<初心者歓迎>廃村ハザード 自然の驚異が牙となる
●
ファイヴ会議室。中 恭介(nCL2000002)は覚者たちを確認すると、ファイルを開いた。
「よく集まってくれた。AAAからの妖討伐依頼だ。この中には戦闘経験の浅い者もいるとは思うが、実戦経験を積むには丁度いい内容になっている。
ファイヴによる治安回復能力はめざましいものがある。そんな組織の戦闘経験値を引き上げようという考えも、あるのかもしれないな」
依頼されたのはある廃村での妖討伐である。
「古くは火山噴火によって破棄された村で、今は誰も住んでいない。周辺環境も安定したので再開発計画が持ち上がったんだが、そこへ妖の発生事件が起きてしまった。
タイプは自然系と物質系、ランクは1。
知能や戦闘力が低いが、非覚者にとっては充分致命的な脅威だ。
これを討伐するのが今回の目的になる」
村の簡易マップを配って、アタリは強く頷いた。
「壊れたものは人の手で直すことが出来る。土地や村も例外ではない。しかしそこに広がる脅威を打破できるのは君たちだけだ。頼んだぞ!」
ファイヴ会議室。中 恭介(nCL2000002)は覚者たちを確認すると、ファイルを開いた。
「よく集まってくれた。AAAからの妖討伐依頼だ。この中には戦闘経験の浅い者もいるとは思うが、実戦経験を積むには丁度いい内容になっている。
ファイヴによる治安回復能力はめざましいものがある。そんな組織の戦闘経験値を引き上げようという考えも、あるのかもしれないな」
依頼されたのはある廃村での妖討伐である。
「古くは火山噴火によって破棄された村で、今は誰も住んでいない。周辺環境も安定したので再開発計画が持ち上がったんだが、そこへ妖の発生事件が起きてしまった。
タイプは自然系と物質系、ランクは1。
知能や戦闘力が低いが、非覚者にとっては充分致命的な脅威だ。
これを討伐するのが今回の目的になる」
村の簡易マップを配って、アタリは強く頷いた。
「壊れたものは人の手で直すことが出来る。土地や村も例外ではない。しかしそこに広がる脅威を打破できるのは君たちだけだ。頼んだぞ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
村は多くの建物が倒壊し、ちょっとした荒野になっています。
このエリアを大きく東西に分けて攻略する作戦が提案されています。
妖はまばらに存在しており、エリアによって出現する妖の特徴も異なります。
基本的には一度に全部出てくる妖の群れと戦闘する形になるでしょう。
『3:3』くらいのチームに分けて戦闘を行なってください。
エリアの奥地にはやや強力な妖も潜んでいるので、それまでの損害が大きくなければこれも倒して欲しいとの依頼がなされています。
●エネミーデータ
『西側』
・煙ノ妖、自然系妖ランク1。
黒い煙が固まったような姿をしています。
物理攻撃がききづらい反面、特殊防御力が低いタイプです。
・使用能力
窒息:物近単【弱体】、0ダメージ
熱気焼き:物遠単、小ダメージ
・個体数
4~7
『東側』
・岩石ノ妖、物質系妖ランク1
黒い岩から昆虫のような足がはえた姿をしています。
特殊攻撃にやや体勢があり、見た目の割に物理防御力はかえって低いようです。
・使用能力
突撃:物近単【ノックバック】、小ダメージ命中力大
噛みつく:物近単、中ダメージ
・個体数
4~6
『奥地』
・灰炎ノ妖、自然系妖ランク1
炎がそのまま蛇になったような姿をしています。
個体数1。物理防御両方がそれなりに利きますが、攻撃力の高さと【カウンター】属性に注意しましょう。
・使用能力
燃えさかる:強化【カウンター】、特防+10
突撃:特近列【火傷】中ダメージ
炎をはき出す:特遠列【火傷】小ダメージ
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年09月27日
2016年09月27日
■メイン参加者 6人■

●西側エリア、煙ノ妖
けむり、うずまき、のぼるもや。
ねじれて開く二つの穴は、獣の頭蓋骨を思わせた。
イメージを更に膨らませるのは、大きく開いた口のような穴である。
煙ノ妖はいわば意志を持った煙だ。火災の死亡原因の一部が煙に巻かれることだと言われるように、凶悪な殺意を持って年若い少女へと襲いかかる。
少女はたちまち煙に巻かれ、小さな喉で咳き込んだ。
咳き込み、手を伸ばし、巨大な斧を握り込んだ。
古びた、細かい傷が無数にはしるバトルアックスを体躯に似合わぬ力で持ち上げると、煙を無理矢理払いのけた。
ただの少女ではない。
上下二つに千切れた煙は再び元の形に戻ろうとするが、それを少女――『アンシーリーコートスレイヤー』神々楽 黄泉(CL2001332)は大上段から斧を振り下ろすことで無理矢理にかき消した。
周囲の空気ごと破壊された妖はただの煙となって霧散していく。
大きく息を吸い込み、はき出す黄泉。
「苦手な、相手……けど、今、知っておかないと」
そんな彼女を前後左右から取り囲もうと迫ってくる煙ノ妖。
黄泉はぐるりと見回すと、背後から迫らんとした妖めがけて斧を水平に振り込んだ。
乱れた空気を更にかき乱すように、大地を砕く勢いで斧を叩き込む。
斧の攻撃をかわすようにふわふわと距離をとる妖たち。
いくら通りづらいといっても、物理的に存在している以上殴って倒せない存在ではない。
力で叩きつぶせないなら、より強い力で叩きつぶす。それが黄泉のやり方だった。
それに。
「これしか、しらない」
とはいえ多勢に無勢か。黄泉がじりじりと前後から囲まれていく。
「下がれ、低級妖め!」
そこへ飛び込んできたのは『若葉ノ陰陽師』矢萩・誠(CL2001468)である。
両手に短槍(たんそう)を握り込み、二重に八の字を描くように空をかき乱し、自らも回転することで妖たちを切り払う。
ちなみに短槍とは主に一メートルから一メートル半の槍をさし、先端と中央を握る形で構える近距離武器である。二メートル超えの長槍と比べて攻防のバランスが良く懐に潜られにくいことで知られるが、これを二本同時に扱う例は少ない。
この場合は中国武術の双短槍(もしくは双頭双槍)というものがあって、両端に穂がついた『長いダブルバトン』のよう外見と動作をする。
彼女の練武矢萩流の中でどう扱われているかはさておいて、陰陽術が中国思想に端を発していることからもあまり不自然ではない取り合わせだろう。
とはいえ銀髪白肌のロシア人クォーターが双頭双槍をめまぐるしくグルグル回すさまはどこか異次元めいたものがあった。ちなみに演舞の動画が普通に公開されていたりするので是非ご覧頂きたい。(中国武術を広める運動の一環である)
その動きに応じて煙ノ妖がおもしろいようにはじけ飛び、吹き飛ばされていくのだから異次元ぶりは倍増しだった。
「やはりなじむぞ、雷電千鳥。もう前回のようにへこたれない……俺は成長した!」
びしりと構えて見栄をきる誠。
「へー、じゃああとの連中頼むね」
崩れた民家の屋根に腰掛け、頭の後ろで手を組む天乃 カナタ(CL2001451)。
「えっ」
言ってるうちにじりじりと囲まれ始める誠と黄泉。
囲まれる人数が増えただけのようにも見えた。
腕を解いて顎肘をつくカナタ。
「もしかして手こずってる?」
「そ、そんにゃわけがあるか!」
噛んだ。
そんなわけがありそうだった。
「ふーん……ちょいめんどいけど……」
口ではそう言いながら、カナタは腕にショットガントレットをはめ込んだ。
ぴょんと屋根から飛び、着地。
地面を殴りつけたガントレットのナックルガードから電撃が走り、ばちりと周囲へ飛び散った。
警戒して輪を広げる妖たち。
「たまには、頑張ってみよっかな?」
拳をぐっと引き絞るカナタ。
斧を大きく振りかぶる黄泉。
誠は小さく頷くと、雷雨を呼ぶ儀式動作を始めた。肉体で森羅万象を描くという儀式術はしばしば激しく舞い踊る様に似るという。
まして少女がバトンめいた短槍を激しく回して舞うなれば尚のこと。
空に生まれる雷雲。
妖たちに雷の根がはるのと同時に、黄泉は大地に斧を思い切り叩き付けた。
放射状に伝わった振動がヒビとなり、波となり、やがて破壊の力となって妖たちをひっくり返していく。
「こうしてみると隙だらけだよー、っと」
カナタは引き絞った腕に勢いをつけ、大きく拳を突き出した。
振り抜き時のチップショットに特殊な波動が乗り、螺旋状に妖たちを貫いていく。
ギリギリ腹に穴を開けただけで耐えきった妖が、せめてもの反撃にとカナタへ飛びかからんとするが――。
「悪いけど。いいマトなんだよねー、それ」
カナタはその場でスピン。
腕に水の術式を纏わせると、振り払うように解き放った。
しぶきのように拡散し、妖の身体を細かく貫いていく水礫弾。
カナタは背を向け、ハンドポケットで目を瞑った。
「おーしまい」
舞いを止める誠。ゆっくりと斧を肩に担ぐ黄泉。
彼らの頭上で、妖は爆発四散した。
●東側エリア、岩石ノ妖
「フッ――!」
もう夏も終わったというのにボディラインむき出しのTシャツを纏った巨漢、『乙女な筋肉』新子 虎彦(CL2001449)が両腕の筋肉を漲らせた。
彼めがけてタックルをしかけてくる岩石の妖。無数の足で加速し、彼を突き飛ばそうと全身の物理エネルギーを一点に集中させている。直撃をくらえばボーリングのピンのようにはじき飛ばされてしまうだろう。
対して虎彦は、どこからともなく取り出したスレッジハンマー(ピンク色。可愛いリボンつき)をゴルフクラブのようにスイングした。
「ハァアアッ!」
妖の前面に激突。
生まれた衝撃波が周囲の小石や砂を吹き上げていくが、妖も虎彦もその場からは動かない。
どちらが吹き飛ぶか、意地と筋肉の張り合いなのだ。
「ヌウウゥ……!」
虎彦は目を見開き、歯を食いしばってビルドアップ。
「アンッ!」
最後はなんか変な声を出しながら妖を吹き飛ばした。
その様子をじっと観察する赤坂・仁(CL2000426)。
「あら、もしかしてアタシの顔になにかついてるかしら。それとも……ひ・と・め・ぼ・れ?」
頬に手を当て、くるりと振り返る筋肉の塊。
仁はサングラスのブリッジを指で押すように位置をなおすと、虎彦の存在を軽くスルーした。
「やぁねえ照れちゃって。ほんとアタシってば罪作り。ネッ☆」
振り返ってウィンクする虎彦。
それ(流れ弾)を受けて、水蓮寺 静護(CL2000471)はじっとりと背中に汗をかいた。
奇人変人のサファリパークことファイヴ覚者といえど、そういえばこういうタイプはいなかったな……とか冷静に考えて目をそらした。
そらしたついでに仁に話しかけてみる。
「赤坂君、今日は術式の実用訓練をしたいんだが……」
「訓練か」
仁はサブマシンガンのカートリッジを交換しながら頷いた。
「武器は使い慣れてこそ結果を出す。いいだろう、援護する」
物陰から妖が現われたのを見て、銃に自らの気を込めて連射。
妖を途中まで摩耗させると、静護へ合図を送った。
「よし――」
愛用の刀、絶海。謎の妖気を纏うというこの刀の使用方法は主に水礫や純粋な剣術による斬撃ばかりだったが、七星剣や高位妖との戦いが激化する昨今、様々な技術にも精通しておく必要があった。
「そこで、まずはこれだ……!」
静護の刀から妖気が吹き出し、巨大な氷の剣となって固まった。
強く踏み込み、岩石ノ妖へ叩き付ける。
「更に――!」
拳で胸をドンと叩くと、まるでエンジンがかかったように静護の肉体からオーラがたちのぼる。
氷の剣は急速に蒸気を放ち、爆発せんばかりに振動し始める。
別方向から駆け込んでくる妖をターゲット。
大上段から叩き付けると、氷部分が爆裂。妖を地面もろとも吹き飛ばした。
150%オーバーとは行かないが、命中精度も相まってかなりの平均破壊力をたたき出せるようだ。
静護のようなバランス型にとっては、こうした強化スキルはなかなか馬鹿に出来ない。
攻撃強化の反面無防備になってしまうのは痛いが、立ち回り次第ではデメリットをかき消せるだろう。
息を吐き、姿勢を直して振り返る。
仁が頷き、虎彦がウィンクした。
……静護はそっと目をそらした。
●奥地、灰炎ノ妖
東側は静護や仁の卓越した戦闘力で、西側はカナタや誠のメディカルスキルで安全に切り抜けた六人。
戦力的な余裕も相まって――
「来ちゃった☆ アタシのことは『虎ちゃん』って呼んじゃってねんっ」
軽くハイになった虎彦が投げキスをしながらスレッジハンマーを担ぎ上げた。
「……私は、まげない。押し切るだけ」
包帯をぎゅっと巻き直してから斧を担ぎ上げる黄泉。
そんな二人を見下ろすように身体を高く持ち上げる、灰炎ノ妖。
渦巻く炎と灰燼が大蛇の形をなした妖である。
妖は激しく身体を燃えさからせると、威嚇するように吠え始めた。
「無駄だ。その程度の抵抗など――!」
誠は地面を双短槍で叩くと、反動で吹き上がった砂塵を風や身体に纏わせるようにして舞い始めた。
舞いが霧を生み、霧が妖を覆い隠していく。
燃えさかっていた炎が上がるそばから消え去り、妖が纏っているのはもはや表面の熱のみだ。
「いくわよ」
虎彦は全身を激しくパンプアップさせると、妖めがけて強烈なショルダータックルを叩き込んだ。
かるくゆらぐ妖の身体。黄泉は岩のように硬い虎彦の背中を駆け上がると、大上段から斧を叩き込んだ。
身体を構成する灰や小石がはじけ、崩壊しかかる妖。
それを拒むように、口部分から炎をはき出した。
右から左へ薙ぎ払うように放たれた炎に黄泉たちが包まれていく。
「天乃!」
「おっけー!」
カナタは地面にガントレットを叩き付けると、虎彦たちの立つ地面から治癒液を噴出させた。
その動作を助けるように波動弾による機関銃射撃を加える仁。
ただの射撃ではない。しっかりと狙った彼の射撃は妖が動作するために使っているいくつかの部位を的確に潰し、大きく動きを阻害していった。
「今だ――!」
相手に大きな隙が生まれんとした時。それが静護にとって大技のチャンスとなる。
刀を地面に突き立て、胸に手を当てる。
先程のように身体のエンジンをかけ、オーラを燃え上がらせる。
すると刀が激しい霧を纏い始めた。
表面のオーラは煮え立った熱湯のように波打っている。
「くらえ」
静護が大地に打ち付けたエネルギーは地層を通って妖の足下へ。
そして間欠泉のごとく激しい水流となって吹き上がった。
絶叫し、水流に呑まれていく妖。
とてつもないダメージを与えることができたが、対して静護はがくりとその場に膝をつく。
水流から顔を出し、大きく口を開く妖。
「危ない!」
誠は本能的に走り出し、静護の前に立ち塞がった。
目を見開く静護。
暴風をともなった炎が誠を直撃。
元々打たれ弱い彼女である。誠は紙のように吹き飛んで静護にぶつかった。
「何をやってる、この程度俺は――!」
「ふふ……俺は練武矢萩流の陰陽師。人々を守るのは、俺の、やく……め」
誠はぐったりと脱力した。
彼らを立ち塞がり妖への牽制射撃を加える仁。
「天乃、回復を!」
「お、おお」
いつものように身体の力を抜いていこうとしていたカナタは、誠たちの熱に突き動かされるように術式を組み始めた。
「皆に任せて下がってよーと思ったんだけどなー……なんてっ!」
一方、妖へ果敢に殴りかかる黄泉。
虎彦と一緒にボディを粉砕するが、妖はこれ以上はとばかりに走り出した。
逃げるわけではない。
黄泉たちを巻くようにぐるりと身体を走らせると、炎を上から浴びせて焼き尽くそうとし始めたのだ。
「赤坂――」
「了解」
脱出路を作らねばならない。静護と仁はボディに一箇所を集中的に狙って射撃を加えた。
水礫と波動弾の集中攻撃だが、まだ崩壊には至らない。
「退くか?」
「いーや、今が畳みどきでしょ!」
カナタが二人の間を駆け抜け、妖のボディをショットガントレットで殴りつけた。集中攻撃によってもろくなった部分だ。
圧縮されて放たれたウォーターカッターが妖を貫き、半壊。
更に黄泉と虎彦が内側からのフルスイングアタックによって全壊。
連鎖的に崩壊した妖は、最後の叫びを上げながらただの灰燼と帰した。
ばたん、と仰向けに倒れる黄泉。
静護は彼女に駆け寄り、急いで抱え起こした。
「強かった」
「ああ……神々楽君はよくやった」
「お母さんたち、もっと、強かった」
慰めることを言ったつもりだった静護だが、黄泉の言わんとしていることは別にあるようだった。
「ねえ、どうしたら……強くなれる、の」
自分に問いかけているようだ。
静護は迷ったが、目をそらしてはいけない気がした。
「なんでも、する。教えて……くれる?」
一方、虎彦の熱烈なウィンクアピールを完全スルーする仁……のそばで、虎彦がハンドポケットで佇んでいた。
戦闘が終わると、なんだかむなしさが胸を占める気がする。
得るべきは達成感の筈だが、何か足りない気がしていた。
戦いの先に何かがあるのだろうか。
黄泉が自分を変えたがっているように、誠が自分を変えたがっているように。
「ま、いっか」
考えてわかることではあるまい。
とか思って振り返ってみると。
「ふふ、どうせ俺なんて考え無しの馬鹿だよ。何倍も強い相手の盾になって一体どうするというんだ。ふふ、だから馬鹿にされるんだ、ふふふ……」
誠が地面に槍でのの字を書きながらしおれていた。
一度空を見上げるカナタ。
「なあ、誠さあ」
ぴたりと止まる誠。
カナタは親指を立てて言った。
「マックいかね?」
誠が、スローモーションでパァッと振り返った。
人々は炎の恐怖におびえ、幾度となく命を落としてきた。
だが逆に、炎を使いこなし巨大な文明を築きもした。
今日戦った未熟な覚者たちも、かつての人々のように因子という炎を使いこなし、力とするだろう。
その日は決して、遠い未来じゃない。
けむり、うずまき、のぼるもや。
ねじれて開く二つの穴は、獣の頭蓋骨を思わせた。
イメージを更に膨らませるのは、大きく開いた口のような穴である。
煙ノ妖はいわば意志を持った煙だ。火災の死亡原因の一部が煙に巻かれることだと言われるように、凶悪な殺意を持って年若い少女へと襲いかかる。
少女はたちまち煙に巻かれ、小さな喉で咳き込んだ。
咳き込み、手を伸ばし、巨大な斧を握り込んだ。
古びた、細かい傷が無数にはしるバトルアックスを体躯に似合わぬ力で持ち上げると、煙を無理矢理払いのけた。
ただの少女ではない。
上下二つに千切れた煙は再び元の形に戻ろうとするが、それを少女――『アンシーリーコートスレイヤー』神々楽 黄泉(CL2001332)は大上段から斧を振り下ろすことで無理矢理にかき消した。
周囲の空気ごと破壊された妖はただの煙となって霧散していく。
大きく息を吸い込み、はき出す黄泉。
「苦手な、相手……けど、今、知っておかないと」
そんな彼女を前後左右から取り囲もうと迫ってくる煙ノ妖。
黄泉はぐるりと見回すと、背後から迫らんとした妖めがけて斧を水平に振り込んだ。
乱れた空気を更にかき乱すように、大地を砕く勢いで斧を叩き込む。
斧の攻撃をかわすようにふわふわと距離をとる妖たち。
いくら通りづらいといっても、物理的に存在している以上殴って倒せない存在ではない。
力で叩きつぶせないなら、より強い力で叩きつぶす。それが黄泉のやり方だった。
それに。
「これしか、しらない」
とはいえ多勢に無勢か。黄泉がじりじりと前後から囲まれていく。
「下がれ、低級妖め!」
そこへ飛び込んできたのは『若葉ノ陰陽師』矢萩・誠(CL2001468)である。
両手に短槍(たんそう)を握り込み、二重に八の字を描くように空をかき乱し、自らも回転することで妖たちを切り払う。
ちなみに短槍とは主に一メートルから一メートル半の槍をさし、先端と中央を握る形で構える近距離武器である。二メートル超えの長槍と比べて攻防のバランスが良く懐に潜られにくいことで知られるが、これを二本同時に扱う例は少ない。
この場合は中国武術の双短槍(もしくは双頭双槍)というものがあって、両端に穂がついた『長いダブルバトン』のよう外見と動作をする。
彼女の練武矢萩流の中でどう扱われているかはさておいて、陰陽術が中国思想に端を発していることからもあまり不自然ではない取り合わせだろう。
とはいえ銀髪白肌のロシア人クォーターが双頭双槍をめまぐるしくグルグル回すさまはどこか異次元めいたものがあった。ちなみに演舞の動画が普通に公開されていたりするので是非ご覧頂きたい。(中国武術を広める運動の一環である)
その動きに応じて煙ノ妖がおもしろいようにはじけ飛び、吹き飛ばされていくのだから異次元ぶりは倍増しだった。
「やはりなじむぞ、雷電千鳥。もう前回のようにへこたれない……俺は成長した!」
びしりと構えて見栄をきる誠。
「へー、じゃああとの連中頼むね」
崩れた民家の屋根に腰掛け、頭の後ろで手を組む天乃 カナタ(CL2001451)。
「えっ」
言ってるうちにじりじりと囲まれ始める誠と黄泉。
囲まれる人数が増えただけのようにも見えた。
腕を解いて顎肘をつくカナタ。
「もしかして手こずってる?」
「そ、そんにゃわけがあるか!」
噛んだ。
そんなわけがありそうだった。
「ふーん……ちょいめんどいけど……」
口ではそう言いながら、カナタは腕にショットガントレットをはめ込んだ。
ぴょんと屋根から飛び、着地。
地面を殴りつけたガントレットのナックルガードから電撃が走り、ばちりと周囲へ飛び散った。
警戒して輪を広げる妖たち。
「たまには、頑張ってみよっかな?」
拳をぐっと引き絞るカナタ。
斧を大きく振りかぶる黄泉。
誠は小さく頷くと、雷雨を呼ぶ儀式動作を始めた。肉体で森羅万象を描くという儀式術はしばしば激しく舞い踊る様に似るという。
まして少女がバトンめいた短槍を激しく回して舞うなれば尚のこと。
空に生まれる雷雲。
妖たちに雷の根がはるのと同時に、黄泉は大地に斧を思い切り叩き付けた。
放射状に伝わった振動がヒビとなり、波となり、やがて破壊の力となって妖たちをひっくり返していく。
「こうしてみると隙だらけだよー、っと」
カナタは引き絞った腕に勢いをつけ、大きく拳を突き出した。
振り抜き時のチップショットに特殊な波動が乗り、螺旋状に妖たちを貫いていく。
ギリギリ腹に穴を開けただけで耐えきった妖が、せめてもの反撃にとカナタへ飛びかからんとするが――。
「悪いけど。いいマトなんだよねー、それ」
カナタはその場でスピン。
腕に水の術式を纏わせると、振り払うように解き放った。
しぶきのように拡散し、妖の身体を細かく貫いていく水礫弾。
カナタは背を向け、ハンドポケットで目を瞑った。
「おーしまい」
舞いを止める誠。ゆっくりと斧を肩に担ぐ黄泉。
彼らの頭上で、妖は爆発四散した。
●東側エリア、岩石ノ妖
「フッ――!」
もう夏も終わったというのにボディラインむき出しのTシャツを纏った巨漢、『乙女な筋肉』新子 虎彦(CL2001449)が両腕の筋肉を漲らせた。
彼めがけてタックルをしかけてくる岩石の妖。無数の足で加速し、彼を突き飛ばそうと全身の物理エネルギーを一点に集中させている。直撃をくらえばボーリングのピンのようにはじき飛ばされてしまうだろう。
対して虎彦は、どこからともなく取り出したスレッジハンマー(ピンク色。可愛いリボンつき)をゴルフクラブのようにスイングした。
「ハァアアッ!」
妖の前面に激突。
生まれた衝撃波が周囲の小石や砂を吹き上げていくが、妖も虎彦もその場からは動かない。
どちらが吹き飛ぶか、意地と筋肉の張り合いなのだ。
「ヌウウゥ……!」
虎彦は目を見開き、歯を食いしばってビルドアップ。
「アンッ!」
最後はなんか変な声を出しながら妖を吹き飛ばした。
その様子をじっと観察する赤坂・仁(CL2000426)。
「あら、もしかしてアタシの顔になにかついてるかしら。それとも……ひ・と・め・ぼ・れ?」
頬に手を当て、くるりと振り返る筋肉の塊。
仁はサングラスのブリッジを指で押すように位置をなおすと、虎彦の存在を軽くスルーした。
「やぁねえ照れちゃって。ほんとアタシってば罪作り。ネッ☆」
振り返ってウィンクする虎彦。
それ(流れ弾)を受けて、水蓮寺 静護(CL2000471)はじっとりと背中に汗をかいた。
奇人変人のサファリパークことファイヴ覚者といえど、そういえばこういうタイプはいなかったな……とか冷静に考えて目をそらした。
そらしたついでに仁に話しかけてみる。
「赤坂君、今日は術式の実用訓練をしたいんだが……」
「訓練か」
仁はサブマシンガンのカートリッジを交換しながら頷いた。
「武器は使い慣れてこそ結果を出す。いいだろう、援護する」
物陰から妖が現われたのを見て、銃に自らの気を込めて連射。
妖を途中まで摩耗させると、静護へ合図を送った。
「よし――」
愛用の刀、絶海。謎の妖気を纏うというこの刀の使用方法は主に水礫や純粋な剣術による斬撃ばかりだったが、七星剣や高位妖との戦いが激化する昨今、様々な技術にも精通しておく必要があった。
「そこで、まずはこれだ……!」
静護の刀から妖気が吹き出し、巨大な氷の剣となって固まった。
強く踏み込み、岩石ノ妖へ叩き付ける。
「更に――!」
拳で胸をドンと叩くと、まるでエンジンがかかったように静護の肉体からオーラがたちのぼる。
氷の剣は急速に蒸気を放ち、爆発せんばかりに振動し始める。
別方向から駆け込んでくる妖をターゲット。
大上段から叩き付けると、氷部分が爆裂。妖を地面もろとも吹き飛ばした。
150%オーバーとは行かないが、命中精度も相まってかなりの平均破壊力をたたき出せるようだ。
静護のようなバランス型にとっては、こうした強化スキルはなかなか馬鹿に出来ない。
攻撃強化の反面無防備になってしまうのは痛いが、立ち回り次第ではデメリットをかき消せるだろう。
息を吐き、姿勢を直して振り返る。
仁が頷き、虎彦がウィンクした。
……静護はそっと目をそらした。
●奥地、灰炎ノ妖
東側は静護や仁の卓越した戦闘力で、西側はカナタや誠のメディカルスキルで安全に切り抜けた六人。
戦力的な余裕も相まって――
「来ちゃった☆ アタシのことは『虎ちゃん』って呼んじゃってねんっ」
軽くハイになった虎彦が投げキスをしながらスレッジハンマーを担ぎ上げた。
「……私は、まげない。押し切るだけ」
包帯をぎゅっと巻き直してから斧を担ぎ上げる黄泉。
そんな二人を見下ろすように身体を高く持ち上げる、灰炎ノ妖。
渦巻く炎と灰燼が大蛇の形をなした妖である。
妖は激しく身体を燃えさからせると、威嚇するように吠え始めた。
「無駄だ。その程度の抵抗など――!」
誠は地面を双短槍で叩くと、反動で吹き上がった砂塵を風や身体に纏わせるようにして舞い始めた。
舞いが霧を生み、霧が妖を覆い隠していく。
燃えさかっていた炎が上がるそばから消え去り、妖が纏っているのはもはや表面の熱のみだ。
「いくわよ」
虎彦は全身を激しくパンプアップさせると、妖めがけて強烈なショルダータックルを叩き込んだ。
かるくゆらぐ妖の身体。黄泉は岩のように硬い虎彦の背中を駆け上がると、大上段から斧を叩き込んだ。
身体を構成する灰や小石がはじけ、崩壊しかかる妖。
それを拒むように、口部分から炎をはき出した。
右から左へ薙ぎ払うように放たれた炎に黄泉たちが包まれていく。
「天乃!」
「おっけー!」
カナタは地面にガントレットを叩き付けると、虎彦たちの立つ地面から治癒液を噴出させた。
その動作を助けるように波動弾による機関銃射撃を加える仁。
ただの射撃ではない。しっかりと狙った彼の射撃は妖が動作するために使っているいくつかの部位を的確に潰し、大きく動きを阻害していった。
「今だ――!」
相手に大きな隙が生まれんとした時。それが静護にとって大技のチャンスとなる。
刀を地面に突き立て、胸に手を当てる。
先程のように身体のエンジンをかけ、オーラを燃え上がらせる。
すると刀が激しい霧を纏い始めた。
表面のオーラは煮え立った熱湯のように波打っている。
「くらえ」
静護が大地に打ち付けたエネルギーは地層を通って妖の足下へ。
そして間欠泉のごとく激しい水流となって吹き上がった。
絶叫し、水流に呑まれていく妖。
とてつもないダメージを与えることができたが、対して静護はがくりとその場に膝をつく。
水流から顔を出し、大きく口を開く妖。
「危ない!」
誠は本能的に走り出し、静護の前に立ち塞がった。
目を見開く静護。
暴風をともなった炎が誠を直撃。
元々打たれ弱い彼女である。誠は紙のように吹き飛んで静護にぶつかった。
「何をやってる、この程度俺は――!」
「ふふ……俺は練武矢萩流の陰陽師。人々を守るのは、俺の、やく……め」
誠はぐったりと脱力した。
彼らを立ち塞がり妖への牽制射撃を加える仁。
「天乃、回復を!」
「お、おお」
いつものように身体の力を抜いていこうとしていたカナタは、誠たちの熱に突き動かされるように術式を組み始めた。
「皆に任せて下がってよーと思ったんだけどなー……なんてっ!」
一方、妖へ果敢に殴りかかる黄泉。
虎彦と一緒にボディを粉砕するが、妖はこれ以上はとばかりに走り出した。
逃げるわけではない。
黄泉たちを巻くようにぐるりと身体を走らせると、炎を上から浴びせて焼き尽くそうとし始めたのだ。
「赤坂――」
「了解」
脱出路を作らねばならない。静護と仁はボディに一箇所を集中的に狙って射撃を加えた。
水礫と波動弾の集中攻撃だが、まだ崩壊には至らない。
「退くか?」
「いーや、今が畳みどきでしょ!」
カナタが二人の間を駆け抜け、妖のボディをショットガントレットで殴りつけた。集中攻撃によってもろくなった部分だ。
圧縮されて放たれたウォーターカッターが妖を貫き、半壊。
更に黄泉と虎彦が内側からのフルスイングアタックによって全壊。
連鎖的に崩壊した妖は、最後の叫びを上げながらただの灰燼と帰した。
ばたん、と仰向けに倒れる黄泉。
静護は彼女に駆け寄り、急いで抱え起こした。
「強かった」
「ああ……神々楽君はよくやった」
「お母さんたち、もっと、強かった」
慰めることを言ったつもりだった静護だが、黄泉の言わんとしていることは別にあるようだった。
「ねえ、どうしたら……強くなれる、の」
自分に問いかけているようだ。
静護は迷ったが、目をそらしてはいけない気がした。
「なんでも、する。教えて……くれる?」
一方、虎彦の熱烈なウィンクアピールを完全スルーする仁……のそばで、虎彦がハンドポケットで佇んでいた。
戦闘が終わると、なんだかむなしさが胸を占める気がする。
得るべきは達成感の筈だが、何か足りない気がしていた。
戦いの先に何かがあるのだろうか。
黄泉が自分を変えたがっているように、誠が自分を変えたがっているように。
「ま、いっか」
考えてわかることではあるまい。
とか思って振り返ってみると。
「ふふ、どうせ俺なんて考え無しの馬鹿だよ。何倍も強い相手の盾になって一体どうするというんだ。ふふ、だから馬鹿にされるんだ、ふふふ……」
誠が地面に槍でのの字を書きながらしおれていた。
一度空を見上げるカナタ。
「なあ、誠さあ」
ぴたりと止まる誠。
カナタは親指を立てて言った。
「マックいかね?」
誠が、スローモーションでパァッと振り返った。
人々は炎の恐怖におびえ、幾度となく命を落としてきた。
だが逆に、炎を使いこなし巨大な文明を築きもした。
今日戦った未熟な覚者たちも、かつての人々のように因子という炎を使いこなし、力とするだろう。
その日は決して、遠い未来じゃない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
