≪神器争奪戦≫逢魔辻、夜闇灯セズ影ニ蛇
●死屍累々
走ることは歩行動物に許された大いなる自由である。
逃げることは生物に許された大いなる自由である。
だが逆に言えば、走って逃げることしかできない状況にあるものが、歩行生物以上の何かになれようか。
「ヒィッ――!」
短い悲鳴と共に後頭部から眼球にかけてを槍状の物体で貫かれる人間。
人ノ字型の首飾りをさげ、サブマシンガンで武装した人間ではあるが。
彼も歩行生物以上のものではない。
「や、やめ――!」
無駄な呼びかけもむなしく、首と腰と足首をそれぞれ切断される人間。
人ノ字型の指輪をつけ、術符で武装した覚者ではあるが。
これもまた、歩行生物以上のものではなかった。
崩れ落ちる。
崩れ落ちて並ぶ。
転々と並ぶ、人間だったものの死体。
それを一つ一つすりつぶすように包んでいく、巨大な黒い物体があった。
巨大な蛇と、無数の小さな蛇をかたどったその『妖』は、おそらく。
人間以上の何かだろう。
●新人類教会過激派と『神器』をめぐる妖事件の顛末について
「新人類教会。それがあのシンボルマークの出所ですか?」
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は電話で別の夢見に確認をとりながら、紙にさらさらと情報を書き付けていった。
新人類教会がいかなる組織であるかについて、そして彼らがいかなる状態にあるかについては、今詳しく語るべきではないだろう。
重要なのは彼らの活動によって副次的に妖が寄りつき、結果的に大量の死者が生まれ、最終的に妖がその場に居着く事態になったという事実だけである。
「新人類教会の過激派チームが『神器』を運搬中、寄りついた妖の攻撃を受けて全滅。妖はその場から動いていませんが、知らずに近づいた人間は間違いなく殺されることでしょう。よって、ファイヴはこの妖の撃破と『神器』の回収を求めています」
受話器を置いて、あなたを見た。
「依頼をお受けになりますか?」
ランク3自然系妖。
『影大蛇』と『蛇ノ道』に別れて存在している。
影大蛇が本体。蛇ノ道がその末端と考えてさしつかえない。
「妖は高い攻撃力と妨害能力を備えています。攻略不可能だと判断したら即座に撤退してください。以上です」
走ることは歩行動物に許された大いなる自由である。
逃げることは生物に許された大いなる自由である。
だが逆に言えば、走って逃げることしかできない状況にあるものが、歩行生物以上の何かになれようか。
「ヒィッ――!」
短い悲鳴と共に後頭部から眼球にかけてを槍状の物体で貫かれる人間。
人ノ字型の首飾りをさげ、サブマシンガンで武装した人間ではあるが。
彼も歩行生物以上のものではない。
「や、やめ――!」
無駄な呼びかけもむなしく、首と腰と足首をそれぞれ切断される人間。
人ノ字型の指輪をつけ、術符で武装した覚者ではあるが。
これもまた、歩行生物以上のものではなかった。
崩れ落ちる。
崩れ落ちて並ぶ。
転々と並ぶ、人間だったものの死体。
それを一つ一つすりつぶすように包んでいく、巨大な黒い物体があった。
巨大な蛇と、無数の小さな蛇をかたどったその『妖』は、おそらく。
人間以上の何かだろう。
●新人類教会過激派と『神器』をめぐる妖事件の顛末について
「新人類教会。それがあのシンボルマークの出所ですか?」
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は電話で別の夢見に確認をとりながら、紙にさらさらと情報を書き付けていった。
新人類教会がいかなる組織であるかについて、そして彼らがいかなる状態にあるかについては、今詳しく語るべきではないだろう。
重要なのは彼らの活動によって副次的に妖が寄りつき、結果的に大量の死者が生まれ、最終的に妖がその場に居着く事態になったという事実だけである。
「新人類教会の過激派チームが『神器』を運搬中、寄りついた妖の攻撃を受けて全滅。妖はその場から動いていませんが、知らずに近づいた人間は間違いなく殺されることでしょう。よって、ファイヴはこの妖の撃破と『神器』の回収を求めています」
受話器を置いて、あなたを見た。
「依頼をお受けになりますか?」
ランク3自然系妖。
『影大蛇』と『蛇ノ道』に別れて存在している。
影大蛇が本体。蛇ノ道がその末端と考えてさしつかえない。
「妖は高い攻撃力と妨害能力を備えています。攻略不可能だと判断したら即座に撤退してください。以上です」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.神器の回収
3.なし
2.神器の回収
3.なし
神器の入手という最終目的は変わりませんが、内容は妖との純粋な戦闘依頼となっております。
●シチュエーションデータ
夕方の山道です。
道は広く、自動車も余裕を持ってすれ違える程度の広さがあります。
妖はその中央に陣取っており、巨大な『影大蛇』を中心に『道ノ蛇』が広がっている状態です。
●エネミーデータ
ランク3自然系が二体。
○影大蛇
妖の本体。巨大な蛇の胴体が道から突き出ているように見える。
全身が影でできており、物理攻撃がききづらい。
これを攻撃することで『道ノ蛇』も連鎖消滅する。
・影ツルギ:特近全中ダメージ【出血】
・影アギト:特近単大ダメージ【毒】
○道ノ蛇
道いっぱいに広がる影のような妖。
小さな蛇が大量に道からわき出ているように見える。
反応速度と回避補正が凄まじく高いが、攻撃力はほぼない。
こちらだけを攻撃することも可能。
・影シズメ:特遠全【睡眠】
・影ガラミ:特近全【混乱】
●補足
・新人類教会とその過激派について
覚者を新人類と呼び、覚者事件被害者の保護や救済を主とする宗教団体。
内部は穏健派と過激派に分かれ、過激派チームは武装して憤怒者組織との紛争を起こしている。
隊員への洗脳や『教化作戦』など目に余る活動も多い。
ファイヴは内部告発者によって洗脳の正体を突き止め、そのキーとなるであろう『神器』の奪取に動き出した。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年10月10日
2016年10月10日
■メイン参加者 8人■

●
砂利道。木の葉をまぜる風が吹く。
黄昏時に伸びる影を、『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)はじっと見つめていた。
「相変わらずろくなことをしないのね。クズはさっさと死ねばいいのに。もっともっと死ねばいいのに。死ねばいいのに。死ねばいいのに……殺しましょう。殺す殺す殺すわ妖も過激派とやらも殺せばいいのよね斉藤さんあははははははは!」
桜が一人でどうかしている中、『月下の黒』黒桐 夕樹(CL2000163)は淡々と銃の整備点検を進めていた。
「今日も、出来ることをそれなりにやるだけだ。大丈夫……」
銃にマガジンを装填。自分の中のスイッチを入れるようにして、肩の力を抜いた。
「新人類、ですか。あがめるというのも、ある種拒絶のようなものですね。いえ、今は考えるべきではありませんか……」
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)はかすれ声で呟いて、ノートの文字を指でなぞった。
作戦内容は若干ブレてはいるが、フォローがきかないほどではない。
メンバーの総合力の高いので、よほどの油断がなければ乗り切れるだろう。
ふと見ると、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)がまた難しい顔で何か考え込んでいる。
「どうか?」
「妖を招いて人が死んでるって、あの神器はもしかしてバラバラにして封印された巨大な妖とかじゃないのかな。どうして妖を引き寄せるのかわからないけど……」
「……」
奏空が若干、神器の効果について勘違いしているようだが、今重要なことではないので急いで訂正しない誡女である。
友ヶ島の件ではないが、ゴミがたまってハエがたかることはあっても、ゴミという存在がハエを直接召喚しているわけではない……ようなものだ。二つはかなり似ているので、混同しても無理からぬ。
それより心配なのは『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)だった。
なんだか戦う前からしょんぼりしている。
「どうしたんだ、きせき。元気ないな」
「うん……なんだか、楽しくなくて」
「えっと」
奏空は戦いをスポーツとして楽しむことはあっても、きせきの歪な価値観には共感しかねるところがあった。
「楽しいとかじゃないよ。倒さなかったらもっと人が死ぬんだ」
「そ、そうだよね。頑張るね!」
作り笑いを浮かべるきせき。
奏空は、笑顔でそれに応えた。
現地までは徒歩で移動している。
出現ポイントがハッキリしているものの、まだ妖の姿は見えて居来ない。
「私、蛇ってなんだか苦手なんですよね。危険な妖を放って置くわけにはいかないんですが……はい」
どこか弱った様子でいる『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
今日は本調子ではないようだ。
前の戦いからの『流れ』みたいなものでかろうじて動いているといった様子だった。
「蛇……」
一度呟いて、呼吸を静かに整える桂木・日那乃(CL2000941)。
「道路に、妖いたら、邪魔。被害者が出るなら、消す」
日那乃は、神器や新人類教会のことはよく分からないといった様子だ。ファイヴとしてもそれほど頻繁に、かつ大々的にぶつかってきた組織というわけでもない。よく知らない所属覚者も多かろう。
『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)はこくんと頷いた。
「一般の方々に迷惑がかかる以上、捨て置けませんね。戦いは苦手ですが……微力を尽くさせて頂きます」
奈那美は束にした術符を強く握った。
決意のため。
そして、眼前でふくれあがった言いしれぬ気配のため。
道に長く長く伸びた彼女たちの影は、複雑に絡み合い、ねじれ合い、ふくらんでふくらんで、やがて巨大な妖へと変化した。
●
声にならぬ声で大気を振るわせる影大蛇。
誡女はそんな大蛇に先んじて、いち早く術式を起動させた。
「『迷霧を散布します。皆さん下がって!』」
霧の発生と同時に、誡女は平行エネミースキャンを開始。クナイを手に取ると、道ノ蛇めがけて投擲した。
道ノ蛇は地面から無数にはえた蛇の群れに見えるが、まるで実態がないかのようにクナイがすり抜けて地面へと突き刺さった。
そこそこの命中補正は確保しているつもりだが、あまり芳しい当たり方はしていないようだ。
それに反応してというわけではないだろうが、道ノ蛇はその身体を不自然なほど長く伸ばして誡女たちの身体へと巻き付いていく。
相手はしっかり巻き付いてくるのに、掴もうとしても空振りしてしまう。まるで纏霧系統の技のようだ。
「『桂木さん、回復を』」
「うん……」
日那乃は誡女のそばへ低空飛行で近づくと、大きなじょうろで頭から清めの水を注ぎかけた。
絡みついた蛇がしゅわしゅわと溶けて消えていく。
「……」
氷にお湯を注ぎかけたかのような、殺すというより消している感覚だ。
だがこのまま日那乃の深想水に頼り切ってばかりはいられない。
「邪魔よ。いい虫除け、あったかしら」
桜はキューブ状のプラスチックボックスを取り出すと、足下へと放り投げた。
中に入ったピンク色のゼリーが空気に溶けて甘酸っぱい香りを放っていく。
道ノ蛇はその香りを嫌がってか、誡女たちからじわじわと距離を取り始める。
「虚弱付与はもう済んでるのよね? じゃあ仇華浸香よりも……」
ポケットからクリスタルカットの小瓶をいくつか取り出し、その中の一つを手に取った。
「これね」
キャップを開き、影大蛇めがけて投げつける。
空中で破裂した小瓶からは毒の霧が広がり、蛇大蛇を包み込んでいった。
「よし、今だ……!」
それを攻撃のチャンスとみた奏空は大きな刀を方に担ぎ、両手でしっかりと柄を握り込んだ。
「力を貸してくれ、虔翦!」
身体の勢いとてこの原理で、上段からたたき落とすように振り込む。
地面に叩き付けた勢いで奏空の身体が軽く浮いたが、伝達したエネルギーが黒い稲妻になって迸る。
道ノ蛇は海を割るかのように動いて稲妻をよけ、影大蛇だけに命中。
そのすぐ後に道ノ蛇は隊列を中衛へとシフトしていった。
「こいつ、巻き込みづらい位置に……!」
「だったら!」
きせきはポケットから種を一握り掴むと、蛇たちめがけてまき散らした。
「にょろにょろどうし、絡まって動けなくなっちゃえ!」
土に触れた途端に雑草が大量に生えていき、蛇たちに絡みつこうとうねりはじめる。
しかし道ノ蛇にはからみつくことなく、すかすかと身体をすり抜けるばかりだ。
影大蛇にも、からみはしたが巨大な柱にツタがはっているかのようにあまり気にしているようには見えない。
「にょろにょろなのに、なんだかふわふわしてるよ……わっ!」
そんなきせきめがけて蛇大蛇が襲いかかってきた。
牙をむき出しにして食らいつくという、蛇そのものといったような攻撃方法だ。
咄嗟に刀で防御するが、くわえた状態で持ち上げられ、そのまま上空へと放り投げられる。
「うわわっ!?」
「力はあるようですね」
奈那美は放り上げられたきせきを目で追いながら、冷静に数歩下がって両腕を翳した。
翳した所へストンと落ちるきせき。目をぱちくりとさせる。
「それにしても、蛇の群れを見ていると気分が悪くなりますね。早く退治してしまいたいところですが……」
「分かっています。最初から最大火力で行きますよ!」
ラーラは魔導書を早速開放して魔方陣を展開。
空をなぞる光の軌跡で円と三角形を描くと、円を無限に増幅させて巨大なペンローズタイルを生成。形成された全ての交差点から炎弾を発射していく。
「教会の方々はもう……これ以上の被害を出すわけにはいきません!」
炎の群れが直撃し、うねる影大蛇。
夕樹はその隙を突くようにして走り出した。
道ノ蛇に捕縛蔓が効きづらいことはきせきが既に見せている。二の舞をするほど夕樹も愚かでは無い。
銃に空圧弾を仕込んで乱射。ラーラのアームストロングめいた射撃に混ぜるようにして影大蛇と道ノ蛇もろともを狙って打ち続けた。
「ビスコッティ。敵のスキャンは済んだ?」
打ちながら小さく振り向く夕樹。
ラーラは首を振って応えた。
「すみません。まだ……」
「あせらないでね。まだ時間はあるから」
言いながらも、慎重に周囲を見回す。
日が陰り、暗くなってきた。
まるで夕樹たちを取り囲むように影が広がり、道ノ蛇がにょろにょろと背を伸ばしていく。
もしかしたら、本番はこれからかもしれない。
●
道ノ蛇が繰り出す影シズメと影ガラミは彼らを大いに苦しめるものだった。
睡眠による行動不能状態と、奏空やきせきといった破壊力の高いメンバーによる混乱状態が味方の作戦を大きく狂わせていくのだ。
対して、桜の清廉珀香や日那乃の超純水。加えて誡女の癒力活性が崩れかけた連携を素早く整わせてくれた。
「『しかし、自分の身で体験することでより深く理解することができました。影ガラミ……やはり術式で応用が可能な技かもしれません。読み切るには後一歩といった所でしたが、興味深いですね』」
誡女の存在がかなり邪魔になると踏んだ影大蛇は彼女を集中攻撃。
結果として誡女の体力は大幅に削られていたが、回復手段の多いこのチームである。
「誡女さん! 今回復しますから!」
「じっと、してて」
日那乃が頭上から黄金のじょうろを傾け、治癒液をさらさらと振りかけていく。
その一方で奏空が誡女の周りをくるくると周りながら、傷口にシュッシュと霧吹きをかけていた。
回復されてるんだか遊ばれてるんだかイマイチわからない状態だったが、底をつきかけていた体力はうまく回復できたようだ。
「『ありがとうございます。御影さんも工藤さんも、回復するのでこちらへ』」
誡女は手のひらにエネルギーを溜めると、きせきや奏空の頭を優しく撫で回してやった。
ほわほわと癒やされる奏空たち。
などと、いつまでも回復の時間を与えてくれる妖ではない。
蛇大蛇は全身から刃を突き出すと、誡女たちめがけて襲いかかった。
「させません! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
ラーラは眼前に四掛四の枡目図を展開。魔術文字をそれぞれに刻み込むと、激しい炎を発射。升目を通っるたびに炎が分裂し、影大蛇へと殺到していく。
直撃を受け、うなり声をあげる影大蛇。
このままではつらいと思ったのか、道ノ蛇が影大蛇の周りにまとわりつくように伸び始めた。
影大蛇を庇うつもりだ。
「無駄ですよ。あなたも被害者なのかもしれませんが、弱い者も生きていかねばなりません故……ご容赦ください」
奈那美が術符をまき散らし、それぞれに術式を機動。
空気中の水分を吸って氷結し、ナイフのように鋭くなった符の群れが一斉に影大蛇へ殺到。
庇いたてる道ノ蛇もろとも貫いていった。
はらはらと崩れ落ちていく道ノ蛇。
「最後だ。行くよ」
夕樹はクナイに毒を塗りつけながら側面をダッシュ。
と同時に桜ときせきも蛇大蛇を囲むように走り出した。
周囲をぐるぐると回るきせきたちに翻弄される蛇大蛇。
先に仕掛けたのは夕樹だった。
放ったクナイが蛇大蛇の目にあたる部分に突き刺さり、深く浸食していく。
更にきせきが植物の種子を投げつけ、顔の周りで次々に炸裂。
うなりどころか悲鳴に近い声をあげ、影大蛇が暴れ始めた。
「うるさいわね」
しゅん、と鋭い音がして影大蛇の首に細いツルが巻き付いた。
その先端を握っているのは桜である。
「殺すわ」
ピンと指で弾くや否や、ツルが締まって影大蛇の首をねじ切った。
●
「……」
妖のいなくなった道中。
奈那美は犠牲者へ黙祷していた。
目を開け、顔を上げる。
「死ねば許されるわけではありませんが、死者に花を手向けることは神様もお許しになるでしょう」
「なんの話かしら、よくわからないことを言うのね」
桜は周辺をぐるりと回ってきたようで、ナイフを手の中でもてあそんでいた。
「残っていたら殺すところだったわ。そういえばよそにもまだ残ってるのよね。殺しましょう」
「ころ、す……」
きせきは不思議と胸をこみあげる何かを感じて、口を押さえた。
「そんなんじゃないよ。けど、じゃあ、僕、なんのために戦うんだろう……」
「みなさん」
かすれ声の誡女がスポーツドリンクを持ってやってきた。
「お疲れ様です。ところで新しい術のレシピを思いついたのですが、後で実験場で付き合って頂いても?」
「おや、新しいスキルでも?」
「形になるかはまだ分かりませんけれど……研究材料としてはおもしろいかと」
一方、奏空は回収した神器を液体を満たしたボトルの中に沈めていた。
「御神酒につけたらいいって聞いたんだ。本当かどうかはともかく、なにもしないよりはいいよね」
「思ったより、大きく、ない」
ボトルの底に沈んだ神器を眺めて呟く日那乃。
「直接触れても大丈夫だったのかな。一応トング使ったけど……」
「考え、すぎ」
「そうだよ。核廃棄物じゃないんだから」
夕樹はため息のように言った。
仮に皮膚接触によって効果をもつのだとしたら、みたいなことを考え始めると死ぬほどややっこしいので要約すると、別に持って歩いても平気である。
ただ神器は瘴気みたいなものを放っており、周辺の環境を悪化させる効能を持つともいう。
ずっと持っていたら健康に悪そうだし、最悪妖ホイホイみたくなりかけない。
さっさとしまってさっさと届けるのがよかろう。
「それにしても、神器とは仰々しい名前だね。分不相応なんじゃない?」
「さあ……これがなんだか、まだ分かっていませんから」
ラーラはボトルの底で揺れる物体を見つめた。
「どうやってこの神器を使っていたのか分かれば、より深いことが分かる筈です。判断はそれからでも遅くは無いでしょう」
彼らは頷きあい、別の仲間との合流ポイントへと移動し始めた。
砂利道。木の葉をまぜる風が吹く。
黄昏時に伸びる影を、『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)はじっと見つめていた。
「相変わらずろくなことをしないのね。クズはさっさと死ねばいいのに。もっともっと死ねばいいのに。死ねばいいのに。死ねばいいのに……殺しましょう。殺す殺す殺すわ妖も過激派とやらも殺せばいいのよね斉藤さんあははははははは!」
桜が一人でどうかしている中、『月下の黒』黒桐 夕樹(CL2000163)は淡々と銃の整備点検を進めていた。
「今日も、出来ることをそれなりにやるだけだ。大丈夫……」
銃にマガジンを装填。自分の中のスイッチを入れるようにして、肩の力を抜いた。
「新人類、ですか。あがめるというのも、ある種拒絶のようなものですね。いえ、今は考えるべきではありませんか……」
『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)はかすれ声で呟いて、ノートの文字を指でなぞった。
作戦内容は若干ブレてはいるが、フォローがきかないほどではない。
メンバーの総合力の高いので、よほどの油断がなければ乗り切れるだろう。
ふと見ると、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)がまた難しい顔で何か考え込んでいる。
「どうか?」
「妖を招いて人が死んでるって、あの神器はもしかしてバラバラにして封印された巨大な妖とかじゃないのかな。どうして妖を引き寄せるのかわからないけど……」
「……」
奏空が若干、神器の効果について勘違いしているようだが、今重要なことではないので急いで訂正しない誡女である。
友ヶ島の件ではないが、ゴミがたまってハエがたかることはあっても、ゴミという存在がハエを直接召喚しているわけではない……ようなものだ。二つはかなり似ているので、混同しても無理からぬ。
それより心配なのは『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)だった。
なんだか戦う前からしょんぼりしている。
「どうしたんだ、きせき。元気ないな」
「うん……なんだか、楽しくなくて」
「えっと」
奏空は戦いをスポーツとして楽しむことはあっても、きせきの歪な価値観には共感しかねるところがあった。
「楽しいとかじゃないよ。倒さなかったらもっと人が死ぬんだ」
「そ、そうだよね。頑張るね!」
作り笑いを浮かべるきせき。
奏空は、笑顔でそれに応えた。
現地までは徒歩で移動している。
出現ポイントがハッキリしているものの、まだ妖の姿は見えて居来ない。
「私、蛇ってなんだか苦手なんですよね。危険な妖を放って置くわけにはいかないんですが……はい」
どこか弱った様子でいる『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
今日は本調子ではないようだ。
前の戦いからの『流れ』みたいなものでかろうじて動いているといった様子だった。
「蛇……」
一度呟いて、呼吸を静かに整える桂木・日那乃(CL2000941)。
「道路に、妖いたら、邪魔。被害者が出るなら、消す」
日那乃は、神器や新人類教会のことはよく分からないといった様子だ。ファイヴとしてもそれほど頻繁に、かつ大々的にぶつかってきた組織というわけでもない。よく知らない所属覚者も多かろう。
『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)はこくんと頷いた。
「一般の方々に迷惑がかかる以上、捨て置けませんね。戦いは苦手ですが……微力を尽くさせて頂きます」
奈那美は束にした術符を強く握った。
決意のため。
そして、眼前でふくれあがった言いしれぬ気配のため。
道に長く長く伸びた彼女たちの影は、複雑に絡み合い、ねじれ合い、ふくらんでふくらんで、やがて巨大な妖へと変化した。
●
声にならぬ声で大気を振るわせる影大蛇。
誡女はそんな大蛇に先んじて、いち早く術式を起動させた。
「『迷霧を散布します。皆さん下がって!』」
霧の発生と同時に、誡女は平行エネミースキャンを開始。クナイを手に取ると、道ノ蛇めがけて投擲した。
道ノ蛇は地面から無数にはえた蛇の群れに見えるが、まるで実態がないかのようにクナイがすり抜けて地面へと突き刺さった。
そこそこの命中補正は確保しているつもりだが、あまり芳しい当たり方はしていないようだ。
それに反応してというわけではないだろうが、道ノ蛇はその身体を不自然なほど長く伸ばして誡女たちの身体へと巻き付いていく。
相手はしっかり巻き付いてくるのに、掴もうとしても空振りしてしまう。まるで纏霧系統の技のようだ。
「『桂木さん、回復を』」
「うん……」
日那乃は誡女のそばへ低空飛行で近づくと、大きなじょうろで頭から清めの水を注ぎかけた。
絡みついた蛇がしゅわしゅわと溶けて消えていく。
「……」
氷にお湯を注ぎかけたかのような、殺すというより消している感覚だ。
だがこのまま日那乃の深想水に頼り切ってばかりはいられない。
「邪魔よ。いい虫除け、あったかしら」
桜はキューブ状のプラスチックボックスを取り出すと、足下へと放り投げた。
中に入ったピンク色のゼリーが空気に溶けて甘酸っぱい香りを放っていく。
道ノ蛇はその香りを嫌がってか、誡女たちからじわじわと距離を取り始める。
「虚弱付与はもう済んでるのよね? じゃあ仇華浸香よりも……」
ポケットからクリスタルカットの小瓶をいくつか取り出し、その中の一つを手に取った。
「これね」
キャップを開き、影大蛇めがけて投げつける。
空中で破裂した小瓶からは毒の霧が広がり、蛇大蛇を包み込んでいった。
「よし、今だ……!」
それを攻撃のチャンスとみた奏空は大きな刀を方に担ぎ、両手でしっかりと柄を握り込んだ。
「力を貸してくれ、虔翦!」
身体の勢いとてこの原理で、上段からたたき落とすように振り込む。
地面に叩き付けた勢いで奏空の身体が軽く浮いたが、伝達したエネルギーが黒い稲妻になって迸る。
道ノ蛇は海を割るかのように動いて稲妻をよけ、影大蛇だけに命中。
そのすぐ後に道ノ蛇は隊列を中衛へとシフトしていった。
「こいつ、巻き込みづらい位置に……!」
「だったら!」
きせきはポケットから種を一握り掴むと、蛇たちめがけてまき散らした。
「にょろにょろどうし、絡まって動けなくなっちゃえ!」
土に触れた途端に雑草が大量に生えていき、蛇たちに絡みつこうとうねりはじめる。
しかし道ノ蛇にはからみつくことなく、すかすかと身体をすり抜けるばかりだ。
影大蛇にも、からみはしたが巨大な柱にツタがはっているかのようにあまり気にしているようには見えない。
「にょろにょろなのに、なんだかふわふわしてるよ……わっ!」
そんなきせきめがけて蛇大蛇が襲いかかってきた。
牙をむき出しにして食らいつくという、蛇そのものといったような攻撃方法だ。
咄嗟に刀で防御するが、くわえた状態で持ち上げられ、そのまま上空へと放り投げられる。
「うわわっ!?」
「力はあるようですね」
奈那美は放り上げられたきせきを目で追いながら、冷静に数歩下がって両腕を翳した。
翳した所へストンと落ちるきせき。目をぱちくりとさせる。
「それにしても、蛇の群れを見ていると気分が悪くなりますね。早く退治してしまいたいところですが……」
「分かっています。最初から最大火力で行きますよ!」
ラーラは魔導書を早速開放して魔方陣を展開。
空をなぞる光の軌跡で円と三角形を描くと、円を無限に増幅させて巨大なペンローズタイルを生成。形成された全ての交差点から炎弾を発射していく。
「教会の方々はもう……これ以上の被害を出すわけにはいきません!」
炎の群れが直撃し、うねる影大蛇。
夕樹はその隙を突くようにして走り出した。
道ノ蛇に捕縛蔓が効きづらいことはきせきが既に見せている。二の舞をするほど夕樹も愚かでは無い。
銃に空圧弾を仕込んで乱射。ラーラのアームストロングめいた射撃に混ぜるようにして影大蛇と道ノ蛇もろともを狙って打ち続けた。
「ビスコッティ。敵のスキャンは済んだ?」
打ちながら小さく振り向く夕樹。
ラーラは首を振って応えた。
「すみません。まだ……」
「あせらないでね。まだ時間はあるから」
言いながらも、慎重に周囲を見回す。
日が陰り、暗くなってきた。
まるで夕樹たちを取り囲むように影が広がり、道ノ蛇がにょろにょろと背を伸ばしていく。
もしかしたら、本番はこれからかもしれない。
●
道ノ蛇が繰り出す影シズメと影ガラミは彼らを大いに苦しめるものだった。
睡眠による行動不能状態と、奏空やきせきといった破壊力の高いメンバーによる混乱状態が味方の作戦を大きく狂わせていくのだ。
対して、桜の清廉珀香や日那乃の超純水。加えて誡女の癒力活性が崩れかけた連携を素早く整わせてくれた。
「『しかし、自分の身で体験することでより深く理解することができました。影ガラミ……やはり術式で応用が可能な技かもしれません。読み切るには後一歩といった所でしたが、興味深いですね』」
誡女の存在がかなり邪魔になると踏んだ影大蛇は彼女を集中攻撃。
結果として誡女の体力は大幅に削られていたが、回復手段の多いこのチームである。
「誡女さん! 今回復しますから!」
「じっと、してて」
日那乃が頭上から黄金のじょうろを傾け、治癒液をさらさらと振りかけていく。
その一方で奏空が誡女の周りをくるくると周りながら、傷口にシュッシュと霧吹きをかけていた。
回復されてるんだか遊ばれてるんだかイマイチわからない状態だったが、底をつきかけていた体力はうまく回復できたようだ。
「『ありがとうございます。御影さんも工藤さんも、回復するのでこちらへ』」
誡女は手のひらにエネルギーを溜めると、きせきや奏空の頭を優しく撫で回してやった。
ほわほわと癒やされる奏空たち。
などと、いつまでも回復の時間を与えてくれる妖ではない。
蛇大蛇は全身から刃を突き出すと、誡女たちめがけて襲いかかった。
「させません! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
ラーラは眼前に四掛四の枡目図を展開。魔術文字をそれぞれに刻み込むと、激しい炎を発射。升目を通っるたびに炎が分裂し、影大蛇へと殺到していく。
直撃を受け、うなり声をあげる影大蛇。
このままではつらいと思ったのか、道ノ蛇が影大蛇の周りにまとわりつくように伸び始めた。
影大蛇を庇うつもりだ。
「無駄ですよ。あなたも被害者なのかもしれませんが、弱い者も生きていかねばなりません故……ご容赦ください」
奈那美が術符をまき散らし、それぞれに術式を機動。
空気中の水分を吸って氷結し、ナイフのように鋭くなった符の群れが一斉に影大蛇へ殺到。
庇いたてる道ノ蛇もろとも貫いていった。
はらはらと崩れ落ちていく道ノ蛇。
「最後だ。行くよ」
夕樹はクナイに毒を塗りつけながら側面をダッシュ。
と同時に桜ときせきも蛇大蛇を囲むように走り出した。
周囲をぐるぐると回るきせきたちに翻弄される蛇大蛇。
先に仕掛けたのは夕樹だった。
放ったクナイが蛇大蛇の目にあたる部分に突き刺さり、深く浸食していく。
更にきせきが植物の種子を投げつけ、顔の周りで次々に炸裂。
うなりどころか悲鳴に近い声をあげ、影大蛇が暴れ始めた。
「うるさいわね」
しゅん、と鋭い音がして影大蛇の首に細いツルが巻き付いた。
その先端を握っているのは桜である。
「殺すわ」
ピンと指で弾くや否や、ツルが締まって影大蛇の首をねじ切った。
●
「……」
妖のいなくなった道中。
奈那美は犠牲者へ黙祷していた。
目を開け、顔を上げる。
「死ねば許されるわけではありませんが、死者に花を手向けることは神様もお許しになるでしょう」
「なんの話かしら、よくわからないことを言うのね」
桜は周辺をぐるりと回ってきたようで、ナイフを手の中でもてあそんでいた。
「残っていたら殺すところだったわ。そういえばよそにもまだ残ってるのよね。殺しましょう」
「ころ、す……」
きせきは不思議と胸をこみあげる何かを感じて、口を押さえた。
「そんなんじゃないよ。けど、じゃあ、僕、なんのために戦うんだろう……」
「みなさん」
かすれ声の誡女がスポーツドリンクを持ってやってきた。
「お疲れ様です。ところで新しい術のレシピを思いついたのですが、後で実験場で付き合って頂いても?」
「おや、新しいスキルでも?」
「形になるかはまだ分かりませんけれど……研究材料としてはおもしろいかと」
一方、奏空は回収した神器を液体を満たしたボトルの中に沈めていた。
「御神酒につけたらいいって聞いたんだ。本当かどうかはともかく、なにもしないよりはいいよね」
「思ったより、大きく、ない」
ボトルの底に沈んだ神器を眺めて呟く日那乃。
「直接触れても大丈夫だったのかな。一応トング使ったけど……」
「考え、すぎ」
「そうだよ。核廃棄物じゃないんだから」
夕樹はため息のように言った。
仮に皮膚接触によって効果をもつのだとしたら、みたいなことを考え始めると死ぬほどややっこしいので要約すると、別に持って歩いても平気である。
ただ神器は瘴気みたいなものを放っており、周辺の環境を悪化させる効能を持つともいう。
ずっと持っていたら健康に悪そうだし、最悪妖ホイホイみたくなりかけない。
さっさとしまってさっさと届けるのがよかろう。
「それにしても、神器とは仰々しい名前だね。分不相応なんじゃない?」
「さあ……これがなんだか、まだ分かっていませんから」
ラーラはボトルの底で揺れる物体を見つめた。
「どうやってこの神器を使っていたのか分かれば、より深いことが分かる筈です。判断はそれからでも遅くは無いでしょう」
彼らは頷きあい、別の仲間との合流ポイントへと移動し始めた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
