<ヒノマル陸軍>暴力坂流乱闘術、伏見
●乱闘術極意
軍刀ひと振りが大地をえぐり、虚空を割いて岩を砕いた。
獣の女、伏見シヨは軍刀の柄を両手でしっかりと握り込み、返す刀で振り下ろす。
それを。
「オイ伏見バカヤロウ!」
素手で掴み取り、がちりと固定する、暴力坂乱暴。
「俺がいつそんなショボい技教えた!」
伏見の腹を蹴りつける。伏見は地面と水平に吹き飛び、背後の岩壁に身体を激突させた。
放射状にのびるヒビ。爆発でもしたように崩れた岩壁の中から、伏見はむくりと立ち上がる。
「センセイ……」
「総帥だバカヤロウ」
「淀が死にました」
岩を蹴り出し、歩き出す。
暴力坂はあずきのアイスバーを囓りながら言った。
「悔しいか」
「とんでもない!」
伏見の表情は、様々なものがうずまいていた。
歓喜、憤怒、快楽、憎悪、そしてなにより闘争そのものへの渇望と希望である。
「センセイのおっしゃる通りだ。やつら、やつら! アタシ一人に蹴り転がされてた連中が、リミッターを外した淀を倒したんだ! たったの、六人がかりで! ハハハ! あの、名も知れない弱小組織が、今や! AAAに取って代わらんばかりじゃないか! 楽しい、楽しいですよセンセイ!」
「だーから総帥だっつってんだろバカヤロウ」
アイスバーを一気に囓りとる。
その隙をつくかのように、高速で距離を詰める伏見。
首狙い横一文字斬り。
アイスの棒で、それを止める暴力坂。
「で、テメェはこの『祭り』に乗っかりたいと」
「はい! センセイ!」
「だったら気合いがたんねーなあ!」
叫びと共に伏見の顔面を掴み、振り上げて一転、地面へ頭から叩き付ける。
粉砕、爆発。螺旋を描いて舞い上がる砂埃。
マウントをとり、連続で顔面に左拳を叩き込んでいく。
血まみれの顔で、伏見は笑った。
爆発のように広がる炎。吹き飛ばされる暴力坂。
防御姿勢のまま空中で索敵した彼の視界いっぱいに伏見の姿が大写しとなった。
髪を炎のように燃え上がらせ、全身から波動を放つその姿に、暴力坂はアイスの棒を投げ捨てる。
「センセェ!」
右手で握った軍刀が真っ赤に輝き、暴力坂の首を狙う。
左手で握った軍刀が真っ赤に輝き、暴力坂の心臓を狙う。
それらを手刀で素早く打ち払い、からめるように刀の唾ごと握り込んで両足蹴りを叩き込む暴力坂。
ミサイルのように地面に突っ込み、またも大地を爆散させる伏見……だが両足は地面につけている。
わずかにかがみ、跳躍。
「センセェ!」
「そうだ伏見ィ! 闘争を楽しめ! 闘争だけを楽しめ! 他は全部忘れちまえ!」
全力斬撃と暴力坂のパンチがぶつかり合う。
はじけた衝撃波が周囲の空間を歪ませ、大地をひっぺがしていく。
「世は一時、命は一個! 楽しめ楽しめェ! 極楽浄土はここにあるぞォ!」
「ハイ!」
勝ったのは拳のほうだ。刀が折れ、伏見はきりもみ回転しながら地面に落下した。
しかし着地した暴力坂の頬にも、一筋の傷が走っていた。
「どうだ伏見、闘争は楽しいか」
「ハイ……」
目の色を無くし、肉体を変異させ、荒ぶる波動に包まれた伏見。
暴力坂はそれを見て、ニヤリと笑って背を向けた。
腰にぶらさげた軍刀を解くと、伏見へと肩越しに放り投げる。
「受け取れ馬鹿弟子。テメェは祭りに加わる資格を得た」
回転しながら飛んでくる刀を掴み取って、伏見は深く頭を下げた。
そして……。
●伏見進撃
「皆さん。ヒノマル陸軍大将格・伏見シヨが無差別な破壊活動を行ないながら北陸地方を南下中。
AAAがいち早く撃退行動を始めていますが、伏見は破綻者の進度を深めながら活動を続けています。
このまま進行を続ければ途中に存在する市街地が確実に被害を受けます。
所定の迎撃ポイントにて伏見を確実に撃破してください」
軍刀ひと振りが大地をえぐり、虚空を割いて岩を砕いた。
獣の女、伏見シヨは軍刀の柄を両手でしっかりと握り込み、返す刀で振り下ろす。
それを。
「オイ伏見バカヤロウ!」
素手で掴み取り、がちりと固定する、暴力坂乱暴。
「俺がいつそんなショボい技教えた!」
伏見の腹を蹴りつける。伏見は地面と水平に吹き飛び、背後の岩壁に身体を激突させた。
放射状にのびるヒビ。爆発でもしたように崩れた岩壁の中から、伏見はむくりと立ち上がる。
「センセイ……」
「総帥だバカヤロウ」
「淀が死にました」
岩を蹴り出し、歩き出す。
暴力坂はあずきのアイスバーを囓りながら言った。
「悔しいか」
「とんでもない!」
伏見の表情は、様々なものがうずまいていた。
歓喜、憤怒、快楽、憎悪、そしてなにより闘争そのものへの渇望と希望である。
「センセイのおっしゃる通りだ。やつら、やつら! アタシ一人に蹴り転がされてた連中が、リミッターを外した淀を倒したんだ! たったの、六人がかりで! ハハハ! あの、名も知れない弱小組織が、今や! AAAに取って代わらんばかりじゃないか! 楽しい、楽しいですよセンセイ!」
「だーから総帥だっつってんだろバカヤロウ」
アイスバーを一気に囓りとる。
その隙をつくかのように、高速で距離を詰める伏見。
首狙い横一文字斬り。
アイスの棒で、それを止める暴力坂。
「で、テメェはこの『祭り』に乗っかりたいと」
「はい! センセイ!」
「だったら気合いがたんねーなあ!」
叫びと共に伏見の顔面を掴み、振り上げて一転、地面へ頭から叩き付ける。
粉砕、爆発。螺旋を描いて舞い上がる砂埃。
マウントをとり、連続で顔面に左拳を叩き込んでいく。
血まみれの顔で、伏見は笑った。
爆発のように広がる炎。吹き飛ばされる暴力坂。
防御姿勢のまま空中で索敵した彼の視界いっぱいに伏見の姿が大写しとなった。
髪を炎のように燃え上がらせ、全身から波動を放つその姿に、暴力坂はアイスの棒を投げ捨てる。
「センセェ!」
右手で握った軍刀が真っ赤に輝き、暴力坂の首を狙う。
左手で握った軍刀が真っ赤に輝き、暴力坂の心臓を狙う。
それらを手刀で素早く打ち払い、からめるように刀の唾ごと握り込んで両足蹴りを叩き込む暴力坂。
ミサイルのように地面に突っ込み、またも大地を爆散させる伏見……だが両足は地面につけている。
わずかにかがみ、跳躍。
「センセェ!」
「そうだ伏見ィ! 闘争を楽しめ! 闘争だけを楽しめ! 他は全部忘れちまえ!」
全力斬撃と暴力坂のパンチがぶつかり合う。
はじけた衝撃波が周囲の空間を歪ませ、大地をひっぺがしていく。
「世は一時、命は一個! 楽しめ楽しめェ! 極楽浄土はここにあるぞォ!」
「ハイ!」
勝ったのは拳のほうだ。刀が折れ、伏見はきりもみ回転しながら地面に落下した。
しかし着地した暴力坂の頬にも、一筋の傷が走っていた。
「どうだ伏見、闘争は楽しいか」
「ハイ……」
目の色を無くし、肉体を変異させ、荒ぶる波動に包まれた伏見。
暴力坂はそれを見て、ニヤリと笑って背を向けた。
腰にぶらさげた軍刀を解くと、伏見へと肩越しに放り投げる。
「受け取れ馬鹿弟子。テメェは祭りに加わる資格を得た」
回転しながら飛んでくる刀を掴み取って、伏見は深く頭を下げた。
そして……。
●伏見進撃
「皆さん。ヒノマル陸軍大将格・伏見シヨが無差別な破壊活動を行ないながら北陸地方を南下中。
AAAがいち早く撃退行動を始めていますが、伏見は破綻者の進度を深めながら活動を続けています。
このまま進行を続ければ途中に存在する市街地が確実に被害を受けます。
所定の迎撃ポイントにて伏見を確実に撃破してください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.伏見の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
住民避難の完了した住宅地。
アパートが等間隔に並んでおり、そばに自動車二十台分の駐車場があります。
ここを緊急の迎撃ポイントとして設定。伏見を迎え撃ちます。
現地の自動車は大半がどいていますがごく一部残っています。
夢見が感知したのは暴力坂とのやりとりのみで、戦闘力につちえはAAAからの測定および推測情報として受け取っています。
●エネミーデータ
伏見シヨ
獣火行、破綻者深度1~2。
戦闘突入時には2まで進んでいると思われます。
戦闘が激化すればこのまま進度が3,最悪4まで進むと予測されています。
想定スキルは天駆、鎧通し、白夜、十六夜、命力翼賛、戦巫女之祝詞
加えて未開スキル『乱闘大活性』をもっています。
攻撃性能を短時間大幅に上げる補助スキルのようです。
戦った隊員の報告によれば、とてつもなく攻撃能力が高いため半端な防御力では最悪十秒と持たないそうです。
大回復と超防御で粘りまくる作戦と、『やられる前にやる』作戦、のどちらかを推奨するとのことです。
●補足情報
ヒノマル陸軍とは七星剣直径組織。暴力坂乱暴はその総帥にあたり、伏見はかつての京都作戦にてファイヴとぶつかっている大将格の覚者。
伏見の破綻者化は暴力坂とひたすらぶつかりあうことで偶発的に起こったものと思われる。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年10月06日
2016年10月06日
■メイン参加者 6人■

●『世界、未来、戦争と平和? そんなもん、どうだっていい!』
「伏見シヨ……」
巫女服の裾が靡く。
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は荒い向かい風をにらんでいた。
「あの時とは、私たちも、あなたたちも、違うの、でしょう。遠慮は、いたしません」
虚空から伸びたふたふりの刀をそれぞれ引き抜き、交差するように構える。
その横では、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が遠い空の先を見つめていた。
「自ら望んで闘争に墜ちるなんて、やっぱりあの方たちの考えることは分かりません」
「……」
そんな二人をよそに、深緋・久作(CL2001453)は静かに瞑目していた。
(例えば。殺して殺して殺しつくして。敵も味方も斬り伏せて。老若男女容赦なく。人も妖もじぇのさいど。屍山血河その果てに。死屍累々その上で。この命断てたなら。きっと寂しくないのでしょう。きっと笑って死ねるでしょう。しかして。それが叶わぬならば……)
「ばかばかしい!」
久作の思考を割くように、吐き捨てるように叫ぶ『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
目を開いて見やると、千陽は手袋をした手を強く握りしめていた。
「日本全土に宣戦布告でもしかけるつもりか。それを祭りなどと……」
千陽が表面的な怒りを見せる一方、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は深く暗く怒りを溜めていた。
「ばかばかしいか。俺も理解できへん。なのにいちいち鼻につくのは、沢山の命を暴力で潰しているからで……流石に、我慢ができなくなってきたんだが」
よく見れば、杖をへし折らんばかりに握りしめている。
横目で彼らを見ていた『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は、それら全てを放り投げるようにニヤリと笑った。
「俺は難しいことは知らねえし興味もねえ。その点フシミはいい。テメェが喧嘩を売って、俺様が買う。でもって戦って勝つ。それだけありゃあ充分だ。ゴキゲンな気分だぜ――なあ」
目を細める。
遠くより、歩み寄る女の影。
両手に刀を握った、獣の破綻者。
「伏見シヨ!」
●『イチイチうるせえんだよ! どいつもこいつも!』
全速力で向かい来る敵。全長にして二メートルもない、総重量にして数十キロ程度の物体である。
だというのに、帽子を飛ばしそうな風圧が千陽を襲った。
足をしっかりと地面につける。親指から順に拳を握り、肩から順に連鎖するように筋肉を固めていく。
力がつま先まで漲った所で、目標との距離は十メートルをきった。
「戦闘を開始します――!」
大地を蹴る。
三歩で風を割き、自らを弾丸のように解き放つ。
対する伏見は、千陽の繰り出したプレッシャーによるパンチを額で受け止めた。
否、打ち払ったと言うべきか。
全速力で走る自動車に殴りかかれば撥ね飛ばされる道理のごとく、千陽は空中へと投げ出された。
回転しながらも歯を食いしばり、身体をひねって両足から着地。余ったエネルギーは片手をついてバランスをとる。
「僅かに浅い……深緋嬢!」
「つまらない」
回転しながら落ちてくるカトラスを顔の前でキャッチすると、久作は伏見にアピールするかのように味方集団の先頭、かつ中央に滑り出た。
(あぁ、愛が無い。愛が無い。私の恋は何処へ行く。暴力とは己の手で振るう物。凌辱とは己の意志で犯す事。欲に流され。力に溺れ。為って。果てて。為り果てるならば。それは最早ヒトとは言えませぬ。ヒトは意志を持つからこそ美しい)
防御の構え。
対して伏見は斬撃を一発。
だけで、久作の身体はすぐ後ろの刀嗣の横を抜けて吹き飛んでいった。
吹き飛んだ先には無人自動車。身を翻して車体に両足をつく――が、その真上に伏見が現われた。
刀の柄で背中を殴りつけられる。
アスファルトの駐車場の地面に叩き付けられる久作。
放射状にヒビが走り、一拍遅れて無数の石が、もう一拍遅れて隣の自動車がはね飛んだ。
普通の人間なら軽く五回は死んでいた衝撃である。
「どきやがれフカ――コキアケぇ!」
コンクリートブロックが回転しながら飛んでくる。
腕で防ぐ伏見。
その隙に距離を詰め、いまだ空中の伏見へ飛びかかる刀嗣。
刀のスイングが跳ね返ったコンクリートブロックを真っ二つに切り裂き、なおも伏見へ高速で迫る。
脇腹が切り裂かれ、吹き上がりまき散らされる血。
その間に久作は身を転がして敵の真下から離脱。
身体を素早く起こすと、着地寸前の久作めがけカトラスのアームガードで思い切り殴りつけた。
吹き飛び、バイクに激突する伏見。ひしゃげる車体。折れて飛ぶパーツ。
縦回転して転がる伏見だが、地面に刀を突き刺して強制ブレーキをかけ――る直後、彼女を扇状に挟むようにジャックとラーラが武器を構えた。
杖を水平に翳し、冷たいエネルギーを螺旋状に吹き上げていくジャック。
「遊んでやる。お前の敗北を刻むまでな!」
魔導書を解放し、焼き印で描いたような魔方陣を空中へ無数に出現させていくラーラ。
「一般市民の方々に被害を出すわけにはいきません。良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
ブレーキが完了し、伏見が顔を上げる瞬間。
ジャックとラーラはほぼ同時に魔術を解き放った。
「凍てつけ!」
「イオ・ブルチャーレ!」
十字砲火。
ラーラの炎とジャックの氷がぶつかり合い、伏見を包んでいく。
この程度でやったとは到底思えない。
ジャックとラーラは互いにアイコンタクトをとると、その場から即座に離脱。
背を向けて走るその一方、伏見めがけて駆け込む祇澄。
「力強いほうではありませんが、通じないということは無いはず!」
祇澄は舞うように跳ねると、回転をかけながら連続斬撃。
それを刀によって打ち払い始める伏見。
しかし祇澄の斬撃は止まらない。コンマ一秒ごとに叩き込まれる斬撃を、伏見は受けきれずに大きく飛び退いた。
腕を切り裂かれ、血が噴き出した。
刀嗣と久作が駆けつけ、三角形の陣を組む。
ダメージを受けた久作を後ろに下げ、刀嗣が攻撃を引きつけるという陣形である。
伏見はそんな刀嗣の腹めがけて蹴りを入れた。
衝撃が突き抜け、久作をその場からはじき飛ばす。
が、久作はカトラスで衝撃を逃がして中途ブレーキ。
普通ならとどめを刺されていそうな場面でありながら、膨大な体力と硬い防御、更に言えば祇澄に貰った紫鋼塞の保護によってギリギリ耐えたのだ。
が、言ってもギリギリ。
身を乗り出したジャックに合図を送った。
『回復はいらない。意味は無い』の合図だ
ジャックは杖を握りしめ、次の魔術を放つ準備に移った。
●『死んでも死んでも戦える。いい世の中になったじゃねえか。死ぬまで死のうぜ、殺されるまで殺そうぜ!』
ラーラは伏見の外周を回り込むように走りつつ、状況をつぶさに観察していた。
入れ替わった刀嗣だが、体力では久作に一枚劣る。
とはいえ祇澄の紫鋼塞も受けていたので防御がもろすぎると言うことはなかった。
だがどうにも。
どうにもおかしい。頭を整理する必要がある。
開けた場所だけに敵の接近を早めに知ることができて、錬覇法や紫鋼塞といった強化および補助すきるを接触前に付与することが出来た。
いわば万全の状態でぶつかっているわけだが……これが相手も同じだと考えればどうか。
知能の低い妖や、戦闘経験の浅い者はこういった機微がきかずに一手遅れるなんてことも珍しくないが、相手は伏見。闘争のためだけに壊れた破綻者である。
いくらか低く見積もりすぎてはしないか。
エネミースキャンを継続。片目を覆うように小さな魔方陣が浮かび上がる。
接触寸前のタイミングからこっちまではうまくいかなかったが、今回は成功した。
2015年12月頃の質問会で中恭介が述べていた『ただ詳細な数値が見えるというものでは無いのでもっと漠然としたものにはなるな』という言葉の通り、やはり漠然とした、魔術式の螺旋のような形で見えていた。
こればかりは『時と場合による』としか言えないが、今回は未知の補助スキルがアクティブされているかどうかに少しばかり時間がかかったが、今わかった。
目を見開く。
「祇澄さん! 既に『かかって』います! 双撃を!」
「――!」
ハッとして振り返る祇澄。
小さく頷き、構えをとった。
伏見はその行動を阻止する、わけではない。刀嗣と久作を乗り越えてまでワンターンキルができると考えるほど馬鹿ではない。
目下の敵。刀嗣の腹を刀で貫き、強烈に蹴り飛ばす。
その上を飛び越え、カトラスの射撃トリガーに指をかける久作。
伏見と目が合った。
「このような弟子をとるとは……結局の処。個にて部隊。独にて軍なのでしょう」
全力射撃。
弾幕にはねのけられた伏見にすかさず詰め寄り、ジグザグにカトラスを閃かせた。
胸を開き、腹を開き、更に膝を抜く。
対して伏見は久作の首元に刀を押し当て、強引に引き抜いた。
血を吹き出し、ぐらりと揺らぐ久作。
倒れそうになるところを、伏見の胸ぐらを掴んでこらえた。
腹に突き刺し、射撃トリガーを引き絞る。
しかして先に倒れたのは久作のほうだった。
伏見は一旦抜けたオーラのようなものを、再び全身から噴出。
暴力的なオーラが圧力となって迫ってくるようだ。
が、むしろそれがチャンスだった。
祇澄は目をぎらりと光らせ、火の力漲る刀を交差。挟み切るようにして伏見に激しい斬撃を叩き込んだ。
直後、側面に回り込んだ千陽が伏見の側頭部に拳を叩き込んだ。
クリーンヒットだ。大きくぐらつく伏見。
「ときちか!」
ジャックの呼びかけに、千陽は小さく首を振った。
杖をがつんと地面に叩き付けるジャック。
「……やれ! ときちかぁ! お前が決着つけるんだ! ここはてめぇが守らなきゃならねえ日本の市街地だ! 伏見がどうのって話しじゃねえ! お前の軍人としてのプライドだろ!」
千陽は瞬きをして、再び伏見をにらんだ。
「ええそうです。この国を守るのは俺の矜持です!」
千陽は祇澄と協力して伏見を取り囲み、連続攻撃を叩き込んでいった。
まるで一方的にやられつづける伏見だが、どこか様子がおかしかった。
負けを楽しんでいる。
ように、刀嗣には見えた。
「てめぇ……!」
刀を振り込む。
防御のために翳した伏見の刀がへし折れ、飛んでいった。
返す刀で斬撃を加えようとした刀嗣――の顔面を鷲づかみにする伏見。
ぐるんとその場で振り回すと、付近の団地めがけて刀嗣をぶん投げた。
窓ガラスを周辺フレームごとぶち破り、無人のリビングに転がり込む刀嗣。
直後、殺気。
飛び退くと背後の壁と横の薄型テレビが切断された。いや、もう一つ。刀嗣の腕もだ。
転がって、にやりと笑う。
「いいぜぇ、こうじゃなきゃいけねえ! テメエの最後の喧嘩だ。そいつがチンケに終わるなんざ我慢できねえだろうがよ!」
ベランダ側から飛び込んでくる伏見に、刀嗣は両目を見開いて飛びかかった。
刀嗣や伏見を追いかけようとしたジャックたちは、その足を止めた。
彼らの入っていった団地が下から上へ連鎖爆発のように崩壊し、がらがらと崩れていったからだ。
そんな建物から瓦礫に変わる途中のさなかから、脱力した刀嗣の頭を掴んで現われる伏見。
地面に刀嗣を投げ捨てると、天空に向かって吠えた。
反射的に身構える祇澄――の眼前五センチの位置に現われる伏見。
強烈な膝蹴りが叩き込まれ、祇澄は向かいの団地へと吹き飛んだ。
壁やフレームを幾度も突き破り、道路へと転がり出る。
一方で追いかけようとした伏見に千陽が立ち塞がり、その後方左右にラーラとジャックが陣取った。
「あんて攻撃力。だけど負けません。私だって、威力にはちょっとだけ自信があるんです!」
狙いを定め、ラーラは炎弾の群れを発射。
カーブを描いて飛ぶ弾が伏見に殺到し、千陽がおもむろに殴りかかる。
が、千陽のパンチは受け止められた。
だけではない。拳が握力によって握りつぶされ、手首からさきがねじ切られた。
伏見の『ブレ』が直りかけている。
「もう一度……!」
ねじ切れた手首を無視してもう一方の腕で殴りかかる。
が、側頭部にしっかりと当たったはずの拳はそのまま振り抜かれ、体勢を崩す。伏見の残像を殴っていたと気づいた時には、自らの顔のすぐ横に刀が迫っていた。
一瞬一秒を、無駄にはできぬ。
舞い飛ぶ千陽を目で追うよりも、即座に攻撃圏外へ走り出すラーラを追うよりも、ジャックは拳にエネルギーをため込むことに集中した。
伏見の刀が振り上がる。
直後、側面から回り込んできた祇澄が突撃。
「そこまで闘いが隙であれば、同じ暴力を受けるといいでしょう!」
伏見を貫き、固定する。
アイコンタクト。
ジャックはうなりをあげ、伏見の顔面を破裂しそうなほどエネルギーの籠もった拳で殴りつけた。
爆発が、起きた。
●終わりの始まり
「まだ、先は長そうですね」
頭や腕を包帯だらけにした千陽が、崩れた駐車場に腰を下ろしていた。
新しい包帯を取り出して、別の箇所に巻いていく祇澄。
「やはり、理解できませんね。戦いを好む人の考えは」
「…………」
ラーラは周囲を見回した。酷いありさまだが、民間人に直接的な被害は出ていない。
死傷者の話をするならば、伏見の死体だったものが駐車場の染みと化しているくらいか。
うずくまり、頭を抱えるジャック。
「あと何回殺せば、世界はよくなるん?」
「そりゃあ人間がいなくなるまでだ黒ウサギ」
刀を杖代わりにしてアンバランスに歩いてくる刀嗣。
久作はそんな彼らを横目に、小さくため息をついた。
(弱者は負け。強者が勝ち。敗者が死に。勝者が生きるというならば。それはそれで解りやすい。それならそれでやりやすい)
きびすを返し、歩き出す。
皆彼女につられるように、その場を後にする。
千陽だけは、地面に突き刺さった伏見の刀を回収しようと立ち上がった。
そこで、この話は終わって良かったのかも知れぬ。
「待てよバカヤロウ」
声がして、振り返る。
暴力坂乱暴が、高い金網式フェンスの上であずきのアイスバーを囓りながら座っていた。
「それは伏見にやったもんだろバカヤロウ。間違ってもお前……お前が触っていいもんじゃねえぞ、時任千陽。触ったら殺すぞバカヤロウ」
そう言いながら、暴力坂はフェンスの網に足をかけるようにしてよじよじと、こちらに背中を向けるようにして下りてきた。
目を見開いて笑う刀嗣。
「なんだテメェ、やんのか」
「やれねえよ、ばかっ」
そんな刀嗣を後ろから羽交い締めにするジャック。
ラーラと祇澄は撤退の算段を立て、久作に至っては当初目的通りに既に帰るつもりでいた。
「あ痛てっ」
そんな中フェンスを下りる途中で尻から落ち、尻をさすりながら立ち上がる暴力坂。
ゆっくり、肩を左右に揺らすように歩いて軍刀のもとまで行くと、地面から抜いて肩に担いだ。
一見狙い放題だが、その瞬間全滅しかねない。
暴力坂はそういう敵だった。
背を向け、何も言わずに帰ろうとする暴力坂。
銃数メートル歩いた所で、歩きながら振り返った。
「お前ら、国会議事堂とか皇居とか、攻め落としたくねえか? 国政牛耳って国をよくするとか、お前ら好きだろ」
何を言っているのか、考えあぐねる千陽たちに、暴力坂は続けた。
「まあいいや。そろそろ一軍動かすから、準備しとけよ。伏見なんて目じゃねえ連中がぞろぞろ出てくるからよ」
徒歩で遠ざかる暴力坂を、彼らはにらむように見つめていた。
「伏見シヨ……」
巫女服の裾が靡く。
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は荒い向かい風をにらんでいた。
「あの時とは、私たちも、あなたたちも、違うの、でしょう。遠慮は、いたしません」
虚空から伸びたふたふりの刀をそれぞれ引き抜き、交差するように構える。
その横では、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が遠い空の先を見つめていた。
「自ら望んで闘争に墜ちるなんて、やっぱりあの方たちの考えることは分かりません」
「……」
そんな二人をよそに、深緋・久作(CL2001453)は静かに瞑目していた。
(例えば。殺して殺して殺しつくして。敵も味方も斬り伏せて。老若男女容赦なく。人も妖もじぇのさいど。屍山血河その果てに。死屍累々その上で。この命断てたなら。きっと寂しくないのでしょう。きっと笑って死ねるでしょう。しかして。それが叶わぬならば……)
「ばかばかしい!」
久作の思考を割くように、吐き捨てるように叫ぶ『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
目を開いて見やると、千陽は手袋をした手を強く握りしめていた。
「日本全土に宣戦布告でもしかけるつもりか。それを祭りなどと……」
千陽が表面的な怒りを見せる一方、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は深く暗く怒りを溜めていた。
「ばかばかしいか。俺も理解できへん。なのにいちいち鼻につくのは、沢山の命を暴力で潰しているからで……流石に、我慢ができなくなってきたんだが」
よく見れば、杖をへし折らんばかりに握りしめている。
横目で彼らを見ていた『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は、それら全てを放り投げるようにニヤリと笑った。
「俺は難しいことは知らねえし興味もねえ。その点フシミはいい。テメェが喧嘩を売って、俺様が買う。でもって戦って勝つ。それだけありゃあ充分だ。ゴキゲンな気分だぜ――なあ」
目を細める。
遠くより、歩み寄る女の影。
両手に刀を握った、獣の破綻者。
「伏見シヨ!」
●『イチイチうるせえんだよ! どいつもこいつも!』
全速力で向かい来る敵。全長にして二メートルもない、総重量にして数十キロ程度の物体である。
だというのに、帽子を飛ばしそうな風圧が千陽を襲った。
足をしっかりと地面につける。親指から順に拳を握り、肩から順に連鎖するように筋肉を固めていく。
力がつま先まで漲った所で、目標との距離は十メートルをきった。
「戦闘を開始します――!」
大地を蹴る。
三歩で風を割き、自らを弾丸のように解き放つ。
対する伏見は、千陽の繰り出したプレッシャーによるパンチを額で受け止めた。
否、打ち払ったと言うべきか。
全速力で走る自動車に殴りかかれば撥ね飛ばされる道理のごとく、千陽は空中へと投げ出された。
回転しながらも歯を食いしばり、身体をひねって両足から着地。余ったエネルギーは片手をついてバランスをとる。
「僅かに浅い……深緋嬢!」
「つまらない」
回転しながら落ちてくるカトラスを顔の前でキャッチすると、久作は伏見にアピールするかのように味方集団の先頭、かつ中央に滑り出た。
(あぁ、愛が無い。愛が無い。私の恋は何処へ行く。暴力とは己の手で振るう物。凌辱とは己の意志で犯す事。欲に流され。力に溺れ。為って。果てて。為り果てるならば。それは最早ヒトとは言えませぬ。ヒトは意志を持つからこそ美しい)
防御の構え。
対して伏見は斬撃を一発。
だけで、久作の身体はすぐ後ろの刀嗣の横を抜けて吹き飛んでいった。
吹き飛んだ先には無人自動車。身を翻して車体に両足をつく――が、その真上に伏見が現われた。
刀の柄で背中を殴りつけられる。
アスファルトの駐車場の地面に叩き付けられる久作。
放射状にヒビが走り、一拍遅れて無数の石が、もう一拍遅れて隣の自動車がはね飛んだ。
普通の人間なら軽く五回は死んでいた衝撃である。
「どきやがれフカ――コキアケぇ!」
コンクリートブロックが回転しながら飛んでくる。
腕で防ぐ伏見。
その隙に距離を詰め、いまだ空中の伏見へ飛びかかる刀嗣。
刀のスイングが跳ね返ったコンクリートブロックを真っ二つに切り裂き、なおも伏見へ高速で迫る。
脇腹が切り裂かれ、吹き上がりまき散らされる血。
その間に久作は身を転がして敵の真下から離脱。
身体を素早く起こすと、着地寸前の久作めがけカトラスのアームガードで思い切り殴りつけた。
吹き飛び、バイクに激突する伏見。ひしゃげる車体。折れて飛ぶパーツ。
縦回転して転がる伏見だが、地面に刀を突き刺して強制ブレーキをかけ――る直後、彼女を扇状に挟むようにジャックとラーラが武器を構えた。
杖を水平に翳し、冷たいエネルギーを螺旋状に吹き上げていくジャック。
「遊んでやる。お前の敗北を刻むまでな!」
魔導書を解放し、焼き印で描いたような魔方陣を空中へ無数に出現させていくラーラ。
「一般市民の方々に被害を出すわけにはいきません。良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
ブレーキが完了し、伏見が顔を上げる瞬間。
ジャックとラーラはほぼ同時に魔術を解き放った。
「凍てつけ!」
「イオ・ブルチャーレ!」
十字砲火。
ラーラの炎とジャックの氷がぶつかり合い、伏見を包んでいく。
この程度でやったとは到底思えない。
ジャックとラーラは互いにアイコンタクトをとると、その場から即座に離脱。
背を向けて走るその一方、伏見めがけて駆け込む祇澄。
「力強いほうではありませんが、通じないということは無いはず!」
祇澄は舞うように跳ねると、回転をかけながら連続斬撃。
それを刀によって打ち払い始める伏見。
しかし祇澄の斬撃は止まらない。コンマ一秒ごとに叩き込まれる斬撃を、伏見は受けきれずに大きく飛び退いた。
腕を切り裂かれ、血が噴き出した。
刀嗣と久作が駆けつけ、三角形の陣を組む。
ダメージを受けた久作を後ろに下げ、刀嗣が攻撃を引きつけるという陣形である。
伏見はそんな刀嗣の腹めがけて蹴りを入れた。
衝撃が突き抜け、久作をその場からはじき飛ばす。
が、久作はカトラスで衝撃を逃がして中途ブレーキ。
普通ならとどめを刺されていそうな場面でありながら、膨大な体力と硬い防御、更に言えば祇澄に貰った紫鋼塞の保護によってギリギリ耐えたのだ。
が、言ってもギリギリ。
身を乗り出したジャックに合図を送った。
『回復はいらない。意味は無い』の合図だ
ジャックは杖を握りしめ、次の魔術を放つ準備に移った。
●『死んでも死んでも戦える。いい世の中になったじゃねえか。死ぬまで死のうぜ、殺されるまで殺そうぜ!』
ラーラは伏見の外周を回り込むように走りつつ、状況をつぶさに観察していた。
入れ替わった刀嗣だが、体力では久作に一枚劣る。
とはいえ祇澄の紫鋼塞も受けていたので防御がもろすぎると言うことはなかった。
だがどうにも。
どうにもおかしい。頭を整理する必要がある。
開けた場所だけに敵の接近を早めに知ることができて、錬覇法や紫鋼塞といった強化および補助すきるを接触前に付与することが出来た。
いわば万全の状態でぶつかっているわけだが……これが相手も同じだと考えればどうか。
知能の低い妖や、戦闘経験の浅い者はこういった機微がきかずに一手遅れるなんてことも珍しくないが、相手は伏見。闘争のためだけに壊れた破綻者である。
いくらか低く見積もりすぎてはしないか。
エネミースキャンを継続。片目を覆うように小さな魔方陣が浮かび上がる。
接触寸前のタイミングからこっちまではうまくいかなかったが、今回は成功した。
2015年12月頃の質問会で中恭介が述べていた『ただ詳細な数値が見えるというものでは無いのでもっと漠然としたものにはなるな』という言葉の通り、やはり漠然とした、魔術式の螺旋のような形で見えていた。
こればかりは『時と場合による』としか言えないが、今回は未知の補助スキルがアクティブされているかどうかに少しばかり時間がかかったが、今わかった。
目を見開く。
「祇澄さん! 既に『かかって』います! 双撃を!」
「――!」
ハッとして振り返る祇澄。
小さく頷き、構えをとった。
伏見はその行動を阻止する、わけではない。刀嗣と久作を乗り越えてまでワンターンキルができると考えるほど馬鹿ではない。
目下の敵。刀嗣の腹を刀で貫き、強烈に蹴り飛ばす。
その上を飛び越え、カトラスの射撃トリガーに指をかける久作。
伏見と目が合った。
「このような弟子をとるとは……結局の処。個にて部隊。独にて軍なのでしょう」
全力射撃。
弾幕にはねのけられた伏見にすかさず詰め寄り、ジグザグにカトラスを閃かせた。
胸を開き、腹を開き、更に膝を抜く。
対して伏見は久作の首元に刀を押し当て、強引に引き抜いた。
血を吹き出し、ぐらりと揺らぐ久作。
倒れそうになるところを、伏見の胸ぐらを掴んでこらえた。
腹に突き刺し、射撃トリガーを引き絞る。
しかして先に倒れたのは久作のほうだった。
伏見は一旦抜けたオーラのようなものを、再び全身から噴出。
暴力的なオーラが圧力となって迫ってくるようだ。
が、むしろそれがチャンスだった。
祇澄は目をぎらりと光らせ、火の力漲る刀を交差。挟み切るようにして伏見に激しい斬撃を叩き込んだ。
直後、側面に回り込んだ千陽が伏見の側頭部に拳を叩き込んだ。
クリーンヒットだ。大きくぐらつく伏見。
「ときちか!」
ジャックの呼びかけに、千陽は小さく首を振った。
杖をがつんと地面に叩き付けるジャック。
「……やれ! ときちかぁ! お前が決着つけるんだ! ここはてめぇが守らなきゃならねえ日本の市街地だ! 伏見がどうのって話しじゃねえ! お前の軍人としてのプライドだろ!」
千陽は瞬きをして、再び伏見をにらんだ。
「ええそうです。この国を守るのは俺の矜持です!」
千陽は祇澄と協力して伏見を取り囲み、連続攻撃を叩き込んでいった。
まるで一方的にやられつづける伏見だが、どこか様子がおかしかった。
負けを楽しんでいる。
ように、刀嗣には見えた。
「てめぇ……!」
刀を振り込む。
防御のために翳した伏見の刀がへし折れ、飛んでいった。
返す刀で斬撃を加えようとした刀嗣――の顔面を鷲づかみにする伏見。
ぐるんとその場で振り回すと、付近の団地めがけて刀嗣をぶん投げた。
窓ガラスを周辺フレームごとぶち破り、無人のリビングに転がり込む刀嗣。
直後、殺気。
飛び退くと背後の壁と横の薄型テレビが切断された。いや、もう一つ。刀嗣の腕もだ。
転がって、にやりと笑う。
「いいぜぇ、こうじゃなきゃいけねえ! テメエの最後の喧嘩だ。そいつがチンケに終わるなんざ我慢できねえだろうがよ!」
ベランダ側から飛び込んでくる伏見に、刀嗣は両目を見開いて飛びかかった。
刀嗣や伏見を追いかけようとしたジャックたちは、その足を止めた。
彼らの入っていった団地が下から上へ連鎖爆発のように崩壊し、がらがらと崩れていったからだ。
そんな建物から瓦礫に変わる途中のさなかから、脱力した刀嗣の頭を掴んで現われる伏見。
地面に刀嗣を投げ捨てると、天空に向かって吠えた。
反射的に身構える祇澄――の眼前五センチの位置に現われる伏見。
強烈な膝蹴りが叩き込まれ、祇澄は向かいの団地へと吹き飛んだ。
壁やフレームを幾度も突き破り、道路へと転がり出る。
一方で追いかけようとした伏見に千陽が立ち塞がり、その後方左右にラーラとジャックが陣取った。
「あんて攻撃力。だけど負けません。私だって、威力にはちょっとだけ自信があるんです!」
狙いを定め、ラーラは炎弾の群れを発射。
カーブを描いて飛ぶ弾が伏見に殺到し、千陽がおもむろに殴りかかる。
が、千陽のパンチは受け止められた。
だけではない。拳が握力によって握りつぶされ、手首からさきがねじ切られた。
伏見の『ブレ』が直りかけている。
「もう一度……!」
ねじ切れた手首を無視してもう一方の腕で殴りかかる。
が、側頭部にしっかりと当たったはずの拳はそのまま振り抜かれ、体勢を崩す。伏見の残像を殴っていたと気づいた時には、自らの顔のすぐ横に刀が迫っていた。
一瞬一秒を、無駄にはできぬ。
舞い飛ぶ千陽を目で追うよりも、即座に攻撃圏外へ走り出すラーラを追うよりも、ジャックは拳にエネルギーをため込むことに集中した。
伏見の刀が振り上がる。
直後、側面から回り込んできた祇澄が突撃。
「そこまで闘いが隙であれば、同じ暴力を受けるといいでしょう!」
伏見を貫き、固定する。
アイコンタクト。
ジャックはうなりをあげ、伏見の顔面を破裂しそうなほどエネルギーの籠もった拳で殴りつけた。
爆発が、起きた。
●終わりの始まり
「まだ、先は長そうですね」
頭や腕を包帯だらけにした千陽が、崩れた駐車場に腰を下ろしていた。
新しい包帯を取り出して、別の箇所に巻いていく祇澄。
「やはり、理解できませんね。戦いを好む人の考えは」
「…………」
ラーラは周囲を見回した。酷いありさまだが、民間人に直接的な被害は出ていない。
死傷者の話をするならば、伏見の死体だったものが駐車場の染みと化しているくらいか。
うずくまり、頭を抱えるジャック。
「あと何回殺せば、世界はよくなるん?」
「そりゃあ人間がいなくなるまでだ黒ウサギ」
刀を杖代わりにしてアンバランスに歩いてくる刀嗣。
久作はそんな彼らを横目に、小さくため息をついた。
(弱者は負け。強者が勝ち。敗者が死に。勝者が生きるというならば。それはそれで解りやすい。それならそれでやりやすい)
きびすを返し、歩き出す。
皆彼女につられるように、その場を後にする。
千陽だけは、地面に突き刺さった伏見の刀を回収しようと立ち上がった。
そこで、この話は終わって良かったのかも知れぬ。
「待てよバカヤロウ」
声がして、振り返る。
暴力坂乱暴が、高い金網式フェンスの上であずきのアイスバーを囓りながら座っていた。
「それは伏見にやったもんだろバカヤロウ。間違ってもお前……お前が触っていいもんじゃねえぞ、時任千陽。触ったら殺すぞバカヤロウ」
そう言いながら、暴力坂はフェンスの網に足をかけるようにしてよじよじと、こちらに背中を向けるようにして下りてきた。
目を見開いて笑う刀嗣。
「なんだテメェ、やんのか」
「やれねえよ、ばかっ」
そんな刀嗣を後ろから羽交い締めにするジャック。
ラーラと祇澄は撤退の算段を立て、久作に至っては当初目的通りに既に帰るつもりでいた。
「あ痛てっ」
そんな中フェンスを下りる途中で尻から落ち、尻をさすりながら立ち上がる暴力坂。
ゆっくり、肩を左右に揺らすように歩いて軍刀のもとまで行くと、地面から抜いて肩に担いだ。
一見狙い放題だが、その瞬間全滅しかねない。
暴力坂はそういう敵だった。
背を向け、何も言わずに帰ろうとする暴力坂。
銃数メートル歩いた所で、歩きながら振り返った。
「お前ら、国会議事堂とか皇居とか、攻め落としたくねえか? 国政牛耳って国をよくするとか、お前ら好きだろ」
何を言っているのか、考えあぐねる千陽たちに、暴力坂は続けた。
「まあいいや。そろそろ一軍動かすから、準備しとけよ。伏見なんて目じゃねえ連中がぞろぞろ出てくるからよ」
徒歩で遠ざかる暴力坂を、彼らはにらむように見つめていた。
