夜山の遭遇
夜山の遭遇



「ね、ねえ。大丈夫? こんな所に来て、お母さん達にバレちゃったら……」
「平気だって。何時まで経っても怖がりだなあ」
 ――夕暮れ時、二人の子供が道無き山中をがさがさと歩いている。
 少しばかり暗くなってきた人気のない場所を、わざわざ彼らが歩く理由は。
「大体、隣のクラスの奴ら生意気なんだよ。
 ちょっと歩くだけの度胸試しなんて、誰にだって出来ることなのに、偉そうに振る舞ってさ」
『裏山の小さな祠に辿り着いた人は、妖も恐れぬ勇気を持つ人だ』。
 そんな古い言い伝えが未だにあるその学校では、何人かの男子がその勇気を示すために時折その祠を目指す。
 この子供もの一人だ。彼は同級生が度胸試しに成功し、周囲に持て囃されるのを見て、負けじと友人を連れて山を登り始めた。
 そうして、現在。
「……あの。もう帰ろうよ。こんなに暗いんじゃ祠も見つけられないよ?」
「………………っ」
 少年は一瞬叫び返しかけたが、小さく頷いて来た道を引き返そうとした。
 が、その時。
「……ん?」
 道の脇に、小さく開けた場所がある。
 ちょっと寄り道する程度と思い、少年が其処に一歩だけ足を踏み出すと。
「あ、有った……!」
 そこには透き通った紫色の石が幾つも入っている、小さな祠が有った。
「ははっ、やっぱり簡単だったじゃん!
 ほら、お前も取れよ! 一緒に見つけたんだから」
「あ、有難う」
 先に度胸試しに成功した彼らの鼻をあかす未来を夢見た子供達が、祠の広場を出ようとしたとき。

 ――『其れ』が、少年達の前に現れた。

「……へ?」
『………………?』
 大きさは大人の男性ほど。ずんぐりむっくりとした身体は、沢山の毛で覆われている。
 恐らくは顔の部分だろうか。頭頂部から幾らか下の部分にある二つの目玉は、きょろっ、と少年達二人を視界に捉えた、後。

「わ――――――!?」
「ぎゃ――――――!!」
『――――――!!?』

 三者三様の驚き方を見せ、別方向に逃げ出していく。
 元々道の無い山の中を、更に真っ暗な中闇雲に逃げ出せば、どうなるかを考える暇もなく――


「……で、この後子供達は大人達が半日がかりで捜索して発見するわ。酷く衰弱した状態でね」
 困った表情で頬に手をやる久方 真由美(nCL2000003)に、集まった覚者達もまた微妙な表情を返した。
「申し訳ないけど、皆が現場に到着する頃には、子供達は山のずいぶん奥まで進んでいると思うわ。見つけるのには時間が掛かると思う」
 続く彼女の説明によると、古妖の名称は毛羽毛現。人前に姿を現すことは滅多にない、毛むくじゃらの古妖とのこと。
 先ほどの夢見において少年等が手に取っていた紫色の石は、この古妖が作り、置いているものらしい。
 その日も作った石を祠に置きに来ようとした所、少年等と出くわし、パニックになって逃走する、と言う顛末らしいのだ。
「……ただまあ、逃げるなら出会っても大丈夫かっていうと、話は変わってくるのよね」
 毛羽毛現はその名を希有希見とも言い、人前に姿を現すことは滅多にない。
 その名を示すように、この古妖は姿隠しや人払いの結界を組むことに長けている。
「普段は当然、自分のためにしかその能力を使うことはないわ。……ただ、先の未来のようにパニック状態になると、その自制が効かなくなるらしいのね」
 要するに、滅茶苦茶に結界を張りまくった挙げ句、山自体が巨大な迷路のようになってしまう、とのことだ。
 仮に古妖と出会った場合、覚者達は人外の力による迷路を踏破する必要が出てくる。
「何だかんだで難しい……と言うか、困った依頼よ。どうか気を付けてね」
 溜息を吐くものの、覚者達に拒否権はない。
 妖による被害者が居る。それを救うこともまた、彼らの使命の一つに他ならないのだから。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:田辺正彦
■成功条件
1.一般人二名の救出
2.なし
3.なし
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

場所:
某市の学校の付近にある裏山です。時間帯は夜六時を過ぎた頃。
通常の登山ルートがありますが、今回下記『少年達』が入った場所はそうした人の手が入っていない場所です。運が良ければ小さな獣道程度はあるかも。
山の中腹を少し越えた辺りには開けた場所と祠があり、『少年達』はその祠にたどり着くことを目的としています。

対象:
『毛羽毛現』
古妖です。見た目は2mほどの巨大な毛むくじゃら。髭のように別れた二叉の大きな毛と、その上に有るつぶらな瞳がチャームポイント。
この個体は綺麗な石を作ることが大好きで、山の石を自分で加工しては先の祠に置いていく、と言う行動を繰り返しています。
夢見で予見された能力としては、姿隠しと人払いの結界をかなり高位のレベルで行使できます。双方共に覚者にも効果有り。
古妖と遭遇した場合、これを山の各所に展開するため、山自体がちょっとした迷路のようになってしまいます。
こう言ったことが起きないように古妖を説得することが出来たらベストですが、少なくとも本依頼に於いては先ず無理だと思われます。
戦闘能力については全くの未知数ですが、仮にも古妖である以上、(もし戦うとしたら)油断して良い相手ではないでしょう。

その他:
『子供達』
小学校高学年の子供達です。男子二人組。
同級生が先の祠にて度胸試しを成功したことを聞き、負けじと祠へ向かいました。
一人は勝ち気で向こう見ず、もう一人は弱気ながらも状況判断が出来る子。
オープニング本文の未来そのままでは、最終的に衰弱しきった状態で救出され、尚かつ心に癒えない傷を負ってしまいます。



それでは、参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月19日

■メイン参加者 8人■

『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)


 ――ちりん、と可愛らしい音が響く。
 三島 椿(CL2000061)が用意した鈴の音だった。小さくとも確たる音を響かせるそれに良しと頷いた彼女は、そうして眼前の山を見ながらきゅっと眦を鋭くする。
「さあ、子供達が毛羽毛現に遭遇する前に見つけなきゃね」
「……ええ。其れには全面的に同意するんですが、何というか」
 へどもどと返る言葉は『蒼炎の道標』七海 灯(CL2000579)のもの。
 此度の任務――夜の山に迷い込み、妖と出会す少年達の救護という目的を達成するために集った覚者達は、飛行できる者とそうでない者によって探索場所を分担するという流れを組んでいた。
 と、言っても流石に翼人ばかりがそう容易く集まる筈もなく。椿とその後ろについて同様に飛ぶ桂木・日那乃(CL2000941)だけでの探索は些か心許ない。
 そう言った理由もあり、同行者として椿が灯を抱えて運んでいるのである――お姫様だっこで。
「他に運び方は無かったのでしょうか」ともごもご呟きながらも、発光によって夜半ばの森林を照らす役目は忘れない辺り、彼女もしっかりした女性である。
「学校の裏山に毛羽毛現。
 よく今まで犠牲者が出なかった、ね。その子たちって、運が悪い、……良い?」
 日那乃もまた、懐中電灯を片手に椿や灯が取りこぼしそうな範囲を探索する。
 首を傾げながらも自らの役目を忘れては居ない。そうして飛行班が遠ざかっていく姿を見送るのは、残る地上班の五名である。
「度胸試し……何故男子はこういう事をしたがるのかしら? 全く理解できませんわ」
 疑問のような、少しばかり怒ったような。
 装備を調えた『誇り高き姫君』秋津洲 いのり(CL2000268)がむうと唸りながらも、山への行軍にて行う所作は淀みない。
「度胸試しは小学校の時一度はやるよね~、まー私は自分で勝手にぶっこんでくタイプだったんだけどさ」
「山ん中入ってった奴の気持ちはわかんねーでもねーけどなー。負けたくねーじゃん、色々と。
 でもロクな装備もなしに道のねーとこ行くのはいただけねーよ」
 いのりの言葉に対して、返された言葉は様々である。
 過去を振り返る『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)にしろ、同年代の男子としての意見を零す『わんぱく小僧』成瀬 翔(CL2000063)にしろ、当然というか、それでも少年達の行動を明確に肯定する者は居はしない。
「……まぁ、度胸試しとか流行る時期あるよね」
 皆の意見を締めるように、多少曖昧な言葉を以て黒桐 夕樹(CL2000163)が淡々と告げる。
 過程については言及は何時でも出来る。それこそ、責任の所在――当の少年達を叱ることが出来るまでは。
 今の問題は、その結果。少年達が山に迷い、古妖に相対せんとしている状況を変える事だ。
「本音を言えば毛羽毛現には会ってみたいけど、ものすごく会ってみたいけど……」
 言って、九段 笹雪(CL2000517)が少しばかり悩むように面持ちを落とす。
 件の少年達と相対すると言う古妖、毛羽毛現。夢見の女性が語るところに因ると、凄いもふもふしてて、つぶらな瞳をしていて、大きな体をしているとか。
 少しばかり自分と戦った後、今回ばかりは我慢の子と呟いて。きゅっと拳を握る笹雪。
 眠たげな瞳に使命感と、ちょっとばかりの無念さを秘めつつ、彼女も登山用に最低限整えた装備で少年達の足跡を追う。
 夜半、木々に覆われた山を上空から探す飛行班にしろ、道無き山肌に残る少年二人の足跡を探す地上班にしろ、探索は易々と達成できる様子はない。
 誰もが予見の未来が達成されてしまう不安を抱きながらも、覚者達はそれを言葉にすることだけはしない。
 こうして、一つの山と一体の古妖と、二人の少年を救うための探索劇が始まったのである。


「……うん、こっちで合ってる」
 周囲の木々から少年達の姿を読み取って。夕樹は一つ頷くと仲間達に方向を示す。
 木々に満たされた山の中、彼が有する植物の記憶を読み取る異能はその効果を十全に発揮していた。
「空丸、頼めるか?」
「ガルム、お願いしますね」
 翔といのり。双方共に覚醒によって十代後半の姿となった彼らは、各々の守護使役の力を発揮して空を【ていさつ】し、少年達の匂いを【かぎわける】。
 当然、その他の地上班の仲間達もそれに頼り切りではいられない。
「歩けなくはないけど、慣らされた道じゃないと、こう……」
 一定時間しか効果を持たない守護使役の灯りを温存しながら、代わりに懐中電灯で周囲を照らす笹雪が丈のある草花に足を取られそうになる度、雷鳥が苦笑混じりにその手を引いて身体を支える。
「ま、件の毛羽毛現とやらも、こんな時でもなきゃー仲良くなりたいところだけどねぇ……っと」
 言って、念のためにと収納していた苦無で道中の木々に傷を付けていく雷鳥。
 実際、彼女が偶然であった動物から以心を介して得た古妖の情報は何とも穏やかなものであった。
 普段は石を加工する、周囲の木々からちょっとだけ食べ物を食べて、後は動物のお手伝いや、座り込んでぼーっとしている。
 比較的その傾向は戦闘向きとも言える雷鳥でさえ、思わず気が抜けるレベルののんびり屋さんっぷりである。
 少なくとも戦うような相手ではないと言うことを、彼女のみ成らず覚者達全員は理解しており、故に少年達の捜索と共に、そうした配慮を怠るようなこともしない。
 成る可く周囲に懐中電灯の光を散らしつつ、地上班の仲間達は順調に祠へと向かっていく。
「……ん。まだ来てないみたい」
 一方、空中班。
 障害物のない状態で、尚かつ歩く其れと大差ないスピードで移動する彼女らは、当然というか、地上班の彼らより一足先に祠へと到着していた。
 到着し次第感情探査を行って近辺の感情を探知する日那乃だが、少しばかり早すぎたか、毛羽毛現は元より件の少年達の気配も感じ取ることは出来ない。
 灯や椿はならばと周囲の木々に懐中電灯を固定してこの場所をアピールし、少年達を呼び込むと同時に近づく古妖を警戒させようと動く。
 ――と、動いている最中。日那乃がぴたりと動くことを止めた。
「? どう……」
「静かに」
 口元に人差し指を当てて、或る方向を灯達に指差す日那乃。
 丁度茂みに覆われたその位置を、成る可く照らさないようにしながら除けば――其処にはのっそりとした動きで、しかし逃げるように森の奥へと消えていく緑色の大きな毛玉。
「……懸念の一つは、これで消えたみたいね」
 椿が少しばかりの申し訳なさを込めた苦笑を浮かべ、灯がそれに倣う。
 残るは、少年達のみ。
 間もなく訪れた地上班の仲間達に祠の周囲の哨戒を任せて、彼女たちは再び空中からの探索を開始した。


「……え?」
 望んでいた出会いは唐突だった。
 感情探査で周辺に気を配る日那乃が少しばかり離れたタイミングで、少年達は祠の広場へと顔を出したのだ。
「あ、誰か居るの!?」
「おーい、無事かー!」
 その姿を確認して、真っ先に近づいてきたのは椿と、覚醒によって姿を変えた翔。
「え……え、あの、お兄さん達、誰?」
「君たちがこんな道もない山の中に入っていくのを見て、追いかけてきたの」
 怯えるよりも困惑する少年達を前に、笹雪が安堵しながらも理由を説明する。
 これががっちりとした山用装備だったら突っ込まれたかも知れないが、流石に運動靴と長袖姿ならば見とがめられることもなかった。
 気弱な少年の方はそれを聞いてほっと息を吐き、対して勝ち気な少年は年上に迷惑を掛けた事実に少しばかり狼狽えながらも。
「な……何だよ。別に俺たちだけで帰ることだって出来たのに。なあ?」
「え? ……いや、その」
 少年達が知る由もないが、仮にも助けられておいて恩をふいにする彼らに一部の覚者達が言葉を返そうとするが。
「……はい。食べると安心するって、聞いた事があるから」
 それよりも早く、夕樹がチョコレートを少年達に握らせる。
「折角ですから、一休みしてから下山しましょうか。
 お菓子や飲み物は私も持ってますし。少しばかりお話もしていきましょう?」
 唐突に手渡されたお菓子に二の句が言えなくなった双方は――やがて灯が苦笑と共に発した言葉で、ひとまずの落ち着きを見せた。

「……心配したわよ?」
 二人の怪我がないかを確認した後、椿はちょっとだけ厳しい顔を作って彼らに話しかける。
 未だ周囲の木々に固定した懐中電灯の灯りで、星空を見渡せる明るい広場。それに子供達は困ったような表情を浮かべた。
「だって、仕方ないじゃん。俺たちだってこんな事、簡単にできるって証明しなきゃいけないんだ」
「度胸も大事だけど、それ以上に大事なもの、私はもっとたくさんあると思うわ」
 言って、椿は傍らの気弱な少年の頭にぽんと手を乗せる。
『大事なもの』が何を示すかを教える椿は、それに視線を逸らす勝ち気な少年を見て、困ったようにため息を吐く。
「本当に勇気があるのなら、危険な事は誰が何と言おうとしない、させない勇気を持って下さい」
 次いで、灯。
 逸らした顔を此方に向けさせて、しっかりと合わせた目線で真摯に彼女は語りかける。
「時に笑われ悔しい思いをするかもしれません、ですがその勇気は友達を守れる勇気です。
 貴方の大切な友達が居なくなってしまう。そんな未来を望まないならば、馬鹿にされる方がまだ良いと。私ならばそう思います」
「でも……でも、俺たち嫌なんだよ!」
 ぐっと身を乗り出して、勝ち気な少年は思いの丈を吐き出す。
「他に取り柄があるのに、褒められることだって出来るのに、それよりもこんな祠の石一つでそれが全部意味が無いように扱われて! それを見返してやりたくて……」
「……だからって、男が人に迷惑かけんじゃねーよ」
 語意を荒げる少年の頭を、未だ覚醒した状態の翔が軽く叩く。
 睨み返そうとした少年に、翔はやれやれと鼻を鳴らして言葉を続ける。
「『だって』とか、『でも』とか。誰かに釣られてやったことで、反対するよりも今みたいにそれに倣って。
 お前達にそんな気持ちが在るなら、ただ単純に、それをソイツ等に伝えれば良かったんじゃねーの?」
「……っ」
 無遠慮ながらも、至極真っ当な意見を返す翔に対し、少年は再度顔を背ける。
 子供達の論破はそう難しくはない。その後、意固地になって人の意見を聞かなくなるリスクを恐れないならば。
 貝のように口をつぐんだ少年達に対して、「仕方ないなあ」と口を開き始めたのは雷鳥。
「……実を言うとね。この山には妖が居るんだよ」
「え……」
「人を襲ったりする悪い妖じゃなくて、森に住んでる良い妖だけどね。大きくて、もじゃもじゃしてる」
 小学生と言えども、二十余年という近辺で害を為してきた存在については彼らも知っている。
 突如として怯えを顕わにした彼らに、雷鳥は慣れなくも言葉を選んで彼らに伝えていく。
「この祠だってそうさ。もじゃもじゃ君が作った石を置きに来る場所でね。けど、君たちがこうして勝手に寄りついて石を取っていくから、あの子は困っていると思うよ」
「……」
「君達だって自分の家に泥棒がいたら凄くびっくりするでしょ? あのもじゃもじゃ君もさ、そんな気持ちだったと思うよ。
 それで皆でこういうことやってたらそういう思いを何度もすることにナルかもしれない、それってかわいそうだと思わない?」
 妖という単語に潜む身の危険もそうだが、明確に「他の相手に迷惑を掛けている」という言葉を聞くと、少年達は居心地悪そうに身じろきをする。
「だからさ、こういうことはこれで終わり、ね。まーた怖い思いしたかねーでしょ?」
「怖くなんか無いって! ……無いけど」
 思わず言葉を返した勝ち気な少年の言葉に続けるように、気弱な少年が頷く。
「……もう、こんなことしません。ごめんなさい」
「おい!」
「ダメだよ。妖の……人が作ったものを、勝手に盗むなんて」
「……それは、けど」
 もごもごと口の中で何かを呟く少年達に、笹雪が彼らの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「……勇気って見せびらかすものじゃないよね。
 今必要なのは、危険な所には近づかないって決心する勇気だと思う」
 妖を恐れず、石を取り帰る勇気か、例え馬鹿にされても、必要のない危険を避けて生きていける勇気か。
「本当に勇気が必要なのって、どっちかな?」
 三度、少年達が黙り込む。
 黙り込んで……けれど、最早答えは決まっていた。
 中々素直になれない彼らの代わりに、いのりが最初に立ち上がり、手を差し伸べる。
「さあ、もうお家に帰りましょう。
 大丈夫、ここまで来た二人の勇気はお姉さんがちゃんと知ってるから」
「そだね。褒められた理由じゃあ無いけど、暗い中よーくがんばった、偉いぞー。それじゃ、一緒にかえろっか」
 少年達は差し出された手を取って――そうして、漸くその言葉を告げた。
「……迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
 終ぞ、その言葉に頷いた覚者達は、彼らと共に山を下りる。
「毛羽毛現……ちょっと見てみたかったな」
 胸中でのみその言葉を呟きながら、祠の広場から離れる間際、最後に夕樹が祠をちらりと見遣る。
 その視線の行く先に気付いてか、笹雪もぽんと手を打った。
「あ、毛羽毛現へのお詫び、しておかなくちゃね」


 ――月が雲に隠された、誰も居ない森の中。
 人気のない祠の広場を、のっそりと大きな影が歩いていく。
 小さな祠の小さな扉。それを影は器用に開いて、紫色の透き通った石を置く。
 と、その中に異なる石が在ることに、影は気がついた。
 拾えば、それは他とは異なる色を見せる小さなおはじき。
 一緒に置かれていたメモには、「騒がしくてごめんなさい」というメモが添えられていた。
『………………』
 メモとおはじき。両方を大事そうに片手に収めて、影は再び森の中に隠れていく。
 雲が晴れ、月が広場を照らしたとき、其処には唯、静寂に満ちているだけだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです