≪神器争奪戦≫破壊された教会で
●新人類教会
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかし『F.i.V.E.』の手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで打たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
協会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●『神器』の回収
「新人類教会に動きがあったようじゃの」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118) は、会議室に集まった覚者達へとそう話を切り出した。
簡単に資料を眺めるように依頼したけいは、重要な部分だけを口頭で語る。
「『穏健派』のリーダー、かつ教会の巫女である『村瀬 幸来(むらせ ゆきこ)』が情報を集めたメモリーカードを入手したのじゃが、それに『神器』なるものの存在があったのじゃ」
今回、その神器を確保する大掛かりな作戦が決行されることになるのだが……。
そこで、けいは1人の女性を紹介する。黒のロングコートを羽織り、髪に『人』と書かれた金細工を付けている女性だ。
「藤見・千鶴だ。よろしく……頼む」
彼女は新人類教会奈良支部の元支部長であり、『過激派』の一隊において隊長として活動していたが、どうやら彼女は洗脳されていたらしい。
教化作戦において、覚者に捕縛された彼女。あれから4~5ヶ月経ち、施された洗脳の効果が薄れていた彼女は自らの意思で口を開く。
「『神器』というものに心当たりがある」
藤見が言うには、教会の地上部裏手側からのみ入ることができる隠し部屋があり、そこは厳重に施錠、封印された物があるのだという。
「一度だけ見たことがある。確か黒瑪瑙に包まれたような……。うっ」
目眩がしたのか、よろける藤見に代わってけいが話を続けた。
「教化作戦以後、奈良支部は打ち捨てられた状態になっているのじゃ」
一時、この場所について調べていた『F.i.V.E.』であったが、重要な場所でないと判断されたこともあってこの教会の調査は打ち切られた。だが、放置したことで、今回の事態を招くきっかけともなっている。
教会側も教化作戦で支部を奪われた後、『神器』の奪取をと動いていたが、潰された支部には『F.i.V.E.』の関係者がしばらく詰めていた。
その後、教会側が『F.i.V.E.』の撤収のタイミングを見計らっていたうち、今度は妖に教会を乗っ取られてしまった。どうやら、『神器』に施された封印が弱まり、妖を誘き出してしまったようだ。
「教会には妖が住み着いておる。さらに、教会側も『神器』を奪取の為に支部の奪還に乗り出したようじゃの」
『神器』の正体を探る為にも、『F.i.V.E.』に持ち帰って欲しいとけいは語る。
現場となる教会はやや市街地から離れた、林の中だ。
教会の内外には現在、妖と化した羊3体が徘徊している。おかげであちらこちらの壁に穴が開き、かなり建物が傷んでいるようだ。
また、教会戦闘員は15人が教会周辺の林に身を潜めている。『F.i.V.E.』が介入すれば、彼らも教会へと突入してくることだろう。指揮者はいるが、いずれも非覚者であり、ハンドガンや機関銃で武装している。
「妖にも、教会にも、『神器』を渡すわけにはいかぬのじゃ」
「……私からも頼む。これ以上、教会の横暴を許してはならない……」
けいに続き、藤見も覚者へと願う。メンバー達は彼らに思い思いの言葉を投げかけ、現地へと赴いていくのだった。
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかし『F.i.V.E.』の手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで打たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
協会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●『神器』の回収
「新人類教会に動きがあったようじゃの」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118) は、会議室に集まった覚者達へとそう話を切り出した。
簡単に資料を眺めるように依頼したけいは、重要な部分だけを口頭で語る。
「『穏健派』のリーダー、かつ教会の巫女である『村瀬 幸来(むらせ ゆきこ)』が情報を集めたメモリーカードを入手したのじゃが、それに『神器』なるものの存在があったのじゃ」
今回、その神器を確保する大掛かりな作戦が決行されることになるのだが……。
そこで、けいは1人の女性を紹介する。黒のロングコートを羽織り、髪に『人』と書かれた金細工を付けている女性だ。
「藤見・千鶴だ。よろしく……頼む」
彼女は新人類教会奈良支部の元支部長であり、『過激派』の一隊において隊長として活動していたが、どうやら彼女は洗脳されていたらしい。
教化作戦において、覚者に捕縛された彼女。あれから4~5ヶ月経ち、施された洗脳の効果が薄れていた彼女は自らの意思で口を開く。
「『神器』というものに心当たりがある」
藤見が言うには、教会の地上部裏手側からのみ入ることができる隠し部屋があり、そこは厳重に施錠、封印された物があるのだという。
「一度だけ見たことがある。確か黒瑪瑙に包まれたような……。うっ」
目眩がしたのか、よろける藤見に代わってけいが話を続けた。
「教化作戦以後、奈良支部は打ち捨てられた状態になっているのじゃ」
一時、この場所について調べていた『F.i.V.E.』であったが、重要な場所でないと判断されたこともあってこの教会の調査は打ち切られた。だが、放置したことで、今回の事態を招くきっかけともなっている。
教会側も教化作戦で支部を奪われた後、『神器』の奪取をと動いていたが、潰された支部には『F.i.V.E.』の関係者がしばらく詰めていた。
その後、教会側が『F.i.V.E.』の撤収のタイミングを見計らっていたうち、今度は妖に教会を乗っ取られてしまった。どうやら、『神器』に施された封印が弱まり、妖を誘き出してしまったようだ。
「教会には妖が住み着いておる。さらに、教会側も『神器』を奪取の為に支部の奪還に乗り出したようじゃの」
『神器』の正体を探る為にも、『F.i.V.E.』に持ち帰って欲しいとけいは語る。
現場となる教会はやや市街地から離れた、林の中だ。
教会の内外には現在、妖と化した羊3体が徘徊している。おかげであちらこちらの壁に穴が開き、かなり建物が傷んでいるようだ。
また、教会戦闘員は15人が教会周辺の林に身を潜めている。『F.i.V.E.』が介入すれば、彼らも教会へと突入してくることだろう。指揮者はいるが、いずれも非覚者であり、ハンドガンや機関銃で武装している。
「妖にも、教会にも、『神器』を渡すわけにはいかぬのじゃ」
「……私からも頼む。これ以上、教会の横暴を許してはならない……」
けいに続き、藤見も覚者へと願う。メンバー達は彼らに思い思いの言葉を投げかけ、現地へと赴いていくのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『神器』の回収
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
神器争奪戦のシナリオをお送りします。
放棄された状態の教会に残された
『神器』の回収を願います。
●敵
○教会戦闘員……15名。
中年男性が隊長として指揮する小隊で、いずれも非覚者です。
黒のジャケットにズボン、防弾チョッキを着た男達で、
ハンドガン、機関銃で武装しております。
○妖……ランク2、3体。
生物系、羊の妖。全長は2メートルほどとやや大きめです。
飼われていた羊が群れからはぐれてしまい、妖となった固体のようです。
元々、羊は視野が広い上に聴力も良いので、
下手に接近すれば、すぐに気づかれてしまうでしょう。
・突撃……:物近単[貫2・100・50]
大きな角を振りかざして突進してきます。
・羊毛……:特遠敵全・負荷
身体の羊毛を飛ばし、相手の身体へと絡みつかせてきます。
・羊の群れ……物全・弱体
一時的にどこからか羊の群れを呼び出して攻撃させます。
群れはすぐに、この場から去っていきます。
妖も、教会戦闘員も、
『神器』を狙っておりますが、
両者が協力することはありません。
●状況
場所は林の中に建てられた教会です。
民家などからは距離がありますので、
戦いによる被害などは考慮しなくても問題ありません。
教会はそれほど大きいものではなく、
少し大きめの民家程度の規模です。
地下室も存在しますが、今回は立ち入る必要はないでしょう。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年10月14日
2016年10月14日
■メイン参加者 8人■

●新人類教会に対して
『F.i.V.E.』の覚者が目指すのは、新人類教会奈良支部……だった場所。
現在は人がいなくなり、この場所に放置された神器に引き寄せられた羊の妖が屯しているという。
「前にお邪魔した支部に、もう一度来る機会があるなんてね」
教化作戦時、エルフィリア・ハイランド(CL2000613)はこの場所を訪れ、新人類教会過激派の鎮圧に参加していた。
「新人類教会……って、なんだっけ」
竜の尻尾が目を引く『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)は、その作戦に参加していた『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)へと尋ねる。
「あぁ、奴らの事か……。まぁ、目的地に着くまで、簡単にで良ければ話そう」
彼は簡単に、その団体に対してを説明する。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
そんな理念の元、布教活動する新人類教会の『過激派』。武装を強化し、『洗脳』によって勢力を拡大する派閥。作戦に参加した覚者達によって、この教会の制圧に成功したのだが……。
「……憤怒者並に鬱陶しい奴らだ」
「いやー、つまらない相手の事とか、忘れません?」
両慈の説明に、悠乃はやや面倒そうにそっけなく告げた。直感で楽しくなさそうと思ったらしい。
「ただ、そういう人たちに洗脳用具を持たれても、もっとつまらないしね。回収、頑張ってみましょーか」
「悠乃、お前はそんな事を気にせず、ただ目の前の敵を倒せば良い」
両慈は真顔で悠乃へと告げる。
「だが、後ろには俺が居る。お前の背は俺が必ず守る」
悠乃はそれを聞いて、頬を赤らめていた。
そんな2人をやや面白くなさそうに見つめていたのは、『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)である。
愛しの両慈と一緒の依頼。しかしながら、いちゃラブな悠乃に嫉妬中の彼女はじたばたしていた。
「ウー……、華神さんの事は好きデスガー! それでも、乙女の恋心は上手く割り切れないのデース!!」
直情的なこともあって、いっそすがすがしく思えるから不思議である。
「あーらあら。後輩君に呼ばれて手助けに来てみれば……、中々面白い修羅場になってるわねぇ♪」
両慈に誘われて参加の『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)。新人類過激派が霞みそうだと彼女は茶化す。
「3人とも、その勢いで頑張って敵を引き付けてねん♪ でも、無理は駄目よん?」
その輪廻はエルフィリアと神器回収の為、別班として行動予定だ。その間、他6人が妖、そして、突入を企てるべく林に潜むはずの教会戦闘員を誘い出す作戦である。
「神器回収したら、ナニカが解明されるかも? 面白い事象の起こるきっかけになるなら、成功させないわけにいかないねぇ」
そう語るのは、背中に灰色の小さな翼を生やした『お察しエンジェル』シャロン・ステイシー(CL2000736) だ。一見中学生にも見える美魔女な彼女は、ほんの軽い気持ちで依頼に参加している。
「……目的と手段の乖離を感じますね」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)は新人類教会の活動に対して、真剣に疑問を抱く。ちなみに、彼女はこう見えてクリスチャンらしい。
「組織の理念は色々あるでしょうし、カルト教団でしたら過激な行いに走ることもよくある話でしょうから、別にいいのですが」
「新だとか真だとかを頭に付けたようなのを創り出す連中は、現状を肯定できる要素の無い負け犬だけなのですよ」
有為の話を聞いたのは、車椅子で移動する『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732) 。彼女はなんとも辛辣なコメントをする。
「まあ、私の考える事でも無いので、程々にしておきますか」
教会が見えてきたこともあり、有為は考えを語るのを止める。
「それじゃ、お仕事頑張りましょ」
肩口から空色の小さな翼を生やすエルフィリアが、仲間へと声をかける。視界に入る教会に放置された神器を回収すべく、覚者達は作戦を開始するのだった。
●始まる乱戦
教会内にはすでに、妖と化した羊がうろうろしている。おそらく、教会戦闘員も森に潜んでいるだろう。
ならばと、有為は自身の細胞を活性化させて速度を大幅にアップさせた。そして、屋外に姿を現した羊目掛け、覚醒したことで変異した両脚で駆け出す。ハイバランサーを使って林を走る彼女は一度羊を蹴り、その場から離脱する。
「ンンメエエエエエッ!!」
荒ぶる羊。それに呼応して建物内にいた羊も叫び、外へと飛び出す。
「ふふふ……、場を引っ掻き回すのは大得意なのですよ!」
覚醒して十歳の姿となり、両脚で地面に立つ槐。彼女は予め、仲間に治癒力を高める香りを振り撒いてから、岩を鎧のように纏って姿を現す。その上で、槐は波動弾を飛ばして羊に牽制の一撃を与える。
シャロンも羊の前に姿を晒していた。彼女は羊が3体いることを確認し、スリングショットで落ちている石を飛ばし、羊の気を引く。
「……おっと」
次の石を構える間に羊が迫ってきた為、シャロンはその場から身を引いた。
そうして、槐、シャロンはそれぞれ、林の中へと別方向に逃げ出した。
「侵入者だ、捕らえろ!」
さらに林の中から、教会の左右と奥に散開していた教会戦闘員が姿を現した。数人ずつがそれぞれ、槐と羊、シャロンと別の羊を追い、林の中へと移動していく。
この場に残る戦闘員に対しては、悠乃が近づく。彼女は大音量で携帯プレイヤーの音楽を最大音量にして外部スピーカーで響かせる。
「はろはろー、兵隊さん方、『F.i.V.E.』でーす。どうせ命がけなら、派手にヨロシク!」
そうして、戦闘員達は現れた彼女の排除の為に、ハンドガンや機関銃を発砲する。
「一つ段階を上げた私のパフォーマンス、魅せてあげましょう! 死なない程度に!」
彼女は腕にはめた新武装、『幻想発現・人中驪竜』から黒い炎を発する。
「安心してクダサイ! 愛しの両慈を始めに、皆さんは私が守ってミセマスネ!」
やや遅れたが、リーネもまた教会の前へと飛び出す。
「サァサァ! 妖に新人類のチョット頭オカシイ人達! 私達が相手デスヨ!」
両腕にラージシールドを構え、リーネは楽しそうに周囲へと叫んだ。
そんな仲間達を、両慈は後ろから紫色の瞳で眺めている。
出来る限り、こちらはこの場を目立たせ、妖と教会連中の目を引くことが目的。髪を銀色に染めた両慈は暴れるメンバーを支える為、回復をと考えている。
別働隊が神器を回収し、連絡があるまで維持するのが自分達の役目だ。
「……だが、別動隊の時間が掛かる様なら……、別に倒してしまっても構わないのだろう?」
彼は鋭い目つきで、手にした書物を広げた。
三つ巴の乱戦が始まったのを確認し、エルフィリアと輪廻が動き出す。
(匂いは判断できそうだけれど、これだけ乱戦になってはね……)
エルフィリアは守護使役の力を借りて仲間と羊、戦闘員に匂いをかぎ分けるが、乱戦になっている状況では判別も難しい。
同じく回収班として行動する輪廻。刺青を紫色に輝かせた彼女はしのびあしで歩き、迷彩で姿を消しつつ移動する。
「さーて、行くわよん♪」
2人は手薄になった教会裏手目指して、慎重に移動していく……。
●三つ巴の戦い
槐は1体の羊の妖と3人の教会戦闘員を引き付ける形となる。
(思ったようにはいかないのです)
予想とは違ったなと考える槐。戦闘員を惑わす想定だったが、散開していた戦闘員をあっさり突破してしまい、両者に追われてしまうとは。
彼女はできる限り、木を遮蔽に使いつつ逃げていく。これは、戦闘員の銃弾を警戒してである。
できるならば、羊と戦闘員をぶつけたいところ。さすがに彼女1人で両者と交戦すれば、妖が圧勝するのは目に見えている。その為、両者を争わせるようにと移動していく。
(……スリングを羊全員に当てられなかったからね)
同じく、シャロンは別の羊と2人の戦闘員を引き連れる。彼女は林の茂みを使ったり、空を飛んで銃弾を躱したりしていた。
戦闘員達も統率はしっかり取れていたのだろう。教会前に残る隊長の指示で、下手に妖へと手を出すことなく彼女を追ってきていた。
この為、シャロンは大きくカーブし、教会前に戻ることにする。うまく戦闘員と妖がぶつかることを期待しつつ。
教会前はまさに三つ巴の戦いとなっている。
大音量を響かせる悠乃は仲間の前に出て、地面から黒い炎を巻き起こす。
「私が突出して目立つ分には、皆やりやすいでしょ?」
その悠乃に襲い来る羊は突撃してくる。大きな角での一撃は、彼女と、後衛の両慈にも衝撃が及ぶ。
「この手の敵は気に入らない上に、数の敵は俺の得意分野でな……。悪いが、加減は出来んぞ」
両慈は目の前の敵全てに、光の粒を降り注がせる。暴れる羊。そして、この状況に戦闘員達もやや混乱してしまうが。
「羊だ、先に羊を狙え!」
隊長から飛ぶ指示によって、隊員が銃弾を羊へと撃ち込み始める。これは覚者達の想定通りだ。
「さて、妖と覚者と銃火器による範囲攻撃、先に音を上げるのは、どちらだろうな……!」
そうして、彼は再度、術式を唱え始めた。
その間にも、教会前は乱戦となってしまう。
有為は林の木々を利用し、戦闘員の銃弾を避ける。その上で、彼女は羊目掛けて熱圧縮した空気を叩き込み、大きく吹き飛ばす。
(判断を遅らせる為に、指揮官は早めに戦闘不能にしておきたいですが)
彼女はこの場にいる隊長を見定める。こいつの指揮のお陰で、やや作戦が上手くいかなかった部分もあるのだ。
「さぁさぁ、私を倒せる人はイマスカー!」
仲間の思慮など、どこ吹く風。自身を強化したリーネはずかずかと遠慮なく敵陣へと突っ込む。彼女が優先的に戦うのは、戦闘員だ。
そんな中、林から戻ってきた槐、シャロンが羊をこの場の戦闘員にぶつけることとなる。
一足早く戻ってきた槐は、すかさず妖と戦闘員に纏めて的を混乱の渦に落とし込んでいく。耐性の高い妖は抵抗して見せたが、非覚者である戦闘員達には効果覿面。彼らは目を回して同士討ちを始めてしまう。
シャロンは乱戦を長引かせるべく、敵全体へと絡みつく霧を発した。羊達もこれには抵抗できず、霧を振り払おうと身を震わせていたようだ。
「思いっきり、イキマース!」
隊列の乱れる戦闘員へ、リーネは波動弾を飛ばす。狙ったのは偶々敵の隊長。そいつが卒倒したことで、我に戻った隊員達はさらに戸惑い始めたのだった。
●乱戦も徐々に……
エルフィリア、輪廻の2人は、羊の妖と教会戦闘員に気づかれることなく教会の裏手に回っていた。
輪廻が見張りを行う形を取りつつ、エルフィリアは物質透過で内部へと侵入していく。どうやら、仲間がうまくやってくれているのだろう。足音がこちらに近づく様子はない。
「ちょっと物足りないかしらん♪」
近づく敵がいたなら、色気でちょっとだけサービスしつつ、容赦なく蹴りを入れようかと思ったが。その心配はなさそうだと輪廻は笑った。
中に入ったエルフィリアは、封印の施された箱をすぐに発見する。
彼女がそれを開くと、そこには事前に聞いていた通り、黒瑪瑙のようなもの……片手くらいの大きさの石のようなものが収められていた。
よくよく見ると中に脈動する何かが見えたのに、エルフィリアはやや不気味さを覚える。
「ぼやぼやしていられないわね」
外では仲間が耐えてくれている。いち早く戦線を離脱する為、彼女は輪廻に回収完了を伝えた後、空に向かって羽ばたいていったのだった。
スピーカーからの大音量が響く戦場。
それを所持する悠乃は木に駆け上がり、三角跳びなどをしてみせ、踊るようにしてそれぞれの陣営をかき回す。その状況はもはや妖にとっても、戦闘員にとっても、集中を乱す嫌がらせのようにも思えただろう。
三つ巴ではあったはずだが、それぞれが攻撃をするうち、教会戦闘員達が総崩れになってしまう。
混乱した彼らは敵味方見境なく攻撃を仕掛けた。妖となった羊も、突進を繰り返し、時に戦場へと羊の大群を呼び寄せてくる。もちろん、覚者達もそれぞれを叩いていく。
「うああああっ!」
「落ち着けぇっ!」
隊長が倒れた戦闘員達は完全に統率を失ってしまう。武装しているとはいえ、非覚者の彼らは成す統べなく倒れて行った。
「まだやりますか? 妖と区別はできませんよ」
Ξ(ぐざい)式弾斧「オルペウス」を戦闘員達に突きつける有為。事実、覚者達の中には、戦闘員を優先して排除しようとするメンバーもいる。
「引け、引けぇ!」
戦闘員達は総崩れになり、妖に恐れをなして逃げだす。
「オーット、戦場で敵に背を向けるナンテ駄目デスヨー」
リーネは容赦なく、その背に波動弾を浴びせて倒していたようだ。
「ンメエエエエエエッ!!」
教会戦闘員がほぼ戦闘不能になったからとはいえ、妖の羊は依然として暴れ続けている。妖にとっては、相手にしているのは覚者、戦闘員など関係なく、皆等しく人間なのだ。
槐が妖の羊毛を絡みつかせた仲間へと浄化物質を凝縮させて振りまく。
後ろに布陣したシャロンは、最初からこの場にいた妖が弱ってきていることに察して、高圧縮させた空気を打ち込む。
悠乃は両慈が回復の合間に光の粒を降らせるのに合わせ、悠乃が拳を叩き込む。
そこに、有為が別の敵越しに弱った羊を狙う。貫通した斧は奥の敵を刃で切り裂き、絶命に追い込んだ。
そんなタイミングだった。輪廻から連絡が入ったのは。
「やっほー、回収終わったわよん♪」
輪廻はエルフィリアが回収した神器を持って上空へと飛び立ったのを確認した後、仲間に近づいて自身の位置を確認させてから、悠乃の送受心・改で事情を知らせる。
無事、神器を回収したという知らせを聞いた一行。
悠乃が改めて回収完了を仲間達に伝え、騒がしいくらいに響かせていた音楽を止める。
「では、またねーっ」
悠乃はにこやかに笑って、その場を後にしようとする。
当然、人間に敵意をむき出しにする妖が覚者の離脱を黙って見過ごすはずもなく。羊達は突進して阻止しようとしてきた。
「ンメエエエエエエエエッ!!」
「戦いをマジでやってたら、命数いくつあっても足らないよ」
シャロンは韋駄天足を使い、迅速の逃げっぷりを披露した。
槐も妖の周囲に眠りへと誘う空気を発する。幾度か彼女は術を発していると、羊はぱたり、ぱたりと居眠りを始めて横になってしまった。
「羊が1匹、羊が2匹ねん♪」
「スタコラサッサなのですよ」
攻撃の必要もなかったわねんと、輪廻は槐と共にその場から離脱していった。
林から出た一行は、追っ手がこない場所まで来た地点で一休みする。エルフィリアだけは神器を持って、『F.i.V.E.』に直行したらしい。
「……大丈夫か? 痛みはあるか?」
両慈はすぐに、悠乃の傷を気遣い、心配そうに彼女の身体をあちらこちら触る。
それに、リーネは顔を真っ赤にしていた。
「ウー! 恋仲とはイエ、やっぱり華神さんがウーラーヤーマーシーイーノーデースー!!」
リーネは2人の間に突っ込み、撫でてくれと両慈に頭を差し出す。だが、彼はそっけなくリーネを振り払っていた。
そして、リーネは悠乃の顔を見つめる。
「グヌヌー! 華神さん! 私は貴女の事は大好きデスネ!」
でも、大好きな両慈のこととなれば、話は別。
「今は両慈をお任せシマスガ……。両慈と最終的に結婚するのは私デスネ! 絶対負けませんカラネ!」
ライバル宣言するリーネにも、悠乃は笑みを浮かべたままできょとんとする。そんな三角関係を眺めていた輪廻は、楽しそうに笑っていたのだった。
『F.i.V.E.』の覚者が目指すのは、新人類教会奈良支部……だった場所。
現在は人がいなくなり、この場所に放置された神器に引き寄せられた羊の妖が屯しているという。
「前にお邪魔した支部に、もう一度来る機会があるなんてね」
教化作戦時、エルフィリア・ハイランド(CL2000613)はこの場所を訪れ、新人類教会過激派の鎮圧に参加していた。
「新人類教会……って、なんだっけ」
竜の尻尾が目を引く『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)は、その作戦に参加していた『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)へと尋ねる。
「あぁ、奴らの事か……。まぁ、目的地に着くまで、簡単にで良ければ話そう」
彼は簡単に、その団体に対してを説明する。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
そんな理念の元、布教活動する新人類教会の『過激派』。武装を強化し、『洗脳』によって勢力を拡大する派閥。作戦に参加した覚者達によって、この教会の制圧に成功したのだが……。
「……憤怒者並に鬱陶しい奴らだ」
「いやー、つまらない相手の事とか、忘れません?」
両慈の説明に、悠乃はやや面倒そうにそっけなく告げた。直感で楽しくなさそうと思ったらしい。
「ただ、そういう人たちに洗脳用具を持たれても、もっとつまらないしね。回収、頑張ってみましょーか」
「悠乃、お前はそんな事を気にせず、ただ目の前の敵を倒せば良い」
両慈は真顔で悠乃へと告げる。
「だが、後ろには俺が居る。お前の背は俺が必ず守る」
悠乃はそれを聞いて、頬を赤らめていた。
そんな2人をやや面白くなさそうに見つめていたのは、『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)である。
愛しの両慈と一緒の依頼。しかしながら、いちゃラブな悠乃に嫉妬中の彼女はじたばたしていた。
「ウー……、華神さんの事は好きデスガー! それでも、乙女の恋心は上手く割り切れないのデース!!」
直情的なこともあって、いっそすがすがしく思えるから不思議である。
「あーらあら。後輩君に呼ばれて手助けに来てみれば……、中々面白い修羅場になってるわねぇ♪」
両慈に誘われて参加の『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)。新人類過激派が霞みそうだと彼女は茶化す。
「3人とも、その勢いで頑張って敵を引き付けてねん♪ でも、無理は駄目よん?」
その輪廻はエルフィリアと神器回収の為、別班として行動予定だ。その間、他6人が妖、そして、突入を企てるべく林に潜むはずの教会戦闘員を誘い出す作戦である。
「神器回収したら、ナニカが解明されるかも? 面白い事象の起こるきっかけになるなら、成功させないわけにいかないねぇ」
そう語るのは、背中に灰色の小さな翼を生やした『お察しエンジェル』シャロン・ステイシー(CL2000736) だ。一見中学生にも見える美魔女な彼女は、ほんの軽い気持ちで依頼に参加している。
「……目的と手段の乖離を感じますね」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)は新人類教会の活動に対して、真剣に疑問を抱く。ちなみに、彼女はこう見えてクリスチャンらしい。
「組織の理念は色々あるでしょうし、カルト教団でしたら過激な行いに走ることもよくある話でしょうから、別にいいのですが」
「新だとか真だとかを頭に付けたようなのを創り出す連中は、現状を肯定できる要素の無い負け犬だけなのですよ」
有為の話を聞いたのは、車椅子で移動する『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732) 。彼女はなんとも辛辣なコメントをする。
「まあ、私の考える事でも無いので、程々にしておきますか」
教会が見えてきたこともあり、有為は考えを語るのを止める。
「それじゃ、お仕事頑張りましょ」
肩口から空色の小さな翼を生やすエルフィリアが、仲間へと声をかける。視界に入る教会に放置された神器を回収すべく、覚者達は作戦を開始するのだった。
●始まる乱戦
教会内にはすでに、妖と化した羊がうろうろしている。おそらく、教会戦闘員も森に潜んでいるだろう。
ならばと、有為は自身の細胞を活性化させて速度を大幅にアップさせた。そして、屋外に姿を現した羊目掛け、覚醒したことで変異した両脚で駆け出す。ハイバランサーを使って林を走る彼女は一度羊を蹴り、その場から離脱する。
「ンンメエエエエエッ!!」
荒ぶる羊。それに呼応して建物内にいた羊も叫び、外へと飛び出す。
「ふふふ……、場を引っ掻き回すのは大得意なのですよ!」
覚醒して十歳の姿となり、両脚で地面に立つ槐。彼女は予め、仲間に治癒力を高める香りを振り撒いてから、岩を鎧のように纏って姿を現す。その上で、槐は波動弾を飛ばして羊に牽制の一撃を与える。
シャロンも羊の前に姿を晒していた。彼女は羊が3体いることを確認し、スリングショットで落ちている石を飛ばし、羊の気を引く。
「……おっと」
次の石を構える間に羊が迫ってきた為、シャロンはその場から身を引いた。
そうして、槐、シャロンはそれぞれ、林の中へと別方向に逃げ出した。
「侵入者だ、捕らえろ!」
さらに林の中から、教会の左右と奥に散開していた教会戦闘員が姿を現した。数人ずつがそれぞれ、槐と羊、シャロンと別の羊を追い、林の中へと移動していく。
この場に残る戦闘員に対しては、悠乃が近づく。彼女は大音量で携帯プレイヤーの音楽を最大音量にして外部スピーカーで響かせる。
「はろはろー、兵隊さん方、『F.i.V.E.』でーす。どうせ命がけなら、派手にヨロシク!」
そうして、戦闘員達は現れた彼女の排除の為に、ハンドガンや機関銃を発砲する。
「一つ段階を上げた私のパフォーマンス、魅せてあげましょう! 死なない程度に!」
彼女は腕にはめた新武装、『幻想発現・人中驪竜』から黒い炎を発する。
「安心してクダサイ! 愛しの両慈を始めに、皆さんは私が守ってミセマスネ!」
やや遅れたが、リーネもまた教会の前へと飛び出す。
「サァサァ! 妖に新人類のチョット頭オカシイ人達! 私達が相手デスヨ!」
両腕にラージシールドを構え、リーネは楽しそうに周囲へと叫んだ。
そんな仲間達を、両慈は後ろから紫色の瞳で眺めている。
出来る限り、こちらはこの場を目立たせ、妖と教会連中の目を引くことが目的。髪を銀色に染めた両慈は暴れるメンバーを支える為、回復をと考えている。
別働隊が神器を回収し、連絡があるまで維持するのが自分達の役目だ。
「……だが、別動隊の時間が掛かる様なら……、別に倒してしまっても構わないのだろう?」
彼は鋭い目つきで、手にした書物を広げた。
三つ巴の乱戦が始まったのを確認し、エルフィリアと輪廻が動き出す。
(匂いは判断できそうだけれど、これだけ乱戦になってはね……)
エルフィリアは守護使役の力を借りて仲間と羊、戦闘員に匂いをかぎ分けるが、乱戦になっている状況では判別も難しい。
同じく回収班として行動する輪廻。刺青を紫色に輝かせた彼女はしのびあしで歩き、迷彩で姿を消しつつ移動する。
「さーて、行くわよん♪」
2人は手薄になった教会裏手目指して、慎重に移動していく……。
●三つ巴の戦い
槐は1体の羊の妖と3人の教会戦闘員を引き付ける形となる。
(思ったようにはいかないのです)
予想とは違ったなと考える槐。戦闘員を惑わす想定だったが、散開していた戦闘員をあっさり突破してしまい、両者に追われてしまうとは。
彼女はできる限り、木を遮蔽に使いつつ逃げていく。これは、戦闘員の銃弾を警戒してである。
できるならば、羊と戦闘員をぶつけたいところ。さすがに彼女1人で両者と交戦すれば、妖が圧勝するのは目に見えている。その為、両者を争わせるようにと移動していく。
(……スリングを羊全員に当てられなかったからね)
同じく、シャロンは別の羊と2人の戦闘員を引き連れる。彼女は林の茂みを使ったり、空を飛んで銃弾を躱したりしていた。
戦闘員達も統率はしっかり取れていたのだろう。教会前に残る隊長の指示で、下手に妖へと手を出すことなく彼女を追ってきていた。
この為、シャロンは大きくカーブし、教会前に戻ることにする。うまく戦闘員と妖がぶつかることを期待しつつ。
教会前はまさに三つ巴の戦いとなっている。
大音量を響かせる悠乃は仲間の前に出て、地面から黒い炎を巻き起こす。
「私が突出して目立つ分には、皆やりやすいでしょ?」
その悠乃に襲い来る羊は突撃してくる。大きな角での一撃は、彼女と、後衛の両慈にも衝撃が及ぶ。
「この手の敵は気に入らない上に、数の敵は俺の得意分野でな……。悪いが、加減は出来んぞ」
両慈は目の前の敵全てに、光の粒を降り注がせる。暴れる羊。そして、この状況に戦闘員達もやや混乱してしまうが。
「羊だ、先に羊を狙え!」
隊長から飛ぶ指示によって、隊員が銃弾を羊へと撃ち込み始める。これは覚者達の想定通りだ。
「さて、妖と覚者と銃火器による範囲攻撃、先に音を上げるのは、どちらだろうな……!」
そうして、彼は再度、術式を唱え始めた。
その間にも、教会前は乱戦となってしまう。
有為は林の木々を利用し、戦闘員の銃弾を避ける。その上で、彼女は羊目掛けて熱圧縮した空気を叩き込み、大きく吹き飛ばす。
(判断を遅らせる為に、指揮官は早めに戦闘不能にしておきたいですが)
彼女はこの場にいる隊長を見定める。こいつの指揮のお陰で、やや作戦が上手くいかなかった部分もあるのだ。
「さぁさぁ、私を倒せる人はイマスカー!」
仲間の思慮など、どこ吹く風。自身を強化したリーネはずかずかと遠慮なく敵陣へと突っ込む。彼女が優先的に戦うのは、戦闘員だ。
そんな中、林から戻ってきた槐、シャロンが羊をこの場の戦闘員にぶつけることとなる。
一足早く戻ってきた槐は、すかさず妖と戦闘員に纏めて的を混乱の渦に落とし込んでいく。耐性の高い妖は抵抗して見せたが、非覚者である戦闘員達には効果覿面。彼らは目を回して同士討ちを始めてしまう。
シャロンは乱戦を長引かせるべく、敵全体へと絡みつく霧を発した。羊達もこれには抵抗できず、霧を振り払おうと身を震わせていたようだ。
「思いっきり、イキマース!」
隊列の乱れる戦闘員へ、リーネは波動弾を飛ばす。狙ったのは偶々敵の隊長。そいつが卒倒したことで、我に戻った隊員達はさらに戸惑い始めたのだった。
●乱戦も徐々に……
エルフィリア、輪廻の2人は、羊の妖と教会戦闘員に気づかれることなく教会の裏手に回っていた。
輪廻が見張りを行う形を取りつつ、エルフィリアは物質透過で内部へと侵入していく。どうやら、仲間がうまくやってくれているのだろう。足音がこちらに近づく様子はない。
「ちょっと物足りないかしらん♪」
近づく敵がいたなら、色気でちょっとだけサービスしつつ、容赦なく蹴りを入れようかと思ったが。その心配はなさそうだと輪廻は笑った。
中に入ったエルフィリアは、封印の施された箱をすぐに発見する。
彼女がそれを開くと、そこには事前に聞いていた通り、黒瑪瑙のようなもの……片手くらいの大きさの石のようなものが収められていた。
よくよく見ると中に脈動する何かが見えたのに、エルフィリアはやや不気味さを覚える。
「ぼやぼやしていられないわね」
外では仲間が耐えてくれている。いち早く戦線を離脱する為、彼女は輪廻に回収完了を伝えた後、空に向かって羽ばたいていったのだった。
スピーカーからの大音量が響く戦場。
それを所持する悠乃は木に駆け上がり、三角跳びなどをしてみせ、踊るようにしてそれぞれの陣営をかき回す。その状況はもはや妖にとっても、戦闘員にとっても、集中を乱す嫌がらせのようにも思えただろう。
三つ巴ではあったはずだが、それぞれが攻撃をするうち、教会戦闘員達が総崩れになってしまう。
混乱した彼らは敵味方見境なく攻撃を仕掛けた。妖となった羊も、突進を繰り返し、時に戦場へと羊の大群を呼び寄せてくる。もちろん、覚者達もそれぞれを叩いていく。
「うああああっ!」
「落ち着けぇっ!」
隊長が倒れた戦闘員達は完全に統率を失ってしまう。武装しているとはいえ、非覚者の彼らは成す統べなく倒れて行った。
「まだやりますか? 妖と区別はできませんよ」
Ξ(ぐざい)式弾斧「オルペウス」を戦闘員達に突きつける有為。事実、覚者達の中には、戦闘員を優先して排除しようとするメンバーもいる。
「引け、引けぇ!」
戦闘員達は総崩れになり、妖に恐れをなして逃げだす。
「オーット、戦場で敵に背を向けるナンテ駄目デスヨー」
リーネは容赦なく、その背に波動弾を浴びせて倒していたようだ。
「ンメエエエエエエッ!!」
教会戦闘員がほぼ戦闘不能になったからとはいえ、妖の羊は依然として暴れ続けている。妖にとっては、相手にしているのは覚者、戦闘員など関係なく、皆等しく人間なのだ。
槐が妖の羊毛を絡みつかせた仲間へと浄化物質を凝縮させて振りまく。
後ろに布陣したシャロンは、最初からこの場にいた妖が弱ってきていることに察して、高圧縮させた空気を打ち込む。
悠乃は両慈が回復の合間に光の粒を降らせるのに合わせ、悠乃が拳を叩き込む。
そこに、有為が別の敵越しに弱った羊を狙う。貫通した斧は奥の敵を刃で切り裂き、絶命に追い込んだ。
そんなタイミングだった。輪廻から連絡が入ったのは。
「やっほー、回収終わったわよん♪」
輪廻はエルフィリアが回収した神器を持って上空へと飛び立ったのを確認した後、仲間に近づいて自身の位置を確認させてから、悠乃の送受心・改で事情を知らせる。
無事、神器を回収したという知らせを聞いた一行。
悠乃が改めて回収完了を仲間達に伝え、騒がしいくらいに響かせていた音楽を止める。
「では、またねーっ」
悠乃はにこやかに笑って、その場を後にしようとする。
当然、人間に敵意をむき出しにする妖が覚者の離脱を黙って見過ごすはずもなく。羊達は突進して阻止しようとしてきた。
「ンメエエエエエエエエッ!!」
「戦いをマジでやってたら、命数いくつあっても足らないよ」
シャロンは韋駄天足を使い、迅速の逃げっぷりを披露した。
槐も妖の周囲に眠りへと誘う空気を発する。幾度か彼女は術を発していると、羊はぱたり、ぱたりと居眠りを始めて横になってしまった。
「羊が1匹、羊が2匹ねん♪」
「スタコラサッサなのですよ」
攻撃の必要もなかったわねんと、輪廻は槐と共にその場から離脱していった。
林から出た一行は、追っ手がこない場所まで来た地点で一休みする。エルフィリアだけは神器を持って、『F.i.V.E.』に直行したらしい。
「……大丈夫か? 痛みはあるか?」
両慈はすぐに、悠乃の傷を気遣い、心配そうに彼女の身体をあちらこちら触る。
それに、リーネは顔を真っ赤にしていた。
「ウー! 恋仲とはイエ、やっぱり華神さんがウーラーヤーマーシーイーノーデースー!!」
リーネは2人の間に突っ込み、撫でてくれと両慈に頭を差し出す。だが、彼はそっけなくリーネを振り払っていた。
そして、リーネは悠乃の顔を見つめる。
「グヌヌー! 華神さん! 私は貴女の事は大好きデスネ!」
でも、大好きな両慈のこととなれば、話は別。
「今は両慈をお任せシマスガ……。両慈と最終的に結婚するのは私デスネ! 絶対負けませんカラネ!」
ライバル宣言するリーネにも、悠乃は笑みを浮かべたままできょとんとする。そんな三角関係を眺めていた輪廻は、楽しそうに笑っていたのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
リプレイ、公開です。
想定外の出来事もありましたが、
結果的にはうまく
作戦が功を奏す形となったかと思います。
神器、無事に回収です。
皆様、本当にお疲れ様でした!
想定外の出来事もありましたが、
結果的にはうまく
作戦が功を奏す形となったかと思います。
神器、無事に回収です。
皆様、本当にお疲れ様でした!
