主なきゴミ屋敷
●百棄の夜行
そこがゴミ屋敷という名前で呼ばれるようになったのは、いつからのことだっただろうか。
近隣住民は、一度もその家の住人の姿を見たことがない。ただ、いつの間にかに家の敷地にはゴミが増えており、誰かがそれを片付けても、必ず数日後にはゴミが増えている。
行政に連絡を入れてみると、なんとその家は古くからの空き家だという。ならば、無法者が勝手に住み着いているのだろうか。
恐る恐る、その家の中に入った者もいたが、やはり誰もいない。しかし、日に日にゴミが増えていく。このままでは、住宅街全体の景観に悪影響を与えるし、集まるゴミは粗大ゴミが大半とはいえ、悪臭も酷くなっていく。そこで、大規模な清掃が行われることになった。
結構は昼。もしも誰かが勝手に住み着いているのであれば、夜間に帰って来ているのだろう。昼間ならば鉢合わせになる危険性もないはずだ。
しかし、そこで近隣住民たちは鉢合わせとなった。人ではなく、もっと巨大で強大なモノに。
どこから持ってきたのか、扉が完全に千切れていて、使い物にならなそうな冷蔵庫を、青年たちが持ち上げて運んでいく。一応は家の庭である部分には、こうした大型家電が山積みだ。
他にもテレビ、電子レンジ、テレビ、それほど普及していないパソコンまである。いずれにせよ、液晶が壊れたり、主要な部品が破壊されており、何の役にも立たない粗大ゴミだ。
次に運び出そうとしたテレビに青年が手をかけた時、それがもぞり、と動き出す。まさか、下に野良犬でもいたのか、と思わず青年は飛び退るが、こんなゴミ山の下で犬が生きていられるはずもない。動き出したのは、テレビ……いや、この粗大ゴミの山そのものであり、それは不思議なことに二メートルほどの人の形を取って、立ち上がった。
「妖だ……!」
誰かが叫ぶ。ゴミが妖だったのか、妖がゴミになったのか、ともかく、目の前には一般人が太刀打ち出来ない、巨大な怪物が姿を現している。
体力と脚力に自信のある青年たちは、慌てて逃げ出す。他の人が襲われるかもしれないが、そんなことを氣にしてはいられない。自分が生き残ることを第一に考えなければ――!
しかし、ゴミの巨人はその外見からは想像できないほど身軽に跳躍し、青年たちの逃げ道を塞いだ。そして、ねじ切れた廃棄品の鉄パイプを振り上げる。
●
「もう夏も終わりですけど、皆さん、この夏を利用してお部屋の掃除などはされましたか?」
久方真由美(nCL2000003)は夢の内容を話した後、それに絡めて覚者たちにそんな質問を投げかけた。
「おそらくこのお家は最初、ゴミの不法投棄をされるだけの場所だったのでしょう。しかし、いつしかゴミの妖が住み着くようになり、ゴミに埋め尽くされるようになってしまったのだと思います」
真由美は説明のためにペンを走らせ、討伐対象となる妖の姿を描き出す。なるほど、頭がテレビ、胴体が冷蔵庫、腕は細かな家電の部品で作られていて、見た目だけならマンガに出てきそうなチープなロボットに見え、なかなかにひょうきんで愛嬌すら感じられる。
「大きさは二メートルほど。同型の妖が、計四体いるようです。近隣住民の方によるゴミの清掃が始まる前に倒してしまいたいので、戦闘は深夜から早朝までの間に終わらせてもらいたいのですが、お願いできますか?」
覚者の中から、気を抜くと寝落ちしてしまいそうな時間だ、と冗談が飛ぶ。真由美はその言葉に苦笑しつつ、話を続けた。
「それから、住宅街での戦いとなりますので、あまり周囲を破壊してしまわないよう、気をつけてもらえますか? 妖の攻撃で破壊されるのは、仕方ないかもしれませんが……」
そこがゴミ屋敷という名前で呼ばれるようになったのは、いつからのことだっただろうか。
近隣住民は、一度もその家の住人の姿を見たことがない。ただ、いつの間にかに家の敷地にはゴミが増えており、誰かがそれを片付けても、必ず数日後にはゴミが増えている。
行政に連絡を入れてみると、なんとその家は古くからの空き家だという。ならば、無法者が勝手に住み着いているのだろうか。
恐る恐る、その家の中に入った者もいたが、やはり誰もいない。しかし、日に日にゴミが増えていく。このままでは、住宅街全体の景観に悪影響を与えるし、集まるゴミは粗大ゴミが大半とはいえ、悪臭も酷くなっていく。そこで、大規模な清掃が行われることになった。
結構は昼。もしも誰かが勝手に住み着いているのであれば、夜間に帰って来ているのだろう。昼間ならば鉢合わせになる危険性もないはずだ。
しかし、そこで近隣住民たちは鉢合わせとなった。人ではなく、もっと巨大で強大なモノに。
どこから持ってきたのか、扉が完全に千切れていて、使い物にならなそうな冷蔵庫を、青年たちが持ち上げて運んでいく。一応は家の庭である部分には、こうした大型家電が山積みだ。
他にもテレビ、電子レンジ、テレビ、それほど普及していないパソコンまである。いずれにせよ、液晶が壊れたり、主要な部品が破壊されており、何の役にも立たない粗大ゴミだ。
次に運び出そうとしたテレビに青年が手をかけた時、それがもぞり、と動き出す。まさか、下に野良犬でもいたのか、と思わず青年は飛び退るが、こんなゴミ山の下で犬が生きていられるはずもない。動き出したのは、テレビ……いや、この粗大ゴミの山そのものであり、それは不思議なことに二メートルほどの人の形を取って、立ち上がった。
「妖だ……!」
誰かが叫ぶ。ゴミが妖だったのか、妖がゴミになったのか、ともかく、目の前には一般人が太刀打ち出来ない、巨大な怪物が姿を現している。
体力と脚力に自信のある青年たちは、慌てて逃げ出す。他の人が襲われるかもしれないが、そんなことを氣にしてはいられない。自分が生き残ることを第一に考えなければ――!
しかし、ゴミの巨人はその外見からは想像できないほど身軽に跳躍し、青年たちの逃げ道を塞いだ。そして、ねじ切れた廃棄品の鉄パイプを振り上げる。
●
「もう夏も終わりですけど、皆さん、この夏を利用してお部屋の掃除などはされましたか?」
久方真由美(nCL2000003)は夢の内容を話した後、それに絡めて覚者たちにそんな質問を投げかけた。
「おそらくこのお家は最初、ゴミの不法投棄をされるだけの場所だったのでしょう。しかし、いつしかゴミの妖が住み着くようになり、ゴミに埋め尽くされるようになってしまったのだと思います」
真由美は説明のためにペンを走らせ、討伐対象となる妖の姿を描き出す。なるほど、頭がテレビ、胴体が冷蔵庫、腕は細かな家電の部品で作られていて、見た目だけならマンガに出てきそうなチープなロボットに見え、なかなかにひょうきんで愛嬌すら感じられる。
「大きさは二メートルほど。同型の妖が、計四体いるようです。近隣住民の方によるゴミの清掃が始まる前に倒してしまいたいので、戦闘は深夜から早朝までの間に終わらせてもらいたいのですが、お願いできますか?」
覚者の中から、気を抜くと寝落ちしてしまいそうな時間だ、と冗談が飛ぶ。真由美はその言葉に苦笑しつつ、話を続けた。
「それから、住宅街での戦いとなりますので、あまり周囲を破壊してしまわないよう、気をつけてもらえますか? 妖の攻撃で破壊されるのは、仕方ないかもしれませんが……」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全ての妖の撃破
2.周囲への被害を可能な限り抑える
3.なし
2.周囲への被害を可能な限り抑える
3.なし
今回の任務は、ゴミ屋敷と化した家の妖を討伐するというものです。
●討伐対象:ゴミ戦士(物質系・ランク1)×2
体長二メートルほどのゴミの集合体である妖です。やや動きは鈍重ですが、パワーもタフネスもあり、物質系自体の術式の効きづらさもあって、討伐には時間のかかる相手です。
使用スキル
・パワーナックル(A:物近単)……力を込めた拳で殴りつけます。ちなみに彼らの拳は金属製であり、文字通りの鉄拳による一撃です。
・突進(A:物近単【貫2】)……力任せに突進をしてきます。直前に集中を行うため、命中は高めですが、次の手がわかりやすいため、なんらかの対策を立てることができます。
・ゴミ投げ(A:物遠単)……近くにあるゴミを拾って投げつけます。しっかりと狙いをつけるほどの知能がないため、命中は低く、威嚇的な攻撃です。
討伐対象:ゴミ剣士(物質系・ランク1)×2
同じく、体長二メートルほどの妖です。戦士よりも身軽で、高い跳躍力と素早い動きを得意としています。反面、防御面は弱めのため、複数人での集中攻撃が有効でしょう。武器として鉄パイプを持っており、これでまるで剣術のような攻撃を仕掛けてきます。
使用スキル
・突き(A:物近単)……威力の高い突き攻撃です。武器である鉄パイプはねじ切れており、断面が鋭利なため、直撃するとかなりのダメージとなります。
・なぎ払い(A:物近列)……鉄パイプで広範囲をなぎ払います。威力はそれほどではありません。
・ゴミ撃ち(A:物遠単)……近くにあるゴミを鉄パイプで撃ち、遠くまで飛ばします。ゴミ戦士のゴミ投げに比べると、威力も命中も優れています。
覚者たちの現場への到着は深夜となります。住宅街なので、街灯などの光源は十分にあります。時間帯的に一般人が通りかかるようなことはありませんが、あまりに戦闘が長引くようであれば、近隣住民が物音で目を覚ます可能性もあります。その際はファイヴであることを明かさず、対処していだければ幸いです。
妖のゴミを用いた攻撃は、ゴミ屋敷から離れてしまえば、武器とするためのゴミがないため、使用できません(ゴミを持ち運んで武器にする、というような知能はありません)。また、ゴミ屋敷の敷地内は足元にゴミが転がっており、足場が悪いため、かなり戦いづらいことが予想されます。
ただし、ゴミ屋敷内で戦った方が、周囲の道路や家への被害は少なく済むでしょう。戦力や作戦に応じて、戦う場所も工夫していただければ幸いです。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年09月15日
2015年09月15日
■メイン参加者 8人■

●ゴミの巣窟で
「よしっ、ロープはこんな感じでいいかな。エメさん、結界はどんな感じですか?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は道路を封鎖するように張ったロープの具合を確認して、満足気に頷く。もうすぐ、この場所では妖との戦闘が起きる。できるだけ周囲に被害が出ないように配慮するつもりだが、一般人が近寄らないのに越したことはない。
「ええ、こちらも万全ですわ。これで人払いは大丈夫でしょう」
奏空たちが物理的な人払いをしたのに対し、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は自身の能力で人を近寄らせづらくする結界を展開した。
「よし、じゃあ作戦通りに、俺が先頭でゴミ屋敷の敷地内に入ろう。俺が不意打ちはさせないつもりだけど、念のためにみんなも警戒は怠らないでくれ」
事前準備を終え、第六感を持つ鈴白 秋人(CL2000565)を先頭に覚者の一行はゴミ屋敷へと足を踏み入れる。街灯があるとはいえ、ゴミ屋敷の敷地内はその名の通りにゴミだらけで見通しが悪く、光が届かない場所も多い。そして、戦うべき妖もまたゴミそのものなのだから、ただのゴミと思ったら敵、ということは十二分にあり得るだろう。そのためにも、不意打ちへの警戒は欠かせない。
秋人は油断なく懐中電灯で照らしながら、ゴミ山を探っていく。
「確か、怪しいのは冷蔵庫とか洗濯機とか、そんなんだよな」
既に夢見が予見した内容を聞いているので、妖の容姿はわかっている。奥州 一悟(CL2000076)は目につく大きなゴミをどかしてみるが、どれも正解ではないようだ。何分、粗大ゴミだけでも数が多すぎる。
「それにしても、こんなにゴミが出るもんなんだなー、まだ使えるのないかな? ……っと、考えなしに触ってたら、こっちに崩れてきそうだぞ」
『FLIP⁂FLAP』花蔭 ヤヒロ(CL2000316)はゴミ山に潜む妖を捜索しつつも、持ち帰れそうなものがないかと探っている。実際、そんな発想も出てきそうなほど大量のゴミが投棄されているのだ。よくもまあ、一箇所にこれだけ集まったものだと思わず感心してしまう。
「……! 今、あそこの山が動いたな。みんな、退路を絶たれる前に敷地の外に出よう。工藤くんは、敵の誘導を!」
「了解! 念のために、みんなも武器を構えといてよ!」
家の外にはいないのか、と屋内に一歩足を踏み入れた瞬間、暗闇の中でゴミ山が小さく動き出した。秋人のいち早い発見に応じて、奏空を残して一同は撤退する。ゴミ屋敷の中は、完全にゴミの妖のホームグラウンドだ。そんなところでの戦いに付き合っていては命がいくらあっても足りない。
「鬼さんこちら、だよ!」
ゴミの妖は二種類。ゴミ剣士と分類された身軽な剣士タイプと、ゴミ戦士と分類された鈍重な戦士タイプだ。まずは剣士が武器である鉄パイプを振り回しつつ、襲いかかってくる。敷地内にはゴミが散らばっており足場は劣悪だが、バランス感覚と素早さで奏空は器用に敵の攻撃と足元のゴミ、その全てを避けていく。距離を取り過ぎると、相手は近距離技ではなく、遠距離技である近場のゴミを利用した攻撃を繰り出してくる。つかず離れずの距離での誘導は危険を伴うが、どうにか屋敷内から脱出し、家の前に覚者たちが陣形を築く。敵も剣士が二体、戦士が二体。予見にあった通りの数が集まってきた。
誘導を終えた奏空が本来のポジションである後衛に下がると、早速、ゴミ戦士が身軽な動きで接近してくる。そこには二人の覚者が躍り出た。
「……いざ、参ります」
刀を構えた神室・祇澄(CL2000017)は剣士の一体に向かい、相手の鉄パイプと自身の刀とで切り結ぶ。
「あなたの相手は僕ですよ。……ところで、物質系の妖にも毒は効くものなんでしょうかね?」
『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は非薬・鈴蘭を使ってもう一体の剣士の気を引く。毒の効き目を心配していたようだが、きちんと無機質な相手にも有効だったようで、むしろ相手は激昂して激しく襲いかかってくる。
動きの遅いゴミ戦士も、剣士に遅れる形で襲いかかってくる。鈍重な分、攻撃の破壊力も抜群な相手だ。万が一にも後衛に接近されるとまずいことになる。これはヤヒロと一悟がそれぞれ迎え撃ち、これ以上の侵攻を妨げた。戦略的にも、周囲への被害を抑えるという意味でも、戦線の拡大は避けたい。
攻撃力に優れるゴミ戦士も油断ならない相手ではあるが、それよりも警戒すべきは機動性に優れるゴミ剣士だ。幸い、相手の知能は低いのか、近くにいる相手を狙うという単純な動きを見せているが、一人で一体を抑えなければならない状況のため、油断はならない。
「みんなー、がんばってねー」
負担が集中する前衛たちに、百道 千景(CL2000008)が後ろから戦之祝詞をかけていく。それぞれに自己強化の手段も持ってはいるが、攻撃に晒され続ける以上、一瞬たりとも無駄にはしたくないのが本音だろう。そこをカバーするように、中衛、後衛がサポートしていく戦術だ。
「百道さん、自分の体力にも気をつけて。……さて、俺たちは敵の大技に警戒しつつ、まずは剣士から仕留めないとな」
秋人は全体の体力に気を配り、適宜回復していく。中でも千景は自身の技で体力を消耗してしまうため、敵の思わぬ遠距離攻撃に襲われれば危険だ。彼女の回復を優先し、盤石な態勢を作り上げていく。
「あまりスマートじゃありませんが、こういうのも嫌いじゃないんですよ?」
美久は武器である小太刀を手に、ゴミ剣士との一対一での接近戦を続けている。相手の攻撃も大振りながら狙いが的確で、美久の体をしっかりと捉えてくるが、見た目は幼いながらもたった数回の攻撃で倒れるような覚者ではない。むしろ自分に攻撃が向いているのは狙い通りでいいことだ、とばかりににやりと笑う。
「ヨシヒサ、大丈夫? わたくしが癒やして差し上げるわ」
「エメさん、ありがとうございます。仲間の助けがあればこれぐらいの妖、問題なくやれます!」
エメレンツィアは主にゴミ剣士と交戦している二人を気にかけ、回復していく。狙える時があれば攻撃もしかけるが、やはり物質系の妖に術は効きづらい。最終的に頼りになるのは物理攻撃を得意とする前衛だ。
「これで……効いているのでしょうか」
とはいえ、物理攻撃は物理攻撃で、無機質な相手にはきちんと効果があるのかわかりづらい。何せ相手は粗大ゴミの塊なので、一応はゴミの結合部を狙った祇澄の斬撃も、命中はしたもののいまひとつ頼りない手応えだ。ただ、だんだんと動きが鈍くなってきたような気はしている。
「そら、とっとと倒れろよ!」
「効き目の薄い術でも、隙を作るのには十分でしょ!?」
ゴミ戦士と対峙しながらも、ヤヒロが、そして後衛からも、奏空がそれぞれ召雷を放つ。狙いは美久が交戦している方の剣士だ。元々それほどタフではない相手なので、これまでのダメージの蓄積もあって、相手が目に見えて大きな隙を見せる。
「ここが狙い目と見ました!」
小太刀による斬撃が、相手を袈裟懸けに切り裂き、そのままゴミ剣士はただのゴミの塊へと戻った。覚者の攻撃を何度も受けたためか、おそらくは投棄された時よりも派手に壊れてしまい、ほとんどただの鉄くずとなっている。
「あら、残骸から物質系のアヤカシについて何かわかるかと思ったのに、ここまで壊れてしまっては無理ね。――ススム、そちらは大丈夫?」
「はいっ。こちらも相手の動きが悪くなってきました」
手応えはなくとも、やはり物理攻撃の通りがいいのだろう。数多の斬撃を受けた妖は、人間風に言えば息も絶え絶え、といったところだろうか。
「弱ってるなら、さっさと決めちゃおう! それ、エアブリット!」
千景が後方から戦士に向けて攻撃を放つ。それを受けた相手は、深くは考えられない低ランクの妖のサガなのだろう。目の前には祇澄がいて、彼女の物理攻撃の方が自分にとっては脅威だというのに、思わず攻撃の飛んで来た方向に注意を向けてしまう。それが致命的な隙となった。
「あなたの相手は、私ですよ!」
繰り出した斬撃が、戦士の腕ごと鉄パイプを叩き落とす。そして、腕が崩壊していくのと共に、体全体をもただのバラバラのゴミへと変じていった。
「これでゴミ剣士は全滅です……!」
「よし、残りの戦士の方に攻撃を集中させよう」
祇澄はやはり大破してしまった粗大ゴミの山がもう動かないことを確認し、敵の撃破を全員に伝える。秋人はそれを受けて、素早く次の行動へと移り始める。敵の数を二体減らしたが、残る相手はタフで破壊力もある強敵だ。いよいよ、深夜の戦闘は総力戦の様相を見せる。
●
「くそっ、いくら殴ってもキリがないんじゃねえか?」
ゴミ戦士と相対する一悟が、相手の拳を避けつつトンファーを打ち込んで呟く。一応は人型を取っているものの、表情がない相手には攻撃のダメージがきちんと通っているのか、いまひとつわからなくて不安になってくる。しかも相手は、一体何の廃材なのか、金属片を鎧のようにまとっている箇所もあったので、それを避けて攻撃しなければ効き目は薄いだろう。そこにも神経を使わされてしまう。
「こいつはどうだ!?」
ヤヒロはゴミ剣士を早急に片付けるのに注力していたため、自身が対峙していた戦士にはダメージを与えられていない。その分の遅れを取り返すように激しく攻め立て、武器であるスコップを相手に深々と突き刺すことに成功したが……。
「うわっ、まさかこいつ、オレのスコップを……! や、やめろー! こいつはお前らの仲間なんかじゃないからなー!?」
敵を構成するゴミがうごめき、そのままスコップを取り込もうとする。慌てて引き抜くが、追撃の機会を奪われてしまった。
「どうやら、戦況は芳しくないようですね。こっちは終わりましたから、助太刀しましょう」
とは、美久。ダメージは蓄積しているはずだが、まだ倒せそうにはない一悟が相手をしていた戦士に向かう。
「ああ、しっかりと相手の動きを見てたら、そうそう攻撃を食らう相手じゃねえんだけどな……。何分、ものすごいタフなんだ、こいつが」
そう言いつつ、相手の足を狙ったトンファーを用いた打撃を繰り出す。完全に入ったはずだが、相手はこけそうにすらならない。
「ま、オレもここを動くつもりはないんだけどな!」
避けきれない敵の拳が、一悟の体を打つ。しかし、しっかりと踏ん張って微動だにしない。
同じ前衛を務める者として美久も、仲間のタフさはよくわかっている。あえて気に留めることはせず、自分の攻撃に意識を集中させた。さっきの剣士との戦いは氣力を使わずに温存していた分、今ここで深緑鞭を的確に放って大ダメージを狙っていく。
「イチゴとヨシヒサに続きますわ。こういう頑丈な相手にこそ、わたくしたちの術攻撃も塵も積もれば、なのではなくて?」
「そうですね。今は敵の大技もないみたいだから、俺も攻撃に参加するよ」
エメレンツィアと秋人も、あくまで前衛のサポートという自分の役割を意識しながらも、少しずつ敵の体力を削るのに貢献する。敵の大技の前には、必ず予備動作があるというのも夢見の予見にあった情報だ。まともにやりあえば苦戦は必至の妖も、未来を見通す夢見の能力者のバックアップと、現場で戦う者の警戒があれば有利に戦うことができる。
「ヤヒロさん、大丈夫でしたか?」
一方、ヤヒロが攻撃に移ったとはいえ、未だに体力があり余っている様子のもう片方には、文字通りに祇澄が助太刀に入った。刀を振るい、強固なゴミの装甲を少しずつ削いでいく。
「おー、ありがとな! 後こいつ、こっちの武器をとりこもうとしてくるみたいだぞー!」
「えっ……?」
気づいた時には、敵の体がうごめいて祇澄の刀と一体化しようとしてくる。頑強な敵なので、しっかりと重みのある攻撃を放ちたいところだが、素早く振り切らなければ危険なようだ。
「うわぁ、俺の飛苦無もちょっと危ないかな。でも、召雷はいまいちだし、相手に奪われない速度で攻撃をしかけるしかないね!」
奏空も戦力のバランスを考慮し、こちらのゴミ戦士へと攻撃を集中させる。厄介な特性を持っているかのように思われたが、鈍重な敵の動きと同じく、素早い攻撃は捉えきれないらしい。速さで攻める攻撃は食らうがままになっている。
「あれ、割りと力押しでどうにかなる感じー? でも、一応は術も撃ってくから、強化が切れたら言ってねー!」
既に千景の戦之祝詞は前衛の全員にかけられているが、戦闘が長期化すれば、またそれをかけ直す必要性も出てくる。タフな相手に対しては、強化があるかないかが大きな違いとなってくるだろう。
「わっ、あれってゴミ投げっぽい!? みんな避けてー、って、狙いこっちだー!」
しかし、いくらタフな妖といえど、それぞれに覚者が四人がかりで攻撃を加えているのだから、だんだんとその体を崩壊させていく。剣士の方が一気に崩れたのに対し、こちらは少しずつパーツを失っていくようだ。すると、当然ながら周囲にはゴミが散乱する訳で、あろうことか相手はさっきまで自分自身の一部だったそれを投げつけてきた。狙われた千景は騒ぎながらもそれを回避する。狙いが甘かったのは、ダメージの蓄積も原因のひとつなのだろう。
「でもこれ、わるあがきってやつだろ? もう決着はつけてやるんだからな!」
ヤヒロのスコップが深々と相手を穿つ。祇澄の刀も相手を切り伏せ、おまけとばかりに奏空の飛苦無が突き刺さる。それぞれに全力を尽くしたため、もう何の技を撃つ氣力も残っていないが、ゴミ戦士の体はやはり粉々のゴミ山へと戻っていった。
「こいつでどうだ!」
一悟の正拳が敵の拳を砕き、そのまま弾き飛ばす。このゴミ戦士もほとんどスクラップ同然であり、後もうひと押しといったところだ。
「トドメぐらいはスマートに決めたいですね」
深緑鞭が叩き付けられる。いくら物質系かつタフな相手といえど、こう何度も攻撃を受けては、無事ではいられない。またひとつ、パーツが弾け飛んでいく。
「ふふっ、頼りになる殿方がたくさんですわね」
「でも、もう少し自分の身の心配もしてもらわないと」
生傷の絶えない二人を、しっかりとエメレンツィアと秋人が回復する。もう一体の方を横目で見ると、あちらもまもなく倒せるようだ。しかし、こちらの方が前もっての蓄積があったので、早く倒せるそうに思える。
しかし、相手は拳を失い、最後に頼れるのは自分の体だけだと悟ったのか、身をかがめて突進の体勢に入る。強力な一撃が来る、そう思われたが……。
「悪いが、そいつは撃たせてやらねえぜ!」
「攻撃は最大の防御……ですけど、最後までごりごりの力押しになっちゃった気がします」
前衛の二人が、敵の集中の隙に攻撃を与える。一悟は最大限の気合を入れて、対して美久は苦笑いだったが、攻撃には少しの手抜かりもなく、狙い通りに相手の大技の直前に沈黙させてしまった。
●ゴミ山を砕いて
「よっ、と……妖を倒せたのはよかったけど、結局、ここのゴミ山を作っちゃったのは人間なんだよね」
奏空は目につくゴミを運び出しながら呟く。戦闘後、男性陣を中心に誰からともなく、前もってある程度の片付けはしておくことになった。
「そう考えると、あいつらも人の被害者みたいなもんだったんだよな。なんか後味悪いぜ」
一悟も大きな冷蔵庫を持ち上げ、頷く。戦闘の後とはいえ、危うげなく運搬ができている。
「ゴミがゴミを呼び、遂には妖まで生んでしまった。……人の行動次第で、このような負の連鎖が起きてしまうんだな」
秋人はしみじみと言った。だが、その隣でヤヒロはこうも言う。
「でも、明日には近くの人がゴミを片付けにくるんだろ? そっちはいい方の連鎖を生んでくれるだろうし、予定が空いてるなら、オレたちもてつだおう! ……うーん、これもこわれてるなぁ。なんか持って帰れたらいいのに」
「あら、まだゴミの持ち出しを諦めてなかったんですの? わたくしは力仕事には協力できませんけど、差し入れぐらいはしに行きますわ」
「あちしもパスかなー、ガッコーあるしね。けど、今の内に手伝いぐらいはしとくよー。腕の力だけじゃ大変だけど、飛べるとこういう時は楽でいいよね」
エメレンツィアは戦闘後、仲間の応援に留まり、千景は覚醒を維持して飛行能力を存分に活用している。ただゴミを運び出すだけでも、やはり一般人よりは覚者の方が何かと有利だ。明日、覚者たちがゴミ掃除を手伝うことで、少しでもその印象が良い方向に変わればいいのだが――。
「学業は優先しなければなりませんからね。さて、これで大きなゴミは運び出せたでしょうか。周囲にも大した被害が出なくてよかったです」
「私は、手伝えます。ゴミの中にも、大切なものがあるかもしれませんから……それも壊れてなかったら、いいですね」
翌朝、覚者たちは深夜に戦闘があったことを明かさず、素知らぬ顔でゴミ掃除を手伝ったという。その後、かつての美しい景観を取り戻した元ゴミ屋敷がどうなっていったのかは知れない。
「よしっ、ロープはこんな感じでいいかな。エメさん、結界はどんな感じですか?」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は道路を封鎖するように張ったロープの具合を確認して、満足気に頷く。もうすぐ、この場所では妖との戦闘が起きる。できるだけ周囲に被害が出ないように配慮するつもりだが、一般人が近寄らないのに越したことはない。
「ええ、こちらも万全ですわ。これで人払いは大丈夫でしょう」
奏空たちが物理的な人払いをしたのに対し、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は自身の能力で人を近寄らせづらくする結界を展開した。
「よし、じゃあ作戦通りに、俺が先頭でゴミ屋敷の敷地内に入ろう。俺が不意打ちはさせないつもりだけど、念のためにみんなも警戒は怠らないでくれ」
事前準備を終え、第六感を持つ鈴白 秋人(CL2000565)を先頭に覚者の一行はゴミ屋敷へと足を踏み入れる。街灯があるとはいえ、ゴミ屋敷の敷地内はその名の通りにゴミだらけで見通しが悪く、光が届かない場所も多い。そして、戦うべき妖もまたゴミそのものなのだから、ただのゴミと思ったら敵、ということは十二分にあり得るだろう。そのためにも、不意打ちへの警戒は欠かせない。
秋人は油断なく懐中電灯で照らしながら、ゴミ山を探っていく。
「確か、怪しいのは冷蔵庫とか洗濯機とか、そんなんだよな」
既に夢見が予見した内容を聞いているので、妖の容姿はわかっている。奥州 一悟(CL2000076)は目につく大きなゴミをどかしてみるが、どれも正解ではないようだ。何分、粗大ゴミだけでも数が多すぎる。
「それにしても、こんなにゴミが出るもんなんだなー、まだ使えるのないかな? ……っと、考えなしに触ってたら、こっちに崩れてきそうだぞ」
『FLIP⁂FLAP』花蔭 ヤヒロ(CL2000316)はゴミ山に潜む妖を捜索しつつも、持ち帰れそうなものがないかと探っている。実際、そんな発想も出てきそうなほど大量のゴミが投棄されているのだ。よくもまあ、一箇所にこれだけ集まったものだと思わず感心してしまう。
「……! 今、あそこの山が動いたな。みんな、退路を絶たれる前に敷地の外に出よう。工藤くんは、敵の誘導を!」
「了解! 念のために、みんなも武器を構えといてよ!」
家の外にはいないのか、と屋内に一歩足を踏み入れた瞬間、暗闇の中でゴミ山が小さく動き出した。秋人のいち早い発見に応じて、奏空を残して一同は撤退する。ゴミ屋敷の中は、完全にゴミの妖のホームグラウンドだ。そんなところでの戦いに付き合っていては命がいくらあっても足りない。
「鬼さんこちら、だよ!」
ゴミの妖は二種類。ゴミ剣士と分類された身軽な剣士タイプと、ゴミ戦士と分類された鈍重な戦士タイプだ。まずは剣士が武器である鉄パイプを振り回しつつ、襲いかかってくる。敷地内にはゴミが散らばっており足場は劣悪だが、バランス感覚と素早さで奏空は器用に敵の攻撃と足元のゴミ、その全てを避けていく。距離を取り過ぎると、相手は近距離技ではなく、遠距離技である近場のゴミを利用した攻撃を繰り出してくる。つかず離れずの距離での誘導は危険を伴うが、どうにか屋敷内から脱出し、家の前に覚者たちが陣形を築く。敵も剣士が二体、戦士が二体。予見にあった通りの数が集まってきた。
誘導を終えた奏空が本来のポジションである後衛に下がると、早速、ゴミ戦士が身軽な動きで接近してくる。そこには二人の覚者が躍り出た。
「……いざ、参ります」
刀を構えた神室・祇澄(CL2000017)は剣士の一体に向かい、相手の鉄パイプと自身の刀とで切り結ぶ。
「あなたの相手は僕ですよ。……ところで、物質系の妖にも毒は効くものなんでしょうかね?」
『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は非薬・鈴蘭を使ってもう一体の剣士の気を引く。毒の効き目を心配していたようだが、きちんと無機質な相手にも有効だったようで、むしろ相手は激昂して激しく襲いかかってくる。
動きの遅いゴミ戦士も、剣士に遅れる形で襲いかかってくる。鈍重な分、攻撃の破壊力も抜群な相手だ。万が一にも後衛に接近されるとまずいことになる。これはヤヒロと一悟がそれぞれ迎え撃ち、これ以上の侵攻を妨げた。戦略的にも、周囲への被害を抑えるという意味でも、戦線の拡大は避けたい。
攻撃力に優れるゴミ戦士も油断ならない相手ではあるが、それよりも警戒すべきは機動性に優れるゴミ剣士だ。幸い、相手の知能は低いのか、近くにいる相手を狙うという単純な動きを見せているが、一人で一体を抑えなければならない状況のため、油断はならない。
「みんなー、がんばってねー」
負担が集中する前衛たちに、百道 千景(CL2000008)が後ろから戦之祝詞をかけていく。それぞれに自己強化の手段も持ってはいるが、攻撃に晒され続ける以上、一瞬たりとも無駄にはしたくないのが本音だろう。そこをカバーするように、中衛、後衛がサポートしていく戦術だ。
「百道さん、自分の体力にも気をつけて。……さて、俺たちは敵の大技に警戒しつつ、まずは剣士から仕留めないとな」
秋人は全体の体力に気を配り、適宜回復していく。中でも千景は自身の技で体力を消耗してしまうため、敵の思わぬ遠距離攻撃に襲われれば危険だ。彼女の回復を優先し、盤石な態勢を作り上げていく。
「あまりスマートじゃありませんが、こういうのも嫌いじゃないんですよ?」
美久は武器である小太刀を手に、ゴミ剣士との一対一での接近戦を続けている。相手の攻撃も大振りながら狙いが的確で、美久の体をしっかりと捉えてくるが、見た目は幼いながらもたった数回の攻撃で倒れるような覚者ではない。むしろ自分に攻撃が向いているのは狙い通りでいいことだ、とばかりににやりと笑う。
「ヨシヒサ、大丈夫? わたくしが癒やして差し上げるわ」
「エメさん、ありがとうございます。仲間の助けがあればこれぐらいの妖、問題なくやれます!」
エメレンツィアは主にゴミ剣士と交戦している二人を気にかけ、回復していく。狙える時があれば攻撃もしかけるが、やはり物質系の妖に術は効きづらい。最終的に頼りになるのは物理攻撃を得意とする前衛だ。
「これで……効いているのでしょうか」
とはいえ、物理攻撃は物理攻撃で、無機質な相手にはきちんと効果があるのかわかりづらい。何せ相手は粗大ゴミの塊なので、一応はゴミの結合部を狙った祇澄の斬撃も、命中はしたもののいまひとつ頼りない手応えだ。ただ、だんだんと動きが鈍くなってきたような気はしている。
「そら、とっとと倒れろよ!」
「効き目の薄い術でも、隙を作るのには十分でしょ!?」
ゴミ戦士と対峙しながらも、ヤヒロが、そして後衛からも、奏空がそれぞれ召雷を放つ。狙いは美久が交戦している方の剣士だ。元々それほどタフではない相手なので、これまでのダメージの蓄積もあって、相手が目に見えて大きな隙を見せる。
「ここが狙い目と見ました!」
小太刀による斬撃が、相手を袈裟懸けに切り裂き、そのままゴミ剣士はただのゴミの塊へと戻った。覚者の攻撃を何度も受けたためか、おそらくは投棄された時よりも派手に壊れてしまい、ほとんどただの鉄くずとなっている。
「あら、残骸から物質系のアヤカシについて何かわかるかと思ったのに、ここまで壊れてしまっては無理ね。――ススム、そちらは大丈夫?」
「はいっ。こちらも相手の動きが悪くなってきました」
手応えはなくとも、やはり物理攻撃の通りがいいのだろう。数多の斬撃を受けた妖は、人間風に言えば息も絶え絶え、といったところだろうか。
「弱ってるなら、さっさと決めちゃおう! それ、エアブリット!」
千景が後方から戦士に向けて攻撃を放つ。それを受けた相手は、深くは考えられない低ランクの妖のサガなのだろう。目の前には祇澄がいて、彼女の物理攻撃の方が自分にとっては脅威だというのに、思わず攻撃の飛んで来た方向に注意を向けてしまう。それが致命的な隙となった。
「あなたの相手は、私ですよ!」
繰り出した斬撃が、戦士の腕ごと鉄パイプを叩き落とす。そして、腕が崩壊していくのと共に、体全体をもただのバラバラのゴミへと変じていった。
「これでゴミ剣士は全滅です……!」
「よし、残りの戦士の方に攻撃を集中させよう」
祇澄はやはり大破してしまった粗大ゴミの山がもう動かないことを確認し、敵の撃破を全員に伝える。秋人はそれを受けて、素早く次の行動へと移り始める。敵の数を二体減らしたが、残る相手はタフで破壊力もある強敵だ。いよいよ、深夜の戦闘は総力戦の様相を見せる。
●
「くそっ、いくら殴ってもキリがないんじゃねえか?」
ゴミ戦士と相対する一悟が、相手の拳を避けつつトンファーを打ち込んで呟く。一応は人型を取っているものの、表情がない相手には攻撃のダメージがきちんと通っているのか、いまひとつわからなくて不安になってくる。しかも相手は、一体何の廃材なのか、金属片を鎧のようにまとっている箇所もあったので、それを避けて攻撃しなければ効き目は薄いだろう。そこにも神経を使わされてしまう。
「こいつはどうだ!?」
ヤヒロはゴミ剣士を早急に片付けるのに注力していたため、自身が対峙していた戦士にはダメージを与えられていない。その分の遅れを取り返すように激しく攻め立て、武器であるスコップを相手に深々と突き刺すことに成功したが……。
「うわっ、まさかこいつ、オレのスコップを……! や、やめろー! こいつはお前らの仲間なんかじゃないからなー!?」
敵を構成するゴミがうごめき、そのままスコップを取り込もうとする。慌てて引き抜くが、追撃の機会を奪われてしまった。
「どうやら、戦況は芳しくないようですね。こっちは終わりましたから、助太刀しましょう」
とは、美久。ダメージは蓄積しているはずだが、まだ倒せそうにはない一悟が相手をしていた戦士に向かう。
「ああ、しっかりと相手の動きを見てたら、そうそう攻撃を食らう相手じゃねえんだけどな……。何分、ものすごいタフなんだ、こいつが」
そう言いつつ、相手の足を狙ったトンファーを用いた打撃を繰り出す。完全に入ったはずだが、相手はこけそうにすらならない。
「ま、オレもここを動くつもりはないんだけどな!」
避けきれない敵の拳が、一悟の体を打つ。しかし、しっかりと踏ん張って微動だにしない。
同じ前衛を務める者として美久も、仲間のタフさはよくわかっている。あえて気に留めることはせず、自分の攻撃に意識を集中させた。さっきの剣士との戦いは氣力を使わずに温存していた分、今ここで深緑鞭を的確に放って大ダメージを狙っていく。
「イチゴとヨシヒサに続きますわ。こういう頑丈な相手にこそ、わたくしたちの術攻撃も塵も積もれば、なのではなくて?」
「そうですね。今は敵の大技もないみたいだから、俺も攻撃に参加するよ」
エメレンツィアと秋人も、あくまで前衛のサポートという自分の役割を意識しながらも、少しずつ敵の体力を削るのに貢献する。敵の大技の前には、必ず予備動作があるというのも夢見の予見にあった情報だ。まともにやりあえば苦戦は必至の妖も、未来を見通す夢見の能力者のバックアップと、現場で戦う者の警戒があれば有利に戦うことができる。
「ヤヒロさん、大丈夫でしたか?」
一方、ヤヒロが攻撃に移ったとはいえ、未だに体力があり余っている様子のもう片方には、文字通りに祇澄が助太刀に入った。刀を振るい、強固なゴミの装甲を少しずつ削いでいく。
「おー、ありがとな! 後こいつ、こっちの武器をとりこもうとしてくるみたいだぞー!」
「えっ……?」
気づいた時には、敵の体がうごめいて祇澄の刀と一体化しようとしてくる。頑強な敵なので、しっかりと重みのある攻撃を放ちたいところだが、素早く振り切らなければ危険なようだ。
「うわぁ、俺の飛苦無もちょっと危ないかな。でも、召雷はいまいちだし、相手に奪われない速度で攻撃をしかけるしかないね!」
奏空も戦力のバランスを考慮し、こちらのゴミ戦士へと攻撃を集中させる。厄介な特性を持っているかのように思われたが、鈍重な敵の動きと同じく、素早い攻撃は捉えきれないらしい。速さで攻める攻撃は食らうがままになっている。
「あれ、割りと力押しでどうにかなる感じー? でも、一応は術も撃ってくから、強化が切れたら言ってねー!」
既に千景の戦之祝詞は前衛の全員にかけられているが、戦闘が長期化すれば、またそれをかけ直す必要性も出てくる。タフな相手に対しては、強化があるかないかが大きな違いとなってくるだろう。
「わっ、あれってゴミ投げっぽい!? みんな避けてー、って、狙いこっちだー!」
しかし、いくらタフな妖といえど、それぞれに覚者が四人がかりで攻撃を加えているのだから、だんだんとその体を崩壊させていく。剣士の方が一気に崩れたのに対し、こちらは少しずつパーツを失っていくようだ。すると、当然ながら周囲にはゴミが散乱する訳で、あろうことか相手はさっきまで自分自身の一部だったそれを投げつけてきた。狙われた千景は騒ぎながらもそれを回避する。狙いが甘かったのは、ダメージの蓄積も原因のひとつなのだろう。
「でもこれ、わるあがきってやつだろ? もう決着はつけてやるんだからな!」
ヤヒロのスコップが深々と相手を穿つ。祇澄の刀も相手を切り伏せ、おまけとばかりに奏空の飛苦無が突き刺さる。それぞれに全力を尽くしたため、もう何の技を撃つ氣力も残っていないが、ゴミ戦士の体はやはり粉々のゴミ山へと戻っていった。
「こいつでどうだ!」
一悟の正拳が敵の拳を砕き、そのまま弾き飛ばす。このゴミ戦士もほとんどスクラップ同然であり、後もうひと押しといったところだ。
「トドメぐらいはスマートに決めたいですね」
深緑鞭が叩き付けられる。いくら物質系かつタフな相手といえど、こう何度も攻撃を受けては、無事ではいられない。またひとつ、パーツが弾け飛んでいく。
「ふふっ、頼りになる殿方がたくさんですわね」
「でも、もう少し自分の身の心配もしてもらわないと」
生傷の絶えない二人を、しっかりとエメレンツィアと秋人が回復する。もう一体の方を横目で見ると、あちらもまもなく倒せるようだ。しかし、こちらの方が前もっての蓄積があったので、早く倒せるそうに思える。
しかし、相手は拳を失い、最後に頼れるのは自分の体だけだと悟ったのか、身をかがめて突進の体勢に入る。強力な一撃が来る、そう思われたが……。
「悪いが、そいつは撃たせてやらねえぜ!」
「攻撃は最大の防御……ですけど、最後までごりごりの力押しになっちゃった気がします」
前衛の二人が、敵の集中の隙に攻撃を与える。一悟は最大限の気合を入れて、対して美久は苦笑いだったが、攻撃には少しの手抜かりもなく、狙い通りに相手の大技の直前に沈黙させてしまった。
●ゴミ山を砕いて
「よっ、と……妖を倒せたのはよかったけど、結局、ここのゴミ山を作っちゃったのは人間なんだよね」
奏空は目につくゴミを運び出しながら呟く。戦闘後、男性陣を中心に誰からともなく、前もってある程度の片付けはしておくことになった。
「そう考えると、あいつらも人の被害者みたいなもんだったんだよな。なんか後味悪いぜ」
一悟も大きな冷蔵庫を持ち上げ、頷く。戦闘の後とはいえ、危うげなく運搬ができている。
「ゴミがゴミを呼び、遂には妖まで生んでしまった。……人の行動次第で、このような負の連鎖が起きてしまうんだな」
秋人はしみじみと言った。だが、その隣でヤヒロはこうも言う。
「でも、明日には近くの人がゴミを片付けにくるんだろ? そっちはいい方の連鎖を生んでくれるだろうし、予定が空いてるなら、オレたちもてつだおう! ……うーん、これもこわれてるなぁ。なんか持って帰れたらいいのに」
「あら、まだゴミの持ち出しを諦めてなかったんですの? わたくしは力仕事には協力できませんけど、差し入れぐらいはしに行きますわ」
「あちしもパスかなー、ガッコーあるしね。けど、今の内に手伝いぐらいはしとくよー。腕の力だけじゃ大変だけど、飛べるとこういう時は楽でいいよね」
エメレンツィアは戦闘後、仲間の応援に留まり、千景は覚醒を維持して飛行能力を存分に活用している。ただゴミを運び出すだけでも、やはり一般人よりは覚者の方が何かと有利だ。明日、覚者たちがゴミ掃除を手伝うことで、少しでもその印象が良い方向に変わればいいのだが――。
「学業は優先しなければなりませんからね。さて、これで大きなゴミは運び出せたでしょうか。周囲にも大した被害が出なくてよかったです」
「私は、手伝えます。ゴミの中にも、大切なものがあるかもしれませんから……それも壊れてなかったら、いいですね」
翌朝、覚者たちは深夜に戦闘があったことを明かさず、素知らぬ顔でゴミ掃除を手伝ったという。その後、かつての美しい景観を取り戻した元ゴミ屋敷がどうなっていったのかは知れない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
