<PIXIE+>妖精の森へ遊びに行こう
●妖精の森
美しい建物の間を長い運河が流れ、その上を手こぎボートが進んでいく。
しかしボートに乗ってオールを握っているのはイルカだった。
尻尾で器用に立ち上がり、夕ご飯のメニューについて話ながら船をすすめるイルカたち。
左右の建物からは、洗濯物を干すイルカや窓辺によりかかってコーヒーを飲むイルカたちが見える。
ヴェネチアの町を小さくしたようなこの都市は通称『水鏡遺跡』。
つい最近まで結界によって隠されていた妖精の里のひとつである。
都市の中央には巨大な樹木が聳え立っている。その名も『無限樹』。意志を持った大樹で、その幹の中は巨大なホールとなっている。
ヒカリゴケの照明に囲まれ、今日もピクシーが踊っている。
周りではイルカたちが手を叩き、タンバリンを鳴らし、ギターをひいて歌っていた。
ここは妖精の森。
人々から隠されていた、『力あるもの』の遺跡である。
ひょんなことからこの遺跡の冒険に関わったファイヴの覚者たちはこの場所を見つけた。
そして。
「折角人目に触れるようになったんだ。お仲間を沢山連れておいで。現代の人間がどういうモンか、アタシらも知ることが出来る。歓迎の印ってワケじゃあないが、イルカレースも開くからね」
こうして妖精の森へと遊びに来たあなたは……。
美しい建物の間を長い運河が流れ、その上を手こぎボートが進んでいく。
しかしボートに乗ってオールを握っているのはイルカだった。
尻尾で器用に立ち上がり、夕ご飯のメニューについて話ながら船をすすめるイルカたち。
左右の建物からは、洗濯物を干すイルカや窓辺によりかかってコーヒーを飲むイルカたちが見える。
ヴェネチアの町を小さくしたようなこの都市は通称『水鏡遺跡』。
つい最近まで結界によって隠されていた妖精の里のひとつである。
都市の中央には巨大な樹木が聳え立っている。その名も『無限樹』。意志を持った大樹で、その幹の中は巨大なホールとなっている。
ヒカリゴケの照明に囲まれ、今日もピクシーが踊っている。
周りではイルカたちが手を叩き、タンバリンを鳴らし、ギターをひいて歌っていた。
ここは妖精の森。
人々から隠されていた、『力あるもの』の遺跡である。
ひょんなことからこの遺跡の冒険に関わったファイヴの覚者たちはこの場所を見つけた。
そして。
「折角人目に触れるようになったんだ。お仲間を沢山連れておいで。現代の人間がどういうモンか、アタシらも知ることが出来る。歓迎の印ってワケじゃあないが、イルカレースも開くからね」
こうして妖精の森へと遊びに来たあなたは……。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖精の森で遊ぶ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●妖精の森とは?
いままで『妖精結界』によって人々の目にふれずに存在していた古妖たちのすみかです。
ここに住む『イルカさん』や『無限樹』、『ピクシー』などはすべて古妖です。
森に囲まれた場所に存在し、無限に流れる清らかな水とその上にたつ小さな町。そして綺麗な空気を保ち続ける巨大樹によって構成されています。
●この町でできること
イルカさんの住む町は『初めて人間を受け入れる記念フェスティバル』を開催します。
レストランやカフェは無料になり、運河のそばに開かれたカフェなどでまったりできます。雰囲気はヴェネチア市街のそれに近いでしょう。
イルカさんによる水上レースが開かれます。
これは運河を単純に一週するイルカさんたちのレースで、自ら水上を走ったりなんなら飛んだり、イルカさんと仲良くなって跨がって泳いで貰ったりという形で参加出来ます。
中央の無限樹ホールではダンスパーティーが開かれています。
演奏が得意な人やダンスが得意な人は加わって遊んでみるとよいでしょう。
●この町にいる古妖
イルカさんという古妖が沢山います。
かれらはぱっと見普通のイルカさんですが、尻尾で立って歩いたりすぐ近くのものを動かすテレキネシスのような能力を持ちます。また言葉はキューイキューイ言ってるだけなのですが『なんとなく分かる』ようになっています。
この中央にある無限樹は意志をもった巨大な古妖です。樹木の全てをゆっくりですが自在に動かすことができます。
イルカさんや町を見守り、外から人間が来たらそれを受け入れたり排除したりするのが役目だったようです。
この町にはピクシーが一人だけいます。
シリーズシナリオで一緒に冒険したピクシーです。手のひらサイズの人形みたいな見た目をしていて、簡易飛行で飛んでいます。
もともといた『じーちゃん』は役目を終えて自然界に溶けたそうです。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
44/50
44/50
公開日
2016年10月13日
2016年10月13日
■メイン参加者 44人■

●妖精の森
白い石造りの屋根の上、天羽・テュール(CL2001432)は聳え立つ無限樹を見上げていた。
「こんな神秘的な場所が日本に隠されていたなんて……」
振り返れば広い海と入り組んだ運河が見え、運河は町へと流れ込んでいく。
煉瓦造りの家々が並び、煙突から白く立ち上る煙がひとつ一つの生活を浮き立たせるかのようだった。
「早速、レストランに行ってみましょうか」
はしごを下りると、そこは広いレストランになっていた。
海と無限樹を見渡せる作りの、落ち着いた印象のインテリア。
なにより、働く人も食べている人も、みんながみんなイルカさんというのが現実味を大きく引き離していた。
「すごーい! イルカさんとこんなにふれあえるなんて!」
東山 千穂(CL2001485)は茄子とミートソースのスパゲッティをフォークでくるくるとやりながら、町並みや店の様子をきょろきょと見回している。
テュールはその隣に座ると、やってきたウェイトレスイルカにお勧めをと注文してみた。
ややって、オムライスが運ばれてくる。
ミートソースのスパゲッティといい、出てくるメニューがひたすらに日本的だった。なんだか古いデパートの屋上にあるパーラーみたいだな……と。
その横でパフェを見つめるシャロン・ステイシー(CL2000736)は思った。
「人の世では味わえない珍妙な料理を……と思ったけど、思ったより普通の料理が出てくるのね。美味しいからいいけど」
町並みはヴェネチアのそれに近く、しかし潮風は感じない。
むしろ空気は森林の穏やかさに似て、風も木の葉をなでる音とともに暖かく優しく吹いている。
「まあいいわ。とにかく次のお店に……!」
ばびゅんと窓から飛び立っていくシャロン。
そんな姿を横目に、背丈の違う男女が運河沿いを歩いていた。
蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)である。
果物をいれた紙袋を抱えたイルカさんや、柵によりかかってギターを弾くイルカさん。
帽子を被ってひなたぼっこをするイルカさんや、煙草を吸ってくつろぐ休憩中のイルカさんなど……見た目こそ異なれど、人とまるで変わらない生活感があふれていた。
「覚者の身体になれちゃうと、海外に行くのがちょっと恐くなっちゃうから……こういう場所が国内にあるのは貴重だよね」
「そう、ですね……」
道ばたに、木製の置物を売る雑貨屋。ガラス越しに立ち止まる燐花。
「月末には、蘇我島さんの誕生日がありましたね」
「そうだったかな。って、燐ちゃんの誕生日ももうすぐじゃなかったかな」
「そうでしたか……忘れていました」
ガラスに映る二人。
「折角だから、今月は一緒に祝おうか」
「はい……」
何気なく歩き出す恭司。服の裾を、燐花につままれていることに気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、すみません」
離した燐花の手。すくい上げるように差し出される、恭司の手。
「ほら、一緒に歩こう」
燐花の指が僅かに震え、やがて手を取った。
二人は歩いて行く。
恭司たちの通り過ぎたカフェテラスには、円形のテーブルを囲む女性たちがいた。
明石 ミュエル(CL2000172)、エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)、クー・ルルーヴ(CL2000403)、十夜 八重(CL2000122)である。
そこへ、トレーに五人分のエスプレッソコーヒーを乗せたイルカさんがやってきた。
「おまたせ、ミュエル。それにお友達の皆も」
カップを四人分置いていく。
守護使役をかたどったようなラテアートがそれぞれ描かれている。
「あら、器用なんですね」
カップを手にとって微笑む八重。ふと顔を上げる。
「今日は、水上レースには出場なさらないんですか?」
「前に優勝しちゃったからね。お休みなんだ」
「一緒に浮き石をとんだり、お花に道を聞いたり……楽しかったね……」
照れるように笑うミュエルを、エメレンツィアはカップに口をつけて見守った。
その横では、小さなカップからコーヒーを飲むピクシーがいた。
ミュエルがヒナちゃんと呼ぶ個体である。
「なんだかファンタジーな組み合わせね。素敵だわ」
「そういえば、ピクシー様にはお名前があるようですけれど、イルカさんにお名前はあるのでしょうか?」
ラテアートから顔を上げるクー。
「イルカさんじゃあないのかい?」
ぱちくりと瞬きするイルカさん。
暫く無言の時間が通り過ぎて、ピクシーはぽんと手を叩いた。
「ボクと一緒で、みんな名前がないんだよ。いらないの。人が呼んだときに、初めて名前がつくんだよ」
「不便はありませんか?」
「呼び合わなくても、同族どうし解り合えるんだ。ボクらからすると、『コトバ』を使わないと心が溶け合わない人間は、不便そうだね」
どうやら、イルカさんという古妖ならではの不思議な文化形態ができあがっているようだ。
「素敵なお友達をもって、羨ましいわ」
「あの、ところで……」
八重がそっと手を上げた。
「イルカさんの肌、触ってみていいですか?」
「どうぞ?」
「よければ、私も……」
クーも一緒になって、イルカさんの肌を指でつついたり撫でたりしてみた。
実際のイルカを撫でたことのある人は少ないと思うが、実在イルカと違ってどこかぷにぷにとした、硬いゼリーのような質感をしていた。
ついでにつぶらな瞳を覗き込んでいると、イルカさんは照れたように顔を覆った。
クスクスと笑いあう八重たち。
「そろそろ、レースの時間かしら」
エメレンツィアがそう言うと、ピクシーはその場からふんわりと飛び上がった。
「そうだった。挨拶しに行かなきゃ。コーヒーありがとうね!」
ピクシーが飛んでいく。
その下で、八重霞 頼蔵(CL2000693)と天堂・フィオナ(CL2001421)が運河を眺めて腰掛けていた。
テーブルにやってきたイルカさんが、ポットからカップへと紅茶を注いでいく。
銀色のラインが入った白いティーカップである。
カップを手にとって頼蔵は感心したように頷いた。
「あの体型でどうやっていれるのかと思ったが、よもや念力で浮かせているとはね……いやはや興味深い場所だ。どう思うかね天堂くん」
「あっち!」
急いで飲もうとしたのか、フィオナが紅茶で舌を焼けどしていた。
「紅茶にしてやられるとは、らしくないね」
「う、うん……なんだか最近落ち着きが無くて……」
しょんぼりとしたフィオナに、頼蔵は表情を変えずに紅茶を口に運んだ。
「ら、頼蔵はいつも落ち着いてるな。コツ、とか……あるのか?」
「ははは、考えたことも無いな。強いて言うなら……取り乱しても無駄だと構えては、いるかな」
「むだ……」
カップをふーふーするフィオナ。
「天堂君には向かないかな」
「そうかもしれない。私って、いつも慌ててて……」
「いいや」
カップを置いて、頼蔵は視線を空に向けた。
「感情を露わにするのはひとつの才能。まっとうな人間は、人間らしさに惹かれるものだ」
「……」
慰められているのだろうか。
フィオナはそんな風に思って、あえて無心にカップに口をつけた。
「あっち!」
●イルカレース
「おお、ぴくしーではないか。わざわざ来てくれるとはの」
なじみのイルカに跨がる檜山 樹香(CL2000141)。その肩の上にピクシーがとまっていた。
「レース中は橋で見させて貰うけど。なんかね、皆『カケ』っていうのをするらしいよ」
「妖精もぎゃんぶるは知らぬか……」
なんだか感慨深そうな顔をする樹香。
「この世界でぴくしーや仲間と冒険できたのは、きっと一生の思い出じゃ。そのひとつ、今日はワシらの息があっているところを見せるとしようではないか。のう」
イルカさんを叩くと、イルカはきゅいきゅいと頼もしそうにないた。
一方、スタートを今か今かと待つ橋の上では。
「いいですか、ゴリサーの馬鹿ども。今から、イルカレースの賭博を行ないます。ルールは単純。一等賞の選手に賭けた人の勝ち。逆に最下位の人に賭けたら罰ゲームだそうです。優勝者は輪廻さんのサービスを受けられますが、罰ゲームは女装するか脱ぐかの二択だそうです……はあ」
こんな説明をなぜさせられる。
中間管理職の悲哀みたいなため息をついて、菊は箱とメモシートを取り出した。
「では開始します。自分の名前と賭ける選手を書いて箱に入れてくださいね」
「じゃあ私は遥君に決めたわよん」
ストンと箱にメモを入れる魂行 輪廻(CL2000534)。
「質問! サービスってなんですか! おっぱい触れるんですか!」
「触らせてあげるから元気だしなさいな」
「っしゃああ! 遥頼む!」
メモを叩き込む切裂 ジャック(CL2001403)。
同じ名前を書いて、酒々井 数多(CL2000149)がメモを滑り込ませた。
「おい! 遥君、負けたら承知しないわよ! 乙女の柔肌みられたら、にーさまのお嫁にいけなくなるもん!」
「俺は賭博とは聞いていませんが……」
「ジャーック!」
「はい」
「前と後ろにゴリサーをつけなさい! 今から私は上官よ! 反抗したらころす!」
「ゴリサー、イエスゴリサー!」
きをつけの姿勢で叫ぶ千陽。
なんか最近殺伐としてるから、気分を変えたかったのだろうか。わりかし従順な彼である。
そこへ、ふんどし一丁で現われる坂上 懐良(CL2000523)。
「さながら背水の陣。わかるか? 博打ってのは、大きく張らなきゃおもしろくねえ。ハンパはなしだ。オレがやる以上、ガキのママゴトですます気はねえんだ」
「もうハンパの意味がわかんないけどな、その格好じゃあ」
そっと小唄にベットする黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「小さい子って応援したくなるんだよな。身長がこう、親近感わく!」
「身長はともかく、僕も御白さんには親近感がわいているんですよ。賭けさせてもらいますね」
同じ名前を書いてメモを箱に入れる片桐・美久(CL2001026)。
「賭け事は大人の嗜みって聞いたことがあります。これで、僕も大人の仲間入りですかね」
「おいおい、やけに大人数だな。まあ皆で騒ぐのも悪くは無いけどよ」
香月 凜音(CL2000495)は遥の名前をメモに書いて箱へ。
「元気そうな奴に賭けるとするか。元気すぎてポカしねーか心配ではあるが……」
「ヒト、多いね」
「ああ……」
誘われてやってきた赤鈴 炫矢(CL2000267)と雛見 玻璃(CL2000865)が歩いてきた。
炫矢は仲間たちに挨拶して回っていたようだが。
「よう」
「赤鈴か、誰に賭けた?」
諏訪 刀嗣(CL2000002)と一色・満月(CL2000044)が挨拶がてらに声をかけてきた。
二人の視線が玻璃へ無垢。
「その上物のジョーちゃんはお前のコレかよ」
「き、君そんな言い方! 彼女にしし失礼だろ!」
小指を立てる刀嗣に、炫矢は慌てていた。
片眉をあげる玻璃。
「カノジョの雛見です。ヨロシク」
満月と刀嗣はそろって半歩退いてから、炫矢の肩をばしばしと叩いた。
「朴念仁みてーなツラしてるくせに抜け目ねえな」
「ああ、隅に置けんな」
「……だってよ?」
玻璃にまで顔を覗き込まれて、炫矢は赤い顔を手で覆った。
「まだ先のことは、その……」
そうこうしている間に、レースの時間はやってきた。
笛の音に応えて、イルカさんがスタート合図用のクラッカーを空に掲げる。
「さあ皆さん、位置について! よーい……ドン!」
一斉に飛び出すイルカさんたち。
その背には、覚者たちが跨がっている。
中でも激しいスタートダッシュをかけたのは工藤・飛海(CL2001022)と工藤・奏空(CL2000955)の工藤姉弟だった。
「飛来せし海よりいでし者! 工藤飛海ちゃん、見参!」
飛海は焼き肉屋においてある生ビールの広告みたいなポーズをとると、豊満なおっぱい強調した。
とかやってるうちにぐいんとカーブするイルカさん。どっかとんでいくおっぱい。
「ああっ!? ちょっとまってうちの(偽装)おっぱいが!」
「ねーちゃん前! 前!」
船で通るには低すぎる橋が近づいてくる。
早速潜水をしはじめたイルカさんにつられるように、飛海たちは素早く潜っていった。
奏空んとこのイルカさんは潜るのを忘れたせいで、乗ってた奏空が飛海の偽装おっぱいと同じ道をたどることになった。
と見せかけて。
「がぼぼぼぼぼぼぼ! ま、まだまだ!」
尾びれにしがみついて耐える奏空。
「でかした弟! 奏空、今のうちに名乗っときな!」
「え、今!?」
イルカさんのストラップマスコットみたくなった奏空が、なんとか水面から顔を出しながら名乗りを上げた。
「か、奏でるは悠久なる空と書いて工藤奏空! 見ざごぼぼぼぼぼぼぼぼ!」
「奏空アアアアアアアア!」
完全に水没した奏空。その頭上水面を御影・きせき(CL2001110)、鹿ノ島・遥(CL2000227)、姫神 桃(CL2001376)の三人が抜けていった。
「海でいっぱい遊んで、イルカさんフロートにうまく乗れるようになったんだもん。ぜったり振り落とされたりしないよ!」
ああ、あのちょっと性的な感じの。
「だからイルカさんも、自分のペースで泳いでいいからね!」
おでこの辺りをなでつつ、きせきは背びれにしっかりとつかまった。
その左右に並ぶように走る桃と遥。
遥はアイススケートの要領で、桃は思いっきり忍者走りで直に水面を走っている。
「勝負するからには勝ちを目指すのがヒトのサガ! 桃、勝負だ!」
「いいわね、買ったらジュースよ!」
遥の見せた直線加速は凄まじく、きせきは水しぶきに顔を覆った。
「絶対負けねえ! 加速した水上歩行で俺は風になる! そして相手は死ぬ! 小銭用意しとけよ桃!」
「甘いわね!」
遥の横にぴったりとつける桃。
「水上歩行・改……水芭忍軍から盗んだのが誰か教えてあげるわ!」
その節はほんと申し訳なかった!
じゃなくて、桃は遥をわずかにしのぐ加速でもって徐々に間隔距離を開けていく。
負けじと加速に集中する遥。
「速度を上げただけの技なら、対抗できるんだよ」
「またも甘いわね。この技は、こういうことをするためにあるのよ!」
桃はニヤリと笑うと、迫るカーブラインをアウトコースの壁を人間離れしたバランス感覚で駆け上がりながら無理矢理曲がっていく。更に水平スピンをかけて水面着地、再加速。
一方の遥は加速をつけすぎて壁に激突。人型の穴を作った。
「テメー遥コラアアアア!」
「罰ゲームになったらころす!」
「今すぐ一位にならなかったらころす!」
「なにそれ理不尽!」
運河沿いの道から観客(遥に賭けた人たち)がめっちゃヤジを飛ばしてきた。
急いで穴から飛び出し、復帰しようとする遥――をぽいーんと撥ね飛ばして進むイルカさんがいた。
御白 小唄(CL2001173)の乗ったやけに屈強なイルカさんである。
安全ヘルメットをつけた、無駄に眉毛のあるいかにもガテン系のイルカさんはカーブを力業で曲がると、小唄を振り落とさんばかりに加速をかけた。
「まだ乗ってるかい少年!」
「平気です! 暴れ馬ならぬ暴れイルカ、これはこれで楽しいですよ!」
「いいぞ少年! つかまっていろよ!」
小唄に追いつくように、樹香のイルカさん、更に花蔭 ヤヒロ(CL2000316)、楠瀬 ことこ(CL2000498)のイルカさんが順位を上げていく。
大きく蛇行した運河が近づいてくる。こういう場所ではイルカさんの流線型ボディが圧倒的に有利だ。
「優勝はオレがもらう! イルカさんの力を120%発揮する方法を考えてて来たからだ!」
ヤヒロはにやりと笑い、懐からサバを取り出した。生サバである。
どうやってしまってたんだそれ。
「イルカさんの好物はサバやトビウオ! 図鑑に書いてあったから間違いない! これをこうして棒とヒモで……」
昔のロバをひたすら歩かせるヤーツみたいな形にしてイルカの前に吊るす。
と。
「すみません、サバは焼いてから食べたいんですが……」
「えっ」
「おいおいヤヒロ、それはイルカはイルカでも古妖のイルカ。食文化だって違うんだぜ」
どうやってか復帰してきた遥が横に並んで指をチチチッて振った。
明後日の方向をゆびさすヤヒロ。
「ああっ、あんなところにメロンボディが!」
「そんな見え見えの罠にひっかかるわけが……」
といいながらチラッと見ると、輪廻おねーさんが胸元に手で風を入れていた。
「嘘から出た」
「まこと」
うっかり目を奪われた二人はそのまま壁にごっつんした。これ、ヤヒロもごっつんしてる所からしてイルカさんが目を奪われてますよね。
さておき。
先頭を突っ走るのはことこのイルカさんである。
「ラストスパートだよいるかさん! ことこちゃん、いっきまーす!」
翼でわずかにバランスを取りながら、イルカさんをサポートすることこ。
左右へ迫る皐月 奈南(CL2001483)と神野 美咲(CL2001379)。
「皆には負けないんだからぁ! ね、イルカちゃん!」
奈南の金ピカイルカがキリッとした目をした。
なんで金ぴかなのかは知らない。シークレットかなにかかな。
その一方で、美咲のイルカさんはホワイトカラーである。二足歩行でラテアートしてる時点でもう常識なんてあってないようなもんだけど、ほんとになんでもあるなイルカさん。
ちなみに美咲さんは選考理由を『素敵だから』つってた。
「ここまではうまくやってきたようだが、吾輩らが力を合わせれば無敵なのだ! このように……!」
美咲は水面にしっぽを入れるとばしゃばしゃやってカーブでのエネルギーを調整した。
「イルカが全力で泳ぎ、吾輩はしっぽで舵を取る。これぞ人馬一体ならぬ人イルカ一体!」
「後呂悪っ!」
「かてばよかろうなのだぁー!」
最終カーブをまがる三人。
風の抵抗やカーブのエネルギーでわずかに減速した奈南とことこを追い抜く形で、美咲が1メートルほどトップへ飛び出た。
そのまま加速をかける三人。
トップ差がぐいぐいと縮み、最後はわずか30センチの差で美咲の逃げ切り勝利となった。
「やったぞー! イルカー!」
頭に抱きついてわしわしする美咲。
拍手(イルカが手でテーブルとかばしばしするやつ)に包まれる美咲たち。最後はレース参加者がゆっくりと順位を維持したままコースをめぐり、観客たちに手を振るパレードが始まる。
折角参加者も多かったので、出場覚者だけの順位を発表しておこう。
一位から順に――美咲、奈南、ことこ、樹香、小唄、桃、ラーラ、きせき、飛海、ヤヒロ、奏空、遥である。
「と、いうわけで……まさかの当選者ナシ。そしてまさかの……」
菊はきわめて重いため息をついて、目を回した遥を運河からサルベージした。
「一番人気の遥さんが(ある意味一番おいしい)最下位だったので、以下の五名は罰ゲームとなります」
「チクショオオオオオオオオオオ!」
ジャックが怒りに身を任せた。
この前魂使ってブチ切れた時の次くらいのブチ切れかただった。
掲示された名前は五つ。ジャック、炫矢、凜音、数多、輪廻である。
「罰ゲームはいいんですけど、逃げましたと二人ほど」
美久がついっと運河の先を指さすと、凜音がイルカさんをジャックしてすごいスピードで逃走していた。炫矢も玻璃を抱えて猛ダッシュで逃走している。
「あっ、ずるい! そんなのアリかよ!」
とか言いながら自分もそーっと空方向へ逃げるヤマト。
「仕方ないわねん♪ じゃあ約束通り……」
「待ってください! 女性が脱ぐのはやはりいけません! おちついて!」
割とノリノリで脱ぎ始めた輪廻を羽交い締めにする千陽。
「こうなったら酒々井数多第二の爆弾を発動させるしかないようね」
足をわずかに交差した立ち姿。右手を腰に、左手で爆破スイッチを押すようにして顔の位置まで上げるポーズ(例のポーズ)で数多がなんかをスタンバイさせた。
「恋鎖(ホモハートアタック)、はつど――!」
「させるかぁゴリラアアアア!」
ポン刀抜いて飛びかかる刀嗣。
同じく抜刀して割り込みガードをかける満月。
「とめんなテメェ! ホモになりてーのか!」
「俺は姉一筋だ。さておき、貴様とは決着をつけるべきか?」
「満月きゅん……」
瞳を星形にして乙女ポーズをとる数多。
「貴様こらこの腹黒野郎、ぶっ殺す!」
「かまわん、ころせ……」
背後に回ったジャックと懐良が数多をひょいっと担ぎ上げた。
いっせーのせで運河へ投げ込んだ。
●無限樹ホール
「ふう、酷い目にあうところでした……」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は無限樹のそばまで来ると、ふうとため息をついた。
「でも、あんなふうにみんなでイルカレースができる日が来るとは思いませんでした。なんだか感慨深いですね」
「ねー」
髪の中からひょこっと出てくるピクシー。
ラーラはびっくりして身体を引いた。
「ふわりん! 見ていてくれたんですか!?」
「死ぬほどカオスだったから隠れてたけどね。なあに、人間っていつもああなの?」
「否定しきれないですが、個人的には否定したいところです」
やけに複雑なことを言うラーラ。
それはそうと、挨拶がまだ済んでいない。
無限樹へ振り返ると歩き始めた。
高さ5メートルほどの両開き扉の先に広がる、無限樹ホールへ。
「これが無限樹……」
「そうだよ」
ホールの中に生まれた巨大な顔が喋った。
流石に樹木に喋りかけられた経験のない松原・華怜(CL2000441)は、びっくりして軽く引いた。
「おどろいたかい」
「少しばかり……けれど、神秘に触れるというのはこういうことなんですね」
「そんなに不思議なことじゃあないさ。地球には、知らないことが沢山あって然るべきだよ」
微笑む無限樹に、華怜はどこか不思議な気持ちになった。
「そうかも、しれませんね」
やがて音楽が聞こえてくる。
向日葵 御菓子(CL2000429)の演奏だ。
巨大なホールの真ん中で、踊るピクシーと一緒にアイリッシュ音楽を奏でている。
「さあみんな、ついてきてね! コクリコちゃんもいっしょに」
「ヒュー!」
「わたしもっ」
菊坂 結鹿(CL2000432)もステージに飛び込み、ピクシーと一緒に踊り始めた。
スリップジグ、リールにダブルジグ、ホーンパイプ。独特なダンスを踊る結鹿と、その手のひらの上でくるくると踊るピクシー。
巨大な無限樹がそれを微笑ましく見守っている。
イルカレースやカフェタイムを終えた人々もホールへやってきて、ダンスパーティーに加わっていく。
圧倒的すぎるほどのファンタジックな光景に、東雲 梛(CL2001410)はしばらく呆けていた。
彼の様子にくすりと笑って、天野 澄香(CL2000194)は無限樹へと向き直った。
「ヒナポポちゃんも元気そうでしたね。無限樹さんも、お元気でしたか?」
「きみこそ」
軽く挨拶を交わしてから、澄香は梛を紹介した。
「聞いていい? あんたは、どれくらいここにいるの?」
「ずっと昔さ。けれど僕は『記憶』をしないからね。どのくらい昔かは、わからないんだ」
「記憶しないって……」
「生まれ変わるんだ。毎日のように。全ての生命が、そうであったはずだよ」
「……かも、ね」
無限に生きるというのは、無限に生まれるということだ。無限樹はそういった意味で、不老不死の一形態を体現しているのかもしれない。
あらゆる意味で人間とは異なる価値観でできているようだ。
けれど梛にとっては、無限樹の自然なふるまいは心地よいものだった。
「話してくれてありがとう」
「いいよ。楽しんでおいで」
澄香たちがダンスパーティーへと加わっていく。
その中には、麻弓 紡(CL2000623)や賀茂 たまき(CL2000994)も混じっていた。
「ご一曲、よろしいですか?」
お辞儀をする紡に、たまきはくすくすと笑った。
「なんだか、プリンスさんみたいです」
「まねっこだからね」
笑い返す紡。
二人は手を取り合い、ステージへと歩いて行った。
紡はパンツルック、たまきはフリルスカートといった装いだ。
「ダンスは、少し苦手なんですけれど……」
「大丈夫」
紡にリードされるように、たまきはゆったりとしたテンポで踊り始めた。
空気を読んで曲調を変えていく御菓子。
「いくよ?」
紡は急にたまきを持ち上げて、くるくると回り始めた。
「はわわっ、紡さん、目が回ってしまいます……!」
「ふふ、たまきちゃん可愛い」
楽しげに踊る人々。
反響する音楽に、心が弾むようだった。
四条・理央(CL2000070)はそんな人々を眺めながら、満足したように頷いた。
そして、くるりと振り返る。
「無限樹、そろそろ教えてね」
「なにをだい?」
「無限樹、水鏡、火影、天雲……四つの遺跡を巡ってきたけれど、確か遺跡は五つあるって言っていたよね? 五つ目の遺跡にボクらは、足を踏み入れていたの? それとも、まだ入ってすらいないの?」
「そうさ。君ならきっと、そう尋ねると思っていたよ」
無限樹は一度呼吸をおいてから、言った。
「『大地』」
「……それって」
「この広い大地が、最初にして最後の遺跡さ。ピクシーという案内人と、ボクという守護者と、イルカたちという民衆と、キャンドルライトという裁定者によって、きみたちがこの大地を冒険するにふさわしいか……本当の大地を見せるべきか、判断したんだ」
「判断、した? それって、誰かがこのシステムを作ったってことかな」
「ボクはわからない。記録されていないからね。けれど、見せてあげることはできるんだ。『大地の遺跡』……ピクシーマザーのもつ真の力によって生まれた平行次元の全てを冒険する権利が、きみたちには生まれたんだ」
「えっと……」
急に複雑なことを言い出した無限樹に、理央は少しだけまごついた。
「冒険を始めたくなったら、またおいで。妖精の森は、きみたちを歓迎するよ」
白い石造りの屋根の上、天羽・テュール(CL2001432)は聳え立つ無限樹を見上げていた。
「こんな神秘的な場所が日本に隠されていたなんて……」
振り返れば広い海と入り組んだ運河が見え、運河は町へと流れ込んでいく。
煉瓦造りの家々が並び、煙突から白く立ち上る煙がひとつ一つの生活を浮き立たせるかのようだった。
「早速、レストランに行ってみましょうか」
はしごを下りると、そこは広いレストランになっていた。
海と無限樹を見渡せる作りの、落ち着いた印象のインテリア。
なにより、働く人も食べている人も、みんながみんなイルカさんというのが現実味を大きく引き離していた。
「すごーい! イルカさんとこんなにふれあえるなんて!」
東山 千穂(CL2001485)は茄子とミートソースのスパゲッティをフォークでくるくるとやりながら、町並みや店の様子をきょろきょと見回している。
テュールはその隣に座ると、やってきたウェイトレスイルカにお勧めをと注文してみた。
ややって、オムライスが運ばれてくる。
ミートソースのスパゲッティといい、出てくるメニューがひたすらに日本的だった。なんだか古いデパートの屋上にあるパーラーみたいだな……と。
その横でパフェを見つめるシャロン・ステイシー(CL2000736)は思った。
「人の世では味わえない珍妙な料理を……と思ったけど、思ったより普通の料理が出てくるのね。美味しいからいいけど」
町並みはヴェネチアのそれに近く、しかし潮風は感じない。
むしろ空気は森林の穏やかさに似て、風も木の葉をなでる音とともに暖かく優しく吹いている。
「まあいいわ。とにかく次のお店に……!」
ばびゅんと窓から飛び立っていくシャロン。
そんな姿を横目に、背丈の違う男女が運河沿いを歩いていた。
蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)である。
果物をいれた紙袋を抱えたイルカさんや、柵によりかかってギターを弾くイルカさん。
帽子を被ってひなたぼっこをするイルカさんや、煙草を吸ってくつろぐ休憩中のイルカさんなど……見た目こそ異なれど、人とまるで変わらない生活感があふれていた。
「覚者の身体になれちゃうと、海外に行くのがちょっと恐くなっちゃうから……こういう場所が国内にあるのは貴重だよね」
「そう、ですね……」
道ばたに、木製の置物を売る雑貨屋。ガラス越しに立ち止まる燐花。
「月末には、蘇我島さんの誕生日がありましたね」
「そうだったかな。って、燐ちゃんの誕生日ももうすぐじゃなかったかな」
「そうでしたか……忘れていました」
ガラスに映る二人。
「折角だから、今月は一緒に祝おうか」
「はい……」
何気なく歩き出す恭司。服の裾を、燐花につままれていることに気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、すみません」
離した燐花の手。すくい上げるように差し出される、恭司の手。
「ほら、一緒に歩こう」
燐花の指が僅かに震え、やがて手を取った。
二人は歩いて行く。
恭司たちの通り過ぎたカフェテラスには、円形のテーブルを囲む女性たちがいた。
明石 ミュエル(CL2000172)、エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)、クー・ルルーヴ(CL2000403)、十夜 八重(CL2000122)である。
そこへ、トレーに五人分のエスプレッソコーヒーを乗せたイルカさんがやってきた。
「おまたせ、ミュエル。それにお友達の皆も」
カップを四人分置いていく。
守護使役をかたどったようなラテアートがそれぞれ描かれている。
「あら、器用なんですね」
カップを手にとって微笑む八重。ふと顔を上げる。
「今日は、水上レースには出場なさらないんですか?」
「前に優勝しちゃったからね。お休みなんだ」
「一緒に浮き石をとんだり、お花に道を聞いたり……楽しかったね……」
照れるように笑うミュエルを、エメレンツィアはカップに口をつけて見守った。
その横では、小さなカップからコーヒーを飲むピクシーがいた。
ミュエルがヒナちゃんと呼ぶ個体である。
「なんだかファンタジーな組み合わせね。素敵だわ」
「そういえば、ピクシー様にはお名前があるようですけれど、イルカさんにお名前はあるのでしょうか?」
ラテアートから顔を上げるクー。
「イルカさんじゃあないのかい?」
ぱちくりと瞬きするイルカさん。
暫く無言の時間が通り過ぎて、ピクシーはぽんと手を叩いた。
「ボクと一緒で、みんな名前がないんだよ。いらないの。人が呼んだときに、初めて名前がつくんだよ」
「不便はありませんか?」
「呼び合わなくても、同族どうし解り合えるんだ。ボクらからすると、『コトバ』を使わないと心が溶け合わない人間は、不便そうだね」
どうやら、イルカさんという古妖ならではの不思議な文化形態ができあがっているようだ。
「素敵なお友達をもって、羨ましいわ」
「あの、ところで……」
八重がそっと手を上げた。
「イルカさんの肌、触ってみていいですか?」
「どうぞ?」
「よければ、私も……」
クーも一緒になって、イルカさんの肌を指でつついたり撫でたりしてみた。
実際のイルカを撫でたことのある人は少ないと思うが、実在イルカと違ってどこかぷにぷにとした、硬いゼリーのような質感をしていた。
ついでにつぶらな瞳を覗き込んでいると、イルカさんは照れたように顔を覆った。
クスクスと笑いあう八重たち。
「そろそろ、レースの時間かしら」
エメレンツィアがそう言うと、ピクシーはその場からふんわりと飛び上がった。
「そうだった。挨拶しに行かなきゃ。コーヒーありがとうね!」
ピクシーが飛んでいく。
その下で、八重霞 頼蔵(CL2000693)と天堂・フィオナ(CL2001421)が運河を眺めて腰掛けていた。
テーブルにやってきたイルカさんが、ポットからカップへと紅茶を注いでいく。
銀色のラインが入った白いティーカップである。
カップを手にとって頼蔵は感心したように頷いた。
「あの体型でどうやっていれるのかと思ったが、よもや念力で浮かせているとはね……いやはや興味深い場所だ。どう思うかね天堂くん」
「あっち!」
急いで飲もうとしたのか、フィオナが紅茶で舌を焼けどしていた。
「紅茶にしてやられるとは、らしくないね」
「う、うん……なんだか最近落ち着きが無くて……」
しょんぼりとしたフィオナに、頼蔵は表情を変えずに紅茶を口に運んだ。
「ら、頼蔵はいつも落ち着いてるな。コツ、とか……あるのか?」
「ははは、考えたことも無いな。強いて言うなら……取り乱しても無駄だと構えては、いるかな」
「むだ……」
カップをふーふーするフィオナ。
「天堂君には向かないかな」
「そうかもしれない。私って、いつも慌ててて……」
「いいや」
カップを置いて、頼蔵は視線を空に向けた。
「感情を露わにするのはひとつの才能。まっとうな人間は、人間らしさに惹かれるものだ」
「……」
慰められているのだろうか。
フィオナはそんな風に思って、あえて無心にカップに口をつけた。
「あっち!」
●イルカレース
「おお、ぴくしーではないか。わざわざ来てくれるとはの」
なじみのイルカに跨がる檜山 樹香(CL2000141)。その肩の上にピクシーがとまっていた。
「レース中は橋で見させて貰うけど。なんかね、皆『カケ』っていうのをするらしいよ」
「妖精もぎゃんぶるは知らぬか……」
なんだか感慨深そうな顔をする樹香。
「この世界でぴくしーや仲間と冒険できたのは、きっと一生の思い出じゃ。そのひとつ、今日はワシらの息があっているところを見せるとしようではないか。のう」
イルカさんを叩くと、イルカはきゅいきゅいと頼もしそうにないた。
一方、スタートを今か今かと待つ橋の上では。
「いいですか、ゴリサーの馬鹿ども。今から、イルカレースの賭博を行ないます。ルールは単純。一等賞の選手に賭けた人の勝ち。逆に最下位の人に賭けたら罰ゲームだそうです。優勝者は輪廻さんのサービスを受けられますが、罰ゲームは女装するか脱ぐかの二択だそうです……はあ」
こんな説明をなぜさせられる。
中間管理職の悲哀みたいなため息をついて、菊は箱とメモシートを取り出した。
「では開始します。自分の名前と賭ける選手を書いて箱に入れてくださいね」
「じゃあ私は遥君に決めたわよん」
ストンと箱にメモを入れる魂行 輪廻(CL2000534)。
「質問! サービスってなんですか! おっぱい触れるんですか!」
「触らせてあげるから元気だしなさいな」
「っしゃああ! 遥頼む!」
メモを叩き込む切裂 ジャック(CL2001403)。
同じ名前を書いて、酒々井 数多(CL2000149)がメモを滑り込ませた。
「おい! 遥君、負けたら承知しないわよ! 乙女の柔肌みられたら、にーさまのお嫁にいけなくなるもん!」
「俺は賭博とは聞いていませんが……」
「ジャーック!」
「はい」
「前と後ろにゴリサーをつけなさい! 今から私は上官よ! 反抗したらころす!」
「ゴリサー、イエスゴリサー!」
きをつけの姿勢で叫ぶ千陽。
なんか最近殺伐としてるから、気分を変えたかったのだろうか。わりかし従順な彼である。
そこへ、ふんどし一丁で現われる坂上 懐良(CL2000523)。
「さながら背水の陣。わかるか? 博打ってのは、大きく張らなきゃおもしろくねえ。ハンパはなしだ。オレがやる以上、ガキのママゴトですます気はねえんだ」
「もうハンパの意味がわかんないけどな、その格好じゃあ」
そっと小唄にベットする黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「小さい子って応援したくなるんだよな。身長がこう、親近感わく!」
「身長はともかく、僕も御白さんには親近感がわいているんですよ。賭けさせてもらいますね」
同じ名前を書いてメモを箱に入れる片桐・美久(CL2001026)。
「賭け事は大人の嗜みって聞いたことがあります。これで、僕も大人の仲間入りですかね」
「おいおい、やけに大人数だな。まあ皆で騒ぐのも悪くは無いけどよ」
香月 凜音(CL2000495)は遥の名前をメモに書いて箱へ。
「元気そうな奴に賭けるとするか。元気すぎてポカしねーか心配ではあるが……」
「ヒト、多いね」
「ああ……」
誘われてやってきた赤鈴 炫矢(CL2000267)と雛見 玻璃(CL2000865)が歩いてきた。
炫矢は仲間たちに挨拶して回っていたようだが。
「よう」
「赤鈴か、誰に賭けた?」
諏訪 刀嗣(CL2000002)と一色・満月(CL2000044)が挨拶がてらに声をかけてきた。
二人の視線が玻璃へ無垢。
「その上物のジョーちゃんはお前のコレかよ」
「き、君そんな言い方! 彼女にしし失礼だろ!」
小指を立てる刀嗣に、炫矢は慌てていた。
片眉をあげる玻璃。
「カノジョの雛見です。ヨロシク」
満月と刀嗣はそろって半歩退いてから、炫矢の肩をばしばしと叩いた。
「朴念仁みてーなツラしてるくせに抜け目ねえな」
「ああ、隅に置けんな」
「……だってよ?」
玻璃にまで顔を覗き込まれて、炫矢は赤い顔を手で覆った。
「まだ先のことは、その……」
そうこうしている間に、レースの時間はやってきた。
笛の音に応えて、イルカさんがスタート合図用のクラッカーを空に掲げる。
「さあ皆さん、位置について! よーい……ドン!」
一斉に飛び出すイルカさんたち。
その背には、覚者たちが跨がっている。
中でも激しいスタートダッシュをかけたのは工藤・飛海(CL2001022)と工藤・奏空(CL2000955)の工藤姉弟だった。
「飛来せし海よりいでし者! 工藤飛海ちゃん、見参!」
飛海は焼き肉屋においてある生ビールの広告みたいなポーズをとると、豊満なおっぱい強調した。
とかやってるうちにぐいんとカーブするイルカさん。どっかとんでいくおっぱい。
「ああっ!? ちょっとまってうちの(偽装)おっぱいが!」
「ねーちゃん前! 前!」
船で通るには低すぎる橋が近づいてくる。
早速潜水をしはじめたイルカさんにつられるように、飛海たちは素早く潜っていった。
奏空んとこのイルカさんは潜るのを忘れたせいで、乗ってた奏空が飛海の偽装おっぱいと同じ道をたどることになった。
と見せかけて。
「がぼぼぼぼぼぼぼ! ま、まだまだ!」
尾びれにしがみついて耐える奏空。
「でかした弟! 奏空、今のうちに名乗っときな!」
「え、今!?」
イルカさんのストラップマスコットみたくなった奏空が、なんとか水面から顔を出しながら名乗りを上げた。
「か、奏でるは悠久なる空と書いて工藤奏空! 見ざごぼぼぼぼぼぼぼぼ!」
「奏空アアアアアアアア!」
完全に水没した奏空。その頭上水面を御影・きせき(CL2001110)、鹿ノ島・遥(CL2000227)、姫神 桃(CL2001376)の三人が抜けていった。
「海でいっぱい遊んで、イルカさんフロートにうまく乗れるようになったんだもん。ぜったり振り落とされたりしないよ!」
ああ、あのちょっと性的な感じの。
「だからイルカさんも、自分のペースで泳いでいいからね!」
おでこの辺りをなでつつ、きせきは背びれにしっかりとつかまった。
その左右に並ぶように走る桃と遥。
遥はアイススケートの要領で、桃は思いっきり忍者走りで直に水面を走っている。
「勝負するからには勝ちを目指すのがヒトのサガ! 桃、勝負だ!」
「いいわね、買ったらジュースよ!」
遥の見せた直線加速は凄まじく、きせきは水しぶきに顔を覆った。
「絶対負けねえ! 加速した水上歩行で俺は風になる! そして相手は死ぬ! 小銭用意しとけよ桃!」
「甘いわね!」
遥の横にぴったりとつける桃。
「水上歩行・改……水芭忍軍から盗んだのが誰か教えてあげるわ!」
その節はほんと申し訳なかった!
じゃなくて、桃は遥をわずかにしのぐ加速でもって徐々に間隔距離を開けていく。
負けじと加速に集中する遥。
「速度を上げただけの技なら、対抗できるんだよ」
「またも甘いわね。この技は、こういうことをするためにあるのよ!」
桃はニヤリと笑うと、迫るカーブラインをアウトコースの壁を人間離れしたバランス感覚で駆け上がりながら無理矢理曲がっていく。更に水平スピンをかけて水面着地、再加速。
一方の遥は加速をつけすぎて壁に激突。人型の穴を作った。
「テメー遥コラアアアア!」
「罰ゲームになったらころす!」
「今すぐ一位にならなかったらころす!」
「なにそれ理不尽!」
運河沿いの道から観客(遥に賭けた人たち)がめっちゃヤジを飛ばしてきた。
急いで穴から飛び出し、復帰しようとする遥――をぽいーんと撥ね飛ばして進むイルカさんがいた。
御白 小唄(CL2001173)の乗ったやけに屈強なイルカさんである。
安全ヘルメットをつけた、無駄に眉毛のあるいかにもガテン系のイルカさんはカーブを力業で曲がると、小唄を振り落とさんばかりに加速をかけた。
「まだ乗ってるかい少年!」
「平気です! 暴れ馬ならぬ暴れイルカ、これはこれで楽しいですよ!」
「いいぞ少年! つかまっていろよ!」
小唄に追いつくように、樹香のイルカさん、更に花蔭 ヤヒロ(CL2000316)、楠瀬 ことこ(CL2000498)のイルカさんが順位を上げていく。
大きく蛇行した運河が近づいてくる。こういう場所ではイルカさんの流線型ボディが圧倒的に有利だ。
「優勝はオレがもらう! イルカさんの力を120%発揮する方法を考えてて来たからだ!」
ヤヒロはにやりと笑い、懐からサバを取り出した。生サバである。
どうやってしまってたんだそれ。
「イルカさんの好物はサバやトビウオ! 図鑑に書いてあったから間違いない! これをこうして棒とヒモで……」
昔のロバをひたすら歩かせるヤーツみたいな形にしてイルカの前に吊るす。
と。
「すみません、サバは焼いてから食べたいんですが……」
「えっ」
「おいおいヤヒロ、それはイルカはイルカでも古妖のイルカ。食文化だって違うんだぜ」
どうやってか復帰してきた遥が横に並んで指をチチチッて振った。
明後日の方向をゆびさすヤヒロ。
「ああっ、あんなところにメロンボディが!」
「そんな見え見えの罠にひっかかるわけが……」
といいながらチラッと見ると、輪廻おねーさんが胸元に手で風を入れていた。
「嘘から出た」
「まこと」
うっかり目を奪われた二人はそのまま壁にごっつんした。これ、ヤヒロもごっつんしてる所からしてイルカさんが目を奪われてますよね。
さておき。
先頭を突っ走るのはことこのイルカさんである。
「ラストスパートだよいるかさん! ことこちゃん、いっきまーす!」
翼でわずかにバランスを取りながら、イルカさんをサポートすることこ。
左右へ迫る皐月 奈南(CL2001483)と神野 美咲(CL2001379)。
「皆には負けないんだからぁ! ね、イルカちゃん!」
奈南の金ピカイルカがキリッとした目をした。
なんで金ぴかなのかは知らない。シークレットかなにかかな。
その一方で、美咲のイルカさんはホワイトカラーである。二足歩行でラテアートしてる時点でもう常識なんてあってないようなもんだけど、ほんとになんでもあるなイルカさん。
ちなみに美咲さんは選考理由を『素敵だから』つってた。
「ここまではうまくやってきたようだが、吾輩らが力を合わせれば無敵なのだ! このように……!」
美咲は水面にしっぽを入れるとばしゃばしゃやってカーブでのエネルギーを調整した。
「イルカが全力で泳ぎ、吾輩はしっぽで舵を取る。これぞ人馬一体ならぬ人イルカ一体!」
「後呂悪っ!」
「かてばよかろうなのだぁー!」
最終カーブをまがる三人。
風の抵抗やカーブのエネルギーでわずかに減速した奈南とことこを追い抜く形で、美咲が1メートルほどトップへ飛び出た。
そのまま加速をかける三人。
トップ差がぐいぐいと縮み、最後はわずか30センチの差で美咲の逃げ切り勝利となった。
「やったぞー! イルカー!」
頭に抱きついてわしわしする美咲。
拍手(イルカが手でテーブルとかばしばしするやつ)に包まれる美咲たち。最後はレース参加者がゆっくりと順位を維持したままコースをめぐり、観客たちに手を振るパレードが始まる。
折角参加者も多かったので、出場覚者だけの順位を発表しておこう。
一位から順に――美咲、奈南、ことこ、樹香、小唄、桃、ラーラ、きせき、飛海、ヤヒロ、奏空、遥である。
「と、いうわけで……まさかの当選者ナシ。そしてまさかの……」
菊はきわめて重いため息をついて、目を回した遥を運河からサルベージした。
「一番人気の遥さんが(ある意味一番おいしい)最下位だったので、以下の五名は罰ゲームとなります」
「チクショオオオオオオオオオオ!」
ジャックが怒りに身を任せた。
この前魂使ってブチ切れた時の次くらいのブチ切れかただった。
掲示された名前は五つ。ジャック、炫矢、凜音、数多、輪廻である。
「罰ゲームはいいんですけど、逃げましたと二人ほど」
美久がついっと運河の先を指さすと、凜音がイルカさんをジャックしてすごいスピードで逃走していた。炫矢も玻璃を抱えて猛ダッシュで逃走している。
「あっ、ずるい! そんなのアリかよ!」
とか言いながら自分もそーっと空方向へ逃げるヤマト。
「仕方ないわねん♪ じゃあ約束通り……」
「待ってください! 女性が脱ぐのはやはりいけません! おちついて!」
割とノリノリで脱ぎ始めた輪廻を羽交い締めにする千陽。
「こうなったら酒々井数多第二の爆弾を発動させるしかないようね」
足をわずかに交差した立ち姿。右手を腰に、左手で爆破スイッチを押すようにして顔の位置まで上げるポーズ(例のポーズ)で数多がなんかをスタンバイさせた。
「恋鎖(ホモハートアタック)、はつど――!」
「させるかぁゴリラアアアア!」
ポン刀抜いて飛びかかる刀嗣。
同じく抜刀して割り込みガードをかける満月。
「とめんなテメェ! ホモになりてーのか!」
「俺は姉一筋だ。さておき、貴様とは決着をつけるべきか?」
「満月きゅん……」
瞳を星形にして乙女ポーズをとる数多。
「貴様こらこの腹黒野郎、ぶっ殺す!」
「かまわん、ころせ……」
背後に回ったジャックと懐良が数多をひょいっと担ぎ上げた。
いっせーのせで運河へ投げ込んだ。
●無限樹ホール
「ふう、酷い目にあうところでした……」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は無限樹のそばまで来ると、ふうとため息をついた。
「でも、あんなふうにみんなでイルカレースができる日が来るとは思いませんでした。なんだか感慨深いですね」
「ねー」
髪の中からひょこっと出てくるピクシー。
ラーラはびっくりして身体を引いた。
「ふわりん! 見ていてくれたんですか!?」
「死ぬほどカオスだったから隠れてたけどね。なあに、人間っていつもああなの?」
「否定しきれないですが、個人的には否定したいところです」
やけに複雑なことを言うラーラ。
それはそうと、挨拶がまだ済んでいない。
無限樹へ振り返ると歩き始めた。
高さ5メートルほどの両開き扉の先に広がる、無限樹ホールへ。
「これが無限樹……」
「そうだよ」
ホールの中に生まれた巨大な顔が喋った。
流石に樹木に喋りかけられた経験のない松原・華怜(CL2000441)は、びっくりして軽く引いた。
「おどろいたかい」
「少しばかり……けれど、神秘に触れるというのはこういうことなんですね」
「そんなに不思議なことじゃあないさ。地球には、知らないことが沢山あって然るべきだよ」
微笑む無限樹に、華怜はどこか不思議な気持ちになった。
「そうかも、しれませんね」
やがて音楽が聞こえてくる。
向日葵 御菓子(CL2000429)の演奏だ。
巨大なホールの真ん中で、踊るピクシーと一緒にアイリッシュ音楽を奏でている。
「さあみんな、ついてきてね! コクリコちゃんもいっしょに」
「ヒュー!」
「わたしもっ」
菊坂 結鹿(CL2000432)もステージに飛び込み、ピクシーと一緒に踊り始めた。
スリップジグ、リールにダブルジグ、ホーンパイプ。独特なダンスを踊る結鹿と、その手のひらの上でくるくると踊るピクシー。
巨大な無限樹がそれを微笑ましく見守っている。
イルカレースやカフェタイムを終えた人々もホールへやってきて、ダンスパーティーに加わっていく。
圧倒的すぎるほどのファンタジックな光景に、東雲 梛(CL2001410)はしばらく呆けていた。
彼の様子にくすりと笑って、天野 澄香(CL2000194)は無限樹へと向き直った。
「ヒナポポちゃんも元気そうでしたね。無限樹さんも、お元気でしたか?」
「きみこそ」
軽く挨拶を交わしてから、澄香は梛を紹介した。
「聞いていい? あんたは、どれくらいここにいるの?」
「ずっと昔さ。けれど僕は『記憶』をしないからね。どのくらい昔かは、わからないんだ」
「記憶しないって……」
「生まれ変わるんだ。毎日のように。全ての生命が、そうであったはずだよ」
「……かも、ね」
無限に生きるというのは、無限に生まれるということだ。無限樹はそういった意味で、不老不死の一形態を体現しているのかもしれない。
あらゆる意味で人間とは異なる価値観でできているようだ。
けれど梛にとっては、無限樹の自然なふるまいは心地よいものだった。
「話してくれてありがとう」
「いいよ。楽しんでおいで」
澄香たちがダンスパーティーへと加わっていく。
その中には、麻弓 紡(CL2000623)や賀茂 たまき(CL2000994)も混じっていた。
「ご一曲、よろしいですか?」
お辞儀をする紡に、たまきはくすくすと笑った。
「なんだか、プリンスさんみたいです」
「まねっこだからね」
笑い返す紡。
二人は手を取り合い、ステージへと歩いて行った。
紡はパンツルック、たまきはフリルスカートといった装いだ。
「ダンスは、少し苦手なんですけれど……」
「大丈夫」
紡にリードされるように、たまきはゆったりとしたテンポで踊り始めた。
空気を読んで曲調を変えていく御菓子。
「いくよ?」
紡は急にたまきを持ち上げて、くるくると回り始めた。
「はわわっ、紡さん、目が回ってしまいます……!」
「ふふ、たまきちゃん可愛い」
楽しげに踊る人々。
反響する音楽に、心が弾むようだった。
四条・理央(CL2000070)はそんな人々を眺めながら、満足したように頷いた。
そして、くるりと振り返る。
「無限樹、そろそろ教えてね」
「なにをだい?」
「無限樹、水鏡、火影、天雲……四つの遺跡を巡ってきたけれど、確か遺跡は五つあるって言っていたよね? 五つ目の遺跡にボクらは、足を踏み入れていたの? それとも、まだ入ってすらいないの?」
「そうさ。君ならきっと、そう尋ねると思っていたよ」
無限樹は一度呼吸をおいてから、言った。
「『大地』」
「……それって」
「この広い大地が、最初にして最後の遺跡さ。ピクシーという案内人と、ボクという守護者と、イルカたちという民衆と、キャンドルライトという裁定者によって、きみたちがこの大地を冒険するにふさわしいか……本当の大地を見せるべきか、判断したんだ」
「判断、した? それって、誰かがこのシステムを作ったってことかな」
「ボクはわからない。記録されていないからね。けれど、見せてあげることはできるんだ。『大地の遺跡』……ピクシーマザーのもつ真の力によって生まれた平行次元の全てを冒険する権利が、きみたちには生まれたんだ」
「えっと……」
急に複雑なことを言い出した無限樹に、理央は少しだけまごついた。
「冒険を始めたくなったら、またおいで。妖精の森は、きみたちを歓迎するよ」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
