その罪を、神は赦して清めよう
その罪を、神は赦して清めよう


●赦し、清め、そして殺す者
「――その魂、神の元に。神は罪を赦し、穢れた肉体を清め給う」
 言葉とともに繰り出される蹴り。鋼板で補強した安全靴の重い蹴りが、覚者を地に伏す。
「「「その魂、神の元に。神は罪を赦し、穢れた肉体を清め給う」」」
 それと共に大勢の人が武器を手に取る。一撃、また一撃と倒れた覚者に攻撃を加えていく。
「……頼む、俺はいい。だけどこの子だけは見逃してくれ……!」
 倒れた覚者は怯える少年をかばうようにしていた。自分の息子。覚者の証である清廉権限の紋様が、右手の甲に淡く輝いている。
「穢れし肉体持つ者に安息の地はない。されど喜びなさい。たとえ肉体が穢れようとも神はその罪を赦し給う」
「「「神は罪を赦し給う」」」
 一人の修道女の声とともに、同じ服装をした修道女が祈りをささげる。そして武器を振り上げ、覚者の親に武器を振り下ろす。単純な打撃と斬撃。源素の力がない一撃だが、十数度叩き込まれれば命を奪うには十分だった。
「さあ、貴方も。父親と共に魂は神の元に。穢れた肉体を清め給う」
「「「魂は神の元に。穢れた肉体を清め給う」」」
 無感情に告げられる死刑宣告。父を殺され、戦う力も気力もない息子は、ただ怯えるままに彼らの『清め』を受け入れるのであった。
 
●FiVE
「みなさ~ん。おはようございます~」
 集まった覚者を前に、間延びした口調で久方 真由美(nCL2000003)が出迎える。人数分の粗茶とお茶請け。それが置かれたテーブルに全員が座ったことを確認し、真由美は説明を開始した。
「憤怒者が覚者の親子を襲い、殺害します」
 夢で見た惨劇を思い出しながら、真由美は説明を開始する。十数名の憤怒者が二人の覚者を袋叩きにして殺す。源素を得た覚者とはいえ、息子をかばいながらでは逃げることはできず、ただ暴力に晒されるしかない。
「彼らは修道女の姿をしています。リーダーと思われる女性の命令のままに一糸乱れぬ……というよりは誰かに洗脳されたかのように動きます。おそらく、魔眼等の精神的な訴えかけに対する対策かと思われます」
 覚者の扱う神秘には、相手の精神に影響する物がある。それに対抗するための処置なのだろう。あるいは、純粋に罪悪感を抱かないためのものかもしれない。どうあれ、覚者戦を意識しているのは間違いない。
「武装はスコップや改造したネイルガンなどです。見つかっても『ボランティアで工事の手伝いをする』と言って誤魔化しているとか。事実、そういった活動もしているので、警察も納得しているようです」
 つまり彼女たちは、覚者を殺すために実際にボランティアを行い、世間の目をごまかしているのだ。その用意周到さ、恐ろしいことこの上ない。
「彼女たちは覚者の因子を『神が作った人間に注ぎ込まれた、悪魔の力』と思っているようです。その思い込みは強く、説得は無理だと思ってください」
 源素の正体はいまだわかっていない。それゆえか源素の力を悪しざまに言うものは後を絶たないのだ。違う、と言っても誰も証明できないのだから。
「急げば親子を助けることができるかもしれません。……ですが、容易ではないでしょう。下手をすれば大怪我をしてしまいます」
 数の不利。それが救出を難しくしている。少なくとも憤怒者は覚者に対して手心を加えないだろう。だが、堅実に攻めれば勝てる。それがFiVEの判断だ。
 覚者親子を救うか否かは、皆に委ねるという。
 貴方がこの状況で出す答えは――



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.憤怒者一二人の戦闘不能。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 その一体感こそが、彼女らの最大の武器。

●敵情報
・修道女(×12)
 憤怒者。紺色の修道服を着た女性達です。リーダーと思われる者の統率で、一糸乱れぬ動きで覚者を攻めます。個の戦闘能力は覚者に劣りますが、それを数で埋めています。覚者戦に慣れており、洗脳されてはいますが理知的に行動してくるでしょう。
 洗脳に近いマインドコントロールを受けており、精神などに作用する一部の技能が効きません。捨て駒的な使われ方をされており、彼女たちに洗脳をした者につながる記憶や証拠などは、削除されています。
 覚者を前に、逃げるという選択肢はありません。

・リーダー(×1)
 攻撃方法
 安全靴  物近単 ブーツ型の安全靴で蹴ってきます。〔必殺〕
 火炎放射 特近列 ライターとスプレー缶で炎を浴びせてきます。〔火傷〕
 洗脳    P  精神的な技能が効きません。

・修道女・近接型(×5)
 攻撃方法
 スコップ 物近単 スコップで突いてきます。
 洗脳    P  精神的な技能が効きません。

・修道女・射撃型(×6)
 攻撃方法
 ネイルガン 物遠単 改造したネイルガンで釘を飛ばしてきます。
 風船玉   特遠単 腐臭のする液体入の風船玉を投げて、気力をそいできます〔ダメージ0〕〔Mアタック20〕
 洗脳    P  精神的な技能が効きません。

・覚者(×2)
 蓮場文雄(父)と蓮場幸助(息子)です。四十五歳と十二歳。
 憤怒者に囲まれ、暴力に耐えています。ゲーム的には文雄が幸助を味方ガードしています。PC達がなにもしなければ敵後衛陣は二人を優先的に攻撃し、一分(戦闘開始から六ターン目)で文雄が倒れ、その後三〇秒(戦闘開始から九ターン目)に幸助が殺されるでしょう。
 ダメージや恐怖などもあり、戦闘能力は皆無と思ってください。 
 
●場所情報
 路地裏。時刻は夕方。人が来る可能性は皆無です。明かりと足場は問題なし。相応の広さもあり、乱戦は可能です。
 戦闘開始時、敵前衛に『修道女・近接型(×5)』が、敵後衛に『修道女・射撃型(×6)』『リーダー(×1)』『覚者(×2)』がいます。戦闘開始時に皆様がどの位置にいるかは、好きに決めて構いません。
 事前行動は好きなだけ行っても構いませんが、その間も時間は流れます。それを考慮の上でどうぞ。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月14日

■メイン参加者 8人■



「私欲を満たす為に利用される神も憐れなモノだな」
 言葉と同時に切りかかるのは『閃華双剣』太刀風 紅刃(CL2000191)。音もなく近づいて、二本の刀を同時に振るう。刀から放たれる炎のオーラ。それが覚者であることを示し、修道女たちの気を引く。
「道を切り開く。一気に薙ぎ払うわせてもらうぞ」
『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)の薙刀が一文字に払われる。大仰に薙刀を振りかぶり、穂先を下に構える。行成は眼鏡の奥から金の瞳で相手を射すくめる。覚者を狙う憤怒者。強烈な拒絶に眩暈すら覚える。
「暴挙もそこまでだ。それ以上蛮行を行うなら、黙ってはおらんぞ」
 左腕の機関銃を向けながら、アイオーン・サリク(CL2000220)が大声で叫ぶ。背筋をしっかり伸ばし、胸を張って大声で。軍人であるアイオーンは洗脳の効率の良さを知っている。そしてそれが信仰とかけ離れていることも。
「そんな無抵抗の奴殴るなんて、おまえらのカミサマ弱虫だよな!」
 声をあげて挑発する『わんぱく小僧』成瀬 翔(CL2000063)。効けばめっけもの程度の挑発だ。事実、修道女たちは声の大きさに視線を向けたに過ぎない。だがそれでいい。視線がこちらを向いているのなら、隙が生まれる。
「どいたどいたぁ! 俺のお通りだ!」
 椎野 天(CL2000864)は生まれた隙に潜り込むように距離を詰める。覚醒し、脚部がダッシュ用のローラーになっている天はその勢いのままにジャンプし、修道女たちを飛び越えようとする……が、彼女たちを飛び越えるには至らなかった。
「なるほど、鉄壁だな。易々とは越えられないということか」
 同じく神秘の力で助走を速めて飛び越えようとした鈴白 秋人(CL2000565)が、修道女の前で足を止める。暴行を受けている親子に近づいて助けたかったが、流石に難しい。口惜しそうに表情を歪め――修道女たちの横をすり抜ける存在を感知し、笑みを浮かべる。
「洗脳されてる女の人ぶっ飛ばすのは気が引けるけど、親子救出ついでにとっ捕まえてやるから観念しろ!」
 神秘の力で風景と同化していた大島 天十里(CL2000303)が、暴行を受けている親子の近くで叫ぶ。神秘の力とはいえ動けば気配はばれる可能性が増すのだが、仲間がうまく陽動してくれたおかげでなんとかここまで来れたのだ。
「蓮場さんは助けさせてもらいます。あなたたちもお覚悟を」
『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)もまた、親子の近くに立つ。神秘による風景同化と守護使役による消音だ。修道女が覚者の陽動に引っかかったのも、要因としては大きい。
「素晴らしき哉。自ら天罰を受けに来たとは。ならばその罪を清めよう」
「「その罪を清めよう」」
 リーダーの言葉を復唱する修道女たち。その姿はまさに狂信。洗脳され、思考を止めた兵隊。
 睨み合いの時間はそう長くは続かなかった。覚者と憤怒者は同時に武装を手にし、その牙を剥いていた。


「さあ、頑張るぞ―!」
 戦闘の口火を切ったのは天十里だ。両手に巻いた鉄の鎖を緩め、地面に垂らす。じゃらり、と鎖がこすれあう姿が天十里の耳に響く。鎖の先が地面に着くかつかないか。そこまで伸ばしきって、敵陣を見た。ネイルガンを構える修道女に臆することなく、歩を進める。
 踏み込み、腰を回転させる。同時に回転する鎖と天十里の着ている制服。左腕に巻いた鎖が修道女の足を払い、右腕に巻いた鎖が彼女たちの腹を打つ。途切れることなき鎖の連続攻撃。密集して私刑を行っている修道女たちを、一気に打ち据える。
「鞭打ちならぬ鎖打ちだけど。こういう拷問ぽい攻撃、聖職者にはいやーなものだろ?」
「これも試練。悪魔の力に屈する我々ではありません:」
「苦痛に耐性があるとは、かなり深い洗脳のようですね」
 攻撃されても士気の落ちない修道女たちを見て、アーレスが呟く。憤怒者も様々だが、常人をここまで洗脳して汚れ仕事をさせるとは。怒りこそ覚えるが、激情のままに行動はしない。それでは相手と同じだ。
 右手に銃を持ち、左手に鞭を盛り、アーレスは修道女達に挑む。銃で相手の動きをけん制しながら、鞭を振るい相手の動きを封じていく。殺さずに無力化する。それを念頭に入れて、殺意持つ相手を睨み返す。
「神や正義などどこにもない、ただ憎しみの連鎖を断つ!」
「うむ。信仰の名を被った暴力は今すぐ消し去ろう」
 サーベルを構えたアイオーンが高らかに宣言する。偉丈夫と言ってもいいアイオーンが背筋を伸ばして宣言するだけで、十分に威圧的だ。勿論このまま案山子でいるつもりはない。説得が通じぬなら、剣をもって応えるのみ。
 サーベルの柄に手をかけ、まっすぐに引き抜く。因子を活性化させて身を固め、サーベルに炎を宿して切りかかった。炎熱と斬撃が修道女の足を止める。サーベルの炎が、アイオーンの赤い髪を照り返していた。
「真の信仰には気高くあってもらいたいものだな」
「この手の連中って教義で自殺が禁じられてっから、戦死できる環境を求めて聖戦に走るって説、信じる?」
 信仰論議とばかりに天が肩をすくめる。答えは返ってこない。当の修道女たちからさえも。仕方ないね、と言いながら天は脚部のローラーを使ってジクザグに移動し、相手を撹乱しながら隙をうかがう。流石に修道女の壁を突破はできそうにないが。
 土の鎧を身にまとい防御を強化する天。その鎧をまとったまま、脚部の『ターンピック・L』を地面に突き刺した。そこを起点にしてターンし、修道女に向かい拳を振るう。スピードを拳に乗せた、硬い一撃が修道女の一人を吹き飛ばす。
「やっべ。やりすぎたかな、コレ?」
「大丈夫だぜ。呼吸はしてるみたいだ」
 天の言葉に翔が笑みを浮かべて応える。守護使役の『空丸』に周囲を偵察させている翔は、戦場全体が良く見える。だがそれは暴行を受ける蓮場親子の風景も見えるということ。早く助けなければ、と心に火をつける。
 敵の位置を把握し、指を天に向ける。空から修道女たちを薙ぐように、稲妻が降り注いだ。確かに相手は残虐だ。だが、殺したくない。それがヒーローなのだから。子供心ながら翔の芯はしっかりとしていた。さながら覚醒した二十三歳の姿のように。
「確かに殺したくはねーけど、手加減はしねーよ!」
「ああ、加減なしだ。神の下に召されるのなら、貴様達も本望だろう」
 抜いた刀に炎を纏わせ紅刃が宣告する。そんな脅し文句に動揺すらしない相手を見て、憤りを覚える。覚者の命を奪い、それを『浄化』とのたまうその心。そんな洗脳を施した黒幕の存在に。だが今は目の前のことに集中せねば。
 覚醒し、瞳も髪も赤く染まる。その姿、まさに燃え上がる炎の如く。魂の灯を大きく燃やして自らの肉体に火を入れる。その熱量を『紅胡蝶』と『緋那菊』を持つ手に乗せて、修道女に切りかかる。スコップを弾き、相手の肩を貫く刃。
「私達がここに来たという事は、貴様達は神に見放されたという事だ」
「敵は誰一人として逃がすつもりはない」
 薙刀を構えて行成が宣言する。覚醒して変化した金髪が戦場の風を受けてなびく。その風が止むと同時に行成は修道女に向かい踏み込んだ。言葉少なく、だがその心に宿す炎は熱く。敵を薙ぐ一陣の風となるべく躍り出た。
 敵の間合い。自分の間合い。味方の間合い。視覚と聴覚を駆使してそのすべてを頭の中に刻む。あとは詰将棋だ。頭の中で敵の動きをイメージし、それを返すように体を動かす。読みのままに振るった薙刀が、修道女たちを一気に薙ぎ払う。
「修道女が人を殺める……神とは何か、分からなくなるな」
「彼女たちは利用されているだけです。真の憤怒者は洗脳を仕掛けた黒幕です」
 一歩引いたところで敵の動きを感知しながら秋人が行成の言葉に返す。捨て駒同然に扱われ、覚者を殺す修道女たち。同情こそするが容赦をする余裕はない。彼女たちは自分たちに手心を加えるつもりはないのだ。だからこそ、止める。
 両手に術符を構え、意識を静める秋人。静かな湖畔に落ちる一滴の雫。雫が湖面に生んだ波紋が味方に当たるイメージ。イメージが完成すると同時に源素を開放し、水の癒しを仲間に届ける。生命の根幹ともいえる水の力が、憤怒者に傷つけられた傷を塞いでいく。
「だからと言って容赦をするつもりはありません」
「その力は悪魔の力。ここで滅するのが神の慈悲」
「「その力は悪魔の力。ここで滅するのが神の慈悲」」
 リーダーの言葉のままに修道女たちが復唱する。血を流し、返り血にまみれ、それでも表情一つ変えることなく淡々と。無抵抗な親子に暴行を加えながら。
 戦いは終焉に向かっていく。


 個として憤怒者は覚者に劣る。
 故に唯一優位である手数は、一人また一人と倒されるたびに失われていく。より多くの覚者をせん滅すべくリーダー格の修道女が前衛に移動した。スプレー缶とライターで覚者達に火を放ち、安全靴で蹴りを入れる。
「ぐ……!」
 その攻撃にアイオーンが膝をつく。ここで立つが御身の定めと自らに活を入れ、何とか意識を保った。
「この匂いは……!」
 同時に回復を行う秋人の気力を削ろうと後衛の修道女数名が酷い匂いのする水を入れた風船を投げつけてくる。気力を削って回復できる回数を削り、覚者の継戦能力を削りに来ていた。
 だが、覚者の勢いを止めるには至らない。ましてや攻撃を戦力外である蓮場親子に向けているのならなおのことだ。親子への私刑をやめて全力でFiVEの覚者殲滅に力を注げば、勝率は上がっただろう。
 だがそれは、覚者達が望まぬ展開だった。
「ちくしょー! こっち見ろー! お前らの相手は俺たちだー!」
「親子に構ってる場合じゃない、と思わせればしめたものだったが……これはキツイな」
 覚者達は暴行を受けている親子を救おうと、派手に暴れて注意を引こうとする。そして数名を後衛に送ることで親子を助け出そうとした。覚者の勢いは強く、身の安全を考えるなら無抵抗な親子への攻撃をやめるのが正しい判断だ。
 だが、彼女たちは洗脳されており、正しい判断ができない。その行動理念は『一人でも多くの覚者を殺す』ことのみ。そしてそのためには無抵抗な者から攻撃するのが最良。それを止めるために四人の覚者を後ろに送り込もうとしたのだが……。
(向こう側に行けたのは二人だけ。憤怒者六人を短時間で倒すにはさすがに時間と火力が足りないか……!)
 敵後衛に回るためのや準備期間や移動時間などを考慮に入れれば、今の形は悪手ではないが理想の形とはいいがたい。だがそれでも、今できる最善を行うのみだ。
「そこを退け。刀の錆になりたいか」
 双刃を振るい、紅刃が修道女に挑む。時に交互に、時に同時に。鍛錬のままに体を動かし、刃を繰り出す。戦場で舞うように振るわれる二本の刃金。ここが戦場でなければ、紅刃の動きを見たものは感嘆のため息をついていただろう。
「あーら、よっと!」
 天は後衛殲滅に足りない火力を補おうと。土の槍を後衛に飛ばす。足を止め、地面に神具を突き刺す。突き刺した衝撃が大地を走り、修道女の近くで隆起して鋭い土の槍になる。その一撃で倒れ伏す修道女。
(憤怒者と覚者……全てが分かりあえるとは思わない。だがこうも拒絶されると、心に堪えるものがあるな)
 明確な殺意を受けて行成は心に黒い雲が陰る。全ての人間が平等とは思えない。だが、ここまで強烈に否定されれば、本当にそうではないかと思うこともある。そんなことはないとばかりに首を振り、水の弾丸を後衛の修道女たちに叩き込む。
「退け、神の使途よ」
 アイオーンがサーベルを振るい、地面に傷をつける。その傷から炎が生まれ、剣の軌跡のままに横一文字に炎が走った。炎は激しく燃え上がり、その炎熱が修道女たちの体力を奪いとる。
「悪魔の力だって正義の為に使えば、それは正義の力なんだぜ!」
 力に善悪はない。そう主張する翔。この力の正体は誰にもわからない。だけど力を持つ持たないで善悪を決められては堪らない。少なくとも、翔はこの力を正しい道のために使いたいと思ってる。
「回復を削ってくるか。面倒だな」
 投げられる水風船に気力を奪われながら、秋人は修道女たちの攻めに苛立ちを感じていた。『効率よく覚者を殺すために、回復能力を奪おう』……そんな戦略だ。仕方なく前に出て修道女に攻撃を仕掛ける。
「このままでは……!」
 続けられる蓮場親子への暴行にアーレスが焦りを感じる。庇いに行くには暴行を加えている修道女たちが邪魔になる。できるだけ早く彼女たちを廃しないといけない。鋭い蹴りを放ちながら、一人また一人と修道女たちを倒していく。
「私刑を認めてくれる神様がどこの世の中に……いやいるか、神様だもんな」
 鎖を振るいながら天十里が自分の言ったことに納得する。神様がいるかどうかはともかく、現状神に頼って解決する事ではないのは事実だ。鎖を振るい一気に修道女を薙ぎ払う。振るうたびに体力も気力も削れ、そのうえ修道女のネイルガンに撃たれても、なお。
「未だ倒れるわけにはいきません」
「負けてられないぜー!」
 後衛で奮戦するアーレスと天十里が体力を削られる。憤怒者に屈するわけは行かないと命を燃やし、何とか崩れずに立ち尽くす。
 覚者の猛攻により修道女の数は少しずつ減っていく。数の優位を失えば、その分覚者の被害も減り、そして修道女を倒す速度も早まっていく。
「これがエージェントの戦い方だ!」
 左右に動いて相手をかく乱し、天が敵リーダーの懐に潜り込む。安全靴の一撃が繰り出される前に拳を握り、加速と同時に拳を繰り出した。まっすぐに突き出されるその動きは、教科書に乗せてもおかしくないきれいな形の一撃。
 どん、と鈍いと音が響く。腹部を打たれたリーダーは意識を失い、そのまま地面に崩れ落ちた。


 リーダーが倒れた後、大きな被害もなく修道女たちを戦闘不能にできた。FiVEの覚者は修道女全員を捕縛し、輸送車を呼んだ。修道女は全員生きている。あとは法の裁きが待っているだろう。
 だが――
「父ちゃん……父ちゃん!」
 父に庇われた蓮場幸助がその遺体を前に涙する。その涙にFiVEの覚者は悔しさをにじませていた。もとより救うのは難しいといわれていたが、それでもこの結果は悔しい。
「…………」
 翔はなく幸助に語り掛けようとして、言葉を止める。親父はお前も守ったんだ。そう言いたかったが、それを言って何になる? そんなことよりも父に生きてほしかっただろうに。オレが大人なら救えただろうか? 思わず自問する翔。
「こういうやり口は気に入りませんね」
 洗脳され、こちらの言葉を聞こうともしない修道女たち。そのやり口に怒りを覚えるアーレス。修道女たちを洗脳した相手。その存在を思い、拳を握る。
「彼女たちは利用されていただけ。……とはいえ」
 秋人は無抵抗の修道女たちを見てため息をついた。捨て駒。使い捨て。おそらく彼女たちから黒幕につながる手がかりは見つけられないのだろう。
「この洗脳って、もっとそーゆー組織の上の方からなんだろうな」
 天十里は修道女たちの目を見て、そんなことを呟く。どこを見ているのかわからない瞳。心ここにあらず、とばかりに焦点が合っていない。手がかりは見当たりそうにないか。
「そういえば、憤怒者にも組織があるのだな」
 天十里の言葉にうなずきながら紅刃は修道女たちの持ち物を探る。リーダーの修道服の内ポケット。そこに一枚の紙を見つける。メモに書かれた言葉は――
「これは……ロシア語だな?」
 メモを見た行成が目を細めてメモに書かれた言葉を読む。意味は分からないが、リーダーが大事に持っていたものだ。無意味な物ではないだろう。
「ロシア語分かる人いる? いないよなぁ……」
 天は仲間を振り返りそう尋ねるが、首を縦に振る者はいなかった。仕方ないFiVEに帰って調べよう。五麟学園にロシア語辞典ぐらいはあるだろう。
 FiVEの総務班がやってきて後処理を開始する。修道女は法の下に裁かれ、父を失った少年は一度家に送られる。その後のケア等大変だが、今は戦闘の疲れをいやすのが先だ。覚者は送迎の車の中で脱力し、ゆっくりと眠りについた。

 エグゾルツィーズム。
 それがメモに書かれた言葉だった。その意味は『悪魔祓い』……神に代わって悪魔を討つ代行者の意味。
 その名を冠する憤怒者達。それが静かに動き始めていた。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 親子を救うのは難しいはずだったのですが……このプレイングなら納得せざるを得ません。
 
 憤怒者は面倒な相手です。少なくとも覚者として許容はできないでしょう。
 彼らの怒りをどう受け止めるか。正解はありません。その葛藤をどくどくが描けたかの判断は、皆様にお任せします。

 それではまた、五麟学園で。




 
ここはミラーサイトです