきが言う。だが、「でも」と、付け加えると、
「やっぱりみんなと一緒にいると元気を貰える気がするよ!」
と、笑顔でそう言った。それは、空元気だったのかもしれない。でも、その笑顔を本当の物にしてあげたいと、鈴鳴は思った。
「大切なお友達に囲まれて、笑ってお祭りを楽しめて」
鈴鳴が言う。
「ふふ、こんな幸せが、ずっと続くといいですね!」
鈴鳴の言葉に、きせきは、
「うん、ずっとみんなと友達でいられたらいいなー!」
少年少女たちの、悩みつつも、それでも楽しい時間は過ぎていく。
願わくば、彼らの幸せな時間がこれからも続きますように。
「黄泉、お前とこうやって行動するのはいつぞやの肝試しの時以来だな」
「ん」
天明 両慈(CL2000603)の言葉に、神々楽 黄泉(CL2001332)は頷く。
両慈は黄泉にお祭りや屋台を体験させてやりたいと、彼女を連れて参加していた。
「所で、他に誘いたい奴が居てな……構わないか?」
「ん、いいよ」
両慈が誘ったのは、交流のある結那だ。連絡をすると、しばらくして、結那が現れる。
「速水、久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
両慈が言う。結那も微笑んで、
「うん、両慈さん、久しぶりやね」
と挨拶。そんな二人を交互に見やってから、黄泉は、
「ん、その女の子、両慈の彼女?」
と、結那を指さして言う物だから、結那は顔を真っ赤にして、
「ちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃうよ!? 私と両慈さんは、ちゃうんよ!?」
慌てる結那とは対照的に、両慈は冷静に頭を振ると、
「いや、俺の彼女は速水ではないさ」
という。結那は、「えっ」という表情を一瞬すると、
「あ、あの、両慈さん、恋人居るん……?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「う、ううん? なんでもないんよ? そうやね、両慈さん、かっこええからなぁ。当然やね。あはは」
両手をブンブンふりながら、何でもないというジェスチャーで答える。
「そ、それはさておき、えっと、黄泉ちゃん? 私は速水結那。よろしくね?」
と、少し背をかがめて、結那が言う。しかし、黄泉は不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。「あれ?」と首をかしげる結那に、両慈は、
「ああ……黄泉はこう見えても18歳だぞ」
「ふえっ!? わ、わ、ご、ごめんなさい! 黄泉さん!」
何度もペコペコ頭を下げる彼女に、流石に同情心が湧いたのか、
「ん、良い」
と、言う黄泉だった。
その後、三人は屋台通りを散策する。はじめはスイーツ系の屋台を回っていたのだが、どうも黄泉には不評なようだ。
「口の中、べとべと、する」
という事らしい。
「ふむ……」
両慈は少し困ったように言う。
「ん、両慈が食べてるの、なに?」
と、黄泉が両慈が手にしている食べ物を指さす。
「ああ、さっき買ったケバブだ。こういう方が好きか?」
彼のが食べているのは、激辛のチリソースがたっぷりとかかった、いわゆる激辛メニューだ。相当な辛さのはずだが、彼は涼しい顔で食べている。
「ん。私も、食べてみる」
と、彼の手からケバブを一口パクリ。あわや、辛さに大参事か、と思いきや、
「……美味しい……!」
と、瞳をキラキラと輝かせながら、もう一口パクリ。うっとりと目を細める。どうやら、彼女も辛党の才能があったようだ。
「これ、美味しい。速水も、食べてみる、とても、美味しい」
と、結那の袖を引っ張り、彼女に勧める。
「わ、私はいいかな……って、アレ? これって……」
ふと、結那が真面目な顔になる。両慈が食べたものを、そのまま黄泉が食べた。
これって間接キスなのでは?
「りょ、両慈さん、彼女がいるのに、そういうのはあかんよ!」
と、顔を真っ赤にする結那に、よくわからない、と首をかしげる両慈と黄泉であった。
「あっ、両慈兄様に黄泉さんなの。こんにちは、デートなの?」
と、声をかけてきたのは瀬織津・鈴鹿(CL2001285)だ。
彼女もすでにお祭りを満喫中。両手には大量のスイーツを抱えている。
ちなみに、お小遣いは「パンツを売って得たお金」との事である。大丈夫なのか、ソレ。
「わたしも一杯甘いもの買ってきたの! 両慈兄様達は何を買ってるの?」
と、黄泉たちの手元を覗き込む。そこには真っ赤なソースがこれでもかとかかった、見るからに辛そうなケバブの食べかけが。
「うっ……両慈兄様は辛党だったのね……」
途端に渋い顔になる鈴鹿。と、そんな彼女に黄泉は近づくと、
「とても、美味しい」
ケバブを差し出す。ううっ、と鈴鹿は呻くと、
「え、遠慮しとくの……!」
と、じたばたと逃げだす。黄泉もそんな彼女を追って走り出した。
「食べる。美味しい」
「わたしは甘いのでお腹が一杯なのー!」
そんな二人を見て、両慈がクスリと笑う。
その後、四人は一緒に、甘い物と辛い物、両方の屋台を交互に回っていったのだった。
●お祭りの終わり
時刻は夕刻。今年の五麟祭の終わりを告げるアナウンスが響く。
三々五々と人々が帰っていく中に、満足げにお腹を撫でながら歩く、チャイナ服の女性が1人。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
獅子神・玲(CL2001261)が呟く。
彼女、覚醒し、全盛期の姿で屋台を楽しんでいたのだった。その目的は、もちろん屋台の全制覇。
その驚くべき食欲はすべての屋台の食べ物を食いつくし、目標の屋台全制覇を完遂したのである。
「今回はなかなか美味な物が多かったです」
しかし、その体のどこに、この膨大な食べ物が入ったのか……体形が崩れた様子もない。まさに神秘と言うほかないだろう。
玲は楽し気に目を細めると、
「これは今から次回が楽しみですね……来年もチェックしなければ」
と、笑うのだった。
かくして、五麟祭は終わりを告げる。
来年はどんなドラマが繰り広げられるのか、それはまだ、分からない。
十月の良き晴天の日。気候も過ごしやすく、まさにお祭りにはうってつけの今日、五麟祭の開始の合図が高らかに鳴り響いた。
五麟祭は色々なお楽しみが一杯。屋台等の模擬店はその中の一つであり、今年も大盛況の中、人々がごった返している。
(賑やかな所は苦手でしたが……大分慣れたのでしょうか)
左右に屋台の並ぶメインストリートを、柳 燐花(CL2000695)がきょろきょろと見まわしながら歩く。
焼きそばたこ焼き、お好み焼き。ベビーカステラにリンゴ飴……様々な屋台と、客引きの声。食べ物を食べながらにこやかに談笑している通行人たちを見ていると、知らず、自分もうきうきとした気分になってくる。それも、お祭りの持つ魔力なのだろう。
ふと、甘い匂いが、燐花の鼻腔をくすぐった。誘われるようにその方角へと言ってみると、
「うさぎのおやつ……?」
それは、ドーナツを提供する屋台のようだ。店頭には椿 那由多(CL2001442)の、奥ではドーナツを調理する田中 倖(CL2001407)の姿が見えた。
「事務員さんのドーナツ、美味しいですよ! いかがですか?」
店頭で客引きをする那由多の手には、一口サイズのドーナツがつめあわされた、可愛らしいボックスが乗っていた。成程、これが【うさぎのおやつ】の商品なのだろう。
学生数名が、那由多へと声をかけた。
「はい、ありがとうございます、メープル味ですね。お待ちください……」
ほどなくして、揚げたてのドーナツが学生たちの手に渡される。学生たちが、燐花の目の前を横切る。ふわり、と風に乗るメープルの甘い香り。思わず、唾液が出てきそうになる。
燐花はこほん、と咳ばらいを一つ、気持ちを切り替えると、
「こんにちは。盛況ですね」
「こんにちは、燐花さんもおみえになってたんやね」
にっこりと笑って、那由多が挨拶を返した。
「ああ、ご挨拶が遅れました。申し訳ございません。いや、つい、ドーナツ作りに夢中になってしまって」
楽しげに笑いながら、倖。大学の職員たるもの、仕事の一環としてお祭りを盛り上げなくては、という名目で屋台を担当した彼だが、元々菓子作りは得意とするところ、なんだかんだと楽しげにドーナツを作っている。
「こんにちは。事務員さん。凄いお客さんですね」
「ふふ。やっぱり田中さんのドーナツは、美味しいよって大繁盛です……むぐっ」
そう言った那由多の口に、倖はにこやかにドーナツを放り込んだ。
「お手伝いに駆けつけてくださったお礼です」
「あふっ……ん、おいし♪」
流石にびっくりした様子だったが、やはり美味しかったのだろう、その表情はすぐに笑顔に変わった。
そのやり取りを眺めていた燐花も楽しげに笑うと、
「ふふ……っと、長居しては他のお客様の邪魔になりますね。私にもドーナツをお願いします」
倖は頷くと、2人分のドーナツを用意した。
「食べ歩きますか?」
「いいえ、お家に持って帰って食べようと思います。楽しみです」
両手を合わせ、一緒に食べる誰かの事を思い浮かべる燐花。自然と笑みがこぼれる。
「揚げたてやから、気ぃつけてね?」
揚げたてのドーナツが入った紙袋を受け取った燐花は、それを抱きしめるように受け取った。紙と服越しに感じるドーナツの温かさが心地よい。
「それじゃ、お2人とも、頑張ってください」
ぺこり、と一礼すると、燐花は帰路につく。つまみ食いの誘惑に耐えながら。
さてさて、お祭りは始まったばかり。まだまだ食べ足りない参加者たちが、屋台の料理に舌鼓をうつ。
「この日のために前日から食べてませんよ!?」
と、豪語するシャロン・ステイシー(CL2000736)。たまたま近くを歩いていた神林 瑛莉(nCL2000072)と速水 結那(nCL2000114)に合流し一緒に食べ歩いているのだが。
「あ、あの、そんなに食べて大丈夫なん……?」
おずおずと尋ねる結那。シャロンは既に数件の屋台の料理を食べては、自身の持つ黒皮の手帳に味の評価を書き記している。
「うむ! 倒れるまで食べ尽くすつもりなのでな! それにわたしは米5合、から揚げ1キロ、キャベツ1玉を余裕で食べられるからな! この程度食べた内には入らん!」
「マジかよ……流石のオレもそこまでは入らねぇぞ……」
賞賛半分、驚嘆半分、瑛莉が呟く。
「うむ、さっきの店は☆2と言った所だな……おお、見ろ、あの店のデカいイカ焼きを! 古妖ではないのか!」
「いや、古妖は喰えねぇだろ……と言うか、確かにデケェな、なんだコレ……」
そこにあったのはいわゆる大食いチャレンジメニュー。今年のイカは大振りですね!
「そこにあるなら喰わねばならん! と言うわけで」
シャロンはイカ焼き屋台の所まで行くと、
『そのでっかいイカ焼き一つ!!』
と。
2人分の声が響いた。
『んっ?』
その出会いは運命か。
屋台の軒下で、2人は出会ってしまった。
シャロンの隣には、大量の食べ物を抱えた少年……天羽・テュール(CL2001432)の姿。
その時、2人の脳裏に電撃が走る。
(こやつ……!)
(大食い(でき)る……!)
一瞬にして理解し合う。それは大食い野郎としての本能か。
「……あんた、今までどれだけの屋台の料理を食べてきたのかい?」
「ふふ……数えていません……全部食べ尽くすつもりですから」
不敵に笑うテュール。その小柄な体にどれだけ入るのか……彼の言う事が本当なら、既に相当の料理を食べたはずだ。加えて、未だ両手に抱えた食べ物……その量もかなりの物だ。ただものではない。
「……ここの先に、美味しそうなハンバーグを提供する屋台があるんです」
渡されたイカ焼きをパクり、と一口かじりつつ、テュールが言った。
「……食い倒れに行きませんか?」
「……気に入った!」
渡されたイカ焼きをがぶり、とかじりつつ、シャロンが応える。
今、2人の大食いがタッグを組んだ!
「良い喰いっぷりだね、アンタ!」
「ええ、ボクは大魔道士ですから、魔力補給のためにたくさん食べるんです」
などと言いつつ、目についた屋台を片っ端から襲撃していく2人。楽しそうで何よりである。
「うむ、よきかな、よきかな。よく食べる子はよく育つものじゃ」
そんな2人を眺めつつ、檜山 樹香(CL2000141)は笑った。
「さあ、ワシも屋台巡りを始めるとしようか」
楽しげにあちこちの屋台を見て回る樹香。もともと食いしん坊と言う事もあるため、食べ物系のイベントには目がない。
「おお、あの店の焼きそばは美味しそうじゃな。早速一つ……む、あちらのケバブとやらもいいにおいがするのう。目移りしてしまうわ」
と、にこにこ笑顔で通りを歩く。あちこちから美味しい料理の匂いが彼女を誘う。
「むむ、どれから手を付けたものか……楽しい物じゃが、これは難題じゃなぁ……」
困ったように言う彼女だが、その顔は幸せそのものだった。
さて、七海 灯(CL2000579)と共に食べ歩きをしていた三島 椿(CL2000061)は、
「灯! 灯が食べたいと言ってた、クレープ屋さんがあるわ!」
と、灯に報告した。
「クレープの屋台ですね? ちょっと買ってきます!」
クレープの屋台へと駆け出す灯。そんな彼女の姿を楽しげに見送りながら、椿は手にしていたタコ焼きを一つ、口に運んだ。うん、美味しい、と顔をほころばせる。
そうこうしている内に、灯がクレープを手に戻ってくる。そのクレープは、学生が作ったが故か些か不格好であったけれど、十分美味しそうに見える。
「おかえりなさい、灯。灯もタコ焼き、食べる?」
と、タコ焼きを一つ、爪楊枝で突き刺し、灯に差し出した。
「はい、あーん」
と、突然やられたものだから、灯もビックリしてしまった。
「え、ええっ!? あ、あの、自分で食べれ……」
しかし、
「あーん」
椿は意に介さず、あーん、とタコ焼きを差し出す。灯は頬を染めて照れながら、
「あ、あーん……」
と、差し出されたタコ焼きを口にする。香ばしい味が口中に広がったが、なんだか恥ずかしさが先にきて、味も良くわからない。
「つ、椿さんもクレープいかがですか?」
照れ隠しも兼ねてクレープを差し出す。けれど、勢いをつけすぎたのか、気恥ずかしさから力が入りすぎてしまったのか、クレープが手の中で崩れてしまう。
「わわわ、どうしましょう!」
「早く食べないと!」
大慌ての2人。2人がかりでなんとかクレープを処理したが、灯の手にはべったりとクリームがついてしまっている。
「大丈夫?」
ハンカチを差し出す椿。灯はそれを受け取ると、
「すみません、お騒がせしました……結局あまり食べられませんでしたねクレープ」
しゅん、としてしまう灯。椿はそんな彼女に微笑むと、
「灯のクレープをみてたら、私も食べたくなったわ。一緒に買いに行きましょう?」
「は……はい! 私ももう一個買います! 今度は崩れないように気を付けないと……」
「ふふ……実は食べ歩きなんて初めてだから、新鮮で楽しいわ」
「私も、文化祭とか、参加するの初めてで……とても楽しいです」
そうして、にこにこと笑いながら、2人の少女はクレープを片手に、食べ歩きを再開した。
空腹を覚えた酒々井 数多(CL2000149)が、一人でうろうろと屋台を物色していると、
「お久しぶりです数多ねえさま。お元気でしたか?」
と、声をかけられた。ふり返ると、そこにいたのは知人である諏訪 奈那美(CL2001411)だ。
「え、奈那美さんいつのまに五麟に生えてきたの? 諏訪? 諏訪に感化されたの? ……って言うか、いつからオプションついたの?」
オプション、とは、奈那美の人魂の事のようだ。
「えぇ、最近発現しまして。それでこちらに参りました」
生えてきた、という独特の表現に特に触れないあたり、二人の関係は長いのかもしれない。
「千歳さんが入院してから会う機会もなく心配していましたが、お元気そうでなによりです」
「まあねー、私もにーさまも覚者っちゃったから、退院してそのまま、こっちのおじさんとこに住むことになったからねー連絡するの忘れててわ、ごめんね」
頭を掻きつつ頭を下げる数多。奈那美は微笑を浮かべると、
「いいえ、お気になさらず。お二人がお元気ならそれで十分です」
「ほんとごめんねー……あ、折角来たんだし、なんか買って、食べながら話そうよ」
数多の言葉に、奈那美は同意した。
2人は目についたクレープや、【うさぎのおやつ】のドーナツを購入すると、休憩スペースを見つけ、ぱくつき始めた。
「こっちに諏訪もいるけど、会ったの? 相変わらずいけすかねーわよ」
「兄さんは子供ですから。ご迷惑をおかけします」
言って、小さく頭を下げる。その後、楽し気に目を細めると、
「私が来たのは兄さんには秘密です」
と、口元に人差し指を当てる。秘密です、という仕草。
「どうか私がいることは兄には内密にお願いしますね。知られていない方が何かと面白いですから」
その言葉に、数多もにんまりと頷くと、
「そうね、なんか嫌がらせするなら知らないほうがおもしろいわ!」
屋台のスイーツをつつきながら、彼女たちの世間話はしばらく続いたのだった。
「さぁ、たべるぞー!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)が片手をあげて、元気よく宣言。同行する秋津洲 いのり(CL2000268)と、瑛莉も元気よく、明石 ミュエル(CL2000172)は少し気恥ずかしげにおずおずと片手をあげて、おー! と彼女に同意した。
「私にとっては、学生として参加する最後のお祭りになるだろうから、めいっぱい遊ばなきゃね!」
「そういえば、鐡之蔵は卒業か……」
「なんだか、寂しくなってしまいますわ……」
少し気落ちした様子の瑛莉といのりを見て、禊はあはは、と笑ってから、
「別に会えなくなるわけじゃないんだから! そんな顔しないでよ」
「でも、会う機会も減っちゃうから……やっぱり、すこし、さみしいかも……」
ミュエルも同意する。
「もう! 皆、せっかくのお祭りなんだから、楽しもうってば! ……そういえば、ミュエルは、神林と学校行事で一緒になるのも久しぶりだよね?」
苦笑しつつ話題を切りかえた禊に、ミュエルは頷いて、
「なんか、懐かしい感じで……楽しい……」
「そういえば、確かに。なんか懐かしいな」
笑顔で頷く瑛莉。と、いのりが「あっ」と声を上げ、屋台を指さす。
「瑛莉様! あれは何ですの?」
「アレはケバブって奴だな。ああやって肉を焼いて、ちょっと分厚いクレープみたいなのに挟んで食べるんだよ」
いのりの質問に、瑛莉が答える。いのりはこの手の屋台と言う物に今まで縁がなかったようで、今日は見るモノすべてが新鮮に映るようだ。屋台を見るたびに目を丸くして驚き、それが何なのか尋ねては、また次の屋台へと視線を移していく。
「いのりは、屋台と言えば焼き芋の屋台しか知りませんでしたわ! ……焼き芋と言えば、この間のお勉強会は上手く行きましたの?」
その言葉に、瑛莉は笑顔で頷くと、
「おー、おかげで何とかなったぜ。あんときは差し入れありがとな、秋津洲」
いのりの頭をポンポン、と軽く撫でた。いのりは、「喜んでいただけたのならよかったですわ!」とにこにこ笑顔である。
「勉強会と言えば……こないだの勉強会では、上手く教えられなかったから……お詫びに……ってことで、何か奢ってあげるよ……」
すこし申し訳なさそうな表情で、ミュエルが言う。
「いや、気にすんなよ! 勉強会に来てくれただけでも嬉しかったんだぜ?」
慌てて瑛莉。それは紛れもない彼女の本心だった。
「それでも気になるってんなら……あー、そうだな、今度付き合ってくれよ。どっか遊びに行くか……服買いに行くとかでもいいからさ。それでチャラ。はい、この話、終わり! な?」
と、会話を打ち切ると、手近な屋台を指さし、
「鐡之蔵、とりあえずあの辺から攻めるのはどうだ?」
「お、いいね! じゃあ私はこっち側から美味しそうな奴見繕ってくる!」
「いのりは、ちゅろす、と言う物を食べてみたいですわ!」
「……ふふ。じゃぁ、アタシ……事務員さんの所のドーナツ、買ってくるね……」
「うん、分け合いっこしながらいろいろ食べよ!」
笑い合いながら、4人が行く。彼女達のお祭りは、まだ始まったばかりだ。
工藤・奏空(CL2000955)は、愛用の手帳を片手に、参加者に何やら聞き込みをしていた。
「ふむふむ……ありがとう! その屋台、行ってみるね!」
どうやら珍しい屋台や、美味しい物の聞き込みをしていたらしい。聞き込み相手に手を振って別れると、一度手帳を確認。
「まぁ、こんなものかな。そろそろみんなと合流しないとね……」
ひとりごちると、早速情報をもとに買い物を始めた。とは言え、目の前で美味しそうな匂いをさせる屋台を見れば、目を引かれないわけがないわけで。
結局、予定より多めの食べ物を抱えながら、休憩所にたどり着く。
「奏空さん、こっち、こっちです……!」
賀茂 たまき(CL2000994)がテーブル席で手を振りながら、奏空を呼ぶ。
席にはすでに守衛野 鈴鳴(CL2000222)と御影・きせき(CL2001110)を座っていて、テーブルの上には三人の買ってきた食べ物が山盛りになっている。
「ごめんごめん! ついつい夢中になっちゃって」
謝りながら、自分の戦利品――クレープに、パスタを揚げた揚げパスタ、アメリカンドックにかき氷――をテーブルの上に置いた。
「ふふっ……わかります。私も沢山買ってきてしまいました」
たまきの購入したモノは、鈴カステラに爆弾タコ焼き、たっぷり苺クレープにトロピカルジュースだ。爆弾タコ焼きは皆で食べられるように、四人分の箸が添えられている。
「うん、どれも美味しそうで……皆が買ってきたのも、すっごく美味しそうだね!」
ちなみに、鈴鳴が買ってきたモノは、プリンにチーズケーキやどら焼き。きせきはベビーカステラとわたあめ、焼き栗に、【うさぎのおやつ】の一口ドーナツもチョイス。
「うーん、我慢できない! じゃあ早速……いただきますっ!」
言って、奏空がアメリカンドックにかじり付く。それを合図に、四人のパーティが始まった。
「今日お腹いっぱい食べたくって、しばらくおやつを控えてたんです」
苺クレープをかじりつつ、鈴鳴が照れながら言う。
「私もです……今日がとっても楽しみで」
たまきもベビーカステラを食べながら答えた。
「ちょっぴリ、お肉がつくのが怖いですけど……」
「うん、でも今日だけだから、きっと大丈夫です」
そう言って二人は笑う。乙女にとってはデリケートな話題ではあるが、今日だけは忘れて、楽しんでも大丈夫だろう。
「……あ、奏空さん、お口にケチャップが……」
と、たまきが呟く。
おしゃべりと食べることに夢中になっている奏空は、自身の口元にケチャップがくっついていることに気が付いていないようだ。
だが、その様子がなんだかあまりも可愛らしくて。たまきは、声をかけそびれてしまった。
「ん? どしたの? たまきちゃん?」
たまきの視線に気づいた奏空が尋ねる。
たまきは首を振ると、
「ううん、なんでもないですよ」
その言葉に、奏空は首を傾げた。その様子がまた可愛らしく思えてしまって、たまきは思わず、くすくすと小さく笑ってしまう。
奏空はますます分けがわからなくなってしまったけれど、大切な人が楽しそうならいいかな、と、つられて笑うのだった。
その様子を眺めていた鈴鳴だが、ふと、きせきもまた、にこにこと笑顔でそれを眺めていることに気付く。
「きせきさん、楽しいですね」
その言葉にきせきは頷くと、
「うん! 美味しい物を食べながらみんなでお話してると、やっぱり楽しいよ!」
その言葉に、鈴鳴は、内心、ほっとした思いだった。最近のきせきはなんだか、ぼんやりしていたり、落ち込んでいたりするように見えて、心配していたのだが。
(いい気分転換になったのかな……)
鈴鳴が胸中でつぶやく。そんな彼女の様子から、内心を敏感に感じ取ってしまったのか、きせきは、
「うん……ホントはね、最近は難しいお仕事ばっかりで、ちょっとしょんぼりしてたけど」
少しだけ困ったような顔で、きせきが言う。だが、「でも」と、付け加えると、
「やっぱりみんなと一緒にいると元気を貰える気がするよ!」
と、笑顔でそう言った。それは、空元気だったのかもしれない。でも、その笑顔を本当の物にしてあげたいと、鈴鳴は思った。
「大切なお友達に囲まれて、笑ってお祭りを楽しめて」
鈴鳴が言う。
「ふふ、こんな幸せが、ずっと続くといいですね!」
鈴鳴の言葉に、きせきは、
「うん、ずっとみんなと友達でいられたらいいなー!」
少年少女たちの、悩みつつも、それでも楽しい時間は過ぎていく。
願わくば、彼らの幸せな時間がこれからも続きますように。
「黄泉、お前とこうやって行動するのはいつぞやの肝試しの時以来だな」
「ん」
天明 両慈(CL2000603)の言葉に、神々楽 黄泉(CL2001332)は頷く。
両慈は黄泉にお祭りや屋台を体験させてやりたいと、彼女を連れて参加していた。
「所で、他に誘いたい奴が居てな……構わないか?」
「ん、いいよ」
両慈が誘ったのは、交流のある結那だ。連絡をすると、しばらくして、結那が現れる。
「速水、久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
両慈が言う。結那も微笑んで、
「うん、両慈さん、久しぶりやね」
と挨拶。そんな二人を交互に見やってから、黄泉は、
「ん、その女の子、両慈の彼女?」
と、結那を指さして言う物だから、結那は顔を真っ赤にして、
「ちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃうよ!? 私と両慈さんは、ちゃうんよ!?」
慌てる結那とは対照的に、両慈は冷静に頭を振ると、
「いや、俺の彼女は速水ではないさ」
という。結那は、「えっ」という表情を一瞬すると、
「あ、あの、両慈さん、恋人居るん……?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「う、ううん? なんでもないんよ? そうやね、両慈さん、かっこええからなぁ。当然やね。あはは」
両手をブンブンふりながら、何でもないというジェスチャーで答える。
「そ、それはさておき、えっと、黄泉ちゃん? 私は速水結那。よろしくね?」
と、少し背をかがめて、結那が言う。しかし、黄泉は不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。「あれ?」と首をかしげる結那に、両慈は、
「ああ……黄泉はこう見えても18歳だぞ」
「ふえっ!? わ、わ、ご、ごめんなさい! 黄泉さん!」
何度もペコペコ頭を下げる彼女に、流石に同情心が湧いたのか、
「ん、良い」
と、言う黄泉だった。
その後、三人は屋台通りを散策する。はじめはスイーツ系の屋台を回っていたのだが、どうも黄泉には不評なようだ。
「口の中、べとべと、する」
という事らしい。
「ふむ……」
両慈は少し困ったように言う。
「ん、両慈が食べてるの、なに?」
と、黄泉が両慈が手にしている食べ物を指さす。
「ああ、さっき買ったケバブだ。こういう方が好きか?」
彼のが食べているのは、激辛のチリソースがたっぷりとかかった、いわゆる激辛メニューだ。相当な辛さのはずだが、彼は涼しい顔で食べている。
「ん。私も、食べてみる」
と、彼の手からケバブを一口パクリ。あわや、辛さに大参事か、と思いきや、
「……美味しい……!」
と、瞳をキラキラと輝かせながら、もう一口パクリ。うっとりと目を細める。どうやら、彼女も辛党の才能があったようだ。
「これ、美味しい。速水も、食べてみる、とても、美味しい」
と、結那の袖を引っ張り、彼女に勧める。
「わ、私はいいかな……って、アレ? これって……」
ふと、結那が真面目な顔になる。両慈が食べたものを、そのまま黄泉が食べた。
これって間接キスなのでは?
「りょ、両慈さん、彼女がいるのに、そういうのはあかんよ!」
と、顔を真っ赤にする結那に、よくわからない、と首をかしげる両慈と黄泉であった。
「あっ、両慈兄様に黄泉さんなの。こんにちは、デートなの?」
と、声をかけてきたのは瀬織津・鈴鹿(CL2001285)だ。
彼女もすでにお祭りを満喫中。両手には大量のスイーツを抱えている。
ちなみに、お小遣いは「パンツを売って得たお金」との事である。大丈夫なのか、ソレ。
「わたしも一杯甘いもの買ってきたの! 両慈兄様達は何を買ってるの?」
と、黄泉たちの手元を覗き込む。そこには真っ赤なソースがこれでもかとかかった、見るからに辛そうなケバブの食べかけが。
「うっ……両慈兄様は辛党だったのね……」
途端に渋い顔になる鈴鹿。と、そんな彼女に黄泉は近づくと、
「とても、美味しい」
ケバブを差し出す。ううっ、と鈴鹿は呻くと、
「え、遠慮しとくの……!」
と、じたばたと逃げだす。黄泉もそんな彼女を追って走り出した。
「食べる。美味しい」
「わたしは甘いのでお腹が一杯なのー!」
そんな二人を見て、両慈がクスリと笑う。
その後、四人は一緒に、甘い物と辛い物、両方の屋台を交互に回っていったのだった。
●お祭りの終わり
時刻は夕刻。今年の五麟祭の終わりを告げるアナウンスが響く。
三々五々と人々が帰っていく中に、満足げにお腹を撫でながら歩く、チャイナ服の女性が1人。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
獅子神・玲(CL2001261)が呟く。
彼女、覚醒し、全盛期の姿で屋台を楽しんでいたのだった。その目的は、もちろん屋台の全制覇。
その驚くべき食欲はすべての屋台の食べ物を食いつくし、目標の屋台全制覇を完遂したのである。
「今回はなかなか美味な物が多かったです」
しかし、その体のどこに、この膨大な食べ物が入ったのか……体形が崩れた様子もない。まさに神秘と言うほかないだろう。
玲は楽し気に目を細めると、
「これは今から次回が楽しみですね……来年もチェックしなければ」
と、笑うのだった。
かくして、五麟祭は終わりを告げる。
来年はどんなドラマが繰り広げられるのか、それはまだ、分からない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
