≪神器争奪戦≫その蟲は神器に惹かれてやってきた
●新人類教会
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかしFiVEの手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで討たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
協会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●脳を喰らう妖
手のひら程度の黒瑪瑙の破片。
それが不幸を呼ぶなど誰が考えただろうか?
それを持つ者は没落し、病死する。そんな不吉な噂を持つ石。正体不明のそれを厳重に封印するようになったのは、当然の流れだった。
だがそれが新人類教会が『神器』と言われるものだと誰が知ろう。否、
「これが『神器』か……どういうカラクリなんだ?」
「さあな。石動宗主なら知っているんだろうが」
封印を解き、回収しに来た新人類教会のメンバーも、その正体についてはよくわかっていない。だがこれが『洗脳』に必要なものであることは知っている。大打撃を受けた『過激派』の切り札となることも。
「なんだか気分が悪いぜ。早く持ち帰っ――げが」
「あが、ぼあふぐ、べれれれれれれ!」
突如、奇声を上げる新人類教会の人間達。気が付けば、その背後に妖が現れていた。『神器』の放つ不穏な空気に惹かれ、強力な妖を呼び寄せてしまったのだ。
そして更には、奇声を上げた新人類教会の人間が泡を吹いて事切れ、そしてその死体が妖化したのだ。これが『神器』の能力なのか、はたまたこの妖の能力なのかはわからない。
ただ言えることは、このままだと周囲に被害が広がるという事だ。
●FiVE
「討伐対象はランク3の妖一体と、元新人類教会の妖四名――そして新人類教会が収集している『神器』の回収だ」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に資料と共に説明を開始する。
「ここで『神器』の正体が分かれば、連中の首根っこを掴めるかもしれない。皆、頼んだぜ!」
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかしFiVEの手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで討たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
協会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●脳を喰らう妖
手のひら程度の黒瑪瑙の破片。
それが不幸を呼ぶなど誰が考えただろうか?
それを持つ者は没落し、病死する。そんな不吉な噂を持つ石。正体不明のそれを厳重に封印するようになったのは、当然の流れだった。
だがそれが新人類教会が『神器』と言われるものだと誰が知ろう。否、
「これが『神器』か……どういうカラクリなんだ?」
「さあな。石動宗主なら知っているんだろうが」
封印を解き、回収しに来た新人類教会のメンバーも、その正体についてはよくわかっていない。だがこれが『洗脳』に必要なものであることは知っている。大打撃を受けた『過激派』の切り札となることも。
「なんだか気分が悪いぜ。早く持ち帰っ――げが」
「あが、ぼあふぐ、べれれれれれれ!」
突如、奇声を上げる新人類教会の人間達。気が付けば、その背後に妖が現れていた。『神器』の放つ不穏な空気に惹かれ、強力な妖を呼び寄せてしまったのだ。
そして更には、奇声を上げた新人類教会の人間が泡を吹いて事切れ、そしてその死体が妖化したのだ。これが『神器』の能力なのか、はたまたこの妖の能力なのかはわからない。
ただ言えることは、このままだと周囲に被害が広がるという事だ。
●FiVE
「討伐対象はランク3の妖一体と、元新人類教会の妖四名――そして新人類教会が収集している『神器』の回収だ」
久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者に資料と共に説明を開始する。
「ここで『神器』の正体が分かれば、連中の首根っこを掴めるかもしれない。皆、頼んだぜ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の全討伐
2.『神器』の回収
3.なし
2.『神器』の回収
3.なし
再び動き始めた新人類教会。その組織力を……あれ?
●敵情報
・脳喰い(×1)
生物系・妖。ランク3。形状を例えるなら、体長2メートルのトンボです。最もトンボは足が十六本もなく、尾に針は生やしていませんが。
動けなくなった者の脳みそに足を突き刺し、直接脳を吸い上げます。ゲーム的には、戦闘不能時の重傷率が上昇するだけで、後遺症などは残りません。
餌がある限り、逃亡することはありません。
攻撃方法
複数の足 物近列 複数の足を交互に繰り出し、近くにいる物に攻撃します。〔二連〕
尾の針 物遠単 鋭い針を飛ばし、とどめを刺してきます。[必殺]
凶刃の風 特近貫3 羽根を羽ばたかせ、鋭い風を放ちます。〔出血〕(100%、50%、25%)
蟲の奇声 特遠全 耳をつんざく奇声を上げ、心を乱します。[ダメージ0][混乱]
飛行 P 自身の翼で飛行する事が出来ます。
脳喰い P 戦闘不能になった者から脳を喰らいます。戦闘不能時の重傷率UP。誰かが戦闘不能になるたびに(命数復活などは戦闘不能に含みません)、このキャラの物攻&特攻UP
・元新人類教会信者(×4)
生物系・妖。ランク1。脳喰いに殺されて脳を食われた元人間の死体が妖化しました。これが脳喰いの影響なのか、『神器』の影響なのかはわかりません。
元の人間であった心はなく、本能のままに襲い掛かってきます。
攻撃方法
噛みつき 物近単 抱き着いて噛みついてきます。
胃酸 特遠単 口から吐しゃ物を放ち、強い酸で溶かしてきます。
人の奇声 特遠全 うわ言のような奇声を上げ、心を乱します。[ダメージ0][弱体]
●神器
手のひらサイズの黒瑪瑙です。元新人類教会信者の一人が持っています。
とある密告者からの情報により、お神酒につけることで封印可能であることが分かっています。
●場所情報
山の中腹に建てられた今は人が住んでいない洋館。その庭園。明かりや足場は戦闘に支障はありません。人が来る可能性は皆無です。
戦闘開始時、『脳喰い』『元新人類教会信者(×4)』全てが前衛にいます。覚者との距離は十メートルとします。
急ぎ現場に駆け付けたという事で、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年10月10日
2016年10月10日
■メイン参加者 8人■

●
「妖が……ってこれほんまに妖!?」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)の一言は、この場にいる人間全ての感想を物語っていた。夢見に聞いた情報を加味すれば、この十六本の足が生えた巨大トンボは脳を喰らうという。ただ殺すのではなく、その食性も常識外だ。
「縁起担いで道着の紐蜻蛉結びにしといたけど……これはなあ」
トンボのような妖を見ながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は空笑いした。確かに一番近いのはトンボだろう。だがこれは異常すぎる。大きさも足の数も違えば、もはやそれは別の生物だ。どのみち、やるべきことは変わらないのだが。
「今回の妖には生理的嫌悪感が。人の脳を……とか……ちょっと……」
少し青ざめた顔で『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)が妖を見た。元新人類教会の信者の頭蓋には小さな穴が開いている。おそらくそこから脳を吸われたのだろう。その状況を想像して、背筋が震える。
「燐ちゃん。最近怪我をしたばかりなんだから、あんまり無茶はしないようにね?」
優しく声をかける『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)だが、そうも言っていられないのも理解している。ランク3の妖。それを無傷で倒せるハズがない。ましてや相手は脳を喰らうと言われた妖。なんとか無事に終わらせたいのだが。
「彼らはもう……人ではなくなってしまっているんですね」
元新人類教会の人間を見て三峯・由愛(CL2000629)は悲しそうな表情を浮かべた。彼ら目的の為なら暴力を厭わない人間達だったが、それでも死んでいいわけではない。ああなった以上、せめて安らかに眠らせてあげようと引き金に力を籠める。
「洗脳に使う神器が妖を引き寄せた、か」
静かに状況分析を行う『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。元信者が持っているであろう黒瑠璃の欠片。それがこの妖を引き寄せたのなら、それにはどのような力があるのだろうか。今は任務に集中するが、興味があるのは事実だ。
「負けられない……ここで倒す」
静かに闘志を燃やす『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)。相手はランク3の妖。生半可な実力ではこの数の覚者でも押し切られるだろう。神具をしっかりと握りしめ、一瞬たりとも目を離さぬと気合を入れる。此処より先、戦場也。
「クソ気持ち悪いわね! 私の天才脳みそが一回で吸いきれると思ったら大間違いよ!」
対照的に『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は声をあげて自らを鼓舞していた。相手への第一印象を叫んで威嚇し、相手の能力に屈しない気合がこもった一言である。内容はどうあれ、妖殲滅に心が向いているのは事実だ。
「グヂュビイイイイイイイイ!」
妖が叫ぶ。人間の声帯では発しきれない奇妙な音。だがそれが明らかな戦意で、そしてこちらに襲い掛かって来る合図だという事は分かる。同時に動く人間を見つけ、襲い掛かってくる元信者達。
目標の神器は誰が持っているのかわからない。服のポケットにでも入っているのだろうが、見ただけで判断するのは無理だった。
妖と覚者。殺意と戦意が混じった咆哮をあげ、両者はぶつかり合う。
●
「後ろには行かせません。貴方のお相手は私です」
最初に動いたのは燐花だ。その圧倒的な速度を生かして脳喰いの前に立ち、二本の妖刀を構える。制服を翻してトンボのような妖に切りかかる。戦闘の高揚でなんとか生理的嫌悪を押さえるが、気持ち悪いと思う事だけは止められない。
体内の細胞を活性化させて反応速度を上げ、一気に切りかかる燐花。相手の懐に潜り込むように迫り、二本の刃を交差するように振りかぶる。後ろにいる恭司を意識しながら、そちらには向かわせないと妖の体を傷つける。
「私を捉える事が出来ますか?」
「トンボは任せたわ! 私は信者をぶった切る!」
緋鞘に赤い柄の日本刀を抜き放ち、数多が元新人類教会信者に向かう。四人の誰かが持つだろう黒瑠璃の欠片。神器と呼ばれるそれを回収しなくては。彼らの狂い方から誰が持つか判断したかったが、どれも似たようなモノだと判断せざるを得なかった。
刀の柄を強く握り、源素の炎で力を増した肉体を制御することなく数多は刀を抜き放つ。イメージは一瞬。そして剣戟もまた一瞬。文字通り、瞬きの間に振るわれる複数の刃の乱舞。力強い一閃が元信者達の肉体を深く切り刻む。
「ジャック君! ビビってる暇あったら回復!」
「わかってるわ、数多ァ! び、びびってなんかねーよ!」
数多の声に弾かれるようにジャックが叫ぶ。事実、ジャックはビビってはいなかった。だが確かに恐れはあった。元人間である妖。これを傷つけることに罪悪感を抱いていた。既に命などないだろうが、それでもまた『殺す』のかと思うと。
吐き気を何とか抑えながら、息を整えるジャック。今はまだ回復はいらないと判断し、源素の炎を手に宿した。生まれる炎の津波が全ての妖を飲み込んでいく。信者の苦悶の声はない。それが今のジャックにとっては救いだった。
「元信者、もう死んだのにまた殺すのか。ごめん、ごめんな」
「……いいえ。彼らはすでに死んでいます。人間は二度死にません」
ジャックの言葉に、むしろ自分に言い聞かせるように由愛が口を開く。死んだ人間は生き返らない。だからこれは人殺しではない。死体の妖を退治するだけだ。決意とともに唇を強く結び、神具を構える。
銃口を戦場に向け、引き金に力を籠める由愛。自らが放った霧は、妖達の視界を奪いその攻撃力を下げている。その隙を逃さぬように、引き金を引いた。連続で射出される弾丸。その振動を全身で受け止めながら、妖の群れを穿っていく。
「神器が呼び寄せた妖、これ以上誰も殺させませんよ」
「確かにね。それにしてもこの神器、本当にどういうものなのやら」
恭司は夢見から聞いた情報を元に、神器の推理を組み立てる。新人類教会が洗脳に使うもので、覚者すら洗脳する黒瑠璃の欠片。それが妖を引き寄せたこともあるが、信者達もその詳細は知らないというのも気になる。――その危険性さえも、だ。
頭を振って思考を切り替える。今は戦いに集中しよう。恭司は術符を手に手のひらに稲妻を集める。手のひらを妖が集まる場所に向かって突き出し、雷撃を叩き込む。蛇のようにうねり、そして襲い掛かる雷の一撃が妖に襲い掛かる。
「今はこの妖を駆除しちゃわないと何もわかりそうにないね!」
「確かに。しかしそう簡単に駆除できるわけでもなさそうだ」
覚者の攻撃を受けた妖を見ながら理央が額の汗をぬぐう。一緒に戦うメンバーの強さは知っている。だがその攻撃を受けても脳喰いが弱まる気配はない。確かにダメージは蓄積しているだろうが、それを意に介さず攻めてくる。異常な食性よりもその事実が恐ろしい。
やるべきことをやろう、と理央は元信者の妖を見る。理性なくただ暴れる人の形をした妖。彼らに向けて符を飛ばす。符はひらりと舞いながら燃え上がり、その炎は鳥となって妖に向かって飛んだ。炎の鳥は妖の前で爆ぜて、その体を燃やし始める。
「体力が危ないと思った人はすぐに言って」
「まだ大丈夫だ。最悪自分で回復する」
薙刀を振るいながら行成が答える。体力を切らさないようにと回復の術式を活性化してきた。それを行使しないで済む状況ならそれに越したことはないが、そうもいかないだろうと唇を強く結ぶ。ランク3の妖。その強さは肌で知っている。
水を纏わせて状態異常への抵抗力を高め、真っ直ぐに前衛で薙刀を振る行成。元信者と脳喰いを狙えると判断するや否や、薙刀を大きく振るい突き出した。身体をひねり、さらにもう一撃。鋭い痛みが体を襲うが、それ以上の打撃を妖に与えることが出来た。
「熱く、ただひたすらに熱く……もっと熱くなれ……!」
「しかし脳味噌ちゅうちゅうとか、某新喜劇のギャグやないかい」
重い空気を振り払おうと凛がおどけた口調で喋る。もちろん、ギャグで済まされないのは分かっている。それをされない為にも気合を入れて敵陣に挑む。白銀の刃を妖に向け、腰を落として構える。
燃え盛る闘争心を静めるように呼吸を行い『朱焔』を構える凛。呼吸、リズム、タイミング。幾多の鍛錬と実戦がベストの呼吸を刻み、リズムをつかみ、攻撃のタイミングを得る。呼気と共に地を這うように刃を振るい、翻った刃が更に元信者と脳喰いを斬る。
「焔陰流・逆波! どやぁ!」
覚者の猛攻は、確実に妖の体力を削っていく。『成り立て』である元信者の妖はそれに耐えきれずすべて倒れ伏した。
「『神器』は……誰が持っている!?」
「あれや! トンボが離れへんヤツ!」
凛の指摘通り、脳喰いはある元信者の近くを飛び交っていた。それを調べるとその懐に黒瑠璃の欠片が見つかった。
「とったどー! ……ってなにこれ気持ち悪い! なんか脈うってる!?」
神器を手にした数多が欠片の内部で脈打つ何かを見つけて声をあげる。龍の心を強く活性化して湧き上がる不快感に耐えるが、予想外の事に驚いてしまう。持ってきた水筒に入れて、由愛に渡す。
これで目的の一つは達した。後は妖を滅するだけ。
だがそれが困難であることは、戦っている覚者が一番理解している。
●
覚者達は戦闘不能になることを避けるために、ローテーションを組んで前中衛を交代して戦っていた。誰かが戦闘不能になるたびに強化される妖に対しては、有効な戦術だ。ジャックや理央の体力回復や由愛の状態回復などもあって、問題なく機能している。
だがそれは、ダメージが前中衛に適度に分散することになっていた。
「ジュロアアアアアアアアアアア!」
「く……! これは……!?」
「この声って精神的なモノじゃなく、鼓膜を揺さぶってくる……!」
凛と数多は蟲があげる奇声を強く心をもって耐えようとしたが、それはあくまで精神的な防御でしかない。直接的な振動の対策にはならなかった。
生まれた混乱の隙を縫うように、妖が羽ばたき一気に飛翔する。飛翔中は不安定で防御が脆くなる。それを知ったうえで、だ。覚者はそれを逃さず攻撃を加えるが、妖はそれに耐えて後衛に手が届く場所に降り立つ。
正確には、由愛に手が届く場所に。
「え……? なんで私を……あ!」
「そうか。『神器』を持っているからか!」
『神器』に惹かれてやってきた妖が、『神器』を持っていこうとする覚者を狙う。納得の行動だった。由愛とそして後衛に向けて放たれる妖の攻撃。由愛とジャックが一気に命数を削られる。
形としては妖は中衛で覚者に囲まれた形だ。陣形を整え直すか否か。覚者は迷う。このまま後衛を責めさせるわけにはいかない。だが、わざわざ移動する手間を取る余裕があるのか? 何よりも、このまま囲んで殴った方が速くないのか?
躊躇はあったが、最終的には手間を惜しんでこのまま囲んで攻めることにした。ここに立つ者は皆、守られるお姫様ではない。決意を持った戦士なのだ。
「りんかさん! 龍鱗きめちゃって! うまくイカなかったら尻尾ひっぱるわよ!」
「尻尾に悪戯はご法度ですよ。酒々井先輩」
燐花を叱咤激励しながら脳喰いを攻撃する数多。羽根を狙う余裕はなさそうだと諦めて、その体に切りかかる。激励された燐花は言葉を返しながら、高速で妖の周りを切り刻むように動く。ある隔者の技の模倣。速度を力に変換する技。だが肉体的疲労も大きい。
「焔陰流・煌焔! 一気に削ったるわ!」
「負けるわけには、行かない!」
凛と行成がそれぞれの神具を振るう。体術メインの二人は攻撃の度に自らの体を痛めていた。事、三度攻撃する凛はその疲労も激しい。だが攻撃の手を緩めるつもりはなかった。ここが勝敗の分水嶺と、自らを削りながら攻撃を加える。
「仕方ない。僕も回復に回るよ」
「水行使いの本領、かな」
繰り返される妖の攻撃に恭司と理央が回復中心に行動を移行する。恭司は肉体強化の後に回復に移行し、理央は自然治癒力を上昇させた後に回復に回る。気力を振り絞って術式を展開し、癒しの水が戦場に広がっていく。
「これは……あかん……!」
「すみません。あとは任せます……」
ジャックと由愛が妖の足に打ち据えられて、意識を失う。その頭蓋に突き刺さった足から少しずつ何かを吸い上げていく妖。その度に震える二人の肉体。妖は十六本の足の一つを動かし、由愛が持つ水筒を拾い上げた。
強化された妖だが、囲まれて攻撃されていたこともありその疲弊は激しい。傷のない部分は殆どなく、あと一息なのは誰の目にも明らかだった。
だが覚者達も疲弊している。ローテーション作戦の甲斐あって個々のダメージに余裕はあるが、それでも油断はできない。回復量と妖の打撃量を比べれば妖に軍配が上がり、ダメージが蓄積するたびにローテーションの頻度は高まっていく。
「……っ!」
「まだまだ負けへんで!」
一度の攻撃の疲弊度もあって、燐花と凛が命数を削られる。
「まだだ……っ!」
そして尻尾の針に体を貫かれた行成が膝をつく。命数を燃やして立ち上がり、薙刀を杖に立ち上がる。
真正面から妖と戦えば、如何に体力の高い覚者であっても倒れ伏していたであろう。
偶然の産物とはいえ、妖の目的を利用して火力の高い覚者を攻撃目標から逸らせたのは大きかった。それにより、高火力の戦力を長く維持できたのだ。
「まだまだ負けないわよ! ……ってりんかさん!?」
「役割は果たしました。あと、ひと息……」
「トドメはくれてやるから、早よ行きぃ」
妖の攻撃で数多が命数を削られ、燐花と凛が戦闘不能まで追い込まれる。二人の脳を喰らい妖が強化されるが、その牙が振るわれるよりも早く行成の薙刀が妖に迫った。
「その命脈――」
裂帛と共に突き出される薙刀。華があしらわれた刀身が妖の心臓を貫いた。痙攣する妖が振り向き行成を攻撃するより先に、薙刀を振るって妖を投げ飛ばす。地面を転がった妖は羽根を動かし飛ぼうとするが、力無くただもがくに過ぎない。その動きも少しずつ小さくなる。
「ここで断たせてもらう」
再度薙刀を振るい、妖の体液を振り払う行成。体液が地面に着く頃には、妖の命は尽き果てていた。
●
妖が奪い取った神器が入った水筒を再回収する覚者。
「それにしてもこの妖を引きつける能力、なんなのかしら?」
数多は首をひねり、神器の事を考える。妖を引き寄せる効力など、今まで見た事もない。仮にそんなものがあるなら、妖による犯罪を誘発することが出来るだろう。
「妖を引き付ける能力自体は、副次的な物なんじゃないかな? 空気を穢す事による結果として妖がやってきた、とか」
陰陽術的な思考から理央は推測を語る。新人類教会はこれを洗脳の道具としていた。ならば主たる目的はこの空気で正常な思考を奪うことで、妖自体はただの結果なのだろう。
「元信者の妖化はやっぱり神器のせいかな」
倒れた燐花を介抱しながら恭司が口を開く。脳喰いが原因なら、こういった死者の妖がもっと増えているはずだ。やはりこの神器は世に出していいモノではない。
「……大丈……夫……です、よ」
恭司を安心させようと燐花が途切れがちに口を開く。流石に疲労が激しいのか、言葉に力がない。だが、その甲斐あって勝利を掴めた。
「無理はするな。今はゆっくり休むんだ」
行成は水の術式を使って倒れた仲間を回復していた。根本的な問題は解決していないが、この場は制したのだ。ゆっくりする時間的余裕はある。
「お前等一体何を目指しているんだ? 神にでもなるつもりか」
『我々は、新人類(覚者)の保護が、目的。その為に、力が……神器が……』
ジャックは倒れたままその場に漂う元信者の霊に問いかける。帰ってきた答えは新人類教会の理念。方法こそ過激ではあるが、彼らはこの時代に生きる覚者を守ろうとしていたのだ。
「どうか安らかに……」
よろめく体を何とか動かし、倒れた元信者の瞳を閉じる由愛。理不尽に死んだ元信者の苦悶に満ちた表情が、少しだけ穏やかになる。手を合わせ、その冥福を祈った。
「せやな。鎮魂歌ぐらい歌ったるか」
気だるげに凛が半身を起こし、レクイエムを歌う。ソプラノの歌声が広がっていく。それは神器や妖で汚れた戦場を浄化するように、静かに響き渡っていた。
かくして妖は討たれ、神器はFiVEの手に渡る。
この神器が何なのか。それはこれから調べられていくだろう。
万人が見ても不吉としか思えない神器。それを集める新人類教会。その闇は深い。
だが、闇を照らす光は確かに存在していた。
ファイブの覚者という光が。
「妖が……ってこれほんまに妖!?」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)の一言は、この場にいる人間全ての感想を物語っていた。夢見に聞いた情報を加味すれば、この十六本の足が生えた巨大トンボは脳を喰らうという。ただ殺すのではなく、その食性も常識外だ。
「縁起担いで道着の紐蜻蛉結びにしといたけど……これはなあ」
トンボのような妖を見ながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は空笑いした。確かに一番近いのはトンボだろう。だがこれは異常すぎる。大きさも足の数も違えば、もはやそれは別の生物だ。どのみち、やるべきことは変わらないのだが。
「今回の妖には生理的嫌悪感が。人の脳を……とか……ちょっと……」
少し青ざめた顔で『迷い猫』柳 燐花(CL2000695)が妖を見た。元新人類教会の信者の頭蓋には小さな穴が開いている。おそらくそこから脳を吸われたのだろう。その状況を想像して、背筋が震える。
「燐ちゃん。最近怪我をしたばかりなんだから、あんまり無茶はしないようにね?」
優しく声をかける『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)だが、そうも言っていられないのも理解している。ランク3の妖。それを無傷で倒せるハズがない。ましてや相手は脳を喰らうと言われた妖。なんとか無事に終わらせたいのだが。
「彼らはもう……人ではなくなってしまっているんですね」
元新人類教会の人間を見て三峯・由愛(CL2000629)は悲しそうな表情を浮かべた。彼ら目的の為なら暴力を厭わない人間達だったが、それでも死んでいいわけではない。ああなった以上、せめて安らかに眠らせてあげようと引き金に力を籠める。
「洗脳に使う神器が妖を引き寄せた、か」
静かに状況分析を行う『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。元信者が持っているであろう黒瑠璃の欠片。それがこの妖を引き寄せたのなら、それにはどのような力があるのだろうか。今は任務に集中するが、興味があるのは事実だ。
「負けられない……ここで倒す」
静かに闘志を燃やす『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)。相手はランク3の妖。生半可な実力ではこの数の覚者でも押し切られるだろう。神具をしっかりと握りしめ、一瞬たりとも目を離さぬと気合を入れる。此処より先、戦場也。
「クソ気持ち悪いわね! 私の天才脳みそが一回で吸いきれると思ったら大間違いよ!」
対照的に『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は声をあげて自らを鼓舞していた。相手への第一印象を叫んで威嚇し、相手の能力に屈しない気合がこもった一言である。内容はどうあれ、妖殲滅に心が向いているのは事実だ。
「グヂュビイイイイイイイイ!」
妖が叫ぶ。人間の声帯では発しきれない奇妙な音。だがそれが明らかな戦意で、そしてこちらに襲い掛かって来る合図だという事は分かる。同時に動く人間を見つけ、襲い掛かってくる元信者達。
目標の神器は誰が持っているのかわからない。服のポケットにでも入っているのだろうが、見ただけで判断するのは無理だった。
妖と覚者。殺意と戦意が混じった咆哮をあげ、両者はぶつかり合う。
●
「後ろには行かせません。貴方のお相手は私です」
最初に動いたのは燐花だ。その圧倒的な速度を生かして脳喰いの前に立ち、二本の妖刀を構える。制服を翻してトンボのような妖に切りかかる。戦闘の高揚でなんとか生理的嫌悪を押さえるが、気持ち悪いと思う事だけは止められない。
体内の細胞を活性化させて反応速度を上げ、一気に切りかかる燐花。相手の懐に潜り込むように迫り、二本の刃を交差するように振りかぶる。後ろにいる恭司を意識しながら、そちらには向かわせないと妖の体を傷つける。
「私を捉える事が出来ますか?」
「トンボは任せたわ! 私は信者をぶった切る!」
緋鞘に赤い柄の日本刀を抜き放ち、数多が元新人類教会信者に向かう。四人の誰かが持つだろう黒瑠璃の欠片。神器と呼ばれるそれを回収しなくては。彼らの狂い方から誰が持つか判断したかったが、どれも似たようなモノだと判断せざるを得なかった。
刀の柄を強く握り、源素の炎で力を増した肉体を制御することなく数多は刀を抜き放つ。イメージは一瞬。そして剣戟もまた一瞬。文字通り、瞬きの間に振るわれる複数の刃の乱舞。力強い一閃が元信者達の肉体を深く切り刻む。
「ジャック君! ビビってる暇あったら回復!」
「わかってるわ、数多ァ! び、びびってなんかねーよ!」
数多の声に弾かれるようにジャックが叫ぶ。事実、ジャックはビビってはいなかった。だが確かに恐れはあった。元人間である妖。これを傷つけることに罪悪感を抱いていた。既に命などないだろうが、それでもまた『殺す』のかと思うと。
吐き気を何とか抑えながら、息を整えるジャック。今はまだ回復はいらないと判断し、源素の炎を手に宿した。生まれる炎の津波が全ての妖を飲み込んでいく。信者の苦悶の声はない。それが今のジャックにとっては救いだった。
「元信者、もう死んだのにまた殺すのか。ごめん、ごめんな」
「……いいえ。彼らはすでに死んでいます。人間は二度死にません」
ジャックの言葉に、むしろ自分に言い聞かせるように由愛が口を開く。死んだ人間は生き返らない。だからこれは人殺しではない。死体の妖を退治するだけだ。決意とともに唇を強く結び、神具を構える。
銃口を戦場に向け、引き金に力を籠める由愛。自らが放った霧は、妖達の視界を奪いその攻撃力を下げている。その隙を逃さぬように、引き金を引いた。連続で射出される弾丸。その振動を全身で受け止めながら、妖の群れを穿っていく。
「神器が呼び寄せた妖、これ以上誰も殺させませんよ」
「確かにね。それにしてもこの神器、本当にどういうものなのやら」
恭司は夢見から聞いた情報を元に、神器の推理を組み立てる。新人類教会が洗脳に使うもので、覚者すら洗脳する黒瑠璃の欠片。それが妖を引き寄せたこともあるが、信者達もその詳細は知らないというのも気になる。――その危険性さえも、だ。
頭を振って思考を切り替える。今は戦いに集中しよう。恭司は術符を手に手のひらに稲妻を集める。手のひらを妖が集まる場所に向かって突き出し、雷撃を叩き込む。蛇のようにうねり、そして襲い掛かる雷の一撃が妖に襲い掛かる。
「今はこの妖を駆除しちゃわないと何もわかりそうにないね!」
「確かに。しかしそう簡単に駆除できるわけでもなさそうだ」
覚者の攻撃を受けた妖を見ながら理央が額の汗をぬぐう。一緒に戦うメンバーの強さは知っている。だがその攻撃を受けても脳喰いが弱まる気配はない。確かにダメージは蓄積しているだろうが、それを意に介さず攻めてくる。異常な食性よりもその事実が恐ろしい。
やるべきことをやろう、と理央は元信者の妖を見る。理性なくただ暴れる人の形をした妖。彼らに向けて符を飛ばす。符はひらりと舞いながら燃え上がり、その炎は鳥となって妖に向かって飛んだ。炎の鳥は妖の前で爆ぜて、その体を燃やし始める。
「体力が危ないと思った人はすぐに言って」
「まだ大丈夫だ。最悪自分で回復する」
薙刀を振るいながら行成が答える。体力を切らさないようにと回復の術式を活性化してきた。それを行使しないで済む状況ならそれに越したことはないが、そうもいかないだろうと唇を強く結ぶ。ランク3の妖。その強さは肌で知っている。
水を纏わせて状態異常への抵抗力を高め、真っ直ぐに前衛で薙刀を振る行成。元信者と脳喰いを狙えると判断するや否や、薙刀を大きく振るい突き出した。身体をひねり、さらにもう一撃。鋭い痛みが体を襲うが、それ以上の打撃を妖に与えることが出来た。
「熱く、ただひたすらに熱く……もっと熱くなれ……!」
「しかし脳味噌ちゅうちゅうとか、某新喜劇のギャグやないかい」
重い空気を振り払おうと凛がおどけた口調で喋る。もちろん、ギャグで済まされないのは分かっている。それをされない為にも気合を入れて敵陣に挑む。白銀の刃を妖に向け、腰を落として構える。
燃え盛る闘争心を静めるように呼吸を行い『朱焔』を構える凛。呼吸、リズム、タイミング。幾多の鍛錬と実戦がベストの呼吸を刻み、リズムをつかみ、攻撃のタイミングを得る。呼気と共に地を這うように刃を振るい、翻った刃が更に元信者と脳喰いを斬る。
「焔陰流・逆波! どやぁ!」
覚者の猛攻は、確実に妖の体力を削っていく。『成り立て』である元信者の妖はそれに耐えきれずすべて倒れ伏した。
「『神器』は……誰が持っている!?」
「あれや! トンボが離れへんヤツ!」
凛の指摘通り、脳喰いはある元信者の近くを飛び交っていた。それを調べるとその懐に黒瑠璃の欠片が見つかった。
「とったどー! ……ってなにこれ気持ち悪い! なんか脈うってる!?」
神器を手にした数多が欠片の内部で脈打つ何かを見つけて声をあげる。龍の心を強く活性化して湧き上がる不快感に耐えるが、予想外の事に驚いてしまう。持ってきた水筒に入れて、由愛に渡す。
これで目的の一つは達した。後は妖を滅するだけ。
だがそれが困難であることは、戦っている覚者が一番理解している。
●
覚者達は戦闘不能になることを避けるために、ローテーションを組んで前中衛を交代して戦っていた。誰かが戦闘不能になるたびに強化される妖に対しては、有効な戦術だ。ジャックや理央の体力回復や由愛の状態回復などもあって、問題なく機能している。
だがそれは、ダメージが前中衛に適度に分散することになっていた。
「ジュロアアアアアアアアアアア!」
「く……! これは……!?」
「この声って精神的なモノじゃなく、鼓膜を揺さぶってくる……!」
凛と数多は蟲があげる奇声を強く心をもって耐えようとしたが、それはあくまで精神的な防御でしかない。直接的な振動の対策にはならなかった。
生まれた混乱の隙を縫うように、妖が羽ばたき一気に飛翔する。飛翔中は不安定で防御が脆くなる。それを知ったうえで、だ。覚者はそれを逃さず攻撃を加えるが、妖はそれに耐えて後衛に手が届く場所に降り立つ。
正確には、由愛に手が届く場所に。
「え……? なんで私を……あ!」
「そうか。『神器』を持っているからか!」
『神器』に惹かれてやってきた妖が、『神器』を持っていこうとする覚者を狙う。納得の行動だった。由愛とそして後衛に向けて放たれる妖の攻撃。由愛とジャックが一気に命数を削られる。
形としては妖は中衛で覚者に囲まれた形だ。陣形を整え直すか否か。覚者は迷う。このまま後衛を責めさせるわけにはいかない。だが、わざわざ移動する手間を取る余裕があるのか? 何よりも、このまま囲んで殴った方が速くないのか?
躊躇はあったが、最終的には手間を惜しんでこのまま囲んで攻めることにした。ここに立つ者は皆、守られるお姫様ではない。決意を持った戦士なのだ。
「りんかさん! 龍鱗きめちゃって! うまくイカなかったら尻尾ひっぱるわよ!」
「尻尾に悪戯はご法度ですよ。酒々井先輩」
燐花を叱咤激励しながら脳喰いを攻撃する数多。羽根を狙う余裕はなさそうだと諦めて、その体に切りかかる。激励された燐花は言葉を返しながら、高速で妖の周りを切り刻むように動く。ある隔者の技の模倣。速度を力に変換する技。だが肉体的疲労も大きい。
「焔陰流・煌焔! 一気に削ったるわ!」
「負けるわけには、行かない!」
凛と行成がそれぞれの神具を振るう。体術メインの二人は攻撃の度に自らの体を痛めていた。事、三度攻撃する凛はその疲労も激しい。だが攻撃の手を緩めるつもりはなかった。ここが勝敗の分水嶺と、自らを削りながら攻撃を加える。
「仕方ない。僕も回復に回るよ」
「水行使いの本領、かな」
繰り返される妖の攻撃に恭司と理央が回復中心に行動を移行する。恭司は肉体強化の後に回復に移行し、理央は自然治癒力を上昇させた後に回復に回る。気力を振り絞って術式を展開し、癒しの水が戦場に広がっていく。
「これは……あかん……!」
「すみません。あとは任せます……」
ジャックと由愛が妖の足に打ち据えられて、意識を失う。その頭蓋に突き刺さった足から少しずつ何かを吸い上げていく妖。その度に震える二人の肉体。妖は十六本の足の一つを動かし、由愛が持つ水筒を拾い上げた。
強化された妖だが、囲まれて攻撃されていたこともありその疲弊は激しい。傷のない部分は殆どなく、あと一息なのは誰の目にも明らかだった。
だが覚者達も疲弊している。ローテーション作戦の甲斐あって個々のダメージに余裕はあるが、それでも油断はできない。回復量と妖の打撃量を比べれば妖に軍配が上がり、ダメージが蓄積するたびにローテーションの頻度は高まっていく。
「……っ!」
「まだまだ負けへんで!」
一度の攻撃の疲弊度もあって、燐花と凛が命数を削られる。
「まだだ……っ!」
そして尻尾の針に体を貫かれた行成が膝をつく。命数を燃やして立ち上がり、薙刀を杖に立ち上がる。
真正面から妖と戦えば、如何に体力の高い覚者であっても倒れ伏していたであろう。
偶然の産物とはいえ、妖の目的を利用して火力の高い覚者を攻撃目標から逸らせたのは大きかった。それにより、高火力の戦力を長く維持できたのだ。
「まだまだ負けないわよ! ……ってりんかさん!?」
「役割は果たしました。あと、ひと息……」
「トドメはくれてやるから、早よ行きぃ」
妖の攻撃で数多が命数を削られ、燐花と凛が戦闘不能まで追い込まれる。二人の脳を喰らい妖が強化されるが、その牙が振るわれるよりも早く行成の薙刀が妖に迫った。
「その命脈――」
裂帛と共に突き出される薙刀。華があしらわれた刀身が妖の心臓を貫いた。痙攣する妖が振り向き行成を攻撃するより先に、薙刀を振るって妖を投げ飛ばす。地面を転がった妖は羽根を動かし飛ぼうとするが、力無くただもがくに過ぎない。その動きも少しずつ小さくなる。
「ここで断たせてもらう」
再度薙刀を振るい、妖の体液を振り払う行成。体液が地面に着く頃には、妖の命は尽き果てていた。
●
妖が奪い取った神器が入った水筒を再回収する覚者。
「それにしてもこの妖を引きつける能力、なんなのかしら?」
数多は首をひねり、神器の事を考える。妖を引き寄せる効力など、今まで見た事もない。仮にそんなものがあるなら、妖による犯罪を誘発することが出来るだろう。
「妖を引き付ける能力自体は、副次的な物なんじゃないかな? 空気を穢す事による結果として妖がやってきた、とか」
陰陽術的な思考から理央は推測を語る。新人類教会はこれを洗脳の道具としていた。ならば主たる目的はこの空気で正常な思考を奪うことで、妖自体はただの結果なのだろう。
「元信者の妖化はやっぱり神器のせいかな」
倒れた燐花を介抱しながら恭司が口を開く。脳喰いが原因なら、こういった死者の妖がもっと増えているはずだ。やはりこの神器は世に出していいモノではない。
「……大丈……夫……です、よ」
恭司を安心させようと燐花が途切れがちに口を開く。流石に疲労が激しいのか、言葉に力がない。だが、その甲斐あって勝利を掴めた。
「無理はするな。今はゆっくり休むんだ」
行成は水の術式を使って倒れた仲間を回復していた。根本的な問題は解決していないが、この場は制したのだ。ゆっくりする時間的余裕はある。
「お前等一体何を目指しているんだ? 神にでもなるつもりか」
『我々は、新人類(覚者)の保護が、目的。その為に、力が……神器が……』
ジャックは倒れたままその場に漂う元信者の霊に問いかける。帰ってきた答えは新人類教会の理念。方法こそ過激ではあるが、彼らはこの時代に生きる覚者を守ろうとしていたのだ。
「どうか安らかに……」
よろめく体を何とか動かし、倒れた元信者の瞳を閉じる由愛。理不尽に死んだ元信者の苦悶に満ちた表情が、少しだけ穏やかになる。手を合わせ、その冥福を祈った。
「せやな。鎮魂歌ぐらい歌ったるか」
気だるげに凛が半身を起こし、レクイエムを歌う。ソプラノの歌声が広がっていく。それは神器や妖で汚れた戦場を浄化するように、静かに響き渡っていた。
かくして妖は討たれ、神器はFiVEの手に渡る。
この神器が何なのか。それはこれから調べられていくだろう。
万人が見ても不吉としか思えない神器。それを集める新人類教会。その闇は深い。
だが、闇を照らす光は確かに存在していた。
ファイブの覚者という光が。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
たまにはホラーチックな敵を出してみたいなぁ、という思いで出した脳喰いでした。
あくまでホラー『チック』。正体が分かっている怪物は、ホラーにあらず。
敵が敵なだけにかなりダメージを負った形になりましたが、無事、神器ゲットです。
神器がどういうものかは、禾STのシナリオなどにお任せします(丸投げ)。
新人類教会との戦いは続きます。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
たまにはホラーチックな敵を出してみたいなぁ、という思いで出した脳喰いでした。
あくまでホラー『チック』。正体が分かっている怪物は、ホラーにあらず。
敵が敵なだけにかなりダメージを負った形になりましたが、無事、神器ゲットです。
神器がどういうものかは、禾STのシナリオなどにお任せします(丸投げ)。
新人類教会との戦いは続きます。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
