悪人を討てば正義が為されます
悪人を討てば正義が為されます


●覚者と隔者
 善と悪が紙一重であるように、覚者と隔者も紙一重である。
 共に力を持ち、その力の使い方が常識的であるか否かの違いでしかない。
 仮にその両者に明確な境があるのなら、その線引きは誰が行うのだろうか?

●正義執行。隔者を討て
 磯部智明という隔者がいる。
 彼の罪状を騙れば、大量殺人だ。十数年前、力を持たない人間の妬みや嫉みから暴行を受け、それに対する反撃で相手を殺した。その数は十数を超える。殺さなければ殺されていた。自衛行為だが、それでも罪状は大量殺人だ。
 磯部は家族を連れて逃げた。当時は第二次妖討伐抗争の影響で世間が揺れていたこともあり、AAAを始めとした国家の追跡は磯部を追い詰めるには至らなかった。国外に逃亡することも考えたが、家族を連れて逃げるだけの資金は磯部にはなかった。
 かくして磯部はとある田舎で安住の地を得た。人口百人にも満たない小さな村。そこで己の罪に震えながら、しかし家族と慎ましく生活していた。
 だが罪からは逃げきれない。当時の事件を知る者達が磯部の住処を突き止めたのだ。
 ここで警察に通報したのなら、ここでこの話は終わっていた。磯部も罪を認め、血を流すことなくこの話は終わっていた。
 だがそうはならなかった。磯部を見つけた人間は、殺された人間の家族だったのだ。
『俺達と同じ痛みを!』
『アイツだけ家族がいるなんて許せない!』
 十数年間の恨みは、常識すら歪める。それが当然であるかのように、彼らの怒りは磯部本人ではなく妻と子供に向いた。
 十名近くで磯部を押さえ込み、動けない磯部の前で最愛の妻と子供を嬲り殺しにしたのだ。そして同じように、ゆっくりと磯部に攻撃を加えて命を奪っていく。
『俺達の恨みを思い知れ!』
『家族を奪われた苦しみを心に刻め!』
『それがお前の罪だ! 隔者が!』
 ああ、それは事実だ。何もできない磯部は何も言えずただ自分の罪を受け入れていた。
 自分は何かといわれれば、隔者だ。力を使って悪事を働いた悪い覚者だ。
 だが妻と子供は関係ない。そう言いたかったが、言えなかった。自分が奪ったように、奪われるのが当然なのだ。それが悪人の定めなのだと。罪から逃げた自分への罰だと。
『因果応報。隔者は殺されて当然なんだ』
 それが磯部が聞いた最後のセリフだった。

●FiVE
「――憤怒者十名の制圧です」
 久方 真由美(nCL2000003)は沈痛な声で告げる。
 どれだけ急いでも、彼らの虐殺を止めることはできない。それは残酷な真実だ。精々が、虫の息の隔者を看取る程度だという。
 故にこれは、暴徒を押さえるだけの仕事だ。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:どくどく
■成功条件
1.憤怒者十名の打破
2.なし
3.なし
 任務自体は難しくありません。皆様の実力なら、暴徒を押さえるのは容易でしょう。
 リプレイは戦闘描写よりも心情を描く形になります。

●敵情報
・憤怒者(×10)
 磯部に家族を殺された者が集まっただけの一般人です。対隔者様に武装していますが、不意打ちで引退状態の隔者を押さえ込むのがやっとで、戦い慣れた覚者を相手するには実力不足です。
 自らの正義に酔って興奮しているため、逃げ出すことはありません。PCも磯部の知り合いの隔者だと思い込んでいます。FiVEを名乗っても偽物と一蹴するでしょう。
 攻撃方法も、近接距離に手にした刃物を振るう程度です。

・隔者
 磯目智明。四十代前半の男です。数十年前に力に嫉妬する暴徒に襲われ、これを返り討ちにしました。そのまま田舎に逃げています。逃げた理由は『暴徒から家族を守るために捕まるわけにはいかなかった』との事です。なお時効はまだ未成立。
 すでに虫の息です。何をしても、彼を死から救うことはできません。

・一般人
 磯部の妻と子供。すでに事切れています。
 少し離れた場所に転がっています。

 
●場所情報
 とある漁村の空き地。時刻は夜。足場と広さは戦闘に支障がないものとします。人が来る可能性は皆無。それゆえの凶行でもあります。
 戦闘開始時、憤怒者一〇人がひと固まりになって磯部を囲んで攻撃しています。システム的には全員前衛扱いです。PC達は一〇メートルは離れた場所から戦闘開始です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年10月18日

■メイン参加者 8人■

『復讐の神士』
恩田・縁(CL2001356)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『アイティオトミア』
氷門・有為(CL2000042)
『田中と書いてシャイニングと読む』
ゆかり・シャイニング(CL2001288)

●殺人はなぜいけませんか?(その一)
『法律で禁じられているから』
 ――つまり戦争などで国が許せば殺人は許される行為なのですか?

●戦場に向かう覚者達
「正義と正義同士は、ぶつかり合う。うんざりだ」
 言葉通りうんざりした表情で『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は口を開く。今回の隔者と憤怒者のぶつかり合い。互いに家族の為に動いている。なのにどうして争い合うのか。
「私は復讐の女神の代行者として彼らの精神性に称賛を送ろう」
『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)はギリシア神話の復讐の女神に捧げるように、厳かに告げる。かの女神は、トロイア戦争において母を殺したでミュケーナイの王子を追い詰め、精神を壊して殺したという。
「こんな……こんな非道。正義でも何でもないであります!」
『聖槍アドニス』を手にアネモネ・モンクスフード(CL2001508)は怒りを口にする。騎士道を重んじるアネモアにとって、このような行為は許されることではない。すぐにやめさせなければと歩を進める。
「両者ともクズだけど今回に限って言えば隔者の方がまだマシなのかしら?」
 多くを殺し逃げた隔者と復讐の為に家族を殺した憤怒者。その二つを比べて『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)はそう判断する。隔者は家族を含めた自己防衛の結果という程度の差だが。どちらも犯罪者であることには変わりない。
「まあ、磯部氏に関して情状酌量の余地はあったかもしれませんが」
 刑法を思い出しながら『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)がため息をつく。殺されそうになったから已む無く反撃をしてしまった。その事情は裁判の流れによっては酌めたかもしれない。最も、自首せず逃亡した時点でそれも消えるのだろう。
「憤怒者さんたちの気持ちは分からないではないんです」
 と口にするのは『田中柚花梨a.k.a.』ゆかり・シャイニング(CL2001288)……今は芸名ではなく田中ゆかりと言うべきか。家族を隔者に殺されそうになったゆかりは、その時確かに怒りを覚えた。本当に殺されていたら、そちらに墜ちていたかもしれない。
「ふっ、仇討ち復讐。人としてその感情は正しいですねっ」
 憤怒者の行為を認めるのは『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。浅葱は他人の正義を否定しない。それを肯定したうえで、異なる正義だとぶつかり合うのだ。故に復讐を正しいと認め、その上で彼らを捕縛しようとしていた。
「因果には結果が報いる。それは当たり前のことだ」
 隔者が最後に聞いた言葉。それを頭の中で反芻し『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が唾棄するように口を開く。大事な人を奪われた者は、日々苦しむことになる。喪失と後悔と。それは心の傷だ。憤怒者達を復讐に駆り立てたのは、その痛みなのだ。
 そして覚者達は現場に訪れる。複数人で一人をいたぶり続ける。隔者に生気がなく、何をしても手遅れなのは明白だった。それでもなお、憤怒者は隔者への攻撃をやめない。
 覚者達はそれぞれ顔を見合わせ、空き地に足を踏み入れた。

●殺人はなぜいけませんか?(その二)
『人を殺せば信頼を失い、社会的に大きなマイナスを被るから』
 ――つまり信頼を失ってもいいのなら、人を殺してもいいのですね?

●正しいと思うことと、許せるという事と
「天が知る地が知る人知れずっ。FiVEから、説得に来ましたよっ」
 覚醒時に光と音を放つ浅葱。それが憤怒者達の手を止める。
 FiVEの覚者が憤怒者を前にして行ったことは、説得だった。
「やめてくれ! もう十分だろ! 殺すな!」
「FIVEの者であります! 今すぐその凶行やめるのでありますよ!」
「こんなの、何の解決にもならないです……! あなた方がこれ以上罪を重ねるの、見たくないんです!」
 ジャック、アネモネ、ゆかりが感情のままに憤怒者に語り掛ける。投げかけられた声に憤怒者達は一旦武器を収め、覚者達に向き直る。
「FiVE……最近できた覚者の組織か」
「信じるな。磯部の仲間がそう語っているだけかもしれん」
「特にあの二人、正義の覚者というふうには見えねえ……」
 桜とジャックの方を見て、憤怒者達はぼそぼそと相談していた。
「恐らくですが、悪名らしきものが広まっているのではないでしょうか?」
 有為がジャックと桜に耳打ちする。FiVEの名は広く伝わっている。だがその任務において手を汚した者もいることも同時に広まっているのだ。ジャックはショックを受け、桜は気にした様子もなくほほ笑んでいる。
「それで、もうやめていただけるのでしょうか?」
「何故やめねばならない?」
 千陽の問いかけに憤怒者達はそう言葉を返す。此処で復讐を諦める理由がない、と。
「何故って……人殺しは良くないだろう!」
「この男は人を殺したんだぞ! それはいいのか!?」
 常識的な言葉は、復讐心という感情でかき消された。彼らはそのまま感情のままに叫び続ける。
「やっとだ! やっと誠一を殺したこいつを捕まえたんだ! なのに!」
「絵理を殺して逃げたのを、許していいはずがない!」
「警察なんかに任せてられるか! 美奈代の仇は、ここで討つんだ!」
「どうしてもやめろというのなら、父さんを返せ!」
「そうだ! そうすれば止めてやる!」
 口々に叫ばれる言葉。それは彼らの正義。
 大事な物を奪われたから、だから殺す。ただそれだけの話だ。FiVEの覚者もその気持ちは理解できた。
 そして死んだ人間を甦らせることなど、できるはずがない。この『説得』は、最初から破綻していたのだ。妥協するポイントもなく、そして意味もない。唯一可能性があるとすれば『ここで見逃すから、それ以上は暴行を加えるな』という『交渉』だが、その選択肢は初めからない。
「決裂ね。予想通りだけど」
「復讐とは……復讐相手のみを相手にした神聖なモノ。それ以外を巻き込んだ時点で……貴方達のその行為はただの許されぬ犯罪行為だ」
「気持ちの因果応報したなら、次は社会の因果応報なのですっ」
 桜、縁、浅葱の三人が戦意を示しながら前に出る。
「こんなのは、間違っているのに……!」
「制圧します。お覚悟を」
「仕方ありませんね」
 ゆかり、千陽、有為が渋々と言った表情で戦場に足を向ける。
「どうして解ってってくれないんですか!?」
「同じ人間やろ!? こんなん虚しいだけや!」
 アネモアとジャックが悲痛な叫びをあげる。そこに戦意はない。
 覚者と憤怒者。否、復讐する者と止める者の闘いが今ここに切って落とされた。

●殺人はなぜいけませんか?(その三)
『神(人間以外の上位存在)がそう定めたから』
 ――そういった存在には『死』を司る存在もいますが、それを奉じる者は殺してもいいのですか?

●戦闘開始
「くそ! こんなん放っとけれるか!?」
 言ってジャックは倒れている磯部に向かう。
「殺してなんになるんや! 何も生まへんやろうが!」
「生まれる? ふざけるな! 俺達は失ったんだ!」
「お前は許せるのか! 大事な人を奪われて、そう言われて許せるのか!?」
 憤怒者の言葉にびくりと体を震わせるジャック。自分の友人が傷ついて、堪え切れる自信はない。怒りのまま術を放ってしまうだろう。彼らが抱えているのはそんな気持ちだ。それを二〇年近く鬱積している人間を説得する言葉は、今のジャックには浮かばない。
「でも! 憎い相手を殺して解決とか、その家族まで手にかけるとか、絶対間違ってる!」
 ゆかりは憤怒者の怒りは理解できる。大切な家族を殺されかけたのだから。事実殺されていたのなら、ゆかりも復讐に走っていたかもしれない。
「間違っているからなんだっているんだ! そんなことでこの気持ちが変わるモノか!」
「ゆかりは……私は、あなた達を……もしかしたら私の成れの果てだったかもしれないあなた達を、止めにきたんです!」
 ゆかりと憤怒者の差は、親しい人が殺されたか否かだ。たった一つの、しかし大きな違い。その壁を感じながら、だからこそ止めなくてはと決意を新たにする。
「家族を奪われた苦しみを味あわせたいから罪なきその家族も殺す? 嗚呼……何と愚昧な発想!
 復讐を穢した貴様等に復讐を行う正義などない。貴様等はただの殺人犯として拘束する」
「ならあんたの言う『女神』に祈れば復讐は果たせたのか!? 神に祈っても意味がないなら、自分でやるしかないだろうが!」
 稲妻を放つ縁に返ってきた言葉。家族を奪われ全てを憎む縁には、その気持ちは理解できた。縁もまた、彼らと同じように家族を奪われて憎悪の感情を抱いているのだ。故に彼らを称賛する。許せないのは『復讐』を穢したという一点でしかない。
「異端審問官として告げる。汝等の罪、ここで断罪する……粛清開始」
 精神の限界が来たアネモネの意識が途切れ、その後に冷淡な声と共に意識が戻る。別人格の『トリカブト』が目覚めたのだ。『聖槍アドニス』を振り払い、憤怒者達を一気に薙ぎ払う。
「復讐という大義名分で正義を騙りたい殺人犯共だろう。なら粛清対象だ」
「ならその槍は当然あの男にも向くんだろうな! 俺達と同じ家族を殺した殺人者の磯部にも!」
 動けぬように足を切断しようする『トリカブト』にかけられた憤怒者の言葉。その言葉に一瞬槍の動きが止まり、
「はいっ、それはやりすぎですっ」
 その隙をついて槍の穂先を止める浅葱。拳に装着した神具と槍が交差し、金属音が響いた。
「許すのか、彼らを」
「まさか。彼らは法で裁いてもらいます」
 言ってから憤怒者に向き直る浅葱。
「磯部さんは法に裁かれることを拒否し、貴方方も裁かせることを拒否し殺した。故に裁かれずに終わった。
 だから貴方方は法で裁かれるのですよっ。法で裁かれることを拒否する被害者がいないが故にっ」
「法に何ができた! 法が家族を守ってくれたのか!」
「自分を大切にして。外聞を大切にして。大義名分には相応の論理武装を。
 それだけでこんな悲劇は防げたはずなんです」
 法に委ねることとが出来なかった憤怒者達。その叫びに有為が静かに告げる。
「妻子の殺害を行っていたり、破綻の可能性を考慮するとリスクが高い。更に、磯部氏一人だけなら情状酌量の余地もあったものを自分から潰しに行ってる所が度し難いです。
 貴方達、復讐の後で警察から逃げるつもりはないのですね?」
 有為は憤怒者の計画を思い直し、そう結論付ける。自暴自棄の殺人だと。
「だとしたらどうなんだ?」
「いいえ。どうあれ貴方達は法に裁かれます。これはどう考えても計画的犯行です。その罪は重いでしょう」
「貴方達の行いは正義の行いなどではなく新たな悪の始まり。殺された二人に詫びるといいわ」
 神具を振るう桜。木の力を神具に乗せ、覚者の力を惜しみなく使い攻撃していく。刃が振るわれるたびに血飛沫が舞い、苦悶の声が上がる。
「クズは死ねクズは死ねクズは死ねクズは死ねクズは死ねクズは死ね」
「クズだと!? それは家族を殺してのうのうと生きていたあの男の事だろうが!」
「ええ、そうよ。だからアイツも死ぬ。後悔を抱えて死んでいくのよ」
 愛する者を奪われた気持ちは、桜も理解できる。それが殺意に傾くのも。何故なら桜の行動原理がそれだからだ。奪われた喪失感を埋めるように桜は殺す。そうすることで『彼』の声が聞こえてくるから。理解してなお、憤怒者をクズと唾棄して殺す。
「そこまでです。それ以上はいけません」
 桜の刃を止めたのは千陽だった。千陽は神具を使わず憤怒者を制圧していた。その手が桜の手を止める。両者はしばし睨み合い、両者同時にまだ活動可能な憤怒者に向かう。
「あなた方も磯部と同じ人殺しです。人を殺すことはどんな理由があれ、それは悪です」
 誰かに言い聞かせるように千陽は口を開く。それは殺人を犯した憤怒者でもあり、憤怒者を殺そうとした仲間でもあり、軍の命なら人を殺せる千陽自身へ向けた言葉でもあった。そして、軍服という枷を負っているからこそ言える事実がある。
「あなた方についたその血の匂いは一生とれません」
 罪からは逃れられない。法的に逃れられても、その事実からは逃れられないのだ。磯部も、彼らも、そして千陽自身も。

 ただ武器を持っただけの暴徒十名と、神具をもって戦い慣れた覚者八名。戦闘力の差は比べるまでもない。
 秒針が半分まわるころには、全ての憤怒者は地に倒れ伏していた。

●殺人はなぜいけませんか?(その四)
『殺人を許容することは、殺されてもいいという事だから』
 ――つまり殺されてもいいと思っている人間は、誰かを殺してもいいという事ですね?
 
●肉体的には傷一つなく勝利した覚者達
 前もって読んでおいた警察が来るまでの間、覚者は憤怒者を縛り上げていた。
 そして磯部に関しては、もう手の施しようのない状態だった。それは夢見が告げていた通りのことだ。覚者には何の責任もない。
「まあいいわ。手を下すまでもないようだし」
 桜はそういって神具をしまう。できるなら憤怒者も殺したいが、他の覚者が止めようとしているのが分かる。諦めるつもりはないが、その隙を見出すのは難しそうだ。
「力があろうが社会からは逃げられませんし、力がなくても別の方法で復讐はできたはずです」
 これから法に裁かれる憤怒者達に有為が言葉をかける。今更なのは分かっている。それでも言葉をかけずにはいられなかった。何もかもが手遅れなのだ。彼らのうちの誰かがそう言っていれば、あるいは。
「もっと早く駆けつけられなくて、ごめんなさい……」
 すでに骸になった磯部の家族に、ゆかりが祈りを捧げる。もし、なんてこの世にはない。それでも思う。もし、もう少し早ければ。無意味と思っても思わざるを得まい。二人が殺されることはなかったのかもしれない。
「せめて安らかな最期を」
 アネモネは死にゆく隔者を前にして、安らかに眠れるよう歌を奏でる。とある古妖から受け継いだ母性溢れるこもりうた。あるいはこれは二重人格の『トリカブト』の行動なのだろうか。どうあれ暴力で苦痛に歪む顔が、安らかになっていく。
「貴方、彼らに復讐したいですか? 自身の愛する罪なき妻子を惨たらしく殺した奴等を殺したくはありませんか?」
 死にゆく隔者を前に縁がそう問いかける。首肯すれば復讐の女神の名のもとに憤怒者を殺そう。それが自分の役割だと。縁が奉じる女神の一柱は『殺人を復讐する女』。その女神にかけて彼らを惨殺しようと。だが、
「大丈夫です。家族のお二人は奇跡的にまだ息があります。すぐに治療に向かいます」
 隔者が答える前に千陽が言葉をかぶせる。誰もが分かる嘘。隔者自身ももしかしたら気付いていたのかもしれない。だがその嘘を暴こうとする者はこの場にはいなかった。隔者は笑顔を浮かべ、そのまま事切れる。
「……まあ、いいでしょう。結果、彼は復讐を願わなかったのですから」
 この結果に縁はそれだけ言って、背を向けた。
「次生まれてくるときまでには、必ずいい世界にしておくわ」
 泣きながらジャックが隔者の骸に誓う。輪廻転生というものがあるかはわからないが、今は信じたい。そして人と人はいつか和解できるのだという事も。具体的な策もない闇の中だけど、それでもいつかはできると信じて。
「警察が来ましたねっ。裁きの時間ですっ」
 浅葱は遠くから聞こえるサイレンの音を耳にする。憤怒者達に抵抗の様子はない。憤怒者達は彼らの正義に乗っ取り最後まで戦った。その精神性は評価したいと浅葱は思っていた。敗れてもなお、彼らは自分の正義に殉じたのだと。
 ここから先は法の話だ。幾分かの事情聴衆の後、覚者達は帰路についた。

●殺人はなぜいけませんか?
『 (『貴方』の答えが書かれてある) 』
 絶対の答えなどない。否定的な答えも正解なのかもしれない。答えは人それぞれだ。
 これは人が人として生き、誰かに殺意を持つ可能性がある限り必ず存在する命題なのだ。
 この問いに、貴方は―― 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 貴方の答えは、貴方の胸の中に。
 その答えが、貴方自身を正しい方向に導いてくれると信じて。




 
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